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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1111154
異議申立番号 異議2001-73466  
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-25 
確定日 2004-10-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3180100号「半導体モジュール」の請求項1〜7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3180100号の請求項1〜7に係る特許を取り消す。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第3180100号の請求項1〜7に係る発明についての出願は、平成9年8月25日に出願した特願平9-228631号(以下、「原出願」という。)を、平成11年4月23日に特許法第44条第1項の規定により特許出願の分割をした出願であって、平成13年4月13日にその発明について特許権の設定登録がなされたところ、当該請求項1〜7に係る発明の特許について佐藤正より特許異議の申立てがなされ、平成15年5月30日付で取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年8月11日に特許異議意見書が提出されるとともに訂正請求がなされ、更に平成16年2月24日付で取消理由が通知され、その指定期間内に特許異議意見書が提出されたものである。

[2]訂正の適否についての判断
[2-1]訂正事項
[2-1-1]訂正事項a
本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された「厚さ以下である」を「厚さ以下であり、上記高熱伝導性窒化けい素基板をねじ止めまたは押圧して圧接することにより機器ケーシングまたは実装ボードに取付けられている」と訂正する。

[2-1-1]訂正事項b
特許明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された「2倍以上である」を「2倍以上であり、上記高熱伝導性窒化けい素基板をねじ止めまたは押圧して圧接することにより機器ケーシングまたは実装ボードに取付けられている」と訂正する。

[2-2]訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び拡張・変更の存否
訂正事項a、bは、特許明細書の請求項1、2にそれぞれ、「上記高熱伝導性窒化けい素基板をねじ止めまたは押圧して圧接することにより機器ケーシングまたは実装ボードに取付けられている」という、半導体モジュールの取付構造上の限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
そして、当該取付構造については、特許明細書の段落【0044】に、「図1に示した半導体モジュール1aは、窒化けい素基板10の外縁部に形成した取付ねじ用貫通孔11に取付ねじ6aを挿通して機器ケーシング9等に締着固定される。‥‥‥‥‥図2に示すように、取付ねじ用貫通孔11aを形成した枠状のケース12を用意し、このケース12の内周縁部を半導体モジュールの外周縁部に押圧し、取付ねじ6bによってモジュールを機器ケーシング9等に圧接して固定することも可能である。」と記載されるとともに、図1及び図2に上記のとおりの取付構造が示されていたものであるから、当該訂正事項は、特許明細書又は図面の範囲内においてした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

[2-3]まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の4第2項、及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3]特許異議の申立てについての判断
[3-1]本件発明
上述したように、本件訂正は適法なものであるから、本件特許の請求項1〜7に係る発明(以下、「本件発明1〜7」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Sr,Ba,Mn,Bを合計で1.0重量%以下含有し、熱伝導率が60w/m・k以上である高熱伝導性窒化けい素基板と、この高熱伝導性窒化けい素基板に搭載された半導体素子と、この高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子搭載面側に接合された金属回路板と、上記高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子非搭載面側に接合され、かつ機器ケーシングあるいは実装ボードに一体に接合される金属板とを具備し、上記機器ケーシングあるいは実装ボードに接合される金属板の厚さが上記金属回路板の厚さ以下であり、上記高熱伝導性窒化けい素基板をねじ止めまたは押圧して圧接することにより機器ケーシングまたは実装ボードに取付けられていることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項2】不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Sr,Ba,Mn,Bを合計で1.0重量%以下含有し、熱伝導率が60w/m・k以上である高熱伝導性窒化けい素基板と、この高熱伝導性窒化けい素基板に搭載された半導体素子と、この高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子搭載面側に接合された金属回路板と、上記高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子非搭載面側に接合され、かつ機器ケーシングあるいは実装ボードに一体に接合される金属板とを具備し、上記機器ケーシングあるいは実装ボードに接合される金属板の厚さが上記金属回路板の厚さの2倍以上であり、上記高熱伝導性窒化けい素基板をねじ止めまたは押圧して圧接することにより機器ケーシングまたは実装ボードに取付けられていることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項3】前記高熱伝導性窒化けい素基板は、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wから選択される少なくとも1種を酸化物に換算して0.1〜3.0重量%含有することを特徴とする請求項1または2記載の半導体モジュール。
【請求項4】高熱伝導性窒化けい素基板は、不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Sr,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下含有することを特徴とする請求項1または2記載の半導体モジュール。
【請求項5】高熱伝導性窒化けい素基板は、窒化けい素結晶相および粒界相から構成されるとともに粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合が20%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の半導体モジュール。
【請求項6】前記金属回路板および金属板は、前記高熱伝導性窒化けい素基板に直接接合法により接合されていることを特徴とする請求項1または2記載の半導体モジュール。
【請求項7】前記金属回路板および金属板は、前記高熱伝導性窒化けい素基板に活性金属含有層により接合されていることを特徴とする請求項1または2記載の半導体モジュール。」

[3-2]引用刊行物に記載された発明
当審において平成16年2月24日付で通知した取消理由に引用した、原出願の出願前に頒布された刊行物である下記の引用刊行物1〜4には、それぞれ以下の事項が記載されている。
引用刊行物1:特開平9-69590号公報
引用刊行物2:特開平8-32186号公報
引用刊行物3:特開平9-69594号公報
引用刊行物4:特開平7-149588号公報(異議申立人の提出した甲第1号証)

[3-2-1]引用刊行物1:特開平9-69590号公報
引用刊行物1には、図1、図2が示されるとともに、
「【請求項1】希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%、不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Mg,Sr,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下含有し、熱伝導率が60W/m・K以上である高熱伝導性窒化けい素基板に回路層を接合した回路基板であり、上記高熱伝導性窒化けい素基板上に回路層を介して複数の半導体素子を搭載したことを特徴とする窒化けい素回路基板。
【請求項2】希土類元素を酸化物に換算して2.0〜17.5重量%、不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Mg,Sr,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下含有し、窒化けい素結晶および粒界相から成るとともに粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合が20%以上であり、熱伝導率が60W/m・K以上である高熱伝導性窒化けい素基板に回路層を接合した回路基板であり、上記高熱伝導性窒化けい素基板上に回路層を介して複数の半導体素子を搭載したことを特徴とする窒化けい素回路基板。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
【請求項7】回路層が金属回路板であり、この金属回路板が表面に酸化層を有する高熱伝導性窒化けい素基板上に接合されていることを特徴とする請求項1記載の窒化けい素回路基板。
【請求項8】回路層が金属回路板であり、Ti,Zr,HfおよびNbから選択される少なくとも1種の活性金属を含有する活性金属ろう材層を介して上記金属回路板が高熱伝導性窒化けい素基板上に接合されていることを特徴とする請求項1記載の窒化けい素回路基板。」(【特許請求の範囲】)、
「上記窒化アルミニウム焼結体基板や酸化アルミニウム焼結体基板などのセラミックス基板を主たる構成材とする回路基板を、アッセンブリ工程にて実装ボートにねじ止め等により固定しようとすると、ねじの押圧力による僅かな変形やハンドリング時の衝撃によって回路基板が破損し、半導体装置の製造歩留りを大幅に低減させる場合がある。‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
本発明は上記のような課題要請に対処するためになされたものであり、窒化けい素焼結体が本来備える高強度高靭性特性を利用し、さらに熱伝導率が高く放熱性に優れるとともに耐熱サイクル特性を大幅に改善できる一方、半導体装置へのアッセンブリ工程における実装性を改善した窒化けい素回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】本発明者は上記目的を達成するために、回路基板の放熱性(熱伝導率)を劣化させず、強度および靭性値を共に満足するような基板材料を研究するとともに、回路基板のアッセンブリ工程において発生する締め付け割れや熱サイクル付加時に発生するクラックを防止し実装性を改善する対策について鋭意研究を重ねた。その結果、基板材料については、組成および製造条件を適正に制御することにより、従来にはない高い熱伝導率を有する窒化けい素焼結体が得られたこと、この窒化けい素焼結体を使用して大型の基板を形成し、基板表面に回路層を一体に形成するとともに複数の半導体素子を搭載して大型の回路基板とした場合においても、アッセンブリ工程における回路基板の締め付け割れ等を効果的に低減できる」(段落【0008】〜【0012】)、
「本発明において使用する高熱伝導性窒化けい素焼結体は、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wからなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して0.1〜3.0重量%含有することが好ましい。このTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wからなる群より選択される少なくとも1種は、酸化物,炭化物、窒化物、けい化物、硼化物として窒化けい素原料粉末に添加することにより含有させることができる。」(段落【0026】)、
「上記回路層の形成接合方法は、特に限定されず、以下に説明する直接接合法,活性金属法またはメタライズ法などを適用することができる。
直接接合法は、高熱伝導性窒化けい素基板の表面に、厚さが0.5〜10μm程度の酸化層を形成し、この酸化層を介して、回路層となる金属回路板を上記窒化けい素基板に直接接合する方法である。」(段落【0055】,【0056】)、
「活性金属法では、Ti,Zr,HfおよびNbから選択される少なくとも1種の活性金属を含有し適切な組成比を有するAg-Cu-Ti系ろう材等で窒化けい素基板表面に、厚さ20μm前後の活性金属ろう材層を形成し、このろう材層を介して、銅回路板などの金属回路板が接合される。」(段落【0065】)、
「次に図1に示すように各窒化けい素基板2表面の回路層を形成する部位および裏面の銅板を接合する部位に、30wt%Ag-65%Cu-5%Tiろう材をスクリーン印刷し乾燥して厚さ20μmの活性金属ろう材層7a,7bを形成した。この活性金属ろう材層7a,7bの所定位置に、無酸素銅から成る厚さ0.3mmの銅回路板4と厚さ0.25mm値の裏銅板5とを接触配置した状態で、真空中で温度850℃で10分間保持して接合体とした。次に各接合体をエッチング処理することにより、所定回路パターン(回路層)を形成した。さらに2ヶ所の銅回路板4の中央部にそれぞれ半導体素子6を半田接合して実施例1〜3に係る窒化けい素回路基板1を多数製造した。」(段落【0075】)、
「上記各実施例の回路基板をアッセンブリ工程においてボードに実装したところ、締め付け割れが発生せず、回路基板を用いた半導体装置を高い製造歩留りで量産することができた。また複数の半導体素子6,6を同一の窒化けい素基板2上に一括して搭載する構造であるため、半導体素子毎に個別に回路基板を形成する場合と比較して、回路基板をコンパクト化できる上に、回路基板の装置への組み込み回数も減少し、実装性を大幅に改善することができた。」(段落【0078】)、
「酸化層を形成した各Si3N4基板表面側に、厚さ0.3mmのタフピッチ電解銅から成る銅回路板を接触配置する一方、背面側に厚さ0.25mmのタフピッチ銅から成る銅回路板を裏当て材として接触配置させて積層体とし、この積層体を窒素ガス雰囲気に調整した温度1075℃の加熱炉に挿入して1分間加熱することにより、各Si3N4基板の両面に銅回路板を直接接合し、さらに2個の半導体素子を半田接合したSi3N4回路基板をそれぞれ調製した。
各Si3N4回路基板1aは、図2に示すようにSi3N4基板2の全表面にSiO2から成る酸化層3が形成されており、Si3N4基板2の表面側に金属回路板としての銅回路板4が直接接合される一方、背面側に裏銅板としての銅回路板5が同様に直接接合され、さらに表面側の銅回路板4の所定位置2ヶ所に図示しない半田層を介して半導体素子6がそれぞれ一体に接合された構造を有する。なおSi3N4基板2の両面に銅回路板4,5を接合した場合、裏銅板としての銅回路板5は放熱促進および反り防止に寄与するので有効である。」(段落【0082】,【0083】)と記載されている。

[3-2-2]引用刊行物2:特開平8-32186号公報
引用刊行物2には、図1が示されるとともに、
「【請求項1】締結具(1)を用いてケーシング(2)に取り付けるための孔(3a)を備えたセラミック基板(3s)に導体回路パターン(3d)を形成したセラミック配線板(3)において、上記孔(3a)の内面にセラミック基板(3s)よりも弾性を有する被覆層(4)が形成されていることを特徴とするセラミック配線板。
【請求項2】上記被覆層(4)が、上記孔(3a)の内面に加えて、セラミック基板(3s)が締結具(1)に当接する面及びケーシング(2)に当接する面にも形成されていることを特徴とする請求項1記載のセラミック配線板。」(【特許請求の範囲】)、
「図1に示す本発明のセラミック配線板3に用いられるセラミック基板3sとしては、例えばアルミナ、窒化ケイ素及び窒化ボロン等のセラミックが用いられ、バインダーとしては、例えば水、メチルセルロース、スターチ、アミノ樹脂、フェノール樹脂、アクリル、酢酸ビニル、グリセリン及びグリコール等のように液状、粉末状を問わず用いられ、併用することもできる。これらの材料を混合分散し、例えばドクターブレード法等でシート化して、グリーンシート金型を用いて、グリーンシートを所定の大きさに打ち抜いて焼成し、セラミック基板3sを得る。このセラミック基板3sに導体回路パターン3dを形成してセラミック配線板が構成される。
図1に示すように、本発明のセラミック配線板3は、例えば、ネジ等の締結具1を用いてケーシング2に取り付けるための孔3aを備えている。この孔3aの内面に合成樹脂、エラストマー又はゴム等の被覆層4が形成されている。」(段落【0009】,【0010】)と記載されている。

[3-2-3]引用刊行物3:特開平9-69594号公報
引用刊行物3には、図2と表2が示されるとともに、
「また上記実施例および比較例に係る各放熱板を使用して、図2に示すような車輌搭載用のサイリスタを多数調製した。このサイリスタは、冷却フィン8の側面に、圧接用放熱板7a,端子9a,整流素子10,端子9b,絶縁スペーサ11,圧接板12を積層し、冷却フィン8から立ち上げたボルト13に押え板14を装着し、さらに皿ばね15を介して圧接ねじ16を取り付け、この圧接ねじ16を締着することにより整流素子10を放熱板7a側に圧接して構成される。
そして上記のように各種放熱板を使用してサイリスタを多数製造するに際して、アセンブル時に圧接ねじ16の圧接力によってクラックを生じたり、破損した放熱板の割合を測定し、サイリスタの製造歩留りを算出した。
各測定結果を下記表2に示す。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
上記表2に示す結果から明らかなように、各実施例に係る圧接型Si3N4放熱板によれば、3点曲げ強度が、比較例と比較して大きくなる傾向がある。したがって、サイリスタのアッセンブリ工程における締め付け割れが発生することが少なく圧接用放熱板を使用した圧接構造部品の製造歩留りを大幅に改善できる」(段落【0078】〜【0082】)と記載されている。

[3-2-4]引用刊行物4:特開平7-149588号公報
引用刊行物4には、図4、図5が示されるとともに、
「【請求項3】希土類元素を酸化物に換算して2.0〜7.5重量%、アルミニウムをアルミナに換算して0.5〜2.0重量%、その他Fe,Ca,Mgなどの不純物陽イオン元素の含有量が0.3重量%以下であり、窒化けい素結晶および粒界相から成り、熱伝導率が60W/m・K以上、三点曲げ強度が室温で80Kg/mm2以上である高熱伝導性窒化けい素焼結体の両面にそれぞれ金属板を接合し、一方の金属板の表面に半導体素子を接合し、半導体素子を接合した側の金属板の厚さを他方の金属板の厚さより小さく設定したことを特徴とする高熱伝導性窒化けい素モジュール。
【請求項4】金属板は、窒化けい素焼結体の表面に形成した酸化膜(SiO2膜)を介して焼結体表面に一体に接合されてなる請求項3記載の高熱伝導性窒化けい素モジュール。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
【請求項6】金属板は、窒化けい素焼結体の表面に形成した活性金属層を介して焼結体表面に一体に接合されてなる請求項3記載の高熱伝導性窒化けい素モジュール。」(【特許請求の範囲】)、
「上記の高熱伝導性と、高強度とを併有したSi3N4焼結体表面に、直接接合法(ダイレクトボンド法),活性金属法により、回路板等の金属板を接合し、さらにこの金属板上に半田によって半導体素子を接合する一方、焼結体裏面にヒートシンク材等の厚い金属板を接合することにより、窒化けい素モジュールが形成される。」(段落【0028】)、
「Si3N4メタライズ基板3aを、金属との結合を可能にするために、図4に示すように、無電界めっき法により表面に厚さ3μmのNiめっき層6aを形成し、このNiめっき層6a表面に、高温半田から成る半田層8aを介して厚さ0.3mmの金属板(Cu回路板)9を一体に接合する一方、裏面側に同じく半田層8aを介して厚さ2.0mmの金属板(Cu製ヒートシンク)10を一体に接合した。さらに金属板9上面に半田層8aを介してパワートランジスタ(半導体素子)11を搭載し、金属板9の端子部とボンディングワイヤ12で接続してSi3N4モジュール13を製造した。
そしてSi3N4モジュール13のパワートランジスタ11に通電し、過渡熱抵抗を測定したところ、従来の窒化アルミニウム焼結体を用いた場合と同等な優れた放熱性を示した。またSi3N4焼結体1a部分に割れ等の発生はなく、優れた耐久性と信頼性とを有することが確認された。
実施例4
図5に示すように、実施例3において調製したSi3N4製焼結体1aを空気中において、温度1100℃に加熱することにより、焼結体表面に、予め酸化けい素(SiO2:クリストバライト)から成る厚さ1μmの酸化膜14を形成した。しかる後に、実施例3において使用し厚さ0.3mm(「3.0mm」は誤記と認められる。)の金属板(Cu回路板)9および厚さ2.0mmの金属板(Cu製ヒートシンク)10を焼結体表裏面にそれぞれ接触配置した状態で、窒素雰囲気中において1050℃に加熱する、いわゆる銅直接接合法(DBC法)によって金属板9,10を接合し、さらに金属板9の表面上に半田層8aを介してパワートランジスタ11を接合することにより、実施例4に係るSi3N4モジュール13aを製造した。」(段落【0050】〜【0052】)と記載されている。

[4]対比・判断
[4-1]本件発明1、及び本件発明1を引用する本件発明3〜7について
上記[3-2-1]に摘記した事項を総合すると、引用刊行物1には、
「不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Mg,Sr,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下含有し、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wから選択される少なくとも1種を酸化物に換算して0.1〜3.0重量%含有することができ、窒化けい素結晶相および粒界相から構成されるとともに粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合が20%以上であり、熱伝導率が60w/m・k以上である高熱伝導性窒化けい素基板と、この高熱伝導性窒化けい素基板に搭載された複数の半導体素子と、この高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子搭載面側及びその裏面側にそれぞれ、直接接合法、活性金属含有層等により接合された金属回路板を具備し、該裏面側金属回路板の厚さは該半導体素子搭載面側金属回路板の厚さ以下であり、上記高熱伝導性窒化けい素基板の高強度高靭性特性により、アッセンブリ工程において締め付け割れを発生することなくボードに実装される窒化けい素回路基板」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
そして、本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Mg,Sr,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下含有し」は、そのMgを除く不純物陽イオン元素が本件発明1における全ての不純物陽イオン元素に該当し、そのMgを除く不純物陽イオン元素の合計の含有量も0.3重量%以下であることは自明であり、そのMgを除く合計の含有量は、本件発明1における不純物陽イオン元素のそれと、1.0重量%以下である点において共通し、0.3重量%以下の範囲において重複するので、本件発明1における「不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Sr,Ba,Mn,Bを合計で1.0重量%以下含有し」に相当する。また、引用発明における「その裏面側に‥‥直接接合法、活性金属含有層等により接合された金属回路板」、「ボードに実装される」、「窒化けい素回路基板」はそれぞれ、本件発明1における「高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子非搭載面側に接合され‥‥る金属板」、「機器ケーシングまたは実装ボードに取付けられている」、「半導体モジュール」に相当する。そうすると、両発明は、「不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Sr,Ba,Mn,Bを合計で1.0重量%以下含有し、熱伝導率が60w/m・k以上である高熱伝導性窒化けい素基板と、この高熱伝導性窒化けい素基板に搭載された半導体素子と、この高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子搭載面側に接合された金属回路板と、上記高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子非搭載面側に接合される金属板とを具備し、上記金属板の厚さが上記金属回路板の厚さ以下であり、機器ケーシングまたは実装ボードに取付けられている半導体モジュール」の点で一致し、下記(イ)の点で相違する。
(イ)本件発明1では、半導体素子非搭載面側の金属板が機器ケーシングまたは実装ボードに一体に接合され、高熱伝導性窒化けい素基板をねじ止めまたは押圧して圧接することにより機器ケーシングまたは実装ボードに取付けられているのに対し、引用発明では、高熱伝導性窒化けい素基板の高強度高靭性特性により、アッセンブリ工程において締め付け割れを発生することなくボードに実装されるとしているものの、それ以外の機器ケーシングまたは実装ボードへの取付構造については明記されていない点。
そこで、相違点(イ)について検討するに、引用刊行物1には、「窒化アルミニウム焼結体基板や酸化アルミニウム焼結体基板などのセラミックス基板を主たる構成材とする回路基板を、アッセンブリ工程にて実装ボートにねじ止め等により固定しようとすると、ねじの押圧力による僅かな変形やハンドリング時の衝撃によって回路基板が破損し、半導体装置の製造歩留りを大幅に低減させる」(段落【0008】)との従来技術の問題点が記載されるとともに、該従来技術の問題点を解決することを課題、目的とする引用発明について、「本発明は上記のような課題要請に対処するためになされたものであり、窒化けい素焼結体が本来備える高強度高靭性特性を利用し、さらに熱伝導率が高く放熱性に優れるとともに耐熱サイクル特性を大幅に改善できる一方、半導体装置へのアッセンブリ工程における実装性を改善した窒化けい素回路基板を提供することを目的とする。
(課題を解決するための手段)‥‥‥‥‥‥‥‥‥この窒化けい素焼結体を使用して大型の基板を形成し、基板表面に回路層を一体に形成するとともに複数の半導体素子を搭載して大型の回路基板とした場合においても、アッセンブリ工程における回路基板の締め付け割れ等を効果的に低減できる」(段落【0011】,【0012】)と記載され、更に、引用発明の回路基板を採用した結果として、「上記各実施例の回路基板をアッセンブリ工程においてボードに実装したところ、締め付け割れが発生せず、回路基板を用いた半導体装置を高い製造歩留りで量産することができた。」(段落【0078】)と記載されているのであるから、これらの記載を総合すると、引用発明における高熱伝導性窒化けい素基板の回路基板は、ねじ止め等により押圧する手段を用いて、その押圧力による締め付け割れを発生することなく実装ボードに取付けられることが示唆されているといえる。
一方、引用刊行物2、3には、窒化けい素基板の非搭載面をケーシングや冷却フィンの面に接合させてねじ止め等により圧接して取付けることがそれぞれ記載されているように、窒化けい素基板の半導体素子非搭載面側を機器ケーシングまたは実装ボードに一体に接合させ、該基板をねじ止めまたは押圧して圧接することにより該機器ケーシングまたは実装ボードに取付けることは、原出願の出願前周知の技術である。
してみると、引用発明における半導体素子非搭載面側に金属板を具備する高熱伝導性窒化けい素基板を、上記示唆されるように、ねじ止め等により押圧して実装ボードに取付けるに当たり、その金属板を具備する半導体素子非搭載面側を、上記周知技術の窒化けい素基板の半導体素子非搭載面側を実装ボードに一体に接合させるのと同様に実装ボードに一体に接合させ、ねじ止めまたは押圧して圧接することにより実装ボードに取付けることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、相違点(イ)に係る取付構造を採用したことによる本件発明1の効果も、引用刊行物1の記載及び上記周知技術から普通に予測できる程度のものであって、格別なものは見出せない。
よって、本件発明1は、引用刊行物1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

また、本件発明1を引用する本件発明3〜7は、本件発明1を特定するために必要な事項を備えた上に、高熱伝導性窒化けい素基板がTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wから選択される少なくとも1種を酸化物に換算して0.1〜3.0重量%含有する点、高熱伝導性窒化けい素基板が不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Sr,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下含有する点、高熱伝導性窒化けい素基板が窒化けい素結晶相および粒界相から構成されるとともに粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合が20%以上である点、金属回路板および金属板が高熱伝導性窒化けい素基板に直接接合法により接合されている点、又は、金属回路板および金属板が高熱伝導性窒化けい素基板に活性金属含有層により接合されている点がそれぞれ付加されたものである。
しかしながら、引用発明は、本件発明3〜7に付加されたこれらの点をいずれも具備しているから、本件発明3〜7と引用発明とは、これらの付加された点において相違しない。
そうすると、本件発明1を引用する本件発明3〜7と引用発明とは、それぞれ上記相違点(イ)において相違するのみであるから、本件発明3〜7はいずれも、本件発明1と同様、引用刊行物1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[4-2]本件発明2、及び本件発明2を引用する本件発明3〜7について
引用刊行物1には、上記[4-1]で述べたとおりの引用発明が記載されており、本件発明2と引用発明とを対比すると、引用発明における「不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Mg,Sr,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下含有し」は、そのMgを除く不純物陽イオン元素が本件発明2における全ての不純物陽イオン元素に該当し、そのMgを除く不純物陽イオン元素の合計の含有量も0.3重量%以下であることは自明であり、そのMgを除く合計の含有量は、本件発明2における不純物陽イオン元素のそれと、1.0重量%以下である点において共通し、0.3重量%以下の範囲において重複するので、本件発明2における「不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Sr,Ba,Mn,Bを合計で1.0重量%以下含有し」に相当する。また、引用発明における「その裏面側に‥‥直接接合法、活性金属含有層等により接合された金属回路板」、「ボードに実装される」、「窒化けい素回路基板」はそれぞれ、本件発明2における「高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子非搭載面側に接合され‥‥る金属板」、「機器ケーシングまたは実装ボードに取付けられている」、「半導体モジュール」に相当し、両発明は、「不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Sr,Ba,Mn,Bを合計で1.0重量%以下含有し、熱伝導率が60w/m・k以上である高熱伝導性窒化けい素基板と、この高熱伝導性窒化けい素基板に搭載された半導体素子と、この高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子搭載面側に接合された金属回路板と、上記高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子非搭載面側に接合される金属板とを具備し、機器ケーシングまたは実装ボードに取付けられている半導体モジュール」の点で一致し、下記(ロ)(ハ)の点で相違する。
(ロ)本件発明2では、半導体素子非搭載面側の金属板が機器ケーシングまたは実装ボードに一体に接合され、高熱伝導性窒化けい素基板をねじ止めまたは押圧して圧接することにより機器ケーシングまたは実装ボードに取付けられているのに対し、引用発明では、高熱伝導性窒化けい素基板の高強度高靭性特性により、アッセンブリ工程において締め付け割れを発生することなくボードに実装されるとしているものの、それ以外の機器ケーシングまたは実装ボードへの取付構造については明記されていない点。
(ハ)機器ケーシングまたは実装ボードに接合される金属板の厚さが、本件発明2では、金属回路板の厚さの2倍以上であるのに対し、引用発明ではそのように規定されていない点。
そこで、まず相違点(ロ)について検討するに、相違点(ロ)に係る本件発明2の半導体モジュールの取付構造は、相違点(イ)に係る本件発明1のそれと実質的に相違しない。そして、上記相違点(イ)に係る本件発明1の半導体モジュールの取付構造を引用発明の窒化けい素回路基板に採用することが当業者にとって容易であることは、上記[4-1]で述べたとおりである。
してみると、相違点(ロ)に係る本件発明2の半導体モジュールの取付構造を引用発明の窒化けい素回路基板に採用することは、上記[4-1]で述べた、本件発明1を本件発明2と読み替えた同じ理由により、当業者が容易に想到し得ることである。
次に相違点(ハ)について検討するに、引用刊行物4には、半導体モジュールの高熱伝導性窒化けい素基板の裏面側に具備される金属板の厚さを、その半導体素子搭載面側の金属回路板の厚さの2倍以上としたものが記載されているので、引用発明における半導体モジュールの高熱伝導性窒化けい素基板の裏面側に具備される金属板の厚さをその半導体素子搭載面側の金属回路板の厚さの2倍以上に設定することは、当業者が設計上適宜に採用できることである。
そして、上記相違点(ロ)に係る取付構造、及び上記相違点(ハ)に係る金属板の厚さを併せて採用することによって得られる本件発明2の効果も、引用刊行物1,4の記載及び上記周知技術から普通に予測できる程度のものであって、格別なものは見出せない。
よって、本件発明2は、引用刊行物1,4に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

また、本件発明2を引用する本件発明3〜7は、本件発明2を特定するために必要な事項を備えた上に、高熱伝導性窒化けい素基板がTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wから選択される少なくとも1種を酸化物に換算して0.1〜3.0重量%含有する点、高熱伝導性窒化けい素基板が不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Sr,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下含有する点、高熱伝導性窒化けい素基板が窒化けい素結晶相および粒界相から構成されるとともに粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合が20%以上である点、金属回路板および金属板が高熱伝導性窒化けい素基板に直接接合法により接合されている点、又は、金属回路板および金属板が高熱伝導性窒化けい素基板に活性金属含有層により接合されている点がそれぞれ付加されたものである。
しかしながら、引用発明は、上記[4-1]で述べたとおり、本件発明3〜7に付加されたこれらの点をいずれも具備しているから、本件発明3〜7と引用発明とは、これらの付加された点において相違しない。
そうすると、本件発明2を引用する本件発明3〜7と引用発明とは、それぞれ上記相違点(ロ)(ハ)において相違するのみであるから、本件発明3〜7はいずれも、本件発明2と同様、引用刊行物1,4に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、特許権者は、平成16年5月6日付特許異議意見書において、「各刊行物に記載された窒化けい素回路基板、セラミック配線板、圧接構造部品、窒化けい素モジュールに係る発明と、本件発明に係る半導体モジュールとは、上記締め付け力の作用場所、その締め付け力によって基板に生じる応力の種類、その締め付け力による基板に割れが生じる箇所(応力集中箇所、破壊起点)、その破壊形態等の破壊発生機構が全く異なる」、「本発明で規定する半導体モジュールの固定構造によれば、参考図1((a)-2)に示すように‥‥‥‥‥‥‥‥‥ねじ止めの締め付け力や押圧力は、裏金属板の両端からそれぞれ突出した片持ち梁タイプの基板の自由端に作用する構造となり、裏金属板との接合端部(2箇所)に曲げ応力を受ける」、「本件発明構造によれば、破壊起点が2箇所に分散されるために、押圧力を一定とした場合には、基板の耐割れ性は格段に向上すると同時に、半導体素子や回路層が形成されない基板部位(両端部)に破壊起点が分散されるため、微小クラックが発生した場合においても、素子の損傷や回路の断線が生じることが無く、動作信頼性が高く維持されるという顕著な作用効果も得られる」と主張する。
しかしながら、特許権者の上記主張は、本件特許請求の範囲の請求項1〜7の記載に基づかない主張である。即ち、同請求項1〜7には、金属板と金属回路板との厚さの関係、及び、基板をねじ止めまたは押圧して圧接することにより機器ケーシングまたは実装ボードに取付けることが記載されているものの、該金属板の設置場所や、ねじ止め、押圧手段の構造、配置等について、ねじ止めの締め付け力や押圧力を片持ち梁タイプの基板の自由端に作用させ、破壊起点を2箇所に分散させるようなものに規定する記載があるわけではなく、特許権者の上記主張する半導体モジュールの取付構造が、同請求項1〜7に記載されているとはいえない。そして、同請求項1〜7に記載されている半導体モジュールの取付構造に基づいて、特許権者の上記主張する作用効果が必然的に得られるものとも認められない。
よって、特許権者の上記主張は採用できない。

[5]むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜7は、引用刊行物1、4に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜7についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1〜7についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
半導体モジュール
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Sr,Ba,Mn,Bを合計で1.0重量%以下含有し、熱伝導率が60w/m・k以上である高熱伝導性窒化けい素基板と、この高熱伝導性窒化けい素基板に搭載された半導体素子と、この高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子搭載面側に接合された金属回路板と、上記高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子非搭載面側に接合され、かつ機器ケーシングあるいは実装ボードに一体に接合される金属板とを具備し、上記機器ケーシングあるいは実装ボードに接合される金属板の厚さが上記金属回路板の厚さ以下であり、上記高熱伝導性窒化けい素基板をねじ止めまたは押圧して圧接することにより機器ケーシングまたは実装ボードに取付けられていることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項2】 不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Sr,Ba,Mn,Bを合計で1.0重量%以下含有し、熱伝導率が60w/m・k以上である高熱伝導性窒化けい素基板と、この高熱伝導性窒化けい素基板に搭載された半導体素子と、この高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子搭載面側に接合された金属回路板と、上記高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子非搭載面側に接合され、かつ機器ケーシングあるいは実装ボードに一体に接合される金属板とを具備し、上記機器ケーシングあるいは実装ボードに接合される金属板の厚さが上記金属回路板の厚さの2倍以上であり、上記高熱伝導性窒化けい素基板をねじ止めまたは押圧して圧接することにより機器ケーシングまたは実装ボードに取付けられていることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項3】 前記高熱伝導性窒化けい素基板は、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wから選択される少なくとも1種を酸化物に換算して0.1〜3.0重量%含有することを特徴とする請求項1または2記載の半導体モジュール。
【請求項4】 高熱伝導性窒化けい素基板は、不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Sr,Ba,Mn,Bを合計で0.3重量%以下含有することを特徴とする請求項1または2記載の半導体モジュール。
【請求項5】 高熱伝導性窒化けい素基板は、窒化けい素結晶相および粒界相から構成されるとともに粒界相中における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合が20%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の半導体モジュール。
【請求項6】 前記金属回路板および金属板は、前記高熱伝導性窒化けい素基板に直接接合法により接合されていることを特徴とする請求項1または2記載の半導体モジュール。
【請求項7】 前記金属回路板および金属板は、前記高熱伝導性窒化けい素基板に活性金属含有層により接合されていることを特徴とする請求項1または2記載の半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体モジュールに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、パワートランジスタモジュールやスイッチング電源用モジュール等の比較的高電力を扱う半導体モジュールとして、セラミックス基板の表裏に銅板等の金属回路板および金属板を接合してセラミックス回路基板とし、さらに金属板にヒートシンクを接合した半導体モジュールが用いられている。
【0003】
ここで、セラミックス回路基板の製造工程におけるセラミックス基板と金属回路板あるいは金属板との接合方法としては、Ti、Zr、Hf、Nb等の活性金属をAg-Cuろう材等に1〜10%含有した活性金属ろう材を用いる方法(活性金属法)や、金属回路板等として酸素を100〜1000ppm含有するタフピッチ電解銅や表面を1〜10μmの厚さで酸化させた銅板を用いてセラミックス基板と銅板とを直接接合させる、いわゆる直接接合法(DBC法:ダイレクト・ボンディング・カッパー法)等が知られている。
【0004】
例えば直接接合法においては、まず所定形状に打ち抜かれた銅回路板を、酸化アルミニウム(Al2O3)焼結体や窒化アルミニウム(AlN)焼結体等からなるセラミックス基板上に接触配置させて加熱し、接合界面にCu-Cu2Oの共晶液相を生成させ、この液相でセラミックス基板の表面を濡らした後、液相を冷却固化することによって、セラミックス基板と銅回路板とが直接接合される。このような直接接合法を適用したセラミックス回路基板は、セラミックス基板と銅回路板との接合強度が強く、またメタライズ層やろう材層を必要としない単純構造なので小型高実装化が可能である等の長所を有しており、また製造工程の短縮化も図られている。
【0005】
しかしながら、上述した直接接合法や活性金属法等により金属回路板等をセラミックス基板に接合したセラミックス回路基板を用いたパワートランジスタモジュール等の半導体モジュールにおいては、大電流を流せるように金属板の厚さを0.3〜0.5mmと厚くしている場合が多いため、熱履歴に対して信頼性に乏しいという問題があった。すなわち、熱膨張率が大きく異なるセラミックス基板と金属回路板等とを接合すると、接合後の冷却過程や冷熱サイクルの付加により、上記熱膨張差に起因する熱応力が発生する。この応力は接合部付近のセラミックス基板側に圧縮と引張りの残留応力分布として存在し、特に金属回路板等の外周端部と近接するセラミックス部分に残留応力の主応力が作用する。この残留応力は、セラミックス基板にクラックを生じさせたり、絶縁耐圧不良を起こしたり、あるいは金属板剥離の発生原因等となる。また、セラミックス基板にクラックが生じないまでも、セラミックス基板の強度を低下させるという悪影響を及ぼす。
【0006】
また、最近の半導体素子の高密度化や高集積化に伴って、半導体モジュールや電子部品自体の小型化が進められている。
【0007】
また、特に窒化アルミニウム基板は他のセラミックス基板と比較して高い熱伝導性と低熱膨張特性とを有するが、機械的強度が比較的に低いので、回路基板の実装工程において付加される押圧力や衝撃力によって、回路基板が破損する場合もあった。
【0008】
図4は、このような従来の半導体モジュール1の構造を示す断面図である。図4に示す半導体モジュール1は、厚さが大きく熱伝導率が高いAlN焼結体から成るセラミックス基板2の表面側に金属回路板3を接合する一方、セラミックス基板2の下面側に裏銅板としての金属板4を一体に接合して形成される。また金属回路板3の所定位置には、半導体素子7が半田接合によって搭載されており、半導体素子7と金属回路板3の電極部とがボンディングワイヤ8によって電気的に接続されている。
【0009】
このセラミックス回路基板は、金属板4を介して例えば銅から成る厚いヒートシンク板5の表面に半田接合により一体化されて半導体モジュール1が形成される。この半導体モジュール1は、取付ねじ6の締着によって機器ケーシング9や放熱フィンまたは実装ボード上に固着される。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の半導体モジュール1においては、裏銅板(金属板)と共に、放熱性を改善し、かつセラミックス基板の割れを防止するヒートシンク板が必須となる上に、割れに対する耐力を高めるために厚さが大きいセラミックス基板を使用する必要があるため、半導体モジュールとした場合のサイズが大きくなり、小型化が困難になる弊害があるとともに、セラミックス基板の製造コストが増加する難点があった。また基板厚さが増加するため、高熱伝導率のAlN基板を使用した場合においても、熱抵抗が大きくなり、期待する程に良好な放熱性が得られないという問題点もあった。
【0011】
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、構造が簡素で小型化でき、かつ放熱性および耐熱サイクル性等を改善した半導体モジュールを提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る半導体モジュールは、請求項1に記載したように、不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Sr,Ba,Mn,Bを合計で1.0重量%以下、好ましくは0.3重量%以下含有し、熱伝導率が60w/m・k以上である高熱伝導性窒化けい素基板と、この高熱伝導性窒化けい素基板に搭載された半導体素子と、この高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子搭載面側に接合された金属回路板と、上記高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子非搭載面側に接合され、かつ機器ケーシングあるいは実装ボードに一体に接合される金属板とを具備することを特徴としている。
【0013】
すなわち、高熱伝導性窒化けい素基板の半導体素子非搭載面側と機器ケーシングあるいは実装ボードとの間に、図1あるいは図3に示すようにヒートシンクも含めひとつの金属板のみを介した半導体モジュールであることを特徴としている。
【0014】
上述した本発明の半導体モジュールのより好ましい形態としては、請求項2に記載したように、機器ケーシングあるいは実装ボードに接合される金属板の厚さが前記金属回路板の厚さ以下である形態、また請求項3に記載したように、機器ケーシングあるいは実装ボードに接合される金属板の厚さが前記金属回路板の厚さの2倍以上である形態が挙げられる。
【0015】
また本発明において使用する高熱伝導性窒化けい素基板は、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wからなる群より選択される少なくとも1種を酸化物に換算して0.1〜3.0重量%含有することが好ましい。このTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wから成る群より選択される少なくとも1種は、酸化物、炭化物、窒化物、けい化物、硼化物として窒化けい素粉末に添加することにより含有させることができる。
【0016】
ここで本発明で使用する高熱伝導性窒化けい素基板の製造方法の一例としては、酸素を1.7重量%以下、不純物陽イオン元素としてのLi,Na,K,Fe,Ca,Sr,Ba,Mn,Bを合計で1.0重量%以下、α相型窒化けい素を90重量%以上含有し、平均粒径1.0μm以下の窒化けい素粉末に、希土類元素を酸化物に換算して1.0〜17.5重量%以下添加した原料混合体を成形して成形体を調製し、得られた成形体を脱脂後、温度1800〜2100℃で雰囲気加圧焼結し、上記焼結温度から、上記希土類元素により焼結時に形成された液相が凝固する温度までに至る焼結体の冷却速度を毎時100℃以下にして徐冷することにより製造することができる。
【0017】
なお、上記希土類元素酸化物の含有範囲である1.0〜17.5重量%は、数学的な表示として当然のことであるが、含有量の下限値である1.0重量%および上限値である17.5重量%を含むものである。
【0018】
上記製造方法によれば、窒化けい素結晶組織中の粒界相における結晶化合物相の粒界相全体に対する割合が20%以上、より好ましくは50%以上で、気孔率が2.5%以下、熱伝導率が60W/m・K以上、三点曲げ強度が室温で650MPa以上の機械的特性および熱伝導特性が共に優れた窒化けい素基板が得られる。
【0019】
本発明に係る半導体モジュールは、上記のように製造した高熱伝導性窒化けい素基板の表面および裏面に、前記直接接合法や活性金属法を用いて導電性を有する金属回路板および金属板をそれぞれ一体に接合して製造される。
【0020】
このようにして本発明の半導体モジュールにおいては、セラミックス基板として、窒化けい素焼結体が本来的に有する高強度高靭性特性に加えて特に熱伝導率を大幅に改善した高熱伝導性窒化けい素基板を使用しているため、熱サイクルや組立て時の衝撃力によって基板に割れが発生することが少なく、さらには放熱性や構造強度を高めるための裏銅板(裏金属板)とヒートシンク板との両方は必要としない構造とすることができる。したがって、半導体モジュールの構造が簡素化されて製造コストが大幅に低減されるとともに、小型化でき高密度実装も可能となる。
【0021】
また、基板に搭載する半導体素子等の発熱部品からの発熱は、高熱伝導性窒化けい素基板を経て迅速に系外に伝達されるため放熱性が極めて良好である。また、高強度高靭性である窒化けい素基板を使用しているため、モジュールの最大たわみ量を大きく確保することができる。そのため、アッセンブリ工程においてモジュールの締め付け割れが発生せず、半導体モジュールを用いた半導体装置を高い製造歩留りで安価に量産することが可能になる。
【0022】
さらに高い熱伝導率を有する窒化けい素基板を使用しているため、高出力化および高集積化を指向する半導体素子を搭載した場合においても、熱抵抗特性の劣化が少なく、優れた放熱性を発揮する。
【0023】
特に高熱伝導性窒化けい素基板自体の機械的強度が優れているため、要求される機械的強度特性を一定とした場合に、他のセラミックス基板を使用した場合と比較して基板厚さをより低減することが可能となる。この基板厚さを低減できることから熱抵抗値をより小さくでき、放熱特性をさらに改善することができる。また要求される機械的特性に対して、従来より薄い基板でも充分に対応可能となるため、基板の製造コストをより低減することが可能となる。
【0024】
また従来の高熱伝導性窒化アルミニウム基板のみを回路基板の構成材とした場合には、ある程度の機械的強度を確保するために窒化アルミニウム基板の厚さを大きく設定する必要があった。しかるに本発明の半導体モジュールでは、主として厚さが薄い高熱伝導性窒化けい素基板によって高い放熱性を確保すると同時に高強度特性を確保している。そのため、モジュール全体をコンパクトに形成することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
次に本発明の実施形態について、以下に示す実施例および添付図面を参照して具体的に説明する。まず本発明において使用する高熱伝導性窒化けい素基板について述べ、しかる後に、この高熱伝導性窒化けい素基板をセラミックス基板として使用した半導体モジュールについて説明する。
【0026】
まず本発明の半導体モジュールの構成材となる各種高熱伝導性窒化けい素基板を以下の手順で製造した。
【0027】
すなわち、酸素を1.3重量%、前記不純物陽イオン元素を合計で0.15重量%含有し、α相型窒化けい素97%を含む平均粒径0.55μmの窒化けい素原料粉末に対して、表1〜3に示すように、焼結助剤としてのY2O3,Ho2O3などの希土類酸化物と、必要に応じてTi,Hf化合物,Al2O3粉末,AlN粉末とを添加し、エチルアルコール中で窒化けい素製ボールを用いて72時間湿式混合した後に乾燥して原料粉末混合体をそれぞれ調整した。次に得られた各原料粉末混合体に有機バインダを所定量添加して均一に混合した後に、1000kg/cm2の成形圧力でプレス成形し、各種組成を有する成形体を多数製作した。
【0028】
次に得られた各成形体を700℃の雰囲気ガス中において2時間脱脂した後に、この脱脂体を表1〜3に示す焼結条件で緻密化焼結を実施した後に、焼結炉に付設した加熱装置への通電量を制御して焼結炉内温度が1500℃まで降下するまでの間における焼結体の冷却速度がそれぞれ表1〜3に示す値となるように調整して焼結体を冷却し、それぞれ試料1〜51に係る窒化けい素焼結体を調製した。さらに得られた焼結体を切断して厚さが0.5mmの所定形状の高熱伝導性窒化けい素基板とした。
【0029】
こうして得た試料1〜51に係る各窒化けい素基板について気孔率、熱伝導率(25℃)、室温での三点曲げ強度の平均値を測定した。さらに、各窒化けい素基板についてX線回折法によって粒界相に占める結晶相の割合を測定し、下記表1〜3に示す結果を得た。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
表1〜3に示す結果から明らかなように試料1〜51に係る窒化けい素焼結体においては、原料組成および不純物量を適正に制御し、従来例と比較して緻密化焼結完了直後における焼結体の冷却速度を従来より低く設定しているため、粒界相に結晶相を含み、結晶相の占める割合が高い程、高熱伝導率を有する放熱性の高い高強度窒化けい素基板が得られた。
【0034】
これに対して酸素を1.3〜1.5重量%,前記不純物陽イオン元素を合計で0.13〜1.50重量%含有し、α相型窒化けい素を93%含む平均粒径0.60μmの窒化けい素原料粉末を用い、この窒化けい素粉末に対してY2O3(酸化イットリウム)粉末を3〜6重量と、アルミナ粉末を1.3〜1.6重量%添加した原料粉末を成形,脱脂後、1900℃で6時間焼結し、焼結後、工業上通常行われる炉冷(冷却速度:毎時400℃)を行った。得られた焼結体の熱伝導率は25〜28W/m・Kと低く、従来の一般的な製法によって製造された窒化けい素焼結体の熱伝導率に近い値となった。
【0035】
次に得られた試料1〜51に係る厚さ0.5mmの高熱伝導性窒化けい素基板の両面に、直接接合法または活性金属法を用いて金属回路板および金属板を一体に接合することにより、それぞれ半導体モジュールを製造した。
【0036】
図1は、本発明の一実施例による半導体モジュール1aの構造を示す断面図である。
【0037】
図1において、高熱伝導性窒化けい素基板10の表面には金属回路板としての銅板3が一体に接合されており、また高熱伝導性窒化けい素基板10の裏面には金属板として銅板4aが接合されており、これらにより半導体モジュール1aが構成されている。
【0038】
また、図1に示す半導体モジュール1aにおける銅板3,4aは、高熱伝導性窒化けい素基板10に対して直接接合法、いわゆるDBC法により接合されている。このようなDBC法を利用する場合の銅板3,4aとしては、タフピッチ銅のような酸素を100〜3000ppmの割合で含有する銅を用いることが好ましいが、表面を酸化させた無酸素銅を用いることも可能である。なお、銅や銅合金の単板に代えて、高熱伝導性窒化けい素基板10との接合面が少なくとも銅により構成されている他の金属部材とのクラッド板等を用いることもできる。
【0039】
高熱伝導性窒化けい素基板10の表面側に接合された銅板3は、半導体部品等の実装部となるものであり、所望の回路形状にパターニングされている。銅板3の所定位置には半導体素子7が半田接合されており、半導体素子7の電極部と銅板3の電極部とはボンディングワイヤ8によって電気的に接続されている。また、高熱伝導性窒化けい素基板10の裏面側に接合された銅板4aは、接合時における高熱伝導性窒化けい素基板10の反り等を防止するものであり、中央付近から2分割された状態でほぼ高熱伝導性窒化けい素基板10の裏面全面に接合、形成されている。図1に示すように、裏面側の銅板4aの厚さt1は、半導体部品等の実装部となる金属回路板としての銅板3と同じ厚さのものを使用してもよいが、銅板3の厚さt0以下、さらに銅板3の厚さt0の70〜90%の厚さの銅板を使用することが好ましい。
【0040】
一方、高熱伝導性窒化けい素基板10の裏面に接合する金属板4bに、放熱性を改善するヒートシンク板としての機能を付与する場合においては、図3に示すように、機器ケーシング9あるいは実装ボードに接合される金属板4bの厚さt2を前記金属回路板の厚さt0の2倍以上とすることが好ましい。上記高熱伝導性窒化けい素基板10の裏面側に接合する金属板4bの厚さt2を、金属回路板3の厚さt0の2倍以上とすることにより、この金属板がヒートシンクとしての機能を果たすため、半導体モジュールの放熱性をより改善することが可能となる(この場合、見方を変えれば、裏金属板を用いずに高熱伝導性窒化けい素基板10に直接ヒートシンクを接合した構造と言うこともできる)。
【0041】
ここで、図1に示した半導体モジュール1aは、高熱伝導性窒化けい素基板10に銅板3,4aをDBC法により接合したものであるが、例えば銅板3,4aを活性金属含有層を介して高熱伝導性窒化けい素基板10に接合した半導体モジュールであってもよい。上記活性金属含有層は、Ti、Zr、Hf、Nb等から選ばれた少なくとも1種の活性金属を含むろう材(以下、活性金属含有ろう材と記す)層である。用いる活性金属含有ろう材の組成としては、例えばAg-Cuの共晶組成(72wt%Ag-28wt%Cu)もしくはその近傍組成のAg-Cu系ろう材やCu系ろう材を主体とし、これに1〜10重量%のTi、Zr、Hf、Nb等から選ばれた少なくとも1種の活性金属を添加した組成等が例示される。なお、活性金属含有ろう材にInを1〜10重量%添加して用いることもできる。
【0042】
図1に示した半導体モジュール1aのように、銅板3,4aを高熱伝導性窒化けい素基板10にDBC法で接合したものは、単純構造で高接合強度が得られ、また製造工程を簡易化できる等の利点を有する。一方、銅板3,4aを高熱伝導性窒化けい素基板10に活性金属法で接合した半導体モジュールは、高接合強度が得られると共に、活性金属含有ろう材層が応力緩和層としても機能するため、より信頼性の向上が図れる。このようなことから、要求特性や用途等に応じて接合法を選択することが好ましい。
【0043】
また、活性金属法により高熱伝導性窒化けい素基板10に金属回路板および金属板を接合する場合には、銅板に限らず、用途に応じて各種の金属板、例えばニッケル板、タングステン板、モリブデン板、これらの合金板やクラッド板(銅板とのクラッド板を含む)等を用いることも可能である。
【0044】
また、図1に示した半導体モジュール1aは、窒化けい素基板10の外縁部に形成した取付ねじ用貫通孔11に取付ねじ6aを挿通して機器ケーシング9等に締着固定される。しかしながら、窒化けい素焼結体は硬度が高く孔明け加工が容易ではない。そこで製造工程を簡略化するために、例えば図2に示すように、取付ねじ用貫通孔11aを形成した枠状のケース12を用意し、このケース12の内周縁部を半導体モジュールの外周縁部に押圧し、取付ねじ6bによってモジュールを機器ケーシング9等に圧接して固定することも可能である。
【0045】
次に、実施例の具体例およびその評価結果について述べる。
【0046】
実施例1
まず、高熱伝導性窒化けい素基板として、前記試料1〜51に係る窒化けい素基板を採用し、空気中で酸化することにより、表面に厚さ4μm酸化物層(SiO2層)を有する厚さ0.5mmの高熱伝導性窒化けい素基板10を用意すると共に、プレス加工により形成した、タフピッチ銅(酸素含有量:300ppm)からなる所定形状の厚さ0.3mmの金属回路板としての銅板3および厚さ0.25mmの金属板としての銅板4aを用意した。
【0047】
そして、図1に示したように、高熱伝導性窒化けい素基板10の両面に2枚の銅板3,4aをそれぞれ直接接触配置し、窒素ガス雰囲気中にて1348Kの条件で加熱して接合させ、さらに半導体素子7を銅板3上に半田接合し、ワイヤボンディングを施して目的とする半導体モジュール1aを得た。
【0048】
一方、比較例として、上記高熱伝導性窒化けい素基板10に代えて、厚さ0.6mmの窒化アルミニウム基板を使用した点以外は、実施例1と同様に処理して比較例に係る半導体モジュールを製造した。
【0049】
このようにして得た実施例1に係る半導体モジュール1aおよび比較例の半導体モジュールに対して熱サイクル試験(TCT:233K×30分+RT×10分+398K×30分を1サイクルとする)を施し、セラミックス基板における割れの発生割合を測定した。その結果、実施例1の半導体モジュールは、100サイクルのTCT後においてもクラックが発生しなかったのに対して、比較例による半導体モジュールは100サイクルでセラミックス基板の5〜9%にクラックが生じた。
【0050】
実施例2
高熱伝導性窒化けい素基板として、試料1〜51に係る厚さ0.5mmの高熱伝導性窒化けい素基板10を用意すると共に、実施例1と同一形状であり、プレス加工により形成した所定形状の厚さ0.3mmの銅板3,4と厚さ0.25mmの銅板5とを用意した。
【0051】
そして、高熱伝導性窒化けい素基板10の両面に、In:Ag:Cu:Ti=14.0:59.0:23.0:4.0組成の活性金属含有ろう材をペースト化したものを塗布し、この塗布層を介して銅板3,4aを積層配置した後、窒素ガス雰囲気中にて加熱して接合させ、さらに半導体素子7を銅板3上に半田接合し、ワイヤボンディングを施して目的とする半導体モジュールを得た。
【0052】
このようにして得た半導体モジュールに対して熱サイクル試験を実施例1と同一条件下で実施したところ、実施例1と同様な良好な結果が得られ、冷熱サイクルに対する信頼性に優れることを確認した。
【0053】
実施例3
まず、高熱伝導性窒化けい素基板として、前記試料1〜51に係る窒化けい素基板を採用し、空気中で酸化することにより、表面に厚さ4μm酸化物層(SiO2層)を有する厚さ0.5mmの高熱伝導性窒化けい素基板10を用意すると共に、プレス加工により形成した、タフピッチ銅(酸素含有量:300ppm)からなる所定形状の厚さ0.3mmの銅板3および厚さ0.6mmの銅板4bを用意した。
【0054】
そして、図3に示すように、高熱伝導性窒化けい素基板10の両面に2枚の銅板3,4bをそれぞれ直接接触配置し、窒素ガス雰囲気中にて1348Kの条件で加熱して接合させ、さらに半導体素子7を銅板3上に半田接合し、ワイヤボンデイグを施し、目的とする半導体モジュールを得た。
【0055】
一方、比較例として、上記高熱伝導性窒化けい素基板10に代えて、厚さ0.6mmの窒化アルミニウム基板2a,2bを使用した点以外は、実施例3と同様に処理して比較例に係る半導体モジュールを製造した。
【0056】
このようにして得た実施例3に係る半導体モジュールおよび比較例の半導体モジュールに対して熱サイクル試験(TCT:233K×30分+RT×10分+398K×30分を1サイクルとする)を施し、セラミックス基板における割れの発生割合を測定した。その結果、実施例3の半導体モジュール1bは、100サイクルのTCT後においてもクラックが発生しなかったのに対して、比較例による半導体モジュールは100サイクルでセラミックス基板の4〜7%にクラックが生じた。
【0057】
実施例4
高熱伝導性窒化けい素基板として、試料1〜51に係る厚さ0.5mmの高熱伝導性窒化けい素基板10を用意すると共に、実施例3と同一形状であり、プレス加工により形成した所定形状の厚さ0.3mmの銅板3と厚さ0.6mmの銅板4bとを用意した。
【0058】
そして、高熱伝導性窒化けい素基板10の両面に、In:Ag:Cu:Ti=14.0:59.0:23.0:4.0組成の活性金属含有ろう材をペースト化したものを塗布し、この塗布層を介して銅板3,4bを積層配置した後、窒素ガス雰囲気中にて加熱して接合させ、さらに半導体素子7を銅板3上に半田接合し、ワイヤボンディングを施して目的とする半導体モジュールを得た。
【0059】
このようにして得た半導体モジュールに対して熱サイクル試験を実施例3と同一条件下で実施したところ、実施例3と同様な良好な結果が得られ、冷熱サイクルに対する信頼性に優れることを確認した。
【0060】
また上記各実施例に係る半導体モジュールによれば、窒化けい素焼結体が本来的に有する高強度高靭性特性に加えて特に熱伝導率を大幅に改善した高熱伝導性窒化けい素基板10を使用している。したがって、裏銅板(裏金属板)とヒートシンク板との両方は必要とせず、いずれか一方で足りることとなり、モジュールの構造が簡素化されて製造コストが大幅に削減される。また基板に搭載する半導体素子7等の発熱部品からの発熱は熱伝導率が高い窒化けい素基板10を経て迅速に系外に伝達されるため放熱性が極めて良好である。
【0061】
また、高強度高靭性である高熱伝導率窒化けい素基板10を使用しているため、モジュールの最大たわみ量を大きく確保することができる。そのため、アッセンブリ工程においてモジュールを機器ケーシング9に取付ねじ6aによって固定した場合においても、締め付け割れが発生しない。
【0062】
また高熱伝導性窒化けい素基板10の靭性値が高いため、熱サイクルによって基板10と金属回路板や金属板4a,4bとの接合部に割れが発生することが少なく、耐熱サイクル特性が著しく向上し、耐久性および信頼性に優れた半導体モジュールを提供することができる。
【0063】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る半導体モジュールによれば、窒化けい素焼結体が本来的に有する高強度高靭性特性に加えて特に熱伝導率を大幅に改善した高熱伝導性窒化けい素基板を使用しているため、熱サイクルや組立て時の衝撃力によって基板に割れが発生することが少なく、裏銅板(裏金属板)と放熱性や構造強度を高めるためのヒートシンク板との両方は必要としない。したがって、半導体モジュールの構造が簡素化されて製造コストが大幅に低減されるとともに、小型化でき高密度実装も可能となる。
【0064】
また基板に搭載する半導体素子等の発熱部品からの発熱は、高熱伝導性窒化けい素基板を経て迅速に系外に伝達されるため放熱性が極めて良好である。また、高強度高靭性である窒化けい素基板を使用しているため、モジュールの最大たわみ量を大きく確保することができる。そのため、アッセンブリ工程においてモジュールの締め付け割れが発生しない。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例に係る半導体モジュールの構造を示す断面図。
【図2】
本発明の他の実施例に係る半導体モジュールの断面図。
【図3】
本発明の他の実施例に係る半導体モジュールの断面図。
【図4】
従来の半導体モジュールの構造を示す断面図。
【符号の説明】
1,1a,1b, 半導体モジュール
2 セラミックス基板(AlN基板)
3 金属回路板(銅板)
4,4a,4b 金属板(裏銅板)
5 ヒートシンク板
6,6a,6b 取付ねじ
7 半導体素子(Siチップ)
8 ボンディングワイヤ
9 機器ケーシング(実装ボード,放熱フィン)
10 熱伝導性窒化けい素基板
11,11a,11b,11c 取付ねじ貫通孔
12 ケース
13 端子
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-09-06 
出願番号 特願平11-116898
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (H01L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 加藤 浩一田中 永一  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 日比野 隆治
市川 裕司
登録日 2001-04-13 
登録番号 特許第3180100号(P3180100)
権利者 株式会社東芝
発明の名称 半導体モジュール  
代理人 波多野 久  
代理人 波多野 久  

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