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審決分類 |
審判 全部無効 利害関係、当事者適格、請求の利益 無効とする。(申立て全部成立) D04B 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) D04B 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) D04B 審判 全部無効 1項1号公知 無効とする。(申立て全部成立) D04B 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) D04B |
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管理番号 | 1112213 |
審判番号 | 無効2002-35084 |
総通号数 | 64 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2000-03-21 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2002-03-07 |
確定日 | 2005-03-10 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2996662号発明「シ―ムレス経編地を用いた衣類」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2996662号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯及び本件発明 本件特許第2996662号は、平成9年9月2日に特許出願された特願平9-237510号の一部を分割して平成11年6月28日に新たな特許出願としたものであって、平成11年10月29日に設定登録がされ、その後特許異議の申立てがなされ、平成13年4月9日付けで訂正請求がなされ、平成13年8月29日に「訂正を認める。請求項1ないし4に係る特許を維持する。」との特許異議の決定がなされ、平成14年3月7日に無効審判請求がなされ、平成14年10月3日に2002年審判第35083号(特許第2996633号無効審判)事件と併合して口頭審理及び検甲第1〜3号証についての証拠調べ(場所:特許庁審判廷)が実施され、同日当該事件との分離及び書面審理への移行を宣言したものである。 請求項1〜4に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、上記訂正請求により訂正された本件明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4項に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 ラッセル経編地からなるシームレス経編地を用いた衣類であって、前記経編地は身生地部とレース部が一体的に連結して編まれてなり、かつ前記身生地部は鎖編み・乱止め組織からなる地組織で形成された無地又は無地柄の編地であり、前記レース部は前記地組織にレース模様が形成された柄又は細幅レースの編地であることを特徴とするシームレス経編地を用いた衣類。 【請求項2】 経編地が、非弾性糸を用いた編地(リジット組織)、一方向に弾性糸を用いた編地(ワンウェイ組織)及び二方向に弾性糸を用いた編地(ツーウェイ組織)から選ばれる少なくとも一つの編地組織である請求項1に記載のシームレス経編地を用いた衣類。 【請求項3】 衣類が、ブラウス又は下着である請求項1又は2に記載のシームレス経編地を用いた衣類。 【請求項4】 身生地部とレース部との間に縫製部を有さない請求項1〜3のいずれかに記載のシームレス経編地を用いた衣類。」 2.請求人の主張及び提出した証拠方法 2-1.請求人の主張 請求人 日本マイヤー株式会社(以下、「請求人」という。)は、「特許第2996662号の請求項1ないし4に係る発明の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、下記甲第1〜19号証、検甲第1〜3号証及び参考資料1を提出して、本件発明1に係る特許は以下(1)〜(7)の理由により、本件発明2に係る特許は(1)及び(8)の理由により、そして本件発明3、4に係る特許は(1)及び(9)の理由により、特許法第123条第1項の規定によって無効とされるべきであると主張している。 (1)本件特許明細書には、特許請求の範囲に特許を受けようとする発明が明確に記載されていないか、或いは発明の詳細な説明に当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ充分な記載がないから、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定された要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(甲第1、2号証を引用。) (2)本件発明1は、公知物件1〜3(甲第4〜6号証)によって本件出願前に公然知られた発明であるか、又は同発明からに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項(第1号に該当)又は第2項の規定に違反してされたものである。(甲第3〜6号証及び検甲第1号証(公知物件2のサンプル)を提出。) (3)本件発明1は、公用物件1(甲第7号証)により本件出願前に公然実施された発明であるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項(第2号に該当)の規定に違反してされたものである。(甲第7号証、甲第8号証(公用物件1に用いられたラッセル経編地)及び検甲第2号証(甲第8号証の図面代用見本のサンプル)を提出。) (4)本件発明1は、公用物件2(甲第9号証)により本件出願前に公然実施された発明であるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項(第2号に該当)の規定に違反してされたものである。(甲第9号証及び検甲第3号証(公用物件2の現物)を提出。) (5)本件発明1は、本件出願前に頒布された刊行物1(甲第10号証)に記載されているに等しい発明であるか又は刊行物1に記載された発明と周知技術1、2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項(第3号に該当)又は同条第2項の規定に違反してされたものである。(甲第10号証、甲第11号証(周知技術1)及び甲第12号証(周知技術2)を引用。) (6)本件発明1は、本件出願前に頒布された刊行物2(甲第13号証)に記載された発明及び周知技術1、2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(甲第13号証及び甲第11、12号証を引用。) (7)本件特許出願は、分割の原出願である特願平9-237510号の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されていない事項を本件発明1の特定事項とするものであるから、本件は、現実の出願日である平成11年6月28日に出願したものとされるべきであり、そうすると、本件発明1は原出願の公開公報(特開平11-81107号公報:甲第14号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(甲第14号証を引用。) (8)本件発明2は、本件発明1に本件技術分野における周知技術(甲第15、16号証)を適用したに過ぎないものであるから、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第1項(第2、3号に該当)又は第2項の規定に違反してされたものである。 (9)本件発明3は、本件発明1に自明の用途を付加したものにすぎず、また、本件発明4は、本件発明1の特定事項を異なる表現で言い換えたものにすぎないから、本件発明3及び4に係る特許は、いずれも特許法第29条第1項(第1〜3号に該当)又は第2号(当審註:「第2号」は「第2項」の誤記と認める。)の規定に違反してされたものである(審判請求書第5頁「【請求項2】及び【請求項3、4】」の主張)。 なお、請求人の上記(8)及び(9)の主張は、審判請求書第26〜28頁の記載からみて、実質的には、上記(2)〜(6)の主張を踏まえた、以下のような主張であると認められる。 (当審註:審判請求書第26〜28頁の(4)〜(6)の記載はそれぞれ「請求項2の無効理由」、「請求項3の無効理由」及び「請求項4の無効理由」に関するものであるから、(4)に記載された「請求項4」(第27頁第15〜16行第17行)は「請求項2」の誤記であり、(5)に記載された「請求項5」(第27頁末行)は「請求項3」の、「請求項4」(第27頁末行〜第28頁第1行)は「請求項2」の、それぞれ誤記であると認める。) (8-1)本件発明2は、公知物件1〜3により公然知られた発明、公用物件1、2により公然実施された発明或いは刊行物1、2に記載された発明に、周知技術又は甲第15、16号証に記載された公知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (9-1)本件発明3は、公用物件1、2により公然実施された発明或いは刊行物1に記載された発明であるか、又は公知物件1〜3により公然知られた発明、公用物件1、2により公然実施された発明或いは刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明3に係る特許は、特許法第29条第1項(第2、3号に該当)又は第2項の規定に違反してされたものである。 (9-2)本件発明4は、公知物件1〜3により公然知られた発明、公用物件1、2により公然実施された発明或いは刊行物1に記載された発明であるか、又は公知物件1〜3により公然知られた発明或いは刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明4に係る特許は、特許法第29条第1項(第1〜3号)に該当)又は第2項の規定に違反してされたものである。 2-2.証拠方法及び記載事項 甲第1号証:新村 出編「広辞苑」,(株)岩波書店,1991.11.15,表紙、p.541「がら【柄】」の項、p.2492「むじ【無地】」の項、奥付 (甲1-1)「『柄』:・・・織物などの模様。『派手な-』。『無地』:全体が一色で模様のないこと。また、そのもの。『-の布』」 甲第2号証:「JIS工業用語大辞典 第4版」,(財)日本規格協会,1995.11.20,表紙、p.2034「レース」の項、奥付 (甲2-1)「『レース lace』:糸をより合わせ、組み合わせ、結び、編み合わせ、又は生地にししゅうするなどして作った透孔のある布地及びこれに類する布地の総称。」 甲第3号証:大阪地方裁判所第21民事部宛の平成12年12月27日付け「報告書」,弁護士 岩坪 哲 作成 (甲3-1)「御庁の平成12年(ヨ)第20131号事件に関し、平成12年12月25日、特許庁において(1)意匠登録第653171号・・・(2)意匠登録第735051号・・・(3)意匠登録第648964号・・・の包袋を閲覧し、同日同庁において(財)日本特許情報センター職員に対し、各包袋の外観及び願書添付図面代用見本並びにその拡大写真の各撮影を依頼し、本日、同写真の交付を受けた。」とする報告書に、以下の写真が貼付されている。 (1)-1 意匠登録第653171号の包袋外観、(1)-2 同上の図面代用見本外観、(1)-3 同上の要部拡大写真、(2)-1 意匠登録第735051号の包袋外観、(2)-2 同上の図面代用見本外観、(2)-3 同上の要部拡大写真、(3)-1 意匠登録第648964号の包袋外観、(3)-2 同上の図面代用見本外観、(3)-3 同上の要部拡大写真(当審註:上記()付き数字はいずれも丸付き数字) 甲第4号証:意匠登録第653171号公報(意願昭58-26382号、登録:昭和60年3月19日、公報発行:昭和60年6月10日) (甲4-1)「意匠に係る物品 細巾レース地、説明 この意匠は上下にのみ連続するものである。裏面図は表面図と対称にあらわれる。」と記載され、意匠の表面図と裏面図が示されている。 甲第5号証:意匠登録第735051号公報(意願昭60-36286号、登録:昭和63年2月24日、公報発行:昭和63年6月9日) (甲5-1)「意匠に係る物品 細巾レース地、説明 この意匠は上下にのみ連続するものである。」と記載され、意匠の表面図と裏面図が示されている。 甲第6号証:意匠登録第648964号公報(意願昭58-13591号、登録:昭和60年1月22日、公報発行:昭和60年4月16日) (甲6-1)「意匠に係る物品 細巾レース地、説明 この意匠は上下にのみ連続するものである。」と記載され、意匠の表面図と裏面図が示されている。 甲第7号証:「インナー・ファッション」No.21,ミリオンムック,1990.4.1,表紙,p.7、裏表紙 (甲7-1)下方縁部に広幅の花柄模様を有し、その上部に島状小模様が散在した無地部が連続形成された布よりなる胴部を有するランジェリーの写真が示されている。(第7頁) 甲第8号証:意匠登録第771453号公報(意願昭61-46631号、登録:平成1年6月29日、公報発行:平成1年9月29日) (甲8-1)「意匠に係る物品 細巾レース地、説明 この意匠は上下にのみ連続するものである。」と記載され、意匠の表面図と裏面図が示されている。 甲第9号証:「ボディーファッション」1995年3月号,1995.3,表紙、「お得意先様各位 株式会社 ボンニー 代表取締役 元川洋一」との表題を掲げた頁 (甲9-1)それぞれ、下方縁部に広幅の花柄模様、中間部に無地部分及び上方縁部に細幅の花柄模様が連続形成された布よりなる裾部及び胴部を有するスリップの写真が示されている。(第9頁) 甲第10号証:実公昭55-18322号公報 (甲10-1)「本考案は裾飾り付きのシヨーツ生地に関するものである。・・・このようなシヨーツにおいては、前後両身衣部の縫製後ゴムテープの挿入取付工程を必要とし、したがってそれだけ工程数が多くなって量産に不向きであった。さらにまた、それに加えてシヨーツの下部すなわち、裾部に裾飾りを設けたい場合には、さらに特別に裾飾りをいちいち逢着して取付けなければならず、したがってそれだけ縫製手数も多くなるとともにその取付けが厄介である等の欠点があった。」(第1欄第30行〜第2欄第8行) (甲10-2)「本考案は上記のような事情に鑑みて案出されたものであり、裾飾りおよびゴムテープ部等を前後両身衣部と同時に編成しておくことにより、縫製作業を著しく簡略化して量産に得られるようにし、しかも外観的にもきれいでかつ体裁のよいデイザイン的に優れたシヨーツ生地を提供するものである。」(第2欄第14〜20行) (甲10-3)「1はシヨーツ等の生地を一部分示したもので、この生地1はジヤガードラツセル機で編成されたものである。この生地1の編成にあたっては、柄模様8を有する所要サイズ、スタイルの前後身衣部3,4を交互に連続し、該前後身衣部3,4の同一側における幅方向一端縁にゴム状繊維を編込んでゴムテープ部2を一体に編成し、また上部前後身衣部3,4の同一側における幅方向他端縁側に裾飾り部5を一体に編成し、かつ該裾飾り部5に連続して補助用編部7を一体に編成して上記前後身衣部3,4に上記ゴムテープ部2と裾飾り部5と補助用編部7とが同時かつ連続的に編み立てられて帯状に編成したものである。」(第2欄第22〜35行) (甲10-4)「ジヤカードラツセル機で生地1を編成する場合には、その裾飾り部5が第1図に示すようにわん曲した縁辺すなわち前後身衣部3,4の縫着されない部分にのみ形成され、」(第3欄第1〜4行) (甲10-5)「裾飾り部は花柄、スカラー柄その他種々を用いる。また必要に応じて裾飾り部に適当な弾性を持たせる場合には、素材をウーリーナイロン等のストレツチ性のものを用いてもよく、さらにはゴム糸あるいはポリウレタン弾性糸を挿入するようにしてもよい。」(第3欄第12〜17行) (甲10-6)「シヨーツ生地1を第4図に示すようにゴムテープ部2、前身衣部3、後身衣部4、裾飾り部5を一体に有するように多枚筬チエーンラツセル機のトリコツト機で編立ててもよい。この場合には裾飾り部5が生地1の裾部に連続的に形成され、」(第3欄第43行〜第4欄第4行 ) (甲10-7)「本考案によれば、上記生地よりシヨーツ等の下着を形成するには、該生地を上記裾飾り部に沿って裁断すると共に、該裁断された生地の一側縁を縫合するだけで裾飾り部の設けられたシヨーツを形成することができ、裁断された後で裾飾り部を縫着する作業は、上記生地の柔軟性により困難なものであるが、その縫着作業を不要とし省力化による生産コストの低減が図れる。」(第4欄第25〜32行) (甲10-8)「縫着箇所も少なく、生産工程の簡略化が図れるうえ装着した場合には縫合部分が少ないから不快感を与えない。」(第4欄第36〜39行) 甲第11号証:特開昭60-65162号公報 (甲11-1)「この発明はほつれにくい経編レース地に関し、」(第1頁右欄第12行) (甲11-2)「ウエール形成糸が切断されても、レース地の素地がチユール組織やパワーネット組織よりなる場合は、切断されたウエール形成糸が編始め端までほどけてしまうことはない。それは前記したように、ウエール形成糸が1ないし数コースおきに隣のウエールへ移行して他のウエール形成糸のループと連結する編成を繰返しているので、切断されたウエール形成糸がたとえ編始め方向へほどけていっても他のウエール形成糸のループの箇所でほどけるのが阻止されるためである。これに反しマーキゼツト組織のものは、ウエールが鎖編よりなるので、切断されたウエール形成糸が一旦ほどけはじめると、一気に編始め端までほどけてしまう虞れがあった。」(第2頁右上欄第11行〜同頁左下欄第7行) (甲11-3)「この発明者は、レース地の素地を、ウエールを形成する経糸と、任意のコースにおいて前記ウエール間に渡され前記コース以外のコースにおいてはウエールに編込まれる経糸とにより編成するとともに、前記のウエールを形成する経糸は、任意のコースにおいて一方向に隣接するウエールへ移行してそのウエールのループを形成し、その後、任意のコースにおいて元のウエールへ戻るよう編成し、かつこのような編成を行なったために、素地の側端に生じたループ欠如部分では、素地の前記側端において蛇行編成されるスカラツプ形成糸のループが前記素地の経糸のループに続いて形成されるようにすれば、素地がほつれにくい組織に形成される・・・」(第2頁右下欄第7行〜第3頁左上欄第3行) 甲第12号証:日本繊維工業教育研究会「繊維工学II 編組」,実業出版(株),表紙、p.12-17、p.172-177、奥付 (甲12-1)「1本の針につねに1本の糸をからませるとき、ウェール方向にループの連鎖がひも状となって作られる。これを鎖編というが、各針で鎖編が作られるならば布状とならないので、おさを適時コースごとに左右いずれかの針へ糸がからむよう移動することが必要である。このことから、たて編では一つのウェールは、つねに同一のたて糸によるループでできていないといえる。また各ウェールともに各たて糸が交錯した状態の編地であるため簡単に解舒できないし、ランもしにくく、編地の伸縮性はたて方向に大きい。」(第15頁第1〜14行) (甲12-2)「トリコット編機は主として2枚おさ・3枚おさの編機が使用され、おさの枚数が多い編機でも、2、3枚のおさで地組織を編み、他のおさは柄編などに使用する。地組織を編むおさのラッピングは普通反対方向で行ない、たて糸を針に対して対称的に供給し、他のおさは組織に応じてラッピングさせる。2枚以上のおさを使用すると編機(当審註:「編地」の誤記と認められる。)は比較的重厚でち密なものが得られ、ほぐれず、複雑な組織や柄が編めて変化のある編地が得られ、下着・肌着類に使用されるが、最近では外衣用としても多用される。」(第176頁第9〜15行) (当審註:甲第12号証の「繊維工学II 編組」については、奥付等の記載事項が一致する同一書名の刊行物が昭和60年8月21日に特許庁資料館に受け入れられており、同号証の頒布日がこれ以前であることは明らかである。) 甲第13号証:「kettenwirk-praxis」1971年3期号,表紙、目次頁、p.113-115(訳文を含む) (甲13-1)「Ketten Wirk Praxis 柄 ラッセル機(レース) マイヤー柄8531」と題する項中に、 「24枚筬マルチバーレースラッシェル(15枚使用)の柄 マルチバーレースラッシェル用にまったく新しいサンプルが公開されました。衣料用としてこの生地は、服のすそ(下部)に幅広いスカラー(縁取り)を持った部分を、また服の袖に細いスカラー(縁取り)を持った部分をそのままあわせることができるという特長があります。またそれぞれの既製服のサイズに編み幅(つながれている中央部分)を変化させることで対応できます。同様にスカラーの幅も変化させることができます。このサンプルは鎖編みの地組織で生産されています。 サンプル 打ち込み:17/cm 重さ:186g/m2 仕上げ加工上がり:90%幅 仕上げ 洗浄、前セット、色付け、柔軟仕上げ、乾燥 機械 機械タイプ:MRS24 ゲージ:ER36(36本/2インチ) 筬枚数:24(15枚使用) チェーンの数(柄):1326 柄コース:102 駒数:地2個/コース 柄1個/コース 回転数:400rpm 生産性:14m/h」 と記載されている。(第113頁;請求人の訳文による。) 甲第14号証:特開平11-81107号公報(平成11年3月26日発行) 甲第15号証:日本マイヤー株式会社 経編全集編集委員会編「経編全集」,(株)繊維技術ジャーナル,S.57.10.1,表紙、p.79、奥付 (甲15-1)「図4-70はパワーネットの組織でありチュール組織と共に一般的に使用される。4枚のガイドバー共ハーフセットで編成される。ループを形成するフロント地糸は互に反対方向にオーバーラップ、アンダーラップし、バックのエラスチック糸の2枚のガイドバーは反対方向に挿入される。このパワーネット組織に柄糸を挿入する場合、柄と柄との逆がしの糸はエラスチックのアンダーラップと同一方向にショグする事が大切である。逆方向にアンダーラップさせると経走りの線があらわれる。」(第79頁第1〜10行) 甲第16号証:特開平7-70893号公報 (甲16-1)「 非弾性糸が2枚のオサにハーフセットに糸通しされて編成されるメッシュ編みの地組織に、第1弾性糸がコース方向に部分緯糸として挿入され、第2弾性糸が同一ウエール上に挿入されて編成された、適宜な空間率の編目と通気性を備えていることを特徴とするメッシュ調弾性経編地。」(特許請求の範囲第1項) (甲16-2)「本発明は、・・・タテ・ヨコ方向への伸びのバランスが良好であり、且つ清涼感、通気性に優れたメッシュ調弾性経編地及び1枚の編地によって伸び、伸長力等の性質を異にする部分を備えた、縫目の無いガードル、ボディスーツ等の商品の製造に適したメッシュ調弾性経編地を提供することを目的とする。」(段落【0004】) (甲16-3)「第1弾性糸3はポリエーテル系またはポリエステル系のポリウレタン弾性糸のような弾性繊維の裸糸が好ましく、さらに第2弾性糸4はポリエーテル系またはポリエステル系のポリウレタン弾性糸のような弾性繊維の裸糸又は該裸糸に合成繊維、半合成繊維、再生繊維などのフィラメント糸、紡績糸を被覆した複合弾性糸が好ましく、この被覆糸としては綿糸が好ましい。」(段落【0034】) 第17号証:日本繊維工業教育研究会「繊維工学II 編組」,実業出版(株),表紙、p.182-207、奥付 (甲17-1)「ラッシェル編機にジャカード装置を設けた編機をジャカードラッシェル編機(jacquard raschel machine)といい、主として透かし目模様や透かし目をうめて柄を編んだりする。」(第201頁第2〜4行) 甲第18号証:江尻久治郎 著「ラッシェルの基礎知識」,(株)センイ・ジヤァナル,S.39.10.1,表紙、p.208-223、奥付 (甲18-1)「また、服飾レースには前記の角目レースに落下板編成を応用したものと、オープン・ワーク式のレース編地とがあって、後者のレース編地には素地をメッシュに形作って模様部を閉鎖状にあらわしたものと、またその逆に閉鎖組織(1×1トリコットその他)の素地に透孔の意匠をあらわしたものとがある。」(第209頁下から2行〜第210頁第2行) (甲18-2)「また第268図および269図はオープン・ワーク式のジャカード・レースを示したもので、268図の編地はヒゲ針のジャカード・ラッシェル機によるもの、269図は舌針ジャカード・ラッシェル機で編成せられたものである。」(第210頁第6〜8行) (甲18-3)第268図および第269図には、それぞれ透かし目模様を有する編地組織が記載されている。 甲第19号証:「レースの原点」,レース商業会 (甲19-1)各種レースの組織が示されている。 検甲第1号証:甲第5号証(意匠登録第735051号公報)に係るレース(公知物件2)のサンプル 検甲第2号証:甲第8号証(意匠登録第771453号公報)の図面代用見本(公用物件1)のサンプル 検甲第3号証:甲第9号証に掲載のスリップ(公用物件2)の現物 参考資料1:「kettenwirk-praxis」1972年3期号,表紙、目次頁、p.115-116(訳文を含む) (参1-1)「Ketten Wirk Praxis 柄 ラッセル機(レース) マイヤー柄8683 25枚筬の多枚筬レースラッシェル機(18枚使用) カットサンプルを参照」と題する項中に、 「このラッシェルレース柄は鎖編みの地組織の上に2色(暗と白)で作られている。両方の糸素材によって白い部分は暗く着色されている。この生地は女性用アウターに使用される。 サンプル 打ち込み:20/cm 重さ:168g/m2 仕上げ加工上がり:100%幅 機械 機械タイプ:MRS25 ゲージ:ER36(36本/2インチ) 筬枚数:25(18枚使用) チェーンの数:1920 柄コース:120 駒数:地2個、柄1個 回転数:400rpm 生産性:12m/h 仕上げ 洗浄、セット、色付け、柔軟仕上げ、乾燥」 と記載されている。(第115頁上段;請求人の訳文による。) なお、甲第1〜17号証は、平成14年3月7日付け審判請求書に、甲第18〜20号証は、平成14年9月19日付け口頭審理陳述要領書に、また、参考資料1は、平成14年10月3日付け上申書に添付されたものである。 3.被請求人の主張及び提出した証拠方法 3-1.被請求人の主張 被請求人 豊栄繊維株式会社(以下、「被請求人」という。)は、乙第1〜19号証、乙第18号証の2及び乙第20号証の1〜3を提出して、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、請求人が主張する上記(1)〜(9)((8-1)、(9-1)及び(9-2)を含む。))の点に対して、(1)本件特許明細書には請求人が主張するような記載不備はない、(2)本件発明1は、公知物件1〜3(甲第4〜6号証)によって本件出願前に公然知られた発明ではなく、同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない、(3)本件発明1は、公用物件1(甲第8号証)により本件出願前に公然実施された発明ではない、(4)本件発明1は、公用物件2(甲第9号証)により本件出願前に公然実施された発明ではない、(5)本件発明1は、刊行物1(甲第10号証)に記載された発明でも、それに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない、(6)本件発明1は、刊行物2(甲第13号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない、(7)本件明細書の記載は、分割の原出願である特願平9-237510号の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された範囲内であるから分割は適法になされたものであり、請求人の主張は失当である、及び(8)、(9)本件発明1に特許性がある以上、本件発明2〜4にも特許性があることは明らかである、旨主張している。 3-2.証拠方法及び記載事項 乙第1号証:繊維学会編「繊維便覧 加工編」,丸善(株),H.3.7.10,表紙,p.500、623-625,奥付 (乙1-1)「4・1・5 レースの定義 レースは糸の各種の組合わせ、たとえばより合わせ、組合わせなどの方法によって得られる模様のある透し目の多い布状のものをいい、織物などのようにこのような加工をした布をもいう。レースの語源はフランス語のラシからなまったもので、このラシはラテン語のラシニアで、”ふさで飾られた衣”という意味である。」(第500頁第6〜10行) (乙1-2)「b.ラッシェル機 ・・・。生地は針床により保持されており、つぎに針が上昇したときには、前回引込んだ糸がかぎ内ですでに編目を作っており、この編目は針が上昇するにつれてべらを開き、最後にはべらの内側からはずれて針の幹部にすべり落ちる。その後おさが再び給糸の状態となれば図5・146の状態にもどり、これを繰返せば生地ができることになる。」(第623頁第16行〜第624頁第1行) (乙1-3)「落下板ラッシェルの場合は少し複雑な運動の編成機構となり、・・・。その結果図5・148のように地組織のみできて浮糸は地組織の編目にひっかかるだけで固定されることになる。」(第624頁第2〜10行) (乙1-4)「このようにして作られた縫編目は鎖編やプレーン組織となる。」(第625頁第4行) 乙第2号証:新村 出編「広辞苑」,(株)岩波書店,1991.11.15,p.617「きじ【生地・素地】」の項 (乙2-1)「『生地・素地』:・・・布・織物などの地質。また、布・織物。染色などの加工を施すための材料織物。『洋服の-』」 乙第3号証:「JIS用語辞典 繊維編」,(財)日本規格協会,1987.7.15,表紙、p.160、168、199、奥付 (乙3-1)「ノンラン組織:編目(1-2)のラン(伝線)を防ぐためのよこ編の組織。」(第160頁 番号「2-18」の項) (乙3-2)「地糸:糸レースの地を構成する糸」(第199頁 番号「404」の項) (乙3-3)「柄糸:糸レースの地糸以外の柄又は模様を構成する糸。模様糸又は紋糸ともいう。」(第199頁 番号「405」の項) (乙3-4)「地組織:地糸の組織」(第199頁 番号「407」の項) 乙第4号証:特開2001-192952号公報 (乙4-1)「挿入糸として弾性糸を具備した経糸のくさり編みによる編列が全ウエールに配列されており、それぞれのウエール上のくさり編み列を隣接するウエール上のくさり編み列に連携させるように、所定の編組織で振り糸が挿入されて基準組織の経編地が編成されており、該基準組織の経編地の所望の位置に基準組織と異なる組織で形成された模様編地部分が配置されており、該模様編地部分が経編地の基準組織中の振り糸の編成組織を少なくとも一部変えることによって形成されていることを特徴とする部分的に模様編地部分を有する経編地。」(特許請求の範囲第1項) (乙4-2)「本発明は部分的に模様編地部分を有する経編地に関する。より詳しくは特定の編成組織を有する基準組織の編組織を設計し、その編組織を所望の位置において変更することによって模様組織を形成せしめ、それによって一枚の経編地上で基準組織と模様組織が連続して形成されている経編地に関する。」(段落【0001】) 乙第5号証:「独和大辞典 コンパクト版」,(株)小学館,表紙、p.387「Bordu*re」の項、奥付 (乙5-1)「Bordu*re:ふち、へり;ふち取り、(生地などの)ふち飾り」(当審註:「u*」は、u-ウムラウト) 乙第6号証:「本件特許発明の図1に記載されている編地」とされる編地組織の電子写真 乙第7号証:「本件特許発明の生地部が無地であり、両端にレース部を有する編地」とされる編地組織の電子写真 乙第8号証:「本件特許発明の図1に記載されている編地」とされる編地組織の電子写真 乙第9号証:「ボディファッション」2000年7月号,H.12.6.25,表紙、p.3、32、33、奥付 (乙9-1)総レースタイプのランジェリーの写真が示されている。(第3頁) (乙9-2)「豊栄のシームレックス製法」を示す図とその製品の写真が示されている。(第32〜33頁) 乙第10号証:「和魂洋才」2000年7月号,(社)日本ボディファッション協会(NBF),p.1、7-8 (乙10-1)「4年余りをかけて豊栄繊維が開発してきた、レースと生地を同時に編む「シームレックス(R)(当審註:「(R)」は、Rの丸付き文字)」に昨年6月1件、11月に2件特許許可がおりました。バックレースの縫製部分がパンツに映らない綺麗なモノで、21世紀のインナーは付属レースの縫製が不要になるかもしれません。」(第7頁右欄下から8行〜末行) 乙第11号証:「繊研新聞」,2000.8.30,「着用時のショーツライン解消します」との標題の囲み生地 (乙11-1)「豊栄繊維・・・はシームレス専用の編み機を開発し、ショーツの生地とレースとの継ぎ目を解消した。三倍以上異なる生地用とレース用の編み機の編む速度をシンクロナイズ(合体)させたものがシームレス専用編み機だ。・・・このシームレス編み機では、生地とレースの部分が自由に組み合わせられる。」(上段第5行〜中段第9行) 乙第12号証:「ボディファッション」2002年6月号,H.14.5.25,表紙、p.22、23、奥付 (乙12-1)「シームレックス」の説明図とその製品の写真が示されている。(第32〜33頁)」 乙第13号証:請求人の会社登記簿謄本 (乙13-1)「商号:日本マイヤー株式会社・・・目的:1.繊維機械及び繊維器具の製造、修理及び販売 2.上記機械、その部品及び付属品の輸出入 3.前各号に附帯する一切の業務」(商号及び目的の欄) 乙第14号証:「ニットアパレルIII ニット生産工場」,繊維産業構造改善事業協会,表紙、目次、p.204、284 (乙14-1)「(f)その他の無地柄」(第204頁左欄第7行) (乙14-2)「丸編み機-無地、無地柄(目移し柄)、縞柄、・・・ 横編機-成形編、無地、無地柄(目移し柄)、縞柄、・・・」(第284頁図表3-91) 乙第15号証:特公昭60-467号公報 (乙15-1)「従来から編地の横方向の柄物作成は、色糸配色によるボーダー柄、ジャカード編機での無地柄及び色糸配色柄の方法がとられている。」(第1欄第11〜13行) 乙第16号証:特開平4-11053号公報 (乙16-1)「地部および柄部が同一の無地柄組織に編成されるので、・・・」(第2頁右上欄第9〜10行) 乙第17号証:日本マイヤー株式会社 経編全集編集委員会編「経編全集」,(株)繊維技術ジャーナル,S.57.10.1,表紙、P.1-2、奥付 (乙17-1)「さらに1849年には、英国のマシュー・タウンゼントによってラッチニードル(ベラ針)が発明されたことで、今日のラッシェル機の基礎が築かれたことになる。次いで1885年には、英国のレッドゲートによってヒゲ針を用いたトリコット機が世に送り出された。この時点で経編成を目的とする経編機の代表的機種であるラッシェル機とトリコット機の発展の歴史の第一歩が踏み出されるわけである。」(第1頁左欄下から8行〜末行) (乙17-2)「経編機が最初に日本に導入されたのは明治32年のことで、・・・明治39年にはジャカードラッシェル機も輸入されている。」(第1頁右欄第10〜14行) 乙第18号証:米国特許第6,305,196号明細書(登録:10.23.2001) 乙第18号証の2:米国特許第6,305,196号明細書のクレームの和訳 乙第19号証:特許庁編「工業所有権法令集〔第53版・上巻〕」,(社)発明協会,1997.5.30,表紙、第928頁、奥付 (乙19-1)「六五 その他の基礎製品 織物地、板等 :織物地、編物地、レース地、・・・」 ひも、ロープ等:糸、毛糸、組ひも、編ひも、織ひも、細幅レース地、・・・」(第928頁「意匠法施行規則(別表一・六三-六五)」) 乙第20号証の1:欧州特許出願第98940585.7-2314号許可書 乙第20号証の2:欧州特許出願第98940585号.7-2314最終明細書 乙第20号証の3:欧州特許出願第98940585号.7-2314のクレームの和訳 なお、乙第1〜12号証は、平成14年6月7日付け答弁書に、乙第13〜19号証(乙第18号証の2を除く。)は、平成14年10月3日付け口頭審理陳述要領書に、また、乙第18号証の2及び乙20号証の1〜3は、平成14年11月29日付け上申書に添付されたものである。 4.当審の判断 4-1.請求人の利害関係について 被請求人は、以下の点により、請求人には法律的な利害関係がない旨主張している。 (1)請求人の業務は「1.繊維機械及び繊維器具の製造、修理及び販売 2.上記機械、その部品及び付属品の輸出入 3.前各号に附帯する一切の業務」(摘記事項(乙13-1):会社登記簿謄本)であって、本件発明に関する衣類を実施しておらず、請求人は被請求人から特許権侵害の追求を受ける立場にない。 (2)請求人は、件外株式会社タケダレースが大阪地裁に提出したものであって第三者には閲覧不可能な証拠書類を甲第3号証として提出し、また、同社の所有物であるレース地を検甲第1、2号証として提出しているところからみて、株式会社タケダレースと密接な関係にあり、同社の代役(ダミー)をしていると推定される。 これに対して請求人は、以下のように反論している。 (1)特許法上、特許無効審判請求人の利害関係は求められていない。 (2)請求人はドイツ国カールマイヤー・テキステイルマシーネンファブリーク・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクター・ハフツング(以下、「マイヤー社」という。)の日本法人としてラッセルレース編み機を供給しているものであり、本件特許の存在によりレースメーカーが製品開発を躊躇し、請求人の編み機を買い控える等の不利益を被る可能性が大である。 (3)甲第13号証及び参考資料1に示すように、上記マイヤー社は衣料及び編み地のサンプルを作成しており、当該サンプルの作成が本件特許を侵害していると主張される可能性があり、これは同社の日本法人である請求人についても同様である。 (4)請求人の利害関係は(3)記載の資料等で疎明されており、被請求人による商業登記簿上の目的欄の記載あるいは「代役」云々の主張は全く理由がない。 よって検討すると、請求人が主張するとおり、現行特許法には、利害関係がなければ特許無効の審判を請求することができないとは規定されていないが、「利益なければ訴権なし」という民事訴訟法の原則は特許無効の審判においても適用されるものと解されるから、請求人の利害関係について被請求人が争う場合には、請求人は利害関係の存在について疎明することを要するものである。 そこで、請求人が疎明資料とする甲第13号証をみると、これらにはマイヤー社のラッシェル機を用いたレース地及びそれからなる衣類に関する記載があり、これらは編み機の性能を紹介するために作成されたサンプルであると理解される。そうすると、同社の日本法人であり、同社から編み機を導入している請求人もまた、同様のサンプルのレース地及び衣類を作成するものと解するのが自然であり、それに対して被請求人から特許権侵害の主張をされることは十分予測されるところというべきである。 また、経編地を用いた衣料に関する本件特許の存在により、その編地を製造可能な編み機のメーカーが設計上の制約を受け、編み機の生産上、不利益を被る可能性も否定できない。 したがって、請求人が件外企業の「代役」であるか否かを論ずるまでもなく、請求人には本件特許の存否についての利害関係が認められる。 4-2.分割が不適法であるとする主張について 請求人は、本件請求項1に記載された「鎖編み・乱止め組織」について明細書には「鎖編み組織とは通常の経編地のプレーン(平坦)な編み組織のことであり、また乱止め組織とは例えば編目のループの一つに引っかけができてもその破壊が伝播しない組織をいい、」(段落【0005】)と定義されているが、この定義について、分割の原出願である特願平9-237510号(以下、「原出願」という。)の願書に最初に添付した明細書又は図面には記載されていないから、本件特許出願は特許法第44条第1項の規定に違反し、同条第2項による出願日の遡及が認められないとして、本件発明1は原出願の公開公報である甲第14号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。 よって検討すると、なるほど、本件明細書の当該段落における「鎖編み組織とは通常の経編地のプレーン(平坦)な編み組織のことであり、また乱止め組織とは例えば編目のループの一つに引っかけができてもその破壊が伝播しない組織をいい」という記載自体は原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面には記載されていない。 しかしながら、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面には、段落【0014】〜【0017】及び【図1】〜【図3】のそれぞれに「地組織(鎖編み、乱止め)」と記載されており、【図1】〜【図3】には地組織の「L26」について、一つの鎖編みのウェールから隣接する鎖編みのウェールに糸が移動することが示されている。そして、請求人自身が提示する甲第12号証にも「1本の針につねに1本の糸をからませるとき、ウェール方向にループの連鎖がひも状となって作られる。これを鎖編というが、各針で鎖編が作られるならば布状とならないので、おさを適時コースごとに左右いずれかの針へ糸がからむよう移動することが必要である。このことから、たて編では一つのウェールは、つねに同一のたて糸によるループでできていないといえる。また各ウェールともに各たて糸が交錯した状態の編地であるため簡単に解舒できないし、ランもしにくく、編地の伸縮性はたて方向に大きい。」(摘記事項(甲12-1))と記載されているように、鎖編みがたて編みの基本的な編み方であり、これを布状の組織とするためにウェール間にたて糸が交錯した状態とすることが行われ、それによってランがしにくい編み地が形成されることは、原出願の出願前に当業界に広く知られていたことというべきである。この「ラン」が編目破壊の伝播(伝線)を意味することは自明であり、編み方の共通性からみて、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された「乱止め」とは、ラン、すなわち編目破壊の伝播を防止するものであるといえるから、本件明細書の「乱止め組織とは例えば編目のループの一つに引っかけができてもその破壊が伝播しない組織をいい」という点は、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に実質的に記載されていたものというほかはない。また、鎖編みがたて編みの基本組織であることは上記のとおりであり、「プレーン(平坦)な編み組織」とは、字義通りの解釈により、また、被請求人の「・・・きわめて単純な鎖編み組織であるから「通常の経編地のプレーン(平坦)な編み組織」である・・・」(平成14年6月7日付けの答弁書の第18頁)」との主張からみて、「単純な編み組織」を意味するものと理解できるから、本件明細書の「鎖編み組織とは通常の経編地のプレーン(平坦)な編み組織のことであり」との記載は、「(たて編みの基本組織である)鎖編み組織とは通常の経編地の単純な編み組織のことである」という当然のことを述べているにすぎないから、その限りでは、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に実質的に記載されたものというべきである。 したがって、本件特許出願が特許法第44条第1項の規定に違反することを前提とする請求人の上記主張は採用できない。 4-3.特許法第36条第4項及び第6項第2号違反の主張について 請求人は、本件特許明細書には、特許請求の範囲に特許を受けようとする発明が明確に記載されていないか、或いは発明の詳細な説明に当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ充分な記載がないと主張し、その具体的理由として、以下の点を挙げている。 (1)請求項1に記載された「鎖編み」組織について発明の詳細な説明には「鎖編み組織とは通常の経編地のプレーン(平坦)な編み組織のことである」と定義されているが、「プレーン(平坦)な編み組織」なる概念はその外延が不明であり、例えば、ジャカードによる挿入糸の挿入によって地組織が凹凸を生ずるものが「プレーン(平坦)な編み組織」から排除されるか否か明らかでない。 (2)請求項1に記載された「身生地部」は「無地又は無地柄の編地」であるとされているが、「無地」とは「全体が一色で模様のないこと」(摘記事項(甲1-1))、「柄」とは「織物などの模様」(同上)を意味するものであるから、「無地柄」とは背反する概念を並列したものであり、模様があるのかないのか不明瞭である。 (3)【図1】〜【図3】には、「本発明の実施の形態」として、身生地部に菱目模様が形成された編み地が示されており、一方、請求項1には「レース部は前記地組織にレース模様が形成された柄又は細幅レースの編地である」とされている。そして、甲第2号証の記載を参酌してこの「レース模様」を「透孔あるいはこれに類する模様」と解釈しても、明細書には「身生地部」が「透孔あるいはこれに類する模様が形成されていない部分」であるなどという記載はないから、「透孔あるいはこれに類する模様」の有無によって「身生地部」と「レース部」とを明瞭に区別することも不可能である。 そこでこれらの点について検討する。 (1)請求項1の「鎖編み」について「鎖編み組織とは通常の経編地のプレーン(平坦)な編み組織のことである」とする明細書中の記載については上記4-2.で述べたとおりそれ自体に不明瞭なところはなく、請求人が挙げる事例は単なる「鎖編み」といえるものではないから、それが「鎖編み」の定義に包含されるか否か明らかでないということが、上記鎖編みに関する明細書の記載不備の判断に関係するとはいえない。 (2)「身生地部」について請求項1には、「身生地部は鎖編み・乱止め組織からなる地組織で形成された無地又は無地柄の編地であり」と記載されており、身生地部は「無地又は無地柄」の編地であるとされている。この「無地」については、甲第1号証に示された「全体が一色で模様のないこと」(摘記事項(甲1-1))という一般的な意味で捉えることができ、被請求人が「無地」の例として示した乙第7号証の生地部のような組織が「無地」と称すべきものであることは自然に理解できるから、身生地部が無地であるとする記載には不明瞭なところはない。 しかしながら、「無地柄」については、一般的な意味からは請求人が指摘するとおりの背反する内容を含むという不明瞭さが否定できない。 これに関して被請求人は、「無地柄」とは本件の図面(図1〜3)のように地組織の糸による柄、すなわち編み模様が形成されている組織のことであるとして乙第6、8号証を示し、更に、乙第14〜16号証には「無地柄」が一般的なものとして記載されている旨主張している。 これらの点について検討すると、本件の図1〜3及び乙第6号証には地組織に菱形模様が、また、乙第8号証には花柄模様が形成された編み地が示されているが、このような模様、すなわち柄が形成された編み組織は、もはや一般的な意味での「無地」には当たらず、「無地」という修飾語抜きで単に「柄」というべきものである。それでは、経編地の技術分野において「無地柄」という語が、被請求人がいうような「地組織の糸による柄、すなわち編み模様が形成されている組織」という意味で用いられているか否かについてみると、被請求人が指摘する乙第14〜16号証にはなるほど編み地について「無地柄」という語が記載されてはいるが、これらはいずれも横編み組織に関する記載であり、編成及び模様現出機構を全く異にする経編み組織において「無地柄」という語が上記の意味で一般的に用いられていることを何ら証左するものではない。また、被請求人が提示する乙第3号証(JIS用語辞典 繊維編)には、「地組織:地糸の組織」(摘記事項(乙3-4))と記載されており、これに従って、請求項1の「身生地部は鎖編み・乱止め組織からなる地組織で形成された無地又は無地柄の編地であり」との記載における「地組織」を「地糸の組織」とし、「無地柄」とはそのような地組織すなわち地糸の組織で形成されるものであると解釈しても、地糸がどのように組織化されたものを「無地柄」と称するのかは依然として不明というべきである。そして、「無地柄」が「地組織の糸による柄、すなわち編み模様が形成されている組織」であることは、特許請求の範囲はもとより本件明細書中の何処にも規定されていない。 そうすると、請求項1の「身生地部は鎖編み・乱止め組織からなる地組織で形成された無地又は無地柄の編地であり」という記載中の「身生地部は無地柄の編地であり」という部分はその意味するところが明確でないというほかはない。 (3)被請求人は、乙第1号証の「4・1・5 レースの定義 レースは糸の各種の組合わせ、たとえばより合わせ、組合わせなどの方法によって得られる模様のある透し目の多い布状のものをいい、織物などのようにこのような加工をした布をもいう。レースの語源はフランス語のラシからなまったもので、このラシはラテン語のラシニアで、”ふさで飾られた衣”という意味である。」(摘記事項(乙1-1))という記載を引用し、更に本件明細書の実施例の記載を根拠として、本件発明におけるレースとは、次のように定義されるものであると述べている。 《1》装飾模様を形成している。 《2》レース糸を用いる。 《3》透孔を有する。 《4》レース部の密度の方が生地部の密度より高い。 しかしながら、「《4》レース部の密度の方が生地部の密度より高い」点は、乙第1号証の記載から直接導き出されるものとはいえず、たまたま本件明細書の実施例のものがそれに当たるとしても、特許請求の範囲に記載されていないこのような事項により本件発明におけるレースが規定されるものとすることはできない。また、「《2》レース糸を用いる」点も、レース糸をレース部の構成糸と解釈すれば、自明の限定にすぎない。 そして、上記(2)のように「身生地部は無地柄の編地であり」という記載は明確ではないが、本件明細書の記載からみて、無地柄が透孔を有するレース模様となることが特に排除されているわけではなく、そのような場合にはその模様を形成する糸は「レース糸」にほかならない。 ゆえに、請求項1の記載における「身生地部」と「レース部」とを明瞭に区別することはできない。 したがって、本件明細書には、特許請求の範囲に特許を受けようとする発明が明確に記載されているとすることはできず、また、発明の詳細な説明が当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ充分に記載されているものとはいえないから、本件発明1〜4の特許は、特許法第36条第4項及び第6項第2号の規定を満たしていない出願についてされたものである。 4-4.公知物件2に基づく特許法第29条第1項第1号違反の主張について 4-4-1.請求人の主張 請求人は検甲第1号証(公知物件2のサンプル)を提出し、本件発明1は公知物件2(甲第5号証)によって本件出願前に公然知られた発明であるか、又は同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項(第1号に該当)又は第2項の規定に違反してされたものであると主張している。 4-4-2.本件発明1 本件請求項1の記載は上記のように明確でないが、以下、特許法第29条第1項及び同条第2項違反の主張については、本件発明1は、請求項1の記載から不明確な部分(「無地柄」)を除いた次の事項により特定されるとおりのものとして判断する。 「【請求項1】ラッセル経編地からなるシームレス経編地を用いた衣類であって、前記経編地は身生地部とレース部が一体的に連結して編まれてなり、かつ前記身生地部は鎖編み・乱止め組織からなる地組織で形成された無地の編地であり、前記レース部は前記地組織にレース模様が形成された柄又は細幅レースの編地であることを特徴とするシームレス経編地を用いた衣類。」 4-4-3.公知物件2と検甲第1号証との関係 公知物件2は意匠登録第735051号公報(甲第5号証、意願昭60-36286号、登録:昭和63年2月24日、公報発行:昭和63年6月9日)に掲載された細巾レース地であり、検甲第1号証は公知物件2のサンプルとされている。当審において、特許庁に保管されている意願昭60-36286号の原本に添付された図面代用見本と検甲第1号証の編み地とを対比したところ、両者は同一のサイズ及び編み組織を有する編み地であることを確認した。 4-4-4.検甲第1号証の検証結果 イ.この組織は両端の花柄模様部分とそれに挟まれた部分(以下、「中央部分」という。)から構成されたラッセル経編地であって、これら両部分は編み目の進行方向に沿って、一体的に連続している。 ロ.中央部分は、鎖編み組織よりなり、編み目進行方向に斜交して組織が密になった線状部分が複数本平行に形成されている。 ハ.中央部分には、その中央領域に編み組織で形成された島状小模様が点在しており、該領域と花柄模様部分に挟まれた二つの領域には、無地の鎖編み組織に他の糸が編み込まれた形成された島状小模様が点在している。 ニ.花柄模様部分は、鎖編み組織に他の糸が編み込まれてレース模様が形成された編地である。 ホ.花柄模様部分の最大幅は約8センチメートルで、編地の幅は概ね30センチメートルである。 なお、上記イ.の「ラッセル経編地」に係る部分については、検証において、請求人代理人岩坪 哲が当該検証物が「ラッセル経編地」である旨の指示説明を行った点、及び、透かし目をうめて柄を編むジャカードラッシェル編地特有の模様(摘記事項(甲18-1)参照。)が認められる点から、このように認定した。 4-4-5.対比・判断 公知物件2は、編み目の進行方向に沿って両端の花柄模様部分とそれに挟まれた中央部分とが一体的に連続しているラッセル経編地であり、中央部分の中央領域には、編み組織で形成された島状小模様が点在し、該領域と花柄模様部分に挟まれた二つの領域(以下、「中間領域」という。)には、無地の鎖編み組織に他の糸が編み込まれて形成された島状小模様が点在している。花柄模様部分は鎖編み組織に他の糸、すなわち柄糸が編み込まれて形成されており(編み込みのない部分は透孔状に鎖編み組織が露出している。)、この花柄模様部分に中間領域を含めた柄糸模様部分は、本件発明1における「レース部」に相当するものである。また、鎖編み組織よりなる中央部分には、編み目進行方向に斜交して組織が密になった線状部分が複数本平行に形成されており、この線状部分においてはウェール間で糸が移行していることによりラン防止作用が生ずるものと解され、また、本来、ウェール間にたて糸が交錯した状態になった鎖編み組織はランが生じにくいことはよく知られている(摘記事項(甲12-1)参照。)から、中央部分の中央領域の鎖編み組織は、本件発明1における「乱止め組織」に相当するものである。 このように、公知物件2は、花柄模様部分に中間領域を含めた柄糸模様部分(本件発明1の「レース部」に相当。)と、鎖編み・乱止め組織の中央領域とが連続した(シームレスの)編み地であるということができ、編み組織で形成された島状小模様を含めた中央領域全体が「無地」とはいえないとしても、少なくとも中間領域との境界には、編み目の進行方向にそって連続的に無地の部分が存在するのであり、この部分は本件発明1における「身生地部」に相当するものである。 被請求人は「身生地部」について、「基本組織のことを「身生地部」または「地組織部」と表現することは、周知文献から明らかなとおり、技術的に正しい表現である。」(平成14年6月7日付け答弁書第7頁第7〜8行)と述べており、この「基本組織」という意味では、公知物件2の前記無地部分は、まさに編み地の基礎をなす鎖編み組織からなる部分であるから、本件発明1における「身生地部」そのものというべきである。被請求人はまた、「本発明の編地を用いれば、少なくとも腹部のウェストラインの縫製は不要である・・・。これは身生地部が独立して広いからである。」(同答弁書第9頁末行〜第10頁第2行)とも主張しているが、本件請求項1には「身生地部」の広さについて何ら規定されているわけではないから「身生地部が独立して広い」という点は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。 そうすると、本件発明1と公知物件2に係る発明とは、ともに、 「ラッセル経編地からなるシームレス経編地であって、身生地部とレース部が一体的に連結して編まれてなり、かつ前記身生地部は鎖編み・乱止め組織からなる地組織で形成された無地の編地であり、前記レース部は前記地組織にレース模様が形成された柄又は細幅レースの編地であるシームレス経編地」 に係るものである点で一致するが、本件発明1はこの経編地を「用いた衣類」としているのに対して、公知物件2はその用途が特定されていない点で、一応の相違が認められる。 しかしながら、公知物件2の経編地も衣類素材として十分な面積と装飾性を有するものであり、衣類とすることは自明の用途というべきであるから、この点は実質的な相違点とはいえない。 なお、被請求人は、公知物件2は意匠公報の名称からみて「細幅レース地」であり、「細幅レース地」は全体の幅が「細幅」であり、女性の下着類に応用する際には、必ず身生地部との縫製が必要となる旨主張(同答弁書第9頁第7〜16行)している。 しかしながら、本件請求項1には経編地の幅について特に限定されておらず、公知物件2のような細幅のものを用いることが排除されているわけではないから、被請求人のこの点の主張は採用できない。 4-4-6.まとめ したがって、本件発明1は公知物件2(甲5第号証)によって本件出願前に公然知られた発明であるから特許法第29条第1項第1号に該当し、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 4-5.本件発明2〜6の特許法第29条第1項及び同条第2項違反の主張について 4-5-1.本件発明2 本件発明2は、本件発明1において「経編地が、非弾性糸を用いた編地(リジット組織)、一方向に弾性糸を用いた編地(ワンウェイ組織)及び二方向に弾性糸を用いた編地(ツーウェイ組織)から選ばれる少なくとも一つの編地組織である」との限定を加えたものである。 そして、本件発明1は公知物件2により本出願前に公然知られた発明であり、経編地を「非弾性糸を用いた編地(リジット組織)」とすることは本出願前に当業界において周知である。また、経編地において一方向に弾性糸を用いること、及び二方向に弾性糸を用いることは、それぞれ甲第15号証(摘記事項(甲15-1))及び甲第16号証(摘記事項(甲16-1))に記載されているように本件出願前に公知であり、公知物件2により本出願前に公然知られた発明においてこれら周知、公知技術を付加して本件発明2のようにする点に困難性はない。 したがって、本件発明2は公知物件2によって本件出願前に公然知られた発明と、周知技術或いは甲第15、16号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 4-5-2.本件発明3 本件発明3は、本件発明1において「衣類が、ブラウス又は下着である」との限定を加えたものである。 そして、本件発明1は公知物件2により本件出願前に公然知られた発明であり、レース部を有する公知物件2に係る発明を、レース部を有する衣類として周知であるブラウス又は下着に適用する点に特に困難性は見いだせない。 したがって、本件発明3は公知物件2によって本件出願前に公然知られた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 4-5-3.本件発明4 本件発明4は、本件発明1において「身生地部とレース部との間に縫製部を有さない」との限定を加えたものである。 そして、本件発明1は公知物件2により本出願前に公然知られた発明であり、「身生地部とレース部との間に縫製部を有さない」点は、公知物件2に係る発明も備えている。 したがって、本件発明4は公知物件2によって本件出願前に公然知られた発明であるから特許法第29条第1項第1号に該当し、本件発明4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 5.結 論 以上のとおりであるから、請求人のその余の主張について検討するまでもなく、本件発明1〜4の特許は無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2003-02-24 |
結審通知日 | 2003-02-27 |
審決日 | 2003-03-11 |
出願番号 | 特願平11-182119 |
審決分類 |
P
1
112・
111-
Z
(D04B)
P 1 112・ 537- Z (D04B) P 1 112・ 121- Z (D04B) P 1 112・ 02- Z (D04B) P 1 112・ 536- Z (D04B) |
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
須藤 康洋 高梨 操 |
登録日 | 1999-10-29 |
登録番号 | 特許第2996662号(P2996662) |
発明の名称 | シ―ムレス経編地を用いた衣類 |
代理人 | 岩坪 哲 |
代理人 | 赫 高規 |
代理人 | 蔦田 正人 |
代理人 | 蔦田 璋子 |
代理人 | 山上 和則 |
代理人 | 村林 隆一 |
代理人 | 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ |