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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01D 審判 査定不服 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01D 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01D |
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管理番号 | 1107175 |
審判番号 | 不服2001-21232 |
総通号数 | 61 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1993-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2001-11-29 |
確定日 | 2004-11-11 |
事件の表示 | 平成 3年特許願第270783号「フッ素系ガスの処理法」拒絶査定不服審判事件〔平成 5年 4月27日出願公開、特開平 5-103945〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯、本願発明 この審判事件にかかる出願(以下、「本願」という)は、平成3年10月18日の特許出願であって、その請求項1に係る発明は、平成16年7月15日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される「フッ素系ガスを含むガスをガス導入口およびガス導出口を備えた絶縁性真空容器に導入し、当該容器内圧力を0.01Torr〜1Torrの減圧下、当該容器の外部に配置した電極に100kHzから10GHzの電源周波数による高周波電磁界を印加することにより、当該容器内に無電極形式で高周波放電を形成し、フッ素系ガスを分解してフッ素ガスを生成させることを特徴とするフッ素系ガスの処理法。」である(以下、「本願発明」という)。 2.当審の拒絶理由 当審の平成16年5月14日付け拒絶理由通知書の概要は、本願発明は、特許出願前に頒布された下記刊行物1〜3(以下、「引用文献1〜3」という。)に記載された発明に基づいてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、及び、本願明細書の記載は技術背景と十分に整合していない点で、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項に区分していないか、或いは、発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載していないから、本願は特許法第36条第4項又は第5項及び第6項の規定を満たしていない、というものである。 3.刊行物 刊行物1:特開平2-131116号公報 刊行物2:梅田高照(外4名) 東京大学出版会 材料テクノロジー9材料のプロセス技術[I] 1987年11月30日初版 第109〜114頁 刊行物3:特開平1-143627号公報 3-1.刊行物1の記載内容 刊行物1には以下の事項が記載されている。 3-1-ア. 「プラズマ中に有機ハロゲン化合物を導入し、有機ハロゲン化合物の分解を行うようにしたことを特徴とするプラズマによる有機ハロゲン化合物の分解方法。」(請求項1) 3-1-イ. 「本発明は…(中略)…その目的は、フロン、トリクレン等の有機ハロゲン化合物を低濃度であっても高効率で分解することができるプラズマによる有機ハロゲン化合物の分解方法を実現することにある。」(第2頁左上欄第9-13行) 3-1-ウ. 「本発明者は、有機ハロゲン化合物を容易に分解できる方法について鋭意研究を続けてきた。この結果、高周波、マイクロ波による誘導加熱方式あるいは直流加熱方式等によって生成されたプラズマを用いた分解方法を見出した。」(第2頁左上欄第15-20行) 3-1-エ. 「分解される有機ハロゲン化合物は気体、液体、及び固体のすべてを含み、0.1ppmから100%までの濃度範囲で分解が可能である。また、分解を促進させるため、または分解生成物を安定な化合物とするため、水、水素、空気、酸素、金属酸化物等を添加してもよい。反応圧力は、0.0001気圧から5気圧の範囲が適当である。」(第2頁右上欄下から5行-同頁左下欄第3行) 3-1-オ. 「本発明によれば、廃棄物中あるいは排気ガス中のフロンやトリクレン等有機ハロゲン化合物を低濃度であっても高効率で分解することができる。」(第2頁左下欄下から3-1行) 3-1-カ. 「図中1は誘導プラズマ発生部(トーチ)であり、トーチ1は、石英等の絶縁性物質で形成された円筒状の管2、ガス供給ノズル3および管2の周囲に巻回されたRFコイル4等によって構成されている。…(中略)…トーチ1の下部には、トーチ内部と連通したチャンバー6が接続され、更にこのチャンバー6は分解ガス処理部7に接続されている。」(第2頁右下欄下から7行-第3頁第7行) 3-1-キ. 「実験装置では、前述の添附図面に示した構成に加え、チャンバー6と分解ガス処理部7との間にガスクロマトグラフ装置を配置して、プラズマからのガスの定性および定量分析を行った。又、使用した誘導プラズマ装置の諸条件は次の通りである。アルゴンガス流量40L/min、高周波電源…(中略)…周波数4MHz、反応圧力1気圧…(中略)…表1からわかるように、フロンガスを単独でプラズマ中に導入した場合、フロン分解率は99%以上となった。しかし、大量の炭素がチャンバー6の管壁に付着した。」(第3頁右上欄下から6行同頁左下欄下から4行) 3-2.刊行物2の記載内容 刊行物2には以下の事項が記載されている。 3-2-ア. 「さて、どのようなプラズマが薄膜プロセス技術に用いられているのであろうか。…(略)…ここで、放電に使用できる電磁波の周波数帯と光源として使用できる電磁波の波長域とを図4.6にまとめておく。…(略)…マイクロ波放電を使用する際の特長としては以下のことが挙げられる。…(略)…3)放電電極が不要のため、電極からの汚染を防げる。」(第112頁第11行-第114頁第5行) 3-2-イ. 「図4.6 薄膜作成において使用される電磁波の種類および波長,振動数,エネルギー」によれば、『高周波』の電磁波の範囲が約1KHzから約500MHzである。 3-2-ウ. 「表4.1低温プラズマの発生法」によれば、放電の種類が高周波の場合、プラズマへの電力の供給法は、容器の内部に電極を有しない無電極の型として容量結合のものと容器の外側にコイルを巻回した誘導結合のものがある。 3-3.刊行物3の記載内容 刊行物3には以下の事項が記載されている。 3-3-ア. 「ガス導入口とガス導出口を具備する管状容器内に陰極と陽極からなる少なくとも一対の電極を設けて構成した放電管と、該電極と接続される直流または交流電源と、および該放電管内に形成されたガス流路とを含む排ガス放電処理装置において、…(略)…該陰極の対向方向に直流または交流磁界を形成する磁界印加装置を該放電管に設けたことを特徴とする排ガス放電処理装置」(請求項1) 3-3-イ. 「本発明で対象とする被処理ガスは、CVD法もしくはプラズマエッチング法に於いて使用され、未処理のまま大気中に放出されれば何らかの災害や公害を引き起こす可能性を有する気体もしくは蒸気であり、とりわけ、従来の触媒反応や吸収・吸着等の化学的処理法で実施が容易でないガスである。例えば、…(略)…フルオロシラン系ガス等が挙げられる。…(略)…適用対象となり得るガスは上記のガスに限定されるものではなく、またこれらの混合物や水素、窒素及び不活性ガスで希釈されたものであっても差し支えない。」(第3頁右上欄10行-同頁左下欄13行) 3-3-ウ. 「本発明において使用する電源は、直流、交流、高周波のいずれでもよいが、位相整合の不要な直流及び交流が好ましく、アーク放電の持続防止のため交流電源がより好ましい。もっとも負荷範囲によっては必ずしもこの限りではない。」(第5頁右上欄第10-14行) 3-3-エ. 「実際の排ガス処理においては、上記したごとき構成を有する本発明の排ガス放電処理装置に於いて、ガス導入口5から被処理ガスを陰極対1、陽極対2及び磁界印加装置から成る磁界を重畳されたプラズマ空間に導入する。導入された排ガスは所定の滞留時間の間プラズマ反応により無害化処理された後に、ガス排出口6から排出され、…(略)…本発明において採用される負荷条件は約0.1mTorr〜10Torr程度である。」(第5頁左下欄下から7行-同頁右下欄第6行) 3-3-オ. 「ガス導入口5及びガス導出口6用の2インチのフランジを具備した内容積2Lのステンレス製真空容器8内に、幅20cm 長さ30cm 厚み2mmのステンレス板一対を2cmの間隔で対向させて陰極対1とし、該陰極対で形成される空間内に、陰極と直角方向に…(略)…幅1.5cm 長さ30cm 厚み2mmのステンレス板を対向させて陽極対2とした。」(第5頁右下欄下から9-1行) 4.対比、判断 4-1.特許法第29条第2項に関する理由1について 刊行物1の前記摘示箇所3-1-ア.、同3-1-イ.、同3-1-ウ.及び3-1-オ.は、有機ハロゲン化合物であるフロンガスをプラズマにより分解する方法を示し、同3-1-カ.及び同3-1-キ.は、そのプラズマによる分解方法の具体的な実例としては、トーチ1の圧力を1気圧として高周波電源から4MHzの高周波をRFコイルに供給して点火したプラズマ中にアルゴンガスとフロンガスを導入して分解を行うこと及び該トーチ1は、ガス供給ノズルとチャンバー6に連通した部分とを有する石英等の絶縁性物質で形成された円筒状の管2の周囲にRFコイルを巻回したものであることを示している。 これらの事項を総合的に勘案すると、刊行物1には、「ガス供給ノズルとチャンバー6に連通した部分とを有する石英等の絶縁性物質で形成された円筒状の管2にアルゴンガスと有機ハロゲン化合物であるフロンガスを導入して、1気圧の圧力で該円筒状の管2の周囲に巻回したRFコイルに4MHzの高周波を供給し、フロン等の有機ハロゲン化合物をプラズマで分解する方法」(以下、「刊行物1発明」という)が記載されていると認められる。 そこで、本願発明と刊行物1発明とを対比する。 刊行物1発明の「ガス供給ノズル」、「チャンバー6に連通した部分」、「石英等の絶縁性物質で形成された円筒状の管2」及び「アルゴンガスと有機ハロゲン化合物であるフロンガス」は、本願発明の「ガス導入口」、「ガス排出口」、「絶縁性真空容器」及び「フッ素系ガス」に、それぞれ相当する。また、刊行物1発明の「4MHzの高周波」は、本願発明の「100kHzから10GHzの電源周波数による高周波」に包含されるものであり、また、刊行物1発明のRFコイルを管2の周囲に巻回したものを用いてプラズマへの電力の供給を行う仕方は、刊行物2の2-2-ウ.で摘示した表4.1にも示されているように無電極に分類されるものであることから、刊行物1発明の「該円筒状の管2の周囲に巻回したRFコイルに4MHzの高周波を供給」することは、本願発明の「当該容器の外部に配置した電極に100kHzから10GHzの電源周波数による高周波電磁界を印可することにより、当該容器内に無電極形式で高周波放電」を形成することに該当し、刊行物1発明の「フロン等の有機ハロゲン化合物をプラズマで分解する方法」は、フッ素系ガスを分解してフッ素系ガスを処理する方法であるから、本願発明の「フッ素系ガスを分解」する「フッ素系ガスの処理方法」に該当する。 すると、両者は、「フッ素系ガスを含むガスをガス導入口およびガス導出口を備えた絶縁性真空容器に導入し、当該容器内に無電極形式で、当該容器の外部に配置した電極に4MHzの電源周波数による高周波放電により、フッ素系ガスを分解するフッ素系ガスの処理法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1.本願発明では当該容器内圧力を0.01Torr〜1Torrの減圧下とするのに対し、刊行物1発明では、1気圧である点 相違点2.本願発明では、フッ素系ガスを分解するにあたり、フッ素ガスを生成させるのに対し、刊行物1発明ではその記載がない点 以下、この相違点について検討する。 相違点1.について 3-1-エ.で摘示したように刊行物1には、反応圧力を0.0001気圧(0.076Torr)から5気圧(3800Torr)の範囲で設定することができることが記載されており、上記の技術背景を参酌するに、刊行物1発明における分解反応はこの範囲の低い部分(0.076〜1Torr)でも行われ得るものである。 すると、刊行物1発明において、設定可能な範囲の反応圧力として、0.076〜1Torrとすることは当業者が容易になし得たことである。 請求人は意見書で、刊行物1には反応圧力を0.0001気圧(0.076Torr)から5気圧(3800Torr)の範囲で設定することができることが記載されており、この範囲は低温プラズマから高温プラズマまでを含むが、刊行物1の特許公報に係る請求項1に高温プラズマを利用することが記載されていること、「0.0001気圧」の圧力で高温プラズマを発生させることができないことは当業者に明らかであること、及び、刊行物1のキャリヤーガスを注入する構成では100Torr(0.13気圧)以下の圧力にすることは困難であること、から、刊行物1には、高温プラズマを利用する点については具体的に記載されているが、低温プラズマを利用する点については具体的に記載されておらず、従って刊行物1には低温プラズマによって分解が可能であることについて、当業者が容易に実施できる程度に記載されていないこととなるから、刊行物1発明において当業者は圧力を「0.076〜1Torr」とすることはできない旨主張する。 請求人の主張は、概ね、1)刊行物1には、100Torr未満でフッ素系ガスの分解を行った実例がなく、2)「0.0001気圧」の圧力で高温プラズマを発生させることができないことは当業者に自明であり、3)刊行物1のキャリヤーガスを注入する構成では100Torr(0.13気圧)以下の圧力にすることは困難であり、4)刊行物1の特許公報の請求項1にも高温プラズマを利用すると記載されているのであるから、刊行物1には100Torr以下の圧力については、当業者が容易にその発明を実施できるように記載されていない、というものである。 1)の点について、フッ素系ガスの分解にあたり、刊行物1には100Torr未満で行った実例がないのは請求人の主張のとおりである。しかるに、刊行物2には、「図4.4に気体放電における圧力と電子温度およびガス温度との関係を示す…(略)…この低圧・低温プラズマを薄膜作製に主として用いる。」との記載があるように、10-2〜107Pa(7.5×10-5〜7.5×104Torr)の広範な圧力の範囲にわたってプラズマが生成すること、そのうちの低圧・低温プラズマを主として薄膜作製に用いる、すなわち、薄膜作製に用いられる原料ガス(なお、フッ素系のガスも従来から薄膜形成の原料として用いられている)は、薄膜形成の際に低温プラズマによって分解されることは、当業者の技術常識である(なお、刊行物3、特開昭56-116869号公報、特開昭60-245126号公報、特公昭51-28600号公報にも、低温プラズマでフッ素系のガスが分解する旨のことが示されているので、必要な場合、参照されたい)。 2)の点については、上記1)の点で説示したように、「0.0001気圧」では、発生するプラズマは低温プラズマであって、高温プラズマは発生しないことは技術常識であるが、この技術常識は、刊行物1発明において、0.076〜1Torrの範囲の圧力ではフッ素系ガスの分解が技術的に不可能であることを意味するものではない。 3)の点について、不活性ガス(アルゴンも含まれる)のキャリアーガスを用いて低圧(100Torr未満)でプラズマを発生できること、その際に不活性ガス(アルゴン)自体は化合物を形成しないこと、は従来から普通に知られていることである(必要なら、上記1)で示した、刊行物3、特開昭56-116869号公報、特開昭60-245126号公報、特公昭51-28600号公報を参照されたい。)。 4)の点について、刊行物1が特許された経緯をみると、進歩性に関する拒絶の理由が通知された際に、先行技術として提示された引用文献1〜3にはいずれも有機ハロゲン化合物の分解を低温プラズマで行う旨の事項が記載されており、その先行技術に係る部分を回避するために、「高温プラズマ」に係る補正がなされたのであって、刊行物1に係る明細書に対して記載不備(すなわち、「0.076〜1Torrの範囲の圧力」では発明の実施をすることができない旨)が拒絶の理由とされた結果、そのような補正がなされたわけではない。つまり、刊行物1の特許公報の「高温プラズマ」に係る補正は、特許査定にいたる過程で刊行物1の記載不備を是正するためになされたものではないから、刊行物1に「0.076〜1Torrの範囲の圧力」で分解を行った実例はなくとも、上述のように技術常識を参酌すれば、そのような低い範囲の圧力で低温プラズマによる分解を行い得ることは当業者に明らかである。 相違点2.について 刊行物1発明のフロンガスは、本願明細書に例示されているように本願発明のフッ素系ガスに該当するものであり、また、刊行物1発明のプラズマによる分解条件は、本願発明のプラズマによる分解条件と同じ周波数及び圧力下で行われるものであることを勘案すると、刊行物1発明における出発物質及び分解条件(反応形態)は、本願発明と同じであるので、刊行物1発明においても本願発明と同様の反応生成物が生成するといえる。 請求人は意見書で、刊行物1は高温プラズマを利用するものであり、低温プラズマを利用する本発明とは反応形態に差があり、高温プラズマと低温プラズマは、イオンの温度差によりエネルギーが異なり、反応形態、反応生成物等に差が発生することは容易に理解できるところ、拒絶理由通知書の4で引用した特開平3-89920号公報の実施例は、刊行物1と同じ高温プラズマによる処理であるため、特開平3-89920号公報と刊行物1は同様の反応物が生成すると推測され、刊行物1でもフッ素ガスは生成せず、フッ化物イオンが生成する旨主張する。 一般にプラズマ反応では、反応形態の違い(高温プラズマか低温プラズマか、出発物質の成分及びその量比(濃度)、反応時間など)によって、反応生成物に差が生じる可能性のあることは確かである。しかしながら、刊行物1には、出発物質として水が添加された場合にも「この場合、気相には塩化水素等のハロゲン化水素および少量のハロゲンガスが検出された。」と記載されており、この場合には、ハロゲン化水素だけでなく、ハロゲンガスも検出されている。 そして、(本願発明の)低温プラズマでも(刊行物1、特開平3-89920号公報の)高温プラズマでもプラズマ中で出発物質(フロンガス)を分解するという点では同じであるから、当該差違のみに基づいては、直ちに反応生成物が必ず異なることになるとまではいえず、むしろ類似する反応が生ずると解すべきである(なお、特開平3-89920号公報では、HCl、HFが生成する理由として「有機ハロゲン化物としてトリクロロフルオロメタン(CCl3F)をプラズマ中で分解させた場合、水との間で、次の反応が生じる。CCl3F+2H2O=CO2+3HCl+HF」と記載されている。上記式から、ハロゲン化水素(HCl、HF)は、当量の水(H2O)と反応して生成したものであるのに対し、刊行物1発明は水を添加しない点で出発物質が相違する。)。 また、本願発明の効果について検討するに、無電極形式にすれば電極が損傷しない或いは電極からの汚染がないことは、刊行物2の3-2-ア.にも示されているように無電極で行う際に当然に予期されることである。そして、反応生成物は、出発物質及びその反応形態によって決まるのであるから、上述したように刊行物1発明(ハロゲンガスが生成する)は、本願発明と出発物質及びその反応形態に差違がない以上、その反応生成物も同じとなるはずであり、刊行物1発明でも一部ハロゲンガスが生成していることを考えると、「フッ素ガスを生成させる」ことは格別に予想しがたい効果とはいえない。 したがって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4-2.特許法第29条第2項に関する理由2について 刊行物3の3-3-エ.で摘示した事項によれば、刊行物3に記載の排ガス処理とは、無害化処理する方法を示すものであるから、3-3-ア.、3-3-ウ.、3-3-エ.、3-3-オ.で摘示した事項を総合的に勘案すると、刊行物3には、「被処理ガスを、ガス導入口およびガス導出口を有するステンレス製真空容器に導入し、当該容器内圧力を0.1mTorr〜10Torrの減圧下、電極に直流または交流電源を供給し、陰極対1、陽極対2及び磁界印加装置から成る磁界を重畳されたプラズマ空間に導入して無害化処理する方法」(刊行物3発明)が記載されている。 そこで、本願発明と刊行物3発明とを対比する。 刊行物3発明の「被処理ガス」とは、3-3-イ.で摘示した事項によれば、プラズマエッチング法において使用される、従来の処理法では処理が困難なガスであるところ、そのようなエッチングガスとしてフルオロシラン系ガスはフッ素系ガスに含まれるものであるから、刊行物3発明の「被処理ガス」及び「無害化処理する方法」は、本願発明の「フッ素系ガス」及び「フッ素系ガスの処理方法」に、それぞれ相当する。 すると、両者は、「フッ素系ガスを含むガスをガス導入口およびガス導出口を備えた真空容器に導入し、当該容器内圧力を0.01〜1Torrの減圧下、フッ素系ガスを分解するフッ素系ガスの処理法。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点 本願発明では、絶縁性の真空容器を使用し、無電極形式で、当該容器の外部に配置した電極に100kHzから10GHzの電源周波数による高周波電磁界を印加することにより形成される放電により、フッ素系ガスからフッ素ガスを生成させるのに対し、刊行物1には電極に印加する電源として高周波でもよい旨の記載はあるものの、本願発明の上記の技術的事項の記載はない点 以下、この相違点について検討する。 刊行物2は、薄膜形成に使用することができるプラズマ発生の仕方を示す技術に関するものであるが、上述のようにプラズマによる薄膜形成は、薄膜形成に関与する気体の成分をプラズマにより分解して基板の表面に堆積させるものであるから、プラズマを発生させて気体成分を分解させるという点において、刊行物2と刊行物3の技術は共通する部分を有している。 また、刊行物2の3-2-イ.には、プラズマを発生する際の高周波として、約1KHzから約500MHzがあることが、同3-2-ウ.で摘示した表4.1には、低温プラズマの発生法としては、内部電極型及び無電極型があることが、同3-2-ア.には内部電極を使用しない発生法を採用することにより電極からの汚染を防ぐことができることが、それぞれ示されている。ここで、電極からの汚染を防ぐことができるということは、内部電極を使用する場合には、電極からの汚染が発生することを意味するが、このような汚染が望ましくないことは、ガスの分解処理においても同じである。 すると、無電極型のプラズマ発生法を採用することの示唆は刊行物3に記載はないものの、本願の時点において、上記内部電極型に起因する公知の問題点を考慮して、該公知の問題点を回避するために、電極の損傷や電極からの汚染が起こらない無電極型の高周波によるプラズマ発生手段を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。 請求人は意見書で、刊行物3には、『本発明において使用する電源は、直流、交流、高周波のいずれでもよいが、位相整合の不要な直流及び交流が好ましく、アーク放電の持続防止のため交流電源がより好ましい。』と記載されており、上記「交流」が「高周波」と区別して記載されていることから、「低周波」であるのは明らかであること、刊行物3の実施例では直流を用いていること、本発明は無電極形式高周波放電によるプラズマを利用するのに対し、刊行物3は直流あるいは低周波交流による電極放電形式プラズマを利用する点において相違すること、刊行物2にはCVDのような薄膜形成のための無電極形式の高周波放電による低温プラズマが記載されているが、このような薄膜形成のための無電極形式の高周波放電プラズマに関する刊行物2の記載が、そのまま刊行物3の直流あるいは低周波交流によるプラズマに適用されるのか不明であること、仮に適用されるとしても、刊行物2は薄膜形成が目的であるため、電極の損傷物による薄膜の汚染について記載されているに過ぎず、電極の損傷物による汚染が問題にならないガス処理に刊行物2の記載がそのまま刊行物3に適用できるのか不明であること、本発明は刊行物3とは構成、効果が相違しており、刊行物3と刊行物2を組み合わせても、当業者が容易に発明できたものではないことの旨を主張する。 請求人の主張は概ね、1)刊行物3では直流及び交流が好ましいとされ、その実施例では直流を用いているから、刊行物3は直流あるいは低周波交流による電極放電によるプラズマを利用するものであり、これに対し本願発明は無電極形式高周波放電によるプラズマを利用する点で相違するものであり、2)刊行物2は薄膜形成が目的であるため、電極の損傷物による汚染が問題にならないガス処理である刊行物3に、刊行物2の記載がそのまま適用できるのか不明であり、3)本願発明は刊行物3とは構成、効果が相違しているから、刊行物3と刊行物2を組み合わせても、当業者が容易に発明できたものではない、というものであると認められる。 1)の点については、刊行物3には「本発明において使用する電源は、直流、交流、高周波のいずれでもよい」とされているのであるから、刊行物3が直流あるいは低周波交流による電極放電によるプラズマを利用するものだけに限定されることはない。 2)の点については、上記4-1の「相違点1.について」で説示したように、薄膜形成時にはガスの分解反応が起こっているのであるから、刊行物2の技術を刊行物3発明に適用可能なことは当業者に明らかである。 3)の点について、請求人の主張の要点が何であるかは不明な部分があるが、構成に相違があること自体は組み合わせを阻害する要因ではない。同様に刊行物3の効果が本願発明と相違すること、それ自体も、刊行物2の発明と刊行物3の発明との組み合わせを阻害する要因にはならない。 また、本願発明により奏される効果について検討しても、刊行物2及び3の記載からみて格別予想しがたい効果は認められない。 したがって、本願発明1は、刊行物2及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.明細書の記載不備について 本願明細書の請求項1には「フッ素系ガスを含むガスを分解してフッ素ガスを生成させる」との記載があり、本願明細書には「フッ素系ガス」にフロンガスが含まれることが記載されている。 一方、特開平3-89920号公報の実施例には、水蒸気、アルゴンガス、フロンガス(CCl3F)とを混合し、この混合ガスをプラズマ反応法により分解を行う際の反応として、CCl3F+2H2O=CO2+3HCl+HFとなることが記載されている。 請求人は、本願発明では低温プラズマを用いるからフッ素ガスが発生するのに対し、上記特開平3-89920号公報では高温プラズマを用いるからフッ化物イオン(上記の式中のHF)を生成する旨主張する。 特開平3-89920号公報には「有機ハロゲン化物としてトリクロロフルオロメタン(CCl3F)をプラズマ中で分解させた場合、水との間で、次の反応が生じる」と記載されており、この記載からは、上記HCl及びHFが水と反応して生成したものであることは明らかである。またこの点について、刊行物1には、(刊行物1発明に係るフロンガスとキャリアーガスのほかに何も添加しない場合のほかに)水や酸化カルシウムを添加して、HF、HCl、CaF2、CaCl2を生成する場合が示されており、酸化カルシウムを加える場合には、3-1-エで摘示したように、分解を促進させるためかまたは分解生成物を安定な化合物とするために添加してもよいとされている。すると、特開平3-89920号公報や刊行物1の記載からは、水や酸化カルシウムがなければ、該添加物との反応は起きないために、フッ化物(HF、CaF2)が生成できないことは明らかである。 つまり、4-1.の相違点2について、で説示したように、一般に、反応形態の違い(高温プラズマか低温プラズマか、出発物質の成分及びその量比(濃度)、反応時間など)によって、反応生成物に差が生じる可能性はあると考えられるのであるところ、反応形態の異同とは、本願発明において単に高温プラズマか低温プラズマかという点だけでなく、出発物質の点についても考慮する必要がある。上記のように特開平3-89920号公報や刊行物1の添加物を加える場合にハロゲン化水素が生成するのは、まず、出発物質が異なっている点を考慮すべきであるのに対しが、請求人の反応生成物が異なるとする主張の根拠となる、本願明細書で示された実例では、いずれもHFやHCl中のHの供給源となるH2Oが反応系内に含まれないものであって、請求人はこのような出発物質の違いが問題とならずに、単に低温プラズマと高温プラズマとの違いによること、すなわち、反応系中にHFやHClの当量となるH2Oの供給がなくてもフッ素ガス(F2)が生成する理由については十分に釈明していない。 したがって、請求人の主張は十分に裏付けられてはいないから、依然として、本願明細書には、本願発明に係る全てのフッ素系ガスの場合にもフッ素ガスを生成させる点について、当業者が容易にその実施をできる程度に記載されていないか、或いは、特許請求の範囲には発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されてはいない。 6.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、当審で通知した上記拒絶理由通知に引用したその出願前日本国内において頒布された上記の引用刊行物1、2又は2、3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、また、本願明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をできる程度には記載されていないか、或いは、同特許請求の範囲には構成に欠くことのできない事項のみが記載されていないから、本願は特許法第36条第4項又は第5項及び第6項の規定を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-09-15 |
結審通知日 | 2004-09-21 |
審決日 | 2004-09-30 |
出願番号 | 特願平3-270783 |
審決分類 |
P
1
8・
534-
WZ
(B01D)
P 1 8・ 121- WZ (B01D) P 1 8・ 532- WZ (B01D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 森 健一 |
特許庁審判長 |
石井 良夫 |
特許庁審判官 |
金 公彦 中村 泰三 |
発明の名称 | フッ素系ガスの処理法 |
代理人 | 柳原 成 |