• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  F25B
管理番号 1105910
異議申立番号 異議2003-72901  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-05-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-28 
確定日 2004-09-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3413385号「冷媒流路の切換弁」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3413385号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3413385号の請求項1、2に係る発明についての出願は、平成12年3月9日(優先権主張 平成11年8月18日)に特許出願され、平成15年3月28日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、異議申立人 株式会社 不二工機より、平成15年11月27日付及び平成15年11月28日付で特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間である平成16年6月22日に特許異議意見書が提出されるとともに、訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
・訂正事項1
願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】 ホットガスサイクル回路を備えた空調装置における冷媒流路切換弁において、1つの弁本体(51)に、圧縮機(10)とコンデンサ(11)との間に設けられ冷媒回路を遮断するパイロット電磁弁機構(50)と、圧縮機(10)とエバポレータ(14)との間に設けられ前記パイロット電磁弁機構(50)が閉弁し、圧縮機(10)とコンデンサ(11)の冷媒圧力が所定の差圧に達した時に作動する差圧弁機構(80)とを一体的に設けたことを特徴とする冷媒流路切換弁。」
と訂正する。
・訂正事項2
特許明細書の特許請求の範囲の請求項2を、
「【請求項2】 弁本体(51)には、第1の通路(52)と第2の通路(53)との間に弁座(54)を設けると共に該弁座(54)の上方と下方にそれぞれパイロット電磁弁用の上チャンバー(55)と下チャンバー(56)を設け、
また前記弁本体(51)には、連通孔(57)を介して前記の上チャンバー(55)に連通する差圧弁用の上チャンバー(59)と、連通孔(58)を介して前記の下チャンバー(56)に連通する差圧弁用の下チャンバー(60)とを設けると共に前記上チャンバー(59)には弁座(61)を設け、
さらに前記弁本体(51)には、連通孔(62)を介して前記上チャンバー(59)と連通する第3の通路(63)を設け、
前記電磁弁用の上チャンバー(55)にはパイロット電磁弁機構(50)を設け、非通電時には弁座(54)を開放して前記の第1の通路(52)と第2の通路(53)とを連通させ、通電時には弁座(54)を閉塞させ、
前記の差圧弁用の上チャンバー(59)並びに下チャンバー(60)には差圧弁機構(80)を設け、通電時の状態で且つ圧縮機(10)とコンデンサ(11)の冷媒圧力が所定の差圧に達した時に差圧弁の弁座(61)が開放され、第1の通路(52)→連通孔(57)→上チャンバー(59)→連通孔(62)→第3の通路(63)とを連通させ、暖房運転の初期の段階においては、パイロット電磁弁機構(50)を閉じ、圧縮機(10)とコンデンサ(11)の冷媒圧力が所定の差圧に達した時には差圧弁の弁座(61)が開放され、圧縮機から流れるホットガスを直接エバポレータ(14)に流入させるようにしたことを特徴とする冷媒流路の切換弁。」
と訂正する。
・訂正事項3
特許明細書の段落【0008】を、
「【0008】【課題を解決するための手段】
本発明は、従来のホットガスサイクル回路を備えた空調装置における問題点に鑑みてなされたものであって、冷媒流路切換弁を、圧縮機とコンデンサとの間に設けられ冷媒回路を遮断するパイロット電磁弁機構と、圧縮機とエバポレータの間に設けられ圧縮機とコンデンサの冷媒圧力が所定の差圧になった時に作動する差圧弁機構とを一体的に設け、従来では2個の電磁弁を必要としていたものを1個の冷媒流路切換弁に置換えることにより、従来品と同等の作用を確保でき且つ、部品コストの削減、小型化並びに省電力化がはかれ、また冷媒回路中にあって電磁弁機構もしくは差圧弁機構のどちらか一方が必ず開弁状態であり、冷媒回路が閉塞することがなく冷媒回路の破損を防止(フェールセーフ)することのできる媒流路切換弁の提供を目的とするものである。」
と訂正する。
・訂正事項4
特許明細書の段落【0009】を、
「【0009】 すなわち、第1の発明は、ホットガスサイクル回路を備えた空調装置における冷媒流路切換弁において、1つの弁本体51に、圧縮機10とコンデンサ11との間に設けられ冷媒回路を遮断するパイロット電磁弁機構50と、圧縮機10とエバポレータ14との間に設けられ前記パイロット電磁弁機構50が閉弁し、圧縮機10とコンデンサ11の冷媒圧力が所定の差圧に達した時に作動する差圧弁機構80とを一体的に設けたことを特徴とする冷媒流路切換弁である。」
と訂正する。
・訂正事項5
特許明細書の段落【0010】を、
「【0010】 また第2の発明は、弁本体51には、第1の通路52と第2の通路53との間に弁座54を設けると共に該弁座54の上方と下方にそれぞれパイロット電磁弁用の上チャンバー55と下チャンバー56を設け、
また前記弁本体51には、連通孔57を介して前記の上チャンバー55に連通する差圧弁用の上チャンバー59と連通孔58を介して前記の下チャンバー56に連通する差圧弁用の下チャンバー60を設けると共に前記上チャンバー59には弁座61を設け、 さらに前記弁本体51には、連通孔62を介して前記上チャンバー59と連通する第3の通路63を設け、
前記電磁弁用の上チャンバー55にはパイロット電磁弁機構50を設け、非通電時には弁座54を開放して前記の第1の通路52と第2の通路53とを連通させ、通電時には弁座54を閉塞させ、
前記の差圧弁用の上チャンバー59には差圧弁機構80を設け、通電時の状態で且つ圧縮機10とコンデンサ11の冷媒圧力が所定の差圧に達した時に差圧弁の弁座61が開放され、第1の通路52と連通孔57と上チャンバー59と連通孔62と第3の通路63とを連通させ、暖房運転の初期の段階においては、パイロット電磁弁機構50を閉じ、圧縮機10とコンデンサ11の冷媒圧力が所定の差圧に達した時には差圧弁の弁座61が開放され、圧縮機から流れるホットガスを直接エバポレータ14に流入させるようにしたことを特徴とする冷媒流路の切換弁である。」
と訂正する。
・訂正事項6
特許明細書の段落【0034】を、
「【0034】【発明の効果】
本発明による冷媒流路の切換弁によると、圧縮機とコンデンサとの間に設けられ冷媒回路を遮断するパイロット電磁弁機構と、圧縮機とエバポレータの間に設けられ圧縮機とコンデンサの冷媒圧力が所定の差圧になった時に作動する差圧弁機構とを1つの弁本体に一体的に組み込んだものであるから、従来では2個の電磁弁を必要としていたものを1個の冷媒流路切換弁に置換えることができ、従来品に比べて部品コストの削減並びに省電力化がはかれること、部品点数がすくなく小型化がはかれるのでシステムとしての軽量化を図ることができること、また冷媒回路中にあってパイロット電磁弁機構もしくは差圧弁機構のどちらか一方が必ず開弁状態であるため、冷媒回路が閉塞することがなく、冷媒回路の破損を防止(フェールセーフ)することできる。」
と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
・訂正事項1、2について
特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】には、「パイロット電磁弁の通電時の状態で且つ、圧縮機10とコンデンサ11の冷媒圧力が所定の差圧に達した時に差圧弁の弁座61を開放し」と記載され、また、段落【0030】には、「さらに時間が経過すると、前記差圧弁用の上チェンバー59と下チェンバー60との間の差圧がおおきくなり、前記ダイヤフラム86に加わる下方への力が増し、例えば開弁設定圧力0.49MPaよりも大きくなるため、圧縮コイルばね88を下方へ押し下げ、当て金87を介して弁体84は下方へ移動することにより、前記弁体84の上面に固定したパッキン85と弁座61が離れ、開弁状態となる。」と記載されていることから、上記訂正事項1、2の訂正は、明細書に記載された事項の範囲内において、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
・訂正事項3ないし6について
訂正事項3ないし6の訂正は、上記訂正事項1、2の訂正と整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項で準用する同法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについての判断
(1)異議申立ての理由の概要
特許異議申立人 株式会社 不二工機は、平成15年11月27日付及び平成15年11月28日付で特許異議の申立てをしている。
平成15年11月27日付特許異議申立書においては、甲第1号証(特公昭57-47829号公報)、甲第2号証(実願昭55-93833号(実開昭57-16661号)のマイクロフィルム)、甲第3号証(特開平11-14164号公報)を提出し、本件特許の請求項1、2に係る発明は、これら甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明の基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、また、本件特許の請求項1、2の構成は不明瞭であるとともに、この請求項1、2に対応した発明の詳細な説明も不明瞭であるから、本件特許の明細書は、特許法第36条第4項及び第5項の規定を満たしていない出願になされたものであるから、本件特許の請求項1、2に係る発明についての特許は、取り消されるべき旨の主張をしている。
平成15年11月28日付特許異議申立書においては、甲第1号証(特開平11-14164号公報)、参考文献1(特開平10-147137号公報)、参考文献2(特開平10-181343号公報)、参考文献3(特開平10-181342号公報)を提出し、本件特許の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と実質的に同一、あるいは、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、、特許法第29条第1項第3号の規定、あるいは、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2に係る発明についての特許は、取り消されるべき旨の主張をしている。

(2)本件発明
上記「2.訂正の適否についての判断」において検討したように、上記訂正事項1ないし6の訂正が認められるから、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、それぞれ上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(「本件発明1」は、上記訂正事項1を、「本件発明2」は、上記訂正事項2を参照されたい。)

(3)特許法第29条第1項第3号及び第2項についての判断
(3-1)引用刊行物
当審が通知した取消しの理由で引用した刊行物は、つぎのものである。

刊行物1:特開平11-14164号公報(異議申立人の平成15年11月27日付に提出した甲第3号証、同じく平成15年11月28日付に提出した甲第1号証)
刊行物2:実願昭55-93833号(実開昭57-16661号)のマイクロフィルム(異議申立人の平成15年11月27日付に提出した甲第2号証)

(3ー2)引用刊行物に記載された事項
刊行物1(特開平11-14164号公報)には、バイパス管路付冷凍サイクルに関して、図面とともに、
「そこで従来は、例えば図8に示されるように、冷凍サイクルの圧縮機1から送り出された高圧冷媒ガスを、凝縮器を通さずに膨張弁3の出口管路31を経由して蒸発器4に送り込ませるバイパス管路5を併設して、蒸発器4で顕熱を奪う熱交換を行わせ、それを補助暖房として利用している。」(段落【0004】)こと、
「そのような動作を行うために、圧縮機1から送り出される高圧冷媒ガスが通る高圧冷媒ガス管路11を凝縮器2に対して開閉するための凝縮器連通開閉弁7と、バイパス管路5を開閉するためのバイパス管路開閉弁8とが設けられ、さらにバイパス管路開閉弁8と膨張弁3との間には、前後差圧が一定以上になったときだけ開く定差圧弁9が設けられている。」(段落【0005】)こと、
「図9は、そのような凝縮器連通開閉弁7とバイパス管路開閉弁8とが一体化された電磁弁ユニットを示しており、……電磁弁205に通電することによってパイロット孔203が開くようになっている。…弁体200はパイロット室202内に配置された圧縮コイルバネ210によって閉じ方向に付勢されているので、弁座201の上流側と下流側の差圧が例えば10kg/cm2以上になって初めて弁体200が弁座201から離れて開弁状態になる。したがって、この部分の機構が図8における定差圧弁9に該当している。」(段落【0006】、【0007】、【0008】)こと、
が記載されている。

刊行物2(実願昭55-93833号(実開昭57-16661号)のマイクロフィルム)には、冷暖房用空気調和機のヒートポンプ式冷凍サイクル回路に用いられる三方弁に関して、図面とともに、
「電磁コイル部1BがOFFの状態の際は図示のようになり、導入管2から導入される冷媒は矢印に示すようポート3?弁室17?ポート15?ポート7?第2の導出管6の順で導びかれる。電磁コイル部1BをONの状態に換えれば、プランジャ9が引上げられパイロットポート11aが開くので出口低圧側がつながり、導入管2から導入される高圧の冷媒圧力で第1の主弁11を押上げる。このためポート8が開放され、冷媒は連通路12と迂回路14とに導びかれる。ポート13は高圧となり、支持ばね18の弾性力も作用して第2の主弁16を押し上げる。したがってポート15は第2の主弁16によって閉成されることになり、冷媒は第1の導出管4からのみ導出される。再び電磁コイル部1BをOFFにすれば、第1の主弁11はポート8を閉成し、連通路12が低圧になるのでポート13も低圧化し、ポート15が高圧に換って第2の主弁16はポート13を閉成する。すなわち冷媒は第2の導出管6から導出されるように切換る。」(3頁19行〜4頁19行)こと、
が記載されている。

(3-3)対比・判断
・本件発明1について
刊行物1の図8、図9には、ホットガスサイクル回路を備えた空調装置における冷媒流路切換弁に係るパイロット型電磁弁7と8とを一体化した一つの弁本体が示されている。このパイロット型電磁弁7は、圧縮機1側の高圧冷媒ガス管路11と凝縮器2側の冷媒ガス管路12とを開閉するパイロット電磁弁機構を構成しているものであり、また、パイロット型電磁弁8は、パイロット型電磁弁7が閉弁した時に、高圧冷媒ガス管路11の上流側とバイパス管路5の下流側との差圧が所定の差圧(例えば10kg/cm2)以上になって開弁状態になる定差圧弁を構成しているものと、認められる。
しかし、バイパス管路5は、蒸発器4に連通し、該差圧は、圧縮機1側と蒸発器4との差圧に基づいたものであるし、また、パイロット型電磁弁7、8は、冷凍サイクルを構成する場合に必要不可欠な構成であるから、本件発明1のように圧縮機(10)とエバポレータ(14)との間に設けられて、「圧縮機(10)とコンデンサ(11)の冷媒圧力が所定の差圧に達した時に作動する差圧弁機構(80)」であるということはできない。

また、刊行物2に記載された三方弁は、導入管2から供給された高圧の冷媒を、ポート7又はポート13のいずれかの側に連通させた時、第2の主弁16の低圧側を、第1の導出管4又は第2の導出管6に連通させて、第2の主弁16の弁体を単に切り換える切換弁であって、その弁体の作動に差圧を利用しているとしても、本件発明1のように圧縮機(10)とエバポレータ(14)との間に設けられて、「圧縮機(10)とコンデンサ(11)の冷媒圧力が所定の差圧に達した時に作動する差圧弁機構(80)」であるということはできない。

したがって、刊行物1及び2には、少なくとも本件発明1の構成要件である「圧縮機(10)とエバポレータ(14)との間に設けられ前記パイロット電磁弁機構(50)が閉弁し、圧縮機(10)とコンデンサ(11)の冷媒圧力が所定の差圧に達した時に作動する差圧弁機構(80)」の構成の記載は認められないから、本件発明1は、刊行物1及び2に記載されたものといえず、また、これらの刊行物に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
また、異議申立人が提出した他の証拠を検討しても、本件発明1が、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

・本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の下位概念を発明の構成要件としているものであるから、本件発明1と同様に、刊行物1、2には、少なくとも本件発明2の構成要件であるパイロット電磁弁機構(50)の弁座(54)を閉塞させた時に、「圧縮機(10)とコンデンサ(11)の冷媒圧力が所定の差圧に達した時に差圧弁の弁座(61)が開放され」る構成の記載は認められない。

したがって、本件発明2は、刊行物1及び2に記載されたものといえず、また、これらの刊行物に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
また、異議申立人が提出した他の証拠を検討しても、本件発明2が、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)特許法第36条第4項及び第6項についての判断
本件発明1及び本件発明2についての特許は、上記訂正により、明細書に関する記載の不備は解消したので、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たさない出願に対してなされたものとすることはできない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1及び本件発明2についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び本件発明2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
冷媒流路の切換弁
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ホットガスサイクル回路を備えた空調装置における冷媒流路切換弁において、1つの弁本体(51)に、圧縮機(10)とコンデンサ(11)との間に設けられ冷媒回路を遮断するパイロット電磁弁機構(50)と、圧縮機(10)とエバポレータ(14)との間に設けられ前記パイロット電磁弁機構(50)が閉弁し、圧縮機(10)とコンデンサ(11)の冷媒圧力が所定の差圧に達した時に作動する差圧弁機構(80)とを一体的に設けたことを特徴とする冷媒流路切換弁。
【請求項2】 弁本体(51)には、第1の通路(52)と第2の通路(53)との間に弁座(54)を設けると共に該弁座(54)の上方と下方にそれぞれパイロット電磁弁用の上チャンバー(55)と下チャンバー(56)を設け、
また前記弁本体(51)には、連通孔(57)を介して前記の上チャンバー(55)に連通する差圧弁用の上チャンバー(59)と、連通孔(58)を介して前記の下チャンバー(56)に連通する差圧弁用の下チャンバー(60)とを設けると共に前記上チャンバー(59)には弁座(61)を設け、
さらに前記弁本体(51)には、連通孔(62)を介して前記上チャンバー(59)と連通する第3の通路(63)を設け、
前記電磁弁用の上チャンバー(55)にはパイロット電磁弁機構(50)を設け、非通電時には弁座(54)を開放して前記の第1の通路(52)と第2の通路(53)とを連通させ、通電時には弁座(54)を閉塞させ、
前記の差圧弁用の上チャンバー(59)並びに下チャンバー(60)には差圧弁機構(80)を設け、通電時の状態で且つ圧縮機(10)とコンデンサ(11)の冷媒圧力が所定の差圧に達した時に差圧弁の弁座(61)が開放され、第1の通路(52)→連通孔(57)→上チャンバー(59)→連通孔(62)→第3の通路(63)とを連通させ、暖房運転の初期の段階においては、パイロット電磁弁機構(50)を閉じ、圧縮機(10)とコンデンサ(11)の冷媒圧力が所定の差圧に達した時には差圧弁の弁座(61)が開放され、圧縮機から流れるホットガスを直接エバポレータ(14)に流入させるようにしたことを特徴とする冷媒流路の切換弁。
【請求項3】 弁本体(51)に固定される吸引子(65)は、その下面中心部にチャンバー(65a)を形成すると共にその奥部に穴65bを形成し、該穴(65b)には、中心部の連通孔(66)と上方の弁座(67)とを備え、中央のフランジ部(69a)にはピストンリング(68)が嵌着され、さらに下端部にパッキン(70)を固着してなる電磁弁用の弁体(69)を上下方向に摺動可能に配置させると共に、該電磁弁用の弁体(69)を圧縮コイルばね(71)によって上方に付勢させ、前記吸引子(65)の上方部分に固定したプランジャチューブ(72)内にはプランジャー(73)を上下方向に摺動自在に内挿し、前記吸引子(65)とプランジャー(73)との間に配置した圧縮コイルばね(74)により下端部にニードル(75)を備えたプランジャー(73)を上方に付勢させ、前記プランジャチューブ(72)の回りには電磁コイル(76)を配置させ、通電時には前記ニードル(75)の押し下げにより電磁弁用の弁体(69)を下方に押し下げるようにして前記のパイロット電磁弁機構(50)を構成させたことを特徴とする請求項1及び請求項2記載の冷媒流路の切換弁。
【請求項4】 前記パイロット電磁弁用の弁座(54)の周りに段付部(54a)を設け、パッキン(70)が弁座に当接してある程度縮んだ後では、弁体外縁部の剛体(金属)部分が段付部(54a)に当接してストッパー作用を果たすようにしたことを特徴とする請求項1、請求項2及び請求項3記載の冷媒流路の切換弁。
【請求項5】 前記プランジャー(73)の下端部に穴(73a)を設け、該穴(73a)にはニードル(75)を遊嵌させたことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3及び請求項4記載の冷媒流路の切換弁。
【請求項6】 差圧弁用の上チャンバー(59)内には、上面にパッキン(85)を固定し、下面には当て金(87)を介して気密的に固着されたダイヤフラム(86)を備えてなる弁体(84)を上下摺動自在に配置させ、差圧弁用の下チャンバー(60)には弁体受け(83)を圧入して前記のダイヤフラム(86)外縁部を気密的に固定し、該ダイヤフラム(86)によって上チャンバー(59)と下チャンバー(60)とを区画させ、前記当て金(87)の下面とアジャスタ(89)の間には、前記弁体(84)を上方に付勢させる圧縮コイルばね(88)を配置させ、差圧弁用の上チャンバー(59)と下チャンバー(60)との差圧が所定値よりも高くなった時に差圧弁用の弁座(61)を開放するように前記の前記の差圧弁機構(80)を構成させたことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4及び請求項5記載の冷媒流路の切換弁。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ホットガスサイクル回路を備えた空調装置に用いられる制御弁に係り、特に、パイロット電磁弁機構と差圧弁機構とを一体的に設けた冷媒流路切換弁に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
冷凍サイクル中の高温高圧ガス冷媒(ホットガス)を用いることにより、空調初期の暖房立ち上がり能力を向上した簡易な空調装置が提案されている。図7は、従来の空調装置の冷媒回路を示す回路図である。この空調装置は、内燃機関により駆動される圧縮機10、コンデンサ11、レシーバ12、逆止弁9、減圧装置13、エバポレータ14、アキュームレータ15が配管16により順に接続されている。そして圧縮機10とコンデンサ11の間に設けられる第1の電磁弁17と圧縮機10との間には、コンデンサ11を迂回する第1のバイパス管20の一端20aが接続され、第1のバイパス管20の他端20bは減圧装置13とエバポレータ14の間の配管16に連通する。第1のバイパス管20には、第1の減圧装置22が設けられている。第1の減圧装置22と第1のバイパス管20の一端20aの間には第2の電磁弁18が設けられている。
【0003】
そして圧縮機10の負荷増大による圧縮仕事を大きくするために、前記の第1の減圧装置22により制御されるガス冷媒の適正な圧力は、第1の減圧装置22の高圧側で1.47MPa以上、低圧側で0.20〜0.39MPaになるようにしている。
【0004】
また、レシーバ12と減圧装置13との間の配管16には逆止弁9が設けられている。逆止弁9は冷媒がコンデンサ11に逆流し冷媒不足となるのを防止する。またアキュームレータ15は、冷媒が過剰になった場合の冷媒を溜め圧縮機10への液戻りを防止し、冷媒回路内に常に熱ガス冷媒が循環するようにしている。
【0005】
第2のバイパス管40は、一端側が圧縮機10と第1の電磁弁17または第2の電磁弁18とを連結する配管の途中に接続され、もう一方の他端側がアキュームレータ15と圧縮機10とを連結する配管の途中に接続されている。第2のバイパス管40の途中には、第3の電磁弁41と第2の減圧装置42が設けられている。第1の電磁弁17と第2の電磁弁18と第3の電磁弁41は、制御装置100によりその開閉が制御されている。
【0006】
前記の空調装置において冷房時では、第1の電磁弁17は開、第2の電磁弁18および第3の電磁弁41は閉となり、圧縮機10からの冷媒をコンデンサ11側にのみ流し、圧縮機10からの冷媒を、コンデンサ11、レシーバ12、逆止弁9、減圧装置13、エバポレータ14、アキュームレータ15、圧縮機10の順に循環する。また、暖房時では、初期設定は、第1の電磁弁17を開、第2の電磁弁18を閉、第3の電磁弁41を閉にする。暖房開始後、第1の電磁弁と第2の電磁弁18を閉じ、第3の電磁弁41を開く。すると圧縮機10から吐出された冷媒は、第2のバイパス管40を通り、再び圧縮機10に吸入される。このとき第2のバイパス管40の途中に第2の減圧装置42が設けられているから、圧縮機10の吐出圧力は増大し、これによりウォームアップが図られる。次いで、一定時間経過または一定圧力到達が判定されると、第2の電磁弁18を開、第3の電磁弁41を閉にする。これにより、定常暖房になり、圧縮機10から吐出された冷媒は第1のバイパス管20を通り、エバポレータ14で放熱し、再び圧縮機10に吸入される。次いで、暖房停止が要求されると、暖房停止になる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の空調装置においては、ホットガスサイクル回路を設けるのに際し、第1の電磁弁17と第2の電磁弁18を設けなければならないため、部品コストの増大を招き、また2つの電磁弁を作動させるので消費電力が大きくなるという問題があった。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、従来のホットガスサイクル回路を備えた空調装置における問題点に鑑みてなされたものであって、冷媒流路切換弁を、圧縮機とコンデンサとの間に設けられ冷媒回路を遮断するパイロット電磁弁機構と、圧縮機とエバポレータの間に設けられ圧縮機とコンデンサの冷媒圧力が所定の差圧になった時に作動する差圧弁機構とを一体的に設け、従来では2個の電磁弁を必要としていたものを1個の冷媒流路切換弁に置換えることにより、従来品と同等の作用を確保でき且つ、部品コストの削減、小型化並びに省電力化がはかれ、また冷媒回路中にあって電磁弁機構もしくは差圧弁機構のどちらか一方が必ず開弁状態であり、冷媒回路が閉塞することがなく冷媒回路の破損を防止(フェールセーフ)することのできる媒流路切換弁の提供を目的とするものである。
【0009】
すなわち、第1の発明は、ホットガスサイクル回路を備えた空調装置における冷媒流路切換弁において、1つの弁本体51に、圧縮機10とコンデンサ11との間に設けられ冷媒回路を遮断するパイロット電磁弁機構50と、圧縮機10とエバポレータ14との間に設けられ前記パイロット電磁弁機構50が閉弁し、圧縮機10とコンデンサ11の冷媒圧力が所定の差圧に達した時に作動する差圧弁機構80とを一体的に設けたことを特徴とする冷媒流路切換弁である。
【0010】
また第2の発明は、弁本体51には、第1の通路52と第2の通路53との間に弁座54を設けると共に該弁座54の上方と下方にそれぞれパイロット電磁弁用の上チャンバー55と下チャンバー56を設け、また前記弁本体51には、連通孔57を介して前記の上チャンバー55に連通する差圧弁用の上チャンバー59と連通孔58を介して前記の下チャンバー56に連通する差圧弁用の下チャンバー60を設けると共に前記上チャンバー59には弁座61を設け、さらに前記弁本体51には、連通孔62を介して前記上チャンバー59と連通する第3の通路63を設け、前記電磁弁用の上チャンバー55にはパイロット電磁弁機構50を設け、非通電時には弁座54を開放して前記の第1の通路52と第2の通路53とを連通させ、通電時には弁座54を閉塞させ、前記の差圧弁用の上チャンバー59には差圧弁機構80を設け、通電時の状態で且つ圧縮機10とコンデンサ11の冷媒圧力が所定の差圧に達した時に差圧弁の弁座61が開放され、第1の通路52と連通孔57と上チャンバー59と連通孔62と第3の通路63とを連通させ、暖房運転の初期の段階においては、パイロット電磁弁機構50を閉じ、圧縮機10とコンデンサ11の冷媒圧力が所定の差圧に達した時には差圧弁の弁座61が開放され、圧縮機から流れるホットガスを直接エバポレータ14に流入させるようにしたことを特徴とする冷媒流路の切換弁である。
【0011】
また第3の発明は、弁本体51に固定される吸引子65は、その下面中心部にチャンバー65aを形成すると共にその奥部に穴65bを形成し、該穴65bには、中心部の連通孔66と上方の弁座67とを備え、中央のフランジ部69aにはピストンリング68が嵌着され、さらに下端部にパッキン70を固着してなる電磁弁用の弁体69を上下方向に摺動可能に配置させると共に、該電磁弁用の弁体69を圧縮コイルばね71によって上方に付勢させ、前記吸引子65の上方部分に固定したプランジャチューブ72内にはプランジャー73を上下方向に摺動自在に内挿し、前記吸引子65とプランジャー73との間に配置した圧縮コイルばね74により下端部にニードル75を備えたプランジャー73を上方に付勢させ、前記プランジャチューブ72の回りには電磁コイル76を配置させ、通電時には前記ニードル75の押し下げにより電磁弁用の弁体69を下方に押し下げるようにして前記のパイロット電磁弁機構50を構成させたことを特徴とする請求項1及び請求項2記載の冷媒流路の切換弁である。
【0012】
また、第4の発明は、前記パイロット電磁弁用の弁座54の周りに段付部54aを設け、パッキン70が弁座に当接してある程度縮んだ後では、弁体外縁部69bの剛体(金属)部分が段付部54aに当接してストッパー作用を果たすようにしたことを特徴とする請求項1、請求項2及び請求項3記載の冷媒流路の切換弁である。
【0013】
また、第5の発明は、前記プランジャー73の下端部に穴73aを設け、該穴73aにはニードル75を遊嵌させたことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3及び請求項4記載の冷媒流路の切換弁である。
【0014】
さらに、第6の発明は、差圧弁用の上チャンバー59内には、上面にパッキン85を固定し、下面には当て金87を介して気密的に固着されたダイヤフラム86を備えてなる弁体84を上下摺動自在に配置させ、差圧弁用の下チャンバー60には弁体受け83を圧入して前記のダイヤフラム86外縁部を気密的に固定し、該ダイヤフラム86によって上チャンバー59と下チャンバー60とを区画させ、前記当て金87の下面とアジャスタ89の間には、前記弁体84を上方に付勢させる圧縮コイルばね88を配置させ、差圧弁用の上チャンバー59と下チャンバー(60)との差圧が所定値よりも高くなった時に差圧弁用の弁座61を開放するように前記の差圧弁機構80を構成させたことを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3、請求項4及び請求項5記載の冷媒流路の切換弁である。
【0015】
【作用】
本発明の冷媒流路の切換弁について、その働きを図1〜図5に基づいて説明する。夏の冷房運転時は図1のように、パイロット電磁弁機構(50)が非通電の状態にあって弁座54は開放され、圧縮機10から流れる高圧冷媒は、前記第1の通路52→上チャンバー55→下チャンバー56→第2の通路53→コンデンサ11→レシーバ12→逆止弁9→減圧装置13→エバポレータ14→アキュームレータ15→圧縮機10へと流れ冷房運転が行われる。なお、この冷房運転の状態では、差圧弁機構80の上チャンバー59と下チャンバー60との間に例えば0.49MPaというような差圧が生じないので弁座61が開くことがない。
【0016】
冬の暖房運転時の初期段階では、図2のようにパイロット電磁弁機構50に通電され、弁座54が閉じた状態で圧縮機10が運転されると、運転開始時には圧縮機10の圧縮仕事が小さいためにコンデンサ11側の冷媒圧力すなわちこれにつながる差圧弁機構80の下チャンバー60の冷媒圧力に対して、圧縮機10側の冷媒圧力すなわちこれにつながる差圧弁機構80の上チャンバー59の冷媒圧力との差圧が設定圧力(例えば、0.49MPa)よりも低く、差圧弁の弁体84が上方に押し上げられたままとなり閉弁状態を維持するため、冷媒が流れず圧縮機10の負荷が急速に増大し圧縮仕事が大きくなる。
【0017】
次に冬の定常暖房運転時では、図3のように前記圧縮機10の圧縮仕事が急速に大きくなるため、コンデンサ11側の冷媒圧力すなわちこれにつながる差圧弁機構80の下チャンバー60の冷媒圧力に対して、圧縮機10側の冷媒圧力すなわちこれにつながる差圧弁機構80の上チャンバー59の冷媒圧力との差圧が設定圧力(例えば、0.49MPa)よりも高くなり、差圧弁の弁体84が下方に押し下げられ、圧縮機10から流れる高圧冷媒は、前記第1の通路52→上チャンバー55→連通孔57→差圧弁の上チャンバー59→連通孔62→第3の通路53→第1の減圧装置22→エバポレータ14→アキュームレータ15→圧縮機10へと流れ暖房運転が行われる。
【0018】
【発明の実施の形態】
次に、本発明に係る冷媒流路の切換弁130の構造を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明に係る冷媒流路の切換弁130において、パイロット電磁弁機構50が開の状態にある切換弁の縦断面図、図2はパイロット電磁弁機構が閉の状態で例えば差圧が0.49MPa以下であり差圧弁機構80が閉の状態にある時の切換弁の縦断面図、図3はパイロット電磁弁機構が閉の状態で例えば差圧が0.49Mpa以上であり差圧弁機構が開の状態にある時の切換弁の縦断面図、図4は、パイロット電磁弁機構が図1〜図3、及び、図2及び図3の状態から図1の状態へ移行する過程、それぞれ各状態でのピストンリング68にて区画される上チャンバー55とチャンバー65aの圧力状態並びにこの時のピストンリング68の状態を説明する図、図5は弁座54部分の拡大縦断面図、図6は本発明の冷媒流量切換弁を用いた空調装置の冷媒回路を示す回路図である。本発明の冷媒流路の切換弁は、ホットガスサイクル回路を備えた空調装置における冷媒流路切換弁において、1つの弁本体51にパイロット電磁弁機構50と差圧弁機構80とが設けられ、前記のパイロット電磁弁機構50では、圧縮機10とコンデンサ11とをつなぐ冷媒回路のON・OFF制御が行われ、前記の差圧弁機構80では、前記のパイロット電磁弁機構50が閉の状態で且つ、圧縮機10とコンデンサ11との差圧が所定の圧力より高くなった時に差圧弁が作動して圧縮機10とエバポレータ14との間の冷媒回路のON・OFF制御が行われようになっている。なお、前記パイロット電磁弁機構は制御装置100によりその開閉が制御されている。
【0019】
前記弁本体51は、圧縮機10につながる第1の通路52と、この第1の通路52に連通する電磁用の上チャンバー55が設けられると共に該上チャンバー55には弁座54が設けられ、さらに第2の通路53に連通する下チャンバー56が設けられ、前記の第2の通路53はコンデンサ11につながるようになっている。また、前記弁座54の周りには段付部54aが設けられ、後述する電磁弁用の弁体69に固着されるパッキン70が前記弁座54に当接してある程度縮んだ後では、弁体外縁部69bの剛体(金属)部分が段付部54aに当接してストッパー作用を果たすようになっている。また、前記弁本体51には、差圧弁用の上チャンバー59と下チャンバー60が設けられ、前記上チャンバー59には弁座61が設けられている。そして上チャンバー59は連通孔57を介して前記電磁用の上チャンバー55に連通し、また下チャンバー60は連通孔58を介して前記の電磁弁用の下チャンバー56に連通するようになっている。
【0020】
さらに前記弁本体51には、エバポレータ14につながる第3の通路63が設けられ、該第3の通路63は連通孔62を介して前記差圧弁用の上チャンバー59と連通するようになっている。
【0021】
パイロット電磁弁機構50は、前記電磁用の上チャンバー55に取り付けられるものであり、このパイロット電磁弁機構50は、非通電時には弁座54を開放して前記の第1の通路52と第2の通路53とを連通させ、通電時には弁座54を閉塞させるようになっている。
【0022】
差圧弁機構80は、前記の差圧弁用の上チャンバー59並びに下チャンバー60に取り付けられ、該差圧弁機構80は、パイロット電磁弁の通電時の状態で且つ、圧縮機10とコンデンサ11の冷媒圧力が所定の差圧に達した時に差圧弁の弁座61を開放し、第1の通路52と連通孔57と上チャンバー59と連通孔62と第3の通路63とを連通させるようになっている。
【0023】
上述の本発明にかかる冷媒流路の切換弁は次のように働く。暖房運転時において、パイロット電磁弁機構50を閉じ、圧縮機10とコンデンサ11の冷媒圧力が所定の差圧に達した時には差圧弁機構80を開放して、圧縮機から流れるホットガスを直接エバポレータ14に流入させ、暖房運転ができるようになっている。
【0024】
次に、前記のパイロット電磁弁機構50の詳細について説明する。パイロット電磁弁機構50は、中心部下面にチャンバー65aを備えると共にその奥部に穴65bを備えた吸引子65と、中心部の連通孔66と上方の弁座67とを備え、中央のフランジ部69aにはピストンリング68が嵌着され、さらに下端部にパッキン70を固着し、前記の吸引子65の中心部に上下摺動自在に配置されてなる電磁弁用の弁体69と、前記弁体69を上方に付勢させる圧縮コイルばね71と、前記吸引子65の上方部分に固定されるプランジャチューブ72と、プランジャチューブ72に内挿され上下方向に摺動自在なプランジャー73と、前記吸引子65とプランジャー73との間に配置されプランジャー73を上方に付勢させる圧縮コイルばね74と、プランジャー73の下端部の穴73aに遊嵌状に内挿された電磁弁用の弁体69を下方に押し下げるニードル75と、前記プランジャチューブ72の回りに配置させた電磁コイル76と、前記電磁コイル76に取り付けられた磁極板77により構成されている。なお、図中、69bは、弁体外縁部であり、前述のように、この弁体外縁部69bが段付部54aに当接してストッパー作用を果たすようになっている。また、前記ニードル75の上端面部75aは球面になっていてプランジャー73と自由度を設けているため、吸引子65の中心部に設けたガイド65cに沿って真っ直ぐに押し下げることができる。
【0025】
次に、前記パイロット電磁弁機構50の動作について図1〜図6に基づき説明する。なお、図4(A)は、パイロット電磁弁機構50が開の状態(図1に対応)であり、図4(B)は、パイロット電磁弁機構50が閉の状態(図2及び図3に対応)であり、図4(C)は、パイロット電磁弁機構50が閉の状態(図2及び図3に対応)から開の状態(図1に対応)への移行する過程の状態を示している。パイロット電磁弁機構が開弁状態では、圧縮機10が運転され第1の通路52、上チャンバー55、弁座54、下チャンバー56、第2の通路53を通じて高温高圧のガス冷媒が流れている。この状態で、制御装置100から電磁コイル76に通電されると、前記電磁コイル76の電磁気吸引力によりプランジャー73が圧縮コイルばね74を押し下げて、前記プランジャー73の下端部に遊嵌されたニードル75が弁体69の上部に設けた弁座67に当接しながら弁体69を下方に移動させ、前記弁体69の下面に固定したパッキン70と弁座54が当接して閉弁状態となる。この時、前記弁体69の上面に設けた弁座67には成形が施されており、前記ニードル75の下端部、および前記パッキン70と弁座54の当接部はシールされているため、第1の通路52から第2の通路53へ高温高圧のガス冷媒が洩れることはない。なお、パイロット電磁弁機構50が開の状態では、ピストンリング68に設けた切り溝68a及び連通孔66より、高温高圧のガス冷媒が流れ込むため、上チャンバー55とチャンバー65aは高圧状態となっている。
【0026】
次に、前記パイロット電磁弁機構50が閉弁状態では、圧縮機10から上チャンバー55とピストンリング68の切り溝68aを通じてピストンリングよりチャンバー65a内が高圧状態に、またコンデンサー11側の下チャンバー56が低圧状態になる。この時、弁座54の周りには段付部54aが設けられているため、弁体69に固着されたパッキン70が前記弁座54に当接してある程度縮んだ後では、前記弁体69の外縁部69bの剛体(金属)部分が段付部54aに当接してストッパー作用を果たす。この状態で、制御装置100から電磁コイル76への通電が切れると、前記電磁コイル76の電磁気吸引力が無くなりプランジャー73は圧縮コイルばね74により上方へ押し上げられ、前記プランジャー73の下端部に固定されたニードル75が上方に移動して、前記弁体69の上面に設けた弁座67から離れ開弁となり、前記ピストンリング68に設けた切り溝68aの断面積よりも弁座67部の弁口面積のほうが十分大きいため、段付状の穴65b及び弁体69の中心部に設けた連通孔66を通じてコンデンサー11側の下チャンバー56と連通され、チャンバー65a内が高圧から低圧へ移行する。この時、上チャンバー55は高圧、下チャンバー56は低圧であるため、弁座54の弁口受圧面積に加わる下向きの力に対して、上チャンバー55とチャンバー65aとの間を区画する前記ピストンリング68により前記弁体69のフランジ部69aの受圧面積のほうが大きいため、前記フランジ部69aに加わる上向きの力が増し、弁体69は上方に移動して、前記弁体69の下面に固定したパッキン70が前記弁座54から離れ、開弁状態となる。
【0027】
次に、前記の差圧弁機構80の詳細について説明する。差圧弁機構80は、差圧弁用の上チャンバー59と下チャンバー60を備えており、上チャンバー59は連通孔57を介して電磁弁用の上チャンバー55と連通すると共に、連通孔62を介して第3の通路63に連通するようになっている。また前記の下チャンバー60は連通孔58を介して電磁弁用の下チャンバー56に連通するようになっている。また、前記差圧弁用の上チャンバー59内には、上面にパッキン85を固定し、下面には当て金87を介して気密的に固着されたダイヤフラム86を備えてなる弁体84が上下摺動自在に配置されている。そして、差圧弁用の下チャンバー60には弁体受け83を圧入して前記のダイヤフラム86外縁部を気密的に固定している。このダイヤフラム86は、上チャンバー59と下チャンバー60とを区画させるためのものである。また、前記当て金87の下面とアジャスタ89の間には、前記弁体84を上方に付勢させる圧縮コイルばね88が配置されている。
【0028】
次に、前記差圧弁機構80の動作について説明する。前記パイロット電磁弁機構50において電磁コイル76が非通電で開弁状態にある時、圧縮機10からの高温高圧のガス冷媒は、パイロット電磁弁用の上チャンバー55から連通孔57を通じて差圧弁用の上チャンバー59へ、またパイロット電磁弁用の下チャンバー56から連通孔58を通じて差圧弁用の下チャンバー60へ導入されている。この状態ではダイヤフラム86で区画された、前記差圧弁用の上チャンバー59と下チャンバー60との間に差圧が生じないため、弁体受け83内に収納された圧縮コイルばね88により当て金87を介して弁体84は上方へ押し上げられており、前記弁体84の上面に固定したパッキン85と弁座61が当接して、閉弁状態のままである。
【0029】
次に、前記パイロット電磁弁機構50において電磁コイル76に通電され閉弁状態で初期段階にある時、コンデンサ11側の下チャンバー56は徐々に低圧へ移行するため、前記差圧弁機構80の差圧弁用のチャンバー81も徐々に低圧へ移行するため、前記ダイヤフラム86で区画された、前記差圧弁用の上チャンバー59と下チャンバー60との間に差圧が生じはじめるが、圧縮コイルばね88により開弁圧力が例えば0.49MPaに設定されているため、前記差圧弁機構80にこの設定圧力までの差圧が付くまでは、弁体受け83内に収納された前記圧縮コイルばね88により当て金87を介して弁体84は上方へ押し上げられており、前記弁体84の上面に固定したパッキン85と弁座61が当接して、閉弁状態を維持する。
【0030】
さらに時間が経過すると、前記差圧弁用の上チャンバー59と下チャンバー60との間の差圧がおおきくなり、前記ダイヤフラム86に加わる下方への力が増し、例えば開弁設定圧力0.49MPaよりも大きくなるため、圧縮コイルばね88を下方へ押し下げ、当て金87を介して弁体84は下方へ移動することにより、前記弁体84の上面に固定したパッキン85と弁座61が離れ、開弁状態となる。ここで、例えば開弁設定圧力を0.49MPaとしているが、前記アジャスタ89により開弁圧力を任意に設定することができる。なお、前記連通孔62の孔径を任意に変える(例えば小さく)ことにより、図6の本発明の冷媒流路切換弁を用いた空調装置の冷媒回路における第一の減圧装置の働きを兼ねることもできる。
【0031】
次に、本発明にかかる冷媒流路切換弁の作動について図1〜図3及び図6を参照して説明する。図6は、本発明の冷媒流路切換弁を用いた空調装置の冷媒回路を示す回路図である。冷房時では図1に示すように、冷媒流路の切換弁130のパイロット電磁弁機構50が開の状態(非通電状態)にあり、また差圧弁機構80が閉じた状態にある。この状態においては、圧縮機10からの冷媒をコンデンサ11側にのみ流し、圧縮機10からの冷媒を、コンデンサ11、レシーバ12、逆止弁9、減圧装置13、エバポレータ14、アキュームレータ15、圧縮機10の順に循環する。つまり、冷媒流路の切換弁130としてはなにも作用しない。
【0032】
図2は、パイロット電磁弁機構が閉の状態で例えば差圧が0.49MPa以下にある時の切換弁の縦断面図であり、暖房運転のウォーミングアップに使われる。この状態では、冷媒流路の切換弁130が閉じてコンデンー11側へ冷媒が流れることなく、また差圧弁機構80も閉じた状態にありエバポレータ14側にも冷媒は流れない。したがって、圧縮機1が運転されると冷媒圧力が所定値(例えば0.49MPa以上)まで高められる。
【0033】
図3は、パイロット電磁弁機構が閉の状態で例えば差圧が0.49MPa以上にある時の切換弁の縦断面図であり、差圧弁機構80が開いた状態にありエバポレータ14側へ冷媒が流れるようになっている。この暖房時では、圧縮機10から吐出された冷媒は、図3に示すように、第1の通路52→パイロット電磁弁の上チャンバー55→連通孔57→差圧弁の上チャンバー59→連通孔62→第3の通路63を経て、図6に示す第1のバイパス管20を通り、エバポレータ14で放熱し、再び圧縮機10に吸入される。次いで、暖房停止が要求されると、暖房停止になる。
【0034】
【発明の効果】
本発明による冷媒流路の切換弁によると、圧縮機とコンデンサとの間に設けられ冷媒回路を遮断するパイロット電磁弁機構と、圧縮機とエバポレータの間に設けられ圧縮機とコンデンサの冷媒圧力が所定の差圧になった時に作動する差圧弁機構とを1つの弁本体に一体的に組み込んだものであるから、従来では2個の電磁弁を必要としていたものを1個の冷媒流路切換弁に置換えることができ、従来品に比べて部品コストの削減並びに省電力化がはかれること、部品点数がすくなく小型化がはかれるのでシステムとしての軽量化を図ることができること、また冷媒回路中にあってパイロット電磁弁機構もしくは差圧弁機構のどちらか一方が必ず開弁状態であるため、冷媒回路が閉塞することがなく、冷媒回路の破損を防止(フェールセーフ)することできる。
【0035】
パイロット電磁弁は小電力で作動し、差圧弁機構における作動圧の設定はアジャスタ89による調整により圧縮コイルばね88の強さを代えるだけで容易に行える。また、プランジャー73の下端部に設けた穴73aに、ニードル75を遊嵌させたので、仮にプランジャーが振れていたとしてもニードル上端面部75aの球面および吸引子65に設けたガイド65cの作用によってニードルを真っ直ぐに押し下げることができ、弁体69上部に形成される弁座67のシールを確実に行える。さらに、パイロット電磁弁用の弁座54の周りに設けた段付部54aと弁体69の外縁部69bの剛体(金属)部分にストッパーを構成させたので、弁体69に固着されたパッキン70が弁座54に当接してある程度縮んだ後、ストッパーによりそれ以上パッキンが縮むことがなく、パイロット電磁弁機構の軸方向ストロークの安定化をはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る冷媒流路の切換弁において、パイロット電磁弁機構が開の状態にある切換弁の縦断面図。
【図2】 本発明に係る冷媒流路の切換弁において、パイロット電磁弁機構が閉の状態で例えば差圧が0.49MPa以下の状態にある時の切換弁の縦断面図。
【図3】 本発明に係る冷媒流路の切換弁において、パイロット電磁弁機構が閉の状態で例えば差圧が0.49MPa以上の状態にある時の切換弁の縦断面図。
【図4】 図1〜図3、及び、図2及び図3の状態から図1の状態へ移行する過程、それぞれ各状態でのピストンリング68にて区画される上チャンバー55とチャンバー65aの圧力状態並びにこの時のピストンリング68の状態を説明する図。
【図5】 弁座54部分の拡大縦断面図、
【図6】 本発明の冷媒流路切換弁を用いた空調装置の冷媒回路を示す回路図。
【図7】 従来の空調装置の冷媒回路を示す回路図。
【符号の説明】
10 圧縮機(冷媒圧縮機) 11 コンデンサ
14 エバポレータ 17 第1の電磁弁
18 第2の電磁弁 20 第1のバイパス管
22 第1の減圧装置 40 第2のバイパス管
42 第2の減圧装置
50 パイロット電磁弁機構 51 弁本体
52 第1の通路 53 第2の通路
54 弁座 54a 段付部
55 上チャンバー 56 下チャンバー
58 連通孔 59 上チャンバー
60 下チャンバー 61 弁座 63 第3の通路
62 連通孔 65 吸引子
65a チャンバー 65b 穴
65c ガイド 66 連通孔
67 弁座 68 ピストンリング
69 電磁弁用の弁体 69a フランジ部
69b 外縁部 70 パッキン
71 圧縮コイルばね 72 プランジャチューブ
73 プランジャー 74 圧縮コイルばね
75 ニードル 75a ニードル上端面部
76 電磁コイル
77 磁極板 80 差圧弁機構
83 弁体受け 84 弁体
85 パッキン 86 ダイヤフラム
87 当て金 88 圧縮コイルばね
130 冷媒流路切換弁
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-08-17 
出願番号 特願2000-64239(P2000-64239)
審決分類 P 1 652・ 121- YA (F25B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐野 遵  
特許庁審判長 水谷 万司
特許庁審判官 櫻井 康平
長浜 義憲
登録日 2003-03-28 
登録番号 特許第3413385号(P3413385)
権利者 太平洋工業株式会社
発明の名称 冷媒流路の切換弁  
代理人 伴 正昭  
代理人 恩田 誠  
代理人 伴 正昭  
代理人 恩田 博宣  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ