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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1105874
異議申立番号 異議2003-72429  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-04-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-09-29 
確定日 2004-08-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3392270号「酸素検知剤およびそれを用いたエタノール蒸気発生型脱酸素剤の保存方法ならびに食品の保存方法」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3392270号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3392270号の請求項1ないし9に係る発明の出願は、平成7年9月28日に出願され、平成15年1月24日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
その後、三菱瓦斯化学株式会社により特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年4月23日付けで訂正請求がなされたものである。

II.本件訂正の適否についての検討
平成16年4月23日付け訂正請求書による訂正の適否について以下検討する。
1.訂正の内容
<訂正事項>
特許請求の範囲の記載:
「【請求項1】酸素検知剤組成物をフィルム袋に封入した酸素検知剤であって、前記フィルム袋の少なくとも一部は、厚さ方向に隣接するフィルムの材質が互いに異なり、かつ貫通孔を設けない内面側フィルムと、外面側フィルムとの積層フィルムで構成されていることを特徴とする酸素検知剤。
【請求項2】請求項1記載の酸素検知剤であって、前記積層フィルムは、酸素透過率が500ml/m2・24hr以上、エタノール蒸気透過率が20g/m2・24hr,40℃・50%RH以下、水蒸気透過率が20g/m2・24hr,40℃・90%RH以下であることを特徴とする酸素検知剤。
【請求項3】請求項1記載の酸素検知剤であって、前記積層フィルムは、酸素透過率が 1000ml/m2・24hr以上、エタノール蒸気透過率が10g/m2・24hr,40℃・50%RH以下、水蒸気透過率が10g/m2・24hr,40℃・90%RH以下であることを特徴とする酸素検知剤。
【請求項4】請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸素検知剤であって、前記積層フィルムは、内面側フィルムが貫通孔を設けない低密度ポリエチレン、または貫通孔を設けない無延伸ポリプロピレンからなり、外面側フィルムが貫通孔を設けた、もしくは貫通孔を設けない二軸延伸ポリプロピレンフィルム、または貫通孔を設けたポリエステルフィルムからなることを特徴とする酸素検知剤。
【請求項5】請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸素検知剤であって、前記酸素検知剤組成物の剤型が錠剤、シートまたは粉末であることを特徴とする酸素検知剤。
【請求項6】エタノール蒸気発生型脱酸素剤を収納した袋体中に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸素検知剤を配置することを特徴とするエタノール蒸気発生型脱酸素剤の保存方法。
【請求項7】エタノール含有食品および脱酸素剤を収納した袋体中に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸素検知剤を配置することを特徴とする食品の保存方法。
【請求項8】食品およびエタノール蒸気発生型脱酸素剤を収納した袋体中に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸素検知剤を配置することを特徴とする食品の保存方法。
【請求項9】食品、脱酸素剤およびエタノール蒸気発生型鮮度保持剤を収納した袋体中に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸素検知剤を配置することを特徴とする食品の保存方法。」
を、
「【請求項1】酸素検知剤組成物をフィルム袋に封入した酸素検知剤であって、前記フィルム袋の少なくとも一部は、厚さ方向に隣接するフィルムの材質が互いに異なり、かつ貫通孔を設けない内面側フィルムと、外面側フィルムとの積層フィルムで構成され、前記積層フィルムは、酸素透過率が500ml/m2・24hr以上、エタノール蒸気透過率が20g/m2・24hr,40℃・50%RH以下、水蒸気透過率が20g/m2・24hr,40℃・90%RH以下であることを特徴とする酸素検知剤。
【請求項2】酸素検知剤組成物をフィルム袋に封入した酸素検知剤であって、前記フィルム袋の少なくとも一部は、厚さ方向に隣接するフィルムの材質が互いに異なり、かつ貫通孔を設けない内面側フィルムと、外面側フィルムとの積層フィルムで構成され、前記積層フィルムは、酸素透過率が 1000ml/m2・24hr 以上、エタノール蒸気透過率が10g/m2・24hr,40℃・50%RH以下、水蒸気透過率が10g/m2・24hr,40℃・90%RH以下であることを特徴とする酸素検知剤。
【請求項3】請求項1又は2に記載の酸素検知剤であって、前記積層フィルムは、内面側フィルムが貫通孔を設けない低密度ポリエチレン、または貫通孔を設けない無延伸ポリプロピレンからなり、外面側フィルムが貫通孔を設けた、もしくは貫通孔を設けない二軸延伸ポリプロピレンフィルム、または貫通孔を設けたポリエステルフィルムからなることを特徴とする酸素検知剤。
【請求項4】請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸素検知剤であって、前記酸素検知剤組成物の剤型が錠剤、シートまたは粉末であることを特徴とする酸素検知剤。
【請求項5】エタノール蒸気発生型脱酸素剤を収納した袋体中に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸素検知剤を配置することを特徴とするエタノール蒸気発生型脱酸素剤の保存方法。
【請求項6】エタノール含有食品および脱酸素剤を収納した袋体中に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸素検知剤を配置することを特徴とする食品の保存方法。
【請求項7】食品およびエタノール蒸気発生型脱酸素剤を収納した袋体中に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸素検知剤を配置することを特徴とする食品の保存方法。
【請求項8】食品、脱酸素剤およびエタノール蒸気発生型鮮度保持剤を収納した袋体中に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸素検知剤を配置することを特徴とする食品の保存方法。」
と、訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
上記の訂正事項は、訂正前の請求項1を削除すると同時に、該請求項の削除に伴い請求項2以下の各請求項番号を1つずつ繰り上げるとともに、訂正後の請求項1及び2(訂正前の請求項2及び3)において、訂正前の請求項1を引用した記載を引用しない記載に書き換え、訂正後の請求項3(訂正前の請求項4)以降の各請求項において、引用する先行請求項の番号を、請求項の削除とそれに伴う請求項番号の繰り上げに整合させて整理したものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項は、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

3.訂正の適否の結論
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、平成15年法律改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議の申立てについて
1.本件発明
上記のとおり訂正が認められるので、本件請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明8」という)は、上記訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載されたとおりのものである。(上記II.1.訂正の内容の項参照)

2.申立ての理由及び当審における取消の理由の概要
(1)特許異議申立人三菱瓦斯化学株式会社は、証拠として下記の甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、訂正前の本件請求項1ないし9に係る発明は、本願出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明あるいは技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件請求項1ないし9に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである、と主張している。


甲第1号証:特開昭62-259059号公報(以下、「刊行物5」とい
う)
甲第2号証:特開昭58-101644号公報(以下、「刊行物6」とい
う)
甲第3号証:大須賀弘著「食品包装用フィルム-フレキシブル包装のすべ
て」、(株)日報、1994年4月18日初版発行、67頁
〜81頁、『第5章 フレキシブル包装用フィルム』、(以
下、「刊行物7」という)
甲第4号証:特開平7-63746号公報(以下、「刊行物8」という)

(2)当審において通知した取消しの理由の趣旨は、訂正前の本件請求項1ないし9に係る発明は、本願出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である下記の刊行物1ないし8に記載された発明あるいは技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件請求項1ないし9に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである、というものである。


刊行物1:特開昭54-48294号公報(本件特許明細書【0003】
に引用)
刊行物2:特開昭55-43428号公報(本件特許明細書【0004】
に引用)
刊行物3:特開昭63-243754号公報(本件特許明細書【0005
】に引用)
刊行物4:実願昭63-32605号明細書(実開平1-136459号
)のマイクロフィルム(本件特許明細書【0006】に引用)
刊行物5:(上記甲第1号証と同じ)
刊行物6:(上記甲第2号証と同じ)
刊行物7:(上記甲第3号証と同じ)
刊行物8:(上記甲第4号証と同じ)

3.刊行物の記載
(1)刊行物1
刊行物1には、酸素を感知して呈色する感酸素組成物、およびその組成物を用いることによって色の変化により酸素吸収剤の保存中における酸素吸収能力の有無または使用中において包装内に酸素が存在するか否かを検知することのできる酸素吸収剤の能力判定用インジケイター(第1頁右下欄17行〜第2頁左上欄3行参照)について、メチレンブルーと還元剤との水溶液をロ紙等の支持体に含浸させたインジケイター1が、ガス透過性の延伸ポリプロピレンフイルム2と水蒸気・ガス不透過性の塩化ビニリデン塗工フイルム3との剥離可能な複合フイルムで少なくとも片面を形成した包被体中に使用直前まで保存されること、そして使用時にはフイルム3を剥離してガス透過性のフイルム2を露出させてから酸素吸収剤と共に食品等の包装内に同封することが記載されている(第2頁右上欄6行〜左下欄8行、第1図参照)。

(2)刊行物2
刊行物2には、酸素の有無によって変色する保存安定性の良好な酸素検知体およびその検知体を用いる酸素の有無の検知方法に関して(第2頁左上欄10〜12行参照)、「・・・食品等とともに使用する際、あるいは長期保存等を要する際等において検知組成物の移動等を防止するため酸素透過性を有する包材で包装することが使用上有利であり、また、酸素検知組成物自体の安定において好ましい。このような包材としては、検知組成物中の水性成分が漏出しにくく、また、酸素は充分透過する性質を有するものが好ましく、水蒸気透過率が2.0g/100cm2/mil・24hr,37.8℃以下、かつ、酸素透過率が100cc/100in2/mil・24hr/atmos/25℃以上を有するものが使用できる。そして、このような包材としては、市販のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等が用いられる。」という記載(第3頁左下欄下から12行〜末行)とともに、実施例3には、包材として、ガスバリヤー性ポリエステル/ポリ塩化ビニリデン/ポリエチレン複合フィルムよりなる包装袋を使用し、酸素検知体の保存安定性を測定したこと(第4頁左下欄12行〜第5頁左上欄表1参照)、および、実施例5には、実施例3で用いたガスバリヤー性包装袋を2個用意し、1つには食パン1枚をそのまま、他の1つには食パンとともに酸素吸収剤と実施例3の酸素検知体を密封して放置した際の食パンの保存状態の相違と酸素検知体が3日目に色変化し包装袋内に酸素がないことを示したこと(第5頁右上欄17行〜右下欄末行参照)が記載されている。

(3)刊行物3
刊行物3には、酸素の有無を肉眼で判定可能となるような色相の変化を持たせた酸素検知剤とその製造方法に関して、還元性糖類、アルカリ金属化合物及び色素を水中にて混合しその水溶液を吸湿性の薄いシート状担体に担持させ、必要に応じて適当な水分含有量となるまで乾燥させ、得られたシート状担体を包装用フィルムに装入することが記載され(特許請求の範囲第4項参照)、包装用フィルムについては、封入するシート状酸素検知剤本体の色が肉眼で判定できるものであれば制限はなく、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが用いられ、酸化還元反応を速かに行わせるため包装用フィルムにピンホールのような微細な穴を開けておくと好ましいことが記載されている(第2頁左下欄5〜9行、15〜17行参照)。

(4)刊行物4
刊行物4には、「酸素検出能を有する薬剤を基材に含浸させて得られた酸素検出材を酸素透過性の袋状フィルム又はシートに封入してなる酸素インジケーター」(実用新案登録請求の範囲)に関して、酸素透過性のフィルム又はシートとして、高密度又は低密度のポリエチレン、高密度又は低密度のポリプロピレン等のオレフィン系フィルム又はシート、セロファン等が好ましい例として例示され、酸素透過性のフィルム又はシートの厚さとしては10〜60μm程度のものが好ましくその内側が加熱処理によりシール可能なラミネートフィルムが好適であることが記載されている(第4頁19行〜第5頁8行参照)。そして、酸素検出剤の感度をたかめるために該フィルム又はシートに針穴状の小孔を1〜2ヶ所設けること(第5頁10行〜12行参照)、その酸素インジケーターは脱酸素剤と共にパッケージされた菓子類等に併置されパッケージ中の残存酸素を肉眼で判定するのに使用されることも記載されている(第5頁末行〜第6頁3行参照)。

(5)刊行物5
刊行物5には、雰囲気中の酸素の有無を色変化により指示する酸素インジケーターに関して(第1頁左下欄下から6〜5行参照)、「透明部分を有する収納部と接合部とを有する袋に酸素インジケーター組成物固形状物が密封包装されてなる酸素インジケーターにおいて、該袋の接合部が少なくともその一個所で少なくとも1本の糸または糸状物を配して接合されてなり、該糸または糸状物の一部は該袋の収納部に存在し、かつその一部が該袋の外部に達していることを特徴とする酸素インジケーター」が記載され(特許請求の範囲)、「本発明において、袋に用いられるフィルムとしては酸素透過度100000ml/m2 D atm(25℃,RH60%)以下、好ましくは20000ml/m2 D atm(25℃,RH60%)以下であり、熱圧着もしくは接着剤により容易に接合できるフィルムであることが望ましく、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、・・・の単体もしくは積層体、・・・用いてもよい。これらのうち好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン等の単体フィルム、ナイロンとポリエチレン、ナイロンとポリプロピレン、ポリプロピレンとポリエチレン、ポリ塩化ビニリデンを塗布したポリプロピレンとポリエチレン、ポリプロピレンとポリ塩化ビニル、延伸ポリプロピレンと無延伸ポリプロピレン、・・・との積層フィルムの他、上記した各種フィルムと紙との積層フィルムが用いられる。」と、異質の材質の積層フィルムを使用することが記載されている(第2頁右下欄10行〜第3頁左上欄末行参照)が、通気に関しては、「本発明ではこの糸または糸状物を介して収納袋内部と外部とが通気性を付与されるものである。」と記載されている(第3頁右上欄12〜14行参照)。

(6)刊行物6
刊行物6には、渋柿の脱渋保存方法に関して、エチルアルコールを50重量%以上含む担持物、粉末エチルアルコールおよび固型エチルアルコールの中の1種のエチルアルコール体と吸着性物質とを混合した薬剤を渋柿と共に一定のガス透過性を有する容器中に収納し、冷蔵下で保存する渋柿の脱渋保存方法が記載され(特許請求の範囲参照)、柿収納容器として、酸素透過量1,000〜5,000cc/m2・24hrs・atm、炭酸ガス透過量3,000〜15,000cc/m2・24hrs・atm、エチルアルコール透過量0.5〜15cc/m2・24hrs・atm、である合成樹脂製シート又は袋を用い、開口部の密封方法は、テープ、ひも等で結束すること、上記合成樹脂製シート、袋として、延伸ポリプロピレン(20μ)、未延伸ポリプロピレン(40〜100μ)、ポリエチレン(50〜100μ)、エチレン酢酸ビニル共重合フイルム(50〜100μ)等が挙げられている(第2頁右下欄下から10行〜第3頁左上欄3行参照)。

(7)刊行物7
食品包装用フィルムについて総論的に解説されている刊行物7には、異質の材質からなる積層フィルムも、包装用フィルムとして周知の材料であることが記載されている(第68頁4行〜21行参照)。

(8)刊行物8
刊行物8には、酸素検知剤組成物に関して、従来市販の酸素検知剤が雰囲気中のガス成分、例えばエタノール等によって正常な変色が阻害されたり、色素が溶出したりするものがあり、このような酸素検知剤は、エタノールを含有する多くの食品には適用することができないし、エタノール蒸気発生体と併用される鮮度保持剤には適用することができないことが記載され(段落【0009】、【0015】参照)、その問題点その他の欠点を解決した、エタノール耐性の高い酸素検知剤組成物として、「構成原子であるMg、Al、Siの比が1:1.6〜2.5:1.4〜2.1である無定形アルミノケイ酸マグネシウムと、酸化還元色素と、還元性糖類とを含有することを特徴とする酸素検知剤組成物」が記載されている(段落【0016】、請求項1参照)。

4.対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、「酸素検知剤組成物をフィルム袋に封入した酸素検知剤であって、前記フィルム袋の少なくとも一部は、厚さ方向に隣接するフィルムの材質が互いに異なり、かつ貫通孔を設けない内面側フィルムと、外面側フィルムとの積層フィルムで構成される酸素検知剤」である点で共通するが、本件発明1においては、「前記積層フィルムは、酸素透過率が500ml/m2・24hr以上、エタノール蒸気透過率が20g/m2・24hr,40℃・50%RH以下、水蒸気透過率が20g/m2・24hr,40℃・90%RH以下である」のに対し、刊行物1記載の発明の前記積層フィルムについては、積層フィルム全体としての酸素、エタノールおよび水蒸気の具体的な透過率について何ら記載されていない上、酸素吸収剤と共に食品等の包装内に同封する使用時には、外側の水蒸気・ガス不透過性の塩化ビニリデン塗工フイルム3を剥離してガス透過性の内側フイルム2を露出させてから酸素吸収剤と共に食品等の包装内に同封する、すなわち酸素検知剤として作用する際のフィルム袋はもはや積層フィルムでなくなっている点で相違する。

そこで検討するに、本件発明1は、従来の酸素検知剤がエタノール含有食品やエタノール蒸気発生型脱酸素剤、あるいはエタノール蒸気発生型鮮度保持剤と共に収納するエタノール雰囲気下での使用が実質的に不可能であったという問題点(本件明細書段落【0007】〜【0013】参照)を、上記相違点の構成を採用することにより解決したものである(同【0014】〜【0035】参照)。
このようなエタノール雰囲気下での酸素検知剤の問題点は、刊行物8にも記載されているが、刊行物8には、酸素検知剤組成物自体の組成を工夫することにより問題を解決することしか記載されておらず、酸素検知剤組成物を包装する包材のガス透過性を工夫して問題解決にあたることを教示、示唆する記載はない。
また、酸素の有無検知のための呈色反応速度との関係から呈色性の酸素検知組成物等を包装するフィルムなどの酸素透過性を考慮し、さらに酸素検知組成物中の必要水分の確保のために水蒸気透過性を考慮している刊行物2記載の発明も存在するが、従来の酸素検知剤がエタノール含有食品やエタノール蒸気発生型脱酸素剤、あるいはエタノール蒸気発生型鮮度保持剤と共に収納するエタノール雰囲気下での使用が実質的に不可能であったという問題点、及びこのような問題点を酸素検知剤組成物をフィルム袋に封入した酸素検知剤において該袋を構成するフィルムの酸素透過率、エタノール蒸気透過率および水蒸気透過率の3者を適当な範囲のものとすることにより解決しようとする解決手段について、刊行物2〜7には記載も示唆も存在しないことから、これらの刊行物の記載を勘案しても、上記相違点に挙げられた構成を導くことはできない。
そして、本件発明1は、上記相違点の構成を採用することにより、エタノール含有食品の包装や、エタノール蒸気発生型脱酸素剤に適用できるという明細書記載の効果を奏するものであると認められる。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜刊行物8に記載された発明あるいは技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、フィルムの酸素透過率、エタノール蒸気透過率および水蒸気透過率について本件発明1をさらに限定したものであるから、本件発明1について検討したのと同様、刊行物1〜刊行物8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。

(3)本件発明3〜8についての検討
本件発明3〜8は、いずれも請求項1又は2を引用するものであり、本件発明1及び2の構成を含むものであるから、本件発明1、2について前述したのと同様、刊行物1〜刊行物8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。

IV.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし8の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし8の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
酸素検知剤およびそれを用いたエタノール蒸気発生型脱酸素剤の保存方法ならびに食品の保存方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 酸素検知剤組成物をフィルム袋に封入した酸素検知剤であって、
前記フィルム袋の少なくとも一部は、厚さ方向に隣接するフィルムの材質が互いに異なり、かつ貫通孔を設けない内面側フィルムと、外面側フィルムとの積層フィルムで構成され、
前記積層フィルムは、酸素透過率が500ml/m2・24hr以上、エタノール蒸気透過率が20g/m2・24hr,40℃・50%RH以下、水蒸気透過率が20g/m2・24hr,40℃・90%RH以下であることを特徴とする酸素検知剤。
【請求項2】 酸素検知剤組成物をフィルム袋に封入した酸素検知剤であって、
前記フィルム袋の少なくとも一部は、厚さ方向に隣接するフィルムの材質が互いに異なり、かつ貫通孔を設けない内面側フィルムと、外面側フィルムとの積層フィルムで構成され、
前記積層フィルムは、酸素透過率が1000ml/m2・24hr以上、エタノール蒸気透過率が10g/m2・24hr,40℃・50%RH以下、水蒸気透過率が10g/m2・24hr,40℃・90%RH以下であることを特徴とする酸素検知剤。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の酸素検知剤であって、
前記積層フィルムは、内面側フィルムが貫通孔を設けない低密度ポリエチレン、または貫通孔を設けない無延伸ポリプロピレンからなり、
外面側フィルムが貫通孔を設けた、もしくは貫通孔を設けない二軸延伸ポリプロピレンフィルム、または貫通孔を設けたポリエステルフィルムからなることを特徴とする酸素検知剤。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸素検知剤であって、前記酸素検知剤組成物の剤型が錠剤、シートまたは粉末であることを特徴とする酸素検知剤。
【請求項5】 エタノール蒸気発生型脱酸素剤を収納した袋体中に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸素検知剤を配置することを特徴とするエタノール蒸気発生型脱酸素剤の保存方法。
【請求項6】 エタノール含有食品および脱酸素剤を収納した袋体中に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸素検知剤を配置することを特徴とする食品の保存方法。
【請求項7】 食品およびエタノール蒸気発生型脱酸素剤を収納した袋体中に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸素検知剤を配置することを特徴とする食品の保存方法。
【請求項8】 食品、脱酸素剤およびエタノール蒸気発生型鮮度保持剤を収納した袋体中に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸素検知剤を配置することを特徴とする食品の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、脱酸素剤を用いて包装食品の鮮度を保持する際に、脱酸素状態を確認する目的で包装に同封する酸素検知剤や、脱酸素剤の保存、搬送などに用いる収納袋のシール洩れやピンホールを発見する目的で収納袋に同封する酸素検知剤に関し、特に、エタノール含有食品の包装や、エタノール蒸気発生型脱酸素剤に適用して有効な技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、脱酸素剤を使用して食品等の被保存物質を無酸素状態で保存する技術が普及し、それに伴って脱酸素包装袋や密閉容器等の内部の無酸素状態を確認するためのモニターとして、酸素検知剤が使用されるようになってきた。
【0003】
例えば特開昭54-48294号公報には、メチレンブルー、水および還元剤からなる酸素検知剤組成物が開示されている。また、酸素検知剤の形状として、上記組成物を多孔性の支持体に含浸、印刷あるいは塗布してシート状に成形したものが開示されている。
【0004】
特開昭55-43428号公報には、シート状の酸素検知剤を水蒸気透過率が、2.0g/100in2/mil,24hr/37.8℃以下、酸素透過率が100cc/100in2/mil,24hr/atomos/25℃以上の包材で包んだものが開示されている。包材としては、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、強度を上げるため低密度ポリエチレンフィルムの内面側にポリオレフィン系割繊維不織布(ポリエチレン系である「日石ワリフ HS 24」)を接着した積層品が例示されている。
【0005】
特開昭63-243754号公報には、酸素検知剤のシートを包装用フィルムに封入する技術が開示されている。包装用フィルムは、封入されたシートの色が肉眼で判定できるものとされており、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルムが例示されている。また、変色(酸化還元反応)を速やかに行うために、包装用フィルムにピンホールのような微細な孔を設けておくことが好ましいとされており、同時に実施例には、微細な孔を設けない態様も例示されている。
【0006】
実開平1-136459号公報には、小孔を設けた酸素透過性の袋状フィルムまたはシートに酸素検知剤を封入したものが開示されており、酸素透過性のフィルムとして、ポリエチレンフィルムのようなポリオレフィン系フィルムやセロファン等が例示されている。なお、実施例には「低密度ポリエチレン30μmのラミネートフィルム」も例示されているが、ポリエチレン以外の材料の記載がないことから、この「ラミネートフィルム」は、異種のフィルムを積層したものではなく、ポリエチレンフィルム同士を積層したものであると解される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来知られている酸素検知剤組成物の形状は、錠剤、シート、液体等であり、誤食や誤飲を防ぎ、かつ雰囲気の影響を受けないようにするために、酸素検知剤組成物に直接フィルムを積層したり、フィルム袋に酸素検知剤組成物を封入して袋の周囲をヒートシールしたりすることが行われている。また、フィルムとしては、通常ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)の「単層フィルム」あるいは同一材質である「単体フィルム」が用いられている。
【0008】
ところが、従来の酸素検知剤は、着香、鮮度保持の目的で食品中にエタノールを(食品100部に対して1〜3部程度)添加(または噴霧)した包装食品に同封した場合、包装内のエタノール蒸気が酸素検知剤のフィルム袋を透過して酸素検知剤組成物の色素を溶出させてしまうという問題がある。
【0009】
また、エタノール蒸気発生型脱酸素剤(例えばフロイント産業株式会社製「ネガモールド」(登録商標)等)を酸素検知剤や食品と一緒に密封した場合や、エタノール蒸気発生型鮮度保持剤(例えばフロイント産業株式会社製「アンチモールド-102」(登録商標)等)および脱酸素剤を酸素検知剤や食品と一緒に密封した場合等においても同様の問題が生じる。
【0010】
さらに、エタノール蒸気発生型脱酸素剤の小袋を数十から数百同一袋体中に収納した場合、酸素検知剤を同封することはできなかった。
【0011】
上記した問題はいずれもエタノール(とりわけエタノール蒸気)の存在に由来するものであり、この問題の認識はあっても解決方法は見出されていなかった。「酸素検知剤はエタノールが存在する雰囲気中では使用できない」との説明が技術資料等に記載されているのは、このような理由に依る。
【0012】
また、エタノールの存在に起因して色素が溶出するという上記の問題は、単に商品価値の低下にとどまらず、酸素検知剤の重要なポイントである変色に直接影響を及ぼすため、無酸素状態にあるか否かの判断ミスを誘発し、ひいては食品の鮮度管理ミスを招いて消費者に不測の被害を及ぼしかねない。
【0013】
このように、従来の酸素検知剤は、エタノール雰囲気下での使用が実質上不可能であった。
【0014】
本発明の目的は、エタノール雰囲気下においても使用することのできる酸素検知剤を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の酸素検知剤は、酸素検知剤組成物をフィルム袋に封入したものであって、前記フィルム袋の少なくとも一部は、厚さ方向に隣接するフィルムの材質が互いに異なり、かつ貫通孔を有しない積層フィルムで構成されている。
【0016】
上記した本発明によれば、従来、酸素検知剤の包材に要求されていた酸素透過性、耐水蒸気透過性、ヒートシール性、透明度、機械適性、印刷適性、価格等の特性に加え、新たな指標として「耐エタノール蒸気透過性」という特性が加わることにより、エタノール雰囲気下においても使用することのできる酸素検知剤を得ることができる。
【0017】
以下、本発明の酸素検知剤の構成を具体的に説明する。
【0018】
酸素検知剤組成物を封入するフィルム袋に要求されることは、まず第1に酸素透過性であり、これが十分に大きくないと酸素検知剤組成物の変色に時間がかかってしまうため、酸素透過性には実用上の下限が存在する。
【0019】
通常、酸素透過性は日本工業規格(JIS Z 1707)により酸素透過率として測定方法が明示されており、本発明の酸素検知剤を構成するフィルムの酸素透過率は、500ml/m2・24hr以上必要であり、変色速度の点で好ましくは1000ml/m2・24hr以上必要である。ここで、酸素透過率が500ml/m2・24hr未満のフィルムでは酸素検知剤組成物の変色が遅くなり、酸素検知剤用のフィルムとしては実用的でない。酸素検知剤組成物を封入するフィルム袋の酸素透過率は、袋体内の温度や相対湿度とは無関係に上記数値を満足しなければならない。例えば普通セロファン、防湿セロファン、Kコートセロファン、ビニロン、エチレン・ビニルアルコール共重合体等の単体あるいは単層フィルムは、相対湿度が小さくて乾燥していると酸素透過性が小さくなるので、酸素検知剤用のフィルムとしては使用できない。なお、ここで「単体フィルム」とは同じ材料のフィルムを積層したものを指し、「単層フィルム」とは1層のフィルムのみで形成されたものを指している。
【0020】
酸素検知剤用フィルム袋に要求される第2の点は、耐水蒸気透過性である。これは通常、水蒸気透過率で表され、日本工業規格(JIS Z 0208条件B)に測定方法の記載がある。
【0021】
フィルムの水蒸気透過率が大きいと、水分活性(食品を密閉容器に入れて放置したときの器内の相対湿度とその温度における飽和湿度との比、相対湿度の100分の1)の大きな食品を同封したときにフィルム面を通じて水蒸気が移入し、酸素検知剤組成物の色素を溶出させてしまう。また、水分活性の小さな食品(乾燥食品等)を同封したときには、酸素検知剤組成物に必須の水分がフィルム面を通じて逃げてしまい、変色しなくなる虞れがある。
【0022】
従って、フィルムの水蒸気透過率は小さくなければならず、本発明においては20g/m2・24hr,40℃・90%RH以下、好ましくは10g/m2・24hr,40℃・90%RH以下のフィルムを使用する。具体的にはOPP(二軸延伸ポリプロピレン)フィルム/CPP(無延伸ポリプロピレン)フィルム、OPP/LDPE(低密度ポリエチレン)フィルム等、互いに異なる材質のフィルムを積層した「積層フィルム」である。水蒸気透過率が20g/m2・24hr,40℃・90%RHを超えるフィルムは、水蒸気の移動量が大きすぎて使用できない。
【0023】
図1は、本発明で使用する積層フィルムの一例を示す斜視図である。図中、内面側フィルム1はLDPEまたはCPPのいずれかであり、外面側フィルム2はOPPである。
【0024】
これに対し、公知のポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルムのみで構成されたフィルムは「単層フィルム」であり、同一材質のフィルムを貼り合わせたフィルムの場合は、ラミネートフィルムではあるが、材質が同じである点で「単体フィルム」である。すなわち、酸素検知剤組成物を封入する公知のフィルムは、いずれも本発明の「積層フィルム」とはかけ離れたものである。
【0025】
通常、公知の酸素検知剤は、酸素透過性を大きくするためにフィルムに1個ないし複数個の孔、切れ目、微孔等を設けているが、耐水・耐油性を損なわないようにするために孔の大きさを小さくしている。すなわち、孔はフィルムの酸素透過性を向上させるための次善の策であり、食品等の被保存物質の水分活性が高い場合、例えば0.9以上(相対湿度で90%RH)の場合には、水蒸気の移行が避けられない。これに対し、本発明で用いるフィルムは、水蒸気透過率が小さいだけでなく、フィルムの厚さ方向に貫通孔が存在しないので好ましい。
【0026】
性能をみると、OPP、CPP、LDPE、HDPE(高密度ポリエチレンフィルム)等の単層フィルムあるいは単体フィルムは、前記の酸素検知剤組成物を封入するフィルムが酸素透過率や水蒸気透過率の範囲に入っており、脱酸素剤に同封した酸素検知剤に用いられるものである。この場合、前記公知文献に記載の通り、単層フィルムあるいは単体フィルムに微孔を設けても設けなくともエタノール蒸気が無ければ使用可能な場合がある。
【0027】
図2は、本発明で使用する積層フィルムの他の例を示す斜視図である。図中、内面側フィルム3はLDPEまたはCPPのいずれかであり、外面側フィルム4はPET(ポリエステル)またはOPPである。この例では、外面側フィルム4であるPET部分またはOPP部分のみに1ないし複数の微細な孔5(あるいは切れ目)が設けてあり、内面側フィルム3であるLDPEまたはCPPには微孔や切れ目を設けない。従って、積層フィルムの厚さ方向においては貫通した部分を有しないため、酸素透過性が大きく、水蒸気透過性は小さいという好ましいフィルムとなる。
【0028】
本発明で使用する積層フィルムは、通常製袋し、その中に酸素検知剤組成物を封入・シールするか、または酸素検知剤組成物の露出面にフィルムを貼付する方法が採られる。酸素検知剤の剤型は特に限定されないが、錠剤、酸素検知剤組成物を濾紙等に含浸させたシート、粉末等である。本発明では、内面側フィルムがLDPEやCPPであるため、酸素検知剤組成物を熱バーシールやインパルスシールで容易に密封することができ、都合がよい。
【0029】
図3は、前記図1に示した積層フィルムに錠剤6(同図(a))、シート7(同図(b))、粉末8(同図(c))を密封した酸素検知剤の断面図であり、図4は、前記図2に示した積層フィルムに錠剤6(同図(a))、シート7(同図(b))、粉末8(同図(c))を密封した酸素検知剤の断面図である。
【0030】
本発明で使用する積層フィルムとしては、前記OPP/CPP、OPP/LDPE、PET/LDPE、PET/CPP等の二層フィルム以外にも、例えばLDPE//OPP/LDPE、LDPE/CPP/LDPE、CPP/OPP/LDPE等といった三層以上の積層フィルムでもよい。
【0031】
また、本発明では酸素検知剤組成物を封止するフィルム袋の表裏両面が前記積層フィルムで構成されている必要はなく、例えば図5に示すように、片面のみを前記積層フィルムで構成し、残りの片面を単層あるいは単体のフィルム9で構成してもよい。この場合のフィルム9は、例えば厚さ50μm程度のPET(ポリエステル)単層フィルムなど、エタノール蒸気や水蒸気の透過率が前記積層フィルムと同等またはそれ以下のものであれば任意のものが使用できる。
【0032】
次に、最も重要な因子である耐エタノール蒸気透過性について述べる。上記の説明から明らかになったように、公知の酸素検知剤に用いるフィルムは、後述する比較例1からも明らかなように、エタノール蒸気による色素の溶出が避けられないため、酸素透過率や水蒸気透過率の良好な単層フィルムを使用して解決できるものではなかった。
【0033】
また、後述する比較例2、5からも明らかなように、水分活性の大きな食品に添加したり、乾燥食品に添加したりする場合、貫通孔の有無が問題になることが判明した。さらに、後述する比較例3、4からも明らかなように、公知のフィルムは、機械適性やヒートシール性の良くない単層フィルムである。
【0034】
本発明は、上記の問題を解決するために後述する方法でエタノール蒸気の測定を行い、フィルムとして好ましい範囲を見出したのである。すなわち、エタノール蒸気透過度は、20g/m2・24hr,40℃・90%RH以下、好ましくは10g/m2・24hr,40℃・90%RH以下がよい。エタノール蒸気透過率が20g/m2・24hr,40℃・90%RHを超えるフィルムはエタノール蒸気がフィルム面を透過して色素を溶出する虞れが高いため、実用上好ましくない。
【0035】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳述する。
【0036】
(試験方法と評価)
120mm×120mm寸法のフィルムを折り曲げ、ヒートシールにより3辺を10mm幅でシールして袋を形成し、その中に無水エタノールを3g入れて残りの1辺を10mm幅でシールしたものを試料とする。この試料を40℃・50%RH中に24時間放置し、減量より求める。この値は、エタノール蒸気透過度であり、単位はg/m2・24hr,40℃・50%RHである。エタノール減量が0.2gの場合は、10g/m2・24hr,40℃・50%RHとなる。このエタノール蒸気透過度で示される測定値は、値の少ない方がより「耐エタノール蒸気透過性」が良いといえる(ここで40℃・50%RHの条件は、最も悪い条件での保存を考慮している。
【0037】
(実施例1)
酸素検知剤組成物をパルプ100%の紙に含浸させ、一定水分まで乾燥してシート状としたものを15mm×20mmの寸法に裁断した。積層フィルムとしてOPP/CPP(20μm/40μm)を用い、フィルムを4方シール機で3方シールした後、シートの裁断品を入れて残り一方をシールし、シートを密閉した。この酸素検知剤をガスバリヤ性のある袋であるKOP(塩化ビニリデンコートポリプロピレン)フィルム/PE(低密度ポリエチレン)フィルム(23μm/40μm)の袋の中に脱酸素剤および水分活性値0.92のエタノール添加ケーキと共に入れた。
【0038】
1日経過後、酸素検知剤のシートの色が青からピンクに変わっており、色のにじみや色素の溶出はなかった。この時エタノール蒸気濃度は1.5%であった。2週間後に開封したところ、30分以内に酸素検知剤のシートの色がピンクから青に変わった。再度KOP/PE袋を密封し、1日経過した後、酸素検知剤のシートの色が再び青からピンクに変色し、シートのにじみや色素の溶出はなかった。なお、このフィルムのエタノール蒸気透過率を測定すると、2g/m2・24hr,40℃・50%RHであり、酸素透過率は1500ml/m2・24hr、水蒸気透過率は2g/m2・24hr,40℃・90%RHであった。
【0039】
(実施例2)
酸素検知剤組成物を打錠機により錠剤とし、シートの代わりに錠剤を積層フィルムに入れた他は実施例1と同様に試験を行ったところ、結果は同様であった。
【0040】
(実施例3)
積層フィルムをOPP/CPPの代わりにOPP/LDPE(20μm/60μm)とした他は実施例1と同様に試験を行ったところ、結果は同様であった。なお、このフィルムのエタノール蒸気透過率を測定すると、10g/m2・24hr,40℃・50%RHであり、酸素透過率は2000ml/m2・24hr、水蒸気透過率は4g/m2・24hr,40℃・90%RHであった。
【0041】
(実施例4)
積層フィルムをOPP/CPPの代わりに多数の微孔を設けたPET(12μm)と孔のないCPP(40μm)とを熱接着した積層フィルムを用いた他は実施例1と同様に試験を行ったところ、結果は同様であった。なお、このフィルムのエタノール蒸気透過率を測定すると、12g/m2・24hr,40℃・50%RHであり、酸素透過率は1000ml/m2・24hr、水蒸気透過率は5g/m2・24hr,40℃・90%RHであった。
【0042】
(実施例5)
エタノール添加ケーキの代わりに水分活性値0.95の切り餅を入れた他は実施例1と同様に試験を行ったところ、結果は同様であった。この時KOP袋の内面には結露が見られた。
【0043】
(実施例6)
エタノール添加ケーキの代わりに乾燥食品を入れた他は実施例1と同様に試験を行ったところ、結果は同様であった。
【0044】
(実施例7)
脱酸素剤の代わりにエタノール蒸気発生型脱酸素剤(フロイント産業株式会社製「ネガモールド」(登録商標))を入れ、エタノール添加ケーキの代わりにエタノール無添加で水分活性値0.90の饅頭を入れた他は実施例1と同様に試験を行ったところ、結果は同様であった。
【0045】
(実施例8)
脱酸素剤と共にエタノール蒸気発生型鮮度保持剤(フロイント産業株式会社製「アンチモールド-102」(登録商標))を入れ、エタノール添加ケーキの代わりに水分活性値0.75のさきイカを入れた他は実施例1と同様に試験を行ったところ、結果は同様であった。
【0046】
(実施例9)
エタノール蒸気発生型脱酸素剤(フロイント産業株式会社製「ネガモールド」(登録商標))の小袋(寸法60mm×65mm)100包を実施例1で作成した酸素検知剤と共にガスバリヤ袋であるKOP袋に入れ、1日放置すると、酸素検知剤のシートの色が青からピンクになった。この時、エタノール蒸気は飽和濃度になっていた。
【0047】
また、3カ月保管後でもピンクのままで、シートのにじみや色素の溶出も無かった。これを開封すると、30分後にシートの色が青に変色し、再びKOP袋をシールすると、1日後にピンクに変わった。
【0048】
(実施例10)
エタノール蒸気発生型脱酸素剤の代わりに脱酸素剤(パウダーテック株式会社製「ワンダーキープ RP-100」(商品名))を用いた他は実施例9と同様に試験を行ったところ、結果は同様であった。
【0049】
(比較例1)
積層フィルムOPP/CPPの代わりにLDPEの単層フィルム(60μm)を用い、実施例1と同様の操作を行ったところ、酸素検知剤のシートの色が溶出した。なお、このフィルムのエタノール蒸気透過率は40g/m2・24hr,40℃・50%RHであり、酸素透過率は3000ml/m2・24hr、水蒸気透過率は19g/m2・24hr,40℃・90%RHであった。また、このフィルムは実施例1のフィルムに比べて透明度が低いため、商品価値の点でも劣っていた。
【0050】
(比較例2)
積層フィルムOPP/CPPの代わりに、フィルムの厚さ方向に多数の微小な貫通孔を設けたPET/CPP(12μm/40μm)の積層フィルムを用い、実施例1と同様の操作を行ったところ、酸素検知剤のシートの色が溶出した。
【0051】
(比較例3)
積層フィルムOPP/CPPの代わりにCPPの単層フィルム(60μm)を用い、実施例1と同様の操作を行ったところ、フィルムが伸び易く、機械適性が悪く、大量生産に向くものではなかった。また、ヒートシール温度を上げるとフィルムの表面が一部溶け、商品価値が減少した。
【0052】
(比較例4)
積層フィルムOPP/CPPの代わりにOPPの単層フィルム(50μm)を用い、実施例1と同様の操作を行ったところ、フィルムのヒートシール性が悪く、一般的な熱バーシールやインパルスシールではシール強度が弱く、OPP袋が開封し易く、これを防ぐために超音波シールや熱溶断シール等の可能な装置が必要となり、コストアップ要因となり、市場の価格に適合できないものであった。また、ヒートシール温度を上げるとフィルムの表面が一部溶け、商品価値が減少した。
【0053】
(比較例5)
積層フィルムOPP/CPPの代わりに、フィルムの厚さ方向に多数の微小な貫通孔を設けたPET/CPP(12μm/40μm)を用い、実施例1のエタノール添加ケーキの代わりに乾燥食品を入れたところ、1日経過後にシートの色が青からピンクに変わったが、1カ月保存後に開封したところ、ピンクのままで青に変色しなかった。
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)酸素検知剤組成物を封入するフィルムを、酸素透過率、エタノール蒸気透過率および水蒸気透過率が特定の範囲にある積層フィルムで構成することにより、エタノール蒸気の有無に関係なく、水分活性の広い範囲で色素の溶出を示さない酸素検知剤を得ることができる。
(2)脱酸素剤、エタノール蒸気発生型鮮度保持剤、エタノール蒸気発生型脱酸素剤との併用が可能な酸素検知剤を得ることができる。
(3)エタノール含有食品に対して使用可能な検知剤を得ることができる。
(4)高水分活性を示す食品に対しても、低水分活性を示す食品に対しても使用可能な酸素検知剤を得ることができる。
(5)エタノール蒸気発生型脱酸素剤を収容する袋に配置することが可能な酸素検知剤を得ることができる。
(6)本発明において使用するフィルムはいずれも透明度が高いので、上記(1)〜(5)の効果を有し、しかも視認性が良好な酸素検知剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明で使用する積層フィルムの一例を示す斜視図である。
【図2】
本発明で使用する積層フィルムの他の例を示す斜視図である。
【図3】
(a)〜(c)は、図1に示した積層フィルムに酸素検知剤組成物を密封した酸素検知剤の断面図である。
【図4】
(a)〜(c)は、図2に示した積層フィルムに酸素検知剤組成物を密封した酸素検知剤の断面図である。
【図5】
(a)〜(c)は、本発明による酸素検知剤の他の実施の形態を示す断面図である。
【符号の説明】
1 内面側フィルム
2 外面側フィルム
3 内面側フィルム
4 外面側フィルム
5 孔
6 錠剤
7 シート
8 粉末
9 フィルム
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-08-05 
出願番号 特願平7-251520
審決分類 P 1 651・ 121- YA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 征二  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 水垣 親房
菊井 広行
登録日 2003-01-24 
登録番号 特許第3392270号(P3392270)
権利者 パウダーテック株式会社 フロイント産業株式会社
発明の名称 酸素検知剤およびそれを用いたエタノール蒸気発生型脱酸素剤の保存方法ならびに食品の保存方法  
代理人 小塚 善高  
代理人 筒井 大和  
代理人 筒井 大和  
代理人 小塚 善高  
代理人 小塚 善高  
代理人 筒井 大和  

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