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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B65H
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65H
管理番号 1109587
異議申立番号 異議2003-72174  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-03-16 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-08-29 
確定日 2004-10-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3386341号「ゴム被覆ローラ」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3386341号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1. 手続の経緯
本件特許第3386341号についての出願は、平成9年8月29日に出願され、平成15年1月10日にその設定登録がなされ、その後、平成15年8月29日に小野浩一より、請求項1〜3に係る発明に対する特許について特許異議の申立がなされ、平成15年9月12日に吉田恵子より、請求項1〜3に係る発明に対する特許について特許異議の申立がなされ、平成15年9月17日に大塚あさ子より、請求項1〜3に係る発明に対する特許について特許異議の申立がなされ、さらに、同日山口雅行より、請求項1〜3に係る発明に対する特許について特許異議の申立がなされ、平成16年6月29日に口頭審理が行われ、取消理由が告知され、その指定期間内である平成16年8月30日に訂正請求がなされたものである。

2.異議申立て理由の概要
2-1 異議申立人小野浩一の申立の理由概要
本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明を立証するために、甲第1号証として、
「特表平4-506247号公報」、(以下、「文献1」という。)
甲第2号証として、
「実願昭60-129980号(実開昭62-38255号)のマイクロフィルム」(以下、「文献2」という。)
を提出すると共に、ゴムスリーブの厚さ及び材質に係る周知技術を立証するために、参考資料として、
「特開平7-267398号公報」及び「実願平2-59726号(実開平4-19529号)のマイクロフィルム」
を提出して、本件請求項1〜3に係る発明は、その数値限定の裏付けとなる記載が明細書中に記載されていないので、それら数値は格別のものではなく、文献1または文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。
さらに、レジストローラと給紙用のローラとに技術分野の差異がないことを実願平1-30492号(実開平2-120451号)のマイクロフィルムを引用して主張している。
なお、口頭審理において、明細書の記載が不備である旨の主張は撤回され、上記進歩性を担保する明細書の裏付け記載がない旨の主張に改められている。

2-2 異議申立人大塚あさ子の申立の理由概要
本件特許に係る発明を特定するために、甲第4号証として、
「特許第3386341号公報」
を提出すると共に、本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明を立証するために、甲第1号証として、
「特開平6-249234号公報」、(以下、「文献3」という。)
甲第2号証として、
「特開平7-239600号公報」、(以下、「文献4」という。)
甲第3号証として、
「特開平8-85636号公報」(以下、「文献5」という。)
を提出して、文献4に示される技術を参酌すれば、本件請求項1に係る発明は、文献3に記載された発明であり、本件請求項2,3に係る発明は、文献3〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。
さらに、参考資料として、「ゴム工業便覧(第4版)」平成6年1月20日 社団法人日本ゴム協会発行 第456〜459頁を提出すると共に、特開平7-267395号公報、特開平9-175670号公報を引用して、EPDMゴムの添加剤、導電性の有無は、格別の事項ではなくそれをもって別異の発明を構成しない旨主張している。

2-3 異議申立人山口雅行の申立の理由概要
本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明を立証するために、甲第1号証として、
「特開平6-249234号公報」(上記文献3)、
甲第2号証として、
「特開平9-6091号公報(以下、「文献6」という。)、
甲第3号証として、
「特開平8-85636号公報」(上記文献5)
を提出して、本件請求項1に係る発明は、文献3、6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項2,3に係る発明は、文献3、5、6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであ旨主張している。
なお、口頭審理において、明細書の記載が不備である旨の主張は撤回されている。

2-4 異議申立人吉田恵子の申立の理由概要
本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明を立証するために、甲第1号証として、
「特開平5-147763号公報」(以下、「文献7」という。)
甲第2号証として、
「特開平7-256963号公報」(以下、「文献8」という。)
甲第3号証として、
「JSR EPスタンダードマスターバッチ技術資料、JSR CH-SO-40 1990年5月 日本合成ゴム株式会社」(以下、「文献9」という。)、
を提出し、さらに、甲第3号証に関する参考資料として、
「JSR Technical Data」
を提出し、本件請求項1、2に係る発明は、文献7に記載された発明であり、文献9及び「JSR Technical Data」を参酌すれば、本件請求項3に係る発明も実質的に文献7に記載される旨主張すると共に、本件請求項1〜3に係る発明は、文献7〜9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。

3. 特許権者の求めている訂正
特許権者が求めている訂正は、平成16年8月30日付け訂正請求書に記載された、以下のとおりのものである。

3-1 特許請求の範囲について
訂正事項1
特許請求の範囲に記載の
「【請求項1】 丸軸状芯材の外周に円筒状のゴムスリーブを弾圧的に嵌挿したゴム被覆ローラであって、
芯材の外径をa、芯材の外周に嵌挿する前のゴムスリーブの内径をbとしたときにa>bであり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブ内径による芯材への締め代x(%)をx=[1-(b/a)]×100としたときに、8%≦x≦14%の関係にあり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブの厚さが3mm〜2mmである、ことを特徴とするゴム被覆ローラ。
【請求項2】 上記ゴムスリーブがEPDMゴムであることを特徴とする請求項1記載のゴム被覆ローラ。
【請求項3】 上記ゴムスリーブを、100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のゴムで成形したことを特徴とする請求項1又は2記載のゴム被覆ローラ。」
を、
「【請求項1】 丸軸状芯材の外周に円筒状のゴムスリーブを弾圧的に嵌挿した給紙用のゴム被覆ローラであって、
上記ゴムスリーブは、100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のEPDMゴムであり、
芯材の外径をa、芯材の外周に嵌挿する前のゴムスリーブの内径をbとしたときにa>bであり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブ内径による芯材への締め代x(%)をx=[1-(b/a)]×100としたときに、8%≦x≦12%の関係にあり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブの厚さが3mm〜2mmである、ことを特徴とするゴム被覆ローラ。」
と訂正する。

3-2 発明の詳細な説明について
訂正事項2
段落番号【0005】に記載の「本発明の目的は、芯材に嵌挿される円筒状ゴムスリーブの性能、品質を劣化させること無くゴムスリーブの肉薄化、給紙ローラ等の小径化を実現したゴム被覆ローラを提供することにある。」

「本発明の目的は、芯材に嵌挿される円筒状ゴムスリーブの性能、品質を劣化させること無くゴムスリーブの肉薄化、給紙ローラの小径化を実現したゴム被覆ローラを提供することにある。」
と訂正する。

訂正事項3
段落番号【0007】に記載の「即ち、芯材の外径をa、芯材の外周に嵌挿する前の円筒状ゴムスリーブの内径をbとするとa>bとし、かつ、芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブの内径による芯材への締め代x(%)を[1-(b/a)]×100としたときに、8%≦x≦14%であり、かつ、芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブの厚さを3mm〜2mmに設定する。」

「即ち、上記ゴムスリーブは、100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のEPDMゴムであり、芯材の外径をa、芯材の外周に嵌挿する前のゴムスリーブの内径をbとしたときにa>bとし、かつ、芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブ内径による芯材への締め代x(%)をx=[1-(b/a)]×100としたときに、8%≦x≦12%のであり、かつ、芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブの厚さを3mm〜2mmに設定する。」
と訂正する。

訂正事項4
段落番号【0027】に記載の「【発明の効果】本発明によれば、芯材に圧入される円筒状ゴムスリーブの芯材への締付力が増大して、ゴム裂け発生率が低減し、かつ、ゴムスリーブの肉薄化が容易になって、OA機器の給紙ローラ等の小径化を容易にする商品的付加価値の高いゴム被覆ローラが提供できる。また、ゴムスリーブがEPDMゴムを使用することにより、高摩擦係数で高耐磨耗、耐環境に優れた低コストなゴム被覆ローラが提供できる。」

「【発明の効果】本発明によれば、芯材に圧入される円筒状ゴムスリーブの芯材への締付力が増大して、ゴム裂け発生率が低減し、かつ、ゴムスリーブの肉薄化が容易になって、OA機器の給紙ローラの小径化を容易にする商品的付加価値の高いゴム被覆ローラが提供できる。また、ゴムスリーブがEPDMゴムを使用することにより、高摩擦係数で高耐磨耗、耐環境に優れた低コストなゴム被覆ローラが提供できる。」
と訂正する。

3-3 発明の名称について
訂正事項5
発明の名称「ゴム被覆ローラ」を「給紙ローラ用のゴム被覆ローラ」と訂正する。

4. 訂正の適否の判断
4-1 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
まず、請求項2,3が削除されることは、特許請求の範囲の減縮に該当する。
そして、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1には、「ゴム被覆ローラ」がその構成として記載されており、本件特許明細書の段落番号【0001】に、「【発明の属する技術分野】本発明は、コピー機やプリンタ、ファクシミリ等のOA機器に使用される給紙ローラに好適なゴム被覆ローラに関する。」と記載され、同【0005】に、「本発明の目的は、芯材に嵌挿される円筒状ゴムスリーブの性能、品質を劣化させること無くゴムスリーブの肉薄化、給紙ローラ等の小径化を実現したゴム被覆ローラを提供することにある。」と記載されるように、「ゴム被覆ローラ」に係る技術的事項として「給紙ローラ用」であることが記載されている。
また、特許明細書の請求項1には、「ゴムスリーブ」がその構成として記載されており、本件特許明細書の段落番号【0025】に「また、図1及び図2に示すゴム被覆ローラ1においては、ゴムスリーブ3がEPDMゴムであることが、高摩擦係数、耐磨耗、耐環境、コスト等の面から望ましい。」と、同【0026】に、「更に、ゴム被覆ローラ1をOA機器の給紙ローラとして使用する場合、ゴムスリーブ3を、100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2 のゴムで成形し、・・」と、さらに、同【0014】に、「ただし、表1の実験データは、ゴムスリーブ3の材質がEPDMゴムであり、100%伸張時のモジュラスが6.5kg/cm2 のものである。・・」と記載されるように、「ゴムスリーブ」に係る技術的事項として「100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のEPDMゴム」を用いることが記載されている。
さらに、特許明細書の請求項1には、「芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブ内径による芯材への締め代x(%)をx=[1-(b/a)]×100としたときに、8%≦x≦14%の関係」と記載され、「締め代x」の範囲をその構成として記載している。「締め代x」の範囲についての技術的事項として、特許明細書の段落番号【0022】に「また、各サンプル品G,H,Iも本発明品であって、芯材に嵌挿されたゴムスリーブの肉厚tを同じ2mmとし、締め代xを10%、12%、14%と段階的に増大させている。この各サンプル品G,H,IもOA機器の小型化に伴う給紙ローラの小径化を容易にするし、ゴムスリーブを肉薄化して30万枚通紙してもゴムスリーブにゴム裂けが発生せず、OA機器の給紙ローラとしての機能が良好に維持される。」と記載され、「12%」を構成を特定する技術的事項として把握可能に示されているので、訂正事項1は、請求項に記載された構成を特許明細書に記載された技術的事項により限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、訂正事項2〜5は、訂正事項1の訂正と整合性を保つための訂正であるから、訂正事項1〜5全体として、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、上述のとおり、新規事項を追加するものではなく、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

4-2 むすび
上記訂正は、特許異議の申立がなされていない請求項に係るものではなく、以上のとおり、平成11年改正前の特許法第112条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するのでこれを認める。

5 特許異議申立に対する判断
5-1 本件特許に係る発明
4-2に述べたとおり、特許権者が請求した訂正が認められたので、本件特許に係る発明は、以下の事項により特定されるものである。
丸軸状芯材の外周に円筒状のゴムスリーブを弾圧的に嵌挿した給紙用のゴム被覆ローラであって、
上記ゴムスリーブは、100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のEPDMゴムであり、
芯材の外径をa、芯材の外周に嵌挿する前のゴムスリーブの内径をbとしたときにa>bであり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブ内径による芯材への締め代x(%)をx=[1-(b/a)]×100としたときに、8%≦x≦12%の関係にあり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブの厚さが3mm〜2mmである、ことを特徴とするゴム被覆ローラ。(以下、「本件発明」という。)
そして、本件発明は、段落番号【0027】に、「【発明の効果】本発明によれば、芯材に圧入される円筒状ゴムスリーブの芯材への締付力が増大して、ゴム裂け発生率が低減し、かつ、ゴムスリーブの肉薄化が容易になって、OA機器の給紙ローラの小径化を容易にする商品的付加価値の高いゴム被覆ローラが提供できる。また、ゴムスリーブがEPDMゴムを使用することにより、高摩擦係数で高耐磨耗、耐環境に優れた低コストなゴム被覆ローラが提供できる。」と記載されるように、
(イ)ゴムスリーブの厚さを「3mm〜2mm」とすることにより、OA機器の給紙ローラの小径化を容易にするものであり、
(ロ)100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のEPDMゴムを採用することにより、高摩擦係数で高耐磨耗、耐環境に優れ、
、かつ、
(ハ) 締め代x(%)8%≦x≦12%とすることにより、(イ)、(ロ)を達成した上で、給紙用のローラという特定の使用条件においてゴム裂けが発生を低減する
という効果を奏するものである。

5-2 異議申立の理由について
5-2-1 異議申立人が提出した証拠
5-2-1-1 特開平5-147763号公報(文献7)の記載
文献7の段落番号【0001】に、「【産業上の利用分野】この発明は、電子複写機やLBP(レーザービームプリンター)等に使用されるレジストローラーに関するものである。」と、
段落番号【0022】に、「EPDMゴムとして、エスプレン501Aを100重量部に対してステアリン酸1部,カーボンブラック30部,炭酸カルシウム20部,ニューロック 321を20部,プロセスオイルとしてサンパー2100(粘度186cst)を10部,架橋剤としてダイカップ40Cを 6部等を試験ロールで混練りした。」と、
段落番号【0023】に、「こうして得られたゴム生地を圧縮成型型にて 170℃、20分の条件で内径 7mm、外径15mm、高さ18mmのゴム駒を成型した。」と、
段落番号【0024】に、「次にこのゴム駒を長さ 310mm,直径 8mmの金属シャフトに挿入した後ゴム径が14mmになるように研摩し試験用の製品とした。」と
記載されており、文献7には、
丸軸状芯材の外周に円筒状のゴムスリーブを弾圧的に嵌挿したゴム被覆ローラであるレジストローラであって、
上記ゴムスリーブは、EPDMゴムであり、
芯材の外径をa、芯材の外周に嵌挿する前のゴムスリーブの内径をbとしたときにa>bであり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブ内径による芯材への締め代x(%)をx=[1-(b/a)]×100としたときに、x=12.5%の関係にあり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブの厚さが6mmとなるように研磨したゴム被覆ローラ
の発明が記載されるものと認める。

5-2-1-2 特開平6-249234号公報(文献3)の記載
文献3の【特許請求の範囲】に、「【請求項1】 芯金と、・・半導電性ローラ部を有する半導電性部材において、前記導電性ローラ部は円筒状弾性体チューブであり、該チューブの内径は、該チューブの自由状態において・・芯金径の50%〜90%の間の大きさであり、該チューブの内径部に対して芯金が該チューブの弾性に抗して圧入挿通されていることを特徴とする半導電性部材。」と、
段落番号【0030】に、「芯金101として図1の(a)のように外径D1が6.0mmの鉄製丸棒を用いた。」と、
段落番号【0032】に、「本実施例の発泡弾性チューブ102は、具体的には、EPDMゴム(エチレンプロピレンジエンゴム)中に・・イオウ加硫にて発泡加硫して得られたものであり、・・」と、
段落番号【0033】に、「この発泡弾性チューブ102の中心孔103の芯金圧入前の内径D2は・・芯金101の外径D1・・よりも小さく設定してある。即ちチューブ内径D2は芯金外径D1の約67%の大きさに設定してある。」と、
段落番号【0034】に、「そして図1の(b)のように発泡弾性チューブ102の中心孔103の一端側の開口部に芯金101の一端側を対応させて、チューブ中心孔103に対してこの中心孔103の内径D2よりも上記のように外径D1が大きい芯金101を該チューブ102の弾性に抗して図1の(c)・(d)のように圧入挿通することにより、芯金101と、該芯金の外側に同心一体の半導電性ローラ部102を有するローラ形状の半導電性部材100を得る。」と、
記載され、段落番号【0044】の表1に、サンプルNo.5のものが、φ5.5で発泡弾性チューブの内径が芯金の経の92%である旨記載されている。
さらに、段落番号【0049】に、「本実施例では芯金101とこれを圧入する発泡弾性チューブ102とを一体化するための接着剤は特には使用しなかったが、両者101・102は芯金101の圧入により十分に一体化状態となる。」と、
段落番号【0062】に、「【発明の効果】以上のように本発明によれば、半導電性部材について・・例えば電子写真装置等の画像形成装置において帯電ローラ・転写ローラ等のプロセス機器・部材として適切に使用できて良好な出力画像を出力させることが可能となる。」と
記載されている。
これら記載と図面の記載を併せみれば、文献3に、
丸軸状芯材の外周に円筒状のゴムスリーブを弾圧的に嵌挿した帯電ローラ・転写ローラ等のゴム被覆ローラであって、
上記ゴムスリーブは、EPDMゴムであり、
芯材の外径をa、芯材の外周に嵌挿する前のゴムスリーブの内径をbとしたときにa>bであり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブ内径による芯材への締め代x(%)をx=[1-(b/a)]×100としたときに、8%≦x≦12%の範囲にあるゴム被覆ローラ
の発明が記載されるものと認める。

5-2-1-3 特表平4-506247号公報(文献1)の記載
文献1の第2頁左上欄第4〜5行に、「本発明は、エラストマーにより被覆されたローラに関し、・・写真処理装置のような液体に接触して使用されるローラに関する。」と、
第2頁右下欄第3〜4行に、「エラストマーチューブ10はシャフト12の外径より約10〜40%だけ小さい内経を有する。」と、
第3頁右上欄第2〜6行に、「干渉嵌合ローラが・・サントプレン・・の熱可塑性ゴム・・製チューブであってかつ外径15mm及び内径7mmを有するもの・・直径9mmのステンレス鋼上に据え付けられた。」と
記載されており、これらを総合すると、文献1には、
丸軸状芯材の外周に円筒状のゴムスリーブを弾圧的に嵌挿した写真処理装置のような液体に接触して使用されるローラゴム被覆ローラであって、
上記ゴムスリーブは、熱可塑性ゴム製であり、
芯材の外径をa、芯材の外周に嵌挿する前のゴムスリーブの内径をbとしたときにa>bであり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブ内径による芯材への締め代x(%)をx=[1-(b/a)]×100としたときに、8%≦x≦12%の関係にあり、
直径9mmの芯材の外周に外径15mm、内径7mmのゴムスリーブを嵌挿したゴム被覆ローラ
の発明が記載されるものと認める。

5-2-1-4 「実願昭60-129980号(実開昭62-38255号)のマイクロフィルム」(文献2)の記載
文献2の実用新案登録請求の範囲の請求項3に、「ゴムコットの締め代がロール用芯に対して0.1〜0.2ミリの範囲である・・用紙搬送ロール」と、
明細書第2頁第3〜5行に、「本案は、複写機、・・の給紙、排紙機構・・・に用いられる用紙搬送ローラに関する。」と、
明細書第5頁第1〜2行に、「外径40mm、内径15mm・・のゴムコットを嵌入機を用いて外径16.5mmの金属芯に嵌入した。」と
記載されており、文献2には、以下の発明が記載されるものと認める。
丸軸状芯材の外周に円筒状のゴムスリーブを弾圧的に嵌挿した給紙用のゴム被覆ローラであって、
芯材の外径をa、芯材の外周に嵌挿する前のゴムスリーブの内径をbとしたときにa>bであり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブ内径による芯材への締め代x(%)をx=[1-(b/a)]×100としたときに、8%≦x≦12%の関係にあるゴム被覆ローラ。

5-2-1-5 特開平7-239600号公報(文献4)の記載
文献4の段落番号【0001】に、「・・本発明は、電子写真記録装置等において感光ドラムや記録媒体などの被帯電体に所定極性の電位を付与する導電性ロ-ル・・に関する。」と、
段落番号【0008】に、「また、請求項2に示すごとく、前記ゴムロ-ラにおいて、該ゴム層が中空状のものから成り、後でシャフトを挿入して導電性ゴムロ-ラとなした導電性ゴムロ-ラの構造でり、該ゴム層の中空部の内径が、挿入するシャフトの径よりも十分に小さいことを特徴とする導電性ゴムローラである。この際、該中空ゴム層の内径はシャフトの径の0.50〜0.95程度が望ましい。該ゴム層中空部の内径があまり小さいとシャフトの挿入が困難となり、逆に大き過ぎるとシャフトとの緊縛力が失われる。」と、
段落番号【0016】に、「・・
(実施例)EPDM(エチレンープロピレンージエン三元共重合体)に加硫剤、オイル、発泡剤と、更に体積固有抵抗値を調節するためのカーボンを混ぜたものを内側層2aとし、その外側層にEPDMに加硫剤、オイルと、更に内側層よりカーボンを減らして体積固有抵抗値を高くした外側層2bを,図3(b)に示す如くの口金を用いて、二層に積層した中空状(チューブ状)未加硫ゴムを押し出した。引き続き高周波、熱風併用連続加硫槽で加硫した。この時、内径は5mmΦであり、内側層の厚みが3mm、体積固有抵抗値が106 Ω・cm、外側層の厚みが0.3mm、体積固有抵抗値が1010Ω・cmであった。これを所定長さに切断し、これにシャフト挿入口と逆方向から1kgの圧力で空気を送り込んで中空状(チューブ状)ゴム加硫物内管内を膨らませながら、6mmΦの金属製シャフトを挿入(図2)した。」と、
段落番号【0018】に、「(比較例)EPDMに加硫剤、オイル、発泡剤と更に体積固有抵抗値を調整するためのカーボンを混合したものを押し出し機より押し出し、上記連続加硫槽で加硫した。この時、内径は5mmΦであり、内層の厚みが3mm、体積固有抵抗値が106Ω・cm。これを所定長さに切断し、前記と同様に空気を吹き込んで内管を膨らませながら、6mmΦの金属製シャフトを挿入した。」と
記載されており、文献4には、以下の発明が記載されるものと認める。
丸軸状芯材の外周に円筒状のゴムスリーブを弾圧的に嵌挿した電子写真記録装置等において感光ドラムや記録媒体などの被帯電体に所定極性の電位を付与する導電性ロールゴム被覆ローラであって、
上記ゴムスリーブは、EPDMゴムにゴム被覆ローラの体積抵抗値を調整するカーボンを混ぜたものであり、
芯材の外径をa、芯材の外周に嵌挿する前のゴムスリーブの内径をbとしたときにa>bであり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブ内径による芯材への締め代x(%)をx=[1-(b/a)]×100としたときに、8%≦x≦12%の関係にあり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブの厚さが3mm〜2mmであるゴム被覆ローラ。

5-2-1-5 特開平8-85636号公報(文献5)の記載
文献5の段落番号【0001】に、「・・本発明は、複写機、ファクシミリ、プリンター等の事務機に用いられる給紙用ロールで、コピー用紙、印字用紙、原稿紙を搬送するのに好適な、高摩擦係数を有し、かつ、摩耗の少ない、給紙用ロールに関する。また、硬化後の物性が給紙用ロールとして最適で、かつ、ロールへの成形性に優れたシリコーンゴム組成物に関する。さらに、前記の給紙用ロールの製造方法に関する。」と、
段落番号【0002】に、「・・ファクシミリ、プリンター、電子写真複写機等の装置には、紙送りのための給紙用ロールが必要である。従来の給紙用ロールには、EPDM、ウレタン、ポリノルボルネン等の合成ゴムが用いられているが、・・」と、
段落番号【0004】に、「・・本発明は、上記問題を解消し、コピー用紙、印字用紙、原稿紙を搬送するのに適した高摩擦係数を有し、かつ摩耗の少ない給紙用ロールを提供しようとするものである。また、硬化後の物性が給紙用ロールとして最適で、ロールへの成形性に優れたシリコーンゴム組成物を提供しようとするものである。・・」と、
段落番号【0014】に、「本発明の給紙ロール被覆シリコーンゴムの100%モジュラスは、0.3〜1.0MPa、好ましくは0.4〜0.9MPa、より好ましくは0.5〜0.7MPaにすることにより、変形発生後の復元速度が速く、摩擦係数が良好となる。また、1.0MPa以下にすることによって、紙面との適度な密着が得られ、摩耗性を向上させることができる。100%モジュラスが0.3MPa未満では、変形発生後の復元速度が遅く、良好な摩擦係数が得られない。また、1.0MPaを越えると、紙面との接触面積が過少となり、摩耗性が悪化するという問題が生ずる。」と、
段落番号【0034】に、「本発明のシリコーンゴム組成物で給紙用ロールを成形する方法は、例えば、圧縮成形機、射出成形機、トランスファー成形機等の周知のゴム成形機を用いて、まず、ロール芯金をシリコーンゴム組成物で被覆し、次いで、金型内の成形温度を150〜220℃、好ましくは165〜200℃、より好ましくは170〜180℃、成形時間を2〜15分、好ましくは5〜14分、より好ましくは8〜13分とする一次硬化工程と、例えば、熱風循環式オーブンを用い、二次硬化温度を150〜250℃、好ましくは170〜220℃、より好ましくは180〜210℃、二次硬化時間を0.5〜24時間、好ましくは1〜12時間、より好ましくは2〜6時間とする二次硬化工程からなる。」と、
段落番号【0037】に、「ロール成形後、必要に応じて研磨加工を加え、給紙用ロールを作成することができる。また、本発明の組成物を、従来の給紙用ロール表面に被覆後、これを硬化して給紙用ロールを成形することもできる。給紙用ロールのシリコーンゴム層の厚みは1〜20mmが適している。成形厚みが1mmを下回ると、芯金の影響が紙面に伝わり易く、搬送力を低下させたり、摩耗性の悪化につながる。成形厚みが20mmを越えると、一次硬化の際に、内部の硬化が遅れるため、4%以下の良好な圧縮永久歪を得ることは困難である。成形厚みは2〜15mmであることが好ましく、3〜10mmであることがより好ましい。」と、
段落番号【0042】に、「かかるシリコーンゴム被覆給紙用ロールを製造する方法としては、・・予め、シリコーンゴムのチューブ状成形物を成形しておき、その中空部に上記のロール芯金を挿入して製造するほうほうが挙げられる。」と
記載されており、文献5には、以下の発明が記載されるものと認める。
複写機、ファクシミリ、プリンター等の事務機に用いられる、高摩擦係数を有し、かつ、摩耗の少ない、給紙用ロールに関するものであり、
丸軸状芯材の外周に円筒状のゴムスリーブを弾圧的に嵌挿した給紙用のゴム被覆ローラであって、
上記ゴムスリーブは、100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のシリコーンゴムであり、
芯材の外径をa、芯材の外周に嵌挿する前のゴムスリーブの内径をbとしたときにa>bであり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブの厚さが3mm〜2mmであるゴム被覆ローラ。

5-2-1-6 特開平9-6091号公報(文献6)の記載
文献6の段落番号【0034】〜【0039】をみると、文献6には、
EPDMゴムに導電粒子を添加して発泡した空孔部を持った発泡ローラであり、帯電ローラは芯金に圧入接着されたもの
が記載されている。

5-2-1-7 特開平7-256963号公報(文献8)の記載
文献8の段落番号【0001】〜【0005】をみると、文献8には、
印刷装置等を小型化するためには、紙を搬送するゴム被覆ローラゴム厚を薄くすること、及び、軸に圧入されるゴムローラのゴム厚を2mm以上とすること
が記載されている。

5-2-1-8 「JSR EPスタンダードマスターバッチ技術資料、JSR CH-SO-40 1990年5月 日本合成ゴム株式会社」(文献9)の記載
文献9には、
JSR CH・SO40(一般型物用)は、170℃5〜15分加硫で100%伸張時におけるモジュラスが7〜8kgf/cm2である旨
記載されている。

5-2-1-9 参考資料等について
なお、ゴム被覆ローラのゴムとして、EPDMゴムが周知であることを、異議申立人小野浩一は、特開平4-89155号公報、特開平7-267398号公報、特許第3291228号公報を引用して主張しており、ゴム被覆ローラのゴムとしては、EPDMゴムがそれら文献に記載されるものと認められる。
また、弾性体層3mm〜2mmのゴム被覆ローラは周知であるとして、異議申立人小野浩一は、特開平7-267398号公報、実願平2-59726号(実開平4-19529号)のマイクロフィルムを引用しており、ゴム被覆ローラの弾性体層の寸法が3mm〜2mmであるものが、それらに記載されるものと認める。

5-2-2 対比判断
5-2-2-1 文献7に記載された発明と本件発明との対比・判断
ここで、本件発明と文献7に記載される発明とを対比すると、文献7に記載された発明は、レジストローラであることから給紙経路において用いられるとしても、本件発明の構成である給紙用のゴム被覆ローラではなく、その材質は、EPDMゴムであるものの、本件発明の構成である100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のEPDMゴムであることまでをも直接開示するものではなく、本件発明の構成である芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブの厚さが3mm〜2mmであることも開示していない。
ここで、異議申立人が引用する文献9をみると、100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2の範囲であるEPDMゴムが記載されているので、文献9の記載がそのようなゴムが知られていることが示されるとしても、文献7のEPDMゴムが文献9に記載されるものそのものであるとする客観的証拠は認められず、文献9を併せみても、本件発明の構成である給紙用のゴム被覆ローラであり、その材質は、100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のEPDMゴムであり、芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブの厚さが3mm〜2mmであることは、文献7に開示も示唆もなされていない。
そして、本件発明はこれらの各構成を併せ持つことにより、5-1に記載した本件発明特有の効果を奏するものであり、これら各構成を設計上の事項とすることはできない。
したがって、本件発明をその構成の一部を開示しない文献7に記載された発明とすることはできない。
換言すれば、本件発明は、小径化するために、ゴムスリーブの厚さを「3mm〜2mm」とし、高耐磨耗の向上を前提にそのゴムの材質を100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のEPDMゴムを採用した場合において、給紙ローラと言う特定の使用環境におけるゴム裂け発生の低減のために、締め代x(%)を8%≦x≦12%とするという各構成を一体の構成として有するものであり、文献1、4、5及び異議申立人小野浩一の提出した特開平7-267398号公報、並びに、実願平2-59726号(実開平4-19529号)のマイクロフィルムに弾性体層3mm〜2mmのゴム被覆ローラが示され、小型化するためにゴムスリーブの厚さを「3mm〜2mm」とすることが文献6に示されることから、文献7のものの厚さとしてとして「3mm〜2mm」を採用することを、一般的な小型化の課題より当業者が想到し得るとしても、文献7には、そのように給紙ローラを小型化し、耐磨耗の向上させたものにおいて、ゴム裂け発生の低減をはかるという課題は開示されてはいないので、他の材質であるシリコーンゴムを用いたゴムスリーブに係る事項として、100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2の物を採用することが文献5に示されているとしても、100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2であるEPDMゴム製のゴムスリーブの厚さを「3mm〜2mm」とすることと関連して締め代を定めることを、文献7が開示するのでない以上、文献5に示される100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2 なる数値のみ文献7のEPDMゴムの物性値としてを組み合わせるべき客観的理由は、本件明細書に示される以外何等認められない。
したがって、本件発明をその構成の一部を開示しない文献7に記載された発明とすることはできず、さらに、本件発明を文献7に記載された発明に、文献1、2、4〜6、8、9に記載された発明、及び、周知の技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。

5-2-2-2 文献3に記載された発明と本件発明との対比・判断
本件発明と文献3に記載される発明とを対比すると、文献3に記載された発明は、帯電ローラ・転写ローラ等であって、本件発明の構成である給紙用のゴム被覆ローラではなく、その材質は、EPDMゴムであるものの、本件発明の構成である100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のEPDMゴムであることまでをも開示するものではなく、本件発明の構成である芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブの厚さが3mm〜2mmであることも開示していない。
そして、本件発明はこれらの各構成を併せ持つことにより、5-1に記載した本件発明特有の効果を奏するものであり、これら各構成を設計上の事項とすることはできない。
したがって、本件発明をその構成の一部を開示しない文献3に記載された発明とすることはできない。
そして、文献3の発明も、文献7のものと同様に、小径化するために、ゴムスリーブの厚さを「3mm〜2mm」とし、高耐磨耗の向上を前提にそのゴムの材質を100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のEPDMゴムを採用した場合において、給紙ローラと言う特定の使用環境におけるゴム裂け発生の低減のために、締め代xを特定することを開示も示唆もなしていないので、ゴムスリーブの厚さに係る数値として、「3mm〜2mm」をとるものが知られ、EPDMゴムとして、100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2の値を取るものが知られるとしても、5-2-2-1に記載したと同様に、小径化するために、ゴムスリーブの厚さを「3mm〜2mm」とし、高耐磨耗の向上を前提にそのゴムの材質を100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のEPDMゴムを採用した場合において、給紙ローラと言う特定の使用環境におけるゴム裂け発生の低減のために、締め代x(%)を8%≦x≦12%とする本件発明を文献3に記載された発明に、文献1、2、4〜6、8、9に記載された発明、及び、周知の技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。
したがって、本件発明をその構成の一部を開示しない文献3に記載された発明とすることはできないと共に、本件発明を文献3に記載された発明、及び、文献1、2、4〜6、8、9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

5-2-2-2 残余の文献と本件発明の対比
異議申立人が提出した残余の文献に5-2-1-3〜9の記載が認められるものの、ゴムスリーブの厚さを「3mm〜2mm」とすることにより、給紙用ローラを小径化し、100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のEPDMゴムを採用した上で、締め代x(%)8%≦x≦12%とすることを開示するものではなく、本件発明をその構成の一部を開示しないそれら文献に記載された発明とすることはできないと共に、本件発明をそれら文献に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

5-3 むすび
上述のとおり、異議申立人の提出した証拠証拠及び理由によっては、本件請求項1に係る発明を取り消すことはできない。また、他に、本件請求項1に係る発明を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
給紙ローラ用のゴム被覆ローラ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 丸軸状芯材の外周に円筒状のゴムスリーブを弾圧的に嵌挿した給紙ローラ用のゴム被覆ローラであって、
上記ゴムスリーブは100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のEPDMゴムであり、
芯材の外径をa、芯材の外周に嵌挿する前のゴムスリーブの内径をbとしたときにa>bであり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブ内径による芯材への締め代x(%)をx=[1-(b/a)]×100としたときに、8%≦x≦12%の関係にあり、
芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブの厚さが3mm〜2mmである、ことを特徴とする給紙ローラ用のゴム被覆ローラ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、コピー機やプリンタ、ファクシミリ等のOA機器に使用される給紙ローラに好適なゴム被覆ローラに関する。
【0002】
【従来の技術】OA機器の給紙ローラとして、ABS樹脂又はポリアセタール樹脂等で丸軸状に成形した芯材の外周に、等厚にゴム部材を被着させたゴム被覆ローラが多用されている。この種ゴム被覆ローラの製造は、芯材と円筒状のゴム部材であるゴムスリーブを別々に製造しておいて、芯材にゴムスリーブを嵌挿することで行われるのが一般的である。この場合、芯材に嵌挿される前の単体状態のゴムスリーブの内径を芯材の外径より少し小さく設定して芯材にゴムスリーブを圧入し、接着剤等を特に使わないで、ゴムスリーブの弾性収縮による締付力のみで芯材にゴムスリーブを固定するようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】以上のようなOA機器の給紙ローラとして使用されるゴム被覆ローラは、OA機器の小型化の要望から益々小径化され、そのため、芯材の外周に嵌挿される円筒状ゴムスリーブの益々の肉薄化が要望されているが、この肉薄化が品質劣化の問題を伴って難しいのが現状である。即ち、芯材に数mm程度の厚さの肉薄円筒状ゴムスリーブを嵌挿して、ゴムスリーブの表面で紙送りするようにした場合、紙送り時にゴムスリーブ表面に加わる歪みが直接的に肉薄ゴムスリーブの内部に伝わって、芯材とゴムスリーブの接触部分にねじれ力が大きく掛かり、このねじれ力で肉薄のゴムスリーブに亀裂が発生し、悪くするとゴムスリーブが千切れて紙送り不良が発生する可能性が高くなる。
【0004】そこで、ゴムスリーブの材質を高摩擦係数、耐磨耗、耐環境(特にO3や熱に対する耐環境性)に優れたEPDMゴムにする等して、ゴムスリーブの亀裂(ゴム裂け)発生を抑制する等の技術検討が行われているが、未だゴム裂けの発生率が高くて、ゴムスリーブの肉薄化によるゴム被覆ローラの小径化を難しくしているのが現状である。
【0005】本発明の目的は、芯材に嵌挿される円筒状ゴムスリーブの性能、品質を劣化させること無くゴムスリーブの肉薄化、給紙ローラの小径化を実現したゴム被覆ローラを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、丸軸状芯材の外周に円筒状のゴムスリーブを弾圧的に嵌挿したゴム被覆ローラであって、芯材とゴムスリーブの寸法関係を次のようにしてゴムスリーブの芯材への締付力を改変することにより上記目的を達成するものである。
【0007】即ち、上記ゴムスリーブは100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のEPDMゴムであり、芯材の外径をa、芯材の外周に嵌挿する前の円筒状ゴムスリーブの内径をbとするとa>bとし、かつ、芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブ内径による芯材への締め代x(%)を[1-(b/a)]×100としたときに、8%≦x≦12%であり、かつ、芯材の外周にゴムスリーブを嵌挿したときのゴムスリーブの厚さを3mm〜2mmに設定する。
【0008】ここで、芯材とゴムスリーブの寸法の上記関係は、芯材に嵌挿する前の円筒状ゴムスリーブの内径を現状の内径より小さくすることで成立し、このような寸法関係にすることでゴムスリーブの芯材への締付力が増大して、ゴム裂け発生率が低減し、ゴムスリーブの肉薄化が容易になる。
【0009】かかる本発明のゴム被覆ローラにおいては、上記ゴムスリーブがEPDMゴムであることが高摩擦係数、耐磨耗、耐環境、コスト等の面からして望ましい。
【0010】また、本発明のゴム被覆ローラをOA機器の給紙ローラとして使用する場合、上記ゴムスリーブを、JISに規定する測定法に従い所定の試験ゴム片を100%すなわち2倍の長さに伸張させた時に4〜10kg/cm2のモジュラス(弾性係数)を示すゴムで成形することが、給紙ローラとしての機能、寿命を高める上で望ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】例えばOA機器の給紙ローラに適用した本発明のゴム被覆ローラの一実施例を図1及び図2を参照して説明すると、同図に示されるゴム被覆ローラ1は、ABS樹脂又はポリアセタール樹脂等で従来と同様に成形した丸軸状芯材2の外周に、ゴム状弾性体である円筒状ゴムスリーブ3を圧入して構成される。このゴム被覆ローラ1の基本構造は従来同様でよく、本発明においては図2(I)及び(II)に示すように、芯材2のゴムスリーブ3が嵌挿される部分の外径aと、芯材2に嵌挿される前の円筒状ゴムスリーブ3の内径bと、芯材2に嵌挿したゴムスリーブ3の肉厚tを次のように設定したことを特徴とする。
【0012】円筒状のゴムスリーブ3は、トランスファー成形法等で成形されたゴムスリーブで、これの成形段階での内径bは芯材2の外径aより少し小さく設定されてa>bの関係にあり、この寸法設定で芯材2にゴムスリーブ3が圧入されて、ゴムスリーブ3の芯材2への締付力で芯材2にゴムスリーブ3が固定される。また、芯材2の外周にゴムスリーブ3を嵌挿したときのゴムスリーブ3の内周による芯材2への締め代x(%)をx=[1-(b/a)]×100としたときに、本発明は8%≦x≦14%に規制し、かつ、芯材2の外周にゴムスリーブ3を嵌挿したときのゴムスリーブ3の肉厚tを3mm〜2mmに規制することを特徴とする。
【0013】即ち、本発明者は、ゴムスリーブ3の内径bを現状の内径よりも小さ目に設定してゴムスリーブ3の芯材2への締め代xを増大させることで、ゴムスリーブ3の給紙ローラとしての機能、品質がどのようになるかを様々なサンプル品で実験した。その実験結果を次の表1に示し、これを説明する。
【0014】ただし、表1の実験データは、ゴムスリーブ3の材質がEPDMゴムであり、100%伸張時のモジュラスが6.5kg/cm2のものである。また、表1の実験データは、各サンプル品A〜Kをコピー機の給紙ローラに使用して、A4縦方向通紙枚数を最大30万枚として連続して行った通紙耐久試験の結果である。
【0015】
【表1】
【0016】サンプル品Aは、芯材に嵌挿されたゴムスリーブの肉厚tが5mm、締め代xが6%のもので、30万枚の通紙においても比較的厚いゴムスリーブにはゴム裂けが発生せず、OA機器の給紙ローラとしての機能が良好である。しかし、ゴムスリーブの肉厚tが5mmと厚いために、OA機器の小型化に伴う給紙ローラの小径化を難しくする。
【0017】サンプル品Bは、芯材に嵌挿されたゴムスリーブの肉厚tが4mm、締め代xが6%のもので、300枚までの通紙においても比較的厚いゴムスリーブにゴム裂けが発生しないが、この場合もゴムスリーブの肉厚tが4mmと比較的厚いために、OA機器の小型化に伴う給紙ローラの小径化を難しくする。
【0018】サンプル品Cは、芯材に嵌挿されたゴムスリーブの肉厚tが3mm、締め代xが6%のもので、ゴムスリーブの肉厚tが3mmと比較的薄くなって、OA機器の小型化に伴う給紙ローラの小径化を容易にするが、通紙の15万枚目でゴムスリーブにゴム裂けが発生して、OA機器の給紙ローラとして不適格となる。
【0019】サンプル品Dは、芯材に嵌挿されたゴムスリーブの肉厚tが2mm、締め代xが6%のもので、ゴムスリーブの肉厚tが更に薄くなって、OA機器の小型化に伴う給紙ローラの小径化を尚一層に容易にするが、通紙の5万枚目でゴムスリーブにゴム裂けが発生して、OA機器の給紙ローラとして不適格である。
【0020】サンプル品Eは、芯材に嵌挿されたゴムスリーブの肉厚tが2mm、締め代xが7%のもので、この場合もOA機器の小型化に伴う給紙ローラの小径化を容易にするが、通紙の13万枚目でゴムスリーブにゴム裂けが発生して、OA機器の給紙ローラとして不適格である。
【0021】サンプル品Fは本発明品で、芯材に嵌挿されたゴムスリーブの肉厚tが2mm、締め代xが8%であり、このように寸法規制したものはOA機器の小型化に伴う給紙ローラの小径化を容易にし、ゴムスリーブの肉厚tを2mmと肉薄化して30万枚通紙してもゴムスリーブにゴム裂けが発生せず、OA機器の給紙ローラとしての機能が良好に維持される。
【0022】また、各サンプル品G,H,Iも本発明品であって、芯材に嵌挿されたゴムスリーブの肉厚tを同じ2mmとし、締め代xを10%、12%、14%と段階的に増大させている。この各サンプル品G,H,IもOA機器の小型化に伴う給紙ローラの小径化を容易にするし、ゴムスリーブを肉薄化して30万枚通紙してもゴムスリーブにゴム裂けが発生せず、OA機器の給紙ローラとしての機能が良好に維持される。
【0023】残りのサンプル品Jは、芯材に嵌挿されたゴムスリーブの肉厚tを2mm、締め代xを15%と増大させたもので、この場合は締め代xが大きくなり過ぎて、芯材にゴムスリーブを均一に圧入することができず、給紙ローラとしての使用ができない。また、サンプル品Kは、締め代xを17%と更に大きくしたもので、この場合は芯材へのゴムスリーブの圧入が不可能となり、給紙ローラとして使用できない。
【0024】以上の各サンプル品A〜Kの実験結果から、締め代xが8%以上で14%以下の場合に30万枚通紙でもゴム裂け発生が無くて、給紙ローラとして好適であることが分かる。また、この締め代xの数値範囲の規制でゴムスリーブの3mm〜2mmの肉薄化が実現された。
【0025】また、図1及び図2に示すゴム被覆ローラ1においては、ゴムスリーブ3がEPDMゴムであることが、高摩擦係数、耐磨耗、耐環境、コスト等の面から望ましい。
【0026】更に、ゴム被覆ローラ1をOA機器の給紙ローラとして使用する場合、ゴムスリーブ3を、100%伸張時におけるモジュラスが4〜10kg/cm2のゴムで成形し、より好ましくは100%伸張時におけるモジュラスが5〜8kg/cm2のゴムで成形するのが望ましいことが分かっている。即ち、表1の実験データは100%伸張時におけるモジュラスが6.5kg/cm2のゴムスリーブを使用して得たもので、このモジュラスを5〜8kg/cm2の範囲で増減させても表1の実験データはほとんど同じで問題無く、また、モジュラスを4〜10kg/cm2のより広範囲で増減させても大差無いが、4〜10kg/cm2を超える範囲で増減させるとゴムスリーブの緩み、亀裂損傷のトラブル発生率が高くなる。
【0027】
【発明の効果】本発明によれば、芯材に圧入される円筒状ゴムスリーブの芯材への締付力が増大して、ゴム裂け発生率が低減し、かつ、ゴムスリーブの肉薄化が容易になって、OA機器の給紙ローラの小径化を容易にする商品的付加価値の高いゴム被覆ローラが提供できる。また、ゴムスリーブがEPDMゴムを使用することにより、高摩擦係数で高耐磨耗、耐環境に優れた低コストなゴム被覆ローラが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すゴム被覆ローラの正面図である。
【図2】(I)は図1のT-T線の拡大断面図、(II)は(I)の芯材からゴムスリーブを外したときのゴムスリーブの断面図である。
【符号の説明】
1 ゴム被覆ローラ
2 芯材
3 ゴムスリーブ
a 芯材外径
b ゴムスリーブ内径
t ゴムスリーブ肉厚
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-10-01 
出願番号 特願平9-234622
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B65H)
P 1 651・ 113- YA (B65H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 杉野 裕幸  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 寺本 光生
渡邊 豊英
登録日 2003-01-10 
登録番号 特許第3386341号(P3386341)
権利者 住友ゴム工業株式会社
発明の名称 給紙ローラ用のゴム被覆ローラ  
代理人 白石 吉之  
代理人 城村 邦彦  
代理人 阿部 英樹  
代理人 田中 秀佳  
代理人 熊野 剛  
代理人 入交 孝雄  
代理人 石村 理恵  
代理人 田中 秀佳  
代理人 山根 広昭  
代理人 熊野 剛  
代理人 石島 茂男  
代理人 白石 吉之  
代理人 城村 邦彦  
代理人 江原 省吾  
代理人 江原 省吾  
代理人 山根 広昭  
代理人 木下 茂  
代理人 小池 信夫  

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