ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03H 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H03H |
---|---|
管理番号 | 1105551 |
審判番号 | 不服2000-19008 |
総通号数 | 60 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2000-01-14 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2000-11-30 |
確定日 | 2004-10-28 |
事件の表示 | 平成10年特許願第171051号「フィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 1月14日出願公開、特開2000- 13167〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成10年6月18日の出願であって、平成12年10月20日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。 2.平成12年11月30日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)について [補正却下の決定の結論] 平成12年11月30日付の手続補正を却下する。 [理由] 本件補正は少なくとも、特許請求の範囲の請求項28,請求項10を次のとおり補正するものである。 「【請求項1】2GHz以上の高周波に対応でき、配線パターンを設けた基板上にインダクタンス素子及びコンデンサを実装し、前記配線パターンを介して前記インダクタンス素子と前記コンデンサを接続し、インダクタンス素子及びコンデンサをチップ部品とするとともに、前記インダクタンス素子は、実用周波数帯域が1〜6GHzであり、50nH以下の微小インダクタンスを有し、しかも、基台と、前記基台上に設けられた導電膜と、前記基台の中央部に設けられた導電膜に横向きに形成されたスパイラル状の溝と、前記基体の両端部に設けられた端子部とを備え、長さL1,幅L2,高さL3を、 L1=0.5〜1.8mm L2=0.2〜1.0mm L3=0.2〜1.0mm とし、前記基台を、 体積固有抵抗:1013Ωm以上 熱膨張係数:5×10-4以下/℃[20℃〜500℃における熱膨張係数] 比誘電率:1MHzにおいて12以下 曲げ強度:1300kg/cm2以上 密度:2〜5g/cm3となるように構成しており、前記端子部は前記基板上に形成された配線と直接接合されており、しかも前記スパイラル状の溝の軸心は前記基板に沿うように前記インダクタンス素子が前記基板に実装されているフィルタであって、複数のコンデンサを直列に接続し、前記複数のコンデンサ間にインダクタンス素子の一方の端子部を接続し、他方の端子部を基板上に設けられた接地用の導電パターンに接続した事を特徴とするフィルタ。」 「【請求項3】チップ部品であるインダクタンス素子とチップ部品であるコンデンサを直接接合して構成されたフィルタであって、前記インダクタンス素子は、基台と、前記基台上に設けられた導電膜と、前記基台の中央部に設けられた導電膜に横向きに形成されたスパイラル状の溝と、前記基体の両端部に設けられた端子部とを備えており、前記インダクタンス素子とコンデンサのそれぞれの端子部を直接接合して得られた接合体を一部の端子部を露出させるようにモールドするか、ケース内に収納した事を特徴とするフィルタ。」 上記補正は、請求項1については、補正前の請求項28において引用された請求項21において更に引用された請求項4において更に順次引用された請求項3、請求項2、請求項1の記載のうち、「前記端子部には他の部品かもしくは前記基板上に形成された配線と直接接合されており」との記載を「前記端子部は前記基板上に形成された配線と直接接合されており」と限定するものである。 また、請求項3については請求項の削除に伴い、補正前の請求項10が内容を変更することなく、請求項の番号だけが繰上げられたものである。 従って、この補正は特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1、請求項3に記載された発明(以下、「本願補正発明1」、「本願補正発明3」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (1)引用例 (1-1) 原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-176966号公報(以下、引用例1という。)には、図面とともに以下の記載がある。 「【産業上の利用分野】本発明は、インダクタンス部品とコンデンサとを接続してなるLCフィルタに関し、特に、面実装可能なチップ型の部品として構成されたLCフィルタに関する。 【0002】 【従来の技術】従来のLCフィルタの一例を図8を参照して説明する。LCフィルタ1は、プリント基板2の上面に複数個のヘリカルタイプのコイル部品3を固定し、下面に複数個のチップ型積層コンデンサ4を取り付けた構造を有する。・・・」(第2頁左欄、第12行-21行) 「【発明が解決しようとする課題】 ・・・ 【0006】また、近年、映像機器用等に使用される高級なLCフィルタでは、特性の微妙な調整が要求されている。・・・ 【0007】本発明の目的は、小型であり、特性の微調整が容易であり、かつ特性の安定なチップ型LCフィルタを提供することにある。」(第2頁左欄第42行-右欄第11行) 「【0011】 【実施例の説明】以下、本発明の実施例を説明することにより、本発明を明らかにする。図1は、本発明の一実施例に係るチップ型LCフィルタを説明するための斜視図である。」(第2頁右欄、第35行-39行) 「【0014】図1に戻り、誘電体基板12の上面には、複数個のチップ型コイル15,16が取り付けられている。また、誘電体基板12の上面には図示の配線パターン17が導電ペーストを塗布し、焼き付けることにより形成されている。さらに、誘電体基板12の上面には、積層コンデンサ18,19が固定されている。上記チップ型コイル15,16及び積層コンデンサ18,19は、前述した配線パターン17により相互に電気的に接続されている。また、誘電体基板12の側面には、電極14A〜14Jが形成されており、該電極14A〜14Jは、それぞれ、上述した配線パターン17に、或いは前述した誘電体基板12内に形成された内部電極13a〜13cのいずれか等に電気的に接続されている。この電気的接続は、図4に回路図で示すLCフィルタを構成し得るように行われている。」(第3頁左欄、第9行-23行) 「【0021】上述した実施例では、2個のインダクタンス部品としてのチップ型コイル15,16と、誘電体基板12内に構成された1個の内蔵コンデンサ部と、2個のコンデンサ18,19とにより図4に示すLCフィルタが構成されていたが、本発明は、図4に示す回路のLCフィルタに限らず、例えば図5〜図7に示す種々の回路構成のLCフィルタに適用することができる。即ち、誘電体基板内に1個以上のコンデンサ部を構成し、該誘電体基板の上面に1個以上のインダクタンス部品及び必要なコンデンサ部品を取り付けることにより、上記実施例と同様に小型であり、かつ特性の調整がよりかつ高精度に行われ得るチップ型LCフィルタを提供することができる。」(第3頁右欄第21行-33行) 「【0023】・・・即ち、単に部品としてのLCフィルタ11を完成するにあたっては、半田等によりチップ型コイル15の下面の電極を配線パターン17に接合すればよいが、使用に際して加えられる熱によりチップ型コイル15が脱落するのを防止するために、上記熱硬化性接着剤24によりチップ型コイル15が誘電体基板12に固定されている。」(第3頁右欄第38行-末行) (1-2) 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された実願平2-57765号(実開平4-15812号)のマイクロフィルム(以下、引用例2という。)には、図面とともに以下の記載がある。 「{従来技術} 絶縁基板上に形成した導体パターンにより、回路素子間を接続してフィルタや遅延線の回路を構成する複合部品は、電子部品の小型化とあいまって多用されている。」(第1頁第15行-19行) 「 第1図は第3図に示すように2個のコイルL1,L2を直列接続し、そのコイルL1,L2に3個のコンデンサC1,C2,C3を並列接続してあるローパスフィルタの構成を示す。」(第3頁第4行-7行) 「なおコイルL1,L2、コンデンサC1,C2,C3はいずれもチップ状に形成してあり、両端の面接続用電極を夫々リード部材にはんだや溶接により接続する。」(第4頁第5行-8行) (1-3) 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭59-94291号(実開昭61-9918号)のマイクロフィルム(以下、引用例3という。)には、図面とともに以下の記載がある。 「2.実用新案登録請求の範囲 立方体形状を有しかつその第1方向両端にそれぞれ電極が形成されたチップ状インダクタンス素子、および 立方体形状を有しかつその第1方向両端にそれぞれ電極が形成された2つのチップ状キャパシタンス素子を備え、 前記2つのチップ状キャパシタンス素子のそれぞれの前記第1方向に長さは前記チップ状インダクタンス素子の前記第1の方向の長さのほぼ半分に選ばれ、 前記チップ状インダクタンス素子の前記第1方向にそれぞれの前記第1方向が沿うように前記2つのチップ状キャパシタンス素子が前記チップ状インダクタンス素子の側面に密着的に組み合わされ、 前記チップ状インダクタンス素子のそれぞれの電極とそれに対応する位置にある2つのチップ状キャパシタンス素子のそれぞれの電極のうちの一方とが電気的に接続され、 前記2つのチップ状キャパシタンス素子のそれぞれの電極のうち他方どうしが電気的に接続された、π型フィルタ」(第1頁第4行-第2頁第6行) 「第3図はこの考案の他の実施例を示す斜視図である。この実施例では、第1図の実施例と同じように1つのチップ状インダクタ12と2つのチップ状コンデンサ18及び24を含み、それぞれの一体物がケース30に収納される。このケース30は、例えば合成樹脂などの絶縁材料からなり、その1つの側面にはリード端子32a、32bおよび32cが取り付けられる。」(第9頁第14行-第10頁第1行) (1-4) 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-116739号(以下、引用例4という。)には、図面とともに以下の記載がある。 「【請求項6】絶縁材料で構成され両端部の断面を略正四角形状とするとともに中央部を前記両端部よりも窪ませた基台と、前記基台表面に形成された導電膜と、前記基台の中央部に設けられ、前記導電膜及び基台の一部を取り除くように形成されたスパイラル状の溝と、前記溝を覆うように前記基台上に設けられた保護材とを備えたインダクタンス素子であって、基台の表面粗さを0.15〜0.5μmとしたことを特徴とするインダクタンス素子。」(第2頁左欄第19行-27行) 「【発明の属する技術分野】本発明は、移動体通信などの電子機器に用いられ、特に高周波回路等に好適に用いられるインダクタンス素子及び無線端末装置に関するものである。 【0002】 【従来の技術】図15は従来のインダクタンス素子を示す側面図である。図15において、1は四角柱状の基台、2は基台1の上に形成された導電膜、3は導電膜2に設けられた溝、4は導電膜2の上に積層された保護材である。」(第2頁右欄第16行-25行) 「【0013】請求項6に記載の発明は、絶縁材料で構成され両端部の断面を略正四角形状とするとともに中央部を前記両端部よりも窪ませた基台と、前記基台表面に形成された導電膜と、前記基台の中央部に設けられ、前記導電膜及び基台の一部を取り除くように形成されたスパイラル状の溝と、前記溝を覆うように前記基台上に設けられた保護材とを備えたインダクタンス素子であって、基台の表面粗さを0.15〜0.5μmとしたことによって導電膜と基台の密着強度を十分確保できると共に、しかも導電膜の膜構造の悪化と起因すると思われるQ値(特に高周波における)の低下を防止でき、しかも自己共振周波数f0の低下を防止できるとともに、両端部の断面形状を正四角形状としているので、回路基板等への装着性が良く、磁束がプリント基板と平行で方向性が存在しないので、回路基板等に実装しやすく、しかも保護材を設けているので、耐候性を向上させることができる。」(第3頁左欄第32行-48行) 「【0022】以下、本発明におけるインダクタンス素子及び無線端末装置の実施の形態について説明する。 【0023】図1,図2はそれぞれ本発明の一実施の形態におけるインダクタンス素子を示す斜視図及び側面図である。 【0024】図1において、11は絶縁材料などをプレス加工,押し出し法等を施して構成されている基台、12は基台11の上に設けられている導電膜で、導電膜12は、メッキ法やスパッタリング法等の蒸着法等によって基台11上に形成される。13は基台11及び導電膜12に設けられた溝で、溝13は、レーザ光線等を導電膜12に照射することによって形成したり、導電膜12に砥石等を当てて機械的に形成されている。14は基台11及び導電膜12の溝13を設けた部分に塗布された保護材、15,16はそれぞれ端子電極が形成された端子部で、端子部15と端子部16の間には、溝13及び保護材14が設けられている。なお、図2は、保護材14の一部を取り除いた図である。 【0025】また、本実施の形態のインダクタンス素子は、実用周波数帯域が1〜6GHzと高周波数域に対応するとともに、50nH以下の微小インダクタンスを有し、しかもインダクタンス素子の長さL1,幅L2,高さL3は以下の通りとなっていることが好ましい。 【0026】L1=0.5〜1.1mm(好ましくは0.6〜1.0mm)L2=0.2〜0.7mm(好ましくは0.3〜0.6mm)L3=0.2〜0.7mm(好ましくは0.3〜0.6mm)L1が0.5mm以下であると、自己共振周波数f0が下がってしまうとともにQ値が低下してしまい、良好な特性を得ることができない。また、L1が1.1mmを超えてしまうと、素子自体が大きくなってしまい、電子回路等が形成された基板など(以下回路基板等と略す)回路基板等の小型化ができず、ひいてはその回路基板等を搭載した電子機器等の小型化を行うことができない。また、L2,L3それぞれが0.2mm以下であると、素子自体の機械的強度が弱くなりすぎてしまい、実装装置などで、回路基板等に実装する場合に、素子折れ等が発生することがある。また、L2,L3が0.7mm以上となると、素子が大きくなりすぎて、回路基板等の小型化、ひいては装置の小型化を行うことができない。なお、L4(段落ちの深さ)は5μm〜50μm程度が好ましく、5μm以下であれば、保護材14の厚さ等を薄くしなければならず、良好な保護特性等を得ることができない。また、L4が50μmを超えると基台の機械的強度が弱くなり、やはり素子折れ等が発生することがある。」(第4頁左欄第4行-右欄第1行) 「【0028】まず、基台11の形状について説明する。基台11は、図3及び図4に示す様に、回路基板等に実装しやすいように断面が四角形状の中央部11aと中央部11aの両端に一体に設けられ、しかも断面が四角形状の端部11b,11cによって構成されている。なお、端部11b,11c及び中央部11aは断面四角形状としたが、五角形状や六角形状などの多角形状でも良い。中央部11aは端部11b,11cから段落ちした構成となっている。本実施の形態では、端部11b,11cの断面形状を略正四角状とすることによって、回路基板等へのインダクタンス素子を装着性を良好にした。また、本実施の形態では中央部11aに横向きに溝13を形成することによって、どのように回路基板等に実装しても方向性が無いために、取り扱いが容易になる。また、中央部11aには素子部(溝13や保護材14)が形成されることとなり、端部11b,11cには端子部15,16が形成される。」(第4頁右欄第8行-24行) 「【0035】次に基台11の構成材料について説明する。基台11の構成材料として下記の特性を満足しておくことが好ましい。 【0036】体積固有抵抗:1013以上(好ましくは1014以上)熱膨張係数:5×10-4以下(好ましくは2×10-5以下)[20℃〜500℃における熱膨張係数]誘電率:1MHzにおいて12以下(好ましくは10以下)曲げ強度:1300kg/cm2以上(好ましくは2000kg/cm2以上)密度:2〜5g/cm3(好ましくは3〜4g/cm3)基台11の構成材料が体積固有抵抗が1013以下であると、導電膜12とともに基台11にも所定に電流が流れ始めるので、並列回路が形成された状態となり、自己共振周波数f0及びQ値が低くなってしまい、高周波用の素子としては不向きである。」(第5頁右欄第4行-20行) 「【0070】上記で説明したインダクタンス素子(図1〜図12に示すもの)は、送信部34や受信部35の中のフィルタ回路やマッチング回路などに用いられており、その数は、一つの無線端末装置に数個〜40個程度用いられている。上述の様に導電膜が剥がれ難く、しかも特性の劣化のないインダクタンス素子を用いると、電話機の充電を長時間行うことによって機械内が高温になったり、長期間使用したりしても、インダクタンス素子の特性が変化しないので、耐候性がよく、しかも故障の少ない無線端末装置を提供することができる。」(第8頁右欄第46行-第9頁左欄第5行) (2)対比・判断 (2-1)本願補正発明1について (2-1-1)引用例1に記載された発明との対比 本願補正発明1と引用例1に記載された発明とを比較すると、引用例1の誘電基板上に設けられた積層コンデンサ18,18は図1、図2(a)の記載を見れば「チップ型」のコンデンサであることは明らかであるから、本願補正発明1の「コンデンサをチップ部品」としたものに相当し、引用例1の「チップ型コイル」は本願補正発明1の「インダクタンス素子をチップ部品」としたものに相当するから、両者は、 「配線パターンを設けた基板上にインダクタンス素子及びコンデンサを実装し、前記配線パターンを介して前記インダクタンス素子と前記コンデンサを接続し、インダクタンス素子及びコンデンサをチップ部品とするとともに、 前記インダクタンス素子の端子部は前記基板上に形成された配線と直接接合されており、 複数のコンデンサを直列に接続し、前記複数のコンデンサ間にインダクタンス素子の一方の端子部を接続し、他方の端子部を基板上に設けられた接地用の導電パターンに接続した事を特徴とするフィルタ。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] 本願補正発明1のフィルタは「2GHz以上の高周波に対応でき」としているのに対して、引用発明1には対応できる周波数の値が記載されていない点。 [相違点2] 本願補正発明1のインダクタンス素子は 「実用周波数帯域が1〜6GHzであり、50nH以下の微小インダクタンスを有し、しかも、基台と、前記基台上に設けられた導電膜と、前記基台の中央部に設けられた導電膜に横向きに形成されたスパイラル状の溝と、前記基体の両端部に設けられた端子部とを備え、長さL1,幅L2,高さL3を、 L1=0.5〜1.8mm L2=0.2〜1.0mm L3=0.2〜1.0mm とし、前記基台を、 体積固有抵抗:1013Ωm以上 熱膨張係数:5×10-4以下/℃[20℃〜500℃における熱膨張係数] 比誘電率:1MHzにおいて12以下 曲げ強度:1300kg/cm2以上 密度:2〜5g/cm3となるように構成しており、しかも前記スパイラル状の溝の軸心は前記基板に沿うように前記インダクタンス素子が前記基板に実装されている」 のに対して引用例1のインダクタンスはチップ型である点で本願補正発明1と共通しているものの、コイル軸及び端子の位置が本願補正発明1と相違しており、また、引用例1にはインダクタンスの寸法、基台の材質等については具体的に示されていない点。 (2-1-2)判断 [相違点1]について 引用例1には、【発明が解決しようとする課題】の欄に「映像機器用等に使用されるLCフィルタ」の問題点に言及した記載があるが、引用例1のフィルタが具体的にどの程度の周波数に対応できるかについて記載されていない。 しかしながら、フィルタの対応周波数をGHz帯域のものとすることは本願明細書中にも従来例として記載されているようにすでに普通に行われていることである。そして、フィルタはその使用周波数特性等を考慮して使用部品等が選定されるところ、引用例4には高周波回路等に好適に用いられるチップ状のインダクタンス素子として本願補正発明1に使用されているインダクタンス素子とほぼ同一の形状、特性のものが記載されており、実用周波数帯域は本願補正発明1に採用されたインダクタンス素子と同じ、1〜6GHzであって、しかも回路基板に実装すること、フィルタ回路等に使用することが記載されている。また、引用例1には特に使用周波数について限定を加えるような記載は存在しないし、また引用例1のように、基板上にチップ部品のインダクタンス、コイルを設けてフィルタを構成することは引用例2にも記載されているようにフィルタとして普通に行われていることである。 そうすると、引用例1に記載されたフィルタのインダクタンス素子として、引用例4に記載されたインダクタンス素子を採用する(この点については後記「{相違点2}について」の項でも説明する。)ことにより、2GHz以上の高周波に対応できるようなフィルタとすることは当業者が適宜になし得ることである。 [相違点2]について 引用例4にはフィルタ回路等に使用されるチップ状のインダクタンス素子について、 「インダクタンス素子の実用周波数帯域が1〜6GHzであり、 50nH以下の微小インダクタンスを有し、 基台と、前記基台上に設けられた導電膜と、前記基台の中央部に設けられた導電膜に横向きに形成されたスパイラル状の溝と、前記基体の両端部に設けられた端子部とを備え、長さL1,幅L2,高さL3を、 L1=0.5〜1.8mm L2=0.2〜0.7mm L3=0.2〜0。7mm とし、 前記基台を、 体積固有抵抗:1013Ωm以上 熱膨張係数:5×10-4以下/℃[20℃〜500℃における熱膨張係数] 比誘電率:1MHzにおいて12以下 曲げ強度:1300kg/cm2以上 密度:2〜5g/cm3とし、 前記端子部は基板上に形成された配線と直接接合される」 インダクタンス素子が記載されており、更に、インダクタンス素子を「スパイラル状の溝の軸心は前記基板に沿うように前記インダクタンス素子を回路基板に実装」すること、インダクタンス素子をフィルタ回路に使用すること、が記載されている。 従って、引用例4には本願補正発明1に採用されているインダクタンスとほぼ同一の構成のインダクタンスが記載されており、本願補正発明1のインダクタンス素子とは、幅、高さ(L2,L3)の数値範囲が僅かだけ相違している。 即ち、本願補正発明1では、L2=0.2〜1.0mm、L3=0.2〜1.0mmであるのに対して、引用例4にはインダクタンス素子の幅、高さ(L2,L3)の値が、L2=0.2〜0.7mm、L3=0.2〜0.7mmであって、それぞれ上限値が僅かに異なっている。 しかしながら本願補正発明1,引用例4ともに、L2,L3の上限値は素子自体の寸法が大きくなりすぎて回路基板等の小型化の妨げとなることから定められている値であるから、当該差異は設計上の微差といえる。 そして引用例4には、インダクタンス素子を回路基板に実装すること、フィルタ回路に使用することが記載されているのであるから、引用例4に記載されたインダクタンス素子を引用例1に記載されたフィルタの基板上に設けられたインダクタンス素子として採用することは当業者が容易になし得ることである。 そして、引用例1に引用例4に記載されたインダクタンス素子を適用するにあたり、インダクタンス素子の幅、高さをL2=0.2〜1.0mm、L3=0.2〜1.0mmとする程度のことは当業者が適宜になし得る程度の設計変更に過ぎない。 そして、本願補正発明1の作用効果も、引用例1、引用例2及び引用例4から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願補正発明1は、引用例1、引用例2、及び、引用例4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (2-2)本願補正発明3について (2-2-1)引用例3発明との対比 本願補正発明3と引用例3とを比較すると、両者は、 「チップ部品であるインダクタンス素子とチップ部品であるコンデンサを直接接合して構成されたフィルタであって、前記インダクタンス素子とコンデンサのそれぞれの端子部を直接接合して得られた接合体をモールドするか、ケース内に収納した事を特徴とするフィルタ。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1]本願補正発明3のインダクタンス素子は「基台と、前記基台上に設けられた導電膜と、前記基台の中央部に設けられた導電膜に横向きに形成されたスパイラル状の溝と、前記基体の両端部に設けられた端子部」を備えたものであるのに対して引用例3にはインダクタンス素子の両端部に端子部を備えたことが記載されているがインダクタンスの内部構造については具体的に記載されていない点。 [相違点2]本願補正発明3では、インダクタンス素子とコンデンサの接合体を「一部の端子部を露出させるように」モールドするか、ケース内に収納されているのに対して、引用例3にはインダクタンス素子とコンデンサの接合体をケースに収納することが記載されているが、一部の端子部を露出することについては記載がない点。 (2-2-2)判断 [相違点1]について 基台上に導電膜を設け、前記基台の中央部に設けられた導電膜に横向きにスパイラル状の溝を形成し、前記基体の両端部に端子部を設けたインダクタンス素子が引用例4に記載されており、引用例3に記載されたインダクタンス素子として、引用例4に記載されたインダクタンス素子を採用することに何等困難性はない。 [相違点2]について インダクタンス等をケース内に収容するに際して、端子部を露出させることは例えば、引用例4、特開昭61-104608号公報、特開昭61-104609号公報に記載されているように周知であって、インダクタンス素子とコンデンサの接合体をケースに収納するに際して、一部の端子部を露出するように構成することに何等困難性はない。 そして、本願補正発明3の作用効果も、引用例3、引用例4及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願補正発明3は、引用例3、引用例4、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (3)むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明について 平成12年11月30日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項28及び請求項10に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明28」及び「本願発明10」という。)は、平成11年7月15日付手続補正書の特許請求の範囲の「請求項28において引用された請求項21において更に引用された請求項4において更に順次引用された請求項3、請求項2、請求項1」、及び「請求項10」に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 本願発明28 「【請求項1】2GHz以上の高周波に対応でき、基板上にインダクタンス素子及びコンデンサを実装し、前記インダクタンス素子と前記コンデンサを接続して得られるフィルタであって、インダクタンス素子をチップ部品とするとともに、前記インダクタンス素子は、実用周波数帯域が1〜6GHzであり、50nH以下の微小インダクタンスを有し、しかも、基台と、前記基台上に設けられた導電膜と、前記基台の中央部に設けられた導電膜に横向きに形成されたスパイラル状の溝と、前記基体の両端部に設けられた端子部とを備えており、前記端子部には他の部品かもしくは前記基板上に形成された配線と直接接合されており、しかも前記スパイラル状の溝の軸心は前記基板に沿うように前記インダクタンス素子が前記基板に実装されている事を特徴とするフィルタ。 【請求項2】インダクタンス素子とコンデンサの双方をチップ型部品とした事を特徴とする請求項1記載のフィルタ。 【請求項3】配線パターンを備えた基板上にインダクタンス素子とコンデンサの双方を設け、前記配線パターンよって、前記インダクタンス素子及びコンデンサを電気的に接続した事を特徴とする請求項1,2いずれか1記載のフィルタ。 【請求項4】複数のコンデンサを直列に接続し、前記複数のコンデンサ間にインダクタンス素子の一方の端子部を接続し、他方の端子部を基板上に設けられた接地用の導電パターンに接続した事を特徴とする請求項3記載のフィルタ。 【請求項21】長さL1,幅L2,高さL3を、 L1=0.5〜1.8mm L2=0.2〜1.0mm L3=0.2〜1.0mm としたインダクタンス素子を用いたことを特徴とする請求項1〜20いずれか1記載のフィルタ。 【請求項28】基台を、 体積固有抵抗:1013Ωm以上 熱膨張係数:5×10-4以下/℃[20℃〜500℃における熱膨張係数] 比誘電率:1MHzにおいて12以下 曲げ強度:1300kg/cm2以上 密度:2〜5g/cm3となるように構成したことを特徴とする請求項21記載のフィルタ。」 本願発明10 「【請求項10】チップ部品であるインダクタンス素子とチップ部品であるコンデンサを直接接合して構成されたフィルタであって、前記インダクタンス素子は、基台と、前記基台上に設けられた導電膜と、前記基台の中央部に設けられた導電膜に横向きに形成されたスパイラル状の溝と、前記基体の両端部に設けられた端子部とを備えており、前記インダクタンス素子とコンデンサのそれぞれの端子部を直接接合して得られた接合体を一部の端子部を露出させるようにモールドするか、ケース内に収納した事を特徴とするフィルタ。」 (1)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項は、前記「2.(1)引用例」の項に記載したとおりである。 (2)対比・判断 本願発明28は、前記2.で検討した本願補正発明1から補正による限定事項を省いたものである。また本願発明10は本願補正発明3と同じ発明である。 そうすると、本願発明28の構成要件を全て含み、これをさらに限定したものに相当する本願補正発明1が、前記「2.(2-1)」に記載したとおり、引用例1、引用例2、及び引用例4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明28も、同様の理由により、引用例1、引用例2、及び、引用例4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、本願発明10は本願発明3と同じ発明であるから、前記「2.(2-2)」に記載した同じ理由で、引用例3、引用例4、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)むすび . 以上のとおり、本願発明28は、引用例1、引用例2,及び引用例4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本願発明10は引用例3、引用例4、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-08-26 |
結審通知日 | 2004-08-31 |
審決日 | 2004-09-13 |
出願番号 | 特願平10-171051 |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H03H)
P 1 8・ 121- Z (H03H) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小林 正明、飯田 清司 |
特許庁審判長 |
下野 和行 |
特許庁審判官 |
矢島 伸一 大野 克人 |
発明の名称 | フィルタ |
代理人 | 内藤 浩樹 |
代理人 | 坂口 智康 |
代理人 | 岩橋 文雄 |