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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1109312
審判番号 不服2002-5714  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-03-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-04-04 
確定日 2005-01-04 
事件の表示 平成6年特許願第202240号「電波吸収体の取付構造」拒絶査定不服審判事件〔平成8年3月12日出願公開、特開平8-70212〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成6年8月26日の出願であって、平成14年2月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年4月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[結論]
平成14年4月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
上記手続補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を、
「繊維(F)を立体的に絡めてなり、かつ繊維表面に導電層が形成されてなるマット状電波吸収体(M)の所定部位(N)への取付構造であって、被取付面(NP)に対して、マット状電波吸収体(M)の取付面の一部が粘着テープ(2)により取り付けられてあるとともに、マット状電波吸収体(M)の取付面の他の部分が高粘度樹脂系接着剤(3)により取付られてあり、マット状電波吸収体(M)の繊維(F)の密度が、マット状電波吸収体(M)の厚さ方向に変化されてあることを特徴とする電波吸収体の取付構造。」
という発明(以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2.補正の適否
(1)新規事項の有無、補正の目的要件
上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「マット状電波吸収体(M)」の構成に「マット状電波吸収体(M)の繊維(F)の密度が、マット状電波吸収体(M)の厚さ方向に変化されてある」という限定を付加することにより、その構成を減縮するものであるから、特許法第17条の2第2項で準用する同法第17条第2項の規定(新規事項)及び同法第17条の2第3項の規定(補正の目的)に適合している。

(2)独立特許要件
次に、上記補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて検討する。
[補正後の発明]
上記「1.補正後の本願発明」の項で認定したとおりである。

[引用発明と周知技術]
原審の拒絶理由に引用された特開平6-152230号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
イ.「図3は従来の固定構造を示す断面図であり、図において、1はアンテナの壁体、2は高分子繊維を立体的に絡め、導電性塗料を塗布した電波吸収体であり、3〜40GHz帯の電波を吸収できるようになっている。6は例えば合成ゴム系の接着材であり、取付に際して接着材6を壁体1と電波吸収体2の双方に塗布し、所定の圧力を加え密着させる。」(2頁1欄、段落2)
上記引用例の記載及び添付図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「高分子繊維を立体的に絡め、導電性塗料を塗布した電波吸収体のアンテナ壁体への取付構造であって、被取付面に対して、合成ゴム系の接着材により取り付けられることを特徴とする電波吸収体の取付構造。」

また、例えば特開平2-91997号公報(以下、「周知例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
イ.「カーボンで被覆され、少なくとも2種類の太さの極性ポリマーからなる繊維を互いに絡ませて形成されたマット状繊維集合体からなる電波吸収体であって、該繊維集合体はその厚さ方向に繊維密度を変化させていることを特徴とする電波吸収体。」(1頁左下欄、特許請求の範囲)
ロ.「各繊維Fは平均25μm厚のカーボン被覆を有し、、従って電波吸収体としては一定の抵抗値を有する導電性になっている。」(3頁右上欄14〜16行目)
上記周知例1の記載によれば、「繊維を立体的に絡めてなり、かつ繊維表面に導電層が形成されてなるマット状電波吸収体であって、マット状電波吸収体の繊維の密度が、マット状電波吸収体の厚さ方向に変化している電波吸収体」は周知である。

また、原審の拒絶理由に引用された特開平6-85303号公報(以下、「周知例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
イ.「【0049】図3に本実施例の太陽電池モジュールを示した。図3(a)は金属屋根に接着する前の太陽電池パネルの裏面図であり、図3(b)太陽電池パネルを金属屋根上に接着した後の太陽電池モジュールの断面図である。図3において、(3001)は太陽電池パネル、(3002)はアモルファスシリコン系太陽電池素子、(3003)はシリコーン樹脂とエポキシ樹脂の混合接着材,(3004)は完全独立気泡を有するアクリルフォームにアクリル系粘着材がついた両面テープ、(3005)は瓦棒タイプの金属屋根である。」(5頁7欄、段落49)
ロ.「【0052】本実施例の太陽電池モジュールは、両面テープを太陽電池パネルの周辺に貼り中央部に接着材を塗布したことにより、太陽電池パネルの外にまで接着材がはみ出すことがないため外観が向上した。」(5頁8欄、段落52)
上記「両面テープ」は「アクリル系粘着材がついた」いわゆる「粘着テープ」であり、接着剤は「シリコーン樹脂とエポキシ樹脂の混合接着材」であるから、当該接着剤はいわゆる「シリコーン樹脂系接着剤」である。
したがって、上記周知例2の記載によれば、「パネルの所定部位への取付構造であって、被取付面に対して、パネルの取付面の一部が粘着テープにより取り付けられるとともに、パネルの取付面の他の部分がシリコーン樹脂系接着剤により取付られる取付構造」は周知である。

[対比]
補正後の発明と引用発明とを対比すると、補正後の発明の「繊維(F)を立体的に絡めてなり、かつ繊維表面に導電層が形成されてなるマット状電波吸収体」と引用発明の「高分子繊維を立体的に絡め、導電性塗料を塗布した電波吸収体」はいずれも「電波吸収体」であるという点で一致しており、補正後の発明の「高粘度樹脂系接着剤」と引用発明の「合成ゴム系の接着剤」はいずれも「接着剤」であるという点で一致している。
また、引用発明の被取付面である「アンテナ壁体」は補正後の発明でいう「所定部位」に他ならないから、この点に実質的な差異はない。
したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の<一致点>で一致し、また<相違点>で相違する。
<一致点>
「電波吸収体の所定部位への取付構造であって、被取付面に対して、接着材により取り付けられることを特徴とする電波吸収体の取付構造。」

<相違点1>「電波吸収体」の構造に関し、補正後の発明は「繊維(F)を立体的に絡めてなり、かつ繊維表面に導電層が形成されてなるマット状電波吸収体」であり、「マット状電波吸収体(M)の繊維(F)の密度が、マット状電波吸収体(M)の厚さ方向に変化されてある」のに対し、引用発明は「高分子繊維を立体的に絡め、導電性塗料を塗布した電波吸収体」である点。
<相違点2>「取付構造」及び「接着剤」に関し、補正後の発明は「マット状電波吸収体(M)の取付面の一部が粘着テープ(2)により取り付けられてあるとともに、マット状電波吸収体(M)の取付面の他の部分が高粘度樹脂系接着剤(3)により取付られてある」ものであるのに対し、引用発明は「合成ゴム系の接着材により取り付けられる」ものである点。

[判断]
そこで、まず、上記相違点1の「電波吸収体」の構造について検討するに、例えば上記周知例1によれば「繊維を立体的に絡めてなり、かつ繊維表面に導電層が形成されてなるマット状電波吸収体であって、マット状電波吸収体の繊維の密度が、マット状電波吸収体の厚さ方向に変化している電波吸収体」は周知であり、引用発明の電波吸収体として当該周知の電波吸収体を採用することを阻害する要因は何ら見あたらないから、引用発明の「高分子繊維を立体的に絡め、導電性塗料を塗布した電波吸収体」として、補正後の発明のような「繊維(F)を立体的に絡めてなり、かつ繊維表面に導電層が形成されてなるマット状電波吸収体」を採用する程度のことは当業者であれば適宜成し得ることである。
ついで、上記相違点2の「取付構造」及び「接着剤」について検討するに、例えば上記周知例2には「パネルの所定部位への取付構造であって、被取付面に対して、パネルの取付面の一部が粘着テープにより取り付けられるとともに、パネルの取付面の他の部分がシリコーン樹脂系接着剤により取付られる取付構造」が開示されているところ、当該「シリコーン樹脂系接着剤」はすでに「低粘度(即ち、流動性)」から「高粘度(即ち、非流動性)」のものまで種々開発されており、また、壁面(垂直面)等に接着する場合、流れを止めた高粘度の接着剤を用いることは当業者が普通に行うことであるから、引用発明の電波吸収体の取付に際し、周知例2に記載された粘着テープとシリコーン樹脂系接着剤を用いる周知の構造を採用するとともにシリコーン樹脂系接着剤を高粘度のものに限定する程度のことは当業者であれば適宜成し得ることである。したがって、引用発明の「合成ゴム系の接着材により取り付けられる」構造を、補正後の発明のように「マット状電波吸収体(M)の取付面の一部が粘着テープ(2)により取り付けられてあるとともに、マット状電波吸収体(M)の取付面の他の部分が高粘度樹脂系接着剤(3)により取付られてある」構造とする程度のことは当業者であれば容易なことである。

以上のとおりであるから、補正後の発明は上記引用例に記載された発明及び周知例1、2に記載された周知技術に基づいて容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第4項の規定により準用する特許法第126条第3項の規定に違反している。
したがって、本件補正は特許法第159条第1項において準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成14年4月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「繊維(F)を立体的に絡めてなり、かつ繊維表面に導電層が形成されてなるマット状電波吸収体(M)の所定部位(N)への取付構造であって、被取付面(NP)に対して、マット状電波吸収体(M)の取付面の一部が粘着テープ(2)により取付けられてあるとともに、マット状電波吸収体(M)の取付面の他の部分が高粘度樹脂系接着剤(3)により取付けられてあることを特徴とする電波吸収体の取付構造。」

2.引用発明
引用発明および関連する周知技術は、上記「第2.2.(2)独立特許要件」中の[引用発明と周知技術]の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明にかかる構成から「マット状電波吸収体(M)の繊維(F)の密度が、マット状電波吸収体(M)の厚さ方向に変化されてある」という限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に前記限定を付加した補正後の発明が上記「第2.2(2)独立特許要件」の項で検討したとおり、上記引用例に記載された発明及び周知例1、2に記載された周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用例に記載された発明及び周知例1、2に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-10-08 
結審通知日 2004-10-19 
審決日 2004-11-08 
出願番号 特願平6-202240
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01Q)
P 1 8・ 121- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右田 勝則  
特許庁審判長 武井 袈裟彦
特許庁審判官 望月 章俊
浜野 友茂
発明の名称 電波吸収体の取付構造  
代理人 津川 友士  

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