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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1114361
審判番号 不服2002-19731  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-10-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-10-10 
確定日 2005-03-28 
事件の表示 平成 8年特許願第 82807号「製品予備形状への鋳造を経て製品鍛造に供されるアルミニウム系合金およびその鋳造鍛造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月21日出願公開、特開平 9-272941〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成8年4月4日の出願であって、平成14年9月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成14年10月10日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると共に、平成14年11月11日付けで手続補正がなされたが、その後手続補正指令がなされ、この指令に応答して平成14年12月19日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成14年12月19日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成14年12月19日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容と本願補正発明3について
本件手続補正の内容の一つは、特許請求の範囲をその限定的減縮を目的として補正するものであるところ、補正された請求項1と請求項3の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】湯口の溶湯速度を180mm/sec以下にして製品予備形状の鍛造用粗材に鋳造した後、製品鍛造して得られるアルミニウム系合金であって、重量%で、Si:2.0〜3.3%、Mg:0.2〜0.7%、Be:0.001〜0.015%、を含み、更に残部Al及び不純物を含んでなることを特徴とする鋳造鍛造用のアルミニウム系合金。
(中略)
【請求項3】Cu:0.20〜0.50%、Mn:0.02〜0.50%、Cr:0.01〜0.50%,Zr:0.01〜0.20%のうちの1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の鋳造鍛造用のアルミニウム系合金。」
そうすると、請求項3に係る発明は、選択成分として「Cu:0.20〜0.50%」の1種を含み、かつ請求項1を引用した場合を全文記載形式で表現すると、「湯口の溶湯速度を180mm/sec以下にして製品予備形状の鍛造用粗材に鋳造した後、製品鍛造して得られるアルミニウム系合金であって、重量%で、Si:2.0〜3.3%、Mg:0.2〜0.7%、Be:0.001〜0.015%、Cu:0.20〜0.50%を含み、更に残部Al及び不純物を含んでなることを特徴とする鋳造鍛造用のアルミニウム系合金。」(以下、「本願補正発明3」という)であると云える。
2.当審の判断
本件手続補正の上記内容は、次の理由により、平成15年改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものである。
(独立特許要件違反について)
(1)引用例の記載事項
原査定の理由で引用された引用例1、5、6及び8には、それぞれ次の事項が記載されている。
(a)引用例1:特開平6-212334号公報
(a1)「【請求項1】重量%で、Si:0.1〜20.0%、Cu:0.1〜5.0%、Mg:0.1〜10.0%、Be:0.0005〜0.0100%を含み、残部Alおよび不純物からなる薄肉鋳造用アルミニウム合金。」(特許請求の範囲)
(a2)「本発明は、鋳造用アルミニウム合金に関し、さらに詳しくは、良好な機械的性質を有し、かつ薄肉部材の鋳造に好適な薄肉鋳造用アルミニウム合金に関するものである。」(段落【0001】)
(a3)「Be:Beはアルミニウム合金溶湯表面でのアルミニウム酸化被膜の生成を抑制し、アルミニウム合金溶湯の湯流れ性,湯回り性を改善する元素である。しかしながら、0.0005%未満ではその効果が小さく、0.0100%をこえると、引け巣の発生が多くなると共に鋳肌が汚れるので、0.0005〜0.0100%の範囲とした。」(段落【0016】)
(a4)図1乃至図6には、湯口から溶湯を鋳型に鋳造して鋳物を製造する態様が図示されている。
(b)引用例5:特開平5-9637号公報
(b1)「【請求項1】Si:2.0〜3.0重量%,Mg:0.2〜0.6重量%,Ti:0.01〜0.1重量%,B:0.0001〜0.01重量%で、更にNa:0.001〜0.01重量%,Sr:0.001〜0.05重量%,Sb:0.05〜0.10重量%及びCa:0.0005〜0.01重量%のうちの何れか1種又は2種以上を含有し、P含有量を0.001重量%以下に規制し、残部がAlからなり、鋳造組織に含まれる共晶Siの大きさが平均粒径で20μm以下であることを特徴とする鍛造用アルミニウム合金。」(特許請求の範囲)
(b2)「Si:本発明の鍛造用アルミニウム合金は、鋳造で得られた予形材を鍛造することにより、所定形状をもつ製品とされる。この予形材を得るために、溶湯の流動性,引け性等が良く、鋳造割れ等の欠陥が発生しないことが要求される。この鋳造性を確保する上から、Siを含有させることが必要である。しかし、多量のSi含有は、アルミニウム合金の伸びや機械的強度を低下させる。この点から、本発明においては、Si含有量を2.0〜3.0重量%の範囲に設定した。」(段落【0010】)
(c)引用例6:特開平6-73482号公報
(c1)「【請求項1】Si:2.5〜4.0wt%、Mg:0.4〜0.5wt%、Cu:0.3wt%以下を含有し残部が実質的にAlの組成からなり、製品最終形状に近い鋳造品から熱間鍛造されたことを特徴とするアルミニウム合金部材。
【請求項2】Si:2.5〜4.0wt%、Mg:0.4〜0.5wt%、Cu:0.3wt%以下を含有し残部が実質的にAlの組成からなるアルミニウム合金を製品最終形状に近い形状で鋳造し、鋳造後の高温状態の鋳造品を予備加熱なしに鍛練成形率50%以上で熱間鍛造することを特徴とするアルミニウム合金部材の製造方法。」(特許請求の範囲)
(c2)「本発明は、鋳造性と鍛造性に優れ且つ機械的性質の良好なアルミニウム合金部材及びその製造方法に関する。」(段落【0001】)
(d)引用例8:特開平4-270055号公報
(d1)「本発明は低圧鋳造方法及びその装置に関する。さらに詳しくは、例えば自動車用アルミホイールのような軽量強度部品の鋳造に好適な低圧鋳造方法及びその装置に関するものである。」(段落【0001】)
(d2)「(4)充 填
この湯面上昇の速度は、例えば1cm/sec程度で、プランジャ射出によるダイカスト法に比べて遥かに小さいので、充填途中でエアを巻き込んで鋳造製品が疎になることを防ぐことができる。」(段落【0030】)
(2)対比・判断
引用例1の上記(a1)には、「重量%で、Si:0.1〜20.0%、Cu:0.1〜5.0%、Mg:0.1〜10.0%、Be:0.0005〜0.0100%を含み、残部Alおよび不純物からなる薄肉鋳造用アルミニウム合金」が記載され、その図1乃至6には、このアルミニウム系合金の溶湯を湯口から鋳造して特定形状の鋳物を製造することが図示されているから、引用例1には、「湯口から鋳造して特定形状の鋳物を製造するためのアルミニウム系合金であって、重量%で、Si:0.1〜20.0%、Cu:0.1〜5.0%、Mg:0.1〜10.0%、Be:0.0005〜0.0100%を含み、残部Alおよび不純物からなる薄肉鋳造用アルミニウム合金」という発明(以下、「引用例1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本願補正発明3と引用例1発明とを対比すると、両者は、「鋳造用アルミニウム系合金」という用途の点で共通し、その成分組成の点でも、「重量%で、Si:2.0〜3.3%、Mg:0.2〜0.7%、Be:0.001〜0.010%、Cu:0.20〜0.50%を含み、更に残部Al及び不純物を含んでなること」という点で一致するから、両者は、「湯口から鋳造して特定形状の鋳物を製造するためのアルミニウム系合金であって、重量%で、Si:2.0〜3.3%、Mg:0.2〜0.7%、Be:0.001〜0.010%、Cu:0.20〜0.50%を含み、更に残部Al及び不純物を含んでなることを特徴とする鋳造用のアルミニウム系合金」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点:
(イ)本願補正発明3は、「湯口の溶湯速度を180mm/sec以下にして製品予備形状の鍛造用粗材に鋳造」するためのアルミニウム系合金であるのに対し、引用例1発明は、このような条件で鋳造するためのアルミニウム系合金であるか明らかでない点。
(ロ)本願補正発明3は、鋳造後に得られた製品予備形状の鍛造用粗材に製品鍛造するための鍛造用アルミニウム系合金であるのに対し、引用例1発明は、製品鍛造しないアルミニウム系合金である点。
次に、これら相違点について検討する。
(i)相違点(イ)について
ところで、本願補正発明3の上記「湯口の溶湯速度を180mm/sec以下にして」鋳造する技術的な意味について検討するに、本願明細書の「本発明に係わる製品予備形状への鋳造を経て製品鍛造に供されるアルミニウム系合金は、上記したように、アルミニウムの酸化被膜を抑制して鋳造性を向上させるためにBeを含有させたものであるが、アルミニウム系合金中にBeを添加するとアルミニウムの酸化被膜が薄くなり、破れやすいために、鋳造時に乱流を生じた際には酸化皮膜をまき込んで強度の低下をきたすことも懸念される。そこで、本発明では、アルミニウム系合金溶湯の鋳造に際して湯口の溶湯速度を180mm/sec以下(LPDC工法においては溶湯の充填速度を0.010kgf/cm2・sec以下)とすることによって、このような懸念が解消され、強度の低下を生じないものにできることを見い出したのである。」(段落【0029】)という記載によれば、「溶湯速度を180mm/sec以下」に規制する理由は、アルミニウムの酸化被膜の溶湯中への巻き込みを防止するために、鋳造時の溶湯の流れを小さくして酸化被膜を破壊するような乱流を生じさせないようにするためであると認められる。
そこで、本願補正発明3の上記相違点(イ)については、この観点から検討するに、鋳造時の溶湯の流れについては、例えば「金属便覧 改訂3版」丸善(株)発行、昭和53年9月20日、「9・3・1 鋳造方法、型内での溶湯の挙動」の項に「それで乱流といっても鋳造の立場からはいろいろな種類があると考えた方がよくEastwoodはこれを次の2種類に分けている。(i)有害な乱流-激しい乱れのため鋳型空間内で流れの表層あるいは表面の酸化膜が破れ、そのため鋳物内部にドロスの巻込みが起こる場合、(ii)あまり害にならぬ乱流-表面の酸化膜を破壊せず、したがって鋳物としては実害のない場合、」(第1188頁参照)と記載されているように、表面の酸化被膜を破壊し溶湯中へ巻き込みむような流れは有害であり、酸化被膜を破壊しないような流れが無害であるという認識は既に鋳造分野において周知の事項であるから、鋳造時の溶湯の流れを小さくして酸化被膜の破壊が起こらないようにその溶湯速度を調節することも技術常識であると云える。現に、例えば上記引用例8の上記(d2)にも記載されているように、アルミニウム系合金の鋳造において、その対象がエアとはいえこれを巻き込まないようにする溶湯速度として、例えば「1cm/sec」程度の小さな溶湯速度とすることも既に周知の事項である。
そして、Beを含む引用例1発明の「アルミニウム系合金」の場合も、そのBeの添加理由の「Beはアルミニウム合金溶湯表面でのアルミニウム酸化被膜の生成を抑制」(上記(a3)参照)という記載に照らせば、本願補正発明3と同様に、酸化被膜の生成が抑制されるために被膜が薄く鋳造時にそのアルミニウム酸化被膜が破壊されやすい合金であることが当業者に自明であると云えるから、鋳造時の対策として上記周知の手段、すなわち表面の酸化被膜を破壊しない程度の小さな溶湯の流れとすることは容易に想到することができたと云うべきであり、その際に溶湯速度を「180mm/sec以下」と限定する程度のことも例えば上記引用例8にみられる周知例等を参考にして容易に数値限定することができたと云うべきである。
(ii)相違点(ロ)について
本願補正発明3の上記相違点(ロ)は、要するところ、本願補正発明3のアルミニウム系合金が鋳造後の鋳造品に対してさらに「鍛造」加工を施すような用途に供される「鍛造用アルミニウム系合金」であることを意味すると云えるところ、引用例1発明は、その湯流れ性や湯回り性を改善して「薄肉鋳造品」を製造するための「アルミニウム系合金」に係るものであるから、引用例1には、この薄肉鋳造品に対してさらに「鍛造」加工を施す旨の明示的な記載はないが、一方、薄肉鋳造品に対して鍛造加工を施すことを全く排除するような記載も見当たらない。そして、「重量%で、Si:0.1〜20.0%、Cu:0.1〜5.0%、Mg:0.1〜10.0%、Be:0.0005〜0.0100%を含み、残部Alおよび不純物からなるアルミニウム合金」という成分組成の引用例1発明のうち本願補正発明3の如き成分組成と一致するアルミニウム系合金は、その鋳造性に優れると共に鍛造性にも優れる性質を有する周知の「アルミニウム系合金」である(例えば上記引用例5及び6参照)という事実を勘案すれば、このような引用例1発明の周知の性質を利用してこの合金を鋳造後にさらに鍛造して製品が得られるような「鍛造用」の用途に供することも当業者が容易に想到することができたと云うべきである。
してみると、本願補正発明3の上記相違点(イ)及び(ロ)は、いずれも上記周知事項から当業者が容易に想到することができたと云うべきであるから、本願補正発明3は、上記引用例1に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(3)むすび
したがって、本件手続補正は、平成15年改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明についての審決
1.本願発明3について
平成14年12月19日付け手続補正は、上記のとおり却下すべきものであるから、本願の請求項1乃至6に係る発明は、平成13年12月20日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1と請求項3の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】製品予備形状の鍛造用粗材に鋳造した後、製品鍛造して得られるアルミニウム系合金であって、重量%で、Si:2.0〜3.3%、Mg:0.2〜0.7%、Be:0.001〜0.015%、を含み、更に残部Al及び不純物を含んでなることを特徴とする鋳造鍛造用のアルミニウム系合金。
(中略)
【請求項3】Cu:0.20〜0.50%、Mn:0.02〜0.50%、Cr:0.01〜0.50%,Zr:0.01〜0.20%のうちの1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の鋳造鍛造用のアルミニウム系合金。」
そうすると、請求項3に係る発明は、選択成分として「Cu:0.20〜0.50%」の1種を含み、かつ請求項1を引用した場合を全文記載形式で表現すると、「製品予備形状の鍛造用粗材に鋳造した後、製品鍛造して得られるアルミニウム系合金であって、重量%で、Si:2.0〜3.3%、Mg:0.2〜0.7%、Be:0.001〜0.015%、Cu:0.20〜0.50%を含み、更に残部Al及び不純物を含んでなることを特徴とする鋳造鍛造用のアルミニウム系合金。」(以下、「本願発明3」という)であると云える。
2.引用例と引用例1発明
原査定の理由で引用された引用例1、5、6及び8の記載事項は、上記「II.2(1)」で摘示したとおりであり、引用例1発明も、前示のとおり、「湯口から鋳造して特定形状の鋳物を製造するためのアルミニウム系合金であって、重量%で、Si:0.1〜20.0%、Cu:0.1〜5.0%、Mg:0.1〜10.0%、Be:0.0005〜0.0100%を含み、残部Alおよび不純物からなる薄肉鋳造用アルミニウム合金」である。
3.対比・判断
そこで、本願発明3と引用例1発明とを対比すると、両者は、「湯口から鋳造して特定形状の鋳物を製造するためのアルミニウム系合金であって、重量%で、Si:2.0〜3.3%、Mg:0.2〜0.7%、Be:0.001〜0.010%、Cu:0.20〜0.50%を含み、更に残部Al及び不純物を含んでなることを特徴とする鋳造用のアルミニウム系合金」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点:本願発明3は、鋳造後に得られた製品予備形状の鍛造用粗材に製品鍛造するための鍛造用アルミニウム系合金であるのに対し、引用例1発明は、製品鍛造しないアルミニウム系合金である点。
そして、この相違点については、前示のとおりである。
してみると、本願発明3は、上記引用例1に記載された発明と周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

IV.むすび
したがって、少なくとも本願発明3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、その余の発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-01 
結審通知日 2005-02-01 
審決日 2005-02-15 
出願番号 特願平8-82807
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C22C)
P 1 8・ 575- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 毅  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 平塚 義三
酒井 美知子
発明の名称 製品予備形状への鋳造を経て製品鍛造に供されるアルミニウム系合金およびその鋳造鍛造方法  
代理人 的場 基憲  

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