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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1107924
異議申立番号 異議2002-71434  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-06-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-06-05 
確定日 2004-09-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3237354号「ペースト用塩化ビニル系樹脂」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3237354号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3237354号の請求項1〜2に係る発明についての出願は、平成5年11月29日に出願され、平成13年10月5日に特許権の設定がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人 鐘淵化学工業株式会社(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成14年8月30日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年11月5日に特許異議意見書が提出され、平成16年7月30日付けで再度取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年8月17日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
訂正事項a.特許請求の範囲の請求項1の、
「【請求項1】塩化ビニル系重合体の水性分散液を噴霧乾燥して得られるペースト用塩化ビニル系樹脂であって、水性分散液における塩化ビニル系重合体が、平均重合度1300以下、平均粒子径0.7〜1.1μm 、全重合体に占める粒子径0.2μm 以下の割合5wt%以下であることを特徴とするペースト用塩化ビニル系樹脂。」を
「【請求項1】塩化ビニル系重合体の水性分散液を噴霧乾燥して得られるペースト用塩化ビニル系樹脂であって、水性分散液における塩化ビニル系重合体が、平均重合度1300以下、平均粒子径0.7〜1.1μm、全重合体に占める粒子径0.2μm以下の割合5wt%以下であることを特徴とする、ケミカルエンボス法に使用されるペースト用塩化ビニル系樹脂。」と訂正する。
訂正事項b.段落【0006】の、
「【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、塩化ビニル系重合体の水性分散液を噴霧乾燥して得られるペースト用塩化ビニル系樹脂であって、水性分散液における塩化ビニル系重合体が、平均重合度1300以下、平均粒子径0.7〜1.1μm、全重合体に占める粒子径0.2μm 以下の割合5wt%以下であることを特徴とするペースト用塩化ビニル系樹脂、及びこれを含有することを特徴とする塩化ビニル系ペースト樹脂組成物を提供するものである。」を
「【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、塩化ビニル系重合体の水性分散液を噴霧乾燥して得られるペースト用塩化ビニル系樹脂であって、水性分散液における塩化ビニル系重合体が、平均重合度1300以下、平均粒子径0.7〜1.1μm、全重合体に占める粒子径0.2μm以下の割合5wt%以下であることを特徴とする、ケミカルエンボス法に使用されるペースト用塩化ビニル系樹脂、及びこれを含有することを特徴とする塩化ビニル系ペースト樹脂組成物を提供するものである。」と訂正する。
なお、訂正請求書の「6.請求の理由-(3)訂正事項」の項には、「b.段落0006の記載、『・・・・塩化ビニル系ペースト樹脂組成物を提供するものである。』を、『・・・・塩化ビニル系ペースト樹脂組成物。』に訂正する。」と記載されているが、全文訂正明細書では当該箇所が「・・・・塩化ビニル系ペースト樹脂組成物を提供するものである。」とされており、訂正事項bについては、上記のように解するのが相当である。

2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項aは、訂正前の明細書の段落【0003】や段落【0014】などに開示されている「ケミカルエンボス法に使用されるペースト用塩化ビニル系樹脂」との記載に基づいて、請求項1の「ペースト用塩化ビニル系樹脂」を「ケミカルエンボス法に使用されるペースト用塩化ビニル系樹脂」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項bは、上記訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正に伴って、発明の詳細な説明の対応する箇所の記載をこれと整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

そして、これらの訂正は、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成六年法律第百十六号、以下「平成六年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成六年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
上記の結果、訂正後の本件請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、上記のように訂正された明細書(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 塩化ビニル系重合体の水性分散液を噴霧乾燥して得られるペースト用塩化ビニル系樹脂であって、水性分散液における塩化ビニル系重合体が、平均重合度1300以下、平均粒子径0.7〜1.1μm、全重合体に占める粒子径0.2μm以下の割合5wt%以下であることを特徴とする、ケミカルエンボス法に使用されるペースト用塩化ビニル系樹脂。
【請求項2】 可塑剤、安定剤、発泡剤と、請求項1のペースト用塩化ビニル系樹脂とを含有することを特徴とするペースト用塩化ビニル系ペースト樹脂組成物。」

4.特許異議の申立てについての判断
4-1.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲第1〜7号証を提出して、概略、次の理由により本件請求項1及び2に係る発明の特許は取り消されるべきである旨、主張する。
(1)本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1、3〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(2)本件特許明細書の記載は不備であるから、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、特許法第36条第5項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない出願についてされたものである。

4-2.判断
4-2-1.取消理由
当審において平成14年8月30日付けで通知した取消理由は、上記特許異議申立人の申し立てた理由(1)と同旨であり、引用した刊行物は以下のとおりである。

(註:上記4-1.及び4-2-1.の「請求項」とは、訂正前の請求項を指す。)

刊行物1: 特公昭50-6487号公報(甲第1号証)
刊行物2: 特公昭61-23824号公報(甲第3号証)
刊行物3: 「化学大辞典9 縮刷版」,共立出版株式会社,昭和53年9月10日,第743〜744頁 「りゅうど 粒度」の項(甲第4号証)
刊行物4: 「プラスチック加工技術便覧 新版」,日刊工業新聞社,昭和56年3月20日,第486〜487、491〜492頁(甲第5号証)
刊行物5: 特公昭31-10248号公報(甲第6号証)
刊行物6: 「ポリ塩化ビニル-その基礎と応用」,日刊工業新聞社,昭和63年10月25日,第116〜117頁(甲第7号証)

4-2-2.刊行物1〜6の記載事項
刊行物1には、平均粒子径が0.5〜1.5μのペースト用塩化ビニル樹脂(特許請求の範囲)が記載されており、その実施例1には塩化ビニル重合体のラテックスをスプレードライヤーで乾燥し粉砕してペーストレジンを得たこと及びその平均粒子径が0.8μ、平均重合度が1330であったことが記載されている。
刊行物2には、平均重合度が900〜1300、粒径が1ミクロン以下の塩化ビニルと酢酸ビニルの共重合体からなる樹脂に、発泡剤、可塑剤、安定剤、滑剤、界面活性剤、着色剤等を添加混練してなる発泡塩化ビニルペーストを主成分としたグラビアインキ組成物(特許請求の範囲)が記載されており、実施例1の発泡インキ配合処方においては、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂として「ゼオン135J(日本ゼオン(株)製)」を用いたことが記載されている。
刊行物3には、粒度について記載されており、粒度とは粉粒体の大きさであって、普通粒子の直径で表して粒径と呼ぶこと、一般には粒度は一義的に定めることがむずかしく、なんらかの平均的な代表長さをもって表すことが記載されている。
刊行物4には、塩化ビニルプラスチゾルの流動特性を左右する因子は、レジン粒子の形状(ほとんどの銘柄は内部充実球である)、粒径とその分布(いわゆるペーストレジンは0.2〜2.0μの範囲にある)・・・・など多数あること、ゼオン121は平均重合度約1800、単位粒径0.2〜1.2μ、ゼオン135または135Jは単位粒径0.25〜1.5μで平均重合度が約1200であることが記載されている。
刊行物5には、常温で可塑剤と混練してペースト状として使用される塩化ビニル重合体、もしくは塩化ビニルと塩化ビニリデン、酢酸ビニル、アクリル酸エステル類等との共重合体の粉末たる所謂ペーストレジンはそれがペースト状とされた場合に良好な粘度流動特性を示すのは主として重合体たるペーストレジンの大きさにかかっていること、粒子の直径がすべて1±0.5ミクロンの範囲にあって、平均粒径が0.75ミクロンなるときに良好な粒度、流動特性を示すものであること、約0.3ミクロン以下の直径を有する重合体微粒子の存在がペーストレジンの要求される特性を劣化する支配的因子になること(第1頁左欄第2行〜同頁右欄第5行)が記載され、実施例1には、直径0.3〜1.2ミクロンの粒子よりなり、直径0.3ミクロン以下の微小粒子を含んでいないペーストレジン、実施例2には、直径0.3〜1.0ミクロンの粒子よりなり、直径0.3ミクロン以下の重合体粒子を含んでいないペーストレジン及び実施例3には、直径0.2〜1.5ミクロンの重合体乳化液から、直径0.3〜1.5ミクロンのペーストレジンを得たことが記載されている。
刊行物6には、ペースト樹脂製造法としては、乳化重合法とマイクロサスペンジョン法があり、品質上の問題から、噴霧乾燥をしていることが記載されている。

4-2-3.本件発明1についての対比・判断
そこで、本件発明1と刊行物1の実施例1に記載された発明とを対比する。
本件発明1と刊行物1の実施例1に記載された発明とは、ペースト用塩化ビニル系樹脂である点で一致し、
(ア)本件発明1においては、ペースト用塩化ビニル系樹脂が、ケミカルエンボス法に用いられものと限定されているのに対し、刊行物1にはそのペースト用塩化ビニル樹脂がケミカルエンボス法に用いられることについて何等記載がない点、
(イ)本件発明1の塩化ビニル系樹脂が塩化ビニル系重合体の水性分散液を噴霧乾燥して得られるのに対し、刊行物1の実施例1の塩化ビニル樹脂は塩化ビニル重合体のラテックス(水性分散液)を噴霧乾燥し、さらに粉砕したものである点、
(ウ)本件発明1のペースト用塩化ビニル系重合体の粒子径は、噴霧乾燥前の水性分散液の状態で、平均粒子径0.7〜1.1μで、全重合体に占める粒子径0.2μm以下の割合が5wt%以下であるのに対し、刊行物1の実施例1に記載の発明においては、噴霧乾燥後粉砕した状態で、平均粒子径0.8μであり、乾燥前の水性分散液における平均粒子径及び重合体に占める粒子径0.2μm以下の割合について記載がない点、及び
(エ)塩化ビニル系樹脂の平均重合度が本件発明1では1300以下であるのに対し、刊行物1の実施例1の塩化ビニル樹脂では1330である点で相違する。
特許異議申立人は、刊行物1の実施例1のペーストレジンの水性分散液における全重合体に占める粒子径0.2μm以下の割合を立証するために実験成績証明書を提出し、実施例1において得られた塩化ビニル樹脂のラテックスにおける粒子径0.2μ以下の割合は0wt%であるとの実験結果を得た旨主張する。しかしながら、刊行物1の実施例1のペーストレジンは塩化ビニル重合体のラテックスを噴霧乾燥し粉砕したものであり、噴霧乾燥後粉砕して得られたペーストレジンの粒子径は、ラテックスを噴霧乾燥しただけのものに比べて小さくなるものと考えられる。したがって、噴霧乾燥し粉砕したものの平均粒子径が0.8μであるなら、噴霧乾燥する前のラテックスにおける塩化ビニル樹脂の平均粒子径は0.8μよりは大きくなるはずであるから、この実験成績書における実験は矛盾しており、刊行物1の実施例1を適正に追試したものとは認められない。
したがって、本件発明1と刊行物1の実施例1におけるペースト用塩化ビニル系樹脂の平均粒子径及び粒子径0.2μ以下の割合が一致するものということができない。
そして、本件発明1においては、ペースト用塩化ビニル系樹脂が塩化ビニル系重合体の水性分散液を噴霧乾燥して得られるものであり、その水性分散液における塩化ビニル系重合体が特定の平均粒子径及び粒子径0.2μ以下の割合を有することにより、ケミカルエンボス法に用いられる場合に所定の効果を奏するものであるから、ペーストレジンがケミカルエンボス法に用いられることについての開示がなく、ペーストレジンが水性分散液を噴霧乾燥して得られ、水性分散液におけるペーストレジンの平均粒子径及び粒子径0.2μ以下の割合が本件発明1に特定された範囲のものであることが記載されていない刊行物1に記載された発明から、当業者が本件発明1を容易になし得たものということはできない。
また、刊行物2に分子量900〜1300のペースト用塩化ビニル系重合体が記載されており、刊行物4及び5に0.2μ以下または0.3μ以下の粒子径の微粒子を含まない塩化ビニル系ペーストレジンが記載されていても、それらのペーストレジンがケミカルエンボス法に用いられることについて何等記載がないのであるから、刊行物1に記載された発明に刊行物2、4及び5に記載された発明を組み合わせても、当業者が本件発明1を容易になし得たものとすることができない。
次いで、刊行物2に記載された発明と本件発明1とを対比すると、両者は平均重合度が1300以下のペースト用塩化ビニル系樹脂である点で一致し、本件発明1のペースト用塩化ビニル系樹脂がケミカルエンボス法に用いられるものであるのに対し、
(オ)刊行物2に記載の塩化ビニル系ペースト樹脂はグラビアインキ組成物に用いられるものである点、
(カ)本件発明1のペースト用塩化ビニル系樹脂が塩化ビニル系重合体の水性分散液を噴霧乾燥して得られるものであるのに対し、刊行物2に記載のペースト用塩化ビニル系樹脂はどのようにして得られるものか不明である点、
(キ)本件発明1においては、噴霧乾燥前の水性分散液における全重合体に占める粒子径0.2μm以下の割合が5wt%以下であるのに対し、刊行物2記載のものでは不明である点、及び
(ク)本件発明1においては、樹脂の平均粒子径が0.7〜1.1μmであるのに対し、刊行物2に記載の樹脂においては粒径1ミクロン以下という規定における粒子径が平均粒子径であるかどうか不明な点
で相違する。
これらの相違点について検討すると、刊行物2にはペースト樹脂の製造法については記載がないものの実施例1において用いられたペースト樹脂は、ゼオン135Jであり、刊行物4の記載によれば、ゼオン135Jの単位粒径は0.25〜1.5μであるので、粒子径0.2μ以下の割合は0wt%であり、また、刊行物3の記載からすると、粒径1ミクロン以下というのは平均粒子径を表すものと解される。よって、本件発明1と刊行物2に記載された塩化ビニル系樹脂の平均粒子径及び粒子径0.2μ以下の割合は一応一致する。
しかしながら、本件発明1で特定された、ペースト用塩化ビニル系樹脂の平均粒径及び粒子径0.2μ以下の割合は、ケミカルエンボス法に用いられた場合に所定の効果を奏するのであるから、ケミカルエンボス法について何等記載のない刊行物2〜6に記載された発明を組み合わせても、当業者が本件発明1を容易想到し得たものとすることはできない。
ゆえに、本件発明1が、刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとするとはできない。

4-2-4.本件発明2についての対比・判断
本件発明2は、可塑剤、安定剤、発泡剤と、本件発明1のペースト用塩化ビニル系樹脂、すなわちケミカルエンボス法に使用されるペースト用塩化ビニル樹脂とを含有する塩化ビニル系ペースト樹脂組成物の発明であり、塩化ビニル系ペースト樹脂組成物自体にケミカルエンボス法に用いられるという限定はなされていない。
しかしながら、配合成分であるペースト用塩化ビニル系樹脂にケミカルエンボス法に用いられる旨の限定がある以上、本件発明2の塩化ビニル系樹脂組成物もケミカルエンボス用に用いられるものであると認められ、本件発明1について述べたように、刊行物1〜6には、ケミカルエンボス法に用いられるペースト用塩化ビニル系樹脂及びケミカルエンボス法に用いられるペースト用塩化ビニル系樹脂組成物について何等記載がなく、本件発明2は本件発明1のペースト用塩化ビニル樹脂を含有し、ケミカルエンボス法に用いられたときに所定の効果を奏するものであるから、同様の理由により、本件発明2もまた、刊行物1〜6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとすることができない。

4-2-5.他の特許異議申立理由について
特許異議申立人は、訂正前の本件特許明細書の発明の詳細な説明にはケミカルエンボス性が向上することが発明の効果として記載されているが、特許請求の範囲の記載はこれと一致していないから明細書の記載が不備である旨主張しているが、上記訂正により、この記載不備は解消された。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1及び2を取り消すことができない。
また、他に本件発明1及び2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ペースト用塩化ビニル系樹脂
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系重合体の水性分散液を噴霧乾燥して得られるペースト用塩化ビニル系樹脂であって、水性分散液における塩化ビニル系重合体が、平均重合度1300以下、平均粒子径0.7〜1.1μm、全重合体に占める粒子径0.2μm以下の割合5wt%以下であることを特徴とする、ケミカルエンボス法に使用されるペースト用塩化ビニル系樹脂。
【請求項2】
可塑剤、安定剤、発泡剤と、請求項1のペースト用塩化ビニル系樹脂とを含有することを特徴とする塩化ビニル系ペースト樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ペースト用塩化ビニル系樹脂に関する。
【0002】
【従来の技術】
家屋の内装等に用いられている塩化ビニル系の壁紙は、ペースト用塩化ビニル系樹脂と可塑剤、安定剤、発泡剤等からなる塩化ビニル系ペースト樹脂組成物を難燃紙等の基材上に塗布しエンボス加工することにより製造されることは良く知られている。
またエンボス加工の一手段として、発泡剤を含有せしめたペースト樹脂組成物を塗布した原反上に、発泡抑制剤を含有するインキを印刷した後、加熱発泡させて印刷部分の発泡を抑制することにより、凹凸模様を形成せしめるというケミカルエンボス法(特公昭43-28636号公報)も良く知られている。
【0003】
従来より、ケミカルエンボス法に使用されるペースト用塩化ビニル系樹脂としては、乳化重合、ミクロ懸濁重合により得られた平均重合度1500〜1800程度の重合体が使用され、平均粒子径1〜1.6μmである塩化ビニル系重合体の水性分散液に、別途重合した平均粒子径0.2〜0.3μmである塩化ビニル系重合体の水性分散液を重量比で10〜40%混合して噴霧乾燥したものが用いられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のペースト用塩化ビニル系樹脂は、平均粒子径0.2〜0.3μmの重合体を併用することにより発泡性は向上するものの、ケミカルエンボス性が低下し、一方、ケミカルエンボス性を向上させるべく、平均粒子径0.2〜0.3μmの重合体の併用量を削減すると発泡性が低下してしまうという欠点があり、実用用的に満足し得るものではなかった。
【0005】
本発明者らは、より優れたペースト用塩化ビニル系樹脂を見出すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の平均重合度の重合体であって、しかも特定の粒子径分布を有する重合体を用いれば、ケミカルエンボス性、発泡性いずれの点でも優れ、実用的に充分満足し得る塩化ビニル系ペースト樹脂組成物を与えることを見出すとともにさらに検討を加えて本発明を完成した。
【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、塩化ビニル系重合体の水性分散液を噴霧乾燥して得られるペースト用塩化ビニル系樹脂であって、水性分散液における塩化ビニル系重合体が、平均重合度1300以下、平均粒子径0.7〜1.1μm、全重合体に占める粒子径0.2μm以下の割合5wt%以下であることを特徴とする、ケミカルエンボス法に使用されるペースト用塩化ビニル系樹脂、及びこれを含有することを特徴とする塩化ビニル系ペースト樹脂組成物を提供するものである。
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のペースト用塩化ビニル系樹脂は、平均重合度が1300以下、平均粒子径が0.7〜1.1μm、粒子径0.2μm以下の重合体が重合体全体の5wt%以下である塩化ビニル系重合体の水性分散液を噴霧乾燥して得られるものであるが、該塩化ビニル系重合体としては、塩化ビニル単独重合体、塩化ビニルとそれと共重合し得る単量体との共重合体等が挙げられる。
かかる共重合体可能な単量体としては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸類、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、イタコン酸エチル等の不飽和カルボン酸エステル類、エチレン、プロピレン等のオレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、フマール酸、マレイン酸、それらの無水物、それらのエステル等が挙げられる。
【0008】
また重合方法としては、乳化重合法、ミクロ懸濁重合等が通常採用される。乳化剤としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤が通常使用され、その使用量は、通常前単量体100wt部当たり、0.1〜3wt部程度である。
【0009】
本発明に使用される塩化ビニル系重合体の平均重合度は、1300以下、好ましくは900〜1200である。
また平均粒子径は、0.7〜1.1μm、好ましくは0.8〜1μmであり、粒子径0.2μm以下の重合体が重合体全体の5wt%以下、好ましくは0.1〜3wt%である。
ここで、重合度が1300を超えた場合は、発泡性が低下する傾向があり、また平均粒子径が0.7μm未満の場合は、ケミカルエンボス性が悪化するとともにゾル粘度が高くなる傾向があり、1.1μmを超えた場合は、発泡性が低下する傾向がある。また粒子径0.2μm以下の重合体が重合体全体の5wt%を超えるとケミカルエンボス性が悪化する傾向がある。
【0010】
本発明のペースト用塩化ビニル系樹脂は、上記のような特定の平均重合度と特定の粒子径分布を有する重合体の水性分散液を噴霧乾燥して得られるが、噴霧乾燥するに当たっては、例えば、スプレードライヤー等が使用される。
【0011】
かくして、本発明のペースト用塩化ビニル系樹脂が製造されるが、このものに可塑剤、安定剤、充填剤、発泡剤等を混合することにより、塩化ビニル系ペースト樹脂組成物を製造し得る。
可塑剤としては、例えばフタレート系、アジペート系、ポリエステル系、エポキシ系、リン酸エステル系、これらの混合物等が用いられる。安定剤としては、例えばバリウム-亜鉛系、スズ系、カルシウム-亜鉛系、亜鉛系、これらの混合物等が用いられる。
【0012】
また充填剤としては、塩化ビニル系樹脂の加工に一般的に用いられているもの、例えば炭酸カルシュウム、タルク、水酸化アルミニウム、酸化チタン、三酸化アンチモン、クレー等が挙げられる。これらは、単独で用いても良いし、二種以上混合して用いることもできる。
発泡剤としては、例えばアゾ系、スルホヒドラジド系、ニトロソ系等の化合物が用いられる。
【0013】
本発明の塩化ビニル系ペースト樹脂組成物は、上記のような各成分を含有するものであるが、これらの他に希釈剤、顔料等の種々の配合剤も含有することもできる。 含有せしめる方法としては、例えばミキサー、らいかい機等による混練方法が通常用いられる。
【0014】
【発明の効果】
本発明のペースト用塩化ビニル系樹脂は、ケミカルエンボス性、発泡性いずれの点でも優れ、実用的に充分満足し得る塩化ビニル系ペースト樹脂組成物を与える。
加えて、本発明のペースト用塩化ビニル系樹脂は、別途重合した平均粒子径0.2〜0.3μmである重合体を加えなくても製造し得るので、この点でも有利である。
【0015】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。 なお、物性は下記の方法で測定した。
(1)重合度
JIS K-6721の方法で測定した。
(2)粒子径
マルバーン社製のレーザー拡散型粒度分布測定装置(マスターサイザーMS20)を用いて測定した。
【0016】
実施例1
(1)塩化ビニル系重合体の水性分散液の製造
100Lのグラスライニング製オートクレーブを脱気した後、脱イオン水40Kg、塩化ビニル単量体16Kg、ラウリル硫酸ナトリウム140g、ステアリルアルコール240g、ラウロイルパーオキサイド10gを仕込み、ホモジナイザー全圧120Kg/cm2で均質化処理後、60℃まで昇温して重合を開始した。
反応器内の圧力が0.5Kg/cm2低下したところで塩化ビニル単量体18Kgを添加して重合を続け、反応器内の圧力が0.5Kg/cm2低下した時点で重合を止め、未反応単量体を回収し、塩化ビニル系重合体の水性分散液Aを得た。
この重合体の平均粒子径は、0.9μm、粒子径0.2μm以下の重合体の含有率は1.5%であり、重合度は980であった。
【0017】
(2)ペースト用塩化ビニル系樹脂の製造
この水性分散液に、重合体100wt部当たりラウリル硫酸ナトリウム0.5wt部、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル0.5wt部添加し、攪拌後スプレードライヤーで噴霧乾燥することにより、塩化ビニル系樹脂を得た。
【0018】
(3)塩化ビニル系ペースト樹脂組成物の製造
次いで、この塩化ビニル系樹脂100wt部とジ-2-エチルヘキシルフタレート65部、炭酸カルシウム(白石工業(株)製、ホワイトンH)50wt部、酸化チタン(石原産業(株)製、R-820)18wt部、発泡剤(大塚化学(株)製、AZS-1)2.5wt部、安定剤(共同薬品(株)製、KF83F8)1wt部、酸化亜鉛1wt部、希釈剤(日本石油化学(株)製、商品名:ミネラルスピリットA、化合物名:炭化水素、物性:初留点152℃、終点196℃、アニリン点42.2℃)10wt分とをらいかい機を用いて混練してペーストゾルを調製した。
【0019】
(4)ケミカルエンボス性の評価
このペーストゾルをナイフコーターを用いて難燃紙上に175μmの厚みにコートした後、130℃のオーブンで60秒加熱処理して、塗布面を半ゲル状態とし、次いでこれを冷却後、短冊状に切り試料とした。
次いで、グラビア印刷機(熊谷理機工業(株)製)を用いて、短冊状試料の一部に発泡抑制インキ(大日精化(株)製VSF-D625)を塗布した後、225℃のオーブン中で50秒間熱処理して発泡シートを作成した。
【0020】
抑制インキ塗布部(エンボス部)及び非塗布部(非エンボス部)の厚みを測定し、下式によりケミカルエンボス率を測定した。結果を表1に示した。
ケミカルエンボス率=(非エンボス部の厚み-エンボス部の厚み)/(非エンボス部の厚み-半ゲルシートの厚み)×100
また、非エンボス部の表面状態を下記のように評価した。 その結果を表1に示した。
◎:凹凸が殆ど認められない。
△:小さな凹凸が認められる。
×:全面に大きな凹凸が認められる。
【0021】
比較例1
実施例1において、重合開始剤としてのラウロイルパーオキサイドの代わりに、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート7.5gを用い、重合温度を49℃とする以外は、実施例1に準拠して塩化ビニル系重合体の水性分散液Bを得た。
この重合体の平均粒子径は、0.92μm、粒子径0.2μm以下の重合体の含有率は1.4%であり、重合度は1550であった。
この水性分散液を用いて、実施例1に準拠して塩化ビニル系樹脂を製造し、ぺーストゾルを調製し、ケミカルエンボス性の評価を実施した。結果を表1に示した。
【0022】
比較例2
比較例1において、ホモジナイザーの全圧を60Kg/cm2として均質処理する以外は、比較例1に準拠して塩化ビニル系重合体の水性分散液Cを得た。
この重合体の平均粒子径は、1.25μm、粒子径0.2μm以下の重合体の含有率は0.6%であり、重合度は1540であった。
この水性分散液を用いて、実施例1に準拠して塩化ビニル系樹脂を製造し、ペーストゾルを調製し、ケミカルエンボス性の評価を実施した。結果を表1に示した。
【0023】
比較例3〜4
塩化ビニル系重合体の水性分散液Cと、後述のようにして製造した塩化ビニル系重合体の水性分散液Dとを表1に示す割合で混合した後、実施例1に準拠して塩化ビニル系樹脂を製造し、ペーストゾルを調製し、ケミカルエンボス性の評価を実施した。結果を表1に示した。
【0024】
(塩化ビニル系重合体の水性分散液Dの製造)
100Lのグラスライニング製オートクレーブを脱気した後、脱イオン水40Kg、塩化ビニル単量体36Kg、ラウリル硫酸ナトリウム4g、を仕込み、49℃まで昇温した。次いでレドックス触媒(0.3%過酸化水素水溶液6L、3%ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート水溶液4L)を12時間かけて連続添加した。
反応率が20%に達した時点から、10%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液2Lを8時間かけて連続添加した。
反応器内の圧力が1Kg/cm2低下した時点で重合を止め、未反応単量体を回収し、塩化ビニル系重合体の水性分散液Dを得た。
この重合体の平均粒子径は、0.2μmであり、重合度は1590であった。
【0025】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-09-07 
出願番号 特願平5-298284
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C08J)
P 1 651・ 534- YA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 船岡 嘉彦
佐野 整博
登録日 2001-10-05 
登録番号 特許第3237354号(P3237354)
権利者 住友化学工業株式会社
発明の名称 ペースト用塩化ビニル系樹脂  
代理人 久保山 隆  
代理人 中山 亨  
代理人 秋山 文男  
代理人 久保山 隆  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 中山 亨  
代理人 田中 弘  
代理人 佐木 啓二  

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