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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09K
管理番号 1113035
異議申立番号 異議2003-73361  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-06-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-25 
確定日 2005-02-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第3462052号「酸化セリウム研磨剤および基板の研磨法」の請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3462052号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第3462052号の請求項1〜8に係る発明は、平成9年9月30日(優先権主張 平成8年9月30日 日本)に特許出願され、平成15年8月15日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人山崎暢子より特許異議の申立てがなされたものである。

II.特許異議申立てについての判断
1.本件発明
特許第3462052号の請求項1〜8に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、各々「本件発明1」〜「本件発明8」という)。

「【請求項1】粉末X線リートベルト法(RIETAN-94)による解析で等方的微小歪を表わす構造パラメーター:Yの値が0.01以上0.70以下である酸化セリウム粒子を媒体に分散させたスラリーを含み、スラリー中の酸化セリウム粒子の平均粒子径が200nm以上400nm以下である酸化セリウム研磨剤。
【請求項2】媒体が水である請求項1に記載の酸化セリウム研磨剤。
【請求項3】スラリ-が分散剤を含む請求項1または2に記載の酸化セリウム研磨剤。
【請求項4】分散剤が水溶性有機高分子、水溶性陰イオン界面活性剤、水溶性非イオン性界面活性剤及び水溶性アミンから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の酸化セリウム研磨剤。
【請求項5】分散剤がポリアクリル酸アンモニウム塩である請求項4記載の酸化セリウム研磨剤。
【請求項6】酸化セリウム粒子が炭酸セリウムを焼成した酸化セリウムである請求項1〜5のいずれかに記載の酸化セリウム研磨剤。
【請求項7】請求項1〜6のいずれかに記載の酸化セリウム研磨剤で所定の基板を研磨することを特徴とする基板の研磨法。
【請求項8】所定の基板がシリカ膜が形成された半導体チップである請求項7記載の基板の研磨法。」

2.申立ての理由の概要
異議申立人山崎暢子は、証拠として下記の甲第1〜7号証を提出し、本件発明1は甲第1〜3号証に記載された発明であり、本件発明2〜8も甲第1〜4号証に記載された発明であり、また、本件発明1は甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明2〜8も甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項あるいは同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1〜8に係る特許は特許法第113条第2号の規定により取り消されるべき旨の主張をしている。
また、特許異議申立人は、本件出願はその明細書に記載不備があり、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないものであるから特許を受けることができず、したがって本件発明1〜8の特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべき旨の主張もしている。

甲第1号証:特開平8-81218号公報 (公開日H8.3.26)
甲第2号証:特開平8-134435号公報(公開日H8.5.28)
甲第3号証:特開平8-153696号公報(公開日H8.6.11)
甲第4号証:特開平6-330025号公報
甲第5号証:不服2001-14552の審判請求書の請求理由の補充のた めになされた手続補正書写し
甲第6号証:島津遠心沈降式粒度分布測定装置(SA-CP3)カタログ
株式会社島津製作所作成
甲第7号証:日本分析化学会X線分析研究懇談会編,「粉末X線解析の実際 リートベルト法入門」,株式会社朝倉書店,2002年2月 10日,97〜167頁

3.甲第1号証〜甲第7号証に記載される事項
甲第1号証について
甲1-1
「【請求項1】水酸化第二セリウムと硝酸塩を含有する水性媒体を、アルカリ性物質を用いて8〜11のpHに調整した後、100〜200℃の温度で加圧下に加熱する事を特徴とする0.03〜5μmの粒子径を有する酸化第二セリウム粒子の製造方法。」(【請求項1】)
甲1-2
「【産業上の利用分野】本発明は、半導体製造用の研磨材や、プラスチック、ガラス等の紫外線吸収材料に用いられる酸化第二セリウム粒子の製造方法に関する。」(段落【0001】)
甲1-3
「本願発明は、これら問題を解決し結晶性酸化第二セリウム粒子を効率よく製造する方法を提供しようとするものである。」(段落【0006】)
甲1-4
「本発明によって得られる酸化第二セリウム粒子は、0.03〜5μmの粒子径を・・・有する。上記の酸化第二セリウム粒子を、研磨材として利用する場合は、0.05〜5μmの粒子径である事が好ましく、また、紫外線吸収材料に利用する場合は、0.03〜0.05μmの粒子径である事が好ましい。上記の粒子径は、遠心沈降式粒度分布測定装置により測定する事が出来る。・・・上記の酸化第二セリウム粒子を・・・粉末X線回折を測定したところ、・・・立方晶系の結晶性の高い酸化第二セリウム粒子である事が判明した。上記の酸化第二セリウム粒子は、透過型電子顕微鏡観察を行ったところ、20〜60nmの平均径を有する酸化第二セリウム微粒子が化学的に結合して0.03〜5μmの粒子径を有する粒子として存在する多結晶体である事が判明した。」(段落【0013】)。
甲1-5
「実施例1
水酸化第二セリウム3.0gと、硝酸アンモニウム4.6gを純水80gに分散させた。・・・この水溶液を、・・・テフロン製のオートクレーブ装置に仕込み、温度180℃、圧力10kg/cm2で15時間水熱反応させた。・・・淡黄色の粒子を有するpH7.2のスラリーが得られた。
このスラリーより粒子を濾過し、純水を用いて洗浄した後、遠心沈降式粒度分布測定装置(島津製作所(株)製、SA-CP3)で平均粒子径を測定したところ、0.33μmであった。・・・ また、粒子を乾燥して粉末X線回折(日本電子(株)製、JDX-8200T)を測定したところ・・・、立方晶系の酸化第二セリウムの特性ピークと一致した。」(段落【0021】〜【0022】)
甲1-6
「実施例4
・・・ガラス製オートクレーブ装置に仕込み、・・・水熱処理した。・・・淡黄色の粒子を有するpH1.3のスラリーが得られた。
このスラリーより粒子を濾別し、純水で洗浄した後、実施例1と同様の分析を行ったところ、平均粒子径が0.29μmの結晶性の高い酸化第二セリウム粒子であった。・・・
ここで得られたスラリーを限外濾過装置により洗浄、濃縮することにより・・・結晶性酸化第二セリウム粒子のスラリーを得た。このスラリーは、長時間放置すると粒子の一部が沈降するために、使用時に攪拌により再分散する必要があった。
なお、この結晶性酸化第二セリウム粒子のスラリーのシリカガラスに対する研磨性を調べたところ、市販のシリカゾル研磨材の2倍近い研磨速度を有していた。」(段落【0027】〜【0029】)
甲1-7
「実施例6
・・・ガラス製オートクレーブ装置に仕込み、・・・水熱処理を行った。・・・淡黄色の微粒子を有するpH8.5のスラリーが得られた。
反応液より微粒子を濾別、洗浄した後、実施例1と同様の分析を行ったところ平均粒子径が0.26μmの結晶性酸化第二セリウムの粒子であった。
ここで得られたスラリーを限外濾過装置により洗浄と濃縮を行う事により・・・結晶性酸化第二セリウムの水性分散体を得た。この水性分散体に、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液を・・・添加することによりpH=11.9の安定化された結晶性酸化第二セリウムの水性ゾルが得られた。
この結晶性酸化第二セリウムの水性ゾルは、半導体製造用の研磨液として優れたものであった。」(段落【0032】〜【0033】)

甲第2号証について
甲2-1
「【請求項1】平均粒径0.1μm以下の酸化セリウムからなることを特徴とする半導体デバイスの製造工程で用いるための研磨材。
【請求項2】 酸化セリウムの純度が99.5%以上であることを特徴とする請求項1記載の研磨材。
【請求項3】 半導体デバイスの製造工程における研磨方法において、請求
項1又は2記載の研磨材を5〜300g/lの濃度で含有するスラリーを用いて研磨することを特徴とする研磨方法。」(【請求項1】〜【請求項3】)
甲2-2
「半導体デバイスの製造工程で用いるためには、汚染防止の意味で高純度品であることが必要であり、特に歩留り低下の原因となるNa、K等のアルカリ金属イオン、α線の発生源になりうる放射線元素については皆無にすることが望ましい。」(段落【0005】)
甲2-3
「【発明が解決しようとする課題】・・・半導体デバイスの製造工程で汚染をもたらすような物質を含有せず、現在使用されているシリカ系の研磨材と同等の良好な表面状態、加工精度であって、シリカ系の研磨材よりも高速な研磨速度を達成できる研磨材、研磨方法の開発が望まれており、その開発が本発明の目的である。」(段落【0008】)
甲2-4
「以下に本発明について具体的に説明する。本発明の研磨材においては酸化セリウムは、半導体デバイスの製造工程で汚染の問題を引き起こさないように、Na、K等のアルカリ金属イオンやα線の発生源になりうる放射線元素等の不純物を含有しないように高純度化されたものである必要がある。」(段落【0011】)
甲2-5
「このような高純度の酸化セリウムは高純度の炭酸セリウム、高純度の水酸化セリウム又は高純度のシュウ酸セリウムを原料とし、精製、焼成、粉砕工程を経て調製される。本発明においては、Na、K等のアルカリ金属イオンやα線の発生源になりうる放射線元素等の不純物を含有しないように高純度化された酸化セリウム、理論的には100%に近い純度のものが好ましい 」(段落【0014】)
甲2-6
「半導体デバイスの製造工程において本発明の研磨材を用いて研磨する場合には上記の特定の研磨材を5〜300g/lの濃度で含有するスラリー(好ましくは金属イオンの少ない中性スラリー、即ち、酸やアルカリを用いないもの)を用いて研磨する。・・・本発明で用いるスラリーは純水を媒体とすることが好ましい。」(段落【0015】〜【0016】)

甲第3号証について
甲3-1
「【請求項1】基体上の有機絶縁膜の主表面を、酸化セリウムにより研磨することを特徴とする研磨方法。
・・・
【請求項6】請求項1に記載の研磨方法において、前記酸化セリウムの結晶子の大きさは30nm以下であることを特徴とする研磨方法。
【請求項7】請求項1に記載の研磨方法において、前記酸化セリウム粉に含まれるナトリウムの濃度が2ppm以下であることを特徴とする研磨方法。
【請求項8】請求項1に記載の研磨方法において、前記酸化セリウム粉に含まれるナトリウム、カルシウム、鉄、クロムの含有量が合計10ppm未満であることを特徴とする研磨方法。
【請求項9】請求項1に記載の研磨方法において、前記酸化セリウムの平均粒子径は0.3μm以下であることを特徴とする研磨方法。
・・・
【請求項17】結晶子の大きさが60nm以上である酸化セリウムを用いて、pH3以上14以下の中性でない領域で、無機絶縁膜を選択的に研磨することを特徴とする研磨方法。
【請求項18】結晶子の大きさが60nm以上である酸化セリウムを用いて、pH3以上14以下の領域で、ドープド絶縁膜を選択的に研磨することを特徴とする研磨方法。
【請求項19】 酸化セリウム粉に含まれる不純物であるナトリウム、カルシウム、鉄、クロムの含有量が合計10ppm未満であることを特徴とする有機絶縁膜用の研磨剤。
【請求項20】 請求項19記載の研磨剤において、前記酸化セリウムの結晶子の大きさは、30nm以下であることを特徴とする研磨剤。
【請求項21】請求項19記載の研磨剤において、前記酸化セリウムの平均粒子径は0.3μm以下であることを特徴とする研磨剤。
【請求項22】不純物であるナトリウム、カルシウム、鉄、クロムの含有量が合計10ppm未満の酸化セリウム粉を、分散液中の酸化セリウム粉の濃度が5重量%以上になるように溶媒に混ぜられたことを特徴とする研磨剤。
」(【請求項1】〜【請求項22】)
甲3-2
「【発明の属する技術分野】本発明は半導体集積回路や光学ガラス素子などを構成する絶縁膜もしくは塗布絶縁膜の表面を研磨する研磨剤と研磨方法とに関する。」(段落【0001】)
甲3-3
「本発明の目的は、半導体素子等の特性を劣化させることなく、絶縁膜を研磨できるようにすることを目的とする。」(段落【0005】)
甲3-4
「酸化セリウム粉中のNa、Ca、Fe、Crの濃度を10ppm未満に保つことによって、半導体集積回路の加工などに用いても悪影響の発生を防ぐ事ができる。また、研磨を繰り返す過程で研磨装置や容器などにこれらの不純物が蓄積して汚染源となる可能性もあるため、汚染物の濃度は、Naについては2ppm以下に抑制することが望ましい。」(段落【0009】)
甲3-5
「なお、極度に汚染を嫌う場合には分散液中のNaやCa、Fe、やCr、それに加えてKの濃度をおのおの0.1ppm以下とする事が良い。」(段落【0010】)
甲3-6
「また、従来の不純物が多く含まれているセリア研磨剤を用いて研磨すると、・・・研磨傷が多発した。・・・これは、従来の酸化セリウム粒子の平均粒子サイズが1μmを超えるものであったことによる。そこで、平均粒子サイズを1μm未満にすると研磨傷の発生が抑制されることがわかった。なお、特に脆くて柔らかい有機絶縁膜などに対しては平均粒子径を0.3μm以下に保つとよい。ここで、粒子径は一次粒子もしくは二次粒子のいずれか大きな方のサイズを表す。また、平均粒子径は粒子径のサイズ分布の平均値をいう。」(段落【0011】)
甲3-7
「酸化セリウム粒子には研磨特性が大幅に異なる2種類のものが存在する事を見い出した。・・・(酸化セリウムA)と、・・・(酸化セリウムB)とが存在する。両者の化学組成は殆ど同じであるが、個々の粒子の結晶性に大きな違いが存在する。X線回折分析の結果から、前者は個々の粒子の結晶性が弱くて微結晶の集まりとなっており、後者では個々の粒子がほぼ結晶からなっていると推定される。・・・また、上記の結晶方位の結晶子の大きさは酸化セリウムAでは30nm以下であるのに対し酸化セリウムBでは60nm以上と大幅に大きくなっている。」(段落【0012】)

甲第4号証について
甲4-1
「【請求項1】酸化セリウムを含む希土類酸化物を主成分とする研磨材において、フッ素化合物を2.0〜20.0重量%、カルシウム化合物をカルシウム換算で0.01〜0.9重量%含有することを特徴とするガラス研磨用研磨材。
【請求項2】さらに有機分散剤を0.8重量%以下含有する請求項1に記載のガラス研磨用研磨剤。」(【請求項1】、【請求項2】)
甲4-2
「【発明が解決しようとする課題】本発明は、・・・砥粒の沈殿が硬くなく再分散が可能で、しかも研磨効率が高くまた安定で、研磨品質に優れたガラス研磨用研磨材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】本発明の上記した課題は、研磨材中に一定量のフッ素化合物とカルシウムイオンを含有させることにより達成される。」(段落【0008】〜【0009】)
甲4-3
「本発明の研磨材は、通常、水等の分散媒に分散させて5〜30重量%程度のスラリーの状態で使用される。このような分散媒としては、水や水溶性有機溶媒が使用される。有機溶媒としてはアルコール、多価アルコール、アセトン、テトラヒドロフラン等が例示されるが、水が通常使用される。」(段落【0016】)
甲4-4
「それ故、本発明では、さらに高分子の有機分散剤を含有することが望ましい。有機分散剤としては、ポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸塩、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール等が例示される。」(段落【0018】)

甲第5号証について
甲5-1
本件特許権者が、甲第1〜3号証に記載される研磨材の酸化セリウム粒子に相当する粒子を調整し、その粒子の粉末X線リートベルト法(RIETAN-94)による解析で等方的微小歪を表す構造パラメーターYの値を求めた結果が「結晶歪」の項に記載されている。
なお、【表1】中の刊行物Cは甲第1号証と同じ刊行物であり、刊行物Aは甲第2号証と同じ刊行物であり、刊行物Bは甲第3号証と同じ刊行物である。



(第6頁【表1】)
甲5-2
「実験成績証明書1・・・
4.目的 特開平8-133435号公報(特開平8-134435号公報の誤記と認められる。)の実施例1に記載された研磨材について追試し、・・・結晶歪(粉末リートベルト法による解析で当方的微小歪を表わす構造パラメーター:Y)・・・を求めることを目的とする。前記実施例では、実験条件について不明な部分があった。そこで、不明な部分については、・・・適切と考えられる条件を決定して実験を行い・・・測定を行った。・・・
5.2評価・・・(4)結晶歪(粉末リートベルト法による解析で当方的微小歪を表わす構造パラメーター:Y)・・・Rietvelt法粉末X線構造解析ソフト(Rietan94)を用いて、得られた粉末の結晶歪を測定した。」(第11〜12頁)
甲5-3
「実験成績証明書2・・・
4.目的 特開平8-153696号公報の実施例1に記載された酸化セリウムB、及び実施例2に記載された酸化セリウムAについて追試し、・・・結晶歪(粉末リートベルト法による解析で当方的微小歪を表わす構造パラメーター:Y)・・・を求めることを目的とする。前記実施例では、実験条件について不明な部分があった。そこで、不明な部分については、・・・適切と考えられる条件を決定して実験を行い・・・測定を行った。・・・
5.2評価・・・(4)結晶歪(粉末リートベルト法による解析で当方的微小歪を表わす構造パラメーター:Y)・・・Rietvelt法粉末X線構造解析ソフト(Rietan94)を用いて、得られた粉末の結晶歪を測定した。」(第13〜14頁)
甲5-4
「実験成績証明書3・・・
4.目的 特開平8-81218号公報の実施例1に記載された酸化セリウムについて追試し、・・・結晶歪(粉末リートベルト法による解析で当方的微小歪を表わす構造パラメーター:Y)・・・を求めることを目的とする。前記実施例では、実験条件について不明な部分があった。そこで、不明な部分については、・・・適切と考えられる条件を決定して実験を行い・・・測定を行った。・・・
5.2評価・・・(4)結晶歪(粉末リートベルト法による解析で当方的微小歪を表わす構造パラメーター:Y)・・・Rietvelt法粉末X線構造解析ソフト(Rietan94)を用いて、得られた粉末の結晶歪を測定した。」(第15〜16頁)

甲第6号証について
甲6-1
「SA-CP3は光透過法による検出方式を使った液相沈降式の粒度分布測定装置です。」(第2頁左欄3〜4行)

甲第7号証について
甲7-1
「リートベルト解析では,全粉末回折パターンに含まれている情報を最大限に抽出するために,実測パターンとできるだけよく一致するよう近似構造モデルに基づいて計算した回折パターンを当てはめる(図6.1).」(第97頁右欄7〜11行)

甲7-2
「リートベルト解析では、全くの新化合物を扱うことはあまり多くない.・・・リートベルト解析を行うには、解析の対象となる物質の空間群と格子定数・原子座標の初期値が必要となる.」(第154頁左欄6行〜右欄末19行)

4.対比・判断
(1)特許法第29条第1項違反について
本件発明1について
[甲第1〜3号証との対比・判断]
特許異議申立人の提出した甲第1〜3号証には、いずれも、酸化セリウムを含む研磨剤について記載されているところ、これらの甲号証には、本件発明1の特定事項である「粉末X線リートベルト法(RIETAN-94)による解析で等方的微小歪を表わす構造パラメーター:Yの値が0.01以上0.70以下」(以下、「特定事項Y」という。)であり、「スラリー中の酸化セリウム粒子の平均粒子径が200nm以上400nm以下」(以下、「特定事項Z」という。)である酸化セリウム研摩剤については、記載されていない。
(ここで、「粉末X線リートベルト法(RIETAN-94)による解析で等方的微小歪を表わす構造パラメーター:Yの値」を、以下、「微小歪Y値」という。)

特許異議申立人は、この点につき、特許異議申立書9頁末5行〜末行において、「甲第5号証によれば、・・・甲第1号証〜甲第3号証記載の酸化セリウム粒子の・・・Y値はいずれも本件発明1の範囲内にある」旨、主張している。

ところで特許異議申立人の提出した甲第5号証の表1には、「刊行物A(甲第2号証に相当)」、「刊行物B(甲第3号証に相当)セリアA」、「刊行物B(甲第3号証に相当)セリアB」及び「刊行物C(甲第1号証に相当)」と表示された4種類の酸化セリウムについて、物性、効果等が記載されており、これは、特許権者がそれぞれの刊行物に記載された実施例(順に、刊行物Aの実施例1、刊行物Bの実施例2、刊行物Bの実施例1、刊行物Cの実施例1)に則して実験を行った結果が列挙されるものであるところ、そのデータを検討するに、本件発明1の「微小歪Y値」に相当する「結晶歪」欄の数値は、いずれの例においても、本件発明1で特定するところの上記特定事項Yの範囲内であるが、一方、本件発明1の「スラリー中の酸化セリウム粒子の平均粒子径」に相当する「粒子径(nm)Mastersizer」欄の数値は、本件発明1の上記特定事項Zの範囲内のものではない。

また、特許異議申立人は、特許異議申立書7頁5行〜15行において、甲第1号証には、上記摘記した甲1-4、甲1-5の記載、即ち、「20〜60nmの平均径を有する酸化第二セリウム微粒子が化学的に結合して0.03〜5μmの粒子径を有する粒子として存在する多結晶体である」旨、「平均粒子径を測定したところ、0.33μmであった」旨の記載がされているとし、これらは本件発明1の上記特定事項Zの範囲と重複する旨、述べている。

が、ここに記載された粒子径範囲と、甲第5号証の表1の「刊行物C」欄(甲第1号証の実施例1に相当)の「粒子径(nm)Mastersizer」の箇所に記載された粒子径範囲とは、明らかに数値が異なっており、特許異議申立人はこの点について何ら説明を加えていない。
また、甲第1号証において、0.03〜5μmの粒子径を有するとされる粒子は酸化第二セリウムで、本件発明1の酸化セリウム粒子と記載上相違があるが、本件発明1も酸化第二セリウムを排除するものでないから、この点に両者で実質的な相違は無い。
そうしてみると、甲第1号証の実施例1に記載された酸化セリウムが、「該実施例1に記載の0.33μmの平均粒子径を有し、甲第5号証の表1中に記載された結晶歪0.27〜0.355を有し、かつ、甲第5号証の表1中に記載された粒子径(nm)6900〜12200を有しない」とすることが自然であるとは、到底認めがたい。そして、甲第1号証には、他に微小歪Y値と関係する記載はない。
したがって、甲第1号証には、上記特定事項Yと特定事項Zを同時に満たす酸化セリウム研磨剤が記載されているとは認められず、また、甲第2、3号証については、これらの甲号証中に、スラリー中の酸化セリウム粒子の平均粒子径については何ら記載がされていないのであるから、上記特定事項Yと特定事項Zを同時に満たす酸化セリウム研磨剤は当然に記載されていない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1〜3号証に記載された発明ではない。

本件発明2〜8について
[甲第1〜3号証との対比・判断]
本件発明2〜8は、本件発明1を引用して記載された発明、ないしは、本件発明1を引用して記載された発明を引用して記載された発明であり、いずれの発明も本件発明1と同じく、「酸化セリウム粒子の微小歪Y値」を「特定事項Y」のように特定し、「スラリー中の酸化セリウム粒子の平均粒子径」を「特定事項Z」のように特定したものである。
したがって、「本件発明1について」の[甲第1〜3号証との対比・判断]の項で述べたのと同じ理由で、本件発明2〜8は、甲第1〜3号証に記載されている発明ではない。

[甲第4号証との対比・判断]
甲第4号証は、酸化セリウムを含む希土類酸化物を主成分とする研磨材であり、しかも、上記特定事項Yも特定事項Zも記載されていない。
したがって、本件発明2〜8は、甲第4号証に記載された発明ではない。

(2)特許法第29条第2項違反について
本件発明1〜8について
本件発明1〜8は、いずれも、上記特定事項Yと特定事項Zを有するものであるところ、甲第1〜4号証のいずれにも、該特定事項Yと特定事項Zを同時に有する点は記載も示唆もされていない。また、甲第1〜4号証の記載を合わせ考慮しても、該特定事項Yと特定事項Zを同時に有する点は導き出せない。
そして、本件発明1〜8は、この点により、特許明細書に記載の、傷なく高速に研磨することが可能となるという優れた効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1〜8は、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)特許法第36条違反について
異議申立人は、〈1〉粉末X線リートベルト法による解析には粉末X線回折法による分析を行うことが前提となるところ、X線回折の結果は測定条件により影響を受けるものであるにもかかわらず、その測定条件については請求項1にも明細書にも記載されていない(異議申立書17頁末8行の○で囲まれた1の項参照)〈2〉微少歪Y値の判断には、フィッティングの精度がいかなるものなのかが重要であるところ、そのフィッティング精度について、あるいはフィッティング条件、解析条件については請求項1にも明細書にも記載されていない(異議申立書18頁1行の○で囲まれた2の項参照)〈3〉微少歪Y値が0.01以上0.7以下である酸化セリウム粒子は一般的な酸化セリウム粒子を示すに過ぎず、この一般的な酸化セリウム粒子を示すに過ぎない発明特定事項とスラリー中の酸化セリウム粒子の平均粒径を示す発明特定事項との関連が不明確であり、また、かかる一般的な酸化セリウムをどのように媒体に分散させれば所定の粒径となるのか明細書の記載が不明である、さらに、粉砕による微少歪Y値の変化はわずかであり、しかも、酸化セリウムの粉砕を行うことは研磨材の製造工程において周知であるから、粉砕後の酸化セリウム粒子の微少歪Y値も0.01以上0.7以下であると考えられると述べたうえ、具体的にどのような条件で粉砕を行えば微少歪Y値を0.01以上0.7以下の範囲にできるか不明である、また、粉砕工程の有無による一般的な酸化セリウム粒子との区別は不可能である(異議申立書18頁末9行の○で囲まれた3の項参照)、の〈1〉〜〈3〉を理由として、本件特許は、特許請求の範囲に記載された発明が不明確であり、また、本件明細書は当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない旨主張している。
まず、〈1〉について検討する。
粉末X線回折法の測定条件はほぼ定まっており、当業者において理解されているところと認められ、また、必要なら専門書である、例えば、加藤誠軌著「セラミックス基礎講座3 東京工業大学工学部 無機材料工学科編 X線回折分析」(第1版)内田老鶴圃 1990年4月20日発行、163〜165頁、172〜174頁等を参照すれば足るところであるから、本件特許明細書中にX線回折の測定条件についての記載がされていないことをもって、本件発明1が明確でないと言うことも、本件明細書は当業者が実施をできる程度に記載されていないと言うこともできない。
次いで、〈2〉について検討する。
リートベルト法においては、解析の対象となる物質の空間群と格子定数・原子座標の初期値が必要となること、そのため、新化合物を扱うことがまれであることは、異議申立人が提出した甲第7号証に記載されているように(上記摘記「甲7-2」参照)明らかである。ところで、本件発明1においては焼成により得られた酸化セリウムにおける構造パラメーターを求めているのであって、新化合物を扱っているのではないのであるから、このような場合、フィッティング精度等の解析条件についての記載は必ずしも必要ないものと認められる。よって、本件特許明細書中に粉末X線リートベルト法の解析条件についての記載がされていないことをもって、本件発明1が明確でないと言うことも、本件明細書は当業者が実施をできる程度に記載されていないと言うこともできない。
さらに、〈3〉について検討する。
本件発明1は、微少歪Y値が0.01以上0.7以下である酸化セリウム粒子を媒体に分散させたスラリーを含む研磨剤であって、スラリー中の酸化セリウム粒子の平均粒子径が200nm以上400nm以下であるものである。すなわち、本件発明1は、酸化セリウム粒子そのものが有すべき要件と、酸化セリウム粒子がスラリー中で有すべき要件とを発明特定事項とするもので、両発明特定事項の関連は明確である。また、上記した発明特定事項の一つである、微少歪Y値が0.01以上0.7以下である酸化セリウム粒子が一般的な酸化セリウム粒子と区別できるか否かにより、上記両発明特定事項の関連が不明確になるものでもない。さらに、かかる一般的な酸化セリウムをどのように媒体に分散させれば所定の粒径となるのか、あるいは、具体的にどのような条件で粉砕を行えば微少歪Y値が0.01以上0.7以下の範囲にできるのかについては、本件特許明細書段落【0008】〜【0010】の【課題を解決するための手段】の項に、酸化セリウム粒子の作製法としての焼成法や粉砕法、またスラリーの作成法に関する記載がなされ、本件特許明細書段落【0021】〜【0032】の【実施例】にも、酸化セリウム粒子の焼成や粉砕やスラリー化に関する記載がされていることから、酸化セリウム粒子の製造法や分散法に不明な点はない。よって、本件発明1が明確でないと言うことも、本件明細書は当業者が実施をできる程度に記載されていないと言うこともできない。
以上から、本件特許は、その特許請求の範囲の請求項1〜8に係る発明が明確であり、また、本件明細書は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜8についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜8についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1〜8についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2005-01-26 
出願番号 特願平9-265979
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C09K)
P 1 651・ 537- Y (C09K)
P 1 651・ 121- Y (C09K)
P 1 651・ 536- Y (C09K)
最終処分 維持  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 関 美祝
鈴木 紀子
登録日 2003-08-15 
登録番号 特許第3462052号(P3462052)
権利者 日立化成工業株式会社
発明の名称 酸化セリウム研磨剤および基板の研磨法  
代理人 三好 秀和  

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