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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1112919
異議申立番号 異議2003-70172  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-01-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-22 
確定日 2004-12-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3304955号「硬化性組成物」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3304955号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 [1]手続きの経緯
本件特許第3304955号に係る出願は、平成3年3月11日に出願された特願平3-45247を原出願とする分割出願として平成12年6月12日に出願され、平成14年5月10日に特許権の設定登録がなされ、その後、旭硝子株式会社より特許異議の申立がなされ、平成15年5月19日付けで取消の理由が通知され、その指定期間内である平成15年7月29日付けで訂正請求書と特許異議意見書の提出がなされ、さらに、平成15年11月19日付けで特許異議申立人から上申書が提出されたものである。
[2]訂正の可否
1.訂正の趣旨
(1)訂正事項A:特許請求の範囲の請求項1における「1.6以下」を「1.5以下」と訂正する。
(2)訂正事項B:特許請求の範囲の請求項1における「(C)成分1〜200重量部」を「(C)成分5〜200重量部」と訂正する。
(3)訂正事項C:特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(4)訂正事項D:請求項3及び4をそれぞれ請求項2及び3に繰上げ、請求項3において引用している「請求項1又は2」を「請求項1」と訂正し、請求項4において引用している「請求項1〜3のいずれか1項」を「請求項1又は2」と訂正する。
(5)訂正事項E:段落【0004】における「1.6以下」及び「(C)成分1〜200重量部」をそれぞれ「1.5以下」及び「(C)成分5〜200重量部」と訂正する。
2.訂正の可否についての判断
(1)訂正事項A
訂正事項Aは、オキシプロピレン重合体のMw/Mnの値である「1.6以下」を「1.5以下」とするものであるが、Mw/Mnの値が好ましくは1.5以下であることは特許明細書の段落【0015】及び原出願の出願当初の明細書に記載されていたことであり、「1.6以下」を「1.5以下」とする訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(2)訂正事項B
訂正事項Bは、(C)成分の炭酸カルシウムの配合量の下限を1重量部から5重量部に変更するものであるが、その配合量は「5〜200部用いることが好ましい。」と特許明細書の段落【0029】及び原出願の出願当初の明細書に記載されていたことであり、配合量範囲の下限を1から5重量部に変更する訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(3)訂正事項C
訂正事項Cは請求項2を削除するのであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(4)訂正事項D
訂正事項Dは訂正事項Cによって請求項2が削除されたのに伴い、請求項3以下の請求項の番号及びそこで引用されている請求項の番号を繰り上げ訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(5)訂正事項E
訂正事項Eは発明の詳細な説明における請求項1に対応する記載である段落【0004】において、訂正事項A及び訂正事項Bによる訂正と同趣旨の訂正を行い、請求項と明細書の整合性を維持しようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
そして、訂正事項A〜Eは、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内での訂正である。
(6)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
[3]本件発明
本件特許第3304955号の請求項に係る発明は、訂正された特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により構成される次のとおりのものである。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)重合体主鎖が【化1】
CH3

式 ―CH―CH2 ―O―
で示される繰返し単位からなり、水酸基又は加水分解性基の結合したケイ素原子を含むケイ素原子含有基を少なくとも1個有するオキシプロピレン重合体であって、Mw/Mnが1.5以下で数平均分子量が6,000以上であるオキシプロピレン重合体、(B)フタル酸エステル系可塑剤、及び、(C)脂肪酸によって表面処理された平均粒子径0.01〜0.15μm以下の炭酸カルシウムを含有し、前記(A)成分100重量部に対し、前記(B)成分1〜150重量部及び前記(C)成分5〜200重量部を配合してなる硬化性組成物。
【請求項2】(A)成分の重合体の数平均分子量が6,000〜30,000である請求項1記載の硬化性組成物。
【請求項3】(A)成分の重合体においてケイ素原子含有基が分子鎖末端に存在する請求項1又は2に記載の硬化性組成物。」
[3]特許異議申立理由
特許異議申立人の主張する特許異議申立理由は、概略以下のとおりである。
1.本件の訂正前の請求項1〜4に係る特許発明は、甲第1号証又は甲第7号証に記載された発明であるから、当該請求項に係る発明は特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当する。
2.本件の訂正前の請求項1〜4に係る特許発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明に基いて、又は甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
3.本件の訂正前の請求項1、3及び4に係る特許発明は、本件特許出願日前の他の出願であって本件特許出願後に出願公開された甲第5号証の出願時の明細書に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件の訂正前の請求項1〜4に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[4]取消理由
取消理由通知の内容は以下のとおりである。
1.刊行物
刊行物1:欧州特許出願公開第0397036号明細書(公開日、平成2年 11月14日、特許異議申立ての甲第1号証(1)、その記載事項に関し ては、甲第1号証(2)(特開平3-72527号公報)参照。)
刊行物2:「フィラーハンドブック」株式会社大成社、昭和62年6月25 日発行、131〜145頁(同甲第2号証)
刊行物3:特開平2-142850号公報(同甲第3号証)
刊行物4:特開昭58-47054号公報(同甲第4号証)
先願明細書1:特願平2-206084号(特開平4-89861号公報= 同甲第5号証参照。なお、発明者、出願人はいずれも本件のそれとは異な る。)
刊行物5:特開昭61-204289号公報(同甲第7号証)
刊行物6:「高性能シーリング材・高分子防水材の新動向」石油化学工業研 究所発行、1983年10月1日発行、36〜44頁(同甲第8号証)
刊行物7:「接着」32巻11号(1988)31〜39頁(同甲第9号 証)
刊行物1〜7、先願明細書1には、旭硝子株式会社が提出した特許異議申立書の9頁23行〜14頁24行に指摘されている発明が記載されているものと認められる。
2.取消理由
(1)訂正前の請求項1に係る発明について
同申立書の17頁17行〜18頁27行に記載されている理由により、刊行物5に記載された発明と認められ、したがって、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。
同申立書の19頁1行〜22頁15行に記載されている理由により、刊行物1及び刊行物3若しくは4に記載された発明に基づいて又は刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、したがって、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
同申立書の23頁6行〜24頁18行に記載されている理由により、先願明細書1に記載された発明と同一と認められ、したがって、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。
(2)訂正前の請求項2に係る発明について
同申立書の25頁2〜8行に記載されている理由により、刊行物1及び刊行物3若しくは4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、したがって、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
(3)訂正前の請求項3に係る発明について
同申立書の25頁20〜24行に記載されている理由により、刊行物5に記載された発明と認められ、したがって、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。
同申立書の25頁26行〜26頁10行に記載されている理由により、刊行物1及び刊行物3若しくは4に記載された発明に基づいて又は刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、したがって、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
同申立書の26頁12〜16行に記載されている理由により、先願明細書1に記載された発明と同一と認められ、したがって、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。
(4)訂正前の請求項4に係る発明について
同申立書の26頁末行〜27頁4行に記載されている理由により、刊行物5に記載された発明と認められ、したがって、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。
同申立書の27頁6〜18行に記載されている理由により、刊行物1及び刊行物3若しくは4に記載された発明に基づいて又は刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、したがって、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
同申立書の27頁20〜24行に記載されている理由により、先願明細書1に記載された発明と同一と認められ、したがって、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。
[5]特許異議申立についての判断
〈1〉刊行物の記載事項
1.刊行物1:欧州特許出願公開第0397036号明細書(公開日、平成2年11月14日、特許異議申立ての甲第1号証(1)、その記載事項に関しては、甲第1号証(2)(特開平3-72527号公報)参照。)
該明細書には次のことが記載されている。
(1)「クレーム
3.複合金属シアン化物錯体触媒の存在下イニシエーターに炭素数3以上のモノエポキシドを開環付加重合させ、つづいて分子末端の水酸基を不飽和基に変換し、さらに不飽和基に加水分解性基を有するヒドロシリコン化合物を反応させることを特徴とする、加水分解性シリル基末端ポリアルキレンオキシドの製造法。

10.請求項3項記載の方法で製造された加水分解性シリル基末端ポリアルキレンオキシドを硬化成分とする湿気硬化性樹脂組成物。」(特許請求の範囲、甲第1号証(2)では特許請求の範囲(4)と(12))
(2)「[従来の技術]
末端に不飽和基を有するポリアルキレンオキシドはそれ単独で硬化反応をおこし、弾性材料として用いる事ができる。又末端不飽和基の反応を利用して加水分解性シリル基などの他の官能基を導入することによって非常に柔軟な硬化性組成物を得ることもできる。上記いずれの場合でも、硬化物に柔軟性を持たせるためには、ポリアルキレンオキシドとして高分子量体のものを用いる必要がある。」(公開明細書第2頁第1欄6〜16行、甲第1号証(2)では第2頁右上欄7行〜16行)
(3)「このポリアルキレンオキシドの末端基当たりの分子量は2000以上、特に4000以上が好ましい。また、末端基の数は2〜8、特に2〜6が好ましい。分子量(末端基当たりの分子量×末端基の数)は1.5万〜8万、特に2万〜5万が好ましい。さらに、このポリアルキレンオキシドから誘導される後述の誘導体の硬化特性の面から、末端基の数は2を越えることがより好ましい。即ち、末端基数の2ポリアルキレンオキシドが高分子量となる程硬化物の架橋点間分子量が大きくなるため、硬化物の伸びは大きくなるが強度等の機械的物性が不充分となるおそれがある。従って、末端基の数が2を越えるポリアルキレンオキシドを使用することによって架橋点を導入しておくことが好ましい。よって特に、ポリアルキレンオキシドとして2.3〜4の末端基を有するポリアルキレンオキシドが好ましい。」(公開明細書第3頁第4欄17行〜39行、甲第1号証(2)では第4頁左上欄最下行〜同頁右上欄17行)
(4)「硬化反応においては、硬化促進触媒を使用してもしなくてもよい。硬化促進触媒としては…オクタン酸錫…等のごときカルボン酸の金属塩:ジブチルアミン-2-エチルヘキソエート等の如きアミン塩:ならびに他の酸性触媒および塩基性触媒を使用しうる。より好ましくは、この触媒を加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシドに対し、0.01〜5wt%配合する。」(公開明細書第4頁6欄35行〜45行、甲第1号証(2)では第5頁左下欄8行〜17行)
(5)「本発明における加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシドには更に必要であれば補強剤、充填剤、可塑剤、タレ止め剤、架橋剤などを含ませてもよい。補強剤としてはカーボンブラック、微粉末シリカなどが、充填剤として炭酸カルシウム、タルク、クレイ、シリカなどが、可塑剤としてはジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルアジペート、塩素化パラフィン及び石油系可塑剤などが、顔料には酸化鉄、酸化クロム、酸化チタンなどの無機顔料及びフタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどの有機顔料が、タレ止め剤として有機酸処理炭酸カルシウム、水添ひまし油、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、微粉末シリカなどがあげられる。架橋剤としては、前記ヒドロシランの水素原子が加水分解性基あるいはアルキル基に変換された化合物、例えばメチルトリメトキシシランやテトラエトキシシランがある。」(公開明細書第4頁第6欄46行〜第5頁第7欄10行、甲第1号証(2)では第5頁左下欄18行〜右下欄16行)
(6)「本発明の加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシドを含む湿気硬化性樹脂組成物は、建造物、航空機、自動車等の被覆組成物およびシーリング組成物またはこれ等の類似物として好適に使用する事ができる。」(公開明細書第5頁第7欄11行〜16行、甲第1号証(2)では第5頁右下欄17行〜第6頁左上欄1行)
(7)「(実施例1)
アリルアルコールを開始剤として亜鉛ヘキサシアノコバルテート触媒にてプロピレンオキシドの重合を行い、片末端不飽和基含有ポリプロピレンオキシドを得た。これにナトリウムメチラートのメタノール溶液を加え、メタノールを除去した後、アリルクロライドを加えて、末端の水酸基を不飽和基に変換した。
得られた不飽和基末端ポリアルキレンオキシドの数平均分子量並びに分子量分布をGPCにて分析した結果、数平均分子量は11,800、分子量分布(Mw/Mn)は1.10であった。
上記末端がアリル基である不飽和基末端ポリアルキレンオキシド1モルに塩化白金酸の存在下メチルジメトキシシラン2モル反応させ、1分子当たり平均2個のメチルジメトキシシリル基を有する加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシドを得た。得られた加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシドの数平均分子量並びに分子量分布をGPCにて分析した結果、数平均分子量は12,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.10であった。
得られた加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシド100重量部に硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート1重量部を混合し、この組成物を大気に暴露し大気中の水分により硬化させた。硬化物の50%モジュラスは3.5Kg/cm2、引張り強度は9.0Kg/cm2、破断伸度は180%であった。
(実施例2)
分子量1,000のジエチレングリコール-プロピレンオキシド付加物を開始剤として亜鉛ヘキサシアノコバルテート触媒にてプロピレンオキシドの重合を行い、ポリプロピレンジオールを得た。これにナトリウムメチラートのメタノール溶液を加え、メタノールを除去した後、アリルクロライドを加えて両末端の水酸基を不飽和基に変換した。得られた不飽和基末端ポリアルキレンオキシドの数平均分子量および分子量分布をGPCにて分析した結果、数平均分子量は14,800、分子量分布(Mw/Mn)は1.10であった。
上記末端がアリル基である不飽和基末端ポリアルキレンオキシド1モルに塩化白金酸の存在下メチルジメトキシシラン2モル反応させて、1分子当たり平均2個のメチルジメトキシシリル基を有する加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシドを得た。得られた加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシドの数平均分子量並びに分子量分布をGPCにて分析した結果、数平均分子量は15,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.10であった。
得られた加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシド100重量部に硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート1重量部を混合し、この組成物を大気に暴露し大気中の水分により硬化させた。硬化物の50%モジュラスは2.8Kg/cm2、引張り強度は8.5Kg/cm2、破断伸度は260%であった。
(実施例3)
分子量1,000のグリセリン-プロピレンオキシド付加物を開始剤として………得られた加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシドの数平均分子量並びに分子量分布をGPCにて分析した結果、数平均分子量は25,000、分子量分布(Mw/Mn)は1.20であった。
得られた加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシド100重量部に硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート1重量部を混合し、この組成物を大気に暴露し大気中の水分により硬化させた。硬化物の50%モジュラスは1.3Kg/cm2、引張り強度は9.2Kg/cm2、破断伸度は240%であった。
(実施例4)
分子量1,000のグリセリン-プロピレンオキシド付加物を開始剤として………得られた加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシドの数平均分子量および分子量分布をGPCにて分析した結果、数平均分子量は25,100、分子量分布(Mw/Mn)は1.20であった。
得られた加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシド100重量部に硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート1重量部を混合し、この組成物を大気に暴露し大気中の水分により硬化させた。硬化物の50%モジュラスは2.1Kg/cm2、引張り強度は10.3Kg/cm2、破断伸度は210%であった。
(実施例5)
分子量1,000のグリセリン-プロピレンオキシド付加物を開始剤として………得られた加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシドの数平均分子量並びに分子量分布をGPCにて分析した結果、数平均分子量は35,100、分子量分布(Mw/Mn)は1.23であった。
得られた加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシド100重量部に硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート1重量部を混合し、この組成物を大気に暴露し大気中の水分により硬化させた。硬化物の50%モジュラスは0.8Kg/cm2、引張り強度は7.8Kg/cm2、破断伸度は280%であった。」(公開明細書5頁7欄24行〜第7頁第11欄5行、甲第1号証(2)では第6頁左上欄6行〜第7頁右下欄16行)
(7)「[発明の効果]
以上示した様に、複合金属シアン化物錯体触媒を用いて重合したポリアルキレンオキシドを用いることによって末端不飽和基を有する高分子量で分子量分布の狭いポリアルキレンオキシドを簡便で実用的な方法で得られる事が本発明によって明らかとなった。また、この不飽和基末端ポリアルキレンオキシドの不飽和基を加水分解性基シリル基に変換することにより、水分の存在下に硬化しうる硬化性樹脂が得られる。この硬化性樹脂の硬化物は優れた物性を有し、シーリング剤等として有用である(公開明細書第7頁11欄6行〜11行、甲第1号証(2)では第7頁右下欄17行〜第8頁左上欄8行)。
2.刊行物2:「フィラーハンドブック」株式会社大成社、昭和62年6月25日発行、131〜145頁(特許異議申立人の提出した甲第2号証)
該刊行物には、1.粉末状無機充填剤、補強剤 1.1炭酸塩 1.1.1沈降製炭酸カルシウム、1.1.2重質炭酸カルシウム という項目があり、1.1.1 沈降製炭酸カルシウムの項には次のことが記載されている。
(1)「さらに、沈降製炭酸カルシウムの一般的な製造で反応条件を比較的早くなるように選んで得られる炭酸カルシウムはコロイド状の微粒子なので、コロイド性炭酸カルシウム(…)、あるいはコロイドにちなんで膠質炭酸カルシウムとも呼ばれている。このコロイド性炭酸カルシウムは有機物等で表面処理しないままでも医薬用、食品添加物栄養剤、アート紙、艶紙などの塗被用顔料として使用されるが、更に炭酸カルシウムの1〜5%量の脂肪酸塩等の有機物で表面処理した炭酸カルシウムはゴム、プラスチック等に混練使用された場合に、補強性その他特殊の性能を与えることから“活性化極微細炭酸カルシウム”(…)ともよばれている。」(131頁右欄4行〜18行)
(2)「2.2 表面処理炭酸カルシウム
コロイド性炭酸カルシウムの表面を脂肪酸塩、あるいはロジン塩などで被覆した製品(それぞれ白艶華CC、白艶華DD)が世界にさきがけて日本で開発されたのは1927年であった。」(133頁左欄27〜31行)
(3)「表3 代表的炭酸カルシウム製品の物理、化学的性質
極微細活性化炭酸カルシウム 軽微性炭カル 重質炭カル
…白艶華CC…白艶華CCR… PC ホワイトン
… … … …
平均粒子 0.04 0.08 3.0 4.0
径μm
… … … …
表面処理 脂肪酸 脂肪酸 なし なし
」(第134頁)
3.刊行物3:特開平2-142850号公報(特許異議申立人の提出した甲第3号証)
(1)「特許請求の範囲
1.(A)分子鎖末端に加水分解性シリコン官能基を有する分子量が約10 00〜約30000のポリアルキレンエーテル100重量部、
(B)分子量が約500〜約5000のポリオキシアルキレンモノエーテ ル10〜100重量部
(C)充填剤5〜300重量部、及び
(D)硬化触媒0.1〜10重量部
からなることを特徴とする室温硬化性組成物。
2.(A)成分の主鎖がポリプロピレンエーテルである請求項1記載の組成 物。」(第1頁左下欄3〜14行)
(2)「産業上の利用分野
本発明は、室温硬化性組成物、更に詳しくは空気中の水分に触れてゴム様物質へと室温硬化するシーリング材として有用な室温硬化性組成物に関する。」(第1頁右下欄3〜7行)
(3)「実施例
以下に実施例及び比較例を掲げて、本発明をより一層明らかにする。
実施例1〜4
分子鎖末端にメトキシシリル基及び基
CH3

(CH3O)2―Si―(―CH2―)2―を有する平均分子量約80000のポリプロピレンエーテル100部に、下記第1表に示す部数の、…、実施例1〜4の組成物(硬化物)を調整した。
第1表中の充填剤、揺変剤及び安定剤は、具体的には以下の通りである。
白艶華CC-R:脂肪酸処理コロイダル炭酸カルシウム、白石工業株式会社製…。」(第5頁左上欄3行〜同頁右上欄12行)
(4)「比較例1〜2
実施例1〜4で使用したものと同じ、加水分解性シリコン官能基を有するポリプロピレンエーテル100部に対し、第1表に示す部数のフタル酸系可塑剤(比較例1のみ)、炭酸カルシウム系充填剤、酸化チタン系顔料、水添ヒマシ油系揺変剤及びヒンダードアミン系光安定剤を加え、三本ロールで均一に練り混ぜた後、オクチル酸スズ及びラウリルアミンを加えて均一に混合し、比較例1〜2の組成物(硬化物)を調製し、実施例1〜4の組成物と同様の試験を行なった。その結果を第1表に併せて示す。
第1表(抜粋)
…… 比較例1
……
可塑剤 ジオクチルフタレート 40
白艶華CC-R 80
…… 」(第5頁左下欄14行〜第6頁右上欄)
4.刊行物4:特開昭58-47054号公報(特許異議申立人の提出した甲第4号証)
(1)「特許請求の範囲
1.(A)少なくとも1つの加水分解性珪素基及び/又はシラノール基を含有し、主鎖が本質的に-R-O-(Rは2価のアルキレン基)で示される化学的に結合された繰り返し単位を有するものであって、且つ分子量が500〜15000であるポリエーテルと、
(B)エポキシ基含有化合物とを、
有効成分として含有することを特徴とする室温硬化性組成物。」(第1頁左下欄3〜12行)
(2)「本発明組成物は1液および2液の弾性シーラントとして特に有用であり、建造物、船舶、自動車、道路などの密封剤として使用しうる。」(第4頁左上欄17〜19行)
(3)「本発明の珪素基含有ポリエーテルは、種々の充填剤を配合する事により変性しうる。充填剤としては、…の如き補強性充填剤;炭酸カルシウム…の如き充填剤;…の如き繊維状充填剤が使用できる。これら充填剤で強度の高い硬化組成物を得たい場合には、主にフュームシリカ、沈降性シリカ、無水珪酸、含水珪酸、カーボンブラック、表面処理微細炭酸カルシウム、焼成クレー、クレーおよび活性亜鉛華などから選ばれる充填剤を珪素基含有ポリエーテル100重量部に対し1〜100重量部の範囲で使用すれば好ましい結果が得られる。」(公報第3頁右上欄11行〜同頁左下欄8行)
(4)「本発明において、可塑剤を充填剤と併用して使用すると硬化物の伸びを大きくできたり、多量の充填剤を混入できたりするのでより有効である。該可塑剤としては、一般によく使用されている、例えばジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレートなどの如きフタル酸エステル類;…などの可塑剤が単独又は2種以上の混合物の形で任意に使用できる。可塑剤量は、珪素基含有ポリエーテル100重量部に対し0〜100重量部の範囲で使用すると好ましい結果が得られる。」(第3頁左下欄17行〜同頁右下17行)
(5)「実施例1
平均分子量8000、末端基として
CH3

(CH3)2Si―CH2CH2CH2―O―〔なお、(CH3)2は(CH3O)2の誤りと認められる。〕基を全末端基のうち80%有するポリプロピレンオキシド100重量部に対し、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル20重量部、ジオクチルフタレート45重量部、…脂肪酸処理炭酸カルシウム(白石カルシウム製、商品CCR)100重量部、…オクチル酸錫4重量部、ラウリルアミン0.75重量部を加え、三本ペイントロールでよく混合した配合物を作製する。」(第4頁右上欄7行〜同頁左下欄9行)
5.刊行物5:特開昭61-204289号公報(特許異議申立人の提出した甲第7号証)
(1)「特許請求の範囲
1.分子末端に加水分解性珪素基を有するポリオキシアルキレンエーテル主鎖重合体を成分とする組成物において、第1級および/または第2級アミノ基を有するアミノ化合物とカルボニル化合物との反応生成物乃至混合物を配合したことを特徴とする湿気硬化性シーリング材組成物。」(第1頁左下欄3〜9行)
(2)「本発明における分子末端に加水分解性珪素基を有するポリオキシアルキレンエーテル主鎖重合体は特開昭50-156599号公報、特開昭52-73998号公報に詳しく開示されており、例えば、鐘淵化学工業(株)から「MS ポリマー」名の市販品を入手することができる。」(第2頁左上欄2行〜7行)
(3)「本発明における重合体(珪素含有ポリエーテル重合体)は、種々の充填剤を配合する事により変性しうる。充填剤としては、…の如き補強性充填剤;炭酸カルシウム…の如き充填剤;…の如き繊維状充填剤が使用できる。これら充填剤で強度の高い硬化組成物を得たい場合には、主にフュームシリカ、沈降性シリカ、無水珪酸、含水珪酸、カーボンブラック、表面処理微細炭酸カルシウム、焼成クレー、クレーおよび活性亜鉛華などから選ばれる充填剤を珪素末端ポリエーテル重合体100部(重量部、以下同様)に対し1〜100部の範囲で使用すれば好ましい結果が得られる。」(第3頁左下欄7行〜同頁右下欄4行)
(4)「本発明において、可塑剤を充填剤と併用して使用すると硬化物の伸びを大きくできたり、多量の充填剤を混入できたりするのでより有効である。該可塑剤としては、一般によく使用されている、例えばジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレートなどの如きフタル酸エステル類;…などの可塑剤が単独又は2種以上の混合物の形で任意に使用できる。可塑剤量は、珪素含有ポリエーテル重合体100部に対し0〜100部の範囲で使用すると好ましい結果が得られる。」(第3頁右下欄13行〜第4頁左上欄13行)
(5)「実施例1」
アミノ基ブロックアミン化合物の製造
………………。
次いで、下記配合組成分を混合撹拌して湿気硬化性シーリング材組成物を調整する。
成分
珪素含有ポリエーテル重合体(MSP-20A)
鐘淵化学工業(株)製 …45部
ジオクチルフタレート …10部
上記アミノ基ブロックアミン化合物溶液 …3.0部
炭酸カルシウム …45部
酸化チタン …3.5部
ジブチル錫ジラウレート …0.5部
無水シリカ粉 …1.5部 」(第4頁右上欄12行〜左下欄16行)
6.刊行物6:「高性能シーリング材・高分子防水材の新動向」石油化学工業研究所発行、1983年10月1日発行、36〜44頁(特許異議申立人の提出した甲第8号証)
(1)「3 変成シリコーン系シーリング材
3.1概要
変成シリコーンポリマーはポリオキシプロピレンエーテルの主鎖に末端に反応性のアルコキシシリル基を有する液状ポリマーである。基本的な構造式を下記に示す。
R1 CH3
| |
(RO)2Si―CH2CH2CH2O―(―CHCH2―)n―
R1

―CH2CH2CH2Si(OR)2
(平均分子量 約8,000)」(第36頁25行〜第37頁5行)
(2)「〈組成例〉
種類 原料 配合(重量部)
基材 主成分 変性シリコーンポリマー 35〜50
可塑剤 フタル酸エステル類 10〜25
充填剤 炭酸カルシウム等 20〜50
… … …
硬化剤 触媒 金属化合物など 10〜35
液状成分 可塑剤など 40〜60
充填剤 炭酸カルシウム等 10〜40
… … … 」(第38頁)
7.刊行物7:「接着」32巻11号(1988)31〜39頁(特許異議申立人の提出した甲第9号証)
該刊行物には「新しい反応性ポリマーを用いた反応硬化型粘着剤」と題する新材料に関する紹介文が載せられており、該紹介文には次のことが記載されている。
(1)「最近日本において反応性シリル官能基を分子鎖末端に有する、一連の新しいタイプの液状ゴム〔メチルジメトキシシリル基末端ポリプロピレンオキシド、商品名「カネカMSポリマー」、「カネカサイリル」、鐘淵化学工業(株)が開発された。「MSポリマー」は1成分型および2成分型の高性能弾性シーリング材用のベースポリマーとして、近年使用量が急増している。」(第31頁左欄22行〜28行)
(2)「表1 シリル基末端ポリプロピレンオキシドの種類
ポリマーグレード 官能基 平均分子量 粘度
MSポリマー20A -SiCH3(OCH3)2 8500 …
… … … …
MSポリマー:弾性シーリング材用
…」(第31頁右欄20行〜33行)
〈2〉対比、進歩性の判断
1.本件請求項1に係る発明(以後、「本件発明1」という、請求項2以下も同様)について
先ず、本件発明1と、刊行物1に記載された発明を対比する。
刊行物1に記載された発明は加水分解性シリル基末端ポリアルキレンオキシドを硬化成分とする湿気硬化性樹脂組成物(特許請求の範囲)(1.(1))に係るものであり、この「加水分解性シリル基末端」とはその文言から加水分解性基を有しケイ素を含有する末端基のことであると理解されるから〔なお、刊行物1の各実施例(1.(7))ではメチルジメトキシシリル基を加水分解性シリル基と言っていることことからもこのことは明らかである。〕、刊行物1の「加水分解性シリル基末端基」は本件発明1の「加水分解性基の結合したケイ素原子を含むケイ素原子含有基」と異なるものではない。
刊行物1の「ポリアルキレンオキシド」は「炭素数3以上のモノエポキシドを開環付加重合させる」ものであり(1.(1))、該炭素数3のモノエポキサイドとはプロピレンオキサイドに他ならないから、重合体を構成する主鎖の点でも本件発明の「
CH3

式 ―CH―CH2―O―の繰り返し単位」と異なるものではない。
また、刊行物1の実施例1〜5に数平均分子量12,000〜35,100でかつMw/Mnが1.10〜1.23の加水分解性シリル基末端ポリプロピレンオキシドが記載されているのであるから(1.(7))、この点でも本件発明の「Mw/Mnが1.5以下で数平均分子量が6,000以上であるオキシプロピレン重合体」と異なるものではない。
そして、刊行物1には、加水分解性シリル基末端ポリアルキレンオキシドに充填剤として炭酸カルシウムを使用すること及び可塑剤としてジオクチルフタレートやジブチルフタレートを配合することができることも記載されており(1.(5))、ジオクチルフタレートやジブチルフタレートはフタル酸エステル系のものである。
してみれば、本件発明1と刊行物1に記載された発明は、
「(A)重合体主鎖が
CH3

式 ―CH―CH2―O―
で示される繰返し単位からなり、水酸基又は加水分解性基の結合したケイ素原子を含むケイ素原子含有基を少なくとも1個有するオキシプロピレン重合体であって、Mw/Mnが1.5以下で数平均分子量が6,000以上であるオキシプロピレン重合体、(B)フタル酸エステル系可塑剤、及び、(C)炭酸カルシウムを含有してなる硬化性組成物。」の点で一致し、次の2点で相違すると言うことができる。
相違点1:本件発明1が(B)フタル酸エステル系可塑剤を前記(A)成分100重量部に対して1〜150重量部配合するのに対し、刊行物1ではその配合量について記載がない点
相違点2:本件発明1が(C)脂肪酸によって表面処理された平均粒子径0.01〜0.15μm以下の炭酸カルシウムを前記(A)成分100重量部に対して5〜200重量部を配合するのに対し、刊行物1では単に炭酸カルシウムと記載され、また、その配合量について記載がない点
そこでこれ等の相違点について以下検討する。
先ず相違点1について検討する。
刊行物1にはオクチルフタレートなどのフタル酸エステル系可塑剤を使用することが記載されているのであるから、その好適な配合量を検討することは当業者が当然に行うことであり、さらに、加水分解性基の結合したケイ素を含有するポリオキシプロピレン重合体100重量部に対しフタル酸エステル系可塑剤を1〜150重量部の範囲で配合することは刊行物3〜6にも記載された〔3.(4)、4.(4)(5)、5.(4)(5)、6.(2)〕ことであるから、この相違点は当業者にとって容易になし得る程度のことであると言わざるを得ない。
次に相違点2について検討する。
刊行物2には、沈降製炭酸カルシウムはコロイド性炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウムと呼ばれ、脂肪酸塩等の有機物で表面処理したものは“活性化極微細炭酸カルシウム”と呼ばれていること(2.(1))、コロイド性(膠質)炭酸カルシウムの表面を脂肪酸塩で処理したのが白艶華CCであり1927年にすでに開発され(2.(2))、表3では白艶華CC等の5種の極微細活性化炭酸カルシウムが挙げられており、白艶華CCや白艶華CCRは脂肪酸で表面処理されたものであること、その平均粒子径はそれぞれ0.04μm、0.08μmであることも記載されている(2.(3))。
なお、刊行物3にも白艶華CC-Rが脂肪酸処理コロイダル炭酸カルシウムであることが記載されている(3.(3))〔因みに、本件発明の(C)成分としては白艶華CCや白艶華CC-R等が例示されている。本件明細書段落【0026】〕。
また刊行物4及び5にも「充填剤で強度の高い硬化組成物を得たい場合には、主に…表面処理微細炭酸カルシウム、…などから選ばれる充填剤を使用する」旨の記載もされている(4.(3))(5.(3))。
このようなことからすると、刊行物1の充填剤としての炭酸カルシウムとして、その代表的なものである平均粒径0.04μmあるいは0.08μmであり、脂肪酸によって表面処理された炭酸カルシウムを用いることは当業者が容易に想到し得ることである。
そして、その配合量についても、例えば、加水分解性基の結合したケイ素を含有するポリオキシプロピレン重合体100重量部に対し炭酸カルシウムを5〜200重量部の範囲で配合することが、刊行物3〜6に記載されており〔3.(4)、4.(3)(5)、5.(3)(5)、6.(2)〕、この点も当業者にとって容易になし得る程度のことである。
本件発明1の効果について
特許権者は、分子量分布が狭い(Mw/Mnが小)重合体を使用した場合、フタル酸エステル系可塑剤や炭酸カルシウム充填剤を添加しない組成物に比べて、それらを添加した組成物では引張強度が特に改善されると主張する。
これについて、本件明細書の実施例1、比較例1、参考例1及び参考例2の結果を検討すると、オクチルフタレート(フタル酸エステル系可塑剤)や白艶華CC(炭酸カルシウム充填剤)を添加することによって、引張強度や伸度が向上していることが看取される。
しかし、刊行物4及び5には、「強度の高い硬化組成物を得たい場合には表面処理微細炭酸カルシウム充填剤を珪素末端ポリエーテル重合体100部に対して1〜100部又は5〜100部の範囲で使用するれば好ましい結果が得られる」と記載され(4.(3)及び5.(3))、また、「可塑剤を充填剤と併用して使用すると硬化物の伸びを大きくできたり、多量の充填剤を混入できたりするのでより有効である。該可塑剤としては、…の如きフタル酸エステル類…が使用できる。可塑材料は珪素末端ポリエーテル重合体100部に対して0〜100部の範囲で使用するれば好ましい結果が得られる。」とも記載されている(4.(4)及び5.(4))。
このような記載からすれば、フタル酸エステル系可塑剤や表面処理微細炭酸カルシウム充填剤の添加によって、引張強度や伸度が大となることは容易に予想されることであり、本件発明1が予想外の格別顕著な効果を奏するものとは言えない。
また、特許権者は、本件発明1の組成物は硬化前においては、同一分子量で分子量分布の広い従来の反応性ケイ素基含有オキシプロピレン重合体を含有する組成物に比べて粘度が低く取扱いが容易であるとの効果を主張するが、本件明細書の実施例には合成した重合体の粘度についての記載はあるが、(B)成分のフタル酸エステル系可塑剤と(C)成分の脂肪酸によって表面処理された平均粒径0.01〜0.15μm以下の炭酸カルシウムを添加配合した組成物についての粘度の記載はなく、かかる重合体の粘度の記載をもって直ちに組成物発明の効果と見ることはできない。
しかも、(B)成分のフタル酸エステル系可塑剤と(C)成分の脂肪酸によって表面処理された平均粒径0.01〜0.15μm以下の炭酸カルシウムを添加配合した場合には、当然配合成分や量によって粘度が変わるものと考えられるから、これ等の可塑剤や充填剤の添加によって粘度に少なからぬ影響を生じないと断言することはできない。
以上のとおりであるから、本件明細書の記載から本件発明1の効果が格別のものであるとは認めることはできない。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に対して更に「(A)成分の重合体の数平均分子量が6,000〜30,000である」という要件を付加している。
しかし、この点は刊行物1に記載されているところであるから(1.(7))、本件発明2と刊行物1に記載された発明との相違点及び容易性についての判断は本件発明1の場合と何等異なるところはない。
よって、本件発明2も、本件発明1と同様の理由で、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
3.本件発明3について
本件発明3は、本件発明1に対して更に「(A)成分の重合体においてケイ素原子含有基が分子鎖末端に存在する」という要件を付加している。
しかし、この点は既に刊行物1に記載されているところであるから(3.(1)(7))、本件発明3と刊行物1に記載された発明との相違点及び容易性についての判断は本件発明1の場合と何等異なるところはない。
よって、本件発明3も本件発明1と同様の理由で特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
[6]むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜3に係る特許は特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
硬化性組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)重合体主鎖が
【化1】

で示される繰返し単位からなり、水酸基又は加水分解性基の結合したケイ素原子を含むケイ素原子含有基を少なくとも1個有するオキシプロピレン重合体であって、Mw/Mnが1.5以下で数平均分子量が6,000以上であるオキシプロピレン重合体、(B)フタル酸エステル系可塑剤、及び、(C)脂肪酸によって表面処理された平均粒子径0.01〜0.15μm以下の炭酸カルシウムを含有し、前記(A)成分100重量部に対し、前記(B)成分1〜150重量部及び前記(C)成分5〜200重量部を配合してなる硬化性組成物。
【請求項2】 (A)成分の重合体の数平均分子量が6,000〜30,000である請求項1記載の硬化性組成物。
【請求項3】 (A)成分の重合体においてケイ素原子含有基が分子鎖末端に存在する請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、反応性ケイ素基を含有するオキシプロピレン重合体、可塑剤、及び特定の充填剤を含有する新規な硬化性組成物に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
反応性ケイ素基(水酸基または加水分解性基の結合したケイ素原子を含むケイ素原子含有基であって、シロキサン結合を形成し得る基)を有するオキシプロピレン重合体は液状の重合体となり得るもので、湿分等により室温で硬化してゴム状硬化物を生じる。このため、建築物の弾性シーラント等に用いられている。ゴム状硬化物は引張特性として大きい伸び特性と破断強度を有することが望ましい。
【0003】
本発明者等は反応性ケイ素基を有するオキシプロピレン重合体を用いた硬化性組成物を検討した結果、分子量分布の狭いオキシプロピレン重合体と特定の充填剤及び可塑剤との組成物が、きわめてすぐれた引張特性を有する硬化物を与えることを見出し、本発明に至った。
【0004】
【課題を解決するための手段と作用】
本発明の硬化性組成物は、(A)重合体主鎖が
【化2】

で示される繰返し単位からなり、水酸基又は加水分解性基の結合したケイ素原子を含むケイ素原子含有基(反応性ケイ素基)を少なくとも1個有するオキシプロピレン重合体であって、Mw/Mn(重量平均分子量/数平均分子量)が1.5以下で数平均分子量(Mn)が6,000以上であるオキシプロピレン重合体、(B)フタル酸エステル可塑剤、及び(C)脂肪酸によって表面処理された平均粒子径0.01〜0.15μmの炭酸カルシウムを含有し、前記(A)成分100重量部に対し、前記(B)成分1〜150重量部及び前記(C)成分5〜200重量部を配合してなるものである。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明に使用される(A)成分のオキシプロピレン重合体に含有されている反応性ケイ素基は特に限定されるものではないが、代表的なものを示すと、例えば、下記一般式、化3で表わされる基が挙げられる。
【0006】
【化3】

[式中、R1およびR2は、いずれも炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基または(R’)3SiO-で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、R1またはR2が2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。ここでR’は炭素数1〜20の1価の炭化水素基であり、3個のR’は同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは水酸基または加水分解性基を示し、Xが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。aは0、1、2または3を、bは0、1または2をそれぞれ示す。また、m個の
【化4】

におけるbは異なっていてもよい。mは0〜19の整数を示す。但し、a+Σb≧1を満足するものとする。]。
【0007】
上記Xで示される加水分解性基は特に限定されず、従来公知の加水分解性基であればよい。具体的には、例えば、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基等が挙げられる。これらの内では、水素原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基およびアルケニルオキシ基が好ましいが、加水分解性が穏やかで取扱いやすいという観点からメトキシ基等のアルコキシ基が特に好ましい。
【0008】
この加水分解性基や水酸基は1個のケイ素原子に1〜3個結合することができ、(a+Σb)は1〜5であるのが好ましい。加水分解性基や水酸基が反応性ケイ素基中に2個以上存在する場合には、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0009】
反応性ケイ素基中に、ケイ素原子は1個あってもよく、2個以上あってもよいが、シロキサン結合等によりケイ素原子の連結された反応性ケイ素基の場合には、20個程度あってもよい。
【0010】
なお、下記一般式、化5で表わされる反応性ケイ素基が、入手容易の点からは好ましい。
【0011】
【化5】

(式中、R2、X、aは前記と同じ。)。
【0012】
また、上記一般式、化3におけるR1およびR2の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基などのアリ-ル基、ベンジル基などのアラルキル基、R′がメチル基やフェニル基などである(R′)3SiO-で示されるトリオルガノシロキシ基等が挙げられる。R1、R2、R′としてはメチル基が特に好ましい。反応性ケイ素基はオキシプロピレン重合体1分子中に少なくとも1個、好ましくは1.1〜5個存在するのがよい。重合体1分子中に含まれる反応性ケイ素基の数が1個未満になると、硬化性が不充分になり、良好なゴム弾性挙動を発現しにくくなる。
【0013】
反応性ケイ素基はオキシプロピレン重合体分子鎖の末端に存在してもよく、内部に存在してもよい。反応性ケイ素基が分子鎖の末端に存在すると、最終的に形成される硬化物に含まれるオキシプロピレン重合体成分の有効網目鎖量が多くなるため、高強度、高伸びで低弾性率を示すゴム状硬化物が得られやすくなる。
【0014】
本発明に使用される(A)成分における重合体主鎖を構成するオキシプロピレン重合体は、
【化6】

で示される繰返し単位からなるものである。このオキシプロピレン重合体は、直鎖状であっても分枝状であってもよく、あるいは、これらの混合物であってもよい。
【0015】
このオキシプロピレン重合体の数平均分子量(Mn)としては6,000以上のものが有効に使用されうるが、好ましくは6,000〜30,000の数平均分子量を有するものがよい。さらに、このオキシプロピレン重合体においては、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)が1.6以下であり、極めて分子量分布が狭い(単分散性が大きい)。Mw/Mnの値は好ましくは1.5以下であり、さらに好ましくは1.4以下である。分子量分布は、各種の方法で測定可能であるが、通常ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)法での測定が一般的である。このように数平均分子量が大きいにもかかわらず分子量分布が狭いので、本発明の組成物は、硬化前においては粘度が低く取扱いが容易であり、硬化後においては良好なゴム状弾性挙動を示す。特に、分子量分布の広い反応性ケイ素基を有するオキシプロピレン重合体を用いた組成物に比較して本発明の組成物の硬化物は大きい伸び特性と破断強度を有している。
【0016】
本発明の(A)成分となる反応性ケイ素基を有するオキシプロピレン重合体は、官能基を有するオキシプロピレン重合体に反応性ケイ素基を導入することによって得るのが好ましい。
【0017】
高分子量で分子量分布が狭く官能基を有するオキシプロピレン重合体は、オキシプロピレンの通常の重合法(苛性アルカリを用いるアニオン重合法)やこの重合体を原料とした鎖延長反応方法によって得ることはきわめて困難であるが、特殊な重合法である特開昭61-197631号、特開昭61-215622号、特開昭61-215623号、特開昭61-218632号、特公昭46-27250号及び特公昭59-15336号などに記載された方法により得ることができる。なお、反応性ケイ素基を導入すると分子量分布は導入前の重合体に比較し広がる傾向にあるので、導入前の重合体の分子量分布はできるだけ狭いことが好ましい。
【0018】
反応性ケイ素基の導入は公知の方法で行なえばよい。すなわち、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0019】
(1)末端に水酸基等の官能基を有するオキシプロピレン重合体に、この官能基に対して反応性を示す活性基及び不飽和基を有する有機化合物を反応させ、次いで、得られた反応生成物に加水分解性基を有するヒドロシランを作用させてヒドロシリル化する。
【0020】
(2)末端に水酸基、エポキシ基やイソシアネ-ト基等の官能基(以下、Y官能基という)を有するオキシプロピレン重合体に、このY官能基に対して反応性を示す官能基(以下、Y′官能基という)及び反応性ケイ素基を有する化合物を反応させる。
【0021】
このY′官能基を有するケイ素化合物としては、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどのようなアミノ基含有シラン類;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランなどのようなメルカプト基含有シラン類;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのようなエポキシシラン類;ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシランなどのようなビニル型不飽和基含有シラン類;γ-クロロプロピルトリメトキシシランなどのような塩素原子含有シラン類;γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシランなどのようなイソシアネート含有シラン類;メチルジメトキシシラン、トリメトキシシラン、メチルジエトキシシランなどのようなハイドロシラン類などが具体的に例示されうるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
以上の方法のなかで、(1)の方法、又は(2)のうち末端に水酸基を有する重合体とイソシアネート基及び反応性ケイ素基を有する化合物を反応させる方法が、好ましい。
【0023】
本発明の(B)成分として用いるフタル酸エステル系可塑剤(以下、単に「エステル系可塑剤」ともいう)としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレートなどが挙げられる。これらエステル系可塑剤に加えて他の可塑剤を併用することも可能である。併用できる可塑剤としては、ポリプロピレングリコールやその誘導体などのポリエーテル類;ポリ-α-メチルスチレン、ポリスチレンなどのポリスチレン類;ポリブタジエン、アルキド樹脂、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、ポリブテン、塩素化パラフィン類などの可塑剤が用いられる。可塑剤は単独又は2種類以上の混合物の形で任意に使用できる。
【0024】
エステル系可塑剤量は、反応性ケイ素基含有オキシプロピレン重合体100部(重量部、以下同様)に対し、1〜150部、好ましくは10〜120部、とくに好ましくは20〜100部である。該量が1部未満になると可塑剤としての効果が発現しなくなり、150部を超えると硬化物の機械的強度が不足するという問題点が生じる。エステル系可塑剤以外の可塑剤を併用する場合には、全可塑剤中にエステル系可塑剤が50重量%以上存在することが望ましい。
【0025】
本発明の(C)成分として用いる炭酸カルシウムとしては、膠質炭酸カルシウムが例示できる。平均粒子径としては、0.01〜0.15μmであり、脂肪酸によって表面処理された炭酸カルシウムである。
【0026】
(C)成分となる炭酸カルシウムとしては、白艶華O、カルモス、白艶華CC、白艶華CCR、VIGOT-15等の商品名で市販されているものが例示される。
【0027】
本発明の(C)成分として用いる炭酸カルシウムに加えて他の充填剤を併用することも可能である。併用できる充填剤としては、フユームシリカ、沈降性シリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸およびカーボンブラックの如き補強性充填剤;本発明の(C)成分以外の炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイソウ土、焼成クレー、クレー、タルク、酸化チタン、ベントナイト、有機ベントナイト、酸化第二鉄、酸化亜鉛、活性亜鉛華、水添ヒマシ油およびシラスバルーン、などの如き充填剤;石綿、ガラス繊維およびフィラメントの如き繊維状充填剤が例示される。
【0028】
これら充填剤は1種類のみで使用してもよいし、2種類以上混合使用してもよい。
【0029】
本発明の(C)成分として用いる炭酸カルシウム量は、反応性ケイ素基含有オキシプロピレン重合体100部に対して1〜200部、特には5〜200部用いることが好ましい。(C)成分以外の充填剤を併用するときは、全充填剤中に(C)成分が50重量%以上存在することが好ましい。
【0030】
本発明の硬化性組成物には、必要に応じて、硬化触媒などを加えて使用してもよい。
【0031】
硬化触媒としては、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネートなどのチタン酸エステル類;ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズジアセテート、オクチル酸スズ、ナフテン酸スズなどのスズカルボン酸塩類;ジブチルスズオキサイドとフタル酸エステルとの反応物;ジブチルスズジアセチルアセトナート;アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテートなどの有機アルミニウム化合物類;ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナートなどのキレート化合物類;オクチル酸鉛;ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、キシリレンジアミン、トリエチレンジアミン、グアニジン、ジフェニルグアニジン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、モルホリン、N-メチルモルホリン、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン-7(DBU)などのアミン系化合物、あるいはこれらアミン系化合物のカルボン酸などとの塩;過剰のポリアミンと多塩基酸とから得られる低分子量ポリアミド樹脂;過剰のポリアミンとエポキシ化合物との反応生成物;γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランなどのアミノ基を有するシランカップリング剤;などのシラノール縮合触媒、さらには他の酸性触媒、塩基性触媒などの公知のシラノール縮合触媒等が例示される。これらの触媒は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0032】
これらの硬化触媒の使用量は、反応性ケイ素基含有オキシプロピレン重合体100部に対して0.1〜20部程度が好ましく、1〜10部程度が更に好ましい。反応性ケイ素基含有オキシプロピレン重合体に対して硬化触媒の使用量が少なすぎると、硬化速度が遅くなることがあり、また硬化反応が充分に進行しにくくなる場合がある。一方、反応性ケイ素基含有オキシプロピレン重合体に対して硬化触媒の使用量が多すぎると、硬化時に局部的な発熱や発泡が生じ、良好な硬化物が得られにくくなるので、好ましくない。
【0033】
本発明の硬化性組成物の調製法にはとくに限定はなく、たとえば上記した成分を配合し、ミキサーやロールやニーダーなどを用いて常温または加熱下で混練したり、適した溶剤を少量使用して成分を溶解させ、混合したりするなどの通常の方法が採用されうる。また、これら成分を適当に組合わせることにより、1液型や2液型の配合物をつくり使用することもできる。
【0034】
本発明の硬化性組成物は、大気中に暴露されると水分の作用により、三次元的に網状組織を形成し、ゴム状弾性を有する固体へと硬化する。
【0035】
本発明の硬化性組成物を使用するに際しては、更に、必要に応じて、接着性改良剤、物性調整剤、保存安定性改良剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、金属不活性化剤、オゾン劣化防止剤、光安定剤、アミン系ラジカル連鎖禁止剤、リン系過酸化物分解剤、滑剤、顔料、発泡剤などの各種添加剤を適宜添加することが可能である。
【0036】
本発明の硬化性組成物は弾性シーラントとして特に有用であり、建造物、船舶、自動車、道路などの密封剤として使用しうる。更に、単独あるいはプライマーの助けをかりてガラス、磁器、木材、金属、樹脂成形物などの如き広範囲の基質に密着しうるので、種々のタイプの密封組成物および接着組成物としても使用可能である。更に、粘着剤、塗料、塗膜防水剤、食品包装材料、注型ゴム材料、型取り用材料、発泡材料としても有用である。
【0037】
【発明の効果】
本発明の組成物は、(A)成分として分子量分布の広い重合体を用いた組成物に比較して、硬化物が大きい伸び特性と破断強度を有する。
【0038】
なお、本発明の硬化性組成物において(A)成分として使用される反応性ケイ素基含有オキシプロピレン重合体は、数平均分子量が大きいにもかかわらず分子量分布が狭い。従って、本発明の組成物は、硬化前においては、同一分子量で分子量分布の広い従来の反応性ケイ素基含有オキシプロピレン重合体を含有する組成物と比べて粘度が低く取扱いが容易である。
【0039】
このように硬化前の粘度が低いので、作業性が良いだけでなく、多量の充填剤を配合できて優れた室温硬化性組成物を得ることができる。
【0040】
さらに、耐酸性などの耐薬品性が予想外に大幅に改善され、耐溶剤性、耐水性も優れている。
【0041】
【実施例】
本発明をより一層明らかにするために、以下に実施例を掲げる。
【0042】
合成例1
1.5リットル耐圧ガラス製反応容器に分子量15,000のポリオキシプロピレントリオール(Mw/Mn=1.38、粘度89ポイズ)401g(0.081当量)を仕込み、窒素雰囲気下にした。
【0043】
137℃で、滴下漏斗からナトリウムメトキシドの28%メタノール溶液19.1g(0.099当量)を滴下し、5時間反応させた後、減圧脱揮した。窒素雰囲気下にもどし塩化アリル9.0g(0.118当量)を滴下、1.5時間反応させた後、さらにナトリウムメトキシドの28%メタノール溶液5.6g(0.029当量)と塩化アリル2.7g(0.035当量)を用いてアリル化をおこなった。
【0044】
この反応物をヘキサンに溶かしケイ酸アルミニウムで吸着処理した後、ヘキサンを減圧除去すると311gの黄色透明なポリマーが得られた(粘度68ポイズ)。
【0045】
このポリマー270g(0.065当量)を耐圧ガラス製反応容器に仕込み、窒素雰囲気下にした。塩化白金酸の触媒溶液(H2PtCl6・6H2O25gをイソプロピルアルコール500gに溶かした溶液)0.075mlを添加後、30分攪拌した。ジメトキシメチルシラン6.24g(0.059当量)を滴下漏斗より加え、90℃で4時間反応させた後、脱揮すると260gの黄色透明なポリマーが得られた。
【0046】
合成例2
撹拌機付きフラスコに数平均分子量15,000のポリオキシプロピレントリオール(Mw/Mn=1.38、粘度89ポイズ)220g(0.0447当量)とジラウリン酸ジブチルスズ0.02gを仕込み、窒素雰囲気下でγ-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン8.45g(0.0447当量)を室温で滴下した。滴下終了後、75℃で1.5時間反応させた。IRスペクトルを測定し、2280cm-1付近のNCO吸収の消失と1730cm-1付近のC=O吸収の生成を確認した後、反応を終了させた。213gの無色透明のポリマーが得られた。
比較合成例1
数平均分子量が3,000のポリオキシプロピレングリコール420gと数平均分子量が3,000のポリオキシプロピレントリオール80gとを、窒素置換された耐圧ガラス製反応容器に仕込んだ。水酸化ナトリウム40gを加え、60℃で13時間反応させた後、ブロモクロルメタン19gを60℃で10時間反応させた。(得られたポリマーのMw/Mnは2.1であり、粘度は385ポイズであった。)。
【0047】
続いて、塩化アリル15gを加え36時間反応をおこなった。反応終了後、減圧にして揮発物質を除去した。
【0048】
内容物をビーカーにとり出しヘキサンに溶かした。ケイ酸アルミニウムで吸着処理した後、ヘキサンを減圧除去した。
【0049】
このポリマー500gを窒素置換された反応容器に仕込み、塩化白金酸の触媒溶液(H2PtCl6・6H2O25gをイソプロピルアルコール500gに溶かした溶液)0.03gを添加した後、ジメトキシメチルシラン12gを加えて80℃で4時間反応させた。反応終了後、減圧にして揮発物質を除去すると淡黄色透明なポリマーが550g得られた。合成例1、2および比較合成例1で得られたポリマーの粘度をB型粘度計(BMタイプローターNo.4、12rpm)を用いて、23℃で測定した。また、各ポリマーの数平均分子量(Mn)と分子量分布(Mw/Mn)をGPCにより分析した。GPCは、ポリスチレンゲル(東ソー株式会社製)を充填したカラムに留出溶媒としてテトラヒドロフランを用いて、オーブン温度40℃で分析した。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例1および比較例1
合成例1あるいは比較合成例1で得られたポリマー100部に対して、膠質炭酸カルシウム(白石工業株式会社製、商品名「白艶華CCR」、平均粒子径0.08μm)155部、ジオクチルフタレート60部、老化防止剤2部、二酸化チタン(石原産業株式会社製、商品名「R-820」)4部を加え、三本ペイントロ-ルでよく混練した後、オクチル酸スズ3部、ラウリルアミン0.5部を加え、均一に混練した。得られた組成物のうち、実施例1の組成物(合成例1のポリマーを用いたもの)は、比較例1の組成物(比較合成例1のポリマーを用いたもの)と比べて粘度が低く取扱いが容易であった。
【0052】
これらの組成物を用いて、厚さ2mmのシートを作製した後、23℃で2日間、さらに50℃で3日間養生した。
【0053】
この硬化物シートからJIS K 6301に準拠して3号形ダンベルを打抜き、引張り速度500mm/分で引張り試験をおこなった。結果を表2に示す。なお、表中のM100は100%伸張時応力、TBは破断強度、EBは破断時の伸びを表わす。
【0054】
【表2】

表2から明らかなように、本発明の組成物は分子量分布の広いオキシプロピレン重合体を用いた場合に比較して、すぐれた破断強度を有することがわかる。
【0055】
参考例1、2
合成例1あるいは比較合成例1で得られたポリマー100部に対して、オクチル酸スズ3部、ラウリルアミン0.5部、純水0.6部を加えてよく混合した後、実施例1、比較例1と同様に引張試験を行なった。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】

表2および表3から明らかなように、分子量分布の広いオキシプロピレン重合体を用いた場合、エステル系可塑剤と炭酸カルシウムを添加しない組成物に対し添加したものの硬化物は、ある程度改善された引張特性を有する。これに対し、分子量分布が狭いオキシプロピレン重合体を用いた場合には、引張特性の改善、特に破断強度の改善が著しいことがわかる。
【0057】
実施例2
合成例1で得られたポリマーにかえて合成例2で得られたポリマーを用い、実施例1と同様に硬化性組成物を得た。この組成物の硬化物もすぐれた引張特性を有していた。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-10-13 
出願番号 特願2000-174699(P2000-174699)
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 船岡 嘉彦
佐野 整博
登録日 2002-05-10 
登録番号 特許第3304955号(P3304955)
権利者 鐘淵化学工業株式会社
発明の名称 硬化性組成物  
代理人 橋本 良郎  
代理人 渡部 崇  
代理人 橋本 良郎  
代理人 石川 祐子  
代理人 萩原 亮一  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 内田 明  

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