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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1105628
審判番号 不服2001-18700  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-03-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-10-18 
確定日 2004-10-28 
事件の表示 平成11年特許願第240190号「半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月21日出願公開、特開2000- 82821〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成7年8月4日(優先日平成7年7月3日)に出願された特願平7-199980号の一部を、平成11年8月26日に新たな特許出願としたものであって、平成13年8月31日付けで拒絶査定がなされ、平成13年10月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月7日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成13年11月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について
[補正却下の決定の結論]
平成13年11月7日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1ないし請求項8は、以下のとおり請求項1ないし請求項4と補正された。
「基板上にSiO2又はSiNの少なくとも一方のみからなる絶縁膜を形成する工程と、
この絶縁膜の上に非晶質シリコン膜を形成する工程と、
この非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する工程と、
前記多結晶シリコン膜に、不純物領域を形成する工程と、
前記不純物領域を、ランプを熱源として急速加熱することにより活性化する工程とを含み、
前記非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する工程は、シート状に加工されたレーザービームを前記非晶質シリコン膜に照射することにより行い、
前記ランプを熱源として急速加熱することにより不純物領域を活性化する工程は、RTA(Rapid Thermal Annealing)法を用いて急速加熱することにより行うとともに、シート状のアニール光を発するランプ光源を用い、かつ、前記ランプとして、キセノンアークランプを用いることを特徴とした、半導体装置の製造方法。」(以下、「補正発明1」という。)
「前記絶縁膜の厚みを1000Å〜6000Åの範囲に設定したことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。」(以下、「補正発明2」という。)
「前記RTAを複数回に分けて行うことを特徴とした請求項1に記載の半導体装置の製造方法。」(以下、「補正発明3」という。)
「前記複数回のRTAの温度を、段階的に上昇させることを特徴とした請求項3に記載の半導体装置の製造方法。」(以下、「補正発明4」という。)

上記補正は、平成12年10月16日付けで補正された特許請求の範囲請求項1(以下、「補正前請求項1」という。)に記載された
「基板上にAl元素を含まない絶縁膜のみを形成する工程と、
この絶縁膜の上に非晶質シリコン膜を形成する工程と、
この非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する工程と、
前記多結晶シリコン膜に、不純物領域を形成する工程と、
前記不純物領域を、ランプを熱源として急速加熱することにより活性化する工程と、
を含むことを特徴とした半導体装置の製造方法。」
を補正するものであるところ、
補正前請求項1の、
(1)「基板上にAl元素を含まない絶縁膜のみを形成する工程」と、
(2)「と、を含むことを特徴とした」とについて、それぞれ、
(1’)「基板上にSiO2又はSiNの少なくとも一方のみからなる絶縁膜を形成する工程」と、
(2’)「とを含み、
前記非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する工程は、シート状に加工されたレーザービームを前記非晶質シリコン膜に照射することにより行い、
前記ランプを熱源として急速加熱することにより不純物領域を活性化する工程は、RTA(Rapid Thermal Annealing)法を用いて急速加熱することにより行うとともに、シート状のアニール光を発するランプ光源を用い、かつ、前記ランプとして、キセノンアークランプを用いることを特徴とした、」と補正するとともに、平成12年10月16日付けで補正された特許請求の範囲の請求項3ないし請求項6を削除し、その請求項7及び8(以下、「補正前請求項7」及び「補正前請求項8」という。)に記載された
「【請求項7】前記RTAを複数回に分けて行うことを特徴とした請求項4に記載の半導体装置の製造方法。」(補正前請求項7)
「【請求項8】前記複数回のRTAの温度を、段階的に上昇させることを特徴とした請求項7に記載の半導体装置の製造方法。」(補正前請求項8)について、それぞれ、
「【請求項3】前記RTAを複数回に分けて行うことを特徴とした請求項1に記載の半導体装置の製造方法。」及び、
「【請求項4】前記複数回のRTAの温度を、段階的に上昇させることを特徴とした請求項3に記載の半導体装置の製造方法。」と補正するものである。

(2)本件補正についての検討
(2-1)新規事項の有無及び補正の目的の適否について
本件補正は、特許請求の範囲について、請求項1ないし請求項4と補正し、発明の詳細な説明の段落(0020)、(0022)ないし(0027)を補正するものである。

請求項1に係る発明の補正は、特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項である「Al元素を含まない絶縁膜のみ」について、「SiO2又はSiNの少なくとも一方のみからなる絶縁膜」と技術的に限定するものであって、また、特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項である「この非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する工程」について、「前記非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する工程は、シート状に加工されたレーザービームを前記非晶質シリコン膜に照射することにより行い」なる技術的限定を付加し、特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項である「前記不純物領域を、ランプを熱源として急速加熱することにより活性化する工程」について、「前記ランプを熱源として急速加熱することにより不純物領域を活性化する工程は、RTA(Rapid Thermal Annealing)法を用いて急速加熱することにより行うとともに、シート状のアニール光を発するランプ光源を用い、かつ、前記ランプとして、キセノンアークランプを用いる」なる技術的限定を付加したものであって、かつ、これらの技術的事項は特許法第17条の2第3項の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内におけるものであって、同法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、請求項3ないし請求項6の削除は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、補正前請求項7と補正前請求項8については、請求項の削除に伴い請求項の番号を変更するとともに、引用する請求項の番号を変更するものであるから、特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、かつ、特許法第17条の2第3項の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内におけるものでもある。
さらに、発明の詳細な説明の上記段落の補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面の記載から自明の事項の範囲内におけるものであるから、特許法第17条の2第3項の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内におけるものである。

(2-2)独立特許要件について
本件補正後のその請求項1ないし4に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲に記載された事項により特定される、「2.(1)本件補正の内容」に記載したとおりのものである。

(2-3)刊行物に記載された発明
刊行物1:特開平6-267982号公報
前審の拒絶の理由に引用された刊行物1には、図1とともに、以下の事項が記載されている。
「半導体上に絶縁被膜を介して陽極酸化可能な材料によって構成された配線を形成する第1の工程と、
前記配線表面を陽極酸化する第2の工程と、
陽極酸化後に前記配線部、もしくは、前記配線部により画定された部位を実質的なマスクとして、自己整合的に半導体中に不純物を導入する第3の工程と、
不純物領域と活性領域の境界またはその近傍が光照射に対して実質的に透明な状態として、上面よりレーザーもしくはそれと同等な強光を照射することによって、不純物の導入された領域の結晶性を改善せしめる第4の工程とを有することを特徴とするMIS型半導体装置の作製方法。」(特許請求の範囲請求項1)
「【0010】
【問題を解決するための手段】本発明は、レーザーもしくはフラッシュランプ等の強力な光源より発せられる光エネルギーを上面より不純物領域に照射してこれを活性化せしめる際に、不純物領域のみでなくそれに隣接する活性領域の一部、特に不純物領域と活性領域の境界部分にも光エネルギーを照射するものであり、かかる目的を遂行するために不純物導入の前もしくは後に、ゲイト電極部を構成する材料の一部を除去することによって、該境界部を照射される光に対して実質的に透明な状態とすることを特徴とする。」(第10段落)
「【0014】さらに、本発明において用いられる光エネルギーの源泉(ソース)としては、KrFレーザー(波長248nm)、XeClレーザー(308nm)、ArFレーザー(193nm)、XeFレーザー(353nm)等のエキシマーレーザーや、Nd:YAGレーザー(1064nm)およびその第2、第3、第4高調波、炭酸ガスレーザー、アルゴンイオンレーザー、銅蒸気レーザー等のコヒーレント光源、およびキセノンフラッシュランプ、クリプトンアークランプ、ハロゲンランプ等の非コヒーレント光源が適している。」(第14段落)
「【0017】
【実施例】
〔実施例1〕 図1に本実施例を示す。本実施例は絶縁基板上に薄膜トランジスタを形成するものである。基板101は、ガラス基板で、例えば、コーニング7059等の無アルカリガラス基板や石英基板等を使用できる。コストを考慮して、ここではコーニング7059基板を用いた。これに下地の酸化膜として酸化珪素膜102を堆積した。酸化珪素膜の堆積方法は、例えば、スパッタ法や化学的気相成長法(CVD法)を使用できる。ここでは、TEOS(テトラ・エトキシ・シラン)と酸素を材料ガスとして用いて、プラズマCVD法によって成膜をおこなった。基板温度は200〜400℃とした。この下地酸化珪素膜の厚さは、500〜2000Åとした。
【0018】次いで、アモルファスシリコン膜を堆積し、これを島状にパターニングした。アモルファスシリコン膜の堆積方法としてはプラズマCVD法や減圧CVD法が用いられる。ここでは、モノシラン(SiH4 )を材料ガスとして、プラズマCVD法によってアモルファスシリコン膜を堆積した。このアモルファスシリコン膜の厚さは200〜700Åとした。そして、これにレーザー光(KrFレーザー、波長248nm、パルス幅20nsec)を照射した。レーザー照射前には基板を真空中で0.1〜3時間、300〜550℃に加熱して、アモルファスシリコン膜に含有されている水素を放出させた。レーザーのエネルギー密度は250〜450mJ/cm2 とした。また、レーザー照射時には、基板を250〜550℃に加熱した。この結果、アモルファスシリコン膜は結晶化し、結晶性シリコン膜となった。 【0019】次いで、ゲイト絶縁膜として機能する酸化珪素膜104を厚さ800〜1200Å形成した。ここではその作製方法は下地酸化珪素膜102と同じ方法を採用した。さらに、陽極酸化可能な材料、例えば、アルミニウム、タンタル、チタン等の金属、シリコン等の半導体、窒化タンタル、窒化チタン等の導電性金属窒化物を用いてゲイト電極105を形成した。ここではタンタルを使用し、その厚さは2000〜10000Åとした。(図1(A))
【0020】その後、ゲイト電極を陽極酸化し、その表面に厚さ1500〜2500Åの陽極酸化物(第1の陽極酸化物)106を形成した。陽極酸化は、1〜5%のクエン酸のエチレングリコール溶液中に基板を浸し、全てのゲイト配線を統合して、これを正極とし、一方、白金を負極として、印加する電圧を1〜5V/分で昇圧することによっておこなった。さらに、プラズマドーピング法によって、ボロン(B)もしくは燐(P)のイオンを照射して不純物領域107を形成した。イオンの加速エネルギーはゲイト絶縁膜104の厚さによって変更されるが、典型的にはゲイト絶縁膜が1000Åの場合には、ボロンでは50〜65keV、燐では60〜80keVが適していた。また、ドーズ量は2×1014cm-2〜6×1015cm-2が適していたが、ドーズ量が低いほど信頼性の高い素子が得られることが明らかになった。このように陽極酸化物が存在する状態で不純物の導入をおこなった結果、ゲイト電極(タンタル)と不純物領域はオフセットの状態となった。なお、図で示した不純物領域の範囲は名目的なもので、実際にはイオンの散乱等によって回り込みがあることはいうまでもない。(図1(B))
【0021】さて、不純物ドーピングが終了した後、第1の陽極酸化物106のみをエッチングした。エッチングは、四フッ化炭素(CF4 )と酸素のプラズマ雰囲気中でおこなった。四フッ化炭素(CF4 )と酸素の比率(流量比)は、CF4 /O2 =3〜10とした。このような条件ではタンタルの陽極酸化物である五酸化二タンタルはエッチングされるが、酸化珪素はエッチングされない。このようにして、ゲイト配線105およびゲイト絶縁膜である酸化珪素膜104をエッチングすることなく、陽極酸化物106のみをエッチングすることができた。その結果、図1(C)に示すように不純物領域107とそれにはさまれた活性領域の境界(xと指示)が現れた。そして、このような状態でレーザー照射によって不純物領域の活性化をおこなった。レーザーはKrFエキシマーレーザー(波長248nm、パルス幅20nsec)を使用し、レーザーのエネルギー密度は250〜450mJ/cm2 とした。また、レーザー照射時には、基板を250〜550℃に加熱すると、より効果的に活性化できた。典型的には、燐がドープされたものでドーズ量が1×1015cm-2、基板温度250℃、レーザーエネルギー300mJ/cm2 で500〜1000Ω/□のシート抵抗が得られた。」
(第17段落〜第21段落)

よって、引用文献1には、
「基板上に酸化珪素膜を堆積する工程と、
前記酸化珪素膜上にアモルファスシリコン膜を堆積する工程と、
前記アモルファスシリコン膜にレーザ光を照射して、結晶性シリコン膜とする工程と、
前記結晶性シリコン膜に不純物を導入して不純物領域を形成する工程と、
前記不純物領域にレーザー照射することにより不純物領域の活性化を行なう工程を備えたMIS型半導体装置の作製方法。」
が記載されている。

刊行物2:特開平2-194626号公報
第1図から第3図とともに、以下の記載がなされている。
「半導体薄膜のうちのソース・ドレイン領域とすべき部分に不純物を導入し熱処理を行う薄膜トランジスタの製造方法において、
短波長アークランプの光線を照射することによって前記熱処理を行う様にした薄膜トランジスタの製造方法。」(特許請求の範囲請求項1)
「本実施例は、ソース・ドレイン領域15、16形成用の不純物をイオン注入した後の熱処理を、キセノンアークランプ(キセノンガスを封入した水冷式の紫外線カットフィルタ付アークランプ)の光線を照射することによって行うことを除いて、既述の従来例と実質的に同様の工程を有している。・・・3秒程度以下の短時間で1200℃程度の高温の熱処理を行うことができる。
この様に短時間で熱処理を行うことができるので、本実施例によって製造した薄膜トランジスタでは、第2図に示す様に、ソース・ドレイン領域15、16とすべき部分へイオン注入した不純物のゲート電極14下への再分布が少ない。」(第2頁右下欄第1行〜第20行)

刊行物3:特開平3-286518号公報
第2図とともに、以下の事項が記載されている。
「基板上に半導体薄膜を堆積し、この半導体薄膜に高出力エネルギービームを連続的に照射し、上記薄膜の結晶粒径拡大若しくは単結晶化をはかる半導体薄膜結晶層の製造方法において、上記ビームの形状を板状に変形して、ビームを走査すると同時に半導体薄膜にビームを照射することを特徴とする半導体薄膜結晶層の製造方法。」(特許請求の範囲請求項1)

刊行物4:特開平6-260502号公報
図2,図3及び図18とともに以下の事項が記載されている。
「【0014】まず、図18(b)のようにガラス基板GLS上に減圧化学気相成長法で非晶質シリコン薄膜SLRを形成し、図18(c)のように1回目のKrFエキシマレーザFLSを270mJcm-2の強度で、図17の方法で照射して多結晶シリコンFPLを形成し、次に図18(d)に示すように2回目のKrFエキシマレーザSLSを450mJcm-2の強度で照射して1回目に形成した多結晶シリコン薄膜FPLよりも大きな粒径の多結晶シリコン薄膜SPLになる。」(第14段落)
「【0018】
【課題を解決するための手段】1枚の基板上に、表示領域の素子を駆動する駆動回路を内蔵するアクティブマトリクス基板を複数個製造する工程において、基板上にシリコン薄膜を形成する工程と、シリコン薄膜のパターニング前、あるいはパターニング後にエネルギービームの照射領域と非照射領域の境界が駆動回路と表示領域に掛からないように、一枚の基板上の個々のアクティブマトリクス基板の駆動回路と表示領域の全領域、あるいは表示領域、駆動回路形成領域の各領域を一括してエネルギービ-ムを照射することによりシリコン薄膜を結晶化する工程を含むことを特徴とするアクティブマトリクス基板の製造方法。」(第18段落)
「【0023】モノシランガスを反応ガスに用いた減圧化学気相成長法の基板温度550℃でシリコン薄膜SLRが形成された場合には、180mJcm-2から270mJcm-2の強度で真空中あるいは不活性ガス雰囲気、大気中でXeClエキシマレーザLSRを照射すればよく、この結果、シリコン薄膜SLRは、粒径が200nm〜500nmの結晶で構成された多結晶シリコン薄膜になる。シリコン薄膜の結晶化に用いるレーザはXeClエキシマレーザばかりでなく、ArF、KrF、F2エキシマレーザやYAGレーザでもよい。凸レンズや凹レンズや蒲鉾型のレンズの組み合わせによる光学系にレーザビームを透過することにより、このエキシマレーザビームは強度95%以上のエネルギー均一性が±5%以下である領域が18.5mmある空間的なエネルギー分布を持つ。」(第23段落)
「【0026】図2に示すように、信号側駆動回路XCRと走査側駆動回路YCRと表示領域DSSで構成されたアクティブマトリクス基板を図2(a)に示すように、基板をセットしてあるステージを走査しながら順次アニールし、図2(b)に示すように基板上の全てのアクティブマトリクス基板形成領域のシリコン層を多結晶シリコン層にする。
【0027】図3は、アクティブマトリクス基板にエキシマレーザビームを照射する斜視図を示している。エキシマレーザビームLSBの照射領域RLRの中に、アクティブマトリクス基板の信号側駆動回路XDRと走査側駆動回路YDRと表示領域DSSが入っている。エキシマレーザビームLSBの境界は、個々のアクティブマトリクス基板の切断線DCLにある。」(第26及び27段落)

刊行物5:特開平6-97102号公報
図1とともに以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】一般に、アモルファスシリコン膜を再結晶化させる一つの手段としてレーザアニールがある。これによると、チャネル層となるSi膜を非晶質状態でガラス基板上に堆積した後、レーザ光を照射してこのSi膜を多結晶に改質することで、電子の移動度を高くすることができる。」(第2段落)
「【0004】エキシマレーザでアニールする場合、通常、およそ0.2J/cm2の強度でレーザ光を照射する必要がある。これに対して、一般に市販されている放電励起のエキシマレーザでは、通常数J程度までのレーザ出力が得られるため、パルス光1発の照射で、最大数cm角の部分をアニールできる。そのため、数十cm四方の大きさであるSi基板の全面をアニールするためには、パルスごとに照射位置を変えて、複数発レーザ光を照射する必要があった。」(第4段落)
「【0013】本発明の目的は以上に説明した問題を解決することにあり、エキシマレーザを用いずに、数十cm四方の大きさのSi基板の全面に対して、レーザ光を1パルス照射するだけで良質なアニールができる方法を提供し、さらに均一な強度分布を有するレーザ光を効率良く発生できる色素レーザを提供することにある。」(第13段落)

(2-4)対比・判断
補正発明1と刊行物1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)とを対比する。
引用発明の、「酸化珪素膜」、「アモルファスシリコン膜」及び、「MIS型半導体装置」はそれぞれ、
補正発明1の、「SiO2からなる絶縁膜」、「非晶質シリコン膜」及び、「半導体装置」に対応する。
また、引用発明の酸化珪素膜、アモルファスシリコン膜等の薄膜を「堆積する」工程と、補正発明1の絶縁膜、非晶質シリコン膜等の薄膜を「形成する」工程は実質的に同一であることは当業者に明らかである。
さらに、引用発明の、前記「シリコン膜に不純物を導入して不純物領域を形成する工程」は、補正発明1の前記「シリコン膜に、不純物領域を形成する工程」に相当する。
よって、両者は、
「基板上にSiO2又はSiNの少なくとも一方のみからなる絶縁膜を形成する工程と、
この絶縁膜の上に非晶質シリコン膜を形成する工程と、
この非晶質シリコン膜をレーザーアニールしてシリコン膜を形成する工程と、
前記シリコン膜に、不純物領域を形成する工程と、
前記不純物領域を活性化する工程とを含むことを特徴とした、半導体装置の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
補正発明1においては、「この非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する工程」を備えるのに対して、
引用発明においては、「前記アモルファスシリコン膜にレーザ光を照射して、結晶性シリコン膜とする工程」を備えた点。
相違点2
補正発明1においては、「前記不純物領域を、ランプを熱源として急速加熱することにより活性化する工程とを含」むのに対して、
引用発明においては、「前記不純物領域にレーザー照射することにより不純物領域の活性化を行なう工程を備え」た点。
相違点3
補正発明1においては、「前記非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する工程は、シート状に加工されたレーザービームを前記非晶質シリコン膜に照射することにより行」うのに対して、
引用発明では、「前記アモルファスシリコン膜にレーザ光を照射して、結晶性シリコン膜とする工程」を備えた点。
相違点4
補正発明1においては、「前記ランプを熱源として急速加熱することにより不純物領域を活性化する工程は、RTA(Rapid Thermal Annealing)法を用いて急速加熱することにより行うとともに、シート状のアニール光を発するランプ光源を用い、かつ、前記ランプとして、キセノンアークランプを用い」ているのに対して、
引用発明では、上記の点が記載されていない点。

以下、各相違点について検討する。
相違点1について
引用発明の「アモルファスシリコン膜にレーザ光を照射して、結晶性シリコン膜とする」ことは、実質的にアニール処理することであって、アモルファスシリコン膜をアニール処理することにより形成した結晶性シリコン膜に多結晶性シリコン膜が含まれることは明らかであって、また、補正発明1の「多結晶シリコン膜」が「結晶性」のシリコン膜であることは明らかであるから、「結晶性」のシリコン膜の中で「多結晶シリコン膜」を選択することにより、補正発明1の如く、「この非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する」ことは当業者が容易になしえたものである。

相違点2について
刊行物1にも、「本発明は、レーザーもしくはフラッシュランプ等の強力な光源より発せられる光エネルギーを上面より不純物領域に照射してこれを活性化せしめ」ること(第10段落参照)、「本発明において用いられる光エネルギーの源泉(ソース)としては、・・・キセノンフラッシュランプ、クリプトンアークランプ、ハロゲンランプ等の非コヒーレント光源が適している。」(第14段落参照)と記載されており、また、ランプ光源により加熱する場合に、急速加熱を行うことは周知の技術的事項であるから、不純物領域の活性化のために、レーザー照射に代えて、ランプ光源を用いて、補正発明1の如く、「ランプを熱源として急速加熱することにより活性化する」ことは、当業者が何ら困難性無くなしえたものである。

相違点3について
平面上の広がりを持ったレーザビーム(形状が板状のレーザビーム、平面ビーム等)の板状のレーザビームを非晶質シリコン膜に照射して結晶化シリコン膜とすることは従来周知の技術であるから(必要とあらば、刊行物3の特開平3-286518号公報(特に、「基板上に半導体薄膜を堆積し、この半導体薄膜に高出力エネルギービームを連続的に照射し、上記薄膜の結晶粒径拡大・・・をはかる半導体薄膜結晶層の製造方法において、上記ビームの形状を板状に変形して、ビームを走査すると同時に半導体薄膜にビームを照射することを特徴とする半導体薄膜結晶層の製造方法。」(特許請求の範囲請求項1)参照)、刊行物4の特開平6-260502号公報(特に、「このエキシマレーザビームは強度95%以上のエネルギー均一性が±5%以下である領域が18.5mmある空間的なエネルギー分布を持つ。」(第23段落)参照)、及び、刊行物5の特開平6-97102号公報(特に、「放電励起のエキシマレーザでは、通常数J程度までのレーザ出力が得られるため、パルス光1発の照射で、最大数cm角の部分をアニールできる。」(第4段落)、「エキシマレーザを用いずに、数十cm四方の大きさのSi基板の全面に対して、レーザ光を1パルス照射するだけで良質なアニールができる方法を提供すること」(第13段落)参照)を参照されたい。)、アモルファスシリコン膜にレーザ光を照射することによりアニールして結晶性(多結晶)シリコン膜とする工程において、レーザ光として、従来周知の板状(シート状)のレーザ光(ビーム)を用いることは当業者が容易になしえたものである。

相違点4について
刊行物2には、「半導体薄膜のうちのソース・ドレイン領域とすべき部分に不純物を導入し熱処理を行う薄膜トランジスタの製造方法において、短波長アークランプの光線を照射することによって前記熱処理を行う」こと(特許請求の範囲請求項1参照)、「本実施例は、ソース・ドレイン領域15、16形成用の不純物をイオン注入した後の熱処理をキセノンアークランプ(キセノンガスを封入した水冷式の紫外線カットフィルタ付アークランプ)の光線を照射することによって行うこと」(第2頁右下欄第1〜5行参照)、「3秒程度以下の短時間で1200℃程度の高温の熱処理を行うことができる。 この様に短時間で熱処理を行うことができる」こと(第2頁右下欄第14行〜第16行参照)が記載されており、さらに、アークランプによる照射光がシート状であることは当業者に明らかであるから、引用発明の「前記不純物領域にレーザー照射することにより不純物領域の活性化を行なう工程」において、レーザー照射に代えて、刊行物2に記載される如き、キセノンアークランプの光線を照射することにより短時間で熱処理を行う際に、従来周知のシート状のアークランプの光を用いることにより、本願発明の如く、「RTA(Rapid Thermal Annealing)法を用いて急速加熱することにより行うとともに、シート状のアニール光を発するランプ光源を用い、かつ、前記ランプとして、キセノンアークランプを用い」ることは、当業者が、何ら困難性無くなしえたものである。

よって、補正発明1は、上記刊行物1ないし刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(3)むすび
したがって、補正発明1は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。よって、補正発明2ないし補正発明4について検討するまでもなく、適法でない補正を含む本件補正は特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しないものであり、本件補正は特許法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成13年11月7日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし請求項8に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は、平成12年10月16日付け手続補正書により、明細書の、発明の名称、第1段落、第19段落ないし第31段落とともに補正された、特許請求の範囲の請求項1ないし請求項8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】 基板上にAl元素を含まない絶縁膜のみを形成する工程と、
この絶縁膜の上に非晶質シリコン膜を形成する工程と、
この非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する工程と、
前記多結晶シリコン膜に、不純物領域を形成する工程と、
前記不純物領域を、ランプを熱源として急速加熱することにより活性化する工程と、
を含むことを特徴とした半導体装置の製造方法。
【請求項2】 前記絶縁膜の厚みを1000Å〜6000Åの範囲に設定したことを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】 前記非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する工程は、シート状に加工されたレーザービームを前記非晶質シリコン膜に照射することにより行うことを特徴とした請求項1又は2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】 前記ランプを熱源として急速加熱する工程は、RTA(Rapid Thermal Annealing)法を用いて急速加熱する工程であることを特徴とした請求項1乃至3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】 前記ランプを熱源として急速加熱する工程は、シート状のアニール光を発するランプ光源を用いることを特徴とした請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】 前記ランプとして、キセノンアークランプを用いることを特徴とした請求項1乃至5のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】 前記RTAを複数回に分けて行うことを特徴とした請求項4に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】 前記複数回のRTAの温度を、段階的に上昇させることを特徴とした請求項7に記載の半導体装置の製造方法。」

基板上に形成する絶縁膜については、第20段落において、特許請求の範囲請求項1に対応して、
「【0020】
【課題を解決するための手段】請求項1の半導体装置の製造方法は、基板上にAl元素を含まない絶縁膜のみを形成する工程と、この絶縁膜の上に非晶質シリコン膜を形成する工程
と、この非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する工程と、前記多結晶シリコン膜に、不純物領域を形成する工程と、前記不純物領域を、ランプを熱源として急速加熱することにより活性化する工程と、を含むことをその要旨とする。」と補正されている。

4.本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載された事項について
基板上に形成する「絶縁膜」について、当初明細書等には、以下のとおり記載されている。
「【請求項1】 基板上に絶縁膜を形成する工程と、
この絶縁膜の上に非晶質シリコン膜を形成する工程と、
この非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する工程と、
前記多結晶シリコン膜に、不純物領域を形成する工程と、
前記不純物領域をRTA(Rapid Thermal Annealing)法を用いて急速加熱することにより活性化する工程と、
を含むことを特徴とした半導体装置の製造方法。
【請求項2】 基板上に絶縁膜を形成する工程と、
この絶縁膜の上に非晶質シリコン膜を形成する工程と、
この非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する工程と、
前記多結晶シリコン膜に、不純物領域を形成する工程と、
前記不純物領域を、ランプを熱源として急速加熱することにより活性化する工程と、
を含むことを特徴とした半導体装置の製造方法。」(特許請求の範囲請求項1及び2)
「【0020】
【課題を解決するための手段】本発明の第1の局面による半導体装置の製造方法は、基板上に絶縁膜を形成する工程と、この絶縁膜の上に非晶質シリコン膜を形成する工程と、この非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する工程と、前記多結晶シリコン膜に、不純物領域を形成する工程と、前記不純物領域をRTA法を用いて急速加熱することにより活性化する工程と、を含むことをその要旨とする。」(第20段落)
「【0023】
本発明の第2の局面による半導体装置の製造方法は、基板上に絶縁膜を形成する工程と、この絶縁膜の上に非晶質シリコン膜を形成する工程と、この非晶質シリコン膜をレーザーアニールして多結晶シリコン膜を形成する工程と、前記多結晶シリコン膜に、不純物領域を形成する工程と、前記不純物領域を、ランプを熱源として急速加熱することにより活性化する工程と、を含むことをその要旨とする。」(第23段落)
「【0025】
また、基板と非晶質シリコン膜との間には、絶縁膜を形成しているので、非晶質シリコン膜の結晶化や不純物の活性化の熱処理の際に、基板中の不純物が非晶質シリコン膜又は多結晶シリコン膜中に拡散することを防止する。」(第25段落)
「【0033】工程1(図1参照):石英ガラスや無アルカリガラスなどの基板1上に、SiO2やSiNなどの絶縁性薄膜1aをCVD法やスパッタ法などにより形成する。具体的には、基板1としてコーニング社製7059を使用し、その表面上に常圧又は減圧CVD法により、形成温度350℃で、膜厚3000〜5000ÅのSiO2膜を形成する。
【0034】このSiO2膜の膜厚は、後工程の熱処理やビーム照射などで基板1中の不純物がこのSiO2膜を通過して上層へ拡散しない程度の厚みが必要で、1000〜6000Åの範囲が適切で、2000〜6000Åにしたときに拡散防止効果が良好で、その中でも3000〜5000Åの場合がもっとも適している。
【0035】また、絶縁性薄膜1aとしてSiNを用いた場合の膜厚としては、1000〜5000Åの範囲が適切で、2000〜5000Åにしたときに拡散防止効果が良好で、その中でも2000〜3000Åの場合がもっとも適している。」(第33段落〜第35段落)

以上の記載より、当初明細書等には、基板上に形成する「絶縁膜」として、SiO2及びSiNのみが記載されているものと認める。

5.新規事項についての検討
平成12年10月16日付けの手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1及び第20段落には、「基板上にAl元素を含まない絶縁膜のみを形成する工程」が記載されており、その請求項1に係る発明は、「基板上にAl元素を含まない絶縁膜のみを形成する工程」を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法となった。
一方、当初明細書等には、上記4.で検討したとおり、基板上に形成する「絶縁膜」としては、SiO2及びSiNのみが記載されている。
ここで、平成12年10月16日付けで補正された請求の範囲に記載される「Al元素を含まない絶縁膜」には、「SiO2及びSiN」以外の「Al元素を含まない絶縁膜」も含まれるが、「SiO2及びSiN」以外の「Al元素を含まない絶縁膜」は当初明細書等に何ら記載が無くまた、当初明細書等の記載から自明の事項とも認められないから、「基板上にAl元素を含まない絶縁膜のみを形成する工程」を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法は、特許法第17条の2第3項の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内におけるものでない。

よって、平成12年10月16日付けでした手続補正は、願書に最初に添付の明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、本願は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができず、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-08-19 
結審通知日 2004-08-24 
審決日 2004-09-10 
出願番号 特願平11-240190
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 561- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河本 充雄  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 橋本 武
恩田 春香
発明の名称 半導体装置の製造方法  
代理人 宮園 博一  
代理人 芝野 正雅  

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