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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1112114
審判番号 不服2000-8059  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-01-09 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-05-31 
確定日 2005-02-14 
事件の表示 平成 6年特許願第242714号「疲労特性に優れたポリイミド樹脂組成物および射出成形体」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 1月 9日出願公開、特開平 8- 3446〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 (1)手続の経緯・本願発明
本願は、平成6年10月6日の出願(優先権主張平成5年12月27日及び平成6年4月20日、日本)であって、その請求項1〜9に係る発明は、平成7年1月20日付けの手続補正書によって補正された全文補正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項3に係る発明(以下、「本願発明3」という。)は次のとおりである。
「【請求項3】ポリマー分子中、一般式(1-1)で表わされる繰り返し構造単位を有し、かつ対数粘度が0.45dl/g以上であるポリイミド100重量部と、5〜65重量部の炭素繊維、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維および/またはチタン酸カリウム繊維を含む疲労特性に優れたポリイミド樹脂組成物。
一般式(1-1)
【化6】

(1-1)」
(2)引用例
これに対して、原審の拒絶理由において引用された刊行物は次のとおりである。
刊行物1:特開平3-47837号公報
刊行物2:特開平2-58538号公報
刊行物3:特開昭61-143435号公報
刊行物4:特開昭61-143433号公報
刊行物5:特開昭62-11727号公報
刊行物6:特開昭59-170122号公報
そして、上記刊行物1、3及び5には、次の記載が認められる。
a、刊行物1
「1)式(I)

(I)
で示される4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルと式(II)

で示されるピロメリット酸二無水物を縮合してポリイミド化合物を製造するに際して、
一般式(III)
H2N-R1-NH2 (III)
(式中、R1は、脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基から成る群より選ばれた2価の基を示す)で表されるジアミン化合物および/または一般式(IV)(式及びその説明を省略)……で表されるテトラカルボン酸二無水物の共存下に反応させることを特徴とするポリイミドの製造方法。」(特許請求の範囲請求項1)
「8)請求項1ないし3記載の方法において、反応を全ジアミン化合物の1モルに対して、0.001〜1.0モルのジカルボン酸無水物の共存下に行うポリイミドの製造方法」(同請求項8)
「これらの化合物の中で、好ましくは、一般式(III)において、R1として芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基であるジアミン化合物である。
好ましく使用される化合物を具体的に例示すれば、m-フェニレンジアミン、……1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン等が挙げられる。」(第7頁左上欄9行〜同右上欄1行)
「またさらに通常の樹脂組成物に使用する次のような充填剤などを、発明の目的を損なわない程度で用いてもよい。すなわち、……、ガラス繊維、カーボン繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、カーボンウイスカー、アスベスト、金属繊維、セラミック繊維などの補強材、……などである。」(第12頁左上欄5行〜同右上欄1行)
「対数粘度(η):ポリイミド粉0.50gをp-クロルフェノール/フェノール(重量比9/1)混合溶媒100mlに加熱溶解した後、35℃において測定。」(第12頁左下欄1〜4行)
なお、実施例・比較例において、すべて、対数粘度0.45以上のポリイミドが製造されている。
b、刊行物3
「(1)下記の一般式(A)および(B)で表される反覆単位を主成分とする耐湿性ポリイミド。

」(特許請求の範囲)
「この発明は、吸湿膨張率が低く耐湿性に富み、しかも弾性率が高く熱安定性のよいフイルムとなりうる耐湿性ポリイミドに関するものである。」(第1頁右下欄6〜8行)
「この発明のポリイミドは、前記のように、一般式AおよびBで表される反覆単位を主成分とするため、濃硫酸中0.5g/dlの濃度において30℃で測定した対数粘度が0.5〜7、吸湿膨張率が0.12%以下、ガラス転移点が300℃以上になる。」(第5頁右上欄19行〜左下欄4行)
c、刊行物6
「1.本質的に次の反復単位(N)

からなり、ここに各々の反復単位におけるQは他のいずれの単位からも独立して
(a)

式中、GはOまたはSであり、そしてZは水素またはフエニルであり;Zが水素である場合、両方の末端共有結合はGに対してオルトまたはメタ位置のいずれかにあり;一方、Zがフエニルである場合、両方の末端共有結合はGに対してオルト、メタまたはパラ位置にある、
………から選ばれる二価の有機性基であることからなる溶融-融合可能な(melt-fusible)ポリイミド。」(特許請求の範囲第1項)
「4.Qが1,3-ビス(3-アミノフエノキシ)ベンゼン、……よりなる群から選ばれるジアミンH2N-Q-NH2からアミノ基を除去した際の残りの基である、特許請求の範囲第3項記載のポリイミド。」(同第4項)
「6.過剰のジアミンを末端キヤツピングする(end-cap)、特許請求の範囲第5項記載のポリイミド。」(同第6項)
「10.特許請求の範囲第9項記載のポリイミドを押出すか、圧縮成形または射出成形することにより得られる製品。」(同第10項)
「27.繊維または粒子状の強化用添加剤を含む特許請求の範囲第1項記載のポリイミドからなるポリイミド組成物。」(同第27項)
「28.強化用添加剤の容量率が5〜70%である、特許請求の範囲第27項記載のポリイミド組成物。」(同第28項)
「ポリイミドの重要な工業的用途の1つには高度な複合材料に対する結合物として、特に航空宇宙産業;例えば飛行機の胴体、翼、飛行制御表面、及びミサイルの頭部円錐体(nose cone)等におけるものがある。」(第7頁右上欄3〜7行)
「多くの用途において、例えば軽く、そして強い複合体を生じる種々の航空宇宙用成分、炭素繊維が最も好ましい。その他の繊維の中に、ガラス、ホウ素及び石綿繊維が含まれる。このポリイミド自体に上記の如き繊維状であるか、または粒状であり得る強化用添加剤を充てんすることができる。……繊維強化されているか、または粒子充てんされたポリイミド組成物のいずれに関しても、生成物は通常約5〜約70容量%の添加剤を含有するであろう。」(第13頁左上欄5〜20行)
「実施例1
化学量論的なポリイミドの製造
機械的撹拌機及び窒素導入口を備えた火炎で乾燥した容量200mlの樹脂製容器を本発明の重合に用いた。この容器に式(O)

の1,3-ビス(3-アミノフエノキシ)ベンゼン5.84g(0.02モル)及びDMAc52mlを加えた。撹拌を開始し、そして氷浴で冷却した。この冷却した溶液にピロメリト酸二無水物4.36g(0.02モル)を加えた。……生じた粘稠なポリアミド酸の溶液をDMAc52ml、無水酢酸5ml及びピリジン4mlの混合物に還流下で滴下しながら加えることによりイミド化した。……硫酸中で0.5重量%にてηinh=0.66dl/gを有する黄色の粉末(7.7g、78%)としてポリイミドが得られた。DSC(微分走査熱量計)分析により、……溶融後、このポリイミドはTg=218℃を有する非晶性であつた。」(第14頁右上欄1行〜同左下欄8行)
(3)対比・判断
本願発明3と刊行物6に記載された発明を対比する。
刊行物6には、本願発明3で特定する式のポリイミドが記載され、繊維強化用添加剤の容量率5〜70%含むポリイミド組成物が記載され、繊維強化剤として炭素繊維及びガラス繊維とすることが記載されている。
また、本願発明3の炭素繊維、ガラス繊維の量は、ポリイミド100重量部に対し、5〜65重量部であるから、約4.8〜39.3重量%に相当し、重量%と容量%の違いはあるが、上記刊行物6記載のものと重複することは明らかである。
したがって、本願発明3と刊行物6に記載された発明は、ポリマー分子中、一般式(1-1)で表わされる繰り返し構造単位を有するポリイミドと、炭素繊維、ガラス繊維を含むポリイミド樹脂組成物であり、それらの量比が重複する点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。
相違点1:本願発明3では、ポリイミドの対数粘度を0.45dl/g以上とするのに対し、刊行物6では、その実施例1において、硫酸中で0.5重量%にてηinh=0.66dl/gとするポリイミドが記載されている点、
相違点2:本願発明3では、疲労特性に優れたポリイミド樹脂組成物であるとするのに対し、刊行物6では、そういった記載がない点。
まず、相違点1について検討する。
刊行物6の実施例1における粘度0.66dl/gが、硫酸溶液に基づくものであるので、本願発明3で限定する対数粘度0.45dl/g以上に相当するかどうか明りょうではないとしても、刊行物1では、類似のポリイミドが製造され、その実施例及び比較例のすべてが本願発明3の対数粘度0.45dl/g以上を満たすものであることや、刊行物3では、濃硫酸に基づく対数粘度として0.5〜7のものとすることが記載されていることからして、本願発明3で限定する対数粘度0.45dl/g以上のポリイミドは極めて容易に得られるものに過ぎないか、あるいは、実施例1のポリイミドの粘度0.66dl/gというのは、本願発明3で限定する対数粘度0.45dl/g以上である蓋然性が高いものと認められる。
したがって、上記相違点1は格別なものとすることはできない。
次に、相違点2について検討する。
本願発明3の「疲労特性に優れる」というのは、用途を限定したものではなく、単にポリイミド組成物の性質を示したものであって、そのことでもって、何ら組成物自体が限定されるものとは認められない。
そうであるならば、本願発明3のポリイミド組成物自体は、刊行物6に記載されたポリイミド組成物と比較して、上記相違点1及び2について、格別なものとすることはできない。
本件請求人は、ポリイミドの疲労特性について、刊行物1〜6には、開示する記載も示唆もないとしている。しかしながら、刊行物6に記載のポリイミドの重要な工業的用途の1つとして、航空宇宙産業(例えば飛行機の胴体、翼など)が上げられており、こういった用途では、疲労特性に優れるものが必要となることは当然であって、何ら新しい課題であるとすることはできない。
また、本件請求人は、平成12年10月10日付けの手続補正書の第8頁に、「本願発明は、疲労特性に優れた射出成形用のポリイミド系樹脂組成物を提供することを目的とするものであり、特に選択された繰り返し構造のポリイミド、及びこれらの組合せ、かつ特定の対数粘度を持つものに、さらに、特定量の繊維状補強材を含有させた樹脂組成物が高レベルの疲労特性を与えるという驚くべき効果を見出して、達成したものである。」としている。
それに対し、刊行物6のポリイミド樹脂組成物は、射出成形用に用いられることが記載され、しかも、その樹脂組成物の構成は、本願発明3と比較して、上記のとおり、何ら格別な差異は認められないものであるから、刊行物6のポリイミド樹脂組成物も、本願発明3と同様に、高レベルの疲労特性を有していると見るのが相当である。
よって、本願発明3は、刊行物6と刊行物1及び3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本願発明3は、刊行物6と刊行物1及び3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-12-21 
結審通知日 2004-12-24 
審決日 2005-01-05 
出願番号 特願平6-242714
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 騎見高  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 大熊 幸治
佐野 整博
発明の名称 疲労特性に優れたポリイミド樹脂組成物および射出成形体  
代理人 最上 正太郎  
代理人 苗村 新一  

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