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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1109115
審判番号 不服2002-22504  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-06-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-11-21 
確定日 2004-12-24 
事件の表示 平成 7年特許願第320151号「スペクトラム拡散有線通信装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 6月20日出願公開、特開平 9-162839〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成7年12月8日の出願であって、平成14年11月21日付けで審判請求がなされ、特許法第17条の2第1項第3号の規定により、平成14年12月20日付けで手続補正がなされたものである。

第2.平成14年12月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)について

[補正却下の決定の結論]
平成14年12月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正は、補正前特許請求の範囲の請求項1の記載を、
【請求項1】
「送信データを生成するデータ送信部と、前記データ送信部で生成されたデータを一次変調する一次変調部と、スペクトラム拡散符号により前記一次変調部で変調された一次変調信号をスペクトラム拡散する乗算部と、前記乗算部でスペクトラム拡散された信号を帯域制限してツイストペア線伝送路へ送信する帯域フィルタと、前記帯域フィルタで帯域制限されたスペクトラム拡散信号の送信電力密度分布を前記ツイストペア線伝送路におけるゲイン特性に応じて高い周波数付近のみ高くする補正をするゲイン補正部と、前記ゲイン補正部で補正されたスペクトラム拡散信号の前記ツイストペア線伝送路への送信レベルを決定する送信アンプとを備えるスペクトラム拡散有線通信装置の送信装置。」、
と補正することを含むものである。
該補正は、ゲイン補正部について、補正前特許請求の範囲の請求項1の「スペクトラム拡散信号の送信電力密度分布を前記ツイストペア線伝送路におけるゲイン特性に応じて補正するゲイン補正部」を「スペクトラム拡散信号の送信電力密度分布を前記ツイストペア線伝送路におけるゲイン特性に応じて高い周波数付近のみ高くする補正をするゲイン補正部」と補正するものであり、係る補正は、ゲイン補正部の補正する送信電力密度分布の補正の内容を「高い周波数付近のみ高くする」と限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
本件補正が、特許法第17条の2第3項第2号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明が出願の際独立して特許を受けることができるのか否かについて、以下、検討する。

2.特許法第29条第2項についての検討
(1)本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「補正後の発明」という。)は、前記1.【請求項1】に記載のとおりのものである。

(2)引用例
ア.原審拒絶理由において引用された特開平7-288494号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記(ア)〜(エ)の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、配電線路を伝送路として利用する電力線搬送通信の通信装置に関し、特にスペクトラム拡散通信方式を用いる電力線搬送通信装置に関する。
【0002】
【従来の技術】電力線搬送通信は、既に敷設済みである電力線を用いて通信を行なおうとするものである。」(2頁段落【0001】、【0002】)、

(イ)「【0007】図30は、従来の大地帰路、PN符号同期逆拡散方式のスペクトラム拡散電力線搬送通信装置の例である。
【0008】 まず、各構成要素の説明をする。図30において、1は送信部、2は受信部、3は電力線、4はデータレート7.5kbit/sの送信データ、5はデータレート7.5kbit/sの受信データである。
【0009】 送信部1は、発振器100、データ変調部101、送信側PN符号発生部102、スペクトル拡散変調部103、送信側ローパスフィルタ104、送信側接地点105、信号注入部106からなる。
【0010】発振器100は、発振周波数225kHzの発振器である。データ変調部101は、送信部1に入力される送信データ4によって、発振器100からのローカル信号をPSK変調する部分である。
【0011】送信側PN符号発生部102は、スペクトラム拡散のために必要な拡散符号を発生する部分であり、15kHzの周期で15チップのPN符号を発生する。よってチップレートは、225kチップ/sである。
【0012】スペクトラム拡散変調部103は、送信側PN符号発生部102からの拡散符号を用いて、データ変調部101からの信号スペクトラムを拡散させる部分である。
【0013】送信側ローパスフィルタ104は、電力線3に、不要あるいは有害な信号を注入させないためのフィルタであり、そのカットオフ周波数は、450kHzである。
【0014】送信側接地点105は、大地と電気的に接続されている点であり、信号注入部106に接続されている。
【0015】信号注入部106は、電力線3と送信側接地点105との間に信号を注入する部分であり、電圧源型である。
【0016】受信部2は、受信側接地点200、信号抽出部201、受信側ローパスフィルタ202、受信側PN符号発生部203、スペクトラム拡散復調部204、同期回路205、データ復調部206からなる。
【0017】受信側接地点200は、大地と電気的に接続されている点であり、信号抽出部201に接続されている。
【0018】信号抽出部201は、電力線3と受信側接地点200との間の信号を取り出す部分であり、電力線3と受信側接地点200との間の電圧を検出して信号を取り出す。
【0019】受信側ローパスフィルタ202は、電力線3からの不要あるいは有害な信号を、スペクトラム拡散復調部204に入力させないためのフィルタであり、そのカットオフ周波数は、450kHzである。
【0020】受信側PN符号発生部203は、同期回路205からの制御信号に従って、スペクトラム逆拡散のために必要な逆拡散符号を発生する部分であり、15kHzの周期で15チップのPN符号を発生する。よってチップレートは、225kチップ/sである。受信側PN符号発生部203が発生する逆拡散符号は、送信側PN符号発生部102の発生する拡散符号と同一のものである。
【0021】スペクトラム拡散復調部204は、受信側PN符号発生部203からの逆拡散符号を用いて、受信側ローパスフィルタ202からの受信信号のスペクトラムを逆拡散させる部分である。
【0022】同期回路205は、スペクトラム拡散復調部204からの出力信号をモニタし、結果に基づいて受信側PN符号発生部203を制御することにより、受信されたスペクトラム拡散信号と、受信側PN符号発生部203との同期を確立し保持する部分である。
【0023】データ復調部206は、スペクトラム拡散復調部204からの逆拡散された受信信号を、キャリア再生方式でPSK復調する部分である。
【0024】以上の要素で構成された従来の電力線搬送通信装置の動作を説明する。発振器100からの225kHzのローカル信号は、データ変調部101にて、データレート7.5kbit/sの送信データ4によってPSK変調される。
【0025】データ変調部101からの信号は、送信側PN符号発生部102からの拡散符号を用いて、スペクトラム拡散変調部103によってスペクトラムを拡散される。
【0026】データ変調部101からの信号スペクトラムを、図31(a)に示す。送信側PN符号発生部102からの信号スペクトラムを、図31(b)に示す。
【0027】データ変調部101からの信号を、送信側PN符号発生部102からの拡散符号を用いて拡散した信号のスペクトラム、つまりスペクトラム拡散変調部103からの出力信号スペクトラムを図31(c)に示す。
【0028】スペクトラム拡散変調部103からの信号は、送信側ローパスフィルタ104にて、450kHz以上の信号成分をカットされる。
【0029】送信側ローパスフィルタ104からの出力信号は、信号注入部106によって、電力線3に入力される。信号は、電力線3と送信側接地点105との間の電圧信号として伝搬し、受信部2に入力される。
【0030】信号抽出部201では、電力線3と受信側接地点200との間の電圧を検出することで、電力線3から信号成分のみを取り出す。
【0031】信号抽出部201からの信号は、受信側ローパスフィルタ202によって、信号成分として有効である450kHz以下の周波数信号のみを取り出される。
【0032】受信側ローパスフィルタ202からの信号は、受信側PN符号発生部203からの逆拡散符号を用いて、スペクトラム拡散復調部204によって逆拡散される。
【0033】スペクトラム拡散復調部204からの信号は、2分割され、一方は同期回路205に入力され、他方はデータ復調部206へ入力される。
【0034】同期回路205に入力された信号は、スペクトラム拡散復調部204に入力される信号と受信側PN符号発生部203からの逆拡散符号との同期をとるために用いられる。そして、同期回路205から受信側PN符号発生部203に制御信号が送られ、その制御信号に従って受信側PN符号発生部203の逆拡散信号発生のタイミングが制御される。
【0035】データ復調部206に入力された信号は、キャリア再生方式でPSK復調され、受信データ5として受信部2から出力される。」(3頁、4頁段落【0007】〜【0035】)、

(ウ)「【0036】以上のように構成された従来の電力線搬送通信装置のデータの変復調の様子を数式で示す。
【0037】送信データ4をDs(t)、発振器100からの信号をC(t)、送信側PN符号発生部102からの信号をPt(t)とする。すると、スペクトラム拡散変調部103からの出力信号S(t)は次式で表される。
【0038】
【数1】
S(t)=Ds(t)・C(t)・Pt(t)
【0039】スペクトラム拡散変調部103からの信号は、送信側ローパスフィルタ104、電力線3、受信側ローパスフィルタ202などを経由して、スペクトラム拡散復調器204に入力される。このため、スペクトラム拡散変調部103からの信号は、伝送途中での影響を受けてスペクトラム拡散復調部204に入力される。この影響は、周波数に依存した信号の減衰や位相歪みとして現れる。しかし、ここでは伝送途中の歪みは皆無であるとして数式を展開する。伝送途中に信号の歪みが生じる場合については、後述する。
【0040】受信側PN符号発生部203からのPN符号をPr(t)とする。これは、同期回路205によって同期がとられているので、Pr(t)=Pt(t)である。
【0041】(数1)で表されるスペクトラム拡散変調部103からの信号が、全く歪みも減衰も受けずに、スペクトラム拡散復調部204に入力されたとすると、スペクトラム拡散復調部204の出力信号E(t)は次式のように表される。
【0042】
【数2】
E(t)=Ds(t)・C(t)・Pt(t)・Pr(t)
【0043】(数2)で、Pr(t)=Pt(t)であるため、信号を2乗していることと同じこととなる。Pt(t)は2乗すると1となる性質を有する疑似ランダムな信号である。
【0044】よって、スペクトラム拡散復調部204の出力信号E(t)は次式のように表される。
【0045】
【数3】
E(t)=Ds(t)・C(t)
【0046】信号E(t)はデータ復調部206に入力され、Ds(t)が復調される。」(4頁段落【0036】〜【0046】)、

(エ)「【0050】これは、電力線の位相の周波数特性が悪いために起こる現象である。スペクトラム拡散変調部103からの出力信号(数1)は、前述したように、送信側ローパスフィルタ104、電力線3、受信側ローパスフィルタ202などを経由して、スペクトラム拡散復調器204に入力される。このため、スペクトラム拡散変調部103からの信号は、伝送途中での影響を受けてスペクトラム拡散復調部204に入力される。この影響は、周波数に依存した信号の減衰や位相歪みとして現れる。
【0051】上記の従来例のようなPN符号同期逆拡散方式のスペクトラム拡散通信方式は、周波数に依存した信号の減衰には強いが、周波数に依存する位相歪みには弱いことが知られている。」(5頁段落【0050】、【0051】)。

前記記載事項、図面の記載並びに技術常識からみて、
引用例1には、
「入力されたデータを変調するデータ変調部と、スペクトラム拡散符号と前記データ変調部で変調された変調信号を乗算してスペクトラム拡散するスペクトラム拡散変調部と、前記スペクトラム拡散変調部でスペクトラム拡散された信号を帯域制限して電力線へ送信するローパスフィルタとを備えるスペクトラム拡散有線通信装置の送信部を構成する装置。」、
を構成とする発明(以下、「引用例1に記載された発明」という。)が記載されている。

イ.周知例1として示す、原審拒絶理由において引用された特開平5-22192号公報には、下記(ア)、(イ)、(ウ)の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、情報配線システムにおいて使用する伝送媒体のインピーダンス特性及び減衰特性を補償する回路を付加した情報配線コンポーネントに関するものである。
【0002】
【従来の技術】図8は、従来の情報配線システムの概略構成を示している。このシステムでは、コントロールユニット1とターミナル2の間を、複数個の情報配線コンポーネント3を介して伝送媒体4により接続している。伝送媒体4は同軸ケーブルやツイストペア線よりなり、情報配線コンポーネント3としては、モジュラープラグとモジュラージャックのような情報配線コンセント、あるいは平衡-不平衡変換アダプター等が必要に応じて配置されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従来の情報配線コンポーネント3は、接続するコントロールユニット1やターミナル2、伝送媒体4のインピーダンスの整合を取り、減衰を少なくするように作られている。しかしながら、実際には、それぞれのインピーダンスが周波数によって変化するために、インピーダンス不整合による反射の影響を受け、伝送品質が低下するという問題があった。」(2頁段落【0001】〜【0003】)、

(イ)「【0005】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明にあっては、上記の課題を解決するために、図1に示すように、ツイストペア線6のような伝送媒体に接続されて情報配線システムを構成する情報配線コンポーネント3において、使用する伝送媒体のインピーダンス特性及び減衰特性を補償する回路を付加したことを特徴とするものである。」(2頁段落【0005】)、

(ウ)「【0010】次に、ツイストペア線補償回路53は、第1に、図4に示すようなツイストペア線6の減衰特性の高周波域を補償するものであり、図5に示すような補償特性で高周波域での減衰量を減少させ、反対に低周波域では減衰量を増加させ、インピーダンス不整合による反射を減少させる。」(2頁、3頁段落【0010】)。

前記記載事項、図面の記載並びに技術常識からみて、
周知例1には、
「ツイストペア線の減衰特性は高い周波数において低い周波数より大きい減衰を示すこと」及び、
「ターミナルからの送信信号を、ツイストペア線の減衰特性に応じて高い周波数の減衰を小さくする補正を行うツイストペア線補償回路、を介してツイストペア線に送信する」ことが記載されいる。

ウ.周知例2として示す、原審拒絶理由において引用された特開平5-91112号公報には、 下記(ア)、(イ)の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ツイストペア線を伝送媒体とするLANに用いられる信号伝送システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】図3にツイストペア線を使用したLANの構成を示す。集線装置1には、複数の端末装置2がスター型に配線されている。集線装置1から、端末装置2へは2対のツイストペア線よりなるケーブル3が配線されており、1対は送信用、1対は受信用である。各ケーブル3は、コネクタ4を介して端末装置2に接続されている。
【0003】上述の従来例において、集線装置1から端末装置2への配線距離は、それぞれの端末装置2の位置により異なる。従って、図4の波形図に示されるように、集線装置1から送出された図4(a)の送信パルスは、配線距離が短い近距離の端末装置2においては、図4(b)に示すような受信パルスとなり、配線距離が長い遠距離の端末装置2においては、図4(c)に示すような歪みの多い受信パルスとなる。」(2頁段落【0001】〜【0003】)、

(イ)「【0004】このような受信パルスの歪みを補正するために、図5に示すような送受信ブロック5が、集線装置1と端末装置2の送受信部にそれぞれ設けられている。図中、6はCPU、A1,A2はアンプ、EQ1,EQ2はイコライザ、K1,K2は結合器、TP1は送信側のツイストペア線、TP2は受信側のツイストペア線であり、送信側のイコライザEQ1によって、配線による高域の減衰を予め補正して送出し、また、受信側のイコライザEQ2によって、受信した信号の低域側の減衰や遅延、高域側の減衰が補正される。」(2頁段落【0004】)。

前記記載事項及び図面並びに技術常識からみて、
周知例2には、
「ツイストペア線の減衰特性は高い周波数において低い周波数より大きい減衰を示すこと」及び、
「CPUからの送信信号を、送信アンプ及び、ツイストペア線の減衰特性に応じて高い周波数の減衰を予め補正するイコライザ、を介してツイストペア線に送信する」ことが記載されている。

エ.前記2.(2)イ.の記載の「ツイストペア線の減衰特性」、「ツイストペア線補償回路」及び前記2.(2)ウ.の記載の「ツイストペア線の減衰特性」、「イコライザ」は、各々、「ツイストペア線伝送路の入出力比率の周波数特性」、「周波数特性補正部」であるから、
前記2.(2)イ.、前記2.(2)ウ.の記載からみて、
・「有線伝送路としてツイストペア線伝送路があり、該伝送路の入出力比率の周波数特性は高い周波数において低い周波数より大きい減衰を示すこと」は、例えば、周知例1、2に示されているように本願出願前周知の事項(以下、「周知事項A」という。)である。
・「ツイストペア線伝送路の入出力比率の周波数特性が高い周波数において低い周波数より減衰することによる、通信品質の劣化を防止するため、送信側装置において、送信信号をツイストペア線伝送路の入出力比率の周波数特性に応じて高い周波数付近を高くする補正を行う周波数特性補正部を設けること」は、例えば、周知例1、2に示されているように本願出願前周知の事項(以下、「周知事項B」という。)である。

オ.周知例3として示す特開昭60-75135号公報には、下記(ア)、(イ)、(ウ)の事項が記載されている。

(ア)「[技術の背景]
複雑な伝送系あるいは伝送路においては、一般に伝送帯域内に減衰歪を生じるのでこれを補償するために減衰等化器が用いられる。」(1頁右下欄7行〜10行)、

(イ)「第3図は本発明による等化器の自動設定方式の一実施例構成図である。
同図において,11はモデム,12は説明を簡単にするために4db,8db…mdbの各等化ステップを有する線路等化器を示し,13は前記線路等化器中のいずれかの等化段を選択するスイッチング素子S1,S2,…Smを有する電子的スイッチ装置,14はモデムから送出される搬送波のレベルを選択する送出レベル設定装置であり例えば2db,4db…ndbの送出レベル調整段を有し、選択部15のタップT1,T2…Tnを選択的に閉成することにより送出レベル調整が行われる。そして送出レベル設定装置14と選択部15により送出レベル選択装置が構成される。」(2頁左下欄12行〜右下欄5行)、

(ウ)「本発明のレベル設定および線路等化は、例えば第4図の如き回路でも実現できる。
マイクロプロセッサMPUにはテーブルが設けられ、送信レベルの選定に応じてオンすべきスイッチング素子S1〜Snと,このとき線路等化器EQCのスイッチング素子SW1〜Wmが記入されている。したがって、送信レベルの調整がオペアンプOPの帰還抵抗R1〜Rnをスイッチング素子S1〜Snの選択制御により行われるとき,これに応じて線路等化器EQCの等化特性を選択するスイッチング素子SW1〜SWmが自動的に選択されてオンとなる。かくして送出レベルの指定にもとづき送出レベルおよびこれに適切な線路等化を自動的に選択することができる。」(3頁左下欄9行〜右下欄2行)。

前記記載事項及び技術常識からみて、
周知例3には、
「送信信号を伝送路の減衰特性に応じて高い周波数付近を高くする補正をする線路等化器と、前記線路等化器で補正された前記送信信号の前記伝送路への送信レベルを決定する送信アンプを備える送信側装置」が記載されている。

前記記載の「伝送路の減衰特性」、「線路等化器」は、各々「伝送路の入出力比率の周波数特性」、「周波数特性補正部」であるから、
前記記載からみて、
・「送信側装置において、送信信号を伝送路の入出力比率の周波数特性に応じて高い周波数付近を高くする補正をする周波数特性補正部と共に、周波数特性補正部で補正された前記送信信号の前記伝送路への送信レベルを決定する送信アンプを設けること」は例えば、周知例3に示されているように本願出願前周知の事項(以下、「周知事項C」という。)である。

オ.周知例4として示す特開昭60-197040号公報には、下記(ア)、(イ)、(ウ)の事項が記載されている。
(ア)「[発明の背景]
スペクトル拡散通信方式は、伝送すべき情報をこの情報の持つ帯域幅より十分に広い帯域幅を持つ拡散信号で拡散し送信することにより、高品質の通信を実現するものである。ところが、広帯域幅信号の伝送は、アンテナや増幅器を含めた伝送路の特性により劣化を受け、高品質の通信を行うことができないものであった。
[本発明の目的]
本発明の目的は、スペクトル拡散通信装置の広帯域幅伝送による伝送スペクトルの劣化を軽減し、より高品質の通信を提供することにある。」(1頁左下欄19行〜右下欄10行)、

(イ)「第1図は本発明の通信装置の送信機側の構成を示すもので、伝送情報S1は拡散符号発生13からの拡散符号により、平衡変調器11で拡散されて、伝送信号S2となる。この伝送信号S2は変衡変調器12において変調された搬送波発振器14からの搬送波により伝送信号S3となる。この伝送信号S2は第3図(a)に示すように広帯域幅をもつ信号となっている。この伝送信号S2はスペクトル増幅器15によりスペクトル増幅される。このスペクトル増強量は予め把握または推定されている伝送路特性を打ち消すような値に設定されている。このスペクトル増強器15の出力となるS7は例えば第3図(b)に示すように増強され、アンテナA1より送出される。第3図(c)はアンテナ増幅器を含めた伝送路特性を示し、伝送信号に劣化を与える。」(2頁左上欄1行〜16行)、

(ウ)「なお、上述の実施例においては、受信機側にスペクトル修正器26を設けたが、第3図(c)に示す伝送路特性の把握が十分に行われている場合には、不要となることが明らかである。
[発明の効果]
本発明によれば、広帯域幅を持つ信号伝送において、送信信号のスペクトルの劣化を軽減できるため、その伝送品質の向上に効果がある。」(2頁右上欄12行〜19行)。

前記記載事項及び技術常識からみて、
周知例4には、
「スペクトラム拡散通信方式では、伝送路の伝送路特性の歪により高品質の通信ができず、高品質の通信のために、スペクトル拡散信号のスペクトルを伝送路の伝送路特性に応じて補正するスペクトル増強器を介して伝送路に送出すること」が記載されている。
そして、前記記載の「伝送路の伝送路特性」が「伝送路の入出力比率の周波数特性」であり、前記記載の「スペクトル増強器」が「周波数特性補正部」であるから、
前記記載からみて、
・「スペクトラム拡散通信方式では、伝送路の入出力比率の周波数特性の歪により高品質の通信ができず、高品質の通信をするために、スペクトル拡散信号を、該スペクトル拡散信号のスペクトルを伝送路の入出力比率の周波数特性に応じて補正する周波数特性補正部を介して伝送路に送出する必要があること」は、例えば、周知例4に示されているように本願出願前周知事項(以下、「周知事項D」という。)である。

(3)対比・判断
補正後の発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、

(a)補正後の発明の「前記データ送信部で生成されたデータ」と引用例1に記載された発明の「入力されたデータ」とは、「入力されたデータ」で一致する。
(b)引用例1に記載された発明の「データ変調部」は、補正後の発明「一次変調部」に相当する。
(c)引用例1に記載された発明の「スペクトラム拡散符号と前記データ変調部で変調された変調信号を乗算してスペクトラム拡散するスペクトラム拡散変調部」は、前記(b)を考慮して、補正後の発明の「スペクトラム拡散符号により前記一次変調部で変調された一次変調信号をスペクトラム拡散する乗算部」である。
(d)補正後の発明の「ツイストペア線伝送路」と、引用例1に記載された発明の「電力線」とは、「有線伝送路」である点で一致する。
(e)補正後の発明の「帯域フィルタ」と、引用例1に記載された発明の「ローパスフィルタ」とは、「フィルタ」である点で一致する。
(f)補正後の発明の「送信装置」と、引用例1に記載された発明の「送信部を構成する装置」とは、「送信側装置」である点で一致する。

そうしてみると、補正後の発明と引用例1に記載された発明とは、

「入力されたデータを一次変調する一次変調部と、スペクトラム拡散符号により前記一次変調部で変調された一次変調信号をスペクトラム拡散する乗算部と、前記乗算部でスペクトラム拡散された信号を帯域制限して有線伝送路へ送信するフィルタとを備えるスペクトラム拡散有線通信装置の送信側装置。」、
である点において一致し、

(1)補正後の発明では「送信データを生成するデータ送信部」を有し、一次変調部での「入力されたデータ」が「前記データ送信部で生成されたデータ」であるのに対し、引用例1に記載された発明では、このような送信部及び一次変調部での「入力されたデータ」についての記載がない点、
(2)フィルタについて、補正後の発明が「帯域フィルタ」であるのに対し、引用例1に記載された発明においては、「ローパスフィルタ」である点、
(3)送信側装置が、補正後の発明では、「前記帯域フィルタで帯域制限されたスペクトラム拡散信号の送信電力密度分布を前記ツイストペア線伝送路のゲイン特性に応じて高い周波数付近のみ高くする補正をするゲイン補正部と、前記ゲイン補正部で補正されたスペクトラム拡散信号の前記ツイストペア線伝送路への送信レベルを決定する送信アンプとを備える」のに対して、引用例1に記載された発明にはこのようなことが記載されていない点、
(4)送信側装置について、補正後の発明が「送信装置」であるのに対し、引用例1に記載された発明においては、「送信部を構成する装置」である点、
で相違する。

次に、前記相違点(1)〜(4)について検討する。
相違点(1)、(4)について、
送信側装置において、送信データを生成する部分を有し、該部分で生成されたデータを送信部を構成する装置に入力して送信することは周知であり、引用例1に記載された発明において、「送信データを生成する部分」を設け、一次変調部での「入力されたデータ」について「送信データを生成する部分で生成されデータ」とし、「送信データを生成する部分」を「送信データを生成するデータ送信部」と称することは当業者が適宜なし得ることであり(相違点(1))、また、その際、引用例1に記載された発明の送信側装置(送信部を構成する装置)に「送信データを生成する部分」を設けた装置を「送信装置」とすることは当業者が容易に成し得ることである(相違点(4))。

相違点(2)について、
送信信号を帯域フィルタで帯域制限して伝送路へ送信することは本願出願前より周知の事項であり、引用例1に記載された発明において、乗算部(スペクトル拡散変調部)でスペクトル拡散された信号を帯域フィルタで帯域制限して有線伝送路へ送信することは当業者が容易に成し得ることであり、引用例1に記載された発明において、フィルタについて「帯域フィルタ」とすることは当業者が容易に成し得たことである。

相違点(3)について、
有線伝送路としてツイストペア線伝送路があり、該伝送路の入出力比率の周波数特性は高い周波数において低い周波数より大きい減衰を示すことは、前記2.(2)エ.で周知事項Aとして記載したように本願出願前の周知事項であり、
引用例1に記載された発明の「有線伝送路」に前記周知事項Aの適用を阻害する要件は格別になく、
引用例1には、PN符号同期逆拡散方式のスペクトラム拡散通信方式は、周波数に依存した信号の減衰には強いとの記載があるものの、前記2.(2)エ.で周知事項Dとして記載したように、スペクトラム拡散通信方式では、伝送路の入出力比率の周波数特性の歪により高品質の通信ができず、高品質の通信をするために、スペクトル拡散信号を、該スペクトル拡散信号のスペクトルを伝送路の入出力比率の周波数特性に応じて補正する周波数特性補正部を介して伝送路に送出する必要があること、は本願出願前の周知の事項であるから、
引用例1に記載された発明の「有線伝送路」に前記周知事項Aを適用した際、
該スペクトル拡散通信方式では、ツイストペア線伝送路の入出力比率の周波数特性が高い周波数において低い周波数より大きく減衰することにより高品質の通信ができず、高品質の通信をするために、スペクトル拡散信号を、該スペクトル拡散信号のスペクトルをツイストペア線伝送路の入出力比率の周波数特性に応じて補正する周波数特性補正部を介して伝送路に送出する必要があることは当然のこととして予想し得ることであり、
一方、ツイストペア線伝送路の入出力比率の周波数特性に応じて補正する周波数特性補正部として、前記2.(2)イ.で周知事項Bとして記載したように、送信信号をツイストペア線伝送路の入出力比率の周波数特性に応じて高い周波数付近を高くする補正を行う周波数特性補正部を設けることは、本願出願前周知の事項であり、また、前記2.(2)エ.で周知事項Cとして記載したように、送信側装置において、送信信号を伝送路の入出力比率の周波数特性に応じて高い周波数付近を高くする補正をする周波数特性補正部と共に、周波数特性補正部で補正された前記送信信号の前記伝送路への送信レベルを決定する送信アンプを設けることは、本願出願前周知の事項であり、
さらに、前記周知事項例B、Cの「伝送路の入出力比率の周波数特性」から「伝送路におけるゲイン特性」が自明の構成であり、前記周知事項B、Cの「送信信号を」が「送信信号の送信電力密度分布を」を意味していることは自明の事項であり、前記周知事項Bの周波数特性補正部の「高い周波数付近を高くする補正をする」を「高い周波数付近のみを高くする補正をする」ようにすることは当業者の適宜成し得る程度の事項であるから、前記「相違点(2)について」の判断で記載した事項を考慮し、
引用例1に記載された発明において、送信側装置が、「前記帯域フィルタで帯域制限されたスペクトラム拡散信号の送信電力密度分布を前記ツイストペア線伝送路におけるゲイン特性に応じて高い周波数付近のみ高くする補正をするゲイン補正部と、前記ゲイン補正部で補正されたスペクトラム拡散信号の前記ツイストペア線伝送路への送信レベルを決定する送信アンプとを備える」ように構成することは当業者が容易に成し得たことである。

そして、補正後の発明の効果も、前記引用例1に記載された発明及び周知事項A〜Dから当業者が予想できる程度のものである。

(4) よって、本件補正後の発明は、前記引用例1に記載された発明及び周知事項A、B、C、Dに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するので、同法159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下する。

第3.本願発明について

1.本願発明
平成14年12月20日付けの手続補正は前記第2.の記載のとおり却下されたので、 平成14年7月3日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

【請求項1】
「送信データを生成するデータ送信部と、前記データ送信部で生成されたデータを一次変調する一次変調部と、スペクトラム拡散符号により前記一次変調部で変調された一次変調信号をスペクトラム拡散する乗算部と、前記乗算部でスペクトラム拡散された信号を帯域制限してツイストペア線伝送路へ送信する帯域フィルタと、前記帯域フィルタで帯域制限されたスペクトラム拡散信号の送信電力密度分布を前記ツイストペア線伝送路におけるゲイン特性に応じて補正するゲイン補正部と、前記ゲイン補正部で補正されたスペクトラム拡散信号の前記ツイストペア線伝送路への送信レベルを決定する送信アンプとを備えるスペクトラム拡散有線通信装置の送信装置。」

2.引用例
(1)原審拒絶理由で引用された引用例1、その記載事項及び「引用例1に記載された発明」は、前記「第2.2.(2)ア.」に記載したとおりである。

(2)周知例1、2の記載事項は、各々「第2.2.(2)イ.」、「第2.2.(2)ウ.」のとおりであり、周知例1、2の記載事項から周知事項とされる事項は前記「第2.2.(2)エ.」に記載したとおりである。
(3)周知例3の記載事項及び周知例3の記載事項から周知事項とされる事項は、前記「第2.2.(2)オ.」に記載したとおりである。
(4)周知例4の記載事項から周知事項とされる事項は前記「第2.2.(2)カ.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、
本願発明は、前記第2.で検討した補正後発明の、ゲイン補正部の補正する送信電力密度分布の補正の内容について「高い周波数付近のみ高くする」を削除したものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を限定したものに相当する本件補正後の発明が、前記「第2.2.(3)」に記載したとおり、前記引用例1に記載された発明及び周知事項A、B、C、Dに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、前記引用例1に記載された発明及び周知事項A、B、C、Dに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4. むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、前記引用例1に記載された発明及び周知事項A、B、C、Dに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-10-14 
結審通知日 2004-10-19 
審決日 2004-11-08 
出願番号 特願平7-320151
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04J)
P 1 8・ 572- Z (H04J)
P 1 8・ 575- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高野 洋  
特許庁審判長 武井 袈裟彦
特許庁審判官 望月 章俊
浜野 友茂
発明の名称 スペクトラム拡散有線通信装置  
代理人 坂口 智康  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 内藤 浩樹  

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