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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  G02B
審判 査定不服 2項進歩性 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  G02B
管理番号 1107308
審判番号 不服2003-14198  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-12-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-24 
確定日 2004-12-07 
事件の表示 平成 6年特許願第118810号「偏光板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年12月12日出願公開、特開平 7-325220、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年5月31日の出願であって、平成14年12月12日付けで最初の拒絶理由通知がなされ、それに対し平成15年2月13日付けで手続補正書が提出され、更にそれに対して平成15年3月4日付けで最後の拒絶理由通知がなされた。
平成15年3月4日付けの最後の拒絶理由通知に対して、平成15年5月12日付けで手続補正書が提出されたところ、平成15年6月6日付けで請求項1、2に係る発明は独立して特許を受けることができないとして補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで平成15年3月4日付けの拒絶理由通知書に記載した理由1により拒絶査定がなされた。
それに対して、平成15年6月6日付けの補正の却下の決定の取り消しと原査定の取り消しを求めて、平成15年7月24日付けで審判請求がなされたものである。

2.補正の却下の決定の当否
そこで、原審における平成15年6月6日付けの補正の却下の決定の当否について検討する。
(1)原審における補正の却下の決定の理由
引例1(特開平5-119216号公報、以下「刊行物1」という。)において保護層としてアセチルセルロース系フィルムを使用することに阻害要因は存在しないし、二色性染料の水溶液にぼう硝を含めることは引例2(特開昭61-18902号公報、以下「刊行物2」という。)に記載されており、本件発明においてぼう硝を使用することが他の要件との組み合わせることに格別の点もない。
また、実験成績証明書は当初明細書から当業者が推認できる範囲を超えているので採用しない。
したがって、請求項1、2に係る発明は先の引例にもとづいて当業者が容易に想到し得たものであるので、補正は特許法第17条の2第3項第2号の補正後における請求項に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなく、特許法第17条の2第4項において準用する同法第126条第3項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により、補正の却下の決定をする。

(2)当審における検討
(a)平成15年5月12日付け手続補正書による特許請求の範囲は以下のとおりである。
「【請求項1】 ポリビニルアルコール系フィルムを、二色性染料を含有し、さらに水100重量部に対して1〜10重量部のぼう硝を含有する温度50〜80℃の水溶液に浸漬して該二色性染料を吸着配向させた後、温度60〜80℃のホウ酸含有水溶液で処理し、次いで該ポリビニルアルコール系フィルムの両面にアセチルセルロース系フィルムを貼合した後、温度50〜85℃且つ相対湿度70〜95%の雰囲気下で20分〜100時間処理することを特徴とする偏光板の製造方法。
【請求項2】 アセチルセルロース系フィルムがトリアセチルセルロースフィルムである請求項1記載の方法。」(以下、【請求項1】記載の発明、【請求項2】記載の発明をそれぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」という。)

(b)引用文献
(b1)刊行物1には以下の記載がある。
(b1a)「【請求項1】2色性物質を高分子フィルムに吸着、配向させた偏光性薄層に保護層として熱変形温度が90℃以上である透明性樹脂フィルムあるいはシートを貼り合わせた偏光板を温度60℃〜98℃で且つ湿度80%RH〜98%RHの雰囲気下で高温加湿処理することを特徴とする偏光板の製造法。
【請求項2】該偏光板の高温加湿処理を温度60℃〜95℃で且つ湿度90%RH〜95%RHで実施する請求項1記載の偏光板の製造法。
【請求項3】該偏光性薄層に使用される高分子フィルムがポリビニルアルコール系フィルムである請求項1または2記載の偏光板の製造法。
【請求項4】該偏光板の保護層がポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂のフィルムあるいはシートである請求項1または2記載の偏光板の製造法。」(特許請求の範囲)
(b1b)「本発明の高温加湿処理とは温度60℃〜98℃で且つ湿度80%RH〜98%RHの雰囲気下で、好ましくは温度60℃〜95℃で且つ湿度90%RH〜95%RHの雰囲気下での処理であり、この条件下で1分以上、好ましくは30分以上さらに好ましくは12時間以上処理することである。温度が60℃未満では高温環境下で偏光性薄層の亀裂の発生を抑制できないという問題があり、また98℃よりも高い温度ではフィルムの変色が起こり好ましくない。また湿度が80%RHよりも小さいと高温環境下で偏光性薄層の亀裂の発生を抑制できず、また98%RHよりも大きいと同様にフィルムの変色が起こり好ましくない。このような処理を行うことにより、偏光性薄層の亀裂が生じ難くなるとともに、偏光板の光学的性能もさらに優れたものとなる。高温加湿処理の方法としては好ましくは、上記の雰囲気中で偏光板全体が均一に処理されるのが好ましいが、偏光板を重ねる等の状態で処理を行ったとしても、処理の時間、湿度等を適当に調節すれば、均一処理と同様の効果が発現し、発明の効果を妨げるものではない。」(【0013】段落)
(b1c)「比較例2
保護層としてポリカーボネートフィルムの代わりにトリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム社製、商品名:フジタック80μm)を使用する以外は実施例1の(a)〜(d)まで同様な操作を行い、透過率39. 8%、偏光度94. 1%の偏光板を得た。これについて耐熱、耐湿試験を行ったところ、耐熱試験では偏光性薄層の亀裂は生じなかったが、基板全体の収縮、変形が観察された。80℃、90%RHの耐湿試験では1000時間後に透過率が27%まで低下した。」(【0022】段落)
(b2)引用文献2には以下の記載がある。
「実施例1
厚さ75μのポリビニルアルコールフィルム(クラレビニロン(登録商標)#7500)を縦一軸に4倍の延伸を施し、偏光膜基材とした。このPVAフィルムを緊張状態に保ったまま、染料(Japanol Fast Black D、田岡化学工業社製)0.02wt%、無水芒硝0.5wt%からなる50℃の水溶液に40分間浸漬した。さらにホウ酸7.5wt%からなる65℃の水溶液に5分間浸漬後、20℃の水で30分間洗浄をおこない偏光膜を得た。」
(b3)本件出願時に周知であった文献、特開昭62-226104号公報(以下、「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。
「実施例2
厚さ75μのポリビニルアルコールフィルム(クラレビニロン(登録商標)#7500)を縦一軸に4倍の延伸を施し、偏光膜基材とした。このPVAフィルムを緊張状態に保ったまま、3種類の染料ジャパノール ファースト ブラック D コンク(Japanol Fast Black D conc・・・・カラーインデックス ジェネリック ネーム(C.I.Generic Name)で表して、シー・アイ・ダイレクトブラック17)、クリソフェニン(Chrysophenine・・・・・シー・アイ・ダイレクト イエロー12)、スミライト スプラ ブルー3GS(Sumilight SUpra Blue 3GS ・・・シー・アイ・ダイレクト ブルー202)、いずれも住友化学工業製を、各々0.08wt%、0.06wt%、2.5wt% および無水芒硝5wt%からなる65℃の水溶液に5分間浸漬後、20℃の水で30秒間浸漬をおこない偏光膜を得た。」(第3頁右下欄下から5行〜第4頁左上欄15行)
(b4)本件出願時に周知であった「偏光膜の製造方法」に関する文献、特開昭62-223704号公報(以下、「引用文献4」という。)には、以下の記載がある。
「この偏光膜の両面に市販のセルローストリアセテートフィルム(80μ、冨士写真フィルム製)をウレタン系接着剤を用いて貼合した。こうして得られた偏光膜を60℃-90%RHの恒温恒湿槽に96時間放置(耐湿テスト)したのち、偏光性能を測定し、初期性能からの低下度をみた。」(第3頁右下欄9行〜16行)

(c)対比
引用文献1と本件発明1、2とを対比する。
引用文献1には少なくとも「ポリビニルアルコール系フィルムに2色性物質を吸着配向させた後、ポリビニルアルコール系フィルムの両面に透明性樹脂フィルムを貼合し、温度60℃〜98℃且つ相対湿度80%〜98%の雰囲気下で30分以上処理する偏光板の製造方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
引用発明における「2色性物質」は本件発明1,2における「二色性染料」に相当し、本件発明1「アセチルセルロース系フィルム」、本件発明2における「トリアセチルセルロースフィルム」はともに上位概念として「透明性樹脂フィルム」ということができるので、引用発明と本件発明1ないし2は「ポリビニルアルコール系フィルムに二色性染料を吸着配向させた後、ポリビニルアルコール系フィルムの両面に透明性樹脂フィルムを貼合し、温度60℃〜85℃且つ相対湿度80%〜95%の雰囲気下で30分〜100時間処理する偏光板の製造方法。」で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1] 本件発明1、2ではポリビニルアルコール系フィルムに二色性染料を吸着配向させる方法を特定しているのに対して、引用発明では特定されていない点。
[相違点2] 本件発明1,2ではポリビニルアルコール系フィルムの両面に貼合する透明性樹脂フィルムをアセチルセルロース系フィルムあるいはトリアセチルセルロースフィルムと特定しているのに対して、引用文献1中の記載ではポリカーボネート系樹脂あるいはポリイミド系樹脂のフィルムとされている点。

(c)当審の判断
[相違点1]について
引用文献2には、ポリビニルアルコールフィルムを緊張状態に保ったまま、染料0.02wt%、無水芒硝0.5wt%からなる50℃の水溶液に40分間浸漬し、さらにホウ酸7.5wt%からなる65℃の水溶液に5分間浸漬後、20℃の水で30分間洗浄をおこない偏光膜を得る旨の記載があり、ポリビニルアルコールフィルムによる偏光膜を得るにあたって、染料とぼう硝とを含む水溶液に浸漬後、ホウ酸を含む水溶液に浸漬することは引用文献2より知られており、これを引用文献1記載の発明におけるポリビニルアルコール系フィルムの偏光膜に適用する点で困難性はない。
なお、請求人は引用文献2にはぼう硝の濃度が本件発明1,2の濃度と比較して小さいとの主張を行ったが、周知例として提示した引用文献3には本件発明1、2と同等濃度のぼう硝を使用する発明が開示されており、ぼう硝濃度に関して本件発明1,2が格別の構成を有するということはできず、相違点1は格別のものでない。
[相違点2]について
引用文献1にはその比較例2、3として、保護層としてポリカーボネートフィルムの代わりにトリアセチルセルロースフィルムを使用した例が示されているが、トリアセチルセルロースフィルムを使用した比較例2,3では、「温度50〜85℃且つ相対湿度70〜95%の雰囲気下で20分〜100時間処理」を行っていない。
即ち、引用発明におけるポリカーボネートフィルムに対する高温加湿処理に対する比較例としてのトリアセチルセルロースフィルムに対しては引用発明で行う高温加湿処理の必要性がないとの認識があったものと推定される。
とするならば、例えトリアセチルセルロースフィルムを保護層として使用することが周知であったとしても、引用発明における保護層をトリアセチルセルロースフィルムとした場合に高温加湿処理を行うことは阻害要因があったというべきであり、相違点2は格別のものである。

(2)補正の却下の決定に対する当審の結論
以上、本件発明1,2と引用発明との相違点2は格別のものであるので、本件発明1,2が引用文献1ないし2に基づいて容易に発明することができたものであり本件発明1、2は独立して特許を得ることができない、とする原審の判断は誤認であるから、平成15年6月6日付の補正の却下の決定は取り消す。

3.原査定の当否
平成15年6月6日付の補正の却下の決定は上記のとおり取り消されたので、平成15年3月4日付の拒絶理由に基づく平成15年6月6日付の拒絶査定も取り消す。

(1)本願発明について
平成15年6月6日付けの補正の却下の決定が取り消されたので本願発明は以下のとおりとなった。
「【請求項1】 ポリビニルアルコール系フィルムを、二色性染料を含有し、さらに水100重量部に対して1〜10重量部のぼう硝を含有する温度50〜80℃の水溶液に浸漬して該二色性染料を吸着配向させた後、温度60〜80℃のホウ酸含有水溶液で処理し、次いで該ポリビニルアルコール系フィルムの両面にアセチルセルロース系フィルムを貼合した後、温度50〜85℃且つ相対湿度70〜95%の雰囲気下で20分〜100時間処理することを特徴とする偏光板の製造方法。
【請求項2】 アセチルセルロース系フィルムがトリアセチルセルロースフィルムである請求項1記載の方法。」

(2)引用刊行物の発明、対比および当審の判断
これに対して、先の「2.補正の却下の決定の当否」において検討したように、本件発明1,2は引用文献1、2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたということはできない。
なお、先の2.補正の却下の決定の当否の(b)の(b4)において提示した引用文献4には、ポリビニルアルコールフィルムによる偏光膜にセルローストリアセテートフィルムを貼合したのち、60℃-90%RHで96時間放置した後に性能を測定することが記載はされてはいるが、製造方法として記載されたものではなく、このテストを製造方法の一部とすることを示唆する記載もないので、引用文献4記載の発明に基づき本件発明1,2を容易に想到することができたと言うことはできない。
また、他の拒絶の理由を見いだせない。

4.むすび
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2004-11-24 
出願番号 特願平6-118810
審決分類 P 1 8・ 121- WYA (G02B)
P 1 8・ 575- WYA (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山村 浩  
特許庁審判長 上野 信
特許庁審判官 末政 清滋
青木 和夫
発明の名称 偏光板の製造方法  
代理人 久保山 隆  
代理人 中山 亨  
代理人 榎本 雅之  

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