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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20061739 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 (訂正、訂正請求) 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1109005
審判番号 不服2004-8617  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2005-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-26 
確定日 2004-12-20 
事件の表示 特願2002-700114「8-クロルー6,11-ジヒドロー11(4-ピペリジリデン)ー5Hーベンゾ〔5,6〕シクロヘプタ〔1,2-b〕ピリジンおよびその塩、これらの化合物の製造方法、ならびにこれらの化合物を含有する医薬組成物」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本件特許の概要
本件特許第1863239号は、昭和60年2月8日(優先権主張1984年2月15日、米国)に出願され、平成5年10月13日の出願公告を経て、平成6年8月8日に特許権の設定の登録がされたものであり、その特許発明は、特許請求の範囲第1,3,4項に記載された次のとおりのものである。

【第1項】次の構造式:





で表される化合物8-クロル-6,11-ジヒドロ-11-(4-ピペリジリデン)-5H-ベンゾ〔5,6〕シクロヘプタ〔1,2-b〕ピリジンおよびその薬学的に受容できる塩。

【第3項】次の構造式:




で表される化合物8-クロル-6,11-ジヒドロ-11-(4-ピペリジリデン)-5H-ベンゾ〔5,6〕シクロヘプタ〔1,2-b〕ピリジンおよびその薬学的に受容できる塩の製造方法であって、
a 8-クロル-6,11-ジヒドロ-11-(1-エトキシカルボニル-4-ピペリジリデン)-5H-ベンゾ〔5,6〕シクロヘプタ〔1,2-b〕ピリジンを脱エトキシカルボニル化する;
または
b 8-クロル-6,11-ジヒドロ-11-(1-メチル-4-ピペリジリデン)-5H-ベンゾ〔5,6〕シクロヘプタ〔1,2-b〕ピリジンを脱メチル化する;
続いて得られた化合物を遊離の形、またはその塩の形で単離することからなる、上記製造方法。

【第4項】次の構造式:




で表される化合物8-クロル-6,11-ジヒドロ-11-(4-ピペリジリデン)-5H-ベンゾ〔5,6〕シクロヘプタ〔1,2-b〕ピリジンおよびその薬学的に受容できる塩を、薬学的に許容できる担体と組合わせてなる、哺乳類におけるアレルギー性反応治療用医薬組成物。


2.本件出願の概要

これに対する特許権の存続期間の延長登録の出願(以下、本件出願という。)は、特許発明の実施について特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとして、5年の延長を求めるものであって、その政令で定める処分として平成14年7月5日に受けた以下の内容の処分を挙げている。

(1)特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分

薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同法第23条において準用する同法第14条第1項の承認

(2)処分を特定する番号

医薬品(ロラタジン)輸入承認番号

21400AMY00187000

(3)処分の対象となった物

一般的名称 ロラタジン

化学名 エチル 4-(8-クロル-5,6-ジヒドロ-11H-ベンゾ〔5,6〕シクロヘプタ〔1,2-b〕ピリジン-11-イリデン-1-ピペリジンカルボキシレート

化学構造式





(4)処分の対象となった物について特定された用途

医薬品の製造原料

この処分を、以下、本件処分という。
なお、上記(4)の用途である「医薬品の製造原料」とは、【用法及び用量】の項に「99(製剤原料)」と併記され、また、医薬品輸入承認申請書の表紙の備考欄に「製剤原料」、第5頁【備考1】の項に「31(医療用(製剤原料))」と記載されていることからみても、製剤原料を意味していることは明らかである。


3.原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶の理由は、「この出願に係る特許発明の実施に特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから、この出願は特許法第67条の3第1項第1号に該当する。」というものであって、より具体的には、処分を受けた物(ロラタジン)を用いて本件特許請求の範囲第1項の化合物を製造する方法(本件特許請求の範囲第3項)は、本件処分(承認番号21400AMZ00523000号)に関係なく実施できた旨を指摘している。


4.当審の判断
そこで、原査定の拒絶の理由について、検討する。

(1)本件特許請求の範囲第1項及び第4項について

特許権の存続期間延長登録が認められるためには、延長登録の理由となる処分の対象となった物又は物と用途が、特許請求の範囲に記載されていることが必要であり、本件出願については、以下に記載する本件特許の特許請求の範囲第1項及び第4項に記載された化合物8-クロル-6,11-ジヒドロ-11-(4-ピペリジリデン)-5H-ベンゾ〔5,6〕シクロヘプタ〔1,2-b〕ピリジン(以下、「デスロラタジン」という。)およびその薬学的に受容できる塩と本件処分の対象と対象となったロラタジンが同一の化合物であることが必要である。


特許請求の範囲第1項及び第4項に記載された化合物

次の構造式:



で表される化合物8-クロル-6,11-ジヒドロ-11-(4-ピペリジリデン)-5H-ベンゾ〔5,6〕シクロヘプタ〔1,2-b〕ピリジンおよびその薬学的に受容できる塩。


本件処分の対象として請求人が示した化合物(一般名ロラタジン)。
ロラタジン




そこで、本件処分の対象となったロラタジンと、デスロラタジンが同一の化合物であるのか否かについて、まず検討する。
ロラタジンとデスロラタジンの化学構造式を比較すると、両者は共通の環状の基本骨格を有しているが、前者はピペリジリデン環上の窒素原子にエトキシカルボニル基が結合しているのに対し、後者はピペリジリデン環上の窒素原子には水素原子が結合しており、相互に異なる化合物であることは明らかである。
特許請求の範囲第1項及び第4項には、デスロラタジンの薬学的に受容できる塩も記載されているので、ロラタジンがこれに該当するかどうかについて、次に検討する。
デスロラタジンの薬学的に受容できる塩に関して本願明細書には、「本発明化合物の8-クロル-6,11-ジヒドロ-11-(4-ピペリジリデン)-5H-ベンゾ〔5,6〕シクロヘプタ〔1,2-b〕ピリジンは、塩酸、メタンスルホン酸、硫酸、酢酸、マレイン酸、フマル酸、燐酸などの酸と塩を形成することができる。これらの塩類は慣用方法により遊離塩基を所望の酸の十分量と接触させることにより製造される。遊離塩基体はその塩を塩基で処理することにより再生できる。例えば、希薄な塩基水溶液を利用する。この目的にとっては水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニアおよび炭酸水素ナトリウムの希薄水溶液が適当である。遊離塩基体は極性溶媒に対する溶解性などのある種の物理的性状の面でその塩と性質をやや異にするが、その他の面では本発明の目的にとって塩とその遊離塩基体は同等である。」(公告公報において第2頁右欄第22行〜第37行)と記載されている。上記の記載から、デスロラタジンとその薬学的に受容できる塩は、簡単な反応によって相互に容易に変換できる、遊離塩基とその塩の関係にあるものであって、デスロラタジンと塩を形成する酸はイオン結合により結合したものである。
これに対し、構造式からも明らかなようにロラタジンのピペリジリデン環上の窒素原子とエトキシカルボニル基の炭素原子は共有結合によって結合したものであって、遊離塩基とその塩の関係に該当するものではなく、上述したとおり、相互に異なる化合物である。

この点に関し、請求人は以下の点を主張している。
A)甲第1号証〜甲第3号証を示し、ロラタジンは体内でデスロラタジンに代謝されるものであって、医薬品用途の化合物とその代謝産物とは、化学式上は異なる化合物であっても、医薬品の分野においては、事実上同一に近い意味を有する。

B)審査基準には、承認を得た化合物の中間体に係る特許権は延長登録の対象とならないことは記載されているが、「本件においては承認を受けた化合物が中間体であって、特許請求の範囲に記載された化合物が最終生成物であるという関係があり、つまり、上記審査基準に記載された関係とちょうど正反対」なので、延長登録が認められるべきである。

C)医薬品に関する規制によりロラタジンを投与できないという事情により、必然的に、ロラタジンを患者の体内に投与して代謝産物として得られるデスカルボエトキシロラタジン(デスロラタジン)により薬理作用を達成する方法が実施できないという事情が本件承認および本件特許発明おいては存在しているため、延長登録が認められるべきである。

そこで、上記A)〜C)の主張について検討する。

A)について
代謝産物すなわち代謝物は、代謝中間体と同義であって「中間代謝物質、中間代謝体、中間体、代謝物ともいう。生体中に取り込まれた分子は、酵素に触媒される何段階もの反応を経て最終生成物を生じるが、この途中の反応で生成される化合物をすべて代謝中間体という。」(生化学辞典 第2版 1990年11月22日発行 東京化学同人 第779頁【代謝中間体】の項抜粋 )と記載されているとおり、生体内で酵素により反応を受け構造が変化した物の総称であり、一般に代謝前の物とその代謝産物は別の化合物であり代謝物というだけで実質的に同一の化合物であるとは解されていない。
医薬品の分野においても、医薬品用途の化合物とその代謝物はその生理活性作用が異なる場合が多く、(例えば、一般に投与された薬の効果は時間とともに減少するがその理由の多くは時間とともに薬が代謝を受けて活性が低下するからである。)、一般に、医薬品用途の化合物とその代謝物は別の化合物であって実質的に同一の化合物であるとは解されていない。
請求人が提出した甲第3号証のFIG.1には、ロラタジンからデスロラタジンへの代謝反応について記載されており、生体内酵素であるチトクロームP450により反応を受けて構造が変化することが記載されているが、酵素反応を受ける前の物質であるロラタジンと酵素反応を受けた後の物質であるデスロラタジンは上記の技術常識から見て実質的に同一であるとは言えない。
また、ロラタジンからデスロラタジンを生成させるためには、上述した体内での酵素反応や本件特許請求の範囲第3項に記載されたような脱エトキシカルボニル化反応が必要であって、単なる遊離塩基とその塩との間の変換と異なることは明らかである。

B)について
請求人が言及する審査基準において、承認を得た化合物の中間体に係る特許権は延長登録の対象とならない運用をしている理由は「薬事法等の安全性の確保等を目的とする法律は、最終生成物の製造、販売等を規制するものであり、その製造の過程で合成される中間体の製造、販売等を規制しない。」からである。
最終生成物が規制されたとしても中間体が規制されないのは、中間体と最終生成物は実質的に同一の化合物であるとは解されていないことからみても当然のことである。
本件についてみると、ロラタジンがデスロラタジンを製造する方法の一つにおける出発化合物となり得るからといって、ロラタジンに対する規制が別化合物であるデスロラタジンをも規制するものではないことは同様であるから、ロラタジンについて製剤原料としての処分を受けたことはデスロラタジンに係る特許を延長する理由とはならない。審査基準に示した延長登録が認められない例と反対の関係にあるからといって、延長登録が認められるものではなく、請求人の主張は採用できない。

C)について
本件処分は、ロラタジンの製剤原料としての承認であり、本件処分よりロラタジンを製剤原料として使用することを規制する状態が解除されたものである。しかしながら、上述したとおり、ロラタジンとデスロラタジンは別の化合物であるから、本件処分によってデスロラタジンを製剤原料として使用することについての規制が解除されるものではない。すなわち、デスロラタジンを製剤原料として使用することは、本件処分に関わらず、依然として規制された状態にあり、別途の処分が必要となるものである。
そして、製剤原料としての承認が投与後の体内での代謝反応に関わるものでないことはいうまでもなく、ロラタジンの製剤原料としての承認である本件処分が、請求人の主張するようなロラタジン投与後の体内での代謝反応により生成するデスロラタジンに関わるものでないことも明らかであるから、請求人の主張は採用できない。


なお、出願人が平成16年4月28日付けで提出した手続補足書に添付された、甲第1号証には、
「CLARINEX(desloratadine) Tablet are light blue, round, film coated tablets containing 5 mg deslotadine」(第1頁第4行〜第5行)
と記載されており、デスロラタジンを成分として含む錠剤が存在していることが示されており、ロラタジンとデスロラタジンは当業者において別の医薬品として認識されていたことを示している。


以上のとおり、本件処分の対象となった物であるロラタジンは、本件特許請求の範囲第1項及び第4項に記載された物であるデスロラタジン又はその薬理学的に受容できる塩に該当せず、本件特許請求の範囲第1項及び第4項に記載された発明の実施に本件処分が必要であったとは認められない。


(2)特許請求の範囲第3項について
特許請求の範囲第3項記載の発明はロラタジンからデスロラタジンを製造する方法に相当する。
ところで、「物の製法の発明がクレームされている場合には、その製法で得られる物と処分を受けた物を比較」(特許実用新案 審査基準 特許権の存続期間の延長 3.1.1(1)(iii))して、その製法で得られた物が処分を受けた物であるときは特許権の存続期間の延長が認められる場合がある。
しかし、本件特許請求の範囲第3項に記載された発明で得られる物は、デスロラタジン及びその薬学的に受容できる塩であり、承認を受けた本件処分の物はロラタジンであり、異なる化合物であることは上記4.(1)に記載したとおりである。

また、請求人が提出した「医薬品輸入承認申請書」によれば、本件処分はロラタジンを「製剤原料」として輸入する行為であり、ロラタジンを原料として、ロラタジンと実質的に同一ではない他の化合物を製造することについての処分でないことは明らかである。

よって、特許請求の範囲第3項記載の発明は本件処分を受けるまで実施できなかったとは認められない。


5.むすび
以上のとおり、本件処分の対象であるロラタジンは、本件特許発明の化合物である8-クロル-6,11-ジヒドロ-11-(4-ピペリジリデン)-5H-ベンゾ〔5,6〕シクロヘプタ〔1,2-b〕ピリジンおよびその薬学的に受容できる塩とは異なる物であるので、本件特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められないから、特許法第67条の3第1項第1号に該当し本件出願は拒絶すべきものであるとした原査定の判断に誤りはない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-07-21 
結審通知日 2004-07-22 
審決日 2004-08-10 
出願番号 特願2002-700114(P2002-700114)
審決分類 P 1 8・ 71- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清野 千秋山口 昭則  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 亀田 宏之
深津 弘
発明の名称 8-クロルー6,11-ジヒドロー11(4-ピペリジリデン)ー5Hーベンゾ〔5,6〕シクロヘプタ〔1,2-b〕ピリジンおよびその塩、これらの化合物の製造方法、ならびにこれらの化合物を含有する医薬組成物  
代理人 安村 高明  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  

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