• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1111122
異議申立番号 異議2003-73695  
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-25 
確定日 2004-11-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3437779号「ホットメルト組成物およびその用途」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3437779号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 (1)手続の経緯
本件特許第3437779号は、平成11年2月16日に出願(優先日、平成10年3月17日、日本)され、平成15年6月6日にその特許権の設定登録がなされ、その後、野村薫より特許異議の申立てがなされ、それに基づく取消理由通知がなされ、それに対し特許異議意見書とともに、訂正請求書が提出され、さらに、特許法第36条に関する第2回目の取消理由通知がなされ、それに対し、その指定期間内である平成16年10月20日に、先の訂正請求書を取り下げ、新たに訂正請求書が提出されたものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア、訂正の内容
訂正事項a:特許請求の範囲の訂正
a-1、請求項1の
「【請求項1】 135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が1dl/g以上のスチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して、プロセスオイル、液状ゴムおよびこれらの変性物から選ばれた液状軟化剤200ないし3000重量部を配合した組成物であって、さらに、前記組成物が、
(a) 環球法軟化点測定法によって測定される軟化点が120ないし230℃であり;
(b) -30℃ないし40℃の雰囲気下で75%以上の圧縮歪みを負荷した時に割れを生じず;かつ、
(c) 無負荷の状態で100℃の雰囲気中24時間静置した時に流動しない;ことを特徴とするホットメルト組成物。」を、
「【請求項1】 135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が1dl/g以上のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物からなるスチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して、プロセスオイル、液状ゴムおよびこれらの変性物から選ばれた液状軟化剤500ないし3000重量部を配合した組成物であって、さらに、前記組成物が、
(a) 環球法軟化点測定法によって測定される軟化点が120ないし230℃であり;
(b) -30℃ないし40℃の雰囲気下で75%以上の圧縮歪みを負荷した時に割れを生じず;かつ、
(c) 無負荷の状態で100℃の雰囲気中24時間静置した時に流動しない;ことを特徴とするホットメルト組成物。」と訂正する。
a-2、請求項2及び3を削除し、訂正前の請求項4〜9をそれぞれ繰り上げて、請求項2〜7と訂正し、訂正前の請求項4〜7で引用する請求項を「請求項1」と訂正し、訂正前の請求項8及び9の引用する請求項を「請求項1ないし5」と訂正する。
訂正事項b:発明の詳細な説明の訂正
b-1、特許明細書の段落【0018】中の「スチレン系熱可塑性エラストマー」を、「スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物からなるスチレン系熱可塑性エラストマー」と訂正し、「液状軟化剤200ないし」を、「液状軟化剤500ないし」と訂正する。
b-2、特許明細書の段落【0019】、【0020】及び【0030】を削除する。
b-3、特許明細書の段落【0027】、【0029】中の「スチレン系エラストマー」及び【0042】中の「スチレン系熱可塑性エラストマー」を、「スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物からなるスチレン系熱可塑性エラストマー」と訂正する。
b-4、特許明細書の段落【0031】中の「これらのスチレン系エラストマーのなかでも、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体およびこれらの水添物、さらにはカルボキシル変成スチレン系エラストマーが好ましく用いられる。」を削除し、「スチレン系エラストマー」を、「スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物からなるスチレン系熱可塑性エラストマー」と訂正する。
b-5特許明細書の段落【0032】、【0041】及び【0042】中の「200ないし」を「500ないし」と訂正する。
b-6、特許明細書の段落【0063】、【0064】、【0068】、【0069】、【0070】及び【0072】【表1】中の「実施例1」を「参考例」と訂正する。
b-7、特許明細書の段落【0064】、【0065】、【0067】及び【0072】【表1】中の「実施例2」を「実施例1」と訂正する。
b-8、特許明細書の段落【0065】及び【0072】【表1】中の「実施例3」を「実施例2」と訂正する。
b-9、特許明細書の段落【0068】中の「実施例4ないし6」を、「実施例3ないし5」と訂正し、同じく段落【0069】中の「実施例7ないし9」を、「実施例6ないし8」に、段落【0070】中の「実施例10」を、「実施例9」に、それぞれ訂正する。
b-10、特許明細書の段落【0073】【表2】中の実施例4〜6を、それぞれ実施例3〜5とし、同じく段落【0074】【表3】中の実施例7〜9を、それぞれ実施例6〜8とし、段落【0075】【表4】中の実施例10を実施例9と、それぞれ一つずつ繰り上げる訂正をする。
イ、訂正の適否
訂正事項aは、特許請求の範囲に関する訂正であり、訂正a-1は、スチレン系熱可塑性エラストマーを、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物からなるスチレン系熱可塑性エラストマーに限定するとともに、液状軟化剤の下限値を200から500に上げるものであり、スチレン系熱可塑性エラストマーの限定は、訂正前の請求項2に記載のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物からなるスチレン系熱可塑性エラストマーに限定するものであり、また、液状軟化剤の下限値については、訂正前の請求項4に記載される下限値を採用するものであるから、これらは願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の減縮を目的としてなされたものと認められる。
また、訂正a-2は、請求項2及び3を削除し、それに基づいて引用する項を訂正するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の減縮と明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認める。
上記訂正事項b(b-1〜b-10)は発明の詳細な説明に関する訂正であり、特許請求の範囲の訂正である上記訂正事項aに伴い、特許請求の範囲との整合性を図るための、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、上記訂正事項aと同様に、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正と認められる。
そして、上記訂正事項a及びbは、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。
(3)特許異議の申立てについての判断
ア、申立て理由の概要
特許異議申立人は、甲第1〜7号証を提出し、訂正前の請求項1〜9に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。
イ、訂正明細書の請求項1〜7に係る発明
訂正明細書の請求項1〜7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が1dl/g以上のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物からなるスチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して、プロセスオイル、液状ゴムおよびこれらの変性物から選ばれた液状軟化剤500ないし3000重量部を配合した組成物であって、さらに、前記組成物が、
(a) 環球法軟化点測定法によって測定される軟化点が120ないし230℃であり;
(b) -30℃ないし40℃の雰囲気下で75%以上の圧縮歪みを負荷した時に割れを生じず;かつ、
(c) 無負荷の状態で100℃の雰囲気中24時間静置した時に流動しない;ことを特徴とするホットメルト組成物。
【請求項2】 前記液状軟化剤の配合量が、スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して500ないし1200重量部である請求項1記載のホットメルト組成物。
【請求項3】 前記液状軟化剤の配合量が、スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して1200ないし3000重量部である請求項1記載のホットメルト組成物。
【請求項4】 前記軟化点が130ないし220℃である請求項1記載のホットメルト組成物。
【請求項5】 さらに、ロジン系および/または石油樹脂系粘着付与剤を添加した請求項1記載のホットメルト組成物。
【請求項6】 前記請求項1ないし5のいずれか1記載のホットメルト組成物を用いた工業用シール材。
【請求項7】 前記請求項1ないし5のいずれか1記載のホットメルト組成物を用いた緩衝または防振材。」
ウ、甲第1〜7号証に記載された事項
甲第1号証:特開昭59-15467公報(以下、「刊行物1」という。以下同様である。)
甲第2号証:特開平9-227858号公報(刊行物2)
甲第3号証:米国特許第5633286号明細書(刊行物3)
甲第4号証:特表平6-510553号公報(刊行物4)
甲第5号証:特開昭62-129340号公報(刊行物5)
甲第6号証:特公平2-32299号公報(刊行物6)
甲第7号証:特開昭50-77444号公報(刊行物7)
そして、上記刊行物1〜7には、次のとおりの記載が認められる。
a、刊行物1
「(1)結晶化度が10%以上の範囲にある結晶性ポリオレフイン(a)100重量部に対して、スチレン系炭化水素(b)を0.1ないし50重量部の範囲でグラフト共重合した変性物であつて、その極限粘度〔η〕が0.5ないし5dl/gの範囲にありかつ結晶化度が10%以上の範囲にあるスチレン系炭化水素グラフト変性ポリオレフインからなるスチレン系重合体用接着剤。」(特許請求の範囲)
b、刊行物2
「【請求項1】 高分子有機材料と軟化剤とを含む熱可塑性材料であって、硬度がJIS K6301規格Aスケールで0°〜25°であり、100℃における圧縮永久歪みがJIS K6301規格で50%以下であり、且つ、230℃におけるMFRがJIS K7210規格で10g/10分以上であることを特徴とするシーリング材。
【請求項2】 前記熱可塑性材料が、高分子有機材料100重量部と、軟化剤50〜500重量部と、を含み、前記高分子有機材料と前記軟化剤の各々の溶解度パラメーターの差が3.0以下であることを特徴とする請求項1記載のシーリング材。
【請求項3】 前記熱可塑性材料が、ポリフェニレンエーテルを10〜250重量部含んでなることを特徴とする請求項1又は2記載のシーリング材。
【請求項4】 前記高分子有機材料が、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも1つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも1つからなるブロック共重合体を水添して得られる水添ブロック共重合体であり、その平均分子量が150,000〜400,000であることを特徴とする請求項1乃至3記載のシーリング材。
【請求項5】 前記軟化剤が、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル又はポリイソブチレン系オイルから選択される一種又は二種以上であり、その平均分子量が450〜5,000であることであることを特徴とする請求項1乃至4記載のシーリング材。」(特許請求の範囲請求項1〜5)
「これらの軟化剤の配合量は高分子有機材料100重量部に対して50〜500重量部であり、特に50〜300重量部であることが好ましい。配合量が50重量部未満であると、十分な低硬度を達成しえず、材料の柔軟性が不充分となって作業性が低下し、500重量部を超えると軟化剤のブリードを生じ易くなり、また、材料の機械的強度が低下するため、いずれも好ましくない。」(第4頁第5欄50行〜同第6欄7行、段落【0030】)
「また、他の添加剤として、必要に応じて、……クマロン樹脂、クマロン-インデン樹脂、フェノールテルペン樹脂、石油系炭化水素、ロジン誘導体等の各種粘着付与剤(タッキファイヤー)、……等を併用することができる。」(第6頁第9欄30〜42行、段落【0051】)
c、刊行物3
ポリ(スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン)系などのスチレン系熱可塑性エラストマーからなる高粘度トリブロックコポリマー100重量部に対して、第11頁に記載されるようなパラフィン系オイル、ナフテン系オイル、液状ポリブテンなどの可塑化オイル300〜1600重量部からなる熱可塑性の組成物が記載され、その用途として緩衝材、防振材などに使用できることが記載されている。
d、刊行物4
「1.(a)スチレン-エラストマーブロック-スチレン トリブロック共重合体(T)、
(b)硬質ブロック-エラストマーブロック ジブロック共重合体(D)であり、そのエラストマーブロックがエラストマーE(後述)と適合し、またDの量がこの組成物が使用時加圧下にある場合、組成物からのEの浸出を少なくとも10%減少させるのに充分である共重合体(D)、および
(c)T+Dの100重量部当り300重量部以上、好ましくは400重量部以上、特には少なくとも500重量部の液体エクステンダー(E)であり、TおよびDのエラストマーブロックを希釈し、軟化させる液体エクステンダー(E)
を含んで成るゲル組成物であって、
組成物は組成物全体に対して3.1重量%以上のTを含有し、および/または組成物全体に対して20重量%以下の水素化されたスチレン系樹脂粘着付与剤、好ましくはいずれかの粘着付与剤を含むゲル組成物。」(請求の範囲請求項1)
第4頁右下欄には、その「性質」として、TMA軟化点(Ts)が115〜128℃のものが記載されている。
e、刊行物5
「1.ポリ(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン)トリブロックコポリマーの混合物約2〜30重量部、および
炭化水素油約70〜98重量部を含んで成る組成物であって、
トリブロックコポリマーの混合物は、
(a) スチレンブロック14〜30とエチレン-ブチレンブロック70〜86であるスチレンとエチレン-ブチレンの比を有するトリブロックコポリマー、および
(b) スチレンブロック31〜35とエチレン-ブチレンブロック65〜69であるスチレンとエチレン-ブチレンの比を有するトリブロックコポリマー
を含んで成り、コポリマー(a)とコポリマー(b)の比は約15:85〜85:15である組成物。」(特許請求の範囲請求項1)
f、刊行物6
「1 スチレン系熱可塑性エラストマーに、液状スチレン-イソブチレン共重合体を配合してなるスチレン系熱可塑性エラストマー組成物。」(特許請求の範囲)
「本発明においてはさらに粘着性を高めるためテルペン系樹脂、ロジン系樹脂、オレフィン系石油樹脂などの粘着性付与剤を適宜加えることもできる。この粘着性付与剤は前記スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対し80〜120重量部の割合で用いられる。」(第2頁第3欄21〜26行)
g、刊行物7
「平均分子量1,000〜2,000の液状ポリブタジエン100重量部に対して、モノアルケニル置換またはモノアルキリデン置換芳香族炭化水素で、水素化によって芳香族性二重結合が還元された平均分子量2,000〜125,000の非エラストマー性ポリマーブロック(A)の少なくとも2つおよび脂肪族性二重結合の少なくとも75%が水素還元されている平均分子量10,000〜250,000の共役ジエンのエラストマー性ポリマーブロック(B)の少なくとも1つを有するブロック共重合体を10〜100重量部配合し、これを溶融混和したことを特徴とする水密用組成物。」(特許請求の範囲)
オ、対比・判断
本件発明1と刊行物2に記載された発明とを対比すると、刊行物2の組成物もホットメルト性を有するものと認められるので、両者は、スチレン系熱可塑性エラストマーと、本件発明1で特定する液状軟化剤を配合したホットメルト組成物である点で一致し、下記の点で相違するものと認められる。
相違点1:本件発明1では、スチレン系熱可塑性エラストマーとして、135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が1dl/g以上のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物からなるスチレン系熱可塑性エラストマーとするのに対し、刊行物2では、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも1つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも1つからなるブロック共重合体を水添して得られる水添ブロック共重合体であり、その平均分子量が150,000〜400,000であるとする点、
相違点2:スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対する液状軟化剤の配合量を、本件発明1では500ないし3000重量部とするのに対し、刊行物2では、50〜500重量部とする点、
相違点3:本件発明1では、組成物が、(a) 環球法軟化点測定法によって測定される軟化点が120ないし230℃であり;(b) -30℃ないし40℃の雰囲気下で75%以上の圧縮歪みを負荷した時に割れを生じず;かつ、(c) 無負荷の状態で100℃の雰囲気中24時間静置した時に流動しない(以下、「本件発明1の特定の性質(a)〜(c)」という。)とするのに対し、刊行物2にはそういった性質についての記載がない点。
そこで、上記相違点1〜3について検討する。
まず、相違点1について検討する。
刊行物2は、平均分子量150,000〜400,000とするものであり、本件発明1の極限粘度[η]が1dl/g以上とするものとは表現上の相違はあるが、ともに高分子量のものを意味するものであり、また、刊行物2のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも1つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの少なくとも1つからなるブロック共重合体を水添して得られる水添ブロック共重合体というのは、本件発明1で特定するスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物の上位概念に相当するものであり、しかも、本件発明1における限定が格別な作用効果を奏するものとも認められないので、上記相違点1については格別なものとすることはできない。
次に、相違点2について検討する。
刊行物2に記載の配合量50〜500重量部というのは、本件発明1とは500重量部の点で重なるものであるとしても、刊行物2では、その好ましい範囲を50〜300重量部とし、500重量部を越えると軟化剤のブリードを生じ、材料の機械的強度が低下するため好ましくないとしており、500重量部を越えるものを否定するものであるから、本件発明1の500ないし3000重量部とは、配合量の大部分において相違するものと認められる。
刊行物1には、液状軟化剤の配合についての記載がなく、本件発明1で特定するスチレン系熱可塑性エラストマーについての記載もない。
刊行物3では、軟化剤の配合量を300〜1600重量部と記載され、刊行物4には、500重量部以上とすることの記載はあるとしても、刊行物3及び4には、スチレン系エラストマーの極限粘度についての記載はない。
刊行物5〜7には、軟化剤を500重量部以上配合することの記載はない。
なお、刊行物3及び4に500重量部を越える配合量が記載されているとしても、刊行物2では、上記のとおり、500重量部を越えるものを否定するものであるから、刊行物2における配合量を、刊行物3及び4の500重量部を越える配合量に置き換えることは困難といわざるを得ない。
さらに、相違点3については、刊行物4に、本件発明1の特定の性質(a)〜(c)のうち、(a)の軟化点についての記載はあるとしても、(b)及び(c)についての記載はなく、また、刊行物2、3、5〜7には、本件発明1の特定の性質(a)〜(c)についての記載はなく、また示唆も認められないものである。
そして、本件発明1は、極限粘度の1dl/g以上という高分子量のスチレン系熱可塑性エラストマーと500〜3000重量部という大量の液状軟化剤を配合し、本件発明1の特定の性質(a)〜(c)を有することによって、低温での脆性および高温での流動性を抑制し、かつ柔軟性に優れると共に、被着体に対する密着性と易分離性を兼ね備えた組成物が得られるという本件明細書記載の作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1は、相違点1が格別なものではなく、相違点2に500重量部の点で重なるものがあるとしても、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
本件発明2〜5は、本件発明1を引用し、さらに、限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
本件発明6及び7は、本件発明1〜5を引用し、工業用シール材あるいは緩衝または防振材とするものであるから、本件発明1〜5と同様の理由により、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4)むすび
以上のとおりであるから、各特許異議申立人の主張する理由および提出した証拠方法によっては、本件発明1〜7の特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜7の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ホットメルト組成物およびその用途
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が1dl/g以上のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物からなるスチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して、プロセスオイル、液状ゴムおよびこれらの変性物から選ばれた液状軟化剤500ないし3000重量部を配合した組成物であって、さらに、前記組成物が、
(a)環球法軟化点測定法によって測定される軟化点が120ないし230℃であり;
(b)-30℃ないし40℃の雰囲気下で75%以上の圧縮歪みを負荷した時に割れを生じず;かつ、
(c)無負荷の状態で100℃の雰囲気中24時間静置した時に流動しない;ことを特徴とするホットメルト組成物。
【請求項2】前記液状軟化剤の配合量が、スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して500ないし1200重量部である請求項1記載のホットメルト組成物。
【請求項3】 前記液状軟化剤の配合量が、スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して1200ないし3000重量部である請求項1記載のホットメルト組成物。
【請求項4】 前記軟化点が130ないし220℃である請求項1記載のホットメルト組成物。
【請求項5】 さらに、ロジン系および/または石油樹脂系粘着付与剤を添加した請求項1記載のホットメルト組成物。
【請求項6】 前記請求項1ないし5のいずれか1記載のホットメルト組成物を用いた工業用シール材。
【請求項7】 前記請求項1ないし5のいずれか1記載のホットメルト組成物を用いた緩衝または防振材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ホットメルト組成物に関するものであり、より詳しくは、低温での脆性および高温での流動性を抑制し、かつ柔軟性に優れると共に、被着体に対する密着性と易分離性を兼ね備えた、緩衝材、防振材あるいは工業用シール材として優れた適性を有するホットメルト組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高分子合成技術の飛躍的な発展にともない、産業界のあらゆる分野において、従来の素材に代わってコスト/性能のバランスに優れる機能性プラスチックおよびエラストマー類の市場展開が鋭意進められている。
例えば、高温でのヘビーデューティ特性が要求される金属代替分野においては、一部の熱硬化性樹脂を除いては成形加工性に優れる熱可塑性プラスチックが急速にそのシェアを拡大している一方、ゴム製品の分野においても原料ゴムと補強剤および加硫剤等を混練し、次いで、成形加硫という工程を経て多くの労力とエネルギーを費やして製品化される従来型の加硫ゴムは、熱可塑性プラスチック用の成形機で加工や賦形ができる熱可塑性エラストマーの出現によって、一部の用途分野から撤退および棲み分けを余儀なくされている状況にある。
【0003】
また、従来より、容器、建造物、各種成形機械などの接合部の密封性を保持するために種々のシール材が用いられている。
シール材としては、その特性としてゴム弾性を有する材料が多く用いられ、古くは、加硫ゴム、軟質塩化ビニル樹脂、ポリウレタンなどの成形品などが用いられていたが、近年になって、エラストマー系のホットメルトタイプのポリマーなども用いられるようになってきている。
【0004】
さらに、高温でゴム的性質の要求されるシール材用途分野においても、加硫ゴム成形品や合成樹脂発泡品は装着に手間がかかることや自動化が困難であるためコスト削減が進まず、現場で溶融装着可能な熱可塑性エラストマーのホットメルトタイプシール材の実用化が次第に試みられてきている。
【0005】
従来のホットメルト配合系では、基本的に低分子量あるいは中分子量のエラストマーをベースポリマーとして用いるために、高温域で形状が不安定となり流動化することは避けられず、それを防止するために構造粘性を有するワックス類の化合物を添加するのが技術常識となっている。しかしながら、ワックス類を添加すると、柔軟性が著しく低下するするために耐熱性と柔軟性のバランスが悪くなり、シール材としての用途には適しているとは言えない。また、中低分子量のエラストマーをベースとしているために初期のタック性は優れているが、その一方剥離性に乏しくなり、使用後に被着体から分離することが困難であるという問題がある。
【0006】
また、ベースポリマーの分子量が低いため軟化温度は低く耐熱性が劣る。また柔軟性を出すために液状軟化剤を添加して行くと、高温での機械特性が低下し、例えば、50℃以上の領域で自重で流動化するか、もしくは圧縮した場合、大きい圧縮永久歪みが残るという現象を呈するに至る。このような特性は、さらに高温での高い密封性を要求されるシール材としての用途には適さないものとなる。
【0007】
また、一般にエラストマー系のホットメルト配合では、柔軟性を付与するためにプロセスオイルなどを添加するが、添加量を多くするにしたがって圧縮永久歪みが大きくなり、したがって、この場合も柔軟性と圧縮永久歪みのバランスが悪く、シール材としての適性は低下する。
【0008】
ホットメルトタイプの中でも特に復元性が優れているとされるスチレン系ブロックポリマーでも、現在使用されている組成配合のものは、高温での圧縮永久歪みが極めて大きいため十分な密封性が保持できず実用に供さない。
従来のスチレン系熱可塑性エラストマーを用いたホットメルト組成物は、135℃デカリン中の極限粘度[η]が1dl/g未満のものをベースとし、これらエラストマー100重量部に対してオイルや液状ゴムなどの液状軟化剤を20ないし200重量部程度添加したものが基本配合として使用されている。
【0009】
この他にも、エラストマーを用いたシール材としては、例えば、特開平4-110381号公報に、カルボキシル変性されたスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体またはスチレン-ブタジェン-スチレンブロック共重合体よりなる反応性エラストマー50〜100重量部と、プロセスオイルよりなる軟化剤50〜250重量部とを含有するホットメルトガスケット組成物が開示されている。
【0010】
この発明においては、軟化剤の割合が50重量部未満であると混合物の粘度が極端に高くなり、機械適性や作業性に問題が生じ、また、250重量部を超えると作業性に難が生じたり、耐熱性に問題が生じることを記載している。
【0011】
そして、具体的に実施例において反応性エラストマーとして用いているスチレン系ブロック共重合体は、[η]が0.67のカルボキシル変性スチレン系熱可塑性エラストマーであり、これに対して2倍量のパラフィンオイルを配合し、さらに、任意配合成分として、合成ワックス、低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ノニオン界面活性剤あるいは離型用シリコンオイルを配合したものが鉄板密着性および鉄板付着性に優れていることが記載されている。
【0012】
このように、上記先行技術は鉄板との密着性を高めるためのガスケット組成物を目的とするものであり、用いられている反応性エチレンモノマーは比較的低分子のスチレン系ブロック共重合体であることが特徴となっている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前述したように、前記先行技術を含めて従来のシール材やコーキング材は、基本的に中低分子量のエラストマーをベースとしているため、軟化点が低く高温で流動化が起こるばかりでなく、圧縮永久歪み、とくに高温における圧縮永久歪みが大きく、シール材としての適性の面で必ずしも好ましいものとは言えない。
流動化を防止するためには、構造粘性を付与するワックス類を添加することが行われるが、その場合には柔軟性が低下してしまい配合物は脆く割れやすい性質となる。
【0014】
また、圧縮永久歪みが大きいということは、それだけ、負荷に抗して復元する力が乏しいことを意味するものであり、このようなものは負荷状態のまま塑性変形してしまうものであるから、経時に伴って振動などが加わると、次第に密封すべき部材との間に空隙が生じてしまい長期にわたっての良好なシール状態が保持できないという問題がある。
【0015】
また、近年、資材のリサイクルが叫ばれ、かつ地球環境に対する優しさが求められており、産業廃棄物として処理される対象物は、可能な限り材質ごとに分離して処理されたり廃棄されなければならない。それにもかかわらず、前記先行技術のようにガスケットが鉄部材などの被着体に強固に密着しているものは、それを分離することは極めて困難であるため、鉄部材とガスケットという異なる材質が分離されることなくそのままの状態で廃棄されることになり、これが環境破壊のひとつの原因ともなっている。
【0016】
そこで、本発明の目的は、高温での圧縮永久歪みが小さく、被着体への密着性に優れておりながら、被着体からの分離が容易な工業用シール材に適したホットメルト組成物を提供することにある。
また本発明の他の目的は、低温での脆性および高温での流動性を抑制し、かつ柔軟性を有するホットメルト組成物を提供することにある。
さらに本発明の他の目的は、液状軟化剤の配合量やその他の任意配合剤の添加によってさまざまなシール特性を示す工業用シール材、緩衝材あるいは防振材として適用できるホットメルト組成物を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであって、特定の高分子量のスチレン系熱可塑性エラストマーを用い、これに多量の液状軟化剤を配合したことを特徴とするホットメルト組成物を基本配合とするものである。
【0018】
すなわち、本発明によれば、極限粘度[η]が1dl/g以上のスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物からなるスチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して、プロセスオイル、液状ゴムおよびこれらの変性物から選ばれた液状軟化剤500ないし3000重量部を配合した組成物であって、かつ、前記組成物が、
(a)環球法軟化点測定法によって測定される軟化点が120ないし230℃であり;
(b)-30℃ないし40℃の雰囲気下で75%以上の圧縮歪みを負荷した時に割れを生じず;さらに、
(c)無負荷の状態で100℃の雰囲気中24時間静置した時に流動しない;ことを特徴とするホットメルト組成物が提供される。
【0019】
【0020】
【0021】
また、本発明によれば、前記液状軟化剤の配合量が、スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して500ないし1200重量部である上記ホットメルト組成物が提供される。
【0022】
また、本発明によれば、前記液状軟化剤の配合量が、スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して1200ないし3000重量部である上記ホットメルト組成物が提供される。
【0023】
また、本発明によれば、前記軟化点が130ないし220℃である上記ホットメルト組成物が提供される。
【0024】
また、本発明によれば、さらに、ロジン系および/または石油樹脂系粘着付与剤を添加した上記ホットメルト組成物が提供される。
【0025】
また、本発明によれば、上記ホットメルト組成物を用いた工業用シール材が提供される。
【0026】
また、本発明によれば、上記ホットメルト組成物を用いた緩衝または防振材が提供される。
【0027】
【発明の実施の形態】
本発明の最大の特徴は、ホットメルト組成物を構成するベースポリマーとして分子量の高いスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物からなるスチレン系エラストマーを採択したこと、さらに、これに比較的多量の液状軟化剤を配合したこと、ならびに、この組成物が、特定の軟化点、圧縮歪み特性ならびに加熱流動特性を備えていることが重要であり、これによって、従来のホットメルト組成物では得られない極めて凝集力の強いホットメルト組成物を得ることができた点に重要な技術的意義がある。
【0028】
本発明の組成物は、高分子量のエラストマーをベースにしていることにより、シール材の用途分野に適用した場合、被着体との剥離性が極めて優れており、使用後にシール材を被着体から分離するのが実に容易な易解体性の機能も兼ね備えており、さらに高温でのゴム的性質が優れていることもかみ合って被着体に対するシール性能を高めているものと考えられる。
【0029】
本発明においてベースポリマーとして用いるスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物からなるスチレン系熱可塑スチレン系エラストマーは、135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]が1以上のものであることが重要であり、[η]が1以上であれば、単独のエラストマーばかりでなく、複数のエラストマーのブレンド物であってもよい。本発明で言うところの極限粘度[η]とは、135℃デカリン中で測定した値を言う。
このベースポリマーの採択は、本発明者らの度重なる実験によって定められた臨界的意義を持つものであり、極限粘度[η]が1未満のスチレン系エラストマーを用いた場合のシール材としての効果とは明らかに区別されるものである。
【0030】
【0031】
なお、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物からなるスチレン系熱可塑性エラストマー中のスチレン系の占める割合は5ないし70重量%であり、とくに20ないし40重量%の割合が高温での柔軟性とゴム弾性のバランスが優れている。
【0032】
本発明においては、この特定のベースポリマーに対して500ないし3000重量部という多量の液状軟化剤を配合することが重要であり、ベースポリマーが高分子である事により、このような多量の液状軟化剤を配合する事によって、シール特性、易剥離性、緩衝性ならびに防振性等の特性に優れたものとなる。
【0033】
本発明のホットメルト組成物は、さらに、
(a)環球法軟化点測定法によって測定される軟化点が120ないし230℃であり;
(b)-30℃ないし40℃の雰囲気下で75%以上の圧縮歪みを負荷した時に割れを生じず;
(c)無負荷の状態で100℃の雰囲気中24時間放置した時に流動しない;という物性を併せ備えていることが必要である。
【0034】
液状軟化剤の配合量によって、シール材としての特性が変化し、被着体の種類や形状さらには用いられる場所やその温度条件などさまざまなバリエーションに対応できるシール材を提供することが可能になる。
本発明におけるシール材とは、一般にガスケット、パッキング、シーリング、コーキング、パテなどの表現で知られるシール材全てに適合できるものである。
【0035】
本発明のホットメルト組成物の軟化点は、120ないし230℃であり、好ましくは130ないし220℃、特に好ましくは150ないし200℃である。本発明組成物の高温適性は、ベースエラストマーであるスチレン系エラストマーの分子量に大きく依存しているが、かかる特性は、マトリックスの骨格を形成するスチレンドメインが外部からの負荷に対していかに持ちこたえるかにかかっている。スチレンドメインを構成するポリスチレンの分子量が低ければ、大量の液状軟化剤によるドメインへの侵食が進み、耐熱性は低下する。したがって、エラストマーの分子量のみでは一義的に耐熱性を保証できるものではなく、液状軟化剤とエラストマーとが一体となってその熱的性質が位置付けられる。
【0036】
一般に、液状軟化剤の添加量が多くなると柔軟性は増加するが、軟化点は逆に低下し耐熱性が悪くなる。一方、液状軟化剤の添加量を減らすと軟化点は上がって高温特性は良くなるが常温及び低温では脆くなる傾向がある。
環球法とは、JAI-17-1991に準拠した軟化点測定方法である。
【0037】
また、本発明のシール材は、-30℃ないし40℃の雰囲気下で75%以上の圧縮歪みを負荷した時に割れを生じないものであることが必要である。この圧縮永久歪みは、この条件下で圧縮後すぐに負荷を解放した時点で割れを生じないものであることをいうものであり、このような条件下でも割れを生じないことにより、密封性の高いシール材となる。
【0038】
さらに本発明のシール材は、無負荷の状態で100℃の雰囲気中24時間静置した時に流動しないことが重要である。この規定は被着体の置かれる条件が例え高温であってもシール材としての正確なセッティングを施す上で重要であり、100℃の雰囲気下で流動するものは、高温雰囲気下でのシール材装着作業を遂行する上で不適当である。
【0039】
本発明においてスチレン系エラストマーに配合する液状軟化剤としては、プロセスオイル、液状ゴムまたはこれらの変性物からなる群より選ばれた少なくとも1種が例示されるが、なかでも、本発明の目的を好適に達成するために、プロセスオイルではパラフィンオイル、ナフテンオイル、アロマオイル等、液状ゴムでは液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエン、液状ポリブテン、液状1,2ポリブタジエン、液状スチレン-ブタジエンゴム、マレイン化ポリブタジエン、末端水酸基ポリブタジエン、マレイン化ポリブテン等がそれぞれ単独または併用して用いられる。
【0040】
また、通常、液状の粘着付与材として用いられる成分、例えば、ロジンエステル、変性ロジンエステル、テルペン低重合体、変性テルペン低重合体、C5系液状石油樹脂、C5〜C9系液状石油樹脂なども本発明の液状軟化剤として用いることができる。この液状の粘着付与剤を用いた場合には被着体に対する粘着性が一層優れたものになり、使用後の被着体との分離性がしにくくなる。したがって、易剥離性を望む用途には、この粘着付与材は用いない方が良い。
【0041】
液状軟化剤の配合量は被着体の種類や状態などにもよって異なるが、密着性に優れると共に被着体からの分離性に優れるという発明の目的を達成するためには、スチレン系エラストマー100重量部に対して500ないし3000重量部の範囲で配合される。この液状軟化剤の配合量によって得られるホットメルト組成物のシール特性は異なり、液状軟化剤の配合量が多くなるにしたがって一般的に組成物の柔軟性は増加し、被着体への密着性は良くなるが、本発明の組成物が高温での優れたシール特性を示しているのは単に、シール材が柔らかくなることだけでなく、高温反発弾性が長期にわたり大きいために、被着体とシール材との間の接触面圧が常に高く保持されていることによるものと理解すべきである。
事実、後述する実施例からも明らかなように、液状軟化剤の配合量と反発弾性とのバランスが優れる領域があることが理解されれる。
【0042】
本発明においては、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体およびその水添物からなるスチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して液状軟化剤の配合量が500ないし3000重量部配合されていることによって、シール材、緩衝材、防振材として有用なものであるが、なかでも、液状軟化剤の配合量が、スチレン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して500ないし1200重量部の場合は、高温での圧縮永久歪みとゴム的反発性のバランスがシール材としての特性に優れている一方、液状軟化剤を1300ないし3000重量部配合した場合には、柔らかくなり圧縮応力が著しく低くなるが、形状保持性に優れ流動化が起こらなく、緩衝性、防振性の機能を発揮するようになる。
【0043】
また、液状軟化剤の配合量が1300ないし3000重量部の場合には、常温での50%圧縮下において0.1kg/cm2以下の非常に低い圧縮応力値を示すほどの著しい柔軟性を発現させると同時に常温での圧縮永久歪みがほとんどない等の形状安定性を併せ持つ配合域が存在することを見いだした。このような特性は、ホットメルトタイプの緩衝材や防振材として適している。
【0044】
本発明のベースポリマーは、従来のホットメルト組成物のベースポリマーに比べて高い分子量を有するため、基本的に耐熱性に優れていることは当然であるが、驚くべきことに液状軟化剤を多量に添加し柔軟性を付与した場合でも、高温での機械特性、特に圧縮永久歪みについては増加しないばかりでなく、むしろ、ある添加範囲では著しく低い値を示すことを見いだした。
【0045】
これは、高分子量のエラストマー分子の絡み合ったマトリックスが低分子量の液状軟化剤を大量に抱え込み、既成の概念の延長では理解できないような特性を発現しているためと推定される。
いずれにしても、本発明の上記特定のホットメルト組成物が高温においてもなおゴム的反発弾性を維持していることで、極めて優れた高温シール機能を有する素材であることが明らかであり、工業用シール材として優れた適性を有する。
【0046】
緩衝材としては、ゲル等の半液体のものや、反応発泡体や反応型のもの等の固形のものがあるが、本発明による配合物では、ホットメルトの固形物としたことで、容器に入れて用いる必要はなく、養生期間は冷えるまでの間であることから反応型よりも作業が短縮化できること以外にも、ホットメルトであことにより溶融させ、作業現場等で任意な形状にできる等のメリットがある。
【0047】
かくのごとく、本発明のホットメルト組成物は、ベースポリマーが高分子量であることから、液状軟化剤の保持能力に優れ、液状軟化剤を多量に添加しても固形を維持することが可能になり、加えて従来のホットメルト組成物にはない柔軟性を発揮することができるものと考えられる。
ちなみに、[η]が1.0未満のベースポリマー組成物では、上記の軟化剤の添加範囲では固形を維持することが困難であり、たとえ固形になった場合でも、常温での圧縮永久歪みは大きく、形状安定性に劣るものとなるため、本発明のように緩衝材や防振材として用いることはできない。
【0048】
本発明のホットメルト組成物には、さらに粘着性を向上させるために、粘着付与剤を添加することができる。粘着付与剤としては、脂環族系水添タッキファイヤー、ロジン、変性ロジン、またはこれらのエステル化物、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族成分と芳香族成分の共重合石油樹脂、低分子量スチレン樹脂、イソプレン系樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペン樹脂、クマロン・インデン樹脂などの自体公知の粘着付与剤がなんら制限なく用いられるが、なかでも、ロジン系および/または石油樹脂系の粘着付与剤が好ましく用いられる。
【0049】
さらに本発明のホットメルト組成物には、発明の目的を損なわない範囲で、ポリオレフィン系ワックスなどの改質剤、無機および/または有機充填剤、あるいは顔料、安定剤等の添加剤を配合することができる。
【0050】
ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フィッシャートロピッシュワックス、酸化ポリエチレンワックス、マレイン化ポリエチレンワックスならびにそれらの変性物が例示される。
【0051】
熱可塑性エラストマーおよび熱可塑性樹脂としては、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブテン、ポルブタジエン等が例示される。
【0052】
無機充填剤としては、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、ガラスビーズ、酸化チタン、アルミナ、カーボンブラック、クレー、フェライト、タルク、雲母粉、アエロジル、シリカならびにガラス繊維等の無機繊維および無機発泡体が例示される。
【0053】
有機充填剤としては、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の粉末、炭素繊維、合成繊維、合成パルプ等が例示される。
【0054】
また安定剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤などが例示される。
【0055】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、発明の要旨を逸脱しない限りにおいてこれによって制限されるものではない。
なお、実施例および比較例における試験片の作成、ならびにホットメルト組成物の物性の評価は、下記の方法に従ったものである。
【0056】
<軟化点の測定方法>
JAI-17-1991に準拠して測定した。
【0057】
<圧縮試験片の作成方法>
得られたホットメルト組成物から、高さ20mm,直径27mmの円柱を成形し、圧縮試験片とした。
【0058】
<圧縮時の割れの評価方法>
恒温槽付きの精密万能試験機((株)島津製作所製、オートグラフAG-2000C)を用いて圧縮速度50mm/min、測定雰囲気-30℃および40℃、圧縮試験片の高さ方向に75%圧縮し、ただちに解放した。その後目視にて試験片の割れの有無を観察し、割れのなかったものを○、割れの生じたものを×で表した。
【0059】
<50%圧縮応力>
圧縮時の割れの評価方法と同様に試験片を圧縮し、この時の圧縮応力を測定した。応力/断面積=圧縮応力(kg/cm2)
【0060】
<50%圧縮永久歪み>
上記と同じ圧縮試験片を50%圧縮(20mmを10mmまで圧縮)し、50℃、80℃に24時間放置し、放置後開放し22時間後の高さを測定し、下記計算式にて算出した。

【0061】
<無負荷での流動性評価方法>
雰囲気温度100℃の恒温槽中に圧縮試験片と同様の試験片を高さ方向が水平面に対し垂直となるように無負荷所状態で24時間放置した後取り出し、試験片の下面に対する投影面積が放置前の10%未満となった場合を流動性無しとして○、10%以上となった場合を流動性有りとして×で表した。
【0062】
<水密性>
ホットメルト組成物をガラス面に円状に塗工し(幅約1cm,高さ約0.3cmのビート)、もう一枚のガラス板で50%圧縮した状態で80℃で10日間水中に浸漬放置し、水の浸入の有無を確認した。水の浸入がなかったものを○、水の浸入があったものを×で表した。
【0063】
<参考例>
スチレン系エラストマーとして、[η]1.46のSEPS(エラストマーaという)200重量部に対して、液状軟化剤として、商品名「ダイアナプロセスオイルPW-90」(出光興産(株)製)600重量部を添加し、(株)モリヤマ社製の1リットル双腕型ニーダー(型式SVI-1GH-E型)に仕込み、52RPMで200℃で1時間混練してホットメルト組成物約800gを得た。
得られたホットメルト組成物の物性を表1に示した。
【0064】
<実施例1>
参考例におけるスチレン系エラストマーの量100重量部とし、液状軟化剤(「ダイアナプロセスオイルPW-90」)の量を500重量部とする以外は、参考例と同様にしてホットメルト組成物約600gを得た。
得られたホットメルト組成物の物性を表1に示した。
【0065】
<実施例2>
スチレン系エラストマーとして、[η]が1.26のSEPS(エラストマーbという)100gを用いた以外は、実施例1と同様にしてホットメルト組成物約600gを得た。得られたホットメルト組成物の物性を表1に示した。
【0066】
<比較例1>
スチレン系エラストマーとして、[η]0.59のSEBS(エラストマーcという)200gを用いた以外は、実施例1と同様にしてホットメルト組成物を得た。
得られたホットメルト組成物の物性を表1に示した。
【0067】
<比較例2>
スチレン系エラストマーとして、比較例1と同じく、[η]が0.59のエラストマーc100gを用いた以外は、実施例1と同様にしてホットメルト組成物を得た。得られたホットメルト組成物の物性を表1に示した。
【0068】
<実施例3ないし5、比較例3ないし5>
実施例として、参考例に準じて、スチレン系エラストマー100重量部に対して液状軟化剤の配合量を600重量部、800重量部、1000重量部に増加した場合の各物性を測定し、表2に示した。
なお、比較例として、比較例1に準じて、液状軟化剤の配合量を同様に増量した場合の物性を測定し表2に併せて示した。
【0069】
<実施例6ないし8、比較例6ないし8>
実施例として参考例に準じて、スチレン系エラストマー100重量部に対して液状軟化剤の配合量を1500重量部、2000重量部、3000重量部に増加した場合の各物性を測定し、表3に示した。
なお、比較例として、比較例1に準じて、液状軟化剤の配合量を同様に増量した場合の物性を測定し表3に併せて示した。
【0070】
<実施例9、比較例9>
参考例に準じて、[η]が1.46のエラストマーaと、[η]が0.67のカルボキシル変性スチレン系熱可塑性エラストマー(エラストマーdという)を50重量部づつ混合した[η]が1.08のエラストマー混合物に、液状軟化剤700重量部を配合した場合の各物性を測定し、表4に示した。
【0071】
なお、比較例として、上記エラストマーcに液状軟化剤700重量部を配合した場合の物性を測定し、表4に併せて示した。
鉄板付着性は、幅25mmの鉄板の上にホットメルト組成物をハンドガンより200℃で塗布厚3mm、塗布巾6mmでビード塗布した。その後20℃まで放冷し、ビードを手で引きはがしその抵抗の大小を付着性として、◎、○で評価した。
表4から明らかなように、本発明のものは、上記実施例と同様に鉄板への付着製に優れると共に、圧縮永久歪みが小さくシール特性に優れているのに対し、比較例のものは、鉄板付着性は優れているが、圧縮永久歪みが大きく、シール特性に劣る事が確認された。
なお、表には示していないが、全ての実施例によって得られたホットメルト組成物は被着体との易剥離性に優れていた。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
【発明の効果】
本発明によれば、被着体に対する密着製が優れている反面、被着体との分離が容易なホットメルト組成物が提供され、このホットメルト組成物は、液状軟化剤の配合量によって、工業用シール材、緩衝材、さらには防振材などの用途に適しており、とくに高温条件下におけるシール特性に優れている。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-11-04 
出願番号 特願平11-37919
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 佐野 整博
大熊 幸治
登録日 2003-06-06 
登録番号 特許第3437779号(P3437779)
権利者 旭化学合成株式会社
発明の名称 ホットメルト組成物およびその用途  
代理人 庄子 幸男  
代理人 庄子 幸男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ