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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01L |
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管理番号 | 1112281 |
審判番号 | 不服2002-15270 |
総通号数 | 64 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1997-11-04 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-08-09 |
確定日 | 2005-02-17 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第 97810号「内燃機関の吸排気弁駆動制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年11月 4日出願公開、特開平 9-287424〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成8年4月19日の出願であって、その請求項1〜4に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載される事項により特定されるとおりのものと認められところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】機関の回転に同期して回転する駆動軸と、 この駆動軸の外周に相対回転可能に配設され、かつ吸排気弁を駆動するカムを外周に有する円筒状のカムシャフトと、 このカムシャフトの端部に設けられ、かつ半径方向に沿って係合溝が形成されたフランジ部と、 このフランジ部に対向するように上記駆動軸側に設けられ、かつ半径方向に沿って係合溝が形成されたフランジ部と、 上記両フランジ部の間に配設された環状ディスクと、 この環状ディスクの両側部に互いに反対方向に突設されて、上記両フランジ部の各係合溝内に夫々係合するピンと、 上記環状ディスクを回転自在に保持するとともに、軸直角方向に沿って移動可能な制御環と、 上記制御環を機関運転状態に応じて移動させる駆動機構と、 を備えた吸排気弁駆動制御装置において、 上記環状ディスクの一方向への最大偏心量と他方向への最大偏心量とを略同一に設定するとともに、一方向への最大偏心時に吸排気弁の作動角が最大に、他方向への最大偏心時に上記作動角が最小となるように設定したことを特徴とする内燃機関の吸排気弁駆動制御装置。」 2.原査定の拒絶の理由 一方、原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、本願の出願日前に頒布された、特開平7ー301106号公報、特開昭63ー1707号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 3.引用例の記載事項 (1)特開平7ー301106号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 a.「【0024】 初めに、第1可変動弁機構1について図2の拡大断面図を参照しつつ説明すると、機関の前後方向に延設された中空状の駆動軸2にはクランクシャフト(図示せず)からタイミングベルト61およびスプロケット62(いずれも図1参照)を介して回転力が伝達されるように構成されており、その外周には各気筒毎に分割された円筒状の排気側カムシャフト3(当審注:前後の記載からみて、「吸気側カムシャフト3」の誤記と認められる)が一定の隙間を介して駆動軸2の中心Xと同軸に配設されている。 【0025】上記カムシャフト3は、シリンダヘッド上端部のカム軸受63に回転自在に支持されていると共に、図3,図4に示すように、外周の所定位置に、吸気弁4をバルブスプリング5のばね力に抗してバルブリフター6を介して開作動させる複数のカム7…が一体に設けられている。【0026】また、カムシャフト3は、上述したように複数個に分割形成されているが、その一方の分割端部に、フランジ部8が設けられている。また、この複数に分割されたカムシャフト3の端部間に、それぞれスリーブ9と環状ディスク10が配置されている。上記フランジ部8は、図5にも示すように、中空部から半径方向に沿った細長い矩形状の係合溝11が形成されていると共に、環状ディスク10の一方の表面に摺接するフランジ面8aを有している。 【0027】上記スリーブ9は、小径な一端部がカムシャフト3の他方の分割端部内に回転自在に挿入されている共に、駆動軸2の外周に嵌合しており、かつ直径方向に貫通した連結ピン12を介して該駆動軸2に連結固定されている。また、スリーブ9の他端部に設けられたフランジ部13は、カムシャフト3側のフランジ部8と対向して位置し、かつ図6にも示す如く、半径方向に沿った細長い矩形状の係合溝14が形成されていると共に、外周面に環状ディスク10の他方の表面に摺接するフランジ面9aを有している。上記係合溝14は、カムシャフト3側フランジ部8の係合溝11と180°異なる反対側に配置されている。【0028】上記環状ディスク10は、略ドーナツ板状を呈し、内径がカムシャフト3の内径と略同径に形成され、駆動軸2の外周面との間に環状の隙間部Sが形成されていると共に、小巾の外周部10aが環状のベアリングメタル15を介して制御環16の内周面に回転自在に保持されている。また、互いに180°異なる直径線上の対向位置にそれぞれ保持孔10b,10cが貫通して形成されており、該各保持孔10b,10cには、各係合溝11,14に係合する一対のピン17,18が嵌合配置されている。・・・【0032】上記制御環16は、略円環状をなすとともに、図3に示す如く、外周の一部にボス部16aを有し、該ボス部16aを貫通した揺動軸19を支点として、駆動軸2の軸方向と直交する面に沿って上下に揺動自在に構成されている。またボス部16aと反対側の外周面にはレバー部16bが半径方向に沿って突設されており、このレバー部16bを後述の駆動機構28が操作することにより制御環16の揺動位置が制御されるようになっている。」(段落【0024】〜段落【0032】。なお、下線は引用個所の理解の便のために当審で付した。以下同様。) b.「【0046】次に、吸気側の第1可変動弁機構1の作用について図9を参照しつつ説明する。【0047】まず、コントローラ42から第1電磁弁38にOFF信号が出力されると、この第1電磁弁38を介して油通路36とオイルパン35とが接続される。このため、図3に示した油圧室29a内の油圧が解放され、油圧ピストン31がバルブスプリング5及びコイルスプリング34のばね力で第1シリンダ29の底面に当接する最大後退位置まで後退する。【0048】従って、制御環16つまり環状ディスク10の回転中心Yと駆動軸2の中心Xが合致する。つまり図3中に実線で示すような状態となる。この場合は、環状ディスク10と駆動軸2との間に回転位相差が生じず、また、カムシャフト3の中心と環状ディスク10の中心Yも合致するため、両者3,10間の回転位相差も生じない。【0049】そのため、駆動軸2,環状ディスク10およびカムシャフト3の3者は、ピン17,18を介して等速で同期回転する。この結果、図9(A)中の実線に示すようなカムプロフィルに沿ったバルブリフト特性が得られる。・・・【0050】一方、コントローラ42から第1電磁弁38にON信号が出力されると、第1電磁弁38が切り換わり、オイルポンプ37からの作動油が油通路36を介して油圧室29aに供給され、油圧室29aの油圧が上昇する。【0051】この圧力上昇に伴い、油圧ピストン31が図3中の一点鎖線で示す如く、コイルスプリング34のばね力に抗してレバー部16bを所定位置まで押し上げるため、制御環16が揺動軸19を支点として上方へ揺動し、環状ディスク10の中心Yが図3中のY′として示すように駆動軸2の中心Xから偏心する。【0052】この状態では、スリーブ9の係合溝14とピン18との摺動位置、ならびに、カムシャフト3の係合溝11とピン17との摺動位置が、いずれも駆動軸2の1回転毎に移動し、環状ディスク10の角速度が変化する不等速回転になる。・・・【0055】これにより、図9(B)中に一点鎖線で示す如く、駆動軸2とカムシャフト3との間で比較的大きな位相差が与えられる。また、回転位相差の最大,最小点の途中に同位相点(P点)が存在する。なお、図9(B)の特性図では、カムシャフト3が相対的に進む方向の位相差を正に、相対的に遅れる方向の位相差を負にしてある。【0056】そして、カムシャフト3が相対的に遅れ側となる領域に位置する吸気弁4の開時期は、上記位相差に伴って遅れることになる。逆に、カムシャフト3が相対的に進み側となる領域に位置する吸気弁4の閉時期は、位相差に伴って進むことになる。従って、図9(A)中に一点鎖線で示すようなバルブリフト特性が得られ、その作動角は小さくなる。」(段落【0046】〜段落【0056】) 上記記載事項a、bを、第1〜6図、第9〜10図の記載とともに看れば、引用例1には、「機関の回転に同期して回転する駆動軸2と、 この駆動軸2の外周に相対回転可能に配設され、かつ吸気弁4を駆動するカムを外周に有する円筒状の吸気側カムシャフト3と、 この吸気側カムシャフト3の端部に設けられ、かつ半径方向に沿って係合溝が形成されたフランジ部8と、 このフランジ部8に対向するように上記駆動軸2側に設けられ、かつ半径方向に沿って係合溝が形成されたフランジ部13と、 上記両フランジ部8、13の間に配設された環状ディスク10と、 この環状ディスク10の両側部に互いに反対方向に突設されて、上記両フランジ部8、13の各係合溝内に夫々係合するピン17、18と、 上記環状ディスク10を回転自在に保持するとともに、軸直角方向に沿って移動可能な制御環16と、 上記制御環16を機関運転状態に応じて移動させる駆動機構28と、 を備えた内燃機関の第1可変動弁機構1において、環状ディスク10の回転中心Yと駆動軸2の中心Xが合致する時に吸気弁の作動角が最大に、最大偏心時に上記作動角が最小となるように設定した内燃機関の第1可変動弁機構1。」の発明(以下、「引用例1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 (2)特開昭63ー1707号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。 f.「本発明は、エンジンの回転速度に応じてバルブの開角を変更することができる4サイクルエンジンのバルブ開閉機構に関するものである。」(第1頁左下欄第4〜6行) g.「カムシャフト10の外周面にバルブ開閉用カム15が回転自在に嵌合されるとともに、カムシャフト10の枢支孔13内に偏心シャフト24が回転自在に嵌挿され、偏心シャフト24の偏心軸部25の半径側に位置した4個のローラ保持窓14にローラ17が回転自在に嵌入され、このローラ17の外周に偏心カラー18が嵌合され、この偏心カラー18はバルブ開閉用カム15の係合突起16に係合されている。 さらにまたカムシャフト10の外側部に駆動カラー21が嵌合されるとともに駆動カラー21の係合突起22は偏心カラー18の狭持片20に狭持され、ピン23によって駆動カラー21はカムシャフト10に一対に結合されている。」(第3頁左上欄第6〜18行) h.「バルブ開閉用カム15のカムリフト曲線Aは第11図(当審注:前後の記載からみて、「第9図」の誤記と認められる)の実線で示されている形状であるが、別表1から明らかなように、偏心シャフト24の偏心中心25aがバルブ3より最も離れた状態では、カムシャフト10の回転角ωに比べてバルブ開閉用カム15の回転角αは大きいため、バルブ3のリフト曲線Bは第9図の一点鎖線で示されるようになり、バルブ3の開放開始時期DがD1と遅れるとともに、バルブ3の閉塞時期EがE1と早められる。」(第4頁左上欄第10〜末行) i.「偏心シャフト24の偏心中心25aがバルブ3に最も接近した状態では、カムシャフト10の回転角ωに比べてバルブ開閉用カム15の回転角αは小さいため、バルブ3のリフト曲線Cは第9図の二点鎖線で示されるようになり、バルブ3の開放開始時期DがD2と早められるとともに、バルブ3の閉塞時期EがE2と遅れる。」(第4頁左下欄第1〜8行) j.「4サイクルエンジン1の回転速度が或る一定の回転速度以下の場合には、偏心軸部25の偏心中心25aの角度βを180°に、これを超えた場合には偏心軸部25の偏心中心25aの角度βを0°に2段階に切換変更するように構成してもよい。」(第5頁左上欄第5〜10行) 4.対比 はじめに、本願発明の「吸排気弁」の意味について検討する。本願明細書の段落【0024】〜【0025】、【0038】には、「【0024】次に、上記のように構成された実施例の作用について説明する。・・・【0025】・・・吸気弁23の開弁時期は、上記位相差に伴って進むことになる。・・・吸気弁23の閉弁時期は、位相差に伴って遅れることになる。・・・【0038】尚、本発明は上記実施例の構成に限定されるものではなく、排気弁側あるいは吸気弁,排気弁の両方に適用することも可能である。」と記載されているから、本願発明の「吸排気弁」は「吸気弁」のみをも意味するものである。したがって、引用例1記載の発明の「吸気弁4」は、本願発明の「吸排気弁」に相当し、引用例1記載の発明の「吸気側カムシャフト3」は、本願発明の「カムシャフト」に相当する。 また、引用例1記載の発明の「駆動軸2」は、本願発明の「駆動軸」に相当する。以下同様に、「フランジ部8」は「(カムシャフト端部に設けられた)フランジ部」に、「フランジ部13」は「(駆動軸側に設けられた)フランジ部」に、「環状ディスク10」は「環状ディスク」に、「ピン17、18」は「ピン」に、「制御環16」は「制御環」に、「駆動機構28」は「駆動機構」に、「第1可変動弁機構1」は「吸排気弁駆動制御装置」に相当する。 したがって、本願発明と引用例1記載の発明とは、「機関の回転に同期して回転する駆動軸と、 この駆動軸の外周に相対回転可能に配設され、かつ吸排気弁を駆動するカムを外周に有する円筒状のカムシャフトと、 このカムシャフトの端部に設けられ、かつ半径方向に沿って係合溝が形成されたフランジ部と、 このフランジ部に対向するように上記駆動軸側に設けられ、かつ半径方向に沿って係合溝が形成されたフランジ部と、 上記両フランジ部の間に配設された環状ディスクと、 この環状ディスクの両側部に互いに反対方向に突設されて、上記両フランジ部の各係合溝内に夫々係合するピンと、 上記環状ディスクを回転自在に保持するとともに、軸直角方向に沿って移動可能な制御環と、 上記制御環を機関運転状態に応じて移動させる駆動機構と、 を備えた内燃機関の吸排気弁駆動制御装置。」である点で一致し、次の点で相違する。 本願発明においては、環状ディスクの一方向への最大偏心量と他方向への最大偏心量とを略同一に設定するとともに、一方向への最大偏心時に吸排気弁の作動角が最大に、他方向への最大偏心時に上記作動角が最小となるように設定しているのに対し、引用例1記載の発明では、環状ディスクの回転中心Yと駆動軸2の中心Xが合致する時に吸気弁の作動角が最大に、最大偏心時に上記作動角が最小となるように設定している点。 5.相違点の検討、及び判断 引用例2には、上記記載事項g〜j、及び、第4〜12図の記載によれば、エンジンの回転速度に応じてバルブ開角を変更する技術が記載されている。この技術は、偏心シャフト24の回転をローラ17を介して偏心カラー18の偏心に変換することにより、バルブ開角を変更するものである点で、本願発明と同一の技術分野に属するものである。ここで、上記記載事項h〜jを、第7〜9図の記載とともに看れば、偏心シャフト24の偏心中心25aが、バルブ3に対して離れる方向に最大偏心量移動するとバルブ開角が最小になり、バルブ3に対して接近する方向に最大偏心量移動するとバルブ開角が最大になる。この際に、偏心カラー18の一方向への最大偏心量と他方向への最大偏心量とは同一になるとともに、偏心シャフト24の偏心中心25aの移動にともなって、偏心カラー18は、バルブ3に対して離れる方向に最大偏心量移動するとバルブ開角が最小になり、バルブ3に対して接近する方向に最大偏心量移動するとバルブ開角が最大になることが理解される。ところで、偏心カラー18は、カムシャフト10とバルブ開閉用カム15とを不等速で連動する偏心部材と言い得るものである。してみると、引用例2には、「カムシャフトとバルブ開閉用カムとを不等速で連動する偏心部材の、一方向への最大偏心量と他方向への最大偏心量とを同一にするとともに、一方向への最大偏心時に吸排気弁の作動角が最大に、他方向への最大偏心時に上記作動角が最小となるようにする」発明が記載されていると認められる。 ところで、一般に、偏心機構によって2つの部材間に所望の変位を生ぜしめる際に、「偏心がない状態と、一方向に偏心した状態」との間で変化させるばかりではなく、「一方向に偏心した状態と、他方向に偏心した状態」との間で変化させることも、設計上当然考え得ることである。(例えば、本件の拒絶査定で周知例として挙げられた、特開平7ー34826号公報にも、環状ディスク29を上下両方向に偏心させる技術が記載されている(段落【0029】、【0032】、第2図参照)。)。 してみると、引用例1記載の発明において、偏心部材である環状ディスクの駆動に、引用例2記載の発明を適用することによって本願発明のように構成することは当業者が容易になし得ることである。 そして、本願発明によってもたらされる効果も、引用例1、2記載の発明から予測し得る程度のものである。 6.むすび したがって、本願発明は、引用例1、2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-11-26 |
結審通知日 | 2004-12-07 |
審決日 | 2005-01-04 |
出願番号 | 特願平8-97810 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 長谷川 一郎 |
特許庁審判長 |
西野 健二 |
特許庁審判官 |
飯塚 直樹 亀井 孝志 |
発明の名称 | 内燃機関の吸排気弁駆動制御装置 |
代理人 | 富岡 潔 |
代理人 | 小林 博通 |
代理人 | 橋本 剛 |
代理人 | 富岡 潔 |
代理人 | 橋本 剛 |
代理人 | 小林 博通 |