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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 F04C 審判 全部申し立て 2項進歩性 F04C 審判 全部申し立て 発明同一 F04C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 F04C |
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管理番号 | 1105893 |
異議申立番号 | 異議2002-72837 |
総通号数 | 60 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-03-10 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-11-26 |
確定日 | 2004-09-04 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3286211号「スクロール型圧縮機」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3286211号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第3286211号の請求項1〜4に係る発明は、平成9年6月20日(優先権主張平成8年6月20日)に特許出願されたものであって、平成14年3月8日にその特許権の設定登録がなされ、平成14年11月26日に内村匡宏から、その請求項1〜4に係る発明の特許に対し特許異議の申立てがなされ、平成15年4月24日付け(同年5月9日発送)で取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成15年7月8日に訂正請求がなされ、さらに、平成15年10月1日付け(同年10月10日発送)で再度の取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成15年12月5日に先の訂正請求を取り下げるとともに新たな訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の、「流体ポケットを渦巻壁の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体の圧縮を行うようにしたスクロール型圧縮機において、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁は、」を「流体ポケットを渦巻壁の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体を圧縮して吐出孔から吐出するようにしたスクロール型圧縮機において、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の前記中心に対応した中央端部のみの内壁は、」と訂正する。(下線は、訂正個所を明示するために当審で付した。以下の訂正事項においても同様。) 訂正事項b 特許請求の範囲の請求項1の、「側板と渦巻壁の中央端部の境界部に、渦巻壁の渦巻曲線とその曲線に接続する円弧の接続点を内在する内壁から外壁にかかる範囲に根元フィレットを設けた形状であり、」を「側板と渦巻壁の中央端部との境界部には、渦巻壁の内壁及び外壁をそれぞれ規定する二つの渦巻曲線間を接続した円弧を含む曲線により規定された内壁から外壁にかかる部分に対応する範囲に根元フィレットを設け、さらに、吐出孔により流体ポケットの密閉が阻害されるときの位相角(θ2)と円軌道運転の半径(r0)とにより決まる位相角(θ1)の位置まで根元フィレットを渦巻壁の外壁に沿って延長形成し、」と訂正する。 訂正事項c 特許請求の範囲の請求項2、4の、「側板に近い渦巻壁厚の厚い部位と側板から遠い渦巻壁厚の薄い部位をつなぐ境界部に、渦巻壁断面積を渦巻壁高さ方向で連続的に変化させる中段フィレットを設け、」を「側板に近い渦巻壁厚の厚い部位と側板から遠い渦巻壁厚の薄い部位をつなぐ境界部に中段フィレットを設け、該中段フィレットを設けた部分における渦巻壁断面積を渦巻壁高さ方向で連続的に変化させ、」と訂正する。 訂正事項d 特許請求の範囲の請求項3の、「流体ポケットを渦巻壁の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体の圧縮を行うようにしたスクロール型圧縮機において、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁は、側板に近づくにつれて壁厚を厚くする形状で、」を「流体ポケットを渦巻壁の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体を圧縮して吐出孔から吐出するようにしたスクロール型圧縮機において、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の前記中心に対応した中央端部のみの内壁は、側板に近づくにつれて壁厚を厚くする段差を有した形状で、」と訂正する。 訂正事項e 特許請求の範囲の請求項3の、「側板と渦巻壁の中央端部の境界部に、渦巻壁の渦巻曲線とその曲線に接続する円弧の接続点を内在する内壁から外壁にかかる範囲に根元フィレットを設けた形状であり、上段の渦巻壁」を「側板と渦巻壁の中央端部との境界部には、渦巻壁の内壁及び外壁をそれぞれ規定する二つの渦巻曲線間を接続した円弧を含む曲線により規定された内壁から外壁にかかる部分に対応する範囲に根元フィレットを設け、さらに、吐出孔により流体ポケットの密閉が阻害されるときの位相角(θ2)と円軌道運動の半径(r0)とにより決まる位相角(θ1)の位置まで根元フィレットを渦巻壁の外壁に沿って延長形成し、前記段差よりも上段の渦巻壁」と訂正する。 訂正事項f 明細書の段落【0012】を、「【課題を解決するための手段】本発明によれば、側板上に渦巻壁を設けてなるスクロール部材の一対を、両渦巻壁を互いに角度をずらして重ね合わせ、一方のスクロール部材の相対的な円軌道運動によって両渦巻壁間に形成される流体ポケットを渦巻壁の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体の圧縮を行うようにしたスクロール型圧縮機において、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁は、側板に近づくにつれて壁厚を厚くする形状で、かつスクロール部材の円軌道運動時に相手側スクロール部材の渦巻壁の中央端部の内壁とほぼ符合し、しかも側板と渦巻壁の中央端部の境界部に、渦巻壁の渦巻曲線とその曲線に接続する円弧の接続点を内在する内壁から外壁にかかる範囲に根元フィレットを設けた形状であり、渦巻壁と相手側スクロール部材の根元フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設けた事を特徴とするスクロール型圧縮機が得られる。」から「【課題を解決するための手段】本発明によれば、側板上に渦巻壁を設けてなるスクロール部材の一対を、両渦巻壁を互いに角度をずらして重ね合わせ、一方のスクロール部材の相対的な円軌道運動によって両渦巻壁間に形成される流体ポケットを渦巻壁の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体を圧縮して吐出孔から吐出するようにしたスクロール型圧縮機において、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の前記中心に対応した中央端部のみの内壁は、側板に近づくにつれて壁厚を厚くする形状で、かつスクロール部材の円軌道運動時に相手側スクロール部材の渦巻壁の中央端部の内壁とほぼ符合し、しかも側板と渦巻壁の中央端部との境界部には、渦巻壁の内壁及び外壁をそれぞれ規定する二つの渦巻曲線間を接続した円弧を含む曲線により規定された内壁から外壁にかかる部分に対応する範囲に根元フィレットを設け、さらに、吐出孔により流体ポケットの密閉が阻害されるときの位相角(θ2)と円軌道運転の半径(r0)とにより決まる位相角(θ1)の位置まで根元フィレットを渦巻壁の外壁に沿って延長形成し、渦巻壁と相手側スクロール部材の根元フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設けた事を特徴とするスクロール型圧縮機が得られる。」に訂正する。 訂正事項g 明細書の段落【0013】を、「好ましくは、スクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁には、側板に近い渦巻壁厚の厚い部位と側板から遠い渦巻壁厚の薄い部位をつなぐ境界部に、渦巻壁断面積を渦巻壁高さ方向で連続的に変化させる中段フィレットを設け、渦巻壁と相手側スクロール部材の中段フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁高さ方向に設ける。」から「好ましくは、スクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁には、側板に近い渦巻壁厚の厚い部位と側板から遠い渦巻壁厚の薄い部位をつなぐ境界部に中段フィレットを設け、該中段フィレットを設けた部分における渦巻壁断面積を渦巻壁高さ方向で連続的に変化させ、渦巻壁と相手側スクロール部材の中段フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁高さ方向に設ける。」に訂正する。 訂正事項h 明細書の段落【0014】を、「また本発明によれば、側板上に渦巻壁を設けてなるスクロール部材の一対を、両渦巻壁を互いに角度をずらして重ね合わせ、一方のスクロール部材の相対的な円軌道運動によって両渦巻壁間に形成される流体ポケットを渦巻壁の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体の圧縮を行うようにしたスクロール型圧縮機において、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁は、側板に近づくにつれて壁厚を厚くする形状で、かつスクロール部材の円軌道運動時に相手側スクロール部材の渦巻壁の中央端部の内壁とほぼ符合し、しかも側板と渦巻壁の中央端部の境界部に、渦巻壁の渦巻曲線とその曲線に接続する円弧の接続点を内在する内壁から外壁にかかる範囲に根元フィレットを設けた形状であり、上段の渦巻壁と相手側スクロール部材の根元フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設けた事を特徴とするスクロール型圧縮機が得られる。」から「また本発明によれば、側板上に渦巻壁を設けてなるスクロール部材の一対を、両渦巻壁を互いに角度をずらして重ね合わせ、一方のスクロール部材の相対的な円軌道運動によって両渦巻壁間に形成される流体ポケットを渦巻壁の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体を圧縮して吐出口から吐出するようにしたスクロール型圧縮機において、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の前記中心に対応した中央端部のみの内壁は、側板に近づくにつれて壁厚を厚くする段差を有した形状で、かつスクロール部材の円軌道運動時に相手側スクロール部材の渦巻壁の中央端部の内壁とほぼ符合し、しかも側板と渦巻壁の中央端部との境界部には、渦巻壁の内壁及び外壁をそれぞれ規定する二つの渦巻曲線間を接続した円弧を含む曲線により規定された内壁から外壁にかかる部分に対応する範囲に根元フィレットを設け、さらに、吐出孔により流体ポケットの密閉が阻害されるときの位相角(θ2)と円軌道運転の半径(r0)とにより決まる位相角(θ1)の位置まで根元フィレットを渦巻壁の外壁に沿って延長形成し、前記段差よりも上段の渦巻壁と相手側スクロール部材の根元フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設けた事を特徴とするスクロール型圧縮機が得られる。」に訂正する。 訂正事項i 明細書の段落【0015】を、「好ましくは、スクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁には、側板に近い渦巻壁厚の厚い部位と側板から遠い渦巻壁厚の薄い部位とをつなぐ境界部に、渦巻壁断面積を渦巻壁高さ方向で連続的に変化させる中段フィレットを設け、渦巻壁と相手側スクロール部材の中段フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁高さ方向に設ける。」から「好ましくは、スクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁には、側板に近い渦巻壁厚の厚い部位と側板から遠い渦巻壁厚の薄い部位をつなぐ境界部に中段フィレットを設け、該中段フィレットを設けた部分における渦巻壁断面積を渦巻壁高さ方向で連続的に変化させ、渦巻壁と相手側スクロール部材の中段フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁高さ方向に設ける。」に訂正する。 訂正事項j 明細書の段落【0023】を、「渦巻壁172の中央端部を構成する壁体200の下段部202の上面から見た形状は、外壁205がインボリュート曲線で形成されている。壁体200の下段部202における内壁207は、インボリュート曲線と、これに引き続く半径R1の円弧と、半径r1の逆向きの円弧と、幾つかの直線とを含む形状にされている。」から「渦巻壁172の中央端部、即ち、吐出側の端部を構成する壁体200の下段部202の上面から見た形状は、外壁205がインボリュート曲線で形成されている。壁体200の下段部202における内壁207は、インボリュート曲線と、これに引き続く半径R2の円弧と、半径r1の逆向きの円弧と、幾つかの直線とを含む形状にされている。」に訂正する。 訂正事項k 図3において、参照符号「202」を「203」に訂正し、かつ、参照符号「202」及び「208」を加入する。 訂正事項l 図4において、参照符号「202」を「203」に訂正し、かつ、参照符号「202」及び「208」を加入する。 訂正事項m 図5において、参照符号「202」を「203」に訂正し、かつ、参照符号「202」及び「208」を加入する。 訂正事項n 図6において、参照符号「202」を「203」に訂正し、かつ、参照符号「202」及び「208」を加入する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否 上記訂正事項aは、渦巻壁の中央端部の位置、及び、渦巻壁の吐出側の端部の形状を明確にしたものである。したがって、この訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するとともに、特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。 そして、流体ポケットの容積を減少させて流体を圧縮して吐出口から吐出するようにしたスクロール型圧縮機、および、一対のスクロール部材の中央端部のみの内壁を側板に近づくにつれて壁厚を厚くする形状とすることについては、願書に最初に添付された明細書及び図面に示されているから、新規事項の追加に該当しない。 上記訂正事項bは、根元フィレットを設ける範囲を明確にするものであるので、この訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するとともに、特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。 そして、この根元フィレットを設ける範囲については、願書に最初に添付された明細書及び図面に示されているから、新規事項の追加に該当しない。 上記訂正事項cは、中段フィレットの構成を明確にするものであるので、この訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、この中段フィレットの構成は願書に最初に添付された明細書及び図面に示されているから、新規事項の追加に該当しない。 上記訂正事項dは、渦巻壁の中央端部の位置、及び、渦巻壁の吐出側の端部の形状を明確にしたものである。したがって、この訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するとともに、特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。 そして、流体ポケットの容積を減少させて流体を圧縮して吐出口から吐出するようにしたスクロール型圧縮機、および、一対のスクロール部材の中央端部のみの内壁を側板に近づくにつれて壁厚を厚くする形状とすることについては、願書に最初に添付された明細書及び図面に示されているから、新規事項の追加に該当しない。 上記訂正事項eは、根元フィレットを設ける範囲を明確にするものであるので、この訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するとともに、特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。 そして、この根元フィレットを設ける範囲については、願書に最初に添付された明細書及び図面に示されているから、新規事項の追加に該当しない。 上記訂正事項f〜jは、上記訂正事項a〜eに伴って、発明の詳細な説明の欄の対応箇所を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当するものであるとともに、新規事項の追加に該当しない。 また、上記訂正事項f〜jは、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 上記訂正事項k〜nは、明細書の記載と図面の記載とが整合するように、参照符号を訂正、加入するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当するものであるとともに、新規事項の追加に該当しない。 また、上記訂正事項a〜nは、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)異議申立ての理由の概要 異議申立人内村匡宏は、次の理由1、2により、請求項1〜4に係る発明の特許は取り消されるべきであると主張。 ・理由1:下記の甲第1〜3号証を提出し、請求項1〜4に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 甲第1号証:特開昭59ー79090号公報 甲第2号証:実願昭60ー22541号(実開昭61ー140101号)のマイクロフィルム 甲第3号証:特開昭63ー201385号公報 ・理由2:本件請求項1〜4項に係る特許は、下記a、bの点で明細書の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第4項、及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 記 a.請求項1〜4記載の、「渦巻曲線」とはどのような曲線か不明りょうである。また、その曲線に接続する円弧の「接続点」についても、その位置を特定できない。 b.請求項3に、「上段の渦巻壁」なる記載があるが、その前段部では、渦巻壁は「 側板に近づくにつれて壁厚を厚くする形状」とのみ限定されているから、渦巻壁に「上段」の部位は存在しない。したがって、発明が明確に記載されていない。 (2)平成15年4月24日付け取消理由の概要 異議申立の理由1、2のほかに、次の理由3により、請求項1〜4に係る発明の特許は取り消すべきであると通知。 ・理由3:本件出願の請求項1〜4に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 記 特願平7ー246978号(特開平9ー68177号公報、平成7年8月31日出願、平成9年3月11日出願公開) (3)平成15年10月1日付け取消理由の概要 次の理由4により、平成15年7月8日付け訂正明細書(後に取り下げ)の請求項1〜4に係る発明の特許は取り消すべきであると通知。 ・理由4:本件出願の請求項1〜4に係る発明は、下記の刊行物1〜3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物1:特公平3ー72839号公報 刊行物2:実願昭60ー22541号(実開昭61ー140101号)のマイクロフィルム(甲第2号証) 刊行物3:特開昭63ー201385号公報(甲第3号証) (4)進歩性に関しての検討 i.本件の請求項に係る発明 上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1〜4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】側板上に渦巻壁を設けてなるスクロール部材の一対を、両渦巻壁を互いに角度をずらして重ね合わせ、一方のスクロール部材の相対的な円軌道運動によって両渦巻壁間に形成される流体ポケットを渦巻壁の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体を圧縮して吐出孔から吐出するようにしたスクロール型圧縮機において、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の前記中心に対応した中央端部のみの内壁は、側板に近づくにつれて壁厚を厚くする形状で、かつスクロール部材の円軌道運動時に相手側スクロール部材の渦巻壁の中央端部の内壁とほぼ符合し、しかも側板と渦巻壁の中央端部との境界部には、渦巻壁の内壁及び外壁をそれぞれ規定する二つの渦巻曲線間を接続した円弧を含む曲線により規定された内壁から外壁にかかる部分に対応する範囲に根元フィレットを設け、さらに、吐出孔により流体ポケットの密閉が阻害されるときの位相角(θ2)と円軌道運動の半径(r0)とにより決まる位相角(θ1)の位置まで根元フィレットを渦巻壁の外壁に沿って延長形成し、渦巻壁と相手側スクロール部材の根元フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設けた事を特徴とするスクロール型圧縮機。 【請求項2】スクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁には、側板に近い渦巻壁厚の厚い部位と側板から遠い渦巻壁厚の薄い部位をつなぐ境界部に中段フィレットを設け、該中段フィレットを設けた部分における渦巻壁断面積を渦巻壁高さ方向で連続的に変化させ、渦巻壁と相手側スクロール部材の中段フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁高さ方向に設けた事を特徴とする請求項1記載のスクロール型圧縮機。 【請求項3】側板上に渦巻壁を設けてなるスクロール部材の一対を、両渦巻壁を互いに角度をずらして重ね合わせ、一方のスクロール部材の相対的な円軌道運動によって両渦巻壁間に形成される流体ポケットを渦巻壁の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体を圧縮して吐出孔から吐出するようにしたスクロール型圧縮機において、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の前記中心に対応した中央端部のみの内壁は、側板に近づくにつれて壁厚を厚くする段差を有した形状で、かつスクロール部材の円軌道運動時に相手側スクロール部材の渦巻壁の中央端部の内壁とほぼ符合し、しかも側板と渦巻壁の中央端部との境界部には、渦巻壁の内壁及び外壁をそれぞれ規定する二つの渦巻曲線間を接続した円弧を含む曲線により規定された内壁から外壁にかかる部分に対応する範囲に根元フィレットを設け、さらに、吐出孔により流体ポケットの密閉が阻害されるときの位相角(θ2)と円軌道運動の半径(r0)とにより決まる位相角(θ1)の位置まで根元フィレットを渦巻壁の外壁に沿って延長形成し、前記段差よりも上段の渦巻壁と相手側スクロール部材の根元フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設けた事を特徴とするスクロール型圧縮機。 【請求項4】スクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁には、側板に近い渦巻壁厚の厚い部位と側板から遠い渦巻壁厚の薄い部位をつなぐ境界部に中段フィレットを設け、該中段フィレットを設けた部分における渦巻壁断面積を渦巻壁高さ方向で連続的に変化させ、渦巻壁と相手側スクロール部材の中段フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁高さ方向に設けた事を特徴とする請求項3記載のスクロール型圧縮機。」 ii.引用刊行物に記載された発明 特許異議申立人が証拠として提示した甲第1〜3号証(以下、それぞれ「引用例1」〜「引用例3」という。)、及び、平成15年10月1日付けの取消しの理由で引用した刊行物1(以下、「引用例4」という。)には、それぞれ以下のような事項が記載されている。 ア.引用例1:特開昭59ー79090号公報 a.「板状の歯をピッチの等しい渦巻状に形成した固定スクロールと、この固定スクロールの歯と同一形状の歯を形成した揺動スクロールとを対向して嵌め合わせ、上記揺動スクロールの揺動運動により上記固定スクロールと上記揺動スクロールの歯の間に形成された圧縮室の体積を縮小させながら中心部に移動させ、上部中心部から圧縮気体を吐出するスクロール圧縮機において」(第1頁左下欄第5〜13行) b.「上記固定スクロール及び上記揺動スクロールを構成する歯の根もとの厚さを歯先の厚さより厚くした」(第1頁左下欄第13〜15行) c.「(14)は根本の厚さLが歯先の厚さMより大きな台形状に形成した固定スクロール(1)の歯、(15)は固定スクロール(1)の歯(14)と同一形状寸法に形成した揺動スクロール(2)の歯である。」(第3頁左上欄第3〜7行) d.「第12図はこの発明の他の実施例を示すもので固定スクロール(1)及び揺動スクロール(2)の歯(1a)(2a)及び台板(1d)(2b)・・・を示し」(第3頁右上欄第9〜12行) e.応力の集中を少なくするためと成型用金型からの離脱を容易にするために、歯(1a)(2a)の根本ならびに歯先に丸みを持たせている。(第3頁右上欄第14〜17行) 上記記載事項a〜e、及び第10〜12図によれば、引用例1には、「固定スクロール及び上記揺動スクロールを構成する歯の根もとの厚さを歯先の厚さより厚くしたスクロール圧縮機」の発明、及び、「応力の集中を少なくするために、歯の根本ならびに歯先に丸みを持たせる」技術が記載されているものと認められる。 イ.引用例2:実願昭60ー22541号(実開昭61ー140101号)のマイクロフィルム i.「特に、圧力条件(圧力分布)並びにラップ形状に基づく耐性より、上記クラックの発生あるいは破損事故は第7図に示すように、ラップのうず巻き内方(中心部)先端近傍で生じることがほとんどであった。」(明細書第3頁第6〜10行) j.「ラップ内方先端部根元に於いてピン角部の応力集中により生じるクラックの発生やラップの破損を解消するため、第8図の如く両スクロールが噛み合わないラップ内方先端部(点a〜点b)近傍のみ、もしくは側板の該当部分に、半径pのコーナRを設け(第9図参照)、ピン角による応力集中を主因としたラップ破損を防ぐことが提案されている。」(明細書第3頁第11〜18行) k.「第10図(両スクロールの噛み合い点が第8図の点a〜点b間の区間となった時の噛み合い位置での断面を示す。)に示す様にピン角を有する場合の元のラップ肉厚のままでは根元のR部分と相手のラップ先端部分が干渉する(一点鎖線)ため、根元にRを設置すると同時にそのRに見合って両スクロールのラップの肉厚を若干薄くする必要があり、わずかながら肉厚減少による強度低下が生じる。」(明細書第3頁第20行〜第4頁第8行) l.「ラップ11aのうず巻き内方先端部の両スクロールが噛み合わない点a〜点bにのみ根元と歯先部分コーナRを設ける。・・・ラップの強度はコーナRを設けた分だけ上昇させることが可能となる。また両スクロールが噛み合う位置は従来のものと同じであり性能は変わらない。」(明細書第5頁第1〜20行) 上記記載事項i、jによると、引用例2には、「ラップ内方先端部根元に於いて、両スクロールが噛み合わないラップ内方と側板との間に、コーナRを設けラップ破損を防ぐ」技術が記載されているものと認められる。 また、上記記載事項kによると、引用例2には、相手側スクロールの根元のR部分と相手のラップ先端部分の干渉を避けるために、そのRに見合ってスクロールのラップの肉厚を若干薄くすることが記載されている。この記載をもとに、第10図を見ると、「根元のRに見合ってスクロールのラップの肉厚を若干薄くする」ことと「一方のスクロールと相手方スクロール根元のRとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設ける」こととは、技術的に同じことを意味している。したがって、引用例2には、「一方のスクロールと相手方スクロール根元のRとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設ける」技術が記載されているものと認められる。 さらに、上記記載事項lによると、引用例2には、「両スクロールが噛み合って気体を圧縮する部分にコーナRを設けると、コーナRを有しない従来のものと同じ性能を得られない」という知見が記載されているものと認められる。 ウ.引用例3:特開昭63ー201385号公報 n.「従来のスクロール圧縮機は・・・第5図及び第6図において・・・二つのラップ68、70は端板67、69側が先端部よりも厚めに形成されている。つまり、ラップ68、70は両側面に勾配角θの勾配を形成し、先細りとなっている。そして、この勾配角θは旋回スクロール59と固定スクロール62とで等しく設定されている。この構造のスクロール圧縮機ではラップ68、70の側面に勾配を持たせてこのラップのつけ根部分を先端よりも厚くし、作動流体の圧縮圧力による曲げモーメントでラップ68、70が曲げられないようにしている。・・・固定スクロールと旋回スクロールとのラップの先端側の側面に階段状の切欠を設け、この切欠を互いにはめ合わせ、ラップのつけ根部の強度を低下させることなく圧縮空間の容積を大きくして、冷凍能力を向上させられるようにすることを目的にしたものである。」(第1頁右下欄第3行〜第2頁左下欄第4行) o.「固定スクロール13と旋回スクロール14とのラップ17、22には他のスクロールの端板15、21に近接する先端側の側面に互いにはめ込まれる階段状の切欠28、29が全周に渡って設けられている。」(第3頁左上欄第20行〜同頁左上欄第4行) p.「ラップ17、22先端側の幅を狭くし、つけ根部の幅が変わらないようにしており、圧縮時の圧縮圧力により曲げモーメントがラップ17、23に作用してもつけ根部の強度が弱められておらず、曲がりにくくされている。また、切欠28、29は一方の側面に階段状に形成されており、両側面を同一の角度でテーパー面を形成する従来のものに比べて、切削加工が簡単になるようにされている。」(第3頁左下欄第14行〜同頁右下欄第3行) q.第1〜4図には、「ラップ17、22の内壁を端板15、21に近い側で壁厚を厚くする形状」が記載されている。 上記記載事項n〜qによれば、引用例3には、「圧縮圧力による曲げモーメントによってラップ17、23つけ根部の強度が弱められないように、ラップの先端側の側面に階段状の切欠を設けて、スクロールのラップ17、22において、ラップの先端側の側面に階段状の切欠を設けて、端板15、21に近いラップ部位を厚くし、スクロールの端板から遠いラップ部位(切欠28、29を設けた部位)の厚さを薄くする」技術が記載されているものと認められる。 エ.引用例4:特公平3ー72839号公報 s.「固定スクロール部材17は一般に側板171とその一面上に形成されたうず巻体172を形成し・・・可動スクロール部材18は、側板181とその一面上に形成したうず巻体182とより構成され・・・。このような構成にて成る圧縮機は、一対のスクロール部材17、18の両うず巻体が180°の角度ずれをもってかみ合わされているので、両うず巻体の線接触部から線接触部にわたって密閉された流体ポケットが形成されることになり、主軸14が回動運動を行うと駆動機構及び回動阻止機構の動きによって可動スクロール部材18は所定の半径上を円軌道運動することとなる。したがって、うず巻体の壁面に沿ってうず巻体の内端方向へ移動し、ポケット内の流体を容積の減少を伴わせつつ徐々に圧縮することとなる。」(第2頁左欄第6〜42行) t.「うず巻体は圧縮機駆動中に圧力変動を常に受けることとなるので、疲れ破壊しやすい状況下に置かれている。特に中央端部ではうず巻の巻き終り点であるとともに最も大きな圧力下に置かれることとなるため、強度的に最も弱い部分であった。」(第2頁右欄第38〜43行) u.「本発明の目的はうず巻体の中央端部形状を改良することにより、うず巻体の耐久性を向上させ、小型、軽量の圧縮機を提供することにある。」(第3頁左欄第31〜34行) v.「うず巻体の外壁面と内壁面の中央うず巻中心側端部の結合は以下のようにして形成される。即ち、接線GC上に任意の点Fを設定し、FC=rを半径とする円弧を描く。一方接線HB上にB点よりr+ro(roはうず巻体の軌道半径)離れた点Eを設け、このE点を中心として半径R=r+roの円弧を描く。次に両円弧に共通な接線AーA’を引くことによって形成される形状によって内外壁面を連結してうず巻体の中央端部を形成している。」(第3頁右欄第25〜34行) w.「第8図aは可動うず巻体101と固定うず巻体100とによって形成された一対の密閉空間が連通して中央室103となり、最後の圧縮をされる直前の状態を示すもので可動うず巻体101の軌道運動によって中央出力103内の液体は圧縮され、吐出口102を通して排出される。第8図bは圧縮体の排出が継続されている。両うず巻体100,101の先端に形成される線接触部はインボリュート曲線に沿って移動するとともに、第8図bからcに移行する過程で、インボリュート曲線から外れるが円弧と円弧の接触で線接触部は継続して形成され、第8図cに示すように共有接線部の接触に移行する。ここで両うず巻体の共有接線部の接触によって中央室103の容積はほぼ零となる。」(第3頁右欄第38行〜第4頁左欄第8行) x.「うず巻体中央端部のみの壁厚を大きくとることができるので圧縮機の外形寸法を大きくとることなく、うず巻体の力学的強度を向上させることが可能となる。なお、このようなうず巻体を組合わせた場合、組付時の相対角度ずれあるいは、うず巻体の加工寸法誤差により、うず巻体中央部が干渉するおそれがある。このような点を解消させるためには、第5図に示すように円弧7の半径をわずか(ΔR)増加させ、かつ円弧5の半径をわずか(ΔR)減少させるとともに両円弧5、7を接続する共有接線6を内側にくい込むような任意の曲線とすればよい。」(第4頁左欄第25〜37行) 上記記載事項s〜w、及び第1図、第4図、第8図によれば、引用例4には「側板171、181上にうず巻体172、182を設けてなるスクロール部材17、18の一対を、両うず巻体172、182を互いに角度をずらして重ね合わせ、可動スクロール部材18の相対的な円軌道運動によって両うず巻体172、182間に形成される流体ポケットをうず巻体172、182の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体を圧縮して吐出口から吐出するようにしたスクロール型圧縮機において、一対のスクロール部材17、18のそれぞれのうず巻体172、182の前記中心に対応した中央端部のみの内壁は、壁厚を厚くする形状で、かつ可動スクロール部材18の円軌道運動時に固定スクロール部材17のうず巻体172の中央端部の内壁と可動スクロール部材18のうず巻体182の中央端部の内壁とがほぼ符合するスクロール型圧縮機。」の発明が記載されているものと認められる。また、上記記載事項x、及び第5図によれば、引用例4には「両うず巻体中央端部の干渉を防ぐために隙間を壁厚方向に設ける」技術が記載されている。 iii.対比及び判断 本件発明1〜4と引用例1〜4記載の発明とを対比すると、上記引用例1〜4に記載のものは、いずれも「一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の前記中心に対応した中央端部のみの内壁は、側板に近づくにつれて壁厚を厚くする形状で、かつスクロール部材の円軌道運動時に相手側スクロール部材の渦巻壁の中央端部の内壁とほぼ符合する」事項、及び「側板と渦巻壁の中央端部との境界部には、渦巻壁の内壁及び外壁をそれぞれ規定する二つの渦巻曲線間を接続した円弧を含む曲線により規定された内壁から外壁にかかる部分に対応する範囲に根元フィレットを設け、さらに、吐出孔により流体ポケットの密閉が阻害されるときの位相角(θ2)と円軌道運動の半径(r0)とにより決まる位相角(θ1)の位置まで根元フィレットを渦巻壁の外壁に沿って延長形成し、渦巻壁と相手側スクロール部材の根元フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設けた」事項を備えていない。 そして、この「一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の前記中心に対応した中央端部のみの内壁は、側板に近づくにつれて壁厚を厚くする形状で、かつスクロール部材の円軌道運動時に相手側スクロール部材の渦巻壁の中央端部の内壁とほぼ符合する」事項、及び「側板と渦巻壁の中央端部との境界部には、渦巻壁の内壁及び外壁をそれぞれ規定する二つの渦巻曲線間を接続した円弧を含む曲線により規定された内壁から外壁にかかる部分に対応する範囲に根元フィレットを設け、さらに、吐出孔により流体ポケットの密閉が阻害されるときの位相角(θ2)と円軌道運動の半径(r0)とにより決まる位相角(θ1)の位置まで根元フィレットを渦巻壁の外壁に沿って延長形成し、渦巻壁と相手側スクロール部材の根元フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設けた」事項により、中央端部での渦巻腹側(座標中心側)密閉空間と渦巻背側密閉空間が合体してなる最内包の密閉空間容積を形成する位置を極力渦巻中心部に近づけられ、渦巻巻数を減ずることなく先端部円弧面半径を増大でき、渦巻壁の実質的な剛性の向上と応力の分散を行う事ができるので、耐久性に優れ、消費馬力が小さい、圧縮効率の良好な圧縮機が得られる、という顕著な効果を奏するものである。 また、他に上記事項を、当業者にとって容易に想到することができたものとする根拠も見当たらない。 以上総合すると、本件発明1〜4は、引用例1〜4に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)明細書の記載要件についての検討 a.本件特許明細書 特許第3286211号の請求項1〜4に係る特許の願書に添付された明細書は、平成15年12月5日付けの訂正明細書のとおりのものである。 b.判断 ア.「渦巻曲線」はスクロール型圧縮機の技術分野において一般に用いられる用語であり、必ずしも不明りょうというわけではない。そして、「渦巻壁の内壁及び外壁をそれぞれ規定する二つの渦巻曲線」と訂正することによって、渦巻壁のどの部分が渦巻曲線で規定されるのか、明確になった。 イ.渦巻壁の中央端部のみの内壁を、「側板に近づくにつれて壁厚を厚くする段差を有した形状で」と訂正することによって、「上段の渦巻壁」の構成が明確になった。 c.まとめ 以上のとおりであるから、請求項1〜4に係る特許は、特許法第36条第4項、及び第6項2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであるとすることはできない。 (6)特許法29条の2に規定される発明かどうかについて 特願平7ー246978号(特開平9ー68177号公報)の願書に最初に添付された明細書又は図面には、「側板と渦巻壁の中央端部との境界部には、渦巻壁の内壁及び外壁をそれぞれ規定する二つの渦巻曲線間を接続した円弧を含む曲線により規定された内壁から外壁にかかる部分に対応する範囲に根元フィレットを設け、さらに、吐出孔により流体ポケットの密閉が阻害されるときの位相角(θ2)と円軌道運動の半径(r0)とにより決まる位相角(θ1)の位置まで根元フィレットを渦巻壁の外壁に沿って延長形成し、渦巻壁と相手側スクロール部材の根元フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設けた事」は記載されておらず、また、記載されているに等しい事項ともいえない。 したがって、請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとすることはできない。 (7)むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立、及び取消理由の理由及び証拠によっては、本件発明1〜4についての特許を取り消すことことができない。 また、他に本件発明1〜4についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 スクロール型圧縮機 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 側板上に渦巻壁を設けてなるスクロール部材の一対を、両渦巻壁を互いに角度をずらして重ね合わせ、一方のスクロール部材の相対的な円軌道運動によって両渦巻壁間に形成される流体ポケットを渦巻壁の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体を圧縮して吐出孔から吐出するようにしたスクロール型圧縮機において、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の前記中心に対応した中央端部のみの内壁は、側板に近づくにつれて壁厚を厚くする形状で、かつスクロール部材の円軌道運動時に相手側スクロール部材の渦巻壁の中央端部の内壁とほぼ符合し、しかも側板と渦巻壁の中央端部との境界部には、渦巻壁の内壁及び外壁をそれぞれ規定する二つの渦巻曲線間を接続した円弧を含む曲線により規定された内壁から外壁にかかる部分に対応する範囲に根元フィレットを設け、さらに、吐出孔により流体ポケットの密閉が阻害されるときの位相角(θ2)と円軌道運動の半径(ro)とにより決まる位相角(θ1)の位置まで根元フィレットを渦巻壁の外壁に沿って延長形成し、渦巻壁と相手側スクロール部材の根元フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設けた事を特徴とするスクロール型圧縮機。 【請求項2】 スクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁には、側板に近い渦巻壁厚の厚い部位と側板から遠い渦巻壁厚の薄い部位をつなぐ境界部に中段フィレットを設け、該中段フィレットを設けた部分における渦巻壁断面積を渦巻壁高さ方向で連続的に変化させ、渦巻壁と相手側スクロール部材の中段フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁高さ方向に設けた事を特徴とする請求項1記載のスクロール型圧縮機。 【請求項3】 側板上に渦巻壁を設けてなるスクロール部材の一対を、両渦巻壁を互いに角度をずらして重ね合わせ、一方のスクロール部材の相対的な円軌道運動によって両渦巻壁間に形成される流体ポケットを渦巻壁の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体を圧縮して吐出孔から吐出するようにしたスクロール型圧縮機において、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の前記中心に対応した中央端部のみの内壁は、側板に近づくにつれて壁厚を厚くする段差を有した形状で、かつスクロール部材の円軌道運動時に相手側スクロール部材の渦巻壁の中央端部の内壁とほぼ符合し、しかも側板と渦巻壁の中央端部との境界部には、渦巻壁の内壁及び外壁をそれぞれ規定する二つの渦巻曲線間を接続した円弧を含む曲線により規定された内壁から外壁にかかる部分に対応する範囲に根元フィレットを設け、さらに、吐出孔により流体ポケットの密閉が阻害されるときの位相角(θ2)と円軌道運動の半径(ro)とにより決まる位相角(θ1)の位置まで根元フィレットを渦巻壁の外壁に沿って延長形成し、前記段差よりも上段の渦巻壁と相手側スクロール部材の根元フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設けた事を特徴とするスクロール型圧縮機。 【請求項4】 スクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁には、側板に近い渦巻壁厚の厚い部位と側板から遠い渦巻壁厚の薄い部位とをつなぐ境界部に中段フィレットを設け、該中段フィレットを設けた部分における渦巻壁断面積を渦巻壁高さ方向で連続的に変化させ、渦巻壁と相手側スクロール部材の中段フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁高さ方向に設けた事を特徴とする請求項3記載のスクロール型圧縮機。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、例えばカーエアコン用の冷媒圧縮機として使用するのに適したスクロール型圧縮機に係り、特にスクロール型圧縮機のスクロール部材の形状に関する。 【0002】 【従来の技術】 スクロール型圧縮機は、側板上に渦巻壁を設けてなるスクロール部材の一対を、両渦巻壁を互いに角度をずらして重ね合わせ、一方のスクロール部材の相対的な円軌道運動によって両渦巻壁間に形成される流体ポケットを渦巻壁の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体の圧縮を行うように構成されている。この種の圧縮機におけるスクロール部材は、高圧の流体をシールし、これを圧縮するために十分な機械的強度を必要とする。このためスクロール部材は、側板とスクロール部材とを一体形成して渦巻壁に大きな強度、剛性を持たせるようにしている。 【0003】 しかしながら渦巻壁の端部、特に中央端部は、最も高い圧縮反力を受けるにもかかわらず、渦巻壁の終端となるために剛性、強度が低下しがちである。したがって、高温高圧の流体にさらされて破壊する危険性も高い。すなわち、スクロール部材において最も大きな応力を生ずるのは、渦巻壁の中央端部の側板に接する根元部分であり、この部分の応力により、根元部分から亀裂が生じ、渦巻壁と側板とが破壊分離してしまうことがある。特に、圧縮機の出力を大きくするために、渦巻壁の壁面の高さを大きくして流体取り込み容積を増大しようとすると、上記応力はさらに大きくなる。 【0004】 このような問題点を解決するため、特公平3-72839号公報あるいは実公平1-28315号公報では、スクロール部材を形成する渦巻壁の形状に種々の工夫を加えている。 【0005】 前者は、渦巻壁の中央端部の形状を同一のインボリュート創成円に基づく位相の異なる2つのインボリュート曲線によって内外壁を形成するとともに、先端部における外周面と内周面との間を両周面に接する直線面で接続することにより、渦巻壁の中央端部の壁厚を大きくし剛性を高めている。圧縮機の限られた径の中で圧縮効率を高めるために渦巻の巻数を増やそうとした時には、先端部におけるインボリュート外周面と、インボリュート内周面に接続する直線による面の両方に接するう円弧面半径を小さくしなければならない。 【0006】 また、後者は、渦巻壁の中央端部の根元側の断面積を上部側の断面積より大きくする、いわゆるリブを形成して強度の増加を図っている。この方法によれば、リブのついた範囲で応力の緩和が見込める。 【0007】 また特開平9-68177号公報では、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の断面形状を2段以上の段階状に形成し各段における渦巻壁の中央端部プロファイルを両スクロール部材の噛み合い状態で、渦巻腹側(座標中心側)密閉空間と渦巻背側密閉空間が合体してなる最内包の密閉空間容積が実質的にゼロとなる完全噛み合いプロファイルとし、かつ、同階段状渦巻壁を側板から離れる上方段ほど渦巻壁厚さを薄くしている。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら特公平3-72839号公報に記載の技術によると、インボリュート外周面とそれに接続する円弧面の接続点の周辺の狭い範囲に集中して、高い応力の発生がある。 【0009】 また実公平1-28315号公報に記載の技術によると、渦巻壁の渦巻曲線に沿う方向に延在するリブのため、インボリュート外周面とそれに接続する円弧面の接続点の周辺にはフィレットによる応力の緩和ができない箇所が生じる。 【0010】 また特開平9-68177号公報に記載の技術にも次の問題がある。スクロール型圧縮機の渦巻壁にかかる力は、流体の圧縮の反力と、一対のスクロール部材の渦巻壁どうし又は渦巻壁と側板の接触により発生する力の2つがある。圧縮反力については、固定スクロール部材側板に設けられた吐出孔の圧力損失により、吐出室圧力以上に渦巻壁最内包の密閉空間容積の圧力が高くなる過圧縮になり、渦巻壁耐久性が悪化するため、吐出孔径は一定の大きさよりも小さく出来ない。また渦巻壁の割れは中央先端部に起こるため、固定スクロール部材では吐出孔を中央先端部を避けた渦巻腹側の場所に設けることが一般的である。したがって実質の渦巻壁最内包の密閉空間容積は、圧縮過程で接触していた一対のスクロール部材の渦巻壁どうしが離れる瞬間、または渦巻壁が側板の吐出孔にかかり、渦巻腹側密閉空間と渦巻背側密封空間が連通しシールを出来なくなる瞬間の容積であり、最内包の密閉空間容積が実質的にゼロになることを狙った完全噛み合いプロファイルとしても、空間容積ゼロを達成することは困難であった。むしろ完全噛み合いプロファイルとすることで、渦巻壁中央先端部まで相手スクロール部材の渦巻壁と接触する事になり摩擦による渦巻壁を倒す力が前記圧縮反力に付加されてしまっていた。また、側板と渦巻壁下段の境界部の渦巻壁断面積を渦巻壁高さ方向で連続的に変化させるフィレットはなく、応力集中を招き破損の恐れがあった。同様に、渦巻壁の下段と上段の境界段差部にはフィレットはなく、応力集中を招き破損の恐れがあるため上段を薄くすることに限界があり、それが渦巻壁下段を厚くすることの限界となり強度を高くする上での設計自由度を狭めていた。 【0011】 それ故に本発明の課題は、加工が容易でスクロール部材の渦巻壁の強度が高く、吐出孔を考慮しても、実質的には圧縮機性能の低下とならない大きさの最内包の圧縮空気空間容積で、圧縮機効率も低下しないスクロール型圧縮機を提供する事にある。 【0012】 【課題を解決するための手段】 本発明によれば、側板上に渦巻壁を設けてなるスクロール部材の一対を、両渦巻壁を互いに角度をずらして重ね合わせ、一方のスクロール部材の相対的な円軌道運動によって両渦巻壁間に形成される流体ポケットを渦巻壁の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体を圧縮して吐出孔から吐出するようにしたスクロール型圧縮機において、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の前記中心に対応した中央端部のみの内壁は、側板に近づくにつれて壁厚を厚くする形状で、かつスクロール部材の円軌道運動時に相手側スクロール部材の渦巻壁の中央端部の内壁とほぼ符合し、しかも側板と渦巻壁の中央端部との境界部には、渦巻壁の内壁及び外壁をそれぞれ規定する二つの渦巻曲線間を接続した円弧を含む曲線により規定された内壁から外壁にかかる部分に対応する範囲に根元フィレットを設け、さらに、吐出孔により流体ポケットの密閉が阻害されるときの位相角(θ2)と円軌道運動の半径(ro)とにより決まる位相角(θ1)の位置まで根元フィレットを渦巻壁の外壁に沿って延長形成し、渦巻壁と相手側スクロール部材の根元フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設けた事を特徴とするスクロール型圧縮機が得られる。 【0013】 好ましくは、スクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁には、側板に近い渦巻壁厚の厚い部位と側板から遠い渦巻壁厚の薄い部位をつなぐ境界部に中段フィレットを設け、該中段フィレットを設けた部分における渦巻壁断面積を渦巻壁高さ方向で連続的に変化させ、渦巻壁と相手側スクロール部材の中段フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁高さ方向に設ける。 【0014】 また本発明によれば、側板上に渦巻壁を設けてなるスクロール部材の一対を、両渦巻壁を互いに角度をずらして重ね合わせ、一方のスクロール部材の相対的な円軌道運動によって両渦巻壁間に形成される流体ポケットを渦巻壁の中心に移動させ、これにより流体ポケットの容積を減少させて流体を圧縮して吐出孔から吐出するようにしたスクロール型圧縮機において、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の前記中心に対応した中央端部のみの内壁は、側板に近づくにつれて壁厚を厚くする段差を有した形状で、かつスクロール部材の円軌道運動時に相手側スクロール部材の渦巻壁の中央端部の内壁とほぼ符合し、しかも側板と渦巻壁の中央端部との境界部には、渦巻壁の内壁及び外壁をそれぞれ規定する二つの渦巻曲線間を接続した円弧を含む曲線により規定された内壁から外壁にかかる部分に対応する範囲に根元フィレットを設け、さらに、吐出孔により流体ポケットの密閉が阻害されるときの位相角(θ2)と円軌道運動の半径(ro)とにより決まる位相角(θ1)の位置まで根元フィレットを渦巻壁の外壁に沿って延長形成し、前記段差よりも上段の渦巻壁と相手側スクロール部材の根元フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設けた事を特徴とするスクロール型圧縮機が得られる。 【0015】 好ましくは、スクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁には、側板に近い渦巻壁厚の厚い部位と側板から遠い渦巻壁厚の薄い部位とをつなぐ境界部に中段フィレットを設け、該中段フィレットを設けた部分における渦巻壁断面積を渦巻壁高さ方向で連続的に変化させ、渦巻壁と相手側スクロール部材の中段フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁高さ方向に設ける。 【0016】 【発明の実施の形態】 以下本発明の実施の形態によるスクロール型圧縮機を図面を用いて詳細に説明する。図1はそのスクロール型圧縮機の縦断面図である。この圧縮機は、フロントハウジング11とこれに設置されたカップ状部分12とからなる圧縮機ケーシング10を有している。フロントハウジング11は、その中心部にボールベアリング13を介して主軸14を回転自在に支承している。またフロントハウジング11は、主軸14の外周を取り囲むように前方に突出したスリーブ部15を有している。スリーブ15内にはシャフトシール部材16を配置している。 【0017】 フロントハウジング11によって開口部を閉塞されたケーシング10には固定スクロール部材17、可動スクロール部材18、可動スクロール部材18を駆動するための駆動機構19、及び可動スクロール部材18の自転を阻止する回転阻止機構20が配設されている。ここで、固定スクロール部材17は一般に、側板171と、その一面上に形成された渦巻壁172と、この渦巻壁172を形成した面とは反対側の面上に設けた脚部173とを有している。そして脚部173に螺合するボルト21によって固定スクロール部材17はケーシング10内に固定されている。 【0018】 また固定スクロール部材17の側板171の外周面との間をO-リング22によってシールすることによりケーシング10内を吸入室23と吐出室24とに仕切っている。さらに、側板171の中央部にはスクロール部材間に形成された流体ポケットとなる密閉空間と吐出室24とを連通する吐出孔174を穿設している。この吐出孔174には、吐出弁25が吐出室24内側に設けられている。 【0019】 可動スクロール部材18は、側板181とその一面上に形成した渦巻壁182とを有している。この渦巻壁182は固定スクロール部材17の渦巻壁172と180°の角度のずれをもってかみ合わされている。なお、駆動機構19及び回転阻止機構20は主軸14と可動スクロール部材18との間に設置されており、主軸14の回転運動にしたがい可動スクロール部材18を所定の軌道半径をもって自転することなく公転させる。 【0020】 このような構成の圧縮機は、一対のスクロール部材17,18の両渦巻壁が180°の角度ずれをもってかみ合わされているので、両渦巻壁の線接触部から線接触部にわたって固定スクロール部材渦巻腹側(座標中心側)密閉空間と固定スクロール部材渦巻背側密閉空間、若しくは可動スクロール部材渦巻腹側(座標中心側)密閉空間と可動スクロール部材渦巻背側密閉空間が形成される。この渦巻腹側(座標中心側)密閉空間と渦巻背側密閉空間は主軸14の回転運動による可動スクロール部材18の円軌道運動にしたがって、渦巻壁に沿って渦巻壁中央端部方向へ移動し、渦巻腹側(座標中心側)密閉空間と渦巻背側密閉空間容積の減少とともに徐々に圧縮することとなる。 【0021】 図2は図1に示す固定スクロール部材17の渦巻壁172の中央端部近傍の形状を示す概略斜視図である。この渦巻壁172はその中央端部が、それが固定されている側板171に平行な断面が側板171から見た高さ方向の途中において変化している。すなわち、渦巻壁172を構成する壁体200の高さ方向の中央部の段差201から下半分の下段部202の断面の面積を上半分である上段部203の断面の面積より大きく構成されている。渦巻壁172の中央端部近傍の側板171には、図1に関連して説明したように、スクロール部材間に形成された密閉空間と吐出室24を連通する吐出孔174が穿設されている。 【0022】 図3は図2に示す固定スクロール部材17の渦巻壁172の中央端部近傍の形状を可動スクロール部材18の渦巻壁182との関係で示す平面図である。この図では固定スクロール部材渦巻壁の形状を説明するために、斜線で示した可動スクロール部材渦巻壁上段形状を、渦巻壁基礎円中心に対して点対称に重ねて描いている。これは圧縮状態を示しているわけでは無い。破線182´は圧縮途中の可動スクロール部材の状態を示す。 【0023】 渦巻壁172の中央端部、即ち、吐出側の端部を構成する壁体200の下段部202の上面から見た形状は、外壁205がインボリュート曲線で形成されている。壁体200の下段部202における内壁207は、インボリュート曲線と、これに引き続く半径R2の円弧と、半径r1の逆向きの円弧と、幾つかの直線とを含む形状にされている。 【0024】 渦巻壁172の中央端部を構成する壁体200の上段部203の上面から見た形状は、外壁205が下段部202と同じインボリュート曲線で形成されている。壁体200の上段部203における先端部208の形状は外壁205のインボリュート曲線に接する半径r2の円弧により構成される。壁体200の上段部203における内壁209は、半径r2の円弧と、これに接する半径R1の逆向きの円弧と、この円弧に引き続く抉り部210と、これに引き続くインボリュート曲線とで形成されている。応力解析結果によると、抉り部210を付加する以前の形状で、この箇所の応力は中央先端部の1/5〜1/10である。そのため、抉り部210の付加によっても中央先端部に比べ十分低い応力であり、強度低下とはならない。 【0025】 こうして可動スクロール部材18がその円軌道運動時に固定スクロール部材17の渦巻壁172の中央端部の内壁とほぼ符合するようにされている。しかも側板171と渦巻壁172の中央端部の境界部には、渦巻壁172の渦巻曲線とその曲線に接続する円弧の接続点を内在する内壁から外壁にかかる範囲に根元フィレット211を設ける。可動スクロール部材18についても同様な構造を備える。そして、固定スクロール部材17と可動スクロール部材18との間には、渦巻壁と相手側スクロール部材の根元フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設ける。 【0026】 さらに固定スクロール部材17の渦巻壁172の中央端部の内壁には、側板171に近い渦巻壁厚の厚い部位即ち下段部202と側板171から遠い渦巻壁厚の薄い部位即ち上段部203とをつなぐ境界部即ち段差201に、渦巻壁断面積を渦巻壁高さ方向で連続的に変化させる中段フィレット212を設ける。この中段フィレット212は抉り部210に対応するように延在している。可動スクロール部材18についても同様な構造を備える。そして、渦巻壁と相手側スクロール部材の中段フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁高さ方向に設ける。 【0027】 図3において、r1は渦巻壁172の下段部202の先端内壁側の円弧面の半径である。r2は渦巻壁172の先端外壁側の円弧面の半径である。R1は渦巻壁172の上段部203の内壁側の円弧面の半径である。R2は渦巻壁172の下段部202の内壁側の円弧面の半径である。ここで、半径r1は半径r2より大きく、半径R1は半径R2より大きい。 【0028】 C3は根元フィレットの大きさを示す。roはスクロール部材の旋回半径である。Tは固定スクロール部材17の内外壁インボリュー部の下段部の渦巻壁の厚さである。θ1は固定スクロール部材17の先端外壁の根元フィレット211の拡張範囲を示す。θ2は可動スクロール部材18の内壁の段差の拡張範囲を示し、実質の最内包密閉空間を形成し、これより圧縮が進むと固定スクロール部材17の吐出孔174により可動スクロール部材18の渦巻壁182の腹側空間と背側空間が連通する。θ2の範囲は、圧縮時に干渉が起きない様、固定スクロール部材17の先端外壁の根元フィレット211の拡張範囲に対しroだけオフセットした輪郭とする。 【0029】 L1は渦巻壁172の先端外壁側のインボリュート曲線と円弧の接続点までの、インボリュート伸開線長さを示す。L2は固定スクロール部材17の渦巻壁172の下段部202の内壁側のインボリュート曲線と円弧の接続点までの、インボリュート伸開線長さを示す。 【0030】 ここで以下に列挙する複数の等式が成立する。 【0031】 R1=r1+ro R2=ro+r2 L2=L1+ro 0<θ1<θ2(C3=0の時、0=θ1=θ2) 次に図1から図3を参照して動作を説明する。破線で表した可動スクロール部材18は半径roで旋回運動をする。この時、可動スクロール18の渦巻壁182と固定スクロール部材17の渦巻壁172とによって形成された別々の密閉空間は、固定スクロール部材17の渦巻壁172との接触点を移動させながら中央に向かって移動し圧縮が行われる。旋回運動によって主軸14の一回転につき一回、渦巻壁172,182同士の接触がなくなる渦巻壁中央部で別々の密閉空間は一つに連通する。一つになった渦巻壁中央部の密閉空間は吐出弁25を挟んで吐出室24に面しており、この渦巻壁中央部の密閉空間圧力が吐出室24の圧力よりも高くなると吐出弁25が開き、圧縮された流体は吐出孔174より吐出室24へ押し出される。 【0032】 しかし実際は吐出孔174での圧力損失による消費電力増加を防ぐため吐出孔174は一定の大きさが必要であり、最も応力の高い渦巻壁中央先端の強度低下を防ぐため固定スクロール部材17の渦巻壁172の中央先端から離れた場所に吐出孔174を設けるのが一般的である。この吐出孔174のため渦巻壁172,182の中央部の密閉空間は圧縮途中で密閉が阻害され事実上の圧縮比を形成している。θ2はこの時の渦巻壁同士の接触位相角である。渦巻壁の内壁でθ2の範囲内で旋回可能な形状まで相手渦巻壁中央端は根元フィレットをつけることが可能である。旋回半径roやフィレットの大きさC3等によって渦巻壁中央端の根元フィレットをつけられる範囲θ1が決定される。実公平1-28315号公報に記載の技術では出来なかった渦巻中央端外壁まで根元にフィレットを付ける事により、応力緩和による耐久性向上が達成出来、実質で従来渦巻プロファイルによるものと変わらない圧縮比により耐久性と圧縮機機能の両立が可能になった。 【0033】 図4を参照して、本発明の他の実施の形態によるスクロール型圧縮機について説明する。図4において、抉り部210はスクロール部材の渦巻壁に上段部203から下段部202までのびるように形成されている。即ち、スクロール部材の渦巻壁の内壁には軸方向全体にわたってのびた抉り部210が形成されている。同図の他の部分の構成は図3と同じであるため、同一部分には同一符号を付し、詳細な説明は省略する。さらに詳しく述べると、スクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁には、下段部202と上段部203とをつなぐ境界部に、渦巻壁断面積を渦巻壁高さ方向で連続的に変化させる中段フィレット212を設け、さらに渦巻壁と相手側スクロール部材の中段フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁高さ方向に設けている。 【0034】 図5を参照して、本発明のさらに他の実施の形態によるスクロール型圧縮機について説明する。図5おいて、抉り部210はスクロール部材の渦巻壁に上段部203にのみ形成され、下段部202には形成されない。また下段部202と上段部203とをつなぐ境界部即ち段差201には中段フィレットは形成されていない。さらに詳しく述べると、一対のスクロール部材のそれぞれの渦巻壁の中央端部の内壁は、側板に近づくにつれて壁厚を厚くする形状で、かつスクロール部材の円軌道運動時に相手側スクロール部材の渦巻壁の中央端部の内壁とほぼ符合し、しかも側板と渦巻壁の中央端部の境界部に、渦巻壁の渦巻曲線とその曲線に接続する円弧の接続点を内在する内壁から外壁にかかる範囲に根元フィレット211を設けた形状であり、さらに上段の渦巻壁と相手側スクロール部材の根元フィレットとの干渉を避けるための隙間を壁厚方向に設けている。同図の他の部分の構成は図3と同じであるため、同一部分には同一符号を付し、詳細な説明は省略する。 【0035】 図6を参照して、さらに本発明の他の実施の形態によるスクロール型圧縮機について説明する。図6において、抉り部210はスクロール部材の渦巻壁に上段部203から下段部202までのびるように形成されている。即ち、スクロール部材の渦巻壁の内壁には軸方向全体にわたってのびた抉り部210が形成されている。また下段部202と上段部203とをつなぐ境界部即ち段差201には中段フィレットは形成されていない。同図の他の部分の構成は図3と同じであるため、同一部分には同一符号を付し、詳細な説明は省略する。 【0036】 【発明の効果】 以上説明した本発明のスクロール型圧縮機によれば、スクロール部材の渦巻壁中央端部は、渦巻壁断面積が、側板境界部で最大となるように、渦巻壁高さ方向で連続的に変化しているため、中央端部での渦巻腹側(座標中心側)密閉空間と渦巻背側密閉空間が合体してなる最内包の密閉空間容積を形成する位置を極力渦巻中心部に近づけられ、渦巻巻数を減ずることなく先端部円弧面半径を増大でき、渦巻壁の実質的な剛性の向上と応力の分散を行う事ができる。したがって耐久性に優れ、消費馬力が小さい、圧縮効率の良好な圧縮機が得られる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の実施の一形態によるスクロール型圧縮機の縦断面図である。 【図2】 図1に示すスクロール型圧縮機に含まれた固定スクロール部材の渦巻壁中央端部近傍の形状を示す概略斜視図である。 【図3】 図2に示す固定スクロール部材の渦巻壁の中央端部近傍の形状を可動スクロール部材の渦巻壁との関係で示す平面図である。 【図4】 本発明の他の実施の形態によるスクロール型圧縮機の固定スクロール部材の渦巻壁の中央端部近傍の形状を可動スクロール部材の渦巻壁との関係で示す平面図である。 【図5】 本発明のさらに他の実施の形態によるスクロール型圧縮機の固定スクロール部材の渦巻壁の中央端部近傍の形状を可動スクロール部材の渦巻壁との関係で示す平面図である。 【図6】 本発明のさらに他の実施の形態によるスクロール型圧縮機の固定スクロール部材の渦巻壁の中央端部近傍の形状を可動スクロール部材の渦巻壁との関係で示す平面図である。 【符号の説明】 10 ケーシング 11 フロントハウジング 13 ボールベアリング 14 主軸 15 スリーブ部 16 シャフトシール部材 17 固定スクロール部材 18 可動スクロール部材 19 駆動機構 20 回転阻止機構 171 側板 172 渦巻壁 174 吐出孔 181 側板 182 渦巻壁 200 壁体 201 段差 202 下段部 203 上段部 210 抉り部 211 根元フィレット 212 中段フィレット 【図面】 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-08-17 |
出願番号 | 特願平9-164119 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(F04C)
P 1 651・ 536- YA (F04C) P 1 651・ 161- YA (F04C) P 1 651・ 537- YA (F04C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 尾崎 和寛 |
特許庁審判長 |
西野 健二 |
特許庁審判官 |
亀井 孝志 飯塚 直樹 |
登録日 | 2002-03-08 |
登録番号 | 特許第3286211号(P3286211) |
権利者 | サンデン株式会社 |
発明の名称 | スクロール型圧縮機 |
代理人 | 山本 格介 |
代理人 | 後藤 洋介 |
代理人 | 池田 憲保 |
代理人 | 後藤 洋介 |
代理人 | 山本 格介 |
代理人 | 池田 憲保 |