• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01P
管理番号 1112978
異議申立番号 異議2003-73044  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-10-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-16 
確定日 2005-01-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3417380号「非可逆回路素子および通信装置」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3417380号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第3417380号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、平成12年4月5日に出願されたものであって、平成15年4月11日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許につい特許異議申立人 齋藤雄一、及びアルプス電気株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年8月12日に訂正請求がなされたものである。

第2.訂正の適否の検討
1.訂正内容
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2を次のとおり訂正する。
「【請求項1】直流磁界が印加される磁性体と、該磁性体に近接配置した互いに交差する複数の中心導体とを備えて成る非可逆回路素子において、
前記中心導体につながる入出力端子を2つ設け、該入出力端子を、底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置し、かつ前記中心導体につながるアース端子を、底面のそれぞれの入出力端子の両脇に配置した非可逆回路素子。
【請求項3】直流磁界が印加される磁性体と、該磁性体に近接配置した互いに交差する複数の中心導体とを備えて成る非可逆回路素子において、
前記中心導体につながる入出力端子を2つ設け、該入出力端子は樹脂ケースにインサートモールド成形されており、前記入出力端子を、前記樹脂ケースの底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置したことを特徴とする非可逆回路素子。」
(3)訂正事項c
特許請求の範囲の請求項3を次のとおり訂正する。
「【請求項2】前記底面は四角形状であり、前記入出力端子を、前記底面の対向する一対の辺の中央部にそれぞれ1つ配置し、かつ前記アース端子を、前記底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置した請求項1に記載の非可逆回路素子。」
(4)訂正事項d
特許請求の範囲の請求項4を次のとおり訂正する。
「【請求項4】請求項1に記載の非可逆回路素子を用いた通信装置。
【請求項5】請求項2に記載の非可逆回路素子を用いた通信装置。
【請求項6】請求項3に記載の非可逆回路素子を用いた通信装置。」
(5)訂正事項e
特許明細書の段落番号【0007】を次のとおり訂正する。
「【課題を解決するための手段】
この発明は、直流磁界が印加される磁性体と、該磁性体に近接配置した互いに交差する複数の中心導体とを備えて成る非可逆回路素子において、前記中心導体につながる入出力端子を2つ設け、該入出力端子を、底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置し、かつ前記中心導体につながるアース端子を、底面のそれぞれの入出力端子の両脇に配置する。
また、この発明は、直流磁界が印加される磁性体と、該磁性体に近接配置した互いに交差する複数の中心導体とを備えて成る非可逆回路素子において、前記中心導体につながる入出力端子を2つ設け、該入出力端子は樹脂ケースにインサートモールド成形されており、前記入出力端子を、前記樹脂ケースの底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置する。」
(6)訂正事項f
特許明細書の段落番号【0025】を次のとおり訂正する。
「【発明の効果】
この発明によれば、非可逆回路素子を、その底面の面に沿って略180°回転させるだけで入出力の非可逆特性の方向を反転することができる。すなわち、1種類の非可逆回路素子を用意しておけば、これを通信装置などの電子機器の回路基板上に実装する際に、非可逆回路素子の実装方向を定めるだけで入出力の方向性を決定することができる。そのため、全体に低コスト化を図ることができる。」
(7)訂正事項g
特許明細書の段落番号【0026】を次のとおり訂正する。
「また、この発明によれば、非可逆回路素子の実装基板への実装状態にかかわらず非可逆回路素子のアース端子と実装基板上のアース電極とのアース接続を確実に行なえるようになる。」
(8)訂正事項h
特許明細書の段落番号【0027】を次のとおり訂正する。
「また、この発明によれば、低コストな非可逆回路素子を用いて全体に低コスト化を図ることができ、また、1種類の非可逆回路素子を所定箇所に用いて回路を構成するため、設計が容易となる。」

2.訂正の適否について
(1)訂正事項a、bについて
訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項の数を2に増加する訂正を求めるものであり、このような訂正請求は形式上特許請求の範囲の減縮にあたらないといえるが、訂正事項aが特許請求の範囲の請求項1の削除を求め、特許請求の範囲の請求項の数を減少する訂正を求めるものであるから、訂正事項a,bについては併せて訂正の適否を行う。
ア. 訂正事項bの請求項2を訂正後の請求項1とする訂正請求について
訂正後の請求項1は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の請求項2に記載された入出力端子について、「入出力端子を2つ設け、該入出力端子を、底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置し」と限定すると共に、非可逆素子として不可欠な要素であるアース端子について、「前記中心導体につながるアース端子を、底面のそれぞれの入出力端子の両脇に配置した」と限定する訂正を求めるものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。
イ. 訂正事項bの請求項2を訂正後の請求項3とする訂正請求、及び訂正事項aについて
請求項2を訂正後の請求項3とする訂正請求は、前示したように、特許請求の範囲の請求項の数を2に増加する訂正であって特許請求の範囲の減縮にあたらないといえ、一方、訂正事項aは請求項1の削除を求め、特許請求の範囲の請求項の数を減少する訂正を求めるものである。
そこで、訂正事項bの「請求項2を訂正後の請求項3とする」訂正請求、及び訂正事項aの「特許請求の範囲の請求項1を削除する。」は、補正事項aにおいて「請求項1を補正後の請求項3とする」訂正請求の誤りであると解して訂正の適否を検討する。
訂正後の請求項3は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の請求項1に記載された中心導体について「互いに交差する複数の中心導体」と限定し、入出力端子について「前記中心導体につながる入出力端子を2つ設け、該入出力端子は樹脂ケースにインサートモールド成形されており、前記入出力端子を、前記樹脂ケースの底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置した」と限定する訂正を求めるものと認められるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。
ウ.まとめ
以上のように、訂正事項a、bを上述のように解すれば実質上特許請求の範囲を減縮を目的とするものといえ、また他の訂正の要件についても満たしているから、訂正事項a、bは訂正の要件を満たしているといえる。
(3)訂正事項cについて
訂正後の請求項2は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の請求項3に記載された底面について、「前記底面は四角形状であり」と限定すると共に、入出力端子及びアース端子について、「前記入出力端子を、前記底面の対向する一対の辺の中央部にそれぞれ1つ配置し、かつ前記アース端子を、前記底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置した」と限定する訂正を求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。
(4)訂正事項dについて
訂正事項dは、請求項1ないし3を引用している1の従属請求項(請求項4)を、訂正請求により、請求項4ないし6からなる3の独立請求項とする訂正を求めるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。
(5)訂正事項eないしhについて
訂正事項eないしhは、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の訂正に整合させて発明の詳細な説明の記載の訂正を求めるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。

3.まとめ
したがって、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項、及び同条第3項において準用する同法126条2項から第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3.特許異議申立について
1.本件発明
上記第2.3.で示したように上記訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。)は、平成16年8月12日付けの訂正請求により訂正された訂正明細書の特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】直流磁界が印加される磁性体と、該磁性体に近接配置した互いに交差する複数の中心導体とを備えて成る非可逆回路素子において、
前記中心導体につながる入出力端子を2つ設け、該入出力端子を、底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置し、かつ前記中心導体につながるアース端子を、底面のそれぞれの入出力端子の両脇に配置した非可逆回路素子。
【請求項2】前記底面は四角形状であり、前記入出力端子を、前記底面の対向する一対の辺の中央部にそれぞれ1つ配置し、かつ前記アース端子を、前記底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置した請求項1に記載の非可逆回路素子。
【請求項3】直流磁界が印加される磁性体と、該磁性体に近接配置した互いに交差する複数の中心導体とを備えて成る非可逆回路素子において、
前記中心導体につながる入出力端子を2つ設け、該入出力端子は樹脂ケースにインサートモールド成形されており、前記入出力端子を、前記樹脂ケースの底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置したことを特徴とする非可逆回路素子。
【請求項4】請求項1に記載の非可逆回路素子を用いた通信装置。
【請求項5】請求項2に記載の非可逆回路素子を用いた通信装置。
【請求項6】請求項3に記載の非可逆回路素子を用いた通信装置。」

2.引用刊行物
(1)刊行物1について
当審で通知した取消理由に引用した刊行物1(特開2000-91815号公報(特許異議申立人 アルプス電気株式会社が提出した甲第1号証))には、四角形状の同寸法のフェライト板(磁性体)20、20で挟み込まれたパターン金属板(中心導体)を備えてなるアイソレータにおいて、前記パターン金属板から引き出された入力端子11、及び出力端子12を、底面の対向する一対の辺の中央部にそれぞれ配置し、終端端子(アース端子)13を前記入出力端子11、12を配置した底面と反対側の上面側に突出して配置したアイソレータの発明が記載されていると認められる。
(2)刊行物2について
同じく、当審で通知した取消理由に引用した刊行物2(特開昭56-20302号公報(特許異議申立て人 アルプス電気株式会社が提出した甲第2号証))には、四角形状の対向する一方の辺にストリップライン端子(入出力端子)16a、及び2つのアース端子15bを突出して配置し、他方の辺にストリップライン端子16b、16c及び2つのアース端子15aを突出して配置したアイソレータの発明が記載されていると認められる。
(3)刊行物3ないし7について
同じく、当審で通知した取消理由に引用した刊行物3(特開平6-196907号公報(特許異議申立人 アルプス電気株式会社が提出した参考資料1))、刊行物4(特開平7-106809号公報(特許異議申立人 アルプス電気株式会社が提出した参考資料2))、刊行物5(特開平11-97908号公報(特許異議申立人 アルプス電気株式会社が提出した参考資料3))、刊行物6(特開平11-168304号公報(特許異議申立人 齋藤雄一が提出した甲第1号証))、及び刊行物7(特開平11-205011号公報(特許異議申立人 齋藤雄一が提出した甲第2号証))には、直流磁界が印加される磁性体と、該磁性体に近接配置した互いに交差する複数の中心導体とを備えてなるアイソレータ、及び前記アイソレータを用いた通信装置の発明が記載されているものと認められる。
(4)刊行物8ないし10について
同じく、当審で通知した取消理由に引用した刊行物8(TDK MICROWAVE DEVICES、1989年9月発行(特許異議申立人 齋藤雄一が提出した甲第3号証))、刊行物9(TDK MICROWAVE DEVICES、1991年7月発行(特許異議申立人 齋藤雄一が提出した甲第4号証))、及び刊行物10(TDK MICROWAVE DEVICES、1992年6月発行(特許異議申立人 齋藤雄一が提出した甲第5号証))には、ストリップライン型サーキュレータ及びアイソレータ(STRIPLINE TYPE CIRCULATORS AND ISOLATORS)について、その55頁左下図には、CU497、CU498、CU499とラベリングされた3つのアイソレータ(55頁左下図)が記載され、その若干拡大して表示された左上の図には、黒塗りされた3つの入出力端子(STRIPLINE)と、斜線表示された左右2つづつ、上下1つづつの合計6つのアース端子(GROUND)が、また、CU499とラベリングされた図には、黒塗りされた左右1つづつの入出力端子と、斜線表示された左右に2つづつ、上下1つづつのアース端子が、それぞれ記載されている。なお、同図において黒塗りされた右側の入出力端子は、底面の右上角に近接して配置され、左側の入出力端子は、底面の左下角から入出力端子1個分の幅だけ離れた上方位置に設けられているので、これらの入出力端子は、底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置されているものとすることはできない。
更に、79頁のFig1、Fig2には、3つの入出力端子と、3つのアース端子を底面の略中央を中心点とする120度の回転対称の位置に配置したヘキサレータの発明が記載されているものと認められる。
(5)刊行物11について
同じく、当審で通知した取消理由に引用した刊行物11(特開平11-225088号公報(特許異議申立人 齋藤雄一が提出した甲第6号証))には、高周波スイッチモジュールにおいて、側面に形成されたアンテナANT端子、GSM系の送信TX端子、受信RX端子、DCS系の送信TX端子、受信RX端子の高周波端子を、グランド端子で挟むように配置した構成の発明が記載されているものと認められる。

3.対比・判断
(1)本件特許発明1について
本件特許発明1と刊行物1ないし11に記載された発明とを対比すると、本件特許発明1は、「前記中心導体につながる入出力端子を2つ設け、該入出力端子を、底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置し、かつ前記中心導体につながるアース端子を、底面のそれぞれの入出力端子の両脇に配置し」た点を発明特定事項としているのに対して、刊行物1ないし11は、前記2.に記載した構成の発明を開示するにすぎず、前記発明特定事項を開示しない。また、この発明特定事項が周知・慣用であるともいえないので、本件特許発明1は、刊行物1ないし11に記載された発明ではなく、また、同各発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
なお、刊行物1は、入出力端子を底面の中央を中心とする略点対称の位置に配置したアイソレータを開示し、刊行物8ないし10(CU499とラベリングされた図)は、入出力端子を2つ備えたアイソレータを開示し、刊行物11は、アース端子を底面のそれぞれの送受信端子の両脇に配置した高周波スイッチモジュールを開示し、これらはそれぞれ前記発明特定事項の一部をなしているので、これらを組み合わせることにより、前記発明特定事項を構成できるか否かについて、以下検討する。
刊行物1に記載されたアイソレータは、中心導体がパターン金属板からなり、また、中心導体につながるアース端子を備えてないことから明らかなように、交差する複数の中心導体と、中心導体につながるアース端子を備えた本件特許発明1のアイソレータとは基本的構造が全く異なっている。また、刊行物11に記載された発明は、高周波スイッチモジュールに関するものであり、本件特許発明1のアイソレータとは技術分野において全く異なっている。このように、刊行物1に記載された発明と刊行物11に記載された発明は、アイソレータの基本的構成、あるいは技術的分野において本件特許発明1と全く異なるものであり、刊行物1、刊行物8ないし10(CU499とラベリングされた図)、及び刊行物11に本件特許発明1における前記発明特定事項の一部が開示されているとしても、これらを組み合わせる動機付けが存在しないから、上記各発明を組み合わせて前記発明特定事項を構成することはできない。
したがって、本件特許発明1は、刊行物1ないし11に記載された発明ではなく、また、同各発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は請求項1を引用する形式で記載し、本件特許発明1をさらに限定したものであり、本件特許発明1と同様、前記発明特定事項を備えていないから、本件特許発明1で示した判断と同様の理由により、本件特許発明2は、刊行物1ないし11に記載された発明ではなく、また、同各発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

(3)本件特許発明3について
本件特許発明3と刊行物1ないし11に記載された発明とを対比すると、本件特許発明3は、「前記中心導体につながる入出力端子を2つ設け、該入出力端子は樹脂ケースにインサートモールド成形されており、前記入出力端子を、前記樹脂ケースの底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置し」た点を発明特定事項としているのに対して、刊行物1ないし11には、前記2.に記載した構成の発明が記載されているにすぎず、前記発明特定事項の開示はなく、また、前記発明特定事項が周知・慣用であるともいえない。
なお、刊行物1は、入出力端子を底面の中央を中心とする略点対称の位置に配置したアイソレータを開示し、刊行物8ないし10(CU499とラベリングされた図)は、入出力端子を2つ備えたアイソレータを開示している。しかしながら、本件特許発明のアイソレータは、「交差する複数の中心導体」と、「中心導体につながるアース端子」を備えた構成であるのに対して、刊行物1に記載されたアイソレータは、中心導体がパターン金属板からなり、また、中心導体につながるアース端子を備えてないことから明らかなように、アイソレータの基本的構造が全く異なっている。このように、本件特許発明1と刊行物1に記載された発明は、アイソレータ(非可逆素子)の基本的構造が全く異なるものであるから、刊行物8ないし10に記載された入出力端子を2つ備えた構成からなるアイソレータ(非可逆素子)が、仮に、本件特許発明1のアイソレータと基本的構造が同じであり、また、入出力端子を樹脂ケースにインサートモールド成形することが仮に周知であったとしても、これらの発明を組み合わせる動機付けが存在しないから、上記各発明を組み合わせて前記発明特定事項を構成することはできない。
したがって、本件特許発明3は、刊行物1ないし11に記載された発明ではなく、また、同各発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

(4)本件特許発明4ないし6について
本件特許発明4ないし6は、請求項1ないし3を引用する形式で記載し、本件特許発明1ないし3をさらに限定したものであり、本件特許発明1ないし3と同様、前記発明特定事項を備えていないから、本件特許発明1ないし3で示した判断と同様の理由により、本件特許発明4ないし6は、刊行物1ないし11に記載された発明ではなく、また、同各発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。

4.まとめ
したがって、本件特許発明1ないし6は、上記刊行物1ないし11に記載された発明ではなく、また、これらの発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
また、その他の異議申立ての理由によっては取り消すことができない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、特許第3417380号の請求項1ないし6に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非可逆回路素子及び通信機装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 直流磁界が印加される磁性体と、該磁性体に近接配置した互いに交差する複数の中心導体とを備えて成る非可逆回路素子において、
前記中心導体につながる入出力端子を2つ設け、該入出力端子を、底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置し、かつ前記中心導体につながるアース端子を、底面のそれぞれの入出力端子の両脇に配置した非可逆回路素子。
【請求項2】 前記底面は四角形状であり、前記入出力端子を、前記底面の対向する一対の辺の中央部にそれぞれ1つ配置し、かつ前記アース端子を、前記底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置した請求項1に記載の非可逆回路素子。
【請求項3】 直流磁界が印加される磁性体と、該磁性体に近接配置した互いに交差する複数の中心導体とを備えて成る非可逆回路素子において、
前記中心導体につながる入出力端子を2つ設け、該入出力端子は樹脂ケースにインサートモールド成形されており、前記入出力端子を前記樹脂ケースの底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置したことを特徴とする非可逆回路素子。
【請求項4】 請求項1に記載の非可逆回路素子を用いた通信装置。
【請求項5】 請求項2に記載の非可逆回路素子を用いた通信装置。
【請求項6】 請求項3に記載の非可逆回路素子を用いた通信装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】 この発明は、マイクロ波帯などの高周波帯域で使用される、例えばアイソレータなどの非可逆回路素子、およびそれを用いた通信装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】 従来、集中定数形サーキュレータは、フェライト板に近接配置される互いに交差した複数の中心導体と、フェライト板に直流磁界を印加する磁石とをケース内に収納して構成されている。また、サーキュレータの3つのポートのうち所定のポートを抵抗終端させることによってアイソレータが構成されている。
【0003】
図10の(A),(B)は従来の2つのタイプのアイソレータの底面図である。ここで8は下部ケースを兼ねる下ヨーク、7は樹脂ケースである。またInは入力端子、Outは出力端子、Gndはアース端子である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
図10に示したように、従来のアイソレータは、入力端子と出力端子を、樹脂ケース7の縦方向または横方向の1つの辺に沿って配置していた。そのため、各アイソレータの入出力の方向性は予め定まっていて、アイソレータを通信装置等の電子機器の回路基板上に実装する際、信号の入出力の位置関係を逆にする場合には、入出力の非可逆特性が逆の関係にあるアイソレータに交換する必要があった。勿論、フェライト板に印加する直流磁界の極性を反転させれば入出力の非可逆特性が反転するが、ユーザサイドで磁石の極性を逆に取り付け、特性調整を行なうのは非常に困難な作業であり、全く現実的ではない。
【0005】
また、アイソレータのメーカサイドでは、ユーザの要求を満足させるために、入出力方向の異なる2種類のアイソレータを予め用意しておく必要があり、そのために製造上や管理上の面でコストアップの要因となる。
【0006】
この発明の目的は、1種類の非可逆回路素子を用いて、実装基板上の同じ端子レイアウトで、入力と出力の関係を反転できるようにした非可逆回路素子およびそれを用いた通信装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この発明は、直流磁界が印加される磁性体と、該磁性体に近接配置した互いに交差する複数の中心導体とを備えて成る非可逆回路素子において、前記中心導体につながる入出力端子を2つ設け、該入出力端子を、底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置し、かつ前記中心導体につながるアース端子を、底面のそれぞれの入出力端子の両脇に配置する。
また、この発明は、直流磁界が印加される磁性体と、該磁性体に近接配置した互いに交差する複数の中心導体とを備えて成る非可逆回路素子において、前記中心導体につながる入出力端子を2つ設け、該入出力端子は樹脂ケースにインサートモールド成形されており、前記入出力端子を、前記樹脂ケースの底面の中央を中心点とする略点対称の位置に配置する。
【0008】
この構造により、非可逆回路素子を、その底面の面に沿って略180°回転させるだけで入出力の非可逆特性の方向を反転することができる。したがって、1種類の非可逆回路素子を用意しておけば、これを通信装置などの電子機器の回路基板上に実装する際に、入出力の方向性を決定することができる。
【0009】
また、この発明は、前記中心導体につながるアース端子を複数個設けるとともに、そのアース端子を、底面の略中央を中心点とする略点対称の位置に配置する。この構造により、非可逆回路素子の実装基板への実装状態にかかわらず非可逆回路素子のアース端子と実装基板上のアース電極とのアース接続を確実に行なえるようになる。
【0010】
また、この発明は前記非可逆回路素子を用いて通信装置を構成する。
【0011】
【発明の実施の形態】
第1の実施形態に係るアイソレータの構成を図1〜図3を参照して説明する。図1はアイソレータの分解斜視図、図2は上ヨーク2および下ヨーク8を取り除いた状態での上面図である。ここで2は磁性体金属からなる箱状の上ヨーク、3は上ヨーク2の内面に配置する矩形板形状の永久磁石である。また5は磁性組立体であり、このフェライト54の底面と同形状である中心導体の連結部にフェライト54を置き、上記連結部から延び出た3本の中心導体51,52,53を、絶縁シート(不図示)を介在させて互いにほぼ120°の角度をなしてフェライト54を包むように折り曲げて配置し、中心導体51,52,53の先端側のポート部P1,P2,P3を外方へ突出させた構造としている。4はこの磁性組立体5と永久磁石3との間を所定間隔に保つためのスペーサである。7は樹脂ケースであり、この樹脂ケース7には、ケース内の上面に一部が露出するアース電極、底面から側面にかけて露出する入出力端子72およびアース端子73などをインサートモールド成形している。整合用コンデンサC1はポート部P1と、樹脂ケース7内のアース電極との間に接続され、同様にC2,C3はポート部P2,P3と樹脂ケース内のアース電極との間に接続される。また終端抵抗Rはポート部P3に導通する電極とアース電極との間に接続される。8は磁性体金属からなる下ヨークであり、上ヨーク2に組み合わせることによって、閉磁路を構成する。これにより、永久磁石3による磁界がフェライト54に対してその厚み方向に印加される。
【0012】
図3は上記アイソレータの等価回路図である。図3において、Lは中心導体51,52,53とフェライト54とにより形成される等価的なインダクタである。コンデンサC1,C2,C3のキャパシタンスは上記インダクタLのインダクタンスと整合して、所定の周波数を中心として所定帯域幅にわたって低挿入損失特性を得るようにしている。71は入力端子、72は出力端子であり、入力端子71から入力された信号は出力端子72から出力される。出力端子72に入力された信号は入力端子71側へは殆ど出力されず、抵抗Rで終端される。
【0013】
図2に示したように、入出力端子71,72を樹脂ケース7の底面の中央を中心点として点対称の関係となるように配置したことにより、このアイソレータを図2に示した状態から樹脂ケースの底面に沿って180°回転させることにより、入出力端子71,72の位置関係が逆転する。これより、アイソレータの方向性を反転させることができる。また、この例では4つのアース端子73を、樹脂ケースの底面の中央を中心点として点対称の位置に配置したことにより、アイソレータを図2に示した状態から180°回転させた状態で、アース端子の位置を同一とすることができ、このアイソレータを実装基板に実装する際に、実装基板上のアース電極にいずれの方向でも確実に接続できるようになる。
【0014】
次に、第2〜第6の実施形態であるアイソレータの構成をそれぞれ底面図として図4〜図8を参照して説明する。これらの図において、Inは順方向で信号入力用の端子として用いる入出力端子、Outは順方向で信号出力端子として用いる入出力端子、Gndはアース端子である。また、7は樹脂ケース、8は下ヨークである。
【0015】
図4に示す例では、入出力端子とアース端子を樹脂ケース7の対向する2つの辺に配列させるとともに、端子ピッチをほぼ等しくしている。また、入出力端子の幅をアース端子より細くして、入出力端子の位置を目視によりまたは自動機により容易に読み取れるようにしている。
【0016】
図5に示す例では、入出力端子を樹脂ケース7の一方の対角位置に配置するとともに、他方の対角位置にアース端子を配置して4端子構造としている。
【0017】
図6に示す例では、入出力端子のそれぞれの両脇にアース端子を配置している。これにより、実装基板上で中心導体の両脇にアース電極を設けてなるコプレーナ線路との接続が容易となる。
【0018】
図7の(A)に示す例では、樹脂ケース7の底面の4つの辺に入出力端子とアース端子を配置している。この例では、これまでに示した実施形態に係るアイソレータの場合より、樹脂ケースの底面の正確な中央より多少ずれた位置を中心点として、入出力端子およびアース端子が点対称の関係となるように配置している。
【0019】
図7の(B)に示す例では、アイソレータを180°回転させた時の入出力端子およびアース端子の外方への突出方向が異なるが、樹脂ケースの底面の中央を中心点として入出力端子およびアース端子が略点対称の位置関係となるように配置している。
【0020】
図8の(A)に示す例では、点対称の位置に入出力端子を設けるとともに単一のアース端子を設けている。このような構造であっても、実装基板上にアース端子が導通する2通りの位置にそれぞれグランドパターン(アース電極)を設けておくことによって、このアイソレータが図8の(A)に示した状態と、それを180°回転させた状態のいずれの場合でもアース接続を行なうことができる。
【0021】
図8の(B)に示す例では、点対称の位置にアース端子Gnd1とGnd2を設け、これとは別に単一のアース端子Gnd3を設けている。
この場合にも、アイソレータを180°回転させた時にアース端子Gnd3に導通するグランドパターンを実装基板上に設けておくことによって、いずれの状態でも3つの点でアース接続を行なうことができる。
【0022】
以上に示した例では、入出力端子およびアース端子を、樹脂ケースに設けたが、これらの端子をケースに設けずに、例えば基板に形成した電極を入出力端子およびアース端子とした非可逆回路素子にも、本発明は同様に適用できる。
【0023】
また、以上に示した例では、複数の中心導体を磁性体に互いに絶縁状態で交差するように配置した集中定数型の非可逆回路素子を例にとって説明したが、Y型の中心導体を2枚の磁性体の間に配置したストリップ線路型や、同様にY型の中心導体を1枚の磁性体上に配置したマイクロストリップ線路型などに代表される分布定数型の非可逆回路素子にも、本発明は同様に適用できる。
【0024】
次に、上記アイソレータを用いた通信装置の例を図9を参照して説明する。同図においてANTは送受信アンテナ、DPXはデュプレクサ、BPFa,BPFbはそれぞれ帯域通過フィルタ、AMPa,AMPbはそれぞれ増幅回路、MIXa,MIXbはそれぞれミキサ、OSCはオシレータ、SYNは周波数シンセサイザである。MIXaはSYNから出力される周波数信号を変調信号で変調し、BPFaは送信周波数の帯域のみを通過させ、AMPaはこれを電力増幅して、アイソレータISOおよびDPXを介しANTより送信する。BPFbはDPXから出力される信号のうち受信周波数帯域のみを通過させ、AMPbはそれを増幅する。MIXbはSYNより出力される周波数信号と受信信号とをミキシングして中間周波信号IFを出力する。このような構成の通信装置において、上記アイソレータISOとして、図1〜図8に示した素子を用いる。
【0025】
【発明の効果】
この発明によれば、非可逆回路素子を、その底面の面に沿って略180°回転させるだけで入出力の非可逆特性の方向を反転することができる。すなわち、1種類の非可逆回路素子を用意しておけば、これを通信装置などの電子機器の回路基板上に実装する際に、非可逆回路素子の実装方向を定めるだけで入出力の方向性を決定することができる。そのため、全体に低コスト化を図ることができる。
【0026】
また、この発明によれば、非可逆回路素子の実装基板への実装状態にかかわらず非可逆回路素子のアース端子と実装基板上のアース電極とのアース接続を確実に行なえるようになる。
【0027】
また、この発明によれば、低コストな非可逆回路素子を用いて全体に低コスト化を図ることができ、また、1種類の非可逆回路素子を所定箇所に用いて回路を構成するため、設計が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第1の実施形態に係るアイソレータの分解斜視図
【図2】 同アイソレータの上ヨークおよび下ヨークを取り除いた状態での上面図
【図3】 同アイソレータの等価回路図
【図4】 第2の実施形態に係るアイソレータの底面図
【図5】 第3の実施形態に係るアイソレータの底面図
【図6】 第4の実施形態に係るアイソレータの底面図
【図7】 第5の実施形態に係るアイソレータの底面図
【図8】 第6の実施形態に係るアイソレータの底面図
【図9】 第7の実施形態に係る通信装置の構成を示すブロック図
【図10】 従来のアイソレータの構成を示す底面図
【符号の説明】
2-上ヨーク
3-永久磁石
4-スペーサ
5-磁性組立体
51,52,53-中心導体
54-フェライト
7-樹脂ケース
71,72-入出力端子
73-アース端子
8-下ヨーク
C1,C2,C3-整合用コンデンサ
R-終端抵抗
P1,P2,P3-ポート部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-12-17 
出願番号 特願2000-103439(P2000-103439)
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H01P)
最終処分 維持  
前審関与審査官 新川 圭二  
特許庁審判長 佐藤 秀一
特許庁審判官 望月 章俊
有泉 良三
登録日 2003-04-11 
登録番号 特許第3417380号(P3417380)
権利者 株式会社村田製作所
発明の名称 非可逆回路素子および通信装置  
代理人 三輪 正義  
代理人 野▲ざき▼ 照夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ