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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1106980
審判番号 審判1999-5152  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-04-02 
確定日 2004-11-09 
事件の表示 平成 8年特許願第112861号「炭化水素燃料の評価方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年11月28日出願公開、特開平 9-305567〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年5月7日の出願であって、平成10年4月15日付の拒絶の理由の通知に対して、その指定した期間内である、平成10年10月27日付で意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成11年2月19日付で拒絶の査定を受けたものであり、この査定を不服として、平成11年4月2日付で審判の請求がなされ、特許法第17条の2第1項第3号の規定する期間内である平成11年5月6日付で手続補正のなされたものである。

2.平成11年5月6日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成11年5月6日付の手続補正を却下する

[理由]
(1)本件手続補正
平成11年5月6日付の手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、平成10年10月27日付け手続補正により補正された特許請求の範囲についてする補正を含むものであり、その補正前後の特許請求の範囲の記載を対比すると、補正前の請求項1である
「 ガソリン、ディーゼル燃料、ケロシン、ナフサ、ジェットエンジンのうちの一つの種類に属する炭化水素燃料を評価して、レイド蒸気圧、疑似蒸留値、リサーチオクタン価、モーターオクタン価、酸素成分、比重オクタン価、臭素価、アニリン点、スモーク点、及びこれらの任意の組み合わせ、のいずれかから選択される所望のパラメータを測定するための、炭化水素燃料の評価方法であって、
(1)ニューラルネットワークを構成するコンピュータを用意するステップと、
(2)前記選択された種類に属する炭化水素燃料を評価して前記所望のパラメータを測定することが可能となるように、前記炭化水素燃料ニューラルネットワークの学習を行うステップであって、
(a)評価される炭化水素燃料種に属する複数の炭化水素燃料を選択するステップと、
(b)前記複数の炭化水素燃料のそれぞれのNIRスペクトルを得るステップと、
(c)ベースライン補正及びその後のベースライン補正されたスペクトルを、評価されるパラメータに対応する所望数のポイントに減縮することで、前記各得られたNIRスペクトルのそれぞれをコード化するステップと、
(d)前記所望数のポイントから第一の行列を生成するとともに、この第一の行列は順次前記ニューラルネットワークに入力されるものであるステップと、
(e)前記複数の炭化水素燃料の分析的評価によるパラメータ値からなる第二の行列を得るステップと、
(f)前記第一の行列と前記第二の行列とを、前記第一の行列と前記第二の行列との間の関数的相関が得られるように前記ニューラルネットワークによって処理して重み付け行列を得るようにするステップと、
(g)最適重み付け行列が得られるように、前記ステップ(b)〜(f)を繰り返すステップと、
(3)前記炭化水素燃料種から選択される炭化水素燃料のNIRスペクトルを、ニューラルネットワークで得られた前記最適重み付けされた行列と比較して、この選択された炭化水素燃料に対する所望のパラメータの予測値を得ることを特徴とするステップと、を有することを特徴とする方法。 」の各ステップのうち、
(2)(c)のステップを、
「ベースライン補正した後にこのベースライン補正されたNIRスペクトルを、評価されるパラメータに対応する所望数のポイントに減縮することで、前記得られたNIRスペクトルのそれぞれをコード化するステップ」とし、
(2)(d)のステップを、
「前記所望数のポイントから第一の行列を生成するステップであって、この第一の行列は順次前記ニューラルネットワークに入力されるものであるステップ」とする補正(以下、「本件補正」という。)を含むものである。

(2)本件補正の目的
本件補正が、特許法第17条の2第4項に掲げる事項を目的とするものであるかを検討する。
まず、本件補正は、同法第17条の2第4項第1号の請求項の削除、あるいは同第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当しないことは明らかであり、 また、同第4号の明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものに該当しないことも、原審における審査経過からみて明らかである。
そこで、本件補正が、同第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに該当するか否か検討する。
本件補正によって変更された箇所である、「ベースライン補正した後にこのベースライン補正されたNIRスペクトル」、「前記得られたNIRスペクトル」及び「前記所望数のポイントから第一の行列を生成するステップであって」のそれぞれを、本件補正前の「ベースライン補正及びその後のベースライン補正されたスペクトル」、「前記各得られたNIRスペクトル」及び「前記所望数のポイントから第一の行列を生成するとともに」と対比すると、これらはいずれも補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するための事項を限定するものでなく、全体として特許請求の範囲請求項1を減縮するものとは認められない。
したがって、本件補正は特許請求の範囲を減縮することを目的とするものとは認められない。

なお、請求人は、平成11年4月2日付け審判請求書4頁「(3-2)手続補正について」において、
「 平成11年5月6日付けで提出した手続補正書による請求項1の補正は、不明瞭な記載を明確化を目的としたもので、新規事項を何等追加するものでないと思料する。 」
と主張しているが、上記のとおり請求人の主張する「不明瞭な記載を明確化」は、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものではないから、特許法第17条の2第4項第4号に掲げる事項を目的とするものではない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、本件手続補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合しないので、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成11年5月6日付の手続補正は上記のとおり決定をもって却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成10年10月27日付け手続補正書により補正をされた明細書及び図面の記載から見て、
「ガソリン、ディーゼル燃料、ケロシン、ナフサ、ジェット燃料のうちの一つの種類に属する炭化水素燃料を評価して、レイド蒸気圧、疑似蒸留値、リサーチオクタン価、モーターオクタン価、酸素成分、比重オクタン価、臭素価、アニリン点、スモーク点、及びこれらの任意の組み合わせ、のいずれかから選択される所望のパラメータを測定するための、炭化水素燃料の評価方法であって、
(1)ニューラルネットワークを構成するコンピュータを用意するステップと、
(2)前記選択された種類に属する炭化水素燃料を評価して前記所望のパラメータを測定することが可能となるように、前記炭化水素燃料ニューラルネットワークの学習を行うステップであって、
(a)評価される炭化水素燃料種に属する複数の炭化水素燃料を選択するステップと、
(b)前記複数の炭化水素燃料のそれぞれのNIRスペクトルを得るステップと、
(c)ベースライン補正及びその後のベースライン補正されたスペクトルを、評価されるパラメータに対応する所望数のポイントに減縮することで、前記各得られたNIRスペクトルのそれぞれをコード化するステップと、
(d)前記所望数のポイントから第一の行列を生成するとともに、この第一の行列は順次前記ニューラルネットワークに入力されるものであるステップと、
(e)前記複数の炭化水素燃料の分析的評価によるパラメータ値からなる第二の行列を得るステップと、
(f)前記第一の行列と前記第二の行列とを、前記第一の行列と前記第二の行列との間の関数的相関が得られるように前記ニューラルネットワークによって処理して重み付け行列を得るようにするステップと、
(g)最適重み付け行列が得られるように、前記ステップ(b)〜(f)を繰り返すステップと、
(3)前記炭化水素燃料種から選択される炭化水素燃料のNIRスペクトルを、ニューラルネットワークで得られた前記最適重み付けされた行列と比較して、この選択された炭化水素燃料に対する所望のパラメータの予測値を得ることを特徴とするステップと、を有することを特徴とする方法。 」により特定されるものと認める。
なお、平成10年10月27日付け手続補正書により補正をされた明細書の請求項1には、上記「ジェット燃料」は上記2.(1)において摘記したとおり、「ジェットエンジン」と記載されているが、これは「ジェット燃料」の誤記と認められるので、本願発明を上記のとおり認定した。

(2)引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特表平8-501878号公報(平成8年2月27日国内公表。以下、「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(イ)本発明は、・・・燃料品質についてのフィードフォワード情報を供給するために使用するインライン燃料品質モニタに関するものである。そのような装置は、・・・自動車の小型軽量の計器として応用されるので有利である。得られた情報は、燃料のオクタン価、セタン価、蒸気圧密度などの、炭化水素製品の物理的特性データ、および複合燃料車に使用するための、ガソリン/アルコール比である。当業者には周知のように、有機化合物は赤外線スペクトル領域(約1μm〜約300μm)において独特のスペクトル特徴を有する。
物質の物理的特性と化学的特性の間の相関、およびそれらの物質の近赤外線(NIR)スペクトルを得るためのポテンシャルが既に開示されている(たとえば、ヨーロッパ特許EP-A-0,304,232号およびEP-A-2,085,251号参照)。
トレーニングセットとして知られている、大量のデータセットにおけるスペクトルの傾向を見つけることによって実験モデルを製作できる。
(近)赤外線分光学は迅速かつ信頼でき、オンライン実時間測定を行うために応用できる可能性がある。(公報第4頁第3行〜第19行)
(ロ)本発明は、所定のスペクトル範囲内の(近)赤外線放射を供給する手段と、(近)赤外線スペクトル領域内の選択した波長の光を透過させる手段と、この透過手段からの光を炭化水素製品ラインへ供給する手段と、炭化水素製品ライン中にある光路長を設けられるようにする手段と、前記光路を通った光を検出する手段と、得た信号をスペクトル分析して、スペクトルデータを、オクタン価、セタン価、密度、蒸気圧などまたはガソリン/アルコール比などの炭化水素製品の物理的特性データに相関させるための処理器に入力させる手段と、を備え、オクタン価、セタン価、密度、蒸気圧などまたはガソリン/アルコール比などの炭化水素製品の物理的特性データをオンライン測定する装置を提供するものである。
先に示したように、本発明の原理は、ニューラルネットワークに有利に結合される、(近)赤外線分析技術を基にしている。一般に、ニューラルネットワークを、学習期間中に入力変数と出力変数の間の相関を求めるシステムと定義できる。この学習期間中に十分な例が提供された後で、ニューラルネットワークは任意の入力に対して関連する出力を発生できる。ニューラルネットワークは、たとえば、パターン認識問題、に応用されている。
当業者であればわかるであろうように、ニューラルネットワークは処理素子(脳のニューロンに類似する)の層で構成され、各素子は重み付けられて、別の層の素子に接続される(脳のシナプスに類似する)。ネットワークは、正確に厳選されたデータで教育されている間に、素子の間の重みを調整してパターンを学習する。(公報第5頁第13行〜第6頁第6行)
(ハ)ガソリンのオクタン価の予測に関して本発明をとくに説明するが、本発明はそれに限定されないこと、かつ蒸気圧、密度、セタン価などの予測にも使用できることが当業者には分かるであろう。
トレーニングセットのガソリンに対応するスペクトルのセットについてのデータ解析を下記のようにして行う。
1.セットの平均スペクトルを発生して個々の各スペクトルと平均スペクトルとの間の差を計算する。
2.平均スペクトルは5000程度のデータ点であるから、100種類の燃料のセットを分析する問題は非常に困難である。データを取り扱いできる問題の変数の数まで減少できるようにする技術が求められる。
3.ニューラルネットワーク技術の場合には、測定波長の数を物理的に減少することによってデータを減少する。・・・(近)赤外線スペクトルの第2オーバートーン(調波)領域を選択すると有利である。・・・いくつかの個別波長を吸収データに変換する。そのデータをニューラルネットワークへの入力として使用する。・・・波長の一つを測定のドリフトを修正するための透過基準として用いると有利である。基準によって修正する残りの波長を吸収データに変換する。(公報第6頁第13行〜第7頁第17行)
(ニ)入力と既知出力、すなわち、ガソリンおよびそれのオクタン価についての赤外線データ、を繰り返し提供することによって、データ組全体についてニューラルネットワークを教育して、2つの間の関係を学習し、標準エンジン法によって測定する実際のオクタン価データに対するそれの性能を監視する。
その関係をニューラルネットワークが「学習する」と、データセットは更にトレーニングセットと、「学習」段階では使用しない確認セットとに分割される。
本発明の測定器はガソリンのオクタン定格の影響を及ぼすことが知られているC-H結合震動構造から情報を発生するために選択した、5つの個別波長における(近)赤外線吸光度を集めるのに有利である。測定した吸光度を、基線を与えるために選択して、炭化水素情報を含まない波長の1つに正規化する。これによって周囲条件(温度、(近)赤外線源、電子的ドリフト等)が変化しても差支えがなくなり、残りの4つの測定がニューラルネットワークに加えられる。(公報第7頁第22行〜第8頁第6行)
(ホ)第2図に示すように、使用するニューラルネットワークは3層構造にすると有利である。この構造は、例えば4つの入力ノードと、入力Aと出力Bの間の層に隠されている2つのノードと、1つの出力ノードを含む。・・・スペクトルデータは入力Aとして入力ノードに供給され、製品品質情報が出力Bである。・・・多数の出力の場合には、ニューラルネットワーク・アルゴリズムが各出力に対して実現される。実現はマイクロプロセッサ・チップにおいてソフトウエア・コードによって行われ、したがって、・・・ネットワーク・パラメータのどのような変化に対しても融通性がある。・・・本発明によれば、入力層のノードの数は3〜10の範囲で、隠されている層のノードの数は1〜10の範囲、出力層のノードの数は1〜3の範囲にすると有利である。(公報第8頁第24行〜第9頁第23行)
(ヘ)5個の発光ダイオード(LED)が、たとえば、1〜2.0ミクロンのスペクトル範囲の近赤外線を発生する。LEDからの光は平行にされて干渉フィルタ(各LEDに1つ)を通らされる。そのフィルタは近赤外線スペクトル領域(たとえば、1〜1.5ミクロン)中の選択した波長の光を透過させる。ガソリンの場合には、5つの波長を1106nm、1150nm、1170nm、1190nm、1219nmにし、正規化波長を1106nmにすると有利である。正規化波長をそのような値にする理由は、その波長ではガソリンの吸光度が最低で、良い基線測定値が得られるためである。ガソリン/アルコールでは別の波長を必要とし、1766nmと1730nmが有利である。それらは他の波長に加えて求められることがある。(公報第9頁第26行〜第10頁第8行)

上記摘記事項によれば、引用例には、炭化水素燃料の品質を監視する方法が記載されていると認められる。
そして、その方法を実施するために、摘記事項(ホ)によれば、ニューラルネットワークを構成するマイクロプロセッサ・チップを用いるのであるから、その学習の前に当該マイクロプロセッサ・チップを用意するのは当然であり、上記摘記事項(ヘ)によれば、引用例には、ニューラルネットワークを用いた炭化水素製品のスペクトル分析を行うために、求める物理的特性(例えば、オクタン価)に応じた波長を測定する必要があり、求める物理的特性(例えば、ガソリン/アルコール比)が増えた場合には、別の波長を加えて測定する必要がある旨記載されていること、及び、出力層のノードの数を複数にしたニューラルネットワークを適用できる旨について摘記事項(ホ)のとおり記載されていることからみて、引用例のニューラルネットワークを構成するマイクロプロセッサ・チップは、オクタン価、セタン価、密度、蒸気圧などまたはガソリン/アルコール比、及びこれらの任意の組み合わせ、のいずれかから選択される所望の物理的特性データを測定することに用いられるものと認められる。
また、ニューラルネットワークの学習では、学習を繰り返して行うために、品質を監視される炭化水素燃料種、例えば、ガソリンを選択した後、特性(品質)の異なる複数のガソリンを選択すること、これ等複数のガソリンの既知の物理的特性データをデータ列として得るステップが実質的に存在していることも明らかである。
さらに、上記摘記事項(ハ)の「波長の一つを測定のドリフトを修正するための透過基準として用いると有利である。基準によって修正する残りの波長を吸収データに変換する。」という記載、摘記事項(ニ)の「測定した吸光度を、基線を与えるために選択して、炭化水素情報を含まない波長の1つに正規化する。これによって周囲条件(温度、(近)赤外線源、電子的ドリフト等)が変化しても差支えがなくなり、残りの4つの測定がニューラルネットワークに加えられる。」という記載、及び摘記事項(ヘ)の「ガソリンの場合には、5つの波長を1106nm、1150nm、1170nm、1190nm、1219nmにし、正規化波長を1106nmにすると有利である。正規化波長をそのような値にする理由は、その波長ではガソリンの吸光度が最低で、良い基線測定値が得られるためである。」という記載からみて、引用例には、得られた特定波長の吸光度をベースライン補正していると認められ、また、ベースライン補正された吸光度は適宜にコード化されて、データ列としてニューラルネットワークに入力されていることも、明らかである。

したがって、引用例には、
「ガソリンなどのうちの一つの種類に属する炭化水素燃料の品質を監視して、オクタン価、セタン価、密度、蒸気圧などまたはガソリン/アルコール比、及びこれらの任意の組み合わせ、のいずれかから選択される所望の物理的特性データを測定するための、炭化水素燃料の品質を監視する方法であって、
(1)ニューラルネットワークを構成するマイクロプロセッサ・チップを用意するステップと、
(2)前記選択された種類に属する炭化水素燃料の品質を監視して前記所望の物理的特性データを測定することが可能となるように、前記炭化水素燃料ニューラルネットワークの学習を行うステップであって、
(a)品質を監視される炭化水素燃料種に属する複数の炭化水素燃料を選択するステップと、
(b)近赤外線領域の複数の特定波長の近赤外線を炭化水素燃料に照射することにより、前記複数の炭化水素燃料のそれぞれについて前記複数の特定波長の吸光度を得るステップと、
(c)前記得られた吸光度をベースライン補正し、その後のベースライン補正された吸光度をコード化するステップと、
(d)前記コード化された複数の特定波長の吸光度から第一のデータ列を生成するとともに、この第一のデータ列は順次前記ニューラルネットワークに入力されるものであるステップと、
(e)前記複数の炭化水素燃料について既知の物理的特性データからなる第二のデータ列を得るステップと、
(f)前記第一のデータ列と前記第二のデータ列とを、前記第一のデータ列と第二のデータ列との間の相関が得られるように前記ニューラルネットワークによって処理して素子間の重みを調整するステップと、
(g)最適な素子間の重み調整が得られるように、前記ステップ(b)〜(f)を繰り返すステップと、
(3)前記炭化水素燃料種から選択される炭化水素燃料の複数の特定波長の吸光度を、ニューラルネットワークで最適重み調整された素子により処理して、この選択された炭化水素燃料に対する所望の物理的特性データの予測値を得ることを特徴とするステップと、を有することを特徴とする方法。 」(以下、「引用例に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比
本願発明と、引用例に記載された発明を対比すると、引用例に記載された発明の「炭化水素燃料の品質を監視する方法」、「物理的特性データ」、「マイクロプロセッサ・チップ」、「第一のデータ列」及び「第二のデータ列」は、それぞれ本願発明の「炭化水素燃料の評価方法」、「パラメータ値」、「コンピュータ」、「第一の行列」及び「第二の行列」に相当する。
また、本願発明の「重み付け行列を得る」とは、ニューラルネットワークの重みを調整する処理の一実施例であり、本願発明のニューラルネットワークの「重み付け行列を得る」ことと引用例に記載された発明のニューラルネットワークの「素子間の重みを調整する」こととは、実質的に同一であると認められ、本願発明のステップ(3)の「ニューラルネットワークで得られた前記最適重み付けされた行列と比較して」と、引用例に記載された発明のステップ(3)の「ニューラルネットワークで最適重み調整された素子により処理して」も、実質的に同一であると認められる。
さらに、本願発明の「評価されるパラメータに対応する所望数のポイントに減縮することで、前記各得られたNIRスペクトル」と、引用例に記載された発明の「複数の特定波長の吸光度」は、「所望数のポイントのNIRスペクトル」である点で一致することから、本願発明の(2)(b)及び(c)のステップと引用例に記載された発明の(2)(b)及び(c)のステップは、ともに「前記複数の炭化水素燃料のそれぞれの所望数のポイントのベースライン補正されたNIRスペクトルを得て、得られたNIRスペクトルのそれぞれをコード化するステップ」であることで一致する。
したがって、両者は、
「ガソリンなどのうちの一つの種類に属する炭化水素燃料を評価して、蒸気圧、オクタン価など、及びこれらの任意の組み合わせ、のいずれかから選択される所望のパラメータを測定するための、炭化水素燃料の評価方法であって、
(1)ニューラルネットワークを構成するコンピュータを用意するステップと、
(2)前記選択された種類に属する炭化水素燃料を評価して前記所望のパラメータを測定することが可能となるように、前記炭化水素燃料ニューラルネットワークの学習を行うステップであって、
(a)評価される炭化水素燃料種に属する複数の炭化水素燃料を選択するステップと、
(b&c)前記複数の炭化水素燃料のそれぞれの所望数のポイントのベースライン補正されたNIRスペクトルを得て、得られたNIRスペクトルのそれぞれをコード化するステップと、
(d)前記コード化されたNIRスペクトルから第一の行列を生成するとともに、この第一の行列は順次前記ニューラルネットワークに入力されるものであるステップと、
(e)前記複数の炭化水素燃料の分析的評価によるパラメータ値からなる第二の行列を得るステップと、
(f)前記第一の行列と前記第二の行列とを、前記NIRスペクトルから生成された第一の行列と第二の行列との間の関数的相関が得られるように前記ニューラルネットワークによって処理して重み付け行列を得るステップと、
(g)最適重み付け行列が得られるように、前記ステップ(b&c)〜(f)を繰り返すステップと、
(3)前記炭化水素燃料種から選択される炭化水素燃料のNIRスペクトルを、ニューラルネットワークで得られた前記最適重み付けされた行列と比較して、この選択された炭化水素燃料に対する所望のパラメータの予測値を得ることを特徴とするステップと、を有することを特徴とする方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明の評価対象の炭化水素燃料は、「ガソリン、ディーゼル燃料、ケロシン、ナフサ、ジェット燃料」であり、測定対象のパラメータは「レイド蒸気圧、疑似蒸留値、リサーチオクタン価、モーターオクタン価、酸素成分、比重オクタン価、臭素価、アニリン点、スモーク点、及びこれらの任意の組み合わせ」であるのに対して、引用例に記載された発明の品質監視対象には、「ケロシン、ナフサ、ジェット燃料」が含まれておらず、また、引用例には測定対象の物理的特性データとして、「臭素価、アニリン点、スモーク点」を含むことが記載されていない点。
(相違点2)
本願発明の(2)(b)のNIRスペクトルを得るステップは、近赤外線領域のスペクトルを得るステップであり、同(c)のステップは、得られた当該スペクトルをベースライン補正し、その後、評価されるパラメータ値に対応する所望数のポイントに減縮することで、前記各得られたNIRスペクトルのそれぞれをコード化するものであるのに対して、引用例に記載された発明の(2)(b)及び(c)のステップでは、複数の特定波長の近赤外線放射光を炭化水素に照射することにより、所望数の特定波長についてのみ測定し、それをベースライン補正してコード化している点。

(4)当審の判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
引用例に記載された発明は、上記摘記事項(イ)に摘記したとおり、自動車用燃料について適用することを念頭に置いてなされたものであるが、自動車用燃料以外の炭化水素燃料についても自動車用燃料と同様にその品質を評価する必要のあることは明らかであるから、引用例に記載された発明を自動車用燃料以外の炭化水素燃料である「ケロシン、ナフサ、ジェット燃料」に適用することは、当業者が容易になし得たことであり、また、測定対象とする物理的特性データを本願発明のものとすることに、何ら困難な点があったとも認められないから、相違点1を格別のものと認めることはできない。
(相違点2について)
本願発明も、引用例に記載された発明も、結局のところ、試料に照射した近赤外線領域に属するある波長の光の反射光若しくは透過光をベースライン補正したものを使用してニューラルネットワークに入力するものであるが、近赤外線分光分析において、近赤外線領域の光を試料に照射し、そのスペクトルからある特定の波長のものを使用して分析を行うことは、例えば、特開平6-308023号公報及び特開平7-260681号公報に記載されているように周知であるから、上記(相違点1について)において検討したとおり、引用例に記載された発明を自動車の小型軽量の計器以外のものに応用することは容易であるとの前提に立てば、特定波長の近赤外線放射光のみを炭化水素燃料に照射することに替え、本願発明のようにNIRスペクトルを得てから評価されるパラメータ値に対応する所望数のポイントに減縮することで、分析に使用すべきニューラルネットワークに入力されるNIRスペクトルを得ることは、当業者が容易に推量可能であったものであり、またその際、所望数のポイントに減縮する前にNIRスペクトルをベースライン補正することも、当業者が容易に推量可能であったと認められるから、上記相違点(2)を格別のものとは認めることはできない。

(5)むすび
以上のとおりであるので、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-06-01 
結審通知日 2004-06-11 
審決日 2004-06-22 
出願番号 特願平8-112861
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 茂和  
特許庁審判長 小林 信雄
特許庁審判官 徳永 民雄
久保田 健
発明の名称 炭化水素燃料の評価方法  
代理人 鈴木 正剛  

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