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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1112885
異議申立番号 異議2003-72215  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-12-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-09-03 
確定日 2004-12-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3383359号「位相差膜の製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3383359号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3383359号の請求項1に係る発明は、平成5年5月31日に特許出願され、平成14年12月20日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人 高良尚志、平野周子、千野肇、山田敬子により特許異議の申立てがなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成16年3月22日に訂正請求がなされ、同年6月10日付の訂正拒絶理由通知に対し、同年8月24日付で手続補正がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は以下のa〜bのとおりである。
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1を
「光学異方性の熱可塑性高分子フイルムを延伸して作る位相差膜の製造方法において、前記熱可塑性高分子フイルムを一軸延伸し、所定の平面複屈折率を得た後、そのフイルムの実質的直交方向に一軸延伸し、平面内の屈折率を実質的に長手方向の屈折率≒幅方向の屈折率の関係となし、且つ厚み方向の屈折率を異ならせるように延伸温度及び延伸率を制御することを特徴とする位相差膜の製造方法。」から「光学異方性の熱可塑性高分子フイルムを延伸して作る位相差膜の製造方法において、前記熱可塑性高分子フイルムを一軸延伸し、所定の平面複屈折率を得た後、そのフイルムの実質的直交方向に最初の延伸率より25%以上大きい延伸率で一軸延伸し、平面内の屈折率を実質的に長手方向の屈折率≒幅方向の屈折率の関係で、
223.7≦(|ReZ *| =|△n* ・d|)≦1491
ここで、△n* ≡|{nMD or nTD or(nMD+nTD)/2}-nZ|
d;べースの厚さ,
(ただし、nMDは長手方向の屈折率、nTDは横方向の屈折率、nZは厚み方向の屈折率)
の値になるように延伸温度を制御して延伸することを特徴とする位相差膜の製造方法。」と訂正する。

訂正事項b
請求項1の訂正に対応して明細書第【0005】段を訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、長手方向と横方向の屈折率の関係を限定し、3軸屈折率と厚さの関係を表現上限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、それら訂正のいずれについても新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

上記訂正事項bは、特許請求の範囲の訂正に伴って訂正するもので、不明りょうな記載の釈明に相当し、また、それら訂正のいずれについても新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116条による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについての判断
(1)特許異議申立ての理由、及び当審における取消理由の概要
(1)-1特許異議申立人 高良尚志は、請求項1に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定により、当該特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(1)-2特許異議申立人 平野周子は、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、また甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定により、当該特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(1)-3特許異議申立人 千野肇は、請求項1に係る発明は、甲第1号証あるいは甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、また甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定により、当該特許は取り消されるべきものである旨、および特許請求の範囲、及び発明の詳細な説明の記載に不備があり、特許法第36条第4項及び第5項の規定により、当該特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(1)-4特許異議申立人 山田敬子は、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、また甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定により、当該特許は取り消されるべきものである旨、および特許請求の範囲、及び発明の詳細な説明の記載に不備があり、特許法第36条第4項及び第5項の規定により、当該特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(1)-5当審の取消理由は、請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、また引用例1〜11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定により、当該特許は取り消されるべきものである旨、および特許請求の範囲、及び発明の詳細な説明の記載に不備があり、特許法第36条第4項及び第5項の規定により、当該特許は取り消されるべきものであるというものである。
引用例1〜11は、以下のとおりである。
証拠一覧
(1)引用例1(平野、千野、及び山田甲第1号証);特開平2-264905号公報
(2)引用例2(平野甲第2号証);特開平3-235902号公報
(3)引用例3(平野甲第3号証);特開平4-204503号公報
(4)引用例4(千野甲第2号証);実験報告書
(5)引用例5(千野甲第3号証);特公昭53-11228号公報
(6)引用例6(山田甲第2号証);特開平2-256003号公報
(7)引用例7(山田甲第3号証);特開平4-284403号公報
(8)引用例8(山田甲第4号証);特開平3-21902号公報
(9)引用例9(山田甲第5号証);特開平2-89007号公報
(10)引用例10(高良甲第1号証);特開平2-242225号公報
(11)引用例11(高良甲第2号証);日本レオロジー学会誌Vol.19、第89頁〜第92頁(1991)

(2)本件発明
上記2.で示したとおり、上記訂正は認められるから、請求項1に係る発明は、上記「2.(1)訂正の内容」の訂正事項aに記載されたとおりのものである。
請求項1に係る発明を、以下「本件発明」という。

(3)刊行物記載の発明
当審が通知した取消しの理由に引用された引用例1である刊行物(特開平2-264905号公報)には次の事項が記載されている。
ア.延伸することにより正の複屈折性を示す屈折率異方体を形成する高分子フィルムを二軸延伸することを特徴とする光学補償板の製造方法(公報第1頁左下欄「特許請求の範囲」)

イ.[実施例]第1図(a)〜(b)は、本発明の光学補償板を製造する方法を示す図である。製造方法は、まず第1図(a)に示すように透明な高分子フィルム11を170℃に加熱した状態で0.5mm/secの速度で図中12に示す方向に延伸した。高分子フィルムとしてここでは住友化学工業社製の膜厚110μmのポリカーボネイトフィルムを用いた。ポリカーボネイトは延伸すると延伸方向に正の複屈折性を示す屈折率異方体13を形成した。次に第1図(b)に示すように、この高分子フィルムを170℃に加熱しながら最初の延伸方向と直角の方向に0.5mm/secの速度で延伸した。ポリカーボネイトフィルムの屈折率異方体13(「3」は、誤記と認める。)は2度目の延伸により延伸方向の屈折率が大きくなり延伸方向と直角方向と同程度の屈折率になった。このため、この2回の延伸によりポリカーボネイトフィルムは延伸方向と垂直な方向(すなわちフィルム面と垂直な方向)に媒体の異常屈折率を含む負の一軸性光学的異方体になった。このようにして得られた光学補償板フィルム面に垂直な方向の屈折率N3e=1.5832、フィルム面に水平な方向の屈折率N1o=1.5953、N2o=1.5948であった。(公報第2頁右上蘭8行〜左下欄13行)

引用例1のポリカーボネイトフィルムは、本件発明の実施例1のものと同じであり、熱可塑性の高分子フィルムであることは明らかである。

したがって、引用例1には、「光学異方性の熱可塑性高分子フイルムを延伸して作る光学補償板の製造方法において、前記熱可塑性高分子フイルム11を170℃に加熱した状態で一軸延伸し、所定の平面複屈折率を得た後、そのフイルムを170℃に加熱しながら最初の延伸方向と直角の方向に延伸し、最初の延伸方向とこれに直角方向の屈折率を同程度とし、フィルム面と垂直な方向に媒体の異常屈折率を含む負の一軸性光学的異方体とし、3軸の屈折率が光学補償板フィルム面に垂直な方向の屈折率N3e=1.5832、フィルム面に水平な方向の屈折率N1o=1.5953、N2o=1.5948であるようにする光学補償板の製造方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

また、当審が通知した取消しの理由に引用された引用例11である刊行物(日本レオロジー学会誌Vol.19、第89頁〜第92頁(1991))には次の事項が記載されている。
ウ.PETのように光学的正の複屈折率を示すフィルムでは、三つの主屈折率α、β、γのうちβとγはフィルムの面内にあって直交し、γは分子配向の平均の方向と一致する。また、αはフィルム面に垂直にある。(89頁左下蘭15〜20行)

エ.1軸延伸フィルムでは、光軸はフィルム面内に1本あり、その方向は延伸方向に一致している(Fig2a)。これを1軸延伸方向と直角方向に延伸すると、横延伸方向と直角面内に、フィルム面を挟んで対称的に2本の光軸が現れ(Fig2b)、さらに横延伸を進めると、これら2本の光軸はフィルム面上で立ち上がる(Fig2c)。光学的に縦横のバランスが取れたところで、2本の光軸はフィルムの法線と合致して1本となる(Fig2d)。この状態を境にして、γの方向は1軸延伸の方向から横延伸の方向に変わる。さらに横延伸をかけると、光軸は横延伸の方向を含み、かつフィルム面に直角面内で再び2本に別れ、光軸角は大きくなる(Fig2e,2f)。(90頁左蘭「2・3実験」の蘭4〜10行)

オ.光学的に正の物質の縦1軸延伸フィルムは、フィルム面内に1本の光軸を持ったフットボール状の屈折率楕円体であるが、それを配向方向と直角に延伸すると、光軸はフィルム面を挟んで、その面を対称に2本の光軸に分かれる。丁度、縦横のバランスが取れるところでは、光軸は1本になり、蜜柑タイプの屈折率楕円体になる。(91頁右蘭「4.結論」の蘭1〜6行)

また、当審が通知した取消しの理由に引用された引用例9である刊行物(特開平2-89007号公報)には次の事項が記載されている。
カ.実質的に無配向の高分子フィルムをフィルムのガラス転移温度乃至ガラス転移温度より30℃高い温度の範囲から選択される温度下に一軸方向に延伸して作ることを特徴とする位相差フィルムの製造法。(公報第1頁左下欄「特許請求の範囲(2)」)

(4)本件発明の特許について
上記認定事項から、引用発明における「光学補償板」、「最初の延伸方向の屈折率」、「これに直角方向の屈折率」、「フィルム面に垂直な方向の屈折率」は、それぞれ本件発明の「位相差膜」、「長手方向の屈折率」、「横方向の屈折率」、「厚み方向の屈折率」に相当する。

そして、引用発明、及び本件発明において、厚み方向の屈折率が、実質的に等しい長手方向、及び横方向の屈折率と異なっていることは明らかである。

したがって、両者は、「光学異方性の熱可塑性高分子フイルムを延伸して作る位相差膜の製造方法において、前記熱可塑性高分子フイルムを一軸延伸し、所定の平面複屈折率を得た後、そのフイルムの実質的直交方向に一軸延伸し、平面内の屈折率を実質的に長手方向の屈折率≒幅方向の屈折率の関係で、厚み方向の屈折率が、実質的に等しい長手方向、及び横方向の屈折率と異なるように延伸することを特徴とする位相差膜の製造方法。」である点で一致し、以下の3点で相違する。

相違点1;本件発明は、順次2軸延伸を行うのに、後の延伸率を最初の延伸率より25%以上大きい延伸率としたのに対して、引用発明では、その点の記載がない点。

相違点2;本件発明は、3軸方向の屈折率と、べースの厚さとから定まる垂直方向の複屈折率|ReZ *|が、特定の数値範囲となるのに対して、引用発明では、その点の記載がない点。

相違点3;本件発明は、延伸温度を制御して延伸するのに対し、引用発明では、その点の記載がない点。

以下、相違点について検討する。
相違点1;一軸延伸した後、その方向と直角な方向に延伸すると、本件発明と同様、フィルム面内の2軸の屈折率が等しく、フィルム面の厚さ方向の屈折率がそれらの値と異なる、3軸方向の屈折率を有するようになることは、引用例11の上記記載、及びFig2等からも明らかであり、引用発明では、本件発明と同様の3軸方向の屈折率が得られているので、そのような3軸方向の屈折率を得るためにどの程度の延伸率とするかは、当業者が数値の最適化を図る中で適宜決定し得る設計事項である。
本件発明で「25%以上」と限定しているが、実施例は、縦12%、横25%で倍率約208%の一つのみであり、さらに実施例では、縦横延伸時の延伸温度を165℃(実施例2では、105℃)の同じ温度で行った場合であり、温度限定もない、実施例の数値とも大きくかけ離れた「25%以上」に臨界的意義のないことも明らかであり、単にそのように限定することは、当業者にとって困難性はない。

相違点2;相違点2の、垂直方向の複屈折率|ReZ *|の数値範囲が、実施例1の3軸方向の屈折率の値と、使用可能な材料フィルム30μm〜200μmの厚みに、実施例1の縦12%、横25%の延伸率で延伸したときの減少率0.71を掛けた21.3μm〜142μmとから求められたことは、特許権者の説明から明らかである。特許請求の範囲に記載された|ReZ *|の定義では、3軸方向の屈折率から求まる「△n* 」とベースの厚さ「d」との積であると理解されるところ、実際は、一実施例の3軸方向の屈折率と延伸率、及び材料フィルムの厚さの範囲から求められたもので、実施例の値が異なれば、上下両端の数値範囲の値も変わるもので、これらの数値範囲に格別な技術的意味のないことは明らかである。
引用発明の材料フィルムも膜厚110μmのポリカーボネイトフィルムを用いており、本件発明の範囲に含まれるものであり、30μm〜200μmの範囲に格別技術的意義があるともいえない。このことは、実施例1,2のいずれにも膜厚の記載がないことからも推認できる。
また、ベースの厚さをその程度とすることは、従来周知(特開平4-56802号公報)の技術事項でもある。該周知例の第3頁左上蘭に「位相差板、ないし視角補償板における延伸フィルムの厚さは、5〜500μmが一般的であるが、補償すべき位相差等に応じて適宜な厚さとしてよい。」と記載されている。
以上のことから、垂直方向の複屈折率|ReZ *|の数値範囲に臨界的意義のないことは明らかであり、単にそのように限定することは、当業者にとって困難性はない。

相違点3;延伸温度を制御して延伸する点は、引用例9(上記記載事項カ.参照)に記載されている。引用例9のものは、一軸延伸にかかるものであるが、本件発明のように二軸延伸のものにおいても、延伸温度を制御して延伸することは、当業者であれば容易に想到し得る点である。
また、引用発明においても、本件実施例1の材料であるポリカーボネイトフィルムを用い、本件実施例の165℃に対し、170℃に加熱した状態で延伸しているのであるから、実質的に延伸温度を制御して延伸しているといえる。

本件発明の効果も、引用例1、11、9に記載された発明、及び従来周知の技術事項から、予測し得る程度のものである。

したがって、本件発明は、引用例1、11、9に記載された発明、及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
位相差膜の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 光学異方性の熱可塑性高分子フイルムを延伸して作る位相差膜の製造方法において、前記熱可塑性高分子フイルムを一軸延伸し、所定の平面複屈折率を得た後、そのフイルムの実質的直交方向に最初の延伸率より25%以上大きい延伸率で一軸延伸し、平面内の屈折率を実質的に長手方向の屈折率≒幅方向の屈折率の関係で、
223.7≦(|ReZ*|=|Δn*・d|)≦1491
ここで、Δn*≡|{nMD or nTD or(nMD+nTD)/2}-nZ|
d;ベースの厚さ,
(ただし、nMDは長手方向の屈折率、nTDは横方向の屈折率、nZは厚み方向の屈折率)
の値になるように延伸温度を制御して延伸することを特徴とする位相差膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、液晶表示装置の視覚特性やコントラストなどの視認性改良のために使用されている、位相差膜(色補償板)の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
本来、位相差膜(色補償板)は異方性フィルムを一軸延伸して平面内の配向を大きくして平面内の複屈折を持たせる方法がとられている。その方法として、ロール間引張り延伸方法、ロール間圧縮延伸法、テンター横一軸延伸法などが紹介されている。(特開平3-33719号公報参照)
又場合によっては、フィルムの強度の関係で、異方性を持つような条件で二軸延伸することによって得ている。(特開平3-24502号公報参照)
更に又、一軸延伸高分子フィルムと二軸延伸高分子フィルムとを併用する液晶表示装置が開示されている(特開平4-194820号公報参照)
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、以上のような方法によって得られた位相差膜は、図1に示すように三軸の屈折率をnMD(長手方向)、nTD(横方向)、nZ(厚み方向)とし、長手方向に延伸した時、nMD>nTD≧nz又はnMD<nTD≦nzさらに条件によっては、|(nMD-nTD)/(nZ-nTD)|<1になる。
一方垂直方向の屈折率が平面内の屈折率と大きく異なるような液晶表示装置(例えば、ホメオトロピック液晶)において、表示の視認性を改良することは、表示装置の品質向上から考えて好ましい。
しかし、この場合は、上記のSTN液晶に使用されている色補償板である位相差膜、すなわち平面内の二軸の複屈折を利用した位相差膜では改善できなかった。
【0004】
本発明の目的は垂直方向に屈折率が大きく異なるようなホメオトロピック液晶表示装置用の位相差膜の製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段及び作用】
本発明の上記目的は
光学異方性の熱可塑性高分子フイルムを延伸して作る位相差膜の製造方法において、前記熱可塑性高分子フイルムを一軸延伸し、所定の平面複屈折率を得た後、そのフイルムの実質的直交方向に最初の延伸率より25%以上大きい延伸率で一軸延伸し、平面内の屈折率を実質的に長手方向の屈折率≒幅方向の屈折率の関係で、
223.7≦(|ReZ*=|Δn*・d|)≦1491
ここで、Δn*≡|{nMD or nTD or(nMD+nTD)/2}-nZ|
d;ベースの厚さ,
(ただし、nMDは長手方向の屈折率、nTDは横方向の屈折率、nZは厚み方向の屈折率)
の値になるように延伸温度を制御して延伸することを特徴とする位相差膜の製造方法。
によって達成される。
【0006】
本発明において、平面に対し垂直方向の屈折率が水平方向の屈折率と異なる液晶の補償板としては、液晶自体が垂直方向と平面方向で屈折率差が大きいことから、これを補償することが必要である。例えば、液晶表示板の三軸の屈折率が実質nMD≒nTD<nZの場合、位相差膜(補償板)としては逆のもの、即ち実質(nMD≒nTD>nZものを使用することになる。
また、その調整方法は液晶の構成にもよるが、垂直方向の複屈折率Rez*として
ReZ*=Δn*・d と定義する。
ここで、Δn*≡|{nMD or nTD or(nMD+nTD)/2}-nZ|
d;ベースの厚さ,
ここで、液晶パネルと位相差膜のReZ*を実質的に合わせることがよい。又位相差膜を複数枚使用してReZ*を調整することも可能である。
本発明において延伸温度及び延伸率を制御するということは、異方性の熱可塑性高分子フィルムを一軸延伸し、所定の複屈折率値を得た後、そのフイルムの実質的直交方向に一軸延伸し、平面内の屈折率nMD,nTDを実質nMD≒nTDとする。延伸方法としては、例えば第一次延伸はロール間引っ張り延伸とし、第二次延伸は横一軸テンター延伸を用いる。その際延伸温度と延伸率を制御する。
延伸温度としては(Tg-5℃)〜(Tg+40℃)、好ましくはTg〜(Tg+25℃)である。延伸温度がより高すぎると熱緩和が生じ、リターデイションが出にくくなり、より低すぎると延伸ムラが発生する。
又、延伸率としては、横一軸延伸は縦一軸延伸より延伸倍率を上げる必要がある。延伸温度が同じ場合には、少なくとも横一軸延伸率を縦一軸延伸率に比較して25%以上大きくすることが必要である。
又、垂直方向のリターデイションの為にはフイルムの厚みは30μm〜200μm,好ましくは40μm〜90μmのものが使用される。
延伸順序としては、この逆の順なども考えられる。さらに、同時二軸延伸法も効率的である。しかし、複屈折の発現のための制御が難しいと推定される。
本発明においてnMD≒nTD>nZ,又はnMD≒nTD<nZの不等号の向きは、熱可塑性樹脂の固有複屈折率の値によって決まる。ポリカーボネイト樹脂などは、固有複屈折率が正の材料で、ポリカーボネイト樹脂の他には、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、セルロースジアセテート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂などがあり、一方負の材料としては、ポリスチレン系樹脂の他に、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂などがある。
又、実質的に、nMD≒nTDとは、nMDとnTDの複屈折率Δn=|nMD-nTD|が0.0020以下、好ましくは0.0015以下のことをいう。
【0007】
本発明において用いられる位相差膜用の原反フィルムの製膜方法は公知の方法が使用できる。すなわち、溶剤キャスト法(溶液流延法)、カレンダー加工法、または押出加工法がある。平面性及び光学的均一性を考えた場合、溶液流延法が優れていると言われているが、目的に合う原反フィルムが得られれば特に限定されるものではない。
原反フィルムを位相差膜にするには、一般に知られている方法である一軸方向に適度に延伸することによって製造される。その方法としては、ロール間引張り延伸方法、ロール間圧縮延伸法、テンター横一軸延伸法等公知の方法を適用することが出来る。
位相差膜用熱可塑性樹脂として用いられる異方性高分子フイルムとしては、ポリメチルメタクリレート、メタクリ酸メチル共重合体等のポリ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリスチレン、スチレンを主成分とし他のエチレン系コモノマーを共重合させて得られるスチレン共重合体等のポリスチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル共重合体等のアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル共重合体等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等のポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン共重合体、プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフン、フッ素系樹脂、セルロースジアセテート樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等およびこれらの変性物、およびこれらの樹脂に高分子液晶または低分子液晶等の透明な低分子化合物または透明な無機化合物をブレンドしたものから選ばれる少なくとも1種以上の樹脂材料が上げられる。
【0008】
【実施例】
本発明を実施例により説明する。但し本発明は本実施例のみに限られるものではない。
(実施例-1)
位相差膜熱可塑性樹脂として溶液流延法で作ったポリカーボネイト樹脂フィルムを用い、165℃の延伸温度でロール間引張り延伸方法で約12%の第1次延伸を行い位相差膜を作った。このフィルムの屈折率をアッベ屈折率計で測定したところ
nMD=1.5886, nTD=1.5845, nZ=1.5844
で、 nMD>nTD≒nZ
となっていることが分かる。
このフィルムを次工程でテンター横一軸延伸法を用い、延伸温度165℃で約25%の第2次の延伸を行なった。位相差膜の屈折率を測定したところ、
nMD=1.5894, nRD=1.5892, nZ=1.5788
となり所望する nMD≒nTD>nz
のフィルムが得られた。
このフィルムをホメオトロピック液晶表示板に設置したところ表示の視認性が向上した。
【0009】
(実施例-2)
次に、熱可塑性樹脂としてポリスチレン系樹脂フィルムを用いて、上と同様の方法で延伸した。但し延伸温度を105℃とした。
引っ張り延伸法で、適宜に延伸した結果屈折率は
nMD=1.5892, nTD=1.5932, nZ=1.5931
となり、次に横一軸延伸によって第2次延伸をしたところ屈折率は次のようになった。
nMD=1.5885, nTD=1.5884, nZ=1.5986
となり、ポリカーボネイト樹脂フィルムとは逆に
nMD≒nTD<nZ
のフィルムが得られた。
【0010】
【発明の効果】
本発明の位相差膜の製造方法により、STN液晶表示装置以外の液晶表示板、例えばホメオトロピック液晶、ノーマルホワイト型TFT液晶などに合わせた補償板、即ち厚み方向に見掛けの位相差をもつフィルムを導入することにより表示装置の視認性を上げることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【図1】
位相差膜(補償板)の3軸の屈折率の関係を表した斜視図。
【符号の説明】
nMD 長手方向の屈折率
nTD 巾方向の屈折率
nZ 厚み方向の屈折率
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-10-12 
出願番号 特願平5-149782
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (G02B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 瀬川 勝久
辻 徹二
登録日 2002-12-20 
登録番号 特許第3383359号(P3383359)
権利者 富士写真フイルム株式会社
発明の名称 位相差膜の製造方法  
代理人 高松 猛  
代理人 市川 利光  
代理人 本多 弘徳  
代理人 栗宇 百合子  
代理人 市川 利光  
代理人 本多 弘徳  
代理人 高松 猛  
代理人 栗宇 百合子  
代理人 小栗 昌平  
代理人 小栗 昌平  

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