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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C10L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C10L
管理番号 1114185
審判番号 不服2003-5243  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-05-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-03-31 
確定日 2005-03-25 
事件の表示 特願2001-243263「合成樹脂類の炉燃料への加工処理方法及び炉への燃料吹込み方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年5月22日出願公開、特開2002-146373〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年9月13日に出願した、特願平8-265589号(優先日 平成7年9月14日)の一部を、平成11年11月8日に新たな特許出願とした特願平11-317104号の一部を、さらに平成13年8月10日に新たな特許出願としたものであって、平成14年10月16日付けで手続補正書が提出され、平成14年12月10日付けの拒絶理由通知書に対して、平成15年2月21日付けで意見書が提出され、平成15年2月28日付けで拒絶査定がされ、平成15年3月31日に審判請求書が提出されたものである。
本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成14年10月16日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「合成樹脂類を加工処理設備において気送・吹込み用の炉燃料に加工処理するための方法であって、フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類を嵩密度0.30以上、安息角40°以下の粒状合成樹脂材に加工することを特徴とする合成樹脂類の炉燃料への加工処理方法。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
(1)特許法第36条第4項について(実施可能要件:発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。)
「本願の発明の詳細な説明(段落【0023】等)には、フィルム状の合成樹脂材を主体とする合成樹脂類(A)を処理手段を例示して粒状合成樹脂材(a)を得ることが記載されているが、得られた粒状合成樹脂材(a)が「嵩密度0.30以上、安息角40゜以下の粒状合成樹脂材」であることを具体的に示す記載(実測値等)がなく、また、上記処理手段を適宜選択すると、フィルム状の合成樹脂材を主体とする合成樹脂類から、「嵩密度0.30以上、安息角40゜以下の粒状合成樹脂材」のものが普通に得られることが、当業者の技術常識を参酌しても明らかでないから、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(2)特許法第36条第6項第2号について(発明の明確性の要件:特許を受けようとする発明が明確であること)
前述のとおり、フィルム状の合成樹脂材を主体とする合成樹脂類から、「嵩密度0.30以上、安息角40゜以下の粒状合成樹脂材」のものが普通に得られることが、当業者の技術常識を参酌しても明らかでないから、発明を特定する事項である「フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類を嵩密度0.30以上、安息角40°以下の粒状合成樹脂材に加工すること」は、発明の概念として具体的に開示されているものとはいえず、それ故、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。

3.請求人の主張の概要
(1)特許法第36条第4項について
「フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類」を粒状合成樹脂材に加工する方法については、本願明細書の段落【0023】〜【0031】に(1)〜(3)(以下、丸付き数字の「1ないし3」を「(1)ないし(3)」と表記する。)の方法が示されている。
(1)フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類を、加熱溶融→冷却固化→裁断又は粉砕処理、という工程で処理する方法
(2)フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類を、裁断又は破砕→加熱又は裁断若しくは破砕による摩擦熱で半溶融化→急冷による収縮固化→急冷による粒状収縮固化又は粉砕処理、という工程で処理する方法
(3)フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類を、高速回転刃で裁断又は破砕→裁断又は破砕による摩擦熱で半溶融化→急冷による収縮固化→急冷による粒状収縮固化又は高速回転刃による粉砕処理、という工程で処理する方法
まず、粒状合成樹脂材の嵩密度については、粒状合成樹脂材の粒径が細かいほど嵩密度が大きくなることは、当業者ならずとも自明のことである。
そして、上記(1)〜(3)の方法はそもそも廃棄物等として存在する合成樹脂類を小さい粒状物に加工するための方法であるから、これらの方法において粒状合成樹脂材の粒径を「嵩密度0.30以上」となるような細かさに加工する程度のことは、本願明細書の記載と技術常識に基づき当業者が適宜実施できることは明らかである。
したがって、「嵩密度0.30以上」については、本願明細書の記載に実施可能記載要件の違反がないことは明らかである。
次に、粒状合成樹脂材の安息角については、上記(2)、(3)の方法に関しては、原審も認めるように、これらの方法で処理を行えば「安息角40°以下の粒状合成樹脂材」が得られることが本願明細書の段落【0046】に記載されている。
また、上記(1)の方法についても、同じく段落【0046】に破砕(粉砕)方式等を適宜選択すれば「安息角40°以下の粒状合成樹脂材」が得られることが記載されている。
また、本願明細書の段落【0045】に記載してあるように、本願の図6は塊状合成樹脂材を粉砕処理して得られた粒状合成樹脂材に関するものであり、塊状合成樹脂材を種々の安息角を持つ粒状物に粉砕処理し、その粒状物の安息角と供給トラブル発生頻度との関係を調べたものである。
したがって、この「図6」自体が粉砕条件の選択によって「安息角40°以下の粒状合成樹脂材」が得られることを示している。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載されている。

(2)特許法第36条第6項第2号について
本願発明における「フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類を嵩密度0.30以上、安息角40°以下の粒状合成樹脂材に加工する」という記載の技術的意味は一義的で明確なものであり、この記載により発明が明確に把握されることは明らかである。一方、原審の上記認定にあるような「具体的な作り方が判らない」という問題は、特許法第36条第4項の記載要件を満足するかどうかの問題であり、特許法第36条第6項第2号の問題ではない。
したがって、本願発明が特許法第36条第6項第2号の要件を満していることは明らかである。

4.本願明細書の記載事項
本願明細書には、次の事項が記載されている。
ア.「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、本発明者らが実験と検討を重ねた結果、プラスチック等の合成樹脂類(以下、「プラスチック」を例に説明する)を高炉等への気送・吹込み用燃料として使用する場合、次のような解決すべき問題点があることが明らかとなった。
【0005】産業廃棄物や一般廃棄物として廃棄されるプラスチックを形態別に見た場合、概ね板材等の塊状プラスチックとフィルム状プラスチックとに大別され、このうち後者のフィルム状プラスチックも廃棄プラスチック全体の中で相当量を占めている。しかし、フィルム状プラスチックの粉砕物は搬送性や流動性が極めて悪く、燃料として用いる際の取扱い性に大きな問題があることが判明した。すなわち、プラスチックを燃料として高炉に吹き込む場合、貯留サイロ等に貯留されたプラスチックを切り出して高炉に気送供給する方法が採られるが、フィルム状プラスチックは流動性が極めて悪いため、これを相当量含んだプラスチックの粉砕物は貯留サイロでブリッジ(棚つり)を生じやすく、このため貯留サイロからのプラスチック粉砕物の定量切り出しができなくなるトラブルが多発し、さらにフィルム状プラスチックが貯留サイロの切出部や気送管内(特に、曲管部やバルブ周辺)で詰まりを生じ、高炉への気送供給が不能になるなどのトラブルも多発する、という重大な問題があることが判明した。
【0006】したがって、このような問題を解決しない限りフィルム状プラスチックを高炉等の吹込み燃料として使用することは事実上不可能であり、さらにはフィルム状プラスチックが廃棄プラスチック全体の中で相当の割合を占める状況を考慮すると、フィルム状プラスチックの利用を可能としない限り、廃棄物たるプラスチックの大量処理と有効利用というメリットが失われることは明らかである。」(段落【0004】〜【0006】)
イ.「【0009】
【課題を解決するための手段】このような課題を達成するための本願発明の構成は以下の通りである。
[1]合成樹脂類を加工処理設備において気送・吹込み用の炉燃料に加工処理するための方法であって、フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類を嵩密度0.30以上、安息角40°以下の粒状合成樹脂材に加工することを特徴とする合成樹脂類の炉燃料への加工処理方法。」(段落【0009】)
ウ.「【0023】前記粒状固化装置2では、例えば以下の(1)〜(3)の何れかの方法で合成樹脂類(A)の減容固化-粒状化処理が行われ、粒状合成樹脂材(a)が得られる。
(1)合成樹脂類(A)を加熱して溶融させた後冷却して固化させ、この固化した合成樹脂材を裁断または粉砕処理する方法
(2)合成樹脂類(A)を裁断または破砕し(この裁断または破砕は、粒状固化装置内ではなく上記破砕機1で行ってもよい)、この裁断または破砕された合成樹脂材を加熱若しくは前記裁断または破砕による摩擦熱により半溶融化させ、半溶融化した合成樹脂材を急冷することにより収縮固化させ、この際粒状に収縮固化させるか若しくは収縮固化した合成樹脂材を粉砕処理して粒状合成樹脂材(a)を得る方法
【0024】(3)上記(2)の方法の一態様として、合成樹脂類(A)を高速回転する回転刃で裁断または破砕するとともに、該裁断または破砕による摩擦熱により合成樹脂材を半溶融化させ、次いでこの半溶融化した合成樹脂材を水噴霧等によって急冷することにより収縮固化させ、この際粒状に収縮固化させるか若しくは収縮固化と同時に前記回転刃により粉砕処理し、粒状合成樹脂材(a)を得る方法
【0025】これらの方法のうち、(1)の方法の典型的な例は合成樹脂類(A)を完全溶融させ、これを押出し機により線状等に押出し成形した後、粒状に裁断することにより粒状合成樹脂材(a)を得る方法であるが、この他にも種々の加工方法を採ることができる。
【0026】これに対して(2)、(3)の方法は合成樹脂類(A)を完全には溶融させず、半溶融化させた状態から水噴霧等によって急冷することにより収縮固化させ、この際粒状に収縮固化させるか若しくは収縮固化したものを粒状に粉砕処理することにより粒状合成樹脂材(a)を得る方法である。本発明者らは特にこのような(2),(3)の方法(とりわけ(3)の方法)で得られた粒状合成樹脂材(a)が、フィルム状合成樹脂材の粉砕物は言うに及ばず、塊状合成樹脂材の粉砕物に較べてさえ非常に優れた流動性と搬送性を示し、しかも燃焼性にも非常に優れていることを見出したものであり、したがって、本発明の燃料吹込み方法においては、粒状固化装置2において上記(2)または(3)の方法で合成樹脂類(A)の粒状収縮固化若しくは収縮固化-粒状化処理を行い、粒状合成樹脂材(a)を得ることが最も好ましい。
【0027】図2は上記(2)の方法で粒状収縮固化若しくは収縮固化-粒状化の連続処理を行うための一構成例を示しており、粒状固化装置2に装入された合成樹脂類(A)は破砕装置12で破砕された後、減容固化装置13に装入される。この減容固化装置13では、合成樹脂類(A)は加熱室15及びこれに続く冷却室16を搬送装置17(搬送ベルト等)で連続搬送され、加熱室15において加熱(ガス加熱、ガス間接加熱または電気加熱等)されることで半溶融化した後、冷却室16で水噴霧等により急冷され、収縮固化する。この際、合成樹脂類(A)の破砕形態や加熱室内への装入状態等を適宜選択することにより合成樹脂材を粒状に収縮固化させることができ、したがってこの方法によれば収縮固化ままで粒状合成樹脂材(a)が得られる。
【0028】一方、合成樹脂材の一部または全部を粒状に収縮固化させない方法では、収縮固化した合成樹脂材は減容固化装置13から粉砕装置14に装入され、この粉砕装置14により粒状に粉砕処理されることで粒状合成樹脂材(a)が得られる。以上のようにして得られた粒状合成樹脂材(a)は、破砕されたフィルム状合成樹脂材を半溶融状態から粒状に収縮固化させ若しくは収縮固化させた後これを粉砕処理したものであるため、塊状合成樹脂材の破砕物に較べて比較的ポーラスな性状であって比表面積が大きく、しかも塊状合成樹脂材の破砕物のように角ばった形状ではなく、全体的に見て丸みを帯びた形状を有するため、優れた燃焼性と流動性を示す。
【0029】また、図3は上記(3)の方法で行われる粒状収縮固化若しくは収縮固化-粒状化処理の原理を模式的に示すもので、合成樹脂類(A)を高速回転する回転刃18で裁断または破砕するとともに、この裁断または破砕による摩擦熱により合成樹脂材を半溶融化させ、次いで、この半溶融化した合成樹脂材を水噴霧等により上記温度から急冷することにより収縮個化させ、この際粒状に収縮固化させるか若しくは収縮固化と同時に前記回転刃18により粉砕処理し、粒状合成樹脂材(a)が得られる。この方法はバッチ方式により合成樹脂材の破砕(または裁断)処理、半溶融化処理及び収縮固化後の粉砕処理(但し、急冷により粒状に収縮固化させる場合は粉砕処理は必要ない)の総てを高速回転する回転刃18により行うものであり、「破砕(または裁断)→半溶融化→急冷による粒状収縮固化」若しくは「破砕(または裁断)→半溶融化→急冷による収縮固化→粉砕」という一連の処理工程が短時間に速やかに行われ、しかも合成樹脂材が回転刃18による破砕(裁断)-高速撹拌中に半溶融化し、このような状態から速かに急冷処理がなされるため、比表面積及び粒形状等の面でより好ましい粒状合成樹脂材(a)が得られる。また、回転刃18の作用だけで破砕(または裁断)処理、半溶融化処理及び収縮固化後の粉砕処理が行われるため、設備コスト及び運転コストの面でも有利である。
【0030】なお、上記(3)の方法においても、合成樹脂類(A)の破砕形態や回転刃に対する装入状態等を適宜選択することにより合成樹脂材を粒状に収縮固化させることができ、したがってこの方法によれば実質的に収縮固化後の回転刃による粉砕処理なしに、収縮固化ままで粒状合成樹脂材(a)が得られる。一方、合成樹脂材の一部または全部を粒状に収縮固化させない方法では、上記のように回転刃による粉砕処理により粒状合成樹脂材(a)が得られる。
【0031】また、上記(2)、(3)の方法において合成樹脂類(A)を半溶融化する温度は合成樹脂の種類や形状等によってある程度異なり、例えば材質面だけからいうと低密度ポリエチレンの場合で105〜115℃程度、中低密度ポリエチレンの場合で128℃前後である。したがって、合成樹脂類(A)に含まれる合成樹脂材の種類や割合、形態等に応じて、半溶融化させるための温度が適宜選択される。」
【図1】、【図2】

(段落【0023】〜【0031】、【図1】、【図2】)
エ.「【0037】なお、フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類(A)とそれ以外の合成樹脂類(B)の加工処理設備に対する供給量は、廃棄物という性質上、経時的にある程度のバラツキを生じることがあり、比較的短期間(例えば、数時間〜数十時間程度)に限った場合にはいずれか一方の種類の合成樹脂類しか供給されず、したがって処理され且つ炉に気送される合成樹脂類は一時的に合成樹脂類(A)-粒状合成樹脂材(a)または合成樹脂類(B)-粒状合成樹脂材(b)のいずれか一方だけになることもあり得る。また、これ以外の理由により一時的に粒状合成樹脂材(a)及び(b)のいずれか一方のみが炉に気送されることもあり得る。さらには、粒状合成樹脂材(a)及び(b)を別々のサイロ等に貯蔵し、これを別々の経路を通じて炉に気送することもできる。
【0038】先に述べたように、上記(2)、(3)の方法により粒状収縮固化若しくは収縮固化-粒状化して得られた粒状合成樹脂材(a)は比較的ポーラスな性状で比表面積が大きく、しかも全体的に見て丸みを帯びた形状を有しているために優れた燃焼性と流動性を示し、これらを粒状合成樹脂材(b)と混合することにより、炉に供給される粒状合成樹脂材全体の燃焼性と流動性及び搬送性を効果的に高めることができる。すなわち、燃焼性に関しては、炉内に粒状合成樹脂材(a)と粒状合成樹脂材(b)の混合体が吹き込まれた場合、燃焼性の良好な粒状合成樹脂材(a)が急速燃焼して粒状合成樹脂材(b)を速かに着火させ、これによって炉内吹き込まれた粒状合成樹脂材全体の燃焼性が著しく高められる。」(段落【0037】〜【0038】)
オ.「【0044】さらに、粒状合成樹脂材(a)及び(b)は嵩密度0.30以上、安息角40°以下に加工されることが好ましい。先に述べたように従来技術においては合成樹脂粉砕物の嵩密度を0.35以上とすることが提案されているが、特に塊状合成樹脂材の粉砕物については嵩密度を高めるとそれだけ破砕機の負荷が増大する(破砕刃の寿命が短くなる)という問題があり、破砕機によっては嵩密度0.35未満の粉砕物しか得られないものもある。一方、本発明者らの検討によれば、粒状合成樹脂材の嵩密度が0.30以上であれば圧力損失等の点を含めて粒状合成樹脂材を気送することに何の問題も生じないこと、また、粒状合成樹脂材の貯留サイロでのブリッジ(棚つり)や気送管系内の曲管部やバルブ周辺での詰まり等のトラブルの発生は粒状合成樹脂材の嵩密度とは殆ど関係がなく、粒状合成樹脂材の粒形状に大きく左右されること、そして、この粒形状に基づく上記トラブルの発生抑制効果は粒状合成樹脂材の安息角で整理できることが判明した。
【0045】図6は、塊状合成樹脂材を粉砕処理して得られた粒径6mm以下の粒状合成樹脂材について、その安息角と貯留サイロでのブリッジ(棚つり)や気送管内での詰まり等の供給トラブル発生頻度との関係を、嵩密度が異なる粒状合成樹脂材別に示したものである。なお、供給トラブル発生頻度の評価は図5と同様の方法で行なった。
図6によれば、粒状合成樹脂材の嵩密度に拘りなく、安息角を40°以下とすることにより上記のような供給トラブルを適切に防止できることが判る。
【0046】また、粒状合成樹脂材(a)のうち上記く、(2)、(3)の方法で粒状収縮固化若しくは収縮固化-粒状化して得られるものについては、当該方法で粒状収縮固化若しくは収縮固化-粒状化するだけで安息角40°以下の粒状合成樹脂材が得られることが判った。一方、上記(1)方法で減容固化-粒状化して得られる粒状合成樹脂材(a)または上記(1)〜(3)以外の方法で収縮固化-粒状化して得られる粒状合成樹脂材(a)や、合成樹脂類(B)を破砕処理して得られる粒状合成樹脂材(B)については、安息角40°以下を達成するために破砕方式等が適宜選択される。なお、本発明において加工処理して得る粒状合成樹脂材(a)、(b)の粒径は、燃焼性の観点から10mm以下、好ましくは4〜8mmとすることが好ましい。本発明の燃料吹込み方法は、高炉や回転キルン等をはじめとする各種の炉に適用することができる。」
【図6】

(段落【0044】〜【0046】、【図6】)
カ.「【0049】
【実施例】[実施例1]図1のフローチャートで示す合成樹脂類の処理・吹込み設備に対して、フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類(A)を2.5t/hr、塊状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類(B)を5t/hrの割合でそれぞれ供給して粒状合成樹脂材(a)及び(b)に加工処理し、これらを貯留サイロで混合した後、気送管系を通じて高炉に気送し、微粉炭とともに羽口部から炉内に吹き込んだ。この際の合成樹脂類の加工及び供給条件と高炉の操業条件を以下に示す。
【0050】(イ)合成樹脂類の加工条件
(イ-1)合成樹脂類(A)
図1のフローチャートに従って粗破砕した後、上記(3)の方法で収縮固化-粒状化処理して粒径6mm以下の粒状合成樹脂材(a)に加工し、これを貯留サイロに移送した。
(イ-2)合成樹脂類(B)
図1のフローチャートに従って一次破砕、二次破砕及び粉砕処理を実施して粒径6mm以下の粒状合成樹脂材(b)に加工し、これを貯留サイロに移送した。
【0051】(ロ)粒状合成樹脂材の気送条件
貯留サイロに装入された粒状合成樹脂材(a)及び(b)の混合体をサイロから定量的に切り出し、これを気送供給設備まで移送し、気送供給設備から下記条件で高炉羽口部に粒状合成樹脂材を気送し、炉内に吹き込んだ。
気送ガス:空気
気送ガス吹込み流量:1300Nm3/hr
粒状合成樹脂材の吹込み量:7.5t/hr
固気比:4.5kg/kg
【0052】
(ハ)高炉操業条件
出銑量:9000t/日
コークス比:447kg/t・pig
羽口 粒状合成樹脂材の吹込み量:20kg/t・pig
微粉炭吹込み量:100kg/t・pig
送風量:7260Nm3/分
酸素富化率:4%
送風温度:1000℃
以上の粒状合成樹脂材の炉内吹込みを7日間実施した結果、高炉操業自体には全く支障はなく、また粒状合成樹脂材の貯留サイロ切出部や気送管系での詰まり等の供給トラブル等も殆ど発生しなかった。」(段落【0049】〜【0052】)
キ.「【0079】
【発明の効果】以上述べた本発明による合成樹脂類の炉燃料への加工処理方法及び炉への燃料吹込み方法によれば、プラスチック等の合成樹脂類をその形態に拘りなく高炉やスクラップ溶解炉等の炉の気送・吹込み用燃料に加工処理し、さらには炉に吹込み燃料として供給することができ、このため廃棄物たる合成樹脂類の大量処理と有効利用を図ることができ、また、高炉等の炉の燃料コストを大幅に低減させることができる。さらに、炉に供給される合成樹脂類の流動性や搬送性及び燃焼性を効果的に高めることができ、高炉やスクラップ溶解炉等において炉の操業に支障を来すことなく合成樹脂材を燃料として炉内に適切に供給することができる。」(段落【0079】)

5.当審の判断
(1)特許法第36条第4項について
本願発明の特定事項である、「フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類を嵩密度0.3以上、安息角40°以下の粒状合成樹脂材に加工すること」は、先行する従来技術の提示からみて、本願の優先日前公知あるいは周知であるとはいえない。
請求人は、フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類(A)を嵩密度0.3以上、安息角40°以下の粒状合成樹脂材(a)に加工する方法は本願明細書に示されている旨主張するので、その点について、以下検討する。
本願明細書には、フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類(A)を粒状合成樹脂材(a)に加工する方法(1)〜(3)が記載されている。
本願明細書の摘示ウ.(段落【0023】〜【0031】)によれば、(1)の方法は、典型的な例は合成樹脂類(A)を完全溶融させ、これを押出し機により線状等に押出し成形した後、粒状に裁断することにより粒状合成樹脂材(a)を得る方法である旨(段落【0028】)記載されている。
しかるに、(1)の方法は、嵩密度を0.3以上にするために、完全溶融-押出し成形-粒状に裁断を採用するのにとどまり、安息角40°以下の粒状合成樹脂材(a)が得られたことを示す具体的な記載がみあたらないし、そうするためのさらに具体的な処理条件も示されていない。
また、(2)、(3)の方法で得られる粒状合成樹脂材(a)は、破砕されたフィルム状合成樹脂材を半溶融状態から粒状に収縮固化させ若しくは収縮固化させた後これを粉砕処理したものであるため、塊状合成樹脂材の破砕物に較べて比較的ポーラスな性状であって比表面積が大きく、しかも塊状合成樹脂材の破砕物のように角ばった形状ではなく、全体的に見て丸みを帯びた形状を有するため、優れた燃焼性と流動性を示すもの(段落【0028】、摘示エ.段落【0038】)と記載され、安息角については、40°以下の粒状合成樹脂材(a)が得られることは推認されるものの、嵩密度については0.3以上であることを示す粒状合成樹脂材(a)が得られたことを具体的に示す記載がないばかりか、「比較的ポーラスな性状であって、比表面積が大きく、優れた燃焼性を示す」と嵩密度が小さいことを示唆する記載がある。
してみれば、嵩密度を満足する(1)の方法では、安息角を満足するかどうか、また、安息角を満足する(2)、(3)の方法では嵩密度を満足するかどうか、明らかではなく、むしろ満足していないというのが技術常識からみて自然であるし、また、摘示ア.〜キ.を含め、明細書の発明の詳細な説明および図面の記載全体をみても、粒状合成樹脂材(a)の嵩密度と安息角の両者が同時に満足する方法が、具体的に記載されているといえず、技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
なお、請求人は、(2)、(3)の方法については、原審も認めるように、これらの方法で処理を行えば「安息角40°以下の粒状合成樹脂材」が得られる旨が本願明細書の段落【0046】に記載されていること、上記(1)の方法についても、同じく段落【0046】に破砕(粉砕)方式等を適宜選択すれば「安息角40°以下の粒状合成樹脂材」が得られる旨が記載されていること、また、本願明細書の段落【0045】に記載してあるように、本願の図6は塊状合成樹脂材を粉砕処理して得られた粒状合成樹脂材に関するものであり、塊状合成樹脂材を種々の安息角を持つ粒状物に粉砕処理し、その粒状物の安息角と供給トラブル発生頻度との関係を調べたものであることから、「図6」自体が粉砕条件の選択によって「安息角40°以下の粒状合成樹脂材」が得られることを示していると主張しているが、これは、粒状合成樹脂材(a)の安息角が40°以下のものが製造できることを主張するのにとどまり、嵩密度について触れるところがないから、前述の判断は左右されない。
(2)特許法第36条第6項第2号について
本願発明は、合成樹脂類を炉燃料へ加工処理する方法に係る発明であり、その発明が明確となるためには、その加工処理する方法自体の具体的な内容が明らかになる必要がある。
しかしながら、請求項1には、その加工処理方法を受ける原材料(フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類)と加工処理によって得られるものの性質(嵩密度0.3以上、安息角40°以下の粒状合成樹脂材)と加工処理の目的が規定されているのみであり、それらの規定によって「加工処理方法」の発明の具体的な内容である処理手段、処理条件等が明確になっているものではないから、本願発明は明確であるということはできない。
なお、請求人は、本願発明における「フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類を嵩密度0.30以上、安息角40°以下の粒状合成樹脂材に加工する」という記載の技術的意味は一義的で明確なものであると主張している。
また、上記(1)〜(3)の加工方法の違いに拘りなく、「嵩密度が0.30以上、安息角40°以下」という条件を満足する粒状合成樹脂材を用いれば、本願発明の効果は奏されるものであり、そのことは本願明細書に明確に記載されているとも主張している。
その点を検討する。
「フィルム状合成樹脂材を主体とする合成樹脂類を嵩密度0.30以上、安息角40°以下の粒状合成樹脂材に加工する」という技術的意味は、明確であっても、本願明細書には、それを実現したとする具体的な記載がないことは、5.(1)で述べたとおりである。
また、「嵩密度が0.30以上、安息角40°以下」という条件を満足する粒状合成樹脂材を用いれば、ということは、粒状合成樹脂材(a)を選別すれば、「嵩密度が0.30以上、安息角40°以下」のものとすることは実現可能であるというに等しく、本願発明は、「プラスチック等の合成樹脂類をその形態に拘りなく高炉やスクラップ溶解炉等の炉の気送・吹込み用燃料に加工処理し、さらには炉に吹込み燃料として供給することができ、このため廃棄物たる合成樹脂類の大量処理と有効利用を図ることができ」(摘示キ.参照)と、合成樹脂類をその形態に拘りなくほぼ全量加工処理することを趣旨とする本願発明の前記目的・効果に反する主張である。

6.むすび
以上のとおりであるから、この出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項及び同条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、拒絶されるべきものである。
 
審理終結日 2005-01-06 
結審通知日 2005-01-18 
審決日 2005-02-01 
出願番号 特願2001-243263(P2001-243263)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C10L)
P 1 8・ 536- Z (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉住 和之  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 井上 彌一
佐藤 修
発明の名称 合成樹脂類の炉燃料への加工処理方法及び炉への燃料吹込み方法  
代理人 苫米地 正敏  

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