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審決分類 |
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する C04B 審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する C04B 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C04B 審判 訂正 2項進歩性 訂正する C04B 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C04B |
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管理番号 | 1106971 |
審判番号 | 訂正2004-39024 |
総通号数 | 61 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1997-08-12 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2004-01-30 |
確定日 | 2004-09-27 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3085182号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第3085182号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
1.請求の趣旨 本件審判の請求の趣旨は、特許第3085182号[平成8年2月8日特許出願、平成12年7月7日登録]の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、即ち下記(1)ないし(7)のとおり訂正することを求めるものである。 (1)訂正事項a:特許請求の範囲の請求項1、請求項2、及び請求項3の「自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末」とあるのを「全体に対し自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末」と訂正する。 (2)訂正事項b:発明の詳細な説明中段落【0016】、【0018】、及び【0019】の「自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末」(本件特許公報 第3頁5欄40〜42行、第3頁5欄末行〜6欄2行、6欄6〜8行)とあるのを「全体に対し自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末」と訂正する。 (3)訂正事項c:発明の詳細な説明中段落【0097】、【0099】、及び【0101】の「セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末と」(本件特許公報第10頁20欄3行、同欄30〜32行、同欄42〜44行)とあるのを「セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、全体に対し自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末と」と訂正する。 2.当審の判断 2-1.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無 (1)訂正事項aの訂正は、「0.3以上2.0重量%以下」という組成割合が、何に対してのものか不明瞭であったものを、遠赤外線放射体全体の重量に対するものであることを明りょうにするものであるから、不明りょうな記載の釈明を目的とする訂正に該当する。 そして、「0.3以上2.0重量%以下」という組成割合が、遠赤外線放射体全体の重量に対するものであることは、本件特許明細書段落【0032】の「この放射性鉱物からなる放射線源材料は、遠赤外線放射体の原材料として任意の割合で使用することができる。ただし、その使用目的からすれば、一般にその混合割合は、酸化トリウム(ThO2 )の含有量として換算して、実用上少なくとも0.3重量%以上の割合であることが好ましく」(本件特許公報第4頁8欄31〜36行)及び「放射線源材料の配合割合は、酸化トリウムの含有量として換算して、2.0重量%未満であることが好ましく」(本件特許公報第4頁8欄48行〜末行)との記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。 (2)上記訂正事項b及び訂正事項cは、訂正事項aに伴い、明細書の発明の詳細な説明を特許請求の範囲の記載に合わせ、表現を統一するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 2-2.特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正前の特許請求の範囲【請求項1】の「セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物を、焼成し、複合化してなることを特徴とする遠赤外線放射体。」という記載では「調整した」の目的物が何か不明確であり、かかる記載によれば、「0.3以上2.0重量%以下に調整した」のが、「自然放射性元素」とも「モナザイト」とも解釈可能であり、前者の場合は、前記重量割合はモナザイトに対してであり、後者の場合は混合物ないしそれを焼成し複合化した遠赤外線放射体ということになる。 特許発明の技術的範囲は、明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定められる(特許法第70条第1項)が、その用語の意義の解釈に当たっては、明細書及び図面の記載を考慮(特許法第70条第2項)すべきである。 そこで、本件特許請求に範囲の技術的範囲の「0.3以上2.0重量%以下」の用語の意義の解釈に当たり本件特許明細書の記載を検討すると、前述のように、段落【0032】に「この放射性鉱物からなる放射線源材料は、遠赤外線放射体の原材料として任意の割合で使用することができる。ただし、その使用目的からすれば、一般にその混合割合は、酸化トリウム(ThO2 )の含有量として換算して、実用上少なくとも0.3重量%以上の割合であることが好ましく・・・放射線源材料の配合割合は、酸化トリウムの含有量として換算して、2.0重量%未満であることが好ましく」(本件特許公報第4頁8欄31〜末行)と説明されているのであるから、前記重量割合は、遠赤外線放射体、すなわち全体の重量に対してのものと解釈すべきである。 また、本件発明において、放射線源材料である放射性鉱物を、粉末としてセラミックス遠赤外線放射材料の粉末と共に混合し、そして焼成することにより複合化するのは、「遠赤外線放射体中に均一に分散・分布されると共に、セラミックス遠赤外線材料の粒子との間が緻密化される。そのため、トリウムまたはウランの放出する放射線はセラミックス遠赤外線材料に効果的に吸収され、そして有効に遠赤外線の放射エネルギに変換されることができる」ようにするためであり、トリウムやウランのような放射性元素の混合割合は、遠赤外線放射体に対して意義を有することは明らかであるから、上記のように解釈することは、本件発明の目的とも合致する。 上記訂正事項aないし訂正事項cは、いずれも本件特許請求に範囲の技術的範囲の「0.3以上2.0重量%以下」の重量割合が、遠赤外線放射体、すなわち全体の重量に対してのものであることを明確にし、詳細な説明の記載を特許請求の範囲の訂正に整合させるものであり、前述した解釈と何ら変わるところがない。 したがって、上記訂正事項aないし訂正事項cは、実質上特許請求の範囲を拡張しまたは変更するものではない。 2-3.独立特許要件 (1)本件発明の認定 訂正後の本件請求項に係る発明は、訂正審判請求書に添付された明細書の請求項1及ないし5に記載された事項により特定された次のとおりのものである(以下「本件発明1」ないし「本件発明5」という)。 「【請求項1】 セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物を、焼成し、複合化してなることを特徴とする遠赤外線放射体。 【請求項2】 セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物を、焼成し、複合化した後、粉体状に粉砕してなることを特徴とする遠赤外線放射体。 【請求項3】 セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる粉末と、陶磁器材料の粉末とを含む混合物を、所望の形状に形成すると共に、焼成し、複合化してなることを特徴とする遠赤外線放射体。 【請求項4】 前記セラミックス遠赤外線放射材料は、白色系セラミックス遠赤外線放射材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の遠赤外線放射体。 【請求項5】 前記セラミックス遠赤外線放射材料は、有色系セラミックス遠赤外線放射材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の遠赤外線放射体。」 (2)拒絶理由で引用された文献の記載事項 引用文献1(特開昭50-108650号公報)には、珪素、鉄、マンガン、クロム、ニッケル、アルミニウム、銅、マグネシュウム等の金属酸化物に炭素、粘土と極微量の白金及びパラジウム、天然または人工の放射性物質を混合した混合コロイドを、溶射法または有機、無機の接着剤を使用して塗布、焼付法により、内部にニクロム線等の熱線を有する金属パイプの表面に、表面が梨地状で黒色系の色を呈する赤外線加熱体(特許請求の範囲)が開示されている。 また、引用文献2(特開昭50-113832号公報)には、放射性同位元素の内で原子番号の大きいものの粉末を主とし、これに白金(Pt)または金(Au)等の触媒効果を持つことのできる重金属で包み、更に、その上をシリコン(Si)またはゲルマニューム(Ge)等の前記重金属より比較的軽く触媒効果を有する重金属で包むことによって得られた多重包装金属粉体を、石英管ヒータ、ステンレスパイプヒータ、一方向端子ヒータ等の表面の放熱効果及び密着効果を上げるための前処理を行った所へ塗布し、高エネルギー且つ高帯域の赤外線を輻射せしめる技術(特許請求の範囲)が開示されている。 (3)本件発明1との対比 本件発明1と引用文献1ないし引用文献2記載の発明とを対比すると、両者は「放射性元素を含む遠赤外線放射体」である点で一致し、さらに引用文献1には、セラミックス遠赤外線放射材料である、珪素、アルミニウム、マグネシウムの酸化物を混合することも記載されているが、引用文献1ないし引用文献2には、特定の平均粒子径の、セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、モナザイトの粉末とを特定割合で配合した混合物を、焼成し、複合化することについては記載も示唆もされていない。 本件発明1は、上記の構成により、引用文献1ないし引用文献2記載の遠赤外線放射体のように加熱ヒータを必要とせず、非加熱下において、遠赤外線をより多く放射することができる遠赤外線放射体を提供できるという、本件特許明細書に記載される作用効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、引用文献1ないし引用文献2に記載された発明といえないばかりか、同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。 (4)本件発明2ないし5 本件発明2ないし5は、本件発明1を直接ないし間接的に引用し、さらに限定を加えた発明であるから、本件発明1が、引用文献1ないし引用文献2に記載された発明といえないばかりか、同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえない以上、本件発明2ないし5も、引用文献1ないし引用文献2に記載された発明といえないばかりか、同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。 (5)まとめ また、他に本件発明1ないし本件発明5を無効とすべき理由を発見しない。 したがって、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明は、これを無効とすべき理由が見当たらないから、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものである。 3.むすび したがって、本件審判の請求は、特許法第126条第1項第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第3項ないし第5項の規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 遠赤外線放射体 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、全体に対し自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物を、焼成し、複合化してなることを特徴とする遠赤外線放射体。 【請求項2】 セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、全体に対し自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物を、焼成し、複合化した後、粉体状に粉砕してなることを特徴とする遠赤外線放射体。 【請求項3】 セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、全体に対し自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる粉末と、陶磁器材料の粉末とを含む混合物を、所望の形状に形成すると共に、焼成し、複合化してなることを特徴とする遠赤外線放射体。 【請求項4】 前記セラミックス遠赤外線放射材料は、白色系セラミックス遠赤外線放射材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の遠赤外線放射体。 【請求項5】 前記セラミックス遠赤外線放射材料は、有色系セラミックス遠赤外線放射材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の遠赤外線放射体。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は遠赤外線を放射する遠赤外線放射体に関するものであり、特に、常温で使用する遠赤外線放射体に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 近年における遠赤外線の利用に関する技術の開発と進展はめざましく、その応用分野は、塗料やプラスチック等の工業的加熱または乾燥装置或いは各種暖房機器を始めとして、製茶、焙煎、熟成等の食品加工、オーブン等の家庭用調理器、更には温熱治療を代表とする医療・健康機器、等と多岐に亘っている。また、それに併せて、遠赤外線を放射する遠赤外線放射体についても、放射特性或いは放射効率の向上等の点から、コージライト(コーディェライト)を基材とするもの等の種々のセラミックスからなる遠赤外線放射体が開発されている。 【0003】 遠赤外線がこのように高く注目され、また広い分野で応用されているのは、特に、それが水や人体を含めた有機物質に対して特異的な吸収特性を有しているためである。即ち、水や有機物質の多くは、一般に3μm以上の波長の遠赤外線帯域に吸収スペクトルのピークを有している。例えば、水は3μm、6μm、及び10μm以上の波長に、また、人体(皮膚)は3μm、6〜10μm、及び12μm以上の波長に、それぞれ吸収ピークがある。これは、それらの分子を構成している原子間の伸縮運動や変角運動等の振動運動に固有な振動数が遠赤外線の振動数(1/波長)に一致し、それによって、遠赤外線はその分子の振動に共鳴して吸収されるからである。そして、この共鳴吸収によって遠赤外線は水や有機物質に効果的に吸収され、その振動運動を増幅し、それを発熱させる。 【0004】 なお、「遠赤外線」についての明確な定義はなく、それの波長範囲はそれを扱う分野等においてまちまちであるが、ここでは、当分野において一般的であるように、3μm程度以上の波長を有する赤外線を「遠赤外線」という。 【0005】 ところで、このような遠赤外線の利用の多くは、熱源としての利用に関している。具体的には、遠赤外線放射体を電気的手段等によって加熱し、または加温下に置き、その熱的に励起された遠赤外線放射体から放射する遠赤外線を利用するものである。しかし、遠赤外線の利用はそれに止まらず、特に最近では、セラミックスからなる遠赤外線放射体から常温下で放射される遠赤外線の利用、つまり、遠赤外線放射体の非加熱利用にも高い関心が集められている。即ち、遠赤外線放射体からは、非加熱下においても、理論的にはその絶対温度の4乗に比例する全エネルギ量で(シュテファン・ボルツマンの法則)遠赤外線が放射される。この微弱ながらにも放射される遠赤外線を利用するものである。そして、その具体的応用は、飲料水の浄化または活性化、風呂水(24時間風呂)の浄化、切り花の保存、植物の発芽、生育の促進、有機質肥料の分解促進、或いはディーゼル燃料の無煙化等であり、これらの幾らかは既に実用化されている。 【0006】 例えば、『セラミックボール』等と呼ばれるコージライト等のセラミックス遠赤外線放射材料を小球状に焼成した遠赤外線放射体がその一例であり、これを水道水に入れておくと、カルキ臭が除去されると共に美味しい水が生成されることが知られている。また、花瓶に入れておくことにより、水の汚れや濁りが防止され、また生花を長持ちさせることができる。つまり、水の活性化効果と共に、有機物の分解効果及び抗菌効果がある。更に、ディーゼル燃料に入れておくことにより、燃焼時の発煙量を低減することができる等の効果もある。 【0007】 このような非加熱下での遠赤外線放射体の使用効果については、例えば、衣服に適用した場合に血行の促進効果や脱臭効果がある等、その他にも種々の効果が確められている。そして、このような効果は、少なくとも熱の見掛け上の移動がないことから、遠赤外線の「非熱効果」または「常温効果」と呼ばれている。しかし、そのメカニズムについては、上記の遠赤外線の共鳴吸収と関連するとは考えられているが、明確には解明されていない。ただし、NMR(核磁気共鳴分光法)による分析から、その「非熱効果」(「常温効果」)によって、水分子のクラスタ(集合体)が微細化され、生理的にも活性な水に改質されること、また、ESR(電子スピン共鳴分光法)による分析から、それによってラジカルが生成すること等が確認されている。 【0008】 参考文献:「遠赤外線放射セラミックスのすべて」(芳賀幸明他著 オプトロニクス社),「やさしい遠赤外線工学」(高嶋廣夫著 工業調査会),「遠赤外線とNMR法」(松下和弘著 人間と歴史社),他。 【0009】 【発明が解決しようとする課題】 このように、コージライト等のセラミックスからなる遠赤外線放射体は、加熱下での使用だけでなく、水の浄化或いは活性化等の種々の具体的応用において、非加熱下での、つまり、常温での利用もなされている。そして、それによって、遠赤外線の(正確には、遠赤外線放射体の)「非熱効果」または「常温効果」を得ることができる。 【0010】 しかしながら、そのような効果が実用上十分に得られるためには、遠赤外線放射体から放射される遠赤外線エネルギが少ないだけに、比較的長い時間が必要である。即ち、物質から放射されるエネルギに関するシュテファン・ボルツマンの法則によれば、入射したあらゆる光を完全に吸収する理想的な物体「黒体」が放射する全エネルギEb(W/cm2)は、次のように示される。 【0011】 Eb=σT4 (σはボルツマン定数,Tは絶対温度) なお、これは黒体についてのものであり、実際の遠赤外線放射体の場合は、このEbにそれの全放射率を乗算したものとなる。例えば、コージライトの全放射率は常温域では約0.95である。 【0012】 つまり、遠赤外線放射体から放射される全エネルギは、それの絶対温度T(K)の4乗に比例することである。そのため、その全エネルギは、それの温度が高い程累加的に増加し、また逆に低い程急激に減少する。例えば、遠赤外線放射体を加熱して使用する場合の温度は400℃程度が一般的であるが、その400℃(673K)の時の全放射エネルギを「1」とすると、100℃(373K)では約「0.1」であり、更に、10℃(283K)の温度の例えば冷蔵庫内での非加熱使用の場合には、僅かに「0.03」である。ただし、遠赤外線放射体から放射される電磁波は、温度が低くなる程その中心波長が長波長側に移行するため、常温域での遠赤外線の全エネルギは多少多くなる。しかし、そのような増加は極く少ない。 【0013】 そのため、遠赤外線放射体の非加熱(常温)使用については、それの放射する遠赤外線エネルギが少ないため、十分に有効な「非熱効果」(「常温効果」)を得るために時間がかかるという問題があった。もっとも、遠赤外線放射体の使用量を多くすることによって、放射する遠赤外線エネルギ量を増加することは可能である。しかし、遠赤外線放射体の使用量にも限界はあり、また、なるべく少ない使用量で高い効果が得られることが望ましいことは言うまでもない。 【0014】 そこで、本発明は、常温下、即ち、非加熱下においても、遠赤外線をより多く放射することができる遠赤外線放射体の提供を課題とするものである。 【0015】 【課題を解決するための手段】 この課題は、基本的には、放射性崩壊する自然放射性元素であるトリウムまたはウランを含有する放射性鉱物を放射線源材料として使用し、その粉末を、主材としてのセラミックス遠赤外線放射材料の粉末に混合し、そして、その混合物を焼成して複合化することによって解決される。 【0016】 即ち、請求項1にかかる遠赤外線放射体は、セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、全体に対し自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物を、焼成し、複合化してなるものである。 【0017】 また、この遠赤外線放射体は、具体的には、充填材等として利用可能な粉体、或いは、コーティングの形態を含む所望の種々の形状の成形体として形成することができる。 【0018】 請求項2にかかる遠赤外線放射体は、セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、全体に対し自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物を、焼成し、複合化した後、粉体状に粉砕してなるものである。 【0019】 請求項3にかかる遠赤外線放射体は、セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、全体に対し自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる粉末と、陶磁器材料の粉末とを含む混合物を、所望の形状に形成すると共に、焼成し、複合化してなるものである。 【0020】 このように、セラミックスからなるこの遠赤外線放射体には、自然放射性元素であるトリウムまたはウランを含有する放射性鉱物が放射線源材料として配合され、複合化されている。そのため、トリウムまたはウランの放射性崩壊によって放出される放射線(α線、β線、γ線)のエネルギ、特に、α線が持つ約5MeVの大きなエネルギは、セラミックス遠赤外線放射材料に吸収され、その励起エネルギとなり、遠赤外線となって放射される。こうして、この遠赤外線放射体によれば、その温度にかかわらず、即ち、常温においても、遠赤外線をより多く放射することができる。なおこの場合、放射線源材料である放射性鉱物は、粉末としてセラミックス遠赤外線放射材料の粉末と共に混合し、そして焼成することにより複合化されているため、遠赤外線放射体中に均一に分散・分布されると共に、セラミックス遠赤外線材料の粒子との間が緻密化される。そのため、トリウムまたはウランの放出する放射線はセラミックス遠赤外線材料に効果的に吸収され、そして有効に遠赤外線の放射エネルギに変換されることができる。 【0021】 なお、この遠赤外線放射体は、次のように具体化することができる。 【0022】 即ち、請求項4にかかる遠赤外線放射体は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項において、そのセラミックス遠赤外線材料が、白色系セラミックス遠赤外線材料からなるものである。 【0023】 請求項5にかかる遠赤外線放射体は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項において、そのセラミックス遠赤外線材料が、有色系セラミックス遠赤外線材料からなるものである。 【0024】 【発明の実施の形態】 以下、この遠赤外線放射体について詳細に説明する。 【0025】 上記のように、この遠赤外線放射体は、セラミックス遠赤外線放射材料と放射性鉱物からなる放射線源材料とを主要な原材料として使用し、これらを粉末として混合し、焼成することにより複合化して形成される。これらのセラミックス遠赤外線放射材料と放射線源材料、及びその他の原材料について、また、その製造について、順に説明する。 【0026】 〈セラミックス遠赤外線放射材料〉 遠赤外線放射体の主材である遠赤外線を放射する遠赤外線放射材料としては、金属材料等も知られているが、化学的にも安定なセラミックス材料が使用される。また好ましくは、その中でも、遠赤外線の放射率が高いものを使用することができる。 【0027】 そのようなセラミックス遠赤外線放射材料については、既に種々のものがその放射率及び放射特性と共に知られている。例えば、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)、シリカ(SiO2)、ジルコン(ZrSiO4)、マグネシア(MgO)、イットリア(Y2O3)、コージライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)、βスポジューメン(Li2O・Al2O3・4SiO2)、ムライト(Al2O3・3SiO2)、チタン酸アルミニウム(Al2O3・TiO2)等である。これらは、一般に白色を呈し(紫外線は吸収するが、可視光を吸収しない)、近赤外域での放射率が低いが、波長3μm付近から遠赤外域にかけて放射率が高くなる特性を有している。そして、これらの白色系セラミックス遠赤外線放射材料は、それぞれ単独で、または2種以上を適宜組合せて使用することができる。 【0028】 また、そのような白色系の他に、セラミックス遠赤外線放射材料としては、有色であり(可視光を吸収する)、全赤外域で放射率が高いセラミックス遠赤外線放射材料を使用することができる。そのような有色系のセラミックス材料としては、例えば、酸化銅(Cu2O,CuO)、酸化コバルト(CoO、Co3O4)、酸化ニッケル(NiO)、酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化錫(SnO2)等の遷移金属の酸化物、或いは、炭化ケイ素(SiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化タンタル(TaC)等の炭化物、等が挙げられ、これらの多くは、窯業用顔料としても一般に用いられているものである。また、これらはそれぞれ単独で使用することができるが、好ましくは、2種以上を組合わせて使用することができる。例えば、MnO2-Fe2O3-CuO-CoO、或いはCoO-Fe2O3-Cr2O3-MnO2等の一体の焼成物は高効率赤外線放射体と呼ばれるものであり、黒色を呈し、「黒体」に近い赤外線の放射特性が得られる。 【0029】 これらの白色系と有色系のいずれのセラミックス遠赤外線放射材料を用いるかは、主に遠赤外線を受ける対象に応じて決めることができる。即ち、有色系、特に高効率赤外線放射体は全ての赤外線領域において放射率が高いが、常温下では、6〜10μmの遠赤外線領域における放射率(発散度)が白色系よりも少なくなる傾向がある。そのため、水または水を多く含むもの、或いは水中の有機化合物を対象とする場合は、一般に白色系のセラミックス遠赤外線放射材料が好ましい。また、芳香族化合物を含むオレフィン系炭化水素、即ち、ディーゼル燃料を対象とする場合は、有色系のセラミックス遠赤外線放射材料が好ましい。ただし、使用するセラミックス遠赤外線放射材料として理想的であるのは、その遠赤外線放射特性が対象の吸収特性と合致することである。この意味において、白色系と有色系のセラミックス遠赤外線放射材料は、それらを相互に適当に組合わせて使用することもできる。 【0030】 〈放射線源材料〉 放射線源材料としては、特に取扱等の安全性の点において、半減期の長い自然放射性元素(核種)であって鉱物中に安定な形で含有されていることから、トリウム(232Th 半減期:1.4×1010年)及び/またはウラン(主に238U 半減期:4.5×109年)を含有する放射性鉱物が使用される。 【0031】 そのような放射性鉱物としては、各種のトリウム鉱物やウラン鉱物が挙げられるが、特にウランを多く含有する鉱物は原子力燃料用として確保されている。そのため、入手が容易である点からも、放射性鉱物としては、希土類元素原料として工業的に使用されているモナザイト[(Ce,La,Th)PO4,ThO26%,U3O80.3%]、パイロクロワ[(Na,Ca)(Nb,Ta,Ti)2O6(O,OH,F),ThO20.5%,U3O81%]、或いはゼノタイム[YPO4etc,ThO21%,U3O81%]等が好ましい。これらの中でも、世界的に広く産出し、またトリウムを比較的多く含有する点で、モナザイトが特に好ましい。また、放射性鉱物としては、これらの鉱物の製錬工程で得られるトリウムまたはウランを含む中間鉱物も有利に使用することができる。 【0032】 そして、この放射性鉱物からなる放射線源材料は、遠赤外線放射体の原材料として任意の割合で使用することができる。ただし、その使用目的からすれば、一般にその混合割合は、酸化トリウム(ThO2)の含有量として換算して、実用上少なくとも0.3重量%以上の割合であることが好ましく、また、0.5重量%以上がより好ましい。なお、この換算において、半減期がそれの約1/3である酸化ウラン(U3O8)は3倍して計算される。つまり、{酸化トリウム含有%+3×酸化ウラン含有%}がその換算値である。そして、これらの放射性核種の配合割合を多くするほど、遠赤外線の放射量(放散度)を多くすることができる。しかし、核原料物質であるこれらの放射性核種を含有するものについては、その使用に関して規制があり、これらの濃度が370ベクレル/g(現行規則では、トリウム含有%+3×ウラン含有%で1.8%)以上である場合には届出が必要となる。そのため、遠赤外線放射体をこのような届出をしないでも使用できる点において、放射線源材料の配合割合は、酸化トリウムの含有量として換算して、2.0重量%未満であることが好ましく、より好ましくは1.8重量%以下である。即ち、限定されるものではないが、その配合割合は、酸化トリウムの含有量として換算して0.3〜2.0重量%が好ましく、また、0.3〜1.8重量%がより好ましい。 【0033】 〈その他〉 また、遠赤外線放射体が有形の成形体として形成される場合には、成形性または保形性等を確保するために、陶磁器材料を固結剤として配合することができる。具体的には、長石、カオリン、木節粘土、蛙目粘土、陶石、蝋石、或いは釉薬素地、等である。このような陶磁器材料は、一般に放射率自体は低いが、場合によっては遠赤外線放射材料の放射特性を補う特性も有している。そのため、この陶磁器材料はそれらの1種以上を比較的多量に用いることができ、例えば、遠赤外線放射体全体に対して、60重量%程度までの割合で配合することができる。 【0034】 更に、その他のセラミックス材料も、成形体としての遠赤外線放射体の増量のため、或いは装飾等のために、必要に応じて配合することができる。また、遠赤外線放射体の用途によっては、例えば、24時間風呂に適用する場合には、ミネラル鉱物等を適宜配合することもできる。 【0035】 〈遠赤外線放射体の製造〉 遠赤外線放射体は、基本的には、これらの原材料を粉末として混合し、次いで焼成することによって焼結し、複合化することによって製造される。これによって、放射線源材料は均一に分散、分布されると共に、遠赤外線放射材料との粒子間が緻密化される。そのため、特に、遠赤外線放射材料と放射線源材料はできるだけ細かな粒子の微粉末とすることが好ましく、一般に、10μm以下の平均粒子径とすることが好ましい。より好ましいのは、0.5〜1μm程度の平均粒子径である。そして、それらの粒度が細かい程、自然放射性元素の放射性崩壊によるエネルギ線をより効果的に遠赤外線放射材料に吸収させることができる。 【0036】 なお、これらの原材料の微粉末化と混合は、好適には、ボールミル等を使用して湿式混合粉砕することによって行うことができる。そしてこの場合には、得られた原材料粉末の湿式混合物を乾燥した後、焼成する。また、この原材料粉末の混合物の焼成は、その原材料の種類に応じて、それらの粒子が互いに焼結され或いは固熔される温度、一般には、700〜1500℃の温度に加熱することによって行うことができる。なお、この焼成は通常の酸化性雰囲気中で行うことができるが、原材料の種類によっては、例えば、酸化銅(Cu2O)等の有色系の遠赤外線放射材料が使用される場合等には、酸素を遮断した弱還元性雰囲気中で或いは窒素ガスの雰囲気中で行うことが必要である。 【0037】 そして、遠赤外線放射体は、具体的には、充填剤或いは添加剤等として使用される粉体の形態に、または、コーティングを含む各種の成形体の形態に形成することができる。 【0038】 粉体からなる遠赤外線放射体は、遠赤外線放射材料と放射線源材料とを含む原材料粉末の混合物を、焼成して複合化した後、再度粉体状に粉砕することによって得ることができる。そして、その粒度は汎用性のために、十分小さいことが好ましく、一般に平均粒子径で5〜100μm程度であることが好ましい。また、繊維の練込み用充填剤として使用される場合には、原材料の粉末よりは大径であることが必要であるが、より小さな1〜2μm程度の粒子径であることが好ましい。なお、この粉体状の遠赤外線放射体の場合にはその強度等の必要がないため、原材料としては、白色系または有色系の遠赤外線放射材料と放射線源材料のみを使用することができる。そして、放射性鉱物からなる放射線源材料は、全体に対し一般に5〜60重量%、好ましくは5〜30重量%の割合で配合することができる。 【0039】 また、有形の成形体としての遠赤外線放射体は、遠赤外線放射材料と放射線源材料とを含む原材料粉末の混合物を、湿式法または乾式法等によって所望の形状に形成すると共に、焼成し、複合化することによって得ることができる。そして、その形状は、小球状、棒状、板状、或いは中空体、容器形状等の具体的な用途に応じた各種の形状であることができ、また、溶射或いは琺瑯引き等の方法によって基体上に形成されるコーティングの形態であることもできる。なおこの場合、原材料には、成形性を向上し、また、得られる成形体の強度等を高めてその保形性等を確保するために、陶土等の磁器材料を配合することが好ましい。そして、この場合の原材料相互の割合は、具体的な用途等にもよるが、一般的には、セラミックス遠赤外線放射材料20〜70重量%、好ましくは30〜50重量%、放射線源材料5〜60重量%、好ましくは10〜30重量%、及び陶磁器材料10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%の割合である。 【0040】 なお、汎用性、取扱性等の点からも常温使用の遠赤外線放射体として最も代表的なものは、5〜10mm程度の径の小球(ボール)である。このような小球状の遠赤外線放射体は、原材料粉末の混合物を加圧成形する乾式法によって成形することもできるが、湿式法によって容易に成形し、また多量に製造することができる。即ち、セラミックス遠赤外線放射材料と、放射性鉱物からなる放射線源材料と、更に陶磁器材料との混合物に水を加えて湿式混合粉砕し、それらの原材料を十分微粉化し、混合すると共に、上水を取除く等によって適度の稠度の坏土を形成する。そして、この杯土を造粒機等により小球状に成形し、次いでそれを乾燥した後、焼成する。その後、必要に応じて更にバレル研磨等による表面仕上げを施し、こうして、小球状のセラミックス成形体からなる遠赤外線放射体を得ることができる。 【0041】 〈遠赤外線放射体の利用〉 このような遠赤外線放射体は、加熱下で使用することもできるが、非加熱下で、即ち、常温下において特に好適に使用することができる。そして、放射線源材料を含むこの遠赤外線放射体によれば、通常の遠赤外線放射体の場合よりも、より高い「非熱効果(常温効果)」を得ることができる。 【0042】 具体的には、粉体からなる遠赤外線放射体は、例えば、これをプラスチックの充填剤として使用して、鮮度保持、或いは抗菌、脱臭等の「非熱効果」を有する各種シート、シール、ラップ、或いは容器を形成することができる。また、繊維材料に直接練込み、または、適当な合成樹脂バインダを使用して塗料化し、それを繊維製品にコーティングすることによって、保温、血流・新陳代謝促進、毛根刺激、水虫治療等の「非熱効果」を有する各種衣料用品、シーツ等の寝具用品を得ることができる。特に、血行の促進、生体分泌物の臭気成分の分解等の効果から、老人用の下着、或いは寝具等として好適に適用することができる。 【0043】 また、小球状等の成形体からなる遠赤外線放射体は、既に良く知られているように、水の浄化、活性化、植物の生育促進、抗菌、脱臭、有機物肥料の分解促進、或いは炭化水素燃料の活性化(ディーゼル燃料の無煙化)等の種々の応用において使用することができる。より具体的には、例えば、小球状に形成した遠赤外線放射体の24時間風呂への適用が挙げられる。この場合、小球状の遠赤外線放射体は適当な保持器に収納してバイオフィルタ、濾過材等と共に使用することができ、そして、湯水を活性化すると共に湯垢を分解促進し、風呂水を常に清浄に保つことができる。なおここで、遠赤外線放射体に含まれる自然放射性元素の放射体のうち、遠赤外線放射材料に吸収されなかった一部は、水や水中に溶存する有機物を電離しまたはラジカル化するため、その「非熱効果」をより高める作用を有している。 【0044】 【実施例】 以下、本発明を実施例及び比較例によって更に具体的に説明する。 【0045】 〔実施例1〜3、比較例1〜3〕 図1は本発明の実施例1乃至実施例3と比較例1乃至比較例3の遠赤外線放射体の配合組成と、それらの非熱利用による藻の発生試験の結果とを示す表図である。また、図2はそれらの実施例及び比較例の遠赤外線放射体の遠赤外線放射率を示す特性図である。 【0046】 〈遠赤外線放射体の作製〉 図1に示す配合(重量%)により、本発明の実施例1乃至実施例3の遠赤外線放射体を作製した。また、比較のために、比較例1乃至比較例3の非焼成の遠赤外線放射体も合わせて作製した。 【0047】 図1のように、これらの実施例の遠赤外線放射体は、いずれも、セラミックス遠赤外線放射材料と放射線源材料とからなっている。そして、セラミックス遠赤外線放射材料は、主材としてのジルコン60重量%と、アルミナ、またはコージライト、或いはシリカ15重量%との混合物からなっている。そして、各実施例においては、ジルコンと組合せて用いるもう一種のセラミックス遠赤外線放射材料の種類が変えられている。即ち、実施例1ではセラミックス遠赤外線放射材料としてジルコンとアルミナを混合して用い、実施例2ではジルコンとコージライトを用い、実施例3ではジルコンとシリカを配合した。なお、ジルコン(ZrSiO4)を主材としたのは、これが10μm以下の遠赤外線領域において比較的高い放射率を有するためである。 【0048】 また、放射線源材料としては、各実施例において、モナザイト25重量%を配合した。具体的には、放射性鉱物であるこのモナザイト(精製物)は豪州産であり、レア・アース酸化物61.33%、五酸化リン26.28%等の他に、自然放射性元素である酸化トリウムを6.55%、酸化ウランを0.34%を含有している。 【0049】 これらの実施例の遠赤外線放射体の作製は具体的には次のように行った。即ち、磁器製ポットをボールミルとして用い、モナザイトを含む上記の配合の原材料に、略同量の水を添加し、湿式混合粉砕を24時間行った。次いで、これを取出して上水を切り、400℃の温度で乾燥させた後、200メッシュの篩を通した。そして、この原材料粉末の混合物を、電気炉で1200℃の温度に2時間保持して焼成し、複合化した後、これを再び試験用ミルで粉砕して実施例1乃至実施例3の粉体状の遠赤外線放射体を得た。 【0050】 また、これとは別に、上記の原材料粉末の混合物を直径50mm×厚さ2mmにプレス成形し、700℃の温度で焼結して、遠赤外線放射率の測定用の資料片を作製した。 【0051】 なお、これらの実施例との対比のために、各実施例の原材料粉末の混合物を焼成しないものを、それぞれ比較例1乃至比較例3の遠赤外線放射体として同様に準備した。 【0052】 〈評価試験〉 次いで、このように作製した実施例及び比較例の各遠赤外線放射体について、その遠赤外線放射特性を評価するために、それらの遠赤外線放射率を測定した。また、これらの遠赤外線放射体の「非熱効果(常温効果)」を評価するために、簡単な試験として、藻の発生試験を行った。 【0053】 (1)遠赤外線放射率の測定 実施例及び比較例の各遠赤外線放射体について、2基の単体炉を備えたFT-IR(JIR5300,日本電子製)を用いて、140℃の表面温度で遠赤外線放射率の測定を行った。 【0054】 この遠赤外線放射率の測定結果を図2に示す。なお、この図2においては、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、及び実施例3と比較例3がそれぞれ対比して示されている。 【0055】 (2)藻の発生試験 230mlのポリエチレン容器に、金魚を1ヵ月間飼育した上水を200mlずつ入れ、これに実施例及び比較例の各遠赤外線放射体15gをそれぞれ別々に加えた。そして、これを直射日光を避けた室内に置き、藻の発生状況を観察し、その発生開始日を記録した(4月)。 【0056】 この試験結果、つまり、藻が発生する間での期間を、図1に合せて示す。 【0057】 〈試験結果〉 図2のように、実施例1乃至実施例3の遠赤外線放射体は、いずれも高い遠赤外線の放射率を示し、また4〜20μmの遠赤外線帯域において同様な放射率曲線を呈している。ただ、詳細にみると、それらの遠赤外線放射率曲線にも僅かな差異が見られる。また、放射率の高さのみの点では、セラミックス遠赤外線原料材料としてジルコンの他にアルミナを配合した実施例1が最も高く、次いでコージライトを配合した実施例2、及びシリカを配合した実施例3の順に放射率が高い傾向が見られる。 【0058】 しかし、原材料粉末を焼成した実施例と非焼成の比較例とを対比すると、その差異は歴然としている。即ち、遠赤外線放射材料の組成にかかわらず、原材料粉末を焼成した実施例1乃至実施例3の遠赤外線放射体は、非焼成の単なる混合物からなる比較例の場合よりも、その放射率が、遠赤外線帯域全体に亘って5〜10%高い。この結果は表面粗さの相違も関係するとは思われるが、いずれにしてもこの放射率特性に関する試験結果から、原材料の混合物を焼成した方が、未焼成の場合よりも優れた遠赤外線の放射特性が得られることが分かる。 【0059】 なお、図2の放射率特性は遠赤外線放射体の表面温度が140℃でのものであり、常温(20℃)での放射率特性は、この図2の特性曲線を2.5μm程度だけ長波長側にずらしたものとなる(放射強度に関するウィーンの変位則)。 【0060】 また、図1のように、藻の発生試験の結果によれば、実施例1乃至実施例3の遠赤外線放射体の場合は、いずれも2週間で藻の発生が見られたのに対し、比較例2の場合はこれらよりも遅れて3週間後に、また、比較例1と比較例3の場合は更に遅れて4週間後に藻の発生が認められた。なお、この試験では、実施例1乃至実施例3の相互間には、実質的な差異が見られなかった。 【0061】 そして、これらの試験結果から、セラミックス遠赤外線放射材料と放射線源材料とは、これらの粉末を単に混合して使用するよりも、焼成し、複合化して使用する方が、より高い遠赤外線の放射率特性を得ることができ、また遠赤外線放射体の常温使用において、より高い「非熱効果(常温効果)」を得ることができることが分かる。 【0062】 〔実施例4〜6,比較例4〜7〕 図3は本発明の実施例4乃至実施例6及び比較例4乃至比較例7の小球状成形体からなる遠赤外線放射体の配合組成(重量%)と、それらの非熱利用による植物の生育促進試験の結果とを示す表図である。 【0063】 〈遠赤外線放射体(小球体)の作製〉 図3に示す配合組成(重量%)で、本発明の実施例4乃至実施例6の小球状成形体からなる遠赤外線放射体を作製した。また、これらとの比較のために比較例4乃至比較例7の同様の遠赤外線放射体も合わせて作製した。 【0064】 図3のように、これらの実施例の遠赤外線放射体は、いずれも白色系のセラミックス遠赤外線原料材料と、モナザイトからなる放射線源材料と、固結剤としての陶磁器材料(陶石)の混合物からなり、そして、各実施例においてセラミックス遠赤外線放射材料の種類が種々に変えられている。即ち、実施例4は、ジルコニア40重量%、モナザイト20重量%、及び陶石40重量%からなっている。また、そのジルコニアに代えて、実施例5ではジルコンが、実施例6ではアルミナがそれぞれ用いられている。 【0065】 これらの実施例の各遠赤外線放射体の作製は、具体的には次のように行った。即ち、各種のセラミックス遠赤外線放射材料と、モナザイトと、更に陶石とを、上記の配合で磁製ポットに入れ、これに略等量の水を加えて湿式混合粉砕し、それらの原材料の粒子が平均粒子径において約1μm程度になるまで粉砕し、また混合した。そして、これを濾過して得た坏土を棒状に形成すると共に10mm程度に切断し、その切断塊を回転造粒機によって小球状に造粒した。次いで、この造粒物を天日乾燥した後、約1200℃に加熱して焼成し、複合化した。その後、バレル研磨処理を適宜施して、径約8mmの小球状成形体からなる遠赤外線放射体を得た。 【0066】 また、これらの実施例に対して、放射線源材料であるモナザイトの配合を省き、その分だけ陶石の配合量を増加して、同様に比較例4乃至比較例6の遠赤外線放射体を作製した。即ち、比較例4乃至比較例6は、遠赤外線放射材料であるジルコニア、ジルコン、またはアルミナの40重量%と、陶石の60重量%とからそれぞれなっている。更に、遠赤外線放射材料の配合を省き、モナザイト20重量%と陶石80重量%とからなる同様の成形体を、比較例7として作製した。 【0067】 〈植物生育促進試験〉 そして、これらの実施例及び比較例の各遠赤外線放射体について、その「非熱効果(常温効果)」を評価するために、植物の生育促進試験、具体的には、サルビアの苗の生育促進試験とダイコンの発芽・生育促進試験とを行った。 【0068】 (1)サルビアの苗の生育試験 土330gを充填した植木鉢(直径15cm)を多数用意し、それぞれの植木鉢に、10cm程度の高さに生育した市販のサルビアの苗を1本ずつ植えると共に、その苗の周囲1〜2cmの位置に実施例及び比較例の遠赤外線放射体を50gずつ埋設した。そして、これらを日当たりの良好な屋外で4ヵ月間育成し(5月〜9月)、その生育状況を観察し、比較した。 【0069】 この観察結果を図3に合せて示す。なお、この生育状況の評価については、遠赤外線放射体を使用しないで育成したものを基準として、次のように比較評価した。 ○:極めて良好に生育している。 □:良好に生育している。 △:普通の生育状態である。 【0070】 (2)ダイコンの発芽・生育試験 230mlのポリエチレン容器を多数用意し、これに実施例及び比較例の各遠赤外線放射体をそれぞれ15g、及び水道水を100ml入れると共に、脱脂綿をコイル状に巻いたものを、その側面が水面と同一レベルになるように浸した。そして、その脱脂綿上にダイコン(一代交配)の種を10粒宛撒き、直射日光の当らない室内に置いて、蒸発する水は毎日追加するようにして1カ月間その発芽・成育状況を観察した(9月〜10月)。なお、その育成容器の外側には、外側に黒テープを巻いた別のポリエチレン容器を重ねて、その側面及び底から光が入らないようにした。 【0071】 このダイコンの発芽・生育試験の結果についても、図3に合せて示す。なお、生育状況の評価については、遠赤外線放射体を使用しないで水だけで発芽・生育させたものを基準として、次のように比較評価した。 ○:極めて良好に生育している。 △:普通の生育状態である。 【0072】 〈試験結果〉 図1に示すサルビアの生育、ダイコンの発芽・生育結果のように、セラミックス遠赤外線放射材料と放射線源材料であるモナザイトとを共に含む実施例4乃至実施例6の遠赤外線放射体の場合では、これらの一方を含まない比較例4乃至比較例7に比較して、一般により高い生育状態が観察された。ただし、この種の試験では条件を統一することが困難であり、そのため、その結果についてもバラツキが生じ易い。しかし、放射線源材料の配合によって「非熱効果(常温効果)」がより高められる傾向は、この試験結果において明瞭に示されている。 【0073】 そして、この遠赤外線放射体の常温使用による植物の生育促進作用については、それから放射される微弱な遠赤外線が水に作用して、そのイオン化とクラスタの分割とを促進し、植物の生育に対して活性的な水が生成されるためであると考えられる。また、植物の根毛との接触により、遠赤外線がその生体を形成する有機成分の分子運動を高め、生体反応を高めることも考えられる。 【0074】 なお、実施例4乃至実施例6及び比較例4乃至比較例7の組成の遠赤外線放射体については、別途、その遠赤外線放射率を前述の実施例と同様に測定した(140℃)。それによれば、遠赤外線放射材料としてジルコニアを用いた実施例4では、ほぼ理想的な放射率特性、即ち、特に10μm以上の波長域における放射率が十分に高く、かつ平坦である特性が得られたのに対し、ジルコンを用いた実施例5では、10〜14μmの波長域に僅かな放射率の落込みが見られ(ただし、14μm以上では上昇)、また、アルミナを用いた実施例6では、14μm以上で放射率が下降カーブを描くものであった。このようにこれらの放射率特性は、これには第3成分である陶石も関連するが、三者三様であった。また、モナザイトの配合を省いた比較例4乃至比較例6は、それぞれ実施例4乃至実施例6と同様の波形の放射率特性を示すものであったが、特に、6μm以下の波長域における放射率が低下するものであった。更に、遠赤外線放射材料を省いた比較例7は、全体的に放射率が低く、また10〜13μmの波長域での落込みが大きいものであった。 【0075】 〔実施例7〕 遠赤外線放射体は、水の浄化等にも利用されている。そこで、小球状成形体からなる実施例7の遠赤外線放射体を作製し、これを水道水及び24時間風呂の風呂水に対して使用して、そのときの水質変化を試験し、測定した。 【0076】 図4は本発明の実施例7の遠赤外線放射体を水道水に使用した場合の水質変化を示す表図である。また、図5は同じく本発明の実施例7の遠赤外線放射体を24時間風呂に使用した場合の水質変化を示す表図である。 【0077】 〈遠赤外線放射体(小球状成形体)の作製〉 前述の実施例4〜6と同様にして、径8mmの小球状成形体からなる遠赤外線放射体を、実施例7として作製した。ただし、その配合組成は、遠赤外線放射材料としてのジルコン35重量%、放射線源材料としてのモナザイト15重量%、及び固結剤としての陶磁器材料である陶石50重量%からなっている。 【0078】 〈水道水試験〉 この遠赤外線放射体を水道水に浸漬し、4時間後、及び24時間後のその水質変化を試験した。試験項目は、pH、塩素イオンCl-濃度(mg/l)、カルシウムイオンCa2+濃度(mg/l)、COD(mg/l)、及び電気伝導度である。また、試験は、遠赤外線放射体(遠赤体)を500mlの水道水に対して250g加えた場合と、500mlの水道水に対して500g加えた場合とについて、加えない場合と共に行った。 【0079】 この試験結果を図4に示す。なお、電気伝導度については、そのときの測定温度が下段に示されている。 【0080】 〈水道水試験結果〉 図4のように、水道水だけの場合では、pHを除いて他の経時変化は僅少であるのに対し、遠赤外線放射体を入れた水道水では、pHのより高い上昇、塩素イオンCl-の増加、カルシウムイオンCa2+の減少、及びCODの増加の各傾向が見られる。即ち、この試験では多量の遠赤外線放射体を用いたが、それの常温使用による「非熱効果(常温効果)」を確認することができる。 【0081】 ここで、pHの上昇は、水のイオン化の促進によって生じるH3O+、eaq-(水和イオン)、OH-、或いは・OH、・H等のラジカル等の時間の経過と共に起こる相互反応によるものと考えられる。また、塩素イオンの増加は、水分子の振動運動の増加及びクラスタの分割によりはじき出された塩素が、・OH等と反応するためと考えられる。更に、カルシウムイオンCa2+の減少は、クラスタの分割で活性化した有機化合物と塩を形成するためであると考えられ、また、CODの増加は、過マンガン酸カリに対して抵抗性を有していた有機化合物が遠赤外線を吸収して活性化し、過マンガン酸カリと反応し易くなった結果であると考えられる。なお、電気伝導度については、測定温度が一定でないため、その評価が困難であるが、これがほぼ変わらないことは、外からのイオンの増減がないことを示している。 【0082】 〈24時間風呂試験〉 24時間風呂は、最近一般家庭にも普及し始めたもので、風呂の水(湯)をポンプで循環すると共に、吸水口に濾過フィルタを設け、また途中にバイオフィルタや機種によっては紫外線殺菌燈等を設けて、風呂水の浄化と殺菌を図り、それの一部の取出しとその分の補給はあっても、1週間乃至1カ月湯を替えることなく保温し、随時入浴を可能としたものである。この24時間風呂に対して、上記の実施例7の遠赤外線放射体を濾過助剤として使用し、それによる風呂水の浄化試験を行った。 【0083】 具体的には、24時間風呂装置の湯の通路に実施例7の遠赤外線放射体(小球状成形体)を約1kg詰め、常に湯に接触させる条件で最大3週間使用した。そして、所定期日後にその風呂水の一部を採取して、その水質検査を行った。検査項目は、pH、COD(mg/l)、濁度、カルシウムイオン濃度(mg/l)、マグネシウムイオン濃度(mg/l)、塩素イオン濃度(mg/l)、鉄イオン濃度(mg/l)、大腸菌群数、電気伝導度、及び全窒素量(mg/l)である。 【0084】 なお、この試験は、水道水源が異り、また24時間風呂装置の機種も相互に異なる二ケ所で行った。そして、一方の24時間風呂装置のA機種は紫外線殺菌燈を備えたものであり、また、B機種はそれを欠く代りにバイオフィルタを多く使用したものである。 【0085】 その試験結果を図5に示す。 【0086】 〈24時間風呂試験結果〉 この24時間風呂試験では、対象試験が行えないため、使用した遠赤外線放射体の「非熱効果(常温効果)」は明確ではない。しかし、図5の試験結果のように、2週間以上の風呂水の連続使用によっても、その水質は十分に清浄に保たれている。例えば、水道水の水質基準によればCODは10mg/l以下、濁度は2.0度以下であり、その風呂水はこの水道水の基準をさえ下回るものである。このことは、本遠赤外線放射体が24時間風呂の風呂水の浄化に好適に利用できることを示している。なお、この遠赤外線放射体には自然放射性鉱物であるモナザイトが含有されていることから、ラジウム温泉のような温泉効果もある程度期待することができる。ただし、それについては現時点ではまだ確認されていない。 【0087】 〔実施例8〕 図6は本発明の実施例8の遠赤外線放射体の遠赤外線放射率を示す特性図である。 【0088】 遠赤外線放射体の常温使用の具体的用途としては、ディーゼル燃料(軽油)の無煙化が知られている。そこで、そのような用途に適した遠赤外線放射体を実施例8として作製し、併せて実車による燃焼試験を行った。 【0089】 〈遠赤外線放射体(黒色小球状成形体)の作製〉 ディーゼル車で使用するディーゼル燃料、即ち、軽油は、脂肪族炭化水素及びオレフィン系炭化水素の他に、着火点も高く、完全燃焼され難いために黒煙の発生原因となるベンゼン等の芳香族炭化水素を20%程度或いはそれ以上含んでいる。そして、この芳香族炭化水素は、その吸収スペクトルのピークが12〜15μmの帯域に集中している。 【0090】 そこで、セラミックス遠赤外線放射材料として、10μm以上の波長域の放射率特性が特に優れた有色系の遠赤外線放射材料を用い、また、それらを組合せて黒色の遠赤外線放射材料を作製した。即ち、酸化鉄(Fe2O3)20%、酸化クロム(Cr2O3)32%、酸化マンガン(MnO2)6%、酸化コバルト(CoO)42%の混合粉末を、1200℃で焼成して黒色体を形成し、これを湿式粉砕して、黒色顔料様のセラミックス遠赤外線放射材料を作製した。 【0091】 そして、本実施例の遠赤外線放射体は、実施例4乃至実施例7の場合と同様に、次のように作製した。即ち、遠赤外線放射材料としての上記の黒色顔料40重量部と、放射線源材料としてのモナザイト20重量部と、固結剤としての陶磁器材料である陶石40重量部とを(合計100重量部)磁器ポットに入れ、これにほぼ等量の水を加えて、24時間湿式混合粉砕した。そして、これを濾過して得た坏土を小球状に成形し、乾燥後、1200℃で焼成し複合化して、直径10mmの小球状成形体を作製した。 【0092】 〈遠赤外線放射特性〉 なお、上記の配合組成からなる遠赤外線放射体の放射率(表面温度140℃)は、図6に示される。 【0093】 図6のように、遠赤外線放射材料である上記の黒色顔料自体は「黒体」に近い放射率特性を有するが、モナザイトと陶石とが配合されていることによって、本遠赤外線放射体の放射率はそれよりも低下したものとなっている。しかし、その放射率は12〜14μmの波長域において最大値を示しており、そして、常温での波形は2μm程度長波長側にずれることからすると、その放射特性は、芳香族炭化水素の吸収特性に対して好ましいものとなっている。 【0094】 〈ディーゼル燃料の燃焼試験とその結果〉 そして、本実施例の遠赤外線放射体の使用によるディーゼル燃料の燃焼試験を、実車試験として行った。具体的には、ディーゼル車である4tトラックを使用し、軽油を満たしたそれの燃料タンク(300l)内中央に、その遠赤外線放射体の900gを適当な網体に収容して、蓋の裏側に吊下げて投入した。そして、24時間そのまま放置した後、エンジンを始動し、ディーゼル自動車検車時の黒煙汚染度検査に準じた方法で、排ガスの黒煙濃度を測定した。 【0095】 その結果、この遠赤外線放射体の使用前は約31%であった黒煙濃度が、使用後は約15%程度にまで減少した(減少率52%)。そのため、この遠赤外線放射体は、ディーゼル燃料の無煙化にも非常に有効であることが確認された。そして、この黒煙防止効果は、燃料との接触面積を広げる等の工夫により更に向上すると考えられるが、そのまま燃費の向上効果となるものである。なお、本実施例の遠赤外線放射体との対比のために、モナザイトの配合を省き、50重量%の黒色顔料と50重量%の陶石からなる同様の遠赤外線放射体と、また、黒色顔料の配合を省き、20重量%のモナザイトと80重量%の陶石とからなる同様の小球状成形体をそれぞれ作製し、それらを用いて上記と同じ条件でディーゼル燃料の燃焼試験を行った。その結果、黒煙濃度の減少率は、それぞれ、34%、及び44%であり、本実施例の遠赤外線放射体と顕著な差が見られた。 【0096】 このディーゼル燃料の無煙化作用については、遠赤外線放射体から放射される遠赤外線が炭化水素、特に、芳香族炭化水素に吸収され、その分子の原子間の振動運動が選択的に増加されることによって、それの燃焼反応性が高められるためであると考えられる。またこの場合、遠赤外線または放射線源材料からの放射線の電離作用によって、反応性が高い炭化水素または水素のラジカルが生成されることも考えられる。しかし、実際には、これらの振動運動の増加とラジカル化とが相乗的に作用し、それによって、特に芳香族炭化水素の反応性が高められるものと思われる。 【0097】 【発明の効果】 以上のように、請求項1にかかる遠赤外線放射体は、全体に対しセラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物を、焼成し、複合化してなるものである。 【0098】 したがって、この遠赤外線放射体においては、放射性鉱物からなる放射線源材料が含まれているので、自然放射性元素の放射性崩壊によってそれから放出される放射線のエネルギは、セラミックス遠赤外線放射材料に吸収されてそれの励起エネルギとなり、遠赤外線となって放射される。また、遠赤外線放射材料と放射線源材料とは粉末化して混合され、そして焼成により複合化されているので、それらの粒子は相互に均一に分散されると共に粒子間が緻密化されるため、その放射線のエネルギは有効に遠赤外線の放射エネルギに変換される。そのため、セラミックス遠赤外線放射材料は、常温下(非熱下)においても、遠赤外線をより多く放射することができる。即ち、この遠赤外線放射体によれば、常温での使用においても、より多くのエネルギ量の遠赤外線を放散することができ、またそれによって、水の浄化或いは活性化等のより高い「非熱効果(常温効果)」を得ることができる効果がある。更に、この遠赤外線放射体によれば、放射性鉱物からなる放射線源材料が、酸化トリウムを比較的多く含むモナザイトからなるので、遠赤外線の放射エネルギが多い遠赤外線放射体を容易に製造することができる効果がある。 【0099】 また、請求項2にかかる遠赤外線放射体は、セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、全体に対し自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物を、焼成し、複合化した後、粉体状に粉砕してなるものである。 【0100】 したがって、この遠赤外線放射体によれば、請求項1の効果が得られると共に、特に、粉体として形成されているため、プラスチック材料の充填剤、繊維材料の練込み用添加剤等として使用することができ、また、適当な有機バインダを加えて衣料等のコーティング剤として使用することもできる。 【0101】 更に、請求項3にかかる遠赤外線放射体は、セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、全体に対し自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる粉末と、陶磁器材料の粉末とを含む混合物を、所望の形状に形成すると共に、焼成し、複合化してなるものである。 【0102】 したがって、この遠赤外線放射体によれば、陶磁器材料が加えられているので、請求項1の効果に加えて、強度等の高い成形体からなる遠赤外線放射体を得ることができる効果がある。そして、この遠赤外線放射体は、例えば、小球状等の適宜の形状に形成することができ、また、水の浄化或いは活性化等の種々の具体的応用において使用することができる。 【0103】 加えて、請求項4にかかる遠赤外線放射体は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項において、そのセラミックス遠赤外線材料が、白色系セラミックス遠赤外線材料からなるものである。 【0104】 したがって、この遠赤外線放射体によれば、セラミックス遠赤外線材料が、10μm以下の波長域における放射率が比較的高い白色系セラミックス遠赤外線材料からなるため、水または水を多く含むもの、或いは水中の有機化合物を対象とする具体的用途に特に好適に使用することができる。 【0105】 請求項5にかかる遠赤外線放射体は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項において、そのセラミックス遠赤外線材料が、有色系セラミックス遠赤外線材料からなるものである。 【0106】 したがって、この遠赤外線放射体によれば、セラミックス遠赤外線材料が、10μm以上の波長域における放射率が比較的高い有色系セラミックス遠赤外線材料からなるため、炭化水素系燃料等の有機化合物を対象とする具体的用途において、特に好適に使用することができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 図1は本発明の実施例1乃至実施例3と比較例1乃至比較例3の遠赤外線放射体の配合組成と、それらの非熱利用による藻の発生試験の結果とを示す表図である。 【図2】 図2は本発明の実施例1乃至実施例3及び比較例1乃至比較例3の遠赤外線放射体の遠赤外線放射率を示す特性図である。 【図3】 図3は本発明の実施例4乃至実施例6及び比較例4乃至比較例7の遠赤外線放射体の配合組成(重量%)と、それらの非熱利用による植物の生育促進試験の結果とを示す表図である。 【図4】 図4は本発明の実施例7の遠赤外線放射体を水道水に使用した場合の水質変化を示す表図である。 【図5】 図5は本発明の実施例7の遠赤外線放射体を24時間風呂に使用した場合の水質変化を示す表図である。 【図6】 図6は本発明の実施例8の遠赤外線放射体の遠赤外線放射率を示す特性図である。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審決日 | 2004-09-14 |
出願番号 | 特願平8-22180 |
審決分類 |
P
1
41・
121-
Y
(C04B)
P 1 41・ 853- Y (C04B) P 1 41・ 856- Y (C04B) P 1 41・ 841- Y (C04B) P 1 41・ 855- Y (C04B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 米田 健志 |
特許庁審判長 |
石井 良夫 |
特許庁審判官 |
岡田 和加子 金 公彦 |
登録日 | 2000-07-07 |
登録番号 | 特許第3085182号(P3085182) |
発明の名称 | 遠赤外線放射体 |
代理人 | 樋口 武尚 |
代理人 | 樋口 武尚 |