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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1108810
審判番号 不服2002-24414  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-12-19 
確定日 2004-12-09 
事件の表示 平成 8年特許願第292460号「高温強度に優れた低Crフェライト鋼」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 5月26日出願公開、特開平10-140280〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年11月5日の出願であって、平成14年11月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成14年12月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。
2.本願発明
本願の請求項1及び請求項2に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本願発明1及び2」という)。
「【請求項1】重量%で、C:0.03〜0.12%、Si:0.05〜0.7%、Mn:0.05〜1%、P:0.002〜0.025%、S:0.002〜0.015%、Cr:0.8〜3%、Ni:0.01〜1%、Mo:0.1〜1%、V:0.05〜0.5%、W:0.1〜3%、Nb:0.01〜0.16%、Ta:0.01〜0.16%、Al:0.003〜0.05%、B:0.0001〜0.01%、N:0.003〜0.03%を含み残部は鉄および不可避的不純物からなり、かつNbおよびTaの添加量が下記(a)式の条件を満たす高温強度に優れたことを特徴とする低Crフェライト鋼。
【化1】
0.02%≦Nb+Ta≦0.17%・・・・・(a)
【請求項2】請求項1に記載の成分に加えて更に、重量%で0.01〜0.2%のLa、Ce、YおよびCaのうち、1種もしくは2種以上を含有した高温強度に優れたことを特徴とする低Crフェライト鋼。」
3.引用刊行物
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1及び引用例2には、それぞれ次の事項が記載されている。
(1)引用例1:特開平8-246096号公報
(1a)「【請求項1】重量%でC:0.02〜0.2%、Si:0.05〜0.7%、Mn:0.1〜1.5%、Ni:0.01〜1%、Cr:0.8〜3.5%、W:0.1〜3%、V:0.01〜0.5%、Nb:0.01〜0.2%、N:0.005〜0.03%、B:0.001〜0.01%を含み残部は鉄及び不可避的不純物からなり、焼きならし後、700℃以下で焼戻し、常温の引張強さが75kgf/mm2 以上であることを特徴とする高温強度の優れた回転体用低合金鋼。
【請求項2】請求項1の成分に加えてそれぞれ0.01〜0.2重量%のLa,Ca,Y,Ce,Ti,ZrおよびTaからなる群から選択した1種以上を含有する、焼きならし後、700℃以下で焼戻し、常温の引張強さが75kgf/mm2 以上であることを特徴とする高温強度の優れた回転体用低合金鋼。」(特許請求の範囲)
(1b)「【産業上の利用分野】
本発明は火力発電用蒸気タービンロータなどに適用できる回転体用低合金鋼に関する。」(段落【0001】)
(1c)「【発明が解決しようとする課題】
本発明はロータ材に要求される常温での引張強さ、破壊靱性、クリープ強度に優れ、かつ経済的な低合金鋼を提供するものである。」(段落【0003】)
(1d)「本発明の鋼は前述の成分のほか、残部はFeと不可避の不純物からなる。鋼の不純物として代表的なものはP,Sである。Pは0.025%以下、Sは0.015%以下に抑えるのが望ましい。これらはいずれも靱性、加工性に有害な元素で、Sが極微量であっても粒界やCr2 O3 スケール皮膜を不安定にし、強度、靱性、加工性劣化の原因となるから、上記の許容上限値以下でもできるだけ少ないほうがよい。」(【0016】)
(1e)「それぞれの供試鋼は高周波真空溶解炉でそれぞれ50kg溶解、鋳造後、1100℃で熱間鍛造を行い40×60×1000mmの角材とした。通常の熱処理(焼きならし、焼戻し)として比較鋼であるA1鋼〜H2鋼はそれぞれ960℃で1時間保持後、空冷し、680℃と720℃の2種類の温度でそれぞれ1時間保持して空冷を行った。I1〜N2は1040℃×1時間保持後、空冷した後、710℃と730℃で1時間保持後空冷した。本発明鋼のI3鋼〜N5鋼は1040℃×1時間→空冷のあと、650℃〜690℃の温度範囲で20℃刻み、3種類の焼戻温度にて1時間保持後、空冷した。」(段落【0019】)
(1f)【表2】の表1(続き)(段落【0022】)には、焼戻温度がそれぞれ650℃,670℃,690℃の場合の具体例「J3,J4,J5」として、その成分組成が「C:0.04%、Si:0.23%、Mn:0.52%、Ni:0.11%、Cr:2.24%、W:1.53%、Mo:-、V:0.17%、Nb:0.06%、N:0.01%、B:0.002%、Ca:0.07%、Ta:0.01%」であると記載されている。
(2)引用例2:特開平3-87332号公報
(2a)「(1)重量%で、C:0.03〜0.12%、Si≦1%、Mn:0.2〜1%、P≦0.03%、S≦0.03%、Ni≦0.8%、Cr:0.7〜3%、Mo:0.3〜1.5%、V:0.05〜0.35%、Nb:0.01〜0.12%、N:0.01〜0.05%を含み、あるいは更にW:0.5〜2.4%、B:0.0005〜0.015%、Al≦0.05%、Ti:0.05〜0.2%の一種以上を含む残部Fe及び不可避の不純物からなる鋼を、1100℃(A)以上の温度に加熱したのち常温に冷却し、常温あるいは加工中または冷却途中に再結晶を生じない温度域で塑性加工を施し、最後に1100℃(A)よりも低い温度での焼準及びAc1温度以下での焼戻し処理を行ってなることを特徴とする高強度低合金耐熱鋼。」(特許請求の範囲)
(2b)「〔産業上の利用分野〕
本発明は高強度低合金耐熱鋼に関し、例えば発電用ボイラや化学プラントの熱交換器、配管等の鋼管材、高温耐圧バルブなどの鋼鍛鋼品、高温で使用される吊金具、支持材などの丸鋼、形鋼、鋼板などに適用される高強度低合金耐熱鋼に関する。」(第1頁右欄1〜7行)
(2c)「本発明鋼の金属組織はフェライト+ベーナイトあるいはフェライト+パーライトであり、通常の1〜21/4Cr鋼に比べフェライトの量が多い。このフェライト相内には微細なVN析出物が生成する。」(第2頁左下欄16〜末行)
(2d)「Mo:Moは母地に固溶するとともに炭化物などの析出物を形成してクリープ破断強度を高めるが、0.3%未満では不十分であり、1.5%を越えて添加しても、その硬化は飽和し、靱性が低下してくる。また、Moの多量の添加は熱間加工性を阻害するのでMoの添加量は0.3〜1.5%とした。好ましくは0.7〜1.3%である。」(第3頁右上欄1〜8行)
(2e)「Al:Alは脱酸剤としても有効であり、かつ低温靱性を向上させる効果があるが、0.05%を越えて多量に含有させると結晶粒を小さくし、クリープ破断強度を低下させる。従って0.05%以下とした。好ましくは0.015%以下である。」(第3頁右下欄10〜15行)

4.当審の判断(本願発明2について)
本願発明2は、請求項1の記載を引用するものであるから、請求項1の記載を踏まえて、全文記載すると、次のとおりである。
「重量%で、C:0.03〜0.12%、Si:0.05〜0.7%、Mn:0.05〜1%、P:0.002〜0.025%、S:0.002〜0.015%、Cr:0.8〜3%、Ni:0.01〜1%、Mo:0.1〜1%、V:0.05〜0.5%、W:0.1〜3%、Nb:0.01〜0.16%、Ta:0.01〜0.16%、Al:0.003〜0.05%、B:0.0001〜0.01%、N:0.003〜0.03%を含み、更に、重量%で0.01〜0.2%のLa、Ce、YおよびCaのうち、1種もしくは2種以上を含有した残部は鉄および不可避的不純物からなり、かつNbおよびTaの添加量が下記(a)式の条件を満たす高温強度に優れたことを特徴とする低Crフェライト鋼。
【化1】
0.02%≦Nb+Ta≦0.17%・・・・・(a)」
これに対し、引用例1の上記(1a)には、
「【請求項1】重量%でC:0.02〜0.2%、Si:0.05〜0.7%、Mn:0.1〜1.5%、Ni:0.01〜1%、Cr:0.8〜3.5%、W:0.1〜3%、V:0.01〜0.5%、Nb:0.01〜0.2%、N:0.005〜0.03%、B:0.001〜0.01%を含み残部は鉄及び不可避的不純物からなり、焼きならし後、700℃以下で焼戻し、常温の引張強さが75kgf/mm2 以上であることを特徴とする高温強度の優れた回転体用低合金鋼。
【請求項2】請求項1の成分に加えてそれぞれ0.01〜0.2重量%のLa,Ca,Y,Ce,Ti,ZrおよびTaからなる群から選択した1種以上を含有する、焼きならし後、700℃以下で焼戻し、常温の引張強さが75kgf/mm2 以上であることを特徴とする高温強度の優れた回転体用低合金鋼。」と記載されているから、請求項2の記載を請求項1の記載を踏まえて全文記載すると、
「重量%でC:0.02〜0.2%、Si:0.05〜0.7%、Mn:0.1〜1.5%、Ni:0.01〜1%、Cr:0.8〜3.5%、W:0.1〜3%、V:0.01〜0.5%、Nb:0.01〜0.2%、N:0.005〜0.03%、B:0.001〜0.01%を含み、それぞれ0.01〜0.2重量%のLa,Ca,Y,Ce,Ti,ZrおよびTaからなる群から選択した1種以上を含有する残部は鉄及び不可避的不純物からなり、焼きならし後、700℃以下で焼戻し、常温の引張強さが75kgf/mm2 以上であることを特徴とする高温強度の優れた回転体用低合金鋼」が記載されていると云えるし、また、引用例1の上記(1f)には、「その成分組成がC:0.04%、Si:0.23%、Mn:0.52%、Ni:0.11%、Cr:2.24%、W:1.53%、V:0.17%、Nb:0.06%、N:0.01%、B:0.002%、Ca:0.07%、Ta:0.01%」という具体例が記載されている。さらに、上記(1d)には、「本発明の鋼は前述の成分のほか、残部はFeと不可避の不純物からなる。鋼の不純物として代表的なものはP,Sである。Pは0.025%以下、Sは0.015%以下に抑えるのが望ましい。これらはいずれも靱性、加工性に有害な元素で、Sが極微量であっても粒界やCr2 O3 スケール皮膜を不安定にし、強度、靱性、加工性劣化の原因となるから、上記の許容上限値以下でもできるだけ少ないほうがよい。」とも記載されているから、引用例1の「回転体用低合金鋼」に係るこれら記載に照らし、その上記具体例を本願発明2の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、「重量%で、C:0.04%、Si:0.23%、Mn:0.52%、Ni:0.11%、Cr:2.24%、W:1.53%、V:0.17%、Nb:0.06%、N:0.01%、B:0.002%、Ca:0.07%、Ta:0.01%を含み残部は鉄および不可避的不純物のP及びSがP:0.025%以下、S:0.015%以下からなり、高温強度に優れたことを特徴とする低合金鋼」という発明(以下、「引例1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本願発明2と引例1発明とを対比すると、引例1発明のNbとTaの合計量は0.07%であるから、本願発明2の「化1」の「0.02%≦Nb+Ta≦0.17%」の条件を満足するし、引例1発明の「低合金鋼」も、そのCr含有量が2.24%であり本願発明2のCr含有量の範囲内であるから、「低Cr鋼」であると云える。
そうすると、両者は、「重量%で、C:0.04%、Si:0.23%、Mn:0.52%、P:0.002〜0.025%、S:0.002〜0.015%、Ni:0.11%、Cr:2.24%、W:1.53%、V:0.17%、Nb:0.06%、N:0.01%、B:0.002%、Ca:0.07%、Ta:0.01%を含み残部は鉄および不可避的不純物からなり、かつNbおよびTaの添加量が化1の(a)式において「0.07%」である高温強度に優れたことを特徴とする低Cr鋼」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点:
(イ)本願発明2は、「低Crフェライト鋼」であるのに対し、引例1発明は、低Cr鋼であるがフェライト鋼であるかまでは明らかでない点
(ロ)本願発明2では、Moが0.1〜1%含有されているのに対し、引例1発明では、Moが含有されていない点
(ハ)本願発明2では、Alが0.003〜0.05%含有されているのに対し、引例1発明では、Alが含有されていない点
次に、これら相違点について検討する。
(1)相違点(イ)について
上記相違点(イ)について、改めて引用例1を検討すると、両者の成分組成は、MoとAlの点以外で特に相違するものではなく、また、引用例1の上記(1e)の熱処理条件である「本発明鋼のI3鋼〜N5鋼は1040℃×1時間→空冷のあと、650℃〜690℃の温度範囲で20℃刻み、3種類の焼戻温度にて1時間保持後、空冷した。」という記載からみても、引例1発明も、その組織はフェライト組織であるとするのが相当と云えるから、両者は、この点で実質的に差異はないと云える。
(2)相違点(ロ)について
本願発明2は、クリープ強度の向上のためにMoを0.1〜1%添加するものである(段落【0011】参照)が、高温強度が要求される低Cr合金鋼において、クリープ強度の向上のためにMoを添加することは例えば引用例2の上記(2d)に示すとおり、周知の事項である。この点に関し、さらに要すれば周知例として特開昭62-192536号公報、特開平1-298135号公報及び特開平6-256893号公報を参照されたい。
したがって、本願発明2の上記相違点(ロ)は、Moに係る上記周知の事項に基づいて当業者が容易に想到することができたものであると云える。
(3)相違点(ハ)について
本願発明2は、脱酸元素としてAlを0.003〜0.05%添加するものである(段落【0015】参照)が、低Cr合金鋼においてAlを脱酸元素として添加することは、例えば引用例2の上記(2e)に示すとおり周知の事項であるし、要すれば例えば特開平7-224352号公報にも記載されているとおりである。
したがって、本願発明2の上記相違点(ハ)も、Alに係る上記周知の事項に基づいて当業者が容易に想到することができたものであると云える。
してみれば、本願発明2の上記相違点(イ)は実質的な差異ではなく、また上記相違点(ロ)及び(ハ)は、例えば引用例2にみられる周知事項に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから、本願発明2は、上記引用例1及び引用例2に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると云える。
(4)請求人の主張に対して
請求人は、審判請求書において、本願発明は、Nb+Taの複合添加によってクリープ破断強度を向上させた点に特徴を有するものであり、引用例1には、このNb+Taの複合添加効果を示唆する記載はないと主張している。
しかしながら、引用例1には、NbとTaを複合添加する具体的な合金例が開示され、これを引例1発明と認定した場合に、本願発明2と引例1発明との間にNbとTaの点で相違がないことは前示のとおりである。
また、引用例1には、確かにNb+Taの複合添加効果に関する記載は見当たらないが、高温強度が要求される低Cr含有鋼において、NbとTaが高温クリープ強度を改善させるための同効の成分であるためにこれら成分を複合添加することも、前示した例えば特開昭62-192536号公報、特開平1-298135号公報、特開平6-256893号公報及び特開平7-224352号公報に記載されているとおり、周知の事項であるから、本願発明2のNb+Taの複合添加効果も当業者に容易に予測することができる程度のものと云うべきである。
したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。
5.むすび
以上のとおり、本願発明2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願発明1について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-10-05 
結審通知日 2004-10-12 
審決日 2004-10-26 
出願番号 特願平8-292460
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河野 一夫  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 原 賢一
平塚 義三
発明の名称 高温強度に優れた低Crフェライト鋼  
代理人 石川 祐子  
代理人 渡部 崇  
代理人 萩原 亮一  

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