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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60H
管理番号 1107861
異議申立番号 異議2003-70208  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-04-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-21 
確定日 2004-10-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3306567号「車両用空調装置」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3306567号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3306567号の請求項1ないし7に係る発明についての出願は、平成6年10月7日に出願(特願平6-243940号)され、平成14年5月17日に特許権の設定登録(同年7月24日特許掲載公報発行)がなされたが、平成15年1月21日に特許異議申立人久本 宏より、全請求項に係る発明についての特許異議の申立てがなされ、当審における平成15年10月10日付けの取消理由通知(同月24日発送)に対して、同年12月19日付けの訂正請求書が提出されたものである。


2.訂正の適否について
(1)訂正の内容
本件訂正は、願書に添付された明細書(以下、「特許明細書」という。)について、以下の事項を訂正することを求めるものである。

(1-1)訂正事項a
特許請求の範囲の、
「【請求項1】 電源からの供給電力によって駆動するステップモータと、
前記電源からの供給電力によって作動し、前記ステップモータに対して駆動信号を出力する制御装置とを備え、前記制御装置から出力される前記駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置を制御するステップモータ制御装置において、
前記ステップモータに印加される電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記制御装置からの前記ステップモータに対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段とを備えることを特徴とするステップモータ制御装置。
【請求項2】 電源からの供給電力によって駆動するステップモータと、
前記電源からの供給電力によって作動し、前記ステップモータを駆動する指示があるときに前記ステップモータに対して駆動信号を出力する制御装置とを備え、
前記制御装置から出力される前記駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置を制御するステップモータ制御装置において、
前記ステップモータに印加される電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記指示があるときでも、前記制御装置からの前記ステップモータに対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段とを備えることを特徴とするステップモータ制御装置。
【請求項3】 前記判定手段によって前記ステップモータに印加される電圧が前記最低作動電圧よりも高いと判定されたら、前記駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置制御を再開するように構成されたことを特徴とする請求項1または2いずれか記載のステップモータ制御装置。
【請求項4】 空気流を発生する送風手段と、
前記送風手段からの空気を車室内に導く空調ダクトと、
前記空調ダクト内における空気通路を切り換える空気通路切換手段と、
車両バッテリーからの供給電力によって前記空気通路切換手段を駆動するステップモータと、
前記バッテリーからの供給電力によって作動し、前記ステップモータに対して前記駆動信号を出力する制御装置とを備え、
前記制御装置から出力される駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置を制御することによって前記空気通路切換手段の位置を制御する車両用空調装置において、
前記ステップモータに印加される電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記制御装置からの前記ステップモータに対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段とを備えることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項5】 空気流を発生する送風手段と、
前記送風手段からの空気を車室内に導く空調ダクトと、
前記空調ダクト内における空気通路を切り換える空気通路切換手段と、車両バッテリーからの供給電力によって前記空気通路切換手段を駆動するステップモータと、
前記バッテリーからの供給電力によって作動し、前記ステップモータを駆動する指示があるときに前記ステップモータに対して前記駆動信号を出力する制御装置とを備え、
前記制御装置から出力される駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置を制御することによって前記空気通路切換手段の位置を制御する車両用空調装置において、
前記ステップモータに印加される電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記指示があるときでも、前記制御装置からの前記ステップモータに対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段とを備えることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項6】 前記判定手段によって前記ステップモータに印加される電圧が前記最低作動電圧よりも高いと判定されたら、前記駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置制御を再開するように構成されたことを特徴とする請求項4または5いずれか記載の車両用空調装置。
【請求項7】 前記空気通路切換手段が、
前記空調ダクト中を横切るように設けられ、前記空調ダクト中の空気を通過させる開口部が形成された可撓性の膜状部材と、
前記膜状部材の一端側を巻き取る第1回転軸と、
前記膜状部材の他端側を巻き取る第2回転軸とから構成され、
前記ステップモータが前記第1回転軸を回転駆動することを特徴とする請求項4ないし6いずれか1つ記載の車両用空調装置。」を、
「【請求項1】 空気流を発生する送風手段と、
前記送風手段からの空気を車室内に導く空調ダクトと、
前記空調ダクト内における空気通路を切り換える空気通路切換手段と、
車両バッテリーからの供給電力によって前記空気通路切換手段を駆動するステップモータと、
前記車両バッテリーからの供給電力によって作動し、前記ステップモータに対して前記駆動信号を出力する制御装置とを備え、
前記制御装置から出力される駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置を制御することによって前記空気通路切換手段の位置を制御する車両用空調装置において、
前記車両バッテリーは、前記制御装置、前記ステップモータおよび車両におけるその他の電気機器に電力を供給するものであり、
前記車両バッテリーの電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記制御装置からの前記ステップモータに対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段とを備えることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】 空気流を発生する送風手段と、
前記送風手段からの空気を車室内に導く空調ダクトと、
前記空調ダクト内における空気通路を切り換える空気通路切換手段と、車両バッテリーからの供給電力によって前記空気通路切換手段を駆動するステップモータと、
前記車両バッテリーからの供給電力によって作動し、前記ステップモータを駆動する指示があるときに前記ステップモータに対して前記駆動信号を出力する制御装置とを備え、
前記制御装置から出力される駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置を制御することによって前記空気通路切換手段の位置を制御する車両用空調装置において、
前記車両バッテリーは、前記制御装置、前記ステップモータおよび車両におけるその他の電気機器に電力を供給するものであり、
前記車両バッテリーの電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記指示があるときでも、前記制御装置からの前記ステップモータに対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段とを備えることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項3】 前記判定手段によって前記車両バッテリーの電圧が前記最低作動電圧よりも高いと判定されたら、前記駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置制御を再開するように構成されたことを特徴とする請求項1または2記載の車両用空調装置。
【請求項4】 前記空気通路切換手段が、
前記空調ダクト中を横切るように設けられ、前記空調ダクト中の空気を通過させる開口部が形成された可撓性の膜状部材と、
前記膜状部材の一端側を巻き取る第1回転軸と、
前記膜状部材の他端側を巻き取る第2回転軸とから構成され、
前記ステップモータが前記第1回転軸を回転駆動することを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つ記載の車両用空調装置。」
に訂正する。

(1-2)訂正事項b
【発明の名称】の「ステップモータ制御装置およびこれを用いた車両用空調装置」を「車両用空調装置」に訂正する。

(1-3)訂正事項c
特許明細書の段落【0001】、段落【0006】ないし【0017】の
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ステップモータ制御装置およびこれを用いた車両用空調装置に関する。」、
「【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1記載の発明では、…(中略)…ことを特徴とする。
【0007】また請求項2記載の発明では、…(中略)…とを備えることを特徴とする。
【0008】また請求項3記載の発明では、…(中略)…ことを特徴とする。
【0009】また請求項4記載の発明では、…(中略)…車両バッテリー(42)からの供給電力によって前記空気通路切換手段(8,10)を駆動するステップモータ(27,36)と、前記バッテリー(42)からの供給電力によって作動し、…(中略)…制御する車両用空調装置において、前記ステップモータ(27,36)に印加される電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段(ステップ300)と、…(中略)…備えることを特徴とする。
【0010】また請求項5記載の発明では、…(中略)…車両バッテリー(42)からの供給電力によって前記空気通路切換手段(8,10)を駆動するステップモータ(27,36)と、前記バッテリー(42)からの供給電力によって作動し、…(中略)…制御する車両用空調装置において、前記ステップモータ(27,36)に印加される電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段(ステップ300)と、…(中略)…備えることを特徴とする。
【0011】また請求項6記載の発明では、請求項4または5いずれか記載の車両用空調装置において、前記判定手段(ステップ300)によって前記ステップモータ(27,36)に印加される電圧が前記最低作動電圧よりも高いと判定されたら、前記駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置制御を再開するように構成されたことを特徴とする。
【0012】また請求項7記載の発明では、請求項4ないし6いずれか1つ記載の車両用空調装置において、…(中略)…ことを特徴とする。
【0013】なお、請求項1、2、4、および5記載の発明でいう判定手段は、ステップモータに印加される電圧が前記最低作動電圧以下であるか否かを直接判定するものに限らず、間接的に判定するものも含む。また、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施例の具体的手段との対応関係を示すものである。
【0014】
【発明の作用効果】請求項1ないし7記載の発明によれば、判定手段によって、ステップモータに印加される電圧が前記最低作動電圧以下であると判定されたときには、…(中略)…防止することができる。
【0015】特に請求項2記載の発明では、…(中略)…位置制御が再開される。
【0016】また請求項4記載の発明の場合、…(中略)…発生する。
【0017】本発明では、上記のようなときに…(中略)…特に請求項5記載の発明では、ステップモータに印加される電圧が前記最低作動電圧以下であるときには、…(中略)…従って、請求項4記載の発明と同様の効果を奏する。」を、
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、車両用空調装置に関する。」、
「【0006】
【0007】
【0008】
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1記載の発明では、空気流を発生する送風手段(4)と、前記送風手段(4)からの空気を車室内に導く空調ダクト(7)と、前記空調ダクト(7)内における空気通路を切り換える空気通路切換手段(8,10)と、車両バッテリー(42)からの供給電力によって前記空気通路切換手段(8,10)を駆動するステップモータ(27,36)と、前記車両バッテリー(42)からの供給電力によって作動し、前記ステップモータ(27,36)に対して前記駆動信号を出力する制御装置(3)とを備え、前記制御装置(3)から出力される駆動信号に基づいて前記ステップモータ(27,36)の位置を制御することによって前記空気通路切換手段(8,10)の位置を制御する車両用空調装置において、前記車両バッテリーは、前記制御装置、前記ステップモータおよび車両におけるその他の電気機器に電力を供給するものであり、前記車両バッテリー(42)の電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段(ステップ300)と、前記判定手段(ステップ300)によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記制御装置(3)からの前記ステップモータ(27,36)に対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段(ステップ400)とを備えることを特徴とする。
【0010】また請求項2記載の発明では、空気流を発生する送風手段(4)と、前記送風手段(4)からの空気を車室内に導く空調ダクト(7)と、前記空調ダクト(7)内における空気通路を切り換える空気通路切換手段(8,10)と、車両バッテリー(42)からの供給電力によって前記空気通路切換手段(8,10)を駆動するステップモータ(27,36)と、前記車両バッテリー(42)からの供給電力によって作動し、前記ステップモータ(27,36)を駆動する指示があるときに前記ステップモータ(27,36)に対して前記駆動信号を出力する制御装置(3)とを備え、前記制御装置(3)から出力される駆動信号に基づいて前記ステップモータ(27,36)の位置を制御することによって前記空気通路切換手段(8,10)の位置を制御する車両用空調装置において、前記車両バッテリーは、前記制御装置、前記ステップモータおよび車両におけるその他の電気機器に電力を供給するものであり、前記車両バッテリー(42)の電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段(ステップ300)と、前記判定手段(ステップ300)によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記指示があるときでも、前記制御装置(3)からの前記ステップモータ(27,36)に対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段(ステップ400)とを備えることを特徴とする。
【0011】また請求項3記載の発明では、請求項1または2記載の車両用空調装置において、前記判定手段(ステップ300)によって前記車両バッテリー(42)の電圧が前記最低作動電圧よりも高いと判定されたら、前記駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置制御を再開するように構成されたことを特徴とする。
【0012】また請求項4記載の発明では、請求項1ないし3いずれか1つ記載の車両用空調装置において、前記空気通路切換手段(8,10)が、前記空調ダクト(7)中を横切るように設けられ、前記空調ダクト(7)中の空気を通過させる開□部(22〜26,34,35)が形成された可撓性の膜状部材(8,10)と、前記膜状部材(8,10)の一端側を巻き取る第1回転軸(19,29)と、前記膜状部材(8,10)の他端側を巻き取る第2回転軸(20,30)とから構成され、前記ステップモータ(27,36)が前記第1回転軸(19,29)を回転駆動することを特徴とする。
【0013】なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施例の具体的手段との対応関係を示すものである。
【0014】【発明の作用効果】請求項1ないし4記載の発明によれば、判定手段によって、車両バッテリーの電圧が前記最低作動電圧以下であると判定されたときには、制御装置からステップモータに対して駆動信号が出力されない。つまり、ステップモータが駆動し得ないときには前記駆動信号が出力されない。従って、制御装置からステップモータに対して駆動信号が出力されたにも係わらず実際にステップモータが作動しないという問題を未然に回避することができ、これによって、制御装置が認識するステップモータの位置と実際のステップモータとの位置がずれることを防止することができる。
【0015】
【0016】また請求項1記載の発明の場合、車両におけるその他の機器(例えばオーディオ、スタータ等)での電力使用量が多いと、バッテリー電圧が前記最低作動電圧以下まで低下し、これに応じてステップモータに印加される電圧が前記最低作動電圧以下まで下がることがあり、このようなときに制御装置からステップモータに対して駆動信号が出力されると、制御装置が認識するステップモータの位置と実際のステップモータの位置とのずれが発生する。
【0017】本発明では、上記のようなときにステップモータに対して駆動信号が出力されないようにするので、制御装置が認識するステップモータの位置と実際のステップモータとの位置がずれることを防止することができ、これによって所望の空調制御を行うことができる。特に請求項2記載の発明では、車両バッテリーの電圧が前記最低作動電圧以下であるときには、ステップモータを駆動する指示(例えば空気通路切換手段を吹出口切換ドアで構成した場合は吹出モードを変更する指示)があるときでも制御装置から前記駆動信号が出力されない。従って、請求項1記載の発明と同様の効果を奏する。」に訂正する。

(2)本件訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(2-1)上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的として、特許時の請求項1ないし3を削除し、特許時の請求項4ないし7を項番号を繰り上げて新たな請求項1ないし4と訂正するものである。
また、特許時の請求項4及び5の「前記バッテリーからの供給電力によって作動し、前記ステップモータに対して前記駆動信号を出力する制御装置」という記載における「バッテリー」という用語について、特許請求の範囲における他の箇所に記載された「車両バッテリー」と統一するように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものと認められる。
さらに、特許時の請求項4及び5の「車両バッテリー」の構成について、「前記制御装置、前記ステップモータおよび車両におけるその他の電気機器に電力を供給するものであり、」と限定し、これに伴い、「ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段」における判定を、「車両バッテリーの電圧」により行うように具体化する訂正であるから、全体として、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するものと認められる。 そして、これらの訂正に係る構成は、特許明細書の「・・・ECU3、ステップモータ27、36、バッテリー41のそれぞれの電気的接続関係は図5に示す通りであり、イグニッションスイッチ41がオンすることによってバッテリー42からECU3、ステップモータ27、36、およびその他の電気機器(例えばオーディオ、スタータ等)49に電力が供給される。」(段落【0031】)との記載、「・・・ECU3の端子A(図5)に印加される電圧が所定値以下であるか否かをみることによって、バッテリー42の電圧(電源電圧)が前記所定値以下であるか否か、ひいてはステップモータ27および36に印加される電圧が前記所定値以下であるか否かを判定する。」(段落【0038】)との記載及び図5が図示するところに基づくものであるから、特許明細書に記載した事項の範囲内のものであると認められる。

(2-2)上記訂正事項bは、明りょうでない記載の釈明を目的として、特許請求の範囲の訂正に対応させて、発明の名称を訂正するものである。

(2-3)上記訂正事項cは、明りょうでない記載の釈明を目的として、特許請求の範囲の訂正に対応させて、発明の詳細な説明の対応箇所を訂正するものである。

(2-4)以上のように、上記訂正事項aは、特許法第120条の4第2項ただし書第1号、第3号に規定する特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、上記訂正事項b、cは特許法第120条の4第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、上記訂正事項aないしcは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(3)むすび
したがって、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明について
上記2.で示したように本件訂正が認められるから、本件特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 空気流を発生する送風手段と、
前記送風手段からの空気を車室内に導く空調ダクトと、
前記空調ダクト内における空気通路を切り換える空気通路切換手段と、
車両バッテリーからの供給電力によって前記空気通路切換手段を駆動するステップモータと、
前記車両バッテリーからの供給電力によって作動し、前記ステップモータに対して前記駆動信号を出力する制御装置とを備え、
前記制御装置から出力される駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置を制御することによって前記空気通路切換手段の位置を制御する車両用空調装置において、
前記車両バッテリーは、前記制御装置、前記ステップモータおよび車両におけるその他の電気機器に電力を供給するものであり、
前記車両バッテリーの電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記制御装置からの前記ステップモータに対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段と
を備えることを特徴とする車両用空調装置。」(この発明を、以下、「本件発明1」という。)

「【請求項2】 空気流を発生する送風手段と、
前記送風手段からの空気を車室内に導く空調ダクトと、
前記空調ダクト内における空気通路を切り換える空気通路切換手段と、
車両バッテリーからの供給電力によって前記空気通路切換手段を駆動するステップモータと、
前記車両バッテリーからの供給電力によって作動し、前記ステップモータを駆動する指示があるときに前記ステップモータに対して前記駆動信号を出力する制御装置とを備え、
前記制御装置から出力される駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置を制御することによって前記空気通路切換手段の位置を制御する車両用空調装置において、
前記車両バッテリーは、前記制御装置、前記ステップモータおよび車両におけるその他の電気機器に電力を供給するものであり、
前記車両バッテリーの電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記指示があるときでも、前記制御装置からの前記ステップモータに対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段とを備えることを特徴とする車両用空調装置。」(この発明を、以下、「本件発明2」という。)

「【請求項3】 前記判定手段によって前記車両バッテリーの電圧が前記最低作動電圧よりも高いと判定されたら、前記駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置制御を再開するように構成されたことを特徴とする請求項1または2記載の車両用空調装置。」(この発明を、以下、「本件発明3」という。)。

「【請求項4】 前記空気通路切換手段が、
前記空調ダクト中を横切るように設けられ、前記空調ダクト中の空気を通過させる開口部が形成された可撓性の膜状部材と、
前記膜状部材の一端側を巻き取る第1回転軸と、
前記膜状部材の他端側を巻き取る第2回転軸とから構成され、
前記ステップモータが前記第1回転軸を回転駆動することを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つ記載の車両用空調装置。」(この発明を、以下、「本件発明4」という。)

(2)取消理由の概要
平成15年10月10日付けの取消理由通知の概要は、次のとおりである。
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
〔証拠方法〕
引用例1:特開平6-253598号公報(異議申立人提出の甲第2号証)
引用例2:特開平2-269497号公報(異議申立人提出の甲第1号証)

(3)引用例記載の事項
(3-1)引用例1記載の事項
(a)「・・・図2にて示すごとく、エアダクト10を備えており、このエアダクト10の流入口11には、ブロワ20が組み付けられている。しかして、このブロワ20は、その作動により当該車両の外気或いは当該車両の車室内の内気をエアダクト10内に流入口11から空気流として送風する。・・・」(段落【0009】)

(b)「エアミックスダンパ機構40は、エアダクト10内のエバポレータ30の後流側に配設されており、このエアミックスダンパ機構40は、ステップモータ41と、一対の巻き取りローラ42、43と、フィルムダンパ44とによって構成されている。ステップモータ41は、エアダクト10の内壁の図2にて図示一部から延出する隔壁12aに組み付けられており、このステップモータ41の出力軸には、巻き取りローラ42が同軸的に軸支されている。巻き取りローラ43は、エバポレータ30の図2にて図示隅角部から延出する隔壁12bに回転可能に軸支されており、この巻き取りローラ43及び巻き取りローラ42に亘り、フィルムダンパ44が巻装されるようになっている。この場合、フィルムダンパ44は、その一端にて、巻き取りローラ42の外周面に固着されており、同フィルムダンパ44の他端は巻き取りローラ43の外周面に固着されている。また、巻き取りローラ42と巻き取りローラ43とはベルト(図示しない)によって連結されており、巻き取りローラ42が、フィルムダンパ44を送り出す方向(後述する逆転方向)に回転するとき、このベルトを介して巻き取りローラ43がフィルムダンパ44を巻き取る方向に回転するようになっている。」(段落【0010】)

(c)「・・・また、フィルムダンパ44の中間部位の適所には、エバポレータ30からフィルムダンパ44の後流側へ冷却空気流を流動させるための開口(図示しない)が形成されている。従って、フィルムダンパ44の巻き取り位置、即ちフィルムダンパ44の開口部の位置に応じて、エバポレータ30からフィルムダンパ44の開口部を通りヒータコア50に流入する冷却空気流の量及び同ヒータコア50をバイパスする冷却空気流の量が調整される。」(段落【0011】)
(d)「・・・吹き出し口ダンパ機構60は、エアダクト10内のエアミックスダンパ機構40及びヒータコア50の後流側に配設されており、この吹き出し口ダンパ機構60は、図2及び図3(A)にて示すごとく、ステップモータ61と、四つの巻き取りローラ62、63、64及び65と、フィルムダンパ66とによって構成されている。ステップモータ61は、エアダクト10のベンティレーションモード吹き出し口13(以下、ベントモード吹き出し口13という)の図2にて図示内周縁部から延出する隔壁13aに組み付けられており、このステップモータ61の出力軸61aには、巻き取りローラ62が同軸的に軸支されている。」(段落【0012】)

(e)「・・・また、巻き取りローラ65は、ヒートモード吹き出し口15の図2にて図示内周縁部に形成した筒状周納部15a内に回転可能に軸支されている。フィルムダンパ66は、両巻き取りローラ63及び64を介して両巻き取りローラ62及び65に亘り巻装されるようになっている。この場合、フィルムダンパ66は、その一端にて、巻き取りローラ62の外周面に固着されており、同フィルムダンパ66の他端は巻き取りローラ65の外周面に固着されている。また、巻き取りローラ62と巻き取りローラ65とはベルト(図示しない)によって連結されており、巻き取りローラ62がフィルムダンパ66を送り出す方向(後述する逆転方向)に回転するときに、このベルトを介して巻き取りローラ65がフィルムダンパ66を巻き取る方向に回転するようになっている。」(段落【0013】)

(f)「また、フィルムダンパ66の中間部位の各適所には、第1、第2及び第3の開口部(図示しない)が、ベントモード吹き出し口13、デフモード吹き出し口14及びヒートモード吹き出し口15にそれぞれ対向し得るように、形成されている。従って、空気調和制御装置の吹き出しモードの変化に伴うフィルムダンパ66の巻き取り位置、即ちフィルムダンパ66の第1〜第3の開口部の位置に応じて、エアミックスダンパ機構40からヒータコア50をバイパスして流動する冷却空気流及びヒータコア50からの加熱空気流の混合空気流が、ベントモード吹き出し口13、デフモード吹き出し口14及びヒートモード吹き出し口15のいずれかから吹き出し空気流として車室内に吹き出す。・・・」(段落【0015】)

(g)「・・・当該車両のユーザーが、イグニッションスイッチIGを閉じて当該車両のエンジンを始動させるものとする。また、このようなイグニッションスイッチIGの閉成に伴い、マイクロコンピュータ120が、同イグニッションスイッチIGを介するバッテリBからの直流電圧に基づき、ステップ240にて「YES」と判別し、コンピュータプログラムを空調制御ルーティン250に進める。この空調制御ルーティン250においては、マイクロコンピュータ120が、A?D変換器100からの設定温、内気温、外気温及び日射量を表す各ディジタル信号に基づき、ブロワ20の送風制御、エアミックスダンパ機構40の開度制御及び吹き出し口ダンパ機構60の吹き出しモード制御を、共に、或いは選択的に行う。」(段落【0024】)

(h)「・・・エアミックスダンパ機構40の制御においては、ステップモータ41の正転或いは逆転に伴い、巻き取りローラ42による巻き取りローラ43からのダンパフィルム44の巻き取り長さ、或いは巻き取りローラ43による巻き取りローラ42からのダンパフィルム44の巻き取り長さが制御される。また、吹き出し口ダンパ機構60の吹き出しモード制御においては、ステップモータ61の正転或いは逆転に伴い、巻き取りローラ62による巻き取りローラ65からのダンパフィルム66の巻き取り長さ、或いは巻き取りローラ65による巻き取りローラ61からのダンパフィルム66の巻き取り長さが制御される。これにより、ブロワ20からの送風空気流が、エバポレータ30により冷却され、このエバポレータ30からの冷却空気流のうちヒータコア50への流入量及び同ヒータコア50のバイパス量が、エアミックスダンパ機構40の開度に応じて調整され、かつ、車室内への吹き出し空気流の吹き出しモードが、ベントモード、デフモード或いはヒートモード等に調整される。・・・」(段落【0025】)

(3-2)引用例2記載の事項
(a)「・・・第1の発明は、直流電源と、この直流電源より出力される電流をパルス電流に変換するドライブスイッチと、このドライブスイッチのパルス電流により動作するステッピングモータと、このドライブスイッチをオンオフするドライブ制御回路と、前記直流電源の出力電圧を監視し、第1のしきい値電圧(Vth1)以下に低下したときは前記ドライブ制御回路に動作抑止信号を出力し、第2のしきい値電圧(Vth2)までに回復したときは前記ドライブ制御回路に抑止解除信号を出力する出力検出回路とを具備することを特徴としている。」(第2頁右上欄第19行〜同頁左下欄第10行)

(b)「・・・出力検出回路は直流電源のドライブスイッチに供給している電圧を監視しており、電圧が過度に低下したときはドライブ制御回路を介してステッピングモータの動作を停止し、電圧が回復するのを待って再び動作を許している。」(第2頁右下欄第15〜19行)

(c)「・・・直流電源10は多出力のスイッチングレギュレータで、メイン出力としてロジック出力を有しスレーブ出力としてパルス用の出力を有している。ドライブスイッチ20は直流電源10のスレーブ出力をオンオフしてパルス列信号を生成している。ステッピングモータ30はドライブスイッチ20の出力するパルス信号により動作をするもので、例えばプリンタの用紙送りとかキャリッジの移動に用いられる。ドライブ制御回路40はドライブスイッチ20のオンオフを制御する信号を出力する回路で、外部からの駆動指令信号により動作を開始し、指示された動作が終了したときは信号を戻している。出力検出回路50は直流電源10のパルス用出力電圧Voutを監視する回路で、第1のしきい値電圧(Vth1)以下に低下したときは前記ドライブ制御回路に動作抑止信号を出力し、第2のしきい値電圧{Vth2(>Vth1)}[注:第2図からみて「Vth2(<Vth1)」は誤記である。]まで回復したときは前記ドライブ制御回路に抑止解除信号を出力する。ここで、動作抑止信号は出力検出回路50がドライブ制御回路40に供給する制御信号のL状態、抑止解除信号はH状態に相当している。また、第1のしきい値電圧(Vth1)は例えば負荷(例えばプリンタ)の安定動作下限電圧とし、第2のしきい値電圧(Vth2)負荷の動作可能電圧とするとよい。」(第3頁左上欄第10行〜同頁右上欄15行)

(d)「・・・ドライブスイッチ20のオンオフによりパルス電流Ioutがステッピングモータ30に供給され、それに従い直流電源10の出力電圧Voutが低下する。出力電圧Voutが第1のしきい値電圧(Vth1)以下になると、信号H/LがLとなりドライブ制御回路40に駆動不能を知らせる。
ドライブ制御回路40は信号H/LがHになるまで、ドライブスイッチ20をオフし続ける。出力電圧Voutが回復して第2のしきい値電圧(Vth2)に達すると、信号H/LがHになり、ドライブ制御回路40は再びドライブスイッチ20のオンオフを行う。この動作を繰返して、外部より指示されたn発のパルスを発生し、動作を終了する。」(第3頁左下欄第2〜14行)

(e)「・・・第1の発明によれば出力検出回路50により直流電源10が負荷の安定動作領域内の電圧であることを確認しているので、負荷に対応した最大能力を直流電源から引き出せ、かつ小型であるという効果がある。又、直流電源の容量を増大させても、ドライブ制御回路40はそのまま利用できるので汎用性が大きい。」(第4頁右上欄第5行〜11行)

(4)新規性進歩性についての判断
(4-1)本件発明1について
(対比)
本件発明1と引用例1に記載された発明とを対比すると、引用例1に記載された「ブロワ20」は本件発明1の「送風手段」に相当し、以下同様に「エアダクト10」は「空調ダクト」に、「エアミックスダンパ機構40」及び「吹き出し口ダンパ機構60」は「空気通路切換手段」に、「バッテリB」は「車両バッテリー」に、「ステップモータ41、61」は「ステップモータ」に、「マイクロコンピュータ120」及び「駆動装置130」は「駆動信号を出力する制御装置」に、「車両に搭載の空気調和制御装置」は「車両用空調装置」に、それぞれ相当する。
(一致点)
そうすると、本件発明1と引用例1に記載された発明は、
「空気流を発生する送風手段と、前記送風手段からの空気を車室内に導く空調ダクトと、前記空調ダクト内における空気通路を切り換える空気通路切換手段と、車両バッテリーからの供給電力によって前記空気通路切換手段を駆動するステップモータと、前記車両バッテリーからの供給電力によって作動し、前記ステップモータに対して前記駆動信号を出力する制御装置とを備え、前記制御装置から出力される駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置を制御することによって前記空気通路切換手段の位置を制御する車両用空調装置。」である点で一致するが、次の点で相違する。
(相違点)
本件発明1は、「車両バッテリーは、前記制御装置、前記ステップモータおよび車両におけるその他の電気機器に電力を供給するものであり、前記車両バッテリーの電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記制御装置からの前記ステップモータに対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段と」を備えているのに対し、引用例1にはこの点に関して記載されていない点。
(相違点の検討)
引用例2には、多出力の直流電源において、直流電源のパルス用出力電圧が低下したときに負荷を安定動作させるためにステッピングモータの駆動を停止し、直流電源のパルス用出力電圧が回復したときにステッピングモータを再び動作させるために、直流電源のパルス用出力電圧が負荷の安定動作下限電圧以下であるか否かを判定する出力検出回路を設け、パルス用出力電圧が負荷の安定動作下限電圧以下になると、ドライブスイッチのオンオフを制御するドライブ制御回路に動作抑止信号を出力するステッピングモータの制御装置が記載されている。
しかしながら、引用例2に記載された「出力検出回路」は、「直流電源のパルス用出力電圧」が「負荷(例えばプリンタ)の安定動作下限電圧」以下であるか否かを判定するものであり、引用例2には、本件発明1のように、ステップモータの位置のずれが発生しないようにするために、「ステップモータに印加される電圧」、すなわち「車両バッテリーの電圧」が、「ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する」ことについては何ら記載されておらず、これを示唆する記載もない。
したがって、本件発明1は引用例1又は2に記載された発明ではなく、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4-2)本件発明2について
(対比)
本件発明2と引用例1に記載された発明とを対比すると、引用例1に記載された「ブロワ20」は本件発明1の「送風手段」に相当し、以下同様に「エアダクト10」は「空調ダクト」に、「エアミックスダンパ機構40」及び「吹き出し口ダンパ機構60」は「空気通路切換手段」に、「バッテリB」は「車両バッテリー」に、「ステップモータ41、61」は「ステップモータ」に、「マイクロコンピュータ120」及び「駆動装置130」は「駆動信号を出力する制御装置」に、「車両に搭載の空気調和制御装置」は「車両用空調装置」に、それぞれ相当する。
(一致点)
そうすると、本件発明2と引用例1に記載された発明とは、「空気流を発生する送風手段と、前記送風手段からの空気を車室内に導く空調ダクトと、前記空調ダクト内における空気通路を切り換える空気通路切換手段と、車両バッテリーからの供給電力によって前記空気通路切換手段を駆動するステップモータと、前記車両バッテリーからの供給電力によって作動し、前記ステップモータを駆動する指示があるときに前記ステップモータに対して前記駆動信号を出力する制御装置とを備え、前記制御装置から出力される駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置を制御することによって前記空気通路切換手段の位置を制御する車両用空調装置。」である点で一致するが、次の点で相違する。
(相違点)
本件発明2は、「車両バッテリーは、前記制御装置、前記ステップモータおよび車両におけるその他の電気機器に電力を供給するものであり、前記車両バッテリーの電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記指示があるときでも、前記制御装置からの前記ステップモータに対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段と」を備えているのに対し、引用例1にはこの点に関して記載されていない点。
(相違点の検討)
引用例2には、多出力の直流電源において、直流電源のパルス用出力電圧が低下したときに負荷を安定動作させるためにステッピングモータの駆動を停止し、直流電源のパルス用出力電圧が回復したときにステッピングモータを再び動作させるという動作を繰り返して、外部より指示された回数のパルスを発生して動作を終了させるために、直流電源のパルス用出力電圧が負荷の安定動作下限電圧以下であるか否かを判定する出力検出回路を設け、パルス用出力電圧が負荷の安定動作下限電圧以下になると、ドライブスイッチのオンオフを制御するドライブ制御回路に動作抑止信号を出力するステッピングモータの制御装置が記載されている。
しかしながら、上記本件発明1において述べたように、引用例2には、「車両バッテリーの電圧」が、「ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する」ことについては何ら記載されておらず、これを示唆する記載もない。
したがって、本件発明2は引用例1又は2に記載された発明ではなく、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4-3)本件発明3及び4について
本件発明3は本件発明1又は2に従属するものであり、また、本件発明4は本件発明1ないし3に従属するものであるから、本件発明3及び4は、本件発明1又は2と同様に、引用例1又は2に記載された発明ではなく、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明1ないし4に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
車両用空調装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 空気流を発生する送風手段と、
前記送風手段からの空気を車室内に導く空調ダクトと、
前記空調ダクト内における空気通路を切り換える空気通路切換手段と、
車両バッテリーからの供給電力によって前記空気通路切換手段を駆動するステップモータと、
前記車両バッテリーからの供給電力によって作動し、前記ステップモータに対して前記駆動信号を出力する制御装置とを備え、
前記制御装置から出力される駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置を制御することによって前記空気通路切換手段の位置を制御する車両用空調装置において、
前記車両バッテリーは、前記制御装置、前記ステップモータおよび車両におけるその他の電気機器に電力を供給するものであり、
前記車両バッテリーの電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記制御装置からの前記ステップモータに対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段とを備えることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】 空気流を発生する送風手段と、
前記送風手段からの空気を車室内に導く空調ダクトと、
前記空調ダクト内における空気通路を切り換える空気通路切換手段と、
車両バッテリーからの供給電力によって前記空気通路切換手段を駆動するステップモータと、
前記車両バッテリーからの供給電力によって作動し、前記ステップモータを駆動する指示があるときに前記ステップモータに対して前記駆動信号を出力する制御装置とを備え、
前記制御装置から出力される駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置を制御することによって前記空気通路切換手段の位置を制御する車両用空調装置において、
前記車両バッテリーは、前記制御装置、前記ステップモータおよび車両におけるその他の電気機器に電力を供給するものであり、
前記車両バッテリーの電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記指示があるときでも、前記制御装置からの前記ステップモータに対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段とを備えることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項3】 前記判定手段によって前記車両バッテリーの電圧が前記最低作動電圧よりも高いと判定されたら、前記駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置制御を再開するように構成されたことを特徴とする請求項1または2記載の車両用空調装置。
【請求項4】 前記空気通路切換手段が、
前記空調ダクト中を横切るように設けられ、前記空調ダクト中の空気を通過させる開口部が形成された可撓性の膜状部材と、
前記膜状部材の一端側を巻き取る第1回転軸と、
前記膜状部材の他端側を巻き取る第2回転軸とから構成され、
前記ステップモータが前記第1回転軸を回転駆動することを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つ記載の車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両用空調装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、車両用空調装置の吹出口切換ドアをステップモータで駆動するものが特開平5-157345号公報に開示されている。このようなステップモータは1ステップの作動量が一義的に決まるため、ポテンショメータのような位置検出手段を設けなくても、任意の基準位置からのステップ数でもってステップモータの現在位置を認識することができる。
【0003】従って上記公報に開示される空調装置の場合、任意の基準位置からの目標ステップ数を各吹出モードについて設定すれば、前記基準位置からのステップ数と目標ステップ数との比較に基づいて各吹出モードを得ることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし上記のような空調装置において、車両バッテリーの負荷が大きくなり、バッテリー電圧(電源電圧)が低下し、これに伴ってステップモータに印加される電圧がステップモータの最低作動電圧以下になるまで低下すると、制御装置からステップモータに駆動信号が出力されたにも係わらず実際にステップモータが作動しなくなる。このような場合には、制御装置が認識しているステップモータの位置と実際のステップモータの位置との間にずれが発生してしまう。
【0005】そこで本発明は上記問題に鑑み、ステップモータに印加される電圧がステップモータの最低作動電圧以下になることに伴う上記ずれが発生しないようにすることを目的とする。
【0006】
【0007】
【0008】
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1記載の発明では、空気流を発生する送風手段(4)と、前記送風手段(4)からの空気を車室内に導く空調ダクト(7)と、前記空調ダクト(7)内における空気通路を切り換える空気通路切換手段(8,10)と、車両バッテリー(42)からの供給電力によって前記空気通路切換手段(8,10)を駆動するステップモータ(27,36)と、前記車両バッテリー(42)からの供給電力によって作動し、前記ステップモータ(27,36)に対して前記駆動信号を出力する制御装置(3)とを備え、前記制御装置(3)から出力される駆動信号に基づいて前記ステップモータ(27,36)の位置を制御することによって前記空気通路切換手段(8,10)の位置を制御する車両用空調装置において、前記車両バッテリーは、前記制御装置、前記ステップモータおよび車両におけるその他の電気機器に電力を供給するものであり、前記車両バッテリー(42)の電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段(ステップ300)と、前記判定手段(ステップ300)によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記制御装置(3)からの前記ステップモータ(27,36)に対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段(ステップ400)とを備えることを特徴とする。
【0010】また請求項2記載の発明では、空気流を発生する送風手段(4)と、前記送風手段(4)からの空気を車室内に導く空調ダクト(7)と、前記空調ダクト(7)内における空気通路を切り換える空気通路切換手段(8,10)と、車両バッテリー(42)からの供給電力によって前記空気通路切換手段(8,10)を駆動するステップモータ(27,36)と、前記車両バッテリー(42)からの供給電力によって作動し、前記ステップモータ(27,36)を駆動する指示があるときに前記ステップモータ(27,36)に対して前記駆動信号を出力する制御装置(3)とを備え、前記制御装置(3)から出力される駆動信号に基づいて前記ステップモータ(27,36)の位置を制御することによって前記空気通路切換手段(8,10)の位置を制御する車両用空調装置において、前記車両バッテリーは、前記制御装置、前記ステップモータおよび車両におけるその他の電気機器に電力を供給するものであり、前記車両バッテリー(42)の電圧が前記ステップモータの最低作動電圧以下であるか否かを判定する判定手段(ステップ300)と、前記判定手段(ステップ300)によって前記最低作動電圧以下であると判定されたら、前記指示があるときでも、前記制御装置(3)からの前記ステップモータ(27,36)に対する前記駆動信号の出力を中止する信号出力中止手段(ステップ400)とを備えることを特徴とする。
【0011】また請求項3記載の発明では、請求項1または2記載の車両用空調装置において、前記判定手段(ステップ300)によって前記車両バッテリー(42)の電圧が前記最低作動電圧よりも高いと判定されたら、前記駆動信号に基づいて前記ステップモータの位置制御を再開するように構成されたことを特徴とする。
【0012】また請求項4記載の発明では、請求項1ないし3いずれか1つ記載の車両用空調装置において、前記空気通路切換手段(8,10)が、前記空調ダクト(7)中を横切るように設けられ、前記空調ダクト(7)中の空気を通過させる開口部(22〜26,34,35)が形成された可撓性の膜状部材(8,10)と、前記膜状部材(8,10)の一端側を巻き取る第1回転軸(19,29)と、前記膜状部材(8,10)の他端側を巻き取る第2回転軸(20,30)とから構成され、前記ステップモータ(27,36)が前記第1回転軸(19,29)を回転駆動することを特徴とする。
【0013】なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施例の具体的手段との対応関係を示すものである。
【0014】
【発明の作用効果】請求項1ないし4記載の発明によれば、判定手段によって、車両バッテリーの電圧が前記最低作動電圧以下であると判定されたときには、制御装置からステップモータに対して駆動信号が出力されない。つまり、ステップモータが駆動し得ないときには前記駆動信号が出力されない。従って、制御装置からステップモータに対して駆動信号が出力されたにも係わらず実際にステップモータが作動しないという問題を未然に回避することができ、これによって、制御装置が認識するステップモータの位置と実際のステップモータとの位置がずれることを防止することができる。
【0015】
【0016】また請求項1記載の発明の場合、車両におけるその他の機器(例えばオーディオ、スタータ等)での電力使用量が多いと、バッテリー電圧が前記最低作動電圧以下まで低下し、これに応じてステップモータに印加される電圧が前記最低作動電圧以下まで下がることがあり、このようなときに制御装置からステップモータに対して駆動信号が出力されると、制御装置が認識するステップモータの位置と実際のステップモータの位置とのずれが発生する。
【0017】本発明では、上記のようなときにステップモータに対して駆動信号が出力されないようにするので、制御装置が認識するステップモータの位置と実際のステップモータとの位置がずれることを防止することができ、これによって所望の空調制御を行うことができる。特に請求項2記載の発明では、車両バッテリーの電圧が前記最低作動電圧以下であるときには、ステップモータを駆動する指示(例えば空気通路切換手段を吹出口切換ドアで構成した場合は吹出モードを変更する指示)があるときでも制御装置から前記駆動信号が出力されない。従って、請求項1記載の発明と同様の効果を奏する。
【0018】
【実施例】次に、本発明の一実施例を図1に基づいて説明する。車両用空調装置1は、車室内のセンターコンソール内に配設された空調ユニット2、および各空調機器を電気的に制御して室内温度と送風量を自動コントロールするコントロールユニット3(以下ECUという、図4参照)を備える。
【0019】空調ユニット2は、送風機4、蒸発器5、ヒータコア6、空調ダクト7、エアミックスドア8、冷風バイパスドア9、および吹出口切換ドア10等から構成されている。上記送風機4は空調ダクト7内に配設され、ブロワモータコントローラ11(図4参照)により印加電圧が制御されるブロワモータ12aによって回転速度が制御され、図示しない吸入口から吸入した空気を空調ダクト7を介して車室内へ送風する。
【0020】上記蒸発器5は、空調ダクト7内に配設され、圧縮機、凝縮器、減圧手段(それぞれ図示しない)とともに周知の冷凍サイクルを構成し、空調ダクト7内の空気を冷却する熱交換器である。上記ヒータコア6は、空調ダクト7内において蒸発器5の空気下流側部位に配設され、内部に流入するエンジン冷却水を熱源として空調ダクト7内の空気を加熱する熱交換器である。
【0021】空調ダクト7の空気下流端には、空調風を車室内乗員の上半身に向けて吹き出すためのフェイス吹出口16、空調風をフロントガラス内面に向けて吹き出すためのデフロスタ吹出口17、および空調風を乗員の足元に向けて吹き出すためのフット吹出口18が形成されている。また空調ダクト7内には、蒸発器5からの冷風をヒータコア6を通過させて上記各吹出口16〜18へ導く温風通路12と、蒸発器5からの冷風をヒータコア6をバイパスさせて上記各吹出口16〜18へ導く冷風通路13〜15が形成されている。
【0022】上記エアミックスドア8は、PPSやナイロン等の樹脂を積層した可撓性の薄膜よりなるフィルムドアであり、両端が、空調ダクト7に回転自在に支持された駆動軸19と従動軸20とに固定され、駆動軸19、ヒータコア6、支持軸21、および従動軸20によって張設されている。図2に、各空調状態におけるエアミックスドア8の作動位置と空調ダクト7の各通路12〜14との関係を示す。
【0023】図2に示すようにエアミックスドア8には、その長手方向に所定の間隔で第1〜第5窓部22〜26が各々4個ずつ形成されている。このエアミックスドア8は、その一端部8aに固定された駆動軸19と他端部8bに固定された従動軸20との間を移動して、第1〜第5窓部と温風通路12、冷風通路13、14との連通状態(各通路12〜14の開度)を変更することにより、各吹出口16〜18から吹き出される空気の吹出温度を調節する。
【0024】なお、エアミックスドア8は、空調制御中においては図2(a)に示す最大風量冷房状態から図2(c)に示す最大暖房状態までの間で作動する。なお、図2(b)に示す状態は最大冷房状態を示す。また上記駆動軸19はステップモータ27(図4参照)によって回転駆動され、この駆動軸19の回転は空調ダクト7の外側に張設されたタイミングベルト(図示しない)を介して従動軸20に伝達される。
【0025】なお、エアミックスドア8を最大冷房状態の位置(図2(b))にするには、エアミックスドア8が基準位置(図2(a))にある状態から、ECU3(図4参照)がステップモータ27に対して275ステップの駆動信号を出力すれば良い。またエアミックスドア8を上記最大暖房状態(図2(c))にするには、エアミックスドア8が上記基準位置にある状態から、ECU3がステップモータ27に対して1571ステップの駆動信号を出力すれば良い。
【0026】上記冷風バイパスドア9は、空調ダクト7とエアミックスドア8との間に形成される冷風通路15の開度を調節する。この冷風バイパスドア9は、エアミックスドア8が図2(a)の位置に設定されると冷風通路15を開き、車室内への送風量を増加させる。上記吹出口切換ドア10は、PPSやナイロン等の樹脂を積層した可撓性の薄膜よりなるフィルムドアであり、両端が、空調ダクト7に回転自在に支持された駆動軸29と従動軸30とに固定され、駆動軸29、支持軸31、32、33、および従動軸30によって張設されている。
【0027】図3に、各吹出モードにおける吹出口切換ドア10の作動位置と空調ダクト7の各吹出口16〜18との関係を示す。図3に示すように吹出口切換ドア10には、その長手方向に所定の間隔で第1窓部34および第2窓部35が各々4個ずつ形成されている。この吹出口切換ドア10は、その一端部10aに固定された駆動軸29と他端部10bに固定された従動軸30との間を移動して、第1、第2窓部34、35と各吹出口16〜18との連通状態(各吹出口16〜18の開度)を変更することにより、吹出モードを変更する。
【0028】なお、吹出口切換ドア10は、空調制御中においては図3(a)に示すデフロスタモード位置、図3(b)に示すフットデフモード位置、図3(c)に示すフットモード位置、図3(d)に示すバイレベルモード位置、および図3(e)に示すフェイスモード位置の間で作動する。また上記駆動軸29はステップモータ36(図4参照)によって回転駆動され、この駆動軸29の回転は空調ダクト7の外側に張設されたタイミングベルト(図示しない)を介して従動軸30に伝達される。
【0029】なお、吹出口切換ドア10を図3(a)ないし図3(e)の各位置にするには、吹出口切換ドア10が基準位置(吹出口切換ドア10の作動範囲の最もフェイスモード側端部の位置)にある状態から、ECU3(図4参照)がステップモータ27に対して2014ステップ、1567ステップ、1434ステップ、1082ステップ、および272ステップの駆動信号をそれぞれ出力すれば良い。
【0030】上記ECU3は、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェイス等を備える周知のもので、図5に示すように、イグニッションスイッチ41を介してバッテリー42に接続されており、図4に示すように、車室内温度を検出する内気温センサ43、外気温度を検出する外気温センサ44、車室内に照射される日射量を検出する日射センサ45、ヒータコア6内のエンジン冷却水の温度を検出する水温センサ46、蒸発器5を通過後の冷風温度を検出する蒸発器後センサ47、および車室内の希望温度を設定する温度設定器48と接続されている。
【0031】そしてECU3は上記各センサ43〜47をA/D変換した値、および温度設定器48によって設定された設定温度に基づいて所定の演算を行い、上記ブロワモータコントローラ11およびステップモータ27、36等の各駆動手段を制御して車室内の空調状態を自動コントロールする。また、ECU3、ステップモータ27、36、バッテリー41のそれぞれの電気的接続関係は図5に示す通りであり、イグニッションスイッチ41がオンすることによってバッテリー42からECU3、ステップモータ27、36、およびその他の電気機器(例えばオーディオ、スタータ等)49に電力が供給される。このとき、ECU3、ステップモータ27、36、その他の電気機器49に印加される電圧はほぼ同じとなる。
【0032】そして例えばオーディオ、スタータ等の電気機器を使用した場合にはバッテリー42の電源電圧が低下し、これに伴ってECU3およびステップモータ27、36に印加される電圧も低下する。また本実施例では、ステップモータ27、36を4相のもので構成している。次に、ECU3が行う上記所定の演算および制御のうち、エアミックスドア8および吹出口切換ドア10についての演算、制御について説明する。
【0033】まずエアミックスドア8について説明すると、上記各センサの検出値から車室内へ吹き出す目標吹出温度(TAO)を算出し、このTAOに基づいてエアミックスドア8の目標開度SWを決定する。このSWは、上記最大風量冷房状態(図2(a))のときにはSW=0(%)となり、上記最大暖房状態(図2(c))のときにはSW=100(%)となる。
【0034】そしてこの目標開度SWに応じたステップモータ27の目標ステップ数(SWSTEP)を下記数式1に基づいて算出する。
【0035】
【数1】SWSTEP=1571×SW/100
つまり、ECU3が、エアミックスドア8の上記基準位置(図2(a)位置)にある状態からステップモータ27に対して1571ステップの駆動信号を出力すれば最大暖房状態となることから、上記数式1より目標ステップ数(SWSTEP)が求められる。
【0036】そして、上記基準位置からのステップ数が上記目標ステップ数(SWSTEP)となるようにステップモータ27に駆動信号を出力することによって、エアミックスドア8の開度が目標開度SWとなる。次に吹出口切換ドア10について説明すると、図6に基づいて、上記目標吹出温度(TAO)に応じて吹出モードを決定する。つまり図3(c)〜図3(e)に示すフットモード、バイレベルモード、およびフェイスモードは上記TAOに基づいて決定され、図3(a)、(b)に示すデフモードおよびフットデフモードは、図示しない吹出モード設定スイッチによって決定される。
【0037】そして、吹出口切換ドア10の上記基準位置からのステップ数が、上述のように決定された吹出モードに対応する目標ステップ数となるようにステップモータ36に駆動信号を出力することによって、所望の吹出モードが得られる。次に、本実施例の要部について図7のフローチャートを用いて説明する。まず空調装置の自動制御処理をステップ100にて開始すると、次のステップ200にて、ステップモータ27または36を駆動する指示があるか否かを判定する。ここで前記指示があるときとは、例えば温度設定器48で設定温度を変更したことによって目標吹出温度(TAO)が変更し、これに応じてエアミックスドア8の位置を変更するときとか、あるいは例えば前記TAOが変更したことによって目標吹出モードが変更し、これに応じて吹出口切換ドア10の位置を変更するときである。また前記指示は、エアミックスドア8や吹出口切換ドア10が目標位置に移動するまで出力される。
【0038】そしてステップ200にて前記指示が無いと判定されたら、再びステップ200の処理を繰り返す。一方、前記指示が有ると判定されたらステップ300に進み、ECU3の端子A(図5)に印加される電圧が所定値以下であるか否かをみることによって、バッテリー42の電圧(電源電圧)が前記所定値以下であるか否か、ひいてはステップモータ27および36に印加される電圧が前記所定値以下であるか否かを判定する。ここで前記所定値とは、ステップモータ27および36を作動させるのに最低限必要な電圧のことであり、この実施例では9.6Vである。
【0039】そしてステップ300にてNOと判定されたときは、ECU3からの駆動信号に対してステップモータ27、36が正常に作動するということであるので、ステップ500にてステップモータ27または36に対して駆動信号を出力する。その後ステップ200の処理に戻る。一方、ステップ300にてYESと判定されたときは、ECU3からの駆動信号に対してステップモータ27、36が正常に作動しないので、このようなときには駆動信号が出力されている途中であっても、この出力を中止する。
【0040】そしてステップ300の処理に戻り、このステップ300にてNOと判定されたらステップ500にてステップモータ27,36に対して駆動信号を出力し、ステップ200の処理に戻る。以上の制御によると、例えば現在フェイスモードで制御されているときに、温度設定器48が操作されて目標吹出温度(TAO)が変更し、目標吹出モードがバイレベルモードになると、ECU3は810(=1082-272)ステップなる目標ステップ数を演算する。
【0041】そしてECU3は、実際に810ステップの駆動信号を出力し始めるわけだが、駆動信号を例えば210ステップ出力した後にバッテリー電圧が上記所定値以下となると、ステップ400にて211ステップ目の出力をせずにそのまま待機する。そしてバッテリー電圧が上記所定値を超えたらステップ500にて211ステップ目から駆動信号が再出力される。
【0042】このように本実施例では、ECU3への印加電圧が上記所定値以下になったときを、ステップモータ27および36への印加電圧が上記所定値以下になったときとみなし、このようなときにはECU3からステップモータ27または36に駆動信号が出力されないようにするので、ECU3が記憶しているエアミックスドア8または吹出モードドア10の位置と、実際のドア8または10の位置とがずれない。従って、エアミックスドア8による吹出温度調節や、吹出口切換ドア10による吹出モードをほぼ目標値通りに制御することができる。
【0043】なお、図7のフローチャートにおける各ステップはそれぞれの機能を実現する手段を構成する。(他の実施例)一般的に車両ではエンジン始動時(スタータのクランキング時)にバッテリー電圧が低下し易い。従って、スタータの作動信号を入力するように構成し、上記実施例におけるステップ300の処理を、この作動信号が入力されたか否かを判定する処理としても良い。さらに他の例として、ステップモータ27、36に印加される電圧を直接検出する手段を設け、上記ステップ300の処理を、この直接検出手段の値が上記所定値以下であるか否かを判定する処理としても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施例の通風系の全体構成図である。
【図2】上記実施例のエアミックスドア8と各通路12〜14との関係を示す展開図である。
【図3】上記実施例の吹出口切換ドア10と各吹出口16〜18との関係を示す展開図である。
【図4】上記実施例の制御系のブロック図である。
【図5】上記実施例のECU3、ステップモータ27、36、およびバッテリー41のそれぞれの電気的接続関係を示す模式図である。
【図6】目標吹出温度(TAO)と吹出モードとの関係を示す特性図である。
【図7】本発明実施例の要部を示す制御フローチャートである。
【符号の説明】
3…ECU(制御装置)、4…送風機(送風手段)、7…空調ダクト、8…エアミックスドア(空気通路切換手段)、10…吹出口切換ドア(空気通路切換手段)、19…駆動軸(第1回転軸)、20…従動軸(第2回転軸)、27…ステップモータ、29…駆動軸(第1回転軸)、30…従動軸(第2回転軸)、36…ステップモータ、41…イグニッションスイッチ(停止指示手段)、42…バッテリー(電源)、
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-09-13 
出願番号 特願平6-243940
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B60H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 尾家 英樹  
特許庁審判長 橋本 康重
特許庁審判官 櫻井 康平
長浜 義憲
登録日 2002-05-17 
登録番号 特許第3306567号(P3306567)
権利者 株式会社デンソー トヨタ自動車株式会社
発明の名称 車両用空調装置  
代理人 伊藤 洋二  
代理人 三浦 高広  
代理人 伊藤 洋二  
代理人 水野 史博  
代理人 水野 史博  
代理人 水野 史博  
代理人 伊藤 洋二  
代理人 三浦 高広  
代理人 三浦 高広  

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