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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1108809
審判番号 不服2002-24404  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-10-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-12-19 
確定日 2004-12-13 
事件の表示 平成10年特許願第 78936号「インクジェット記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月 5日出願公開、特開平11-268296〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成10年3月26日の出願であって、平成14年11月13日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年12月19日付けで本件審判請求がされるとともに、平成15年1月20日付けで、明細書についての手続補正(平成14年改正前特許法17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年1月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正目的
本件補正前後の【請求項1】の記載を比較すると、補正前の「(クレーム23)」及び「(クレーム23,24)」との文言の削除は、同文言が無意味であるための削除であり、誤記の訂正(特許法17条の2第4項3号該当)を目的とするものと認め、補正前の「移動可能な清掃子」を「移動可能であり、且つ多孔体で構成されるか、表面が多孔体で被覆された清掃子」と補正しており、これは特許請求の範囲の減縮(特許法17条の2第4項2号該当)を目的とするものと認める。請求人は「請求項1の補正は、平成14年9月6日付提出の手続補正書の請求項2からさらに弾性体を除いたものであり」(平成15年1月20日付け手続補正書(方式)23〜24行)というが、本件補正後の清掃子は、「多孔体で構成される」ことを要件としているのではなく、「多孔体で構成されるか、表面が多孔体で被覆された」ことを要件としているのだから、本件補正後の請求項1は本件補正前の請求項2を限定したものではない。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が、出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。

2.補正発明の認定
補正発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「インク液を保持するインク液保持室と、
前記インク液が吐出するための開口部が主走査方向に沿ってスリット状に形成され、前記インク液保持室の上部に設けられた蓋部と、
前記インク液と音響的に接続された圧電体素子を主走査方向に配列した超音波発生手段と、
この超音波発生手段上に設けられ、該超音波発生手段から発生される超音波を副走査方向において前記インク液の液面近傍に集束させる超音波集束手段と、
前記複数の圧電体素子から発生する超音波をインク液面近傍に集束させると共に、集束位置を主走査方向に走査するように前記超音波発生手段を駆動する駆動手段と、
スリット状の前記開口部の中に挿入して設けられ、スリット状の前記開口部の長手方向に沿って移動可能であり、且つ多孔体で構成されるか、表面が多孔体で被覆された清掃子とを具備したことを特徴とするインクジェット記録装置。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-85202号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア〜ケの記載が図示とともにある。
ア.「アレイ状に配置された複数個の音波発生素子と、前記音波発生素子から放射される音波ビーム圧を受けてインク液面から、スリットを介して粒子化したインク液滴を飛翔させるインク液飛翔手段とを有する音波モード利用のインクジェットヘッドを備えた記録装置であって、前記インクジェットヘッドは印字時と待機時とで異なる位置に移動可能に設定され、かつインクジェットヘッド面の清浄さを確保する手段を備えていることを特徴とする記録装置。」(【請求項5】)
イ.「ライン走査型ヘッドの目詰まりによる信頼性の問題、さらには解像度の問題に対して、薄膜の圧電体から発生する音波ビームを、インク液粒子の飛翔圧力源として利用する(音波モード利用)画像記録方式が、たとえば IBM TDB,vol.16,no.4,pp.1168(1973-10)・・・などで開示されている。この画像記録方式は、いわゆるノズルレス方式であって、ラインヘッド化する上で大きな支障を成していた目詰まりの防止、および目詰まり解消(復旧)に有効な機能を備えるとともに、安定した微小なインク粒子の飛翔も可能で、高解像度化にも期待されている。」(段落【0006】)
ウ.「【発明が解決しようとする課題】・・・インク液面においては、細かい振動の発生問題もあって、ときにはスリット液面から凸状に盛り上がり、この状態で印字を行うとスリット側面にインク液が垂れ流れて、ヘッド面の汚染化を招来するという問題もある。 一方、塵や埃(特に紙粉)などが付着すると、インク小滴(微粒子)吐出ポートを詰まらせるだけでなく、吐出されても記録媒体面に付着しなかったインク小滴が吐出ポートに堆積して、印刷プロセスに支障を生じ易いからである。もとより、このインクジェットヘッドの清浄問題は、いずれのプリンターにおいても同様であるが、特にライン走査型ヘッドの場合は、記録媒体幅と同じ長さの固定ヘッド型で、かつ数千個のインク液の小滴が吐出する構成と成っているため、インクジェットヘッドを記録媒体が通過する段階において、印字(画像形成)サイクルを妨害せずに、インクジェットヘッドを清掃することは実質的に不可能である。」(段落【0007】)
エ.「図1は本発明に係るインクジェットヘッドの要部構成例を示す斜視図である。図1において、・・・9は音波発生源(音波発生素子)であり、前記ガラス板8の一主面に面接合される共通電極層9a,この共通電極層9aの他面に接合・配置された圧電体層9b,および圧電体層9bの他面に設けられ、記録ドットに相当するように、圧電体層9bをアレイ状に分離する個別電極層9cで形成されている。また、10は前記音波発生源9を駆動する駆動回路、11は前記ガラス板8の他主面に接合・配置されたノズル基板、12は前記ノズル基板11を断面台形に切除して形成されたスリット状のノズル13を備えたインク液室、14は前記インク液室12とガラス板8の界面に配置された1次元のフレネル回折帯板・・・である。」(段落【0019】)
オ.「所定周波数の交流、あるいはパルス列からなるバースト電圧が、アレイ状の音波発生素子9のうちの一部、たとえば個別電極層9c1,9c2,9c3,9c4に印加される。ここで、印加する交流周波数は、音響整合層(音波干渉層)として機能するガラス板8内での波長が、音波発生素子9のピッチよりも長ものである。そして、前記個別電極層9c1,9c2,9c3,9c4のうち、内側2個の個別電極層9c2,9c3には交流を印加し、外側2個の個別電極層9c1,9c4へは、内側2個の個別電極層9c2,9c3よりも位相の進んだバースト電圧を印加すると、相互の音波ビーム同士が干渉しあって、音波発生素子9のアレイ方向(主走査方向)でのレンズ効果が生じる。なお、このガラス板8内では、音波発生素子9のアレイ方向と直交する方向(副走査方向)に集束することはない。」(段落【0023】)
カ.「インク液室12との境界面に到達した音波ビームは、フレネル回折帯板14によって、音波発生素子9のアレイ方向と直交する方向(副走査方向)へ求心的に集束するようなレンズ効果を受けることになる。・・・主走査方向および副走査方向に集束した音波ビーム圧により、インク液表面からインク滴(粒)が容易に飛翔し、記録媒体面に濃度むらなどのない鮮明な記録がなされる。」(段落【0024】)
キ.「図11は本発明に係る画像記録装置の要部構成例を示すブロック図である。21はインクジェットヘッドであり、回転軸22を中心とした回動によって、待機時(待機状態)Aと印字時(印字状態)Bとで異なる位置を採る構成と成っている。このインクジェットヘッド21において、8は音波発生源、12はインク液室、23はインク液吐出ノズル13の保護キャップである。また、24は印字領域に相当する搬送ローラであり、25はこの搬送ローラ24面に沿って搬送される記録媒体、26は前記インクジェットヘッド21が待機時(待機状態)A-印字時(印字状態)B間を移動するとき、その移動軌跡でインク液吐出ノズル(インク液ノズル)13を成すスリット面に接触して、インク液吐出ノズル13を清掃する清浄化手段(たとえばクリーニング部材)である。」(段落【0034】)
ク.「グループ内の音波発生素子9に同時に信号を与え、この信号によってインク液面に音波ビームを集束させ、インク液粒子をインク吐出ノズル13から飛翔させており、この組み合わせを順次切り替えて所要の印字を行う方式が採られている。このいわゆる電子スキャン法による画像印字では、所要の解像度(印字幅,印字の画素密度)に対応して、音波発生素子9はアレイ状に形成されている。」(段落【0035】)
ケ.「清浄化手段26(たとえばクリーニング部材)は、インク液吐出ノズル13面から付着しているインク液を払拭する作用と同時に払拭したインク液を速やかに吸収することが望ましい。」(段落【0037】)

3.引用例記載の発明の認定
引用例の記載エによれば、記載アの「複数個の音波発生素子」は、圧電体層、その片面に形成した共通電極層、及びその他面にアレイ状に記録ドットに相当するように形成した個別電極層からなるものである。そして、記載クのグループの例が記載オの「個別電極層9c1,9c2,9c3,9c4」である。個別電極が記録ドットに相当する以上、1行の記録ドット数は個別電極数と実質的に等しいと解すべきであるから、記載クの「組み合わせを順次切り替えて」とは、4個の個別電極からなるグループが順次更新されることであり、同じく「電子スキャン法」とは、グループの更新により音波の集束位置を主走査方向に変化させることであるから、補正発明の用語に従えば「主走査方向に走査」ということができる。当然、引用例記載の発明は、4個の個別電極からなるグループを順次選択し、4個の音波発生素子からの音波を干渉させて主走査方向に集束させるように駆動する駆動手段を有する。
したがって、記載ア〜ケを含む引用例の全記載及び図示によれば、引用例には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「圧電体層、その片面に形成した共通電極層、及びその他面にアレイ状に記録ドットに相当するように形成した個別電極層からなる複数個の音波発生素子と、
ノズル基板を断面台形に切除して形成されたスリット状のノズルを備えたインク液室と、
前記音波発生素子から放射される音波を副走査方向に集束させるための1次元のフレネル回折帯板と、
多数の音波発生素子からグループを選び、グループ内の音波発生素子に同時に信号を与えることにより音波ビームを主走査方向に集束させるとともに、主走査方向に走査するように駆動する駆動手段とを有する記録装置であって、
インクジェットヘッドは印字時と待機時とで異なる位置に移動可能に設定され、その移動軌跡でスリット面に接触する清浄化手段を備えた記録装置。」(以下「引用発明」という。)

4.補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
以下では、「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
引用発明の「インク液室」は補正発明の「インク液保持室」に相当し、補正発明と引用発明とは「インク液が吐出するための開口部が主走査方向に沿ってスリット状に形成され」ている点で一致する。
補正発明の「超音波」と引用発明の「音波」が異なると解することはできない。なぜなら、引用例の記載イに「音波モード利用」の従来例として紹介された「IBM TDB,vol.16,no.4,pp.1168(1973-10)」は、本願明細書に「超音波を用いる方式」の従来例として段落【0005】に紹介された文献でもあり、引用例の記載イに「安定した微小なインク粒子の飛翔も可能で、高解像度化にも期待されている」とあるところ、インク滴の大きさは「周波数の大きさによって飛翔するインク滴(図示せず)の径が変化する。インク滴径が小さいほど高解像度の画像が得られる。」(本願明細書段落【0025】)からである。
補正発明の「圧電体素子を主走査方向に配列した超音波発生手段」につき、本件補正後の明細書には、「ガラス基板12上に圧電素子2、超音波集束手段5が積層して形成され」(段落【0022】)及び「圧電体3の対向する両面には電極4及び4´が形成される。このうち電極4は、後述するように主走査方向に配列された複数のアレイ状の電極群4a乃至4k等からなり、電極4´は一体形成されている。」(段落【0023】)との各記載があり、圧電素子と圧電体は明確に使い分けられており、圧電体を主走査方向に配列した旨の記載はない。そうすると、圧電体及び電極4´(引用発明の「共通電極層」がこれに相当する。)はアレイ状に分離されておらず、アレイ状の電極群(引用発明の「個別電極層」がこれに相当する。)があるために、両電極と圧電体からなる圧電体素子が主走査方向に配列したものを含むことは明らかであるから、引用発明の「複数個の音波発生素子」は補正発明の「圧電体素子を主走査方向に配列した超音波発生手段」に相当する。また、引用発明の「音波発生素子」がインク液と音響的に接続されていることは明らかである。
また、補正発明の「複数の圧電体素子から発生する超音波をインク液面近傍に集束させる」とは、主走査方向においてインク液面近傍に集束させる趣旨であることは、副走査方向については別途の超音波集束手段があること、及び主走査方向に配列した超音波発生手段を「駆動手段」により副走査方向に集束させることは困難であることから自明である。したがって、この集束機能において、補正発明と引用発明に相違はない。
引用発明の「1次元のフレネル回折帯板」と補正発明の「超音波集束手段」は、その配置位置及び機能において相違はないから、前者は「超音波発生手段上に設けられ、該超音波発生手段から発生される超音波を副走査方向において前記インク液の液面近傍に集束させる超音波集束手段」といえる。
引用発明の「清浄化手段」と補正発明の「清掃子」とは、スリット状の開口部を清掃する手段である点で一致する。
さらに、引用発明の「記録装置」が「インクジェット記録装置」といえることはいうまでもない。
したがって、補正発明と引用発明とは、
「インク液を保持するインク液保持室と、
前記インク液が吐出するための開口部が主走査方向に沿ってスリット状に形成された部材と、
前記インク液と音響的に接続された圧電体素子を主走査方向に配列した超音波発生手段と、
この超音波発生手段上に設けられ、該超音波発生手段から発生される超音波を副走査方向において前記インク液の液面近傍に集束させる超音波集束手段と、
前記複数の圧電体素子から発生する超音波をインク液面近傍に集束させると共に、集束位置を主走査方向に走査するように前記超音波発生手段を駆動する駆動手段と、
スリット状の前記開口部を清掃する手段とを具備したインクジェット記録装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉スリット状の開口部につき、補正発明が開口部が形成された蓋部をインク液保持室の上部に設けたのに対し、引用発明ではインク液室を形成するノズル基板を切除することにより開口部を形成しており、別途の蓋を有さない点。
〈相違点2〉スリット状の開口部を清掃する手段につき、補正発明ではスリット状の前記開口部の中に挿入して設けられ、スリット状の開口部の長手方向に沿って移動可能とされていているのに対し、引用発明ではインクジェットヘッドが印字時の位置と待機時の位置とを移動する移動軌跡でスリット面に接触する清浄化手段としている点。
〈相違点3〉スリット状の開口部を清掃する手段の材質につき、補正発明では「多孔体で構成されるか、表面が多孔体で被覆された」としているのに対し、引用発明にはかかる限定がない点。

5.相違点についての判断及び補正発明の独立特許要件の判断
(1)相違点1について
引用発明において、スリット状の開口部はインク吐出部となるものである。インクジェット記録装置一般において、インク吐出部をインク室、インク流路等を形成する部材とは別の部材で蓋として構成する(通常「ノズルプレート」などと称される。)ことは例をあげるまでもなく周知であるばかりか、超音波方式を利用したインクジェット記録装置にあっても、スリット形成部材をインク液保持室形成部材とは別部材で蓋として構成することは周知であり(例えば、特開平9-248908号公報記載の「スリット板19」や特開平7-276622号公報記載の「ノズルプレート2」がその例である。)、この周知技術を引用発明に適用することに困難性はない。
その際、蓋部をインク液保持室の上部に設けることは設計事項にすぎない(前掲特開平7-276622号公報に「ノズルプレート2の下側には基板7があり」(段落【0022】)と記載があることも参考にされたい。)。
したがって、相違点1に係る補正発明の構成は、上記周知技術を採用することにより当業者が容易に想到できた構成である。

(2)相違点2について
本願出願当時、スリット近傍の清掃を行うに当たり、スリット内部に挿入した清掃子をスリット長手方向に移動させることは周知である(例えば、特開昭60-264264号公報、特開平1-178981号公報又は特開平2-296270号公報参照。)。
そして、引用例の記載ウにあるスリット側面へのインク液の垂れ流れや、塵や埃(特に紙粉)などの付着が、相違点2に係る引用発明の構成によっては除去できるが、周知技術によっては除去できないと考えることは著しく困難である。
そうであれば、引用発明の清浄化手段に代えて、上記周知技術を採用することにより相違点2に係る補正発明の構成をなすことは、当業者にとって想到容易といわざるを得ない。

(3)相違点3について
本願出願当時、インクジェット記録装置のインク吐出部清掃部材を多孔体とすることは周知であり(例えば、特開平5-238015号公報(段落【0038】〜【0040】の記載)、特開平7-137269号公報(段落【0027】の記載)又は特開平7-246710号公報(段落【0018】〜【0019】の記載)を参照。)、引用発明の「清浄化手段」にはインク液の払拭作用と吸収作用が望まれている(引用例の記載ケ参照。)ところ、これら作用はノズルを有するインクジェット記録装置にも共通して望まれることがらである。さらに、インク吐出部がスリット状開口部である場合に、上記周知技術が適用できないと考えることは著しく困難である。また、インク吐出口ではないものの、スリット内の清掃に当たり、前掲特開昭60-264264号公報では「スポンジからなるパッド」(4頁右下欄4行)が用いられている。
これらを総合すれば、引用発明の清浄化手段の材質を多孔体とすることにより、相違点3に係る補正発明の構成をなすことは設計事項というべきである。

(4)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1〜相違点3に係る補正発明の構成は、設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
以上のとおりであるから、本件補正は平成15年改正前特許法17条の2で準用する同法126条4項の規定に違反している。
したがって、平成14年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条の1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断
1.本願発明の認定
平成15年1月20日付けの手続補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成14年9月6日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定されるものであるが、【請求項1】の記載中「(クレーム23)」及び「(クレーム23,24)」は、「第2[理由]1」で述べたとおり無意味であるから、本願発明の認定からは除外する。なお、願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲(以下「当初クレーム」という。)の記載を参酌すれば、「(クレーム23)」との文言は、同文言直前の「前記インク液と音響的に接続された圧電体素子を主走査方向に配列した超音波発生手段」が当初クレームの請求項23の記載に基づくことを表現したものと解され、同じく「(クレーム23,24)」はその直前の補正事項が当初クレームの請求項23及び請求項24の記載に基づくことを表現したものと解される。したがって、本願発明は次のとおりのものである。
「インク液を保持するインク液保持室と、
前記インク液が吐出するための開口部が主走査方向に沿ってスリット状に形成され、前記インク液保持室の上部に設けられた蓋部と、
前記インク液と音響的に接続された圧電体素子を主走査方向に配列した超音波発生手段と、
この超音波発生手段上に設けられ、該超音波発生手段から発生される超音波を副走査方向において前記インク液の液面近傍に集束させる超音波集束手段と、
前記複数の圧電体素子から発生する超音波をインク液面近傍に収束させると共に、収束位置を主走査方向に走査するように前記超音波発生手段を駆動する駆動手段と、
スリット状の前記開口部の中に挿入して設けられ、スリット状の前記開口部の長手方向に沿って移動可能な清掃子とを具備したことを特徴とするインクジェット記録装置。」

2.本願発明の進歩性の判断
本願発明と引用発明とは、「第2[理由]4」で述べた一致点で一致し、〈相違点1〉及び〈相違点2〉で相違する(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)。
そして、相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成が当業者にとって想到容易であること、並びにこれら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることができないことは「第2[理由]5」で述べたとおりである(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)。
したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上述べたとおり、本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-10-19 
結審通知日 2004-10-22 
審決日 2004-11-02 
出願番号 特願平10-78936
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大元 修二後藤 時男  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 谷山 稔男
津田 俊明
発明の名称 インクジェット記録装置  
代理人 外川 英明  

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