• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60K
管理番号 1114264
審判番号 不服2002-8799  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-11-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-05-16 
確定日 2005-03-24 
事件の表示 平成 9年特許願第108637号「駆動力切換機構」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月10日出願公開、特開平10-297313〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成9年4月25日の出願であって、その請求項1〜4に係る発明は、平成17年1月11日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
一方の車輪対のディファレンシャルの入力軸である第1軸と、
駆動源からの駆動力を伝達する第2軸と、
前記第1軸の軸方向に移動可能に設けられた切換部材及び前記切換部材を軸方向に移動させる切換装置を有し、該切換装置の作動により前記切換部材が軸方向に移動させられることで前記第1軸と第2軸とを連結・離脱可能なクラッチ機構と、
が前記ディファレンシャルを含む終減速装置内に形成されて1つのユニットを構成する駆動力切換機構であって、
前記第1軸の外周面には第1スプラインが直接的に形成されるとともに前記第2軸の外周面には第2スプラインが直接的に形成され、前記切換部材の内周には前記第1スプライン及び前記第2スプラインに対応する内スプラインが形成され、
前記切換装置は、通電によって駆動するモータにより作動させられることを特徴とする、駆動力切換機構。」

2.引用刊行物の記載事項及び引用発明
これに対して、当審において平成16年10月29日付けで通知した拒絶の理由には、本願出願前に頒布された刊行物である次の刊行物が引用されており、各刊行物には、以下の技術的事項が記載されている。
[引用刊行物]
刊行物1:実願昭57-194073号(実開昭59-102432号) のマイクロフィルム
刊行物2:実願昭55-40259号(実開昭56-143644号)の マイクロフィルム
刊行物3:実願昭60-83953号(実開昭61-199428号)の マイクロフィルム

(1)刊行物1
(1-イ)「本考案は変速機内部若しくはそれに付加されるトランスフアを介して前後輪のいずれか一方又は両方を駆動するようにした前後輪駆動装置に関する。」(第1頁第14行〜17行)

(1-ロ)「図面はセンターデフ無しのパートタイム四輪駆動装置を示し、エンジン(1)で発生した駆動力は、変速機(2)とトランスフア(3)とを介して、該トランスフア(3)から前後に延びる前後輪プロペラシヤフト(4)(5)に連動され、該シヤフト(4)(5)は前輪(6)と後輪(7)とにそれぞれ連る前後輪用デイフアレンシヤルケース(8)(9)に連結されている。そしてその一方即ち図では後輪プロペラシヤフト(5)と後輪用デイフアレンシヤルケース(9)とは動力断接装置(10)を介して切離すようにしたもので該装置(10)は第2図に示すようにシヤフト(5)にスプライン係合し、且つデイフアレンシヤルギヤのドライブピニオンシヤフト(11)に嵌合するインプツトシヤフト(12)と、該シヤフト(12)に設けたドライブピニオンハブ(13)と前記ドライブピニオンシヤフト(11)に設けたドライブピニオンハブ(14)とに係脱自在にシフトされる切換スリーブ(15)とから形成されている。」(第2頁第17行〜第3頁第14行)

(1-ハ)「次にその作動を説明すると4輪駆動及び2輪駆動の切換装置に同期してオンオフされる切換スリーブ(15)により動力断接装置(10)はプロペラシヤフト(5)とデイフアレンシヤルケース(9)との接続と切離しとを行うもので、このように本考案によるときは、駆動しない例のプロペラシヤフト(5)と該シヤフト(5)に連るデイフアレンシヤルケース(9)との間を動力断接装置(10)を介して切離すようにしたので駆動しない側のプロペラシヤフトが車輪の回転により回動することがないので動力損失を低減すると共に耐久性の向上及び振動,騒音の低減を計ることができ而も動力断接装置(10)はプロペラシヤフトとデイフアレンシヤルケースとを断接させたので、その取付けが容易となると共にアクスル軸の支持方法等に何ら制約を与えることなくアクスル軸の支持を容易にする等の効果を有する。」(第3頁第15行〜第4頁第11行)

(1-ニ)第2図の記載によれば、インプツトシヤフト(12)に一体にドライブピニオンハブ(13)が形成され、ドライブピニオンハブ(13)とドライブピニオンハブ(14)の外周にはそれぞれスプラインが形成されており、切換スリーブ(15)の内周には、ドライブピニオンハブ(13)及び(14)の外周面に形成されたスプラインに対応する内スプラインが形成されていることが看取できる。

上記摘記事項(1-ロ)及び第2図の記載によれば、インプツトシヤフト(12)に設けたドライブピニオンハブ(13)とドライブピニオンシヤフト(11)に設けたドライブピニオンハブ(14)とに係脱自在にシフトされる切換スリーブ(15)とはクラッチ機構をなしており、上記インプツトシヤフト(12)、ドライブピニオンシヤフト(11)及び該クラッチ機構とが、動力断接装置(10)として、デイフアレンシヤルを含む終減速装置内に形成されて1つのユニットを構成していることが看て取れる。

したがって、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
一方の車輪対のデイフアレンシヤルの入力軸であるドライブピニオンシヤフト(11)と、
駆動源からの駆動力を伝達するインプツトシヤフト(12)と、
前記ドライブピニオンシヤフト(11)の軸方向に移動可能に設けられた切換スリーブ(15)を有し、前記切換スリーブ(15)が軸方向に移動させられることで前記ドライブピニオンシヤフト(11)とインプツトシヤフト(12)とを連結・離脱可能なクラッチ機構と、
が前記デイフアレンシヤルを含む終減速装置内に形成されて1つのユニットを構成する動力断接装置(10)であって、
前記インプツトシヤフト(12)に一体にドライブピニオンハブ(13)が形成され、ドライブピニオンシヤフト(11)に設けられたドライブピニオンハブ(14)と前記ドライブピニオンハブ(13)との外周面にはそれぞれスプラインが形成されており、切換スリーブ(15)の内周には、ドライブピニオンハブ(13)及び(14)の外周面に形成されたスプラインに対応する内スプラインが形成されている動力断接装置(10)。

(2)刊行物2
(2-イ)「本考案は変速機において高速←→低速切替および2輪駆動←→4輪駆動の動力切替を行なう切替装置に関するものである。」(第1頁第20行〜第2頁第2行)

(2-ロ)「ギヤ1,2の基側外周部は軸3,4の外周部と同径にしてあり、これら外周部にそれぞれスプライン部11,12,13,14が形成してある。一方のギヤ1のスプライン部13と一方の軸3のスプライン部11とに内周部のスプライン部15を滑合してカツプリング7が設けてあり、カツプリング7にはフオーク8が取付けてある。
しかして、カツプリング7が実線のように一方のギヤ1のスプリング部13と一方の軸3のスプライン部11とにわたつて係合し両者を連結した状態では動力伝達機構は高速レンジ、2輪駆動であり、動力は一方のギヤ1、カツプリング7、一方の軸3に伝達される。」(第4頁第10行〜第5頁第3行)

(2-ハ)第2図の記載によれば、軸3端部の外周面にはスプライン部11が直接的に形成され、軸4端部の外周面にはスプライン部12が直接的に形成され、カツプリング7の内周にはスプライン部11,12に対応する内スプラインが形成されていることが看取できる。

(3)刊行物3
(3-イ)「それぞれスプラインを形成した前輪駆動軸および後輪駆動軸と、これらの前輪駆動軸および後輪駆動軸のスプラインに移動可能に係合するコネクタと、このコネクタを移動させる移動手段とを備え、コネクタの移動によつて前輪駆動軸と後輪駆動軸とを断接し、駆動力の切換えをおこなう動力切換装置において、上記移動手段が、コネクタに移動力を付与可能なばねを有することを特徴とする動力切換装置。」(実用新案登録請求の範囲1)

(3-ロ)「本考案は産業車輌等に備えられ、4輪駆動から2輪駆動に、あるいは2輪駆動から4輪駆動に動力を切換える動力切換装置に関する。」(第1頁第16〜18行)

(3-ハ)「4輪駆動から2輪駆動に切換える際には、前輪駆動軸4のスプライン4aと後輪駆動軸5のスプライン5aとが一致していることから、レバー10を第1図の実線で示す状態まで移動させればよく、これによつて外筒9bが移動し、ばね9cの力を介して棒体9aが移動し、プツシユプルケーブル11、シフト軸8、フオーク7を介してコネクタ6が第1図の2点鎖線で示す位置から実線で示す位置まで移動し、ほとんど切換時間を要することなく2輪駆動をおこなわせることができる。
このように構成した実施例にあつては、2輪駆動から4輪駆動に切換えるに際して、上述したように前輪駆動軸4のスプライン4aに後輪駆動軸5のスプライン5aとが一致していない場合には、ばね9cの力によつてコネクタ6が前輪駆動軸4方向に付勢された待機状態を形成することができ、したがつて車輌の移動動作に伴つて自動的に上述の切換動作をおこなうことができ、容易で、しかも安全である。」(第8頁第7行〜第9頁第5行)

(3-ニ)第1図の記載によれば、前輪駆動軸4端部の外周面にはスプライン4aが直接的に形成され、後輪駆動軸5端部の外周面にはスプライン5aが直接的に形成され、コネクタ6の内周にはスプライン4a,5aに対応する内スプラインが形成されていることが看取できる。

3.対比・判断
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「ドライブピニオンシヤフト(11)」は本願発明1における「第1軸」に相当し、以下同様に、「インプツトシヤフト(12)」は「第2軸」に、「切換スリーブ(15)」は「切換部材」に、「動力断接装置(10)」は「駆動力切換機構」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明において、インプツトシヤフト(12)には一体にドライブピニオンハブ(13)が形成され、該ドライブピニオンハブ(13)の外周面にスプラインが形成されているから、インプツトシヤフト(12)の外周面にはスプラインが直接的に形成されているということができる。また、引用発明が切換スリーブ(15)を軸方向に移動させる切換装置を備えることは自明の事項である。
したがって、両者の一致点と相違点は次のとおりである。
[一致点]
「一方の車輪対のディファレンシャルの入力軸である第1軸と、
駆動源からの駆動力を伝達する第2軸と、
前記第1軸の軸方向に移動可能に設けられた切換部材及び該切換部材を軸方向に移動させる切換装置を有し、該切換装置の作動により前記切換部材が軸方向に移動させられることで前記第1軸と第2軸とを連結・離脱可能なクラッチ機構と、
が前記ディファレンシャルを含む終減速装置内に形成されて1つのユニットを構成する駆動力切換機構であって、
前記第1軸の外周面には第1スプラインが直接的に又は第1軸とは別部材に形成されるとともに前記第2軸の外周面には第2スプラインが直接的に形成され、前記切換部材の内周には前記第1スプライン及び前記第2スプラインに対応する内スプラインが形成される駆動力切換機構。」である点。
[相違点1]
本願発明1では、「第1軸の外周面には第1スプラインが直接的に形成される」のに対して、引用発明では、スプラインはドライブピニオンシヤフト(11)に設けられたドライブピニオンハブ(14)に形成されている点。[相違点2]
本願発明1では、「前記切換装置は、通電によって駆動するモータにより作動させられる」のに対して、引用発明ではそのように特定されていない点。

上記相違点1及び2について検討する。
[相違点1について]
刊行物2には、軸3及び軸4に形成されたスプラインに対応する内スプラインが内周に形成されたカツプリング7を軸方向に移動させて各軸を連結・離脱させるものにおいて、スプラインを軸3及び軸4の外周面に直接的に設けることが記載されている(上記摘記事項(2-ハ)参照)。また、刊行物3には、前輪駆動軸4及び後輪駆動軸5に形成されたスプラインに対応する内スプラインが内周に形成されたコネクタ6を軸方向に移動させて各軸を連結・離脱させるものにおいて、該スプラインを前輪駆動軸4及び後輪駆動軸5の外周面に直接的に設けることが記載されている(同(3-ニ)参照)。このように、2つの軸に形成されたスプラインに対応する内スプラインが内周に形成された切換部材を軸方向に移動させて各軸を連結・離脱させる機構において、スプラインを2つの軸の外周面に直接的に形成することは従前より当業者に知られた事項にすぎないものである。
ところで、引用発明においては、ドライブピニオンシヤフト(11)のドライブピニオンハブ(13)と対向する部分の径が小さいために別部材を介してスプラインを形成したものと認められるが、ドライブピニオンシヤフト(11)の軸径は適宜設定し得るものであって、ドライブピニオンハブ(13)と対向する部分の径がドライブピニオンハブ(13)と同等となるよう設定することを特段阻害する事情がないことは当業者が容易に理解できることである。
してみると、引用発明において、刊行物2及び3に記載された発明を適用して、上記相違点1に係る本願発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

[相違点2について]
切換装置の作動手段として通電によって駆動するモータを用いることは周知の技術手段である(必要であれば、実願昭61-148691号(実開昭63-54519号)のマイクロフィルムの第8頁第5行〜第10頁第9行及び第1,3図の記載、特開昭64-90823号公報の第4頁左下欄第17行〜右下欄第8行及び第1図の記載、特開平2-136332号公報の第2頁左上欄第16〜18行、第4頁左上欄第9〜15行及び第1図の記載を参照)。
そして、引用発明における切換スリーブを移動させる作動手段としては、既に知られた適宜の作動手段を採用できることは明らかである。
したがって、引用発明に上記周知の技術手段を適用して上記相違点2に係る本願発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

また、本願発明1の作用効果についてみても、引用発明、刊行物2及び3に記載された発明並びに周知の技術手段から当業者が十分予測しうる範囲内のものであって、格別顕著なものではない。

よって、本願発明1は、引用発明、刊行物2及び3に記載された発明並びに周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ところで、請求人は、平成17年1月11日付けの意見書において、概略、「『切換装置の作動手段としてモータを用いること』は必ずしも当時の周知の技術手段であるとは言えないと考えられます。」として、「刊行物1、2及び3のいずれにおいても、請求項1の特徴事項である『切換装置は、通電によって駆動するモータにより作動させられること』について一切開示されておらず、刊行物1、2及び3に開示された技術を組み合わせても本願の発明には容易に想達しえないと思料致します。」と主張している。

しかしながら、上述のとおり、切換装置の作動手段として通電によって駆動するモータを用いることは周知の技術手段と認められるとともに、引用発明における切換スリーブを移動させる作動手段として既に知られた適宜の作動手段を採用できることは明らかであるから、引用発明に上記周知の技術手段を適用して上記相違点2に係る本願発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことというべきである。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1〜3に記載された発明及び周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-01-19 
結審通知日 2005-01-25 
審決日 2005-02-07 
出願番号 特願平9-108637
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔田々井 正吾  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 村本 佳史
窪田 治彦
発明の名称 駆動力切換機構  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ