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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1109549
異議申立番号 異議2003-71693  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-05-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-02 
確定日 2004-10-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3369883号「ゴム組成物および空気入りタイヤ」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3369883号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 
理由 [1]手続きの経緯
本件特許第3369883号に係る出願は、平成8年12月16日に出願されたものであり(優先権主張 平成8年8月26日 日本)、平成14年11月15日に特許権の設定がなされ、その後、特許異議申立人 渡辺雅起より特許異議の申立がなされ、平成15年10月10日付の取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年12月24日に特許異議意見書の提出と共に訂正請求がなされ、さらに、この訂正請求と特許異議意見書に対し意見を求める審尋が特許異議申立人に発せられ、平成16年3月10付けの回答書が特許異議申立人から提出されたものである。
[2]訂正の可否
1.訂正事項
(1)訂正事項1
【特許請求の範囲】の「【請求項1】 天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴム100重量部に対し、シリカ10〜85重量部と、下記一般式、
(CnH2n+1O)3Si―(CH2)m―Sl―(CH2)m―Si(CnH2n+1O)3(式中、nは1〜3の整数、mは1〜9の整数、lは1以上の整数で分布を有する)で表されるシランカップリング剤であって、前記式中の―Sl―分布が次式、(S1+S2+S3+S4)/(S5+S6+S7+S8+S9)≧0.85で表される関係を満足するシランカップリング剤をシリカの量に対し1〜20重量%配合してなることを特徴とするゴム組成物。」を
「【請求項1】 天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴム100重量部に対し、シリカ20〜65重量部と、カーボンブラック25〜60重量部と、下記一般式、
(CnH2n+1O)3Si―(CH2)m―Sl―(CH2)m―Si(CnH2n+1O)3(式中、nは1〜3の整数、mは1〜9の整数、lは1以上の整数で分布を有する)で表されるシランカップリング剤であって、前記式中の―Sl―分布が次式、(S1+S2+S3+S4)/(S5+S6+S7+S8+S9)≧0.85で表される関係を満足するシランカップリング剤をシリカの量に対し1〜20重量%配合してなることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。」と訂正する。
(2)訂正事項2
【特許請求の範囲】の「【請求項2】 前記式中の―Sl―分布が次式、(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.45で表される関係を満足し、かつS3成分が20%以上である請求項1記載のゴム組成物。」を
「【請求項2】 前記式中の―Sl―分布が次式、(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.45で表される関係を満足し、かつS3成分が20%以上である請求項1記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。」と訂正する。
(3)訂正事項3
【特許請求の範囲】の「【請求項3】 前記式中の―Sl―分布が次式、(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.55で表される関係を満足し、かつS3成分が30%以上である請求項1記載のゴム組成物。」を
「【請求項3】 前記式中の―Sl―分布が次式、(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.55で表される関係を満足し、かつS3成分が30%以上である請求項1記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。」と訂正する。
(4)訂正事項4
【特許請求の範囲】の【請求項4】を削除する。
(5)訂正事項5
【特許請求の範囲】の「【請求項5】 無水硫化ナトリウム(Na2S)と硫黄(S)とを不活性ガス雰囲気下、極性溶媒中でモル比1:1〜1:2.5の範囲で反応させて多硫化ナトリウムを得、次いでこの多硫化ナトリウムを下記一般式、


(式中、R1、R2はそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基、R3は炭素数1〜9の2価の炭化水素基、Xはハロゲン原子、kは1〜3の整数である)で表されるハロゲノアルコキシシランを加えて不活性ガス雰囲気下で反応させ、得られた化合物が前記シランカップリング剤として用いられている請求項1〜3のうちいずれか一項記載のゴム組成物。」を
「【請求項4】 無水硫化ナトリウム(Na2S)と硫黄(S)とを不活性ガス雰囲気下、極性溶媒中でモル比1:1〜1:2.5の範囲で反応させて多硫化ナトリウムを得、次いでこの多硫化ナトリウムを下記一般式、


(式中、R1、R2はそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基、R3は炭素数1〜9の2価の炭化水素基、Xはハロゲン原子、kは1〜3の整数である)で表されるハロゲノアルコキシシランを加えて不活性ガス雰囲気下で反応させ、得られた化合物が前記シランカップリング剤として用いられている請求項1〜3のうちいずれか一項記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。」と訂正する。
(6)訂正事項6
【特許請求の範囲】の「【請求項6】 請求項1〜5のうちいずれか一項記載のゴム組成物をトレッドゴムとして用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。」を
「【請求項5】 請求項1〜4のうちいずれか一項記載のタイヤトレッド用ゴム組成物をトレッドゴムとして用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。」と訂正する。
(7)訂正事項7
願書に添付した明細書中の段落【0042】の第1〜2行目(特許第3369883号公報第5頁右欄第50行目)における「実施例1〜8」を「参考例1〜8」に、同第2行目(同公報第6頁左欄第1行目)の「実施例9」を「参考例9」に、同第3行目(同公報第6頁左欄第2行目)の「実施例10〜11」を「実施例1、参考例10」に、夫々訂正する。
(8)訂正事項8
願書に添付した明細書中の段落【0044】の表3(特許第3369883号公報第6頁)中における「実施例1」を「参考例1」に、「実施例2」を「参考例2」に、「実施例3」を「参考例3」に、「実施例4」を「参考例4」に、「実施例5」を「参考例5」に、「実施例6」を「参考例6」に、「実施例7」を「参考例7」に、「実施例8」を「参考例8」に、夫々訂正する。
(9)訂正事項9
願書に添付した明細書中の段落【0045】の表4 (特許第3369883号公報第7頁左欄)中における「実施例9」を「参考例9」に、「実施例10」を「実施例1」に、「実施例11」を「参考例10」に、夫々訂正する。
2.訂正の可否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、実質的には次の3つの訂正を含んでいる。
(i)シリカの配合量の範囲「10〜85重量部」を「20〜65重量 部」とする訂正
(ii)新たにカーボンブラックを必須の成分として加えると共にその配 合割合を「25〜60重量部」と規定する訂正
(iii)ゴム組成物の用途を「タイヤトレッド用」に限定する訂正
(i)は発明の詳細な説明の段落【0021】の「好ましくは20〜65重量部である。」との記載に基づくもので、配合量の範囲「10〜85重量部」を「20〜65重量部」とする特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
(ii)は発明の詳細な説明の段落【0025】に「…カーボンブラックの配合量は…補強性および低発熱性の面から25〜60重量部が好ましい。」との記載に基づくものであり、カーボンブラックを必須の配合成分として加えると共にその配合量を規定することは特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
(iii)本件発明のゴム組成物をタイヤトレッドとして用いることは訂正前の請求項6や発明の詳細な説明の段落【0018】に記載されていたことであり、ゴム組成物の用途を「タイヤトレッド用」に限定することは特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
(2)訂正事項2、3、5
訂正事項2、3、5は本件請求項2、3、5において「ゴム組成物」を「タイヤトレッド用ゴム組成物」にするものであるが、本件発明のゴム組成物をタイヤトレッドとして用いることは訂正前の請求項6や発明の詳細な説明の段落【0018】に記載されていたことであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
(3)訂正事項4
訂正事項4は請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
(4)訂正事項6
訂正事項6は本件請求項5において「ゴム組成物」を「タイヤトレッド用ゴム組成物」に訂正すると共に請求項の番号を6→5、引用請求項の番号を「1〜5」→「1〜4」とするものであるが、本件発明のゴム組成物をタイヤトレッドとして用いることは、(2)訂正事項2、3、5で検討したとおりであり、また、請求項番号の訂正は、請求項4の削除に伴う明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
(5)訂正事項7
訂正事項7は、段落【0042】において、訂正事項1により実施例に該当しなくなった実施例1〜9、11を参考例1〜9、11とすると共に実施例10を実施例1とするものであり、訂正後の請求項の発明に対応して明細書の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
(6)訂正事項8
訂正事項8は、段落【0044】において、訂正事項1により実施例に該当しなくなった実施例1〜8を参考例1〜8とするものであり、訂正後の請求項の発明に対応して明細書の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
(7)訂正事項9
訂正事項9は、段落【0045】において、訂正事項1によりで実施例に該当しなくなった実施例9、11を参考例9、10とすると共に実施例10を実施例1とするものであり、訂正後の請求項の発明に対応して明細書の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
(8)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1〜9にかかる訂正は、特許請求の範囲の減縮あるいは明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
よって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。
[3]本件発明
本件特許第3369883号の請求項1〜5に係る発明は、平成15年12月24日付け訂正請求書に添付された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴム100重量部に対し、シリカ20〜65重量部と、カーボンブラック25〜60重量部と、下記一般式、
(CnH2n+1O)3Si―(CH2)m―Sl―(CH2)m―Si(CnH2n+1O)3(式中、nは1〜3の整数、mは1〜9の整数、lは1以上の整数で分布を有する)で表されるシランカップリング剤であって、前記式中の―Sl―分布が次式、(S1+S2+S3+S4)/(S5+S6+S7+S8+S9)≧0.85で表される関係を満足するシランカップリング剤をシリカの量に対し1〜20重量%配合してなることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】 前記式中の―Sl―分布が次式、(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.45で表される関係を満足し、かつS3成分が20%以上である請求項1記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】 前記式中の―Sl―分布が次式、(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.55で表される関係を満足し、かつS3成分が30%以上である請求項1記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】 無水硫化ナトリウム(Na2S)と硫黄(S)とを不活性ガス雰囲気下、極性溶媒中でモル比1:1〜1:2.5の範囲で反応させて多硫化ナトリウムを得、次いでこの多硫化ナトリウムを下記一般式、


(式中、R1、R2はそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基、R3は炭素数1〜9の2価の炭化水素基、Xはハロゲン原子、kは1〜3の整数である)で表されるハロゲノアルコキシシランを加えて不活性ガス雰囲気下で反応させ、得られた化合物が前記シランカップリング剤として用いられている請求項1〜3のうちいずれか一項記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】 請求項1〜4のうちいずれか一項記載のタイヤトレッド用ゴム組成物をトレッドゴムとして用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。」
[4]特許異議申立についての判断
〈1〉特許異議申立理由
特許異議申立人 渡辺雅起の主張する特許異議申立理由の概略は次の通りである。なお、請求項は訂正前のものである。
1.本件請求項1及びこれを引用する請求項4〜6に係る発明は、甲第1号証に係る特願平8-57921号の出願当初の明細書又は図面に記載された発明とは同一の発明であるから、特許法第29条の2第1項に該当し、特許を受けることができない。
2.本件請求項2及びこれを引用する請求項4〜6に係る発明は、甲第2号証(優先権証明は甲第3号証)に係る特願平9-332007号の出願当初の明細書又は図面に記載された発明とは同一の発明であるから、特許法第29条の2第1項に該当し、特許を受けることができない。
3.本件請求項3及びこれを引用する請求項4〜6に係る発明は、甲第4号証(優先権証明は甲第5号証)に係る特願平9-193890号の出願当初の明細書又は図面に記載された発明とは同一の発明であるから、特許法第29条の2第1項に該当し、特許を受けることができない。
4.本件請求項2、請求項3及びこれを引用する請求項4〜6に係る発明は、その出願前に公知である甲第6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができず、あるいは、本件請求項2及び請求項3に係る発明は、その出願前に公知の甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
〈2〉取消理由通知
平成15年10月10日付け起案の取消理由通知の内容は以下のとおりである。
1.引用先願明細書、刊行物
先願明細書1:特願平8-57921号の出願当初明細書(特許異議申立ての甲第1号証)
先願明細書2:特願平9-332007号の出願当初明細書(同甲第2号証)
先願明細書3:特願平9-193890号の出願当初明細書(同甲第4号証)
刊行物1:第150回米国化学会ゴム部会発表資料(1996年10月8日、同甲第6号証)
2.取消理由1
先願明細書1,2,3及び先願明細書2,3に係る出願の優先権主張の基礎とされた出願の明細書(同甲第3号証、同甲第5号証)には、特許異議申立人渡辺雅起提出の特許異議申立書の19頁27行〜34頁末行に指摘されているとおりの発明が記載されているものと認められ、本件請求項2,3に係る発明及びこれを引用する請求項4〜6に係る発明は、本件の優先権の主張の基礎とされた特願平8-223586号の明細書には記載されていない、即ち、優先権主張の効果が得られないと認められるから、同書35頁1行〜42頁8行に記載されている理由により、本件請求項1〜6に係る発明は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。
3.取消理由2
刊行物1には、同特許異議申立書42頁10行〜46頁2行に指摘されている発明が記載されているものと認められ、そうであれば、本件請求項2,3に係る発明、及びこれら発明を引用する請求項4〜6に係る発明は、同書46頁3行〜47頁末行に記載されている理由により特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。
また、仮に、数値限定等で発明の同一性を回避したとしても、その程度の改変は当業者が適宜になし得ることであるから、その場合は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとなる。
〈3〉引用先願明細書の記載事項
1.先願明細書1:特願平8-57921号の出願当初明細書(特開平8-259739号公報(特許異議申立ての甲第1号証)参照)
該先願明細書1には以下のようなことが記載されている。
【特許請求の範囲】
「【請求項1】 次の逐次工程:(A) 少なくとも1つの予備混合工程において、次の成分を合計混合時間約2〜約20分間、約140〜約190℃に熱機械混合すること:(i)共役ジエン単独重合体および共重合体、並びに少なくとも1種の共役ジエンと芳香族ビニル化合物との共重合体から選択される少なくとも1種の加硫性エラストマー100重量部、(ii)沈降シリカ、アルミナ、アルミノシリケートおよびカーボンブラックのうちの少なくとも1種を含む粒状充填材約15〜約100phr、ここで上記充填材は約5〜約85重量%のカーボンブラックを含有する、(iii)式:Z―R1―Sn―R1―Z[式中、nは2〜8の整数であり、但し、少なくとも80%のnは2であり;Zは【化1】


(式中、R2は同じものでも異なるものでもよく、炭素原子数1〜4のアルキル基およびフェニルよりなる群から個々に選択され;R3は同じものでも異なるものでもよく、炭素原子数1〜4のアルキル基、フェニル、炭素原子数1〜8のアルコキシ基および炭素子数5〜8のシクロアルコキシ基よりなる群から個々に選択され;そしてR1は合計炭素原子数が1〜18の置換または非置換アルキレン基および合計炭素原子数が6〜12の置換または非置換アリーレン基よりなる群から選択される)よりなる群から選択される]の少なくとも1種のオルガノシランポリスルフィド化合物を、上記粒状充填材1重量部当たり約0.05〜約20重量部;
(iv)(a)(1)元素硫黄および(2)約140℃〜約190℃で硫黄の少なくとも一部を放出する性質を有する硫黄含有ポリスルフィド系有機化合物としての少なくとも1種の硫黄供与体、のうちの少なくとも1種から選択される遊離硫黄源、但し、上記元素硫黄の添加からおよび上記硫黄供与体の添加から得られる上記遊離硫黄の合計は約0.05〜約2phrである、並びに(b)上記のような硫黄供与体ではない硫黄加硫性エラストマーのための少なくとも1種の加硫促進剤 約0.1〜約0.5phrから選択される化合物としての少なくとも1種の追加添加剤;並びに(B) その後、最終熱機械混合工程において、上記成分を約100〜約130℃で約1〜約3分間、約0.4〜約3phrの元素硫黄および少なくとも1種の硫黄加硫促進剤と混合すること、但し、上記予備混合工程で導入される元素硫黄および/または遊離硫黄と、上記最終混合工程で加えられる元素硫黄との合計は約0.45〜約5phrであるを含んでなるゴム組成物の製造方法。

【請求項7】硫黄加硫性ゴムのタイヤと上記ゴム組成物よりなるトレッドとの集成体を製造し、そして集成体を約140℃〜約190℃で加硫する追加工程を含む、請求項1の方法。
【請求項8】請求項7の方法により製造される、加硫されたゴムタイヤ。

【請求項16】上記充填材が約15〜約95重量%の沈降シリカ、および対応して約5〜約85重量%のカーボンブラックを含み;上記カーボンブラックが約80〜約150のCTAB値を有する、請求項15の方法。
【請求項17】充填材が約60〜約95重量%のシリカ、および対応して約40〜約5重量%のカーボンブラックを含む、請求項16の方法。
…」
「発明の詳細な説明【0105】
【実施例】
実施例1
シリカ強化材を含有する加硫性ゴム混合物を、3,3-ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドおよび高純度3,3-ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドを各々用いて製造した。
【0106】上記オルガノシランテトラスルフィド硫黄ブリッジ部分は平均約3.5〜約4個の結合硫黄原子を含み、結合硫黄原子の範囲は約2〜6または8個であり、25%以下のその硫黄ブリッジ部分は結合硫黄原子が2以下であると考えられる。
【0107】上記オルガノシランポリスルフィドおよび高純度オルガノシランジスルフィドはエラストマーおよび配合成分と、一連の予備混合段階で逐次段階的に混合した。
【0108】高純度3,3-ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドを用いる場合、少量の遊離硫黄も第1予備混合段階に加える。最終混合段階では、追加のおよび定量以上の量の遊離硫黄を加硫促進剤と共に加える。
【0109】各混合工程の後、ゴム混合物をロール機に分取し、短時間混練混合し、ロール機から取り出したゴムをスラブにし、そして約30℃以下に冷却した。
【0110】表1に示す材料を含有するゴム組成物を、各々温度…オルガノシランテトラスルフィド、オルガノシランジスルフィドおよび遊離硫黄の量は表1では”可変”と記し、表2でより詳しく示す。
【0111】高純度オルガノシランジスルフィドを用いた試料2および3を、オルガノシランポリスルフィドを用いた試料1と比較すると、シリカ強化エラストマーの混合工程を調整する手段として、高純度オルガノシランジスルフィドを遊離硫黄の添加と組み合わせて用いる利点がよく分かる。」(公報17頁31欄最下行〜同頁32欄37行)
「発明の詳細な説明【0115】
オルガノシランジスルフィドの純度は少なくとも98重量%であることが測定された。すなわち、オルガノシランポリスルフィド化合物をこの実施例の方法に用いた場合のnの少なくとも98%の値は2であった。純度はNMR(核磁気共鳴)、およびi)GC-MS、すなわちガスクロマトグラフィー質量分析法、およびii)HPLC、すなわち高性能液体クロマトグラフィーによって測定した。
【0116】
表2
試料# 実施例1 実施例2 実施例3
ビス-(3-トリエトキシ
-シリルプロピル)テトラ
スルフィド 13.6
オルガノシランジスルフィド 10 8
硫黄 0.87
ムーニー NP1 113 100 104
引張強さ MPa 16 17.2 17
60℃でのタンデルタ 0.079 0.100 0.080 」(公報第18頁34欄27行〜第19頁29行) (抜粋)
「【0122】
表3
実施例1 実施例2 実施例3
ローリング抵抗 100 96 100
」(公報第20頁)(抜粋)
2.先願明細書2:特願平9-332007号の出願当初明細書(特開平10-182847号公報(特許異議申立ての甲第2号証)参照)
【特許請求の範囲】
「【請求項1】 次の:(A)(i)共役ジエン系単独重合体と共重合体、および少くとも一種の共役ジエンと芳香族ビニル化合物との共重合体から選ばれる少くとも一種の硫黄硬化性エラストマー100重量部、
(ii)沈降シリカ、アルミナ、アルミノケイ酸塩およびカーボンブラックの少くとも一種をからなる微粒子状充填材にして、約5から約85重量パーセントのカーボンブラックを含む該充填材約15から約100phr、
(iii)該微粒子状充填材の1重量部当たり約0.05から約20重量部の、少くとも一種の、次式:【化1】Z―R1―Sn―R1―Z
[式中、R1は全部で1から18個の炭素原子を有する置換または未置換アルキレン基、および全部で6から12個の炭素原子を有する置換または未置換アリーレン基より成る群から選ばれ;nは2から6の整数であり、ただし、n=2とn=3の和がnの約90から約98パーセントの範囲であることを前提条件として、nの約55から約75パーセントが2であり、nの約15から約35パーセントが3であり、nの約2から約10パーセントが4であり、そしてnの10パーセント未満が4より大であり;そしてZは次式:【化2】


(式中、R2 は同一または異なり、そして独立に炭素原子数1から4個のアルキル基およびフェニル基より成る群から選ばれ;R3 は同一または異なり、そして独立に炭素原子数1から4個のアルキル基、フェニル基、1から8個の炭素原子を有するアルコキシ基および5から8個の炭素原子を有するシクロアルコキシ基より成る群から選ばれる。)の基から成る群から選ばれる。]を有する有機ケイ素ジスルフィド/トリスルフィド化合物;および(iv)次の:(a)(1)元素硫黄、および(2)硫黄を含み、約140℃から約190℃の範囲の温度で該硫黄の少くとも一部を放出する性質を有するポリスルフィド系有機化合物としての少くとも一種の硫黄供与体の少くとも一種から選ばれるフリー硫黄源(但し、該元素硫黄の添加と該硫黄供与体の添加から得られる総フリー硫黄は約0.05から約2phrの範囲である)、および(b)そのような硫黄供与体ではない、約0.1から約0.5phrの少くとも一種の硫黄硬化性エラストマー用硬化促進剤から選ばれる化合物としての少くとも一種の追加の添加剤;を少くとも一回の予備混合工程で、約140℃から約190℃の温度まで、約2から約20分の総混合時間熱機械的に混合し;
(B)次いで、得られた混合物を、最終熱機械的混合工程で、約0.4から約3phrの元素硫黄(但し、上記予備混合工程で導入された元素状および/またはフリーの硫黄と、該最終混合工程で加えられる元素硫黄との総和は約0.45から約5phrの範囲である)、および少くとも一種の硫黄硬化促進剤と約100℃から約130℃の温度で約1から約3分間混合する;逐次工程を含んでなるゴム組成物の調製法。
【請求項2】予備熱機械的混合工程(一工程または複数工程)に、全部で約0.05から約5phrの少くとも一種のアルキルシランを添加し、該アルキルシランは式:R’-Si-(OR)3を有し、ここで式中のRはメチル、エチル、プロピルまたはイソプロピル基であり、そしてR’は1から18個の炭素原子を有する飽和アルキル基または6から12個の炭素原子を有するアリール基若しくは飽和アルキル置換アリール基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】 請求項1に記載の方法で調製されたゴム組成物。
【請求項4】 前記ゴム組成物からなるトレッドを有する硫黄硬化性ゴムのタイヤの集成体を調製し、該集成体を約140℃から約190℃の範囲の温度で硬化させる追加の工程を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】 請求項4に記載の方法で調製されたタイヤ。」(特許請求の範囲)
「【0067】シリカ、アルミナおよび/またはアルミノケイ酸塩のようなケイ質充填材、そしてまた強化用カーボンブラックピグメントの両方を含むゴム組成物が強化用ピグメントとしてのシリカで主として強化されることが望まれる場合には、ケイ質ピグメントのケイ酸塩とカーボンブラックとの重量比は少くとも3/1、好ましくは少くとも10/1、従って約3/1から約30/1の範囲であることが好ましいことが多い。
【0068】本発明の一つの態様では、そのケイ質ピグメントは沈降シリカであるのが好ましい。
【0069】本発明のもう一つの態様では、その充填材は約15から約95重量パーセントの沈降シリカ、アルミナおよび/またはアルミノケイ酸塩、およびそれに対応して約5から約85重量パーセントのカーボンブラックからなり;ここでそのカーボンブラックは約80から約150の範囲のCTAB値を有する。
【0070】本発明の実施において、上記充填材は約60から約95重量パーセントの上記シリカ、アルミナおよび/またはアルミノケイ酸塩と、それに対応して約40から約5重量パーセントのカーボンブラックからなることができる。」(公報第9頁16欄29行〜49行)
「【0091】本発明の硬化ゴム組成物は、合理的に大きいモジュラスと大きい引裂き抵抗性に寄与するのに十分な量のシリカと、若し使用するならカーボンブラック、強化用充填材(一種または複数)を含んでいるべきである。シリカ、アルミナ、アルミノケイ酸塩およびカーボンブラックの合計重量は、前に説明したように、ゴム100部当たり約30部のように低くてもよいが、約35から約90重量部であるのがより好ましい。」(公報第11頁19欄38行〜45行)
「【0136】発明の追加の開示と実施
実施例3
(i)実施例1における3,3’-ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、(ii)実施例1における高純度(98%)3,3’-ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドおよび(iii)ポリスルフィド橋中のテトラスルフィド含有量が10パーセント未満である、高純度で分布の明確な3,3’-ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド/トリスルフィドを個々に使用して、シリカ強化材を含む硫黄硬化性ゴム混合物を調製した。
【0137】上記テトラスルフィド(i)のテトラスルフィド硫黄橋部分は平均約3.5から約4個の連結硫黄原子を含み、約2から6或いは8個までの範囲の連結硫黄原子を有し、そして2個若しくはそれ以下の連結硫黄原子を有する硫黄橋部分は約20パーセント以下で、そのポリスルフィド橋の主要部分は4個若しくはそれ以上の硫黄原子を含み、そしてその硫黄橋の約50パーセント以下が2および3個の連結硫黄原子の組み合せを有する、と考えられる。
【0138】上記有機シランテトラスルフィド(i)、高純度ジスルフィド(ii)、高純度有機シランジスルフィド/トリスルフィド(iii)を個々にエラストマー(一種または複数)および混練成分と、一連の予備混合段
階で、逐次段階方式で混合した。
【0139】各混合工程後、そのゴム混合物のバッチをミル(圧延機)に入れ、そのミルで短時間混合し、次いでゴムのスラブ(slabs)をそのミルから取り出し、そして約30℃若しくはそれ以下の温度まで放冷した。
【0140】表4に示した材料を含むゴム組成物を、BRバンバリーミキサー中で、別々の三段の添加(混合)工程、即ち二つの予備混合工程と一つの最終工程を用いて、これら三段の総混合工程で、それぞれ、160℃、160℃および120℃まで、約8分、2分および2分の時間処理することにより調製した。有機シランテトラスルフィド、有機シランジスルフィドおよびフリーの元素硫黄の量は表4に“可変”と示され、そして表5により特定して示した。
【0141】高純度有機シランジスルフィドを使用した試料5、および高純度で分布の明確な有機シランジスルフィド/トリスルフィドを使用した試料6を、有機シランテトラスルフィドを使用した試料4と比べると、ゴム組成物を調製するために高純度で分布の明確なジスルフィド/トリスルフィドをフリー硫黄添加と組み合せて使用すると、フリー硫黄を添加しないテトラスルフィド(i)およびフリー硫黄を添加した高純度ジスルフィド(ii)で調製した両ゴム組成物と同等の物理的性質を有するゴム組成物が、テトラスルフィドを使用する組成物の場合の、大きいムーニー粘度および大きいムーニー・ピーク値のような加工上の障害なしに、さらに高純度ジスルフィドを使用する組成物の場合の有機シランカップリン剤の高いコストなしに、調製されることを明確に示している。」(公報第16頁29欄35行〜第17頁第32欄1行)
「【0147】6)n=2がnの約75パーセント、n=3がnの約23パーセント、そしてn=4がnの約2パーセントで、n=2とn=3の和がnの98パーセントである、高純度で分布の明確な3,3-ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド/トリジスルフィド;
【0148】7)ドイツ国のカリ ヘミー社からS8元素硫黄として得られる。」(公報第17頁32欄24行〜31行)
「 表5
試料# 実験4 実験5 実験6
ビス-(3-トリエトキシ
-シリルプロピル)テトラ
スルフィド 13.6
有機シランジスルフィド 8 8
硫黄 0.6 0.6
ムーニー NP12 113 104 105
引張強さ MPa 16 17.6 17.2
タンデルタ、60℃ 0.079 0.70 0.068
」(抜粋)(公報第18頁)
「【0156】
表6
実験4 実験6 実験7
ころがり抵抗性 100 100 101
」(抜粋)(公報第19頁)
なお、表5及び表6において実験6は有機シランジスルフィドとなっているが正しくは3,3‐ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド/トリジスルフィドである(段落【0154】参照)。
〈4〉特許法第29条の2について
1.訂正後の本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という、請求項2以下も同様)と先願明細書1に記載された発明(以下、「先願発明1」という)との同一性について
先願発明1もまたゴム組成物に関するものであり、該ゴム組成物がタイヤトレッド用のものも含むものであることは先願発明1の請求項7の記載から明らかであり、両者の発明はタイヤトレッド用ゴム組成物である点で一致している。
次に該ゴム組成物を構成する各成分及びその配合割合について検討する。
(1)先願発明1の「共役ジエン単独重合体及び共重合体、並びに少なくとも1種の共役ジエンと芳香族ビニル化合物との共重合体から選択される加硫性エラストマー」とは、本件発明1の「ジエン系合成ゴム」に他ならず、この点で本件発明1と何らの相違もない。
(2)先願発明1では沈降シリカなどの充填剤15〜100phr(すなわちゴム100部に対して)(請求項1)の内、沈降性シリカはその15〜95重量%で、カーボンブラックが5〜85重量%であるから(請求項16)、これをphrに換算すると、沈降性シリカは2.25〜95phr、カーボンブラックは0.75〜85phrとなる。してみればジエン系合成ゴム100重量部に対しシリカ20〜65重量部、カーボンブラック25〜60重量部配合する本件発明1とは配合する成分及び配合量が重複する。
(3)先願発明1の請求項1の(iii)の式において、Zが―Si(R3)3でR3が炭素原子数1〜8のアルコキシ基、R1が炭素数1〜18のアルキレン、Snのnが2〜8の化合物は、本件発明1の(CnH2n+1O)3Si―(CH2)m―Sl―(CH2)m―Si(CnH2n+1O)3と一致するものであり、先願発明1の実施例1で該(iii)の式の化合物として使用されている高純度3,3-ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドは本件発明1の式においてnが2、mが3、lが1以上の整数で分布を有するものに相当する。なお、先願発明1のオルガノシランポリスルフィドがシランカップリング剤であることは先願発明1の段落【0025】に「…オルガノシランポリスルフィドすなわちカップリング剤のポリスルフィド部分…」と記載されていることからも明らかである。
そして、ジスルフィド硫黄ブリッジ部分はnの少なくとも98%の値は2であったことが記載されているのであるから(先願発明1の段落【0115】)、これは本件発明1の要件(S1+S2+S3+S4)/(S5+S6+S7+S8+S9)≧0.85を満足することは明らかである(純度98%であるからSlの少なくとも96%はS2である。)。
そうしてみれば、本件発明1の要件はことごとく先願発明1と一致する。
そして、先願発明1は、140℃〜190℃で熱混合する(請求項1)にもかかわらず、ムーニー粘度も格別高くないのであるから(表2)、150℃以上の高温練りにおいてもゲル化が抑制され作業性が低下しないという本件発明1(段落【0011】【発明が解決しようとする課題】)と、同様な意図を有するものである。また、先願発明1には、タンデルタ(tanδ)、引張強度、ローリング(転がり)抵抗の値も実施例で示されており、低発熱性(tanδ)、補強性(引張強度)、転がり抵抗、等を適度に保とうとする本件発明1と意図するところは同じである。
してみれば、本件発明1は先願発明1と同一である。
そして、先願発明1の出願人、発明者も、本件出願時点での本件の出願人や発明者と同一ではない。
2.本件発明2と先願明細書2に記載された発明(以下、「先願発明2」という)との同一性について
本件発明2については、本件出願の優先権主張の基礎となった特願平8-223586号の明細書には記載がないので、本件発明2については優先権の主張が認められない。従って、本件発明2については現実の出願日を基準として判断する。
一方、先願発明2(特開平10-182847号公報(甲第2号証)参照)は本件発明の現実の出願日の後の平成9年12月2日に出願されたものであるが、この出願は本出願前の1996年12月2日に米国にした特許出願に基づいて優先権を主張しており、この優先権の基礎になった米国特許明細書(米国特許第5,674,932号特許明細書(甲第3号証)参照)によれば、先に先願明細書の記載事項として指摘したことがすべて記載されていることが看取されるのである。
そこで、先に先願明細書2に記載されている事項として指摘した事項と本件発明2とを対比する。
先願発明2もまたゴム組成物に関するものであり、該ゴム組成物がタイヤトレッド用のものを含むものであることは先願発明2の請求項4から明らかであり、両者の発明はタイヤトレッド用ゴム組成物である点で一致している。
次に該ゴム組成物を構成する各成分及びその配合割合について検討する。
(1)先願発明2の「共役ジエン単独重合体と共重合体、および少なくとも一種の共役ジエンと芳香族ビニル化合物との共重合体から選ばれる少なくとも一種の硫黄硬化性エラストマー」とは、本件発明2で引用する本件請求項1の「ジエン系合成ゴム」に他ならず、この点で本件発明2と何らの相違もない。
(2)先願発明2では沈降シリカなどの充填剤15〜100phr(すなわちゴム100部に対して)(請求項1)の内、沈降性シリカはその15〜95重量%でカーボンブラックが5〜85重量%であるから(段落【0069】)、これをphrに換算すると、沈降性シリカは2.25〜95phr、カーボンブラックは0.75〜85phrとなる。してみればジエン系合成ゴム100重量部に対しシリカ20〜65重量部、カーボンブラック25〜60重量部配合する本件発明2とは配合する成分及び配合量が重複する。
(3)先願発明2の請求項1の(iii)の式において、Zが―Si(R3)3でR3が炭素原子数1〜8のアルコキシ基、R1が炭素数1〜18のアルキレン、Snのnが2〜6の化合物は、本件発明2で引用する請求項1の(CnH2n+1O)3Si―(CH2)m―Sl―(CH2)m―Si(CnH2n+1O)3と一致するものであり、先願発明2の実施例3で該(iii)式の化合物として使用されている3,3-ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド/トリスルフィドはn=2が75%、n=3が約23%、n=4が2%、n=2とn=3の和が98%であることが記載され(段落【0147】)、これは本件発明2で引用する請求項1の一般式においてnが2、mが3、lが1以上の整数で分布を有するものに相当する。なお、先願発明2の有機ケイ素ジスルフィド/トリスルフィドがシランカップリング剤であることは先願発明2の段落【0001】に「本発明は…有機ケイ素ジスルフィド/トリスルフィドの形のシランカップラー若しくは接着剤の利用に関する。」と記載されていることからも明らかである。
そして、先願発明2の請求項1では有機ケイ素ジスルフィド/トリスルフィドの90〜98%はn=2とn=3で占められるのであるから(請求項1の他段落【0147】参照)、これは本件発明2の要件(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.45を満足することは明らかである。また、先願発明2の請求項1では有機ケイ素ジスルフィド/トリスルフィドはその15〜35%がn=3であるとしており、先願発明2の実施例3では、該有機ケイ素ジスルフィド/トリスルフィドである3,3-ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド/トリスルフィドはn=3が23%であるから(段落【0147】)、これはS3成分が20%以上であるという本件発明2の要件を満たすものである。
そうしてみれば、本件発明2の要件はことごとく先願発明2と一致する。
そして、先願発明2は、140℃〜190℃で熱混合する(請求項1)にもかかわらず、ムーニー粘度も格別高くないのであるから(表1)、150℃以上の高温練りにおいてもゲル化が抑制され作業性が低下しないと言う本件発明(段落【0011】【発明が解決しようとする課題】)と、同様な意図を有するものである。また、先願発明2には、タンデルタ(tanδ)、引張強度、ローリング(転がり)抵抗の値も実施例で示されており、低発熱性(tanδ)、補強性(引張強度)、転がり抵抗、等を適度に保とうとする点でも本件発明2と意図するところは同じである。
してみれば、本件発明2は先願発明2と同一である。そして、先願発明2の出願人、発明者も、本件出願時点での本件の出願人や発明者と同一ではない。
3.本件発明3と先願発明2との同一性について
本件発明3については、本件出願の優先権主張の基礎となった特願平8-223586号の明細書には記載がないので、本件発明3については優先権主張が認められない。従って、本件発明3については現実の出願日を基準として判断する。
本件発明3は本件発明2に対して「―Sl―分布が次式、(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.55で表される関係を満足し、かつS3成分が30%以上である」点で「―Sl―分布が次式、(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.45で表される関係を満足し、かつS3成分が20%以上」である本件発明2と相違しているが、この点は次に述べるように先願発明2と同一である。
即ち、先願発明2の請求項1のジスルフィド/トリスルフィドの90〜98%はn=2とn=3で占められるのであるから(請求項1及び段落【0147】)、これは本件発明3の要件(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.55を満足することは明らかである。また、先願発明2の請求項1では有機ケイ素ジスルフィド/トリスルフィドはその15〜35%がn=3であるとしているのであるから(段落【0147】)、これはS3成分が30%以上であるという本件発明3の要件と重複している。
そして、本件発明3のその余の点、即ち請求項1を引用する構成要件については2.で述べたように、すべて先願発明2と同一であり、発明の意図についても同様である。
してみれば、本件発明3は先願発明2と同一である。そして、先願発明2の出願人、発明者も、本件出願時点での本件の出願人や発明者と同一ではない。
4.本件発明4と先願発明1又は先願発明2との同一性について
本件発明4は本件発明1〜3に対して、本件発明1〜3で使用するシランカップリング剤についてその製造方法を特定したものであると言える。
このシランカップリング剤の製造方法については先願発明1及び2には記載はないが、本件請求項4には「…得られた化合物が前記シランカップリング剤として用いられている請求項1〜3の…組成物」と記載され、本件発明4の製造方法で得られるシランカップリング剤は本件発明1〜3で使用されるシランカップリング剤と何等異なるものでない。
そして、本件発明4は本件発明1〜3と同様に「組成物」という「物の発明」を対象とするものであるから、組成物を構成する一成分の製法の如何にかかわらず、「物の発明」としての構成の点では本件発明1〜3と何等相違するものではない。
してみれば、本件発明4は上記1.〜3.で述べたことと同様の理由により先願発明1又は2と同一あり、両者の出願人、発明者に関しても同様である。
5.本件発明5と先願発明1又は先願発明2との同一性について
本件発明5は本件発明1〜4の組成物を用いた空気タイヤの発明に関するものである。
本件発明5は本件発明1〜4の組成物の発明とは発明の対象を異にするが、先願発明1の請求項8にはゴムタイヤとすることが記載され、また、先願発明2の請求項5にもタイヤとすることが記載されているので、この点は先願発明1又は2と同一である(なお、タイヤと言えば特に断らない限り通常は空気タイヤのことである。)。
してみれば、本件発明5は上記1.〜4.で述べたことと同様の理由により先願発明1又は2と同一である。
そして、先願発明1又は2の出願人、発明者も、本件出願時点での本件の出願人や発明者と同一ではない。
6.まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、4、5は、本件優先権主張日前の出願であって本件特許出願後に出願公開された先願の出願当初の明細書(先願明細書1)に記載されていた発明と同一であり、本件の出願時点での出願人及び発明者はいずれも先願発明1のそれらの者と同一でないから、本件発明1は特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。
また、本件発明2〜5は、本件出願前の優先権主張を伴う出願であって本件特許出願後に出願公開された先願の出願当初の明細書(先願明細書2)及び優先権主張の基礎となった明細書に記載された発明であり、本件出願時点での本件の出願人及び発明者は、いずれも先願発明2のそれらの者と同一でないから、本件発明2〜5は特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。
よって、本件発明1〜5についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
〈5〉刊行物の記載
1.刊行物の記載事項
刊行物1:第150回米国化学会ゴム部会発表資料,第1〜19頁(1996年10月8日、ケンタッキー州ルイビル)(特許異議申立人の提出した甲第6号証)
該刊行物には以下のことが記載されている。
〔第1頁〕
「低ころがり抵抗性のシリカ充填トレッドコンパウンドの特性に対するポリスルフィドシランの硫黄含有量の影響
…第150回米国化学会ゴム部会発表資料…
(1996年10月8〜11日、ケンタッキー州ルイビル)」
〔第2頁〕
「低ころがり抵抗性のシリカ充填トレッドコンパウンドの特性に対するポリスルフィドシランの硫黄含有量の影響。

低ころがり抵抗性タイヤを製造するための現在の技術は、シリカ充填トレッドコンバウンドにポリスルフィドシランカップリング剤を使用するものである。これらの組成物におけるカップリング剤の挙動は、シランの硫黄レベル、すなわち、ジ、トリ、テトラ、さらに高次の硫黄ランクの分布に著しく依存する。一連の硫黄ランク分布のモデル組成物について、加工性、物理特性および動的特性を調べた。
ポリスルフィドシラン類は、解離する際に組成物に硫黄を供与する。平均硫黄ランクの低いシランに適量の硫黄元素を添加することによって組成物の全硫黄レベルを一定に保持する場合の効果についても調べた。加工性と特性の変化は、硫黄元素を密閉式ミキサー内に添加するか、加硫剤パッケージ中に添加するかによって異なる。
さらに、シリカの水分含有量、使用するSSBRの種類、採用した混合方法の影響に関するデータについても考察する。」
〔第3頁〕
「 緒言
タイヤのころがり抵抗を低減させるための新しい技術の1つは、シリカ充填トレッドコンパウンドを使用するものである。この技術は、湿潤スキッド抵抗を犠牲にせずにころがり抵抗の減少が得られるという点で特異なものである。シリカはカーボンブラックと異なりポリマーに容易に結合しないことから、結合力を与えるために、トレッド組成物にシランカップリング剤を用いる。…」
〔第4頁〕
「 実験
硫黄ランクの影響
ポリスルフィドシランの一般構造式は下記の通りである。
[(CH3CH2O)3SiCH2CH2CH2S]SX[SCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3]
シランは、混合および/または加硫中に、硫黄結合の何れかが開裂することよって反応すると考えられている。下記の結合の解離エネルギー・データに見られるように、硫黄ランクが高いものほど容易に開裂する。

加工性、物理的・動的特性に及ぼす種々の硫黄ランクの貢献度の理解をさらに深めるために、テトラスルフィドとは硫黄ランクの異なる4種類の実験用シランを調製した。硫黄ランクが4より大きいシランは、解離時に大量の遊離硫黄を加えることになるため、高いランクのものは意図的に少なくした。4種類の実験用シランを調製したが、硫黄ランクは表2に示すようにS2からS4の範囲である。
表2
実験用シランの硫黄ランク解析
シランA シランB シランC シランD
S1 微量 9% 微量 微量
S2 70% 74% 97% 99+%
S3 30% 7% 微量
これらのシラン、シランを含まない対照およびテトラスルフィドを、下記のシリカトレッドのモデル処方で評価した。…」
〔第5頁〕
「 表3
低ころがり抵抗性トレッドのモデル処方
部 成分
75 SSBR(12%スチレン、46%ビニル、Tg-42℃)
25 BR(98% cis、Tg-104℃)
80 シリカ(150-190m2 /gm、BET)

3 N330カーボンブラック
可変 シラン
1.4 硫黄
… 」
〔第6頁〕
「…
シランの充填量は、添加するケイ素を基準として、コンパウンドが0.7phrのテトラスルフィドシランと同等になるように調整した。

結果と考察
硫黄ランクの影響
得られたデータ(表5)は、シランの性能において、いくつか重要な差をもたらしたことを示している。シラン中のS2の濃度が上昇すると、コンパウンドの粘度が減少し(図1)、スコーチ安全性が増加する(図2および3)。追加の硫黄がバンバリー中に添加されるコンパウンドの場合には、これらのメリットは失われる。これは、混合中に高ランク硫黄の解離によって与えられる硫黄による動的な加硫が起こることを示している。加硫剤パッケージへの硫黄の追加は、加工特性には影響を及ぼさないようである。硫黄の添加方法は、加硫時間には影響を及ぼさない(図4)。
…」
〔第12頁〕
「…
結論
ポリスルフィドシランの硫黄ランクを平均の3.6から2に減少させると、低い粘度と高いスコーチ値に見られるように、低ころがり抵抗性トレッドコンパウンドの加工特性が改善される。しかし、物理特性とtan δ(60℃)は悪影響を受けた。硫黄を低ランクのコンパウンドに添加して全硫黄レベルをテトラスルフィドのレベルにすると、物理的・動的特性のほとんどは回復する。過剰な硫黄を加硫剤パッケージに添加すると、加工性の利点は維持されるが、硫黄をバンバリーのコンパウンド化中に添加すると、加工性の利点は失われる。
混合条件は重要である。加工性、物理的・動的特性の良好なバランスを得るためには、第2パスでは最低温度160℃で少なくとも6分間の混合が必要である。高温は粘度と弾性率の増加をもたらすが、動的特性にはほとんどあるいはまったく効果がない。スコーチ時間は、第2パス温度を高くするほど短くなる。
シリカの水分含有量が6%以上の場合には、安定した性能が得られる。水分含有量が低い場合には特性に影響が出る。
SSBRの種類はコンパウンドの動的特性に大きな役割を果たす。ビニルポリマーの含有率が高いほど、弾性率が改善され、0℃および60℃における高いtan δが得られる。
…」
〔第15頁〕
「 表5
コンパウンドの特性に対する硫黄ランクの影響
充填量 6.5
シラン A

ムーニー粘度ML1+4 83

引張強さ、MPa 19.65

動的特性

tan delta 60℃ 0.101
………」(表は抜粋)
〈6〉特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
刊行物1は本件優先権主張日後ではあるが本件の現実の出願日前に頒布されたものと認められるところ、本件発明2、3及びこれ等を引用する本件発明4、5は〈4〉の2.及び3.で述べたように優先権の主張を認めることができないものであるから、これ等の発明について特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の適用について検討する。
1.本件発明2について
本件発明2と刊行物1に記載された発明とを対比する。
刊行物1は「低ころがり抵抗性のシリカ充填トレッドコンパウンドの特性に対するポリスルフィドシランの硫黄含有量の影響」と題する米国化学会ゴム部会の発表資料であり、シリカ充填トレッド組成物に種々の硫黄ランクのポリスルフィドシランカップリング剤を添加したものについて、加工性、物理特性および動的特性を調べたものである(〔第1頁〕参照)。
刊行物1の第5頁の表3には低転がり抵抗性トレッドのモデル処方が示されており、そこには、ゴム100部(SSBR75部+BR25部)に対し、シリカ80部、カーボンブラック3部、可変量のシラン等を配合した処方が示され、また、刊行物1の第4頁の表2には硫黄ランクの異なるシランA〜シランDが示され、シランAはS1が微量、S2が70%、S3が30%であることが示されており、さらにまた、第15頁の表5(コンパウンドの特性に対する硫黄ランクの影響)にはシランAを6.5部配合したものについてムーニー粘度(ML1+4)、引張強度(MPa)、Tan delta(60℃)、等の数値が示されているのである。
してみれば、刊行物1には、ジエン系合成ゴム(SSBR、BR)、シリカ、カーボンブラック、ポリスルフィドシランカップリング剤等が配合されたトレッド用のゴム組成物が記載され、量的な関係は別として、本件発明2と刊行物1に記載された発明はいずれも組成物に関するものであり、組成物を構成する配合成分と組成物の用途において少なくとも一致している。
刊行物1で使用するポリスルフィドシランカップリング剤は第4頁に一般式 [(CH3CH2O)3SiCH2CH2CH2S]SX[SCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3]
で示されているもので、これは本件発明2で引用する本件発明1の一般式においてn=2、m=3、lが1以上の整数で分布を有するものに該当する。そして、このポリスルフィドシランカップリング剤の内、シランAはS2が70%、S3が30%であるから、当然に本件請求項2で規定する「(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.45」の要件を満足すると共に「S3成分が20%以上である」の要件も満足するものである。またポリスルフィドシランカップリング剤はシリカ80部に対し6.5部配合されるのであるから(計算するとシリカの量に対して8.1重量%)、シリカの量に対し1〜20重量%添加する本件発明2と添加量では一致する。
以上のことを纏めると、本件発明2と刊行物1に記載された発明は「天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴム100重量部に対し、シリカと、カーボンブラックと、下記一般式、
(CnH2n+1O)3Si―(CH2)m―Sl―(CH2)m―Si(CnH2n+1O)3(式中、nは1〜3の整数、mは1〜9の整数、lは1以上の整数で分布を有する)で表されるシランカップリング剤であって、 前記式中の―Sl―分布が次式、(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.45で表される関係を満足し、かつS3成分が20%以上であるシランカップリング剤をシリカの量に対し1〜20重量%配合してなることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。」で一致し、(イ)シリカの配合量が本件発明2では20〜65部であるのに対し、刊行物1に記載された発明では80部である点、および(ロ)カーボンブラックの配合量が本件発明2では25〜60重量部であるのに対し、刊行物1に記載された発明では3部である点、で両者の発明は相違している。
しかし刊行物1には、低い粘度(ムーニー粘度)と高いスコーチ値に見られるような低転がり抵抗性トレッドコンパウンドの加工特性を改善することが記載にされ(第12頁、結論)、また、tan delta(これは本件発明では発熱性の指標としている。)や引張強度(これは本件発明では補強性の指標としている。)等についても視野に入れて検討しているのであるから(第15頁表5)、本件発明の意図する作業性(加工性)を低下させることなく、発熱性(tan δ)、転がり抵抗、補強性(引張強度)、を一定以上に保つことを意図する本件発明と意図するところは何等異なるところがない。
そして、両者の組成物は(イ)と(ロ)の相違があるものの、これ等の相違は単に配合割合の量的相違に過ぎず、両者の組成物はそれを構成する配合成分の点では本質的には同じものであり、しかも、シリカもカーボンブラックも共にゴムの補強充填剤であり、両者を併用する場合においてはタイヤトレッドの使用目的や必要に応じそれらの配合比は当業者が適宜変更することが出来る性質のものであり、例えば、カーボンブラックによる補強性が必要とされる場合には、シリカの量を減らしカーボンブラックの量を増やすことは当業者が通常行う程度のことである。そして(イ)と(ロ)で数値範囲の相違点があると言っても、シリカについては80→65部、カーボンブラックについては3→25部に変更するだけであるから(しかも補強性充填剤の総量としてはほとんどかわらない。)、この程度の数値(部数)の変更ならば当業者が容易になし得ることである。
してみれば、本件発明2は刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものである。
2.本件発明3について
本件発明3は「―Sl―分布が次式、(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.55で表される関係を満足し、かつS3成分が30%以上である」点で、「―Sl―分布が次式、(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.45で表される関係を満足し、かつS3成分が20%以上」である本件発明2と相違しているが、この点は次に述べるように刊行物1に記載されている。
即ち、刊行物1の第4頁シランAはS2が70%でS3が30%であるから、これは本件発明3の要件(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.55を満足することは明らかである。また、刊行物1の第4頁シランAはS3が30%であるから、これはS3成分が30%以上であるという本件発明3の要件と一致している。
そして、本件発明3のその余の点、即ち請求項1を引用する構成要件については1.で述べたようにすべて刊行物1に記載されているかあるいはそれから容易になし得ることである。
してみれば、本件発明3は刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものである。
3.本件発明4について
本件発明4は本件発明2〜3に対して、本件発明2〜3で使用するシランカップリング剤についてその製造方法を特定したものであるといえる。
このシランカップリング剤の製造方法については刊行物1には記載はないが、本件請求項4には「…得られた化合物が前記シランカップリング剤として用いられている請求項1〜3の…組成物」と記載され、本件発明4の製造方法で得られるシランカップリング剤は本件発明1〜3で使用されるシランカップリング剤と何等異なるものでなく、本件発明4は本件発明2〜3と同様「組成物」という「物の発明」を対象とするものであるから、組成物を構成する一成分の製法の如何にかかわらず、「物の発明」としての構成の点では本件発明2〜3と何等相違するものではない。
してみれば、本件発明4は上記1.〜2.で述べたのと同様の理由により刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものである。
4.本件発明5について
本件発明5は本件発明2〜4の組成物を用いた空気タイヤの発明に関するものであり、本件発明2〜4の組成物の発明とは発明の対象を異にするが、刊行物1はそもそもタイヤの転がり抵抗をテーマとしたものであるから(例えば第2頁、第3頁)、この点は刊行物1に記載されている。
してみれば、本件発明4は上記1.〜3.で述べたことと同様の理由により刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものである。
6.まとめ
以上のとおりであるから、本件発明2〜5に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明し得るものであるから、本件発明2〜5についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
よって、本件発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
[5].むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜5に係る特許は特許法第29条の2に違反してなされたものであり、また、本件発明2〜5に係る特許は特許法第29条第2項に違反してなされたものであり、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ゴム組成物および空気入りタイヤ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴム100重量部に対し、シリカ20〜65重量部と、カーボンブラック25〜60重量部と、下記一般式、

(式中、nは1〜3の整数、mは1〜9の整数、lは1以上の整数で分布を有する)で表されるシランカップリング剤であって、前記式中の-Sl-分布が次式、
(S1+S2+S3+S4)/(S5+S6+S7+S8+S9)≧0.85
で表される関係を満足するシランカップリング剤をシリカの量に対し1〜20重量%配合してなることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】 前記式中の-Sl-分布が次式、
(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.45
で表される関係を満足し、かつS3成分が20%以上である請求項1記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】 前記式中の-Sl-分布が次式、
(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.55
で表される関係を満足し、かつS3成分が30%以上である請求項1記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】 無水硫化ナトリウム(Na2S)と硫黄(S)とを不活性ガス雰囲気下、極性溶媒中でモル比1:1〜1:2.5の範囲で反応させて多硫化ナトリウムを得、次いでこの多硫化ナトリウムを下記一般式、

(式中、R1、R2はそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基、R3は炭素数1〜9の2価の炭化水素基、Xはハロゲン原子、kは1〜3の整数である)で表されるハロゲノアルコキシシランを加えて不活性ガス雰囲気下で反応させ、得られた化合物が前記シランカップリング剤として用いられている請求項1〜3のうちいずれか一項記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】 請求項1〜4のうちいずれか一項記載のタイヤトレッド用ゴム組成物をトレッドゴムとして用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、シランカップリング剤を用いてシリカ配合したゴム組成物および空気入りタイヤに関し、詳しくは、150℃以上の高温練りにおいて、シランカップリング剤によるポリマーのゲル化を抑制し、作業性を低下させることなくシリカとシランカップリング剤との反応を効率的に行うことができるゴム組成物および空気入りタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ゴム用補強充填材としては、カーボンブラックが使用されている。これは、カーボンブラックが他の充填材に較べ、高い補強性と優れた耐摩耗性を有するためであるが、近年、省エネルギー、省資源の社会的要請の下、とりわけ、自動車の燃料消費を節約するため、コンパウンドゴムの低発熱化も同時に求められるようになってきた。
【0003】
カーボンブラックによりコンパウンドゴムの低発熱化を狙う場合、カーボンブラックの少量充填、あるいは大粒径カーボンブラックの使用が考えられるが、いづれの方法においても、低発熱化は補強性及び耐摩耗性とは二率背反の関係にあることはよく知られている。
【0004】
一方、コンパウンドゴムの低発熱化充填材としては、シリカが知られており、現在までに、特開平3-252431号公報など、多くの特許が出願されている。
【0005】
しかしながら、シリカは、その表面官能基であるシラノール基の水素結合により粒子同士が凝集する傾向にあり、ゴム中へのシリカ粒子の分散性を良くするためには、混練時間を長くする必要がある。また、ゴム中へのシリカ粒子の分散が不十分であるとゴム組成物のムーニー粘度が高くなり、押し出しなどの加工性に劣るなどの問題を生じる。
【0006】
さらに、シリカ粒子の表面が酸性であることから、ゴム組成物を加硫する際に、加硫促進剤として使用される塩基性物質を吸着し、加硫が十分に行われず、弾性率が上がらないという問題もあった。
【0007】
これらの問題点を解消するために、各種シランカップリング剤が開発され、例えば、特公昭50-29741号公報にシリカカップリング剤を補強材として用いることが記載されている。しかし、このシリカカップリング剤系補強材によってもゴム組成物の破壊特性、作業性および加工性を高水準なものとするには尚不十分であった。また、特公昭51ー20208号公報等にシリカ-シランカップリング剤を補強材として用いたゴム組成物が記載されている。このようなシリカ-シランカップリング剤系補強によると、配合ゴムの補強性が著しく改善でき、破壊特性を向上させることができるが、配合ゴムの未加硫時の流動性が著しく劣り、作業性および加工性の低下をもたらすという欠点があった。
【0008】
このようなシランカップリング剤使用による従来技術の欠点は、次の様なメカニズムに起因する。即ち、ゴムの練り温度が低いと、シリカ表面のシラノール基とシランカップリング剤が十分に反応せず、その結果、補強効果が得られない。また、シリカのゴム中への分散が悪く、シリカ配合ゴムの長所である低発熱性の悪化を招くことになる。さらに、シリカ表面のシラノール基とシランカップリング剤との間で一部反応して生成したアルコールが練り温度が低いために完全に揮発せず、押出し工程でゴム中に残在したアルコールが気化し、ブリスターを発生させてしまうことになる。
【0009】
一方、練り温度が150℃以上の高温練りを行うと、シリカ表面のシラノール基とシランカップリング剤が十分に反応し、その結果、補強性が向上する。また、シリカのゴム中への分散も改良され、低発熱性の練りゴムが得られかつ押出し工程におけるブリスターの発生も抑えられる。しかし、この温度領域では、シランカップリング剤に由来するポリマーのゲル化が同時に起こり、ムーニー粘度が大幅に上昇してしまい、実際には後工程での加工を行うことが不可能となる。
【0010】
従って、シリカにシランカップリング剤を併用する場合には、150℃より低い低温練りを多段階で行うことが必要であり、生産性の著しい低下は避けられないのが現状である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するものであり、150℃以上の高温練りにおいて、シランカップリング剤によるポリマーのゲル化を抑制し、作業性を低下させることなくシリカとシランカップリング剤との反応を効率的に行うことのできるゴム組成物および空気入りタイヤを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前記課題を解決すべくシリカ配合ゴム組成物について鋭意研究を行った結果、シランカップリング剤中の各種化合物の結合イオウの分布を特定することにより150℃以上の高温練りにおいてもコンパウンドゴムのムーニー粘度の上昇が抑えられるため作業性に優れ、かつ低発熱性に優れたゴム組成物を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は下記の通りである。
(1)天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴム100重量部に対し、シリカ10〜85重量部と、下記一般式、

(式中、nは1〜3の整数、mは1〜9の整数、lは1以上の整数で分布を有する)で表されるでシランカップリング剤であって、前記式中の-Sl-分布が次式、
(S1+S2+S3+S4)/(S5+S6+S7+S8+S9)≧0.85
で表される関係を満足するシランカップリング剤をシリカの量に対し1〜20重量%配合してなることを特徴とするゴム組成物である。
【0014】
(2)前記(1)記載のゴム組成物において、前記式中の-Sl-分布が次式、
(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.45
で表される関係を満足し、かつS3成分が20%以上であるゴム組成物である。
【0015】
(3)前記(1)記載のゴム組成物において、前記式中の-Sl-分布が次式、
(S1+S2+S3)/(S4以上成分)≧0.55
で表される関係を満足し、かつS3成分が30%以上であるゴム組成物である。
【0016】
(4)前記(1)〜(3)のうちいずれか一項記載のゴム組成物において、補強用充填材として、さらにカーボンブラックをゴム成分100重量部に対し80重量部以下で配合してなるゴム組成物である。
【0017】
(5)前記(1)〜(3)のうちいずれか一項記載のゴム組成物において、無水硫化ナトリウム(Na2S)と硫黄(S)とを不活性ガス雰囲気下、極性溶媒中でモル比1:1〜1:2.5の範囲で反応させて多硫化ナトリウムを得、次いでこの多硫化ナトリウムを下記一般式、

(式中、R1、R2はそれぞれ炭素数1〜3のアルキル基、R3は炭素数1〜9の2価の炭化水素基、Xはハロゲン原子、kは1〜3の整数である)で表されるハロゲノアルコキシシランを加えて不活性ガス雰囲気下で反応させ、得られた化合物が前記シランカップリング剤として用いられているゴム組成物である。
【0018】
(6)前記(1)〜(5)のうちいずれか一項記載のゴム組成物をトレッドゴムとして用いたことを特徴とする空気入りタイヤである。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
本発明におけるゴム成分としては、天然ゴム(NR)又は合成ゴムを単独又はこれらをブレンドして使用することができる。合成ゴムとしては、例えば、合成ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム、ハロゲン化ブチル等が挙げられる。
【0020】
本発明において使用するシリカは、沈降法による合成シリカが用いられる。具体的には、日本シリカ工業(株)製のニップシールAQ、ドイツデグサ社製のULTRASIL VN3、BV3370GR、ローヌ・プーラン社製のRP1165MP、Zeosil 165GR、Zeosil 175MP、PPG社製のHisil233、Hisil210、Hisil255等(いずれも商品名)が挙げられるが、特に限定するものではない。
【0021】
かかるシリカの配合量は、上記ゴム成分100重量部に対して10〜85重量部、好ましくは20〜65重量部である。シリカの配合量が10重量部未満では、補強性がとれず、一方、85重量部超過では、熱入れ押出し等の作業性の悪化をもたらし、好ましくない。低発熱性、作業性の面から、シリカの配合量は20〜65重量部が好ましい。
【0022】
本発明で使用するシランカップリング剤は、下記一般式、

(式中、nは1〜3の整数、mは1〜9の整数、lは1以上の整数で分布を有する)で表されるシランカップリング剤であるが、前記式中の-Sl-分布が次式、
(S1+S2+S3+S4)/(S5+S6+S7+S8+S9)≧0.85、
好ましくは次式、
(S1+S2+S3+S4)/(S5+S6+S7+S8+S9)≧1.0
で表される関係を満足することが要求される。この分布比が0.85未満であると、150℃以上の高温練りにおいてポリマーのゲル化に対する抑制効果が得られず、ムーニー粘度が大幅に上昇して生産性が劣ることになる。ここで、前記式中の-Sl-分布は、好ましくは(S1+S2+S3)/(S4以上成分)の値が0.45以上、かつS3成分が20%以上、より好ましくは(S1+S2+S3)/(S4以上成分)の値が0.55以上、かつS3成分が30%以上である。上記式の値が0.45未満であると150℃以上の高温練りにおいてポリマーのゲル化に対する抑制効果が十分に得られず、ムーニー粘度が上昇して生産性に劣る。また、S3成分が20%以上であると、カップリング作用を持たないS1、S2成分が相対的に少なくなるため、補強性が更に良くなる。
【0023】
かかるシランカップリング剤はシリカ重量に対し1〜20重量%、好ましくは3〜15重量%である。シランカップリング剤の配合量が1重量%未満では、カップリング効果が小さく、一方、20重量%超過ではポリマーのゲル化を引き起こし、好ましくない。
【0024】
本発明で補強充填材として用いるカーボンブラックとしては、SAF、ISAF、HAF級のものを好ましく使用することができるが、特に限定されるものではない。
【0025】
かかるカーボンブラックの配合量は、上記ゴム成分100重量部に対し、80重量部以下であることが好ましい。カーボンブラックの配合量が80重量部超過では、低発熱性が大幅に悪化する。補強性および低発熱性の面から25〜60重量部が好ましい。
【0026】
なお、本発明のゴム組成物においては、上記のゴム成分、シリカ、シランカップリング剤、カーボンブラック以外に、必要に応じて、軟化剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等の通常ゴム工業で使用される配合剤を適宜配合することができる。
【0027】
本発明のゴム組成物の特性を活かす上で、練り温度は150℃以上180℃以下が好ましい。練り温度が150℃より低いとシランカップリング剤が十分に反応せず、また押出し時にブリスターが発生し、一方、180℃より高いとやはりポリマーのゲル化が起こり、ムーニー粘度が上昇して加工上、好ましくないからである。
【0028】
本発明のゴム組成物において、何故150℃以上の練り温度においてもポリマーのゲル化が起こらず、低発熱性が改良されるのかの作用機構を以下に推察および検討結果に基づき説明する。
タイヤ業界で一般的に使用されているシランカップリング剤(商品名:Si69、ドイツデグサ社製)に150℃で2時間オーブン中にて熱履歴を与え、冷却後、高速液体クロマトグラフィーにより分析を行ったところ、分子中に-S6-以上の長鎖イオウを有する成分は、オリジナル製品と比較して減少し、遊離イオウおよび-S4-以下の短鎖イオウを有する成分が増加することが確認された。つまり、高温の熱履歴を受けることにより、分子中に-S6-以上の長鎖イオウを有する成分は分解したものと考えられる。かかる分解の際、ラジカルが発生したり、あるいは分解物がイオウ供給体として働くために、高温練りにおいてポリマーのゲル化が引き起こされると予想される。そこで、シランカップリング剤に含まれる、分子中に長鎖イオウを有する成分を予め少なくすれば、150℃以上の高温練りにおいてポリマーのゲル化が抑制されるとの推察の下に鋭意検討した結果、分子中に種々の長さの連鎖イオウを有する成分中の短鎖イオウ成分の割合を所定以上にしたところ、実際にポリマーのゲル化が抑制され、しかも高温で練られるためにシリカ表面のシラノール基とシランカップリング剤との反応が十分に起こりゴム中へのシリカの分散性が改良され、低発熱性となることが分かった。
【0029】
【実施例】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。
下記の表2に示す基本配合割合とし、下記の表3および表4に示す配合内容で各種ゴム組成物を調製した。なお、かかる配合に用いた各種シランカップリング剤は次式、
(C2H5O)3Si(CH2)3-Sl-(CH2)3Si(C2H5O)3
で表され、この式中の-Sl-が下記の表1に示す分布関係にある。表1に示す各連鎖イオウ成分(-Sl-)の分布割合は、以下に具体的に示す高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析法により求められたピーク面積(%)より算出した。
【0030】
HPLC分析の条件
HPLC: (株)東ソー製 HLC-8020
UV検出器:(株)東ソー製 UV-8010(254nm)
レコーダー:(株)東ソー製 スーパーシステムコントローラーSC-8010
カラム: (株)東ソー製 TSKgel ODS-80TMCTR(内径:4.6mm,長さ:10cm)
測定温度: 25℃
サンプル濃度:6mg/10ccアセトニトリル溶液
試料注入量: 20μl
溶出条件: 流量1cc/min
アセトニトリル:水=1:1の混合溶液にて2分間溶出し、その後18分間かけてアセトニトリルが100%になるようにグラジェントをかけて溶出した。
【0031】
上記条件にて表1および表2中のサンプルAのシランカップリング剤(ドイツデグサ社製Si69)の分析を行うと、ピーク時間で約17.5分に遊離イオウ、各19.5、20.6、21.7、22.8、24.0、25.4、27.1、29.0分近辺にそれぞれ-S2-、-S3-、-S4-、-S5-、-S6-、-S7-、-S8-、-S9-のピークが分離された。各ピーク面積を測定して、(S1+S2+S3+S4)値および(S5+S6+S7+S8+S9)値を算出し、さらに(S1+S2+S3+S4)/(S5+S6+S7+S8+S9)の値を求めたところ、0.73であった。
また、(S1+S2+S3)値および(S4+S5+S6+S7+S8+S9)値を算出し、さらに、(S1+S2+S3)/(S4+S5+S6+S7+S8+S9)の値を求めたところ、0.225であった。また、S3のピーク面積割合は、15.9%であった。表1中のサンプルB〜Gについても同様にして各値を求めた。
【0032】
【表1】

*1 ドイツデグサ社製 Si69
*2 サンプルB〜G試作品
【0033】
サンプルB〜Fの調整
特開平7-228588号公報記載の方法に従い、無水硫化ナトリウムと硫黄を以下のモル比により合成した。
サンプルB 1:3
サンプルC 1:2.5
サンプルD 1:2
サンプルE 1:1.5
サンプルF 1:1
【0034】
サンプルGの調整
欧州特許第0 732 362 A1号記載の方法に従い、二酸化マンガンを触媒として用いてγ-メルカプトプロピルトリエトキシシランを酸化することにより合成した。
【0035】
得られた実施例および比較例の各種ゴム組成物をタイヤサイズ185/60R14の乗用車用空気入りタイヤのトレッドに適用し、各種タイヤを試作した。
【0036】
得られたゴム組成物について下記の評価方法により、ムーニー粘度、ヒステリシスロス特性(発熱性)、ブリスター発生の有無および補強性について評価した。また、試作タイヤについて、下記の方法により転がり抵抗性能を測定した。
【0037】
(1)ムーニー粘度
JIS K6301に準拠して、予熱1分、測定4分、温度130℃にて測定し、対照物と対比した指数で表わした。指数の値が小さい程、ムーニー粘度が低く、加工性に優れている。
【0038】
(2)ヒステリシスロス特性(発熱性)の測定
内部損失(tanδ)は、岩本製作所株式会社製の粘弾性スペクトロメーターを使用し、引張の動歪1%、周波数50Hzおよび60℃の条件にて測定した。尚、試験片は、厚さ約2mm、幅5mmのスラブシートを用い、使用挟み間距離2cmとして初期荷重を160gとした。tanδの値は、対照物と対比した指数で表わした。指数値が小さい程ヒステリシスロスが小さく低発熱である。
【0039】
(3)ブリスター発生の有無
ゲットフェルト(GOTTFERT)社製レオグラフ(Rheograph)2000にて測定した。押出し口が9mm×2mmの長方形状の厚さ2mmのダイを使用し、120℃にて測定を行った。余熱時間3分、ピストンの押出し速度10mm/secで押出し、押出し物にブリスターが発生するかどうか目視にて判定を行った。
【0040】
(4)転がり抵抗性能の測定
上述の試作タイヤを内圧2.0kg、荷重440kg、リム6JJの条件下、外径1.7mのドラムの上に接触させてドラムを回転させ、速度120km/時まで上昇後、ドラムを惰行させて速度80km/時のときの慣性モーメントより算出した値から、下記式によって評価した。数値は比較例1を100として指数で表し、大きい程好ましい。
指数値=[(対照物のタイヤの慣性モーメント)/(供試タイヤの慣性モーメント)]×100
【0041】
(5)補強性の評価
JIS K6251に準拠して、ダンベル状3号サンプルを用いて25℃で引張試験を行なった時の、引張強さを、対照物と比較した指数で表わした。数値が大きい程引張強さが強く、補強性は良好である。
【0042】
なお、上記(1)、(2)、(4)および(5)の評価において、参考例1〜8および比較例1〜5においては比較例1を、参考例9および比較例6〜7においては比較例6を、また実施例1、参考例10および比較例8においては比較例8のゴム組成物を夫々対照物とした。
【0043】
【表2】

*1 N-フェニル-N′-イソプロピル-P-フェニレンジアミン
*2 N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド
【0044】
【表3】

*1 日本合成ゴム(株)製
*2 日本シリカ工業(株)製
*3 東海カーボン(株)製
【0045】
【表4】

*1 日本合成ゴム(株)製
*2 日本シリカ工業(株)製
*3 東海カーボン(株)製
【0046】
【発明の効果】
以上説明してきたように本発明によれば、150℃以上の高温練りにおいて、押出し工程におけるブリスターの発生が抑えられると同時に、シランカップリング剤によるポリマーのゲル化が抑制され、作業性を低下させることなくシリカとシランカップリング剤との反応が効率的に行われる。その結果、ゴム中へのシリカの分散性が改良され、低発熱性、転がり抵抗性、補強性に優れた空気入りタイヤが得られる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-08-26 
出願番号 特願平8-335972
審決分類 P 1 651・ 161- ZA (C08L)
P 1 651・ 121- ZA (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 船岡 嘉彦
佐野 整博
登録日 2002-11-15 
登録番号 特許第3369883号(P3369883)
権利者 株式会社ブリヂストン
発明の名称 ゴム組成物および空気入りタイヤ  
代理人 本多 一郎  
代理人 本多 一郎  

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