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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1112987
異議申立番号 異議2003-72933  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-07-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-03 
確定日 2004-12-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3412300号「鉛蓄電池」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3412300号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3412300号の請求項1に係る発明は、平成6年12月16日に特許出願され、平成15年3月28日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、請求項1に係る特許について新神戸電機株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年8月6日に訂正請求がなされ、さらに、当審より特許異議申立人に対して審尋がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
本件訂正請求の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次の(a)、(b)の訂正事項のとおりに訂正するものである。
(a)特許明細書段落【0008】の
「極板群の余裕率を1.72%以下にすることにより、負極板とセパレータとの間の距離を狭めて負極板とセパレータとの密着度合いを高めれば、電池が過充電状態にあるときに、」を、
「極板群の余裕率を1.72%以下にすることにより、電池が過充電状態にあるときに、」と訂正する。
(b)特許明細書段落【0011】〜【0014】の
「この現象は余裕率が1.72%を越える場合でも起きていると思われるが、・・・上記実施例1及び2以外の構成を有する電池でも、負極板とセパレータとの密着度合いを高めたものであれば、同様な効果を期待できる。例えば、正極板とセパレータとの間にガラスマットを挟むことにより極板群の総厚さを厚くする方法、正極板及び/又は負極板自体の厚みを厚くする方法、電槽に一体に設けた群圧付与のためのリブの高さを高くして実質的に電槽内部寸法を小さくする方法、電槽の側壁や仕切壁(区画壁)の肉厚を厚くすることにより電槽の内部寸法を実質的に狭める方法等がある。」を削除する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記(a)の訂正は、発明の詳細な説明において、「極板群の余裕率を1.72%以下にすること」という記載との関連が明りょうでない後続の「負極板とセパレータとの間の距離を狭めて負極板とセパレータとの密着度合いを高めれば、」という記載を削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
上記(b)の訂正は、請求項1等に記載された「正極板、負極板及びセパレータで構成した極板群の総厚さと電槽の内部寸法との差を余裕度として、その余裕率[(余裕度/電槽内部寸法)×100]を1.72%以下にすること」という事項との関連が明りょうでない発明の詳細な説明の記載を削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記(a)(b)の訂正は、いずれも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
2-3.訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2、3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
3-1.申立ての理由及び当審の取消理由の概要
特許異議申立人新神戸電機株式会社は、証拠方法として甲第1〜3号証を提出し、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、又は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してなされたものであり(申立て理由1)、本件特許明細書には記載不備が存在するから、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第4、5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである(申立て理由2)と主張している。
当審において通知した取消理由は、この申立て理由1、2と同趣旨のものである(以下、「取消理由1、2」という)。

3-2.本件発明
上記2.で述べたとおり訂正が認められるから、本件請求項1に係る発明は、平成16年8月6日付けで提出された訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下、「本件発明」という)。
「Pb-Sb系合金からなる格子体にペーストを充填した正極板、Pb-Ca系合金からなる格子体にペーストを充填した負極板及びセパレータからなる鉛蓄電池において、前記正極板、負極板及びセパレータで構成した極板群の総厚さと電槽の内部寸法との差を余裕度として、その余裕率[(余裕度/電槽内部寸法)×100]を1.72%以下にすることを特徴とする鉛蓄電池。」

3-3.引用刊行物の記載事項
〔1〕刊行物1:特開平2-94252号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証)
〔摘示1-A〕「鉛-アンチモン系合金を用いてなる正極格子で形成された正電極と、鉛-カルシウム系合金を用いてなる負極格子で形成された負電極と、前記正及び負の電極板間に介在され、スルホン化された鉱油を付着させたポリエチレンセパレータとを具備することを特徴とする鉛蓄電池。」(特許請求の範囲の請求項2)
〔摘示1-B〕「ハイブリッド構成の格子を用いた鉛蓄電池は、正極格子の鉛-アンチモン系合金からアンチモンが溶出して負極に移行し、そこで析出され、自己放電が促進される等の好ましくない状態が生じる。そこで、正極格子からアンチモンが溶出して負極に移行するのを阻止した鉛蓄電池として、セパレータにスルホン化したポリエチレンセパレータを用いたものがある。・・・しかし、・・・ポリエチレンセパレータの劣化が激しく、スルホン化されたポリエチレンセパレータの機械的な伸びは処理前に比較して約35%前後も低下し、機械的強度が維持できるポリエチレンセパレータのスルホン化の方法が望まれていた。そこで、本発明は機械的強度を低下させることなくスルホン化されたポリエチレンセパレータによる鉛蓄電池の提供を課題とするものである。」(第2頁左上欄第7行〜左下欄第11行)
〔摘示1-C〕「第1図において、鉛-アンチモン系合金を用いてなる正極格子で形成された正電極板11は、アンチモン6%の鉛合金とし、100[mm]×30[mm]の面積で厚みが3[mm]に形成した。鉛を用いてなる正極格子で形成された負電極板12は100[mm]×30[mm]の面積で厚みが3[mm]に形成した。前記正電極板11と負電極板12との間には、リテーナーガラスマット13及び14で、スルホン化した鉱油を付着させたポリエチレンセパレータ15を挟持して、それを介在させ、電槽16に収納した。」(第3頁左下欄第4〜14行)
〔摘示1-D〕「正電極板11の電極格子から溶出し、負電極方向に移行するアンチモンイオンの移行をスルホン化した鉱油を付着させたポリエチレンセパレータ15は阻止することができることから、正極格子に鉛-アンチモン系合金を、負極格子に鉛-カルシウム系合金を用いるハイブリッド構成の格子を用いた鉛蓄電池にも使用できる。」(第4頁右下欄第1〜7行)
〔摘示1-E〕「正電極から溶出したアンチモンイオンを、スルホン基を導入したポリエチレンセパレータによって、その移行を阻止でき、自己放電が極端に少なくなり、寿命の長い鉛蓄電池とすることができ、鉛蓄電池のメンテナンスフリー性を得ることができる。」(第5頁左下欄第17行〜右下欄第2行)
〔2〕刊行物2:特開昭63-128571号公報(同甲第2号証)
〔摘示2-A〕「電槽セル室内極板群を挿入した後、極板群と電槽内壁面とのスキ間へ発泡性合成樹脂を注入し、この発泡性合成樹脂を発泡固体化してスキ間部分を塞ぐ事により極板群外周部を固定する事を特徴とする鉛蓄電池の製造法。」(特許請求の範囲)
〔摘示2-B〕「電池の構造においては、第2図の様に電槽1の中へ極板群3を挿入する場合、セパレータがマットレスのため、極板群自身の弾力性が全く無くなり極板群の幅W1は不動の寸法となり、そのために組立生産性を考えた場合電槽リブ間の寸法W0に対し、極板群幅W1は必ずそれよりも小さくして多少の余裕を確保しなければならない。通常では電槽リブ間の寸法W0に対し、極板群幅W1は1.0mm〜2.0mm短かくするのが好ましく、2.0mm以上のスキ間が出来る場合は、特にパルプ材又は、発泡シート材等の別部品をスキ間に挿入し、調整をしている。」(第1頁右下欄第1〜12行)
〔摘示2-C〕「本発明は上記した構成により、極板群周りのスキ間を塞ぐ事により、極板群の振動によるあばれを無くし疲労劣化を抑えて長寿命化することが出来る。」(第2頁右上欄第14〜17行)
〔摘示2-D〕「第2図は第1図の極板群3を長側面より見た断面図である。極板群aは電槽1のセル室内へ収納された時、極板群幅W1は電槽リブ間寸法W0よりも約2.0mm程小さく設計されており、容易にセル室内へ挿入できる。この時に極板群3と電槽リブ2との間に出来たスキ間4へ、電槽上部からノズル等により発泡性合成樹脂を流し込む。流し込まれた発泡性樹脂は時間とともに発泡を開始しながら固体化し、極板上部位まで、ほぼ全域のスキ間4を塞ぐ事が出来る。」(第2頁左下欄第3〜12行)
〔3〕刊行物3:特開平4-132167号公報(同甲第3号証)
〔摘示3-A〕「アンチモン含有量が4重量%以下の鉛-アンチモン系合金格子体を用いた正極板と、鉛-カルシウム系合金格子体を用いた負極板と、熱可塑性合成樹脂からなるセパレータにより構成された極板群を用いた鉛蓄電池。」(特許請求の範囲)
〔摘示3-B〕「ハイブリッド方式の電池が各々の用途に応じて使用されるようになった。この種の電池にはセパレータとしてガラスマットを貼り合わせた抄紙タイプが用いられ、・・・組み合わされて極板群されていたが、抄紙に用いる繊維径を細くするには限度があり、・・・アンチモンの正極から負極への移行を抑制するには不十分であった。・・・本発明は、・・・熱可塑性樹脂からなるセパレータで極板群を構成することにより、自己放電を少なくした鉛蓄電池を提供するものである。」(第2頁左上欄第5行〜右上欄第2行)
〔摘示3-C〕「アンチモン含有量が4重量%以下の鉛-アンチモン系合金格子体の正極板と、鉛-カルシウム系合金格子体を用いた負極板と、熱可塑性合成樹脂からなるセパレータを用いることで、アンチモンの溶出を少なくし、かつ電解液中に溶出したアンチモンをセパレータで捕捉して、その負極への移行を抑制し、自己放電を減少させたものである。」(第2頁右上欄第4〜10行)
〔摘示3-D〕「正極板は、アンチモン4重量%、砒素0.2重量%、残部が鉛からなる鉛-アンチモン系合金を用いて鋳造した格子体を用意する。一方、活物質重量に対しその0.02%の量となるようポリエステル系繊維を長さ約2mmにカットし、希硫酸と活物質との練合途中で添加してペーストを作成した。このペーストを先の格子体に充填した後、熟成乾燥を行い、高さ120mm、幅108mm、厚み1.8mmの未化成の状態の正極板を作成した。負極板は鉛-カルシウム系合金としてカルシウム0.08重量%、錫0.6重量%、残部が鉛であるスラブをロールで冷間圧延して厚さ0.8mmの薄板を作成し、これを網状にエキスパンド加工して格子体を作成する。次に活物質中に存在するバリウム量が1重量%になるように粒径が3μ以下の硫酸バリウムをリグニン系有機物とともに酸化鉛に添加し、希硫酸と練合して得られたペーストをこの格子体に充填し、片面もしくは両面にパルプを主体としたシートを貼り合わせた後熟成乾燥を行い、高さ120mm、幅108mm、厚み1.5mmの未化成の負極板を作成した。
セパレータは熱可塑性樹脂としてポリエチレンを主体とした材料を用い、・・・」(第2頁右上欄第13行〜左下欄第15行)

3-4.当審の判断
(1)取消理由1(申立て理由1)について
刊行物1には、摘示1-Aのとおりの「鉛-アンチモン系合金を用いてなる正極格子で形成された正電極と、鉛-カルシウム系合金を用いてなる負極格子で形成された負電極と、前記正及び負の電極板間に介在され、スルホン化された鉱油を付着させたポリエチレンセパレータとを具備することを特徴とする鉛蓄電池。」が記載されている。
本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、鉛蓄電池において、格子体にペーストを充填して正極板ないし負極板とすることは、通常のことであるから、両者は、
「Pb-Sb系合金からなる格子体にペーストを充填した正極板、Pb-Ca系合金からなる格子体にペーストを充填した負極板及びセパレータからなる鉛蓄電池。」(以下、「ハイブリッド鉛蓄電池」ということがある。)である点で一致するが、次の点で相違する。
相違点:
本件発明は、「正極板、負極板及びセパレータで構成した極板群の総厚さと電槽の内部寸法との差を余裕度として、その余裕率[(余裕度/電槽内部寸法)×100]を1.72%以下にする」のに対し、刊行物1記載の発明は、そのような余裕率を1.72%以下にすることについて規定していない点。

以下、この相違点について検討する。
本件発明は、「鉛蓄電池の使用条件の悪化により電池周囲温度の高温化が生じ、正極用格子中のSb溶出と負極板へのSbの析出が促進され、結局電解液の減液を促進して、結果的には従来のハイブリッド電池では充分な保守頻度の少ない電池とはなり得なかった。」(段落【0003】)という従来技術の問題点に鑑み、「ハイブリッド電池の寿命を少なくとも維持した上で電解液の減液特性を改善すること」(段落【0005】)を目的とし、前記相違点で示される構成要件を採用し、「電池が過充電状態にあるときに、正極板からセパレータを透過して出て来たSbイオンが、負極板に付着する前に負極板から発生している活性H2ガスによって還元され、その瞬間Sbとして負極板ではなくセパレータに付着する場合が多くなる。これにより負極板に付着するはずだったSbを大幅に削減することができるため電池の減液特性を改善できる」(段落【0008】)という作用効果を奏するものと認められる。
これに対し、刊行物1記載の発明は、ハイブリッド鉛蓄電池の正極格子から溶出したSbが負極で析出し、自己放電が促進されるという従来技術の問題点を解決しようとするものであり(摘示1-B参照)、解決しようとする従来技術の問題点において、本件発明と軌を一にするものである。しかしながら、刊行物1記載の発明は、スルホン化した鉱油をポリエチレンセパレータに付着させ、正電極板から溶出したSbイオンが負電極方向に移行するのを阻止するものであり(摘示1-A、1-D、1-E参照)、前記従来技術の問題点の解決手段が本件発明と全く異なっている。しかも、刊行物1には、実施例として、スルホン化した鉱油を付着させたポリエチレンセパレータをリテーナーガラスマットで挟持して、正電極板と負電極板との間に介在させたものが記載されているだけで(摘示1-C参照)、「正極板、負極板及びセパレータで構成した極板群の総厚さと電槽の内部寸法との差」(余裕度)ないし「余裕率[(余裕度/電槽内部寸法)×100]」について、全く記載されていない。
刊行物2には、鉛電池の構造において、電槽リブ間の寸法に対し、極板群幅を1.0〜2.0mm短くするのが好ましく、2.0mm以上のスキ間ができる場合は、パルプ材等の別部品をスキ間に挿入し調整すること(摘示2-B参照)、電槽セル室内へ極板群を挿入した後、極板群と電槽内壁面とのスキ間へ発泡性合成樹脂を注入し、この発泡性合成樹脂を発泡固体化してスキ間部分を塞ぐことが記載されている(摘示2-A、2-D参照)。しかしながら、刊行物2に記載の鉛蓄電池における「スキ間」は、電槽セル室内へ極板群を挿入する際の組立生産性、及び、使用時における極板群の振動によるあばれ現象を考慮して設定されるものであり(摘示2-B、2-C参照)、本件発明のように、正極板からセパレータを透過して出て来たSbイオンが負極板に付着するのを防止するために設定されたものではない。また、刊行物2には、鉛蓄電池における「スキ間」(本件発明における「余裕度」に相当)の好ましい寸法は、1.0〜2.0mmである旨が記載されているが(摘示2-B参照)、それが1.72%以下の余裕率[(余裕度/電槽内部寸法)×100]に相当する旨は、全く記載されていない(ちなみに、本件発明の実施例における余裕度は、0.55mm、0.05mmで、前記「スキ間」の好ましい寸法より相当小さいと認められる)。さらに、刊行物2には、ハイブリッド鉛蓄電池を対象とすることについても記載されていない。したがって、刊行物2に記載された発明を刊行物1に記載された発明に適用し得たとしても、「余裕率[(余裕度/電槽内部寸法)×100]」を1.72%以下とすることを当業者が容易に想到し得たとは云えない。
刊行物3に記載された発明は、ハイブリッド鉛蓄電池において、正極から負極へのSbの移行を抑制し、自己放電を少なくすることを課題とするものであり(摘示3-B参照)、本件発明と解決しようとする課題の点で軌を一にするものである。しかしながら、刊行物3記載の発明は、熱可塑性合成樹脂からなるセパレータを用いることで、アンチモンの溶出を少なくし、かつ電解液中に溶出したアンチモンをセパレータで捕捉して、その負極への移行を抑制するものであり(摘示3-A、3-C参照)、前記課題の解決手段が本件発明と全く異なっている。しかも、刊行物3には、「正極板、負極板及びセパレータで構成した極板群の総厚さと電槽の内部寸法との差」(余裕度)ないし「余裕率[(余裕度/電槽内部寸法)×100]」について、全く記載されていない。
したがって、刊行物1〜3記載の発明を如何に組み合わせたとしても、前記相違点で示される本件発明の構成要件を当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
そして、本件発明は、前記構成要件を具備することにより、「負極板に付着するSb量を軽減できることにより過充電状態における電解液の減液を大幅に改善することができる。」(段落【0015】)という明細書記載の効果を奏するものと認められる。
よって、本件発明は、刊行物1に記載された発明とは云えないし、また、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも云えない。

(2)取消理由2(申立て理由2)について
取消理由2は、次の(a)〜(c)の点で明細書の記載が不備であるというものである。
(a)明細書の段落【0008】等の記載によれば、「負極板とセパレータとの間の距離」を狭めること、ないし「負極板とセパレータとの密着度合い」を高めることにより、「電池が過充電状態にあるときに、正極板からセパレータを透過して出て来たSbイオンが、負極板に付着する前に負極板から発生している活性H2ガスによって還元され、その瞬間Sbとして負極板ではなくセパレータに付着する場合が多くなる。これにより負極板に付着するはずだったSbを大幅に削減することができるため電池の減液特性を改善できる」との作用効果が得られるとされている。しかしながら、「余裕率」と、「負極板とセパレータとの間の距離」、ないし「負極板とセパレータとの密着度合い」との間に一義的な相関関係が存在するとは認められないから、請求項1で規定された「余裕率」の技術的意義が明りょうでなく、それ故、請求項1に記載された発明特定事項を具備する本件発明の作用効果も明りょうでない。また、「余裕率」と、「負極板とセパレータとの間の距離」、ないし「負極板とセパレータとの密着度合い」との関係について上述したように、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とが整合して記載されているとは云えない。
(b)請求項1に記載された「正極板、負極板及びセパレータで構成した極板群の総厚さ」と、「ガラスマット」、「スペーサ」との関連が明りょうでなく、それ故、請求項1の前記記載の意味も明りょうでない。
(c)「電槽に一体に設けた群圧付与のためのリブ」(段落【0008】)を設けた場合における「電槽内部寸法」や「余裕率」の意味が明りょうでないし、その場合における「負極板とセパレータとの間の距離」、ないし「負極板とセパレータとの密着度合い」の意味やとそれらの作用効果も明りょうでない。
そこで、これらの点について検討するに、これらの明細書の記載不備は、上述の訂正により解消されているから、もはや、これらの点で明細書の記載が不備であるとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
鉛蓄電池
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 Pb-Sb系合金からなる格子体にペーストを充填した正極板、Pb-Ca系合金からなる格子体にペーストを充填した負極板及びセパレータからなる鉛蓄電池において、前記正極板、負極板及びセパレータで構成した極板群の総厚さと電槽の内部寸法との差を余裕度として、その余裕率[(余裕度/電槽内部寸法)×100]を1.72%以下にすることを特徴とする鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、鉛蓄電池に関し、より詳細には正極用格子にPb-Sb系合金を用い、負極用格子にはPb-Ca系合金を用いた鉛蓄電池の電解液の減液特性の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、鉛蓄電池においては無保守化に対する要求が強く、様々な技術的改良が行われてきた。この技術的改良の主なものとして、正極用格子には従来のPb-Sb系合金を用いるが、負極用格子にはPb-Sb系合金を使用せずPb-Ca系合金を用いるいわゆるハイブリット電池を得、それにより従来よりも電解液の減液が改善され且つ保守頻度の少ない鉛蓄電池を得ていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、近年になって都市や都市近郊での交通渋滞等による鉛蓄電池の使用条件の悪化により電池周囲温度の高温化が生じ、正極用格子中のSb溶出と負極板へのSbの析出が促進され、結局電解液の減液を促進して、結果的には従来のハイブリッド電池では充分な保守頻度の少ない電池とはなり得なかった。
【0004】
そのため、従来から、ハイブリッド電池において正極用格子中のSb量を減らすことによって電解液の減液を少なくする試みが行われてきた。しかしながら、格子の結晶構造が変化するために、正極格子強度、耐腐食性の低下による電池の短寿命化をもたらし、格子中のSb量を減らす技術にも限界があった。
【0005】
本発明の目的は、ハイブリッド電池の寿命を少なくとも維持した上で電解液の減液特性を改善することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の鉛蓄電池は、上記目的を達成すべく、Pb-Sb系合金からなる格子体にペーストを充填した正極板、Pb-Ca系合金からなる格子体にペーストを充填した負極板及びセパレータからなる鉛蓄電池において、前記正極板、負極板及びセパレータで構成した極板群の総厚さと電槽の内部寸法との差を余裕度として、その余裕率[(余裕度/電槽内部寸法)×100]を1.72%以下にすることを特徴とする。
【0007】
セパレータとしては、例えばポリエチレン製セパレータが使用されうる。
【0008】
【作用】
本発明によれば、正極板と負極板とセパレータとから構成してなる極板群の余裕率を1.72%以下にすることにより、電池が過充電状態にあるときに、正極板からセパレータを透過して出て来たSbイオンが、負極板に付着する前に負極板から発生している活性H2ガスによって還元され、その瞬間Sbとして負極板ではなくセパレータに付着する場合が多くなる。これにより負極板に付着するはずだったSbを大幅に削減することができるため電池の減液特性を改善できる。
【0009】
【実施例】
以下本発明の実施例を図1〜3を参照して説明する。
(実施例1)
本実施例1では正、負両極板用格子体を鋳造し、これに鉛粉、硫酸、水を練り合わせて得たペーストを用いて平面度の高い充填を行い、図1(A)に示す正極板1、負極板2を得た。これらの極板と表1記載のような厚みの異なったポリエチレンセパレータ3とを用いて群合わせを行って極板群4を構成し、図1(B)に示すように、内部寸法が32mmの電槽5内に入れ、種々の極板群総厚さを有する従来品、比較品及び本発明品として55D23タイプの電池を作製した。得られた電池のセパレータ厚み(mm)、極板群総厚さ(mm)及び余裕率(%)を表1に示す。ここで余裕率は、ハイブリッド電池を構成する極板群4の総厚さをXとし又X方向の電槽5の内部寸法をYとすれば、式:{(Y-X)/Y}×100によって表される。
【0010】
【表1】

【0011】
これらの電池に対して60℃定電圧過充電(13.6Vmax×700H)を行い、減液特性の比較を行った。得られた結果を図3の曲線aとして示す。図3において、横軸は各電池の余裕率(%)であり、縦軸は電解液の減液量(g)である。図3の曲線aから明らかなように、余裕率が1.72%以下である場合、減液特性が大幅に改善されていることがわかる。本実施例1において定電圧過充電終了後電池を分解して負極板側のセパレータ表面についてSb量を分析した結果、余裕率1.72%の場合のSb量の付着量は余裕率7.97%の場合の2倍程度となっていた。また負極板へのSbの付着量が大幅に減少していることから、過充電中に負極板から発生する活性H2ガスにより正極板から溶出してきたSbイオンが還元されてセパレータに付着したものと考えられる。
【0012】
【0013】
【0014】
【0015】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、負極板に付着するSb量を軽減できることにより過充電状態における電解液の減液を大幅に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
(A)正極板、負極板及びセパレータで構成した極板群の概略図
(B)極板群を電槽内に収納したときの様子を示す図
【図2】
正極板、負極板及びセパレータで構成した極板群にスペーサを重ねた状態を示す図
【図3】
実施例1において得られた各電池の余裕率と減液量との関係を示す特性図
【符号の説明】
1 正極板
2 負極板
3 セパレータ
4 極板群
5 電槽
6 スペーサ
X 極板群の厚さ寸法
Y 電槽の内部寸法
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-12-01 
出願番号 特願平6-313416
審決分類 P 1 651・ 531- YA (H01M)
P 1 651・ 121- YA (H01M)
P 1 651・ 113- YA (H01M)
P 1 651・ 534- YA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉水 純子冨士 美香  
特許庁審判長 中村 朝幸
特許庁審判官 原 賢一
綿谷 晶廣
登録日 2003-03-28 
登録番号 特許第3412300号(P3412300)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 鉛蓄電池  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 坂口 智康  
代理人 坂口 智康  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 岩橋 文雄  

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