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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 訂正を認める。無効としない A23L
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない A23L
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 訂正を認める。無効としない A23L
管理番号 1110375
審判番号 無効2003-35152  
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1985-04-17 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-04-16 
確定日 2004-05-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第1471586号発明「食品成形機における圧縮移送機構」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 〔1〕手続の経緯
本件特許第1471586号発明についての出願は、昭和58年年9月19日に特許出願され、昭和63年12月14日に特許権の設定の登録がなされた。本件特許に対し、平成15年4月16日に本件特許無効審判が請求され、答弁書提出期間内の平成15年6月19日に答弁書の提出とともに訂正請求がなされ、再度、同答弁書提出期間内の平成15年7月11日に答弁書、訂正請求取下書(平成15年6月19日の訂正請求について)の提出とともに訂正請求がなされ、平成15年9月11日に特許庁審判廷において口頭審理が行われた。
請求人より口頭審理陳述要領書(差出日15年9月5日)が提出され、口頭審理において、被請求人より口頭審理陳述要領書が提出された。その後、請求人より平成15年10月10日に弁駁書が提出され、被請求人より平成15年10月31日に第2答弁書が提出された。

〔2〕当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、概略、次のように無効理由を主張し、証拠方法として、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証〜甲第10号証を提出している。
(1)無効理由1
本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法123条1項2号に該当し、無効とされるべきである。
(2)無効理由2
本件特許は、特許法36条4項及び5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法123条1項4号に該当し、無効とされるべきである。

甲第1号証:特公昭56-38175号公報
甲第2号証:特公昭52-9753号公報
甲第4号証:平成1年審判第20905号における被請求人の審判請求書
甲第5号証:甲第4号証の審判請求に対する審決書
甲第6号証:本件特許出願に対する拒絶理由通知書および引用公報
甲第7号証:甲第6号証拒絶理由通知書に対する意見書
甲第8号証:本件特許出願公告に対する特許異議申立書および引用公報
甲第9号証:甲第8号証の異議申立書に対する答弁書
甲第10号証:特許異議の決定書

なお、口頭審理において、甲第3号証は、参考資料1と、甲第11号証〜甲第14号証は、それぞれ参考資料2〜5と、甲第15号証の1及び2は、それぞれ参考資料6の1及び6の2と、甲第16号証〜甲第21号証は、それぞれ参考資料7〜12とされた。

2 被請求人の主張
被請求人は、訂正請求を行うとともに、概略、次のように反論し、証拠方法として、乙第1号証〜乙第5号証を提出している。
(1)訂正後の本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)「圧縮と弛緩を交互に行ないながら食品材料を下方へ移送し」なる記載の技術的意味、特に「圧縮と弛緩」の意味は、当業者であれば理解できる。

乙第1号証:会談の議事録コピー
乙第2号証:請求人の寿司ロボット「SSN-DLB」における圧縮移送 機構部の作動状態説明図
乙第3号証:平成15年(ヨ)第22034号特許権侵害差止仮処分命令申立事件における「債務者第3準備書面」
乙第4号証の1:米飯の弾性復元を示す実験写真
乙第4号証の2:上記実験写真の説明「報告書」
乙第5号証:請求人の製品寿司ロボット「SSN-DLB」の作動状態を 示すCD「動画」

〔3〕訂正請求について
1 訂正請求の内容
本件訂正請求の趣旨は、特許第1471586号の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。
訂正事項a
特許請求の範囲第1項の「供給される食品材料を圧縮移送してこれを成形用型内に所定量づつ分給するように設けた食品成形機における圧縮移送機構において、左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置することにより、圧縮と弛緩を交互に行いながら食品材料を下方へ移送し得るように設けてなる」との記載を、
「供給される米飯を圧縮移送してこれを成形用型内に所定量づつ分給するように設けた食品成形機における圧縮移送機構において、左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置することにより、圧縮と弛緩を交互に行いながら米飯を下方へ移送し得るように設けてなり、かつ少なくとも一対の対向する回転ローラには、その周面に凹凸が設けられている」と訂正する。
訂正事項b
明細書2頁15行(本件特許公報1欄25行)の「交互に繰す」との記載を、「交互に繰り返す」と訂正する。
訂正事項C
明細書3頁10行〜4頁1行(本件特許公報2欄5〜12行)の「供給される食品材料を圧縮移送してこれを成形用型内に所定量づつ分給するように設けた食品成形機における圧縮移送機構において、左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置することにより、圧縮と弛緩を交互に行いながら食品材料を下方へ移送し得るように設けてなる」との記載を、
「供給される米飯を圧縮移送してこれを成形用型内に所定量づつ分給するように設けた食品成形機における圧縮移送機構において、左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置することにより、圧縮と弛緩を交互に行いながら米飯を下方へ移送し得るように設けてなり、かつ少なくとも一対の対向する回転ローラには、その周面に凹凸が設けられている」と訂正する。
訂正事項d
明細書4頁8行(本件特許公報2欄18行)の「下板21」との記載を、「下板」と訂正する。
訂正事項e
明細書5頁12行(本件特許公報3欄19行)の「材料が」との記載を、「材料米飯が」と訂正する。
訂正事項f
明細書7頁10行(本件特許公報4欄4行)の「材料は」との記載を、「材料米飯は」と訂正する。
訂正事項g
明細書7頁11行(本件特許公報4欄6行)の「材料」との記載を、「材料米飯」と訂正する。
訂正事項h
明細書8頁1行(本件特許公報4欄11行)の「材料」との記載を、「材料米飯」と訂正する。
訂正事項i
明細書8頁11行(本件特許公報4欄20行)の「材料」との記載を、「材料米飯」と訂正する。
訂正事項j
明細書8頁16行(本件特許公報4欄24行)の「材料」との記載を、「材料米飯」と訂正する。
訂正事項k
明細書9頁15行(本件特許公報4欄37行)の「材料」との記載を、「材料米飯」と訂正する。

2 訂正の適否
上記訂正について検討する。
訂正事項aは、特許請求の範囲第1項において、食品材料を「米飯」と限定し、左右複数個の回転ローラについて、「少なくとも一対の対向する回転ローラには、その周面に凹凸が設けられている」と構成を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、この訂正は、願書に添付した明細書1頁16行(本件特許公報1欄11行)の「本発明は食品特に米飯を主材料として」との記載、同明細書6頁13行(本件特許公報3欄36行)の「材料米飯」との記載、及び同明細書5頁6行(本件特許公報3欄5〜13行)の「回転ローラ31〜38は、シャリを確実に移送するためにその周面に凹凸を設けておくことが好ましい。この凹凸は複数本のローレット溝、複数本の突条部、複数個の突起等により形成すればよく、また、凹凸をすべての回転ローラ31〜38に設けてもよいし、一部の回転ローラ例えば材料通路が急激に狭くなる回転ローラ32,36のみに設けてもよい。」との記載に基づくものであるから、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

訂正事項b及びdは、誤記の訂正を目的とする訂正であり、訂正事項cは、特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためにする訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であり、訂正事項e〜kは、発明の詳細な説明に記載された「材料」との記載を、願書に添付した明細書6頁13行(本件特許公報3欄36行)の「材料米飯」との記載に基づいて、より明確にしたものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正である。そして、これらの訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

したがって、上記訂正事項a〜kの訂正は、平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項ただし書、及び、同条5項において準用する同改正前の特許法126条2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

〔4〕無効理由の検討
1 無効理由2について
(1)請求人は、特許法36条4項及び5項に規定する要件を満たしていない理由として、概略、次のように主張する。
ア 本件特許明細書の特許請求の範囲の「圧縮と弛緩を交互に行いながら食品材料を下方へ移送し」との事項の技術的意味が明確ではなく、特に、「弛緩」の意味について、発明の詳細な説明に「圧力弛緩の際における圧力降下は主として材料の中心部の開放に作用し、その外表部における米飯相互の密着性は損なわれないのである。」と記載されているが、食品材料が上下の回転ローラと回転ローラを移行する際に中心部においてこのような変化(作用)が実際に起きていることは確認されておらず、「弛緩」の技術的意義は不明である。
人手によりシャリを握る場合、同じ硬さの握りずしに段階的に調整するために人手で繰り返し圧縮するが、「圧縮」と「弛緩」が交互に行われるか否かなどは無関係である。本件特許は、このような人手によるシャリの握りを機械により実現しようとするものでり、「圧縮」のみの機能で充分であり、「弛緩」は、不必要な要素である。
イ 本件特許明細書の発明の詳細な説明に、「左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置することにより」によって、「圧力弛緩の際における圧力降下は主として材料の中心部の開放に作用し、その外表部における米飯相互の密着性は損なわれないのである。これはあたかも、人手による米飯の圧縮・弛緩の反復によるシヤリ成形の際の作用に相当するものである。」と記載されているが、これは経験豊富なベテラン寿司職人による寿司握り技術を表現したものであり、それを裏付けるデータの提示もなく、単なるローラ間を米飯を移送させただけでは、そのような握りは得られるものではなく、出願当時の技術水準からみて当業者が正確に理解でき、再現できる程度に記載されているとは言い難い。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の「本発明によれば、材料の圧縮移送工程において圧縮と弛緩が交互に反復されるので、人手による直接のシヤリ成形のものと同様の仕上りを機械的に得られる・・・」との効果は、その前提となる作用が不明である以上、当該効果を発揮するものとは認められず、発明の詳細な説明の効果の欄も、当業者が容易に実施し得る程度に記載されていない。

(2)平成15年7月11日付けの訂正請求書に添付された訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の「圧縮と弛緩を交互に行いながら米飯を下方へ移送し」との事項の技術的意味が明確であるのか否かについて検討する。
訂正明細書の特許請求の範囲には、
「供給される米飯を圧縮移送してこれを成形用型内に所定量づつ分給するように設けた食品成形機における圧縮移送機構において、左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置することにより、圧縮と弛緩を交互に行いながら米飯を下方へ移送し得るように設けてなり、かつ少なくとも一対の対向する回転ローラには、その周面に凹凸が設けられている食品成形機における圧縮移送機構。」
と記載されている。
上記特許請求の範囲の記載の文脈から判断すると、「圧縮移送機構」は、「左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置することにより、圧縮と弛緩を交互に行いながら米飯を下方へ移送し得るように設けて」なるものであり、「圧縮と弛緩を交互に行いながら米飯を下方へ移送」することの主語に当たるのは、「圧縮移送機構」である。「圧縮と弛緩を交互に行いながら」は、圧縮移送機構の米飯への作用を表現したものであり、「圧縮」と「弛緩」は、米飯に起きる現象を表現したものではない。
「圧縮と弛緩を交互に行いながら米飯を下方へ移送し」は、言い換えると、「圧縮移送機構は、米飯に対し圧縮と弛緩を交互に行いながら米飯を下方へ移送し」ということになる。
そして、圧縮移送機構が、圧縮と弛緩を交互に行いながら米飯を下方へ移送するのは、「左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置することにより」行われるから、圧縮移送機構が圧縮を行うというのは、上から順次対向間隔が狭くなるように対向配置された左右の回転ローラ間を米飯が通過する際に、米飯に横方向の押圧力を加えることを表現したものであると解することができ、また、圧縮移送機構が弛緩を行うというのは、回転ローラ間を米飯が通過した後、次の回転ローラ間に至るまでの間の経路の幅が広がっていることにより、米飯に加える押圧力が弛むことを表現したものと解することができる。
このように解することは、例えば、訂正明細書3頁14〜16行の「これはあたかも、人手による米飯の圧縮・弛緩の反復によるシャリ成形の際の作用に相当するものである。」との記載に照らしても妥当な解釈である。
すなわち、寿司職人などの人手によるシャリ成形は、普通、米飯に指を押し付けて米飯に押圧力を加えることと、米飯から指をはなして、米飯への押圧力を弛めることを繰り返すことにより行われるものであり、この繰り返しを「圧縮・弛緩の反復」と称していることからも、特許請求の範囲の記載における「圧縮」は、米飯に押圧力を加えること、「弛緩」は、押圧力を弛めることとの意味で用いられていると解することができる。
また、「圧縮と弛緩を交互に行」うことは、左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置していることから明らかである。
以上のように、特許請求の範囲の記載における「圧縮と弛緩を交互に行いながら米飯を下方へ移送し」との事項の技術的意味を合理的に解釈することができ、その技術的意味は明確である。

(3)次に、発明の詳細な説明の記載について検討する。
訂正明細書の発明の詳細な説明に「本発明は……その目的は、供給される米飯を圧縮移送してこれを成形用型内に所定量づつ分給するように設けた食品成形機における圧縮移送機構において、左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置することにより、圧縮と弛緩を交互に行いながら米飯を下方へ移送し得るように設けてなり、かつ少なくとも一対の対向する回転ローラには、その周面に凹凸が設けられている食品成形機における圧縮移送機構、によって達成される。」(訂正明細書25行〜2頁3行)と、訂正後の本件特許発明の構成が記載されている。
この記載は、特許請求の範囲と同じであり、上記(2)で述べたように、この記載における「圧縮」は、圧縮移送機構が、上から順次対向間隔が狭くなるように対向配置された左右の回転ローラ間を米飯が通過する際に、米飯に横方向の押圧力を加えることを表現したものであって、米飯に押圧力を加えるとの意味であり、また、「弛緩」は、圧縮移送機構が、回転ローラ間を米飯が通過した後、次の回転ローラ間との間の経路の幅が広がっていることにより、米飯に加える押圧力が弛むことを表現したものであって、押圧力を弛めるとの意味であると解され、発明の詳細な説明において、「圧縮」及び「弛緩」の意味は明確である。
発明の詳細な説明には、さらに「いま、ホッパ2から材料米飯が材料通路の上方へ供給されると、まず回転ローラ31と35により下方へ移送されつつ一次圧縮がなされ、その最狭部L1を通過すると弛緩状態となり、次いで回転ローラ32と36により二次圧縮され、その最狭部L2を通過すると再び弛緩状態となる。その後も同様に三次、四次の圧縮と弛緩が交互に繰り返された後、材料通路の下端において所定の太さとされてカッタ4により分割され、下方の成形用シリンダ孔51内に分給される(第4図)。この数次にわたる圧縮により、通路内の材料米飯は徐々に圧縮密度が高くなるが、圧力弛緩の際における圧力降下は主として材料米飯の中心部の開放に作用し、その外周部における米飯相互の密着性は損なわれないのである。これはあたかも、人手による米飯の圧縮・弛緩の反復によるシャリ成形の際の作用に相当するものである。従って、カッタ4によって分給される材料米飯は人手によるものと殆んど同様の締まり具合となって供給されるものである。」(訂正明細書3頁5〜17行)と、訂正後の本件特許発明の作用が記載されており、「圧縮」及び「弛緩」の意味を上記のように解することは、この記載によっても裏付けられている。
そして、上記発明の詳細な説明の記載における「圧力弛緩の際における圧力降下は主として材料米飯の中心部の開放に作用し、その外周部における米飯相互の密着性は損なわれないのである。これはあたかも、人手による米飯の圧縮・弛緩の反復によるシャリ成形の際の作用に相当するものである。」(訂正明細書3頁13〜16行)との記載は、データの提示がなくとも、訂正後の本件特許発明における「圧縮」と「弛緩」が、人手による米飯の圧縮と弛緩に相当する働きをしていることを述べていると理解でき、また、この記載により訂正後の本件特許発明の理解が妨げられることもない。
したがって、訂正明細書の発明の詳細な説明には、訂正後の本件特許発明の構成は明確に記載されており、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていないとはいえない。

また、発明の詳細な説明の「本発明によれば、材料の圧縮移送工程において圧縮と弛緩が交互に反復されるので、人手による直接のシヤリ成形のものと同様の仕上りを機械的に得られる……」(訂正明細書3頁25〜27行)との記載は、訂正後の本件特許発明の効果を記載したものとして理解でき、訂正後の本件特許発明の実施を妨げるものでもなく、訂正後の本件特許発明の効果が当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていないとすることはできない。
なお、請求人は、訂正後の本件特許発明は、圧縮移送機構に関するものであって、「人手による直接のシャリ成形のものと同様の仕上がりを機械的に得る」ためには、圧縮移送後に成形機構を経て初めて可能となるものであるが、特許請求の範囲には、成形機構に関する記載がないから、上記効果の記載は、訂正後の本件特許発明に対応して記載されてないと主張するが、上記記載は、圧縮移送後の成形の如何にかかわらず、圧縮移送機構における圧縮と弛緩の反復により、人手による圧縮と弛緩の反復によるシヤリ成形のものと同様の仕上りを機械的に得られることを述べていると解することができ、そのように解することが必ずしも不合理であるとはいえないので、請求人の主張は採用できない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許は特許法36条4項及び5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとすることはできない。

2 無効理由1について
(1)訂正後の本件特許発明の要旨
訂正後の本件特許第1471586号発明(以下、「訂正後の本件特許発明」という。)の要旨は、平成15年7月11日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の第1項に記載されたとおりの次のものと認める。
「供給される米飯を圧縮移送してこれを成形用型内に所定量づつ分給するように設けた食品成形機における圧縮移送機構において、
左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置することにより、圧縮と弛緩を交互に行いながら米飯を下方へ移送し得るように設けてなり、かつ少なくとも一対の対向する回転ローラには、その周面に凹凸が設けられている食品成形機における圧縮移送機構。」

(2)甲第1号証及び甲第2号証の記載事項
(2-1)甲第1号証には、以下の記載がある。
a「1 原料投入ホッパーと、該ホッパーに連設された定量分割機構と、該定量分割機構の下方に位置しかつその分割されて落下する原料を受容するための成形シリンダ孔が複数個円陣状に列設されたターンテーブルと、該成形シリンダ孔のそれぞれに摺動自在に嵌挿された押圧ピストンと、該ターンテーブルの1回転中に上記ピストンに所定の摺動サイクルを付与するためのピストン案内機構と、上記ピストンと対応して原料を上方から圧縮成形するための押え付け機構と、上記ターンテーブルを間歇的に水平回転させる駆動機構と、該駆動機構を支持する基台ケーシングとからなる食品自動成形機。」(特許請求の範囲第1項)
b「本発明は食品特に米飯を主材料として成形される食品、例えば握り寿司やおにぎり等原則として人手によつて成形される食品を機械的に連続して自動的に成形するものに関する。」(2欄29〜32行)
c「第2図および第3図には定量分割機構4とターンテーブル5の構造および関係が示されている。定量分割機構4はホッパー2からの原料を所定の太さに下方へ送るための送り筒41と該送り筒41の下端部において原料を所定の長さに分割するための上下一組の分割盤42,43およびその回転駆動軸44からなつている。」(3欄20〜26行)
d「送り筒41内を上方から送り込まれる原料例えば米飯は第3図において上分割盤42の分割孔42aを通過して内孔411下端の分割室411aに入り、下分割盤43上面に至つて停止する。この後、上下の分割盤42,43が同時に回転せしめられると、内孔411部における上下分割孔42a,43aの位置関係が逆となり、……内孔411内部の米飯は上分割孔42aのエツジにより切断分割され、分割室411aにある米飯のみが下分割孔43aから下方に落下する。……この分割工程において、米飯は自重により送り筒41内を順次下降するが、第3図に示すように送り筒41の適所にバイブレータ45を設置することにより円滑な米飯下降を促すことが望ましい。しかも、このバイブレータ45の振動により米飯は適度な密度に圧縮されるとともに米飯粒が或る程度整列され、その状態が握り寿司独特の歯触りに近いものとなる効果がある。」(3欄40行〜4欄18行)

以上の記載及び第1図〜第3図によれば、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「原料投入ホッパー2からの米飯を所定の太さに下方へ、米飯を所定の長さに分割して成形シリンダ孔内に落下させるように設けた食品成形機における移送機構において、
送り筒41の適所にバイブレータ45を設置し、バイブレータ45の振動により、送り筒41内に上方から送り込まれる米飯の下降を促し、米飯を順次下降させ、米飯を適度な密度に圧縮する食品成形機における移送機構。」

(2-2)甲第2号証には、パン生地の分割成形法に関する発明が記載されており、次の記載がある。
e「第1図は、本発明の全工程の概要であるが、1は生地ホツパーであり、供給されたパン生地2は、多段に組まれたローラー装置3または別の方法によつて、厚さ10粍ないし20粍程度の厚さの連続した帯状生地4……に成形されて、ベルトコンベアー5によつて運ばれ、次工程に至る。」(2欄1〜7行)
そして、第1図には、左右複数個のローラー装置3を、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置した生地ホッパー1からパン生地が下方へ移送されている様子が描かれている。
以上のことから、甲第2号証には、
「左右複数個多段に組まれたローラー装置を、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置し、パン生地を下方へ移送し得るように設けたパン生地の移送機構」
が記載されているものと認められる。

(3)対比・判断
訂正後の本件特許発明と甲第1号証記載の発明とを対比する。
甲第1号証記載の発明の「原料投入ホッパー2からの米飯」、「送り」及び「米飯を所定の長さに分割して成形シリンダ孔内に落下させる」は、それぞれ訂正後の本件特許発明の「供給される米飯」、「移送」及び「これを成形用型内に所定量づつ分給する」に相当するから、両者は、
「供給される米飯を移送してこれを成形用型内に所定量づつ分給するように設けた食品成形機における移送機構」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点
訂正後の本件特許発明は、米飯を圧縮移送する圧縮移送機構であって、左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置することにより、圧縮と弛緩を交互に行いながら米飯を下方へ移送し得るように設けてなり、かつ少なくとも一対の対向する回転ローラには、その周面に凹凸が設けられているのに対し、甲第1号証記載の発明は、送り筒41の適所にバイブレータ45を設置し、バイブレータ45の振動により、送り筒41内に上方から送り込まれる米飯の下降を促し、米飯を順次下降させ、米飯を適度な密度に圧縮する、米飯を移送する移送機構である点。

そこで、上記相違点について検討する。
甲第2号証には、左右複数個のローラー装置を、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置することにより、パン生地を下方へ移送し得るように設けたパン生地の移送機構、が記載されており、相違点における訂正後の本件特許発明の「左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置する」との構成が記載されている。
そして、甲第2号証記載の移送機構も、左右の回転ローラ間をパン生地が通過する際に、パン生地に横方向の押圧力を加え、回転ローラ間をパン生地が通過した後、次の回転ローラ間に至るまでの間の経路の幅が広がっていることにより、パン生地に加える押圧力が弛み、しかも、ローラー装置が多段に組まれていることにより、押圧力を加えることと、押圧力が弛むこととを交互に行いながらパン生地を下方へ移送する、すなわち、圧縮と弛緩を交互に行いながらパン生地を下方へ移送しているということができる。
しかしながら、甲第2号証記載の移送機構において移送される食品材料は、パン生地であり、小麦粉にイースト菌や水を加えて混捏してペースト状にした連続体である。
一方、甲第1号証記載の発明の移送機構において移送される食品材料は、米飯であり、炊き上げた飯粒の集合体を撹拌等により解きほぐしたものであって、飯粒相互の間に無数の大きな空間が存在している不連続体である。
米飯は、飯粒相互の間に無数の大きな空間が存在している不連続体であるから、引っ張ると容易に分離するものであり、左右複数の回転ローラ間に供給され移送されると、ローラの牽引力により分離することも容易に予想される。
このように、パン生地と米飯とでは、材料、性状が全く異なるものであり、米飯を対象とせず、また米飯を対象とすることを示唆するものでもない甲第2号証記載の移送機構が、不連続体である米飯を連続体であるパン生地と同様に適切に移送することができることを当業者が予測し得たとはいえない。
また、パン生地は、内部に閉鎖した気泡を有する連続体であって、押圧力の付与により一時的に気泡が縮小し、その密度が上昇しても、押圧力の弛緩により気泡が元にもどり、密度も押圧前のものと同じになるのに対し、本件訂正後の特許発明において移送の対象としている米飯は、飯粒相互の間に無数の大きな密閉されてない空間が存在する不連続体であって、押圧力の付与により空間が縮小すると気体が逃げ、押圧力を弛緩させても、その密度は元には戻らず、押圧力付与前に比べて上昇したものになる。このような、左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置して、移送対象物を下方へ移送することにより、密度を適当なものとすることができるという訂正後の本件特許発明の作用効果は、移送対象が米飯のときに初めて期待できるものであって、パン生地を対象としたものからは到底窺い知ることのできない作用効果である。
そうしてみると、甲第2号証記載の移送機構を、甲第1号証記載の発明における米飯の移送に適用しようとする動機付けがなく、しかも、相違点の構成により、訂正後の本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明から予測し得ない格別の作用効果を奏するものであるから、相違点における訂正後の本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、訂正後の本件特許発明は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

〔5〕むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、訂正後の本件特許発明についての特許を無効とすることはできない。
審判費用は、特許法169条2項の規定において準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
食品成形機における圧縮移送機構
(57)【特許請求の範囲】
1 供給される米飯を圧縮移送してこれを成形用型内に所定量づつ分給するように設けた食品成形機における圧縮移送機構において、
左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置することにより、圧縮と弛緩を交互に行いながら米飯を下方へ移送し得るように設けてなり、かつ少なくとも一対の対向する回転ローラには、その周面に凹凸が設けられている食品成形機における圧縮移送機構。
【発明の詳細な説明】
本発明は食品特に米飯を主材料として成形される食品、例えば握り寿司やおにぎり等原則として人手によって成形される食品を、機械的に連続して自動的に成形する装置における原材料の圧縮移送機構に関する。この種の移送機構として、本発明者は既に特公昭56-38175号に記載のものを提案したが、該機構のものは粘性の強い米飯の圧縮不足や圧縮のし過ぎにより、一定量づつ材料通路をスムーズに通過せず、また締まり過ぎの堅い成形仕上りとなる等の欠点を有していた。一般に握り寿司のシャリは外周付近は強く締まり、内部はほど良く締まったものが良い握り方であるとされ、そのため人手による場合は掌中で米飯を適宜の力加減で締め緩めを交互に繰り返すものである。その点、従来の自動成形機における圧縮は振動方式によるもの又は左右ベルトによるものが見られるが、圧縮力を徐徐に強めるだけであるため、あるときは全体的に圧縮不足となり、あるときは全体的に圧縮し過ぎとなるだけで、上記の人手による場合のほど良い仕上りとすることは不可能であった。
本発明は上記のような欠点を除去するために提供されたものであり、その目的は、供給される米飯を圧縮移送してこれを成形用型内に所定量づつ分給するように設けた食品成形機における圧縮移送機構において、左右複数個の回転ローラを、上から順次対向間隔が狭くなるように上下方向2列に対向配置することにより、圧縮と弛緩を交互に行いながら米飯を下方へ移送し得るように設けてなり、かつ少なくとも一対の対向する回転ローラには、その周面に凹凸が設けられている食品成形機における圧縮移送機構、によって達成される。
次に本発明を図面に示された実施例に従って、更に詳しく説明することとする。
第1図には本発明に係る圧縮移送機構を適用した寿司成形機1が示されている。2は原材料投入用のホッパ、21は該ホッパ2の下板の排出端板、23はホッパ2内で回転可能に配設された材料撹拌兼送り棒、31〜38は上記排出端板21の下方において上下方向に2列に対向配置された左右複数個の回転ローラであり、該回転ローラ31と35,32と36,33と37,34と38がそれぞれ対となって対向しており、矢印方向に回転せしめられる。各対となる回転ローラの対向間隔L1,L2,L3,L4は上から順次に狭くなるように形成されている。尚、この対向間隔L1〜L4は固定的なものとしてもよいが、回転ローラの回転軸を左右に可動のものとして間隔を調整し得るものとしてもよい。
而して、材料通路は上方から下方への略先細状に形成される。
回転ローラ31〜38は、シャリを確実に移送するためにその周面に凹凸を設けておくことが好ましい。
この凹凸は複数本のローレット溝、複数本の突条部、複数個の突起等により形成すればよく、また、凹凸をすべての回転ローラ31〜38に設けてもよいし、一部の回転ローラ例えば材料通路が急激に狭くなる回転ローラ32,36のみに設けてもよい。
4は材料通路の下端に配設された鋏状のカッタ、5は原動機5aにより回動せしめられる成形用ターンテーブルであり、円陣状に形成された成形シリンダ孔(第3図)がカッタ4の下方に順次位置するように間歇的に回動せしめられる。Pは前面カバー板であり、材料米飯が材料通路から逸脱しないように回転ローラ31〜38の外方を覆う位置でケーシングCに固定されている。第2図にはII-II線断面図が示されており、31a,32a,33a,34aは左列の回転ローラ31,32,33,34の回転軸、39はローラ用原動機、39aは駆動プーリ。39bは伝達ベルトであり、各回転軸31a〜34aに設けた受動プーリ31b,32b,33b,34bにそれぞれ掛けわたされている。また、右列の回転ローラ35〜38も同様の構成により回転せしめられるが、左列と逆の回転方向となるように設けられている。尚、回転軸31a〜38aは同時に等速で回転するように設けられている。而して、圧縮移送機構3は上記符号31〜38,31a〜38a,31b〜38b,39,39a,39bにより構成されている。
いま、ホッパ2から材料米飯が材料通路の上方へ供給されると、まず回転ローラ31と35により下方へ移送されつつ一次圧縮がなされ、その最狭部L1を通過すると弛緩状態となり、次いで回転ローラ32と36により二次圧縮され、その最狭部L2を通過すると再び弛緩状態となる。その後も同様に三次、四次の圧縮と弛緩が交互に繰り返えされた後、材料通路の下端において所定の太さとされてカッタ4により分割され、下方の成形用シリンダ孔51内に分給される(第4図)。
この数次にわたる圧縮により、通路内の材料米飯は徐々に圧縮密度が高くなるが、圧力弛緩の際における圧力降下は主として材料米飯の中心部の解放に作用し、その外周部における米飯相互の密着性は損なわれないのである。これはあたかも、人手による米飯の圧縮・弛緩の反復によるシャリ成形の際の作用に相当するものである。従って、カッタ4によって分給される材料米飯は人手によるものと殆んど同様の締まり具合となって供給されるものである。
尚、ターンテーブル5に分給された後の成形機構および成形工程は前記特公昭56-38175号に記載のものとしてよい。また、回転ローラ31〜38は間歇的に駆動せしめられるが、そのタイミングは、ターンテーブル5の成形シリンダ孔51がカッタ4の直下に位置して停止し、カッタ4が左右に開放した時に各ローラが回転し、材料米飯を所定量だけカッタ4の下方に送り出した時に回転停止すると共にカッタ4により分割するように適宜の電気回路によってコントロールするものとする。
上記の本発明によれば、材料米飯の圧縮移送工程において圧縮と弛緩が交互に反復されるので、人手による直接のシャリ成形のものと同様の仕上りを機械的に得られるもので、従来の自動成形機に見られない自然な米飯食品の仕上りを味わうことができるものである。しかも、材料通路内での圧縮詰り、飯糊の付着による作動不良、圧縮ベルト切れなどの心配がなく、長時間の稼動に耐えるものである等種々の利点を有する。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明に係る圧縮移送機構を適用した寿司成形機の正面図、第2図は第1図におけるII-II断面図、第3図はターンテーブルの構成を示す一部断面図、第4図は材料米飯の移送状態を示す概略工程図、である。
3……圧縮移送機構、31〜38……回転ローラ、39……原動機、4……カッタ、5……ターンテーブル、L1〜L4……ローラ対向間隔。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2004-03-12 
結審通知日 2004-03-17 
審決日 2004-03-31 
出願番号 特願昭58-172723
審決分類 P 1 112・ 531- YA (A23L)
P 1 112・ 121- YA (A23L)
P 1 112・ 532- YA (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 貞次鈴木 恵理子  
特許庁審判長 鈴木 公子
特許庁審判官 山崎 勝司
山崎 豊
登録日 1988-12-14 
登録番号 特許第1471586号(P1471586)
発明の名称 食品成形機における圧縮移送機構  
代理人 平田 功  
代理人 千田 稔  
代理人 安田 有三  
代理人 近藤 実  
代理人 千田 稔  
代理人 橋本 幸治  
代理人 橋本 幸治  
代理人 近藤 実  

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