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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) H01J
審判 一部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) H01J
管理番号 1108893
審判番号 無効2003-35458  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-03-20 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-11-04 
確定日 2004-12-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第3269213号発明「誘電体バリヤ放電ランプ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3269213号の請求項1、2及び6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3269213号についての手続の経緯は、以下のとおりである。
平成 5年 9月 8日 特許出願
平成14年 1月18日 特許権の設定登録
平成15年11月 4日 請求項1、2及び6に係る発明についての特許 に対して、特許の無効の審判の請求
平成16年 1月26日 答弁書及び訂正請求書提出
平成16年 3月 4日 弁駁書提出
平成16年 4月 2日付 被請求人への無効理由及び訂正拒絶理由通知
平成16年 4月 2日付 請求人への職権審理結果通知
平成16年 5月18日 無効理由に対する意見書、訂正拒絶理由に対す る意見書及び訂正請求書提出
平成16年 6月 4日付 訂正拒絶理由通知
平成16年 7月 8日 訂正拒絶理由に対する意見書提出
平成16年 7月20日 平成16年1月26日付訂正請求の取下げ
平成16年 7月23日付 被請求人への無効理由及び訂正拒絶理由通知
平成16年 7月23日付 請求人への職権審理結果通知
平成16年 8月25日 平成16年5月18日付訂正請求の取下げ
平成16年 9月16日付 審理終結通知

第2 本件発明
上記のとおり、平成16年1月26日付訂正請求及び平成16年5月18日付訂正請求はいずれも取り下げられたので、本件請求項1、請求項2及び請求項6に係る発明は、願書に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1、2及び6に記載された、以下のとおりのものである。
【請求項1】 放電容器に誘電体バリヤ放電によってエキシマ分子を形成する放電用ガスが充填され、該エキシマ分子から放射される光を取り出す窓部材を有し、該放電容器の少なくとも一部は該誘電体バリヤ放電の誘電体であり、かつ、放電容器と誘電体バリヤ放電の誘電体とを兼ねている部分の誘電体の放電空間の反対側の表面に設けられた導電性薄膜からなる電極を含む誘電体バリヤ放電ランプにおいて、該導電性薄膜を化学的・機械的に保護するための部材を設けたことを特徴とする誘電体バリヤ放電ランプ。
【請求項2】 該導電性薄膜を保護するための部材が、シリコンゴム、フッ素樹脂、酸化物、窒化物およびフッ化物の中から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とした請求項1に記載の誘電体バリヤ放電ランプ。
【請求項6】 該エキシマ分子から放射される光が波長200nm以下の紫外線であることを特徴とした請求項1から請求項5に記載の誘電体バリヤ放電ランプ。

第3 請求人の主張
請求人は、無効審判請求書に添付された下記の甲第1号証ないし甲第3号証、及び平成16年3月4日付弁駁書に添付された下記の参考資料1ないし7を提示するとともに、本件の請求項1、請求項2及び請求項6に係る発明は、本件の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明と同一又はこれに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1、2及び6に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである旨主張している。

甲第1号証:欧州特許出願公開第0254111号明細書
甲第2号証:「岩波 理化学辞典 第4版」、株式会社岩波書店、1987 年10月12日発行、第1105頁「フッ化マグネシウム」の 項及び第1348〜1349頁「リチウム」の項
甲第3号証:「化学大辞典7 初版」、共立出版株式会社、昭和36年10 月30日発行、第881〜882頁の「ふっかマグネシウム」 の項
参考資料1:「岩波 理化学辞典 第4版」、株式会社岩波書店、1987 年10月12日発行、「オゾン」の項
参考資料2:実願平1-50381号(実開平2-142436号)のマイ クロフィルム
参考資料3:特開昭53-93196号公報
参考資料4:特開平3-88702号公報
参考資料5:特開平2-289402号公報
参考資料6:特開昭64-42306号公報
参考資料7:特開昭62-3002号公報

第4 当審における無効理由通知の概要
当審において平成16年7月23日付けで通知した無効理由の概要は、以下のとおりである。
本件の請求項1、2及び6に係る発明は、本件の出願前に頒布された下記の刊行物1又は刊行物2に記載された発明であるか、あるいは、下記の刊行物1又は刊行物2に記載された発明及び刊行物3ないし刊行物6に記載のごとき周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1、2及び6に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定、あるいは、同条第2項の規定に違反して特許されたものである。
よって、本件の請求項1、2及び6に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

刊行物1:特開平5-174792号公報
刊行物2:欧州特許出願公開第254111号(請求人の提出した甲第1号 証)
刊行物3:特開平2-7353号公報(特に、第4頁左下欄下から第6〜4 行)
刊行物4:特開平4-229671号公報(特に、段落【0011】、【0 013】)
刊行物5:特開平5-117061号公報(特に、段落【0012】)
刊行物6:「洗浄設計」1987年夏季号、10〜16頁“紫外放射とオゾ ンを利用した光洗浄装置”

なお、上記無効理由通知に対して、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、被請求人からは何の応答もなかった。
また、請求人へも上記の職権審理結果を通知したが、何の応答もなかった。

第5 各刊行物に記載された技術事項
1 刊行物1
刊行物1には、以下の記載がある。
(1a)「【請求項1】 放電条件下でビームを発射する充填ガスの充填された放電室(4)と、
放電の給電のための交流電源(6)とを有する、例えば紫外線用の高出力ビーム発生器であって、
前記交流電源は第1および第2の電極に接続されており、
前記放電室の壁部は第1および第2の誘電体(1、2)により形成され、放電室(4)とは反対側の該誘電体の表面には格子状または網状の金属第1電極(5)と第2電極(3)が設けられている高出力ビーム発生器において、
少なくとも第1電極(5)には保護層(8;8a;8b;8c)が設けられているか、または上記第1電極は保護層に埋め込まれていることを特徴とする高出力ビーム発生器。
【請求項2】 電極(3、5)の形成される材料にのみ保護層(8)、有利にはワイヤラッカーからなる保護層が設けられている請求項1記載の高出力ビーム発生器。」
(1b)従来の技術について、「光化学的手法の工業的使用は適切なUV源の使用性に強く依存している。古典的なUVビーム発生器は固有の離散的な波長において低中強度のUVビームを送出する。例えば水銀低圧ランプは185nmおよび特に254nmにおいてビームを放射する。実際に高いUV出力は高圧ランプ(Xe、Hg)からのみ得られる。しかし高圧ランプのビームは大きな波長領域にわたって分布されている。新しいエキシマレーザはいくつかの新しい波長を光化学的基礎実験に提供した。しかし現在のところエキシマレーザはコスト的理由から工業プロセスには例外的にしか適しない。
冒頭に述べたEP特許出願または“Neue UV-and VUV Exicimerstrahler”,V.Kogelschatz、B.Eliasson著、第10回ドイツ化学者協会講演大会、専門群、光化学、ヴュルツブルグ(旧西ドイツ)、1987年11月には、新しいエキシマビーム発生器が記載されている。この新しいビーム発生器形式は、エキシマビームをサイレント放電においても形成し得ることと、オゾン発生のために工業的に使用される放電形式に基づいている。この放電の短時間(<1ms)でのみ存在する電流フィラメントにおいて、希ガス原子が電子衝突によって励起され、希ガス原子は励起された分子群(エキシマ)に対してさらに反応する。このエキシマの寿命は僅か数100nsであり、崩壊の際にその結合エネルギをUVビームの形で放出する。
この種のエキシマビーム発生器の構成は電流供給部まではほぼ古典的オゾン発生器に相応する。大きな相違は、放電室を画定する電極および/または誘電層の少なくとも1つが、形成されたビームのために透明であることである。この電極はUV高透過性である他に次の特性を有していなければならない。電流の良好な伝導性、可及的に密な誘電体との接触を得るための良好な可とう性そして長寿命である。長寿命のためには特にビーム発生器の雰囲気の化学的反応性の低いことが要求される。ビーム発生器を光源として化学反応に使用したいならば、多くの適用のために多数の物質に対する化学的不活性さえ絶対必要である。」(段落【0003】〜【0005】)
(1c)課題の解決手段について、「上記課題は本発明により、少なくとも第1電極には保護層が設けられているか、または保護層に埋め込まれているように構成して解決される。
このように構成されたビーム発生器は実際上のすべての要求を満たす。
-雰囲気に曝された電極は化学的侵害作用から保護される(寿命の延長) 。
-電極はさらに物理的崩壊作用に対して保護される。放電は浸食を引き起 こす。浸食は電極材料を剥離し、その電極材料は誘電体の透明個所に沈着 してその個所の透明度を低減させる。
-雰囲気自体がUVビームを処理すべきガスまたは液体ならば、この物質 の金属接触が、金属の関与する付加的化学反応を引き起こさないために回 避される(化学的不活性)。
-雰囲気中に場合により発生する、電極から誘電体への放電(例えばコロ ナ)、または近傍に存在する誘電部材への放電、または誘電体に沿った表 面放電が、誘電体への良好な接触により回避される。電極の電気絶縁性の 改善によりさらにエネルギを消費する不所望な放電が阻止される。」(段落【0007】〜【0012】
(1d)実施例について、「図1に模式的に示されたUV高出力ビーム発生器は、外部の誘電管1(例えば石英ガラス製)およびそれに同心配置された内部の誘電管2からなる。内部誘電管の内壁には内部電極3が設けられている。2つの管1と2の間のリング状空間はビーム発生器の放電室4を形成する。内部管2はガス気密に外部管1へ差し込まれており、外部管には前もってガスまたはガス混合体が充填されている。このガスはサイレント放電の影響の下でUVビームまたはVUVビームを放射する。
外部電極5として、外部管1の全周囲にわたって延在している金属網または金属格子を用いる。外部電極5と外部誘電管1は共に形成されるUVビームに対して透明である。」(段落【0015】〜【0016】)
(1e)充填ガスについて、「ビームの所望のスペクトル組成に応じて、物質/物質混合気が以下の表に従い使用される。
充填ガス ビーム
ヘリウム 60〜100 nm
ネオン 80〜90 nm
アルゴン 107〜165nm
アルゴン+フッ素 180〜200nm
アルゴン+塩素 165〜190nm
アルゴン+クリプトン+塩素 165〜190、200〜240nm
クセノン 165〜19nm
窒素 337〜415nm
クリプトン 124、140〜160nm
クリプトン+フッ素 240〜255nm
クリプトン+塩素 200〜240nm
水銀 185,254,320〜370nm,390〜420nm
セレン 196、204、206nm
ジューテリウム 150〜250nm
クセノン+フッ素 340〜360、400〜550nm
クセノン+塩素 300〜320nm
その他、次の一連の充填ガスが考えられる。」(段落【0019】〜【0020】
(1f)「実施例に基づき前に説明した本発明はいわゆる外部ビーム発生器に関連するものである。その際に示した電極保護手段は勿論、いわゆる内部ビーム発生器に対してもあてはまる。透明電極5の位置を別にすれば、このような内部ビーム発生器は図1に示した外部ビーム発生器に相応する。
さらにUVビームが外部と内部に照射されるビーム発生器構成も可能である。図6はこのようなビーム発生器の断面を示す。このような構成では、2つの誘電管1、2およびそれぞれの電極3、5は形成されるビームに対して透明でなければならない。この場合、第1電極5も第2電極3も上に述べたようにして化学的および物理的侵食作用から最適に保護することができる。」(段落【0029】〜【0030】)
(1g)「外部および内部ビーム発生器は規則的に流動する冷却剤によって冷却される。この冷却剤は、外部ビーム発生器の場合、内部誘電管2を通って案内される。内部ビーム発生器の場合、冷却剤は外部誘電管1の回りを流れる。この場合も前記の材料からなる保護層は、冷却剤による浸食作用を阻止するか、少なくとも軽減するのに寄与する。この場合、UVビームを透過させる必要のない電極を取り扱う限り、別の保護層(例えば陽極酸化処理、エナメル塗布による)を被覆することができる。このようにすると、誘電体にアルミニウム電極を蒸着またはスパッタリングする際に自由表面を陽極酸化できる。」(段落【0031】)

2 刊行物2
刊行物2には、「高出力放射器」に関し、以下の記載がある。
(2a)技術分野について、「この発明は、例えばG.A.Volkova、N.N.Kirillova、E.N.Pavlovskaya、A.V.Yakovleva共著の Zhurnal Prikladnoi Spektroskopil SU 誌(41[1984]No.4、691-695、プレナム出版社から1985年に英訳出版、図書番号:0021-9037/84/4104-1194、8.5 ドル、1194 ページ)における“不活性ガス中のバリヤ放電による真空紫外線ランプ”の技術内容に関連している。」(第2頁第11〜15行、請求人が提出した翻訳文第1頁第35行〜第2頁第3行)
(2b)従来技術について、「高出力放射器、特に紫外線高出力放射器は、例えば殺菌、塗料及び合成樹脂の硬化、排気ガスの浄化、特殊な化合物の分解及び合成等、様々に利用されている。一般に放射器の波長は、意図するプロセスに非常に整合させなければならない。最も公知の放射器は恐らく、波長254nmと185nmの紫外線を高い効率で放射する水銀放射器であろう。この放射器の中では、希ガス-水銀蒸気混合気体中で低圧-グロー放電が行われている。」(第2頁第20〜26行)
(2c)「放電室5の外側は通常の方法で接合するが、その前に真空にして、不活性ガスあるいは放電時にエキシマを形成する水銀、不活性ガス、不活性ガス/金属蒸気混合ガス、不活性ガス/ハロゲン混合ガスなどを充填する。場合によっては、別の不活性ガス(アルゴン、ヘリウム、ネオン)を緩衝ガスとして使用する。」(第4頁第19〜第22行、同翻訳文第4頁第5行〜8行)
(2d)「放射線のスペクトル構造に応じて、下表のガスを使用する。
充填ガス 波長
ヘリウム 60〜100nm
ネオン 80〜90nm
アルゴン 107〜165nm
キセノン 160〜190nm
窒素 337〜415nm
充填ガス 波長
クリプトン 124nm、140〜160nm
クリプトン+フッ素 240〜255nm
水銀 185nm、254nm
セレン 196nm、204nm、206nm
重水素 150〜250nm
キセノン+フッ素 400〜550nm
キセノン+塩素 300〜320nm」(第4頁第23〜50行、同翻訳文第4頁第9〜26行)
(2e)「無声放電(誘電体バリヤ放電 dielectric barrier discharge)では、放電室の間隙、圧力、温度(冷却の程度)を変えることによって、電極のエネルギー分布を最適にすることができる。」(第4頁第53〜55行、同翻訳文第4頁第27〜29行)
(2f)「特定の充填ガスを溶融石英容器または溶融ガラス容器などで密閉した放電室で利用するのがよいということが、実験的に判明した。このような構造では、充墳ガスが金属電極とは接触せず、放電は誘電体によって制限される。このような高出力放射器の原理構造は、図4にも利用されている。図4は図1と同じ部品に同じ番号を振っている。図1と図4の原理の違いは、放電室5と金属電極1との間に第2誘電体17を配置しているところである。図1と同様に金属電極1は、冷却媒質2によって冷却される。放射線は、放射線を透過させる誘電体4と第2電極となっている金網6を通って放電室から透過する。」(第5頁第27〜36行、同翻訳文第5頁第14〜20行)
(2g)「図5はこの高出力放射器を実用化した構造の概略図を示している。内側管19と外側管20で構成されている二重石英管18の外側に、第1電極の金網6が包囲している。第2電極は、内側管19の内壁の金属薄膜21である。内側管と外側管との間の環状スペースが放電室5である。」(第5頁第37〜42行、同翻訳文第5頁第21〜24行)
(2h)「図5の場合も、金網6をそのような薄膜に代えることができる。金属薄膜21を酸化インジウムまたは酸化スズなどの透過性薄膜にすると、放射線がじかに水などの冷却媒質に作用する。冷却材自体が電解質の場合、冷却材が電極21の機能を果たすことになる。
提唱されている非干渉性放射器では、放電ギャップ内の各体積要素(Volumenelement)が全立体角4πで放射線を放射する。紫外線透過性電極6から生じる放射線のみを利用する場合、反対電極21が紫外線をよく反射する(アルミニウムなど)材料であれば利用できる放射線は倍加する。図5の構造では、内側電極にアルミニウム蒸着材を利用すればよい。
紫外線透過性の導電性電極6には、アルカリ金属の薄膜(0.1〜1μm)も利用できる。周知のように、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウムのアルカリ金属は、紫外スペクトル領域では透過性が高く、反射が少ない。合金(例えば、25%ナトリウム/75%カリウム)も利用できる。アルカリ金属は空気と(一部はきわめて激しく)反応するので、真空にしてから紫外線透過性保護膜(例えば、MgF2)とともに使用しなければならない。」(第5頁第55行〜第6頁第10行、同翻訳文第5頁第33行〜第6頁第8行)

第6 対比・判断
1 本件の請求項1に係る発明について
(1)刊行物1に記載された発明との対比
本件の請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比する。
ア 刊行物1に記載された発明における「放電室4」及び「高出力ビーム発 生器」は、それぞれ本件の請求項1に係る発明における「放電容器」及び 「誘電体バリヤ放電ランプ」に相当する。
イ 刊行物1に記載された発明の高出力ビーム発生器は、外部の誘電管1お よびそれに同心配置された内部の誘電管2からなっており、刊行物1記載 の発明において、外部ビーム発生器の場合は外部の「誘電管1」が、内部 ビーム発生器の場合は内部の「誘電管2」が、それぞれ本件の請求項1に 係る発明における「窓部材」に相当する。
ウ 刊行物1に記載された発明においても、高出力ビーム発生器の放電室4 内に充填されるガスが放電時によってエキシマを形成するものである。
エ 刊行物1に記載された発明においては、誘電管1と誘電管2との間のリ ング状空間が放電室4であるから、該「誘電管1」と該「誘電管2」は、 本件の請求項1に係る発明における「放電容器と誘電体バリヤ放電の誘電 体とを兼ねている部分の誘電体」に相当し、刊行物1に記載された発明に おける「外部電極1」及び「内部電極3」のいずれも、本件の請求項1に 係る発明の上記誘電体の「放電空間の反対側の表面に設けられた電極」に 相当する。
オ 摘記事項(1g)からみて、刊行物1に記載された発明においては、冷却剤 が内部誘電管を通って案内される(すなわち、外部ビーム発生器の)場合 には、「内部電極3」に保護層が設けられ、冷却剤が外部誘電管の回りを 流れる(すなわち、内部ビーム出力器の)場合は、「外部電極5」に保護 層が設けられることは明らかである。そして、摘記事項(1g)の「誘電体に アルミニウム電極を蒸着またはスパッタリングする・・・」の記載から、 刊行物1に記載された発明における「UVビームを透過させる必要のない 電極」とは、アルミニウムの導電性薄膜を意味することは明らかである。
あるいは、UVビームを透過させる必要のない電極として、紫外線をよ く反射するアルミニウムからなる導電性薄膜が用いられることは、刊行物 2、刊行物3及び刊行物4(段落【0011】)にも記載されているとお り、本件出願前に既に周知であるから、当業者であれば、刊行物1に記載 された発明における「UVビームを透過させる必要のない電極」が、アル ミニウムからなる導電性薄膜を意味することは自明である。
よって、刊行物1に記載された発明における「UVビームを透過させる 必要のない電極」及び「保護層」が、それぞれ本件の請求項1に係る発明 における「導電性薄膜」及び「該導電性薄膜を化学的・機械的に保護する ための部材」に相当する。
以上のア〜オのことから判断して、両者は、
「放電容器に誘電体バリヤ放電によってエキシマ分子を形成する放電用ガスが充填され、該エキシマ分子から放射される光を取り出す窓部材を有し、該放電容器の少なくとも一部は該誘電体バリヤ放電の誘電体であり、かつ、放電容器と誘電体バリヤ放電の誘電体とを兼ねている部分の誘電体の放電空間の反対側の表面に設けられた導電性薄膜からなる電極を含む誘電体バリヤ放電ランプにおいて、該導電性薄膜を化学的・機械的に保護するための部材を設けた誘電体バリヤ放電ランプ。」である点で一致しており、相違点は存在しない。
したがって、本件の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるから、本件の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。

(2) 刊行物2に記載された発明との対比
本件の請求項1に係る発明と刊行物2に記載された発明とを対比する。
ア 刊行物2に記載された発明における「放電室5」及び「高出力放射器」 は、それぞれ本件の請求項1に係る発明における「放電容器」及び「誘電 体バリヤ放電ランプ」に相当するものである。
イ 摘記事項(2c)からみて、刊行物2に記載された発明においては、放電室 5内に、放電時にエキシマを形成するガスが充填されていることは明らか である 。
ウ 刊行物2に記載された発明は、図4に示す例においては「誘電体4」と 第2電極となっている金網6を通って放射線が放射され、また、図5に示 す例においては「外側管20」から、或いは「内側管19」と「外側管2 0」とから放射線が放射されるから、刊行物2に記載された発明における 「誘電体4」、「外側管20」及び「内側管」は、いずれも本件の請求項 1に係る発明における「窓部材」に相当し、かつ、本件の請求項1に係る 発明における「放電容器と誘電体バリヤ放電の誘電体とを兼ねている部分 の誘電体」にも相当するものである。
エ 刊行物2に記載された発明における「紫外線透過性の電極6」は、本件 の請求項1に係る発明における「放電容器と誘電体バリヤ放電の誘電体と を兼ねている部分の誘電体の放電空間の反対側の表面に設けられた」もの に相当し、該「紫外線透過性の電極6」として用いられる「アルカリ金属 」及びそれとともに用いられる「紫外線透過性保護膜(例えば、MgF2 )」は、それぞれ本件の請求項1に係る発明における「導電性薄膜」及び 「該導電性薄膜を化学的・機械的に保護するための部材」に相当する。
以上のア〜エのことから判断して、両者は、
「放電容器に誘電体バリヤ放電によってエキシマ分子を形成する放電用ガスが充填され、該エキシマ分子から放射される光を取り出す窓部材を有し、該放電容器の少なくとも一部は該誘電体バリヤ放電の誘電体であり、かつ、放電容器と誘電体バリヤ放電の誘電体とを兼ねている部分の誘電体の放電空間の反対側の表面に設けられた導電性薄膜からなる電極を含む誘電体バリヤ放電ランプにおいて、該導電性薄膜を化学的・機械的に保護するための部材を設けた誘電体バリヤ放電ランプ。」である点で一致しており、相違点は存在しない。
したがって、本件の請求項1に係る発明は、刊行物2に記載された発明であるから、本件の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。

2 本件の請求項2に係る発明について
本件の請求項2に係る発明は、本件の請求項1に係る発明の構成要件に加えて、「該導電性薄膜を保護するための部材が、シリコンゴム、フッ素樹脂、酸化物、窒化物およびフッ化物の中から選ばれた少なくとも一種である」ことを構成要件とするものである。
そこで、該構成要件について刊行物1及び刊行物2に記載があるか否かを検討する。
刊行物1には、陽極酸化処理により保護層とすることが記載されており、これは、本件の請求項2に係る発明における「酸化物」に相当する。
したがって、前項「1 本件の請求項1に係る発明について (1) 刊行物1に記載された発明との対比」に記載したと同じ理由により、本件の請求項2に係る発明は、刊行物1に記載された発明である。
また、刊行物2には、「紫外線透過性保護膜(例えば、MgF2)」と記載されており、これは、本件の請求項2に係る発明における「フッ化物」に相当する。
したがって、前項「1 本件の請求項1に係る発明について (2) 刊行物2に記載された発明との対比」に記載したと同じ理由により、本件の請求項2に係る発明は、刊行物2に記載された発明である。
よって、本件の請求項2に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。

3 本件の請求項6に係る発明について
(1) 刊行物1及び刊行物2に記載された発明との対比
本件の請求項6に係る発明は、本件の請求項1又は請求項2に係る発明の構成要件に加えて、「該エキシマ分子から放射される光が波長200nm以下の紫外線である」ことを構成要件とするものである。
そこで、刊行物1及び刊行物2に記載された発明について検討すると、刊行物1及び刊行物2に記載された、充填ガスと放射される紫外線の波長との関係を示した表の中には、波長200nm以下の紫外線を放射するものが多数含まれているが、刊行物1及び刊行物2に記載された発明では、200nmより長い波長である場合も例示されており、200nm以下の限定するものではない。
したがって、本件の請求項6に係る発明と、刊行物1及び刊行物2に記載された発明とは、以下の点で相違している。
相違点:
「エキシマ分子から放射される光」について、本件の請求項6に係る発明では、「波長200nm以下の紫外線である」と限定しているのに対して、刊行物1及び刊行物2に記載された発明では、200nm以下に限定するものではない点。

(2) 相違点についての判断
上記相違点について検討するに、刊行物5(段落【0012】)及び刊行物6にも記載されているとおり、200nm以下の紫外線放射がオゾンを生成させること、及びそのオゾンを利用して表面処理を行うことは、本件の出願前にすでに周知であるから、当業者であれば、刊行物1又は刊行物2に記載された発明において、エキシマ分子から放射される光を、「200nm以下の紫外線」に限定することに格別な創意を要するものではない。
なお、被請求人は、平成16年1月26日付意見書において、ランプから放射される波長200nm以下の紫外線や、その紫外線により発生するオゾンなどの活性物質による電極の損耗という本件発明特有の技術課題がある旨主張しているが、請求人が提出した参考資料2ないし7にも記載されているとおり、オゾンによる電極損傷は本件の出願前に既に周知であるから、「200nm以下の紫外線」に限定したことにより、予期し得ない格別な効果を奏しているとすることもできない。
したがって、本件の請求項6に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項6に係る発明についての特許は、特許法第29条第2に規定に違反してされたものである。

第7 結び
以上のとおり、本件の請求項1及び2に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、本件の請求項6に係る発明についての特許は、同条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件の請求項1、2及び6に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-09-16 
結審通知日 2004-09-21 
審決日 2004-10-26 
出願番号 特願平5-246098
審決分類 P 1 122・ 113- Z (H01J)
P 1 122・ 121- Z (H01J)
最終処分 成立  
特許庁審判長 江藤 保子
特許庁審判官 尾崎 淳史
杉野 裕幸
登録日 2002-01-18 
登録番号 特許第3269213号(P3269213)
発明の名称 誘電体バリヤ放電ランプ  
代理人 後呂 和男  
代理人 ▲高▼木 芳之  
代理人 萩野 義昇  
代理人 内田 敏彦  
代理人 水澤 圭子  
代理人 五十畑 勉男  
代理人 村上 二郎  

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