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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1111012
審判番号 不服2002-17967  
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-09-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-09-18 
確定日 2005-02-04 
事件の表示 平成11年特許願第 64682号「インクジェット記録ヘッドの駆動方法及びインジェット記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月19日出願公開、特開2000-255062〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年3月11日に出願された特願平11-64682号であって、平成14年8月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年10月17日付けで手続補正がなされ、同年11月1日付けで手続補正(方式)がなされたものである。

2.平成14年10月17日付けの手続補正についての却下の決定

[補正却下の決定]
平成14年10月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]

(1)補正事項
平成14年10月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、以下の補正事項を含むものである。なお、下線は、対比の便のために当審で付したものである。

補正事項a
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における「前記圧力発生室の体積を増加させて前記ノズルのノズル開口部に貯溜されたインクを前記圧力発生室側に引き込むための第一の電圧変化過程」を「前記圧力発生室の体積を増加させて前記ノズルのノズル開口部に貯溜されたインクを前記圧力発生室側に引き込むよう電圧変化時間を圧力波の固有周期よりも小さくした第一の電圧変化過程」と補正する補正事項。

補正事項b
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における「前記圧力発生室の体積を減少させて前記ノズル内に前記ノズルの開口径よりも小さな径を有する液柱を形成し、該液柱の先端からインク滴を分離させることによって微小なインク滴の吐出を行うための第二の電圧変化過程」を「前記圧力発生室の体積を減少させて前記ノズル内に前記ノズルの開口径よりも小さな径を有する液柱を形成し、該液柱の先端からインク滴を分離させることによって微小なインク滴の吐出を行なうよう前記駆動電圧を変化させる第二の電圧変化過程」と補正する補正事項。

補正事項c
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における「前記第一の電圧変化過程の前に、前記ノズル開口部に貯溜されたインクを前記圧力発生室側にわずかに引き込むための準備動作用電圧変化過程」を「前記第一の電圧変化過程の前に、前記第一の電圧変化過程の開始時に前記ノズル開口部に貯溜されたインクを前記圧力発生室側にわずかに引き込む状態に保持するよう前記駆動電圧を変化させる前記準備動作用電圧変化過程」と補正する補正事項。

(2)補正の目的
補正事項aは、「第一の電圧変化過程」について、その電圧変化時間を圧力波の固有周期よりも小さくしたとの限定を課すものであるから、特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とするものである。
補正事項bは、「インク滴の吐出を行う」ことが駆動電圧の変化によって生ずることを明確にするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
補正事項cのうち、「前記圧力発生室側にわずかに引き込む状態に保持するよう前記駆動電圧を変化させる前記準備動作用電圧変化過程」とする補正事項(以下、「補正事項c-1」という。)は、「インクを圧力発生室側にわずかに引き込む」ことが駆動電圧の変化によって生ずることを明確にするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、補正事項b及び補正事項c-1については、平成14年8月15日付けの拒絶査定の備考において、「請求項1乃至4、7及び8記載の発明は、全ての電圧変化過程での電圧変化時間及び全ての電圧保持過程の所定期間が規定されていないので、「微小なインク滴の吐出を行う」ための駆動波形が明確になっておらず、引用文献1記載の発明から請求項1、2、7及び8に係る発明の特定事項、引用文献1及び2記載の発明から請求項3及び4に係る発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得る事項であり、出願人の上記主張は認められない。」と指摘した事項についてするものである。
補正事項cのうち、「前記第一の電圧変化過程の開始時に前記ノズル開口部に貯溜されたインクを前記圧力発生室側にわずかに引き込む」とする補正事項(以下、「補正事項c-2」という。)は、「ノズル開口部に貯溜されたインク」が「圧力発生室側にわずかに引き込」まれる時点を「第一の電圧変化過程の開始時」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とするものである。

(3)独立特許要件
上記(2)で述べたとおり、補正事項a及び補正事項c-2は特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

本件補正後の請求項1には、「前記圧力発生室の体積を増加させて前記ノズルのノズル開口部に貯溜されたインクを前記圧力発生室側に引き込むよう電圧変化時間を圧力波の固有周期よりも小さくした第一の電圧変化過程」と記載されている。
ところで、「圧力波の固有周期」という用語は、特開平10-166579号公報(段落番号0009)に記載されるように、圧力発生室の長さ及びインク中を伝わる音速で決まる周期(以下、「周期A」という。)、あるいは特開2001-63042号公報(段落番号0044、0045、0049)及び特開2000-117969号公報(段落番号0022、0023)に記載されるように、ノズルのイナータンスや音響抵抗、圧力発生室の音響容量で決まる周期(以下、「周期B」という。)のいずれの意味にも用いられる用語である。因みに、いずれの公報にかかる特許出願も出願人は日本電気株式会社であり、本願の出願当時の出願人と同一である。したがって、特許請求の範囲において「圧力波の固有周期」と記載する場合には、当該「圧力波の固有周期」が前述した周期A又は周期Bのいずれであるかを明確にしなければならないが、本件補正後の請求項1にはそのような記載はないし、請求項1の他の記載から読みとることもできない。
本願の発明の詳細な説明には「本実施形態で用いたヘッドの圧力波の固有周期は14μsである。ここでいう固有周期とは、圧電アクチュエータ105で振動板104を振動させて圧力発生室100を圧縮または膨張させたとき、振動板104の体積変化によって生じる内圧の変化が圧力発生室100内部の全体に有効に作用するまでの所要時間のことである。」(段落番号0031)との記載があるが、「圧電アクチュエータ105で振動板104を振動させて圧力発生室100を圧縮または膨張させたとき、振動板104の体積変化によって生じる内圧の変化が圧力発生室100内部の全体に有効に作用するまでの所要時間」が前述した周期Aまたは周期Bのいずれであるかを特定できないため、当該記載を参酌しても「圧力波の固有周期」の意味するところが不明確である。
したがって、本件補正後の請求項1に係る発明は明確でなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合していないため、本件補正後の請求項1に記載の発明は、独立して特許を受けることができない。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定で準用する同法第126条第4項に規定される独立特許要件を満たしていないものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定によって却下すべきものである。

3.本願発明について
平成14年10月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項4に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成13年7月18日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、請求項4は請求項1を引用する引用形式で記載されているから、請求項4を独立形式に整理した上で本願発明を認定した。

「圧力発生室内の圧力を変化させる電気機械変換器に駆動電圧を印加して、インクが充填された圧力発生室内に圧力変化を生じさせることによって、前記圧力発生室に連絡したノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドの駆動方法であって、
前記駆動電圧の電圧波形が、前記圧力発生室の体積を増加させて前記ノズルのノズル開口部に貯溜されたインクを前記圧力発生室側に引き込むための第一の電圧変化過程と、前記圧力発生室の体積を減少させて前記ノズル内に前記ノズルの開口径よりも小さな径を有する液柱を形成し、該液柱の先端からインク滴を分離させることによって微小なインク滴の吐出を行うための第二の電圧変化過程とを有し、
前記第一の電圧変化過程の前に、前記ノズル開口部に貯溜されたインクを前記圧力発生室側にわずかに引き込むための準備動作用電圧変化過程を備え、前記準備動作用電圧変化過程が、前記圧力発生室の体積を減少させるための電圧変化過程と、その後、所定期間だけ電圧を保持してインク滴を前記圧力発生室側にわずかに引き込むための電圧保持過程とを有することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの駆動方法。」

(1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前日本国内において頒布された刊行物である、特開平11-20165号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

ア.段落番号0045〜0049
「ピエゾ素子PEの駆動電極131、134間に電圧を印可して電荷を付加すると、ピエゾ素子PEは、収縮して圧力発生室132の容積は縮小し、逆に電荷を放電すると、ピエゾ素子PEは、伸張して圧力発生室132の容積は増大する。圧力発生室132が膨張すると、圧力発生室132内の圧力は低下して共通のインク室141から圧力発生室132内にインクが流入する。ピエゾ素子PEに電荷を付加すると、圧力発生室132の容積は縮小し、圧力発生室132内の圧力が短時間に上昇して圧力発生室132内のインクがノズル開口Nzを介して外部に吐出される。このとき、インク滴IPが外部に吐出される。
ところで、このように構成されたインクジェット記録用の印字ヘッド28では、ノズルNzに至る流路に存在するインクは、圧力発生室132の圧力の変化に伴って、流体として振動現象を起こす。この振動には、少なくとも2種類の固有振動が存在する。ひとつは、インク滴を吐出した後、インク界面であるメニスカスが揺れ戻す比較的長い周期の振動である。これを固有振動(周期Tm)と呼ぶ。もう一つは、圧力発生室132の存在により流体に生じるヘルムホルム共振と呼ばれる振動であり、固有振動と比べると比較的周期の短い振動(周期Tc)である。この圧力発生室132のヘルムホルム共振周波数fは、圧力発生室132のインクの圧縮性に起因する流体コンプライアンスをCi、また圧力発生室132を形成している第1の蓋部材130やピエゾ素子PE等の材料自体による剛性コンプライアンスをCv、ノズル開口123のイナータンスをMn、インク供給口137のイナータンスをMsとすると、次式(1)で示される。
f=1/(2π)×√{(Mn+Ms)/(Mn×Ms)/(Ci+
Cv)} … (1)
また、メニスカスのコンプライアンスをCnとすると、インク流路の粘性抵抗を無視すれば、メニスカスの固有振動周期Tmは次式(2)で示される。
Tm=2π×√{(Mn+Ms)Cn} … (2)」

イ.段落番号0063〜0066
「実施例おける駆動信号を構成する各パルスについて図11を用いて説明する。まず、駆動信号は、一つの記録画素に対応した記録周期において、大きく分けて第1パルスと第2パルスとから構成されている。第1パルスは、その電圧値が中間電位Vmからスタートし(T11)、最大電位VPまで一定の勾配で上昇し(T12)、最大電位VPを所定時間だけ維持する(T13)。次に、第1パルスは第1の最低電位VLSまで一定の勾配で下降し(T14)、最低電位VLSを所定時間だけ維持する(T15)。第1パルスの電圧値は、その後、最大電位VPまで一定の勾配で再び上昇し(T16)、最大電位VPを所定時間だけ維持する(T17)。その後、第1パルスは中間電位Vmまで一定の勾配で下降する(T18)。
ここで、充電パルスT12がピエゾ素子PEに印加されると、ピエゾ素子PEは圧力発生室132の容積を収縮させる方向にたわみ、圧力発生室132内に正圧を発生させる。その結果、メニスカスはノズル開口123から盛り上がる。充電パルスT12の電位差が大きく、電圧勾配が急峻な場合には、充電パルスT12にてインク滴を吐出させることも可能であるが、本実施例においては充電パルスT12にてインク滴が吐出されない範囲に充電パルスT12の電位差を設定している。本実施例においては更に、充電パルスT12の充電時間は、メニスカスがヘルムホルツ周期Tcの振動を励起しないようにTc以上の期間(この実施例ではTcと実質的に同一の期間)に設定されている。
充電パルスT12で盛り上がったメニスカスは、ホールドパルスT13が印加されている間、インクの表面張力により周期Tmの振動でノズル開口123内へと戻る動きに転ずる。放電パルスT14を印加するとピエゾ素子PEは圧力発生室132を膨張させる方向にたわみ、圧力発生室132内に負圧が生じる。この負圧によるノズル開口123内部へのメニスカスの動きは、上記の周期Tmの振動に重畳されて、メニスカスはノズル開口123の内部に大きく引き込まれる。このように、メニスカスがノズル開口123の内部に向かうタイミングで放電パルスT14を印加することで、比較的小さな放電パルスT14の電位差でもメニスカスをノズル開口123の内部に大きく引き込むことができる。本実施例では、ホールドパルスT13の継続時間をTmの約1/2とすることで、上記のようなメニスカスの引き込みを保証している。
メニスカスが引き込まれた状態から充電パルスT16が印加されると圧力発生室132に正圧が発生してメニスカスがノズル開口123から盛り上がる。このとき、メニスカスはノズル開口123の内部に大きく引き込まれているので、正圧方向の圧力が加わっても、吐出されるインク滴は微小なインク滴にとどまることになる。」

上記イ.の記載(「駆動信号は、・・・大きく分けて第1パルスと第2パルスとから構成されている。第1パルスは、・・・最大電位VPまで一定の勾配で上昇し(T12)・・・第1の最低電位VLSまで一定の勾配で下降し(T14)、最低電位VLSを所定時間だけ維持する(T15)。」、「放電パルスT14を印加するとピエゾ素子PEは圧力発生室132を膨張させる方向にたわみ、圧力発生室132内に負圧が生じる。」及び「メニスカスが引き込まれた状態から充電パルスT16が印加されると圧力発生室132に正圧が発生してメニスカスがノズル開口123から盛り上がる。このとき、メニスカスはノズル開口123の内部に大きく引き込まれているので、正圧方向の圧力が加わっても、吐出されるインク滴は微小なインク滴にとどまることになる。」)からみて、「ピエゾ素子」は駆動信号たる電圧、すなわち駆動電圧が印加されて圧力発生室内の圧力を変化させ、圧力発生室内に充填されたインクをノズルから吐出するものである。
また、圧力発生室に正圧を発生させることによってノズルからインク滴が吐出されるのであるから、圧力発生室とノズルとが連絡していることは自明である。

これらア.及びイ.を含む引用例の全記載並びに図示からみて、引用例には、以下の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明」という。)。

「圧力発生室内の圧力を変化させるピエゾ素子に駆動電圧を印加して、インクが充填された圧力発生室に圧力変化を生じさせることによって、前記圧力発生室に連絡したノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドの駆動方法であって、
前記駆動電圧の電圧波形が、前記圧力発生室の容積を縮小させるためのヘルムホルツ周期Tc以上の期間に設定された充電パルスT12と、メニスカス固有振動周期Tmの約1/2の期間だけ電圧を維持するホールドパルスT13と、前記圧力発生室を膨脹させてメニスカスをノズル開口内部に引き込むための放電パルスT14と、メニスカスがノズル開口内部に引き込まれた状態から前記圧力発生室の容積を縮小させて微少なインク滴の吐出を行うための充電パルスT16とを有するインクジェット記録ヘッドの駆動方法。」

(2)対比
本願発明と引用発明を対比する。

引用発明における「ピエゾ素子」は、上記ア.に記載されるよう電荷の負荷・放電に応じて収縮・伸長するものであるから、本願発明における「電気機械変換器」に相当する。

引用発明における「放電パルスT14」は、圧力発生室を膨脹させてメニスカスをノズル開口内部に引き込むためのものであり、メニスカスをノズル開口内部に引き込むということは、即ちインクを圧力発生室側に引き込むことである。また、図9にも図示されているように、電圧を印可する前はメニスカスはノズル開口に留まっているのであるから、「放電パルスT14」によって引き込まれるインクは、当初、ノズル開口に貯溜しているインクということができる。したがって、引用発明と本願発明は、「圧力発生室の体積を増加させてノズルのノズル開口部に貯溜されたインクを圧力発生室側に引き込むための第一の電圧変化過程」を有する点で一致する。

引用発明における「充電パルスT16」は、圧力発生室の容積を縮小させて微少なインク滴の吐出を行うためのものであるから、引用発明と本願発明は、「圧力発生室の体積を減少させて微少なインク滴の吐出を行うための第二の電圧変化過程」を有する点で一致する。

引用発明における「充電パルスT12」及び「ホールドパルスT13」は、放電パルスT14(本願発明における「第一の電圧変化過程」に相当。)の前にピエゾ素子に印加されるものであるから、引用発明と本願発明は、「第一の電圧変化過程の前に、圧力発生室の体積を減少させるための電圧変化過程と、その後、所定期間だけ電圧を保持する電圧保持過程」を有する点で一致する。

したがって、両者は、
「圧力発生室内の圧力を変化させる電気機械変換器に駆動電圧を印加して、インクが充填された圧力発生室内に圧力変化を生じさせることによって、前記圧力発生室に連絡したノズルからインク滴を吐出させるインクジェット記録ヘッドの駆動方法であって、
前記駆動電圧の電圧波形が、前記圧力発生室の体積を増加させてノズルのノズル開口部に貯溜されたインクを前記圧力発生室側に引き込むための第一の電圧変化過程と、前記圧力発生室の体積を減少させて微小なインク滴の吐出を行うための第二の電圧変化過程とを有し、
前記第一の電圧変化過程の前に、前記圧力発生室の体積を減少させるための電圧変化過程と、その後、所定期間だけ電圧を保持する電圧保持過程とを有することを特徴とするインクジェット記録ヘッドの駆動方法。」
において一致し、次の点で一見相違する。

[相違点1]
本願発明における「第二の電圧変化過程」は、ノズル内にノズルの開口径よりも小さな径を有する液柱を形成し、該液柱の先端からインク滴を分離させることによって微小なインク滴の吐出を行うためのものであるのに対して、引用発明における「充電パルスT16」が、ノズル開口径よりも小さな径を有する液柱を形成するためのものであるか否かは明記されていない点。

[相違点2]
本願発明では、所定期間だけ電圧を保持する「電圧保持過程」を有することにより、ノズル開口部に貯溜されたインクを圧力発生室側にわずかに引き込んでいるのに対して、引用発明では、メニスカス固有振動周期Tmの約1/2の期間だけ電圧を維持する「ホールドパルスT13」を有するものの、この「ホールドパルスT13」によってノズル開口部に貯溜されたインクが圧力発生室側にわずかに引き込まれているか否かは不明な点。

(3)判断
上記相違点について検討する。

相違点1について
メニスカスをノズル開口内部に引き込んだ後、圧力発生室の体積を減少させることにより、ノズル内にノズルの開口径よりも小さな径を有する液柱を形成し、当該液柱の先端からインク滴が分離させることによって微少なインク滴の吐出を行うことは、従来周知(例えば、特開平5-318731号公報(段落番号0022〜0025、図12〜図18)、特開平9-327908号公報(段落番号0018〜0022、図27)参照。)である。そして、引用発明の「充電パルスT16」においても、メニスカスをノズル開口内部に引き込んだ後、圧力発生室の容積を縮小させて微少なインク滴の吐出を行うものであるから、この「充電パルスT16」の印加タイミングや継続時間等を適宜調整することにより、ノズル内にノズルの開口径よりも小さな径を有する液柱を形成し、当該液柱の先端からインク滴が分離させることによって微少なインク滴の吐出を行うようにすることは、当業者であれば容易に想到できることである。

相違点2について
まず、本願の発明の詳細な説明には、本願発明の実施例について「電圧保持過程7bの間に、メニスカス3はインクの表面張力の作用によって圧力発生室100側へと変位し、点Cの時点(t=t8+t9)では、メニスカス3はノズル101の開口面のごく近傍、またはノズル101の内部にわずかに引き込まれた地点に位置することになる。つまり、表面張力によるメニスカス3の振動を強制的に励起させることにより、初期のメニスカス形状にかかわらず、第一の電圧変化過程1が印加される時点(点C)において、メニスカス形状が凸になることを防ぐことができる。・・・準備動作用電圧変化過程7の前半を形成する電圧変化過程7aの電圧変化時間(t8=30μs)は、圧力波の固有周期(この実施形態では14μs)よりも十分長く設定されているため、図4の点Aおよび点Bでは吐出に影響を及ぼすような大きな圧力波は発生しない。また、点Cの時点でのメニスカス位置がノズル開口面のごく近傍、またはノズル内部にわずかに引き込まれた地点とするためには、準備動作用電圧変化過程7の後半を形成する電圧保持過程7bの継続時間t9を(1/3)Tm≦t9≦(2/3)Tmの条件を満足するように設定することが望ましい(Tmはインクの表面張力によって生じるメニスカス振動の固有周期)。」(段落番号0049、0050)との記載がある。
ここでいう「メニスカス振動の固有周期Tm」は引用発明における「メニスカス固有振動周期Tm」に相当することに鑑みると、引用発明における「ホールドパルスT13」の継続時間(約1/2Tm)は、本願の発明の詳細な説明に記載した、メニスカス振動の固有周期Tmの1/3倍から2/3倍の範囲内という条件を満たすものである。言い換えれば、引用発明の「ホールドパルスT13」は、メニスカス位置がノズル開口面のごく近傍、またはノズル内部にわずかに引き込まれた地点とするために望ましいとされる継続期間だけ電圧を保持していることになる。そして、「ホールドパルスT13」の前に印可される「充電パルスT12」は、メニスカスの振動を励起しないようヘルムホルツ周期Tc以上の期間と設定されているから、「充電パルスT12」が「ホールドパルスT13」の前記作用を阻害することもない。
してみると、引用発明における「ホールドパルスT13」は、メニスカス固有振動周期Tmの約1/2の期間だけ電圧を維持することにより、本願発明における「所定期間だけ電圧を保持してインク滴を前記圧力発生室側にわずかに引き込むための電圧保持過程」と同様の作用を有するものであるから、この「ホールドパルスT13」によってノズル開口部に貯溜されたインクを圧力発生室側にわずかに引き込んでいると解するべきである。
したがって、この点において本願発明と引用発明の間に実質的な差異はない。

(4)請求人の主張
請求人は、審判請求書において「請求項4は請求項1の従属項で、請求項1に記載された「準備動作用電圧変化過程」を限定するものであり、・・・請求項4、5及び6に係る発明は、請求項(2)と同様の理由により、特許を受けることができるものである。」(審判請求書第7ページ下から3行〜第8ページ3行)と主張する。この主張を言い換えれば、請求項1記載の発明と特開平6-71876号公報記載の発明とを対比・検討し、請求項1記載の発明は特許を受けることができるものであるから、これを引用する請求項4記載の発明も特許を受けることができる旨の主張と解される。
しかしながら、平成13年5月31日付け拒絶理由通知、平成14年8月15日付け拒絶査定の備考には次のように記載されている。

平成13年5月31日付け拒絶理由通知
「請求項4及び5
引用文献2(当審注:特開平11-20165号公報のこと。)
備考:
引用文献2には、メニスカスをノズル開口の内部に引き込むための放電パルスT14の前に、ヘルムホルツ周期Tc以上の期間充電パルスT12を印加することにより、メニスカスをノズル開口から盛り上がらせ、その後のホールドパルスT13が印加されている間、ノズル開口内へと戻る動きに転じさせることが記載されている(【0064】〜【0065】)。
したがって、引用文献2記載の発明から、本願の請求項4及び5に係る発明の、発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。」

平成14年8月15日付け拒絶査定
「備考
(前略)引用文献1(当審注:特開平6-71876号公報のこと。)及び2(当審注:特開平11-20165号公報のこと。)記載の発明から請求項3及び4に係る発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得る事項であり、出願人の上記主張は認められない。」

以上の記載に鑑みると、請求項4に係る発明は、特開平6-71876号公報記載の発明及び特開平11-20165号公報記載の発明から想到容易と判断されたものであるが、特開平6-71876号公報と同様に重要な刊行物である特開平11-20165号公報記載の発明との対比・検討を行っていない上記主張を採用することはできない。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-12-09 
結審通知日 2004-12-09 
審決日 2004-12-21 
出願番号 特願平11-64682
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 537- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成藤本 義仁尾崎 俊彦  
特許庁審判長 砂川 克
特許庁審判官 清水 康司
谷山 稔男
発明の名称 インクジェット記録ヘッドの駆動方法及びインジェット記録装置  
代理人 特許業務法人アイ・ピー・エス  

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