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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01P
管理番号 1114371
審判番号 不服2002-22459  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-08-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-11-21 
確定日 2005-03-28 
事件の表示 平成10年特許願第 41307号「誘電体フィルタの周波数調整方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月17日出願公開、特開平11-225004〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年2月6日の出願であって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年9月24日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 二つの直方体の誘電体が接合されてなる誘電体フィルタの周波数調整方法において、それぞれの誘電体の一表面に島状の導体膜による入出力電極を具え、それらの入出力電極と分離絶縁されてそれらの表面の残りのほぼ全面と接合面を除く他の表面の全面に形成された導体膜によるアース電極を具え、二つの入出力電極が同一平面上となるように接合されて誘電体フィルタが構成され、入出力電極が形成された表面に対向する表面のアース電極の導体膜の一部を除去することを特徴とする誘電体フィルタの周波数調整方法。」

2. 刊行物に記載された発明
(1)原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願の日前である平成6年6月24日に頒布された特開平6-177607号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「誘電体フィルタ」の発明に関し、図面とともに以下の記載がある。
a)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は通信装置に使用されるフィルタに関し、特に、複数の誘電体共振器を結合させて構成される多段型の誘電体フィルタに関する。
【0002】誘電体共振器を幾つか並べてそれらを適当に結合させることにより誘電体フィルタを構成することができる。誘電体フィルタは誘電体共振器の個数や結合度等を変えることにより所望の特性を実現でき、空洞共振器を用いたフィルタと比較して小型に構成できるという利点を有する。」(2頁左欄28行ないし37行)、
b)「【0006】【発明が解決しようとする課題】しかし、すでに述べたように、適用される周波数帯が高くなってきており、従来構成の誘電体フィルタを、高い周波数(例えば、3GHz帯)に適用すると、無負荷Qが急激に低下し、通過損失が増大するという問題があった。
【0007】本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、高周波数帯に適用しても損失の少ない誘電体フィルタを提供することを目的としている。」(2頁右欄9行ないし17行)、
c)「【0028】図4は本発明の第4実施例を示す斜視図であり、図5は図4の分解斜視図である。この実施例は上述した本発明第4の構成に対応するものである。同図において、21はそれぞれTE101モードの誘電体共振器であり、誘電体共振器21は概略直方体形状の誘電体ブロックの全面を金属膜で被覆し、金属膜の一部を除去することにより、結合用の窓21a又は入出力用の端子21bを形成して構成される。22は所定の箇所に位置出し用の折り曲げ部22a及び接合用の貫通孔22bが形成されたアース板であり、各誘電体共振器21はこのアース板22上にそれぞれの結合用の窓21aが形成されている面を接合した形で配置され、各誘電体共振器21同士を、及びアース板22と各誘電体共振器21とを半田付けにより固定して誘電体フィルタが構成される。」(4頁左欄6行ないし19行)、
d)「【0030】中心周波数の調整は、各誘電体共振器21の結合用の窓が形成されていない面において、レーザ加工機等により金属膜を含む誘電体ブロックの一部を除去することにより行うことができる。
【0031】図6に誘電体共振器21に形成される結合用の窓(金属被覆除去部)の種々の形状が示されている。結合用の窓は、同図(A),(B),(C)に示されているように、円形、四角形、楕円形とすることができ、各誘電体共振器21間の結合度を強くしたい場合にはそれぞれ中央部にこれを設け、結合度を弱くしたい場合には中央部からずれた位置に設けることにより調整できる。また、窓の大きさによっても結合度を調整することができる。」(4頁左欄39行ないし右欄2行)、
e)「【0033】第4実施例の構成によると、TE101モードの誘電体共振器を配列して構成した誘電体フィルタであるから、高い無負荷Qを実現でき、低損失の誘電体フィルタを構成できるとともに、異なる段数の誘電体共振器からなる誘電体フィルタを構成する場合に、中心周波数が同じであれば、個々の誘電体共振器の形状は同一寸法で作成することができ、実現したい特性に応じて、結合用の窓の形状や位置を調整することにより、所望の特性の誘電体フィルタを得ることができる。そして、この結合用の窓の形成は、金属膜の一部を除去するという極めて容易な方法で実現することができる。」(4頁右欄9行ないし19行)。
f)図4、図5には、金属膜の一部を除去して形成された入出力用の端子21bの一端が誘電体ブロック上面の金属膜とつながった構成が記載されている。
上記刊行物1の記載、及びこの分野の技術常識を考慮すると、刊行物1には、
「三つの概略直方体の誘電体ブロック21が接合されて成る誘電体フィルタの周波数調整方法において、それぞれの誘電体の一表面に、一端が上面の金属膜につながった金属膜による入出力用の端子21bを具え、この入出力用の端子の金属膜を除くそれぞれの表面の残りのほぼ全面に形成された金属膜を具え、接合面を除く他の表面の全面にも金属膜を具えて誘電体フィルタが構成され、各誘電体共振器の結合用の窓が形成されていない面において、金属膜を含む誘電体ブロックの一部を除去することによる誘電体フィルタの周波数調整方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されているものと認められる。

(2)同じく、原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願の日前である昭和63年11月22日に頒布された特開昭63-284902号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「誘電体共振器」の発明に関し、図面とともに以下の記載がある。
a)「(a)産業上の利用分野 この発明は、マイクロ波帯やミリ波帯においてフィルタなどに使用される誘電体共振器に関する。(1頁左下欄15行ないし17行)、
b)「(f)実施例 ・・・第1図において1は第1の誘電体共振器を表し、・・・誘電体板10の底面中央部に・・・丸穴11が形成され、誘電体板10の上面中央部に信号の入出力用電極12が形成されている。さらに、丸穴11および上記電極12を除く誘電体板の外表面に銀ペーストの塗布・焼付によって導体膜13が形成されている。このようにしてTM110の誘電体共振器が構成されている。同図において2は第2の誘電体共振器を表し、その構成は第1の誘電体共振器1と同様であり、上下を反転した位置関係にある。」(2頁右下欄1行ないし18行)、
c)「第2図に示すように第1、第2の誘電体共振器を前記丸穴11,21が互いに対向するように積層するとともに2つの丸穴11,21によって形成される空間に棒状の誘電体3を収納する。そして、第3図に示すように2つの誘電体共振器の接合部分Cを半田付けなどによって電気的に接続する。このことにより、第4図に示すように2つの誘電体共振器の外表面が導体膜13,23により一体的にシールドされ、中央部で電界結合された2段の誘電体共振器からなるバンドパスフィルタが構成される」(3頁左上欄6行ないし17行)。
上記刊行物2の記載、及びこの分野の技術常識によれば、刊行物2には、二つの誘電体共振器を棒状の誘電体を用いて接合してなる誘電体フィルタにおいて、入出力用電極を島状に形成した誘電体フィルタの発明が開示されているものと認められる。

(3)同じく、原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願の日前である平成3年12月2日に頒布された特開平3-270501号公報(以下、「刊行物3」という。)には、従来技術に関し、図面とともに以下の記載がある。
a)「第6図は、従来の誘電体フィルタの構成例を示す図である。図において、全面に金属被膜が施された(メタライズされた)誘電体ブロック61の上面には、入出力電極62、63および結合ポスト641、642,651、652が設けられる。・・・第7図は、入出力電極の構造を示す図である。図において電極が設けられる点では、電極として使用される金属ピン71の径より大きい径の円形の剥離帯が設けられ、その剥離帯の中央部には金属ピン71の径およびその挿入長に応じた垂直の穴72が誘電体ブロック61に設けられ、金属ピン71が穴72に挿入される。」(2頁左上欄2行ないし右上欄8行)。
上記刊行物3の記載、及びこの分野の技術常識を考慮すると、刊行物3には、結合ポストによって結合された複数段からなる誘電体フィルタにおいて、金属ピンからなる二つの入出力電極を同一平面上に形成した誘電体フィルタ、の発明が開示されているものと認められる。

3. 対比・判断
(1)そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「金属膜による入出力用の端子」は、本願発明の「導体膜による入出力電極」に相当することは明らかである。
また、引用発明における「入出力用の端子の金属膜を除くそれぞれの表面の残りのほぼ全面に形成された金属膜」と「接合面を除く他の表面の全面」に形成された「金属膜」は、「入出力電極の導体膜を除くそれらの表面の残りのほぼ全面と接合面を除く他の表面の全面に形成された導体膜によるアース電極」である点で、本願発明と差異がないことは明らかである。
したがって、本願発明と引用発明は、次の点で一致し、相違する。
(2)一致点
複数の直方体の誘電体が接合されてなる誘電体フィルタの周波数調整方法において、それぞれの誘電体の一表面に導体膜による入出力電極を具え、入出力電極の導体膜を除くそれらの表面の残りのほぼ全面と接合面を除く他の表面の全面に形成された導体膜によるアース電極を具えて誘電体フィルタが構成され、アース電極の導体膜の一部を除去することによる誘電体フィルタの周波数調整方法。
(3)相違点
(相違点1)
接合される誘電体の個数に関し、本願発明は、「二つ」であるのに対して、引用発明は、三つである点。
(相違点2)
導体膜による入出力電極の形状、及び、その配置位置に関し、本願発明は、「島状」の形状で「二つの入出力電極が同一表面となるように」配置されているのに対して、引用発明は、島状ではなく、また同一表面に配置されていない点。
(相違点3)
入出力電極の導体膜とそれぞれの表面の残りのほぼ全面に形成された導体膜に関し、本願発明は、入出力電極の導体膜とそれぞれの表面の残りのほぼ全面に形成された導体膜とが「分離絶縁」されているのに対して、引用発明は、入出力電極の一端が上面の導体膜につながっており分離絶縁されていない点。
(相違点4)
除去するアース電極の導体膜面に関し、本願発明は、「入出力電極が形成された表面に対向する」面であるのに対して、引用発明は、各誘電体共振器の結合用の窓が形成されていない面である点。

4.当審の判断
そこで、まず相違点1について検討すると、
複数の誘電体を接合して構成される誘電体フィルタにおいては、接合する誘電体の個数を変えることにより所望のフィルタ特性を実現することができる(上記2.(1)a)参照)から、接合する誘電体の個数を幾つにするかは、必要とするフィルタ特性に応じて当業者が適宜決定し得る設計的事項にすぎない。したがって、接合する誘電体の数を引用発明の三つに代えて、「二つ」にすることは、当業者が適宜なし得ることである。
次に、相違点2、3について検討すると、
誘電体共振器等の技術分野において、誘電体の一表面に島状の導体膜による入出力電極を具えようにすることは周知の技術(特開平5-183309号公報、特開平7-86809号公報、特開平9-219605号公報)であること、また、刊行物2には、二つの誘電体共振器を棒状の誘電体を用いて接合してなる誘電体フィルタにおいて、入出力用電極を島状に形成した発明が開示され、刊行物3には、結合ポストによって結合された誘電体フィルタにおいて、金属ピンからなる二つの入出力電極を同一平面上に形成した発明が開示されていることから、このような誘電体フィルタにおいて、入出力用電極を島状に形成すること、及び二つの入出力電極を同一平面状に形成することは公知の技術であると認められ、また、入出力電極を島状とすれば、その周囲の導体膜とは分離絶縁されたものとなるから、入出力電極の導体膜とそれぞれの表面の残りのほぼ全面に形成された導体膜とを「分離絶縁」されたものとすることは、入出力電極の形状を島状にしたことから導かれる必然の構成といえる。そして、これら周知の技術及び公知の技術を引用発明に適用することを阻害する格別の理由はないから、引用発明に適用して、入出力電極形状を「島状」とし、「二つの入出力電極が同一表面となるように」配置すること、また、出力電極の導体膜とそれぞれの表面の残りのほぼ全面に形成された導体膜とを「分離絶縁」されたものとすることは当業者であれば容易になし得ることである。
次に、相違点4について検討すると、
刊行物1には「【0030】中心周波数の調整は、各誘電体共振器21の結合用の窓が形成されていない面において、レーザ加工機等により金属膜を含む誘電体ブロックの一部を除去することにより行うことができる。」(4頁左欄39行ないし42行)の記載があることから、引用発明における中心周波数の調整は、各誘電体共振器21の結合用の窓が形成されていない面で行うことが示唆されており、また、周波数の調整に際して、導体膜の一部を除去する面を誘電体共振器の上面側や側面側の面で行うことは周知の技術(特開平5-259718号公報、特開平7-66607号公報)であって、どの面の電極の一部を除去するかは適宜実施しうる設計事項であるといえるから、引用発明において、入出力電極が形成された表面に対向する表面のアース電極の導体膜の一部を除去することは適宜実施し得ることである。

5. むすび
以上のとおり本願発明は、刊行物1ないし3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-01-18 
結審通知日 2005-01-25 
審決日 2005-02-07 
出願番号 特願平10-41307
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 麻生 哲朗岸田 伸太郎  
特許庁審判長 佐藤 秀一
特許庁審判官 有泉 良三
浜野 友茂
発明の名称 誘電体フィルタの周波数調整方法  

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