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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1112831
審判番号 不服2002-20167  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-08-04 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-10-17 
確定日 2005-03-09 
事件の表示 平成 9年特許願第 9295号「インクジェット記録ヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 8月 4日出願公開、特開平10-202921〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年1月22日に出願された特願平9-9295号であって、平成14年9月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月17日に拒絶査定を不服として審判請求がなされるとともに、同年11月14日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成14年11月14日付けの手続補正についての却下の決定

[補正却下の決定]
平成14年11月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]

(1)補正事項
平成14年11月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を、本件補正前の
「【請求項1】 インク吐出用ノズルおよびインク補給用インクインレットにそれぞれ連通し、内部にインクを収容するインクキャビティと、このインクキャビティ内のインクを加圧して上記ノズルより吐出させるアクチュエータとを備えたインクジェット記録ヘッドにおいて、
上記ノズルのインピーダンスに対する上記インクインレットのインピーダンスの比を0.5〜6の範囲に設定したことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】 上記インピーダンスの比が1〜5の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。」
から
「【請求項1】 インク吐出用ノズルおよびインク補給用インクインレットにそれぞれ連通し、内部にインクを収容するインクキャビティと、このインクキャビティ内のインクを加圧して上記ノズルより吐出させるアクチュエータとを備えたヘッド部を複数種有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
上記何れのヘッド部においても上記ノズルのインピーダンスに対する上記インクインレットのインピーダンスの比を0.5〜6の範囲に設定しており、その値が互いに異なることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項2】 上記何れのヘッド部においても上記インピーダンスの比が1〜5の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。」
に補正する補正事項を含むものである。なお、下線は補正箇所を示す。

(2)独立特許要件
本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、本件補正後の請求項1及び2に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2-1)本願補正発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)は次のとおりのものである。
「インク吐出用ノズルおよびインク補給用インクインレットにそれぞれ連通し、内部にインクを収容するインクキャビティと、このインクキャビティ内のインクを加圧して上記ノズルより吐出させるアクチュエータとを備えたヘッド部を複数種有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
上記何れのヘッド部においても上記ノズルのインピーダンスに対する上記インクインレットのインピーダンスの比を0.5〜6の範囲に設定しており、その値が互いに異なることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。」

(2-2)引用例に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前日本国内において頒布された刊行物である、特開平4-355142号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

ア.段落番号0010
「ノズルプレート4には圧力室6に対応してノズル孔5が配設され、圧電振動子1の振動により生じる圧力室6内の圧力により圧力室6に充填されている液体インクがノズル孔5よりインク滴として吐出し、記録紙上に印画が行なわれる。」

イ.段落番号0011〜0012
「一般にインクジェットヘッドの吐出効率は、供給エネルギーがインク滴吐出に関与する割合として表わされるものである。圧電振動子1の発生力を利用してインク吐出を行なう本実施例のインクジェットヘッドにおいては、圧力室6に及ぼされる圧力エネルギーによってインク供給路へ流出する液体インク流量と、ノズル孔5より吐出される液体インク流量との比で吐出効率が表わされる。
インク流量の比は供給路のインピーダンスとノズル孔のインピーダンスの比として表わされるもので、(ノズル孔のインピーダンス)/(供給路のインピーダンス)が小さいほど吐出効率がよい。従って、圧力室6の供給路側のインピーダンスを大きくするか、あるいは吐出側のインピーダンスを小さくするように適正な圧力室を形成することによって、吐出効率を向上させることができる。」

ウ.段落番号0017
「供給路側のインピーダンスを大きくすることは供給能力を低下させることになる」

記載事項イ.からみて「圧力室」が「ノズル孔」と「供給路」とにそれぞれ連通していることは明らかであるから、これらア.〜ウ.を含む引用例の全記載及び図示からみて、引用例には、以下の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明」という。)。
「インク滴を吐出するノズル孔および供給路にそれぞれ連通し、内部に液体インクが充填される圧力室と、この圧力室内の液体インクを加圧して上記ノズル孔より吐出させる圧電振動子と備えたインクジェットヘッドにおいて、
(ノズル孔のインピーダンス)/(供給路のインピーダンス)を小さくして吐出効率を向上させたインクジェットヘッド。」

(2-3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「インク滴を吐出するノズル孔」、「液体インク」、「内部に液体インクが充填される圧力室」、「圧電振動子」はそれぞれ本願補正発明における「インク吐出用ノズル」、「インク」、「内部にインクを収容するインクキャビティ」、「アクチュエータ」に相当する。
また、引用発明における「インクジェットヘッド」は、本願補正発明における「ヘッド部」及び「インクジェット記録ヘッド」に相当する。
さらに、本願の発明の詳細な説明における「インクキャビティへのインク補給路であるインクインレット」(段落番号0004)との記載を参酌すると、引用発明における「供給路」は本願補正発明における「インク補給用インクインレット」に相当する。

したがって、両者は、
「インク吐出用ノズルおよびインク補給用インクインレットにそれぞれ連通し、内部にインクを収容するインクキャビティと、このインクキャビティ内のインクを加圧して上記ノズルより吐出させるアクチュエータとを備えたヘッド部を有するインクジェット記録ヘッド。」
で一致し、次の点で相違する。

相違点
本願補正発明では、ヘッド部を複数種有し、いずれのヘッド部においてもノズルのインピーダンスに対するインクインレットのインピーダンスの比、すなわち(インクインレットのインピーダンス)/(ノズルのインピーダンス)を0.5〜6の範囲に設定しており、その値が互いに異なるのに対し、引用発明では、ヘッド部を複数種有することは規定されておらず、また、ヘッド部における(ノズル孔のインピーダンス)/(供給路のインピーダンス)を小さくする、言い換えれば、本願補正発明の(インクインレットのインピーダンス)/(ノズルのインピーダンス)に相当する(供給路のインピーダンス)/(ノズル孔のインピーダンス)を大きくするとしか規定されていない点。

(2-4)判断
上記相違点について以下に検討する。

インクジェット記録ヘッドにおける供給路側のインピーダンスを大きくしすぎるとインク供給能力の低下につながり、逆にノズル孔のインピーダンスを大きくしすぎると吐出されるインク滴の量が少なくなることは周知の事項(必要ならば、引用例(上記イ.及びウ.の記載)、特開平7-329292号公報(段落番号0006)参照。)であるから、(供給路のインピーダンス)/(ノズル孔のインピーダンス)が大きすぎず小さすぎず、適切な範囲内に設定されなければ安定したインク吐出状態を望めないことも当業者にとって自明のことである。
そうであれば、安定したインク吐出状態となる(供給路のインピーダンス)/(ノズル孔のインピーダンス)の範囲を決定する程度のことは、インク滴の吐出状況に関する実験結果などを参酌しつつ適宜決定し得る設計事項にすぎない。かつ、本願補正発明における0.5〜6の設定範囲が格別のものでないことは、例えば、特開昭58-5269号公報記載の発明において供給側と射出側の流路のインピーダンス比を0.3〜3の範囲に設定していることからも明らかである。
また、(インクインレットのインピーダンス)/(ノズルのインピーダンス)が互いに異なるヘッド部を複数種有することにより、各種大きさのインク滴を吐出させて多階調画像を形成することは従来周知である。その一例としては、ノズル孔の大きさを異ならせたヘッド部(当審注:ノズル孔の大きさが異なれば、ノズルのインピーダンスも異なり、インピーダンス比も異なることになる。)を複数種有するインクジェット記録ヘッドが、特開昭59-187872号公報(第2ページ右上欄4行〜同欄17行、同ページ右下欄4行〜同欄10行)参照。)に記載されている。
多階調画像を形成することはインクジェット記録ヘッドにおける自明の課題であるから、引用発明においても多階調画像を形成し得るように、ヘッド部を複数種有し、当該ヘッド部の(供給路のインピーダンス)/(ノズル孔のインピーダンス)(本願補正発明の(インクインレットのインピーダンス)/(ノズルのインピーダンス)に相当。)を互いに異ならせることは当業者であれば容易に想到できることである。
その際、全ての記録ヘッドが安定したインク吐出状態となるように、複数種の記録ヘッドの何れにおいても、(インクインレットのインピーダンス)/(ノズルのインピーダンス)を適切な範囲内に設定することは当然のことである。

上記相違点は当業者であれば容易に想到できることであり、本願補正発明の作用効果も引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであったとしても、特許法第17条の2第5項の規定で準用する同法第126条第4項に規定される独立特許要件を満たしていないものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定によって却下すべきものである。

3.本願発明について

(1)本願発明
平成14年11月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成12年9月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「インク吐出用ノズルおよびインク補給用インクインレットにそれぞれ連通し、内部にインクを収容するインクキャビティと、このインクキャビティ内のインクを加圧して上記ノズルより吐出させるアクチュエータとを備えたインクジェット記録ヘッドにおいて、
上記ノズルのインピーダンスに対する上記インクインレットのインピーダンスの比を0.5〜6の範囲に設定したことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。」

(2)本願発明の進歩性
本願発明と引用発明とは、「2.(2-3)」で述べたところからみて、「インク吐出用ノズルおよびインク補給用インクインレットにそれぞれ連通し、内部にインクを収容するインクキャビティと、このインクキャビティ内のインクを加圧して上記ノズルより吐出させるアクチュエータとを備えたインクジェット記録ヘッド。」で一致し、以下の点で相違する。

相違点
本願発明では、(インクインレットのインピーダンス)/(ノズルのインピーダンス)を0.5〜6の範囲に設定しているのに対し、引用発明では、本願発明の(インクインレットのインピーダンス)/(ノズルのインピーダンス)に相当する(供給路のインピーダンス)/(ノズル孔のインピーダンス)を大きくするとしか規定されていない点。

そして、この相違点については設計事項であること、および本願発明の作用効果も当業者が予測できる範囲のものであることは「2.(2-4)」で述べたとおりである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
本願発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-12-17 
結審通知日 2005-01-04 
審決日 2005-01-17 
出願番号 特願平9-9295
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大元 修二後藤 時男  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 藤井 靖子
谷山 稔男
発明の名称 インクジェット記録ヘッド  

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