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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02M
管理番号 1105570
審判番号 審判1999-6002  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-05-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-04-15 
確定日 2001-06-18 
事件の表示 平成 1年特許願第112845号「電力変換回路」拒絶査定に対する審判事件[平成 2年 5月 7日出願公開、特開平 2-119575]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯・本願発明
本願は、平成1年5月6日(優先権主張昭和63年5月6日)の出願であって、その請求項1乃至4に記載された各発明のうち、請求項1に係る発明及び請求項3に係る発明は、平成11年5月17日付けの手続補正書及び平成12年8月15日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1及び請求項3に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】
ノーマリィ・オフで電圧駆動型の第1のスイッチング手段の制御端子と両主端子を制御端子ct1、主端子mt1a及び主端子mt1bと呼び、ノーマリィ・オフで電圧駆動型の第2のスイッチング手段の制御端子と両主端子を制御端子ct2、主端子mt2a及び主端子mt2bと呼ぶとしたときに、
そして、前者の駆動信号入力用に制御端子ct1と主端子mt1aが対を成し、後者の駆動信号入力用に制御端子ct2と主端子mt2aが対を成し、制御端子ct1・主端子mt1a間と制御端子ct2・主端子mt2a間の順バイアス電圧極性が同じであるとしたときに、
「前記第1、第2のスイッチング手段」と、
「直流電圧を供給する直流電源手段」と、
「主端子mt1b側に接続され、前記直流電源手段の両電源端子間に主端子mt1b・主端子mt1a間部分と共に直列接続される第1のインダクタンス手段」と、
「主端子mt2b側に接続され、前記直流電源手段の両電源端子間に主端子mt2b・主端子mt2a間部分と共に直列接続され、互いに逆向きの電圧を誘起する様に前記第1のインダクタンス手段と磁気結合される第2のインダクタンス手段」と、
「前記第1のスイッチング手段の主電流を検出し、その主電流が第1の所定値に達したら前記第1のスイッチング手段をオフ方向へ駆動してその主電流の大きさの最大値を制限する第1の主電流検出制限手段」と、
「前記第2のスイッチング手段の主電流を検出し、その主電流が第2の所定値に達したら前記第2のスイッチング手段をオフ方向へ駆動してその主電流の大きさの最大値を制限する第2の主電流検出制限手段」を有し、
主端子mt2b・制御端子ct1間を直結するか又は「電流制限機能を持ち、電圧と電流が同位相となる第1の電流制限手段」のみで接続し、
主端子mt1b・制御端子ct2間を直結するか又は「電流制限機能を持ち、電圧と電流が同位相となる第2の電流制限手段」のみで接続したことを特徴とする電力変換回路。
【請求項3】
ノーマリィ・オフで電圧駆動型の第1のスイッチング手段の制御端子と両主端子を制御端子ct1、主端子mt1a及び主端子mt1bと呼び、ノーマリィ・オフで電圧駆動型の第2のスイッチング手段の制御端子と両主端子を制御端子ct2、主端子mt2a及び主端子mt2bと呼ぶとしたときに、
そして、前者の駆動信号入力用に制御端子ct1と主端子mt1aが対を成し、後者の駆動信号入力用に制御端子ct2と主端子mt2aが対を成し、制御端子ct1・主端子mt1a間と制御端子ct2・主端子mt2a間の順バイアス電圧極性が同じであるとしたときに、
「前記第1、第2のスイッチング手段」と、
「直流電圧を供給する直流電源手段」と、
「主端子mt1b側に接続され、前記直流電源手段の両電源端子間に主端子mt1b・主端子mt1a間部分と共に直列接続される第1のインダクタンス手段」と、
「主端子mt2b側に接続され、前記直流電源手段の両電源端子間に主端子mt2b・主端子mt2a間部分と共に直列接続され、互いに逆向きの電圧を誘起する様に前記第1のインダクタンス手段と磁気結合される第2のインダクタンス手段」と、
「前記第1のスイッチング手段の主電流が流れる電流経路中にその主電流検出用に設けられた第1の抵抗手段」と、
「第3のスイッチング手段のオン・オフしきい値電圧を利用して前記第1の抵抗手段の電圧降下を検出し、その電圧降下が第1の所定電圧値に達したら前記第3のスイッチング手段の出力信号に基づいて前記第1のスイッチング手段をオフ方向へ駆動してその主電流の大きさの最大値を制限する第1の主電流検出制限手段」と、
「前記第2のスイッチング手段の主電流が流れる電流経路中にその主電流検出用に設けられた第2の抵抗手段」と、
「第4のスイッチング手段のオン・オフしきい値電圧を利用して前記第2の抵抗手段の電圧降下を検出し、その電圧降下が第2の所定電圧値に達したら前記第4のスイッチング手段の出力信号に基づいて前記第2のスイッチング手段をオフ方向へ駆動してその主電流の大きさの最大値を制限する第2の主電流検出制限手段」を有し、
主端子mt2b・制御端子ct1間を直結または第1の正帰還手段で接続し、
主端子mtlb・制御端子ct2間を直結または第2の正帰還手段で接続したことを特徴とする電力変換回路。

【2】引用刊行物
当審において通知した拒絶の理由に引用した本願出願前に頒布された実公昭58-47837号公報(以下、「引用例1」という。)には、「この電界効果型トランジスタを用いたインバータによれば、電界効果型トランジスタには電界蓄積効果が存在しないため高速度でスイッチング動作をさせることができる利点がある。 ・・・(中略)・・・ そのドレイン電流はゲート電圧VGS、即ち入力電圧に依存し、端子15,16間の電圧が大きく変化すると、負荷へ供給できる電流が大きく変動する。 ・・・(中略)・・・ この考案の目的は電界効果型トランジスタを用いて高速度に動作させることができ、しかも入力電圧の影響を受け難いインバータを提供することにある。」(2頁左欄8行乃至23行)、「このような構成においてはトランジスタ28,29のゲートにはゼナ電圧が与えられており、つまり一定電圧が与えられている。従って一方のトランジスタ、例えば28が導通してその導通電流が増加して共通のソース抵抗器17における電圧降下がゼナダイオード33のゼナ電圧と等しくなるとトランジスタ28は不導通となり、その不導通によって三次巻線19を通じてトランジスタ29のゲートにスイッチング電圧が与えられてトランジスタ29が導通する。この導通によってそのソース電流が増加して前述と同様にしてトランジスタ29が不導通となって他方のトランジスタ28が導通し、トランジスタ28,29は交互に導通する。 その際トランジスタのゲートにはゼナ電圧が与えられているためその電圧でトランジスタのドレイン電流の飽和値が決まり、つまり入力端子15,16間の入力電圧に依存しないで入力電圧が変化してもドレイン電流は一定となり、出力は変動しない。又、トランジスタがオフの際にゼナダイオードに順方向のバイアス電流が与えられてその電荷蓄積効果による若干の遅れ作用を利用してトランジスタの導通が僅か遅れるようにされる。このためそのスイッチンク波形は例えば第6図に示すように僅かの期間TDの期間立上り立下りにおいて両トランジスタが不導通の期間が存在し、両トランジスタが同時に導通になるのが阻止される。このようにして電界効果型トランジスタの高速性を利用して高速度にスイッチングを行うと共に同時に導通状態になるのが避けられる。」(2頁右欄6行乃至34行)及び「電界効果型トランジスタのゲ-トの入力インピーダンスは高いので例えば第7図に示すようにトランス13の三次巻線を用いることなく電界効果型トランジスタ28のドレインを抵抗器36及びコンデンサ37の並列回路と抵抗器21との直列回路を通じてトランジスタ29のゲートに接続し、又トランジスタ29のドレインを抵抗器38、コンデンサ39の並列回路と抵抗器29との直列回路を通じてトランジスタ28のゲートに接続する。このようにしてコンデンサ37,39による一方のドレインより他方のゲートへの交流正帰還回路を構成し、又抵抗器36,38によって起動時における直流バイアス回路を構成することができる。抵抗器36,38は起動を行うためであって高いインピーダンス回路でよい。これ等の回路としてはその他の構成とすることもできる。 ・・・(中略)・・・ これらの直流バイアスは振動が成長すれば不用となるため交流帰還量と比べて格段と小さく選定される。」(2頁右欄35行乃至3頁左欄14行)との記載並びに第7図の記載がされている。
ここで、引用例1に記載のインバータにおいて、第1の電界効果型トランジスタ28のゲート端子・ソース端子間と第2の電界効果型トランジスタ29のゲート・ソース端子間の順バイアス電圧極性が同じであることは、その回路構成からみて明らかである。また、トランス13における第1のインダクタンス手段と第2のインダクタンス手段とが互いに逆向きの電圧を誘起する様に磁気結合されていることも、その回路構成からみて明らかである。さらに、端子15,16間に直流電圧を供給する直流電源が接続されることも明らかである。
よって、これらの記載によれば、引用例1には、「第1の電界効果型トランジスタ(28)のゲート端子、ソース端子及びドレイン端子を制御端子ct1、主端子mt1a及び主端子mt1bと呼び、第2の電界効果トランジスタ(29)のゲート端子、ソース端子及びドレイン端子を制御端子ct2、主端子mt2a及び主端子mt2bと呼ぶとしたときに、
そして、前者の駆動信号入力用に制御端子ct1と主端子mt1aが対を成し、後者の駆動信号入力用に制御端子ct2と主端子mt2aが対を成し、制御端子ct1・主端子mt1a間と制御端子ct2・主端子mt2a間の順バイアス電圧極性が同じであるとしたときに、
「前記第1、第2の電界効果型トランジスタ」と、
「直流電圧を供給する直流電源手段」と、
「主端子mt1b側に接続され、前記直流電源手段の両電源端子間に主端子mt1b・主端子mt1a間部分と共に直列接続される第1のインダクタンス手段」と、
「主端子mt2b側に接続され、前記直流電源手段の両電源端子間に主端子mt2b・主端子mt2a間部分と共に直列接続され、互いに逆向きの電圧を誘起する様に前記第1のインダクタンス手段と磁気結合される第2のインダクタンス手段」と、
「前記第1の電界効果型トランジスタのドレイン電流が流れる電流経路中に設けられた抵抗器(17)及び第1のゼナダイオード(33)を備え、前記第1の電界効果型トランジスタのドレイン電流を検出し、そのドレイン電流が第1の所定値に達したら前記第1の電界効果型トランジスタをオフ方向へ駆動してそのドレイン電流の大きさの最大値を制限する第1のドレイン電流検出制限手段」と、
「前記第2の電界効果型トランジスタのドレイン電流が流れる電流経路中に設けられた抵抗器(17)及び第2のゼナダイオード(34)を備え、前記第2の電界効果型トランジスタのドレイン電流を検出し、そのドレイン電流が第2の所定値に達したら前記第2の電界効果型トランジスタをオフ方向へ駆動してそのドレイン電流の大きさの最大値を制限する第2のドレイン電流検出制限手段」を有し、
主端子mt2b・制御端子ct1間をコンデンサ及び抵抗の並列回路と抵抗との直列回路である第1の正帰還手段で接続し、
主端子mt1b・制御端子ct2間をコンデンサ及び抵抗の並列回路と抵抗との直列回路である第2の正帰還手段で接続したインバータ。」が開示されているものと認めることができる。
同じく、当審において通知した拒絶の理由に引用した本願出願前に頒布された実願昭54-126662号(実開昭56-44595号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という)には、「従って、トランスT1の飽和時に生じる、トランジスタのコレクタ電流のピーク値は、トランスT1が飽和していない時点におけるコレクタ電流の数倍にも達することがある。 ・・・(中略)・・・ 第2図の動作波形から明らかなように、ピーク電流の発生時に大きなコレクタ損失を生じることと、この時トランスは飽和しているので二次巻線Nsには出力が伝達されず回路の効率も低下する。 ・・・(中略)・・・ この考案は、このような問題点を除去するもので、その特徴とするところは、トランジスタのエミッタ電流、またはコレクタ電流を検出して、予め定められた値を越えようとしたらベース電流を制限して、ピーク電流の発生を制限するようにしたインバータ回路を提案するものである。」(3頁15行乃至4頁16行)、「第5図は、この考案の他の実施例を示したもので、抵抗R4とR5およびトランジスタTR3とTR4がピーク電流制限回路を構成する。トランジスタTR3とTR4のベース・エミッタ間電圧を各々VBE3,VBE4とすればエミッタ電流ie1とie2が、各iep1'とiep2'に達したとき、トランジスタTR3またはTR4が導通してベース電流を分流させるためエミッタ電流はそれ以上増加できなくなる。」(6頁5行乃至13行)及び「この考案は、以上述べたようにインバータ用トランジスタのコレクタ電流のピーク値を回路的に拘束できるため、トランジスタのパラメータの偏差を考慮したベース電流を供給してトランジスタを充分な導通状態に置くことができるとともに、それによって生じるコレクタ・ピーク電流を効果的に制限できて、トランジスタのスイッチング損失およびSOA(安全動作領域)責務を低減させることができる。」(7頁1行乃至9行)との記載並びに第5図の記載がされている。
同じく、当審において通知した拒絶の理由に引用した本願出願前に頒布された特開昭56-3576号公報(以下、「引用例3」という。)には、「しかして本発明においては主スイッチ(3)のドレイン電流(ソース電流と同一値)により抵抗(11)の両端に第2図の波形Bと相似形の電圧が発生し、該電圧がトランジスタ(10)のベース電流を流し得る値に達するとトランジスタ(10)が導通して主スイッチ(3)を遮断する。従来の実施例で説明したすべての変動要因に対するドレイン電流の尖頭値の変化の最小尖頭値以下になるように第3図の抵抗(11)の値を設定すれば本発明によるリンギングチョークコンバータは入力電源(1)の端子電圧の変化、主スイッチ(3)の動作特性の変化等に無関係に主スイッチ(3)が遮断時のドレイン電流の尖頭値を一定に保てることは明らかである。 叙上のように構成された本発明による第1の利点は主スイッチ(3)に流れるドレイン電流の尖頭値を電流検出の設定値で一義的に決るため、従来過剰に流れていたドレイン電流が除去され主スイッチ(3)の電力損失が小さく、大電流用トランジスタを主スイッチ(3)に用いる必要がないため安価なトランジスタが適用できることである。 ・・・(中略)・・・ 本発明による主スイッチはドレイン電流が一定値に達すると該主スイッチのゲート・ソース間を強制的に短絡する強制遮断動作をおこなうため高速なスイッチング特性が得られ該主スイッチのスイッチング損失が低減する効果がある。」(2頁右下欄10行乃至3頁左上欄18行)との記載がされている。

【3】対比・判断
[請求項1に係る発明について]
本願請求項1に係る発明と引用例1に記載されたものとを対比するに、その技術的意味を考慮すると、引用例1に記載の「第1の電界効果型トランジスタ」、「ゲート端子」、「ソース端子及びドレイン端子」、「第2の電界効果型トランジスタ」、「ドレイン電流」、「第1のドレイン電流検出制限手段」、「第2のドレイン電流検出制限手段」及び「インバータ」はそれぞれ本願請求項1に係る発明の「ノーマリィ・オフで電圧駆動型の第1のスイッチング手段」、「制御端子」、「両主端子」、「ノーマリィ・オフで電圧駆動型の第2のスイッチング手段」、「主電流」、「第1の主電流検出制限手段」、「第2の主電流検出制限手段」及び「電力変換回路」に相当する。
そうすると、両者は「ノーマリィ・オフで電圧駆動型の第1のスイッチング手段の制御端子と両主端子を制御端子ct1、主端子mt1a及び主端子mt1bと呼び、ノーマリィ・オフで電圧駆動型の第2のスイッチング手段の制御端子と両主端子を制御端子ct2、主端子mt2a及び主端子mt2bと呼ぶとしたときに、
そして、前者の駆動信号入力用に制御端子ct1と主端子mt1aが対を成し、後者の駆動信号入力用に制御端子ct2と主端子mt2aが対を成し、制御端子ct1・主端子mt1a間と制御端子ct2・主端子mt2a間の順バイアス電圧極性が同じであるとしたときに、
「前記第1、第2のスイッチング手段」と、
「直流電圧を供給する直流電源手段」と、
「主端子mt1b側に接続され、前記直流電源手段の両電源端子間に主端子mt1b・主端子mt1a間部分と共に直列接続される第1のインダクタンス手段」と、
「主端子mt2b側に接続され、前記直流電源手段の両電源端子間に主端子mt2b・主端子mt2a間部分と共に直列接続され、互いに逆向きの電圧を誘起する様に前記第1のインダクタンス手段と磁気結合される第2のインダクタンス手段」と、
「前記第1のスイッチング手段の主電流を検出し、その主電流が第1の所定値に達したら前記第1のスイッチング手段をオフ方向へ駆動してその主電流の大きさの最大値を制限する第1の主電流検出制限手段」と、
「前記第2のスイッチング手段の主電流を検出し、その主電流が第2の所定値に達したら前記第2のスイッチング手段をオフ方向へ駆動してその主電流の大きさの最大値を制限する第2の主電流検出制限手段」を有した電力変換回路。」である点で一致し、次の点で相違しているものと認められる。
<相違点>
主端子mt2b・制御端子ct1間及び主端子mt1b・制御端子ct2間を、本願請求項1に係る発明が直結するか又は「電流制限機能を持ち、電圧と電流が同位相となる電流制限手段」のみで接続しているのに対して、引用例1に記載のものはコンデンサ及び抵抗の並列回路と抵抗との直列回路である正帰還手段で接続している点。
前記相違点について検討する。
自己発振式の電力変換回路において、正帰還手段を「電流制限機能を持ち、電圧と電流が同位相となる電流制限手段」である抵抗のみとしたものは周知(必要とあれば、特開昭50-731号公報、審判請求人が平成12年5月15日付けの上申書において提示した甲第1号証(特開昭49-39026号公報の第2図)、同じく甲第6号証(清水和男、「続安定化電源回路の設計」、第9版、CQ出版株式会社、昭和57年11月1日発行、193頁23行乃至29行及び195頁23行乃至29行の記載並びに195頁の図4.57)及び特開昭61-26471号公報等を参照。)であるから、引用例1に記載のものにおいて、主端子mt2b・制御端子ct1間及び主端子mt1b・制御端子ct2間を、電流制限機能を持ち、電圧と電流が同位相となる電流制限手段のみで接続すること、すなわち、本願請求項1に係る発明の前記相違点に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして、本願請求項1に係る発明が奏する「この様に前記第1、第2のスイッチング手段の各ターン・オフが速いので、それぞれに過剰電流が流れずに済む上に、各オン・オフ状態の切換わりが速やかになるので、前記第1、第2のスイッチング手段が同時オンである期間は大幅に減る。従って、第15図の回路などに比べて『無負荷時を含め消費電流を少なくすることができる』という効果」(平成12年8月15日付け手続補正書15頁5行乃至9行)については、引用例1に記載のものにおいても、本願請求項1に係る発明と同じく第1,第2の主電流検出制限手段を備えており、同様の効果を奏し得るものと認められるから、当業者が予測し得る範囲のものである。
また、本願請求項1に係る発明が前記相違点に係る構成を採用したことにより奏する「部品点数が少なくなる」との効果(平成10年6月22日付け意見書の2頁2行乃至10行及び平成11年5月17日付け審判理由補充書の2頁24行乃至3頁2行)についても、前記周知事項において正帰還手段の部品点数は少ないのであるから、当業者が予測し得る範囲のものである。
したがって、本願請求項1に係る発明は、前記引用例1に記載の事項及び前記周知事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
[請求項3に係る発明について]
本願請求項3に係る発明と引用例1に記載されたものとを対比するに、その技術的意味を考慮すると、引用例1に記載の「第1の電界効果型トランジスタ」、「ゲート端子」、「ソース端子及びドレイン端子」、「第2の電界効果型トランジスタ」、「ドレイン電流」及び「インバータ」はそれぞれ本願請求項1に係る発明の「ノーマリィ・オフで電圧駆動型の第1のスイッチング手段」、「制御端子」、「両主端子」、「ノーマリィ・オフで電圧駆動型の第2のスイッチング手段」、「主電流」及び「電力変換回路」に相当する。
また、引用例1に記載の各「ドレイン電流検出制限手段」は、スイッチング手段の主電流の大きさの最大値を制限する主電流検出制限手段を構成しているものといえる。
そうすると、両者は「ノーマリィ・オフで電圧駆動型の第1のスイッチング手段の制御端子と両主端子を制御端子ct1、主端子mt1a及び主端子mt1bと呼び、ノーマリィ・オフで電圧駆動型の第2のスイッチング手段の制御端子と両主端子を制御端子ct2、主端子mt2a及び主端子mt2bと呼ぶとしたときに、
そして、前者の駆動信号入力用に制御端子ct1と主端子mt1aが対を成し、後者の駆動信号入力用に制御端子ct2と主端子mt2aが対を成し、制御端子ct1・主端子mt1a間と制御端子ct2・主端子mt2a間の順バイアス電圧極性が同じであるとしたときに、
「前記第1、第2のスイッチング手段」と、
「直流電圧を供給する直流電源手段」と、
「主端子mt1b側に接続され、前記直流電源手段の両電源端子間に主端子mt1b・主端子mt1a間部分と共に直列接続される第1のインダクタンス手段」と、
「主端子mt2b側に接続され、前記直流電源手段の両電源端子間に主端子mt2b・主端子mt2a間部分と共に直列接続され、互いに逆向きの電圧を誘起する様に前記第1のインダクタンス手段と磁気結合される第2のインダクタンス手段」と、
「前記第1のスイッチング手段の主電流の大きさの最大値を制限する第1の主電流検出制限手段」と、
「前記第2のスイッチング手段の主電流の大きさの最大値を制限する第2の主電流検出制限手段」を有し、
主端子mt2b・制御端子ct1間を第1の正帰還手段で接続し、
主端子mtlb・制御端子ct2間を第2の正帰還手段で接続した電力変換回路。」である点で一致し、次の点で相違しているものと認められる。
<相違点>
前記第1、第2のスイッチング手段の主電流の大きさの最大値を制限するのに、本願請求項3に係る発明が、「前記第1のスイッチング手段の主電流が流れる電流経路中にその主電流検出用に設けられた第1の抵抗手段と、第3のスイッチング手段のオン・オフしきい値電圧を利用して前記第1の抵抗手段の電圧降下を検出し、その電圧降下が第1の所定電圧値に達したら前記第3のスイッチング手段の出力信号に基づいて前記第1のスイッチング手段をオフ方向へ駆動してその主電流の大きさの最大値を制限する第1の主電流検出制限手段と、前記第2のスイッチング手段の主電流が流れる電流経路中にその主電流検出用に設けられた第2の抵抗手段と、第4のスイッチング手段のオン・オフしきい値電圧を利用して前記第2の抵抗手段の電圧降下を検出し、その電圧降下が第2の所定電圧値に達したら前記第4のスイッチング手段の出力信号に基づいて前記第2のスイッチング手段をオフ方向へ駆動してその主電流の大きさの最大値を制限する第2の主電流検出制限手段」を有しているのに対して、引用例1に記載のものは、スイッチング手段の主電流が流れる電流経路中にその主電流検出用に設けられた抵抗手段とゼナダイオードを備えた第1、第2のドレイン電流検出制限手段を有するものであって、そのような構成を有していない点。
前記相違点について検討する。
自己発振式プッシュ・プル型の電力変換回路において、スイッチング損失を低減するため、発振用の第1のスイッチング手段の主電流が流れる電流経路中にその主電流検出用に設けられた第1の抵抗手段と、検出用の第3のスイッチング手段のオン・オフしきい値電圧を利用して前記第1の抵抗手段の電圧降下を検出し、その電圧降下が第1の所定電圧値に達したら前記第3のスイッチング手段の出力信号に基づいて前記第1のスイッチング手段をオフ方向へ駆動してその主電流の大きさの最大値を制限する第1の主電流検出制限手段と、発振用の第2のスイッチング手段の主電流が流れる電流経路中にその主電流検出用に設けられた第2の抵抗手段と、検出用の第4のスイッチング手段のオン・オフしきい値電圧を利用して前記第2の抵抗手段の電圧降下を検出し、その電圧降下が第2の所定電圧値に達したら前記第4のスイッチング手段の出力信号に基づいて前記第2のスイッチング手段をオフ方向へ駆動してその主電流の大きさの最大値を制限する第2の主電流検出制限手段を設けることが、引用例2に開示されている。
また、ノーマリィ・オフで電圧駆動型の発振用のスイッチング手段を有する電力変換回路において、同じくスイッチング損失を低減するため、前記発振用のスイッチング手段の主電流が流れる電流経路中にその主電流検出用に設けられた抵抗手段と、検出用のスイッチング手段のオン・オフしきい値電圧を利用して前記抵抗手段の電圧降下を検出し、その電圧降下が所定電圧値に達したら前記検出用のスイッチング手段の出力信号に基づいて前記発振用のスイッチング手段をオフ方向へ駆動してその主電流の大きさの最大値を制限する主電流検出制限手段を設けることが引用例3に開示されている。
してみれば、引用例1に記載のものにおける第1、第2のドレイン電流検出制限手段を、本願請求項3に係る発明の前記相違点に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして、本願請求項3に係る発明が奏する「第1、第2のスイッチング手段は同時にオンされ難くなり、消費電流を少なくすることができる。」旨の効果(平成12年8月15日付け手続補正書16頁16行乃至末行)については、前記引用例1乃至3に記載の事項から当業者が予測し得る範囲のものである。
したがって、本願請求項3に係る発明は、前記引用例1乃至3に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

【4】むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明及び請求項3に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、その余の請求項2及び4に係る発明について判断するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-03-30 
結審通知日 2001-04-10 
審決日 2001-04-26 
出願番号 特願平1-112845
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新宮 佳典手島 聖治  
特許庁審判長 大森 蔵人
特許庁審判官 川端 修
槙原 進
発明の名称 電力変換回路  

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