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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  F23G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  F23G
審判 全部申し立て 2項進歩性  F23G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F23G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F23G
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  F23G
管理番号 1109617
異議申立番号 異議2003-70887  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-01-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-31 
確定日 2004-12-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第3355034号「熱可塑性樹脂の燃焼方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3355034号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1. 手続の経緯
本件特許第3355034号についての出願は、平成6年7月7日に出願され、平成14年9月27日に設定登録がなされ、その後、平成15年3月31日に渡部佳代より特許異議の申立がなされ、平成15年6月5日に柴田緑朗より特許異議の申立がなされ、さらに、平成15年6月9日に丸岡巧一より特許異議の申立がなされ、平成15年11月28日に口頭審理が行われ、取消理由が告知され、その指定期間内である平成16年1月23日に訂正請求がなされ、同訂正請求に対して、平成16年5月12日付けで訂正拒絶理由が通知されたものである。

2.異議申立て理由の概要
2-1 異議申立人渡部佳代の申立の理由概要
本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明を立証するために、
甲第1号証として、「廃プラスチックの粉体燃料化の技術開発と実証実験報告書(平成6年3月1日 社団法人プラスチック処理促進協会)」、(以下、「文献1」という。)
を提出して、本件請求項1に係る発明は、文献1に記載された発明であるか、特許法第29条第1項第3号に規定する発明であるとすると共に、本件に係る出願の出願前に出願され、本件に係る出願の出願後に出願公開された特許出願(特願平6-41763号)の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された発明を立証するために、
甲第2号証として、「特開平7-228905号公報」(以下、「文献2」という。)
を提出して、本件請求項1に係る発明は、特願平6-41763号の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとして、本件請求項1に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである旨主張している。

2-2 異議申立人柴田緑朗の申立の理由概要
本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明を立証するために、
甲第1号証として、「廃プラスチックの粉体燃料化の技術開発と実証実験報告書(平成6年3月1日 社団法人プラスチック処理促進協会)」、(文献1)
を提出しすると共に、微粉炭バーナにおける吹き出し速度に係る周知技術を立証するための参考資料として、
「燃焼機器工学」(辻庄一著 昭和46年9月10日 日刊工業新聞社発行)
「改訂三版 熱管理便覧」(中央熱管理協議会編 昭和47年1月20日 丸善株式会社発行)
を提出して、本件請求項1に係る発明は、文献1に記載された発明であるか、文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定、又は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものである旨主張し、さらに、本件明細書の記載が不備であることを立証するために、
甲第2号証として、「平成12年8月24日付け 意見書」(特願平06-156086号 特許出願人 株式会社トクヤマ)
を提出して、本件特許は、明細書の記載が特許法第36条の要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである旨主張している。

2-3 異議申立人丸岡巧一の申立の理由概要
本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明を立証するために、
甲第1号証として、「特開昭49-70472号公報」(以下、「文献3」という。)、
を提出すると共に、熱可塑性樹脂製チップ等の粒径及び輸送速度を立証するために、
甲第2号証として、「特開平5-162136号公報」、
甲第3号証として、「特開昭59-26826号公報」、
甲第4号証として、「特開平6-71650号公報」、
甲第5号証として、「特開平2-225217号公報」、
甲第6号証として、「特開昭63-71021号公報」、
甲第7号証として、「特開昭58-125785号公報」、
甲第8号証として、「粉粒体の空気輸送(新版)」(上滝具貞著 昭和51年10月20日2版 日刊工業新聞社発行)、及び、
甲第9号証として、「粉体輸送技術」(狩野武著 1991年10月30日初版第1刷 日刊工業新聞社発行)
を提出して、
本件請求項1に係る発明は、文献2に記載された発明に周知の技術を適用して、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである旨主張している。

3. 特許権者の求めている訂正
特許権者が求めている訂正は、平成16年1月23日付け訂正請求書に記載されたとおりのものであり、特許明細書中に記載された特許請求の範囲の記載である
「【請求項1】50mm篩全通程度の大きさに粉砕された熱可塑性樹脂を空気輸送によりノズルから燃焼炉内に投入して燃焼させる方法であって、ノズルからの熱可塑性樹脂の噴出速度を8m/s以上とする熱可塑性樹脂の燃料としての燃焼方法。」

「【請求項1】熱可塑性樹脂を、空気輸送により燃焼炉内に投入して燃焼させる方法であって、先端部が燃焼炉内に挿入されており、前記先端部の外周を水冷管または耐火物によって保護した、先端が湾曲されていないノズルから、50mm篩全通程度、かつ平均粒径3.7mm以上の大きさに粉砕された熱可塑性樹脂を、噴出速度14〜100m/sで投入するすることを特徴とする熱可塑性樹脂の燃料としての燃焼方法。」
と訂正することを訂正事項として有している。

この訂正事項は、請求項1に記載の「ノズル」に対して「先端が湾曲されていない」という構成を付加することを含むものである。

4. 訂正の適否の判断
ここで、請求項1に記載の「ノズル」に対して「先端が湾曲されていない」という構成を付加することの是非について検討すると、本件特許明細書の段落番号【0009】に、「熱可塑性樹脂を燃焼炉中に投入するためのノズルは、外周が水冷管または耐火物によって保護されたものであることが好ましい。ノズルの直径は、熱可塑性樹脂粒径や単位時間当たりの投入量に応じて適宜選べばよいが、一般には10〜150mmの範囲のものが選ばれる。燃焼炉中へのノズルの設置方法は特に制限されず、ノズル先端が上方または下方に向けて設置してもよく、また、ほぼ水平に設置してもよい。」と記載され、ノズル先端が上方、下方、又は、ほぼ水平に向けられていることが記載され、段落番号【0011】に、「・・本発明においては、熱可塑性樹脂のノズルからの噴出速度を8m/s以上とすることによって、・・ノズル内およびノズル先端部での溶融を防止するものである。熱可塑性樹脂のノズルからの噴出速度が8m/s未満のときは、・・ノズル内部またはノズル先端部において熱可塑性樹脂が溶融し、さらに燃焼するために好ましくない。」と、段落番号【0014】に、「【発明の効果】ノズル先端部での熱可塑性樹脂の融着を防止することによって・・」と記載され、「ノズル先端部」が融着を防止する部位であることが記載されると共に、段落番号【0016】に、「実施例・・外周を水冷管で保護した長さ7m、内径80mmのノズルを主燃料として重油を使用した燃焼炉中に先端を挿入して水平に固定した。燃焼炉の炉内温度は1030℃に設定した。ノズル先端部を通過する空気流速を表1に示したように各種の値に設定して、その時のノズル先端部からの熱可塑性樹脂の噴出速度とノズル内部および先端部での熱可塑性樹脂の溶融状態を評価し、表1に示した。」と記載されているのみであり、ノズルの先端に関して、特許明細書及び図面には、「ノズル」の先端を湾曲させる旨の直接の記載はないものの、「ノズル」の「先端が湾曲されていない」旨の直接の記載もない。
そして、特許権者が主張するように、本件図1に、ノズル出口部粒子噴出速度とノズル部空気噴出速度の関係が、粒径別に記載されている。これが、特許権者が主張するように先端が湾曲されていないノズルにおいて計測した結果を記載したものであるとしても、ノズルの湾曲の程度及び湾曲の位置に関して同等の結果が計測される範囲が全く存在しないとすることはできず、同図の記載から、直ちに、先端が湾曲されていないノズルが記載されるとすることはできず、さらに、長さ7m(内径80mm)のノズルのを用いた結果を記載したとする同図の記載を解釈するにあたり、ノズルの先端なる範囲が全長7mのどの範囲であるかさえ明細書の記載から特定できるものではないので、熱可塑性樹脂の融着を防止する部位として、上記のとおり「ノズルの先端部」が記載されるものの、湾曲の有無を開示する部位として、「ノズル」の「先端」が記載されているに等しいとすることはできない。
さらに、燃焼炉内に燃料等を投入するノズルであれば、その先端は湾曲されていないと一律に定まるものとも認められないので、この訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内でなされるものとは認められない。

4-2 むすび
以上説示のとおり、当該訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる特許法第120条の4第3項において準用する特許法第126条第1項ただし書の規定に適合しないものであるから、当該訂正は認められない。

5 特許異議申立に対する判断
5-1 特許請求の範囲の記載
4.に述べたとおり、特許権者が請求した訂正は認められないので、本件特許に係る発明を特定する本件特許請求の範囲の記載は以下のとおりのものである。
【請求項1】50mm篩全通程度の大きさに粉砕された熱可塑性樹脂を空気輸送によりノズルから燃焼炉内に投入して燃焼させる方法であって、ノズルからの熱可塑性樹脂の噴出速度を8m/s以上とする熱可塑性樹脂の燃料としての燃焼方法。

5-2 取消理由概要
これに対して、告知された取消理由の概要は以下のとおりである。

5-2-1 取消理由1
本件出願は、明細書及び図面の記載が次の点で不備のため、特許法36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない。
発明の詳細な説明に裏付けられるノズルからの熱可塑性樹脂の噴出速度は、ノズルが水冷管で保護される場合の値であるが、請求項1には、ノズルが水冷管で保護される場合に特定されず、請求項1に記載される「8m/s」が臨界的意義を有することが明細書の記載から定かではない。

5-2-2 取消理由2
本件請求項1に記載された発明とは別異の発明者が発明をし、本件出願人とは別異の出願人が本件出願前に出願し、本件出願後に出願公開された、特願平06-041763号の出願の願書の最初に添付された明細書または図面に記載された発明と本件請求項1に記載された発明とは同一の発明であるから、本件請求項1に記載された発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
なお、平均粒径からみて、各発明の粒径に差異は認められない。

5-2-3 取消理由3
本件請求項1に記載された発明は、その出願前に頒布された次の刊行物に記載された発明にもとづいて当業者が容易に発明することができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物1
社団法人プラスティック処理促進協会「廃プラスチックの粉体燃料化の技術開発と実証実験報告書」平成6年3月1日
刊行物2
特開昭49-70472号公報
【備考】
1.50mm篩全通とは、50mm近辺の大きなものからより細かいものが混在している旨の主張がなされているが、50mmに近い大きいものとより細かいものとの本件発明における影響、融着の作用の差が不明であるので刊行物1のものから容易に発明をすることができたものである。
2.50mm篩全通ということが、そのなかのより大きなものを意識した限定であるとしても刊行物1乃至刊行物2から容易に発明をすることができたものである。なお、刊行物2のものの粒径を判断するにあたり異議申立人(丸岡巧一)の甲第9号証および本日提出の口頭審理陳述要領書に添付された「改訂三版化学工学便覧化学工学協会編丸善株式会社」を参照されたい。

5-3 取消理由についての判断
5-3-1 取消理由1について
本件明細書の特許請求の範囲には、
「【請求項1】50mm篩全通程度の大きさに粉砕された熱可塑性樹脂を空気輸送によりノズルから燃焼炉内に投入して燃焼させる方法であって、ノズルからの熱可塑性樹脂の噴出速度を8m/s以上とする熱可塑性樹脂の燃料としての燃焼方法。」
と記載され、「ノズルからの熱可塑性樹脂の噴出速度を8m/s以上とする」ことを構成として記載している。
同構成と関連する発明の詳細な説明の記載をみると、
段落番号【0005】に、「即ち、本発明は、50mm篩全通程度の大きさに粉砕された熱可塑性樹脂を空気輸送によりノズルから燃焼炉内に投入して燃焼させる方法であって、ノズルからの熱可塑性樹脂の噴出速度を8m/s以上とする熱可塑性樹脂の燃料としての燃焼方法である。」と、
段落番号【0011】に、「熱可塑性樹脂は、ノズルから燃焼炉内に噴出される過程において燃焼炉内の温度に近い温度のノズル内面を通過し、その際に高温に接触する。また、燃焼炉内からの輻射熱を受ける。本発明においては、熱可塑性樹脂のノズルからの噴出速度を8m/s以上とすることによって、熱可塑性樹脂が高温のノズル内面および燃焼炉から受ける単位時間当りの熱量を少なくし、ノズル内およびノズル先端部での溶融を防止するものである。熱可塑性樹脂のノズルからの噴出速度が8m/s未満のときは、熱可塑性樹脂のノズル内面から受ける単位時間当たりの熱量が大きくなり過ぎ、ノズル内部またはノズル先端部において熱可塑性樹脂が溶融し、さらに燃焼するために好ましくない。」と、
段落番号【0012】に、「熱可塑性樹脂のノズルからの噴出速度は8m/s以上であれば十分に本発明の目的を達成することができるが、・・」と
記載され、これらの裏付けとなる記載をして、段落番号【0017】の【表1】に、4実施例と、4比較例とからなる実施例と比較例との対比が記載されている。
ここに記載される比較例のうち、熱可塑性樹脂粒子噴出速度が大きい例は、7m/sである比較例2、4であり、熱可塑性樹脂粒子噴出速度が7m/sでは、溶融によりノズル閉息が発生することが例をもって示されており、併せて記載される4実施例中、熱可塑性樹脂粒子噴出速度が小さい例は、14m/sである実施例1であり、実施例1では「溶融状態なし」と、溶融によるノズル閉息が発生しない旨記載されている。
同記載は、ノズルからの熱可塑性樹脂の噴出速度を7m/sとしたものでは、溶融によるノズル閉息が発生することを示し、同14m/sでは、溶融によるノズル閉息が発生しないことを示しており、15mm篩全通の場合には、ノズルからの熱可塑性樹脂の噴出速度に関して、14m/sが溶融によるノズル閉息の発生の有無に係る臨界的速度を超えることを示し、同7m/sが同臨界的速度を越えないことを示すものの、「8m/s」が同臨界的速度を超えていることまでも示すものではない。
さらに検討すると、25mm篩全通の場合に、溶融によるノズル閉息の発生がないのは8m/sを大きく越える26m/sと55m/sの例示のみであり、さらに粒径が大きいものを含む「50mm篩全通程度の大きさに粉砕された熱可塑性樹脂」について、ノズルからの熱可塑性樹脂の噴出速度が「8m/s」である場合について、溶融によるノズル閉息が発生がないことを裏付ける格別の記載は、発明の詳細な説明には何等認められないと言うべきである。
なお、段落番号【0004】に、「【課題を解決するための手段】そこで、本発明者らは、上記の問題を解決するために熱可塑性樹脂の燃焼炉への投入テストを繰り返して行った。その結果、ノズルから噴出させる熱可塑性樹脂の噴出速度をある値以上とすることによって、ノズル先端部での熱可塑性樹脂の融着を防止でき、熱可塑性樹脂の連続投入が可能となることを見出し、本発明を提案するに至った。」と記載され、発明の詳細な説明には、溶融によるノズル閉息の発生の有無を定める技術的事項が、「ノズルから噴出させる熱可塑性樹脂の噴出速度」である旨記載されているが、「8m/s」に特段の臨界的意味がなくても、特許請求の範囲の請求項1に記載の残余の構成により、溶融によるノズル閉息が発生しないことが得られることが、発明の詳細な説明に裏付けられるかを一応検討する。
溶融によるノズル閉息が発生する上記比較例2、4は、粒子径が25mm篩全通であり、同粒子径の実施例2、4は、溶融によるノズル閉息が発生しておらず、さらに溶融によるノズル閉息が発生しない実施例1の粒子経は15mm篩全通であり、同粒子径の比較例1、3では、溶融によるノズル閉息が発生しており、ノズルからの熱可塑性樹脂の噴出速度に係わらず熱可塑性樹脂粒子経のみにより、溶融によるノズル閉息の発生を防止できることを裏付けるものではない。
さらに、上記実施例のものは、何れも外周を水冷管で保護した場合に、溶融によるノズル閉息の発生がないことを言うものであり、特段の冷却を行わない場合について何らの裏付けを提供するものではない。
したがって、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は、ノズルからの熱可塑性樹脂の噴出速度が「8m/s」であると記載しているが、「50mm篩全通程度の大きさに粉砕された熱可塑性樹脂」について「8m/s」により所期の目的を達成できることは、発明の詳細な説明に記載されておらず、本件特許請求の範囲の請求項1に記載の発明を容易に実施することができる程度に、発明の構成及び効果が発明の詳細な説明に記載されるとは認められない。また、本件請求項1に記載された発明は、その裏付けを発明の詳細な説明に記載された発明とは認められない。

したがって、本件明細書の記載は、特許法第36条第4項及び第5項第1号に規定する要件を満たしていない。

5-3-2 取消理由2について
5-3-2-1 特願平06-041763号の出願の願書に最初に添付された明細書または図面の記載
文献2(異議申立人渡部佳代が提出した甲第2号証(特開平7-228905号公報))をみると、本件請求項1に記載された発明とは別異の発明者が発明をし、本件出願人とは別異の出願人が本件出願前に出願し、本件出願後に出願公開された、特願平06-041763号の出願の願書に最初に添付された明細書または図面に以下の事項が記載されている。
【請求項1】に、「粒状あるいは粉状に粉砕したプラスチック屑を100%あるいは微粉炭と混合し、高炉の羽口から吹き込むことによって前記プラスチック屑中のC、Hを燃料として、また生成するガスを還元ガスとして利用すると同時に、混入した複合材料を高炉内でスラグ化して溶融処理することを特徴とする高炉の操業方法。」
段落番号【0006】に、「【発明が解決しようとする課題】本発明は・・粒状あるいは粉状に粉砕したプラスチック屑(以下プラスチック粉という)を高炉の羽口から吹き込むことによって、プラスチック粉中のC、Hを燃料として、・・プラスチック処理を行うことを目的とする。ここで粒状とは0.5〜5mm、粉状とは0.5mm未満と定義する。」
段落番号【0011】に、「プラスチック製品の国内生産状況として主なものはポリエチレン23%、ポリスチレン11%、ポリプロピレン25%、塩化ビニル16%でありプラスチック屑もこの量にリンクしたものと見ることができる。高炉用に供されるものは常温で粉砕可能な成形品、板、パイプ類が良いが、シート類、フィルム状であっても冷凍後に粉砕することで処理が可能であり、・・高炉羽口では風速200m/s以上の高速度、送風温度1100℃近い高温で粉体はレースウェイという燃焼帯へ送り込まれる。微粉炭は50〜100μmの粒度で管理されている。」
段落番号【0013】に、「プラスチック粉の供給ホッパー8はふるい分け後のプラスチック粉を蓄え、プラスチック粉の流量調整機構10によって設定された供給量を搬送空気12によって粉体の分配器13に送られる。微粉炭とプラスチック粉の混合使用の際は、微粉炭は別の微粉炭用のホッパー9から微粉炭の流量調整機構11を経てプラスチック粉と混合される。プラスチック粉と微粉炭と別々のホッパーを設置しているが、両者を混合してホッパーを1つにするシステムも含まれる。
分配器13によって粉体は各羽口に分配され、搬送配管14を経て高炉送風支管4内に挿入されたノズル3より高炉1に数十本配設された羽口2を介し、風速200m/s以上の高速で高炉内に吹き込まれ、高炉の燃焼帯15で燃焼する。高炉燃焼帯内では燃料粉は高温の酸素と反応して、2000℃以上の高温で高速で燃焼し、CはCOにHはH2 に転換され、高温の還元ガスになって上部に上昇する。混合しているガラスは溶解してスラグ中に、金属類は酸化してスラグ中に入る。」
これら記載を総合すると、特願平06-041763号の出願の願書の最初に添付された明細書または図面に、以下の発明が記載されるものと認める。
0.5〜5mmである粒状又は0.5mm未満である紛状に粉砕したプラスチック粉を燃料として、搬送空気により輸送され、羽口から高炉の中に投入される燃焼方法であって、羽口からのプラスチック粉の噴出が、風速200m/s以上の速度の搬送空気によりなされるプラスチック粉の燃料としての燃焼方法の発明(以下、「先願発明」という。)

5-3-2-2 対比判断
ここで、本件請求項1に記載された発明と先願発明とを対比すると、先願発明の「プラスチック粉」、「羽口」は、本件請求項1に記載された発明の「熱可塑性樹脂」及び「ノズル」に相当し、先願発明の「高炉」は、燃料として燃焼させる場所である点に於いては、本件請求項1に記載された発明の「燃焼炉」に相当するものと認められるので、両発明は、
粉砕された熱可塑性樹脂を空気輸送によりノズルから燃焼炉内に投入して燃焼させる方法であって、ノズルからの熱可塑性樹脂の噴出させる熱可塑性樹脂の燃料としての燃焼方法。
の発明である点で一致するものの、
本件請求項1に記載された発明が、50mm篩全通程度の大きさに粉砕された熱可塑性樹脂を用い、ノズルからの熱可塑性樹脂の噴出させる速度が8m/s以上とするものであるのに対して、先願発明では0.5〜5mmである粒状又は0.5mm未満である紛状に粉砕したプラスチック粉を用い、風速200m/s以上の速度の搬送空気との表記となっており、プラスチック粉の噴出速度を直接記載するものではない点
で両発明は、一見すると差異を有している。

しかしながら、先願発明は、風速200m/s以上の速度の搬送空気により、0.5〜5mmである粒状又は0.5mm未満と定義された大きさのプラスチック粉が噴出するものであり、そのプラスチック粉の噴出速度が8m/sより大きいことは、直接の記載によらなくても明らかである。
また、先願発明のプラスチック粉は、「粒状とは0.5〜5mm、粉状とは0.5mm未満」とその大きさが定義されている。このようなプラスチック粉が、50mm篩を通る程度の大きさであることは明らかであり、さらに、先願発明のプラスチック粉は、粉砕されている。また、本件請求項1に記載された発明の構成である「50mm篩全通程度の大きさに粉砕された」について、本件明細書の記載をさらに検討すると、実施例2、4のものが、25mm篩全通であり、実施例1、3のものが15mm篩全通であり、「50mm篩全通程度の大きさ」は、より細かく粉砕された25mm篩全通及び15mm篩全通により裏付けられることから、より細かいものを排除すべき特段の構成を伴って記載されるものではない。
よって、本件請求項1に記載された「50mm篩全通程度の大きさに粉砕された」なる構成は、先願発明の粒状又は粉状の大きさを排除するものではない。
したがって、上記差異は、両発明に発明としての実質的な相違点をもたらすものではなく、本件請求項1に記載された発明は、先願発明排除せずに特定されているというべきであるので、両発明は、実質的に同一の発明であるから、本件請求項1に記載された発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

5-3-3 取消理由3について
5-3-3-1 文献1に記載された発明との対比判断
5-3-3-1-1 文献1(「廃プラスチックの粉体燃料化の技術開発と実証実験報告書」(平成6年3月1日 社団法人 プラスチック処理促進協会)の記載
文献1の第1頁の「2.研究の概要」に、
「産業系廃プラスチックを対象に、これらを微粉砕して粉体燃料にし、既設の発電用ボイラでバーナを利用して燃焼させることによって、エネルギーを高効率に回収する技術を確立する目的で、実用規模の微粉砕装置および燃焼装置を構築し、実証実験を行った。」と、
第9頁の第3〜6行に、
「廃プラスチック粉体燃料は、実験に必要な量がホッパに貯留され、ここから定量フイーダにより一定量が切り出される。切り出された廃プラスチック粉体は、プロアにより空気搬送され、分配器を通って重油バーナに併設されたノズルより燃焼空気とともに、炉内に吹き込まれる。」と
記載され、第9頁の図4-1-2には廃プラスチックの燃焼実験設備が図示されている。
さらに、第15頁の表4-3-2には廃プラの加熱溶融減容品、発泡スチロール減容品、PET、PE市販粉末について燃焼実証試験を行った結果が記載されており、粒度が最大250〜500μm、平均105〜220μmであり、一次空気流速が7.2〜7.3m/s、二次空気流速が12.0〜12.8m/sであることが記載されている。
したがって、文献1には、
粒度が最大250〜500μm、平均105〜220μm程度の大きさに微粉砕された廃プラスチック粉体を空気輸送によりノズルから炉内に投入して燃焼させる方法であって、一次空気流速が7.2〜7.3m/s、二次空気流速が12.0〜12.8m/sの空気流により、廃プラスチック粉体をノズルからの噴出する廃プラスチック粉体の燃料としての燃焼方法の発明(以下、「文献1発明」という。)
が記載されるものと認める。

5-3-3-1-2 対比判断
ここで、本件請求項1に記載された発明と文献1発明とを対比すると文献1発明の「廃プラスチック粉体」、「ノズル」及び「炉」は、本件請求項1に記載された発明の「粉砕された熱可塑性樹脂」、「ノズル」及び「燃焼炉」に相当するものと認められ、本件請求項1に記載された発明の構成である「50mm篩全通程度の大きさに粉砕された」について、本件明細書の記載をみると、実施例2、4のものが、25mm篩全通であり、実施例1、3のものが15mm篩全通であり、「50mm篩全通程度の大きさ」は、より細かく粉砕された25mm篩全通及び15mm篩全通により裏付けられることから、より細かいものを排除すべきものではなく、文献1発明の「粒度が最大250〜500μm、平均105〜220μm程度の大きさに微粉砕」なる事項と、本件請求項1に記載された「50mm篩全通程度の大きさに粉砕」なる構成との間に格別の差異は認められないので、両発明は、
50mm篩全通程度の大きさに粉砕された熱可塑性樹脂を空気輸送によりノズルから燃焼炉内に投入して燃焼させる方法であって、ノズルからの熱可塑性樹脂の噴出する熱可塑性樹脂の燃料としての燃焼方法
の発明である点で一致し、
本件請求項1に記載された発明が、ノズルからの熱可塑性樹脂の噴出する速度を8m/s以上とするのに対して、文献1発明では、一次空気流速が7.2〜7.3m/s、二次空気流速が12.0〜12.8m/sの空気流により、廃プラスチック粉体をノズルからの噴出するものの、噴出速度は明らかではない点。
以下、上記相違点について検討すると、文献1発明の「廃プラスチック粉体」の大きさ及び空気流の速度から想定される廃プラスチック粉体の噴出速度は、8m/sと大差のない値であり、しかも、5-3-1に述べたように、「水冷管での保護」を前提とするものではなく、「50mm篩全通程度」を前提としては、8m/sに格別の臨界的意味があるとは認められないので、噴出速度を8m/s以上とすることは、当業者が容易になし得たものと認める。
そして、本件請求項1に記載された発明の奏する効果も、文献1発明から予測される以上の格別なものとも認められない。
したがって、本件請求項1に記載された発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

5-3-3-2 文献3に記載された発明との対比判断
5-3-3-2-1 文献3(特開昭47-70472号公報)の記載
文献3の第1頁左下欄第17行〜同頁右下欄第1行に、
「本発明はプラスチック廃棄物を処理するとともに燃焼熱を利用して熱源たらしむべきプラスチック燃焼炉にプラスチックの特性に適応して良好スムースに燃料たるプラスチック廃棄物を供給すべき装置を提供するものである。」
と記載され、プラスチック廃棄物を燃焼炉に投入して燃料として用いることが開示され、第1頁右下欄第2〜10行に、
「従来、プラスチック廃棄物の多くは之を燃焼せしめる場合高熱を提供し、貴重な熱源として利用し得べきことは公知であり、更に燃焼の際エチレン、スチレン、ポリプロピレンの如く有害ガスを発生しないものもあり、又有害ガスを発生するものに於いても近時排煙の水洗により有害ガスの四散を防止し、被害を解消し得るに至ったもので、何れの場合も容易に利用することができるものである。」
と記載され、熱可塑性樹脂を燃料として用いることが開示され、第2頁右上欄第4〜8行に、
「又本発明に於いては射出パイプを二重管とし、水冷式としたから輻射熱によるプラスチックの射出パイプ内への熔融接着の惧れを防止してスムースなプラスチックの供給をなすことが出来、」
と記載され、さらに、第2頁左下欄第20行〜同頁右下欄第9行に、
「12は射出パイプで、管壁は12a,12bの二重となり、下部の冷水流入口13と上部の冷水流出口14を存し、二重壁間に冷水を循環して射出パイプ12壁を常に水冷し、目的物のパイプ壁への熔融接着を防止する。15は射出パイプの先端の湾曲部で、炉内より射出パイプ内への輻射熱の受け入れ距離を短縮するもので、射出パイプ内のプラスチックの輻射熱による熔融に基づく閉塞現象の発生を防止するものである。」
と記載されており、射出パイプ12の中を通過するプラスチック廃棄物のパイプ壁への融着を防止することが開示されている。
また、第2頁右上欄第15〜17行に、
「3は空気圧入パイプで、静止状をなし送風器によって空気を圧入する様に装備される。」
と、第2頁右下欄第9〜15行に、
「16は射出パイプ12の炉内への射出口で、この射出速度の増大によりスクリュー部を負圧とし、スクリュー部のプラスチックの固く圧縮することを防止し、プラスチックの送り出しを良好とするものである。」
と記載されており、プラスチックの空気輸送が開示され、第2頁左下欄第第3〜5行に、「ブリッジの発生を防止せしめるもので、ハンマリングの如く紛状のものが粒状のもの・・」と記載されるようにプラスチックは紛状及び粒状と記載されるで、文献3には、
紛状及び粒状である熱可塑性樹脂であるプラスチックを空気輸送により射出パイプから炉内に投入して燃焼させる方法であって、射出パイプから熱可塑性樹脂を噴出する熱可塑性樹脂の燃料としての燃焼方法の発明(以下、「文献3発明」という。)
が記載されるものと認める。

5-3-3-2-2 対比判断
文献3発明の「プラスチック」、「射出パイプ」及び「炉」は、本件請求項1に記載された発明の「熱可塑性樹脂」、「ノズル」及び「燃焼炉」に相当するので、両発明は、
紛状または粒状の熱可塑性樹脂を空気輸送によりノズルから燃焼炉内に投入して燃焼させる方法であって、ノズルから熱可塑性樹脂を噴出する熱可塑性樹脂の燃料としての燃焼方法
の発明である点で一致し、
本件請求項1に記載された発明では、50mm篩全通程度の大きさに粉砕された熱可塑性樹脂を用い、ノズルからの熱可塑性樹脂の噴出速度を8m/s以上とするのに対して、文献3発明では、プラスチックを紛状または粒状とであるもののその大きさについての直接の記載はなく、噴出速度の記載もない点
で両発明は相違するものと認める。
しかしながら、文献3に開示されるプラスチックを粉状または粒状であり、粉状または粒状を得るための手段として粉砕は周知の技術と認められると共に、空気輸送を行うにあたり、50mm篩全通程度の大きさより細かくして輸送することも、特段の例示を待つまでもなく周知の技術である。さらに、文献3に記載されるものが50mm篩全通程度の大きさより大きな大きさのプラスチックを対象としてのみ成立する発明とは認められない。よって、文献3発明のプラスチックを50mm篩全通程度の大きさに粉砕することは、当業者が容易になし得た事項と認められると共に、本件請求項1に記載の「8m/s」に臨界的意義は認められないので、上記相違点は、周知の技術に基づいて、当業者が容易になし得たものと認める。
そして、本件請求項1に記載された発明の奏する効果も、文献3発明及び周知の技術から予測される以上の格別なものとも認められない。
したがって、本件請求項1に記載された発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

6 むすび
以上説示のとおり、本件請求項1に記載された発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。


なお、特許権者は、本件特許発明案なるものを示しており、これが必ずしも訂正の案としての提示であるかは定かでないものの、訂正案の提示として把握すると、同案は、請求項1の記載を「・・50mm篩全通程度、かつ平均粒径3.7mm以上の大きさに粉砕された熱可塑性樹脂を、噴出速度14〜100m/で投入する・・」をとする案であり、本件明細書の記載は、「噴出速度14」を、「15mm篩全通」と関連する事項として記載するものの、「50mm篩全通」と関連する技術的事項として記載されるものか定かではなく、「平均粒径3.7mm以上」も「50mm篩全通」と関連する技術的事項として記載されるものか定かではないので、案のように訂正することは、必ずしも適法な訂正とはいえない。
しかも、訂正に時期的な制限を設けている法の趣旨からも、敢えて更なる訂正の機会を設けない。
 
異議決定日 2004-10-15 
出願番号 特願平6-156086
審決分類 P 1 651・ 537- ZB (F23G)
P 1 651・ 536- ZB (F23G)
P 1 651・ 121- ZB (F23G)
P 1 651・ 841- ZB (F23G)
P 1 651・ 113- ZB (F23G)
P 1 651・ 161- ZB (F23G)
最終処分 取消  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 長浜 義憲
寺本 光生
登録日 2002-09-27 
登録番号 特許第3355034号(P3355034)
権利者 株式会社トクヤマ
発明の名称 熱可塑性樹脂の燃焼方法  
代理人 土橋 皓  
代理人 中馬 典嗣  
代理人 伊藤 文彦  
代理人 竹沢 荘一  
代理人 斎藤 侑  
代理人 高山 宏志  

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