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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01S |
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管理番号 | 1112909 |
異議申立番号 | 異議2002-72222 |
総通号数 | 64 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-09-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-09-11 |
確定日 | 2004-11-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3265173号「固体レーザ装置」の請求項1ないし14に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3265173号の請求項1、2、6、7、9、10に係る特許を取り消す。 同請求項3ないし5、8、11ないし14に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3265173号に係る発明についての出願は、平成7年12月18日(国内優先権主張:平成7年1月10日)に特許出願され、平成13年12月28日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人伊東健二より特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年1月15日に訂正請求がなされ、それに対して再度取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年12月8日に、平成15年1月15日付けの訂正請求を取り下げるとともに、新たに訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 ア.訂正の内容 1)特許請求の範囲の請求項1において、「前記励起手段は、前記固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、かつ、前記レーザ光学手段は、」とあるのを、「前記励起手段は、前記固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、前記レーザ光学手段は、異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するとともに、」と訂正し、「前記固体素子の直径と前記固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたレーザ共振器であること」とあるのを、「前記レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、前記固体素子の直径と前記固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたレーザ共振器であること」と訂正する。 2)特許請求の範囲の請求項11において、「前記励起手段は、前記固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、かつ、前記レーザ共振器は、」とあるのを、「前記励起手段は、前記固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、前記レーザ共振器は、異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するとともに、」と訂正し、「前記固体素子の直径と前記固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたものであること」とあるのを、「前記レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、前記固体素子の直径と前記固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたものであること」と訂正する。 3)明細書の段落【0006】において、「励起手段が、固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、かつ、レーザ光学手段が、」とあるのを、「励起手段が、固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、レーザ光学手段が、異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するとともに、」と訂正し、「固体素子の直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたレーザ共振器である」とあるのを、「レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、固体素子の直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたレーザ共振器である」と訂正する。 4)明細書の段落【0016】において、「励起手段が、固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、かつ、レーザ共振器が、」とあるのを、「励起手段が、固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、レーザ光学手段が、異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するとともに、」と訂正し、「固体素子の直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたものである」とあるのを、「レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、固体素子の直径と前記固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたものである」と訂正する。 5)明細書の段落【0112】において、「励起手段が、固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、かつ、レーザ光学手段が、」とあるのを、「励起手段が、固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、レーザ光学手段が、異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するとともに、」と訂正し、「固体素子の直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたレーザ共振器である」とあるのを、「レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、固体素子の直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたレーザ共振器である」と訂正する。 6)明細書の段落【0122】において、「励起手段が、固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、かつ、レーザ共振器が、」とあるのを、「励起手段が、固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、かつ、レーザ共振器が、異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するとともに、」と訂正し、「固体素子の直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたものである」とあるのを、「レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、固体素子の直径と前記固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたものである」と訂正する。 イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正事項1)は、明細書の段落【0029】〜【0037】の記載基づいて、レーザービームが「異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生する」と限定し、また、「前記レーザビームの横モード次数が10以上100以下」であるようにするとの限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 上記訂正事項2)は、明細書の段落【0029】〜【0037】の記載基づいて、レーザ共振器が「異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生する」と限定し、また、「前記レーザビームの横モード次数が10以上100以下」であるようにするとの限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 上記訂正事項3)〜6)は、訂正事項1)、2)による請求項1及び11の訂正との整合を図るために、明細書の段落【0029】〜【0037】の記載基づいて、明細書の段落【006】、【0016】、【0112】、【0122】をそれぞれ訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 ウ.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項の規定及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて ア.本件発明 本件特許第3265173号の請求項1〜14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明14」という)は、平成15年12月8日付けで提出された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜14に各々記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 それぞれ活性固体媒質を含み光軸上に互いに離隔して設けられた複数の固体素子と、前記固体素子を励起する励起手段と、前記複数の固体素子のいずれか二つの固体素子間の光軸上に設けられ入射するレーザビームの偏光を回転する偏光回転手段と、前記固体素子で発生したレーザビームを取り出すレーザ光学手段とを備え、前記励起手段は、前記固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、前記レーザ光学手段は、異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するとともに、前記レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、前記固体素子の直径と前記固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたレーザ共振器であることを特徴とする固体レーザ装置。 【請求項2】 偏光回転手段は、入射したレーザビームが一度通過する間に該レーザビームの偏光を総和で約90度回転する少なくとも一つの偏光旋光子を含むことを特徴とする請求項1記載の固体レーザ装置。 【請求項3】 偏光回転手段と該偏光回転手段に入射するレーザビームの光軸とのなす角度を調節する角度調節手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の固体レーザ装置。 【請求項4】 複数の固体素子のいずれか二つの固体素子間の光軸上に設けられ入射するレーザビームの光軸位置を補正する光軸補正手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の固体レーザ装置。 【請求項5】 光軸補正手段はくさび状部材であることを特徴とする請求項4記載の固体レーザ装置。 【請求項6】 少なくとも一つの固体素子の端部を上下左右方向に移動させる移動手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の固体レーザ装置。 【請求項7】 固体素子で発生したレーザビームの波長を変換する波長変換手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の固体レーザ装置。 【請求項8】 波長変換手段の断面の熱変形分布形状が前記固体素子の断面内の熱変形分布形状と相似であるように前記波長変換手段の温度を制御する温度制御手段を備えたことを特徴とする請求項7記載の固体レーザ装置。 【請求項9】 集光器の拡散反射面の断面形状は楕円であり、複数の固体素子の活性固体媒質のそれぞれは楕円形状の前記集光器の第一の共焦点に配置され、励起手段は楕円形状の前記集光器の第二の共焦点に配置された励起光源を具備することを特徴とする請求項1記載の固体レーザ装置。 【請求項10】 少なくとも複数の固体素子、励起手段、及び偏光回転手段が一体に設けられる基台を具備することを特徴とする請求項1または請求項2記載の固体レーザ装置。 【請求項11】 それぞれ活性固体媒質を含み光軸上に互いに離隔して設けられた複数の固体素子、前記固体素子を励起する励起手段、及び、前記複数の固体素子のいずれか二つの固体素子間の光軸上に設けられ入射するレーザビームの偏光を回転する偏光回転手段をそれぞれ具備する複数の励起モジュールと、前記複数の励起モジュールのそれぞれの前記固体素子内の長手方向におけるレーザビーム外形形状の軌跡が互いに同一になるように前記複数の励起モジュールを光学的に連結する連結光学手段と、前記励起モジュールで発生したレーザビームを取り出すレーザ共振器とを備え、前記励起手段は、前記固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、かつ、前記レーザ共振器は、異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するとともに、前記レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、前記固体素子の直径と前記固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたものであることを特徴とする固体レーザ装置。 【請求項12】 偏光回転手段は、入射したレーザビームが一度通過する間に該レーザビームの偏光を総和で約90度回転する少なくとも一つの偏光旋光子を含むことを特徴とする請求項11記載の固体レーザ装置。 【請求項13】 複数の励起モジュールのいずれか一つはレーザ発振器であり、他の励起モジュールはレーザ増幅器であることを特徴とする請求項11または請求項12記載の固体レーザ装置。 【請求項14】 複数の励起モジュールのそれぞれは、該励起モジュールが一体に設けられるモジュール基台を具備することを特徴とする請求項11または請求項12記載の固体レーザ装置。」 イ.申立ての理由の概要 特許異議申立人伊東健二は、甲第1〜9号証を提出して、訂正前の本件特許の請求項1〜14に記載された発明は、甲第1〜9号証刊行物に各々記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は取り消されるべきものである旨主張する。 ウ.刊行物に記載の発明 特許異議申立人伊東健二が提出した甲第1〜9号証刊行物には、それぞれ次のような記載がある。 a.特開平6-224524号公報(申立人提出の甲第1号証、以下、「刊行物1」という) 「励起光を発生するレーザ媒質と、該レーザ媒質を励起する励起源と、該励起源により励起されたレーザ媒質からレーザビームを取り出すレーザ光学系とを有するレーザ装置において、前記励起源は、光源と、内面が光源から投光された光を反射する反射面で形成された集光器とを含み、前記レーザ媒質は、互いに同軸上に連結された状態で前記集光器内に設けられるとともに、両端部が前記集光器に形成された貫通孔を介して前記レーザ光学系に臨み、前記光源から投光された光で励起されて励起光を発生する複数の固体素子からなることを特徴とするレーザ装置。」(特許請求の範囲請求項1) 「【0073】 【実施例】実施例1.以下、この発明の一実施例を図について説明する。図1はこの発明の第1の実施例を示す断面図であり、従来技術である図29〜図32の相当部分には同符号を付してその説明を省略する。図1において、61は光源4からの光を反射する材質、例えば白色セラミックから形成される連結部材であり、断面円形状の2本の固体素子3,3をそれらの対向する端部間を同軸上に連結可能なスリーブ状の部材にて形成されている。本実施例における固体素子3,3は、容易に入手できる例えば長さ150mmのNd:YAG(ネオジウム含有イットリウム-アルミニュウム-ガーネット)が適用されている。連結部材61にて同軸上に連結された固体素子3,3は、その両端部が集光器6の貫通孔81,81を介して全反射ミラー1または部分反射ミラー2に臨むように配置されている。本実施例の集光器6は、内面が例えば白色セラミックなどの反射体にて形成されており、反射された光が固体素子3,3に集中しない拡散型反射面を形成している。 【0074】次に動作について説明する。まず、図示しない電源5のスイッチがオンとされると、光源4が点灯する。電源5によって点灯された光源4から光が投光され、投光された光は、直接もしくは集光器6内にて反射した後に間接的に固体素子3に導かれる。固体素子3に導かれた光の一部は固体素子3に吸収され、固体素子3の活性媒質を励起して励起光が発生される。レーザ媒質より発生された自然放出光は全反射ミラー1と部分反射ミーラ(註:「ミラー」の誤記)2にて構成される共振器間を往復する間に増幅されて、所定以上の大きさに達すると指向性の良いレーザビーム70として外部に放出される。」(段落【0073】〜【0074】) 「【0081】実施例2.図4はこの発明の第2の実施例を示す断面図であって、レーザ共振器内の固体素子3と部分反射ミラー2との間に、例えばブリュースター板から成る偏光選択素子90が設けられ、連結部材61内に波長板91(または旋光板)が設けられた実施例が示されている。また、本実施例における固体素子3は、活性固体媒質としてNdがドープされたYLF(YLiF4:リチウム・イットリウム・フロライド)が適用されている。 【0082】次に動作について説明する。偏光選択素子90はレーザビームが入射されると、図4上で紙面に対して平行方向の直線偏光を選択して射出する。また、波長板91は入射した楕円偏光の方向を90°変える。したがって、部分反射ミラー2にて反射されたレーザビーム7が偏光選択素子90に入射すると、偏光選択素子90から図4上の紙面に対して平行方向の直線偏光が出射される。出射された平行直線偏光は、図4上で右側の固体素子3に入射する。これにより、平行直線偏光は右側の固体素子3によって複屈折されて、右側の固体素子3から楕円偏光として出射される。右側の固体素子3から出射された楕円偏光は波長板91に入射し、入射した楕円偏光は波長板91にて方向を90度変えられて、図4上において左側の固体素子3に入射する。 【0083】左側の固体素子3に入射した楕円偏光は、左側の固体素子3で複屈折されて、右側の固体素子3を通過するときとは符号が反対の作用を受ける。これにより、左側の固体素子3からは、偏光方向が図4上において紙面に対して垂直の直線偏光として出射される。出射された垂直直線偏光は全反射ミラー1によって反射されて、再度左側の固体素子3および右側の固体素子3を通過することにより、図4上において紙面に対して平行な直線偏光に変換される。そして、変換された直線偏光は、偏光選択素子90を損失なく通過する。このように、本実施例によれば、偏光選択素子90および波長板91を使用することにより、左側および右側の固体素子3,3の複屈折に影響されずに安定した直線偏光を発生させることができる。 【0084】この場合、レーザ共振器の外部に例えば1/4波長板を設けることにより、レーザ共振器から発生した直線偏光は1/4波長板で円偏光されて異方性のないレーザ加工を行うことができる。 【0085】本実施例において固体素子3にNd:YLFを使用すると、固体素子3の複屈折を除去すると共に、固体素子3の熱レンズも取り除くことができる。すなわち、Nd:YLF固体素子は偏光方向に垂直な方向と平行な方向にて異なる符号を持つ熱レンズを発生する。これにより、図4上において説明した固体素子3,3による複屈折の補償作用と同様に、偏光成分が二つの固体素子3,3を通過する過程で固体素子3,3中に発生する熱レンズが打ち消される。したがって、偏光成分はレンズに影響されないので共振器の動作が安定化する。」(段落【0081】〜【0085】) 「実施例6.図8はこの発明の第6の実施例を示す断面図であり、この実施例において、上記実施例1〜5と異なる点は、粉塵遮蔽容器62に収容された複数の波長変換素子非線形光学晶40,43が設置されているとともに、これら波長変換素子40,43にて波長変換されたレーザビームの波長変換成分を反射する光学薄膜191が貼付され、かつ角度調整可能に設置された透過ミラー190が設けられている点である。・・・・」(段落【0093】) 「以上のような構成において、効率の良い波長変換を実行するには、固体素子3からなるレーザ媒質から発生される基本波レーザビーム7aと波長変換された波長変換レーザビーム8aとの波長変換素子40,43内における進行速度、すなわち位相速度が一致することが必要であり、その条件が満たされているとき位相整合が取られる。固体素子3における位相整合は固体素子3の複屈折を利用して行われ、この複屈折の状態は波長変換素子40,43へのレーザビーム7の入射角度および結晶の温度に依存するため、波長変換素子40,43の効率良い波長変換を行うには一般的には角度調整器により波長変換素子40,43の角度を変えたり、基台110の温度を細かく調整することにより実現される。勿論、本実施例の波長変換素子40,43もそれぞれ角度調整可能に設けられ、基台110に温度調節機構が設けられている。」(段落【0096】) 「【符号の説明】 1 全反射ミラー 2 部分反射ミラー 3 固体素子 4 光源 5 電源 6 集光器 7 レーザビーム ・・・・ 40,43 波長変換素子(非線形光学結晶)・・・・ 70 レーザビーム 80,81 貫通孔 90 偏光選択素子 91 波長板または旋光板」(符号の説明) また、図1に第1の実施例によるレーザ装置の構成が示され、図4に第2の実施例によるレーザ装置の構成が示され、図8に第6の実施例として波長変換素子が設置されたレーザ装置の構成が示されている。図4において、レーザ共振器内の光軸方向に配置された固体素子3.3の間に、その端部間を同軸上に連結するスリーブ状の連結部材61内に波長板(または旋光板)91が設けられている。 以上の記載からすれば、刊行物1において、「全反射ミラー1と部分反射ミラー2との間に配置された活性固体媒質がドープされた固体素子3,3を同軸上に連結するスリーブ状の連結部材61内に、入射した楕円偏光の方向を90°変える波長板(旋光板)91が設けられ、光源4から投光された光を直接もしくは内面が拡散型反射面を形成している集光器6内にて反射した後に固体素子3,3に導き、励起光を発生させるようにしたレーザ装置」が記載され、また、「レーザ共振器中に固体素子3で発生したレーザビームの波長を変換する波長変換素子が設置されること」、「波長変換素子40,43の効率良い波長変換を行うために、波長変換素子40,43がそれぞれ角度調整可能に設けられ、基台110に温度調節機構が設けられること」が記載されているものと認める。 b.特開平6-37372号公報(申立人提出の甲第2号証、以下、「刊行物9」という) 段落【0002】に、YAGレーザ共振器において、2本のレーザロッド間に偏光方向を90度回転させる水晶旋光子を挿入することが記載されている。 c.Walter Koechner 著「Solid- State Laser Engineering」(1976年Springer Verlag発行、第195〜203頁、申立人提出の甲第3号証、以下「刊行物2」という) 第198頁下から10行第199頁第10行及びFig.5.21において、レーザロッドの径が5mmで、凹面及び凸面のミラーを有するNd:YAGレーザのパラメータについて示されており、凹面ミラー側及び凸面ミラー側のビーム幅がそれぞれw1=1.25mm、w2=0.28mmとなる例について、また、w1の最適値は経験的にレーザロッドの半径の1/2となることが示されている。 d.特開平4-287988号公報(申立人提出の甲第4号証、以下、「刊行物3」という) 段落【0010】〜【0011】に、長さ5mm、幅2mm、厚さ0.5mmの矩形断面のNd:YAG結晶からなる固体レーザ媒質を用いた半導体励起固体レーザにおいて、基本モード(ガウスモード)のビーム直径が約0.35mmとなる例が示されている。 e.特開平6-244482号証(申立人提出の甲第5号証、以下、「刊行物6」という) 段落【0019】〜【0021】及び図1に、固体レーザの出力鏡の位置を微小変化させる機構を備え、光軸調整を行うことが示されている。 f.特開昭47-37648号公報(申立人提出の甲第6号証、以下、「刊行物7」という) 干渉計、ホログラム関連の装置等において、光路中にプリズムを配置し、これを回転させることによって、入射光と射出光との間の偏角を微細に調節することが示されている。 g.実願平2-21112号(実開平3-112959号)のマイクロフィルム(申立人提出の甲第7号証、以下、「刊行物5」という) 第1頁下から2行〜第2頁第7行及び第3図において、レーザ媒質の両端をホルダにより保持し、調整ネジにより光軸調整を行う固体レーザの光軸調整装置について示されている。 h.特開平6-152018号公報(申立人提出の甲第8号証、以下、「刊行物4」という) 段落【0002】〜【0005】及び図43、44に、断面形状が楕円で、その2つの焦点にそれぞれ固体素子と励起光源を配置し、内面を光反射面として励起光源からの光を固体素子に集光する集光器を備えた固体レーザ装置について示され、段落【0129】に、集光器の内面が拡散反射面から構成されることが示され、段落【0146】及び図33に、複数の固体素子がそれぞれ基台に載置されることが示され、段落【0150】〜【0155】及び図34に、複数の固体素子の間に集光レンズ(熱レンズ修正光学系)を挿入して固体素子の熱レンズを修正することが示されている。 i.特開平4-119683号公報(申立人提出の甲第9号証、以下、「刊行物8」という) 第3頁右上欄第17行〜左下欄第9行に、レーザ光発振用レーザ装置と2基のレーザ光増幅用レーザ装置とを光軸に沿って架台上に配置したレーザ増幅システムが示されている。 エ.取消理由の概要 平成15年10月1日付けで通知した取消理由は、請求項1において、不明確な記載があるために、本件明細書が特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、また、特許異議申立書に示されるのと同様の理由により、本件特許の請求項1〜14に係る発明が、刊行物1〜8に各々記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は取り消されるべきものであるとするものである。 オ.36条の理由について 平成15年12月8日付けの訂正請求により、本件特許の請求項1が訂正されたことにより、特許法第36条第6項についての取消理由は解消している。 カ.29条の理由について 本件発明1と刊行物1に記載のものとを対比すると、刊行物1に記載のものにおける「入射した楕円偏光の方向を90°変える波長板(旋光板)91」は、本件発明1における「入射するレーザビームの偏光を回転する偏光回転手段」に相当し、刊行物1に記載のものは、光源4から投光された光を直接もしくは集光器6内にて反射した固体素子3,3に導き励起光を発生させるものであるから、固体素子3,3を囲む拡散反射面を有する集光器6を備えた励起手段を有するものであり、また、固体素子3,3が間に連結部材61を介して光軸方向に互いに隔離して設けられており、さらに、刊行物1に記載のものは、固体素子3,3で発生したレーザビームを取り出すための全反射ミラー1及び部分反射ミラー2を含むレーザ共振器としてのレーザ光学手段を備え、このレーザ共振器としての光学手段により異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するものであるから、本件発明1と刊行物1に記載のものとは、「それぞれ活性固体媒質を含み光軸上に互いに離隔して設けられた複数の固体素子と、前記固体素子を励起する励起手段と、前記複数の固体素子のいずれか二つの固体素子間の光軸上に設けられ入射するレーザビームの偏光を回転する偏光回転手段と、前記固体素子で発生したレーザビームを取り出すレーザ光学手段とを備え、前記励起手段は、前記固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、前記レーザ光学手段は異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するレーザ共振器である固体レーザ装置」である点において一致するが、次の点において相違する。 <相違点> 本件発明1において、レーザ光学手段は、「レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、固体素子の直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成された」レーザ共振器であるのに対して、刊行物1においては、レーザビームの横モード次数と、固体素子の直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比について明記していない点。 そこで、上記相違点について検討する。 刊行物2において、レーザビームの幅w1は経験的にレーザロッドの半径の1/2となること、5mmの径のレーザロッドの場合にw1=1.25mm、w2=0.28mmの例が示され、また、刊行物3において、幅2mm、厚さ0.5mmの矩形断面の固体レーザ媒質の場合にビームの直径が0.35mmの例が示されており、これらの固体素子の幅とレーザビームの幅との比はおよそ10以下となる条件を満たすものであり、固体素子の幅ないし直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比を10以下にすることは、刊行物2及び3に示されるように、従来実施されていた周知の事項である。 一方、レーザビームの横モード次数に関して、本件特許明細書の段落【0028】に、「・・・・特にレーザビーム14の品質を理論限界の1/100倍程度、即ち横モード次数として約100次以下にした場合に、偏光旋光子95の効果が大きくなることが実験的に確認された。これは、例えばこの実施の形態のように安定型レーザ共振器を用いた場合には、φ/(2ω)がおよそ10以下になるようにレーザ共振器を構成することと実質的に同じである。・・・・」と記載されていることからすれば、固体素子の直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比が10以下の場合に、横モード次数が約100以下となるようにすることはごく普通のことであって、何ら特殊なものではない。また、刊行物2及び3に示されるような従来のレーザ発振器における直径数mm程度の固体素子の場合に、横モード次数に下限があることも当然であり、横モード次数を10以上とすることも適宜考慮し得る程度のことである。 それゆえ、レーザ光学手段をレーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、固体素子の直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成することは、刊行物2及び3に示される従来周知の事項を勘案すれば当業者が容易に想到し得たことである。 したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 次に、本件発明2は、本件発明1を特定する事項に加えて、「偏光回転手段は、入射したレーザビームが一度通過する間に該レーザビームの偏光を総和で約90度回転する少なくとも一つの偏光旋光子を含む」との事項を有するものであるが、刊行物1に記載のものにおける波長板91は入射した楕円偏光の方向を90°変えるものであるから、この点は何ら格別な技術的特徴を与えるものではない。 したがって、本件発明2は、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 次に、本件発明3は、本件発明1または本件発明2を特定する事項に加えて、「偏光回転手段と該偏光回転手段に入射するレーザビームの光軸とのなす角度を調節する角度調節手段を備えた」との事項を有するものであるが、偏光回転手段と偏光回転手段に入射するレーザビームの光軸とのなす角度を調節する角度調節手段を備えることについては、刊行物1〜9のいずれにも記載されておらず、また、示唆するところもない。 刊行物5において、レーザ媒質の光軸を調整することについて示され、刊行物6において、固体レーザ装置の出力鏡の光軸調整を行うことについて示されているが、複数の固体素子間の光軸上に設けられた偏光回転手段とこれに入射するレーザビームの光軸とのなす角度を調節することについて示唆するところはない。 したがって、本件発明3は、刊行物1〜9に各々記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 次に、本件発明4は、本件発明1または本件発明2を特定する事項に加えて、「複数の固体素子のいずれか二つの固体素子間の光軸上に設けられ入射するレーザビームの光軸位置を補正する光軸補正手段を備えた」との事項を有するものであるが、複数の固体素子の間の光軸上に入射するレーザビームの光軸位置を補正する光軸補正手段を挿入することについては、刊行物1〜9のいずれにも記載されておらず、また、示唆するところもない。 刊行物7には、干渉計、ホログラム関連の装置等において、光路中にプリズムを配置し、これを回転させることによって、入射光と射出光との間の偏角を微細に調節することが示されているが、このような入射光と出射光との間の偏角を調節するプリズムを固体レーザ装置の複数の固体素子間の光軸上に設けることについて示唆するところはない。 したがって、本件発明4は、刊行物1〜9に各々記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 次に、本件発明5は、本件発明4を特定する事項に加えて、「光軸補正手段はくさび状部材である」との事項を有するものであるが、この点については、刊行物1〜9のいずれにも記載されておらず、また、示唆するところもない。 刊行物7には、干渉計、ホログラム関連の装置等において、光路中にプリズムを配置し、これを回転させることによって、入射光と射出光との間の偏角を微細に調節することが示されているが、このような入射光と出射光との間の偏角を調節するプリズムを固体レーザ装置の複数の固体素子間の光軸上に設けることについて示唆するところはない。 したがって、本件発明5は、刊行物1〜9に各々記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない、 次に、本件発明6は、本件発明1または本件発明2を特定する事項に加えて、「少なくとも一つの固体素子の端部を上下左右方向に移動させる移動手段を備えた」との事項を有するものであるが、刊行物5において、固体レーザの出力鏡の位置を微小変化させる機構を備え、光軸調整を行うことが示されており、少なくとも一つの固体素子の端部を上下左右方向に移動させる移動手段を備えることも適宜考慮し得る程度のことである。 したがって、本件発明6は、刊行物1及び5に各々記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 次に、本件発明7は、本件発明1または本件発明2を特定する事項に加えて、「固体素子で発生したレーザビームの波長を変換する波長変換手段を備えた」との事項を有するものであるが、刊行物1において、レーザ共振器中に固体素子3で発生したレーザビームの波長を変換する波長変換素子が設置されたレーザ装置について示されており、この点は何ら格別な技術的特徴を与えるものではない。 したがって、本件発明7は、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 次に、本件発明8は、本件発明7を特定する事項に加えて、「波長変換手段の断面の熱変形分布形状が前記固体素子の断面内の熱変形分布形状と相似であるように前記波長変換手段の温度を制御する温度制御手段を備えた」との事項を有するものであるが、波長変換手段の断面の熱変形分布形状が前記固体素子の断面内の熱変形分布形状と相似であるように前記波長変換手段の温度を制御することについては、刊行物1〜9のいずれにも記載されておらず、また、示唆するところもない。 刊行物1において、非線形光学結晶40,43の温度を制御するための温度調整機構を設けることが示されているが、波長変換手段の断面の熱変形分布形状が固体素子の断面内の熱変形分布形状と相似であるように前記波長変換手段の温度を制御することを示唆するところはない。 したがって、本件発明8は、刊行物1〜9に各々記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 次に、本件発明9は、本件発明1を特定する事項に加えて、「集光器の拡散反射面の断面形状は楕円であり、複数の固体素子の活性固体媒質のそれぞれは楕円形状の前記集光器の第一の共焦点に配置され、励起手段は楕円形状の前記集光器の第二の共焦点に配置された励起光源を具備する」との事項を有するものであるが、刊行物4において、断面形状が楕円で、その2つの焦点にそれぞれ固体素子と励起光源を配置し、内面を光反射面として励起光源からの光を固体素子に集光する集光器を備えた固体レーザ装置について示されており、刊行物1に記載のものにおける集光器6内における光源4、固体素子3,3の配置を、刊行物4に示されるような形態とすることは、当業者が容易になし得ることである。 したがって、本件発明9は、刊行物1及び4に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 次に、本件発明10は、本件発明1または本件発明2を特定する事項に加えて、「少なくとも複数の固体素子、励起手段、及び偏光回転手段が一体に設けられる基台を具備する」との事項を有するものであるが、刊行物1の図4に示されるレーザ装置において、複数の固体素子3,3、励起手段としての光源4、波長板(または旋光板)91が基台100上に一体に設けられているから、この点は何ら格別な技術的特徴を与えるものではない。 したがって、本件発明10は、刊行物1に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 次に、本件発明11と刊行物1に記載のものとを対比すると、両者は、次の点において相違し、他の点においては一致する。 a.本件発明11において、「それぞれ活性固体媒質を含み光軸上に互いに離隔して設けられた複数の固体素子、前記固体素子を励起する励起手段、及び、前記複数の固体素子のいずれか二つの固体素子間の光軸上に設けられ入射するレーザビームの偏光を回転する偏光回転手段をそれぞれ具備する複数の励起モジュールと、前記複数の励起モジュールのそれぞれの前記固体素子内の長手方向におけるレーザビーム外形形状の軌跡が互いに同一になるように前記複数の励起モジュールを光学的に連結する連結光学手段と」を有するのに対して、刊行物1に記載のものは、それぞれ複数の固体素子、その間に設けられた偏光回転手段、励起手段を具備する複数の励起モジュールを有するものではない点。 b.本件発明11において、レーザ光学手段は、「レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、固体素子の直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成された」レーザ共振器であるのに対して、刊行物1においては、レーザビームの横モード次数と、固体素子の直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比について明記していない点。 そこで、上記相違点aについて検討すると、この相違点については、刊行物2〜9のいずれにも記載されておらず、示唆するところもない。 刊行物4の段落【0150】〜【0155】及び図34において、複数の固体素子の間に集光レンズ(熱レンズ修正光学系)を挿入して固体素子の熱レンズを修正することが示されているが、これは集光レンズを個々の固体素子の間に挿入したものであり、それぞれ複数の固体素子、その間に設けられた偏光回転手段、励起手段を具備する複数の励起モジュールを有すること、複数の励起モジュールの間に集光レンズを挿入することについて示唆するものではない。 したがって、本件発明11は、刊行物1〜9に各々記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 次に、本件発明12は、本件発明11を特定する事項に加えて、「偏光回転手段は、入射したレーザビームが一度通過する間に該レーザビームの偏光を総和で約90度回転する少なくとも一つの偏光旋光子を含む」との事項を有するものであるから、本件発明11の場合と同様の理由により、刊行物1〜9に各々記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 次に、本件発明13は、本件発明11または本件発明12を特定する事項に加えて、「複数の励起モジュールのいずれか一つはレーザ発振器であり、他の励起モジュールはレーザ増幅器である」との事項を有するものであるから、本件発明11の場合と同様の理由により、刊行物1〜9に各々記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 次に、本件発明14は、本件発明11または本件発明12を特定する事項に加えて、「複数の励起モジュールのそれぞれは、該励起モジュールが一体に設けられるモジュール基台を具備する」との事項を有するものであるから、器であり、他の励起モジュールはレーザ増幅器である」との事項を有するものであるから、本件発明11の場合と同様の理由により、刊行物1〜9に各々記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 キ.むすび 以上のとおりであるから、本件発明1、本件発明2、本件発明6、本件発明7、本件発明9及び本件発明10は、刊行物1〜8に各々記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、本件発明2、本件発明6、本件発明7、本件発明9及び本件発明10についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、本件発明3、本件発明4、本件発明5、本件発明8、本件発明11〜本件発明14についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 固体レーザ装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 それぞれ活性固体媒質を含み光軸上に互いに離隔して設けられた複数の固体素子と、前記固体素子を励起する励起手段と、前記複数の固体素子のいずれか二つの固体素子間の光軸上に設けられ入射するレーザビームの偏光を回転する偏光回転手段と、前記固体素子で発生したレーザビームを取り出すレーザ光学手段とを備え、前記励起手段は、前記固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、前記レーザ光学手段は、異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するとともに、前記レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、前記固体素子の直径と前記固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたレーザ共振器であることを特徴とする固体レーザ装置。 【請求項2】 偏光回転手段は、入射したレーザビームが一度通過する間に該レーザビームの偏光を総和で約90度回転する少なくとも一つの偏光旋光子を含むことを特徴とする請求項1記載の固体レーザ装置。 【請求項3】 偏光回転手段と該偏光回転手段に入射するレーザビームの光軸とのなす角度を調節する角度調節手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の固体レーザ装置。 【請求項4】 複数の固体素子のいずれか二つの固体素子間の光軸上に設けられ入射するレーザビームの光軸位置を補正する光軸補正手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の固体レーザ装置。 【請求項5】 光軸補正手段はくさび状部材であることを特徴とする請求項4記載の固体レーザ装置。 【請求項6】 少なくとも一つの固体素子の端部を上下左右方向に移動させる移動手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の固体レーザ装置。 【請求項7】 固体素子で発生したレーザビームの波長を変換する波長変換手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の固体レーザ装置。 【請求項8】 波長変換手段の断面の熱変形分布形状が前記固体素子の断面内の熱変形分布形状と相似であるように前記波長変換手段の温度を制御する温度制御手段を備えたことを特徴とする請求項7記載の固体レーザ装置。 【請求項9】 集光器の拡散反射面の断面形状は楕円であり、複数の固体素子の活性固体媒質のそれぞれは楕円形状の前記集光器の第一の共焦点に配置され、励起手段は楕円形状の前記集光器の第二の共焦点に配置された励起光源を具備することを特徴とする請求項1記載の固体レーザ装置。 【請求項10】 少なくとも複数の固体素子、励起手段、及び偏光回転手段が一体に設けられる基台を具備することを特徴とする請求項1または請求項2記載の固体レーザ装置。 【請求項11】 それぞれ活性固体媒質を含み光軸上に互いに離隔して設けられた複数の固体素子、前記固体素子を励起する励起手段、及び、前記複数の固体素子のいずれか二つの固体素子間の光軸上に設けられ入射するレーザビームの偏光を回転する偏光回転手段をそれぞれ具備する複数の励起モジュールと、前記複数の励起モジュールのそれぞれの前記固体素子内の長手方向におけるレーザビーム外形形状の軌跡が互いに同一になるように前記複数の励起モジュールを光学的に連結する連結光学手段と、前記励起モジュールで発生したレーザビームを取り出すレーザ共振器とを備え、前記励起手段は、前記固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、かつ、前記レーザ共振器は、異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するとともに、前記レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、前記固体素子の直径と前記固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたものであることを特徴とする固体レーザ装置。 【請求項12】 偏光回転手段は、入射したレーザビームが一度通過する間に該レーザビームの偏光を総和で約90度回転する少なくとも一つの偏光旋光子を含むことを特徴とする請求項11記載の固体レーザ装置。 【請求項13】 複数の励起モジュールのいずれか一つはレーザ発振器であり、他の励起モジュールはレーザ増幅器であることを特徴とする請求項11または請求項12記載の固体レーザ装置。 【請求項14】 複数の励起モジュールのそれぞれは、該励起モジュールが一体に設けられるモジュール基台を具備することを特徴とする請求項11または請求項12記載の固体レーザ装置。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 この発明は、活性固体媒質を含む固体素子を備えた固体レーザ装置に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 図37は、例えば、「ソリッドステート レーザ エンジニアリング(Solid-State Laser Engineering、Springer-Verlag),119頁〜120頁,1988年」に記された従来の固体レーザ装置を示す構成図であり、図において、1は反射ミラー、2は部分反射ミラー、3は活性固体媒質を含む固体素子で、ヤグレーザを例にとれば活性固体媒質としてNdをドーピングしたNd:YAG(Nd:Yttrium Aluminum Garnet)、4は励起光源で、例えばGaAlAsを主成分とする半導体レーザ、5は励起光源4を駆動する電源、6は集光レンズ、7は反射ミラー1及び部分反射ミラー2により構成されたレーザ共振器内に発生したレーザビーム、10は反射ミラー1がレーザビーム7に対して全反射となり励起光源4からの光に対して全透過となるように作用する光学薄膜、70は部分反射ミラー2により外部に取り出されたレーザビーム、100は基台である。 【0003】 次に動作について説明する。 電源5により点灯された励起光源4から放射された励起光は、集光レンズ6により固体素子3の端面より導入される。固体素子3に導入された励起光は、活性固体媒質を励起してレーザ増幅媒質を形成する。レーザ増幅媒質より発生した自然放出光は、反射ミラー1及び部分反射ミラー2により構成されるレーザ共振器間を往復する間に増幅され、指向性の良いレーザビーム7となり、一定以上の大きさに達すると、レーザビーム70として外部に取り出される。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 従来の固体レーザ装置は以上のように構成されているので、高出力を発生させようとして出力の大きい励起光源4により励起した場合、高出力の高品質レーザビームを発生させることはできないなどの課題があった。高品質レーザビームが発生できない原因については、固体素子3が熱変形し、その熱変形により発生した固体素子3内の複屈折によると推測されてきたが、その詳細な機構については不明であった。 【0005】 この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、高出力且つ品質の良いレーザビームを安定して発生することができる固体レーザ装置を得ることを目的とする。 【0006】 【課題を解決するための手段】 請求項1記載の発明に係る固体レーザ装置は、それぞれ活性固体媒質を含み光軸上に互いに離隔して設けられた複数の固体素子と、固体素子を励起する励起手段と、複数の固体素子のいずれか二つの固体素子間の光軸上に設けられ入射するレーザビームの偏光を回転する偏光回転手段と、固体素子で発生したレーザビームを取り出すレーザ光学手段とを備え、励起手段が、固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、レーザ光学手段が、異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するとともに、レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、固体素子の直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたレーザ共振器であるものである。 【0007】 請求項2記載の発明に係る固体レーザ装置は、請求項1記載の固体レーザ装置において偏光回転手段が入射したレーザビームが一度通過する間にレーザビームの偏光を総和で約90度回転する少なくとも一つの偏光旋光子を含むものである。 【0008】 請求項3記載の発明に係る固体レーザ装置は、請求項1または請求項2記載の固体レーザ装置において偏光回転手段とこれに入射するレーザビームの光軸とのなす角度を調節する角度調節手段を備えたものである。 【0009】 請求項4記載の発明に係る固体レーザ装置は、請求項1または請求項2記載の固体レーザ装置において複数の固体素子のいずれか二つの固体素子間の光軸上に設けられ入射するレーザビームの光軸位置を補正する光軸補正手段を備えたものである。 【0010】 請求項5記載の発明に係る固体レーザ装置は、請求項4記載の固体レーザ装置において光軸補正手段がくさび状部材であるものである。 【0011】 請求項6記載の発明に係る固体レーザ装置は、請求項1または請求項2記載の固体レーザ装置において少なくとも一つの固体素子の端部を上下左右方向に移動させる移動手段を備えたものである。 【0012】 請求項7記載の発明に係る固体レーザ装置は、請求項1または請求項2記載の固体レーザ装置において固体素子で発生したレーザビームの波長を変換する波長変換手段を備えたものである。 【0013】 請求項8記載の発明に係る固体レーザ装置は、請求項7記載の固体レーザ装置において波長変換手段の断面の熱変形分布形状が固体素子の断面内の熱変形分布形状と相似であるように波長変換手段の温度を制御する温度制御手段を備えたものである。 【0014】 請求項9記載の発明に係る固体レーザ装置は、請求項1記載の固体レーザ装置において複数の固体素子の活性固体媒質のそれぞれは楕円形状の集光器の第一の共焦点に配置され、励起手段は楕円形状の集光器の第二の共焦点に配置された励起光源を具備するものである。 【0015】 請求項10記載の発明に係る固体レーザ装置は、少なくとも複数の固体素子、励起手段、及び偏光回転手段が一体に設けられる基台を具備するものである。 【0016】 請求項11記載の発明に係る固体レーザ装置は、それぞれ活性固体媒質を含み光軸上に互いに離隔して設けられた複数の固体素子、固体素子を励起する励起手段、及び、複数の固体素子のいずれか二つの固体素子間の光軸上に設けられ入射するレーザビームの偏光を回転する偏光回転手段をそれぞれ具備する複数の励起モジュールと、複数の励起モジュールのそれぞれの固体素子内の長手方向におけるレーザビーム外形形状の軌跡が互いに同一になるように複数の励起モジュールを光学的に連結する連結光学手段と、励起モジュールで発生したレーザビームを取り出すレーザ共振器とを備え、励起手段が、固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、かつ、レーザ共振器が、異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するとともに、レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、固体素子の直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたものである。 【0017】 請求項12記載の発明に係る固体レーザ装置は、請求項11記載の固体レーザ装置において偏光回転手段が入射したレーザビームが一度通過する間にレーザビームの偏光を総和で約90度回転する少なくとも一つの偏光旋光子を含むものである。 【0018】 請求項13記載の発明に係る固体レーザ装置は、複数の励起モジュールのいずれか一つはレーザ発振器であり、他の励起モジュールはレーザ増幅器であるものである。 【0019】 請求項14記載の発明に係る固体レーザ装置は、請求項11または請求項12記載の固体レーザ装置において複数の励起モジュールのそれぞれは、該励起モジュールが一体に設けられるモジュール基台を具備するものである。 【0020】 【発明の実施の形態】 以下、この発明の実施の一形態を説明する。 実施の形態1. 図1は、この発明の実施の形態1による固体レーザ装置を示す横断面図であり、図2(a)は励起部の詳細を示す長手方向の縦断面図、(b)は短手方向の縦断面図、(c)は側面図である。図中、図37と同一符号は、従来の固体レーザ装置と同一または相当部分を示すものである。8は内面が拡散反射面よりなる集光器、12は部分反射ミラー、14は固体素子3から発生した基本波のレーザビーム、20はフローチューブで、このフローチューブ20と固体素子3の間には冷却水が流される。さらに集光器8は内部にフローチューブ20を挟み込むようにして保持される。図2(b)において、45は例えばサファイアやドープされていないYAGからなる板状の光導波光学素子であり、励起光源4から放射された励起光を集光器8内に導くものである。また、80は集光器8の側面の一部に開けられた開口部、95は例えば水晶で構成され、固体素子3から発生したレーザビーム14の偏光方向を約90度回転させる偏光旋光子(偏光回転手段)、96は偏光旋光子95とレーザビーム14の光軸のなす角度を調節する角度調節機構で、例えば角度調節器(角度調節手段)、100はステンレス鋼やアクリルの板から成る基台であり、固体素子3、励起光源4、集光器8、偏光旋光子95、反射ミラー1、及び部分反射ミラー12を一つの基台100上に配置して一体化している。また、101は側板(移動手段)である。さらに、φは固体素子3の直径を示し、Rはレーザビーム14の集光点を示している。尚、この実施の形態1では、レーザ光学手段はレーザ共振器であり、反射ミラー1と部分反射ミラー12とから構成される。また、励起手段は、励起光源4及び集光器8を含む。 【0021】 次に動作について説明する。 まず図2を参照しながら、上記のように構成された固体レーザ装置の励起部の動作について説明する。図2(b)に示すように、電源5は励起光源4を点灯し、これから発せられた励起光40は、集光器8の開口部80近傍に備えられた光導波光学素子45の上下面で全反射を繰り返しながら伝搬する。そして、集光器8の内面に入り、固体素子3を励起して、レーザビーム14を増幅するレーザ増幅媒質を生成する。 【0022】 固体素子3により吸収されなかった励起光40は、固体素子3を通過後、集光器8の内面で拡散反射し、再び固体素子3をその周囲から均一に励起する。このために励起光源4の光は無駄になることなく、何回も集光器8の内部を往復してほとんどが固体素子3に吸収されて、効率よく、均一なレーザ増幅媒質を形成する。また、図2(b)に示すように、励起光40を導光する二つの光導波光学素子45が、固体素子3の両側に設けられており、それらの高さは等しくなく軸中心からずらして対向するように設けられている。これにより、左右の励起光源4からの光が干渉するのを防止でき、かつ固体素子3内の励起分布の均一度が増す。 【0023】 この実施の形態では、図1に示すように、図2で説明した固体素子3をそれぞれ含む励起部を所定間隔をあけて2個所に列設し、その間に細かい角度調節を可能とする角度調節器96を備えた偏光旋光子95を配置している。そして、反射ミラー1,部分反射ミラー12との組み合わせからなるレーザ共振器によって、2個の励起部からのレーザビーム14を取り出している。 【0024】 レーザ共振器の長さ(L)、即ち反射ミラー1と部分反射ミラー12の間の距離(横軸)とレーザビーム品質(縦軸)との関係を図3の曲線Aに示す。この特性からレーザ共振器長が長い方が短い場合に比べて固体素子3自体のレーザビーム品質が良くなる。一方、レーザ出力は固体素子3の歪みに対するレーザ共振器の強さ(安定性)に関係し、レーザ共振器長が長くなれば固体素子3の歪みに対するレーザ共振器の強さが弱くなり、レーザ出力を上げることができなくなる。図3における曲線B1は固体素子3の歪みが大きいときのレーザ共振器長とレーザ共振器の強さの関係を示し、曲線B2は固体素子3の歪みが小さいときのレーザ共振器長とレーザ共振器の強さの関係を示している。 【0025】 最初に比較例として、2個の励起部を所定の間隔をあけて列設し、この間に偏光旋光子95を設けていない構成について考察する。即ち、図1の構成から偏光旋光子95及び角度調節器96を省略したものを比較例とする。 従来の固体レーザ装置のように、反射ミラー1及び部分反射ミラー2を固体素子3の近傍に近づけてレーザ共振器長を20mm程度にした場合には、図3のPに示す条件となるので、レーザ共振器の強さは曲線B1,B2の条件Pにおけるように固体素子3の歪みにそれほど関係なく充分なレーザ出力のものが得られる。ところがこの構成では、曲線Aから明らかなように発生するレーザビーム14の品質(例えば、レーザビーム14の広がり角度)が悪かった。レーザビーム品質は、固体素子3の直径をφとし、固体素子3中に理論的に計算されるガウスレーザビームの強度が中央の1/e2(e:自然対数の底)に減少する点で定義される半径のうち、固体素子3内での最大値をωとしたとき、φ/(2ω)が小さいほど良くなることが知られている。上記のようなレーザビーム品質が悪い条件では、固体素子3中に理論的に計算されるガウスレーザビームの直径は、固体素子3の直径のおおよそ1/14倍であり、理論限界のガウスレーザビームの1/200倍程度、即ち横モード次数として200次程度のレーザビーム品質を持つレーザビーム14が得られる。 【0026】 これに対し、比較例では図1に示すようにレーザ共振器長を500mm程度に構成した。例えば、曲率の小さい反射ミラー1、例えば曲率半径1m以下、典型的には0.5mから0.1mの反射ミラー1を用いて、反射ミラー1の前面で小さいスポットに集光すると共に、凸状の部分反射ミラー12を固体素子3の近傍に配置し、固体素子3の凸状の熱レンズ作用と併せて、実質数mの曲率半径の大きな反射ミラーを構成している。このような片寄りのあるレーザ共振器を用いてレーザ共振器長500mm程度のものを構成すると、図3で示す条件Qとなり、曲線Aで示すようにレーザビーム品質の向上を実現できる。 【0027】 このレーザ共振器では、レーザビーム14が集光点Rよりも固体素子3中で径が大きくなるように構成し、固体素子3近くでの理論的に計算されるガウスレーザビームの直径を大きくする。例えば、固体素子3の直径の1/5倍程度にして実験を行ったところ、レーザビーム品質は回折限界の1/20倍程度、即ち横モード次数として20次程度と、従来の1/10程度へと激減したが、発振効率の悪化と出力のふらつきが観測された。図4は、実験で得られた発振特性の一例であり、横軸に励起光源4の出力,縦軸にレーザ出力を表している。図中、直線Cは従来装置の発振特性であり、レーザビーム品質が悪い、例えば理論限界のガウスレーザビームの1/200倍程度、即ち横モード次数として200次のレーザビーム品質を持つレーザビーム14を発生させた場合である。また、直線Dは比較例の発振特性であり、理論限界のガウスレーザビームの1/20倍程度、即ち横モード次数として20次程度のレーザビーム品質を持つレーザビーム14を発生させた場合である。直線Dに示す比較例ではレーザビーム品質は向上しているが、レーザ出力は小さくなってしまうという問題点がある。 【0028】 そこで、この実施の形態1では偏光旋光子95を挿入し、その角度を角度調節器96により数mradのきざみで細かく調整した。この調整を最適値にすると、レーザ共振器の強さは図3における曲線B3で示すように比較例(曲線B2)よりも強くなり、比較例と同様のレーザビーム品質で、かつ発振特性は図4の直線Cで示すものが得られた。しかも、この場合、ほとんど揺らぎのない発振波形が得られた。 【0029】 表1に、レーザビーム横モード次数をいろいろと変化させた時の、実施の形態1のように二つの固体素子3の間に偏光旋光子95ありの場合と、比較例のように偏光旋光子95なしの場合のレーザ出力値を示す。 この表1において、例えば、従来装置のものはレーザビーム横モード次数が200で、レーザ出力(偏光旋光子95なし)が200Wに相当する。これに対し、比較例のものはレーザビーム横モード次数が20で、レーザ出力(偏光旋光子95なし)が50Wに相当し、前述のようにレーザ品質は向上しているがレーザ出力が低下している。一方、この実施の形態1による固体レーザ装置では偏光旋光子95を設けており、レーザビーム横モード次数が20で、レーザ出力(偏光旋光子95あり)は200Wになり、レーザ出力が向上する。 表1から、特にレーザビーム14の品質を理論限界の1/100倍程度、即ち横モード次数として約100次以下にした場合に、偏光旋光子95の効果が大きくなることが実験的に確認された。これは、例えばこの実施の形態のように安定型レーザ共振器を用いた場合には、φ/(2ω)がおよそ10以下になるようにレーザ共振器を構成することと実質的に同じである。ただし、不安定型のレーザ共振器の場合は、上記条件にあてはまらなくても横モード次数として約100次以下に構成することは可能である。 【0030】 【表1】 【0031】 以下に、実施の形態1における偏光旋光子95の効果について理論的に考察する。固体素子3は周囲から励起され熱変形し、例えば丸い断面形状の固体素子3を例に取ると、断面内の径方向と周方向で、結晶の伸びや屈折率変化に差が生じる。この二つの伸びの方向は直交しており、それぞれの方向で異なった二つのレンズ作用を持つように作用する。このため、入射レーザビーム14の異なった偏光成分に対して熱レンズの焦点距離が異なることになる。 【0032】 例えば、図5(a),(b)の矢印で示す二つの基本偏光モードをもつレーザビーム14が固体素子3を通過した場合、受ける熱レンズ作用の大きさがそれぞれの基本偏光モードをもつレーザビーム毎に異なる。このために、励起光源4の出力に対する固体素子3内の理論的に計算されるガウスレーザビームの直径をプロットすると、偏光旋光子95を備えていない装置では、図6(a)で示すように、例えば図5(a)の基本偏光モードレーザビームに対して領域E1で表され、図5(b)の基本偏光モードレーザビームに対して領域E2で表される。この曲線E1、E2の二つの曲線で表される部分が、それぞれの基本偏光モードに対して計算される発振可能領域であり、これ以外の部分では、レーザ共振器の損失が大きく発振が起きない。二つの領域E1、E2の重なり部分では、二つの基本偏光モードが同時に発振可能であり、任意の偏光成分を持つレーザビーム14が発生できる。しかしながら、領域E1,E2の互いに重なっていない領域では、図5(a),(b)のいずれかの基本偏光モードのレーザビーム14しか発振できない。 【0033】 次に、この重ならない領域での損失発生メカニズムについて説明する。例えば、図5(a)に示す基本偏光モードが損失なく発生するには、固体素子3の断面内において熱変形方向が周方向に異なることなく熱変形方向分布が均一である必要があるが、実際には結晶の変形方向には分布があり、軸対称とは限らない。この場合、図5(a)で示す偏光モードが発生しても、その一部が固体素子3断面内の熱変形部分により、図5(b)で示すもう一つの基本偏光モードに変換される。この変換された部分は、図6(a)の領域E2では発振するが、いまは領域E1で動作しているために、この部分は損失となってレーザ共振器外部に吐き出される。このように、固体素子3の熱変形によって、固体素子3内のレーザビーム径が励起光源4の出力に対して図6(a)の領域E1,E2のような特性になり、重なる部分が少なくて重ならない部分が多いので、損失の発生が大きくなってしまう。 【0034】 理論的な計算において、この重なり領域は、固体素子3の直径と固体素子3中の理論的に計算されるガウスレーザビームの直径の比{φ/(2ω)}を小さくするほど狭くなる。このことが、比較例での固体素子3中のレーザビーム14のレーザビーム品質を向上させる場合に、レーザ出力が十分に出ない一因となっている。また、励起光源4からの励起光40の照射位置が揺らぐと、この重なり領域も揺らぐ。さらに断面内で励起分布が揺らぐと、断面内の一部のみがこの重なり領域で損失なく発振し、その場所が励起分布の変化とともに変化し、レーザ出力が揺らぐことになる。 【0035】 これに対して、実施の形態1のように列設した複数の励起部間に偏光旋光子95を挿入してレーザ共振器を構成すると、第一の励起部における固体素子3を通過するレーザビーム14の偏光方向が90度回転される。即ち、第一の励起部における固体素子3に入射した図5(a)に示す基本偏光モードを備えたレーザビーム成分は、図5(b)に示す基本偏光モードを備えたレーザビーム成分に変換されて第二の励起部における固体素子3に入射しこれを通過する。また、第一の励起部における固体素子3に入射した図5(b)に示す基本偏光モードを備えたレーザビーム成分は、図5(a)に示す基本偏光モードを備えたレーザビーム成分に変換されて第二の励起部における固体素子3に入射しこれを通過する。このように、図5(a)又は図5(b)のいずれか一方の偏光特性を有するレーザビーム成分は、偏光旋光子95を挟む二つの固体素子3を互いに異なる偏光成分を持つレーザビーム成分として通過することになり、二つの固体素子3通過の際に偏光方向により異なる熱レンズ作用をそれぞれ受ける。従って、一つの固体素子3の熱レンズ作用はレーザビーム14の図5(a)と図5(b)とに示す偏光方向で異なるが、例えば一つのレーザビーム14に含まれる異なる偏光方向の二つのレーザビーム成分は二つの固体素子3でそれぞれ異なった熱レンズ作用を受けるので、それら二つのレーザビーム成分は全体では全く同一な熱レンズ作用を受けることになる。この場合でも図6(a)に示す領域を計算したのと同一の方法で、励起光源4の出力に対する固体素子3内の理論的に計算されるガウスレーザビームの直径をプロットすると、図6(b)で示すように表される。例えば、図5(a)の基本偏光モードのレーザビーム14に対して領域F1で表され、図5(b)の基本偏光モードのレーザビーム14に対して領域F2で表される。それぞれの基本偏光モードのレーザビーム14に対する二つの領域F1とF2が重なり、重なり領域は図6(a)の場合に比較して格段に広がり、広い範囲で任意の偏光モードが発振可能となる。このために、結晶の熱変形の断面内の分布により偏光成分が変化しても(例えば、複屈折により直線偏光が楕円偏光に代わっても)、レーザ共振器内で損失となることなく、揺らぎも抑えられて、安定して発振できると説明できる。図5(a),(b)に示す基本偏光モードのレーザビーム14のパターンは中央部が凹んだドーナツ状であるために、理論限界のガウスレーザビームを発生する場合や、レーザ共振器内に偏光素子を挿入して直線偏光を発生させる場合には、このような偏光旋光子95が必要であることは実験前に類推できた。しかし、今回の様にレーザビーム品質が理論限界の100倍〜数倍程度の低次モード発振条件でも効果のあることは、この実験により初めて確認できたことである。 【0036】 次に励起分布の均一性について説明する。以上の理論説明では、固体素子3内の熱レンズ作用が均一であることを仮定していた。この仮定は、この実施の形態1によれば固体素子3が拡散反射面を有する集光器8内で励起されており、励起光40がぼぼ均一に固体素子3に集光されていることを根拠としている。さらに、この実施の形態1では、固体素子3の表面粗さを例えば100ミクロン以上とし、固体素子3表面に入射した励起光40が固体素子3表面で拡散反射される程度を調節することにより、固体素子3内部の熱レンズ作用の均一化を実現している。 【0037】 しかしながら、従来の例えば市販の固体レーザ装置では、この励起の均一化が実現化できていない場合が多い。このような場合、固体素子3断面内の熱レンズ分布が発生してしまい、偏光旋光子95を挿入する効果が減少する。図7は、固体素子3の断面内の熱レンズ分布が均一でない場合に、図6(b)の曲線が熱レンズ分布によりどのように変化するかを示す図である。図7において、F1in,F1outは、それぞれ第一の励起部における固体素子3断面内の中央付近及びその周囲部の熱レンズを元に計算された発振領域を示し、F2in,F2outは、それぞれ第二の励起部における固体素子3断面内の中央付近及びその周囲部の熱レンズを元に計算された発振領域を示す。励起の均一化が実現化できていない場合、図7に示すように、図6(b)と比較して発振領域の重なりが減少し、それ故、図6(a)を元に説明した理論によりレーザ出力が低下し、発振波形が不安定になる。 【0038】 次に、偏光旋光子95の角度を調節する角度調節器96の作用について説明する。図8は角度調節器96を拡大してその詳細を示す構成図である。図において、96aは例えばバネなどを内在する押さえ、96bはマイクロメータである。偏光旋光子95が有効に作用するには、各固体素子3の特性(例えば、寸法、励起入力に対する熱レンズ作用)が揃って、固体素子3の同一の部分(例えば中央部)をレーザビーム14が異なる偏光成分として通過する必要がある。このために、まず各固体素子3の中央部をレーザビーム14が通過するように調節すると共に、偏光旋光子95が正確にレーザビーム14の偏光方向を回転する必要がある。 【0039】 実際に実験を行うと、偏光旋光子95を二つの固体素子3の間に配置し、さらに、角度調節器96により、微細に偏光旋光子95の角度を変えて、レーザ出力が安定するように調整を施すことが必要な場合があった。また、励起状態の変化に合わせて微細に偏光旋光子95の角度を変えるのが必要なこともあった。これは複数の固体素子3の中心軸の調整が必要なためと考えることができる。 【0040】 各固体素子3の光軸調整を行うには、角度調節器96を用いて偏光旋光子95を回転させて、偏光旋光子95の表面での光の屈折を利用し、図8に示すように光路を変更することにより実現できる。固体素子3の位置決め精度不足から発生する軸ずれを補正したり、固体素子3の励起によって発生する固体素子3内の熱レンズ作用の作用中心のずれを補正することにより、図6(b)に示す重なり領域を増大できたものと考える。 【0041】 偏光旋光子95を光軸に対して傾けると偏光回転させる角度が変化する。この実施の形態1で用いている水晶でできた90度回転の偏光旋光子95を例に取ると、回転角の変化を1%以内に収めるためには偏光旋光子95の角度変化は数mrad以内でなければならない。一般には、この範囲内で十分に光路のずれが補正できる。特にこの例では、拡散反射集光器内で固体素子3を励起しており、固体素子3内の励起分布が均一となり、従って熱変形が軸対称形状になるので、熱分布の中心軸で規定される光軸のずれが少ない。従って、初期設定で光軸の調整が十分にできていれば励起により固体素子3の光軸が動く量は小さく前記した数mrad程度の角度範囲で十分に光路のずれを補正することができる。実際、実験によれば、偏光回転角にほとんど影響を与えずに、複数の固体素子3間の光軸ずれを補正することができた。 【0042】 レーザ共振器の光軸は、レーザ共振器を構成する二つのミラーの曲率中心を結ぶ線で表されるが、曲率中心の位置の変化はミラーの曲率半径に比例する。このために、この実施の形態1のように、曲率半径の小さい、例えば1m以下の反射ミラー1を用いた場合には、ミラーの角度変化に対する光軸の変化が小さく、偏光旋光子95による動作がより安定する。 【0043】 以上のように、この実施の形態1によれば、複数の固体素子3内に発生した偏光方向により異なる熱レンズ作用を打ち消して、レーザビーム発生の損失や変動を低減し、効率よく高品質なレーザビーム14を安定して発生させることができる効果が得られる。 また、角度調節器96を用いて偏光旋光子95を回転させることにより、複数の固体素子3間の光軸ずれを補正することができる効果が得られる。 さらに、固体素子3により吸収されなかった励起光40は集光器8の拡散反射面で拡散反射され、再び固体素子3をその周囲から均一に励起するので、効率よく均一なレーザ増幅媒質を固体素子3内に形成できる効果が得られる。 さらに、固体素子3、励起光源4、集光器8、偏光旋光子95、反射ミラー1、及び部分反射ミラー12を一つの基台100上に配置して一体化しているので、固体レーザ装置が安定して動作することができる効果が得られる。 【0044】 なお、偏光旋光子95は偏光方向を約90度回転させるものとしたが、これに限るものではなく、例えば固体素子3を3個設け、それらの固体素子3間の2カ所にそれぞれ偏光旋光子95を配置し、偏光方向をそれぞれ約45度回転させ、全体で約90度回転させるように構成してもよい。 また、この実施の形態1による固体レーザ装置は反射ミラー1及び部分反射ミラー12から構成されるレーザ共振器を備えていたが、このような構成を増幅器のようにレーザ共振器を構成しない固体レーザ装置に適用してもよい。 【0045】 実施の形態2. 図9はこの発明の実施の形態2による固体レーザ装置を示す横断面図である。図において、97はくさび状部材(光軸補正手段)で、例えばガラスや水晶で構成されたウエッジ基板であり、列設した複数の固定素子3の間に配置している。98はウエッジ基板97を回転させる回転器である。図9において、実施の形態1と同一符号は同一、または相当部分を示しており、偏光旋光子95の前面にウエッジ基板97を備えている以外は、実施の形態1と同様の構成である。 【0046】 次に動作について説明する。 実施の形態1で示したように実際に偏光旋光子95をレーザビーム14の光軸に対して傾けると、ある程度光軸のずれを補正できるが、レーザビーム14の偏光を回転させる角度が変化してしまうので、偏光旋光子95だけでは大きな軸ずれは補正できない。これに対して、この実施の形態2では、回転器98を用いてウエッジ基板97をレーザビーム14の光軸に対して傾けることにより、容易に複数の固体素子3の光軸を調整し一致させることができる。ウエッジ基板97と回転器98との組み合わせで大きな軸ずれを補正できる。 図9ではウエッジ基板97を1枚のみ用いた例を示しているが、複数用いることもできるし、さらにウエッジ基板97に角度調節器96を付加すればさらに調整が容易となる。 【0047】 以上のように、この実施の形態2によれば、より容易に複数の固体素子3の光軸を調整し一致させることができる上に、大きな軸ずれを補正できる効果が得られる。 ウエッジ基板97により複数の固体素子3の光軸を調整し一致させる構造は、偏光旋光子95を用いない構成でも、図5(a),(b)に示す基本偏光モードのいずれかのレーザビーム14を容易に発振させることができ、レーザ出力をある程度向上することができる。 【0048】 実施の形態3. 図10はこの発明の実施の形態3による固体レーザ装置の固体素子3の保持部及び移動機構を詳細に示す断面図である。図において、103は固体素子端部ホルダー、102は固体素子端部ホルダー103を側板101に押しつけて固定するためのねじ、104はOリングなどの弾性体である。尚、この実施の形態3では、移動手段は、側板101、ねじ102、固体素子端部ホルダー103及び弾性体104から成る。 【0049】 次に動作について説明する。 この実施の形態3における固体素子3の移動機構の動作は、弾性体104の弾力の範囲内で、固体素子端部ホルダー103を上下左右方向に移動させて固体素子3の端部の位置を移動し、ねじ102を締め付けて固定する。この様に動作することにより、移動機構は固体素子3の端部を上下左右方向に移動させることができ、複数の励起部における固体素子3の軸ずれを調節できる。この実施の形態3の様な光軸を調節する機構は、上記実施の形態1,2に比較して部品が少なくて実現できる。 【0050】 以上のように、この実施の形態3によれば、容易に複数の固体素子3の光軸を調整し一致させることができる上に、光軸調整のための移動機構の部品数が少ないので固体レーザ装置のコストを下げる効果が得られる。 【0051】 なお、上記の固体素子3の移動機構により複数の固体素子3の光軸を調整する構造は、偏光旋光子95を用いない構成でも、図5(a),(b)に示す基本偏光モードのいずれかのレーザビーム14を容易に発振させることができ、レーザ出力をある程度向上することができる。 【0052】 実施の形態4. 図11はこの発明の実施の形態4による固体レーザ装置を示す横断面図である。図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示しており、14は固体素子3から発生する基本波のレーザビーム、16は波長変換レーザビーム、21は波長選択反射ミラー、22は反射ミラー、41は波長変換素子(波長変換手段)、61は排気口、62は容器、80Aは波長変換素子を温度制御する温度制御機構で、例えば金属板などの温度コントロール基台(温度制御手段)、101Aはファン、102Aはフィルターである。この実施の形態4では、反射ミラー1及び波長選択反射ミラー21でレーザ共振器を構成している。 【0053】 次に動作について説明する。 上記のように構成された固体レーザ装置において、励起光源4により発生された励起光40は集光器8により閉じこめられ、固体素子3に導かれてこれを励起する。励起された固体素子3内にレーザ媒質が生成し、このレーザ媒質によるレーザビーム14を、反射ミラー1及び波長選択反射ミラー21により構成されるレーザ共振器内に閉じ込め、高輝度の基本波のレーザビーム14をレーザ共振器内に発生させる。さらに、発生した基本波のレーザビーム14をレーザ共振器内の波長変換素子41により波長変換し、波長変換レーザビーム16を発生させる。波長選択反射ミラー21は、基本波のレーザビーム14に対して全反射となり、かつ、波長変換レーザビーム16に対して全透過となる光学薄膜が施されており、波長変換レーザビーム16のほとんどは、波長選択反射ミラー21により外部に取り出される。さらに、波長変換レーザビーム16は、反射ミラー22により方向を変更されて加工レーザステーションなどに導かれ、レーザ切断、レーザ溶接、レーザ穴あけ、レーザアブレーションなどに用いられたり、他の固体素子のレーザ励起などに用いられる。 【0054】 このような構成の固体レーザ装置において、波長変換の効率は、波長変換素子41の位置でのレーザビーム品質、レーザビーム強度に比例する。このため、偏光旋光子95と、その角度を調節しうる角度調節器96を、例えば二つの固体素子3の間に設けることにより、実施の形態1と同様の動作で、高出力、高品質なレーザビーム14を発生できる。特にレーザビーム14の品質を理論限界の1/100倍程度、即ち横モード次数として100次以下にすると好ましく、この場合、上記実施の形態1で述べたように、偏光旋光子95の効果が顕著に表れる。また、波長変換素子41は、レーザ共振器の中で最もレーザビーム径が小さくなる反射ミラー1の近傍に配置すれば、さらに効果がある。波長変換素子41の変換効率は温度の関数でもあるので、温度コントロール基台80Aによって波長変換素子41の温度を制御する。 【0055】 この実施の形態4のような構成では、偏光旋光子95の効果がさらに顕著に表れる。波長変換素子41の変換効率は内部の基本波のレーザビーム14に依存し、基本波のレーザビーム14の出力が変動すると、波長変換効率が変動する。波長変換効率の変動は、レーザ共振器内に閉じこめられた基本波のレーザビーム14の出力の変動をもたらす。このため、基本波レーザビーム出力の小さな変動が、時間と共に大きく増幅されて発生し、これに伴い、外部に取り出される波長変換レーザビーム16の出力が大きく変動するという問題があった。これ対し、この実施の形態4では偏光旋光子95を設けているので、図6(b)に示すように、二つの偏光モードの発振領域の重なった部分を多くすることができ、基本波の変動をほぼ除去することができる。 【0056】 さらに、出力を上げた場合には、波長変換素子41に基本波のレーザビーム14の一部が吸収され、波長変換素子41が熱変形することがわかった。波長変換素子41は一般的に、断面が矩形状のものが用いられるが、この場合、熱変形の分布(同一の変形が現れるところを結んだ曲線)も矩形状になり、しかも底板を介してのみ温度制御されているだけなので、その分布中心も光軸中心からずれる。この場合、偏光旋光子95がない場合には、図6(a)に示すように、二つの偏光モードの領域E1,E2の重なり領域がさらに狭くなることが類推される。ところが、この実施の形態4では、偏光旋光子95の動作によって、上記のように図6(b)に示す二つの偏光モードの領域F1,F2の重なりを多くでき、安定して波長変換レーザビーム16を取り出すことができる。実際、図11に示す固体レーザ装置で偏光旋光子95を除去すると、波長変換レーザビーム16の出力がランダムに激しく変動し安定しなかったが、偏光旋光子95を設けることにより、波長変換レーザビーム16の出力が安定したことを確認した。 【0057】 また、折り返しミラーを用いたレーザ共振器では、折り返しミラーの反射率が紙面垂直方向と、水平方向で異なり、これにより、レーザ共振器内の偏光が紙面方向に長軸がそろった楕円偏光になることもあった。楕円偏光のレーザビーム14は、図5(a),(b)に示す基本偏光モードの二つのレーザビーム14が同時に発振しないと実現できない。このためには、図6(b)に示すように領域F1,F2の重なりが多い状態である必要がある。従って、このような折り返しミラーを用いたレーザ共振器では、上記で説明した複数の固体素子3と偏光旋光子95を用いた構成の効果が高まる。 【0058】 なお、波長変換素子41が加熱される状態では、励起光源4の入力の変化に対応して、角度調節器96によって偏光旋光子95の角度を変化させれば、さらに安定した波長変換レーザビーム16の出力が得られる。 【0059】 以上のように、この実施の形態4によれば、効率よく高品質で高出力な基本波のレーザビーム14を波長変換素子41近傍に発生させ、基本波のレーザビーム14により効率よく波長変換を実現して、高出力の波長変換レーザビーム16を安定して発生させることができる効果が得られる。 【0060】 実施の形態5. 図12はこの発明の実施の形態5による固体レーザ装置を示す横断面図である。図において、図11と同一符号は同一または相当部分を示している。この実施の形態5では、一つの波長変換素子41は上下方向及び左右方向から二対の温度コントロール板(温度制御手段)80Bにより挟み込まれて温度制御されるように構成されている。二対の温度コントロール板80Bは、例えば金属の板から成る。 【0061】 次に動作について説明する。 波長変換素子41の温度制御領域はその長手方向に2分され、それぞれ独立に温度制御が行なわれる。即ち、一方の波長変換素子41の温度制御領域では、波長変換素子41の光軸に垂直な断面において上下方向に一対の温度コントロール板80Bにより温度制御され、他方の波長変換素子41の温度制御領域では、波長変換素子41の光軸に垂直な断面において左右方向に他の一対の温度コントロール板80Bにより温度制御される。そして、断面方向から見た波長変換素子41内の熱変形分布が、少なくとも中央部で対称で、固体素子3内の熱変形分布と相似の形状となるように、二つの温度制御領域での温度制御を組み合わせて実行している。 【0062】 以下、この実施の形態5における温度制御の手法について詳しく説明する。図13は、固体素子3内に発生した温度分布に基づく屈折率分布を3次元で示す説明図である。矩形の波長変換素子41を、例えば上下面から温度コントロール板80Bに挟み込んで冷却すると、上下方向に温度分布が発生し、この温度分布により波長変換素子41内には例えば図14(a)に示すような屈折率分布が発生する。 図14(a)に示した波長変換素子41内に生じる屈折率分布の形状は、図13に示した固体素子3内のものとは大きく異なっている。レーザビーム14はその断面において固体素子3内の屈折率分布に対応した位相分布をもって発生するために、波長変換素子41の屈折率分布が固体素子3内のものと異なると、波長変換素子3を通過する際に、レーザビーム14の位相分布が乱れ、共振条件が乱れる。 このようにレーザビーム14の位相分布が乱されると、レーザビーム品質が劣化すると共に、レーザ共振器内での動作点がずれるため、レーザ共振器内で損失が発生し、レーザ出力が減少する。このレーザビーム品質の劣化とレーザ出力の減少の二つの作用により波長変換出力が著しく減少することになる。 【0063】 この実施の形態5ではこれを防ぐために、波長変換素子41の二つの部分で冷却方向を変化させて組み合わせ、その屈折率分布を固体素子3内のものと相似の分布形状にしている。例えば、波長変換素子41の上下面から温度コントロール板80Bで挟み込んで冷却すると、波長変換素子41内の屈折率分布は図14(a)に示すようになる。さらに波長変換素子41の左右面から温度コントロール板80Bで挟み込んで冷却すると、波長変換素子41内の屈折率分布は図14(b)に示すようになる。即ち、図14(a)及び(b)に示す屈折率分布を持った波長変換素子41を光軸上に直列に配置すると、その光軸からみた合成屈折率分布は図15に示すようになる。この合成屈折率分布は、図13に示した固体素子3内に発生した温度分布に基づく屈折率分布と相似の軸対称に近い形状に構成することができる。従って、高出力域での発振を安定させることができる。 【0064】 以上のように、この実施の形態5によれば、効率よく高品質で高出力な基本波のレーザビーム14を波長変換素子41近傍に発生させ、基本波のレーザビーム14により効率よく波長変換を実現して、実施の形態4と比較してより高出力の波長変換レーザビーム16を安定して発生させることができる効果が得られる。 【0065】 実施の形態6. 図16はこの発明の実施の形態6による固体レーザ装置を示す横断面図である。図において、図11と同一符号は同一または相当部分を示している。この実施の形態6では、二つの波長変換素子41を所定の間隔をあけて光軸方向に直列に配置し、二つの波長変換素子41のそれぞれは上下方向及び左右方向から一対の温度コントロール板80Bにより挟み込まれている。 【0066】 次に動作について説明する。 二つの波長変換素子41のそれぞれは独立に温度制御される。即ち、波長変換素子41の光軸に垂直な断面において、一方を上下方向から温度制御し、他方を左右方向から温度制御している。そして、断面方向から見たそれらの波長変換素子41内の熱変形分布が、少なくとも中央部で対称で、固体素子3内の熱変形分布と相似の形状となるように、二つの波長変換素子41の温度制御を組み合わせて実行する。 【0067】 この様に構成することにより、実施の形態5と同様、波長変換素子41内の合成屈折率分布を固体素子3内に発生した温度分布に基づく屈折率分布と相似の軸対象に近い形状に構成することができるので、高出力域での発振を安定させることができる。 さらに、波長変換素子41を2つ設けた構成にしたので、各波長変換素子41の温度を別々に制御するなどの手段を比較的容易に取ることができる。また、実施の形態5に比べ、各波長変換素子41内での熱の流れが単純化されるために温度制御しやすくなった。このため、断面方向から見た熱変形が、少なくとも中央部が対称で、固体素子3内の熱変形とより相似の分布形状に近くなるように制御でき、高出力域での発振を極めて安定させることができる。 【0068】 以上のように、この実施の形態6によれば、効率よく高品質で高出力な基本波のレーザビーム14を波長変換素子41近傍に発生させ、基本波のレーザビーム14により効率よく波長変換を実現して、高出力の波長変換レーザビーム16を安定して発生させることができ上に、実施の形態5に比較して波長変換素子41の温度制御を容易にできる効果が得られる。 【0069】 実施の形態7. 図17はこの発明の実施の形態7による固体レーザ装置に係る波長変換素子41の近傍を拡大して示す断面図である。図17において、図16と同一符号は同一または相当部分を示しており、20は波長変換素子41を内包するフローチューブである。この実施の形態7では、図17に示すように、波長変換素子41の断面形状は固体素子3の断面形状と同一になるように、波長変換素子41は構成されている。 【0070】 次に動作について説明する。 円柱形の波長変換素子41を用いて、これを周囲から水冷することにより、固体素子3内の断面内の熱変形分布を固体素子3内のものと相似に近い分布形状になるように温度制御する。この温度制御機構の構成は図2(a)に示した固体素子3における構成と同様であり、フローチューブ20と波長変換素子41の間に冷却水を流して水冷する。さらに側板101を設けて水路を構成している。 【0071】 この様に構成しても、光軸の断面方向から見た波長変換素子41内の熱変形は固体素子3内の熱変形とより相似の分布形状となるように制御でき、高出力域での発振がより安定した。 【0072】 以上のように、この実施の形態7によれば、効率よく高品質で高出力な基本波のレーザビーム14を波長変換素子41近傍に発生させ、基本波のレーザビーム14により効率よく波長変換を実現して、高出力の波長変換レーザビーム16を安定して発生させることができる効果が得られる。 【0073】 なお、実施の形態5から実施の形態7における波長変換素子41の温度制御機構は、偏光旋光子95を用いない構成でも、図5(a),(b)に示す基本偏光モードのいずれかのレーザビーム14を容易に発振させることができ、レーザ出力をある程度向上することができる。 さらに、実施の形態5から実施の形態7では固体素子3を複数設けた固体レーザ装置について説明したが、これに限らず固体素子3が一つで構成されているものにも適用できる。 【0074】 実施の形態8. 図18はこの発明の実施の形態8による固体レーザ装置を示す横断面図である。図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示しており、6a,6bはレンズである。この実施の形態8では実施の形態1における部分反射ミラー12の代わりに、レンズ6a及び6bと部分反射ミラー12とからなるいわゆる像転写光学系を用いている。 【0075】 次に動作について説明する。 この構成の固体レーザ装置では、固体素子3の端面近傍のレーザビームパターンを部分反射ミラー12に転送するために、ほぼ一定のレーザビーム径を持つレーザビーム14を外部に出射する。出射されたレーザビーム14は、レンズ6bにより平行光に変換されてレーザ加工ステーションなどに導かれて、レーザ切断、溶接加工、レーザ穴あけ、レーザアブレーション、他の固体素子の励起などに用いられる。 【0076】 この実施の形態8でも実施の形態1と同様、複数列設した固体素子3間の少なくとも1カ所に偏光旋光子95を備えると共に、偏光旋光子95の角度を調節する機構である角度調節器96を備えて複数の固体素子3間の光軸の微調整を行うように構成する。従って、複数の固体素子3内に発生した偏光方向により異なる熱レンズ作用を打ち消して、レーザ共振器の損失、その変動を低減し、効率よく高品質なレーザビーム14を安定して発生させることができる。 【0077】 また、レンズ6a及び6bと部分反射ミラー12とからなるいわゆる像転写光学系は、等価的に、固体素子3の端面近傍に曲率を持った部分反射ミラー12を備えたのと同じ作用を行う。その曲率は、部分反射ミラー12とレンズ6a,6bの間の距離を変更することにより変化させることができるので、例えば固体素子3が励起されて、熱変形して熱レンズ作用を持った場合に、像転写光学系の等価曲率を変化させて、熱レンズ作用の補正を実現できる。 この場合、部分反射ミラー12とレンズ6a,6bの間の距離を、ピエゾ素子により移動させるようにすれば、高速で固体素子3の熱レンズ作用の補正を実現できる。 【0078】 この熱レンズ作用補正により、実施の形態1の動作の説明で示した図6(a)に示す、曲線E1,E2の重なりで表す動作領域のうち、その中心部の安定領域を移動させて、励起光源4の出力の変動に合わせて、常に安定領域で発振するように変化させることができる。 【0079】 以上のように、この実施の形態8によれば、複数の固体素子3内に発生した偏光方向により異なる熱レンズ作用を打ち消して、レーザビーム発生の損失や変動を低減し、効率よく高品質なレーザビーム14を安定して発生させることができる効果が得られる。また、部分反射ミラー12とレンズ6a,6bの間の距離をピエゾ素子等により移動させることにより、高速で固体素子3の熱レンズ作用の補正できる効果が得られる。 【0080】 なお、この熱レンズ作用補正光学系は、実施の形態1に限らず、他の実施の形態にも同様に適用できるのは言うまでもない。 【0081】 また、この実施の形態8のレーザ共振器の構成は上記のものに限定するものではなく、レーザビーム14の集光点Rよりもいずれかの固体素子3の内部又はその近傍でレーザビーム14のビーム径が大きくなる様に構成すれば良い。例えば、図19に示すように、曲率が1m以下の小さな凸ミラーを反射ミラー1として設けても良い。 この様に構成すれば、固体素子3の近傍の光路を、実施の形態1とほとんど同様に保ったままで、レーザ共振器の長さを短くしてコンパクトにできる。 【0082】 また、例えば図20に示すように、折り返しミラー11によりレーザ共振器を折り返して、装置の長さを短くして構成しても良い。さらに、図21,図22に示すように、両側に曲率が例えば1m以下の小さいミラーを備えても良いし、折り返し構造を導入して、例えば図23の様に構成しても良い。 【0083】 折り返しミラー11を用いたレーザ共振器では、折り返しミラー11の反射率が紙面垂直方向と、水平方向で異なり、これにより、レーザ共振器内の偏光が紙面方向に長軸がそろった楕円偏光になることがある。楕円偏光のレーザビーム14は、図5(a),(b)に示す基本偏光モードの2つが同時に発振しないと実現できない。即ち、固体素子3内レーザビーム径が図6(b)に示すように重なり部分が多い状態である必要がある。従って、このような折り返しミラー11を用いたレーザ共振器で構成された固体レーザ装置では、この発明における複数の列設した固体素子3と偏光旋光子95とを用いた構成の効果が一層高まる。 【0084】 また、上記いずれの実施の形態においても、固体素子3近傍に部分反射ミラー12を配置する構成を示したが、これに限るものでなく、任意のミラーを部分反射ミラーにしてレーザビーム14を取り出しても良い。 【0085】 また、上記いずれの実施の形態においても、固体レーザ装置は、偏光旋光子95の光軸に対する角度を調節する角度調節機構を備えていたが、初期設定の精度向上、もしくは、取り付けねじの可動範囲で調整が可能なこともある。 【0086】 また、固体素子3を2個用いる例について説明したが、これに限るものではなく、2個以上でも良いし、この場合、偏光旋光子95は、固体素子3の間の全部の場所に配置しても良いし、いくつかの選択した位置に配置しても良い。 また、くさび状部材も固体素子3の間の全部の場所に配置しても良いし、いくつかの選択した位置に配置しても良い。 さらに、固体素子3の端部を左右上下に移動する機構も、すべての固体素子3に設けてもよいし、いくつかの選択した固体素子3に設けても良い。 【0087】 実施の形態9. 図24(a)はこの発明の実施の形態9による固体レーザ装置の励起部の詳細を示す長手方向の縦断面図、図24(b)は短手方向の縦断面図である。図において、図2(a)及び図2(b)と同一符号は同一または相当部分を示している。この実施の形態9によれば、集光器8の断面形状は楕円であり、固体素子3とアークランプなどの励起光源4とはそれぞれ楕円形状の集光器8内の共焦点に配置されている。 【0088】 次に動作について説明する。 電源5は励起光源4を点灯しここから発せられた励起光40は、集光器8内で拡散反射され、固体素子3をその周囲から均一に励起する。実施の形態1の説明で述べた拡散反射集光面を備えた集光器8の場合、励起光源4の出力が小さい際には集光器8の作用で固体素子3の断面内でほぼ均一なレーザ媒質が形成されるが、励起光源4の出力を極端に強くすると、励起光源4に近い側が強く励起される傾向がある。この場合、励起光源4に近い側の熱レンズ作用が強く、遠い側の熱レンズ作用が相対的に弱くなると言うように熱レンズ作用に分布ができ、実施の形態1の動作で説明した偏光旋光子95の効果を弱めてしまう。 【0089】 これに対して、図24(a)及び図24(b)に示すこの実施の形態9による固体レーザ装置では、集光器8の断面を楕円形状とし、固体素子3及び励起光源4をそれぞれ楕円の共焦点に配置することにより、拡散反射効果に加えて楕円形状の反射面の集光効果を利用して均一励起を実現している。励起光源4から発せられた励起光40は集光器8の内面で拡散反射されるが、その散乱中心成分は楕円の内面の形状に従って反射し、楕円の集光作用により第一の共焦点に配置された固体素子3の周囲からこれを均一に励起する。 【0090】 以上のように、この実施の形態9によれば、励起光源4の出力を極端に強くした場合にも均一な励起が保証でき、複数の固体素子3間に備えられた偏光旋光子95の作用と合わせて、複数の固体素子3を設けた際に生じる損失や変動を低減する。従って、レーザ媒質から損失なくレーザビーム14を取り出すことができ、効率よく高品質なレーザビーム14を安定して発生できる効果が得られる。 なお、拡散反射を用いているため楕円の精度には裕度があり、完全な楕円でなくても楕円に近い形状であれば、同様の効果が期待できる。 【0091】 実施の形態10. 図25はこの発明の実施の形態10による固体レーザ装置を示す断面図である。図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示しており、24は連結用反射ミラー(連結光学手段)、110は例えばステンレス鋼やアクリルの板から成るモジュール基台であり、固体素子3、励起光源4、集光器8、及び偏光旋光子95を一つのモジュール基台110上に配置して、一つの励起モジュールとして一体化している。また、200aは第一の励起モジュール、200bは第二の励起モジュールである。 レーザ共振器は、部分反射ミラー12と連結用反射ミラー24と反射ミラー1とから構成される。部分反射ミラー12と連結用反射ミラー24との間を往復する第一の光路の光学条件と、連結用反射ミラー24と反射ミラー1との間を往復する第二の光路の光学条件とは同一に設定されている。この設定は、例えば、部分反射ミラー12の曲率と反射ミラー1の曲率とを同一にし、部分反射ミラー12及び反射ミラー1のそれぞれと連結用反射ミラー24との間の距離を同一にすることによって実現できる。 【0092】 次に動作について説明する。 この実施の形態10においては、部分反射ミラー12と連結用反射ミラー24との間の第二の励起モジュール200bの光学条件と、反射ミラー1と連結用反射ミラー24との間の第一の励起モジュール200aの光学条件とが同一になるように、これらの光学系を含む固体レーザ装置が構成される。即ち、連結用反射ミラー24を図26に示すように部分反射ミラー12に向けて仮想的に回転させた場合、部分反射ミラー12と連結用反射ミラー24とで構成されるレーザ共振器内をレーザビーム14が往復し、第二の励起モジュール200bからレーザビーム14を取り出すことができる。また、連結用反射ミラー24を仮想的に回転させてレーザビーム14が反射ミラー1方向にも伝搬するようにすると(反射ミラー1又は連結用反射ミラー24が部分反射ミラーと仮定すると)、レーザビーム14が第一の励起モジュール200aからも取り出されるように構成されている。従って、第一の励起モジュール200aを通過するレーザビーム14の光学条件は第二の励起モジュール200bを通過するレーザビーム14の光学条件と同一であるから、二つの光路内でその長手方向において同一のレーザビーム外形形状の軌跡が現れる(即ち、レーザビーム14の外形形状の変化が同様に現れる)。レーザビーム14の品質などの変化はなく、ほぼ同一品質のレーザビーム14が、第一の励起モジュール200aと第二の励起モジュール200bとの連結からおおよそ2倍に出力が向上して発生され得る。このように複数の励起モジュールを連結することにより、一つの励起モジュールで得られる出力より高いレーザ出力を得ることができる。得られたレーザビーム14は、レーザ加工ステーションなどに導かれて、レーザ切断、溶接加工、レーザ穴あけ、レーザアブレーション、他の固体レーザ素子の励起などに使用され得る。 【0093】 この実施の形態10においては、部分反射ミラー12、連結用反射ミラー24、及び反射ミラー1として凹ミラーを用いた例を示したが、図27に示すように凹ミラーを凸ミラーに換えても同様な効果が得られる。さらに、図28に示すように連結用反射ミラー24を凸ミラーに、部分反射ミラー12及び反射ミラー1を凹ミラーとしてもよい。要は、第一の励起モジュール200a内のレーザビーム14の外形形状の軌跡と第二の励起モジュール200b内のレーザビーム14の外形形状の軌跡とが同一になるように構成すればよい。この場合、凸ミラーによるレーザビーム14の発散は固体素子3の熱レンズ作用による収束によりほぼ相殺され、レーザビーム14はレーザ共振器内にとじ込められる。 【0094】 この実施の形態10においては、第一の励起モジュール200aと第二の励起モジュール200bとを一つの連結用反射ミラー24で連結した例を示したが、図29に示すように更に励起モジュールの数を増やし、例えば第一〜第三の励起モジュール200a,200b,200cのように3つの励起モジュールを連結してもよい。励起モジュールを増やしても、各励起モジュール内の光路における光学条件を同一にすることにより、レーザビーム品質を維持しつついくらでもレーザ出力を向上させることができる。図30は、実際に実験で得られたレーザ出力とレーザビーム品質との関係を示すグラフ図である。図中、横軸は励起光源4の出力(W)、縦軸はレーザ出力(W)及びレーザビーム品質(M2)を示し、直線P1と曲線Q1とはそれぞれ一つの励起モジュールの発振特性とレーザビーム品質とを示しており、直線P2と曲線Q2とはこの実施の形態に10による二つの励起モジュール200a,200bの発振特性とレーザビーム品質とを示している。レーザビーム品質(M2)は、レーザビーム14の発散角がガウス状のレーザビーム14の発散角の理論限界の何倍になるかを示す指標であり、この値が小さいほどレーザビーム品質が良い。図30から明らかなように、励起モジュールの数を増加させることにより、レーザ出力を向上させることができる。励起モジュールの数にほぼ比例してレーザ出力の向上が図られる。 【0095】 以上のように、この実施の形態10によれば、複数の固体素子3を設けた際に生じる損失や変動を低減し、レーザ媒質から損失なくレーザビーム14を取り出すことができ、高品質で高出力なレーザビーム14を効率よく且つ安定して発生させることができる効果が得られる。さらに、第一〜第三の励起モジュール200a,200b,200cはそれぞれモジュール基台110上に一体化されているので、各励起モジュールを精度良く連結でき安定した動作を得ることができる効果が得られる。 【0096】 実施の形態11. 図31はこの発明の実施の形態11による固体レーザ装置を示す断面図である。図において、図25と同一符号は同一または相当部分を示しており、26は二つの励起モジュール200a,200bを連結するためのレンズである。この実施の形態11ではレンズ26が上記実施の形態10の連結用反射ミラー24の役割すなわち連結手段の役割を果たしている。 【0097】 次に動作について説明する。 上記実施の形態10の連結用反射ミラー24の曲率の半分の焦点距離を持つレンズ26の配置により上記実施の形態10と同様に、二つの励起モジュール200a,200bの光路内で固体素子3の長手方向に沿って同一のレーザビーム外形形状の軌跡(即ち、レーザビーム外形形状の変化)が現れる。 【0098】 このようにすると、レーザ共振器を直線上に配置することもできるし、さらに、図32に示すようにフラット反射ミラー9a,9bと組み合わせて、装置を短く構成することができる。この場合、フラット反射ミラー9a,9bがS偏光とP偏光で反射率が異なるので、図33に示すように、第一の励起モジュール200aと第二の励起モジュール200bとの間に偏光素子98を配置して、P偏光、S偏光に対する反射率の平均化を計っても良い。例えば、フラット反射ミラー9aに、紙面に垂直な方向の直線偏光が主成分であるレーザビーム14が入射したとする。この直線偏光のレーザビーム14はフラット反射ミラー9aに入射する以前に、紙面と垂直な面内で45度傾けて配置された1/4波長板からなる偏光素子98の作用により、円偏光に変換される。この円偏光のレーザビーム14は、フラット反射ミラー9aで反射されレンズ26を通過しフラット反射ミラー9bで反射された後、第一の励起モジュール200aを通過して、反射ミラー1に入射する。レーザビーム14は反射ミラー1で反射されると、その円偏光の回転方向が逆になる。回転方向が逆になった円偏光のレーザビーム14は、第一の励起モジュール200a、フラット反射ミラー9b、レンズ26、及びフラット反射ミラー9aを経た後偏光素子98に再度入射し、偏光素子98の作用によりその偏光方向が紙面と平行な方向に変換される。このように、図33に示す偏光素子98を挿入することにより、紙面に垂直な又は平行な直線偏光が発生しても、第一の励起モジュール200aと第二の励起モジュール200bとを往復するたびに、その直線方向は直ちにこれと垂直な方向、即ち、紙面に垂直な成分は平行な成分へ、紙面に平行な成分は垂直な成分へと変換してそれら2つの成分の出力を平均化するので、偏光方向がいずれかの方向に偏ることを防止することができる。これに対して、図32に示すような偏光素子98が無い場合、フラット反射ミラー9a,9bの折り返し方向によって、紙面に垂直な又は平行な直線偏光のレーザビーム成分の出力がより大きくなってしまう。 【0099】 以上のように、この実施の形態11によれば、実施の形態10と同様に、複数の固体素子3を設けた際に生じる損失や変動を低減し、レーザ媒質から損失なくレーザビーム14を取り出すことができ、高品質で高出力なレーザビーム14を効率よく且つ安定して発生させることができる効果が得られる。さらに、第一の励起モジュール200a及び第二の励起モジュール200bはそれぞれモジュール基台110上に一体化されているので、安定して励起モジュールを連結できる効果が得られる。 【0100】 実施の形態12. 図34はこの発明の実施の形態12による固体レーザ装置を示す断面図である。図において、図において、図25と同一符号は同一または相当部分を示している。上記実施の形態10及び11と同様に、固体素子3、励起光源4、集光器8、及び偏光旋光子95を一つのモジュール基台110上に配置して一つの励起モジュールとして一体化している。この実施の形態12による固体レーザ装置は、レーザ発振器-レーザ増幅器構成を有しており、部分反射ミラー12と反射ミラー1とから構成されるレーザ共振器を備えたレーザ発振器である第一の励起モジュール200aから放射されたレーザビーム14が第二の励起モジュール200bを1回通過するように構成されており、第二の励起モジュール200bによってレーザビーム14は増幅されるように構成されている。 【0101】 次に動作について説明する。 部分反射ミラー12と反射ミラー1とから構成されるレーザ共振器により、紙面で左側に配置されたレーザ発振器である第一の励起モジュール200aからレーザビーム14が発生する。部分反射ミラー12の外面の曲率は、このミラーの部分反射によって発生したレーザビーム14に対して所定のレンズ作用を与えるように構成されている。ここで、部分反射ミラー12と反射ミラー1との間を往復する第一の光路の光学条件と、第二の励起モジュール200bを通過するレーザビーム14の光学条件(光軸方向でのレーザビーム外形形状の軌跡)とは、上記実施の形態10で説明したものと同様に、同一に設定されている。従って、第一の励起モジュール200aで発生したレーザビーム14のうち部分反射ミラー12から放出されたレーザビーム14は、第二の励起モジュール200b内で同一のレーザビーム14の外形形状の軌跡が現れて通過するとともに、レーザ増幅器である第二の励起モジュール200bで増幅される。 【0102】 上記のような、レーザ発振器-レーザ増幅器の構成は、大きなレーザ出力を取り出すのに有効であり、また、パルスレーザ出力を得るのに適している。上記実施の形態11では、全ての励起モジュール、すなわち第一の励起モジュール200a及び第二の励起モジュール200bをレーザ共振器内に配置し複数の励起モジュールを用いて高出力化を図った。この場合、レーザ共振器内のレーザ出力は外部に取り出されるレーザ出力より大きく、この大きなレーザ出力が全ての励起モジュールを往復することにより、励起モジュールの熱変形や内部の光学部品の熱変形が発生することがある。この実施の形態12では、レーザ共振器内を往復するレーザビーム14は第一の励起モジュール200aのみで発生し、その後、増幅媒質としての第二の励起モジュール200bを1回のみ通過するように、第一の励起モジュール200aと第二の励起モジュール200bとが構成されているので、第一の励起モジュール200a及び第二の励起モジュール200bの熱変形や内部の光学部品の熱変形の度合いを軽減することができる。 【0103】 レーザ媒質の増幅率は、レーザ媒質を通過するレーザビーム14の強度が増加すると飽和する傾向を示すようになる。例えば、入力レーザビーム出力が極めて小さいときに、増幅率が半分に減衰する入力レーザ出力を飽和強度と呼ぶと、この飽和強度程度のレーザ出力が入力されるならば、レーザ共振器を使わなくとも、効率的なレーザ出力を増幅のみで得ることができる。この飽和強度の値は、Nd:YAGレーザを例に取ると、直径8mmのロッドで1500W程度である。従って、1500W程度の大出力レーザ装置を構築する際には、このレーザ発振器-レーザ増幅器の構成を用いることにより効率的にレーザ出力を発生させることができる。 【0104】 図35は、この実施の形態12によるレーザ発振器-レーザ増幅器の構成におけるレーザ発振特性と、1台のレーザ発振器の構成におけるレーザ発振特性とを示すグラフ図である。図中、P3はこの実施の形態12によるレーザ発振器-レーザ増幅器の構成におけるレーザ発振特性を示し、P4はレーザ発振器の構成におけるレーザ発振特性を示している。この図から明らかなように、2000W以上では、この実施の形態12によるレーザ発振器-レーザ増幅器の構成の方が有利である。 【0105】 この実施の形態12において、レーザ発振器は第一の励起モジュール200aのみから構成されていたが、連結された複数の励起モジュールから構成されても良い。各励起モジュール内で光軸方向で同様なレーザビーム外形形状の軌跡(レーザビーム外形形状の変化)が現れるように構成することにより、レーザビーム14の品質を維持したままレーザ出力をいくらでも向上させることができる。 さらに、図36に示すようにフラット反射ミラー9a,9bと組み合わせて、装置を短く構成することもできる。 【0106】 以上のように、この実施の形態12によれば、実施の形態10と同様に、複数の固体素子3を設けた際に生じる損失や変動を低減し、レーザ媒質から損失なくレーザビーム14を取り出すことができ、上記実施の形態10及び実施の形態11と比較して、高品質で高出力なレーザビーム14をより効率よく且つ安定して発生させることができる効果が得られる。また、第一の励起モジュール200a及び第二の励起モジュール200bはそれぞれモジュール基台110上に一体化されているので、安定して励起モジュールを連結できる効果が得られる。さらに、第一の励起モジュール200a及び第二の励起モジュール200bの熱変形や内部の光学部品の熱変形の度合いを軽減することができる効果が得られる。 【0107】 なお、上記いずれの実施の形態においても、固体素子3、フローチューブ20の断面が円形であることを前提として説明したが、いずれも円形に限るものでなく、矩形や楕円でもよい。 【0108】 また、上記いずれの実施の形態においても特に説明しなかったが、フローチューブ20の側面、光学素子など、レーザビーム14が通過する部分のうち、特に指示のない部分にも、通常の光学素子のように無反射薄膜を施せば通過損失が減少し、効率の良いレーザ発振を実現することができる。 【0109】 また、固体素子3としてNd:YAG(Nd:Yttrium Aluminum Garnet)を用いたものについて説明したが、これに限るものでなく、例えば、Nd:YLF(Nd:Lithium Yttrium Fluoride)などを用いることができ、光により励起されてレーザ媒質となり得る素子であれば良く、また固体に限るものでもない。 【0110】 また、各実施の形態において、励起光源4として主として半導体レーザを用いた例を示したが、これに限るものでなく、光励起するための光源、例えばアークランプ、フラッシュランプを用いて図37に示すように光源部を構成しても良い。 【0111】 また、固体素子3として同一の大きさのものを同一の条件で励起する構成を例に取り説明したが、これに限るものではなく、図6(b)に示すごとく、二つの領域が重なるには、固体素子3の長さが異なるもの、異なる特性のものなどを用いたほうが良い場合もあり、さらに励起光源4の出力を複数の固体素子3で変化させても良い場合もある。 【0112】 【発明の効果】 以上のように、請求項1記載の発明によれば、それぞれ活性固体媒質を含み光軸上に互いに離隔して設けられた複数の固体素子と、固体素子を励起する励起手段と、複数の固体素子のいずれか二つの固体素子間の光軸上に設けられ入射するレーザビームの偏光を回転する偏光回転手段と、固体素子で発生したレーザビームを取り出すレーザ光学手段とを備え、励起手段が、固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、レーザ光学手段が、異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するとともに、レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、固体素子の直径と固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたレーザ共振器であることにより、複数の固体素子内に発生した偏光方向により異なるレンズ作用を打ち消して、レーザビーム発生の損失や変動を低減し、効率よく高品質なレーザビームを安定して発生させることができる効果がある。 【0113】 請求項2記載の発明によれば、偏光回転手段を入射したレーザビームが一度通過する間にレーザビームの偏光を総和で約90度回転する少なくとも一つの偏光旋光子を含むように構成したので、複数の固体素子内に発生した偏光方向により異なるレンズ作用を打ち消して、レーザビーム発生の損失や変動を低減し、効率よく高品質なレーザビームを安定して発生させることができる効果がある。 【0114】 請求項3記載の発明によれば、偏光回転手段とこれに入射するレーザビームの光軸とのなす角度を調節する角度調節手段を備えるように構成したので、角度調節手段を用いて偏光回転手段を回転させることにより、複数の固体素子間の光軸ずれを補正することができる効果がある。 【0115】 請求項4記載の発明によれば、複数の固体素子のいずれか二つの固体素子間の光軸上に設けられ入射するレーザビームの光軸位置を補正する光軸補正手段を備えるように構成したので、より容易に複数の固体素子の光軸を調整し一致させることができる上に、大きな軸ずれを補正できる効果がある。 【0116】 請求項5記載の発明によれば、光軸補正手段がくさび状部材であるように構成したので、より容易に複数の固体素子の光軸を調整し一致させることができる上に、大きな軸ずれを補正できる効果がある。 【0117】 請求項6記載の発明によれば、少なくとも一つの固体素子の端部を上下左右方向に移動させる移動手段を備えるように構成したので、容易に複数の固体素子3の光軸を調整し一致させることができる上に、光軸調整のための移動手段を簡易に構成でき固体レーザ装置のコストを下げる効果がある。 【0118】 請求項7記載の発明によれば、固体素子で発生したレーザビームの波長を変換する波長変換手段を備えるように構成したので、固体素子の複屈折による損失の発生を防いで、効率よく高品質で高出力な基本波レーザビームを波長変換手段近傍に発生させ、基本波レーザビームにより効率よく波長変換を実現して、高出力の波長変換レーザビームを安定して発生させることができる効果がある。 【0119】 請求項8記載の発明によれば、波長変換手段の断面の熱変形分布形状が固体素子の断面内の熱変形分布形状と相似であるように波長変換手段の温度を制御する温度制御手段を備えるように構成したので、固体素子の複屈折による損失の発生を防いで、効率よく高品質で高出力な基本波レーザビームをレーザ共振器内に発生させ、基本波レーザビームにより効率よく波長変換を実現して、高出力の波長変換レーザビームをより安定して発生させることができる効果がある。 【0120】 請求項9記載の発明によれば、複数の固体素子の活性固体媒質のそれぞれは楕円形状の集光器の第一の共焦点に配置され、励起手段は楕円形状の集光器の第二の共焦点に配置された励起光源を具備するように構成したので、励起光源の出力を極端に強くした場合にも均一な励起が保証できる効果がある。 【0121】 請求項10記載の発明によれば、少なくとも複数の固体素子、励起手段、及び偏光回転手段が一体に設けられる基台を具備するように構成したので、安定した動作を得ることができる効果がある。 【0122】 請求項11記載の発明によれば、それぞれ活性固体媒質を含み光軸上に互いに離隔して設けられた複数の固体素子、固体素子を励起する励起手段、及び、複数の固体素子のいずれか二つの固体素子間の光軸上に設けられ入射するレーザビームの偏光を回転する偏光回転手段をそれぞれ具備する複数の励起モジュールと、複数の励起モジュールのそれぞれの固体素子内の長手方向におけるレーザビーム外形形状の軌跡が互いに同一になるように複数の励起モジュールを光学的に連結する連結光学手段と、励起モジュールで発生したレーザビームを取り出すレーザ共振器とを備え、励起手段が、固体素子を囲む拡散反射面を有する集光器を備え、かつ、レーザ共振器が、異なる偏光方向の2つのレーザビーム成分を有するレーザビームを発生するとともに、レーザビームの横モード次数が10以上100以下であり、かつ、固体素子の直径と前記固体素子中のガウスレーザビームの直径の比がおよそ10以下になるよう構成されたものであることにより、複数の固体素子を設けた際に生じる損失や変動を低減し、レーザ媒質から損失なくレーザビームを取り出すことができ、高品質で高出力なレーザビームを効率よく且つ安定して発生させることができる効果がある。 【0123】 請求項12記載の発明によれば、偏光回転手段が入射したレーザビームが一度通過する間にレーザビームの偏光を総和で約90度回転する少なくとも一つの偏光旋光子を含むように構成したので、複数の固体素子を設けた際に生じる損失や変動を低減し、レーザ媒質から損失なくレーザビームを取り出すことができ、高品質で高出力なレーザビームを効率よく且つ安定して発生させることができる効果がある。 【0124】 請求項13記載の発明によれば、複数の励起モジュールのいずれか一つはレーザ発振器であり、他の励起モジュールはレーザ増幅器であるように構成したので、複数の固体素子を設けた際に生じる損失や変動を低減し、レーザ媒質から損失なくレーザビームを取り出すことができ、高品質で高出力なレーザビームをさらに効率よく且つ安定して発生させることができる効果がある。 【0125】 請求項14記載の発明によれば、複数の励起モジュールのそれぞれは、該励起モジュールが一体に設けられるモジュール基台を具備するように構成したので、励起モジュールを精度良く連結でき安定した動作を得ることができる効果がある。 【図面の簡単な説明】 【図1】 この発明の実施の形態1による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図2】 実施の形態1による固体レーザ装置を示す図であり、(a)は長手方向の縦断面図、(b)は短手方向の縦断面図、(c)は側面図である。 【図3】 実施の形態1による固体レーザ装置における、レーザ共振器の長さに対するレーザビーム品質及びレーザ共振器の強さを示す特性図である。 【図4】 実施の形態1による固体レーザ装置における、励起光源の出力に対するレーザ出力を示す特性図である。 【図5】 実施の形態1による固体レーザ装置における、レーザビームの基本偏光モードを示す説明図である。 【図6】 実施の形態1による固体レーザ装置における、励起光源の出力に対する固体素子内のレーザビーム径を示す特性図である。 【図7】 実施の形態1による固体レーザ装置における、励起光源の出力と固体素子内のレーザビーム径の関係を示すグラフ図である。 【図8】 実施の形態1による固体レーザ装置における、偏光旋光子を拡大して示す構成図である。 【図9】 この発明の実施の形態2による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図10】 この発明の実施の形態3による固体レーザ装置の固体素子の保持部を詳細に示す断面図である。 【図11】 この発明の実施の形態4による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図12】 この発明の実施の形態5による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図13】 この発明の実施の形態5に係る固体素子の熱変形を示す説明図である。 【図14】 この発明の実施の形態5に係る波長変換素子の熱変形を示す説明図である。 【図15】 この発明の実施の形態5に係る波長変換素子の熱変形を示す説明図である。 【図16】 この発明の実施の形態6による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図17】 この発明の実施の形態7による固体レーザ装置に係る波長変換素子近傍を拡大して示す断面図である。 【図18】 この発明の実施の形態8による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図19】 実施の形態8の一変形例による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図20】 実施の形態8の一変形例による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図21】 実施の形態8の一変形例による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図22】 実施の形態8の一変形例による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図23】 実施の形態8の一変形例による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図24】 この発明の実施の形態9による固体レーザ装置を示す図であり、(a)は長手方向の縦断面図、(b)は短手方向の縦断面図である。 【図25】 この発明の実施の形態10による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図26】 実施の形態10による固体レーザ装置において、連結用反射ミラーを仮想的に回転させた場合を示す図である。 【図27】 この発明の実施の形態10による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図28】 実施の形態10の一変形例による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図29】 実施の形態10の一変形例による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図30】 実施の形態10の固体レーザ装置において、実験で得られたレーザ出力とレーザビーム品質との関係を示すグラフ図である。 【図31】 この発明の実施の形態11による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図32】 実施の形態11の一変形例による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図33】 実施の形態11の一変形例による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図34】 この発明の実施の形態12による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図35】 実施の形態12によるレーザ発振器-レーザ増幅器の構成におけるレーザ発振特性と、1台のレーザ発振器の構成におけるレーザ発振特性との比較を示すグラフ図である。 【図36】 実施の形態12の一変形例による固体レーザ装置を示す横断面図である。 【図37】 従来の固体レーザ装置を示す構成図である。 【符号の説明】 1 反射ミラー(レーザ共振器,レーザ光学手段)、3 固体素子、4 励起光源(励起手段)、8 集光器(励起手段)、12 部分反射ミラー(レーザ共振器,レーザ光学手段)、14 レーザビーム、24 連結用反射ミラー(レーザ共振器,連結光学手段)、26 レンズ(連結光学手段)、41 波長変換素子(波長変換手段)、80A 温度コントロール基台(温度制御手段)、80B 温度コントロール板(温度制御手段)、95 偏光旋光子(偏光回転手段)、96 角度調節器(角度調節手段)、97 ウエッジ基板(光軸補正手段、くさび状部材)、100 基台、101 側板(移動手段)、102 ねじ(移動手段)、103 固体素子端部ホルダー(移動手段)、104 弾性体(移動手段)、110 モジュール基台、200a,200b,200c 第一〜第三の励起モジュール(励起モジュール)。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-09-16 |
出願番号 | 特願平7-329306 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZD
(H01S)
|
最終処分 | 一部取消 |
前審関与審査官 | 金高 敏康 |
特許庁審判長 |
平井 良憲 |
特許庁審判官 |
稲積 義登 町田 光信 |
登録日 | 2001-12-28 |
登録番号 | 特許第3265173号(P3265173) |
権利者 | 三菱電機株式会社 |
発明の名称 | 固体レーザ装置 |
代理人 | 高瀬 彌平 |
代理人 | 宮田 金雄 |
代理人 | 宮田 金雄 |
代理人 | 高瀬 彌平 |