• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない C03B
管理番号 1111036
審判番号 無効2004-35055  
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-10-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-01-30 
確定日 2005-01-31 
事件の表示 上記当事者間の特許第3074624号発明「ガラス廃材利用材の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3074624号の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。)についての出願は、平成11年4月16日に出願がなされ、平成12年6月9日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人より本件無効審判が請求され、被請求人に期間を指定して答弁の機会を与えたところ、何ら応答がなされなかった。

2.本件特許発明
本件特許発明1及び2は、明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】びんガラスや板ガラス等のガラス廃材を粒径10mm以下に粉砕し、粉砕したガラス廃材を高温溶融炉で約1,200℃以上の高温で溶融し、ガラス廃材溶融物を水槽中で急速冷却して、白スラグを得ることを特徴としたガラス廃材利用材の製造方法。
【請求項2】高温溶融炉は、上部に粉砕したガラス廃材を投入する原料灰投入口および排気管を設けるとともに、底部に溶融ガラス廃材の排出孔を設けたガラス廃材を溶融するための溶融容器と、該溶融容器の外周に沿って同心円状に設置された黒鉛ヒータと、非酸化性ガスを導入するための導入孔を備えた電気炉とからなり、少なくともガラス廃材が溶融、排出する溶融容器の部材は黒鉛により形成され、溶融容器の上部は前記非酸化性ガスが溶融容器内に流入する流入孔を備えてなる請求項1記載のガラス廃材利用材の製造方法。」

3.請求人の主張
請求人は、「第3074624号特許はこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、」との審決を求め、証拠方法として下記の甲第1号証乃至甲第3号証を提出し、本件特許発明1及び2は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により、本件特許発明1及び2に係る特許は無効とされるべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開平10-47642号公報
甲第2号証:「焼却灰・ばいじんの処理に関するフォーラム’94」
第2日目 第1〜21頁、第23〜99頁
甲第3号証:特開昭58-60634号公報

4.甲各号証に記載された事項
(1)甲第1号証には、図面と共に下記の記載がある。
1-ア.「上部に焼却灰を投入する原料灰投入口および焼却灰を溶融した際に発生するガスを排出する排気管を設けるとともに、底部に溶融灰の排出孔を設けた焼却灰を溶融するための溶融容器と、該溶融容器の外周に沿って同心円状に設置された黒鉛ヒータと、非酸化性ガスを導入するための導入孔を備えた電気炉とからなり、少なくとも焼却灰が溶融、排出する溶融容器の部材は黒鉛により形成され、溶融容器の上部は前記非酸化性ガスが溶融容器内に流入する流入孔を備えてなることを特徴とする焼却灰溶融炉。」(特許請求の範囲 請求項1)
1-イ.「本発明は、都市ごみや産業廃棄物などを焼却処理して生じる焼却灰を能率よく溶融固化して、コンパクト化ならびに無害化する小型で長期間に亘り安定して運転することのできる焼却灰溶融炉に関する。」(第2頁第1欄19〜23行、【0001】段落)
1-ウ.「焼却灰は、溶融容器内で加熱されると1200℃前後で溶解がはじまり、容器内の温度を1450〜1500℃の範囲に調節すると、投入されたブリケット状原料灰は順次に溶解され、灰溶融物は溶融容器の底部にたまる。この溶融灰が適宜な量になると、溶融容器の底部に設けた排出孔の栓を開けて炉外に排出される。排出された溶融灰は水槽中に流下させて急冷固化することによりポーラスな粒状物となり、コンパクト化ならびに無害化される。このようにして、適宜な間隔で溶融容器内に投入されたブリケット状原料灰は、順次に溶解、排出されるので焼却灰を連続的に能率よく溶融処理することができる。」(第3頁第3欄44行〜同頁第4欄5行、【0014】段落)
1-エ.「図1は本発明の焼却灰溶融炉を例示した断面説明図である。図1において、1は焼却灰溶融炉であり、2は電気炉、3は電気炉2内に設置された円筒形状の黒鉛製容器、4は黒鉛製容器3の上部に設けた原料灰投入口、5は排気管、22は容器の上部に設けた覗き窓である。6は黒鉛製容器3の外周に沿って同心円上に複数設けたU型形状の黒鉛ヒータ、7は電気炉に非酸化性ガスを導入するための導入孔、8は黒鉛製容器の上部に設けた非酸化性ガスの流入孔である。9は黒鉛製容器2内に投入されたブリケット状の原料灰、10は溶融灰であり、11は溶融灰を排出するための排出孔、12は排出孔の出口栓、13は溶融灰の排出容器、14は溶融灰の温度低下を防止するための補助ヒータである。排出容器13の出口孔15には空気の流入を阻止するために窒素ガスカーテンが形成されており、溶融灰10は出口孔15から水槽16に流下して固化される。」(第3頁第4欄25〜40行、【0018】段落)として、第5頁には【図1】が記載されている。
1-オ.「本発明の焼却灰溶融炉によれば・・・長期間に亘り安定して焼却灰を溶融することが可能である。したがって、焼却灰を能率よく溶融固化してコンパクト化、無害化、更に有資源化を図ることができ、都市ごみや産業廃棄物などを焼却処理して生じる焼却灰の溶融炉として極めて有用である。」(第4頁第6欄6〜15行、【0022】段落)
(2)甲第2号証には、「溶融固化法による焼却灰・ばいじんの中間処理技術」と「自治体ユーザの対応事例」について5つの報文が記載されている。
(2-1)第4〜17頁のNKK環境エンジニアリング本部環境プラント部 担当部長 山岸一雄「電気抵抗式溶融炉による都市ごみ焼却灰溶融技術」には、下記の記載がある。
2-ア「焼却灰の組成は採取都市により若干異なるが主灰はSiO2、Al2O3、CaOを主成分とし数%程度のFe2O3、P2O5、Na2O、K2O等や微量のZn、Cd、Pdを含んでいる。」(第10頁下から3行〜第11頁1行)として第10頁の表-2には主灰の成分、組成範囲が記載されている。
2-イ.「4 溶融スラグの資源化
電気抵抗式溶融炉で溶融されたスラグは空冷コンベアで固化される。・・・数十mmオーダーの粒径を持ち、均質緻密で気泡の巻き込みがなく、黒色光沢で重量感のある砕石状になる。・・・。又、冷却に水滓設備を使用すれば5mmアンダー程度の水滓スラグを製造することができ、砂の代用として使用できる。・・・。
4-1 焼成タイル原料
空冷スラグを粉砕し高炉スラグ25%、膨張率抑制剤25%混合した後・・・成型したものを1100℃で150分焼成し、焼成タイルを試作した。このタイルは・・・内装用、外装用等の広い分野で使用可能である。
4-2 コンクリート平板
空冷スラグを破砕して製造した粗骨材及び細骨材を用い、試験用のコンクリート平板を製造した。・・・。スラグの骨材置換率は細骨材、粗骨材の総量に対して50%以下であれば、充分に・・・基準値を満足している。・・・。
4-3 路盤材料
空冷スラグは破砕及び丸み付け処理し粒度調整すれば路盤材として使用でき、上層路盤材の規格値・・・を満足しているため単独使用ができ、大量使用が期待される。・・・水滓スラグは粒度が細かく・・・他材料と混合して使用するが混合率は低い。又、溶融炉中で成分調整材を混合すれば白色で結晶化したスラグを製造することも出来る。・・・。」(第15頁18行〜第17頁6行)
(2-2)第20〜34頁の川崎製鉄(株)エンジニアリング事業部鋼構造研究所 主任研究員 木下勝雄「プラズマ溶融方式」には、下記の記載がある。
2-ウ.「スラグの利用用途の一つとして透水性タイルへのスラグの添加を行った。珪石、長石、粘土からなる基材に対し、水砕スラグを重量比で1/3まで添加して焼成し機械的性質を調べた。圧縮・曲げ応力とも標準品に比較し、遜色なく、・・・。図10に水砕スラグ含有タイルを用いて施工した歩道の外観を示す。この歩道の施工に際しては路盤材に川砂とともに水砕スラグを用いた。また、水砕スラグをセメントモルタルの細骨材として用い試験片を製作し、機械的性質を調べた。・・・用途によっては十分使用に耐えるものである。」(第32頁1〜14行)
(2-3)第37〜52頁の株式会社タクマ 環境技術第1部第3課 課長 西垣正秀「焼却灰・ばいじんの溶融固化技術(反射式表面溶融炉)」には、下記の記載がある。
2-エ.「テストの使用した原灰の性状・・・の組成分析を各RUN毎に表-2・・・に示す。」(第43頁中段)として、第43頁には「RUN A 焼却灰単独の各成分分析結果」である表-2が記載されており、この表-2の記載から、焼却灰の主成分はSiO2、Al2O3、CaOでありFe2O3も5.0%含有されることが窺える。
2-オ.「溶融スラグは急冷固化され、黒色の粒状スラグとなり、ガラス質で重金属類の溶出がない安定したものとなるため、これを有効利用することは最終処分場の延命化、資源循環型社会の確立に非常に重要である。スラグの道路用材料としての物性値を・・・に示す。コンクリート用細骨材としての物性値を・・・に示す。溶融スラグは種々の用途が考えられ、下記のような土木・建築用資材及びコンクリート製品などに利用できる。
〔土木建築用資材等〕
・路床材、下層路盤材、上層路盤材
・埋め戻し材、裏込め材、土壌改良材、盛土用材
・防災用土壌 ・苗床(水栽培)、観葉植物用砂
〔コンクリート製品〕
・歩道用平板ブロック、インターロッキングブロック
・化粧ブロック
〔その他の用途〕
・保温材、吸音材 ・溶融タイル ・焼結タイル」(第50頁2〜17行)
(2-4)第55〜77頁の埼玉県東部清掃組合 事務局長 深堀武夫「溶融炉の比較検討(直結型、別置型)・スラグの有効利用・高効率の廃棄物発電の建設概要」には、下記の記載がある。
2-カ.「一般的な焼却灰の性状と化学組成を、それぞれ表-3、表-4に示す。」(第61頁10行)として第61頁には表-4が記載されている。そして、表-4の記載から、焼却灰の主成分はSiO2、Al2O3、CaOと15.9%のFe2O3であることが窺える。
2-キ.「水砕スラグ・・・形状は顆粒状の黒色ガラス質で3〜10mm程度の大きさである。」(第63頁下から4行〜同頁最終行)
2-ク.「4.今後考えられる溶融スラグの有効利用
(1)インターロッキングブロック ・・・。
(2)平板ブロック ・・・。
(3)路盤材としての使用 ・・・。
(4)上下水道管敷設の埋め戻し材として使用 ・・・。
(5)雨水浸透材としての使用 ・・・。」(第65頁1〜20行)
(2-5)第80〜99頁の大宮市環境部西部環境センター 斉藤俊一「大宮市西部環境センター 灰溶融設備の操業事例について」には、下記の記載がある。
2-ケ.第90頁には、「焼却灰」について記載があり、そのうち灰主成分の表の記載から、焼却灰の主成分はSiO2、Al2O3、CaOと6〜13%のFe2O3であることが窺える。
2-コ.第97、98頁には「有効利用計画」について記載があり、「(有効利用方法の検討)」として、路盤材、セメント原料、レジンコンクリート製品、セラミック製品、コンクリート製品及びその他製品への利用、水砕メタルの利用について記載がある。
(3)甲第3号証には、下記の事項が記載されている。
3-ア.「ガラスの粉末に重量比で1.0〜10.0%の石灰石粉末を混合した原料を造粒後810〜960℃で加熱することを特徴とする粒状泡ガラスの製造方法。」(特許請求の範囲 請求項1)
3-イ.「ガラス粉末、石灰石粉末の粒度は細かければ細かいほうがよく、JISで35meshより細いのが好ましい。」(第2頁左下欄6〜8行)
3-ウ.「造粒粒子径としては急速に加熱・冷却を行うので直径10mm以下が好ましい。」(第2頁左下欄13〜15行)

5.対比、判断
(1)本件特許発明1について
甲第1号証の記載事項のうち、記載事項1-ウの「焼却灰は、溶融容器内で加熱されると1200℃前後で溶解がはじまり、容器内の温度を1450〜1500℃の範囲に調節すると、投入されたブリケット状原料灰は順次に溶解され、灰溶融物は溶融容器の底部にたまる。」には、焼却灰を焼却灰溶融炉の溶融容器内で約1,200℃以上の温度で溶解し溶融状態とする、即ち溶融することが記載されていると云え、記載事項1-ウの「排出された溶融灰は水槽中に流下させて急冷固化することによりポーラスな粒状物となり」には、焼却灰溶融物を水槽中で急速固化してポーラスな粒状物を得ることが記載されていると云える。そして、記載事項1-ウに記載された「ポーラスな粒状物」は、焼却灰を利用して製造されたものであることは明らかであり、また、記載事項1-オに焼却灰を溶融固化して有資源化を図ることが記載されていることからみて、記載事項1-ウに記載された「ポーラスな粒状物」は、何らかの資源として利用するもの、即ち利用材であるとも云える。してみると、記載事項1-ア〜オからみて、甲第1号証には下記の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると云える。
「都市ごみや産業廃棄物などを焼却処理して生じる焼却灰を焼却灰溶融炉で約1,200℃以上の温度で溶融し、焼却灰溶融物を水槽中で急冷固化してポーラスな粒状物を得る焼却灰利用材の製造方法。」
本件特許発明1と甲1発明1を対比すると、後者における「約1,200℃以上の温度」は高温と云える。そして、後者において焼却灰は焼却灰溶融炉で約1,200℃以上の温度で溶融されるのであるから、後者における「焼却灰溶融炉」は、被処理物を高温で溶融する点において、前者における「高温溶融炉」に相当する。また、後者における「急冷」は前者における「急速冷却」に相当すると云えるから、両者は、
「被処理物を高温溶融炉で約1,200℃以上の高温で溶融し、被処理物溶融物を水槽中で急速冷却して、固化物を得る被処理物利用材の製造方法。」
で一致し、下記の点で相違する。
(i)前者は、被処理物がびんガラスや板ガラス等のガラス廃材であるのに対して、後者は、被処理物が都市ごみや産業廃棄物などを焼却処理して生じる焼却灰である点。
(ii)前者は、被処理物であるびんガラスや板ガラス等のガラス廃材を粒径10mm以下に粉砕し、粉砕した被処理物を高温溶融炉で溶融するのに対して、後者は、被処理物を粉砕する工程を有していない点。
(iii)前者は、固化物が白スラグであるのに対し、後者は、固化物がポーラスな粒状物である点。
そこでまず、相違点(i)について検討する。
上記4.で摘記したように、甲第2号証には、「溶融固化法による焼却灰・ばいじんの中間処理技術」と「自治体ユーザの対応事例」について5つの報文が記載されているが、これら5つの報文には、都市ごみを焼却処理して生じる焼却灰を高温溶融炉で溶融処理することは記載されているものの、びんガラスや板ガラス等のガラス廃材を高温溶融炉で溶融処理することについては何等の記載もない。
そして、「ガラス」とは、「石英・炭酸ナトリウム・石灰石などを原料として、高温度に熱して溶融し、冷却して製した硬く脆もろく透明な物質。広義には、融点以上の高温で溶融した物体を急冷・固化させた等方性無定形物質。」を意味し、「灰」とは、「物の焼け尽した後に残る粉状の物質。」を意味する語である(いずれも「広辞苑」による。)から、びんガラスや板ガラス等のガラス廃材と焼却灰とは全く異なるものである。
よって、びんガラスや板ガラス等のガラス廃材を高温溶融炉で溶融処理することについて何等の記載もない甲第2号証に記載された事項により、甲1発明1において被処理物を焼却灰に代えてびんガラスや板ガラス等のガラス廃材とすることを当業者が容易に想到し得たと云うことはできない。
なお、請求人は、審判請求書第6頁13〜21行において、甲第2号証には、都市ごみの焼却灰の組成はSiO2やCaO等を主成分とし、ビンガラス等の主成分と共通しており、溶融固化処理して観葉植物用砂、コンクリート製品、土壌改良材等に利用されることが記載されていることをもって、甲1発明1における焼却灰にはガラス廃材を含むと云え、溶融固化処理により得られた利用材の目的も共通しているから、甲1発明1の被処理物を焼却灰からガラス廃材とすることは当業者にとって容易になし得たことである旨主張している。
そこで、甲第2号証の記載事項2-ア、エ、カ及びケに記載された都市ごみの焼却灰の化学的な成分、組成範囲を検討すると、主成分としてSiO2とCaOを含む点においては確かにガラスと一致する。しかし、報文により焼却灰の成分、組成範囲は様々であるが、これらの焼却灰がFe2O3やAl2O3をも主成分として含むこと、Na2Oが主成分としては含まれていないことなどからみて、都市ごみの焼却灰とびんガラスや板ガラス等のガラス廃材とが成分、組成範囲において一致するとは到底云えない。そして、上述したようにガラスと焼却灰とはもともと全く異なるものであるから、甲第2号証の記載事項を参酌しても、甲1発明1における焼却灰がガラス廃材を含むとは到底云えない。また、甲第2号証の記載事項2-イ、ウ、オ、ク及びコには、焼却灰を溶融した後固化した物が観葉植物用砂、コンクリート製品、土壌改良材等に利用されることが記載されている。しかし、これらの記載事項は、甲第2号証に記載された焼却灰を溶融して固化した物の利用分野が本件特許発明1の利用材の利用分野と重複することを示すに止まり、利用材の利用分野が重複するからといって、甲1発明1における被処理物を焼却灰からガラス廃材とすることが当業者にとって容易に為し得たことであるとは云えない。
よって、請求人の上記主張は採用できないものである。
さらに、相違点(i)について甲第3号証の記載事項を検討すると、甲第3号証には、ガラスの粉末に石灰石粉末を混合した原料を造粒後810〜960℃で加熱する粒状泡ガラスの製造方法が記載されているだけであって、ガラス廃材を約1200℃以上の高温で溶融することについて何等の記載もない。
よって、甲第3号証に記載の事項により、甲1発明1において被処理物を焼却灰に代えてびんガラスや板ガラス等のガラス廃材とすることを当業者が容易に想到し得たと云うことはできない。
したがって、相違点(i)で挙げた本件特許発明1の構成要件は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものとは云えない。
次に、相違点(ii)について検討する。
相違点(ii)は、相違点(i)で挙げた本件特許発明1の構成要件である被処理物がびんガラスや板ガラス等のガラス廃材であることを前提とするものである。そして、上述のとおり、相違点(i)で挙げた本件特許発明1の構成要件は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものとは云えない以上、相違点(ii)を単独で検討して、当業者が容易に想到し得たものであるとは到底云えない。
なお、請求人が主張の根拠とする甲第3号証の記載事項3-ウの粒子径に関する記載は、造粒粒子径についてのものであってガラス粉末径についてのものではなく、また、急速に加熱・冷却するためのものであって加熱溶融するためのものではない。
最後に、相違点(iii)について検討する。
相違点(iii)も、相違点(i)で挙げた本件特許発明1の構成要件である被処理物がびんガラスや板ガラス等のガラス廃材であることを前提とするものである。そして、上述のとおり、相違点(i)で挙げた本件特許発明1の構成要件は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものとは云えない以上、相違点(iii)は当業者が容易に想到し得たものであるとは到底云えない。
なお、甲第2号証には、記載事項2-オ及びキには、都市ごみの焼却灰の溶融物を急冷固化したスラグ乃至水砕スラグは黒色である旨の記載があることを付言しておく。
そして、本件特許発明1は、びんガラスや板ガラス等のガラス廃材を約1,200℃以上の高温で溶融し、水槽中で急速冷却して白スラグを得ることにより、大量に廃棄されるガラス質廃材から安価に製造され、大量の需要に応え得る砂状のガラス廃材利用材を得ることができ、得られた白スラグである砂状のガラス廃材利用材は、砂、セメント補助材、土壌改良材、ガラス原料材、その他の種々の利用が可能であるという、本件明細書に記載された効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとは云えない。
(2)本件特許発明2について
甲第1号証の記載事項について上記(1)で述べた事項にさらに記載事項1-ア及びエを参酌すると、記載事項1-ア〜オからみて、甲第1号証には下記の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると云える。
「都市ごみや産業廃棄物などを焼却処理して生じる焼却灰を焼却灰溶融炉で約1,200℃以上の温度で溶融し、焼却灰溶融物を水槽中で急冷固化してポーラスな粒状物を得る焼却灰利用材の製造方法において、焼却灰溶融炉は、上部に焼却灰を投入する原料灰投入口および排気管を設けるとともに、底部に溶融灰の排出孔を設けた焼却灰を溶融するための溶融容器と、該溶融容器の外周に沿って同心円状に設置された黒鉛ヒータと、非酸化性ガスを導入するための導入孔を備えた電気炉とからなり、少なくとも焼却灰が溶融、排出する溶融容器の部材は黒鉛により形成され、溶融容器の上部は前記非酸化性ガスが溶融容器内に流入する流入孔を備えてなる焼却灰利用材の製造方法。」
本件特許発明2と甲1発明2とを対比すると、後者における「約1,200℃以上の温度」は高温と云える。そして、後者において焼却灰は焼却灰溶融炉で約1,200℃以上の温度で溶融されるのであるから、後者における「焼却灰溶融炉」は、被処理物を高温で溶融する点において、前者における「高温溶融炉」に相当する。また、後者における「急冷」は前者における「急速冷却」に相当すると云えから、両者は、
「被処理物を高温溶融炉で約1,200℃以上の高温で溶融し、被処理物溶融物を水槽中で急速冷却して、固化物を得る被処理物利用材の製造方法において、高温溶融炉は、上部に被処理物を投入する被処理物投入口および排気管を設けるとともに、底部に溶融被処理物の排出孔を設けた被処理物を溶融するための溶融容器と、該溶融容器の外周に沿って同心円状に設置された黒鉛ヒータと、非酸化性ガスを導入するための導入孔を備えた電気炉とからなり、少なくとも被処理物が溶融、排出する溶融容器の部材は黒鉛により形成され、溶融容器の上部は前記非酸化性ガスが溶融容器内に流入する流入孔を備えてなる被処理物利用材の製造方法。」で一致し、下記の点で相違する。
(iv)前者は、被処理物がびんガラスや板ガラス等のガラス廃材であるのに対して、後者は、被処理物が都市ごみや産業廃棄物などを焼却処理して生じる焼却灰である点。
(v)前者は、被処理物であるびんガラスや板ガラス等のガラス廃材を粒径10mm以下に粉砕し、粉砕した被処理物を高温溶融炉で溶融するのに対して、後者は、被処理物を粉砕する工程を有していない点。
(vi)前者は、固化物が白スラグであるのに対し、後者は、固化物がポーラスな粒状物である点。
上記相違点(iv)、(v)、(vi)は、それぞれ、上記(1)で述べた相違点(i)、(ii)、(iii)と同じであり、該相違点(i)、(ii)、(iii)については上記(1)で述べたとおりである。
そして、本件特許発明2も、少なくとも上記(1)で述べたとおりの本件特許発明1の効果と同じ効果を奏するものである。
よって、本件特許発明2も、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとは云えない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては本件特許発明1及び2に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-08-19 
結審通知日 2004-08-24 
審決日 2004-09-13 
出願番号 特願平11-109031
審決分類 P 1 112・ 121- Y (C03B)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 岡田 和加子
西村 和美
登録日 2000-06-09 
登録番号 特許第3074624号(P3074624)
発明の名称 ガラス廃材利用材の製造方法  
代理人 平山 孝二  
代理人 浅井 賢治  
代理人 山崎 一夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 小川 信夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ