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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1105887
異議申立番号 異議2001-70158  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-12-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-01-17 
確定日 2004-08-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3065327号「ヒアルロン酸ナトリウム組成物」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3065327号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 
理由
1.手続の経緯

本件特許第3065327号の請求項1及び2に係る発明については、平成2年3月16日に特許出願され、平成12年5月12日に特許権の設定登録がされた。その後、大竹恭子、生化学工業株式会社及び有限会社ツヤチャイルドにより特許異議の申立てがされ、取消理由の通知後、その指定期間内に訂正請求(その後取り下げ)がされ、再度、取消理由が通知され、平成15年11月25日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正請求について

(1)訂正の内容

訂正事項a
請求項1に記載の生理食塩水中に含有されるヒアルロン酸の濃度を「生理的食塩水中に12.0〜20.0mg/mlのヒアルロン酸ナトリウムを含有する、」に訂正する。

訂正事項b
請求項1に記載のヒアルロン酸ナトリウムの動粘度を「せん断速度1秒-1及び温度25℃で測定された45,000〜64,000cSt.の範囲内の動粘度を有し、」に訂正する。

訂正事項c
請求項2の記載を「動粘度が58,385cSt.、分子量が1.5百万ダルトン、及び固有粘度が2450mg/lであるか、又は動粘度が57,325cSt.、分子量が1.4百万ダルトン及び固有粘度が2239mg/lである、請求項1記載の溶液。」と訂正する。

(2)訂正の適否

訂正事項aは、請求項1において、溶液中のヒアルロン酸ナトリウムの濃度を、願書に添付した明細書又は図面(以下、「特許明細書」という。)の「一般に得られた溶液は,溶液あたり約12.0〜約20.0mg/mlのヒアルロン酸塩濃度を有する。」(本件特許公報2頁4欄6〜7行参照)という記載に基づき、12.0〜20.0mg/mlに限定するものであり、訂正事項bは、動粘度の値が特許明細書の動粘度の測定条件である「せん断速度1秒-1及び温度25℃」(本件特許公報2頁4欄36〜39行)での値であることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項cも、請求項2において、溶液の動粘度、分子量、固有粘度を、特許明細書の例1又は例2の溶液の物性である「動粘度が58,385cSt.、分子量が1.5百万ダルトン、及び固有粘度が2450mg/lであるか、又は動粘度が57,325cSt.、分子量が1.4百万ダルトン及び固有粘度が2239mg/l」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記訂正はいずれも特許明細書に記載された事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明

上記訂正は、これを認容することができるから、本件請求項1〜2に係る発明は、訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜2に記載された以下のとおりのものである。(以下、それぞれ「本件発明1」「本件発明2」という。)

(請求項1)
「せん断速度1秒-1及び温度25℃で測定された45,000〜64,000cSt.の範囲内の動粘度を有し、そして生理的食塩水中に12.0〜20.0mg/mlのヒアルロン酸ナトリウムを含有する、手術後に低い眼内圧を患者に与えるための溶液に於て、このヒアルロン酸ナトリウムは1百万〜2百万ダルトンの範囲内の重量平均分子量を有する上記溶液。」

(請求項2)
「動粘度が58,385cSt.、分子量が1.5百万ダルトン、及び固有粘度が2450mg/lであるか、又は動粘度が57,325cSt.、分子量が1.4百万ダルトン及び固有粘度が2239mg/lである、請求項1記載の溶液。」

3-1 取消理由通知書で引用された刊行物、及びそれらの記載の概要

刊行物A;Glaucoma 1989;11:82-85

刊行物Aには、40KセンチストークのAmvisc(登録商標)40は、最も広く使用されている55KセンチストークのHealon(登録商標)と類似あるいはそれより少ないIOP(眼内圧)上昇を示すこと、55KセンチストークでAmvisc(登録商標)より分子量が小さいが、濃度を増加させたAmvisc Plus(登録商標)はAmvisc(登録商標)40に比べ術後のIOPを上昇させないこと、このことから、ヒアルロン酸の粘度は増加でき、低分子量のヒアルロン酸を使用することでIOP上昇は少なくできることが示唆される旨記載されている。

刊行物1;Survey of ophthalmology,Vol.34,No.4,January-February 1990,p.268-293.
(特許異議申立人生化学工業株式会社の提出した甲第1号証)

刊行物1の表1にはAmvisc(登録商標)のヒアルロン酸ナトリウム濃度は1%、分子量は2×106ダルトン、Healon(登録商標)のヒアルロン酸濃度は1%、分子量は2.5〜3.8×106ダルトン、Amvisc Plus(登録商標)のヒアルロン酸ナトリウム濃度は1.6%と記載され、Amvisc(登録商標)とAmvisc Plus(登録商標)の緩衝溶液は生理食塩水であることが記載されている。
また、Amvisc Plus(登録商標)は低分子量ヒアルロン酸ナトリウム分子を使用し、濃度を高めることによってAmvisc(登録商標)に比べて高い粘度を有する製剤であり、眼内圧上昇のリスクが少ないことが記載されている。

刊行物2;Journal of cataract and refractive surgery,Vol.13,September 1987, p.534-536.
(特許異議申立人生化学工業株式会社の提出した甲第2号証)

動粘度を、コーンスピンドルCP52を有するブルックフィールドデジタル粘度計モデルRVTDCP(シリアル番号AO1752)を用い,0.5rpm及び25℃で測定した結果、Amvisc(登録商標)の動粘度の値が41554±1221(39943〜42859)cst、Healon(登録商標)の動粘度は47271±7767(39157〜64779)cstであること、分子量は、Laurent、Ryan及びPietruszkiewiczにより記載された式
(n)=0.036M0.78 ((n)=固有粘度 M=分子量 )
を用いて算出し、前者の分子量(MW)は2.04±0.17×106であり、後者の分子量は2.43±0.23×106であることが記載されている。
この文献における分子量の測定方法についてはBiochim Biophys Acta 42:476-485 1960の論文(参照文献7)が参照されている。

3-2 対比判断

3-2-1 本件発明1について

ヒアルロン酸ナトリウムを含む生理的液体は、白内障の手術において、前眼房の奥行きを維持し、角膜内皮を緩和し、術中の機械的損傷の可能性から保護するために日常的に用いられており、本出願前、刊行物A、1、2に記載のAmvisc(登録商標)、Healon(登録商標)、Amvisc Plus(登録商標)などの各種の製剤が知られている。
刊行物Aには、55KセンチストークでAmvisc(登録商標)より分子量が小さいが、濃度を増加させたAmvisc Plus(登録商標)はAmvisc(登録商標)40に比べ術後のIOPを上昇させないことが記載され、また、刊行物1によれば、Amvisc(登録商標)のヒアルロン酸ナトリウム濃度は1%、分子量は2×106ダルトン、Amvisc Plus(登録商標)のヒアルロン酸ナトリウム濃度は1.6%であって、両者とも緩衝溶液は生理食塩水である。
そうすると、Amvisc Plus(登録商標)は動粘度は55000cst、分子量は2百万ダルトンより低く、ヒアルロン酸ナトリウム濃度1.6% 緩衝溶液として生理食塩水が使用されている製剤であると認められる。
そこで、本件発明1のヒアルロン酸ナトリウム含有溶液とAmvisc Plus(登録商標)の組成、物性等を対比すると、両者は、45000〜64000cstの範囲の動粘度を有する、生理的食塩水中にその濃度が12.0〜20.0mg/mlの範囲のヒアルロン酸ナトリウムを含有する溶液であって、手術後に低い眼内圧を患者に与えるための溶液である点で一致し、

(A)本件発明1では動粘度が、せん断速度1秒-1及び温度25℃で測定された値であるのに対し、刊行物Aではその測定条件の記載がない点
(B)本件発明1では、ヒアルロン酸ナトリウムの分子量が1百万〜2百万ダルトンの範囲であるのに対し、Amvisc Plus(登録商標)については2百万ダルトン以下ではあるが具体的分子量の値の記載がない点

で相違する。以下、相違点につき検討する。

(A)動粘度の測定条件について

刊行物Aには動粘度の測定条件の記載はないものの、Amvisc(登録商標)の動粘度については40Kセンチストークス(40000cstと同義)、Healon(登録商標)については55Kセンチストークス(55000cstと同義)との記載がある。一方、刊行物2(1987年)の、コーンスピンドルCP52を有するブルックフィールドデジタル粘度計モデルRVTDCP(シリアル番号AO1752)を用い、0.5rpm及び25℃での動粘度測定条件は、本件発明1の測定条件である、せん断速度1秒-1及び温度25℃と一致するが、この文献で報告されているAmvisc(登録商標)の動粘度の値は41554±1221(39943〜42859)cst、Healon(登録商標)の動粘度は47271±7767(39157〜64779)cstであるから、刊行物AのAmvisc(登録商標)、Healon(登録商標)の動粘度の値および刊行物1で報告されている分子量はこの範囲内のものである。
そうすると、同じく刊行物1で55Kセンチストークス(55000cstと同義)とされるAmvisc Plus(登録商標)の動粘度にしても上記測定条件で得られる値の範囲内のものと解することができる。
また、刊行物1においてはAmvisc(登録商標)、Healon(登録商標)、Amvisc Plus(登録商標)について「剪断速度2/sec、25℃」で測定されたとされる粘度の値が記載されている。粘度は動粘度とは相違するが、粘度を密度で除した値が動粘度に相当し、ヒアルロン酸溶液の密度がほぼ1であることを勘案すると、刊行物1のAmvisc(登録商標)、Hearon(登録商標)、Amvisc Plus(登録商標)の各々の粘度として示された40000〜42000cps、40000〜64000cps、55000cpsは動粘度としては 40000〜42000cst、40000〜64000cst、55000cstと算定される。ところで、このAmvisc(登録商標)、Healon(登録商標)の動粘度の値にしても、刊行物2のせん断速度1秒-1及び温度25℃で測定された値とほぼ一致し、その分子量も刊行物2の値と一致するから、刊行物1、2の対比からもAmvisc Plus(登録商標)の55000cstという動粘度の値も、せん断速度1秒-1及び温度25℃で測定された値の範囲内であると見ることができる。
刊行物A、1,2はそれぞれ1989、1990、1987年という近接した時期に同じ商品名で販売された医薬品についてなされた研究報告であるが、医薬品分野においては特に品質が一定であることが厳しく要求される上、各文献での上記各製品の動粘度や分子量範囲はよく一致するから、いずれも同じ測定条件により得られた値と解して差し支えないものと認められる。

そうすると、刊行物Aや刊行物1のAmvisc Plus(登録商標)の動粘度の値は、いずれもせん断速度1秒-1及び温度25℃で測定された動粘度の値と同じであると解されるから、相違点1は実質的な相違とはいえない。

(B)分子量について

刊行物A、刊行物1が共に2百万ダルトン以下の分子量のヒアルロン酸ナトリウムを使用して濃度を高めることによって、高い動粘度とした製剤が従来製品より優れた効果を奏することを示しているのであるから、1.6%濃度としたときに55000cstの動粘度を示すヒアルロン酸の分子量を検討し、Amvisc Plusと同等の効果を奏するヒアルロン酸ナトリウムの分子量を決定することは当業者が容易に行い得ることである。
また、刊行物2で白内障手術において日常的に使用されているAmvisc(登録商標)およびHealon(登録商標)の組成、pH、動粘度、濃度、分子量などを比較した結果が報告されているように、すでに実用化されている製剤についての生物物理学的な性質を対比し研究することは当業者が通常行うことであるから、Amvisc(登録商標)に比べIOPの上昇が少ないという、より好ましい効果を有するAmvisc Plus(登録商標)(刊行物A、Fig2)自体を入手して分子量を分析することも容易である。
そして、これをもとにIOP上昇を減ずる効果を維持する分子量の範囲を検討し、例えば百万〜2百万ダルトンの範囲に決定することに格別な困難性を認めることはできない。

3-2-2 本件発明2について

本件発明2は本件発明1の溶液について、動粘度が58,385cst、分子量が1.5百万ダルトン、及び固有粘度が2450mg/lであるか、又は動粘度が57,325cst.、分子量が1.4百万ダルトン及び固有粘度が2239mg/lであることを特定したものである。
しかし、ヒアルロン酸ナトリウム溶液の作用は動粘度や分子量が特定の値に一致しなければ奏されないというものではなく、上記刊行物2のAmvisc(登録商標)Healon(登録商標)に見られるように、製品自体にも一定の範囲内でのばらつきが許容されるものである。したがって、Amvisc Plus(登録商標)の動粘度55,000cstやその分子量の決定値に近い範囲内のヒアルロン酸ナトリウム溶液として、58,385cstや57,325cstの動粘度、分子量約1.5百万ダルトンや、1.4百万ダルトンの溶液を調製し、これについての上記効果を確認することも当業者が容易になし得る範囲のことと認められる。
なお、本件発明2では固有粘度の特定もなされているが、分子量と固有粘度とは刊行物2(p535左欄)の(n)=0.036M0.78 ((n)=固有粘度、M=分子量 )の式の関係があるから、分子量とは独立した格別の技術的意味のある特定要件とみることはできない。

4.むすび

以上のとおり、本件発明1〜2は、上記刊行物A、1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ヒアルロン酸ナトリウム組成物
(57)【特許請求の範囲】
1)せん断速度1秒-1及び温度25℃で測定された45,000〜64,000cSt.の範囲内の動粘度を有し、そして生理的食塩水中に12.0〜20.0mg/mlのヒアルロン酸ナトリウムを含有する、手術後に低い眼内圧を患者に与えるための溶液に於て、このヒアルロン酸ナトリウムは1百万〜2百万ダルトンの範囲内の重量平均分子量を有する上記溶液。
2)動粘度が58,385cSt.、分子量が1.5百万ダルトン、及び固有粘度が2450mg/lであるか又は動粘度が57,325cSt.、分子量が1.4百万ダルトン及び固有粘度が2239mg/lである、請求項1記載の溶液。
【発明の詳細な説明】
本発明はヒアルロン酸ナトリウムに関し,特に眼科外科手術に於ける助剤として有用であるヒアルロン酸ナトリウムの組成物に関する。
ヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)粘弾性組成物は,白内障外科手術の様な特定の眼科処置に於て広く使用されている。これらの処置でこの組成物を前眼房中に入れ,外科手術の処置を促進することができる。一般にこの組成物は外科手術の終了時に部分的に又は実質上完全に除かれる。たとえば米国特許第4,328,803号明細書参照,ここにはその場で希釈して一部除去すると提案されている。
ときどき外科医は,外科手術助剤として粘弾性組成物を一緒に使用する外科手術の後に,増加した眼内圧(IOP)を観察している。この増加に関する理由は,十分に分っていない。というのは一時的な増加が,粘弾性助剤を使用しない型どおりの外科手術処置の後でさえも生じるからである。たとえばルイツ(Ruiz),R.S.等,Amer.J.of Ophthal.,103:487-491,(1987)参照。しかしこれには,小柱網を通過する水性分泌液の流出が減少した時に,粘弾性外科手術助剤組成物の使用に関係するIOP上昇が生じると示されている。またここには,流出のこの妨害が粘弾性の,たとえばヒアルロン酸ナトリウムの残存分子の存在によってもたらされると示されている。比較的大きいヒアルロン酸ナトリウム分子が小柱網に入った時に,これは水性分泌物の流出を減少させる。
小柱網の妨害は,粘弾性組成物が小柱網に入る時,その生成物の粘度にも関係する。ベネデット(Benedetto),Ophthal.Times,4月15日,1987年,第58頁,シューベルト(Schubert)等,(たとえばEye Res.,39:137-182,1984)に,低粘性NaHA溶液(10,000センチストークス)は高粘性溶液(40,000cSt)よりも絶えず高いIOP上昇を生じると報告されている。彼らはそこで小柱網中で″交通渋滞″を引き起すこのNaHA溶液の急速な溶解のゆえにこれが生じると推論している。
眼科外科手術で助剤として使用されるNaHA組成物中の粘度及び分子量双方の重要性は,手術後のIOP増加に於ける可能なファクターとしてシューベルト等,たとえばEye Res.39:137-152(1984)によって示された。
手術後のIOP増加の起りうるメカニズムにかかわらず,この現象は望まれず,多くの配慮がこの問題の解決に注がれている。特にそれはヒアルロン酸ナトリウムの使用に関してである。たとえばその解決は米国特許第4,328,803号明細書中にパペ(Pape)によって述べられている。それは,前房に入ったヒアルロン酸ナトリウムをその場で希釈することを提案する。
本発明者は,特定の分子量及び粘度を有する特定のヒアルロン酸ナトリウム組成物を眼科外科手術処置に使用することができ,その使用は(これまで市販されているヒアルロン酸ナトリウム組成物の使用に比して)手術後の眼内圧の著しく小さい増加に関係することを見い出した。
本発明は生理的食塩水中にヒアルロン酸ナトリウムを含有する溶液にあり,これは45,000cSt〜64,000cStの範囲内の動粘度を有し,上記ヒアルロン酸ナトリウムは1百万〜2百万ダルトンの範囲内の重量平均分子量を有する。
この溶液は,通常の眼科外科手術で粘弾性助剤として白内障を除去するのに,緑内障を矯正するのに又は硝子体切除で硝子体と置き換えるのに有用である。この溶液は,外科手術で硝子体損失が生じる処置で特に有用であり,かつ硝子体を適当な位置に押し入れる機械装置が必要である。眼内出血又は絨毛膜様排除出血は,本発明の組成物を公知の処置で有用に使用する条件の付加的な例である。
第1図は下記例2で観察されたIOP値のグラフによる描写である。
医学的装置に容認されたグレート及び純度を有するヒアルロン酸ナトリウムは,よく知られた化合物であり,広範な分子量でこれを製造する方法も知られている;たとえば米国特許第4,141,973号明細書中に記載された製造法参照。
本発明の組成物を,重量平均分子量1〜2百万ダルトンを有するヒアルロン酸ナトリウムの医学的に容認されたグレードを十分な割合の生理的食塩水中に溶解して,45,000〜64,000センチストークスの所望の範囲内に動粘度を有する溶液が得られることによって製造することができる。一般に得られた溶液は,溶液あたり約12.0〜約20.0mg/mlのヒアルロン酸塩濃度を有する。その代りに最終生成物中に望まれるよりも低い粘度及び濃度を有する溶液を製造し,次いでNaHAの最終粘度及び濃度を,溶液から水を蒸発して又は溶剤,すなわちエタノール中で再沈殿し,沈殿を減圧乾燥し,次いで沈殿を適当な生理学的溶液,すなわち塩化ナトリウム(米国薬局方)中に再溶解してヒアルロン酸ナトリウムを再処理し,ヒアルロン酸ナトリウム濃度の調整によって適切な粘度とすることによって達成する。
本発明の組成物を製造する方法は,ヒアルロン酸ナトリウムを生理的食塩水中で,好ましくは無菌条件下通常の混合装置及び技術を用いて簡単に混合することである。
緩衝剤,安定剤,保存剤及び滅菌剤を必要に応じて又は所望の場合本発明の溶液に通常公知の割合で加えることができる。
眼科外科手術に於ける助剤としてNaHAの粘弾性溶液を使用する方法は,公知であり,ここで詳細に説明する必要はない;たとえば米国特許第4,328,803号明細書に記載された処置参照。
次の例及び調製に,本発明の製造及び使用の処理方法を示し,本発明を実施するにあたり最良の方法を示すが,これによって本発明は限定されない。そこでは次のテストを行う。
分子量
記録される分子量は,重量平均分子量であり,ラウレント(Laurent)等,Biochimica et Biophysics Acta.,42;476-485(1960)の式を用いて固有粘度数から計算によって決定される。
動粘度:
コーンスピンドル(Cone spindle)CP52を有するブルックフィールドデジタル粘度計モデルRVTDCPを用いて25℃の温度及びせん断速度1秒-1で測定する。
固有粘度(I.V.)
固有粘度をキャノン-ウブベローデセミ-マイクロ希釈粘度計(Cannon-Ubbelohde semi-micro dilution viscometer),サイズ75を用いて37℃で測定し,ミリリットル/グラム(ml/g)で記録する。
調製1.
医学的使用に容認された純度を有し,かつ算出された重量平均分子量2.04×106ダルトンを有するヒアルロン酸ナトリウムのある量を,滅菌された,発熱性物質不含の生理的食塩水中に加え,動粘度 41.554センチストークス(cSt)及びヒアルロン酸塩濃度10.99mg/mlが得られる。この溶液は,固有粘度3012ml/gを有する。
例1
より低い重量平均分子量約1.5×106ダルトンのヒアルロン酸ナトリウムのある量を,滅菌された,発熱性物質不含生理学的食塩水中に加え,動粘度平均 58,385cSt及びヒアルロン酸塩濃度 15.29mg/mlを生じる。固有粘度は2450ml/gである。
例2
3つの診療所で60人のグループを選択する。各人はヒアルロン酸ナトリウムの粘弾性溶液の使用によって促進される眼科外科手術を必要とする。このグループを夫々30人の2つのサブグループに分ける。次いで患者を,夫々外科医の標準的処置によって手術する。たとえば次の外科手術処置は外科医1によって行われる:
処置:
局所麻酔が,2%キシロカイン,0.5%マルカイン,1:100,000エピネフリン及び150単位ヒアルロニダーゼ(Wydase)を用いて左眼のナドバス(nadbath)及び眼球後の位置で行われる。眼に,これに関して規定通りの方法及び注意を守って手術の用意をし、かつ滅菌した布でまわりを包む。シヤハル開瞼器を挿入する。4-0糸状帯縫合糸を,上方の直筋の腱の下側に置く。180°上方の環状切除を行う。うっ血になる。部分的に厚い角膜強膜の切開を,66-パウフィークブレード(Paufique blade)の前方でレーザーブレードナイフで行う。前房に,12時にレーザーブレードナイフを入れ,これを注射する。前嚢切開を30ゲージ針で行う。
切開を2つの方向に角膜強膜はさみを用いて行う。水晶体核を眼から取り出す。皮質残遺物を洗浄し,眼から吸引する。ヒアルロン酸ナトリウムのもとで困難なく後房中に眼内水晶体を挿入する。ミオコールを注射し,瞳孔を良好に丸くする。周辺虹彩切除を12時に行う。切開を,10の中断された10-0ナイロン縫合糸で球体がテリー(Terry)角膜計を用いて実証されるまで閉じる。結膜を,10-0ナイロン縫合糸を用いて4及び8時に接合する。トブラマイシン40mg,セファジル500mg及びバンコマイシン25mgを含有する副結膜注射を6及び12時に,並びにセレストン6mgを6時に行う。眼を眼帯で覆う。
夫々の処置で,ヒアルロン酸ナトリウム溶液 0.5mlを,外科手術の間前房に入れる。外科手術の終了後,ミオコールを注射する。診療所1での外科医(各グループ中に20人の患者)は,外科手術の終了時に十分に洗浄しない。診療所2及び3での外科医(各グループ中に10人の患者)は,粘弾性の十分な除去を行う。30人の患者のいる第一のグループ――これはコントロールグループとしての役目を果す――で,使用されるヒアルロン酸ナトリウム溶液を上記調製1に従って製造する。30人の患者のいる第二グループでその溶液を上記例1に従って製造する。
手術前に及び外科手術の終了後定期的間隔(2,4,6,12,24及び48時間)で,手術された眼に関する患者の眼内圧を測定する。テスト結果(平均値)を示す。そこでNaHA溶液の不完全な除去があり,一方表2はこれらの患者に対するIOP値(平均)を示す。そこで完全な除去がある。表3は一緒にされた値を示す。
下記表3中に示される平均IOP値を添付した第1図中にグラフで,手術前から手術後48時間までの時間枠で示す。




眼内圧はmmHgで示す。
調製2
医学的使用に容認された純度を有し,算出された重量平均分子量2.65×106ダルトンを有するヒアルロン酸ナトリウムのある量を,滅菌された,発熱性物質不含生理学的食塩水中に加え,動粘度41.850cSt及びヒアルロン酸塩濃度9.58mg/mlを有する溶液が得られる。調製物は,固有粘度3684ml/gを有する。
例3
より低い重量平均分子量(約1.40×106ダルトン)を有するヒアルロン酸ナトリウムのある量を,滅菌,発熱性物質不含生理的食塩水中に加え,動粘度 57,325cSt及びヒアルロン酸塩濃度16.75mg/mlが得られる。調製物は,固有粘度2239ml/gを有する。
例4
調製2及び例3のサンプルをニュージーランド白ウサギで評価する。成人ウサギ(5-6obs)をこの水様液交替試験に使用する。試験前のある日,スリットランプ評価によって各動物の両眼をフルオレッセン染料を用いて調べ,角膜上皮の状態を測定する。角膜上皮を,いくつの角膜浸食,潰瘍又はふぞろいがあるかどうかを測定して評価する。その試験の日に,各動物をテスト物質の注射前に再度評価する。フルオレッセン染料を,この注射前に評価に使用しない。角膜,水晶体又は結膜損傷,炎症又は不規則性が前もってある動物は,この試験に使用しない。
全身麻酔をロンパン(Rompun)(1mg/kg体重)及びケタミンHCl(5mg/kg体重)の筋肉内注射で達成する。瞳孔を,1%シクロペントラート及び10%フエニルエピリンHCl0.05mlの局部投与で広げる。0.5%プロパラカイン1滴を水様液注射の前に局部投与する。すべての注射される溶液は滅菌され,希釈されずに投与する。
眼に外科手術を行い,25ケージバタフライ注入針を10時位置に挿入する。縁に対して0.2mm前方。前房の虚脱を防止するために,テスト物質の注射を開始するまで流出管にフタをして残こす。27ケージ針を備えた1cc注射器を2時位置に挿入する。縁に対して0.2mm前方。針の傾斜したさきを角膜内皮からはずす。前房をテスト物質0.2ccで満たし,流出及び流入針を除く。眼内圧をスパイロメーターで追跡する。IOP記録を以下に示す:

調製3
医学的使用に容認された純度を有し,重量平均分子量1.86×106ダルトンを有するヒアルロン酸ナトリウムのある量を,滅菌された,発熱性物質不含生理的食塩水中に加え,動粘度36.011cSt及びヒアルロン酸塩濃度11.36mg/mlを有する溶液が得られる。調製物は,固有粘度2790ml/gを有する。
例5
上記調製3のヒアルロン酸ナトリウム調製物のある量を,オートクレーブによって121℃に10分間加熱する。加熱処理の後,ヒアルロン酸ナトリウムを,エタノール中に沈殿させて回収し,減圧で乾燥し,脱鉄化された発熱性物質不含水に加え,動粘度約30,000cSt及びヒアルロン酸塩濃度25.65mg/mlを有する溶液が得られる。調製物は,固有粘度1350ml/g及び算出された分子量0.73×106ダルトンを有する。
上記調製3及び上記例5のサンプルを,猫モデルの5つの眼中に移植して評価する。制御された眼をコントロールとして使用する。IOP測定を30分間隔で6時間測定する。その結果は以下の通りである。

【図面の簡単な説明】
第1図は,本発明による特定のヒアルロン酸ナトリウム溶液(例1)を使用した場合のIOP値を,手術前から手術後48時間までを示す。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-03-18 
出願番号 特願平2-64472
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (A61K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 弘實 謙二  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 横尾 俊一
深津 弘
登録日 2000-05-12 
登録番号 特許第3065327号(P3065327)
権利者 ボーシュ・アンド・ロム・インコーポレイテッド
発明の名称 ヒアルロン酸ナトリウム組成物  
代理人 遠山 勉  
代理人 松倉 秀実  
代理人 三原 恒男  
代理人 奥村 義道  
代理人 江崎 光史  
代理人 須藤 阿佐子  
代理人 川口 嘉之  
代理人 奥村 義道  
代理人 江崎 光史  
代理人 三原 恒男  

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