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審決分類 審判 一部申し立て 特29条の2  H01S
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01S
管理番号 1106036
異議申立番号 異議2003-72509  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-01-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-10-14 
確定日 2004-11-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第3395631号「窒化物半導体素子及び窒化物半導体素子の製造方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議申立事件についてされた平成16年3月8日付け決定に対し、東京高等裁判所において取消決定を取り消すとの判決(平成16年(行ヶ)第165号 平成16年8月31日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり決定する。 
結論 特許第3395631号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3395631号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、先の出願(特願平9-99494号)に基づく優先権を主張して平成10年3月3日に出願され、平成15年2月7日に設定登録され、その後、奥田誠より特許異議の申立てがなされて、異議2003-72509として審理され、平成16年3月8日付けで、「特許第3395631号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。」との決定がなされたところ、該決定を取り消す旨の訴え(平成16年(行ヶ)第165号)が東京高裁に提起され、その後平成16年5月27日に訂正審判2004-39111が請求され(平成16年7月9日付けで取り下げ。)、さらに平成16年6月21日に訂正審判2004-39145が請求されたところ、該訂正審判2004-39145について、訂正を認めるとの審決が平成16年7月14日付けでなされた。
そして、上記訂正が確定したことを受けて、東京高等裁判所は、異議2003-72509についてなした平成16年3月8日付け決定を取り消す、との判決をなしたものである。

2.特許異議申立ての概要
異議申立人は、本件の請求項1〜3に係る発明は、下記刊行物1、3又は2、3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである旨、及び請求項1〜3に係る発明についての優先権主張は認められず、下記に先願明細書として提示した特許出願の願書に最初に添付した明細書および図面に記載された発明と同一であるから特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである旨主張している。

刊行物1:特開平8-116090号公報(異議申立人の提出した甲第1号証。以下同様。)
刊行物2:Journal of Crystal Growth 166(1996)pp.583-589(甲第2号証)
刊行物3:特開平8-330678号公報(甲第3号証)
先願明細書:特願平10-5682号の当初明細書及び図面(特開平11-103135号公報参照)(甲第4号証)

3.本件特許発明
請求項に係る発明は、訂正確定後の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のものである。
「【請求項1】異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成されてなり、結晶欠陥が107個/cm2以下である窒化物半導体を基板とし、
その窒化物半導体からなる基板上部に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層が積層されてなる窒化物半導体素子であって、
その窒化物半導体素子の対向する活性層端面は、前記窒化物半導体基板M面(1-100)の劈開面と一致する劈開面であって、
かつ該窒化物半導体からなる基板下部にはn電極が形成されていることを特徴とする窒化物半導体素子。
【請求項2】前記活性層端面がレーザ素子の共振面であることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項3】前記基板はSiドープされた基板であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体素子。」(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)

4.刊行物等
本件の出願前公知であり、かつ、本件の優先権の主張の基礎となる先の出願の出願前公知の刊行物である刊行物1(特開平8-116090号公報)には、次のことが記載されている。
「【0014】本発明はこのような問題を解決し、格子定数の不整合や熱膨張係数の相違に基づく結晶欠陥や転位の発生を極力抑えた半導体発光素子の製法を提供することを目的とする。
【0015】本発明のさらに他の目的は半導体レーザのように端面に平行な2つの鏡面を必要とする半導体発光素子にもチッ化ガリウム系化合物半導体を用いて劈開により端面の鏡面をうることができる半導体発光素子の製法を提供することを目的とする。
【0016】【課題を解決するための手段】本発明の半導体発光素子の製法は、(a)半導体単結晶基板上にチッ化ガリウム系化合物半導体層を成膜する工程、(b)前記半導体単結晶基板を除去する工程、および(c)該半導体結晶基板を除去して残余した前記チッ化ガリウム系化合物半導体層を新たな基板として、少なくともn型層およびp型層を含むチッ化ガリウム系化合物半導体単結晶層をさらに成長する工程を有する。」、
「【0023】まず、図1(a)に示されるように、半導体単結晶基板1の表面にMOCVD法によりチッ化ガリウム系化合物半導体層からなる低温バッファ層2および高温バッファ層3を成長する。」、
「【0027】つぎに図1(b)に示されるように、半導体単結晶基板1の裏面側から機械的研磨または化学的研磨をし、半導体結晶基板1および低温バッファ層2を除去する。この機械的研磨は、たとえばダイヤモンド粉を使用する研磨装置により行い、化学的研磨は、たとえば硫酸と過酸化水素の混合液により行う。」、
「【0028】つぎに図1(c)に示されるように、残されたチッ化ガリウム系化合物半導体層からなる高温バッファ層(チッ化ガリウム系化合物半導体層)3を新たな基板として反応炉内に配設し、前述と同様の方法でチッ化ガリウム系化合物半導体からなる低温バッファ層4を0.01〜0.2μm程度、高温バッファ層5を1〜40μm程度設ける。・・・」、
「【0029】つぎに図1(d)に示されるように、n型クラッド層6、ノンドープまたはn型もしくはp型の活性層7、p型クラッド層8、キャップ層9を順次形成する。・・・」、
「【0030】前述のクラッド層などの半導体層でn型層にするためには、Si、Ge、SnをSiH4、GeH4、SnH4などのガスとして反応ガス内に混入することによりえられる。・・・」、
「【0033】ついで、Au、Alなどの電極材料を蒸着やスパッタ法などにより成膜し、裏面側には全面に下部(n側)電極11が形成され、表面側はLEDのばあいは発光領域を確保するため、または半導体レーザのばあいは電流注入領域を規制するため、中心部のみに残るようにパターニングして上部(p側)電極10が形成され、そののち各チップに劈開することにより、図1(e)に斜視図で示されるように半導体発光素子チップが形成される。」、
「【0035】本発明によれば、半導体単結晶基板上にチッ化ガリウム系化合物半導体層を成長させたのち、半導体単結晶基板を除去し、チッ化ガリウム系化合物半導体層を新たな基板としてその上に動作層のチッ化ガリウム系化合物半導体単結晶層を成長しているため、格子定数や熱膨張係数は非常に近くなり、格子欠陥や転位は発生しにくい。」、
「【0040】まず、前述の図1(b)に示されるような50〜200μmの厚さに形成されたn型AlxGayIn1-x-yNの半導体層からなる新たな基板とされたチッ化ガリウム系化合物半導体層基板3の表面に400〜700℃の低温でn型AlvGawIn1-v-wN(0≦v<1、0<w≦1、0<v+w≦1、v≦x、1-x-y≦1-v-w)からなる低温バッファ層4を0.01〜0.2μm程度MOCVD法により成長し、ついで700〜1200℃の高温でチッ化ガリウム系化合物半導体層基板3と同じ組成のn型AlxGayIn1-x-yNからなる高温バッファ層5を1〜40μm程度の厚さに設けた。さらに700〜1200℃でn型AlxGayIn1-x-yNからなるn型クラッド層6を0.1〜2μm程度の厚さに設け、ノンドープのAlpGaqIn1-p-qN(0≦p<1、0<q≦1、0<p+q≦1、p<x、1-p-q>1-x-y)からなる活性層7を0.05〜0.1μm程度の厚さに成長させ、さらにp型AlxGayIn1-x-yNからなるp型クラッド層8を1〜2μm成長させた。その上にAlrGasIn1-r-sN(0≦r<1、0<s≦1、0<r+s≦1、r≦x、1-x-y≦1-r-s)からなるキャップ層9を0.2μm程度の厚さ設ける。」、
「【0044】実施例2
本実施例は半導体レーザ型発光素子の実施例で、各層の形成および電極の形成までは実施例1と全く同様に形成し、電極形成後に上部電極11の両側のキャップ層9およびp型クラッド層8の上部をエッチングしてメサ型形状にしたものである。このような構造にすることにより電流を活性層の中心部だけに集中させることができ、しかも劈開により端面が鏡面になっているため、端面で反射させて発振させることができ、出力が0.2mW程度の青色半導体レーザ型発光素子がえられた。」、
「【0046】【発明の効果】本発明によれば、基板が絶縁基板でないため、下部側の電極を基板の裏面に形成すればよく、従来のように上面側からエッチングして下部の導電型層を露出させて電極を形成する必要がない。そのため、ドライエッチング工程が不要になり、構造プロセスが簡単になるとともにエッチング時に発生しやすいコンタミネーションによる抵抗に基因する特性劣化も生じない。
【0047】さらに基板もクラッド層などの厚い層と同じチッ化ガリウム系化合物半導体層からなっているため、同種の結晶が揃うことになり容易に劈開することができ、簡単に鏡面をうることができる。その結果、青色の半導体レーザも容易にうることができる。
【0048】また基板もチッ化ガリウム系化合物半導体層からなっているため、動作層と同種の半導体層であり、格子定数などが一致して格子整合がとれ、結晶欠陥や転位の発生を防止できる。その結果、半導体層が高品質になり、素子の発光効率や寿命が向上する。」、
図3は、第2実施例を示すものであり、チッ化ガリウム系半導体層基板3の下部には「下部(n型)電極11」が図示されている。
<刊行物1に開示された発明>
以上の記載からみて、刊行物1には以下の発明が開示されていると認める。
「半導体単結晶基板上にn型チッ化ガリウム系化合物半導体層を成膜し前記半導体単結晶基板を除去して得たチッ化ガリウム系化合物半導体層を基板とし、その基板上部に少なくともn型層およびp型層を含むチッ化ガリウム系化合物半導体単結晶層が積層されてなる半導体レーザ型発光素子であって、裏面側には全面に下部(n側)電極が形成され、劈開により鏡面になっている端面で反射させて発振させるチッ化ガリウム系化合物半導体素子」(以下、「引用発明」という。)

刊行物2(Journal of Crystal Growth 166(1996)pp.583-589)には、「GaNの高圧成長-青色レーザへの新たな期待」と題して、おおよそ以下の事項が記載されている。
「GaNに基づくIII-V半導体技術における最近の重要な進歩は、GaN素子の応用において広汎な関心を生み出した。GaNレーザの作製に対する残りの障害は、熱的かつ格子整合した基板の欠如であることが議論される。III-V窒化物の熱力学的性質が検討され、高圧窒素化でのGaN小プレートの成長における最近の進歩が示される。現在成長時のGaN結晶が良好な構造上の性質、平坦な表面、小さい転位密度および(0001)結晶面に対して垂直な劈開面を有することが示される。これらの性質は、GaN基板がレーザ技術に対する新たな期待を提供することを示唆している。」(要約)
「現在、バルクGaN単結晶の成長のための唯一の方法が存在する。この方法では、液体ガリウム中の原子状窒素の希釈溶液から1500〜1900Kの温度でかつ20kbarまでの窒素圧力で結晶化が行われている。」(583頁右下欄21行〜584頁左上欄3行)
「良質のGaN小プレートの転位密度は約105cm-2であり、サファイア基板上に成長されたMOCVDまたはMBE層中の欠陥密度よりもかなり小さい。」(587頁左欄10行〜12行)
「レーザの作製の観点からの重要な性質は、(0001)面に対して垂直な面{1010}に沿って劈開するGaN小プレートの能力である。これが図7に示される。高圧力成長GaN中の自由電子濃度は約1019cm-3である。」(587頁右欄1行〜6行)
「図7.{10-10}面に沿って劈開されたGaN結晶」(587頁の図7の説明(注:マクロン付き数字は数字の前に「-」を付した。))
「表2
N2の高圧力下で成長されたGaN結晶の物理的性質
性質 値 方法
・・・
転位密度 〜105cm-2 Gaでのエッチング
・・・
電子濃度 〜1019cm-3 光学的ホール効果」(588頁の表2)
「良好な構造上の性質、低い転位濃度、(0001)面の平坦性、劈開能力および良好な導電率等の上記のGaN小プレートの全ての性質は、それらをMOCVDレーザ技術のための非常に有望な基板にする。プレーナ技術用の基板としてGaN結晶を用いるために最も重要な要因はそれらの格子および熱的整合であることは明らかである。」(588頁左欄7行〜同頁右欄3行)

刊行物3(特開平8-330678号公報)には、次の事項が記載されている。
「【0010】・・・一般的にInGaAlN系化合物半導体、就中上記のGa1-xAlxN系化合物半導体をクラッド層材料として使用する場合、n型ドーパントとしてはキャリヤ濃度の制御が容易なSiが好ましい。・・・
【0015】基板1としては、InGaAlN系の半導体層を形成するための基礎となり、かつ導電性を有し、表面に電極を形成できるものであればよい。例えば、結晶体、好ましくはGaN、SiC、ZnO等が挙げられ、特にGaNおよびSiCの単結晶が挙げられる。・・・本発明において導電基板1をGaN、SiCなどの劈開性の単結晶材料にて構成すると、その劈開性を利用して発光部の両端面に理想的な鏡面を容易に作製することができる利点がある。なおその劈開面には、一層あるいはそれ以上の多数の適当な誘電体薄膜をコートしてその反射率を制御することもできる。
【0016】バッファ層1aはGaNからなり、結晶基板1上にInGaAlN系の半導体層を形成するに際し、その結晶品質を向上させるための層として必要に応じて設けられる。図1の実施例では、基板1はn導電型を有するが、p型であってもよい。・・・
【0017】・・・導電性基板1上に、必要に応じてバッファ層1aを形成し、その上に順次基板と同じ導電型の該1番目のクラッド層2a(例えばGaAlN)、活性層2c(例えばアンドープのInGaN)、基板と異なる導電型の該2番目のクラッド層2b(例えばGaAlN)を順次成長させる。p型の導電型を得るために必要であれば結晶成長後に熱処理、電子線照射処理等の後処理を施す。次いで、該発光部の上面にフォトリソグラフィーによってマスクを形成し、RIEによるエッチングを施して、発光部2の全体をストライプ構造とする。・・・
【0023】電極は上下共に公知の材料、構造のものを利用してよく、例えばp側電極5にはAuが、n側電極4にはAl、In等が例示される。」

先願明細書(特願平10-5682号)には、次のことが記載されている。
「【0022】本発明のGaN系結晶成長用基板は、・・・マスク領域上・・・良質の結晶を利用し、その低転位となる部分にGaN系半導体素子(以下、単に「素子」ともいう)を形成するためのものである。また、そのマスク領域・非マスク領域の幅を、素子の活性部の幅以上、素子の全幅以下に限定することが重要である。・・・これによって、最小限のマスク領域によって高い品質の素子を確保することができる。・・・
【0054】【実施例】実施例1
本実施例では、・・・個々の素子の形状と等しいマスク領域を有するGaN系結晶成長用基板を製作した後、これにGaN結晶層を成長させて結晶基板とし、マスク領域上にダブルヘテロ接合構造を形成してLEDとし、非マスク領域で分断して素子を個々に分断し、図5(a)に示す形状の素子を得た。
【0055】〔GaN系結晶成長用基板の製作〕直径2インチ、厚さ330μm、C面サファイア基板上に、MOVPE装置を使って、厚さ20nmのAlNバッファー層を低温成長し、続いて1.5μmのGaN薄層を成長し、ベース基板とした。この基板の表面に、SiO2薄膜からなり、図2に示す態様のマスク層をスパッタリング法で形成し、本発明によるGaN系結晶成長用基板を得た。
【0056】マスク層の形成パターンは、1つのマスク領域が、<11-20>方向290μm×<1-100>方向290μmの正方形であって、目的のLEDの活性層に一致する形状である。このマスク領域をマトリクス状となるように<11-20>方向、<1-100>方向、共に10μmの間隔を於いて配置した。従って、マスク領域同士の中心間ピッチは、<11-20>方向、<1-100>方向、共に300μmである。また、非マスク領域は、幅10μmの帯状の領域が直交する格子状である。
【0057】〔GaN結晶層の形成〕上記GaN系結晶成長用基板をHVPE装置に装填し、図7に示すように、非マスク領域を出発点として200μmのn型GaN結晶層を形成した。GaN結晶はマスク層上を横方向にも成長しマスク層を完全に覆った。n型GaN結晶層の表面の平坦性は良好であった。
【0058】〔発光素子の形成〕n型GaN結晶層を基板としてその上に、全面に、n-GaN層/n-AlGaN層/n-InGaN層/InGaN層(活性層)/p-AlGaN層/p-GaN層を順次成長させ、さらにp型側・n型側の各々の電極を形成し、ダブルヘテロ接合構造のLEDをマトリクス状に含む積層体を完成させた。
【0059】〔個々の素子への分断〕ポイントスクライバーにて、図4(b)に示すように、格子状の非マスク領域に切り込みを入れて分断し、個々に分断されたLEDを得た。
【0060】本実施例によって、マスク領域を効率良く活性部に対応させて素子を形成でき、しかも、非マスク領域において個々の素子に分断し得ることが確認できた。また、このLEDと、従来の非マスク領域上に形成され転移を含む低品質のGaN系結晶基板を用いたLEDとを、発光輝度および寿命特性の点で比較したところ、本発明の製造方法によって得られたLEDの方が、発光輝度、寿命特性どちらも1.5倍に特性が向上していることがわかった。
【0061】実施例2
本実施例では、形成すべき目的の素子をストライプレーザとし、図1に示すように、マスク層を、GaN結晶の<1-100>方向に延びる平行縞状とした。GaN系結晶成長用基板の製作は、実施例1と同様に行い、マスク層のパターンを、幅150μm、中心ピッチ300μmとした。
【0062】〔ストライプレーザ構造の形成〕GaN系結晶成長用基板上に厚さ100μmのGaN結晶層を形成して基板とし、その上に、全面に、n-GaN層/n-AlGaN層/n-GaN層/InGaN多重量子井戸層/p-AlGaN層/p-GaN層/p-AlGaN層/p-GaN層を順次成長させ、積層体をRIE(Reactive Ion Etching)で8μmの幅に残してエッチングし、図6において4で示すように、ストライプ状とした。このとき、マスク層上のほぼ中央にストライプが形成されるように位置合せを行い、ストライプの方位を<1-100>方向に正確に合わせた。研磨によってC面サファイア基板を除去し、全体の厚みを80μmとした。
【0063】〔個々の素子への分断〕ストライプの長手方向と直交する面を分断面として、即ち、図6のS1、S2およびこれらに平行に500μmピッチでへき開(M面でのへき開)し、<11-20>方向に隣合った素子同士がつながった状態のものを多数得た。各々の反射器面に必要なコーティングを一括して施して共振器を仕上げた後、図6のU1〜U4に沿って切断し、個々のレーザチップを得た。・・・
【0070】【発明の効果】本発明によるGaN系結晶成長用基板を用いることによって、マスク領域の上・・・の良好な品質の結晶をより無駄なく素子の活性部に対応させることができる。しかも、結晶の出発点となる非マスク領域を、最終的な素子の分断に利用することも可能である。従って、高品質に形成した領域をロスすることが少なく、もとのベース基板の限られた面積を有効に利用できる。・・・
【図6】本発明のGaN系結晶成長用基板を用いたGaN系ストライプレーザの製造工程における状態例を示す斜視図である。図中の左右両端の破線は、破断線を意味している。また、同図では、電極を省略している。」

5.対比・判断
進歩性について>
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「チッ化ガリウム系化合物半導体」、「半導体単結晶基板上にn型チッ化ガリウム系化合物半導体層を成膜し前記半導体単結晶基板を除去して得たチッ化ガリウム系化合物半導体層」、「少なくともn型層およびp型層を含むチッ化ガリウム系化合物半導体単結晶層」、「劈開により鏡面になっている端面」、「下部(n側)電極」は、それぞれ、本件特許発明1の「窒化物半導体」、「基板」、「活性層を含む素子構造」、「窒化物半導体素子の対向する活性層端面」、「n電極」に相当するから、両者は、「窒化物半導体を基板とし、その窒化物半導体からなる基板上部に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層が積層されてなる窒化物半導体素子であって、その窒化物半導体素子の対向する活性層端面は、前記窒化物半導体基板の劈開面と一致する劈開面であって、かつ該窒化物半導体からなる基板下部にはn電極が形成されている窒化物半導体素子」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:窒化物半導体からなる基板が、本件特許発明1では、「異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成されて」なるのに対し、引用発明は、そのような規定がない点。
相違点2:基板の結晶欠陥数が、本件特許発明1では、「107個/cm2以下」であるのに対して、引用発明はその規定がない点。
相違点3:劈開面が、本件特許発明1では、「M面(1-100)」であるのに対して、引用発明はその規定がない点。

刊行物2には、窒化物半導体素子を実現するにあたり、熱的かつ格子整合した基板の欠如が問題であることが指摘され、転位密度は約105cm-2である良質の窒化物半導体に属するGaN小プレートが開示されているが、これは高圧窒素化でのGaN小プレートが(0001)面に対して垂直な面{1010}({1-100}と等価)に沿って劈開することを示すとともに、GaN基板のレーザ技術に対する可能性を提示するものである。
また、刊行物3には、GaNの導電性基板上部に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層が積層され、劈開性を利用して発光部の両端面に鏡面を作成し、基板下部にn電極が形成されている窒化物半導体レーザが記載されている。
しかしながら、刊行物2は、具体的な製造方法が異なる(引用発明のものは有機金属気相成長法であるのに対し、刊行物2のものは液体ガリウムの液相での成長)ことから、これを主に有機金属気相成長法で製造される窒化物半導体素子に適用する動機付けを欠くばかりでなく、GaN小プレートを示すのみであって一様な半導体層として形成し得ることの記載もなく、また劈開面であるM面を活性層の端面とすることについても明記があるとはいえない。
また、刊行物3には上記記載事項が記載されているにしても、上記相違点1〜3を示すものではない。
結局、刊行物2,3には、基板が「異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成されて」なるとの事項は記載されていない。そして、本件特許発明1は、該相違点1の技術的事項を前提として、成長の際の窒素源のガスのモル比を調整して結晶欠陥数を調整することにより達成された基板の結晶欠陥数を、相違点2のように記載したものであって、格子欠陥が非常に少なく特定の面方位(M面)で劈開した鏡面状共振面を得ることができるとの明細書記載の作用効果を奏するものである。

よって、本件特許発明1は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

(2)本件特許発明2,3について
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用して限定するものであり、本件特許発明3は、本件特許発明1,2を引用してさらに限定するものであるから、上記本件特許発明1が上記判断((1)本件特許発明1について)のように容易といえない以上、本件特許発明2,3も容易になし得るものではない。

<特許法第29条の2について>
(1)判断の基準となる特許出願日
本件特許1〜3は、何れも、結晶欠陥数が107個/cm2以下である窒化物半導体を基板とすることを、発明を特定する技術事項とするものである。しかし、本件の優先権主張の基礎とする先の出願(特願平9-99494号)には、窒化物半導体を基板とすること、保護膜上部に形成した窒化物半導体層の結晶欠陥が少なくなること、本件特許1〜3の基板を用いた場合に格子欠陥の少ない結晶性のよい窒化物半導体を成長させることができることが記載されているが、基板の結晶欠陥の具体的数は記載されていない。そして、同出願の明細書の記載から、基板の結晶欠陥数が保護膜を設けず形成した場合に比べて少なくなることは読みとれるが、その場合の欠陥の数が107個/cm2以下であることまでは読みとれない。
したがって、本件特許1〜3の出願日は、現実の特許出願日(平成10年3月3日)とする。

(2)対比・判断
[本件特許発明1について]
先願明細書の要部を書き出すと、
「【0054】【実施例】実施例1・・・
【0055】〔GaN系結晶成長用基板の製作〕
・・・厚さ330μm、C面サファイア基板上に、MOVPE装置を使って、厚さ20nmのAlNバッファ層を低温成長し、続いて1.5μmのGaN薄層を成長し、ベース基板とした。この基板の表面に、SiO2薄膜からなり、図2に示す態様のマスク層をスパッタリング法で形成し、本発明による成長用基板を得た。・・・
【0061】実施例2
本実施例では、形成すべき目的の素子をストライプレーザとし、図1に示すように、マスク層を、GaN結晶の<1-100>方向に延びる平行縞状とした。GaN系結晶成長用基板の製作は、実施例1と同様に行い、マスク層のパターンを、幅150μm、中心ピッチ300μmとした。
【0062】〔ストライプレーザ構造の形成〕
GaN系結晶成長用基板上に厚さ100μmのGaN結晶層を形成して基板とし、その上に、全面に、n-GaN層/n-AlGaN層/n-GaN層/InGaN多重量子井戸層/p-AlGaN層/p-GaN層/p-AlGaN層/p-GaN層を順次成長させ、積層体をRIE(Reactive Ion Etching)で8μmの幅に残してエッチングし、図6において4で示すように、ストライプ状とした。このとき、マスク層上のほぼ中央にストライプが形成されるように位置合せを行い、ストライプの方位を<1-100>方向に正確に合わせた。研磨によってC面サファイア基板を除去し、全体の厚みを80μmとした。
【0063】〔個々の素子への分断〕
・・・500μmピッチでへき開(M面でのへき開)し、<11-20>方向に隣合った素子同士がつながった状態のものを多数得た。」と記載されている。

本件特許発明1と先願発明(先願明細書に記載された発明)とを対比するに、先願明細書における「GaN系結晶」、「ベース基板1」、「n-GaN層/n-AlGaN層/n-GaN層/InGaN多重量子井戸層/p-AlGaN層/p-GaN層/p-AlGaN層/p-GaN層」、「へき開されたM面」は、それぞれ本件特許発明1の「窒化物半導体」、「基板」、「活性層を含む素子構造」、「窒化物半導体素子の対向する活性層端面」に相当するから、両者は、「異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成されてなる窒化物半導体を基板とし、その窒化物半導体からなる基板上部に活性層を含む素子構造を有する窒化物半導体層が積層されてなる窒化物半導体素子であって、その窒化物半導体素子の対向する活性層端面は、前記窒化物半導体基板M面(1-100)の劈開面と一致する劈開面である窒化物半導体素子」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点4:本件特許発明1では、基板の「結晶欠陥数が107個/cm2以下である」のに対して、先願発明はその規定がない点。
相違点5:本件特許発明1では、「窒化物半導体からなる基板下部にはn電極が形成されている」のに対して、先願発明はその規定がない点。

上記相違点について検討する。
先願明細書記載のものは、基板を研磨することによってC面サファイア基板を除去するものであるにしても、AlNバッファ層を除去するとの記載がない以上、AlN層を下層に有することになるが、該AlN層の下に電極を設けたとすれば、これは「窒化物半導体からなる基板下部」にn電極を形成したものとはいえない。そして、C面サファイア基板を除去することが、電極形成のために行われるとも記載されていない。また、先願明細書には、「全体の厚みを80μmとした」と記載されているが、発光層を含む層構成の各層の具体的な層厚が明記されていない以上、全体の厚みを80μmとした場合に、最下層がどの層になるのかは明記されていないから、上記相違点5が直接開示されているとはいえない。
とすれば、先願明細書に、C面サファイア基板を除去する点が記載され、基板下部に電極を設置することが一般的に周知であるとしても、もともと先願明細書には、基板下部にn電極が形成する点が記載されておらず、基板を窒化物半導体からなるものとすることも明記されているとはいえないのであるから、先願発明は、相違点5の技術的事項を有するものとはいえない。
さらに、相違点4については、本件特許明細書に「【0026】また、結晶欠陥の転位の傾向は、保護膜を形成した後、第1の窒化物半導体3を成長させる際に3族源のガスに対する窒素源のガスのモル比(V/III比)を変えることにより調整できる。・・・V/III比が2000以下の場合は、窓部上部のみに転位が観測され保護膜上部にはほとんど欠陥が見られなくなり、・・・107個/cm2以下・・・である。また、V/III比が2000より大きい場合は、・・・108個/cm2以上となる傾向がある。」と記載されており、上記規定が、成長の際の窒素源のガスのモル比(V/III比)に関連してなされた限定であることが理解できるところ、先願明細書には、結晶欠陥数及びその調整方法が記載されていないのであるから、調整を考慮せずに形成された窒化物半導体の結晶欠陥数が同程度(107個/cm2以下)であると推認することはできないので、両者が『「異種基板上に選択成長により隣接したもの同士がつながるように成長することを利用して形成されてなり」、「窒化物半導体を基板」』との点で相違がないにしても、「結晶欠陥が107個/cm2以下である」点において差異を有する。
よって、本件特許発明1は、先願の発明と同一とはいえない。

[本件特許発明2,3について]
本件特許発明2は、本件特許発明1を引用して限定するものであり、本件特許発明3は、本件特許発明1,2を引用してさらに限定するものであるから、上記本件特許発明1が上記判断([本件特許発明1について])のように先願の発明と同一といえない以上、本件特許発明2,3も同一ではない。

6.むすび
以上のとおり、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし3に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-03-08 
出願番号 特願平10-50859
審決分類 P 1 652・ 121- Y (H01S)
P 1 652・ 16- Y (H01S)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 町田 光信
山下 崇
登録日 2003-02-07 
登録番号 特許第3395631号(P3395631)
権利者 日亜化学工業株式会社
発明の名称 窒化物半導体素子及び窒化物半導体素子の製造方法  
代理人 堀川 かおり  

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