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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない B66C
管理番号 1107128
審判番号 無効2002-35322  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-04-05 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-07-30 
確定日 2004-11-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第2833679号発明「重量物吊上げ用フック装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯
(1)本件特許第2833679号の請求項1〜6に係る発明(以下、「本件発明1〜6」という。)についての出願は、平成4年9月11日に特許出願され、平成10年10月2日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされた。
(2)請求人株式会社スーパーツールは、平成14年7月30日付けで、本件発明1〜4についての特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする趣旨の審判を請求した。
(3)これに対して、被請求人は、平成14年10月25日付けで答弁書を、平成14年12月11日付けで第二答弁書を、平成15年1月27日付けで口頭審理陳述要領書を、平成15年1月28日付けで第三答弁書を、平成15年1月30日付けで上申書を、それぞれ提出した。
(4)一方、請求人は、平成15年1月27日付けで回答書及び弁駁書を、平成15年2月4日付けで第二弁駁書を、それぞれ提出した。
(5)平成15年1月27日、第1回口頭審理がなされた。

2.請求人の主張
請求人は、証拠として、甲第1号証〜甲第11号証を提示するとともに、本件発明1〜4は、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第9〜11号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜4についての特許は無効とすべきである旨主張している。なお、審判請求書の第6頁10行〜12行には、「甲第1〜11号証に記載された発明から当業者が容易に発明し得る」と、同第24頁6行〜7行、第25頁9行〜11行、第26頁10行〜12行及び第27頁15行〜17行には、「甲第1,2,4,5及び7号証又は甲第1,2,4,5及び9号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」と記載されているが、請求人は、第1回口頭審理の場で、甲第7号証自体及びそれに関する主張を撤回するとともに、無効理由を上記のとおりに補正した(第1回口頭審理調書の請求人の1.を参照)。
そして、請求人の主張の概要は、以下のとおりである。
(1)本件発明1と甲第2号証記載の発明との相違点について
本件発明1と甲第2号証記載の発明との相違点は、以下のとおりである。
【相違点1】二股構造が、前者ではフックの後端部であるのに対して、後者ではフック支持体の略中央部である点。
【相違点2】ロックが、前者では、フックの後端部の二股空間内に配設されているのに対して、後者ではそのように特定されていない点。←甲第1号証
【相違点3】フックに関して、前者は先端部の内側に接して描いた線と、後端部の内側に接して描いた線とが仮想略平行線を形成するのに対して、後者はそのように特定していない点。
【相違点4】フックとフック支持体は、前記フックと前記ロックのロックが解除されて前記フックが前記フック支持体の脱落防止部に対して反転回動されたとき、前者では、フック支持体の脱落防止部が、前記フックの先端部の内側及び後端部の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設されているのに対して、後者では、そのように特定していない点。
【相違点5】フックとフック支持体は、前記フックと前記ロックのロックが解除されて前記フックが前記フック支持体の脱落防止部に対して反転回動されたとき、前者では、固定部の中心と接合ピンの中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されるのに対して、後者では、そのように特定していない点。
【相違点6】前者では、前記フックの背部が前記フック支持体の側部に当接する配置関係にあるときに、前記配置関係を維持しつつフック装置の重量物からの抜去を助力するための抜去用ロックであって、前記抜去用ロックは、前記フック支持体の側に配設された抜去用ロック本体と前記フックの側に配設された係止部とから構成されたものであるのに対して、後者では、抜去用ロック本体及び係止部が存在しない点。(審判請求書第15頁24行〜第16頁18行)
(2)相違点1、2について
・甲第1号証には、「脱落防止部を備えたフック支持体、フック、ロックからなるフック装置」において、「フックの後端部が二股構造であり、前記後端部の二股空間内に前記フック支持体の略中央部が遊嵌され、前記フック支持体の脱落防止部と前記フツクの先端部が略当接関係にあるときにロック状態とする」という技術思想が示されていると認められる。そして、フックとフック支持体とを係合させる場合、いずれを二股構造として係合させるかは単なる二者択一の事項である。(審判請求書第16頁20行〜第17頁13行)
・被請求人の「二者択一」に関する主張は、抽象論を述べるだけで、不当であるとの根拠が明らかではなく、誤りである。(弁駁書第2頁18行〜第3頁15行)
(3)相違点3について
フック本体に物体をひっかけ、当該物体を吊り上げることをその機能とするフック装置において、フック本体の開口部が広いほど物体を「かけるのに便利」となることは、当業者にとって自明であり、また、「かけるのに便利」となる物体が、甲第5号証に例示された「丸棒やローラ軸など、径のふといもの」に限られないことも当業者にとって自明であるから、甲第4号証も参照しつつ、甲第5号証に接した当業者が、脱落防止部を備えたフック装置におけるフックの開口を広くするために、「フックの先端部の内側に接して描いた線と後端部の内側に接して描いた線とが仮想略平行線を形成する」との構成を採用することを想到することは容易であるといわざるを得ない。(審判請求書第17頁14行〜第18頁6行)
(4)相違点4、5について
・本件発明1において、相違点4及び5に係る構成の技術的意義は、重量物にフックの先端部を挿入しやすくなるように、また、重量物の脱着作業時に脱落防止部が地面等に当接したりして障害にならないないように、フックと脱落防止部との開口幅を大きくすることにあるものと認められる。
ところで、甲第4号証載、甲第5号証及び甲第10号証に示されているように、吊上げの対象物をフックに脱着するに際して、脱着作業の利便性を向上するために、フックの開口幅を大きく設けること、及び、脱落防止部がフック装置の脱着作業の邪魔にならないように設けることは、本件特許の出願前において周知の事項であると認められる。また、脱落防止部を備えたフック装置の場合、脱落防止部は、フックのロック状態においてフック先端部と協働して被吊上げ物の脱落を防止する機能を発揮するが、ロック解除状態においては、何らの機能も有さず、逆に、被吊上げ物の脱着作業の邪魔になる存在であることは、脱落防止部の設置位置からみて、当業者には自明の事項である。
してみると、重量物に脱落防止部を備えたフック装置を脱着する際に、フックの開口幅を大きくし、かつ、脱落防止部が脱着作業の邪魔にならないようにすることは、当業者にとって容易に想到し得る事項であったというべきである。
そして、甲第2号証のフック装置の構造をみると、フックの反転回動を阻害する機構は何ら設けられていないと認められ、また、本件特許の願書に添付した図面に示されるフック3と同じように、甲第2号証記載のフック部3は、「フック部3のアイ又はボス部9とシャンク部8とは、背部側に凹部を有するように接続される」形状、構造であるから、甲第2号証のフック装置は、フックの背部がフック支持体に当接するまで反転回動し、フックとフック支持体の脱落防止部との開口幅を大きく広げ得るものということができる。さらに、甲第2号証の図1で、「フックとフック支持体とのロックが解除されてフックがフック支持体の脱落防止部に対して反転回動されたときの脱落防止部の位置が、前記フックの後端部の内側に接して描いた直線の外側」として看取できる。
以上のような甲第2号証のフック装置の形状、構造も勘案すると、甲第2号証記載の発明に、吊り上げの対象物をフックに脱着する作業の利便性を向上するために、「フックの開口幅を大きく設ける」とともに、「脱落防止部がフック装置の脱着作業の邪魔にならないように設ける」という、フック装置における周知ないしは自明な事項を組み合わせて、相違点4、5に係る構成を本件発明1のようにすることは、当業者が容易になし得ることであるといわざるを得ない。
なお、甲第2号証のフック装置において、ワイヤーロープを挿入する穴の方向と位置とが、場合によっては、フック支持体が全開状態に反転回動することを妨げる構造となっているとも考えられるが、穴の方向が同一の構造のものは、甲第10号証、甲第11号証に示されるように、本件特許の出願前にフック装置の技術分野で周知であることから、被吊り上げ物に対応した開口幅を設けるように反転回動できることを妨げる特段の事情があるとすることはできない。(審判請求書第18頁7行〜第21頁5行)
・フックと脱落防止部との開口幅の大きさに関して、「従来に比して極めて」という文言の有無で、内容に差はない。(弁駁書第4頁29行〜第5頁19行、同第13頁6行〜22行)
・脱落防止部がフック装置の脱着作業の邪魔にならないように設けることの基準は、被請求人自らが、従来例との対比の中で、乙第1号証の参考第2図に示すZ線がX線を越えるか、越えないかで定めたものであり、甲第2号証記載の発明は、弁駁書に添付の参考図1に示すように、その基準に合致するから、構成要件(iv)ー1、2を充足する。(弁駁書第6頁8行〜第8頁18行、同第16頁19行〜25行)
・甲第10号証記載の発明も、参考図2に示すように、実質的に構成要件(iv)ー1,2を充足している。(弁駁書第15頁17行〜30行)
(5)相違点6について
・本件発明1の構成要件(v)の意味は、「フックの内側から伸びるX線を越えて、X線の外側に脱落防止部の内側から伸びるZ線が存在するようにし、フックと脱落防止部との開口幅を従来に比べて大きくなるようにしたとき(後)に、抜去用ロック本体を係止部に係止する」というに等しい。(第二弁駁書第2頁18行〜第3頁14行)
・甲第9号証の安全フックは、「安全掛け金82が反転回動すると、当然安全掛け金82に合わせて軸ピンも反転回動し、プッシュボタン型のロック用歯止め89の平面88と係合する軸ピンの閉塞状態(図8)を維持するためのロック用面86から解除状態(図9)を維持するためのロック用面87に切り替わる」ので、図9の解除状態が維持されることになる。してみれば、甲第9号証記載の発明には、「フック支持体が反転してフック装置が解除状態の配置関係にあるときに、前記位置関係を維持する抜去用ロックであって、前記抜去用ロックは、前記フック支持体の側に配設された抜去用ロック本体と前記フックの側にに配設された係止部とから構成されたものである」点が明示されている。(審判請求書第22頁28行〜第23頁9行、回答書第4頁8行〜19行)
・甲第10号証の2頁左上欄15〜19行に、フックの先端部と脱落防止部との開口幅が最大となった配置関係を維持する内蔵型ストッパ機構が示されている。そして、甲第10号証記載の内蔵型ストッパ機構はフックの開放状態を維持できるような係止構造のものではないが、甲第10号証記載の内蔵型ストッパ機構の代わりに甲第9号証記載のロック機構を適用することにより、構成要件(v)が充足される。(弁駁書第15頁30行〜第16頁18行、回答書第4頁20行〜第5頁6行、第二弁駁書第3頁15行〜第4頁20行)
・脱落防止部が脱着作業の邪魔にならないようにするには、フックの先端部と脱落防止部との開口幅が最大となった配置関係を維持するのがよいことは、自明である。(回答書第5頁19行〜第6頁5行)。
・クレーンを使用して除荷時に重量物の下敷きになっているフックを引き抜くことは、米国特許第1847819号明細書に示されるように周知の事項であるから、甲第10号証記載のフック先端部と脱落防止部との開口幅が最大となった時点で、甲第9号証記載のロック機構を適用し、その状態でフック装置を吊上げれば、上記周知の事項を考慮に入れると、重量物の下敷きとなっていたフックが重量物の下から当然抜去されることになる。(第二弁駁書第4頁21行〜第5頁30行)
(7)本件発明1の作用効果について
本件発明1の作用効果は、甲第1、2、4、5及び9号証記載の発明から、当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。(審判請求書第24頁3行〜5行)
(8)本件発明2〜4について
請求項2〜4に記載された構成は甲第1号証に記載されている。(審判請求書第24頁24行〜第25頁11行、第25頁27行〜第26頁12行、第26頁29行〜第27頁17行)
[証拠方法]
甲第1号証:特開昭55-82814号公報
甲第2号証:米国特許第2857644号明細書
甲第4号証:1990年11月発行「Newco社カタログ」第5頁の写し
甲第5号証:昭和63年9月作成「総合カタログマーテック吊り具」第5頁の写し
甲第9号証:米国特許第4309052号明細書
甲第10号証:特開証53-22945号公報
甲第11号証:特開昭52-153561号公報
なお、甲第4号証及び甲第5号証は本願の出願前に頒布された刊行物であると認められ、被請求人もそのことを認めている(第1回口頭審理調書の被請求人の2.を参照)。

3.被請求人の主張
被請求人は、証拠として乙第1号証を提出するとともに、下記の理由により、本件発明1〜4は、請求人の主張する無効事由をもつものではなく、したがって、本件発明1〜4についての特許は、無効とされるべきものではない旨主張している。
(1)本件発明1と甲第2号証記載の発明との相違点について
本件発明1と甲第2号証記載の発明との相違点は、請求の主張するとおりであることを認める。(第1回口頭審理調書の被請求人の3.を参照)
(2)相違点1、2について
・甲第2号証記載の発明において、ロック機構は、二股構造のクレビス(2)の二股空間内に配設された部材間の有機的関係から成るものであり、したがって、フックとフック支持体とを係合させる場合、いずれを二股構造として係合させるかは単なる二者択一であるとの請求人の主張は、甲第2号証における各構成部材の間の密接不可分の有機的な関係を無視したものであって、認めることができない。そして、甲第1号証記載の発明と甲第2号証記載の発明とは、ロック機構を含めた全体構成や作用効果において全く異質の発明というべきものであり、両者を組み合わせることはできない。(答弁書第7頁18行〜第9頁11行、第三答弁書第2頁4行〜第4頁14行)
(3)相違点3について
・相違点3についてのみ判断することに大きな意義を見い出さない。したがって、請求人の、「フックの先端部の内側に接して描いた線と、後端部の内側に接して描いた線とが仮想略平行線を形成する」という構成を採用することを想到することは当業者において容易である、との主張に異を唱える必要はないと考える。(答弁書第9頁13行〜25行)
(4)相違点4、5について
・相違点4、5に係る構成、すなわち、本件発明1の構成要件(iv)、(iv)-1、(iv)-2の技術的意義は、地面に敷かれた鉄板等の引掛け作業時に重量物の引掛け用の穴にフックの先端部を挿入し易くすることができ、脱着作業時に脱落防止部が地面などに当接したり埋没したりして障害にならず、脱着を極めてスムーズに行うことができるように、フックと脱落防止部との開口幅を従来に比して極めて大きくすることにある。(第1答弁書第10頁20行〜第11頁8行)
・請求人の判断基準は、「フックと脱落防止部との開口幅を従来に比して極めて大きくする」という本件発明の核心とする技術思想が欠落している。(第二答弁書第5頁14行〜17行)
・請求人は、甲第4号証、甲第5号証、甲第10号証を引用して、吊上げの対象物をフックに脱着するに際して、脱着作業の利便性を向上するために、フックの開口幅を大きく設けること、及び、脱落防止部がフック装置の脱着作業の邪魔にならないように設けることは、周知の事項であると主張しているが、請求人の主張は、本件発明1の構成要件(iv)ー1、(iv)ー2で規定される技術的構成に則して、証拠に基づいたものではなく、不当なものである。そして、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第10号証のフック装置は、いずれも、本件発明1の構成要件(iv)ー1及び(iv)ー2で実現されるフックに対する脱落防止部の配置関係を満たさないものである。(答弁書第11頁15行〜第13頁21行、第二答弁書第7頁16行〜22行、同第9頁13行〜21行、同第10頁21行〜24行)
・請求人は、甲第2号証のフック装置において、フックの反転回動を阻害する機構は何ら設けられていないと主張しているが、甲第2号証においてはケーブルなどの使用を前提とするものであり、上記請求人の主張は誤りである。(答弁書第18頁7行〜13行)
・請求人の、反転回動時の脱落防止部の位置が、フックの後端部の内側に接して描いた直線の外側として看取できる旨の主張は、答弁書に添付した参考図に示すように、認められない。また、上記参考図からみて、甲第2号証のフック装置は、フックと脱落防止部との間に形成される開口幅が本件発明1のものと比較して極めて狭小であるため、敷鉄板の吊上げ時の引掛け作業及び敷鉄板からのフックの脱着作業に支障をきたすものである。(答弁書第18頁21行〜第19頁3行、同第19頁25行〜29行、第二答弁書第11頁6行〜12行)
・ワイヤーロープを挿入する方向が本件発明1と同一の構成が甲第10、11号証により周知であることから、この周知技術を甲第2号証のフック装置に組込むことも容易であり、その場合、フックの背部がフック支持体に当接するまで反転回動させることができる、という請求人の推論は、そのために、甲第2号証の平行するアーム12、13の後端部を一体化、肉厚化し、この部分に当該穴部を配設することが考えられるが、この場合、穴部の大きさ(穴の外径の大きさ)によって本件発明1の構成要件(iv)ー1、(iv)ー2は全く充足されず、本件発明1の進歩性を判断する上で甲第2号証を主たる引用例とすることを妨げる問題点があるというべきである。(答弁書第21頁16行〜第22頁9行、第二答弁書第10頁25行〜第11頁5行)
・本件発明1の構成要件(iv)ー1、2の同時充足性を判断基準とされるべきであり、請求人の「Z線がX線を越えるか、越えないか」という主張は不当なものである。(第三答弁書第4頁21行〜第6頁14行)
・甲第2号証のフック装置に関連して、請求人作成の弁駁書に添付の参考図1は、フック装置の先端部が敷鉄板の下部に食い込んでいないものであり、全く合理性を欠くものであって、不当なものである。(第三答弁書第7頁7行〜第8頁16行)
・甲第10号証のフック装置に関連して、請求人作成の弁駁書に添付の参考図2は、敷鉄板を吊上げることができないものである。(第三答弁書第11頁12行〜第12頁2行)
(5)相違点6について
・「フックの背部がフック支持体の側部に当接する配置関係にあるときに、前記配置関係を維持しつつフック装置(F)の重量物からの抜去を助力するための抜去用ロック」の技術的意義は、図7のフックの最荷重点において、図8のようにフックを重量物から抜去しやすくするために、フックを時計回りの方向に回動させる分力を発生させることを保証することにある。(口頭審理陳述要領書第3頁24行〜第4頁11行)
・甲第9号証記載の安全フックは、フックの背部がフック支持体の側部に当接する配置関係を実現するものではなく、しかも、前記配置関係を維持しつつフック装置の重量物からの抜去を助力する抜去用ロックを、開示も示唆もしていないから、本件発明1の構成要件(v)は、甲第9号証に開示も示唆もされていない。(答弁書第25頁12行〜22行)
・甲第9号証記載のフック装置は、上申書に添付した参考第2図に示されるフックを最大に回動させた状態からみて、例えば、吊上げ対象物が敷鉄板である場合、吊上げ搬送後に敷鉄板からフックを抜去することができないことは明らかである。(上申書第2頁17行〜第3頁5行)
・甲第10号証記載のものは、「オフ又はフックを少し強く開又は閉操作することによりストッパが外れる」構造のものであり、抜去時にフックの先端部と脱落防止部との開口幅が最大になった配置関係を維持することができないものである。(第三答弁書第10頁18行〜21行)
・甲第10号証記載のフック装置は、フックの背部がフック支持体の側部に当接する配置関係を実現するものではなく、しかも、前記配置関係を維持しつつフック装置の重量物からの抜去を助力する抜去用ロックを、開示も示唆もしていない。(上申書第4頁9行〜13行)
・米国特許第1847819号明細書に開示のフック装置は、吊上げ対象物を大きく変位させてフック装置から除去するものであって、吊上げ対象物からフック先端部を抜去するという本件発明の抜去態様とは全く異なるものである。(上申書第5頁26行〜第6頁4行)
(7)本件発明1の作用効果について
・本件特許明細書の段落【0006】、【0009】、【0012】、【0013】、【0028】、【0030】などで説明されている、敷鉄板の転倒事故による死亡事件が防止される、敷鉄板に下敷きになっているフック装置の容易な脱着という、本件発明1の作用効果については、甲号各証には何ら言及されておらず、したがって、作用効果に関する請求人の主張は受け入れることができない。(答弁書第26頁9行〜18行)
(8)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1と同様の理由から、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証、並びに、甲第7号証または甲第9号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする請求人の主張は認めることができない。(答弁書第26頁27行〜第28頁25行)
[証拠方法]
乙第1号証:本件特許の審査段階で、拒絶理由通知に対応して提出された平成8年3月22日付け意見書

4.本件発明1〜4
本件特許の請求項1〜4に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1〜4」という。)は、設定登録時の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものと認める。
『【請求項1】吊上げ装置のワイヤー先端部に取付けられ、重量物を吊上げるためのフック(F)において、前記フック装置(F)が、
(i).先端部に脱落防止部(11)、後端部にワイヤー固定部(12)を有するフック支持体(1)、
(ii).フック(3)の後端部(32,32')が二股構造であり、該二股構造の空間内に配置された前記フック支持体(1)の略中央部(13)を貫通し、該後端部(32,32')間に誇設した接合ピン(2)を介して前記フック支持体(1)に対して回動自在に配設されたフック(3)、
(iii).前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)と前記フック(3)の先端部(31)が略当接関係にあるときに、前記フック支持体(1)と前記フック(3)をロック状態とするロック(4)であって、前記ロック(4)は、前記フック(3)の後端部(32,32')の二股空間内に配設されたものであり、
(iv).前記フック(3)と前記フック支持体(1)は、前記フック(3)と前記ロック(4)のロックが解除されて前記フック(3)が前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)に対して反転回動されたとき、
(iv)-1.前記フック支持体(1)の脱落防止部(11)が、前記フック(3)の先端部(31)の内側及び後端部(32,32')の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設され、かつ、
(iv)-2.前記ワイヤー固定部(12)の中心と接合ピン(2)の中心を結ぶ線分と、
前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されたものであり、及び、
(v).前記フック(3)の背部(33)が前記フック支持体(1)の側部(15)に当接する配置関係にあるときに、前記配置関係を維持しつつフック装置(F)の重量物からの抜去を助力するための抜去用ロック(6)であって、前記抜去用ロック(6)は、前記フック支持体(1)の側に配設された抜去用ロック本体(61)と前記フック(3)の側に配設された係止部(62)とから構成されたものである、
ことから成ることを特徴とする重量吊上げ用フック装置。
【請求項2】二股構造のフック(3)の後端部(32,32´)の空間内に配設されたロック(4)の端部(41)が、バネ体(5)の弾発によりフック支持体(1)の略中央部(13)に当接するものである請求項1に記載の重量物吊上げ用フック装置。
【請求項3】ロック(4)の端部(41)が、フック支持体(1)の略中央部(13)に設けた凹部(14)に係合してロック状態となる請求項2に記載の重量物吊上げ用フック装置。
【請求項4】ロック(4)の操作レバー(42)が、フック支持体(1)の脱落防止部(11)とフック(3)の先端部(31)がロック(4)により係合解除されたとき、フック(3)の後端部(32,32´)から突出するものである請求項2に記載の重量物吊上げ用フック装置。』

5.甲第1、2、4、5、9〜11号証記載の発明(事項)
甲第1号証の、
(イ)「この発明は、懸けるチエーンリンクを入れる口のあるフツク本体から成るフツク、特に安全フツクに関する。」(第2頁右下欄5行〜7行)、
(ロ)「この発明によつて得られる利点は主として、フツクが引張負荷を受けて自然に閉ぢ、荷重を除いても開かない点にある。」(第3頁左上欄11行〜13行)、
(ハ)「フツク1はフツク本体2とUリンク3とから成る。Uリンク3には閉鎖部材4がある。フツク本体2とUリンク3は軸5を介して相互に回動可能に結合されている。本体2とUリンク3の間には停止装置6がある。この停止装置はスライダの形の調節部材7を介して作動可能である。フツク1の閉鎖状態では閉鎖部材4は停止装置6を介して安全であり、直接フツク口端8の上にのつている。フツク1を開くには手で調節部材7を操作する。この調節部材7では停止部材6が解放されている。フツク本体2は、第3図、7図、8図の実施例においてUリンク3を回動可能に収容するためにU字形の端部9を有する。該端部10と10の間にUリンク3が保持されている。Uリンク3はそのために対応するウエブ11をそなえている。本体2とUリンク3は軸5を介して相互に連結されている。軸5は本体2とUリンク3の間にあり、この位置はフツク1の力係合点と間にある長手中心軸X-X上にある。これによつて閉鎖部材4は引張負荷が加わるとき常に閉鎖位置へ引張られる。第10図及び第11図に詳しく示すように、Uリンク3のウエブ部11は面12及び13によつて限定されている。これらの面はフツク口端8の方向にくさび形に細まつており、これらの面には更にフツク本体2の頭部14が突張ることができる。Uリンク3の閉鎖部材4は舌片状にできていて、Uリンク片28に対して曲つている。そして自由端部15の方へ向つて幅と厚味がくさび形に細まつている。閉鎖部材4の下面16にはフツク口端8の方へ向けられた凹部17があり、これがフツク口端8の彎曲部18と対応している。停止装置6は第1図及び第3図に示す実施態様の場合には閉鎖部材4並びにフツク本体2に支承することができる。第1図及び第2図に示す実施態様の場合にはUリンク3に、本体2を収容するU字形の収容部がある。この態様の効果は第3図に示すものと同じである。停止装置6はボルト19から成り立つている。ボルト19は・・・第3図に示すものの場合には本体2に設けられている。ボルト19はばね21の力が加わつており、このばね21はボルト19を閉鎖位置においてUリンク3と本体2の係止部22中で押圧する。この係止部22は孔(第3図)・・・で形成することができる。ボルト19は自由端部に向つて円錐形に形成されており、ボルトの前部23は丸味をつけてあるが、尖らせてもよい。第3図の態様がより詳細に示すように、停止装置6には調節部材7があり、この調節部材によつて案内20におけるボルト19の軸方向移動が行なわれる。調節部材7は本質的に、連結部材24を介してボルト19に固定されているスライダから構成されている。符号25で示す方向の圧力によつて停止装置6が解放される。フツク1の施錠は負荷が加われば自動的に行なわれ、ボルトは符号30で示す方向に移動する。・・・舌片状閉鎖部材4はフツク本体1に次のように枢着されている。即ち閉鎖されて施錠された状態で閉鎖部材4の自由端部15がフツク口端に当接するように枢着される。開かれた、解錠された状態では閉鎖部材4は、フツク1の口幅全体が自由になる位置を占める。」(第3頁左上欄20行〜第4頁左上欄10行)の記載、及び、図面の記載からみて、甲第1号証には、
『安全フツク1において、前記安全フツク1が、
先端部に閉鎖部材4、後端部に二股構造を有するUリンク3、
フツク本体2の端部10,10が二股構造であり、前記端部10,10の二股空間内に前記Uリンク3の略中央部のウエブ11が遊嵌され、かつ、前記フツク本体2の端部10,10と前記Uリンク3の略中央部のウエブ11を貫通する軸5を介して前記Uリンク3の略中央部のウエブ11に回動自在に配設されたフツク本体2、及び、
前記Uリンク3の閉鎖部材4と前記フツク本体2のフツク口端8の彎曲部18が略当接関係にあるときにロック状態とする前記フツク本体2の端部10,10の二股空間内に配設された停止装置6を備え、
前記フツク本体2と前記停止装置6のロックが解除されて前記フツク本体2が前記Uリンク3の閉鎖部材4に対して反転回動されるようになっており、かつ、
二股構造のフツク本体2の端部10,10の空間内に配設された停止装置6の前部23が、ばね21の弾発によりUリンク3の略中央部のウエブに設けた係止部22に係合してロック状態となり、
Uリンクの閉鎖部材4とフツク本体2の自由端部15が停止装置6によりロック状態となったとき、停止装置6の調節部材7がフツク本体2の端部10から突出するものである、安全フツク1』の発明が記載されているものと認められる。

甲第2号証の、
(イ)「この発明は、重量物の荷を巻き上げる際にケーブル巻き上げ装置とともに使用する改善された安全フックに関する。」(第1欄15行〜16行)、
(ロ)「本発明の目的は、荷のフックからの脱離を防止するために、フックの彎曲部が閉じられる安全フックを提供すること、彎曲部の閉塞が巻き上げ線が取り付けられるクレビスに結合され、彎曲部の閉塞状態で、上記閉塞が荷の配置を助けるためのフック端部との係合を支援する構造を提供すること、ピボット結合され、フック及びクレビスを相対的に横シフト移動させ、ロック部材を作動させる弾性部材を持つ、フック及びクレビスを提供すること、荷又はフック及びクレビスへの引っ掛けが自動的に彎曲部を閉塞し、フックの使用中彎曲部を閉塞状態に保持するために、フック及びクレビスにロック部材を作動させる安全フックを提供すること、経済的に製造でき効率的、実際的かつ容易に操作できる安全フック構造を提供することにある。」(第1欄17行〜34行)、
(ハ)「図1は荷を取り付けるためにフック彎曲部が開くように各部が位置付けられた安全フックの側面図である。・・・図5は安全フックの分解された斜視図である。・・・1は一般的にクレビス2及びクレビスにピン4によって結合されたフック部材3からなる安全フック構造である。フック部材3は・・・一端で外方へ曲がったノーズ7で終わる前上方へ彎曲する嘴を有する彎曲したボディ部5から成る。彎曲したボディ部5の他端は、・・・ピン4のシャンク11を受け入れる穴10を有するアイ又はボス部9で終わる上方へ伸びるシャンク部8を有する。・・・クレビスは間隔の開いた平行なアーム12,13から成り、上記アームの低い方の端部は間隔を埋める横断バー14で結合される。アーム12,13の上端は、好ましくは丸い横断面のベイル15によって結合され、ケーブル16又は安全フック及び荷を吊す巻き上げ線又は巻き上げ装置が掛けられている。アーム12,13は好ましくはその長さの中心に、・・・整列した穴の設けられた拡大部17を有する。アーム12,13の間隔は、フックのボス又はアイ部9の対向面18’、19間の厚さより大きく、それによってボス部はアームの間に位置したとき横に移動可能である。・・・弾性部材はアーム12及びフック部材上のロック部材を係合させるために、上記ボスをアーム12に押し付ける。」(第1欄39行〜第2欄27行)、
(ニ)「この安全フックの動作について、各部が図3に示す位置にあるものと仮定する。このとき、フックの先端7は横断バー14と係合し、突起25は肩26と係合していて各部をロックし、それによってフックのフック部への入口がアーム12,13によって閉塞されている。次いで、構造体を作動させてフック部を開放するために、クレビスおよびフック部材に圧力をかけて相対的な横方向移動をもたらし、それによってボス9がアーム13方向に移動して弾性部材23を圧縮し、突起25が肩26との係合から解除されて、各部が図1に示す位置に回動可能となる。」(第2欄41行〜52行)、
(ホ)「操作者によって解除されるまで荷がフックから離脱するのを防止するための実際的な作動を提供するために、荷が適用されたとき自動的にロックする、経済的、効率的な安全フックを提供したことが明白であると信じられる。」(第2欄65行〜69行)
の記載、
「荷を取り付けるためにフック彎曲部が開くように各部が位置付けられた安全フックの側面図」として記載された図1よりで、
(ヘ)「フック部3とクレビス2とのロックが解除されて前記フック3が前記クレビス2のアーム12,13に対して反転回動されたときのクレビス2のアーム12,13の位置が、前記フック部3の柄部8の内側に接して描いた直線の外側」であることが看取し得ること、
図5には、
(ト)「フック部3のアイ又はボス部9とシャンク部8とは、背部側に凹部を有するように接続されている」ことが示されていることからみて、甲第2号証には、
『ケーブル巻き上げ装置のケーブル16先端部に取付けられ、重量物を吊上げるための安全フック1において、前記安全フック1が、
先端部にアーム12,13、後端部にベイル15を有するクレビス2、
クレビス2の略中央部が二股構造であり、前記略中央部の二股空間内にフック部3のアイ又はボス部9が遊嵌され、フック部材3のアイ又はボス部9と前記クレビス2の略中央部とを貫通するピン4を介して前記クレビス2の略中央部に回動自在に配設されたフック部材3、及び、
前記クレビス2のアーム12,13と前記フック部材3の先端部が係合関係にあるときにロック状態とするロックを備え、
前記フック部材3と前記クレビス2は、前記フック部材3と前記ロックのロックが解除されたとき、前記フック部材3が前記クレビス2のアーム12,13に対して反転回動される、重量物を吊上げるための安全フック1』の発明が記載されているものと認められる。

甲第4号証には、脱落防止部を有するフック装置である「NEWCO BALE HOOK」について、
(イ)「開口部を十分に開口できるように設計されている」(説明の1行目)
と記載され、また、「ディメンジョン及びデータ」の表に、
(ロ)「開口部のサイズGを各種の寸法に設けたものであること」が示されている。

甲第5号証には、
(イ)「OKEファンドリーフック(注:商品名)」について、「スリングフック(注:商品名)より開口部が広いので丸棒やローラ軸など、径の太いものをかけるのに便利です。」と記載され、また、
(ロ)「スリングフックより開口部が広く、径の太いものをかけるのに便利なものとして、フックの先端部の内側に接して描いた線と後端部の内側に接して描いた線とが、スリングフックより平行線に近く仮想略平行線を形成するものと看取することができるもの」が図示されている。

甲第9号証には、
(イ)「この発明は湾曲したフック本体と、前記フック本体に荷が結合され、結合解除されるようになっている、開放位置及び閉鎖位置に回転可能に装着された安全掛け金とを備える、安全フック構造に関する。」(第1欄5行〜9行)
(ロ)「図9は開放位置での、図8の掛け金付き安全フックの図である。」(第3欄6行〜7行)
(ハ)「安全掛け金3は、ピン9を有し、その上端部にアーム7,8によって形成されるクレビス部を有し、チェーンやスリングが取着される前記ピン9はノックピン10によってアーム7,8に固定される。」(第3欄32行〜36行)
(ニ)「図8〜11に記載の本発明にかかる安全フックの更なる実施例80によれば、フックはフック本体81と安全掛け金82を具備する。図10からわかるように、フック本体は耳部83,84が形成されているためにその端部において二股状となっている。軸ピン85は前記耳部に挿通され且つ安全掛け金82に圧入固定されている。・・・軸ピンには、ロック用面86と87が形成され、フック本体81の側面のピン90にスライド自在に取着されたプッシュボタン型のロック用歯止め89の平面88が係合するようになっている。そのプッシュボタン式ロック用歯止め89は、バネ91によってフック本体81の外方へ押圧されており、表面88が図10に示すように軸ピンのロック用面86と係合する。ロック用歯止め89は、前記歯止めをバネ91の弾発力に抗してフック本体81の内方に押し込むことによって、図11に示すようにロック解除位置に移動する。その結果、歯止めの平面88はロック用表面86から解除される。」(第4欄64行〜第5欄15行)
と記載されている。

甲第10号証には、
(イ)「本発明は,掛け口を開閉するオフを有する安全フックの改良に係り,ワイヤー・ロープ等の掛け外しを容易にすると同時にロープの外れ防止・・・を目的とする。」(第1頁右下欄15行〜18行)
(ロ)「フツク1の軸受又部8とオフ2の軸受ボス9との間に、押しばね10付止ピン11とピン係合孔12・13とを対向的に設けて、オフ2によるフツク1の掛け口7の開及び閉の状態を保つようにしたものである。この種のフツクは種々の形状のものが知られているが、・・・掛け部5の掛け口7に対してオフ2が傘をかぶせたような状態に覆いかぶさつているのでワイヤー・ロープ等の掛け外し操作の邪魔になる。・・・ところが本発明は・・・掛け口7を開いたとき第2図のようにオフ2はフツク1の掛け口7の延長から大きく後退しているので,掛け外しの邪魔になることがない。」(第2頁左上欄15行〜同頁左下欄2行)、
(ハ)「本発明は・・・ストツパを内蔵型とし、オフ又はフツクを少し強く開又は閉操作することによりストツパが外れるようにしたものである。従って従来品の・・・のように、作業手袋をはめた指先で先ずストッパを外す手数を必要とせず、フック・オフを握って開かせるだけでよいから作業上便利である。」(第2頁左下欄15行〜右下欄6行)と記載され、
(ニ)第1、2図には、「ワイヤーロープを挿入する穴の方向が、本件特許の願書に添付した図面の図1、図4に示されるフック装置と、同一の構造」が示されている。

甲第11号証の図1には、
(イ)「ワイヤーロープを挿入する穴の方向が、本件特許の願書に添付した図面の図1、図4に示されるフック装置と、同一の構造」が示されている。

6.対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲第2号証記載の発明とを対比すると、その機能、構造からみて、後者の「ケーブル巻き上げ装置」は前者の「吊上げ装置」に相当し、以下同様に、後者の「ケーブル16先端部」は前者の「ワイヤー先端部」に、後者の「安全フック1」は前者の「フック装置」に、後者の「アーム12,13」は前者の「脱落防止部(11)」に、後者の「ベイル15」は前者の「ワイヤー固定部(12)」に、後者の「クレビス2」は前者の「フック支持体(1)」に、後者の「フック部材3のアイ又はボス部9」は前者の「フック(3)の後端部(32,32’)」に、後者の「ピン4」は前者の「接合ピン(2)」に、それぞれ相当する。また、前者の「フックの後端部が二股構造であり、前記後端部の二股空間内にフック支持体の略中央部が遊嵌される」構造と、後者の「クレビス2の略中央部が二股構造であり、前記略中央部の二股空間内にフック部3のアイ又はボス部9が遊嵌される」構造とは、「フックの後端部とフック支持体の略中央部の一方が二股構造であり、その二股空間内に他方が遊嵌される」構造である限りにおいて共通する。
してみると、両者は、
「吊上げ装置のワイヤー先端部に取付けられ、重量物を吊上げるためのフック装置において、前記フック装置が、
先端部に脱落防止部、後端部にワイヤー固定部を有するフック支持体、
フックの後端部とフック支持体の略中央部の一方が二股構造であり、その二股空間内に他方が遊嵌され、フックの後端部と前記フック支持体の略中央部とを貫通する接合ピンを介して前記フック支持体の略中央部に回動自在に配設されたフック、
前記フック支持体の脱落防止部と前記フックの先端部が係合関係にあるときにロック状態とするロック、及び、
前記フックと前記フック支持体は、前記フックと前記ロックのロックが解除されたとき、前記フックが前記フック支持体の脱落防止部に対して反転回動される、重量物を吊上げるためのフック装置」で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】二股構造が、前者ではフックの後端部であるのに対して、後者ではフック支持体の略中央部である点。
【相違点2】ロックが、前者では、フックの後端部の二股空間内に配設されているのに対して、後者では、そのように特定していない点。
【相違点3】フックに関して、前者は、先端部の内側に接して描いた線と後端部の内側に接して描いた線とが仮想略平行線を形成するのに対して、後者は、そのように特定していない点。
【相違点4】フックとフック支持体は、前記フックと前記ロックのロックが解除されて前記フックが前記フック支持体の脱落防止部に対して反転回動されたとき、前者では、フック支持体の脱落防止部が、前記フックの先端部の内側及び後端部の内側に接して描いた仮想略平行線の内側に存在しないように配設されているのに対して、後者では、そのように特定していない点。
【相違点5】フックとフック支持体は、前記フックと前記ロックのロックが解除されて前記フックが前記フック支持体の脱落防止部に対して反転回動されたとき、前者では、固定部の中心と接合ピンの中心を結ぶ線分と、前記仮想略平行線とが略平行になるように配設されるのに対して、後者では、そのように特定していない点。
【相違点6】前記フックの背部が前記フック支持体の側部に当接する配置関係にあるときに、前記配置関係を維持しつつフック装置の重量物からの抜去を助力するための抜去用ロックであって、前記フック支持体の側に配設された抜去用ロック本体と前記フックの側に配設された係止部とから構成されたものを、前者は備えるのに対して、後者は、そのような抜去用ロックを備えていない点。

そこで、上記相違点6について検討する。
先ず、本件発明1における、「(v).前記フック(3)の背部(33)が前記フック支持体(1)の側部(15)に当接する配置関係にあるときに、前記配置関係を維持しつつフック装置(F)の重量物からの抜去を助力するための抜去用ロック(6)であって、前記抜去用ロック(6)は、前記フック支持体(1)の側に配設された抜去用ロック本体(61)と前記フック(3)の側に配設された係止部(62)とから構成されたものである」こと(以下、「特定構成A」という。)の技術的意義について検討する。
本件発明1は、特定構成Aを具備することにより、本件特許明細書の記載「図8は、抜去用ロック(6) により、前記した敷設された鉄板(I)からフック装置(F)を抜去する作業が容易化される理由を説明するものである。即ち、フック装置(F)を図7の状態から図8の状態へするには、次のようにすればよい。(a) 前記したように図7の状態でロック(4) を上方に回動してフック支持体(1) とフック(3) のロック状態を解除し、フック支持体(1) の脱落防止部(11)を反転回動させる。(b) 次いで、フック支持体(1) の側部(15)とフック(3) の背部(33)を当接させるとともに、抜去用ロック(6) を作用させる。即ち、フック支持体(1) に配設された抜去用ロック本体(61)と、フック(3) に配設された係止部(62)を係合係止させる。次いで、図8に示されるように、クレーンによりワイヤーを介してフック装置(F)を吊上げるとフック装置(F)は図示の方向に反転回動する。即ち、作業者に負担を強いることなしに、鉄板の吊上げに利用したクレーンの動力により、フック装置(F)を敷設された鉄板(I)から極めて容易に脱着させることができる。」(段落【0028】を参照)からみて、「フック支持体(1)の側部(15)とフック(3)の背部(33)を当接させるとともに、フック支持体(1)に配設された抜去用ロック本体(61)と、フック(3)に配設された係止部(62)を係合係止させ、次いで、図8に示されるように、クレーンによりワイヤーを介してフック装置(F)を吊上げるとフック装置は図示の方向に反転回動し、作業者に負担を強いることなしに、鉄板等の重量物の吊上げに利用したクレーンの動力により、フック装置(F)を敷設された鉄板(I)等の重量物から極めて容易に脱着させるような力が作用する」といった作用効果(以下、「抜去助力効果」という。)を奏することができるものと解される。
そして、このような抜去助力効果を奏するためには、クレーンの吊上げ動力をフック装置(F)に作用させた際、フック(3)を重量物から脱着させるためには、図8に示されるように、重量物を吊上げる力のワイヤー固定部(12)への作用点が、重量物の重量のフック(3)への作用点に対して、フック(3)の開口側先端部(31)とは反対側にあって、その状態が重量物がフック(3)より外れるまで継続されることが必要である。
してみると、上記特定構成Aの技術的意義は、該特定構成Aを条件として上記抜去助力効果を奏することができるものであると認めることができる。
次いで、上記特定構成Aの技術的意義の観点で、甲各号証を検討する。
甲第10号証には、押しばね10付止ピン11とピン係合孔13との係合によって、オフ2が掛け外しの邪魔とならないように、オフ2によるフツク1の掛け口7の開状態を保つ内蔵型ストッパが記載されているが(甲第10号証の摘記事項(ロ)及び第2図を参照)、上記の内蔵型ストッパは、オフ又はフツクを少し強く開又は閉操作することによりストツパが外れるようにしたものであって(甲第10号証の摘記事項(ハ)を参照)、開放状態にあるフック装置にクレーンからの力及び重量物の荷重をかけると、フック装置の開放状態を維持し得ないから、上記抜去助力効果を奏することはできない。
これに対し、請求人は、甲第10号証に記載されたものの内蔵型ストッパを甲第9号証に記載されるようなロック機構と置換することにより、上記特定構成Aに至る旨主張し、併せて、上記抜去助力効果を示唆する周知例として米国特許第1847819号明細書を提示することにより、上記特定構成Aが当業者にとって容易に想到できる旨主張するので、これらの主張について、以下、検討する。
第一に、甲第10号証に記載されたものの内蔵型ストッパは、甲第10号証の記載「オフ又はフツクを少し強く開又は閉操作することによりストツパが外れるようにしたものである。従って従来品の・・・のように、作業手袋をはめた指先で先ずストッパを外す手数を必要とせず、フック・オフを握って開かせるだけでよいから作業上便利である。」(甲第10号証の摘記事項(ハ)を参照)からみて、「掛脱を容易にするものであって、人の手で開放方向又は閉鎖方向の力を加えることにより開閉及びその維持が可能なもの」であって、該内蔵型ストッパの機構上、上記抜去助力効果を奏することができないものと解され、むしろ、甲第9号証に記載されるようなロック機構と置換することを妨げる事情があるというべきである。
第二に、仮に、甲第10号証に記載されたものの内蔵型ストッパを甲第9号証に記載されるようなロック機構と置換しても、甲第10号証に記載されたものにおいては、クレーンの吊上げ動力を安全フックに作用させた際、重量物を吊上げる力の吊穴6への作用点が、重量物の重量のフック1への作用点に対して、重量物がフック1より外れるまで継続してフック1の開口側先端部31と反対側にあるとはいえないので、本件発明1が奏することができる上記抜去助力効果を奏することができるものということができない。
第三に、請求人が示した米国特許第1847819号明細書に記載されたものは、「ハンガー6に設けた帯環又は掛けがね7」及び「フック5に設けた肩部又は突起10」の組合せにより、「クレーンフック13を上昇させたとき、ハンガー6が帯環又は掛けがねを肩部又は突起10に対して引き上げ、それによって、フックの後端を傾斜位置に引き上げ、そして、フック5が荷から退く」(第1頁62行〜67行を参照)ものであるから、クレーンの吊上げ動力がフックを重量物から離すことに利用されている限度において、本件発明1の上記抜去助力効果と共通するものの、該共通する効果を奏するための手段が、「ハンガー6に設けた帯環又は掛けがね7及びフック5に設けた肩部又は突起10の組合せ」であって、本件発明1の上記特定構成Aとは別異の手段であるばかりか、それを示唆するものでもない。
したがって、該請求人の提示した例は、甲第10号証に記載されたものの内蔵型ストッパを甲第9号証に記載されるようなロック機構と置換することの動機付けにもならないし、また、甲第2号証記載のフック装置に、甲第10号証及び甲第9号証記載の、フック先端部と脱落防止部とを開口状態に保持するロック機構を組み合わせたものに、さらに、米国特許第1847819号明細書に記載された発明の技術思想を適用したとしても、フック先端部と脱落防止部とを開口状態に保持するロック機構とは別に、フックを傾斜位置に保持する機構を設けることにしかならず、やはり上記特定構成Aを導き出すことはできない。
してみると、本件発明1の構成要件(v)、すなわち、相違点6に係る本件発明1の構成は、甲第2号証記載の発明、甲第9、10号証記載の事項、及び、米国特許第1847819号明細書記載の周知事項に基づいて当業者が容易になし得たものとすることはできない。また、相違点6に係る本件発明1の構成は、他の甲各号証、すなわち、甲第1号証、甲第4号証、甲第5号証及び甲第11号証にも記載されていない。
そして、本件発明1は、(v)の構成要件を備えることにより、上述の顕著な抜去助力効果を奏するものである。
してみると、他の相違点1〜5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証及び甲第9〜11号証記載の発明、並びに、上記の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

(2)本件発明2〜4
本件発明2〜4は、本件発明1の構成要件すべてを、その発明の構成に欠くことができない事項とするものである。
したがって、本件発明2〜4も、本件発明1と同様の理由によって、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証及び甲第9〜11号証記載の発明、並びに、上記の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1〜4に係る特許を無効とすることはできない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-02-24 
結審通知日 2003-02-27 
審決日 2003-03-11 
出願番号 特願平4-267923
審決分類 P 1 112・ 121- Y (B66C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 舟木 進
清田 栄章
登録日 1998-10-02 
登録番号 特許第2833679号(P2833679)
発明の名称 重量物吊上げ用フック装置  
代理人 森 義明  
代理人 水野 喜夫  

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