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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) H01C
管理番号 1113869
審判番号 無効2001-35089  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1987-11-12 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-03-06 
確定日 2004-10-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第1662312号「チツプ抵抗器」の特許無効審判事件についてされた平成14年 1月30日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成14年(行ケ)第0115号平成16年 7月 6日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第1662312号の特許請求の範囲第1項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 本件特許第1662312号「チップ抵抗器」の特許請求の範囲第1項に係る発明は、昭和61年5月6日に特願昭61ー102163号として特許出願され、平成3年4月17日に特公平3ー28041号として出願公告され、平成4年5月19日にその発明について特許の設定登録(発明の数1)がなされたものである。
これに対して、平成13年3月6日に請求人日本ビシェイ株式会社より、本件特許請求の範囲第1項に係る発明についての特許を無効とする、との審決を求める本件審判の請求がなされ、平成13年6月18日付で被請求人(特許権者)アルファ・エレクトロニクス株式会社より、本件審判の請求は成り立たない、との審決を求める答弁書とともに訂正請求書が提出され、また平成13年9月4日付で弁駁書が提出され、さらに平成13年11月8日に口頭審理が行われ、その後上申書(請求人平成13年11月22日付)が提出されたものである。
【2】訂正の適否について
(2-1)訂正の要旨
願書添付の明細書第1頁(平成2年11月5日付手続補正書の別紙第8行)(公告公報第1欄第7行)「他側面に貼着されその外部突出端が」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、次のように訂正する。
「他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびてその外部突出端が」
またこれに伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、願書添付の明細書第3〜4頁(平成2年11月5日付手続補正書の第2頁第12行、公告公報第3欄第19行)の同一部分「他側面に貼着されその外部突出端が」を次のように訂正する。
「他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびてその外部突出端が」
(2-2)判断
特許請求の範囲についての訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、また詳細な説明の欄についての訂正事項は、前記特許請求の範囲の訂正に対応した明りょうでない記載の釈明に相当する。そして、この訂正内容は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
したがって、前記訂正は、特許法第134条第2項ただし書き及び同条第5項で準用する第126条第2項乃至第3項の規定に適合するから、当該訂正を認める。
【3】本件特許発明
訂正請求により訂正された本件特許請求の範囲第1項に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「一側面に金属箔抵抗体が貼着された絶縁性基板を、柔軟な内側の樹脂と硬質な外側の樹脂とで2層に外装し、
この外装樹脂のプリント基板への取付面に板状外部接続端子を臨ませたチップ抵抗器において、
前記絶縁性基板の他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびてその外部突出端が前記外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲された一対の板状外部接続端子と、
これらの各板状外部接続端子と前記抵抗体とを前記外装樹脂内で接続するリード線とを備えることを特徴とするチップ抵抗器。」
【4】審判請求人の主張
(4-1)無効とすべき理由の概要
本件審判請求人は、以下の証拠方法を提出するとともに、本件発明についての特許を無効とすべき理由について、要点、以下のとおり主張している。
「本件特許発明の出願前の技術水準を考慮すると、甲第1号証に記載された抵抗器の外部接続端子を、甲第2号証に記載されたチップ状電子部品に基づいて「板状」とし、「外部接続端子の外部突出端を、外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出させ、前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲させる」ことによって、本件特許発明と同一のチップ抵抗器を構成することは、当業者にとって容易に成しうることである。また、訂正による外部接続端子の「その一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびてその外部突出端が前記外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲された」構成が甲第1号証に開示されていない点については、甲第2号証等他の刊行物から容易である。
従って、本件特許発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものと認められ、特許法第29条第2項に該当するので、同法第123条第1項第2号により無効とすべきものである。」
[証拠方法]
・甲第1号証:BULLETIN R-700b VISHAY V53&M53/55 SERIES BULK METAL VALUE ENGINEERED PRECISION RESISTORS(1974年11月発行)
・甲第2号証:実願昭47-14317号(実開昭48-90147号公報)のマイクロフィルム(昭和48(1973)年10月30日発行)
・甲第3号証:BULLETIN R-700d VISHAY V53&M53/55 SERIES BULK METAL VALUE ENGINEERED PRECISION RESISTORS(1975年10月発行)
・甲第4号証:Bulletin R-800A Announcing Vishay's new “Super-S” precision resistor-Model S102C(1977年発行)
・甲第5号証:特開昭59-200448号公報(昭和59(1984)年11月13日発行)
・甲第6号証:実願昭58-138762号(実開昭60-48231号公報)のマイクロフィルム(昭和60(1985)年4月4日発行)
・甲第7号証:実願昭58-73496号(実開昭59-177934号公報)のマイクロフィルム(昭和59(1984)年11月28日発行)
・甲第8号証:実願昭58-77215号(実開昭59-182926号公報)のマイクロフィルム(昭和59(1984)年12月6日発行)
・甲第9号証:実願昭57-168482号(実開昭59-72725号公報)のマイクロフィルム(昭和59(1984)年5月17日発行)
・甲第10号証:BULLETIN R-700d VISHAY V53&M53/55 SERIES BULK METAL VALUE ENGINEERED PRECISION RESISTORS(1975年10月発行);甲第3号証原本
・甲第11号証:米国特許第3,718,883号明細書(1973年2月27日発行)
(4-2)具体的理由の要点
本件審判請求人は、審判請求書等において、具体的理由を、概要、以下のとおり主張している。
(4-2-1)審判請求書において
(i)「(4-1)甲第1号証の記載
甲第1号証として示す「BULLETIN R-700b VISHAY V53&M53/55 SERIES BULK METAL VALUE ENGINEERED PRECISION RESISTORS(1974年11月発行)」は、本件特許発明の出願時である昭和61(1986)年5月6日以前に発行されたものである。
この甲第1号証における第3頁上段中央欄及び右欄には、「V SERIES」との表題の下に、以下に示す構成要件から成る抵抗器が記載されている。
(a)防湿用のエポキシ樹脂コーティング(Moisture-proof epoxy coating)
(b)シリコーンゴムの封止材(Silicone Rubber encapsulation)
(c)エッチング処理により形成された金属箔抵抗パターン(Etched bulk metal)
(d)接合されたフレキシブル細線(Flexible welded ribbon leads)
(e)セラミック基板(Ceramic substrate)
(f)すずめっき銅リード(Tinned copper leads)
以上のような甲第1号証に記載された発明と本件特許発明の構成要件とを比較すると、以下のようになる。まず、甲第1号証の第3頁上段中央に示すように、「セラミック基板」の一側面には、エッチング処理により「金属箔抵抗パターン」が形成されており、この「セラミック基板」は、柔軟な内側の「シリコーンゴムの封止材」及び硬質な外側の「エポキシ樹脂コーティング」によって2層に外装されている。従って、この点で甲第1号証の発明は、「一側面に金属箔抵抗体が貼着された絶縁性基板を、柔軟な内側の樹脂と硬質な外側の樹脂とで2層に外装している」という本件特許発明と共通している。次に、甲第1号証の発明は、第3頁上段中央に示すように、「エポキシ樹脂コーティング」のプリント基板への取り付け面に「すずめっき銅リード」が延出している。従って、甲第1号証の発明は、「外装樹脂のプリント基板への取付面に板状外部接続端子を臨ませた」という本件特許発明と、外部接続端子が「板状」であることを除いて共通している。また、甲第1号証の第3頁上段中央及び右欄に示すように、「複数のすずめっき銅リード」の一端部は、「シリコーンゴムの封止材」内で「セラミック基板」における「金属箔抵抗体」とは反対の側面に密着し、他端部は外装樹脂外へ延出している。従って、甲第1号証の発明は、「絶縁性基板の他側面に貼着されその外部突出端が外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲された一対の板状外部接続端子」を備えている本件特許発明と、「外部接続端子が、外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し、外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲されている」ことを除いて共通している。さらに、甲第1号証の第3頁上段中央に示すように、「フレキシブル細線」は、「金属箔抵抗体」と「すずめっき銅リード」とを、「シリコーンゴムの封止材」内において電気的に接続している。従って、この点で甲第1号証の発明は、「各板状外部接続端子と抵抗体とを外装樹脂内で接続するリード線」を備えた本件特許発明と共通している。
以上のことから、甲第1号証に記載された発明は、本件特許発明の外部接続端子に相当する「すずめっき銅リード」が、「板状」ではなく丸棒状の線材であり、外装樹脂におけるプリント基板への取付面側に直線状に突出している点のみにおいて本件特許発明と相違し、その他の本件特許発明の構成要件は、甲第1号証に全て開示されている。
また、甲第1号証における第3頁上段中央欄の「フレキシブル細線」の括弧書の部分には、
「抵抗体を、機械的なストレスの影響から隔離する(isolate resistive element from mechanical stresses)。」
という本件特許発明と同様の作用効果を奏する旨が記載されている。」(審判請求書第6頁第11行〜第8頁第7行)
(ii)「(4-2)甲第2号証の記載
甲第2号証として示す実願昭47-14317号(実開昭48-90147号公報)のマイクロフィルム(昭和48(1973)年10月30日発行)は、本件特許発明の出願時である昭和61(1986)年5月6日以前に発行されたものである。
この甲第2号証に記載された発明は、「チップ状電子部品」に関するものであるが、その第1頁第17行〜第18行には、
「混成集積回路等の印刷回路基板に直接取付けるコンデンサ、抵抗等の電子部品は…」
と記載されている。従って、このチップ状電子部品の概念には本件特許発明のチップ抵抗器も含まれている。
そして、この甲第2号証第1頁第18行〜第2頁第5行には、
「(上述の)電子部品は一般に第1図に示す如くフェイスボンディングに適するようにリード線端子に代わって板状端子2が用いられている。この板状端子2は平板状で一般に部品の相対する二面から引出され第1図に示す如く端子2の先端即ち基板等との接続部3が本体底面に近接するように鍵状に曲げ加工されている。」
と記載されている。
また、甲第2号証の第1図及び第3図には、板状端子2の先端部に設けられた印刷配線基板(プリント基板)8との接続部3が、電子部品1の外装樹脂底面とは間隙を持って折り曲げられている状態が図示されている。特に、第3図には、印刷配線基板8と外装樹脂本体との間に隙間があることも明示されている。
このように、甲第2号証には、本件特許発明と同様に外部接続端子を「板状」とし、「外部接続端子の外部突出端を、外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出させ、前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲させる」ことは一般的な技術であることが記載されている。
そして、甲第2号証に開示された発明は、本件特許発明と同様に以下のような作用効果を奏することが、第5頁第19行〜第6頁第3行及び第2図に記載されている。
「本案電子部品4の端子5の連結片7がスプリングの役目を果し、その歪によるストレス或いは取付時の機械的応力は吸収され、本体にまで及ぶことがなくなった。」」(審判請求書第8頁第8行〜第9頁第11行)
(iii)「(4-3)本件特許発明の出願当時の技術水準を立証するための証拠
(4-3-1)樹脂封止型の抵抗器においては、柔軟な内側の樹脂と硬質な外側の樹脂とで2層に外装することは周知であることを立証するための証拠
甲第3号証として示す「BULLETIN R-700d VISHAY V53&M53/55 SERIES BULK METAL VALUE ENGINEERED PRECISION RESISTORS(1975年10月発行)」、及び甲第4号証として示す「Bulletin R-800A Announcing Vishay’s new “Super-S” precision resistor-Mode S102C(1977年発行)」は、いずれも本件特許発明の出願時である昭和61(1986)年5月6日以前に発行されたものである。
これら甲第3号証の第3頁上段中央欄、甲第4号証の第1頁右欄中央には、一側面に金属箔抵抗体が貼着された絶縁性基板を、柔軟な内側の樹脂と硬質な外側の樹脂とで2層に外装した抵抗器が記載されている。
すなわち、甲第3号証には、「セラミック基板(Ceramic substrate)」の一側面に、「エッチング処理による金属箔抵抗パターン(Etched bulk metal)」が形成され、この「セラミック基板」を、柔軟な内側の「シリコーンゴムの封止材(Silicone Rubber encapsulation)」及び硬質な外側の「防湿用のエポキシ樹脂コーティング(Moisture-proof epoxy coating)」によって2層に外装した抵抗器が記載されている。そして、「シリコーンゴムの封止材」の括弧書の部分には、「抵抗体を、外部ストレスの影響から隔離する(isoiates resistive element from external stresses)」と記載されている。
また、甲第4号証にも、「セラミック基板(CERAMIC SUBSTRATE)」の一側面に、「エッチング処理による金属箔抵抗パターン(ETCHED BULK METAL RESISTIV EELEMENT)」が形成され、この「セラミック基板」を、柔軟な内側の「シリコーンゴムの封止材(SILICONE RUBBER ENCAPSULATION)」及び硬質な外側の「樹脂を一体的に圧縮成形したケース(ONE-PIECE COMPRESSION-MOLDEDCASE)」によって2層に外装した抵抗器が記載されている。
(4-3-2)樹脂封止型の電子部品においては、絶縁性基板における素子と反対側に外部接続端子を接着することは周知であることを立証するための証拠
甲第5号証として示す特開昭59-200448号公報(昭和59(1984)年11月13日発行)は、本件特許発明の出願時である昭和61(1986)年5月6日以前に発行されたものである。
上述の甲第3号証の第3頁上段中央欄、甲第4号証の第1頁右欄中央、及びこの甲第5号証の第2頁左上欄第3行〜第18行、第3図及び第4図には、「絶縁性基板における素子と反対側の面に、外部接続端子を接着した電子部品」が記載されている。特に、甲第5号証には、絶縁性基板に接着された外部接続端子が、本件特許発明と同様に「板状」であることが開示されている。
すなわち、甲第3号証の抵抗器は、「複数のすずめっき銅リード(Tinned copper leads)」の一端部が、「シリコーンゴムの封止材(Silicone Rubber encapsulation)」内で「セラミック基板(Ceramic substrate)」における「金属箔抵抗体(Etched bulk metal)」とは反対の側面に密着している。
また、甲第4号証の抵抗器は、「複数のリード部材(PADDLE LEADS)」の一端部が、「シリコーンゴムの封止材(SILICONE RUBBER ENCAPSULATION)」内で「セラミック基板(CERAMIC SUBSTRATE)」における「金属箔抵抗体(ETCHED BULK METAL RESISTIV EELEMENT)」とは反対の側面に密着している。
さらに、甲第5号証の発明は、「金属板33のべレット(半導体素子)22と反対の面に封止樹脂11より熱伝導の良好な絶縁体基板66を接着し、各々の外部引出しリード線(板状外部接続端子)55を絶縁体基板66迄とどくように形成し、その先端を絶縁体基板66に接着したものである」と記載されている。
(4-3-3)外部接続端子を、外装樹脂との間に間隙を持って取付面方向へ新曲することが周知であることを示す証拠
甲第6号証として示す実願昭58-138762号(実開昭60-48231号公報)のマイクロフィルム(昭和60(1985)年4月4日発行)、甲第7号証として示す実願昭58-73496号(実開昭59-177934号公報)のマイクロフィルム(昭和59(1984)年11月28日発行)、甲第8号証として示す実願昭58-77215号(実開昭59-182926号公報)のマイクロフィルム(昭和59(1984)年12月6日発行)、甲9号証として示す実願昭57-168482号(実開昭59-72725号公報)のマイクロフィルム(昭和59(1984)年5月17日発行)は、本件特許発明の出願時である昭和61(1986)年5月6日以前に発行されたものである。
この甲第6号証の第1頁第20行〜第2頁第4行には、「電極板3,4が本体1の端壁部5,6からそれぞれ引出され、概略L字状をなすように折曲げられ、そのL字状部の底部3a,4aが本体1の底面部7の両端部に位置せしめられている」というチップ型固体電解コンデンサが記載されている。そして、第1図及び第2図には、この電極板3,4と本体1の底面部7との間に隙間が形成されていることが開示されている。さらに、第4頁第9行〜第11行には、このような考案は「他のチップ型の電子部品にも実施できる」ことが記載されている。
また、甲第7号証の第5頁第6行〜第8行には、「第1、第2の外部リード部材4,5の導出端が樹脂材7の下面7aに沿うように折曲されている」という固体電解コンデンサが記載されている。そして、第1図及び第2図には、この外部リード部材4,5と樹脂材7の下面7aとの間に隙間が形成されていることが開示されている。さらに、第6頁第3行〜第5行には、かかる考案は、「固体電解コンデンサの他、抵抗、セラミックコンデンサ、半導体装置などにも適用できる」ことが記載されている。
甲第8号証の第5頁第9行〜第11行には、「第1、第2の外部リード部材4,5の導出端が樹脂材7の下面7aに沿うように折曲されている」という固体電解コンデンサが記載されている。そして、第1図及び第3図には、この外部リード部材4,5と樹脂材7の下面7aとの間に隙間が形成されていることが開示されている。さらに、第5頁第19行〜第6頁第1行には、かかる考案は、「固体電解コンデンサの他、一般のコンデンサ、抵抗などにも適用できる」ことが記載されている。
甲第9号証の第1頁第17行〜第2頁第2行、第2図〜第4図には、「絶縁性合成樹脂でモールドされる超小型の電解コンデンサ等の電子部品においては、その端面から引き出した板状端子は、部品本体の端面に沿って底面方向に直角に折り曲げ、更にその中間部を部品本体の底面部に沿ってL字型に折曲している」と記載されている。特に、甲第9号証の第2頁第3行〜第10行には、「部品本体の底面部に沿って板状端子を折曲したチップ型電子部品では、板状端子の持つ弾性と折り曲げ加工上、板状端子が部品本体の底面部から僅かの間隙をおいて浮き上がっているのが一般的である」と記載されている。
これらの事実から明らかなように、本件特許発明の出願前の技術水準として、チップ型の電子部品において、外部接続端子を、外装樹脂との間に間隙を持って取付面方向へ折曲することは周知なものであった。」(審判請求書第9頁第12行〜第13頁第5行)
(iv)「(4-4)甲第1号証及び甲第2号証から本件特許発明を容易に発明できる理由
(4-4-1)本件特許発明と甲第1号証及び甲第2号証との共通点・相違点
甲第1号証に記載された発明と本件特許発明の構成とを比較すると、甲第1号証には、外部接続端子が「板状」であることと、「外部接続端子の外部突出端が、外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し、前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲されている」こと以外は、本件特許発明の構成要件が全て開示されている。そして、甲第1号証に記載された発明は、「両外部接続端子を、絶縁性基板の金属箔抵抗体を貼着した面と反対の面に貼着し、これらの外部接続端子と抵抗体とを外装樹脂内でリード線によって接続したものであるから、抵抗体に応力が加わることがない」という本件特許発明と同様の作用効果を得ることができる旨が、開示されている。従って、甲第1号証に記載された発明と本件特許発明とは、その本体部の構造及びこれにより得られる作用効果の点で、何ら異なることはない。
一方、甲第1号証には、外部接続端子が「板状」であることと、「外部接続端子の外部突出端が、外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し、前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲されている」ことは記載されていない。
また、本件特許発明の作用効果のうち、明細書中に記載された下記の事項については、甲第1号証には記載されていない。
(a)プリント基板に抵抗器を半田付けした場合に、応力がこの外部接続端子の外部突出部分の僅かな変形により吸収されるので、抵抗器に大きな応力が加わることがない。
(b)外部接続端子自身の弾性を利用して半田付け時の応力を良好に吸収できる。
しかるに、甲第2号証には、本件特許発明の構成要件のうち、甲第1号証には記載されていない事項が全て開示されている。すなわち、甲第2号証には、チップ状電子部品の外部接続端子を「板状」とし、「外部接続端子の外部突出端を、外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出させ、前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲させた」ものが開示されている。そして、このような板状外部接続端子を設けることによって、甲第2号証に記載された発明は、
「プリント基板にチップ状電子部品を半田付けした場合にも、板状外部接続端子の外部突出部分である連結片がスプリングの役目を果たすので機械的応力が吸収され、チップ状電子部品の本体にまで応力が及ぶことがなくなる。」
という本件特許発明と同様の作用効果を得ることができる。このため、甲第2号証に記載された発明と本件特許発明とは、外部接続端子の構造及びこれにより得られる作用効果の点で、何ら異なることはない。
(4-4-2)技術分野の共通性
これらの甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明は、いずれも樹脂封止型のチップ状電子部品に係るものであるから、この分野における通常の知識を有する者であれば、甲第2号証に記載された発明に基づいて、甲第1号証に記載された抵抗器の外部接続端子を本件特許発明と同様の構造とすることは容易に想当できるといえる。
(4-4-3)組み合わせに対する示唆の存在
特に、甲第2号証の第1頁第17行〜第2頁第1行には、
「印刷配線基板(プリント基板)に直接取り付けるコンデンサ、抵抗等の電子部品は一般にフェイスボンディングに適するようにリード線端子に代って板状端子が用いられている。」
とあることからも、かかる電子部品の技術分野においては、一般的に、各種の製品について共通の製造工程、製造設備を用いることができ、設計開発に携わる技術者を共通にしていることは明らかである。従って、かかる電子部品の技術分野においては、相互に同一技術を適用可能であり、一方の電子部品に他方の電子部品の外部接続端子を適用するといった程度の技術の転用が慣習的になされていることは、周知の事実である。
(4-4-4)解決すべき課題とその解決手段の周知性
本件特許発明の目的は、プリント基板への実装の際に外部接続端子側から応力が加わっても、抵抗器自身特に抵抗チップには応力が加わりにくくして実装状態での抵抗値を高精度に保つことを可能にするチップ抵抗器を提供することにある。
しかし、外部からの影響を受けることを防止するために、電子部品を柔軟な内側の樹脂と硬質な外側の樹脂とで2層に封止することは周知の技術であり、このことは、甲第3号証及び甲第4号証の記載からも明かである。
また、樹脂封止型の電子部品の内部において、素子と外部接続端子との間に絶縁性基板を配設することも周知の技術であり、このことは、甲第3号証〜甲第5号証の記載からも明らかである。
さらに、一対の板状の外部接続端子を外装樹脂との間に間隙を持って取付面方向へ折曲することも、甲第6号証〜甲第9号証の記載から、周知の技術であるといえる。特に、甲第9号証には、板状の外部接続端子と部品本体の底面部との間に間隙ができることは、ごく一般的なことであり、何らの技術的な困難性もないことが開示されている。つまり、かかる外部接続端子を樹脂封止型の電子部品に設けることについては、本件特許発明の出願前に既に大量に開示された技術であり、かかる技術は、電子部品の製造に係る分野においては、いわば陳腐化した技術に過ぎないといえる。
以上のことから、「プリント基板への半田付け時に、外部接続端子の弾性変形を利用して、内部の抵抗体へ応力が加わることを防止して抵抗値の精度を向上させる」という課題解決のための手段も、本件特許発明の出願前から周知の技術であるから、甲第1号証の抵抗器における外部接続端子を、甲第2号証に記載された発明と同様の構造とすることによって、本件特許発明と同じチップ抵抗器を構成することは、樹脂封止型のチップ状電子部品の製造に係る通常の知識を有する者にとっては、何らの困難性も有しないといえる。」(審判請求書第13頁第6行〜第16頁第3行)
(4-2-2)答弁書に対する弁駁書において
(i)「(1)被請求人の主張する理由1について
被請求人は、甲第1、3、4号証が、特許法第29条第1項第3号にいう「刊行物」に該当するものか否か不明である、と主張している。
一般に、「刊行物」であるためには、「公開を目的として複製された文書、図面、写真等の情報伝達媒体」である必要があると解釈されるが、甲第1、3、4号証は、以下の理由からこの要件を満たしている。
すなわち、甲第1、3、4号証は、その第1頁の右肩に、「BULLETIN R-700b」、「BULLETIN R-700d」、「Bulletin R-800A」とある。ここで、「BULLETIN」とは、「公報」という意味を持ち、公開を目的として複製されたものであることは明らかである。そして、その内容も、請求人の製品である金属箔抵抗器を、広く外部に宣伝するための試験データ等の情報が含まれた文書、図面、写真等である。従って、甲第1、3、4号証は、特許第29条第1項第3号にいう「刊行物」であるといえる。
なお、請求人が補強的な証拠として提出する甲第10号証は、甲第3号証の原本であり、その体裁、デザイン等からも、単なる社内用の技術資料ではなく、社外へ宣伝するためのカタログとして用いられたものであることは明らかである。
また、被請求人は、「5M 11/74 AN」「Printed in U.S.A.」の記載について、「1974年11月発行」との意味に解釈する点に納得ができない、と主張している。
しかし、「print」には、「印刷する」という意味のみならず、「出版する」、「刊行する」という意味がある。そして、「Printed in」が刊行物の奥付等に使用される場合には、その刊行物がどこで「印刷」されたかを表示するために用られる場合はほとんどなく、どこで「出版」、「刊行」されたかを表示するために用いられる場合がほとんどである。
また、そのような表示の傍には、発行の「年月日」が併記されるのが通例であり、その場合、英語表記では、日、月、年の順に、「/」を間に挟んで記載される。ここで、甲第1号証には、「/」を間に挟んで「11」「74」の記載があり、「74」は日や月ではないことは明らかであるから、当然に発行の西暦年の下2桁を意味し、「11」は年の左に「/」を挟んで記載されるべき月を意味すると解釈するのが自然である。
従って、甲第1号証は、1974年11月に、米国で刊行されたことは明らかである。
さらに、甲第3号証の第1頁最下欄には、著作権を主張するために「Cを丸で囲んだ記号 1975 Vishay All Rights Reserved Printed in U.S.A.」という記載がある。一方、甲第3号証の第4頁最下欄には、甲第1号証と同様に「10M 10/75 AN Printed in U.S.A.」の記載がある。これらの記載から、甲第3号証については、1975年に請求人が著作権を主張しており、米国で発行されたものと解釈できる。つまり、著作権を主張する1975年と、発行の年月を示す10/75とは対応していると解釈するのが自然である。
以上のことから類推すれば、甲第1号証の「11/74」の記載も、当然に1974年11月と解釈されるべきものである。
なお、甲第1、3、4号証が刊行物であること、その発行年月が本件特許出願前であることは、無効審判請求書の記載及び上記の説明より明らかであると思われるが、請求人は、甲第1、4号証の原本の提出も予定しており、現在、入手準備中である。」(弁駁書第2頁第12行〜第3頁末2行)
(ii)「(2)被請求人の主張する理由2について
被請求人は、甲第1、3、4号証には「金属箔抵抗器」が明示的に示されていない、と主張している。
しかし、甲第1、3号証の第3頁上段中央欄の図面、甲第4号証第1頁右欄の図面に記載されているように、これらの抵抗体は絶縁性基板にエッチングにより施されており、これが「金属箔抵抗器」であることは、抵抗器の技術分野における通常の知識を有するものにとっては、常識的なことといえる。
このことは、自明のこととして審判請求時には敢えて言及していなかったが、甲第1、3号証の第2頁上段左欄第3行目〜第8行目に「バルクメタルは、セラミック基板に貼り付けられ、その抵抗パターンはフォトエッチングにより施される(A Proprietary BULK METAL of known and controllable properties is applied to a special ceramic substrate. A resistive pattern is then photoetched by an ultra-fine technique developed by Vishay.)。」と記載されていること、甲第1、3号証の第2頁上段中欄第3行目〜第10行目に「バルクメタルは、他の巻線型、蒸着型の抵抗器の製造過程に生じる冶金学的変化とは異なる特別の過程によって、基板に施される(It is set on the substrate by a unique and proprietary process which does not subject the Vishay resistor element to the metallurgical changes that occur during the winding of wire, or during the evaporative processused in other forms of precision resistor manufacture.)。」と記載されていることからも、明らかである。
さらに、甲第1、3号証の第2頁中段左欄第1行目〜第12行目には、半導体と同様の精密な技術を適用する旨が記載されていることからも、高い精度が要求される「金属箔抵抗器」であるといえる。
従って、甲第1、3、4号証には、「金属箔抵抗器」が示されていることは、明らかである。」(弁駁書第3頁末行〜第5頁第2行)
(iii)「(3)被請求人の主張する理由3について
被請求人は、樹脂封止した「超精密抵抗器」において、部品実装時に加わるストレスが抵抗体に伝わらないようにして、実装状態での抵抗値を高精度に保つという課題の斬新性を主張している。また、この課題を解決する手段として「部品の取付面以外の面から外部へ突出させ、この外部突出部分を外装樹脂との間に『間隙』をもって取付面方向へ折曲させた板状外部接続端子」と、「板状外部接続端子と抵抗体とを接続するリード線」との組み合わせを挙げている。
しかし、審判請求書にも記載した通り、甲第2号証には、取付時の機械的応力が吸収され、本体にまで及ばないという本件特許発明と同様の課題を解決する手段として、本件特許発明と同様の「間隙」を持って配設された板状外部接続端子が開示されている。また、甲第1号証には、抵抗体を、機械的なストレスの影響から隔離するという本件特許発明と同様の課題を解決する手段として、本件特許発明のリード線と同様のフレキシブル細線が開示されている。
そして、甲第2号証及び甲第1号証に開示された発明は、いずれも樹脂封止型の電子部品、特に抵抗器を含むものであり、その技術分野を共通にしている。さらに、甲第2号証には、リード線端子の抵抗器をフェイスボンディングに適するようにするためには、その端子を、本件特許発明と同様に封止樹脂との間に間隙を設けて折曲した板状とすることは一般的である旨が記載されている。
従って、被請求人の主張する本件特許発明の課題を解決するために、「間隙」と「リード線」を組み合わせること、すなわち、甲第1号証の抵抗体をフェイスボンディングに適した構造とするために、甲第2号証の外部接続端子を組み合わせることは、抵抗器の技術分野に属する者であれば容易に想到でき、何らの斬新性も有しない。」(弁駁書第5頁第3行〜第5頁末5行)
(iv)「被請求人が平成13年6月18日付で行なった訂正請求書には、訂正事項に相当する訂正がなされた訂正明細書ではなく、登録時の明細書と同様の内容の明細書のみが添付されている。また、被請求人が答弁書で主張している「リードを板状として絶縁基板にできるだけ広い面積で接触するように貼り付けたから、抵抗体自身が発生する熱をこの板状のリードを通して外へ導くという効果も得られ、精度は一層向上するものである」との作用効果は、出願時の明細書には全く記載されていない新規事項である。
従って、かかる訂正及び作用効果の主張は到底認められるべきものではなく、仮に、訂正請求書の通りの訂正がなされたとしても、その課題及びこれを解決する手段に特許性が認められるような斬新性が得られるものではない。」(弁駁書第5頁末4行〜第6頁第6行)
(4-2-3)口頭審理及び上申書において
(i)「2.進歩性について、
甲第1号証と本件特許発明との相違点は、次の3点である。
(1)甲第1号証には「金属箔抵抗体」との明示がない。
(2)甲第1号証は、外部接続端子が「板状」でない。
(3)甲第1号証は、外部接続端子が「その一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびてその外部突出端が前記外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲された」ものでない。
3.相違点について、
(1)「金属箔抵抗体」は、甲第1号証に実質的に開示されている。
(2)「板状」である点は、甲第2号証他に記載されている。
(3)外部接続端子の「その一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびてその外部突出端が前記外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲された」構成が甲第1号証に開示されていない点については、甲第2号証等他の刊行物から容易である。」(口頭審理調書)
(ii)「8.頒布性について
甲第11号証に記載された金属箔抵抗器は、後述の対比に示すように、ビシェイ社の技術を宣伝する甲第1号証に記載された金属箔抵抗器と同様のものである。つまり、この金属箔抵抗器に関する特許は、ビシェイ社の持つ特徴的な技術であり、甲第1号証の刊行物によって顧客へ宣伝する際の前提として、当然に特許出願され、特許権が取得されていたものであることは明らかである。
従って、甲第1号証は、既に特許権が取得され公知技術となっているものと同内容の製品を販売するために用いられたものであり、単なる内部資料として秘匿すべき性質のものではなく、むしろビシエイ社の製品を積極的に宣伝するために広く頒布されたものと推定することが合理的といえる。
9.金属箔抵抗器について
後述するように、甲第11号証は、ビシェイ社の金属箔抵抗器の技術について開示した文献である。特に、甲第11号証には、その第3欄第9行目以降に、「The bulk metal film applied to the substrate can be made from a suitable resistive alloy(後略).」と記載されているように、「bulk metal」の用語を、基板上に貼着された薄い金属箔抵抗体を示すものとして使用している。従って、この技術を背景に製造され、甲第1号証に開示された抵抗器は、金属箔抵抗器であることは明らかである。」(上申書第2頁第13行〜第3頁第2行)
【5】被請求人の主張
(5-1)答弁の概要
被請求人(特許権者)は、訂正請求書により特許請求の範囲を減縮するとともに、答弁書において「請求人の主張はいずれも理由の無いことが明らかであるから、本件特許発明は無効とすることはできない」とし、「本件の審判請求は成り立たない。」旨、答弁している。
(5-2)具体的理由の要点
被請求人(特許権者)は、答弁書等において、具体的理由を、概要、以下のとおり主張している。
(5-2-1)答弁書において
(i)「(1)(理由1)
請求人は甲第1号証および甲第3、4号証をもって「金属箔抵抗器」が本件特許発明の出願前に公知であった刊行物に記載されている、と主張している。しかしこれらの甲第1、3、4号証は、特許法第29条第1項第3号にいう「刊行物」に該当するものか否か不明である。
甲第1、3、4号証は「VISHAY RESISTIVE SYSTEMS GROUP」の製品説明資料と思われるが、公に頒布されたものか否か不明である。「刊行物」というためには、「公衆に対し頒布により公開を目的として複製された文書・図書・写真等の情報伝達媒体」であることが必要であるが、甲第1、3、4号証がこのようなものであるとの証明は無く、単なる社内用の技術資料である可能性もある。
またこの甲第1号証の最終頁には、「5M 11/74 AN」「Printed in U.S.A.」と記されているが、これらをもって請求人のように「1974年11月発行」の意味に解する点にも納得できない。「5M」や「AN」の意味が不明であるにも拘わらず「11/74」の部分を抜き出して「1974年11月」と解釈する理由が不明であり、また「Printed」は通常「印刷」されたという意味であって、請求人が主張するように「発行」(publish)するという意味ではない。
(2)(理由2)
甲第1、3、4号証には「金属箔抵抗器」が明示的に示されていない。
甲第1号証には「Etched bulk metal」と記載されているが、これがなぜ「金属箔抵抗器」の意味に解されるのか不明である。「bulk metal」は単純に訳せば「大きなかさばった金属」というような意味であるが、これは「TM」の添字があることからVISHAY社の商標であると理解される。「bulk metal」の説明が無いにもかかわらずこれを「金属箔抵抗器」と解する理由が不明である。
従って甲第1、3、4号証をもって本件特許発明の対象である「金属箔抵抗器」がその出願前に刊行された「刊行物」に記載されている、という請求人の主張には理由が無い。
(3)(理由3)
請求人は、甲第1号証に示された抵抗器(resistor)と本件特許発明との相違点は、前者のリードが「丸棒状の線材」であるのに対し後者のリードが「板状」である点と、後者では「外部接続端子が外装樹脂との間に間隙をもって取付面方向へ折曲されているのに対し、前者ではこのようになっていない点のみである、と主張している(審判請求書第13頁第22〜25行など参照)。一方甲第2号証には、外部引出しリードを「板状」にする点と、リードと外装樹脂との間に「間隙」を設ける点が示されているから、本件特許発明は甲第1号証のものに甲第2号証のものを適用することにより容易に想到可能である、と請求人は主張している。しかしこの主張は、本件特許発明の対象である「金属箔抵抗器」の特殊性を無視したものであって、到底納得できない。
本件特許発明が対象とする「金属箔抵抗器」は、「基板の線膨張係数と抵抗体の抵抗温度係数とを適合させることにより」抵抗体の温度抵抗変化を、基板の線膨張を利用して抵抗体に応力を加えて相殺し、抵抗温度係数を小さくしたものであり(本件特許の出願公開公報第1頁右下欄第5〜11行、公告公報第2欄第4〜10行参照)、抵抗温度係数は通常極めて小さく、数ppm/℃程度である。なお通常の表面実装型の固定抵抗値では抵抗温度係数は数100ppm/℃程度である。
このように本件特許発明が対象とする金属箔抵抗器は極めて高い精度を必要とする超精密抵抗器であって、このために抵抗体自身に加わるはんだ付けに伴うストレス(応力)が問題になるのである。これに対し精度が低い従来の抵抗器ではこのようなはんだ付け時のはんだ凝固によるストレスが原因となる抵抗値変化を問題にするものではないから、はんだ付け時のストレスが抵抗体に加わるのを防ぐという技術思想さえも生じ得ないものである。従って本件発明は従来気付かない課題の斬新性を有する。
また本件特許発明の表面実装型の金属箔抵抗器は極めて小さいものであり、通常長さが3mm程度である。このような微小部品ではその外形寸法が小さいので、部品に対するはんだの使用量が相対的に多くなる。このためはんだの凝固に伴って部品に加わるストレスは寸法の大きい部品の場合に比べて相対的に大きくなる。
本件発明は、このような樹脂封止した極めて小さい超精密抵抗器において初めて重要になる特有な問題を解決するものであり、部品実装時に加わるストレスが抵抗体に伝わらないようにして、実装状態での抵抗値を高精度に保つという特有な課題を解決するものである。このために本件発明ではリードを板状として部品の取付面以外の面から外部へ突出させ、この外部突出部分を外装樹脂との間に「間隙」をもって取付面方向へ折曲させたのである。すなわち実装時に部品に加わるストレスを、このリード(板状外部接続端子)がこの「間隙」を利用して変位することによって吸収し、ストレスが基板や抵抗体に加わるのを防ぐのである。またこのリード(板状外部接続端子)と抵抗体とはリード線で接続しているので、万一外部接続端子にストレスが加わっても抵抗体に直接加わらず、抵抗値の精度低下を防止するのである。このように本件発明では「間隙」を設けることと「リード線」を用いることを組合せることにより、高い精度を確保したものである。
さらにこの発明ではリードを板状として絶縁基板にできるだけ広い面積で接触するように貼り付けたから、抵抗体自身が発生する熱をこの板状のリードを通して外へ導くという効果も得られ、精度は一層向上するものである。
甲第2、6、7、8、9号証は、いずれも「チップ状部品」に関するものである。甲第2、7、8号証には「チップ状部品」の例としてコンデンサや抵抗が挙げられている。
またこれらには「板状」のリードが示されているが、甲第2、6、9号証では内部構造が示されず、リードがどのように内部の部品(抵抗体)と接続されているのか不明である。甲第7、8号証には内部のコンデンサに板状のリードを直接溶接・接着するものが示されている。従ってこれらの甲第2、6、7、8、9号証はいずれも板状リードと抵抗体とを「リード線」で接続するものではない。甲第5号証は「半導体チップ部品」のパッケージに関するものであり、半導体チップに実装時のストレスが加わらないようにするという本件発明の課題を示唆しない。
本件発明は板状のリード(外部接続端子)に加わるストレス(応力)が抵抗体に加わることによる抵抗値変化を問題にするほど高い精度が要求される特殊な抵抗器に関するものであり、リード(外部接続端子)と外装樹脂との間に「間隙」を設けると共に、リードと抵抗体とを「リード線」で接続することにより実装時のストレスが抵抗体に伝わらないようにするものである。このように「間隙」と「リード線」とを組合せることが本件発明の重要な点である。
以上のように甲各号証には、金属箔抵抗器からなる超精密抵抗器に特有な問題、すなわちプリント基板への表面実装時にはんだが凝固することにより部品に加わるストレス(応力)が抵抗値精度を悪くする、という問題が開示されていない。また本件発明がこの問題を解決するため、板状外部接続端子と外装樹脂との間に「間隙」を設け、かつ外部接続端子と抵抗体とを「リード線」で接続するという構成もこれら甲各号証には示されていない。本件発明は極めて高い精度が要求される特殊な抵抗器であるために「間隙」と「リード線」との組合せを採用したのであり、このような組合せは従来は想到不可能なものである。
従って本件発明は、表面実装時のはんだ凝固に伴うストレスが抵抗体に加わるのを防止するという超精密抵抗器に特有な課題を解決するものであり、甲各号証からは想到不可能な特異な課題を持つ。すなわち本件発明は 課題の斬新性を備えるものである。また本件発明は「間隙」と「リード線」を組合せることにより前記の課題を解決するものであり、このような組合せは甲各号証からは容易に想到できるものではない。」(答弁書第2頁第12行〜第6頁第6行 )
(5-2-2)口頭審理において
(i)「2.甲第1、3、4号証が刊行物であることは認めるが、出願前に頒布されたかは不知。頒布されたかどうかも含め争う。
3.「金属箔抵抗体」が甲第1号証に記載されているとする請求人の主張には理由がない。
4.請求人主張の2.進歩性については、相違点について記載されていないことは認めるが、「金属箔抵抗体」の特殊性を無視したものであり、甲第2号証等他の刊行物によっても容易でない。」(口頭審理調書)
【6】当審の判断
(6-1)本件特許発明
本件特許発明は、当審における訂正請求により前記【2】のとおり訂正が認められ、その訂正された発明(本件発明)は、訂正明細書の特許請求の範囲第1項に記載された前記【3】記載のとおりである。
(6-2)各甲号証記載の事項
請求人が提出した各甲号証に記載された技術的事項は、以下のとおりである。
(6-2-1)甲第1号証:BULLETIN R-700b VISHAY V53&M53/55 SERIES BULK METAL VALUE ENGINEERED PRECISION RESISTORS
甲第1号証には、その第2頁上段、第3頁上段図面とその中央欄及び右欄の記載を参酌すると、「V SERIES」との表題の下に、概要、以下のような構成要件からなる抵抗器、及びこれに係わる技術的事項が記載されている。
(i)抵抗器の構成として、
(a)防湿用のエポキシ樹脂コーティング(Moisture-proof epoxy coating)
(b)シリコーンゴムの封止材(Silicone Rubber encapsulation)
(c)エッチング処理により形成されたバルクメタル(Etched bulk metal)
(d)接合されたフレキシブル細線(Flexible welded ribbon leads)
(e)セラミック基板(Ceramic substrate)
(f)すずめっき銅リード(Tinned copper leads)
なお、作用効果について、第3頁上段中央欄「フレキシブル細線」の括弧書内には、「抵抗体を、機械的なストレスの影響から隔離する(isolate resistive element from mechanical stresses)」旨記載されている。
(6-2-2)甲第2号証:実願昭47-14317号(実開昭48-90147号公報)のマイクロフィルム(昭和48(1973)年10月30日発行)
甲第2号証には、従来技術、実施例及び図面第1図乃至第4図とこれに係わる記載を参酌すると、以下のような技術的事項の記載が認められる。
(i)「本考案は合成樹脂被覆モールドされたチップ状電子部品の電極引出用端子の改良に関するものである。
混成集積回路等の印刷回路基板に直接取付けるコンデンサ、抵抗等の電子部品は一般に第1図に示す如くフェイスボンディングに適するようにリード線端子に代わって板状端子2が用いられている。
この板状端子2は平板状で一般に部品の相対する二面から引出され第1図に示す如く端子2の先端即ち基板等との接続部3が本体底面に近接するように鍵状に曲げ加工されている。」(公開明細書第1頁第17行〜第2頁第5行)
(ii)第1図及び第3図には、板状端子(2)の先端部に設けられた印刷配線基板(8)(プリント基板)との接続部(3)が、電子部品(1)の外装樹脂底面とは間隙を持って折り曲げられた構成が開示され、また第3図では、印刷配線基板(8)と外装樹脂本体との間には隙間があることも明示されている。
(iii)「この欠点即ち端子からの熱伝導を避けることは、端子を細くすることで或る程度小さくすることはできる」(同第3頁第11〜13行)
(iv)「本案電子部品4の端子5の連結片7がスプリングの役目を果し、その歪によるストレス或いは取付時の機械的応力は吸収され、本体にまで及ぶことがなくなった。」(同第5頁第19行〜第6頁第3行)
(v)「本考案の効果は合成樹脂被覆モールドされた微小な電子部品の端子の加工または印刷配線基板への装着のときの端子から本体に伝えられる熱的ストレス、機械的ストレスを最小にして内部素子の電気的、機械的劣化または損傷を防止したことである。」(同第9頁第5〜10行)
(6-2-3)甲第3乃至9号証について
(i)甲第3号証(BULLETIN R-700d VISHAY V53&M53/55 SERIES BULK METAL VALUE ENGINEERED PRECISION RESISTORS)には、「セラミック基板(Ceramic substrate)の一側面に、エッチング処理によるバルクメタル(Etched bulk metal)が形成され、このセラミック基板を柔軟な内側のシリコーンゴムの封止材(Silicone Rubber encapsulation)及び硬質な外側の防湿用のエポキシ樹脂コーティング(Moisture-proof epoxy coating)によって2層に外装した抵抗器」が記載されている。また、「シリコーンゴムの封止材」の括弧書の部分には、「抵抗体を、外部ストレスの影響から隔離する(isoiates resistive element from external stresses)」と記載されている。
(ii)甲第4号証(Bulletin R-800A Announcing Vishay's new “Super-S” precision resistor-Model S102C)には、「セラミック基板(CERAMIC SUBSTRATE)の一側面に、エッチング処理によるバルクメタル(ETCHED BULK METAL RESISTIV EELEMENT)が形成され、このセラミック基板を柔軟な内側のシリコーンゴムの封止材(SILICONE RUBBER ENCAPSULATION)及び硬質な外側の樹脂を一体的に圧縮成形したケース(ONE-PIECE COMPRESSION-MOLDEDCASE)によって2層に外装した抵抗器」が記載され、さらに「不要な冶金学的又は構造的変化を導かない独特の工程によって、注意深くセラミックの基板に貼り合わされます。その後、“幅広のリード(Paddle leads)”が、抵抗器チップに溶接されます。セラミック基板と、より一層放熱効率に優れた特性を持つリード部材との組み合わせが、S102C(抵抗器)の優れた耐湿性及び耐高温放置特性と、負荷寿命耐性の向上の大きな要因となります。」(1枚目左欄本文11〜18行)と記載されている。
(iii)甲第5号証(特開昭59-200448号公報)には、第2頁左上欄第3行〜第18行、第3図及び第4図に関して、「本発明による半導体装置は、金属板の半導体素子と反対の面に熱伝導の良い絶縁性基板を接着し、各々の外部引出しリード線の先端を絶縁体基板に装着させる。かかる構成により封止樹脂を通さずに外部へ熱放散を行うことができ、過渡熱抵抗を小さくすることが可能となる。」と記載され、また「絶縁性基板における素子と反対側の面に、板状の外部引出しリード線を接着した電子部品」が記載されている。
(iv)甲第6号証(実願昭58-138762号(実開昭60-48231号公報)のマイクロフィルム)には、「これら電極板3、4は本体1の端壁部5、6からそれぞれ引出され、概略L字状をなすように折曲げられ、そのL字状部の底部3a、4aが本体1の底面部7の両端部に位置せしめられている。底面部7において、電極板の底部3a、4aに挟まれた部分には突出部8が形成されており、その底面8aは電極板の底部3a、4aの底面と同一平面に位置している。」(公開明細書第1頁末行〜第2頁第7行)、「上記実施例では、チップ型の固体電解コンデンサにこの考案を実施したが、他のチップ型の電子部品にもこの考案を実施することができる。」(同第4頁第9〜11行)と記載されており、また第1図及び第2図には、突出部(8)が、電極板(3,4)の折り曲げた部分と干渉しないように形成されていることが開示されている。
(v)甲第7号証(実願昭58-73496号(実開昭59-177934号公報)のマイクロフィルム)には、「コンデンサエレメント1の全周面は樹脂材7にて、下面7aの中央部に突出部8が、下面7aの端部に突出部8と同一高さの補助突出部9がそれぞれ形成されるようにモールド被覆されている。そして、第1,第2の外部リード部材4、5の導出端が樹脂材7の下面7aに沿うように折曲されている。」(公開明細書第5頁第2〜8行)、「電子部品は固体電解コンデンサの他、抵抗,セラミックコンデンサ,半導体装置などにも適用できる。」(同第6頁第3〜5行)と記載されており、また第1図及び第2図には、突出部(8)が、第1,第2の外部リード部材(4,5)の折り曲げた部分と干渉しないように形成され、第1、第2の外部リード部材(4,5)と突出部(8)とのプリント基板に対向する部分が略同一平面上に位置していることが開示されている。
(vi)甲第8号証(実願昭58-77215号(実開昭59-182926号公報)のマイクロフィルム)には、「コンデンサエレメント1の全周面は樹脂材7にて、下面7aの中央部に突出部8が形成されるようにモールド被覆されている。」(公開明細書第5頁第3〜6行)、「そして、第1,第2の外部リード部材4、5の導出端が樹脂材7の下面7aに沿うように折曲されている。」(公開明細書第5頁第9〜11行)、「電子部品は固体電解コンデンサの他、一般のコンデンサ,抵抗などにも適用できる。」(同第5頁第末2行〜第6頁第1行)と記載されており、また第1図及び第3図には、突出部(8)が、第1、第2の外部リード部材(4,5)の折り曲げた部分と干渉しないように形成され、第1、第2の外部リード部材(4,5)と突出部(8)とのプリント基板に対向する部分が略同一平面上に位置していることが開示されている。
(vii)甲第9号証(実願昭57-168482号(実開昭59-72725号公報)のマイクロフィルム)には、「絶縁性合成樹脂でモールドされる超小型の電解コンデンサ等の電子部品においては、その端面から引き出した板状端子は部品本体の端面に沿って底面方向に直角に折り曲げ、更にその中間部を部品本体の底面部に沿ってL字型に折曲している。」(公開明細書第1頁末4行〜第2頁第2行)、「板状端子は部品本体の底面部から僅かの間隙をおいて浮き上がっているのが一般的である。」(同第2頁第9〜10行)と記載されている。
(6-2-4)本件発明の出願当時の技術水準及び周知技術について
チップ状電子部品における外部接続端子として、その形状を「板状」とし、また「外装樹脂との間に間隙を持って取付面方向へ折曲する」ことは本件出願当時、周知の技術的事項であると認められる。
すなわち、前記甲第2号証における「板状端子(2)」とその折曲形状図面、甲第6号証における「電極板(3,4)」とその折曲形状図面、甲第7号証における「外部リード部材(4,5)」とその折曲形状図面、甲第9号証における「板状端子(4,6)」とその折曲形状図面に開示されているところである。
(6-3)対比・判断
(A)刊行物の公知性(頒布性)について
はじめに、被請求人(特許権者)は、甲第1、3及び4号証について、その公知性を争うので、まずこの点について検討する。
(A-1)甲第1、3及び4号証の作成時期について
(i)甲第1、3号証は、Vishay Intertechnology, inc(以下「Vishay社」という。)のVISHAY RESISTIVE SYSTEMS GROUP(以下「Vishayシステム」という。)の作成した印刷物であると認められる。そして、甲第3号証の1枚目の末尾には、「○c 1975 Vishay All Rights Reserved Printed. in U.S.A.」との記載がある。この記載から、甲第3号証は、1975年(昭和50年)に印刷されたものと認められる。同じく、Vishayシステムが作成したと認められる甲第4号証にも、その2枚目の末尾に、「Copyright 1977 Vishay Resistive Systems Group. All rights reserved. Printed in U.S.A.」と記載されており、1977年(昭和52年)に印刷されたものと認められる。
(ii)甲第3号証の4枚目の末尾には、「10M 10/75 AN Printed in U.S.A.」との記載がある。この記載のうち「75」は、前記のとおり、甲第3号証が1975年に印刷されたと認められること、「AN」には、「in the year」の意味があること(研究社 リーダーズ英和辞典初版)から、1975年を意味するものと認められる。
そうすると、甲第1号証の4枚目の末尾の「5M 11/74 AN Printed in U.S.A」との記載も、1974年(昭和49年)に印刷されたことを意味するものと認めることができる。
(A-2)頒布の有無について
(i)甲第1、3及び4号証には、それぞれその一枚目の右上部に「BULLETIN」の語が、同枚目の末尾には、Vishayシステムの住所と電話番号等が記載されている。「BULLETIN」とは、「公報、会報、小新聞」という意味である(前記辞典)。
(ii)甲第1、3及び4号証は、その表題などから見て、例えば開発に関する文書のように、限られた特定の範囲において配布され、閲覧される性質のものではなく、また、Vishayシステムの連絡先が明記され、その製品の特徴を強調する内容となっていることからすると、社外、例えば顧客等に向けて頒布されることを予定して印刷されたものであると認めることができる。そうすると、これらの文書は、特段の事情が認められない限り、その取引先等に頒布されたと推認するのが相当であり、本件においては、それらの頒布の事実を否定すべき特段の事情は認められない。
(iii)以上のとおりであるから、甲第1、3及び4号証は、その印刷後間もない時期、遅くとも本件出願時まで(おおよそ9年ないし12年の期間がある。)には、頒布されていたと認めることができる。
(A-3)被請求人の主張について
被請求人は、答弁書において「甲第1、3、4号証は「VISHAY RESISTIVE SYSTEMS GROUP」の製品説明資料と思われるが、公に頒布されたものか否か不明である。「刊行物」というためには、「公衆に対し頒布により公開を目的として複製された文書・図書・写真等の情報伝達媒体」であることが必要であるが、甲第1、3、4号証がこのようなものであるとの証明は無く、単なる社内用の技術資料である可能性もある。」(答弁書第2頁第17〜22行、口頭審理調書)旨主張している。
しかしながら、甲第1、3及び4号証に頒布性が認められることは前記したとおりであり、本件発明の出願当時の周知技術(例えば、甲第11号証に記載の技術的事項)を勘案してもこれを推認することができる。
したがって、被請求人の当該主張については採用することができない。
(B)進歩性についての判断
本件発明と甲第1号証に記載された発明とを対比する。
はじめに、甲第1号証には「金属箔抵抗体」或いは「金属箔」との記載は見当たらず、これに対応した記載事項として「Etched bulk metal」が認められるものの、この「Etched bulk metal」が本件発明における「金属箔抵抗体」であるのか否かで当事者間に争いがある。唯、その当否は後記のとおりであるが、この両者は何れも「抵抗体」として共通するものと認められる。
したがって、本願発明と甲第1号証に記載された発明とは、以下のとおりの一致点及び相違点を有する。(当事者間に争いがない[口頭審理調書]。)
(一致点)
「一側面に抵抗体が貼着された絶縁性基板を、柔軟な内側の樹脂と硬質な外側の樹脂とで2層に外装し、
この外装樹脂のプリント基板への取付面に外部接続端子を臨ませたチップ抵抗器において、
前記絶縁性基板の他側面に貼着された一対の外部接続端子と、
これらの各外部接続端子と前記抵抗体とを前記外装樹脂内で接続するリード線とを備えるチップ抵抗器。」
(相違点)
(i)甲第1号証においては、抵抗体が「金属箔抵抗体」との明示がない点、
(ii)甲第1号証においては、外部接続端子が「板状」でない点、
(iii)甲第1号証においては、外部接続端子が「その一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびてその外部突出端が前記外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲された」ものでない点、
(検討)
前記相違点(i)〜(iii)について、以下検討する。
(i)相違点(i)について、甲第1号証には「バルクメタルは、セラミック基板に貼り付けられ、その抵抗パターンはフォトエッチングにより施される(A proprietary Bulk Metal of known and controllable properties is applied to a special ceramic substrate. A resisitive pattern is then photoetched by an ultra-fine techninique developed by Vishay.)。」(第2頁上段左欄第3〜8行)との記載、及び「バルクメタルは、他の巻線型、蒸着型の抵抗器の製造過程に生じる冶金学的変化とは異なる特別の過程によって、基板に施される(It is set on the susutrate by a unique and proprietary process which does not subject the Vishay resisitor element to the metallurgical changes that occur during the winding of wire, or during the evaporative process used in other forms of precision resistor manufacture.)。」(第2頁上段中欄第3〜10行)との記載が認められ、これらによれば甲第1号証における第3頁上段中央欄図面に記載された絶縁性基板にエッチングにより施されているバルクメタル、すなわち抵抗体は、「金属箔抵抗体」であるとするのが当業者の技術常識に適うものであって自明の技術的事項である。さらに、甲第1号証の第2頁中段左欄第1行目〜第12行目には、半導体と同様の精密な技術を適用する旨記載されていることからも、高い精度が要求される「金属箔抵抗体」であるといえる。
したがって、甲第1号証における「バルクメタル(Etched bulk metal)」は「金属箔抵抗体」といえるものであって、相違点(i)は実質的に相違するものとは認められない。
(ii)相違点(ii)(iii)について、何れも外部接続端子に係わるものであるから併せて検討する。
(ii-1)「板状」及び「…間隙をもって前記取付面方向へ折曲された」点について
チップ型電子部品において、外部接続端子を、「板状」に構成すること、及び「外部突出端が前記外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲」することは、甲第2号証に開示されており、また従来より周知の技術的事項(前掲甲第2、6、7、9号証参照)であるから、甲第1号証における「棒状」の外部接続端子を、「板状」とし、「取付面方向へ折曲」等とする技術的事項を採用することは当業者が容易になし得ることと認められる。
なお、この点について、被請求人は、本件発明の抵抗体が「金属箔抵抗体」であり、精密な抵抗値におけるものであるから「本件特許発明の対象である「金属箔抵抗器」の特殊性を無視したものであって、到底納得できない。」(答弁書第3頁第22〜23行)、「実装時に部品に加わるストレスを、このリード(板状外部接続端子)がこの「間隙」を利用して変位することによって吸収し、ストレスが基板や抵抗体に加わるのを防ぐ」(答弁書第4頁第20〜22行)、「本件発明は、表面実装時のはんだ凝固に伴うストレスが抵抗体に加わるのを防止するという超精密抵抗器に特有な課題を解決するものであり、甲各号証からは想到不可能な特異な課題を持つ。すなわち本件発明は 課題の斬新性を備えるものである。また本件発明は「間隙」と「リード線」を組合せることにより前記の課題を解決するものであり、このような組合せは甲各号証からは容易に想到できるものではない。」(答弁書第6頁第1〜6行)旨、種々主張している。
しかしながら、その作用効果である表面実装時のはんだ凝固に伴うストレスが抵抗体に加わるのを防止できることは「金属箔抵抗体」に係わらず抵抗体などの電子部品における作用効果として当業者が予測しうる程度のものであり、また本件発明において抵抗体と外部接続端子とを接続する「リード線」は、甲第1号証においても「フレキシブル細線(Flexible welded ribbon leads)」により接続する構成が採用され、その作用効果も「抵抗体を、…ストレスの影響から隔離する(isolate resistive element from mechanical stresses)」と記載されてされているのであるから、「特異な課題」「課題の斬新性」「間隙とリード線の組合せ」に本件発明特有の困難性を有するものではなく、この「板状」及び「間隙をもって前記取付面方向へ折曲」する構成を採用することに格別のものを要するものとは認められない。
したがって、被請求人の当該主張は採用することができない。
(ii-2)外部接続端子が、絶縁性基板に、「その一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着され、その一辺に直交する幅で延びている」点について
本件発明は、チップ型電子部品において、さらに外部接続端子を、絶縁性基板に対して、「その一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着され、その一辺に直交する幅で延びている」構成とするものであるが、このように構成することの技術的意義は、「リードを板状として絶縁基板にできるだけ広い面積で接触するように貼り付けたから、抵抗体自身が発生する熱をこの板状のリードを通して外へ導くという効果も得られ、精度は一層向上するものである」(答弁書第4頁末2行〜第5頁第2行)としている。
しかしながら、この構成に係る技術的意義を勘案しても、甲第2号証及び甲第4、5号証に開示された周知の技術的事項を参酌すると、この構成も以下のとおり当業者が容易になし得ることと認められる。
すなわち、
・甲第2号証には、「この欠点即ち端子(注;「板状端子2」のこと)からの熱伝導を避けることは、端子を細くすることで或る程度小さくすることはできる」(摘記(iii)参照)との記載があり、板状端子の幅と熱伝導との関連が示され、板状端子の幅を広いものにすれば、これを介する熱伝導が高くなることが開示されている。
・甲第4号証は、甲第1号証と同構造の抵抗器であり、この甲第4号証には、その特徴として、「不要な冶金学的又は構造的変化を導かない独特の工程によって、注意深くセラミックの基板に貼り合わされます。その後、“幅広のリード(Paddle leads)”が、抵抗器チップに溶接されます。セラミック基板と、より一層放熱効率に優れた特性を持つリード部材との組み合わせが、S102C(抵抗器)の優れた耐湿性及び耐高温放置特性と、負荷寿命耐性の向上の大きな要因となります。」(甲第4号証1枚目左欄本文11〜18行)と記載されており、これは、“幅広のリード(Paddle leads)”を用いることにより、より効率的な熱放散ができ、耐熱性が高まることを開示しているものと認められる。
・甲第5号証には、「本発明による半導体装置は、金属板の半導体素子と反対の面に熱伝導の良い絶縁性基板を接着し、各々の外部引出しリード線の先端を絶縁体基板に装着させる。かかる構成により封止樹脂を通さずに外部へ熱放散を行うことができ、過渡熱抵抗を小さくすることが可能となる。」(第2頁左上欄3〜8行)と記載されている。
・これら甲第2号証及び甲第4、5号証からは、熱伝導の良い絶縁性基板に貼着されたリード(甲第1号証に記載された発明の「Tinned copper lead」、本件発明の外部接続端子に該当する)が、熱放散効果を上げ得ること、この熱放散効果は、リードの幅が広いほど高くなることが、本件出願当時周知の技術であり、かつ、そのような熱放散効果は、甲第1号証に記載された発明と同構造で、棒状のリードの代わりに幅広のリード(Paddle leads)を採用する甲第4号証において、好ましい性質(高い耐熱性、負荷寿命特性)をもたらすと考えられていたものと認めることができる。
・以上のような周知の技術的事項が認められるとともに、甲第1号証に記載された発明において、板状の外部接続端子を採用し、かつ、チップ抵抗器の相対する二面から、それぞれ端子を引き出す構成とすることを、当業者が容易に推考できることは、前記のとおりである。そして、当業者であれば、このような構成を採用する場合、なるべく広い面積で絶縁性基板に接合させるため、板状の外部接続端子の幅を絶縁性基板の一辺のほぼ全長に亘る幅とすることは、熱放散が最も高くなる基本的な態様の一つとして、容易に推考できる、設計的な事項である、と認められる(なお、それ以上幅を広くしても、接触面積を増やすという観点からは無意味であり、むしろ、部品の小型化という観点からは有害となるといえる。)。また、その場合、外部接続端子が、絶縁性基板の一辺に直交する方向に延びている構成となることは、ごく自然なことである。
したがって、このように構成することも前記甲第2号証及び甲第4、5号証に開示された周知の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得ることと認められる。
(ii-3)まとめ
以上のとおりであるから、相違点(ii)(iii)の構成もまた、本件出願当時、甲第1号証及び甲第2号証乃至甲第9号証に記載された周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得ることと認められる。
(6-4)まとめ
以上のとおりであり、訂正された本件特許請求の範囲第1項に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証乃至甲第9号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、訂正された本件特許請求の範囲第1項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
【7】まとめ
以上のとおりであって、本件審判における訂正の請求を認めることとし、本件特許請求の範囲第1項に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項によって準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
チップ抵抗器
(57)【特許請求の範囲】
一側面に金属箔抵抗体が貼着された絶縁性基板を、柔軟な内側の樹脂と硬質な外側の樹脂とで2層に外装し、この外装樹脂のプリント基板への取付面に板状外部接続端子を臨ませたチップ抵抗器において、
前記絶縁性基板の他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびてその外部突出端が前記外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲された一対の板状外部接続端子と、これらの各板状外部接続端子と前記抵抗体とを前記外装樹脂内で接続するリード線とを備えることを特徴とするチップ抵抗器。
【発明の詳細な説明】
本発明は、絶縁性基板に金属箔抵抗体を貼着した抵抗チップを樹脂で外装し、外部接続端子を外装樹脂のプリント基板への取付面に臨ませたチップ抵抗器に関するものである。
(発明の背景)
アルミナやガラス等の絶縁性基板に、ニッケル、クロームなどを含む金属箔抵抗体を貼着し、この金属箔抵抗体にフォトエッチングなどにより抵抗パターンを形成して抵抗チップとし、、リード線をこの抵抗体に接続した後、全体を樹脂で外装した金属箔抵抗器が従来よりある。
この種の抵抗器では、基板の線膨張係数と抵抗体の抵抗温度係数とを適合させることにより、抵抗値の温度に対する変動を抑制し、高精度な抵抗器を得ることができる。すなわち温度上昇に伴なう抵抗体の抵抗値の変化を、基板の線膨張を利用して抵抗体に応力を加えることにより相殺し、抵抗温度係数を小さくするものである。
このような金属箔抵抗器で、外部接続端子を外装樹脂のプリント基板への取付面に臨ませてチップ型としたものが考えられている。
このようなチップ抵抗器では、プリント基板に実装する場合に応力が加わることが多い。例えば接着剤で抵抗器をプリント基板に仮止めして接着剤を加熱硬化させ、その後噴流半田槽などで半田付けを行う場合(ディップフロー方式)や、抵抗器をクリーム半田で仮止めし赤外線炉などで加熱溶融させる場合(リフロー方式)などでは、基板と抵抗器あるいは半田との温度膨張係数の相違により、半田付け後に抵抗器に残留応力が加わることになる。
特に金属箔抵抗器のような絶縁性基板と金属箔抵抗体との線膨張係数の差を利用した高精度なものでは、外部からこのような機械的な応力が加わると、精度が低下するという問題があった。
(発明の目的)
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、プリント基板への実装の際に外部接続端子側から応力が加わっても、抵抗器自身特に抵抗チップには応力が加わりにくくして実装状態での抵抗値を高精度に保つことを可能にするチップ抵抗器を提供することを目的とする。
(発明の構成)
本発明によればこの目的は、一側面に金属箔抵抗体が貼着された絶縁性基板を柔軟な内側の樹脂と硬質な外側の樹脂とで2層に外装し、この外装樹脂のプリント基板への取付面に板状外部接続端子を臨ませたチップ抵抗器において、前記絶縁性基板の他側面にその一辺のほぼ全長に亘る幅で貼着されこの一辺に直交する方向にのびてその外部突出端が前記外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出し前記外装樹脂との間に間隙をもって前記取付面方向へ折曲された一対の板状外部接続端子と、これらの各板状外部接続端子と前記抵抗体とを前記外装樹脂内で接続するリード線とを備えることを特徴とするチップ抵抗器により達成される。
(実施例)
第1図は本発明の一実施例の断面図、第2図はその組立工程を示す分解斜視図、また第3、4図はそれぞれディップフロー方式およびリフロー方式による実装工程説明図である。
これらの図において符号10は絶縁性基板であり、アルミナ、グレーズドアルミナ、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラスあるいはダイヤモンド、サファイヤ、ステアタイト等が用いられる。12は金属箔抵抗体であり、ニッケル、クローム、銅、アルミニウム等を含む合金を圧延して箔に仕上げ、さらに真空中(約10-6Torr)で熱処理して圧延に伴なう加工ひずみを除去し所望の抵抗温度特性を得ている。この抵抗体12は基板10の一方の面に接着剤14により貼着される。ここに接着剤14としては耐熱性のよい接着剤などが適する。
このように基板10に抵抗体12を接着した後、抵抗体12にはフォトエッチング等の手法によって抵抗パターンが形成され抵抗チップ16ができる。この抵抗体12には金線などのリード線18、18の一端が超音波溶接などで接続される。
20、20は一対の外部接続端子であり、スズメッキ軟銅板などの金属板で作られている。この外部接続端子20は拡幅した端部を第2図(A)に示すように対向配置し、その一方の面には前記基板10の抵抗体12と反対の面がチップ固定樹脂22(第1図)により接着される。このチップ固定樹脂22としては熱硬化性エポキシ樹脂やゴム系接着剤などが使用でき、特にゴム系接着剤を用いれば外部接続端子20により基板10に応力が直接加わらず好ましい。そして前記リード線18の他端はこの外部接続端子20に超音波溶接などで接続される(第2図(B)参照)。
このように組立てられた後、基板10の周囲は適当な弾性を有するゴム系樹脂24と、硬質樹脂26とで二重に外装される。その結果板状の外部接続端子20が外装樹脂26の側面すなわちプリント基板30への取付面26aに対し略直立する側面から外部へ突出する。この端子20の外部突出部分は外装樹脂26との間に間隙をもって外装樹脂26の下面すなわちプリント基板30への取付面26aに臨むようにコ字状に折曲される。また外装樹脂26の下面中央付近には凸部28が形成され、各端子20、20はこの凸部28を挟んで対向する。このようにしてチップ抵抗器32が作られる。
この抵抗器32は、例えばディップフロー方式によれば第3図に示す工程によってプリント基板30に実装される。まずプリント基板30の所定位置に接着剤を塗布し(第3図A)、この接着剤にフィーダ等から供給される抵抗器32の凸部28を押圧して接着する(同図B)。抵抗器32の装着位置を検査し正しく装着されていることを確認した後(同図C)、紫外線で接着剤を硬化しまた遠赤外線で加熱する(同図D)。そしてフラックスを塗布した後噴流半田槽や平面静止半田槽により半田ディップし(同図E)、冷却・洗浄・乾燥する(同図F)。この結果第1図に示すように外部接続端子20とプリント基板30とが半田34により固定される。
またリフロー方式により実装する場合には、第4図に示すようにプリント基板30上にクリーム半田を塗布し(第4図A)、このクリーム半田にフィーダ等で供治される抵抗器32の外部接続端子20を付着させ(同図B)、装着状態を検査した後(同図C)、赤外線加熱炉でクリーム半田を加熱溶融する(同図D)。そして冷却・洗浄・乾燥することにより(同図E)、第1図に示すように半田付けされる。
抵抗器32はこのように加熱された状態でプリント基板30に半田付けされるが、温度変化によって冷却時には2つの外部接続端子20、20に伸縮方向の応力が加わる。しかし外部接続端子20には、外装樹脂26の取付面26aにほぼ垂直な部分20aが外装樹脂26との間に僅かな間隙を持って形成されている。このためこの伸縮方向の応力はこのほぼ垂直な部分20aが外装樹脂26に対して接近・離隔するように変形することにより吸収される。従ってこの伸縮方向の応力は外装樹脂26に直接加わらず、内部の抵抗チップ16に加わる応力も著しく小さくなる。この結果抵抗器32のプリント基板30への実装状態における抵抗値の精度が向上する。
以上の実施例では、外部接続端子20は、外装樹脂26のプリント基板30への取付面26aに対しほぼ直立する側面から外部へ突出させ、この外部接続端子20を取付面26a方向へ折曲してほぼ垂直な部分20aを形成した。しかし本発明は他の面例えば取付面26aと反対の上面に外部接続端子を突出させて取付面26a方向に折曲してもよい。換言すれば外部接続端子を取付面26a以外の面から外部へ突出きせ、外装樹脂との間に間隙をもって取付面方向へ折曲したものであればよい。
(発明の効果)
本発明は以上のように、外部接続端子を外装樹脂のプリント基板への取付面以外の面から外部へ突出させ、この突出部分を外装樹脂との間に間隙をもって取付面方向へ折曲させたものであるから、プリント基板に抵抗器を半田付けした場合にも応力がこの外部接続端子の外部突出部分の僅かな変形により吸収される。このため抵抗器に大きな応力が加わることがなく、プリント基板へ実装した状態での抵抗値の精度が向上する。特に外部接続端子は、取付面以外の面から外部へ突出させたから、外部接続端子は十分に長くなり、外部接続端子自身の弾性を利用して半田付け時の応力を良好に吸収できる。また両外部接続端子は絶縁性基板の金属箔抵抗体を貼着した面と反対の面に貼着し、これらの外部接続端子と抵抗体とを前記外装樹脂内でリード線によって接続したものであるから、万一外部接続端子に応力が加わってもその応力が抵抗体に加わることもなく、抵抗値の精度は一層向上する。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の一実施例の断面図、第2図はその組立工程を示す分解斜視図、また第3、4図はそれぞれディップフロー方式およびリフロー方式による実装工程説明図である。
10…基板、
12…金属箔抵抗体、
20…外部接続端子、
26…外装樹脂、
26a…取付面、
30…プリント基板、
32…抵抗器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2002-01-07 
結審通知日 2002-01-10 
審決日 2002-01-30 
出願番号 特願昭61-102163
審決分類 P 1 112・ 121- ZA (H01C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高橋 武彦  
特許庁審判長 吉村 宅衛
特許庁審判官 矢島 伸一
内田 正和
登録日 1992-05-19 
登録番号 特許第1662312号(P1662312)
発明の名称 チツプ抵抗器  
代理人 山田 文雄  
代理人 大熊 考一  
代理人 山田 文雄  
代理人 木内 光春  
代理人 山田 洋資  
代理人 山田 洋資  

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