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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服2004124 審決 特許
異議199971488 審決 特許
審判19984525 審決 特許
審判199721136 審決 特許
異議199876214 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1107277
審判番号 不服2003-19702  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-03-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-10-08 
確定日 2004-11-15 
事件の表示 特願2000-236940「ホルモン受容体組成物および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月21日出願公開、特開2001- 69998〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本願は、昭和62年10月23日に出願した特願昭62-507128号の分割出願である特願平9-76419号のさらに分割出願である特願平10-231046号の一部を、平成12年8月4日に新たな特許出願としたものである(パリ条約に基づく優先権主張1986年10月24日、1987年10月20日、米国)。そして、本願の発明は、平成15年11月7日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜9のうち、必須要件項として記載された請求項1、4、5及び9に記載された次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】次の(a)〜(d)のいずれかの単離された蛋白質:
(a) 配列番号3で特定されるアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b) 配列番号3で特定されるアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつエストロゲン関連受容体に特有の結合特性および/又はエストロゲン関連受容体に特有の転写活性化特性を有する蛋白質;
(c) 配列番号4で特定されるアミノ酸配列からなる蛋白質;並びに
(d) 配列番号4で特定されるアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつエストロゲン関連受容体に特有の結合特性および/又はエストロゲン関連受容体に特有の転写活性化特性を有する蛋白質。」(以下「本件発明1」という。)
「【請求項4】 配列番号3で特定されるアミノ酸配列からなる哺乳類のステロイド系ホルモン受容体hERR1、および配列番号4で特定されるアミノ酸配列からなる哺乳類のステロイド系ホルモン受容体hERR2、よりなる群から選ばれる実質的に純粋な受容体蛋白質。」(以下「本件発明2」という。)
「【請求項5】 細胞内で蛋白質を製造する方法であって、当該蛋白質は遺伝子によってコードされており、そして、ここで、前記細胞は、次の(a)〜(d):
(a) 配列番号3で特定されるアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b) 配列番号3で特定されるアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつエストロゲン関連受容体に特有の転写活性化特性を有する蛋白質;
(c) 配列番号4で特定されるアミノ酸配列からなる蛋白質;
(d) 配列番号4で特定されるアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつエストロゲン関連受容体に特有の転写活性化特性を有する蛋白質
から選択される受容体をコードする非内在性DNAを発現し;
(1) (i)ホルモン若しくはその同族体、及び(ii)前記選択された受容体を含む複合体によって活性化されうる転写制御要素の制御下において、前記遺伝子を前記細胞内に配置し、ここにおいて、前記複合体が前記転写制御要素に結合していると活性化が生じる;
(2) 前記細胞を前記選択された受容体をコードするDNAで形質転換し;そして
(3) 前記遺伝子の発現を誘導及び制御し、それによって上記蛋白質を製造するのに十分なまで、上記ホルモンの濃度を増大させる
ことを含む、前記方法。」(以下「本件発明3」という。)
「【請求項9】 遺伝子によってコードされる蛋白質を製造するために細胞を工学処理するための方法であって、
(1) (i)ホルモン若しくはその同族体、及び(ii)受容体を含む複合体によって活性化されうる転写制御要素の制御下において、前記遺伝子を前記細胞内に配置し、ここにおいて、前記受容体は以下の(a)〜(d):
(a) 配列番号3で特定されるアミノ酸配列からなる蛋白質;
(b) 配列番号3で特定されるアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつエストロゲン関連受容体に特有の転写活性化特性を有する蛋白質;
(c) 配列番号4で特定されるアミノ酸配列からなる蛋白質;及び
(d) 配列番号4で特定されるアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつエストロゲン関連受容体に特有の転写活性化特性を有する蛋白質
から選択される、ここにおいて、前記複合体が前記転写制御要素に結合していると活性化が生じる;
(2) 前記細胞を前記選択された受容体をコードするDNAで形質転換し;そして
(3) 前記遺伝子の発現を誘導及び制御し、それによって上記蛋白質を製造するのに十分なまで、上記ホルモンの濃度を増大させる
ことを含む、前記方法。」(以下「本件発明4」という。)

2.原査定の理由
一方、原査定の拒絶の理由の概要は、次の通りである。
理由1:請求項1〜9に記載の本件発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない。
理由2:本出願は、特許法第36条第3項または第4項に規定する要件を満たしていない。
理由3:請求項1〜9に記載の本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.理由2のうち特許法第36条第3項の要件についての判断
(1)本願の発明の詳細な説明における本件発明に関する記載
請求項1に記載の「配列番号3のアミノ酸配列からなる蛋白質」(以下、「hERR1」という。)及び「配列番号4のアミノ酸配列からなる蛋白質」(以下、「hERR2」という。)なるものについて、本願の発明の詳細な説明には、概略、以下の(a)〜(k)の事項が記載されている。
(a)ヒトエストロゲン受容体cDNAの高度に保存されたDNAタウ領域をハイブリダイゼーションプローブとして使用して、ヒト精巣cDNAライブラリーの分析により、エストロゲン受容体をコードするDNAと部分的に配列相同を示すクローン(ラムダ hT16と命名)を得、これを使用してヒト胎児腎臓および成人心臓cDNAライブラリーをスクリーニングし、それにより3個の追加クローンを同定したこと(段落171の「V.B.受容体hERR1のcDNAクローン」の欄)
(b)腎臓ライブラリーからの2個のクローン(ラムダ hKE4およびラムダ hKA1)はラムダ hT16と同じ遺伝子産物を表し、心臓クローン(ラムダ hH3)は部分的に関連しているにすぎなかったこと(同上)、
(c)ラムダ hT16、ラムダ hKE4およびラムダ hKA1の配列から決定したcDNAの塩基配列、及びそれがコードする蛋白質産物(hERR1)のアミノ酸配列は、第34図および35図に記載のとおりであること(同上)
(d)ラムダ hH3から決定したcDNAの塩基配列、及びそれがコードする蛋白質産物(hERR2)のアミノ酸配列は、第37図および38図に記載のとおりであること(段落171の「V.C.受容体hERR2のcDNAクローン」の欄)
(e)推定されたhERR1及びhERR2ポリペプチドは、ステロイド受容体の予測されたドメイン構造を含み、hERR1、hERR2、hER及びhGRの比較(図39)により、これらの蛋白質の間には、最高の相同度がhERR1のアミノ酸175から240までの66個のアミノ酸のシステインに富む領域(ステロイドホルモン受容体のDNA-タウドメイン)に見られること(段落171の「V.D.受容体hERR1およびhERR2の特性決定」の欄)
(f)プローブとしてラムダ hKA1を用いることにより、hERR1をコードする2.6kb mRNAが検査したすべてのラットおよびヒト組織に検出され、小脳及び海馬では高レベルで、肝臓、肺、精嚢及び脾臓では最低レベルで検出されたこと(段落171の「V.E.受容体hERR1およびhERR2のmRNAの組織分布」の欄、第40(A)図)
(g)hERR2をコードするmRNAの分布は極めて低レベルのmRNAが検出される少数の特定組織に限られること(段落171の「V.E.受容体hERR1およびhERR2のmRNAの組織分布」の欄、第40(B)図)
(h)推定上のhERR蛋白質は、エストロゲンとは異なるクラスのステロイドホルモンと相互作用することが推測されること(段落171の「V.E.受容体hERR1およびhERR2のmRNAの組織分布」の欄、第40(B)図)
(i)ステロイド結合実験ではエストロゲン及びアンドロゲンを含む主要クラスのステロイドとの結合を証明できなかったこと(段落171の「V.F.hERR1とhERR2との相同性」の欄)
(j)hERR1及びhERR2の機能が見落されたのは、多分、その活性の多くは非定形の作用として分類される差異をもつ他の受容体に誤って属するとみなされたのであろうこと(段落172の「V.G.結論」の欄)
(k)この2種類の新規なステロイドホルモン受容体cDNAの単離は、新しいホルモン応答系の同定へ向けて第一歩を踏み出すことになろうこと(同上)

(2)実施可能要件の判断
次に、以上のような本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件発明1を当業者が容易に実施できる程度のものであるか否かについて検討する。
上記(1)の(a)〜(e)のようなhERR1及びhERR2遺伝子のクローニング手法や、その配列に関する情報からは、hERR1及びhERR2の技術的に意味のある用途を推認することはできない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明においては、hERR1とhERR2の機能に関しては、上記(1)の(f)〜(k)のような記載がある。
しかし、(f)及び(g)のようなhERR1とhERR2の組織分布に関する情報が得られているからといって、それにより何らかの技術的に意味のある現実的用途が推認できるわけでもない。また、(h)のような相互作用の推定は、(i)の、主要クラスのステロイドとの結合が証明できなかったとの記載からも明らかなように、そもそもhERR1とhERR2が具体的にどのような物質(リガンド)と結合し相互作用をするのかが不明なのであるから、そのような相互作用を何らかの目的で利用することはできない。さらには、(k)のような、将来的な機能解明への第一歩であるという程度の記載によって、何らかの技術的に意味のある現実的用途が推認できるとは到底いえない。

(3)審判請求書における請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「本願明細書は、hERR1及びhERR2がDNAに結合し、よって、これらの蛋白質が遺伝子の上方制御又は下方制御に関与しうることを、明確に開示している。」、及び「本願のhERR1及びhERR2蛋白質は、ステロイドホルモン受容体スーパーファミリーのメンバーに結合すると推測されるあらゆるリガンドを、さらに特性付けするために使用しうる。」と主張している。しかし、いずれも、本願の発明の詳細な説明において本件発明の受容体のリガンドが明らかにされていない以上、単なる将来の可能性に過ぎず、本願の出願時点において本件発明が実施できるように記載されていた根拠にはならない。
また、請求人は、その他に、本件発明の蛋白質の使用態様として、ホルモン受容体遺伝子のプローブとして使用できる、及び、X線解析により構造を調べることができると主張している。しかし、前者は受容体蛋白質の用途ではないし(仮に、遺伝子に係る請求項があり、それが本件発明の受容体蛋白の遺伝子の検出やクローニングに使えるとした場合であっても、そもそも本件発明の受容体蛋白自体の有用性が不明なのであるから、そのような蛋白の遺伝子の検出やクローニングにも有用性が認められない)、後者は、単に研究対象となりうるというだけであって、どのような物質でも有する程度の、産業上の利用とは直接的に関連しない学術的な用途であるから、技術的に意味のある現実的用途の存在を示すものとはいえない。

(4)結論
したがって、本件発明1については、その技術的に意味のある用途が推認できず、どのように使用できるのかが不明であるから、当業者が容易にその実施ができる程度に、本願明細書の発明の詳細な説明にその目的、構成及び効果が記載されているとは認められない。
また、本件発明2〜4についても同様である。特に、本件発明3及び4は、本件発明1又は2の受容体蛋白質のリガンドであるホルモンを使用して「上記蛋白質を製造するのに十分なまで、上記ホルモンの濃度を増大させる」ことを、その発明の構成の欠くことができない事項としているが、そもそも本件発明1又は2の受容体蛋白質のリガンドすなわちホルモン自体が不明なのであるから、このような発明を容易に実施することはできないことは明らかである。

4.理由2のうち特許法第36条第4項の要件についての判断
本件発明1の構成に欠くことができない事項として記載されている「エストロゲン関連受容体に特有の結合活性及び/又はエストロゲン関連受容体に特有の転写活性化特性を有する蛋白質」の意味が発明の詳細な説明の記載を参酌しても明らかでない。そもそも本件発明1の受容体蛋白質のリガンドが不明なのであるから、その結合活性や転写調節活性自体がどのようなものであるのかが不明瞭であり、本件発明1の構成の構成に欠くことができない事項が不明瞭であるといわざるを得ない。
同様の特定事項を含む本件発明2〜4についても同様である。

5.理由3についての判断
(1)本願における優先権の主張について
本願はパリ条約に基づく優先権の主張をするものであるが、そのうちの1986年10月24日付けの米国出願第922585号に基づくものについては、該米国出願中には、ステロイドホルモン受容体又は甲状腺ホルモン受容体についての一般的記載や、グルココルチコイド受容体、ミネラルコルチコイド受容体、及び甲状腺ホルモン受容体のアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列についての記載はあるものの、本件発明のhERR1及びhERR2については具体的記載は一切なく、当業者がその製造ができる程度に記載されていないから、本件発明については、その優先権の利益は享受できない。すなわち、本件発明の優先権については、1987年10月20日付けの米国出願第108471号に基づく主張のみが認められる。

(2)引用例
原審で引用されたScience,1986,231,p.1150-1154(引用例2)には、以下のような記載がある。
(a)「真核細胞においてエストロゲンレセプターや他のステロイドホルモンレセプターが遺伝子発現を制御する機構は十分にわかっていない。本研究において、ヒト乳癌MCF-7細胞由来エストロゲンレセプターのmRNAにおける全翻訳領域を含むcDNAクローンの配列が決定され、続いてチャイニーズハムスター卵巣(CHO-K1)細胞において機能性蛋白を得るべく過発現された。cDNA中のORF1785塩基対は595アミノ酸よりなるポリペプチドをコードし、その分子量は66,200であったが、これはすでに報告されているエストロゲンレセプターの分子量65,000〜70,000の値とよく一致した。チャイニーズハムスター卵巣細胞の均質細胞抽出液は、チミジンラベルされた(〔3H〕)エストラジオールと結合し、かつ塩を含むショ糖グラジェントにおいては4S複合体として沈降され、塩を含まない場合には8または9S複合体として沈降される蛋白質を含有していた。このレセプター-〔3H〕エストラジオール複合体と霊長類ER特異的モノクローナル抗体との相互作用は、発現されたcDNAがヒトエストロゲンレセプターであることを特性づけるものであった。アミノ酸配列の比較により、ヒトヱストロゲンレセプター、ヒトグルココルチコイドレセプターと推定上のv-erbA 癌遺伝子産物の間に、有意な部分的相同性があることが明らかとなった。このことは、ステロイドレセプター遺伝子と鳥類赤血球芽細胞ウイルスの癌遺伝子が、共通の起源をもつ遺伝子に由来することを示唆している。そのシステイン、リシン、およびアルギニンに富む相同性の高い領域は、これら蛋白質のDNA結合領域であるだろう。」(1150頁要約)
(b)ヒトヱストロゲンレセプターのcDNAの塩基配列及びそれがコードするアミノ酸配列(図1)
(c)「ヒトERとGR(12,20)のアミノ酸配列を比較した結果、著しい相同性がシステイン、リジン及びアルギニンに富む領域において見られた(図3)。この領域は、ERとGR双方のカルボキシル末端から300〜350アミノ酸残基の位置に存在する。ERの185〜250残基、GRの421〜486残基(66アミノ酸)において、40残基(61%)が一致している。」(1153頁左欄下から3行〜中欄7行)
(d)ヒトグルココルチコイドレセプター、ヒトヱストロゲンレセプター及びv-erbA 癌遺伝子産物のアミノ酸配列の比較(図3)
また、原審で引用されたNature,1986,320,p.134-139 (引用例1)にも、引用例2と同様に、ヒトエストロゲン受容体(ER)の全長cDNAに関し、そのクローニング方法、塩基配列及びそれがコードするアミノ酸配列(特に第2図参照)が記載されている。

(3)進歩性の判断
あるタンパクをコードするDNAを取得することは、本願優先日前において当業者に周知の課題である。そして、既知のタンパクをコードするDNAの一部をプローブとして用いて、該タンパクに関連するタンパク(異なる生物種の同種タンパク、同じ生物種のタンパクファミリー等)をコードするDNAをいわゆるハイブリダイゼーション法等を用いたクローニングにより取得することは、本願の優先日当時、当業者にとって周知技術であり、そのような手法により種々の遺伝子のクローニングが行われていた。
そして、引用文献2には、上記記載事項(c)のように、ステロイド受容体であるヒトERとGRとの間に、DNA結合領域と思われる部位においてアミノ酸配列の高い相同性が見られることが記載されている。また、原審で引用されたCell,1986,46,p.645-652(引用例3。なお、原審の平成14年12月13日付けの拒絶理由通知書中においては、本引用例の表示が「Cell,1987,49,645-652」と誤っているが、意見書や審判請求書における請求人の主張をみる限り、その誤記によって請求人の主張が不十分なものになったとは認められない。)には、ステロイドホルモン受容体であるヒトグルココルチコイド受容体について、それをコードするDNAセグメントを得てその配列を解明し、当該DNAを発現させて受容体蛋白質を生成させ、当該蛋白質のホルモン結合性および転写活性化特性を確認したこと、当該DNAについて機能区のマッピングを行うためにリンカー挿入変異体を作成したこと、それによりDNA結合領域、ステロイド結合領域等を推定したこと、及び、このうちDNA結合領域は各種ステロイドホルモン受容体について保存性の高い領域であることを確かめたことが記載されている。さらに、原審で引用されたEMBO J,1986,5,p.2231-2236(引用例4)、Cell,April 10, 1987,49,p39-46(引用例5)、及びScience,April 24, 1987,236,p.423-427(引用例6)にも、ステロイドホルモン受容体には、DNA結合ドメインとして機能する高度に保存された領域が存在することが記載されている。
そうすると、グルココルチコイドと同様にステロイドホルモン受容体の一種であるエストロゲン受容体と関連する蛋白質(ファミリー)をコードするDNAを得るために、引用例1、2に記載される配列に基づいて引用例2〜6に記載される保存性の高いDNA結合領域に対応するポリヌクレオチドからなるプローブを作成し、適当なヒトゲノムライブラリーについてハイブリダイズ法を適用してDNAのクローニングをしようとすることは、当業者であれば容易に想到することである。そして、該DNAをそのような手法で得、それを発現させて本件発明1、2のhERR1及びhERR2を得ることは、当業者が容易になし得たことである。また、得られたDNAを引用例3に記載されたバイオアッセイ法に用い、また、蛋白質の生成を誘導するために用いることも当業者が周知技術に基づいて容易になし得たことであるから、本件発明3、4についても同様である。
そして得られたDNAについて具体的な機能等が開示されていない以上、本件発明により上記引用例及び周知技術から予測しえない有利な効果が奏されたと認めることもできない。

(4)審判請求書における請求人の主張について
請求人は、審判請求書において以下のように主張している。
(i)引用例1〜6に記載されたhER、hGRは、本件発明のhERR1及びhERR2と比較して、全体的なアミノ酸配列は大きく相違する別物質である。
(ii)全体的な配列が大きく違うことは、本件発明のhERR1及びhERR2を初めて得るに際しては全く不明であった。
(iii)hER、hGRのDBD領域に限定しても、本件発明と公知の蛋白質とのアミノ酸の同一性は最高でも68%である。このような低い相同性でハイブリダイズ法を適用しても、hERR1及びhERR2をコードする遺伝子を得ることは容易でなかった。
(iv)本願の優先日当時のハイブリダイゼーション法は未発達であり、hERR1及びhERR2を得ることは容易でなかった。
(v)本願発明の効果に関し、hERR1及びhERR2の発見は驚くべきものであり、予想外のものであった。
しかし、(i)、(ii)については、本件発明のhERR1及びhERR2が各引用例に記載された物質と別物質であったり、全体的な配列が大きく相違するとしても、すでに述べたように、各種ステロイド受容体には、部分的に相同性の高い領域が存在することが知られているのであるから、その領域の配列を用いてプローブを作成し、ハイブリダイゼーション法を用いれば、本件発明のhERR1及びhERR2をコードするDNAは容易に得られ、その配列決定により、本件発明のhERR1及びhERR2のアミノ酸配列を決定することは容易に行うことができる。そのようなクローニング及び配列決定の容易性は、両物質が別物質であることや、全体的な配列の相違によって左右されるものではない。
(iii)、(iv)については、類似する新規な遺伝子をクローニングするに際しては、相同性の低い遺伝子は、厳格な条件であればハイブリダイズ困難だが、緩和された条件下ではハイブリダイズが可能であることは、当該技術分野における技術常識であり、その条件を適宜調節することは当業者が容易に行うことができることである。そして、公知の蛋白質と本件発明のhERR1及びhERR2のDBD領域程度の相同性を有すれば、公知の蛋白質のDBD領域のアミノ酸配列に基づき設計したプローブにより、遺伝子をクローニングすることが可能であると認められる。
なお、このように相同性がそれほど高くないファミリー遺伝子のクローニングについては、例えば、本願の優先日前に頒布された刊行物であるMethod in Enzymology, Vol.100, p.266-285 (1983)には、
(a)多重ファミリー遺伝子の研究における第一段階として、緩和なハイブリダイズ条件でファミリーの全メンバークローンをクローニングし、第二段階として、各クローンを識別するために、より厳格な条件でハイブリダイズを行うこと、
(b)相互の相同性が低い、蚕のコリオンファミリーにおいて、上記(a)の方法を適用した結果、ミスマッチングが1〜50%のものが発見され、異なるタイプに属するもの(ミスマッチングが10〜50%のもの)から、同一のタイプのもの(ミスマッチングが1〜5%のもの)までに分類されたこと、
等が記載されている(特に、266頁下から4行〜268頁2行、276頁13〜281頁16行、第3〜5図を参照)。
(v)については、すでに、各種のステロイド受容体ファミリーが存在することが知られ、その遺伝子のクローニングもされており、また、hERR1及びhERR2の機能については、本願明細書においてはその使用が可能となる程度の開示がされていないことはすでに述べたとおりであるから、このような新たな受容体ファミリーの発見が特に驚くべきことということはできない。
以上の通りであるから、請求人のこれらの主張は採用することができない。

(5)結論
したがって、本件発明1〜4は、引例1〜6の記載に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.請求人の提示した補正案について
なお、請求人は、審判請求書において補正案を提示している。しかしながら、それは請求項間の記載の整合をとるための軽微な補正に関するものであり、上記した判断に影響を及ぼすものではない。
7.むすび
したがって、理由1については判断するまでもなく、本願は、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしておらず(理由2)、また、本件発明は、引用例1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(理由3)。
よって、結論の通り審決する
 
審理終結日 2004-06-16 
結審通知日 2004-06-18 
審決日 2004-07-06 
出願番号 特願2000-236940(P2000-236940)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 531- Z (C12N)
P 1 8・ 532- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 胡田 尚則光本 美奈子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 佐伯 裕子
種村 慈樹
発明の名称 ホルモン受容体組成物および方法  
代理人 社本 一夫  
代理人 泉谷 玲子  
代理人 千葉 昭男  
代理人 富田 博行  
代理人 増井 忠弐  
代理人 小林 泰  

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