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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない F16C
審判 訂正 2項進歩性 訂正しない F16C
管理番号 1112472
審判番号 訂正2004-39051  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-08-23 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2004-03-11 
確定日 2004-09-03 
事件の表示 特許第3105507号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【一】請求の要旨
本件審判請求の要旨は、特許第3105507号(平成元年2月13日特許出願、平成12年9月1日設定登録)の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、訂正することを求めるものであって、その訂正事項は以下のとおりである。

1.訂正事項a
特許請求の範囲の記載、
「【請求項1】導管または内索の少なくとも一方の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルであって、前記亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛であるコントロールケーブル。
【請求項2】前記内索のみに亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられている請求項1記載のコントロールケーブルであって、前記亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛であるコントロールケーブル。
【請求項3】前記導管のみに亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられている請求項1記載のコントロールケーブルであって、前記亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛であるコントロールケーブル。
【請求項4】内索および導管の両方の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルであって、前記亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛であるコントロールケーブル。
【請求項5】鋼線を圧延し、巻線して形成される導管と、複数本の素線を撚り合わせて構成される内索とからなり、前記鋼線または素線のいずれか一方の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられてなるコントロールケーブルであって、
前記亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられている鋼線または素線の少なくとも一方が、アルミニウム1〜10重量%を含み、残部が亜鉛である亜鉛-アルミニウム合金メッキが施された母線から形成したものであることを特徴とするコントロールケーブル。」
を、
「【請求項1】導管および内索からなり、該内索の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルであって、
前記内索は、最終径より太い母線に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層を設け、その後所定の径まで伸線した素線を撚り合わせたものであり、かつ、前記母線の亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛であるコントロールケーブル。
【請求項2】導管および内索からなり、該導管の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルであって、
前記導管は、アウタースプリングを有しており、該アウタースプリングは、最終径より太い母線に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層を設け、その後所定の径まで伸線し、圧延し、さらに巻線して形成したものであり、かつ、前記母線の亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛であるコントロールケーブル。
【請求項3】導管および内索からなり、前記導管および内索の両方の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルであって、前記内索は、最終径より太い母線に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層を設け、その後所定の径まで伸線した素線を撚り合わせたものであり、
前記導管は、アウタースプリングを有しており、該アウタースプリングは、最終径より太い母線に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層を設け、その後所定の径まで伸線し、圧延し、さらに巻線して形成したものであり、かつ、
前記母線の亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛であるコントロールケーブル。」
と訂正する。

2.訂正事項b
明細書5頁10行〜6頁10行(当該特許公報2頁3欄49行〜4欄16行)の記載、
「本発明のコントロールケーブルは、導管または内索の少なくとも一方の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルであって、前記亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛であることを特徴としている。
前記導管がアウタスプリングを有するばあいは、亜鉛-アルミニウム合金メッキ層は鋼線が巻線される前に設けるのが好ましい。さらに好ましくは、そのアウタスプリングは最終径より太い母線に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層を設け、その後所定の径まで伸線し、圧延し、さらに巻線して形成したものである。
また内索が複数本の素線を撚り合わせて構成されているばあいは、亜鉛-アルミニウム合金メッキ層は、素線が撚り合わされる前に設けるのが好ましい。さらに好ましくは、その内索は最終径より太い母線に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層を設け、その後所定の径まで伸線した素線を撚り合わせたものであるのが好ましい。」
を、
「本発明のコントロールケーブルは、導管および内索からなり、該内索の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルであって、
前記内索は、最終径より太い母線に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層を設け、その後所定の径まで伸線した素線を撚り合わせたものであり、かつ、前記母線の亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛であることを特徴としている。
また、本発明のコントロールケーブルは、導管および内索からなり、該導管の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルであって、
前記導管は、アウタースプリングを有しており、該アウタースプリングは、最終径より太い母線に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層を設け、その後所定の径まで伸線し、圧延し、さらに巻線して形成したものであり、かつ、前記母線の亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛であることを特徴としている。
さらに、本発明のコントロールケーブルは、導管および内索からなり、前記導管および内索の両方の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルであって、前記内索は、最終径より太い母線に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層を設け、その後所定の径まで伸線した素線を撚り合わせたものであり、
前記導管は、アウタースプリングを有しており、該アウタースプリングは、最終径より太い母線に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層を設け、その後所定の径まで伸線し、圧延し、さらに巻線して形成したものであり、かつ
前記母線の亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛であることを特徴としている。」
と訂正する。

【二】当審の判断
1.訂正の目的の適否等
上記訂正事項aは具体的には次の内容のものを含んでいる。
a-1)訂正前の請求項1及び請求項5を削除し、訂正前の請求項2〜4をそれぞれ新しい請求項1〜3とする。
a-2)新請求項1及び3において、内索を、「最終径より太い母線に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層を設け、その後所定の径まで伸線した素線を撚り合わせたもの」に限定する。
a-3)新請求項2及び3において、導管を、「アウタースプリングを有しており、該アウタースプリングは、最終径より太い母線に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層を設け、その後所定の径まで伸線し、圧延し、さらに巻線して形成したもの」に限定する。
a-4)新請求項1〜3において、「1〜10重量%のアルミニウム」という含有量が「母線の亜鉛-アルミニウム合金メッキ層」に対するものであることを明示する。

上記各訂正事項の目的の適否を検討すると、訂正事項a-2及びa-3については、請求人は「明りょうでない記載の釈明」であるとして訂正請求しているが、当該事項は、各特許請求の範囲に記載された事項をさらに特定し、その構成をより限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」に該当するものと認める。
そして、訂正事項a-1は請求項を削除するものであるから、訂正事項a-1〜a-3は、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとするのが相当である。
また、訂正事項a-4は、合金中のアルミニウム含有量がどの段階でのメッキ層に対してのものか、特許請求の範囲の記載では必ずしも明りょうとはいえなかったものを明示したと解されるから、「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
さらに、上記訂正事項bは、訂正事項aの特許請求の範囲の訂正に伴い、その整合を図るものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項a-2は訂正前の明細書6頁7〜10行の記載に、a-3は同5頁17行〜6頁3行の記載に、a-4は同9頁1〜3行、12頁6〜11行及び、14頁8〜16行の記載に、それぞれ基づくものと認められ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもないものと認める。

2.独立特許要件の判断
そこで、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜3に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものかどうかについて検討するに、まず請求項1に係る発明について検討する。

(1)訂正発明
訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明」という。)は、上記訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】導管および内索からなり、該内索の表面に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が設けられているコントロールケーブルであって、
前記内索は、最終径より太い母線に亜鉛-アルミニウム合金メッキ層を設け、その後所定の径まで伸線した素線を撚り合わせたものであり、かつ、前記母線の亜鉛-アルミニウム合金メッキ層が1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛であるコントロールケーブル。」

(2)刊行物記載の発明
特開昭57-116924号公報(以下、「刊行物1」という。)
特開昭62-44563号公報(以下、「刊行物2」という。)

本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物である、上記刊行物1及び2には、それぞれ、以下の技術的事項が記載されている。

(2-1) 刊行物1:特開昭57-116924号公報
「インナーワイヤー」に関し、図面とともに、次の記載が認められる。
[1-イ]「本件発明は、細線を撚り合わして鋼索を構成するインナーワイヤーに関するものであり、製作容易且つ滑り性,耐摩耗性,耐腐食性に優れた効果を発揮するものを提供することを目的としている。」(1頁左下欄10行〜14行)
[1-ロ]「従来から製作されているインナーワイヤー等は、材料の鋼線を焼加工から伸線加工し、所望の本数を撚り合わして、斯る后に錫鍍金を施したもの,又は材料鋼線に亜鉛層を設けた后に伸線されたものを、所望の本数撚り合わせてワイヤー単体としたものに、錫の電気鍍金を施したものが知られている。」(1頁左下欄下から4行〜右下欄3行)
[1-ハ]「しかるに上記従来品は、耐腐食性,耐摩耗性及び滑り性に多くの欠点があった。即ち、従来品の前者は、伸線加工を施したものに錫鍍金を施して所望の本数を撚り合わせたものであるから、錫鍍金の表面に鍍金による多数の凹凸及びピンホールが生じて、インナーワイヤーとして使用する際には滑り性が悪いばかりでなく、耐腐食性が特に悪い欠点がある。更に従来品の后者は、伸線して所望の細線を撚り合わしてワイヤー単体を構成したものに錫の鍍金を施しているので、撚り合わした細線全体が錫層で囲繞されているので、耐腐食性にはそれなりの効果があるが、鍍金の際の凹凸及びピンホールによって、ワイヤーがアウター管の中で滑りが悪くなるとともに、伸線された細線1本1本の全周を囲繞するように鍍金されないので、錫鍍金されていない部分はピンホールからの水分の含侵によって腐食が早まる恐れがある。」(1頁右下欄4行〜2頁左上欄3行)
[1-ニ]「原材料の鋼線に亜鉛層2を電気鍍金により構成し、更にその上に錫鍍金を施して錫層3を形成するとともに、………、斯る后に所望の細さに伸線する。伸線された伸鋼線1は適宜本数を撚り合わして」(2頁左上欄7〜12行)
[1-ホ]「伸線することによって凹凸及びピンホールが完全に除去されるので極めて滑らかな滑性の大なる伸線を得ることができる。」(2頁右上欄4〜7行)
[1-ヘ]「従って、従来品は耐腐食性に大きな欠陥があったばかりでなく耐摩耗性においても欠点があったが、本発明はそれらを悉く解消し」(2頁左下欄8行〜10行)
[1-ト]「斯様に本発明は耐摩耗性,耐腐食性,滑り性,防錆性に優れた効果を発揮するインナーワイヤーを提供することができ」(2頁右下欄2行〜4行)

上記摘記事項からみて、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)及び技術事項(以下、「技術事項A」という。)が記載されているものと認める。

[引用発明]
滑り性、耐摩耗性、耐腐食性に優れたものを得ることを目的とし、材料鋼線の表面に亜鉛鍍金を施し、その上に錫鍍金を施してなるインナーワイヤーであって、鋼線に鍍金した後所定の細さに伸線して適宜本数を撚り合わしてなるインナーワイヤー。

[技術事項A]
鍍金の際に生じた鍍金の凹凸及びピンホールは、伸線することによって除去され、滑らかで滑性の大なる伸線を得ることができること

(2-2)刊行物2:特開昭62-44563号公報
「亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線の製造方法」に関し、図面とともに、次の記載が認められる。

[2-イ]「(従来の技術)
近年、亜鉛めつきよりも耐食性に優れ、且つアルミニウムめつきよりも加工性に優れた鉄鋼製品への溶融めつきとして、アルミニウム添加量約3%以上の亜鉛-アルミニウム合金浴にて亜鉛-アルミニウム合金めつきを行なう方法が開発され、一部実用化されているのは、周知の通りである。」(1頁右下欄11〜17行)
[2-ロ]「亜鉛-アルミニウム合金めつきは、同一厚さであれば亜鉛めつきより耐食性がはるかに優れていることは種々の文献によつて明らかである」(2頁左下欄8〜10行)

上記摘記事項の記載からみて、刊行物2には次の技術事項B1及びB2が開示されていると認めることができる。

[技術事項B1]
亜鉛-アルミニウム合金めっきは従来の亜鉛めっきよりも耐食性等に優れていること

[技術事項B2]
アルミニウム添加量が約3%以上の亜鉛-アルミニウム合金浴を用いて亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線を製造すること

(2)対比・判断
(2-1)上記引用発明における「インナーワイヤー」が、導管と内索とからなるコントロールケーブルの内索として用いられるものであることは明らかである。
したがって、訂正発明と引用発明とを対比すると、後者の「インナーワイヤー」は、前者におけるコントロールケーブルの「内索」に相当し、導管と内索とからなるコントロールケーブルに係るものである点で、両者は実質的に変わるものではなく、母線にメッキ層を設けた後所定の細さまで伸線、すなわち、最終径より太い母線にメッキ層を設け、その後所定の径まで伸線し、その後素線を撚り合わせたものであり、メッキ後に伸線することによって滑り性を与え、耐食性も向上させるものである点でも軌を一にしている。
そうすると、訂正発明の用語に倣うと、両者には次の一致点、相違点があるものと認める。

[一致点]
導管および内索からなり、該内索の表面にメッキ層が設けられているコントロールケーブルであって、
内索は、最終径より太い母線にメッキ層を設け、その後所定の径まで伸線した素線を撚り合わせたものであるコントロールケーブル

[相違点]
訂正発明において内索の表面に設けるメッキ層が、1〜10重量%のアルミニウムを含み、残部が亜鉛である亜鉛-アルミニウム合金メッキ層であるのに対し、引用発明のインナーワイヤー表面に設けられるめっき層は、亜鉛層を設けた後に錫鍍金を施したものである点

(2-2)上記相違点について検討するに、上記刊行物2には、「亜鉛-アルミニウム合金めっきは従来の亜鉛めっきよりも耐食性等に優れていること」や「アルミニウム添加量が約3%以上の亜鉛-アルミニウム合金浴を用いて亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼線を製造すること」等の技術的事項が開示されており(上記技術事項B1及びB2参照)、鋼線の耐食性向上のために、亜鉛めっきに代えて、アルミニウム含量約3%以上の亜鉛-アルミニウム合金めっきを施す技術が示されているものと認められる。
してみると、刊行物2記載の技術も耐食性の向上という技術的課題で共通するものであり、刊行物2に明示の記載はないが、一般的なワイヤーが鋼線を撚り合わせたものであることを勘案すると、刊行物2における鋼線の耐食性向上の技術を、引用発明のインナーワイヤーの耐食性を改善する手段として適用することが当業者にとって格別困難なこととはいえない。
また、メッキに用いる合金の組成は、当業者が必要に応じて適宜選択し得るものであって、刊行物2記載のもののアルミニウム添加量が「約3%以上」であって(上記技術事項B2参照)、訂正発明のアルミニウム含有量の範囲「1〜10重量%」と重複しているように、該「1〜10重量%」の範囲を選択することが当業者にとって困難性を伴うこととは認められない。しかも、明細書の記載から当該範囲とすることに臨界的意義を見出すことはできず、結局、要求する性質に応じて、好適範囲を選択した程度のものといわざるを得ない。
したがって、引用発明において、インナーワイヤーの表面に設けるめっき層として、亜鉛-アルミニウム合金メッキ層を採用し、上記相違点に係る訂正発明の構成とすることは、刊行物2に記載された技術を適用することによって当業者が容易になし得ることであり、合金中のアルミニウム含有量も、当業者が必要に応じて適宜採択し得る程度のものと認めるのが相当である。
してみると、訂正発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといわざるを得ない。

(2-3)請求人は、平成16年6月22日付け意見書において、刊行物1記載のものは素線を意味する鋼線同士の滑り性の向上を図っているものであって、コントロールケーブルの内索と導管との滑り性が向上することは該刊行物に記載されていない旨、該刊行物1記載のものは二重に鍍金するものであり、メッキを二重でなく施すことを教示していない旨主張する(同意見書6頁14行〜7頁5行参照)。
しかしながら、刊行物1には「上記従来品は、………インナーワイヤーとして使用する際には滑り性が悪い………」(上記摘記[1-ハ])や「本発明は………,滑り性,………に優れた効果を発揮するインナーワイヤーを提供する」(上記摘記[1-ト])との記載があり、該刊行物1は、主に、伸線を撚り合わせたものである「インナーワイヤー」としての滑り性について記載しているものと解され、摘記[1-ホ]の記載では、素線である伸線が「滑らかな滑性の大なる」ものであることを指しているとしても、その記載をもって、該刊行物全体の滑り性が素線同士の滑り性のみについて記述したものであるとすることはできない。
さらに、引用発明における滑り性の効果は、鍍金後に伸線することによって生じるものであって(上記技術事項A参照)、二重に鍍金することに起因するものとはいえず、引用発明の鍍金層を二重鍍金とせずに単層で形成することを阻害するものではない。引用発明においては、耐食性をより確実にするために2種の金属を二重に鍍金したものと解され、耐食性に優れる合金を用いる場合に、その耐食性に問題なければ、該合金1種類のみのメッキ層とすることは、当業者が適宜採用し得ることであって、二重メッキとしないことが格別の創意を要することとは認められない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

(3)結論
以上のとおり、訂正発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)先の審決との関係について
請求人は上記意見書において、本件に係る特許出願は、上記刊行物と同じ刊行物1及び2を引用して拒絶査定を受けたものであり、その拒絶査定不服審判において、それらの刊行物を前提としても、本願を拒絶すべき理由は発見できない旨の審決がされたものであって、それにもかかわらず、特許庁が、全く同じ刊行物を引用して反対の説示をすることには承服できない旨主張する(同意見書3頁23行〜6頁10行参照)。

しかしながら、特許法は、審決の効力を規定する第167条により、「何人も、特許無効審判又は延長登録無効審判の確定審決の登録があったときは、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。」と規定するのみで、査定不服審判の審決が確定したときに、訂正審判を含め、いかなる審判にも何らかの効力を有するとは規定していない。
また、特許法第137条は、「特許庁長官は、各審判事件…について前条第1項の合議体を構成すべき審判官を指定しなければならない。」(第1項)と規定し、同第136条第1項は、「審判は、3人又は5人の審判官の合議体が行う。」と規定しており、審判においては、各審判事件ごとに、特許庁長官が指定した審判合議体が、独立して審判を行うものである。
そして、査定不服審判と訂正審判とが異なる審判事件であることは明らかであり、それぞれ指定された審判合議体が独立して審判を行うのであるから、両審判において異なる結論が出されることは、法が当然に予定した範囲内のことであり、何ら不都合はないというべきである。
しかも、訂正審判の審決という行政処分に不服があれば、東京高裁に訴えを提起して、その処分の違法性を争う道も残されている。
なお、審判合議体が異なるとはいえ、進歩性の判断基準が統一されるべきものであることは請求人の主張するとおりであるが、上記のとおり、新たな合議体が、その時点における判断基準により、前になされた審決の判断を是正することに何ら違法性はないことに加え、特に、本件訂正審判は、侵害訴訟が係属中になされた審判請求であり、訂正後の発明の独立特許要件に対する特許庁の厳格な判断が求められているものである。
したがって、請求人の主張は単なる事情にすぎず、採用することができない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、本件訂正後の他の請求項に係る発明について特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうかについて検討するまでもなく、特許法第126条第5項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-07-09 
結審通知日 2004-07-12 
審決日 2004-07-23 
出願番号 特願平1-34294
審決分類 P 1 41・ 856- Z (F16C)
P 1 41・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 英隆  
特許庁審判長 船越 巧子
特許庁審判官 窪田 治彦
前田 幸雄
登録日 2000-09-01 
登録番号 特許第3105507号(P3105507)
発明の名称 コントロールケーブル  
代理人 平野 惠稔  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 八島 耕司  
代理人 畑 郁夫  
代理人 浅田 和之  

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