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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06T
管理番号 1105283
審判番号 不服2001-9169  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-08-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-06-01 
確定日 2004-10-29 
事件の表示 平成 4年特許願第210872号「放射線写真像記録システムにおける処理方法」拒絶査定に対する審判事件[平成 7年 8月22日出願公開、特開平 7-225824]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本件審判請求に係る出願は、平成4年7月14日(パリ条約優先権主張 1991年7月15日 オランダ国)に出願されたものであり、原審で拒絶査定されたのにともない本件審判請求がなされたものであって、当審で拒絶の理由を通知したところ、審判請求人から意見書が提出されたものである。
そして、本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、平成11年6月23日付け手続補正書で補正された明細書及び図面の記載内容からみて、明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認められる。
「 【請求項1】 放射線写真像記録システムにおいて放射線写真像の像データを処理する方法であって、放射線写真像を担持している電気信号がコンソールのスクリーン上のソフトコピー又は光学的表示ユニット上の写真記録材料に記録されたハードコピーのいずれかとして前記放射線写真像を可視化するための濃度値に変換され、
前記方法が以下の段階:
- 診断的に関係のある像域を選択し;
- 前記診断的に関係のある像域内に含まれていない放射線写真像内のすべての像点を包含するように放射線写真像内に診断的に関係のない像域を形成する;
を含む場合において、前記方法が以下の段階を特徴とする方法:
- 前記診断的に関係のない像域内に含まれている像点の電気信号を、前記像点をマスクオフするため、0.5と2.5の間に含まれる濃度値に変換する。」

2.当審が通知した拒絶の理由
一方、本願発明1に対して当審が通知した拒絶の理由は次のとおりである。
『本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開平3-98174号公報
刊行物2:特開昭59-105439号公報
刊行物3:特開昭64-59294号公報
刊行物4:特開平2-299640号公報
(1) 刊行物1には、放射線照射野を有する放射線画像を表す照射野認識用画像データに基づいて前記放射線照射野を認識し、前記放射線画像を表す画像再生用画像データに基づいて再生された可視画像の前記放射線照射野外の領域が低輝度もしくは高濃度となるように、前記画像再生用画像データの前記放射線照射野外の領域に対応する画像再生用画像データに前記低輝度もしくは高濃度に対応するデータ値を割り当てる放射線画像処理方法(特許請求の範囲欄参照)の発明がその実施例(発明の詳細な説明欄および図面参照)と共に開示されている。
刊行物2には、医用画像表示装置において医用画像全体のうちの関心領域を設定(選択)できるようにし、その設定(選択)した関心領域の輝度をその周辺領域の輝度よりも上げて表示するようにすることにより的確な画像診断を図ると、いう発明が開示されている。
刊行物3には、フィルム画像をディジタル化しまたはラインセンサあるいは面センサによる被写体の計測像をディジタル化し、そのディジタルデータを表示装置の画面に表示する画像表示方法において、フィルムまたは被写体の存在する部分と存在しない部分のデータに対して所定の値のところにしきい値を設定し、上記フィルム画像または被写体の計測像のディジタルデータについてしきい値処理によりフィルムまたは被写体の存在しない部分を判断し、上記フィルムまたは被写体の存在しない部分を判断し、上記フィルムまたは被写体の存在しない部分のデータ値をゼロとして最も暗く表示する画像表示方法(特許請求の範囲欄参照)の発明がその実施例(発明の詳細な説明欄および図面参照)と共に開示されている。
刊行物4には、X線源から曝射され照射野絞りを介して被検体を透過したX線を撮影装置内の撮影部材に画像データとして撮影するX線診断装置において、撮影画像データを表示する際に、少なくとも照射野領域を除く領域の暗度を大きくするように画像処理して、相対的に出力画像を見易くし診断の精度の向上を図るという発明が開示されている。
(2) 本願請求項1に係る発明(以下「発明1」という。)と上記刊行物1に開示されている発明(以下「刊行物1発明」という。)とを対比すると、
(a)発明1が「診断的に関係のある像域」を選択するようにしているのに対して、刊行物1発明においては照射野領域を認識選択するようにしている点、
(b)発明1が診断的に関係のない領域内に含まれている像点の電気信号を前記像点をマスクオフするため0.5と2.5の間に含まれる濃度値に変換するようにしているのに対して、刊行物1発明においては、前記画像再生用画像データの前記放射線照射野外の領域に対応する画像再生用画像データに前記低輝度もしくは高濃度に対応するデータ値を割り当てるとするだけで、濃度値について数値を示していない点、
の2点で相異する他は、技術的に異なる点は見当たらない。
(3) そこで、これらの相異点について検討すると、(a)については、 発明1の「診断的に関係のある像域」という表現は、診断の対象となるべき領域のことを意味していると解されるが、これは刊行物2における「関心領域」も同様であって、刊行物2のものにおいてはその関心領域を設定(選択)できるようにしたものであり、その目的も画像診断の的確を図るために診断対称領域周辺からの高輝度の光を低減させるという点で刊行物1発明と共通のものである。そして、刊行物3に開示されているように被写体の存在しない部分を暗くすること、あるいは、刊行物4の照射野領域を除く領域の暗度は必ず大きくするが照射野領域も一部を暗くすることを示唆する少なくとも照射野領域を除く領域の暗度を大きくすること、が公知であることも考慮すれば、刊行物1発明における「照射野」を認識選択するのに代え、刊行物2の「関心領域」を設定(選択)するものとすることは、当業者ならば容易に推考できる程度のものと認められる。
(b)については、発明1において濃度値を0.5と2.5の間にする点については、マスクオフするため、すなわち診断的に関係のある像域に対して診断的に関係のない像域を暗くするという目的を条件に入れた数値限定であるが、本願明細書にも説明されているように、放射線写真システムに利用される写真フィルムの最大濃度は3乃至4が普通であり(ちなみに最小濃度は0以上)、0.5と2.5の間という限定はその写真フィルムの最小濃度から最大濃度までの大半を占めているものであり、かつその数値範囲内では診断的に関係のある像域に対して診断的に関係のない像域を暗くする限り数値範囲に含まれるいかなる数値を採用しても格別の技術的意義があるとも説明されておらずそのようなことは考えられがたいから、発明1における「診断的に関係のない領域内に含まれている像点の電気信号を前記像点をマスクオフするため0.5と2.5の間に含まれる濃度値に変換する」点は、領域が診断に関係のない領域か照射野外の領域かの違いを除くと、刊行物1における、画像再生用画像データの前記放射線照射野外の領域に対応する画像再生用画像データに前記低輝度もしくは高濃度に対応するデータ値を割り当てることに相当するものである。そして、領域について照射野外の領域を診断に関係のない領域とすることは、上記(a)について検討したところで説示したように、当業者が容易に推考できる程度のものであるから、結局、「診断的に関係のない領域内に含まれている像点の電気信号を前記像点をマスクオフするため0.5と2.5の間に含まれる濃度値に変換する」ようにする点は、当業者が適宜なし得る設計事項の域を出ない。
(4) 以上から明らかなとおり、発明1は、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物1及び刊行物2に記載された発明から当業者が容易に推考できたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。』

3.当審が通知した拒絶の理由に対する審判請求人の主張について
審判請求人は、上記拒絶理由における本願発明1と刊行物1発明との相違点についての判断が誤っている旨主張している。
まず(a)の点について検討する。
審判請求人の述べる『刊行物2の発明の目的は「画像情報を損なうことなく、関心領域を識別容易に表示し得る医用画像装置を提供すること」である(刊行物2第2頁左上欄第1行〜第3行)。つまり、被検体の画像診断においてはディスプレイ上に表示された全体像のうち、疑偽のある部分等を関心領域として指定し、この関心領域を他の領域と区別して表示することにより的確な画像診断を図ることにある』点はそのとおりであり、刊行物2に開示の発明が的確な画像診断を図ることを意図したものである以上、その領域が少なくとも加工表示する前より診断適性として劣化したものとなることなく、診断適性により優れた明度となることが望ましいことは明らかである。
そこで、刊行物2の明細書の実施例の記載をみると、関心領域内の輝度が関心領域外の輝度よりも高くなるような信号を出力するようにして画面上の輝度の調整を行うことが示されており、この実施例を具体化する場合まず最初に、関心領域外の輝度はそのままとして関心領域内の輝度を上げることが考えられ、また実際にそのようにした場合を考えると、関心領域内の輝度を上げることにより関心領域外の画像が診断のじゃまになることを相対的に軽減させ関心領域内の画像を見やすくしているものと考えることができるが、必ずしも関心領域内の輝度だけを上げる必要はなく、関心領域内の輝度を多少上げ関心領域外の輝度を多少下げる、あるいは、関心領域外の輝度だけをを下げるようにしても良いことは明らかである。そして前2つのようにする場合であっても、関心領域内の輝度が上がりすぎて関心領域内の画像が観察しにくくなることは通常は考えられがたいが、周囲の明るさとの関係で仮にそのようになるとしても、そのような場合あるいは例えば表示装置の輝度に関する入出力特性の直線性があるところから逸脱する程輝度が上がっている場合は、全体の輝度を一律に下げるように調節して見たい画像を観察しやすくしたり直線性を有する範囲内に収めるようにすることがCRT表示装置や液晶表示装置を利用する際の常識的事項であることも考慮すると、結局、刊行物2は、関心領域外の画像を関心領域内の画像より相対的に暗くすることによって画像診断するときの画像診断に関係のない部分からの光による悪影響を防止することも示唆しているということができる。そして、刊行物1からは、照射野外という観察には関係のない領域部分からの光によって照射野内という観察対象領域の観察が妨げられること即ち悪影響を防止するということが読み取れるから、刊行物1開示技術に、その観察対象領域の内側に対して外側で画像を相対的に暗くするという刊行物2開示技術を適用することは当業者ならば容易に想到できるものと認められる。
(b)の点に関しては審判請求人は、『本願発明1においては、「診断的に関係のある像域」という例えば医師によってまた診断目的に応じて柔軟に変更しうる領域を選択するからこそ(特徴(a))、本願の図4に示すように(i)濃度を変化させない領域、(ii)の濃度を上げた領域、及び(iii)放射線写真像の外側に位置するものの領域という3つの領域に塗り分けることにより(特徴(b))、意図的にマーク付けされた(i)濃度を変化させない領域の妥当性を確かめることができる(本願明細書[0065])。』と主張している。
しかしながら、例えば医師によってまた診断目的に応じて柔軟に変更しうる領域を選択する点については上述したように刊行物2に開示されており、また、3つの領域に塗り分ける点は、本願請求項1には(iii)の放射線写真像の外側に位置するものの領域が存在することが明確に限定されてはいないから本願請求項1に記載の構成に基づいた主張とはいい難いが、たとえ限定されているとしてこの領域と(ii)の濃度を上げた領域との境界が例えば医師に分かったとしても、(ii)の濃度を上げた領域を均一濃度にしてしまって原画像のその領域にどのような画像があったのかが分からなければ、医師であっても診断などに役立つ格別の情報あるいは知見が得られるとは考えられない。
審判請求人は、当審の照会に対して、関心領域外がもともと画像のなかった周縁部なども含めて一様な暗さにされると(1)原像がどの位大きいのか全く分からない,(2)2つの分けられた画像がある場合にこれらが1つの原画像由来のものか2つの原画像由来のものか分からない、旨述べて上記3つの領域に分ける意義があるとしている。しかしながら、(1)の点については、撮影時の条件等と無関係に(本件請求項1には撮影時の条件等との関連については全く限定されていない。)原像がどの位大きいのか分かっても上述したように格別の技術的意義があるものとは認められず、また(2)の点は、本件請求項1において2つ以上の分けられた画像があることを前提とする限定は何もなされていないから請求項1に限定されている事項からどのような場合にも必然的に生じる効果とは認められず、結局、上記3つの領域に分ける意義があるという釈明は採用できない。
また、本願発明1において診断的に関係のない像域内を0.5と2.5の間に含まれる濃度値に変換する点に関し、1以下でも眩惑防止効果はあるとしても、0.5や2.5の値に臨界的な意味があるとも認められず、しかもこの数値範囲が診断上特段の意義があるような診断的に関係のある像域の濃度値との関係を示した上で限定されたものでもないから、0.5と2.5の間という数値限定は当業者が適宜なし得る設計事項の域を出ないという拒絶の理由で示した判断は妥当なものである。
そして、その他の審判請求書で主張している点や当審の照会に対して回答している点については、上記当審が通知した拒絶理由で指摘したとおりである。

4.むすび
以上のとおりであって、上記当審が通知した拒絶理由は妥当なものであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-01-14 
結審通知日 2003-01-14 
審決日 2003-01-28 
出願番号 特願平4-210872
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 恵一  
特許庁審判長 東 次男
特許庁審判官 佐藤 聡史
江頭 信彦
発明の名称 放射線写真像記録システムにおける処理方法  
代理人 安達 智  
代理人 風早 信昭  
代理人 安達 光雄  

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