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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1105532
審判番号 不服2003-6847  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-04-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-04-23 
確定日 2004-10-29 
事件の表示 平成 5年特許願第271323号「磁気記録媒体及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 4月21日出願公開、特開平 7-105527〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯、本願発明
本願は、平成5年10月4日の出願であって、本願請求項1〜7に係る発明は、平成13年12月13日付け手続補正で補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜7に記載されたとおりのものと認められるところ、その内請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
【請求項1】「非磁性支持体上に1層以上の塗布層を有し、該塗布層の磁性層は、強磁性金属粉末を含む磁性層単独であり、かつ、塗布層の総厚が0.5〜2.5μmである磁気記録媒体において、前記磁性層の表面粗さが、Ra(中心線平均粗さ)で1.0〜4.6nm、R10z(10点平均粗さ)で8.0〜35.0nmであり、かつ塗布層の総厚をtμmとした時、下記式(1)及び式(2)を満足し、更に前記磁性層表面の脂肪酸エステル量が5〜50mg/m2であることを特徴とする磁気記録媒体。
式(1) Ra≦-0.47t+0.5/t+3.8
式(2) R10z≦-1.50t+6.0/t+23.0」

II.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-298819号公報(以下、「引用例1」という。)及び特開平3-95721号公報(以下、「引用例2」という。)には次のような記載がある。 なお、下線は、当審が付与した。

引用例1(特開平4-298819号公報)には、
(1-i)「【請求項1】非磁性支持体上に強磁性粉末と研磨剤と結合剤を含む磁性層を設けた磁気記録媒体において前記強磁性粉末が結晶子サイズ200Å以下の金属磁性粉末であり、前記研磨剤がモース硬度9より大の無機粉末で、前記強磁性粉末100重量部あたり0.1〜10重量部含み、前記磁性層の中心線表面粗さ(Ra)が5nm未満であることを特徴とする磁気記録媒体。」(特許請求の範囲の【請求項1】参照)、及び、
(1-ii)「【0004】(前略)・・・。 C/N向上の為、充填率を上げる課題があり、この為磁性層の研磨能をより少ない材料で保持する事が望まれている。またC/N向上の為超平滑化や強磁性粉末の微粒子化が有効であるが、硬いヘッドによる傷付、耐久性の低下の問題が生じていた。このような欠点を解消するために、金属磁性粉末、無機粉末(研磨剤)及び磁性層の中心線平均表面粗さ(Ra)について鋭意検討を行なった結果、電磁変換特性と耐久性を同時に満たした磁気記録媒体が得られることがわかった。 又、モース硬度10の無機粉末とモース硬度9乃至8の無機粉末を組合わせて使用することにより、更に出力低下も防止できることがわかり本発明に至った。」(段落【0004】参照)こと、
(1-iii)「【0005】【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は金属磁性粉末を用いたテープで出力低下を抑制し、高いC/Nを維持し、高耐久性を示す磁気記録媒体を提供することにある。」(段落【0005】参照)こと、
(1-iv)「【0015】 (前略)・・・。 なお、磁性塗料中は、上記成分以外に、帯電防止剤(例、カーボンブラック)、潤滑剤(例、脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコ-ンオイル)、分散剤など通常使用されている添加剤あるいは充填材(剤)を含むものであってもよいことは勿論である。」(段落【0015】参照)こと、
(1-v)「【0021】【実施例】 本発明を実施例に従って具体的に説明する。なお、実施例中「部」は「重量部」を示す。
【0022】 実施例1
下記磁性層組成物の(1)をニーダーに入れ充分混練した後(2)を投入した混合分散後(3)を投入分散し磁性塗布液を作成した。
【0023】 磁性層組成物
(1)金属磁性粉末 100部
(Hc1500Oe、結晶子サイズ190Å、σs=120emu/g)
分散剤:燐酸エステル(GAF RE610) 3部
塩化ビニル樹脂(日本ゼオン (株) 、MR110) 8部
ポリウレタン樹脂(東洋紡績 (株) 、UR8600) 5部
メチルエチルケトン 8部
シクロヘキサノン 40部
以上混合物
(2)研磨剤:ダイアモンド(平均粒子サイズ0.6μ) 2部
カーボンブラック(旭カーボン (株) 、旭#50) 2部
ポリウレタン樹脂(東洋紡績 (株) 、UR8600) 3部
メチルエチルケトン 20部
以上分散物
(3)ポリイソシアネート(日本ポリウレタン (株) 、C3040) 4部
潤滑剤:ステアリン酸ジブチルアミド 0.5部
潤滑剤:2-エチルヘキシルミリステート 0.5部
潤滑剤:ミリスチン酸/パルミチン酸(1/1) 0.5部
潤滑剤:オレイン酸 0.5部
メチルエチルケトン 200部
以上混合物
この磁性塗布液を粘度調整した後、7μmの非磁性支持体のポリエチレンナフタレート上に乾燥後塗布厚み2.5μmで塗布し、3000ガウスの対向磁石で塗布進行方向に磁場配向しながら乾燥し、その後連続して磁性層を設けた非磁性支持体の裏面側に下記バック層を0.5μ厚みで設けた後、連続して磁性層を100℃で3回金属ロールカレンダー処理し(処理速度150m/min)、0.5吋にスリットした後サファイア刃で磁性層を表面処理しトレシーでクリーニング後、テープを作成した。
【0024】 バック層組成物
・・・省略・・・
このテープをM2フォーマットカセットに250m巻き込んだ。 上記実施例1に示した方法で、表1に示した条件によってサンプルNo.1〜13のテープを作成した。
【0025】 表1
サン 強磁性粉末 研磨剤 カレンダー DO
プル 結晶子 種類サイズ 量 材質A 温度 Ra C/N 増加
No サイズ
(Å) (μm)(部) (℃) (nm)(dB)
1 190 ダイアモンド 0.6 2 金属 100 3.0 0.0 30(基準)
2 190 ダイアモンド 0.6 2 金属 90 3.5 -0.3 30
3 190 ダイアモンド 0.6 2 金属 80 4.0 -0.6 25
4 190 ダイアモンド 0.6 6 金属 90 3.5 -0.4 25
5 190 ダイアモンド 0.2 2 金属 90 2.5 -0.2 35
6 190 ダイアモンド 0.9 2 金属 90 3.0 -0.3 25
7 220 ダイアモンド 0.6 2 金属 100 5.0 -2.0 30
8 250 ダイアモンド 0.6 2 金属 100 5.5 -4.0 30
9 190 ダイアモンド 0.6 2 ナイロン90 6.0 -2.0 30
10 190 ダイアモンド 0.6 2 ナイロン100 テープ作成出来ず
11 190 アルミナ 0.6 2 金属 90 5.5 -0.8 200<
12 190 アルミナ 0.6 20 金属 90 6.5 -2.0 200<
13 190 アルミナ 0.6 2 ナイロン90 6.0 -2.0 50
サンプルNo.1〜6は実施例
*ダイアモンド(GE製)、アルミナ(住友化学製)
VTR:M2 VTR、10MHz での出力。磁気ヘッドは窒化ケイ素仕様。
Ra :中心線平均粗さ、カットオフ0.25mm
ベースRa:6〜8nm。中心線平均粗さ、カットオフ0.25mm。
DO増加:M2VTRでPLAY-REW100パス後の15μsec 、-16dBのDO増加数(per/分)
C/N:7MHz での出力/ノイズである。」(段落【0021】〜【0025】参照)こと、
(1-vi)「【0034】 【発明の効果】 本発明は強磁性粉末の結晶子サイズが200Å以下のものを使用して、超平滑な磁性層を得るために金属ロールによるカレンダーを行ない、磁性層表面のRaが5.0nm未満にし、一方磁性層に少量のモース硬度9より大の研磨剤を使用することにより、C/Nが顕著に向上し、充填率向上と共に耐久性の向上が図られる。記録密度向上のため磁気記録媒体の合計厚みを13μm以下とすることにより長時間録画が可能となる。またモース硬度10の無機粉末とモース硬度9乃至8の無機粉末を組合わせて用いることにより顕著に出力低下が防止でき、かつC/N向上、DOの増加も改良できる。 ・・・(後略)。」(段落【0034】参照)こと、が記載されている。

引用例2(特開平3-95721号公報)には、
(2-i)「非磁性支持体上に強磁性粉末と結合剤とを含有するn層(ただし、nは2以上の整数を表わす。)の磁性層を前記非磁性支持体側から第1磁性層、第2磁性層、・・・、第n磁性層(ただし、nは2以上の整数を表わす。)の順に有し、前記第n磁性層の表面に存在する脂肪酸エステル量・・・が7mg/m2以上150mg/m2以下であるとともに、・・・(中略)・・・で表わされる関係を満たすことを特徴とする磁気記録媒体。」(第1頁左下欄特許請求の範囲1参照)、及び、
(2-ii)「[産業上の利用分野] 本発明は磁気記録媒体に関し、更に詳しく言うと、スチル耐久性が向上しているとともに、走行耐久性、滑り性、摺動ノイズ等の特性バランスに優れた磁気記録媒体に関する。」(第1頁右下欄10〜14行参照)こと、
(2-iii)「前記強磁性粉末としては、例えばCo被着γ-Fe2O3粉末、・・・・・あるいはFe-Al金属粉末、・・・・・・等の強磁性金属粉末などが挙げられる。」(第2頁右下欄下から第7行〜第3頁左上欄第3行参照)こと、
(2-iv)その実施例1には、最上層の磁性層表面の脂肪酸エステル量を35mg/m2とした旨(第8頁右上欄〜第9頁右上欄、第11頁の第1表を参照)、が記載されている。

III.対比、判断
本願発明と引用例1に記載された発明を対比する。
引用例1には、上記摘示の記載からすると、出力低下を抑制し、高いC/Nを維持し、高耐久性を示す磁気記録媒体に関し、「非磁性支持体上に強磁性粉末と研磨剤と結合剤、更に潤滑剤とを含む磁性層を設けた磁気記録媒体において、前記強磁性粉末が結晶子サイズ200Å以下の金属磁性粉末であり、前記研磨剤がモース硬度9より大の無機粉末で、前記強磁性粉末100重量部あたり0.1〜10重量部含み、前記磁性層の中心線表面粗さ(Ra)が5nm未満である磁気記録媒体。」の発明が少なくとも記載されていると認められる。
更に、その実施例1を検討すると、磁性塗布層が一層のみであり、乾燥後塗布厚が2.5μmであって、そのサンプルNo.5のRa(磁性層のRaと認められる。)が2.5nmである実施例が示されているところ、その塗布層膜厚2.5μmは本願発明の「塗布層の総厚が0.5〜2.5μm」と一致していて、この塗布層膜厚t=2.5μmを用いて本願発明で特定する式(1)のRaを計算すると、右辺は2.83となることから、式(1)はRa≦2.83となり、前記サンプルNo.5の磁性層の表面粗さRaの2.5nmは、式(1)の条件を満足していることが明らかである。
なお、(イ)本願発明における式(1)に関して、tは「tμm」と記載されているので右辺はμmの単位となるのに対して、左辺Raの単位が明確にされていない(ただ、Raで1.0〜4.6nmとの特定はある)ので常識的には左辺もμm単位と解すべきであるけれども、その場合のRaの上限数値(前記計算では2.83μm)は磁気テープでは非常識な数値となり、また、本願明細書に添付された図1の横軸(塗布層厚、μm)と縦軸(Ra、nm)の記載を検討すると式(1)の左辺Raの単位はnmであることから、右辺の計算数値はそのままで単位のみμmからnmにしているものと解するのが相当であり、前記Ra≦2.83の計算値の意味はRaが2.83nm以下との主旨と解した。
また、(ロ)本願発明において、「塗布層の層厚」とは何を意味するのかは、発明の詳細な説明に具体的説明が無く不明瞭であるが、段落【0067】に記載された「全磁性層の乾燥膜厚は0.5〜2.5μm以下が好ましく」(注:明細書の全記載から判断して、0.5μm以上2.5μm以下の主旨であり、例えば0.5μm以下を意味するものではない。)との記載から、磁性塗布層と解するのが相当と認める。
更に、(ハ)引用例1の実施例1における乾燥膜厚2.5μmを塗布層の膜厚としたが、その実施例では更にカレンダーロール処理をしているため、更に薄い膜厚となる可能性があるけれども、膜厚tが薄くなれば、(tが2.5μm程度において)式(1)の右辺の計算数値は大きくなり、Raの上限は大きくなるから、その場合でも上記式(1)を満足するとの判断を覆し得ないことも明らかである。
そして、引用例1に記載の発明では、潤滑剤として脂肪酸エステルが例示説明(摘示(1-iii)参照)され、実施例1で2-エチルヘキシルミリステートを潤滑剤に用いていることから、少なくとも磁性層に脂肪酸エステルが含有させることが明らかであり、その点でも本願発明と一致している。

してみると、両発明は、良好な電磁変換特性と耐久性を有する磁気記録媒体に関するものであって、「非磁性支持体上に1層以上の塗布層を有し、該塗布層の磁性層は、強磁性金属粉末および脂肪酸エステルを含む磁性層単独であり、かつ、塗布層の総厚が2.5μmである磁気記録媒体において、前記磁性層の表面粗さが、Ra(中心線平均粗さ)で2.5nmであり、かつ塗布層の総厚をtμmとした時、式(1)Ra≦-0.47t+0.5/t+3.8を満足する磁気記録媒体。」の発明で一致し、他方、本願発明は、次の(a)、(b)の構成が規定されているのに対して、引用例1に記載された発明ではそのような規定がなされていない点で相違する。
(a)磁性層の表面粗さR10z(10点平均粗さ)が、8.0〜35.0nmであり、式(2) R10z≦-1.50t+6.0/t+23.0を満足する構成、及び、
(b)磁性層表面の潤滑剤である脂肪酸エステル量が5〜50mg/m2である構成。

そこで、相違する(a)の構成について検討する。
本願明細書を検討しても、Raの場合と同様に、「表面粗さR10z(10点平均粗さ)が、8.0〜35.0nm」とすることに関して具体的説明はなく、せいぜい例えば段落【0020】に「高い電磁変換特性と耐久性とを両立させるためには、カレンダー処理の強化によらずに磁性層表面を平滑化させることが必要となる。」と記載され、段落【0026】に「磁性層の表面粗さを塗布層厚に対して上記の関係式の範囲に保つことで、塗布層を薄膜化しても高い電磁変換特製と耐久性とを維持した磁性層を提供できる。」と記載されているに止まる。 そこで、本願発明の実施例と比較例とが示された表1を検討するに、比較例1-1と比較例1-7にRaとR10zのいずれもが本願発明で特定する範囲をはずれた例が示され、他の比較例(及び実施例)ではRaとR10zのいずれもが本願範囲で特定する範囲内の例が示されているにすぎない。
そうであるから、Raを規定したものに対して、更に同様な表面粗さの指標の一種であるR10zを規定する技術的意義が不明であり、まして格別の技術的意義があるとまで言うことが出来ない。
なお、中心線平均粗さRaと10点平均粗さR10zについては、本願明細書を検討しても、測定条件が示されているだけで、どのようなものか肝心なその定義が何ら示されていない。 JIS規格B0601に依れば、中心線平均粗さRaは、粗さ凹凸の中心線を境に谷部を山部側に折り曲げ、その折り曲げた谷部と山部が中心線とで形成する面積の総和を中心線の長さで割ったもの(注:誤解をおそれずに換言すると中心線からの山の平均高さのほぼ半分)であるのに対して、十点平均粗さRzは最も高い山から順に5番目の山までの山頂の標高の平均値と最も低い谷から順に5番目までの谷底の標高の平均値との差であると説明されている。 しかし、R10zとRzは、その表記が異なっているように同一の粗さであるのか否か不明である。 また、R10zに関して、下記周知例として引用する特開平4-295621号公報(請求項1参照)では「・・水平線に平行な直線のうち、高い方から10番目に低い山頂を通るものと深い方から10番目に浅い谷底を通るものを選び、この2本の直線間の距離を・・・測定した値」とされているけれども、同じく特開平5-182185号公報(請求項1参照)では、「・・水平線に平行な直線のうち、最も高い山頂を通るものから10番目に低い山頂を通るものまでの直線10本と、最も深い谷底を通るものから10番目に高い谷底を通るものまでの直線10本とを選び、次に、前記・・・基準線からの前記直線10本の距離を測定し、前者の直線10本の距離の平均値、及び後者の直線10本の距離の平均値を通る水平線に平行な2本の直線を各々求め、この2本の直線間の距離dを・・・測定した値」とされていて、いずれも本願出願人の片方と同一人にかかるものであるにもかかわらずその定義は異なっていることからみて、もともとR10zの意味は確定しておらず、限定された数値そのものは単なる目安に過ぎないというしかない。
そして、強磁性金属粉末を含む磁性層の表面粗さR10zを8.0〜35.0nm程度に設定することは、本願出願時前において知られている(必要であれば、特開平4-295621号公報(5nm以上25nm以下、請求項1参照)、特開平4-42428号公報(30nm以下、請求項参照)、特開平5-182185号公報(30nm以下が好ましい、段落【0024】参照)等参照。)から、磁性層の表面粗さR10zを8.0〜35.0nm程度に規定することに格別の困難性はないというべきである。
そして、電磁変換特性などの点からすると、磁性層の表面粗さR10zをなるべく小さくすることが好ましいことは明らかであり、磁性層の厚さとR10zの関係を検討し、その許容範囲を見出すことは当業者の当然行う事項である。 とすると、強磁性金属粉末を含む磁性層厚と磁性層表面粗さR10zとの関係が式(2)を満足するものは、例えば前記周知例とした特開平4-295621号公報の実施例1,3〜7などで既に採用されている程度のものであるから、式(2)に格別の技術的意義があるものとは認められず、適宜採用できる範囲のものというしかない。
以上のとおりであるから、相違する(a)の構成は、格別の技術的意義があると言うべきではなく、当業者が容易に設定し得る程度のものと認める。

次に、相違する(b)の構成について検討する。
引用例1には、潤滑剤として脂肪酸エステルが使用され得ることが記載されているものの、磁性層表面における量の規定までは言及されていない。
しかしながら、引用例2には、耐久性を向上させるために金属磁性粉末を含む磁性層表面の脂肪酸エステル量を7〜150mg/m2とすることが好ましく、具体的に35mg/m2にすることも記載(摘示(2-i)、(2-iv)参照)されていることを考慮すると、磁性層表面の脂肪酸エステル量を5〜50mg/m2 程度に規定して耐久性の向上を図ることに格別の困難性はない。 なお、磁性層表面の脂肪酸エステル量を前記程度にすることは、特開平号5-101374公報(第11頁表2実施例4など)、特開平4-251432号公報(第8頁表3実施例4など)、特開平4-245018号公報(第10頁表1実施例4,5など)、特開平1-196722号公報(請求項1、第9頁の表の実施例1,2など)などでも適宜採用されている。
なお、本願発明では、その実施例、比較例を示した表1のデータを検討しても、3mg/m2の比較例はあるけれども、上限の50mg/m2 の比較例も示されておらず、それを規定する根拠も不明である(本願段落【0058】では、単に5〜50mg/m2に保つとのみ記載されているにすぎない。)。

そして、(b)の構成を付加したことによって、Raの規定や前記(a)の構成の規定と相俟って相乗的な作用効果を奏しているとは認められない。
よって、前記(a)と(b)の構成は、当業者が容易になし得る程度のことというしかない。

IV.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-08-13 
結審通知日 2004-08-24 
審決日 2004-09-08 
出願番号 特願平5-271323
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 蔵野 雅昭  
特許庁審判長 片岡 栄一
特許庁審判官 川上 美秀
相馬 多美子
発明の名称 磁気記録媒体及びその製造方法  
代理人 坂口 信昭  
代理人 坂口 信昭  

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