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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B22F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B22F
管理番号 1114200
審判番号 不服2002-22797  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-09-14 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-11-26 
確定日 2005-03-24 
事件の表示 特願2000-376918「鉄基磁性材料合金粉末の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 9月14日出願公開、特開2001-247906〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年12月12日の出願(優先日平成11年12月27日 日本)であって、平成14年10月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成14年11月26日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成14年12月16日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成14年12月16日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成14年12月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)手続補正の内容
本件手続補正の内容の一つは、特許請求の範囲の請求項1を次のとおりに補正するものである。
「【請求項1】ロール表面速度1m/秒以上13m/秒以下の冷却ロールによる急冷法によってFe-R-B系合金(Feは鉄、Rは希土類元素、Bはボロンであり、50質量%以上の鉄を含有する)の溶湯を冷却し、それによって厚さ80μm以上300μm以下で、かつ、非晶質相、Fe23B6、Fe3B、およびR2Fe23B3からなる群から選択された少なくとも一つの準安定相とR2Fe14B相とが混在する組織から構成される急冷凝固合金を形成する冷却工程と、
400℃〜700℃で30秒以上の熱処理によって前記急冷凝固合金を結晶化し、Fe、FeとBの合金、およびR2Fe14B型結晶構造を有する化合物を含み、各構成相の平均結晶粒径が100nm以下である組織から構成される永久磁石特性を有する合金を生成する工程と、
回転するディスクと、前記ディスク上に配列された複数のピンとを備え、前記合金と接触する前記ピンの少なくとも一部が超硬合金材料から形成されているピンミル装置を用いて前記合金を粉砕し、それによって平均粒径が10μm以上100μm以下、長軸方向サイズに対する短軸方向サイズの比(短軸/長軸)が0.3以上1.0以下の粉末粒子を形成する工程と、
を包含し、
前記粉末粒子の粒度分布が、上記合金粉砕量が10kgの時点と50kgの時点で実質的な変化が生じないことを特徴とするナノコンポジット磁石粉末の製造方法。」
(2)当審の判断
本件手続補正の上記内容は、次の(イ)及び(ロ)の理由により、平成15年改正前の特許法第17条の2第4項及び同法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものである。
(イ)補正要件違反について
(i)補正後の請求項1に係る発明が審判請求前の特許請求の範囲のどの請求項に係る発明を特定するものであるか全く明らかではないために、特許法第17条の2第4項第2号にいう「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」に該当しない。
(ii)補正後の請求項1の「前記粉末粒子の粒度分布が、上記合金粉砕量が10kgの時点と50kgの時点で実質的な変化が生じないこと」という特定事項は、審判請求前の特許請求の範囲に記載された請求項のいずれにも「粉末粒子の粒度分布」に係る事項が記載されていないから、特許法第17条の2第4項第2号にいう「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」に該当しない。
したがって、補正後の請求項1の記載は、上記(i)及び(ii)の理由により、特許法第17条の2第4項第2号に規定する要件を満足していない。
(ロ)独立特許要件違反について
(i)引用例に記載された事項
原査定の理由で引用された引用例1、引用例3、引用例5及び6には、それぞれ次の事項が記載されている。
(a)引用例1:特開平3-46202号公報
(a1)「(1)永久磁石粉末とバインダとを含有するボンディッド磁石であって、前記永久磁石粉末が、R(ただし、RはYを含む希土類元素1種以上である。)と、FeまたはFeおよびCoと、Bとを含有する合金溶湯を冷却基体に接触させて高速急冷することにより得られた永久磁石材料を粉砕して得られた永久磁石粒子から構成され、高速急冷時に冷却基体に接触した面およびこの面と対向する面を表面に有する永久磁石粒子が、前記永久磁石粉末に70wt%以上含有されていることを特徴とするボンディッド磁石。
(中略)
(6)請求項1ないし5のいずれかに記載のボンディッド磁石の製造方法であって、高速急冷することにより得られた永久磁石材料を、冷却方向とほぼ平行に破断が生じるように粉砕する工程を有することを特徴とするボンディッド磁石の製造方法。
(7)前記粉砕がピンミルにより行なわれる請求項6に記載のボンディッド磁石の製造方法。」(第1頁乃至第2頁左上欄特許請求の範囲)
(a2)「本発明は、R(RはYを含む希土類元素である。以下同じ。)と、FeまたはFeおよびCoと、Bとを含むFe-R-B系の永久磁石粉末を含有するボンディッド磁石およびその製造方法に関する。」(第2頁左上欄第8行乃至第12行)
(a3)「本発明において、永久磁石材料の好ましい厚さは5〜500μm、特に20〜150μmである。
そして、このような永久磁石材料を粉砕して得られる永久磁石粒子の好ましい寸法は、目的とするボンディッド磁石の種類、用途などによっても異なるが、平均粒径は20〜500μm、特に30〜250μmであることが好ましい。」(第5頁左下欄第4行乃至第12行)
(a4)「しかし、上記のような永久磁石粒子を容易に得るためには、高速急冷することにより得られた永久磁石材料を、ほぼ厚さ方向に破断が生じるように粉砕することが好ましい。
このような粉砕を行なうためには、ピンミルを用いることが好ましい。
ピンミルとは衝撃粉砕機の一種であり、主面上にピンが植立された回転円盤を有し、円盤上のピンにより被粉砕物が衝撃、反発の相互作用を受けて粉砕されるものである。なお、この増合のピンとは、スタッド状等の形状を有する歯である。
本発明に用いるピンミルは、ピンが植立された円盤が1枚であってもよく、ピンを内側にして対向する2枚の円盤を有するものであってもよい。また、対向して2枚の円盤を有する場合、2枚とも回転するものであってもよく、また、片側だけ回転するものであってもよい。」(第5頁左下欄第19行乃至右下欄第16行)
(a5)「本発明において、高速急冷により得られる永久磁石材料は、Rと、FeまたはFeおよびCoと、Bとを含有するものであれば組成に特に制限はないが、磁気特性が高いことから下記の組成を有することが好ましい。
R:5〜20at%、
B:2〜15at%、
Co:0〜55at%
を含み、残部が実質的にFeであるもの。
より好ましくは
R:5〜17at% 、
B:2〜12at%、
Co:0〜40at%
を含み、残部が実質的にFeであるもの。」(第6頁左上欄第19行乃至右上欄第11行)
(a6)「このような組成は、原子吸光法、蛍光X線法、ガス分析法等によって容易に測定できる。
上記組成の永久磁石材料は、実質的に正方晶系の結晶構造の主相のみを有するか、このような主相と、非晶質および/または結晶質の副相とを有することが好ましい。
R-T-B化合物(TはFeおよび/またはCo)として安定な正方晶化合物はR2T14B(R=11.76at%、T=82.36at%、B=5.88at%)であり、主相は実質的にこの化合物から形成される。また、副相は、主相の結晶粒界として存在する。」(第6頁左下欄第13行乃至右下欄第4行)
(a7)「領域Dにおける平均結晶粒径dは、0.01〜2μm、特に0.02〜1.0μmであることが好ましく、領域Pにおける平均結晶粒径pは、0.005〜1μm、特に0.01〜0.75μmであることが好ましい。平均結晶粒径がこの範囲未満であるとエネルギー積が低下し、この範囲を超えると高い保磁力が得られない。」(第7頁右上欄第11行乃至第18行)
(a8)「ロールの周速度は、ロール表面層の組成、永久磁石材料の組成、目的とする組織構造、熱処理の有無等の各種条件によっても異なるが、好ましくは1〜40m/s、特に3〜30m/sとすることが好ましい。周速度が上記範囲未満であると、得られる永久磁石材料の大部分の結晶粒が大きくなりすぎる。また、周速度が上配範囲を超えると、大部分が非晶質となり磁気特性が低下する。
得られる永久磁石材料の厚さは、好ましくは5〜500μm、より好ましくは20〜150μmとすることがよい。厚さがこの範囲を超えると保磁力が低下し、この範囲未満であると所望の結晶粒径を得ることが困難となる。なお、片ロ-ル法を用いた場合、通常、薄帯状の永久磁石材料が得られる。」(第8頁左下欄第16行乃至右下欄第11行)
(a9)「また、双ロール法における製造条件は上記した片ロール法に準じればよいが、冷却ロールの周速度は0.5〜20m/sとすることが好ましい。」(第8頁右下欄最下行乃至第9頁左上欄第3行)
(a10)「このようにして得られる永久磁石材料は、異方性を有する扁平状粒子から構成される粉末であり、平均粒径15〜3000μm、好ましくは20〜2000μm、平均厚み10〜200μm、アスペクト比(平均粒径/平均厚さ)1.5〜30であり、厚み方向に磁化容易軸(C軸)を有するものである。なお、高速急冷により得られた永久磁石材料には、特性改善のための熱処理が施されてもよい。」(第9頁右上欄第5行乃至第14行)
(b)引用例3:特開平8-335508号広報
(b1)「【請求項1】組成式がRx(Fe1-uCou)100-x-y-zByCrz、(R:Pr,Nd,Dyの1種又は2種以上)で表され、x(at%)、y(at%)、z(at%)及びuが下記の値を満足し、Nd2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相と、体心立方鉄および鉄ホウ化物の軟磁性相からなり、各相の平均結晶粒径が50nm以下であるナノコンポジット組織を有し、直径300μm以下の硬質磁性体粉末を50vol%以上含み、融点が250℃以上の熱可塑性樹脂を結合剤として成形された高耐熱性ボンド磁石。
4.5≦x≦6.0、15≦y≦20、3≦z≦7、0.04≦u≦0.10」(第2頁特許請求の範囲)
(b2)「この発明は、自動車や家庭電化製品の用途のように使用環境並びに製造環境で高い耐熱性が要求される高耐熱性ボンド磁石に係り、特定の多相からなる硬質磁性体としての金属組織を有する耐熱性のすぐれたのナノコンポジット磁性体と、結合剤として融点が250℃以上の熱可塑性樹脂からなることを特徴とし、射出成形が可能な高耐熱性ボンド磁石に関する。」(第2頁段落【0001】)
(b3)「この発明のナノコンポジット磁性体は、非晶質化が容易な鉄-ホウ素合金に若干の希土類とクロムを添加した合金を、溶融状態から超急冷凝固法により一旦非晶質金属を得た後、熱処理により結晶化して得られ、さらにこれを粉砕して粉末とした後、樹脂と混合、成形して樹脂結合磁石として利用できる。」(第3頁段落【0017】)
(b4)「これに対しこの発明では、非晶質から準安定相が析出すること、およびその結晶粒径が数十ナノメートル以下であることが重要な特徴であり、溶融金属の急冷速度を遅くして直接結晶化組織を得た場合とは、ミクロ組織が完全に異なる。
すなわち、後者の工程を取ると準安定相でなく安定相が析出してしまう上、結晶粒径も特に体心立方鉄相が粗大化してナノメートルサイズにならず、所期の磁気特性が得られない。
また、非晶質合金を得た場合でも結晶化熱処理を施す工程での加熱昇温速度が重要な製造上のパラメータであり、結晶化が開始される500℃以上の温度範囲で1秒間当たり10℃から50℃の範囲が好ましい。」(第4頁段落【0020】)
(b5)「ホウ素を15〜20at%添加すると、結晶化の際に体心立方鉄の他に鉄のホウ化物が生成するが、後者は良好な軟磁性相として許容できる磁気的性質を有している。硬磁性相としてはNd2Fe14B型化合物が析出する。従って、この発明では構成相を体心立方鉄とホウ化鉄並びにNd2Fe14B型化合物に限定する。
【実施例】
実施例1
化学式がNd5.5Fe66B18.5Cr5Co5組成のアモルファス合金を超急冷により得た後、640℃のアルゴン雰囲気の炉中を15℃/分の昇温速度となるように通過させることにより結晶化し、得られた結晶質合金を大気中でピンミルにより粉砕して最大粒度63μmのナノコンポジット磁性粉末を得た。
この発明のナノコンポジット磁粉の結晶粒径を透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、約20nmであった。このナノコンポジット磁紛の磁気特性はBr=0.86T、HCJ=0.61MA/mであった。」(第6頁段落【0043】及び【0044】)
(c)引用例5:特開昭61-234955号公報
(c1)「本発明は、ピンを粉砕媒体として鉱石等を数百〜数十μm以下に粉砕するピンミルに関する。」(第1頁左欄)
(c2)「各内周ピン3には、アルミナ・・・タングステンカーバイト(WC)」・・・等の耐摩耗性のセラミックスからなる筒状の内周ピンライナー4が遊嵌され、」(第2頁左上欄第5行乃至第9行)
(d)引用例6:特開昭61-129046号公報
(d1)「この発明は、衝撃型粉砕機の1種であるピンミルに関するものであって、その回転子における打撃ピンの改良に係るものである。」(第1頁左欄)
(d2)「この発明においては、上記超硬セラミックを用いるとともに、このセラミックを単にピン主体を覆うライナーとしてではなく、予め中心に取付用の縦孔を有する角柱状のピン主体そのものに形成し、・・・打撃ピンを構成するものであって、」(第2頁右上欄第9行乃至第14行)
(ii)引用例1に記載された発明(以下、「引用例1発明」という。)
引用例1の上記(a1)には、「永久磁石粉末が、R(ただし、RはYを含む希土類元素1種以上である。)と、FeまたはFeおよびCoと、Bとを含有する合金溶湯を冷却基体に接触させて高速急冷することにより得られた永久磁石材料を粉砕して得られた永久磁石粒子」及び「前記粉砕がピンミルにより行なわれる」と記載され、上記(a5)の記載によれば、合金溶湯のFeが50質量%以上であることが明らかであり、また、上記(a8)及び(a9)には、周速度が0.5〜20m/sの冷却ロールによって急冷することも記載されているから、これら記載を補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という)の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、「ロール表面速度0.5〜20m/秒の冷却ロールによる急冷法によってFe-R-B系合金(Feは鉄、Rは希土類元素、Bはボロンであり、50質量%以上の鉄を含有する)の溶湯を冷却して得られた永久磁石材料をピンミルによって粉砕して永久磁石粒子を製造する方法」が記載されていると云える。
また、引用例1の上記(a3)には、急冷して得られる永久磁石材料の厚さが「5〜500μm」であり、この材料を粉砕して得られる永久磁石粒子の平均粒径が「20〜500μm」であると記載され、上記(a10)には、粉砕された粒子の「アスペクト比(平均粒径/平均厚さ)1.5〜30」とも記載されている。さらに、永久磁石粒子の結晶構造についても、引用例1の上記(a6)には、「実質的に正方晶系の結晶構造の主相のみを有するか、このような主相と、非晶質および/または結晶質の副相とを有することが好ましい。R-T-B化合物(TはFeおよび/またはCo)として安定な正方晶化合物はR2T14B(R=11.76at%、T=82.36at%、B=5.88at%)であり、主相は実質的にこの化合物から形成される。」と記載され、上記(a7)には、その平均結晶粒径が「領域Dにおける平均結晶粒径dは、0.01〜2μm、特に0.02〜1.0μmであることが好ましく、領域Pにおける平均結晶粒径pは、0.005〜1μm、特に0.01〜0.75μmであることが好ましい。」と記載されているから、引用例1に記載の永久磁石粒子の組織は、「非晶質の副相とR2T14Bの主相が混在し領域Dにおける平均結晶粒径dが0.01〜2μm、領域Pにおける平均結晶粒径pが0.005〜1μmである組織」ということができる。そうすると、これら記載を上記記載と組合わせてさらに整理すると、引用例1には、「ロール表面速度0.5〜20m/秒の冷却ロールによる急冷法によってFe-R-B系合金(Feは鉄、Rは希土類元素、Bはボロンであり、50質量%以上の鉄を含有する)の溶湯を冷却し、それによって厚さ5〜500μmでかつ非晶質の副相とR2T14Bの主相が混在し領域Dにおける平均結晶粒径dが0.01〜2μm、領域Pにおける平均結晶粒径pが0.005〜1μmである組織から構成される急冷凝固合金を形成する冷却工程と、ピンミル装置を用いて永久磁石材料を粉砕し、それによって平均粒径が20〜500μm、アスペクト比(平均粒径/平均厚さ)1.5〜30の粉末粒子を形成する工程とを包含する永久磁石粉末の製造方法」という発明(以下、「引用例1発明」という)が記載されていると云える。
(iii)対比・判断
本願補正発明1は、上記「2.(1)」に記載された事項によって特定されるとおりものであるから、本願補正発明1と上記引用例1発明とを対比すると、引用例1発明のアスペクト比(平均粒径/平均厚さ)については、厚さを短軸、粒径を長軸とみることができるから、この場合の引用例1発明の長軸方向サイズに対する短軸方向サイズの比(短軸/長軸)は、1.5〜30の逆数の「0.03〜0.67」であり、また、本願補正発明1も、請求項1に「永久磁石特性を有する合金を生成する工程」と記載されているから、「コンポジット磁石粉末」とはいうものの、「永久磁石粉末」と言い換えることができる。そうすると、両者は、「ロール表面速度1〜13m/秒の冷却ロールによる急冷法によってFe-R-B系合金(Feは鉄、Rは希土類元素、Bはボロンであり、50質量%以上の鉄を含有する)の溶湯を冷却し、それによって厚さ80〜300μmでかつ非晶質の準安定相とR2T14B相が混在する組織から構成される急冷凝固合金を形成する冷却工程と、ピンミル装置を用いて前記合金を粉砕し、それによって平均粒径が20〜100μm、長軸方向サイズに対する短軸方向サイズの比(短軸/長軸)が0.3〜0.67の粉末粒子を形成する工程とを包含する永久磁石粉末の製造方法。」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点:
(イ)本願補正発明1は、急冷凝固合金を「400℃〜700℃で30秒以上の熱処理によって前記急冷凝固合金を結晶化し、Fe、FeとBの合金、およびR2Fe14B型結晶構造を有する化合物を含み、各構成相の平均結晶粒径が100nm以下である組織から構成される永久磁石特性を有する合金を生成する工程」を含む「ナノコンポジット磁石粉末の製造方法」であるのに対し、引用例1発明は、この結晶化熱処理工程を含まない、合金の平均結晶粒径が「領域Dにおける平均結晶粒径dが0.01〜2μm、領域Pにおける平均結晶粒径pが0.005〜1μmである永久磁石粉末の製造方法」である点
(ロ)本願補正発明1は、「回転するディスクと、前記ディスク上に配列された複数のピンとを備え、前記合金と接触する前記ピンの少なくとも一部が超硬合金材料から形成されているピンミル装置」を用いるのに対し、引用例1発明は、ピンミル装置を用いるものの、そのピンが超硬合金材料から形成されているか明らかでない点
(ハ)本願補正発明1は、「粉末粒子の粒度分布が上記合金粉砕量が10kgの時点と50kgの時点で実質的な変化が生じない」というものであるのに対し、引用例1発明は、この点が明らかでない点
次に、これら相違点について検討する。
・相違点(イ)について
引用例1発明は、高速急冷した合金を粉砕したものであり、この合金にその後結晶化熱処理を施すものではないが、引用例1の上記(a10)の「なお、高速急冷により得られた永久磁石材料には、特性改善のための熱処理が施されてもよい。」という記載によれば、引用例1発明の合金に熱処理を施すことも示唆されていることは明らかである。そして、引用例1発明のような「Fe-R-B系合金(Feは鉄、Rは希土類元素、Bはボロンであり、50質量%以上の鉄を含有する)の溶湯を高速急冷して得られた永久磁石材料」に500℃以上の温度で結晶化熱処理を施してFe、FeとBの合金、およびR2Fe14B型結晶構造を有する化合物を含みその結晶粒径が数十nm以下のナノコンポジット磁石粉末を得ることも上記引用例3の(b1)乃至(b5)によって既に知られていることであるから、本願補正発明1の上記相違点(イ)は、上記引用例3の上記(b1)乃至(b5)の教示に基いて引用例1発明の永久磁石合金を結晶化熱処理することによって当業者が容易に想到することができたと云うべきである。
・相違点(ロ)について
本願補正発明1の上記相違点(ロ)のような「回転するディスクと前記ディスク上に配列された複数のピンとを備えたピンミル装置」であって「そのピンが耐摩耗性の超硬合金材料から形成されているピンミル装置」は、例えば上記引用例5及び6に記載されているように周知である。そして、本願補正発明1が粉砕する「急冷凝固合金」や「この急冷凝固合金を結晶化した合金」が比較的硬いものであることも当業者に自明の事項であるから、これら合金の粉砕のためにピンが耐摩耗性の超硬合金材料から形成されている上記周知のピンミル装置を採用する程度のことは当業者が容易に想到することができたと云うべきである。
・相違点(ハ)について
本願補正発明1の上記相違点(ハ)は、ピンが耐摩耗性の超硬合金材料から形成されているピンミル装置を使用したことによって得られる事項と云えるが、このような事項は、上記周知のピンミル装置を使用することによって当業者が当然に予測することができた事項であって格別のことではないと云うべきである。
してみると、本願補正発明1の上記相違点(イ)乃至(ハ)は、いずれも上記引用例3、5及び6の記載から当業者が容易に想到することができたものであるから、少なくとも本願補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(3)むすび
したがって、本件手続補正は、平成15年改正前の特許法第17条の2第4項及び同法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明についての審決
(1)本願発明
平成14年12月16日付け手続補正は、上記のとおり却下すべきものであるから、本願の請求項1乃至16に係る発明は、平成14年9月26日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至16に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という)は、以下のとおりである。
「【請求項1】50質量%以上の鉄を含有する鉄基磁性材料合金を用意する工程と、前記鉄基磁性材料合金と接触する部分の少なくとも一部が超硬合金材料から形成されているピンミル装置を用いて前記鉄基磁性材料合金を粉砕し、長軸方向サイズに対する短軸方向サイズの比(短軸/長軸)が0.3以上1.0以下の粉末粒子を作製する工程と、を包含する鉄基磁性材料合金粉末の製造方法。」
(2)引用例と引用例1発明
原査定の理由で引用された引用例1、引用例5及び6の記載事項は、上記「2.(2)(ロ)(i)」で摘示したとおりである。そして、引用例1には、「Fe-R-B系合金(Feは鉄、Rは希土類元素、Bはボロンであり、50質量%以上の鉄を含有する)の溶湯を冷却し、それによって急冷凝固合金を形成する冷却工程と、ピンミル装置を用いて永久磁石材料を粉砕し、それによってアスペクト比(平均粒径/平均厚さ)1.5〜30の粉末粒子を形成する工程とを包含する永久磁石粉末の製造方法」という発明(以下、「引用例1発明」という)が記載されていると云える。
(3)対比・判断
そこで、本願発明1と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「Fe-R-B系合金(Feは鉄、Rは希土類元素、Bはボロンであり、50質量%以上の鉄を含有する)は、鉄基磁性材料合金の一種であるから、引用例1発明の「Fe-R-B系合金(Feは鉄、Rは希土類元素、Bはボロンであり、50質量%以上の鉄を含有する)の溶湯を冷却し、それによって急冷凝固合金を形成する冷却工程」は、本願発明1の「50質量%以上の鉄を含有する鉄基磁性材料合金を用意する工程」に相当する。また、引用例1発明のアスペクト比(平均粒径/平均厚さ)については、前示のとおり、厚さを短軸、粒径を長軸とみることができるから、この場合の引用例1発明の長軸方向サイズに対する短軸方向サイズの比(短軸/長軸)は、1.5〜30の逆数の「0.03〜0.67」である。そうすると、両者は、「50質量%以上の鉄を含有するFe-R-B系合金(Feは鉄、Rは希土類元素、Bはボロンであり、50質量%以上の鉄を含有する)を用意する工程と、ピンミル装置を用いて前記Fe-R-B系合金(Feは鉄、Rは希土類元素、Bはボロンであり、50質量%以上の鉄を含有する)を粉砕し、長軸方向サイズに対する短軸方向サイズの比(短軸/長軸)が0.3以上0.67以下の粉末粒子を作製する工程とを包含する鉄基永久磁石合金粉末の製造方法」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点:本願発明1は、「鉄基磁性材料合金と接触する部分の少なくとも一部が超硬合金材料から形成されているピンミル装置」を用いるのに対し、引用例1発明は、ピンミル装置を用いるものの、そのピンが超硬合金材料から形成されているか明らかでない点
そして、この相違点については、上記「2.(2)(iii)」で述べたとおりである。

4.むすび
したがって、少なくとも本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、その余の請求項2乃至16に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-01-18 
結審通知日 2005-01-25 
審決日 2005-02-07 
出願番号 特願2000-376918(P2000-376918)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B22F)
P 1 8・ 121- Z (B22F)
P 1 8・ 572- Z (B22F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 一正  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 綿谷 晶廣
平塚 義三
発明の名称 鉄基磁性材料合金粉末の製造方法  
代理人 奥田 誠司  

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