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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1105955
異議申立番号 異議2002-71200  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-05-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-05-10 
確定日 2004-08-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3228921号「カーボン含有窒化アルミニウム焼結体」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3228921号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3228921号の請求項1及び請求項2に係る発明についての出願は、平成11年12月15日(優先権主張平成11年9月6日)に特許出願され、平成13年9月7日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人阪本 裕一及び日本碍子株式会社より特許異議の申立てがなされた後、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成14年12月24日に訂正請求がされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
平成14年12月24日になされた訂正の内容は、以下のとおりである。
・訂正事項1
明細書段落【0043】を
「【実施例】
(発明外参考例1) AlN+Y2O3+非晶質カーボン
(1)ショ糖を酸化性気流中(空気中)で500℃に加熱して熱分解させ、非晶質カーボンを得た。
(2)窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、平均粒径1.1μm)100重量部、酸化イットリウム(Y2O3:イットリア、平均粒径0.4μm)4重量部、上記(1)の非晶質カーボン0.09重量部を混合し、成形型に入れて窒素雰囲気中、1890℃、圧力150kg/cm2の条件で3時間ホットプレスして窒化アルミニウム焼結体を得た。
焼結体中のカーボン量の測定は、焼結体を粉砕し、これを800℃で加熱して発生するCOガスを捕集することにより行った。この方法による測定の結果、窒化アルミニウム焼結体中に含まれるカーボン量は800ppmであった。また、明度はN=3.5であった。」
と訂正する
・訂正事項2
明細書段落【0044】を
「(発明外参考例2) AlN+非晶質カーボン
(1)ショ糖を空気中で500℃に加熱して熱分解させ、非晶質カーボンを得た。
(2)窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、平均粒径1.1μm)100重量部、上記(1)の非晶質カーボン0.09重量部を混合し、成形型に入れて窒素雰囲気中、1890℃、圧力150kg/cm2の条件で3時間ホットプレスして窒化アルミニウム焼結体を得た。得られた窒化アルミニウム焼結体中のカーボン量は805ppmで、明度はN=3.5であった。」
と訂正する。
・訂正事項3
明細書段落【0045】を
「(実施例1) カーボンの固溶
窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、平均粒径1.1μm)100重量部、酸化イットリウム(Y2O3:イットリア、平均粒径0.4μm)4重量部、グラファイト(東洋炭素社製、GR-1200)0.09重量部を混合し、成形型に入れて窒素雰囲気中、1890℃、圧力150kg/cm2の条件で3時間ホットプレスし、さらにこの焼結体を常圧の窒素雰囲気中、1850℃で3時間加熱してグラファイトを窒化アルミニウム相に固溶させた。得られた窒化アルミニウム焼結体中のカーボン量は810ppmで、明度はN=4.0であった。なお、上記ホットプレス中においては、カーボンの固溶現象は発生しないと考えられる。」
と訂正する。
・訂正事項4
明細書段落【0048】を
「図1は、発明外参考例1〜2、実施例1および比較例1、2において、室温〜500℃までの体積抵抗率の推移を示したものである。
この図1に示すように、比較例2として示す結晶質カーボンのみが入っている焼結体の例では、体積抵抗率が約1/10に低下した。」
と訂正する。
・訂正事項5
明細書段落【0055】を
「また、図2、図3は、焼結体のX線回折チャートを示すものであり、発明外参考例1(図2)と比較例2(図3)の焼結体のチャートを示す。これらの図に示すように、発明外参考例1の例では、回折角度2θ=10〜90°の位置にカーボンのピークは検出できない。また、2θ=15〜40°でハローは出現していない。しかしながら、比較例2では、2θ=44〜45°の位置にカーボンのピークが観察される。」
と訂正する。
・訂正事項6
明細書段落【0056】を
「また、図9には、発明外参考例1と実施例1の焼結体の強度測定結果を記載している。図9に示したように、カーボンを固溶させた窒化アルミニウム焼結体では、強度が低下している。なお、強度の測定は、インストロン万能試験機(4507型ロードセル500kgf)を用い、温度が25〜1000℃の大気中、クロスヘッド速度0.5mm/分、スパン距離L=30mm、試験片の厚さ=3.06mm、試験片の幅=4.03mmで実施し、以下の計算式(4)を用いて3点曲げ強度σ(kgf/mm2)を算出した。」
と訂正する。
・訂正事項7
明細書段落【0059】を
「また、発明外参考例1〜2、実施例1および比較例1、2の焼結体について、ホットプレート上で500℃まで加熱し、表面温度をサーモビュア(日本データム株式会社 IR162012-0012)と、JIS-C-1602(1980)K型熱電対で測定し、両者の温度差を調べた。なお、熱電対で測定した温度とのずれ量が大きいほど、サーモビュアの温度誤差が大きいと言える。
その測定の結果によると、発明外参考例1では温度差0.8℃、発明外参考例2では温度差0.9℃、実施例1では温度差1.0℃、比較例1では温度差8℃、比較例2では温度差0.8℃であった。」
と訂正する。
・訂正事項8
明細書段落【0060】を
「(実施例2) 応用例、ウエハプローバ(図7、図8)
(1)窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、平均粒径1.1μm)100重量部、イットリア(平均粒径0.4μm)4重量部、ショ糖0.2重量部および1-ブタノールおよびエタノールからなるアルコール53重量%を混合した組成物を用い、ドクターブレード法を用いて成形することにより厚さ0.47mmのグリーンシート30を得た。
(2)このグリーンシート30を80℃で5時間乾燥した後、パンチングを行い、発熱体と外部端子ピンと接続するためのスルーホール用貫通孔を設けた。」
と訂正する。
・訂正事項9
明細書段落【0070】を
「(実施例3)応用例、発熱体および静電チャック用静電電極を内部に有するセラミックヒータ(図4)
(1)窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、平均粒径1.1μm)100重量部、イットリア(平均粒径:0.4μm)4重量部、発明外参考例1で得られた非晶質カーボン0.09重量部、分散剤0.5重量部および1-ブタノールとエタノールとからなるアルコール53重量部を混合したペーストを用い、ドクターブレード法による成形を行って、厚さ0.47mmのグリーンシートを得た。」
と訂正する。
・訂正事項10
【図面の簡単な説明】を
「【図1】
発明外参考例、実施例および比較例におけるセラミック基板成分と体積抵抗率との関係を示すグラフである。
【図2】
発明外参考例の焼結体のX線回折チャートである。
【図3】
比較例の焼結体のX線回折チャートである。
【図4】
(a)は、静電チャックを模式的に示す縦断面図であり、(b)は、(a)に示した静電チャックのA-A線断面図である。
【図5】
静電チャックに埋設されている静電電極の別の一例を模式的に示す水平断面図である。
【図6】
静電チャックに埋設されている静電電極の更に別の一例を模式的に示す水平断面図である。
【図7】
窒化アルミニウム焼結体からなるウエハプローバの製造工程の説明図である。
【図8】
窒化アルミニウム焼結体からなるウエハプローバの製造工程の説明図である。
【図9】
発明外参考例および実施例における曲げ強度の温度依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
2 チャックトップ導体層
3 窒化アルミニウム基板
5 ガード電極
6 グランド電極
7 溝
8 空気吸引孔
16、17 スルーホール
19、190、191 外部端子ピン
20、70、80 静電チャック
21、71、81 窒化アルミニウム基板
22、72、82a、82b チャック正極静電層
23、73、83a、83b チャックv負静電層
41 発熱体
180 袋孔」
と訂正する。
・訂正事項11
【図1】を下記のように訂正する。

・訂正事項12
【図9】を下記のように訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項1乃至訂正事項3、訂正事項8及び訂正事項9は、発明の詳細な説明の訂正であって、具体的には、「実施例1」、「実施例2」をそれぞれ「発明外参考例1」、「発明外参考例2」と訂正し、「実施例3」乃至「実施例5」をそれぞれ「実施例1」乃至「実施例3」と訂正するものである。
そして、訂正事項1乃至訂正事項3、訂正事項8及び訂正事項9は、発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載に整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
訂正事項4乃至訂正事項7は、発明の詳細な説明の訂正であって、訂正事項1乃至訂正事項3、訂正事項8及び訂正事項9の訂正により、「実施例1」乃至「実施例5」がそれぞれ「発明外参考例1」、「発明外参考例2」、「実施例3」乃至「実施例5」となったのに伴って、発明の詳細な説明の該当する部分の記載を整合させるように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
訂正事項10は、図面の簡単な説明の訂正であって、訂正事項1乃至訂正事項3、訂正事項8及び訂正事項9の訂正により、「実施例1」乃至「実施例5」がそれぞれ「発明外参考例1」、「発明外参考例2」、「実施例3」乃至「実施例5」となったのに伴って、図面の簡単な説明の記載の該当する部分の記載を整合させるように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
訂正事項11及び訂正事項12は、図面の訂正であって、訂正事項1乃至訂正事項3、訂正事項8及び訂正事項9の訂正により、「実施例1」乃至「実施例5」がそれぞれ「発明外参考例1」、「発明外参考例2」、「実施例3」乃至「実施例5」となったのに伴って、図面の該当する部分の記載を整合させるように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
そして、これらの訂正は、実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立についての判断
3-1.本件発明
上記「2.訂正の適否についての判断」で示したように、平成14年12月24日に提出の訂正請求書による訂正は認められるから、訂正後の本件請求項1及び請求項2に係る発明(以下、「本件訂正発明1」及び「本件訂正発明2」という)は、上記訂正に係る訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という)の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項に特定される、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】 窒化アルミニウムからなるマトリックス中に、X線回折チャート上ではピークが検出できないか、検出限界以下であるカーボンであって、
窒化アルミニウム結晶相に固溶したカーボンを含有するとともに、焼結助剤を0.1〜10重量%含有し、
前記カーボンの含有量は200〜5000ppmであり、
かつ、100〜1000℃で使用されることを特徴とするカーボン含有窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】 前記マトリックス中に、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物および希土類酸化物のいずれか少なくとも1種からなる焼結助剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のカーボン含有窒化アルミニウム焼結体。」
3-2.取消理由通知に記載した引用刊行物及び証拠並びに取消理由通知の概要
当審が平成14年10月8日付けで通知した取消しの理由に記載した引用刊行物及び証拠は、以下のとおりである。
引用刊行物1:特開平9-315867号公報(特許異議申立人日本碍子株式会社が提出した甲第2号証)
証拠2:「化学分析結果報告書」(特許異議申立人日本碍子株式会社が提出した甲第3号証)
そして、取消しの理由の概要は、本件請求項1及び請求項2に係る発明は、引用刊行物1に記載された発明であるか、引用刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、というものである。
3-3.取消理由通知で引用された刊行物及び証拠の記載内容
引用刊行物1(特開平9-315867号公報)には、以下の事項が記載されている。
(1-A)「本発明の課題は、高純度であって、かつ低い体積抵抗率を有する、新規な窒化アルミニウム焼結体を提供することである。」(段落【0009】)
(1-B)「また、本発明の課題は、こうした窒化アルミニウム焼結体からなる、半導体レベルの体積抵抗率を有する新規な電子機能材料を提供し、かつこの窒化アルミニウム焼結体を使用した静電チャックを提供することである。」(段落【0010】)
(1-C)「次に、表7、表8の実験番号51〜63の各窒化アルミニウム焼結体を製造した。原料粉末としては、還元窒化法によって得られた窒化アルミニウム粉末を使用した。この原料粉末中の酸素量、金属不純物量を、表7に示す。イットリウムの硝酸塩をイソプロピルアルコールに溶解させて添加剤溶液を製造し、この添加剤溶液を窒化アルミニウム原料粉末に対して、ポットミルを使用して混合した。Y2O3に換算したイットリアの添加量を、表7に示す。」(段落【0116】)
(1-D)「この原料粉末を100kgf/cm2の圧力で一軸加圧成形することによって、直径200mmの円盤状成形体を作製した。この円盤状成形体をホットプレス型中に収容し、密封した。昇温速度300℃/時間で温度を上昇させ、この際、室温〜1000℃の温度範囲で減圧を行った。この温度の上昇と同時に圧力を上昇させた。最高温度を、表8に示すように変更し、表8に示す各キープ時間の間、各最高温度で保持した。」(段落【0117】)
(1-E)「こうして得られた各焼結体について、イットリウムを除く金属不純物量の合計値を測定し、表7に示す。また、焼結体中のイットリウムの含有量(Y)、全酸素量(O)、全炭素量(C)、過剰酸素(全酸素量と、イットリアに含有される酸素量との差)を、表7に示す。また、各焼結体について、g値、スピン数、平均粒径、熱伝導率、強度、相対密度、色彩を、前述したようにして測定し、その結果を表8に示す。」(段落【0118】)
(1-F)【表7】(段落【0120】)
(1-G)【表8】(段落【0121】)
(1-H)「そして焼結体の体積抵抗率は、比較例51においては1014Ω・cm台であり、比較例52においては1012台であって、比較例52の方が体積抵抗率が低くなっているが、これは比較例52の方が、イットリアの排出と共に、粒成長が進行しているためと考えられる。」(段落【0123】)
証拠2(「化学分析結果報告書」)には、以下の事項が記載されている。
(2-A)第3頁に、「AB1133」として、引用刊行物1に記載された「比較例51」の焼結体のX線回折チャートが記載されている。
(2-B)第4頁に、「AB1133」として、引用刊行物1に記載された「比較例51」の焼結体のX線回折チャートの40°〜50°の部分の拡大図が記載されている。
(2-C)第9頁に、「AB1133」として、引用刊行物1に記載された「比較例51」の焼結体のX線回折チャートが記載されている。
(2-D)第10頁に、第9頁のチャートの同定結果を示すチャートが記載されている。
3-4.対比及び判断
以下、本件訂正発明1及び本件訂正発明2が、引用刊行物1に記載された発明であるか、又は、引用刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かについて検討する。
3-4-1.本件訂正発明1について
引用刊行物1には、(1-A)の記載からみて、高純度であって、かつ低い体積抵抗率を有する「窒化アルミニウム焼結体」が記載されており、(1-B)の記載からみて、上記「窒化アルミニウム焼結体」は、「静電チャック」として使用されるものである。
更に、引用刊行物1には、(1-C)の記載からみて、原料粉末として、還元窒化法によって得られた窒化アルミニウム粉末を使用して製造した、実験番号51〜63の窒化アルミニウム焼結体が記載されており、(1-D)の記載からみて、これらの窒化アルミニウムは、原料粉末を100kgf/cm2の圧力で一軸加圧成形することによって直径200mmの円盤状成形体を作製し、この円盤状成形体をホットプレス型中に収容し、密封し、昇温速度300℃/時間で温度を上昇させ、この際、室温〜1000℃の温度範囲で減圧を行い、この温度の上昇と同時に圧力を上昇させ、最高温度を表8に示すように変更し、表8に示す各キープ時間の間、各最高温度で保持して製造したものである。
そして、(1-C)、(1-E)の記載からみて、各焼結体中のY2O3に換算したイットリアの添加量、イットリウムの含有量(Y)、全酸素量(O)、全炭素量(C)、過剰酸素が、【表7】に示され、各焼結体のg値、スピン数、平均粒径、熱伝導率、強度、相対密度、色彩が、【表8】に示されるが、このうち、実験番号「No.51」の比較例の窒化アルミニウム焼結体(以下、「比較例51焼結体」という)についてみると、比較例51焼結体は、イットリアの添加量が5wt%であり、全炭素量が0.03wt%であり、色彩は黒色のものである。
また、(1-H)の記載からみて、比較例51焼結体の体積抵抗率は、1014Ω・cm台である。
ここで、比較例51焼結体は、「窒化アルミニウム焼結体」であるから、「窒化アルミニウムからなるマトリックス」を有するものであり、かつ、当該比較例51焼結体は、全炭素量が0.03wt%で、イットリアの添加量が5wt%のものであるから、「窒化アルミニウムからなるマトリックス」中に、300ppmのカーボンを含有し、イットリアを5重量%含有する「カーボン含有窒化アルミニウム焼結体」と云える。
これらのことから、引用刊行物1に記載された発明を、本件訂正発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用刊行物1には、
「窒化アルミニウムからなるマトリックス中に、カーボンを含有するとともに、イットリアを5重量%含有し、前記カーボンの含有量は300ppmであることを特徴とするカーボン含有窒化アルミニウム焼結体」
の発明が記載されていると云える。
そして、イットリアは「焼結助剤」であり、その含有量は「0.1〜10重量%」と云え、かつカーボンの含有量は「200〜5000ppm」と云えるから、本件訂正発明1と引用刊行物1に記載された発明とを比較すると、両者は、「窒化アルミニウムからなるマトリックス中に、カーボンを含有するとともに、焼結助剤を0.1〜10重量%含有し、前記カーボンの含有量は200〜5000ppmであることを特徴とするカーボン含有窒化アルミニウム焼結体」である点で一致し、
相違点1
窒化アルミニウムからなるマトリックス中に含有するカーボンが、前者においては、「X線回折チャート上ではピークが検出できないか、検出限界以下であるカーボンであって、窒化アルミニウム結晶相に固溶したカーボン」であるのに対して、後者においては、X線回折チャート上におけるカーボンのピークの有無、及びカーボンが窒化アルミニウム結晶相に固溶していることについて明示的な記載がない点、
相違点2
前者においては、「カーボン含有窒化アルミニウム焼結体」が100〜1000℃で使用されるものであるのに対して、後者においては、使用温度について明示的な記載がない点、
で相違している。
以下、上記相違点について検討する。
・相違点1について
証拠2の(2-A)乃至(2-D)には、引用刊行物1に記載された比較例51焼結体のX線回折チャートが記載されており、上記X線回折チャートを見る限り、比較例51焼結体においてはカーボンのピークは確認できない。
ところが、このことにより、比較例51焼結体が、カーボンが窒化アルミニウム結晶相に固溶したものと云うことはできない。
すなわち、本件訂正発明1に係る「カーボン含有窒化アルミニウム焼結体」は、本件訂正明細書段落【0045】の記載(「2-1.訂正の内容」の「訂正事項3」参照)からみて、原料粉末をホットプレスした後に加熱することにより、グラファイトを窒化アルミニウム相に固溶させて製造したものである。
これに対して、比較例51焼結体は、(1-C)、(1-D)の記載からみて、原料粉末を一軸加圧成形することによって円盤状成形体を作製し、この円盤状成形体をホットプレス型中に収容して密封し、昇温速度300℃/時間で温度を上昇させ、この際、室温〜1000℃の温度範囲で減圧を行い、この温度の上昇と同時に圧力を上昇させて製造したものであり、当該温度の上昇と同時に圧力を上昇させる工程は、本件訂正明細書に記載されたホットプレスの工程と云えるものであるが、上記(1-C)、(1-D)の記載からみて、比較例51焼結体は、ホットプレスした後に加熱を行って製造したものではない。
してみれば、本件訂正発明1に係るカーボン含有窒化アルミニウム焼結体と比較例51焼結体とは、ホットプレスした後の加熱の有無に関して製造方法が異なるものであるが、本件訂正明細書段落【0045】には、「ホットプレス中においては、カーボンの固溶現象は発生しないと考えられる」と記載され、かつ、ホットプレス中にカーボンの固溶現象が発生することを証明するに足る証拠もない。
そうすると、ホットプレスした後に加熱を行わずに製造した比較例51焼結体のX線回折チャート上でカーボンのピークを確認できないことが、必ずしもカーボンの固溶現象の発生を意味するとは云えないから、当該X線回折チャート上でカーボンのピークが確認できないからといって、比較例51焼結体において、カーボンの固溶現象が発生していると直ちに認めることはできない。
さらに、本件訂正明細書には、「このことについて本発明者らはさらに研究をつづけた結果、カーボンの高温での電気伝導性を低下させるには、X線回折チャート上においてピークが検出されない程度に結晶性を低下させたカーボン、または、結晶相に固溶させたカーボン、すなわち、X線回折チャート上において、ピークが検出されないようなカーボンにすればよいことを知見した。」(段落【0011】)、「本発明の窒化アルミニウム焼結体は、カーボンを含み、X線回折チャートの回折角度2θ=10〜90°においてピークが出現せず、かつ、25〜500℃における体積抵抗率が108Ω・cm以上となる新たな物性を有する焼結体であるため、特開平9-48668号公報の記載を理由に本発明の新規性進歩性がなんら阻却されるものでない。」(段落【0016】)と記載されており、上記記載からみて、本件訂正発明1に係るカーボン含有窒化アルミニウム焼結体は、カーボンを窒化アルミニウム結晶相に固溶させることにより、25〜500℃における体積抵抗率が108Ω・cm以上となる物性を有する焼結体としたものである。
ところが、比較例51焼結体が、25〜500℃における体積抵抗率が108Ω・cm以上となる物性を有することは、引用刊行物1にも、証拠2にも、開示されていない。
以上要するに、比較例51焼結体は、ホットプレスした後に加熱を行わずに製造されるものであり、かつ、当該比較例51焼結体の25〜500℃における体積抵抗率も開示されていないのであるから、X線回折チャート上でカーボンのピークが確認できないことのみをもって、上記比較例51焼結体が、カーボンが窒化アルミニウム結晶相に固溶したものと云うことはできないのである。
故に、本件訂正発明1と引用刊行物1に記載された発明とは相違点を有するから、本件訂正発明1が、引用刊行物1に記載された発明であるとは云えない。
また、本件訂正明細書の上記段落【0011】、段落【0016】の記載からみて、本件訂正発明1は、カーボンの高温での電気伝導性を低下させることを目的とし、窒化アルミニウム焼結体の25〜500℃における体積抵抗率を108Ω・cm以上とするものである。
一方、引用刊行物1には、(1-A)の記載からみて、高純度であって、かつ低い体積抵抗率を有する、新規な窒化アルミニウム焼結体を提供することが記載されている。
そうすると、本件訂正発明1は、窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率を高くすることを目的とするのに対して、引用刊行物1には、逆に、低い体積抵抗率を有する窒化アルミニウム焼結体を提供することが記載されているのであるから、そもそも、引用刊行物1に記載された発明においては、25〜500℃における体積抵抗率を108Ω・cm以上とする動機付けが存在しない。
したがって、引用刊行物1に記載された発明に基づいて、窒化アルミニウム焼結体の25〜500℃における体積抵抗率を108Ω・cm以上とするために、窒化アルミニウムからなるマトリックス中に含有するカーボンを、「X線回折チャート上ではピークが検出できないか、検出限界以下であるカーボンであって、窒化アルミニウム結晶相に固溶したカーボン」とすることを、当業者が容易になし得るとは云えないのである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1を、引用刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとは云えない。
3-4-2.本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1におけるカーボン含有窒化アルミニウム焼結体において、マトリックス中に、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物および希土類酸化物のいずれか少なくとも1種からなる焼結助剤を含むように限定するものであるから、「3-4-1.本件訂正発明1について」に記載したのと同様の理由により、本件訂正発明2が、引用刊行物1に記載された発明であるとも、本件訂正発明2を、引用刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとも、云うことはできない。
これらのことから、上記取消しの理由により、本件訂正発明1及び本件訂正発明2を取り消すことはできない。
3-5.窒化アルミニウム結晶粒子中のカーボンの固溶について
当審が平成14年10月8日付けで通知した取消しの理由には、特許法第36条に関する取り消しの理由は記載されていないが、特許異議申立人日本碍子株式会社は、本件明細書には、カーボンを窒化アルミニウム結晶粒子中に固溶させる方法、及びカーボンが窒化アルミニウム結晶粒子中に固溶したのかどうかを測定検出する方法について記載がないから、本件特許明細書は、特許法第36条4項及び第6項第2号の規定を満足しない旨主張するので、以下、この点について検討しておく。
本件訂正明細書段落【0045】(「2-1.訂正の内容」の「訂正事項3」参照)には、「(実施例1) カーボンの固溶 窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、平均粒径1.1μm)100重量部、…を混合し、…ホットプレスし、さらにこの焼結体を…加熱してグラファイトを窒化アルミニウム相に固溶させた。」と記載されており、本件訂正明細書には、カーボンを窒化アルミニウム結晶粒子中に固溶させる方法として、ホットプレスの後に常圧で加熱する方法が開示されている。
また、本件訂正明細書の段落【0011】、段落【0016】の記載(「3-4-1.本件訂正発明1について」の「相違点1について」参照)からみて、本件訂正明細書には、X線回折チャート上において、ピークが検出されないことにより、カーボンが窒化アルミニウム結晶粒子中に固溶したことを測定することが開示されており、更に、本件訂正発明1及び本件訂正発明2に係るカーボン含有窒化アルミニウム焼結体は、カーボンの固溶により高温での電気伝導性が低下し、焼結体の25〜500℃における体積抵抗率が108Ω・cm以上となるものである。
上記本件訂正明細書の記載を更に詳しくみると、平成15年12月2日に特許権者が提出した回答書及び平成16年4月2日に特許権者が提出した上申書には、カーボン含有窒化アルミニウム焼結体を製造する際に、ホットプレスしたサンプルでは、X線回折チャート上においてカーボンのピークが観察され、窒化アルミニウム結晶の格子定数は変化しないのに対して、ホットプレスの後に常圧焼成したサンプルでは、カーボンのピークが消失し、結晶の格子定数が変化したこと、原料中のカーボンはホットプレス時に結晶の格子定数を変化させないこと、Al2Y4O9の生成も、結晶の格子定数を変化させないことが記載されている。
そして、これらのことからみて、X線回折チャート上においてカーボンのピークが観察される焼結体を常圧で焼成することにより、カーボンが窒化アルミニウム結晶粒子中に固溶し、カーボンのピークが消失して結晶の格子定数が変化したと結論できる。
そうすると、ホットプレスの後に常圧で加熱することにより、カーボンは窒化アルミニウム結晶粒子中に固溶するのであって、当該カーボンの固溶は、X線回折チャート上においてピークが検出されないこと、及び焼結体の25〜500℃における体積抵抗率が108Ω・cm以上となることから、測定検出できるのである。
してみれば、本件訂正明細書に、カーボンを窒化アルミニウム結晶粒子中に固溶させる方法、及びカーボンが窒化アルミニウム結晶粒子中に固溶したのかどうかを測定検出する方法について記載がないとは云えないから、本件特許明細書が、特許法第36条4項及び第6項第2号の規定を満足しないとは云えない。
また、その他の異議申立理由及び証拠は、本件訂正発明1及び本件訂正発明2を取り消すべき理由として採用することができない。
3-6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件訂正発明1及び本件訂正発明2を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1及び本件訂正発明2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
カーボン含有窒化アルミニウム焼結体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 窒化アルミニウムからなるマトリックス中に、X線回折チャート上ではピークが検出できないか、検出限界以下であるカーボンであって、
窒化アルミニウム結晶相に固溶したカーボンを含有するとともに、焼結助剤を0.1〜10重量%含有し、
前記カーボンの含有量は200〜5000ppmであり、
かつ、100〜1000℃で使用されることを特徴とするカーボン含有窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】 前記マトリックス中に、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物および希土類酸化物のいずれか少なくとも1種からなる焼結助剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のカーボン含有窒化アルミニウム焼結体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ホットプレート、静電チャック、ウエハプローバまたはサセプタなどの構成用材料として、主に半導体産業において用いられる窒化アルミニウム焼結体に関し、特に電極パターン等の隠蔽性と高温での体積抵抗率、サーモビュアによる温度測定精度に優れる、カーボンを含有する窒化アルミニウム焼結体に関する。
【0002】
【従来の技術】
エッチング装置や、化学的気相成長装置等を含む半導体製造、検査装置等においては、従来、ステンレス鋼やアルミニウム合金などの金属製基材を用いたヒータや、ウエハプローバ等が用いられてきた。
しかしながら、金属製のヒータでは温度制御特性が悪く、また厚みも厚くなるため重く嵩張るという問題があり、腐食性ガスに対する耐蝕性も悪いという問題を抱えていた。
【0003】
これに対し、特開平11-40330号公報では、金属製のものに代えて、窒化アルミニウムなどのセラミックを使用したヒータが開示されている。
ところが、このヒータを構成する基材の窒化アルミニウム自体は、一般に白色または灰白色であることから、ヒータやサセプタとしては好ましくない。むしろ、黒色の方が輻射熱量が大きいため、この種の用途には適しており、また電極パターンの隠蔽性が高いため、ウエハプローバや静電チャックには特に好適であった。さらに、ヒータの表面温度の測定は、サーモビュア(表面温度計)で行われるが、白色や灰白色の場合、輻射量が一定にならず、正確な温度測定が不可能であった。
【0004】
このような求めに応じて開発された特開平9-48668号公報等に記載の従来の発明の中には、セラミック基材中にX線回折チャート上の44〜45°の位置にピークが検出されるような結晶質のカーボンを添加したものが提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような結晶質のカーボン(グラファイト)を添加した従来のセラミック基材は、高温時での体積抵抗率、例えば、500℃の高温領域における体積抵抗率が108Ω・cm未満に低下するという問題点があった(図1参照)。
【0006】
本発明の目的は、上述した従来技術が抱えている問題点を解決することにあり、特に500℃程度の高温時における体積抵抗率として、少なくとも108Ω・cm以上を確保することができ、さらに、隠蔽性、大輻射熱量、および、サーモビュアによる測定精度を保証することができる窒化アルミニウム焼結体を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、ホットプレート、静電チャック、ウエハプローバ、サセプタとして有用な窒化アルミニウム焼結体を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の要請に応えられるものとして開発された窒化アルミニウム焼結体に関し、窒化アルミニウムからなるマトリックス中に、X線回折チャート上ではピークが検出できないか、検出限界以下であるカーボンであって、
窒化アルミニウム結晶相に固溶したカーボンを含有するとともに、焼結助剤を0.1〜10重量%含有し、
前記カーボンの含有量は200〜5000ppmであり、
かつ、100〜1000℃で使用されることを特徴とするカーボン含有窒化アルミニウム焼結体である。
【0008】
なお、本発明においては、焼結体の色は、JIS Z 8721に規定される明度でN4以下であることが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
さて、本発明者らの研究によれば、X線回折チャート上において、回折角度2θ=10〜90°、特に2θ=44〜45°の位置でピークが検出されるようなカーボンを含有する窒化アルミニウム焼結体は、高温(500℃)における体積抵抗率が、0.5×107Ω・cmにまで低下するため、加熱時に発熱体パターン間や電極パターン間で短絡が発生してしまうことがわかった。
【0010】
この理由は、窒化アルミニウム焼結体は、高温で体積抵抗率が低下することに加え、結晶質カーボンは、金属結晶に類似した結晶構造を持ち、かつ、高温での電気伝導性が大きいため、この2つの特性が相乗的に作用し合って前記のような短絡を招くものと考えられている。
【0011】
このことについて本発明者らはさらに研究をつづけた結果、カーボンの高温での電気伝導性を低下させるには、X線回折チャート上においてピークが検出されない程度に結晶性を低下させたカーボン、または、結晶相に固溶させたカーボン、すなわち、X線回折チャート上において、ピークが検出されないようなカーボンにすればよいことを知見した。
【0012】
ここで、X線回折チャート上でピークが検出できないという意味は、回折角度2θ=10〜90°、特に44〜45°でカーボンのピークが検出できないという意味である。なお、上記のように規定したのは、カーボンには種々の結晶系が存在し、特開平9-48668号公報に開示されているように、単に回折角度2θ=44〜45°に出現するピークのみならず、回折角度2θ=10〜90°にピークが出現するカーボンの結晶も考慮しなければならないからである(図2、図3参照)。
【0013】
なお、X線回折のチャートには、ピークのみならずハローの出現も好ましくない。非結晶質体は通常2θ=15〜40°付近にハローと呼ばれるゆるやかな起伏を持つが、このようなハローが出現するということは、窒化アルミニウム結晶相に非晶質カーボンが侵入していることを意味する。そのため窒化アルミニウムの結晶性を低下させることになり、また、焼結性を阻害して、明度が高くなってしまい、さらには高温での強度低下をも招いてしまう。
【0014】
X線回折チャート上でピークが検出できないようなカーボンとする具体的な方法としては、(1)カーボンを窒化アルミニウム結晶相に固溶させて、カーボンの結晶に起因するX線回折のピークが出ないようにする方法、(2)非晶質カーボンを用いる方法、などが考えられる。
【0015】
これらの中では、(2)の非晶質カーボンを用いる方法が好ましい。この理由は、窒化アルミニウム中にカーボンが固溶すると結晶に欠陥が生じて高温での強度低下を招くからである。
なお、特開平9-48668号公報では、1850℃にて加熱すると結晶質カーボンが窒化アルミニウム中に固溶してX線回折のピークが消失する現象が記載されているが、特開平9-48668号公報に記載の発明では、あくまでX線回折のピークが44〜45°に存在するものを発明として認識しているものであり、また、高温時の体積抵抗率については記載も示唆もされていない。
【0016】
本発明の窒化アルミニウム焼結体は、カーボンを含み、X線回折チャートの回折角度2θ=10〜90°においてピークが出現せず、かつ、25〜500℃における体積抵抗率が108Ω・cm以上となる新たな物性を有する焼結体であるため、特開平9-48668号公報の記載を理由に本発明の新規性、進歩性がなんら阻却されるものでない。
【0017】
本発明において、X線回折チャート上ではそのピークが検出できないか検出限界以下であるカーボンの含有量は、200〜5000ppmとすることが望ましい。200ppm未満では、黒色とは言えず、明度がN4を超えるものとなり、一方、添加量が5000ppmを超えると、窒化アルミニウムの焼結性が低下するからである。特に、200〜2000ppmが最適である。
【0018】
本発明において、マトリックスを構成する窒化アルミニウム焼結体中には、焼結助剤を含有することが望ましい。その焼結助剤としては、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、希土類酸化物を使用することができ、特にCaO、Y2O3、Na2O、Li2O、Rb2O3が好適である。含有量としては、0.1〜10重量%が望ましい。
【0019】
そして、本発明にかかる窒化アルミニウム焼結体は、明度がJIS Z 8721の規定に基づく値でN4以下のものであることが望ましい。この程度の明度を有するものが輻射熱量、隠蔽性に優れるからである。
ここで、明度のNは、理想的な黒の明度を0とし、理想的な白の明度を10とし、これらの黒の明度と白の明度との間で、その色の明るさの知覚が等歩度となるように各色を10分割し、N0〜N10の記号で表示したものである。
そして、実際の測定は、N0〜N10に対応する色票と比較して行う。この場合の小数点1位は0または5とする。
【0020】
本発明の窒化アルミニウム焼結体中には、導電性の金属または導電性セラミックからなる静電チャック用の静電電極が埋設されていてもよい。
図4(a)は、静電チャックを模式的に示す縦断面図であり、(b)は、(a)に示した静電チャックのA-A線断面図である。
この静電チャック20では、窒化アルミニウム基板3の内部にチャック正負電極層22、23が埋設され、その電極上にセラミック誘電体膜40が形成されている。また、窒化アルミニウム基板3の内部には、抵抗発熱体11が設けられ、シリコンウエハ9を加熱することができるようになっている。なお、窒化アルミニウム基板3には、必要に応じて、RF電極が埋設されていてもよい。
【0021】
また、(b)に示したように、静電チャック20は、通常、平面視円形状に形成されており、窒化アルミニウム基板21の内部に図4に示した半円弧状部22aと櫛歯部22bとからなるチャック正極静電層22と、同じく半円弧状部23aと櫛歯部23bとからなるチャック負極静電層23とが、互いに櫛歯部22b、23bを交差するように対向して配置されている。
【0022】
この静電チャックを使用する場合には、チャック正極静電層22とチャック負極静電層23とにそれぞれ直流電源の+側と-側を接続し、直流電圧を印加する。これにより、この静電チャック上に載置された半導体ウエハが静電的に吸着されることになる。
【0023】
図5および図6は、他の静電チャックにおける静電電極を模式的に示した水平断面図であり、図5に示す静電チャック70では、窒化アルミニウム基板71の内部に半円形状のチャック正極静電層72とチャック負極静電層73が形成されており、図6に示す静電チャック80では、窒化アルミニウム基板81の内部に円を4分割した形状のチャック正極静電層82a、82bとチャック負極静電層83a、83bが形成されている。また、2枚の正極静電層82a、82bおよび2枚のチャック負極静電層83a、83bは、それぞれ交差するように形成されている。
なお、円形等の電極が分割された形態の電極を形成する場合、その分割数は特に限定されず、5分割以上であってもよく、その形状も扇形に限定されない。
【0024】
次に、本発明にかかる上記窒化アルミニウム焼結体の製造方法の一例を説明する。
(1)初めに、非晶質カーボンを製造する。例えば、C、H、Oだけからなる炭化水素、好ましくは糖類(ショ糖やセルロース)を、空気中、300〜500℃で焼成することにより、純粋な非晶質カーボンを製造する。
(2)次に、上記カーボンとマトリックス成分となる窒化アルミニウム粉末とを混合する。混合する粉末の好ましい大きさは、平均粒径で、0.1〜5μm程度の小さいものがよい。これは、微細なほど焼結性が向上するからである。なお、カーボンの添加量は焼成時に消失する分を考慮して添加する。
また、上記混合物にはさらに前述の酸化イットリウム(イットリア:Y2O3)の如き焼結助剤を添加してもよい。
【0025】
上記の(1)、(2)の処理に代え、窒化アルミニウム粉末、バインダー、糖類および溶媒を混合してグリーンシートを作製した後積層し、このグリーンシートの積層体を300〜500℃で仮焼成することにより、糖類を非晶質カーボンとしてもよい。また、この場合に、糖類と非晶質カーボンの両方を添加してもよい。なお、溶媒としては、α-テルピネオールや、グリコールなどを用いることができる。
【0026】
(3)次に、得られた粉末混合物を成形型に入れて成形体としたもの、または、上記グリーンシートの積層体(いずれも仮焼成したもの)を、アルゴン窒素などの不活性雰囲気下に1700〜1900℃、80〜200kg/cm2の条件で加熱、加圧して焼結する。
【0027】
本発明の窒化アルミニウム焼結体は、粉末混合物を成形型に入れる際に、発熱体となる金属板や金属線等を粉末混合物中に埋没したり、積層するグリーンシートのうちの1枚のグリーンシート上に発熱体となる導体ペースト層を形成することにより、窒化アルミニウム焼結体を基板とするセラミックヒータを製造することができる。
また、焼結体を製造した後、その表面(底面)に導体ペースト層を形成し、焼成することによって、底面に発熱体を形成することもできる。
【0028】
さらに、このセラミックヒーターの製造時には、発熱体の他、静電チャック等の電極の形状となるように、上記成形体の内部に金属板等を埋設したり、グリーンシート上に導体ペースト層を形成することにより、ホットプレート、静電チャック、ウエハプローバ、サセプタなどを製造することができる。
【0029】
各種の電極や発熱体を作製するための導体ペーストとしては特に限定されないが、導電性を確保するための金属粒子または導電性セラミックが含有されているほか、樹脂、溶剤、増粘剤などを含むものが好ましい。
【0030】
上記金属粒子としては、例えば、貴金属(金、銀、白金、パラジウム)、鉛、タングステン、モリブデン、ニッケルなどが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの金属は、比較的酸化しにくく、発熱するに充分な抵抗値を有するからである。
上記導電性セラミックとしては、例えば、タングステン、モリブデンの炭化物などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
これら金属粒子または導電性セラミック粒子の粒径は、0.1〜100μmが好ましい。0.1μm未満と微細すぎると、酸化されやすく、一方、100μmを超えると、焼結しにくくなり、抵抗値が大きくなるからである。
【0032】
上記金属粒子の形状は、球状であっても、リン片状であってもよい。これらの金属粒子を用いる場合、上記球状物と上記リン片状物との混合物であってよい。上記金属粒子がリン片状物、または、球状物とリン片状物との混合物の場合は、金属粒子間の金属酸化物を保持しやすくなり、発熱体と窒化物セラミック等との密着性を確実にし、かつ、抵抗値を大きくすることができるため有利である。
【0033】
導体ペーストに使用される樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。また、溶剤としては、例えば、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。増粘剤としては、セルロースなどが挙げられる。
【0034】
発熱体用の導体ペーストを焼結体の表面に形成する際には、導体ペースト中に金属粒子のほかに金属酸化物を添加し、金属粒子および金属酸化物を焼結させたものとすることが望ましい。このように、金属酸化物を金属粒子とともに焼結させることにより、窒化アルミニウム焼結体と金属粒子とを密着させることができる。
【0035】
金属酸化物を混合することにより、窒化アルミニウム焼結体と密着性が改善される理由は明確ではないが、金属粒子表面や窒化アルミニウム焼結体の表面は、わずかに酸化されて酸化膜が形成されており、この酸化膜同士が金属酸化物を介して焼結して一体化し、金属粒子と窒化物セラミックとが密着するのではないかと考えられる。
【0036】
上記金属酸化物としては、例えば、酸化鉛、酸化亜鉛、シリカ、酸化ホウ素(B2O3)、アルミナ、イットリアおよびチタニアからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0037】
これらの酸化物は、発熱体の抵抗値を大きくすることなく、金属粒子と窒化物セラミックとの密着性を改善することができるからである。
【0038】
上記酸化鉛、酸化亜鉛、シリカ、酸化ホウ素(B2O3)、アルミナ、イットリア、チタニアの割合は、金属酸化物の全量を100重量部とした場合、重量比で、酸化鉛が1〜10、シリカが1〜30、酸化ホウ素が5〜50、酸化亜鉛が20〜70、アルミナが1〜10、イットリアが1〜50、チタニアが1〜50であって、その合計が100重量部を超えない範囲で調整されていることが望ましい。
これらの範囲で、これらの酸化物の量を調整することにより、特に窒化アルミニウム焼結体との密着性を改善することができる。
【0039】
上記金属酸化物の金属粒子に対する添加量は、0.1重量%以上10重量%未満が好ましい。また、このような構成の導体ペーストを使用して発熱体を形成した際の面積抵抗率は、1〜45mΩ/□が好ましい。
【0040】
面積抵抗率が45mΩ/□を超えると、印加電圧量に対して発熱量は大きくなりすぎて、表面に発熱体を設けた窒化アルミニウム基板では、その発熱量を制御しにくいからである。なお、金属酸化物の添加量が10重量%以上であると、面積抵抗率が50mΩ/□を超えてしまい、発熱量が大きくなりすぎて温度制御が難しくなり、温度分布の均一性が低下する。
【0041】
発熱体が窒化アルミニウム基板の表面に形成される場合には、発熱体の表面部分に、金属被覆層が形成されていることが望ましい。内部の金属焼結体が酸化されて抵抗値が変化するのを防止するためである。形成する金属被覆層の厚さは、0.1〜10μmが好ましい。
【0042】
金属被覆層を形成する際に使用される金属は、非酸化性の金属であれば特に限定されないが、具体的には、例えば、金、銀、パラジウム、白金、ニッケルなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、ニッケルが好ましい。
なお、発熱体を窒化アルミニウム基板の内部に形成する場合には、発熱体表面が酸化されることがないため、被覆は不要である。
【0043】
【実施例】
(発明外参考例1) AlN+Y2O3+非晶質カーボン
(1)ショ糖を酸化性気流中(空気中)で500℃に加熱して熱分解させ、非晶質カーボンを得た。
(2)窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、平均粒径1.1μm)100重量部、酸化イットリウム(Y2O3:イットリア、平均粒径0.4μm)4重量部、上記(1)の非晶質カーボン0.09重量部を混合し、成形型に入れて窒素雰囲気中、1890℃、圧力150kg/cm2の条件で3時間ホットプレスして窒化アルミニウム焼結体を得た。
焼結体中のカーボン量の測定は、焼結体を粉砕し、これを800℃で加熱して発生するCOガスを捕集することにより行った。この方法による測定の結果、窒化アルミニウム焼結体中に含まれるカーボン量は800ppmであった。また、明度はN=3.5であった。
【0044】
(発明外参考例2) AlN+非晶質カーボン
(1)ショ糖を空気中で500℃に加熱して熱分解させ、非晶質カーボンを得た。
(2)窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、平均粒径1.1μm)100重量部、上記(1)の非晶質カーボン0.09重量部を混合し、成形型に入れて窒素雰囲気中、1890℃、圧力150kg/cm2の条件で3時間ホットプレスして窒化アルミニウム焼結体を得た。得られた窒化アルミニウム焼結体中のカーボン量は805ppmで、明度はN=3.5であった。
【0045】
(実施例1) カーボンの固溶
窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、平均粒径1.1μm)100重量部、酸化イットリウム(Y2O3:イットリア、平均粒径0.4μm)4重量部、グラファイト(東洋炭素社製、GR-1200)0.09重量部を混合し、成形型に入れて窒素雰囲気中、1890℃、圧力150kg/cm2の条件で3時間ホットプレスし、さらにこの焼結体を常圧の窒素雰囲気中、1850℃で3時間加熱してグラファイトを窒化アルミニウム相に固溶させた。得られた窒化アルミニウム焼結体中のカーボン量は810ppmで、明度はN=4.0であった。なお、上記ホットプレス中においては、カーボンの固溶現象は発生しないと考えられる。
【0046】
(比較例1) AlN+Y2O3
窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、平均粒径1.1μm)100重量部、酸化イットリウム(Y2O3:平均粒径0.4μm)4重量部を混合し、これを成形型に入れて窒素雰囲気中において1890℃、圧力150kg/cm2の条件で3時間ホットプレスして窒化アルミニウム焼結体を得た。得られた窒化アルミニウム焼結体中のカーボン量は100ppm以下で、明度はN=7.0であった。
【0047】
(比較例2) AlN+結晶質カーボン
この比較例は、特開平9-48668号公報の記載に従い、バインダーとしてフェノール樹脂粉末を使用した。なお、この従来技術において、上記フェノール樹脂、アクリル系バインダーを分解して得られるカーボンは結晶性のものであると考えられる。
まず、窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、平均粒径1.1μm)100重量部、フェノール樹脂粉末5重量部を混合し、成形型に入れて窒素雰囲気中、1890℃、圧力150kg/cm2の条件で3時間ホットプレスして窒化アルミニウム焼結体を得た。得られた窒化アルミニウム焼結体中のカーボン量は810ppmで、明度はN=4.0であった。
【0048】
図1は、発明外参考例1〜2、実施例1および比較例1、2において、室温〜500℃までの体積抵抗率の推移を示したものである。
この図1に示すように、比較例2として示す結晶質カーボンのみが入っている焼結体の例では、体積抵抗率が約1/10に低下した。
【0049】
上記測定において、体積抵抗率と熱伝導率とは次のように測定した。
(1)体積抵抗率:焼結体を切削加工することにより、直径10mm、厚さ3mmの形状に切出し、三端子(主電極、対電極、ガード電極)を形成し、直流電圧を加え、1分間充電した後のデジタルエレクトロメーターに流れる電流(I)を読んで、試料の抵抗(R)を求め、抵抗(R)と試料の寸法から体積抵抗率(ρ)を下記の計算式(1)で計算した。
【0050】
【数1】

【0051】
上記計算式(1)において、tは試料の厚さである。また、Sは、下記の計算式(2)および(3)により与えられる。
【0052】
【数2】

【0053】
【数3】

【0054】
なお、上記計算式(2)および(3)において、r1は主電極の半径、r2はガード電極の内径(半径)、r3はガード電極の外径(半径)、D1は主電極の直径、D2はガード電極の内径(直径)、D3はガード電極の外径(直径)であり、本実施例においては、2r1=D1=1.45cm、2r2=D2=1.60cm、2r3=D3=2.00cmである。
【0055】
また、図2、図3は、焼結体のX線回折チャートを示すものであり、発明外参考例1(図2)と比較例2(図3)の焼結体のチャートを示す。これらの図に示すように、発明外参考例1の例では、回折角度2θ=10〜90°の位置にカーボンのピークは検出できない。また、2θ=15〜40°でハローは出現していない。しかしながら、比較例2では、2θ=44〜45°の位置にカーボンのピークが観察される。
【0056】
また、図9には、発明外参考例1と実施例1の焼結体の強度測定結果を記載している。図9に示したように、カーボンを固溶させた窒化アルミニウム焼結体では、強度が低下している。なお、強度の測定は、インストロン万能試験機(4507型ロードセル500kgf)を用い、温度が25〜1000℃の大気中、クロスヘッド速度0.5mm/分、スパン距離L=30mm、試験片の厚さ=3.06mm、試験片の幅=4.03mmで実施し、以下の計算式(4)を用いて3点曲げ強度σ(kgf/mm2)を算出した。
【0057】
【数4】

【0058】
上記計算式(4)中、Pは、試験片が破壊したときの最大荷重(kgf)であり、Lは、下支点間の距離(30mm)であり、tは、試験片の厚さ(mm)であり、wは、試験片の幅(mm)である。
【0059】
また、発明外参考例1〜2、実施例1および比較例1、2の焼結体について、ホットプレート上で500℃まで加熱し、表面温度をサーモビュア(日本データム株式会社 IR162012-0012)と、JIS-C-1602(1980)K型熱電対で測定し、両者の温度差を調べた。なお、熱電対で測定した温度とのずれ量が大きいほど、サーモビュアの温度誤差が大きいと言える。
その測定の結果によると、発明外参考例1では温度差0.8℃、発明外参考例2では温度差0.9℃、実施例1では温度差1.0℃、比較例1では温度差8℃、比較例2では温度差0.8℃であった。
【0060】
(実施例2) 応用例、ウエハプローバ(図7、図8)
(1)窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、平均粒径1.1μm)100重量部、イットリア(平均粒径0.4μm)4重量部、ショ糖0.2重量部および1-ブタノールおよびエタノールからなるアルコール53重量%を混合した組成物を用い、ドクターブレード法を用いて成形することにより厚さ0.47mmのグリーンシート30を得た。
(2)このグリーンシート30を80℃で5時間乾燥した後、パンチングを行い、発熱体と外部端子ピンと接続するためのスルーホール用貫通孔を設けた。
【0061】
(3)平均粒子径1μmのタングステンカーバイド粒子100重量部、アクリル系バインダ3.0重量部、α-テルピネオール溶媒3.5重量部、分散剤0.3重量部を混合して導電性ペーストAを調製した。また、平均粒子径3μmのタングステン粒子100重量部、アクリル系バインダ1.9重量部、α-テルピネオール溶媒3.7重量部、分散剤0.2重量部を混合して導電性ペーストBを調製した。
【0062】
(4)グリーンシート30の表面に、上記導電性ペーストAをスクリーン印刷法により印刷し、格子状のガード電極用印刷層50およびグランド電極用印刷層60を形成した。
また、外部端子接続用ピンと接続するための上記スルーホール用貫通孔に導電性ペーストBを充填してスルーホール用充填層160、170を形成した。
そして、導電性ペーストが印刷されたグリーンシート30および印刷がされていないグリーンシート30′を50枚積層し、130℃、80kg/cm2の圧力で一体化した(図7(a))。
【0063】
(5)一体化させた積層体を600℃で5時間脱脂し、その後、1890℃、圧力150kg/cm2の条件で3時間ホットプレスし、厚さ3mmの窒化アルミニウム板状体を得た。この板状体を直径230mmの円状に切り出して窒化アルミニウム基板3とした(図7(b))。なお、スルーホール16、17の大きさは直径0.2mm、深さ0.2mmであった。また、ガード電極5、グランド電極6の厚さは10μm、ガード電極5の焼結体厚み方向での形成位置は発熱体から1mmのところ、一方、グランド電極6の焼結体厚み方向での形成位置は、チャック面1aから1.2mmであった。
【0064】
(6)上記(4)で得た窒化アルミニウム基板3を、ダイアモンド砥石で研磨した後、マスクを載置し、ガラスビーズのブラスト処理によって、表面に熱電対取付け用凹部(図示せず)およびウエハ吸着用の溝7(幅0.5mm、深さ0.5mm)を形成した(図7(c))。
【0065】
(7)さらに、溝7を形成したチャック面1aに対向する裏面に導電性ペーストを印刷して発熱体用のペースト層を形成した。この導電性ペーストは、プリント配線板のスルーホール形成に用いられている徳力化学研究所製のソルベストPS603Dを使用した。すなわち、この導電性ペーストは、銀/鉛ペーストであり、酸化鉛、酸化亜鉛、シリカ、酸化ホウ素、アルミナからなる金属酸化物(それぞれの重量比率は、5/55/10/25/5)を銀の量に対して7.5重量%含むものである。
なお、この導電性ペースト中の銀としては、平均粒径4.5μmのリン片状のものを用いた。
【0066】
(8)裏面に導電性ペーストを印刷して発熱体41を形成した窒化アルミニウム基板(ヒータ板)3を780℃で加熱焼成して、導電ペースト中の銀、鉛を焼結させるとともに窒化アルミニウム基板3に焼き付け、発熱体41を形成した(図7(d))。次いで、この窒化アルミニウム基板3を、硫酸ニッケル30g/l、ほう酸30g/l、塩化アンモニウム30g/l、ロッシェル塩60g/lを含む水溶液からなる無電解ニッケルめっき浴中に浸漬して、上記導電性ペーストからなる発熱体41の表面に、さらに厚さ1μm、ホウ素の含有量が1重量%以下であるニッケル層410を析出させて発熱体41を肥厚化させ、その後120℃で3時間の熱処理を行った。
こうして得られたニッケル層410を含む発熱体41は、厚さが5μm、幅2.4mmであり、面積抵抗率が7.7mΩ/□であった。
(9)溝7が形成されたチャック面1aに、スパッタリング法にてTi、Mo、Niの各層を順次積層した。このスパッタリングは、装置として日本真空技術株式会社製のSV-4540を用い、気圧:0.6Pa、温度:100℃、電力:200W、処理時間:30秒〜1分の条件で行い、スパッタリングの時間は、スパッタリングする各金属によって調整した。
得られた膜は、蛍光X線分析計の画像からTiは0.3μm、Moは2μm、Niは1μmであった。
【0067】
(10)上記(9)で得られた窒化アルミニウム基板3を、硫酸ニッケル30g/l、ほう酸30g/l、塩化アンモニウム30g/l、ロッシェル塩60g/lを含む水溶液からなる無電解ニッケルめっき浴に浸漬して、チャック面1aに形成されている溝7の表面に、ホウ素の含有量が1重量%以下のニッケル層(厚さ7μm)を析出させ、120℃で3時間熱処理した。
さらに、上記窒化アルミニウム基板3表面(チャック面側)にシアン化金カリウム2g/l、塩化アンモニウム75g/l、クエン酸ナトリウム50g/l、次亜リン酸ナトリウム10g/lからなる無電解金めっき液に93℃の条件で1分間浸漬して、窒化アルミニウム基板3のチャック面側のニッケルめっき層上に、さらに厚さ1μmの金めっき層を積層してチャックトップ導体層2を形成した(図8(e))。
【0068】
(11)次いで、溝7から裏面に抜ける空気吸引孔8をドリル加工して穿孔し、さらにスルーホール16、17を露出させるための袋孔180を設けた(図8(f))。この袋孔180にNi-Au合金(Au81.5wt%、Ni18.4wt%、不純物0.1wt%)からなる金ろうを用い、970℃で加熱リフローさせてコバール製の外部端子ピン19、190を接続させた(図8(g))。また、上記発熱体41に半田合金(錫9/鉛1)を介してコバール製の外部端子ピン191を形成した。
(12)温度制御のために、複数の熱電対を凹部に埋め込み(図示せず)、ウエハプローバ付きヒータとした。
【0069】
(13)この後、通常は、上記ウエハプローバ付きヒータをステンレス鋼製の支持台上にセラミックファイバー(イビデン製、商品名、イビウール)からなる断熱材を介して固定し、その支持台上には冷却ガスの噴射ノズルを設けて該ウエハプローバの温度調製を行うようにする。
なお、このウエハプローバ付きヒータは、空気吸引孔8からの空気を吸引して、該ヒータ上に載置されるウエハを吸着支持する。
なお、このようにして製造したウエハプローバ付きヒータは、明度がN=3.5を示し輻射熱量が多く、しかも、内部のガード電極5やグランド電極6の隠蔽性にも優れる。
【0070】
(実施例3)応用例、発熱体および静電チャック用静電電極を内部に有するセラミックヒータ(図4)
(1)窒化アルミニウム粉末(トクヤマ社製、平均粒径1.1μm)100重量部、イットリア(平均粒径:0.4μm)4重量部、発明外参考例1で得られた非晶質カーボン0.09重量部、分散剤0.5重量部および1-ブタノールとエタノールとからなるアルコール53重量部を混合したペーストを用い、ドクターブレード法による成形を行って、厚さ0.47mmのグリーンシートを得た。
【0071】
(2)次に、このグリーンシートを80℃で5時間乾燥させた後、パンチングにより直径1.8mm、3.0mm、5.0mmの半導体ウエハ支持ピンを挿入する貫通孔となる部分、外部端子と接続するためのスルーホールとなる部分を設けた。
【0072】
(3)平均粒子径1μmのタングステンカーバイト粒子100重量部、アクリル系バインダ3.0重量部、α-テルピネオール溶媒3.5重量部および分散剤0.3重量部を混合して導体ペーストAを調製した。
平均粒子径3μmのタングステン粒子100重量部、アクリル系バインダ1.9重量部、α-テルピネオール溶媒3.7重量部および分散剤0.2重量部を混合して導体ペーストBを調製した。
この導電性ペーストAをグリーンシートにスクリーン印刷で印刷し、導体ペースト層を形成した。印刷パターンは、同心円パターンとした。また、他のグリーンシートに図4に示した形状の静電電極パターンからなる導体ペースト層を形成した。
【0073】
さらに、外部端子を接続するためのスルーホール用の貫通孔に導体ペーストBを充填した。
上記処理の終わったグリーンシートに、さらに、タングステンペーストを印刷しないグリーンシートを上側(加熱面)に37枚、下側に13枚、130℃、80kg/cm2の圧力で積層した。
【0074】
(4)次に、得られた積層体を窒素ガス中、600℃で5時間脱脂し、1890℃、圧力150kg/cm2で3時間ホットプレスし、厚さ3mmの窒化アルミニウム板状体を得た。これを230mmの円板状に切り出し、内部に厚さ6μm、幅10mmの発熱体および静電電極を有するセラミック製の板状体とした。この焼結体中の炭素量は、発明外参考例1と同様の測定法で測定した結果、810ppmであった。
【0075】
(5)次に、(4)で得られた板状体を、ダイヤモンド砥石で研磨した後、マスクを載置し、SiC等によるブラスト処理で表面に熱電対のための有底孔(直径:1.2mm、深さ:2.0mm)を設けた。
【0076】
(6)さらに、スルーホール用の貫通孔の一部をえぐり取って凹部とし、この凹部にNi-Auからなる金ろうを用い、700℃で加熱リフローしてコバール製の外部端子を接続させた。
なお、外部端子の接続は、タングステンの支持体が3点で支持する構造が望ましい。接続信頼性を確保することができるからである。
【0077】
(8)次に、温度制御のための複数の熱電対を有底孔に埋め込み、静電チャック付きセラミックヒータの製造を完了した。
このようにして製造した静電チャック付きヒータは、明度がN=3.5を示し輻射熱量が多く、しかも、内部の抵抗発熱体や静電電極の隠蔽性にも優れる。
【0078】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る窒化アルミニウム焼結体では、高温での体積抵抗率が高く、かつ、明度の低い窒化アルミニウム焼結体が得られる。また、サーモビュアによる正確な温度測定が可能である。
従って、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、例えば、ホットプレート、静電チャック、ウエハプローバ、サセプタなどの基板として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
発明外参考例、実施例および比較例におけるセラミック基板成分と体積抵抗率との関係を示すグラフである。
【図2】
発明外参考例の焼結体のX線回折チャートである。
【図3】
比較例の焼結体のX線回折チャートである。
【図4】
(a)は、静電チャックを模式的に示す縦断面図であり、(b)は、(a)に示した静電チャックのA-A線断面図である。
【図5】
静電チャックに埋設されている静電電極の別の一例を模式的に示す水平断面図である。
【図6】
静電チャックに埋設されている静電電極の更に別の一例を模式的に示す水平断面図である。
【図7】
窒化アルミニウム焼結体からなるウエハプローバの製造工程の説明図である。
【図8】
窒化アルミニウム焼結体からなるウエハプローバの製造工程の説明図である。
【図9】
発明外参考例および実施例における曲げ強度の温度依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
2 チャックトップ導体層
3 窒化アルミニウム基板
5 ガード電極
6 グランド電極
7 溝
8 空気吸引孔
16、17 スルーホール
19、190、191 外部端子ピン
20、70、80 静電チャック
21、71、81 窒化アルミニウム基板
22、72、82a、82b チャック正極静電層
23、73、83a、83b チャックv負静電層
41 発熱体
180 袋孔
【図面】


 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-08-12 
出願番号 特願平11-355550
審決分類 P 1 651・ 536- YA (C04B)
P 1 651・ 113- YA (C04B)
P 1 651・ 121- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三崎 仁  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 金 公彦
岡田 和加子
登録日 2001-09-07 
登録番号 特許第3228921号(P3228921)
権利者 イビデン株式会社
発明の名称 カーボン含有窒化アルミニウム焼結体  
代理人 安富 康男  
代理人 東 毅  
代理人 青木 純雄  
代理人 安富 康男  
代理人 細田 益稔  
代理人 東 毅  

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